説明

排気ガス浄化システム

【課題】PM堆積量が少なくなる走行パターンの車両においては走行再生のインターバルを延長し、車両の燃費性能を向上できる排気ガス浄化システムを提供する。
【解決手段】車両の排気管20にDPF25を接続し、車両が所定距離走行したときDPF25を再生する排気ガス浄化システムにおいて、車両走行中にPM堆積量の少ない走行パターンを認識し、走行パターンに基づいて所定距離を補正する制御装置32を備えることを特徴とする排気ガス浄化システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンの排気ガス中のPM(Particulate Matter)とNOxを浄化する排気ガス浄化システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの排気ガス中のPMをDPF(Diesel Particulate Filter)と呼ばれるフィルタで捕集して、外部へ排出されるPMの量を低減する排気ガス浄化システムが開発されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、DPFの下流側には、排気ガスの熱で尿素水からアンモニアを生成し、このアンモニアによって排気ガス中のNOxを還元して浄化する、SCR(Selective Catalytic Reduction;選択還元触媒)装置が接続される(例えば、特許文献2)。
【0004】
DPFに捕集されて堆積したPMは、DPFの目詰まりの原因となり、排気ガス浄化効率を低下させることから、DPFにPMが一定量以上堆積した際には、排気ガスを(例えば、500〜600℃程度に)昇温し、PMを燃焼(酸化)させて強制除去するDPF再生が行われる。
【0005】
DPF再生は、DPF前後の排気ガスの差圧を計測する差圧センサの出力値が所定の差圧を超えるか、もしくは前回のDPF再生終了後からの走行距離が設定距離を超えたときに、ECU(Engine Control Unit)はPM堆積量が所定量を超えたものとみなして、車両走行中にECUが自動的にDPF再生を開始する(自動再生)か、あるいはDPFランプ点灯後に車両停車させたドライバーが再生実行スイッチを押してDPF再生を開始する(手動再生)。
【0006】
再生中、ECUは排気ガスを再生目標温度に昇温させ、DPFに堆積したPMを高温の排気ガスで酸化(燃焼)させてPMを強制除去する。
【0007】
再生終了後には、ECUは車両の走行距離をゼロリセットし、再生終了直後からの走行距離を再び積算する。
【0008】
また近年では、DPFの上流側にDOC(Diesel Oxidation Catalyst)を設けた連続再生型のDPFシステムがある。
【0009】
連続再生型のDPFシステムでは、エンジンからPMと同時に排出されるNOをDOCによりNO2に酸化し、このNO2によってDPFに捕集されたPMを酸化させてCO2として排出しているため、高温の排気ガスが安定的に排出される場合、DPFへのPMの堆積量が減少するが、排気ガス温度が低い場合、NOのDOCにおける酸化反応が促進されず、PMが徐々にDPFに堆積するため、DPFの再生が必要となる。
【0010】
連続再生型のDPFシステムではDPF再生を行う際に、排気ガスに未燃燃料を添加し、これをDOCで燃焼(酸化)させて排気ガスを再生目標温度に昇温させ、DPFに堆積したPMを燃焼除去することが行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第4175281号公報
【特許文献2】特開2000−303826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
DPFに捕集されるPMの堆積量は、車両の走行パターンによって増減し、加速減速を繰り返すなどせず安定的に走行した際にはPMの堆積量が減少する。さらに連続再生型のDPFシステムでは、高速道路を安定的に走行するなどした場合、DPFの連続再生によりPMの堆積量がより減少するようになる。
【0013】
PMの堆積量をDPF前後の差圧から検知し、これが所定の値となったときにDPFを再生する差圧型再生では、安定した(すなわち、PMの堆積量が減少する)走行パターンで車両が走行すると、再生インターバル(すなわち、前回DPF再生終了から差圧が所定の値に達するまでの走行距離)を延長することができる。
【0014】
一方、走行距離が所定の距離となったときにDPFを再生する距離型再生では、DPF再生を開始する走行距離の閾値(設定距離)を、平均的な走行パターンの中で最もPMが堆積しやすい条件から設定し、かつこれを固定値とするため、車両の走行パターンによらず再生インターバルは常に一定であり、これを延長することができない。
【0015】
特に高速道路を安定的に走行するパターンの多い車両などにおいては、DPFの連続再生が行われてPMの堆積量がより少なくなるにもかかわらず、同じ走行再生インターバルでDPF再生が繰り返されるため、排気ガスに未燃燃料を添加するための燃料噴射量が増大し、燃費が悪化する問題がある。
【0016】
本発明は上記課題を鑑み為されたものであり、PM堆積量が少なくなる走行パターンの車両においては走行再生インターバルを延長し、車両の燃費性能を向上できる排気ガス浄化システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために本発明は、車両の排気管にDPFを接続し、前記車両が所定距離走行したとき前記DPFを再生する排気ガス浄化システムにおいて、車両走行中にPM堆積量の少ない走行パターンを認識し、該走行パターンに基づいて前記所定距離を補正する制御装置を備える排気ガス浄化システムである。
【0018】
前記制御装置は、DPF再生終了後からの車両の走行距離を積算する走行距離演算部と、前記走行パターンに基づいて実走行距離を小さく補正して補正走行距離を算出すると共に、該補正走行距離を前記走行距離演算部に入力する走行距離補正部とを備え、走行距離演算部により積算された走行距離が予め設定された設定距離以上になるとDPFを再生するようにされてもよい。
【0019】
前記制御装置は、DPF再生終了後からの車両の走行距離を積算する走行距離演算部と、前記走行パターンに基づいて予め設定された設定距離を延長する設定距離延長部とを備え、走行距離演算部により積算された走行距離が設定距離以上になるとDPFを再生するようにされてもよい。
【0020】
前記車両は、エンジンの吸排気管にターボチャージャーが接続されると共に、排気ガスを前記エンジンの吸気側に戻すEGR装置が設けられ、かつ前記DPFの下流側にSCR装置が接続され、前記制御装置は、前記ターボチャージャーの開度、前記EGR装置のEGR開度、前記SCR装置の尿素噴射量、前記エンジンの燃料噴射タイミングの少なくとも一つから前記走行パターンを認識するようにされてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の排気ガス浄化システムによれば、PM堆積量が少なくなる走行パターンの車両においては走行再生インターバルを延長し、車両の燃費性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の排気ガス浄化システムの構成図である。
【図2】本発明の排気ガス浄化システムの動作の概要図である。
【図3】本発明に係る第一の実施の形態の動作例を示す図である。
【図4】本発明に係る第二の実施の形態の動作例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0024】
図1は、本発明の実施の形態に係る排気ガス浄化システムを示す構成図である。
【0025】
図1において、ディーゼルエンジン10の吸気マニホールド11と排気マニホールド12は、過給機(ターボチャージャ)13のコンプレッサ14とタービン15にそれぞれ連結され、上流側吸気管16aからの空気がコンプレッサ14で昇圧され、下流側吸気管16bのインタークーラ17を通って冷却されて吸気スロットル(吸気スロットルバルブ)18を介して吸気マニホールド11からディーゼルエンジン10に供給され、ディーゼルエンジン10からの排気ガスは、タービン15を駆動した後、排気管20に排気される。
【0026】
上流側吸気管16aには、吸気量を測定するMAF(Mass Air Flow)センサ19が設けられ、そのMAFセンサ19で、吸気スロットル18の開度が制御されて吸気量が調整される。また、吸気マニホールド11と排気マニホールド12には排気ガスの一部をディーゼルエンジン10の吸気系に戻してNOXを低減するためのEGR(Exhaust Gas Recirculation)装置21が設けられる。
【0027】
EGR装置21は吸気マニホールド11と排気マニホールド12とを接続するEGR管21pと、そのEGR管21pに接続されるEGRクーラ22とEGRバルブ23とからなる。
【0028】
過給器13はVGS(Variable Geometry turbocharger System)ターボなど、ディーゼルエンジン10への負荷要求にあわせてターボ開度を変化させることが可能なように構成される。
【0029】
排気管20には、排気ブレーキバルブ24、DPFシステム25、排気スロットル(排気スロットルバルブ)26、サイレンサー27が接続される。DPFシステム25は、未燃焼燃料を酸化する活性触媒からなるDOC28と排ガス中のPMを捕集するDPF29からなる。
【0030】
排気ブレーキバルブ24の上流側には、DPF再生時に排気ガス温度を昇温させるべく、排気管20に燃料を噴射(排気管噴射)する排気管インジェクタ38が設けられる。この排気管インジェクタ38に図示しない燃料タンクからの燃料を供給する燃料供給ライン39には、燃料中に混入、発生する異物や水分を除去する燃料フィルタ40が接続され、その下流側に排気管インジェクタ38の燃料圧力を測定する燃料圧力センサ41が設けられる。
【0031】
なお、本発明はDPF29を再生させる際の昇温手段を排気管噴射に限るものではなく、例えばポスト噴射やガスバーナー方式など、車両の構成にあわせて適宜変更可能である。
【0032】
また、排気スロットル26とサイレンサー27間には、SCR装置100が接続される。SCR装置100は、排気ガス中のNOXをNH3と反応させてN2とH2Oにして浄化する装置である。SCR装置100については後述する。
【0033】
DOC28の前後には、排気管噴射の可否、排気管噴射量、及びDPF再生の完了の判断に用いられる排気ガス温度センサ30a,30bが設けられる。また、DPF29のPM堆積量を推定するために、DPF29前後の排気の差圧を計測する差圧センサ31が設けられる。
【0034】
これらセンサの出力値は、ディーゼルエンジン10の運転の全般的な制御と共に、DPF再生も行うECU32に入力され、このECU32から出力される制御信号により、ディーゼルエンジン10の燃料インジェクタ33や、排気スロットル26、排気ブレーキバルブ24、EGRバルブ23、排気管インジェクタ38等が制御される。
【0035】
ECU32には、ディーゼルエンジン10の運転のために、アクセルポジションセンサからのアクセル開度、回転数センサからのエンジン回転数、車速センサ34からの車速等の情報の他、エンジン冷却水の温度等の情報も入力される。
【0036】
また、ECU32には、キャビン内に設けられた手動再生ランプ35a、自動再生ランプ35bや、ドライバーが手動再生を実行するための再生実行スイッチ36、ディーゼルエンジン10に何らかの不具合が発生したときに、それをユーザに知らせるべく点灯するチェックエンジンランプ37等が接続され、制御される。
【0037】
このシステムにおいては、空気は、上流側吸気管16aのMAFセンサ19を通過し、過給機13のコンプレッサ14で昇圧され、下流側吸気管16bのインタークーラ17を通って冷却されて吸気スロットル18を介して吸気マニホールド11からディーゼルエンジン10のシリンダ内に入る。
【0038】
一方、シリンダ内で発生した排気ガスは、排気マニホールド12を通過してタービン15を駆動し、DPFシステム25とSCR装置100からなる排ガス浄化システムで浄化され、サイレンサー27で消音されて大気中に排出される。排気ガスの一部は、EGRクーラ22で冷却され、その量をEGRバルブ23で調整されて、吸気マニホールド11に循環される。
【0039】
次に、SCR装置100について説明する。
【0040】
SCR装置100は、エンジンEの排気管20に設けられたSCR103と、SCR103の上流側(排気ガスの上流側)で尿素水を噴射する尿素水噴射手段としてのドージングバルブ(尿素噴射装置、ドージングモジュール)104と、尿素水を貯留する尿素タンク105と、尿素タンク105に貯留された尿素水をドージングバルブ104に供給するサプライモジュール106と、ドージングバルブ104やサプライモジュール106などを制御するDCU(Dosing Control Unit)126とを主に備える。
【0041】
SCR103、DOC102は、上述したDPFシステム25のさらに下流側の排気管20に順次配置される。DOC28は、DPF29が捕集したPMを燃焼させる際にNOの酸化や未燃燃料の酸化反応を促進するだけでなく、排気ガス中のNOとNO2の比率を制御してSCR103における脱硝効率を高めるためのものである。また、SCR103下流側のDOC102は、SCR103からアンモニアが流出した際に、これを酸化してアンモニアが車外へ(すなわち大気へ)直接排出されることを抑制するためのものである。
【0042】
SCR103の上流側の排気管20には、ドージングバルブ104が設けられる。ドージングバルブ104は、高圧の尿素水が満たされたシリンダに噴口が設けられ、その噴口を塞ぐ弁体がプランジャに取り付けられた構造となっており、コイルに通電することによりプランジャを引き上げることで弁体を噴口から離間させて尿素水を噴射するようになっている。コイルへの通電を止めると、内部のバネ力によりプランジャが引き下げられて弁体が噴口を塞ぐので尿素水の噴射が停止される。
【0043】
ドージングバルブ104の上流側の排気管20には、SCR103の入口における排気ガス温度(SCR入口温度)を測定するSCR温度センサ109が設けられる。また、SCR103の上流側(ここではSCR温度センサ109の上流側)には、SCR103の上流側でのNOx濃度を検出する上流側NOxセンサ110が設けられ、DOC102の下流側には、DOC102の下流側でのNOx濃度を検出する下流側NOxセンサ111が設けられる。
【0044】
サプライモジュール106は、尿素水を圧送するSMポンプと、サプライモジュール106の温度(サプライモジュール106を流れる尿素水の温度)を測定するSM温度センサと、サプライモジュール106内における尿素水の圧力(SMポンプの吐出側の圧力)を測定する尿素水圧力センサと、尿素水の流路を切り替えることにより、尿素タンク105からの尿素水をドージングバルブ104に供給するか、あるいはドージングバルブ104内の尿素水を尿素タンク105に戻すかを切り替えるリバーティングバルブとを備えている。
【0045】
リバーティングバルブが尿素水をドージングバルブ104に供給するように切り替えられている場合、サプライモジュール106はSMポンプにて、尿素タンク105内の尿素水を送液ライン(サクションライン)116を通して吸い上げ、圧送ライン(プレッシャーライン)117を通してドージングバルブ104に供給するようにされ、余剰の尿素水を、回収ライン(バックライン)118を通して尿素タンク105に戻すようにされる。
【0046】
尿素タンク105とサプライモジュール106には、ディーゼルエンジン10を冷却するための冷却水を循環する冷却ライン123が接続される。冷却ライン123は、尿素タンク105内を通り、冷却ライン123を流れる冷却水と尿素タンク105内の尿素水との間で熱交換するようにされる。同様に、冷却ライン123は、サプライモジュール106内を通り、冷却ライン123を流れる冷却水とサプライモジュール106内の尿素水との間で熱交換するようにされる。
【0047】
冷却ライン123には、尿素タンク105とサプライモジュール106に冷却水を供給するか否かを切り替えるタンクヒーターバルブ(クーラントバルブ)124が設けられる。なお、ドージングバルブ104にも冷却ライン123が接続されるが、ドージングバルブ104には、タンクヒーターバルブ124の開閉に拘わらず、冷却水が供給されるように構成されている。なお、図1では図を簡略化しており示されていないが、冷却ライン123は、尿素水が通る送液ライン116、圧送ライン117、回収ライン118に沿って配設される。
【0048】
DCU126には、上流側NOxセンサ110、下流側NOxセンサ111、SMセンサ(レベルセンサ、温度センサ、品質センサ)、SCR温度センサ109、サプライモジュール106のSM温度センサと尿素水圧力センサ、およびディーゼルエンジン10を制御するECU32からの入力信号線が接続されている。ECU32からは、外気温、エンジンパラメータ(エンジン回転数など)の信号が入力される。
【0049】
また、DCU126には、タンクヒーターバルブ124、サプライモジュール106のSMポンプとリバーティングバルブ、ドージングバルブ104、上流側NOxセンサ110のヒータ、下流側NOxセンサ111のヒータ、への出力信号線が接続される。なお、DCU126と各部材との信号の入出力に関しては、個別の信号線を介した入出力、CAN(Controller Area Network)を介した入出力のどちらであってもよい。
【0050】
DCU126は、入力される信号(エンジン回転数、排気ガス温度センサ、NOxセンサからの信号など)から車両状態とSCR103の状態と排気ガス中のNOx濃度とを判断すると共に、ドージングバルブ104から噴射させる尿素水の噴射量(尿素噴射量)を適切に決定するようにされる。
【0051】
ところで、排気ガスからPMを捕集したDPF29では、常時は、DOC28で排気ガス中のNOを酸化してNO2にして、このNO2で、下流側のDPF29に捕集されたPMを酸化してCO2とし、DPF29からPMを除去する、所謂DPF再生を連続的に行っている。
【0052】
ところが、排気ガス温度が低い場合には、DOC28の温度が低下して活性化しないため、NOの酸化反応が促進されず、PMを酸化してDPF再生を行うことができないため、PMのDPF29への堆積が継続されてフィルタの目詰まりが進行してしまう。
【0053】
このフィルタの目詰まりに対して、PM堆積量が所定の堆積量を超えたときにDPFシステム25を再生すべく、排気管インジェクタ38から排気ガスに未燃燃料を添加し、これをDOC28で燃焼(酸化)させて排気ガス温度を強制的に昇温させ、DPF29に捕集されているPMを強制的に燃焼除去することが行われる。
【0054】
PM堆積量は、差圧センサ31の出力値に比例するため、差圧センサ31の出力値が所定の差圧(差圧閾値)を超えたときに、ECU32はフィルタの目詰まりを検出し、ECU32が自動的にDPF再生を行うか、或いは、手動再生ランプ35aを点灯し、ドライバーに再生実行スイッチ36を押下することによるDPF再生を促す。また、ECU32は自動再生中、自動再生ランプ35bを点灯するようにされる。このように差圧により、開始時期を判断するDPF再生が差圧型再生である。
【0055】
なお、DPF再生の開始時期は、差圧センサ31の出力値以外にも、車速センサ34で計測された車速を基に計算される走行距離の積算値が所定の距離(設定距離)を超えたかどうかで判断しても良い。このように走行距離により、開始時期を判断するDPF再生が距離型再生である。
【0056】
DPF29に堆積するPMの量は、車両の走行パターンによって増減し、加速減速を繰り返すなどせず安定的に走行した際には、PMの堆積量が減少する。
【0057】
例えば、排気ガスの還流量を増大するべくEGRバルブ23の開度が大きくされる場合と、ディーゼルエンジンが高負荷を要求されず過給器13のターボチャージャ開度が大きくされる場合には、車両が安定的に走行しており、PMの堆積量が減少する。また、上述のSCR装置100をDPFシステム25の下流側に接続した車両においては、安定走行中、燃料インジェクタ33の噴射タイミングを進角することによりエンジンの燃焼温度を上昇させ、増加するNOxはSCR装置100で浄化しつつ、エンジンアウトのPM量を低減させる走行パターンを行うことが可能となる。
【0058】
この状況下では、DPF29へのPMの堆積が減少するので、DPF再生を開始するための設定距離を延長し、走行再生インターバルを延ばすことができる。
【0059】
そこで本発明に係る排気ガス浄化システムのECU32(制御装置)は、車両走行中にPMの少なくなる走行パターンを認識し、車両が安定な走行パターンとなったとき、走行再生インターバルを延長できるようにされる。
【0060】
図2は本発明に係る排気ガス浄化システムの動作の概要を示しており、車両の走行パターンを横軸を実走行距離、縦軸をDPF29前後の差圧とにより表すと共に、走行パターンにより走行再生インターバルが延長される様子を示している。
【0061】
本発明に係る排気ガス浄化システムにおいては、従来と同様に、差圧型再生を行うための差圧閾値ΔPと、距離型再生を行うための設定距離ΔDとが設定される。
【0062】
車両の実走行距離が設定距離ΔDに達するよりも前に、DPF29前後の差圧がΔPに達する走行パターンA0、A1では、差圧型再生が行われる。
【0063】
走行パターンA0により走行する車両では、実走行距離a0においてDPF29前後の差圧がΔPに達し、差圧型再生が行われる。つまり、走行パターンA0の走行再生インターバルは実走行距離a0となる。
【0064】
PMの堆積量が減少する走行パターンA1で走行する車両では、PMの堆積量の減少が差圧の減少に反映されるため、実走行距離a0よりも長い実走行距離a1においてDPF29前後の差圧が差圧閾値ΔPに達することとなり、実走行距離a1と実走行距離a0との距離の差分だけ、走行再生インターバルが延長されて差圧型再生が行われる。
【0065】
一方、DPF前後の差圧が差圧閾値ΔPに達するよりも前に、実走行距離が設定距離ΔDに達する走行パターンB、Cでは、距離型再生が行われる。
【0066】
走行パターンBにより走行する車両では、実走行距離bが設定距離ΔDに達したとき、距離型再生が行われる。つまり、走行パターンBの走行再生インターバルは実走行距離bとなる。
【0067】
従来の排気ガス浄化システムにおいては、車両の走行パターンに因らず再生インターバル(すなわち、前回DPF再生終了からの走行距離)は常に一定であり、これを延長することができない。
【0068】
すなわち、従来の排気ガス浄化システムでは、実走行距離bの時点でDPF29前後の差圧が、走行パターンBにおける差圧P2よりも低い差圧P1であり実際のPMの堆積量が走行パターンBよりも少なくなる走行パターンCにおいても、走行再生インターバルが延長されることなく、実走行距離bにおいて距離型再生が行われることになる。
【0069】
そこで本発明の排気ガス浄化システムにおいては、例えば、走行パターンBよりもPM堆積量が少なくなる走行パターンCで車両が走行した際には、そのDPF前後の差圧が走行パターンBの実走行距離bにおける差圧P2と同じくなるような実走行距離cにおいて距離型再生が行われ、実走行距離cと実走行距離bとの差分だけ走行再生インターバルを延長できるようにされる。
【0070】
その具体的な手段として、車両の走行距離を実走行距離よりも小さく補正し、補正した補正走行距離を車両の走行距離として積算することにより、設定距離ΔDを固定したまま走行再生インターバルを延長する走行距離補正型の延長手段と、直接に設定距離ΔDを延長して走行再生インターバルを延長する設定距離延長型の延長手段がある。
【0071】
以下に、走行距離補正型の延長手段と、設定距離延長型の延長手段の詳細について説明する。
【0072】
本発明に係る第一の実施の形態では、図3(a)に示すように、ECU32は走行距離演算部200と、走行距離補正部201とを備え、走行距離補正型の走行再生インターバルの延長を行うようにされる。
【0073】
走行距離演算部200は、前回のDPF再生時からの車両の走行距離を積算しておき、この積算値が設定距離(すなわち、DPF再生を開始する走行距離の閾値)に達したとき、ECU32がDPF再生を開始する。
【0074】
また、走行距離補正部201は、EGR開度などのパラメータから車両の走行パターンを認識し、これがPM堆積量の少なくなる走行パターンであるときには、その走行パターンに基づいて実走行距離を小さく補正して補正走行距離を算出すると共に、その補正走行距離を走行距離演算部200に入力し、走行距離演算部200は実走行距離よりも小さい補正走行距離により、走行距離の積算をするようにされる。
【0075】
EGR開度と、過給器13のターボチャージャ開度と、燃料インジェクタ33の燃料噴射タイミングと、ドージングバルブ104からの尿素噴射量とから、車両の走行パターンを認識し、車両の走行パターンが安定的である(すなわち、PMの堆積量が減少する)と走行距離補正部201が認識した際には、走行距離補正部201は各パラメータを参照して実走行距離を小さく補正するための補正係数を求め、その補正係数を安定走行となってからの実走行距離に乗じて補正走行距離を算出し、その補正走行距離を走行距離演算部200に入力して走行距離の積算をさせるようにする(補正動作ON)。
【0076】
また、車両の状態がPM堆積量の少なくなる走行パターンにない場合、走行距離補正部201は車両の実走行距離を補正することなく走行距離演算部200に入力し、走行距離演算部200は実走行距離を積算するようにされる(補正動作OFF)。
【0077】
補正係数は、あらかじめ模擬実験などによりエンジンから排出される実際のPM量と上述のパラメータ(ターボチャージャ開度、EGR量、尿素噴射量、燃料噴射タイミング)との関係を求めて補正係数マップを作成し、車両の状態がPM堆積量の少なくなる走行パターンであるときに、各パラメータから走行距離補正部201が補正係数マップを参照して決定するようにされる。
【0078】
ただし本発明は補正走行距離の算出方法を限定するものではなく、各パラメータそれぞれに補正係数マップを作成し、各パラメータをそれぞれの補正係数マップに参照して補正係数を決定すると共に、それらをすべて実走行距離に乗じて補正走行距離を算出するようにされてもよい。
【0079】
図3(b)には、第一の実施の形態に係る排気ガス浄化システムの動作例を説明しており、走行距離補正部201の補正動作により走行距離の積算値が実走行距離よりも小さくなり、走行再生インターバルが延長されることを示している。
【0080】
ここでは、実走行距離x1、x2間の走行区間M1と、実走行距離x3、x4間の走行区間M2において、安定的な走行パターンにより走行した場合を考える。
【0081】
前回のDPF再生終了後、走行距離演算部200は車両の走行距離をゼロリセットし、再び走行距離を積算するようにされる。
【0082】
従来の排気ガス浄化システムにおいては、実走行距離が車両の走行距離としてそのまま積算され、実走行距離xLにおいて走行距離が設定距離ΔDに達し、距離型再生が開始される。
【0083】
一方、第一の実施の形態に係る排気ガス浄化システムにおいては、走行区間M1および走行区間M2のそれぞれにおいて走行距離補正部201の補正動作がONとされ、走行距離補正部201は安定走行が開始されてからの実走行距離を小さく補正して走行距離演算部200に入力し、走行距離演算部200は実走行距離よりも小さく補正された補正走行距離を積算する。
【0084】
この補正動作により、実走行距離x2における車両の走行距離はy2からy1に短縮されると共に、実走行距離x4における走行距離はy4からy3にさらに短縮されるため、実走行距離xHにおいて走行距離の積算値が設定距離ΔDに達したとき、実走行距離xH、xLの差分だけ(すなわち、走行距離y4、y3の差分だけ)走行再生インターバルが延長されて距離型再生が行われることになる。
【0085】
このように、車両の走行パターンがPMの少なくなる状況においては、走行距離演算部200が積算する走行距離を、走行距離補正部201が各パラメータを参照して決定する補正係数を安定走行となってからの実走行距離に乗じて算出した補正走行距離とすることで、走行距離の積算が緩やかとなり、次回DPF再生が開始されるまでの走行再生インターバルを延長することができる。
【0086】
つまり、車両の走行パターンによってはDPF再生の頻度と、排気ガスに未燃燃料を添加するための排気管噴射量を低減することができるため、車両の燃費性能を向上させることができる。
【0087】
第一の実施の形態では、各パラメータから実走行距離を小さく補正し、補正した補正走行距離を走行距離として積算するようにされるが、例えば各パラメータから走行距離減算値を求め、走行距離に実走行距離を加算すると共に走行距離減算値を減ずることで、走行再生インターバルを延長するなどされてもよい。
【0088】
次に本発明の第二の実施の形態について図4に基づき説明する。
【0089】
第二の実施の形態では、図4(a)に示すように、ECU32は走行距離演算部200と、設定距離延長部202とを備え、設定距離延長型の走行再生インターバルの延長を行うようにされる。
【0090】
走行距離演算部200は前述の形態と同じく、前回のDPF再生時からの車両の走行距離を積算しておき、この積算値が設定距離に達したとき、ECU32がDPF再生を開始するようにされる。
【0091】
一方、設定距離延長部202は、EGR開度と、過給器13のターボチャージャ開度と、燃料インジェクタ33の燃料噴射タイミングと、ドージングバルブ104からの尿素噴射量とから、車両走行パターンを認識し、車両走行中にPM堆積量の少なくなる走行パターンとなったとき、その走行パターンに基づいて設定距離(すなわち、走行再生インターバル)を延長するようにされる。
【0092】
設定距離延長部202は、車両の状態がPMの堆積量が少なくなる走行パターンにあることを認識した際には、それぞれのパラメータを参照して設定距離を延長するための補正係数を求め、その補正係数を安定走行となってからの実走行距離に乗じて延長距離を算出すると共に、その延長距離を設定距離に加算して設定距離を延長し、延長された設定距離に走行距離演算部200が積算する走行距離が達したとき、ECU32はDPF再生を開始するようにされる。
【0093】
補正係数は、あらかじめ模擬実験などによりエンジンから排出されるPMの量と上述のパラメータ(ターボチャージャ開度、EGR開度、尿素噴射量、燃料噴射タイミング)との関係を求めて補正係数マップを作成し、車両の状態がPM堆積量の少なくなる走行パターンであると認識した際に、各パラメータから補正係数マップを参照して決定するようにされる。
【0094】
ただし本発明は補正係数の決定方法を限定するものではなく、各パラメータそれぞれに補正係数マップを作成し、各パラメータをそれぞれの補正係数マップに参照して補正係数を決定すると共に、それらをすべて安定走行となってからの実走行距離に乗じて延長距離を算出するようにされてもよい。
【0095】
図4(b)には、第二の実施の形態に係る排気ガス浄化システムの動作例を説明しており、設定距離延長部202の延長動作により設定距離ΔD0が延長され、走行再生インターバルが延長されることを示している。
【0096】
ここでは、実走行距離x1、x2間の走行区間M1と、実走行距離x3、x4間の走行区間M2において、安定的な走行パターンにより走行した場合を考える。
【0097】
前回のDPF再生終了後、設定距離延長部202は設定距離を初期設定であるΔD0にリセットすると共に、走行距離演算部200は車両の走行距離をゼロリセットし、再び走行距離を積算するようにされる。
【0098】
従来の排気ガス浄化システムにおいては車両の走行パターンにかかわらず設定距離ΔD0を延長しないため、距離型再生を行う実走行距離xLは設定距離ΔD0と同じ距離となる。
【0099】
一方、第二の実施の形態に係る排気ガス浄化システムにおいては、走行区間M1および走行区間M2のそれぞれにおいて設定距離延長部202の延長動作がONとされ、設定距離延長部202は実走行距離に補正係数を掛け合わせて延長距離をそれぞれ求め、これらを設定距離ΔD0に加算した設定距離ΔDEXに車両の走行距離(実走行距離)が達したとき、距離型再生を行うようにされる。
【0100】
この延長動作により、車両の実走行距離xHにおいて設定距離ΔDEXに達したとき、実走行距離xHとxLとの差分だけ(すなわち、設定距離ΔDEXとΔD0との差分だけ)再生インターバルが延長されて距離型再生が行われる。
【0101】
なお、走行距離の積算値が設定距離ΔD0、ΔDEXに達するよりも前に、差圧センサ31が検出するPM堆積量が所定の値を超えたときには、差圧型のDPF再生を行うようにされ、走行距離演算部200は、走行距離の積算値をゼロリセットすると共に、設定距離延長部202は延長された設定距離ΔDEXを初期設定の設定距離ΔD0にリセットする。
【0102】
このように、車両の走行パターンがPMの少なくなる状況においては、設定距離延長部202が各パラメータを参照して補正係数を決定し、これを安定走行となってからの実走行距離に乗じて求まる延長距離を、設定距離ΔD0に加算して延長することで、次回DPF再生が開始されるまでの走行再生インターバルを延長することができる。
【0103】
つまり、車両の走行パターンによってはDPF再生の頻度と、排気ガスに未燃燃料を添加するための排気管噴射量を低減することができるため、車両の燃費性能を向上させることができる。
【0104】
第二の実施の形態では、安定走行となってからの実走行距離に補正係数を乗じて延長距離を求め、延長距離を加算することで設定距離を延長するようにされるが、例えば各パラメータから直接に延長距離を求め、設定距離に延長距離を加算して設定距離を延長するようにされてもよい。
【符号の説明】
【0105】
20 排気管
25 DPF
32 制御装置(ECU)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の排気管にDPFを接続し、前記車両が所定距離走行したとき前記DPFを再生する排気ガス浄化システムにおいて、車両走行中にPM堆積量の少ない走行パターンを認識し、該走行パターンに基づいて前記所定距離を補正する制御装置を備えることを特徴とする排気ガス浄化システム。
【請求項2】
前記制御装置は、DPF再生終了後からの車両の走行距離を積算する走行距離演算部と、前記走行パターンに基づいて実走行距離を小さく補正して補正走行距離を算出すると共に、該補正走行距離を前記走行距離演算部に入力する走行距離補正部とを備え、走行距離演算部により積算された走行距離が予め設定された設定距離以上になるとDPFを再生する請求項1記載の排気ガス浄化システム。
【請求項3】
前記制御装置は、DPF再生終了後からの車両の走行距離を積算する走行距離演算部と、前記走行パターンに基づいて予め設定された設定距離を延長する設定距離延長部とを備え、走行距離演算部により積算された走行距離が設定距離以上になるとDPFを再生する請求項1記載の排気ガス浄化システム。
【請求項4】
前記車両は、エンジンの吸排気管にターボチャージャーが接続されると共に、排気ガスを前記エンジンの吸気側に戻すEGR装置が設けられ、かつ前記DPFの下流側にSCR装置が接続され、
前記制御装置は、前記ターボチャージャーの開度、前記EGR装置のEGR開度、前記SCR装置の尿素噴射量、前記エンジンの燃料噴射タイミングの少なくとも一つから前記走行パターンを認識する請求項1〜3いずれか記載の排気ガス浄化システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−31798(P2012−31798A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172649(P2010−172649)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】