説明

排気浄化装置

【課題】少ない水素量かつ簡単なシステムで触媒を早期に活性化し得る装置を提供する。
【解決手段】高圧で水素の吸蔵及び脱離を行う第1水素吸蔵合金を内部に有する高圧容器(6)と、低圧で水素の吸蔵及び脱離を行う第2水素吸蔵合金を内部に有する低圧容器(8)とを通路を介して連通すると共に通路を開閉する第1バルブ(21)を設け、かつ低圧容器(8)を触媒上流の排気管内に面して設けた熱輸送機器(5)と、水素噴射弁(22)と、水素生成器(32)と、この水素生成器(32)からの水素を高圧容器(6)に供給する通路を開閉する第2バルブ(34)と、エンジンの冷間始動時に触媒の活性化が促進されるように第1バルブ(21)と水素噴射弁(22)とを制御し、かつ触媒の活性化後に、水素噴射弁(22)によって消費された水素が水素生成器(32)で生成される水素で補われるように第2バルブ(34)を制御する制御手段(41)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
冷間始動時に触媒を急速に昇温させるため、水素を燃焼室で燃焼させる方法や、触媒のすぐ上流に水素を噴射するものがある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−339772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1の技術のように水素を用いて触媒を昇温させる場合にはシステムが複雑になり、水素消費量も多くなるという問題がある。すなわち、冷間始動時に触媒が水素と反応を開始する温度に到達する前には、水素と反応して燃焼させることができないので、触媒の上流に水素を噴射しても水素は触媒を素通りするだけとなる。このため、水素だけで触媒を水素と反応を開始する温度に到達させようとすると、燃焼させた水素を触媒に供給して加熱するしかなく、このような水素の用い方では、水素を多く消費してしまう。
【0005】
また、水素発生には改質技術を用いるが始動時にはすぐに使えないので、水素を一旦タンクに貯蔵しておくことが必要となる。すると、水素吸蔵タンクに加えて、水素を加圧するポンプが必要となり、システムが複雑になるだけでなくコストが高くなってしまう。
【0006】
一方、水素の燃焼に頼らずに触媒の昇温を行う方法として、高圧の条件で働く水素吸蔵合金を内部に有する高圧容器と、低圧の条件で働く水素吸蔵合金を内部に有する低圧容器とを組み合わせたヒートポンプを構成し、定圧容器を触媒上流の排気管内に突出して設けておき、冷間始動時に高圧容器内の水素吸蔵合金から水素を放出させ、この放出させた水素を低圧容器内の水素吸蔵合金に吸蔵させることで、触媒を流れる排気の温度を上昇させるものがある。しかしながら、このものでは触媒を活性温度にまで上昇させるのに時間がかかってしまい、触媒を早期に活性化できない。
【0007】
そこで本発明は、少ない水素の消費量でかつ簡単なシステムで触媒を早期に活性化し得る装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下のような解決手段によって前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために本発明の実施形態に対応する符号を付するが、これに限定されるものではない。
【0009】
本発明は、排気管(2)に設けられエンジンからの排気を浄化する触媒(4)と、相対的に高い圧力で水素の吸蔵及び脱離を可逆的に行う第1水素吸蔵合金を内部に有する高圧容器(6)と、相対的に低い圧力で水素の吸蔵及び脱離を可逆的に行う第2水素吸蔵合金を内部に有する低圧容器(8)とを通路(15)を介して連通すると共に通路(15)を開閉する第1バルブ(21)を設け、かつ低圧容器(8)を触媒(4)上流の排気管(2)内に面して設けた熱輸送機器(5)と、前記容器(6)内の水素の供給を受けて触媒(4)上流の排気管(2)内に水素を噴射する水素噴射弁(22)と、水素を生成する水素生成器(32)と、この水素生成器(32)で生成される水素を高圧容器(6)に供給する水素供給通路(33)と、この水素供給通路(33)を開閉する第2バルブ(34)とを備え、エンジンの冷間始動時に触媒(4)の活性化が促進されるように第1バルブ(21)と水素噴射弁(22)とを制御し、かつ触媒(4)の活性化後に、水素噴射弁(22)によって消費された水素が水素生成器(32)で生成される水素で補われるように第2バルブ(34)を制御するように構成する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、排気管に設けられエンジンからの排気を浄化する触媒と、相対的に高い圧力で水素の吸蔵及び脱離を可逆的に行う第1水素吸蔵合金を内部に有する高圧容器と、相対的に低い圧力で水素の吸蔵及び脱離を可逆的に行う第2水素吸蔵合金を内部に有する低圧容器とを通路を介して連通すると共に通路を開閉する第1バルブを設け、かつ低圧容器を触媒上流の排気管内に面して設けた熱輸送機器と、高圧容器内の水素の供給を受けて触媒上流の排気管内に水素を噴射する水素噴射弁と、水素を生成する水素生成器と、この水素生成器で生成される水素を高圧容器に供給する水素供給通路と、この水素供給通路を開閉する第2バルブとを備え、エンジンの冷間始動時に触媒の活性化が促進されるように第1バルブと水素噴射弁とを制御し、かつ触媒の活性化後に、水素噴射弁によって消費された水素が水素生成器で生成される水素で補われるように第2バルブを制御するので、少ない水素の消費量でかつ簡単なシステムで触媒を早期に活性化することができる。すなわち、水素吸蔵合金を熱輸送機器として用いた簡易的な加熱の分だけ水素の消費が抑えられ、かつ高圧容器に水素を蓄積するという目的と水素吸蔵合金を高圧で保つという2つの機能を併せ持たせることで、システムが簡素化されている。これによって、水素を用いる場合のシステムの複雑さと水素消費量の多さという従来の問題は解決されることになった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態の排気浄化装置の概略構成図である。
【図2】低圧容器の概略構成図である。
【図3】冷間始動時の制御を説明するためのフローチャートである。
【図4】追加の操作を説明するためのフローチャートである。
【図5】第2実施形態の排気浄化装置の概略構成図である。
【図6】第2実施形態の排気浄化装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は本発明の一実施形態の排気浄化装置の概略構成図である。図1においてエンジン1からの排気を外部に放出するための排気管2に、上流側より三元触媒3、NOxトラップ触媒4の順に配置されている。
【0013】
三元触媒3は、排気中の空燃比が理論空燃比の付近に保たれるとき、排気中のHC、CO、NOxを同時に浄化し得る触媒である。NOxトラップ触媒4は、排気の空燃比が理論空燃比よりリーン側にあるときに排気中のNOxをトラップし、排気の空燃比が理論空燃比や理論空燃比よりリッチ側の空燃比になると、トラップしていたNOxを脱離すると共に、その脱離するNOxを排気中の還元成分(HC、CO)を用いて浄化する触媒である。つまり、エンジン1は所定の運転時にリーン運転を行うものが前提である。
【0014】
上記の触媒3、4は活性温度にならないと働かない。エンジン冷間始動時を考えると、エンジン1出口に設けられている三元触媒3は早期に活性化するのに対して、NOxトラップ触媒4の活性化は、三元触媒4よりも遅れる。
【0015】
そこで、触媒を急速に昇温させるため、水素を燃焼室で燃焼させる方法や、触媒のすぐ上流に水素を噴射する、つまり水素を用いて触媒を昇温させる従来装置がある。しかしながら、水素を用いる場合にはシステムが複雑になり、水素消費量も多くなる。
【0016】
これについて説明すると、NOxトラップ触媒4が水素と反応を開始する温度に到達する前には、水素と反応して燃焼させることができないので、NOxトラップ触媒4の上流に水素を噴射しても水素はNOxトラップ触媒4を素通りするだけとなる。このため、水素だけでNOxトラップ触媒4を水素と反応を開始する温度に到達させようとすると、燃焼させた水素をNOxトラップ触媒4に供給して加熱するしかなく、このような水素の用い方では、水素の量は多くなってしまうといった問題がある。
【0017】
また、水素発生には改質技術を用いるが始動時にはすぐに使えないので、水素を一旦タンクに貯蔵しておく必要がある。このため、水素吸蔵タンクに加えて、水素を加圧するポンプが必要となり、システムが複雑になるだけでなくコストが高くなってしまうといった別の問題もある。
【0018】
一方、水素の燃焼に頼らずに触媒の昇温を行う方法として、高圧の条件で働く水素吸蔵合金を内部に有する高圧容器と、低圧の条件で働く水素吸蔵合金を内部に有する低圧容器とを組み合わせたヒートポンプを構成し、定圧容器を触媒上流の排気管内に突出して設けておき、冷間始動時に高圧容器内の水素吸蔵合金から水素を放出させ、この放出させた水素を低圧容器内の水素吸蔵合金に吸蔵させることで、触媒を流れる排気の温度を上昇させるものがある(米国特許第5450721)。しかしながら、このものでは触媒を活性温度にまで上昇させるのに時間がかかってしまい、触媒を早期に活性化できない。
【0019】
そこで、本発明では、ヒートポンプ機能を有する水素吸蔵合金を2種類使った熱輸送機器を構成し、この熱輸送機器をまず用いてNOxトラップ触媒4の温度を、NOxトラップ触媒4が水素と反応を開始する温度にまで到達させる。次に水素噴射弁から排気管内に水素を噴射して触媒の昇温を急速に行わせる。また、水素噴射弁によって消費された水素量の分だけ水素生成器で生成される水素を上記熱輸送機器に充填する。以下詳述する。
【0020】
エンジン1には、主に水素タンク6(高圧容器)と、低圧容器8と、第1バルブ21とからなる熱輸送機器5を備える。
【0021】
水素タンク6には相対的に高い圧力の条件で水素の吸蔵及び脱離を可逆的に行う第1水素吸蔵合金7を内部に、低圧容器8には相対的に低い圧力で水素の吸蔵及び脱離を可逆的に行う第2水素吸蔵合金10を内部にそれぞれ有している。
【0022】
低圧容器8は、熱交換器として働かせるため、例えば図2に示したように、波打たせたチューブ9で形成され、排気管2を流れる排気を遮るように排気管2の内部に面するように配置されている。このチューブ9の内部に第2水素吸蔵合金10が固定されている。低圧容器8の形状はこれに限定されるものでない。
【0023】
水素タンク6と低圧容器8とは通路15によって連通され、この通路15にこの通路15を開閉する常閉の第1バルブ21が設けられている。通路15をバイパスするバイパス通路17にはチェックバルブ(逆止弁)18を設けている。
【0024】
水素吸蔵合金7、10は、水素と反応するとき(水素吸蔵時)に反応熱を発生し、水素化合物が分解するとき(水素脱離時)に反応熱を必要として周囲から熱を奪うので、水素タンク6側から低圧容器8側に水素を移してやれば、低圧容器8内の第2水素吸蔵合金10が発熱し低圧容器8が周囲の排気との熱交換を行って排気を加熱することとなり、NOxトラップ触媒4の温度を高めることができる。
【0025】
低圧容器8上流の排気管2に水素噴射弁22を備える。この水素噴射弁22に水素タンク6出口に近い通路15から分岐する通路16を介して、水素タンク6内の水素が供給されている。本実施形態では、上記低圧容器8による加熱でNOxトラップ触媒4が水素と反応を開始する温度に到達する前には水素噴射弁22を開かず、NOxトラップ触媒4が水素と反応を開始する温度に到達した段階で水素噴射弁22を開いて水素をNOxトラップ触媒4に供給する。この段階まで待てば、NOxトラップ触媒4が水素を燃焼させることができ、燃焼熱でNOxトラップ触媒4の温度が急上昇する。
【0026】
上記のように水素タンク6側から低圧容器8側へと水素を移動させるには、原則として水素タンク6内の圧力が低圧容器8内の圧力より相対的に高ければよい。しかしながら、現実問題として後述する改質器32で生成する水素を水素タンク6に供給するためには差圧が必要となる。ゆえに、低圧容器8内の圧力を大気圧と同等のレベルとし、水素タンク6内の圧力を大気圧よりも所定値(例えば数kPa)高い圧力とする。所定値は実際には適合により定める。
【0027】
水素噴射弁22により水素が消費されると、熱輸送機器50では水素が不足することになる。このため、改質器32(水素生成器と)と、改質器32により生成される水素を水素タンク6に供給する水素供給通路33と、この水素供給通路33を開閉する常閉の第2バルブ34とを備えている。
【0028】
改質器32を、エンジン1出口近くの排気管2に設けているのは、改質器32内部の改質触媒を加熱して改質触媒を活性化するためである。当該改質触媒では、エンジン1に供給する燃料の一部から脱水素反応により水素が生成され、生成した水素だけが透過膜を介して取り出される。透過膜の前後に圧力差がないと水素を取り出さすことができないので、透過膜の下流側に大気圧を、透過膜の上流側にスロットル弁下流の吸気管圧力(スロットル弁が閉じていれば大気圧より小さい)をそれぞれ導き、両者の差圧を利用して水素だけを透過膜の下流側(つまり水素供給通路33側)に透過させるようにしている。
【0029】
さらに、水素供給通路33をバイパスするバイパス通路35にモータ37で駆動されるポンプ36を、バイパス通路35の分岐部と合流部との間の水素供給通路33に常開の第3バルブ38を備える。これらは、NOxトラップ触媒4の再生処理のために必要となるものである。
【0030】
圧力センサ42からの水素タンク内圧力Pb、触媒温度センサ43からの触媒温度、圧力センサ44からの改質器出口圧力Pr1が入力されるエンジンコントローラ41では、水素タンク内圧力Pbと触媒温度とを監視しながら、3つのバルブ21、34、38と、水素噴射弁22と、ポンプ36駆動用のモータ37とを制御する。
【0031】
エンジンコントローラ41で実行される制御を図3のフローチャートに従って説明する。図3は、処理の時間的な流れを示すもので、一定時間毎に繰り返し行うものではない。
【0032】
ステップ1では触媒温度センサ43により検出される触媒温度Tbedと第1触媒活性温度Tacthとを比較する。第1触媒活性温度TacthはNOxトラップ触媒4が水素と反応を開始する温度で、適合により予め定めておく。本実施形態では、第1触媒活性温度Tacthのほかにも、後述する第2触媒活性温度Tcatがある。第2触媒活性温度TactはNOxトラップ触媒4が活性化する温度であり、第1触媒活性温度Tacthはこの第2触媒活性温度Tactよりも低い。第1触媒活性温度Tacthを導入したのは、触媒温度Tbedが第1触媒活性温度Tacthに到達するまでは低圧容器8によってNOxトラップ触媒4を温度上昇させ、触媒温度Tbedが第1触媒活性温度Tacthを超えると、今度は水素噴射弁22から水素を噴射し、この水素の燃焼熱でNOxトラップ触媒4を第2触媒活性温度Tcatへと上昇させるためである。
【0033】
触媒温度Tbedが第1触媒活性温度Tacth未満であるときには、ステップ2に進み第1バルブ21を開く。これによって、水素タンク6側から低圧容器8に水素が移動する。当初は水素タンク6内の気体状の水素が移動するが、水素タンク内の圧力の低下に応じて水素タンク6内の第1水素吸蔵合金7から水素が脱離され、この脱離された水素も低圧容器8側に移動する。低圧容器8では、圧力が上昇するため、その圧力の上昇分だけ第2水素吸蔵合金10が水素を吸蔵しその際に発熱する。つまり、低圧容器8が周囲の排気との熱交換を行って、排気の温度を上昇させることから、NOxトラップ触媒4がゆっくりと温度上昇してゆく。
【0034】
ステップ1で触媒温度Tbedが第1触媒活性温度Tacth未満であるあいだ、ステップ2の操作を続行し、触媒温度Tbedが第1触媒活性温度Tacth以上になると、ステップ3に進み水素噴射弁22を開いて水素をNOxトラップ触媒4に供給する。NOxトラップ触媒4は、すでに第1触媒活性温度Tacthまでは上昇しているので、水素と反応して水素を燃焼させることが可能であり、水素の燃焼熱でNOxトラップ触媒4の温度が急上昇する。
【0035】
ステップ4では触媒温度Tbedと第2触媒活性温度Tactとを比較する。第2触媒活性温度TactはNOxトラップ触媒4が活性化する温度(例えば200〜250℃)である。第2触媒活性温度TactはNOxトラップ触媒4の仕様により定まる。これは、NOxトラップ触媒4が活性化したか否かをみる部分である。触媒温度Tbedが第2触媒活性温度Tactに到達するまではNOxトラップ触媒4がまだ活性化していないと判断しステップ3の操作を続行する。
【0036】
やがて、触媒温度Tbedが第2触媒活性温度Tactを超えると、NOxトラップ触媒4の活性化が完了したと判断し、これ以上の水素の供給は無駄になるので、ステップ5に進んで水素噴射弁22を全閉として水素噴射を中止する。
【0037】
ステップ6では圧力センサ42により検出される水素タンク内圧力Pbと、圧力センサ44により検出される改質器出口圧力Pr1とを比較する。これは改質器32から水素タンク6への水素の供給が可能となったか否かを判定する部分である。上記のように第1バルブ21を開いたことで、水素タンク内圧力Pbが低下し、また圧力低下に伴う第1水素吸蔵合金7からの水素の脱離による吸熱で水素タンク内温度が低下し、 この温度低下を受けてさらに水素タンク内圧力Pbが低下してゆく。従って、水素タンク内圧力Pbが改質器出口圧力Pr1以上である場合には、まだ改質器32から水素タンク6への水素の供給は可能となっていないと判断し、そのまま待機する。
【0038】
一方、水素タンク内圧力Pbが改質器出口圧力Pr1未満になれば、改質器32出口圧力Pr1と水素タンク内圧力Pbとの間に圧力差が生じ改質器32で生成されている水素を水素タンク6に供給できると判断し、ステップ7、8に進んで第1バルブ21を全閉とし、第2バルブ34を開く。
【0039】
ステップ9では水素タンク内圧力Pbと第1所定値Pbinit1を比較する。第1所定値Pbinit1は、第1バルブ21を開く前の水素タンク内圧力(つまり初期状態での圧力)である。初期状態とは、図3に示す冷間始動時の制御を開始する直前の状態である。これは、水素タンク内圧力が初期状態に戻ったか否かをみる部分である。水素タンク内圧力Pbが第1所定値Pbinit1以下であるときには、水素タンク内圧力が初期状態に戻っていないと判断し、ステップ8の操作を続行する。
【0040】
やがて、水素タンク内圧力Pbが第1所定値Pbinit1を超えると初期状態に戻ったと判断しステップ10に進んで第2バルブ34を全閉として全ての処理を終了する。ステップ11については後述する。
【0041】
ここで、本実施形態の作用を冷間始動時で説明する。
【0042】
エンジン1の冷間状態では、低圧容器8内の圧力はほぼ大気圧に、水素タンク6内の圧力はこの大気圧よりも高く保たれ、それぞれの圧力に応じて水素吸蔵合金7、10が水素を吸蔵している。圧力が高い分、単位体積当たりの水素吸蔵量は第1水素吸蔵合金7の方が第2水素吸蔵合金10よりも多い。
【0043】
エンジン1が始動すると、NOxトラップ触媒4の温度が低ければ、第1バルブ21が開かれ、高圧側の水素タンク6から低圧側の低圧容器8へと水素が移動する。圧力の
低下と共に水素タンク6内の第1水素吸蔵合金7から水素が脱離され、この脱離された水素も低圧側の低圧容器8に移動する。一方、低圧容器8では圧力が上昇し、この圧力上昇に伴って第2水素吸蔵合金10が水素を吸蔵する。水素が第2水素吸蔵合金10に吸蔵されるときに第2水素吸蔵合金10が発熱し低圧容器8全体が温度上昇する。この低圧容器8の温度上昇で排気管2内を流れる排気が加熱され、加熱された排気はNOxトラップ触媒を加熱する。
【0044】
触媒温度が水素に反応可能な温度である第1触媒活性温度Tacthに到達した場合には、水素噴射弁22から排気管2内に水素が噴射される。これによって、NOxトラップ触媒4は水素と反応して水素を燃焼させる。この水素の燃焼熱でNOxトラップ触媒4は急激に温度上昇して活性温度(=第2触媒活性温度Tact)に到達する。
【0045】
その後、第1水素吸蔵合金7による水素脱離時の吸熱反応で低下していく水素タンク内圧力Pbが改質器出口圧力Pr1より低下した段階で第1バルブ21が閉められると共に第2バルブ34が開かれる。これによって、改質器32で生成された水素が水素タンク6に供給される。
水素噴射弁22から噴射した水素と同じ量の水素が供給されたら、つまり水素タンク内圧力Pbが初期圧力である第1所定値Pbinit1に戻ったら、第2バルブ34が全閉とされる。
【0046】
その後、排気の温度が十分に上昇すると、低圧容器8が加熱されるために、第2水素吸蔵合金10から水素が脱離され、低圧容器8内圧力が排気温度が十分に上昇する前よりも高圧になる。この高圧となった水素はバイパス通路17のチェックバルブ18を押し開いて水素タンク6に戻る。つまり、水素タンク内圧力はこの水素の戻り分だけ第1所定値Pbinit1より高くなってしまう。従って、実際にはこの水素の戻り分をも考慮して、前記第1所定値Pbinit1を設定することが好ましい。
【0047】
水素吸蔵合金7、10は水素の吸蔵と脱離とを可逆的に行い得るので、冷間始動の度に上記の処理を実行する。
【0048】
このようにしてNOxトラップ触媒4を早期に活性化できる。触媒の早期活性化を目標とする限り、触媒はNOxトラップ触媒4に限られず、三元触媒でもかまわない。
【0049】
一方、触媒がNOxトラップ触媒4である場合には、NOxトラップ触媒4にNOxが許容限界までトラップされたタイミングで還元剤を供給しNOxトラップ触媒4からNOxを脱離させると共に、脱離させたNOxを還元剤で浄化することにより、NOxがトラップされていない状態へと戻す(つまりNOxトラップ触媒4を再生する)必要がある。本実施形態では、この還元剤として水素ガスを用いることができる。つまり、通常のエンジンでは、NOxトラップ触媒4の再生時期(再生処理時)になると、空燃比を理論空燃比やリーン空燃比にして排気中のHCを増やし、このHCを還元剤としてNOxトラップ触媒4に供給しているのであるが、本実施形態では、リーン空燃比での運転時にNOxトラップ触媒4の再生時期になったとき、リーン空燃比のまま水素噴射弁22を開くだけで還元剤としての水素を触媒4に供給でき、NOxトラップ触媒4を再生させることができる。
【0050】
ただし、NOxトラップ触媒4を活性化するための水素の量よりも、NOxトラップ触媒4の再生処理のための水素量のほうが多いので、NOxトラップ触媒4の再生処理のため水素を用いるときには、水素タンク6内に触媒4の再生処理のための水素分だけ余分に貯溜させておく必要がある。このため、図3においてステップ11で追加の操作を行わせる。
【0051】
図4はステップ11の内容を示すサブルーチンである。このフローも処理の時間的な流れを示すもので、一定時間毎に繰り返し行うものではない。
【0052】
ステップ21では、温度センサ45(図2参照)により検出される低圧容器8内温度TMH2と、第2触媒活性温度Tactを比較する。低圧容器内温度TMH2が第2触媒活性温度Tact以下であれば、NOxトラップ触媒4が活性化していないと判断し、そのまま待機する。
【0053】
一方、低圧容器内温度TMH2が第2触媒活性温度Tactを超えているときには、NOxトラップ触媒4の活性化が完了していると判断し、ステップ22、23に進んで第3バルブ38を全閉とすると共に、モータ37に通電してポンプ36を作動させる。ポンプ36の作動によって改質器32で生成されている水素が水素タンク6に圧送されるため、水素タンク内圧力Pbが上昇する。
【0054】
ステップ24ではこの水素タンク内圧力Pbと第2所定値Pbinit2を比較する。第2所定値Pbinit2は上記の第1所定値Pbinit1よりも高い値である。水素タンク内圧力Pbが第2所定値Pbinit2を超えるまではステップ22、23の操作を続行する。一方、水素タンク内圧力Pbが第2所定値Pbinit2を超えるとステップ25、26に進みモータ37への通電を遮断してポンプ36を非作動とすると共に第3バルブ38を開く。
【0055】
この結果、第2所定値Pbinit2と第1所定値Pbinit1の差圧に応じた分だけ余分に水素が水素タンク6に貯溜される。つまり、余分に貯留した水素を、NOxトラップ触媒4の再生処理時に還元剤として用いることができることとになる。NOxトラップ触媒4の再生処理時に必要となる水素の量は、NOxトラップ触媒4の仕様と、どの程度の頻度で再生処理を行うかとにより定まるので、NOxトラップ触媒4の再生処理時に必要となる水素の量が水素タンク6内に余分に貯溜されるように第2所定値Pbinit2を設定する。そして、NOxトラップ触媒4の再生時期になれば、水素噴射弁22を開いて水素をNOxトラップ触媒4に供給する。
【0056】
このように、本実施形態(請求項1に記載の発明)によれば、NOxトラップ触媒4(触媒)と、相対的に高い圧力の条件で水素の吸蔵及び脱離を可逆的に行う第1水素吸蔵合金7を内部に有する水素タンク6(高圧容器)と、相対的に低い圧力で水素の吸蔵及び脱離を可逆的に行う第2水素吸蔵合金10を内部に有する低圧容器8とを通路15を介して連通すると共に当該通路15に当該通路15を開閉する第1バルブ21を設け、かつ低圧容器8をNOxトラップ触媒4上流の排気管2内に面するように突出して設けた熱輸送機器5と、水素タンク6内の水素の供給を受けてNOxトラップ触媒4上流の排気管2内に水素を噴射する水素噴射弁22と、改質器32(水素生成器)と、この改質器32で生成される水素を水素タンク6に供給する水素供給通路33と、この水素供給通路33を開閉する第2バルブ34と、エンジンの冷間始動時にNOxトラップ触媒4の活性化が促進されるように第1バルブ21と水素噴射弁22とを制御し、かつNOxトラップ触媒4の活性化後に、水素噴射弁22によって消費された水素が改質器32で生成される水素で補われるように第2バルブ34を制御するエンジンコントローラ41(制御手段)とを備えるので、少ない水素の消費量でかつ簡単なシステムでNOxトラップ触媒4を早期に活性化することができる。すなわち、水素吸蔵合金を熱輸送機器として用いた簡易的な加熱の分だけ水素の消費が抑えられ、かつ水素タンク6(高圧容器)に水素を蓄積するという目的と水素吸蔵合金を高圧で保つという2つの機能を併せ持たせることで、システムが簡素化されている。これによって、水素を用いる場合のシステムの複雑さと水素消費量の多さという従来の問題は解決されることになった。
【0057】
本実施形態(請求項2に記載の発明)によれば、エンジンの冷間始動時に第1バルブ21を開き、水素タンク6(高圧容器)側から低圧容器8側へ移動する水素を第2水素吸蔵合金10に吸蔵させることによってNOxトラップ触媒4が水素と反応を開始する温度に到達させるので(図3のステップ1、2参照)、水素は水素タンク6から低圧容器8へと移動するだけで消費されることがないことから、水素の消費なしでNOxトラップ触媒4を水素と反応を開始する温度に到達させることができる。
【0058】
本実施形態(請求項3に記載の発明)によれば、NOxトラップ触媒4が水素と反応を開始する温度に到達したとき水素噴射弁22を開いて水素を噴射するので(図3のステップ1、3参照)、NOxトラップ触媒4が水素と反応して水素を燃焼させるため、NOxトラップ触媒4の温度を急上昇させることができる。
【0059】
本実施形態(請求項4に記載の発明)によれば、水素タンク6内の圧力が改質器32(水素生成器)の出口圧力より低くなったときに第2バルブ34を開くので(図3のステップ6、7、8参照)、水素噴射弁22によって消費された水素を水素タンク6に補充できる。
【0060】
本実施形態(請求項5に記載の発明)によれば、触媒は排気の空燃比がリーン空燃比のときに排気中のNOxをトラップするNOxトラップ触媒4であり、このNOxトラップ触媒4の再生処理時に水素噴射弁22からの水素を還元剤として用いてこのNOxトラップ触媒4にトラップされているNOxを浄化するので、NOxトラップ触媒4の再生処理時に空燃比を理論空燃比やリッチ空燃比にする必要がない。
【0061】
本実施形態(請求項6に記載の発明)によれば、水素供給通路33にポンプ36を備え、NOxトラップ触媒4の活性化後にこのポンプ36を作動させて、NOxトラップ触媒4の再生処理に必要な水素の分だけ余分に水素タンク6に蓄えられるように、水素タンク6の圧力を高くするので(図4のステップ22、23、24参照)、NOxトラップ触媒4の再生処理を過不足なく行うことができる。
【0062】
本実施形態(請求項8に記載の発明)によれば、改質器32は、水素透過膜を備え、水素タンク6との差圧を利用して水素タンク6に水素を供給するので、水素生成に際して、昇圧ポンプが必要でないため(もしくは必要であるとしても非常に低出力の昇圧ポンプで済むため)、燃費への跳ね返りが非常に小さいといった効果が得られる。
【0063】
図5、図6は第2、第3の実施形態の排気浄化装置の概略構成図で、第1実施形態の図1と同一部分には同一番号を付している。図5に示したように、低圧容器8は、NOxトラップ触媒4の内部に設けてもよい。
【0064】
図6に示したように、改質器に代えて水素生成器51を設けることができる。水素生成器51としては、水の電気分解によって水素を得るもの、スチームアイアン法(アルミニウム、鉄、マグネシウムに水蒸気を吹き付けることによって水素を生成させる方法)によって水素を得るものが考えられる。
【0065】
さらに、低圧容器8の外面に三元触媒を塗布することが考えられる。低圧容器8によって、この三元触媒を活性化し、排気を浄化する(請求項9に記載の発明)。
【符号の説明】
【0066】
2 排気管
4 NOxトラップ触媒
5 熱輸送機器
6 水素タンク(高圧容器)
7 第1水素吸蔵合金
8 低圧容器
10 第2水素吸蔵合金
15 通路
21 第1バルブ
22 水素噴射弁
33 水素供給通路
34 第2バルブ
41 エンジンコントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気管に設けられエンジンからの排気を浄化する触媒と、
相対的に高い圧力で水素の吸蔵及び脱離を可逆的に行う第1水素吸蔵合金を内部に有する高圧容器と、相対的に低い圧力で水素の吸蔵及び脱離を可逆的に行う第2水素吸蔵合金を内部に有する低圧容器とを通路を介して連通すると共に当該通路を開閉する第1バルブを設け、かつ前記低圧容器を前記触媒上流の排気管内に面して設けた熱輸送機器と、
前記高圧容器内の水素の供給を受けて前記触媒上流の排気管内に水素を噴射する水素噴射弁と、
水素を生成する水素生成器と、
この水素生成器で生成される水素を前記高圧容器に供給する水素供給通路と、
この水素供給通路を開閉する第2バルブと、
エンジンの冷間始動時に前記触媒の活性化が促進されるように前記第1バルブと前記水素噴射弁とを制御し、かつ前記触媒の活性化後に、前記水素噴射弁によって消費された水素が前記水素生成器で生成される水素で補われるように前記第2バルブを制御する制御手段と
を備えることを特徴とする排気浄化装置。
【請求項2】
エンジンの冷間始動時に前記第1バルブを開き、前記高圧容器側から前記低圧容器側へ移動する水素を前記第2水素吸蔵合金に吸蔵させることによって前記触媒が水素と反応を開始する温度に到達させることを特徴とする請求項1に記載の排気浄化装置。
【請求項3】
前記触媒が水素と反応を開始する温度に到達したとき前記水素噴射弁を開いて水素を噴射することを特徴とする請求項2に記載の排気浄化装置。
【請求項4】
前記高圧容器内の圧力が前記水素生成器の出口圧力より低くなったときに前記第2バルブを開くことを特徴とする請求項1に記載の排気浄化装置。
【請求項5】
前記触媒は排気の空燃比がリーン空燃比のときに排気中のNOxをトラップするNOxトラップ触媒であり、このNOxトラップ触媒の再生処理時に前記水素噴射弁からの水素を還元剤として用いてこのNOxトラップ触媒にトラップされているNOxを浄化することを特徴とする請求項1に記載の排気浄化装置。
【請求項6】
前記水素供給通路にポンプを備え、
前記NOxトラップ触媒の活性化後にこのポンプを作動させて、前記NOxトラップ触媒の再生処理に必要な水素の分だけ余分に前記高圧容器に蓄えられるように、前記高圧容器の圧力を高くすることを特徴とする請求項5に記載の排気浄化装置。
【請求項7】
前記水素生成器はエンジンに使用する燃料と脱水素反応を行って水素を生成する改質器であることを特徴とする請求項1に記載の排気浄化装置。
【請求項8】
前記改質器は、水素透過膜を備え、
前記高圧容器との差圧を利用して前記高圧容器に水素を供給することを特徴とする請求項7に記載の排気浄化装置。
【請求項9】
前記低圧容器の外面に三元触媒を塗布することを特徴とする請求項1に記載の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−203335(P2010−203335A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50249(P2009−50249)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】