説明

教示点補正装置及び教示点補正方法

【課題】対象ワークの設置誤差に加えて形状誤差をも考慮した上で、作業ロボットの教示点を補正することのできる教示点補正装置及び教示点補正方法を提供する。
【解決手段】作業ロボット1に予め設定された基準教示点を、作業対象となる対象ワーク30bの状況に応じて補正する教示点補正装置である。教示点補正装置は、基準ワーク30a及び対象ワーク30bに設定された特徴点の位置と、基準ワーク30a及び対象ワーク30bの断面形状との計測が可能な2次元変位センサ3と、基準ワーク30aの特徴点の位置と対象ワーク30bの特徴点の位置とを比較することによって対象ワーク30bの設置誤差を演算すると共に、基準ワーク30aの断面形状と対象ワーク30bの断面形状とを比較することによって対象ワーク30bの形状誤差を演算する演算部5と、設置誤差及び形状誤差に基づいて基準教示点を補正する補正部6と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所謂ティーチングプレイバック方式を採用する作業ロボットにおいて、その教示点の位置を適正に補正することのできる教示点補正装置及び教示点補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のティーチングプレイバック方式を採用する作業ロボットは、予め教示した作業内容に基づいて所定の動作を行うようにされたものであり、全体のシステムが比較的簡易に構成できるという利点を有するために、現在幅広く使用されるに至っている。
【0003】
従来、このような作業ロボットの教示点補正装置としては、例えば次のようなものが存在する。即ち、この従来のものは、処理すべきワークの設置状態により生じるばらつきが距離センサにより測定され、この測定によって得られるデータと予め設定された基準データとから、ワークに生じている設置誤差が求められる。かかる設置誤差を考慮して、予め教示した作業ロボットの動作データが補正手段により補正され、補正後のロボット動作データが伝送手段によりロボット制御装置に伝送されて、教示点が補正される(特許文献1参照)。
【0004】
また、従来の教示点補正方法としては、特許文献2に示すようなものが存在する。これは、ワークを平面で切った時の断面の輪郭形状を検出できるセンサを使用したものであり、このセンサにより、先ず教示時及び再生時に於けるワークの輪郭形状が検出される。検出された輪郭線上には特徴点が設定されており、各時点に於ける特徴点の位置が比較される。これが一致しない場合は、その差分がワークの設置誤差として測定されることになる。かかる測定結果に基づいて、作業ロボットの教示点が補正される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−252381号公報
【特許文献2】特開2002−81927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来のものは、何れもワークを設置する際に生じた設置誤差を測定し、これに基づいて教示点を補正せんとするものであり、個々のワークが有する形状の相違や変形による誤差(以下、形状誤差という)については一切考慮されていない。例えば、ワークとしては断面略L字状やC字状の長尺ワークも存在するが、このようなワークは撓み、捩れ、開き等の変形が生じ易いという特性を有している。このようなワークについて各種の作業を正確に施す必要がある場合は、上記従来技術のように、単にワークの設置誤差に基づいて教示点を補正するだけでは不十分である。即ち、処理すべき個々のワークが有する形状誤差をも考慮して教示点を補正しなければ、ロボットによる各種作業を正確に行うことができない。
【0007】
それ故に、本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、対象ワークの設置誤差に加えて形状誤差をも考慮した上で、作業ロボットの教示点を補正することのできる教示点補正装置及び教示点補正方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る教示点補正装置は、作業ロボットに予め設定された基準教示点を、作業対象となる対象ワークに応じて補正する教示点補正装置であって、所定箇所に設置された補正の基準となる基準ワークと、前記基準ワークに代えて前記所定箇所に設置された対象ワークとを計測対象として、前記基準ワーク及び前記対象ワークに設定された特徴点の位置と、前記基準ワーク及び前記対象ワークの断面形状との計測が可能な、前記作業ロボットに設けられたセンサと、前記基準ワークの特徴点の位置と前記対象ワークの特徴点の位置とを比較することによって前記対象ワークの設置誤差を演算すると共に、前記基準ワークの断面形状と前記対象ワークの断面形状とを比較することによって前記対象ワークの形状誤差を演算する演算手段と、前記演算手段によって演算された設置誤差及び形状誤差に基づいて、前記基準教示点を補正する補正手段と、を備えたものである。
【0009】
上記教示点補正装置によれば、基準ワーク及び対象ワークの特徴点の位置の比較によって設置誤差が演算されると共に、断面形状の比較によって形状誤差が演算される。そして、補正手段によって、設置誤差だけでなく形状誤差をも考慮したうえで、基準教示点が補正される。したがって、従来よりも高度な教示点の補正が可能となる。なお、「特徴点の位置の比較」には、特徴点の位置そのものを比較することに限らず、複数の特徴点によって定められる点または線等を想定し、その点または線等同士を比較することも含まれる。即ち、特徴点を利用する比較のすべてが含まれる。「作業ロボット」とは、一般に種々のツールが装備されて、ワークに対して各種作業を行うことのできる機械をいう。
【0010】
前記基準ワーク及び前記対象ワークは、略L字状または略C字状のコーナー部を有する横断面形状を有する長尺物からなり、前記センサは、前記基準ワーク及び前記対象ワークの横断面形状を計測するように構成され、前記演算手段は、前記基準ワークの横断面形状と前記対象ワークの横断面形状とを比較することによって前記対象ワークの形状誤差を演算するものであってもよい。
【0011】
上記のような長尺物は、撓み、捩れ、開き等の変形が生じ易いという特性を有している。特に、長手方向と直交する断面(即ち、横断面)の形状が、長手方向に沿って変化しやすい。そのため、上述の通り、基準ワーク及び対象ワークの横断面形状を比較することによって、対象ワークの形状誤差を良好に求めることができる。上記のような長尺物を対象とする場合、本発明の効果は特に顕著に発揮される。
【0012】
前記基準ワーク及び前記対象ワークには、少なくとも長手方向に離れた複数の特徴点が設定され、前記演算手段は、前記基準ワーク及び前記対象ワークの所定の特徴点または前記複数の特徴点から定められる特定の点に関する位置の変化から、設置誤差の3自由度の平行移動成分を演算し、前記複数の特徴点から定められる直線の傾きの変化から、設置誤差の2自由度の回転成分を演算するものであってもよい。
【0013】
このことにより、設置誤差に関して、5自由度分の誤差が演算される。なお、残りの1自由度分の誤差は、横断面形状の形状誤差と一緒にまとめて補正することができる。そのため、上記により、対象ワークについての基準教示点を十分に補正することができる。
【0014】
前記センサは、2次元変位センサからなっていてもよい。
【0015】
このことにより、2次元変位センサによって、基準ワーク及び対象ワークの特徴点の位置と断面形状とが計測されることになる。
【0016】
本発明に係る教示点補正方法は、作業ロボットに予め設定された基準教示点を、作業対象となる対象ワークに応じて補正する教示点補正方法であって、補正の基準となる基準ワークを所定箇所に設置するステップと、前記基準ワークに設定された特徴点の位置を計測するステップと、前記基準ワークの所定の断面形状を計測するステップと、前記基準ワークに代えて対象ワークを前記所定箇所に設置するステップと、前記対象ワークに設定された特徴点の位置を計測するステップと、前記対象ワークの所定の断面形状を計測するステップと、前記基準ワークの特徴点の位置と前記対象ワークの特徴点の位置とを比較することによって、前記対象ワークの設置誤差を演算するステップと、前記基準ワークの前記断面形状と前記対象ワークの前記断面形状とを比較することによって、前記対象ワークの形状誤差を演算するステップと、前記設置誤差及び前記形状誤差に基づいて、前記基準教示点を補正するステップと、を備えた方法である。
【0017】
前記基準ワーク及び前記対象ワークは、略L字状または略C字状のコーナー部を有する横断面形状を有する長尺物からなり、前記基準ワーク及び前記対象ワークの前記断面形状を計測する各ステップは、前記基準ワーク及び前記対象ワークの横断面形状を計測する各ステップであり、前記形状誤差を演算するステップは、前記基準ワークの横断面形状と前記対象ワークの横断面形状とを比較することによって前記対象ワークの形状誤差を演算するステップであってもよい。
【0018】
前記基準ワーク及び前記対象ワークには、少なくとも長手方向に離れた複数の特徴点が設定され、前記設置誤差を演算するステップは、前記基準ワーク及び前記対象ワークの所定の特徴点または前記複数の特徴点から定められる特定の点に関する位置の変化から、設置誤差の3自由度の平行移動成分を演算し、前記複数の特徴点から定められる直線の傾きの変化から、設置誤差の2自由度の回転成分を演算するステップであってもよい。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、個々のワークが有している設置誤差及び形状誤差に応じて適正に作業ロボットの教示点を補正することのできる教示点補正装置及び教示点補正方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る教示点補正装置の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】(a)は基準ワークの斜視図、(b)は対象ワークの斜視図である。
【図3】補正治具の一実施形態を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図4】(a)及び(b)は基準教示点及び形状計測教示点を示す斜視図である。
【図5】基準教示点の補正方法のフローチャートである。
【図6】基準教示点の補正方法のフローチャートである。
【図7】(a)及び(b)は孔の中心たる特徴点を計測する手順を示す説明図である。
【図8】基準ワークと対象ワークとの間に生じている形状誤差を示す説明図である。
【図9】(a)は基準ワークのコーナー部を示す説明図、(b)は対象ワークのコーナー部を示す説明図である。
【図10】基準ワークと対象ワークとの間に生じている設置誤差を示す説明図である。
【図11】基準ワークと対象ワークとの間に生じている設置誤差を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について説明する。図1に示す作業ロボット1は、ティーチングプレイバック方式のロボットであり、所謂多自由度ロボットによって構成されている。作業ロボット1のアーム2には、2次元変位センサ3が取付けられている。2次元変位センサ3は、計測対象物(本実施形態ではワーク30)の断面形状を計測することのできるセンサである。本実施形態では、2次元変位センサ3として2次元レーザセンサを使用している。2次元レーザセンサは、計測対象物に帯状のレーザを照射し、その反射光をCCDで撮像することによって、計測対象物の断面形状を計測する非接触型センサである。ただし、2次元変位センサ3の種類は何ら限定されず、2次元レーザセンサ以外のセンサを使用しても構わない。アーム2には、ワーク30に対して所定の作業、例えば溶接や研磨等の作業を行うためのツール4が取付けられている。なお、2次元変位センサ3は、その光軸を一軸とする3次元直交座標系(X,Y,Z)、即ち、2次元変位センサ3の位置姿勢によって一義的に定まるセンサ座標系10に基づいて計測を行う。2次元変位センサ3によって計測される形状等は、センサ座標系10で表現することができる。これに対して、作業ロボット1に対しては、3次元直交座標系(X,Y,Z)(以下、「機械座標系」という)11が定義されている。作業ロボット1の各種作業は、機械座標系11に基づいて行われる。
【0022】
詳細は後述するが、本実施形態は、基準ワーク30aを基準として、対象ワーク30bに対する作業ロボット1の教示点を補正するものである。即ち、対象ワーク30bの設置位置及び形状が基準ワーク30aからどれだけずれているかを計測し、そのずれ量に応じて、作業ロボット1の教示点を補正するものである。図2(a)は基準ワーク30a、図2(b)は対象ワーク30bの一例を表している。図2(a)に示すように、本実施形態では基準ワーク30aは、断面略Lの字状に形成された長尺状の山形鋼からなっている。本実施形態では、基準ワーク30aの各フランジ部31a及びコーナー部34aには撓みや捩れ等の変形は殆んどなく、その開き角である2φは略直角となるように形成されているものとする。ただし、基準ワーク30aは、対象ワーク30bの比較の基準となるものに過ぎず、その形状及び寸法等が厳密に設計値通りである必要はない。、図2(b)に示す対象ワーク30bは、基本的には基準ワーク30aと略同様の形態からなるものの、基準ワーク30aと異なる形状誤差を有している。例えば、各フランジ部31bやコーナー部34bには、基準ワーク30aと異なる撓みや捩れ等の変形が生じている。また、コーナー部34bの開き角2φは、基準ワーク30aのコーナー部34aの開き角2φと若干相違している。
【0023】
基準ワーク30aの一方のフランジ部31a(ここでは、設置台(図示せず)に固定される方のフランジ部31a、すなわち、水平に延びるフランジ部31a)には、円形の孔32aが2個形成されている。これらの孔32aは、基準ワーク30aの長手方向に所定間隔を有して配設されている。対象ワーク30bの一方のフランジ部31bにも、同様の孔32bが形成されている。詳細は後述するが、本実施形態では、基準ワーク30a及び対象ワーク30bに特徴点を設定し、その特徴点を利用して対象ワーク30の設置誤差を算出する。本実施形態では、孔32aの中心33aと孔32bの中心33bとを特徴点とする。ただし、特徴点は孔32a、32bの中心33a、33bに限定されるものではなく、任意に設定することができる。また、孔32a、32bは円形の孔に限らず、角孔であってもよく、角孔の中心を特徴点としてもよい。また、孔に限らず、例えば各ワーク30a、30bのフランジ部31a、31bに予め凸状部(図示せず)を形成しておき、その凸状部の中心を特徴点としてもよい。
【0024】
本実施形態では、設置誤差の算出のために、図3に示すような補正治具40を用いる。補正治具40は、各ワーク30a、30bの孔32a、32bに嵌め込まれる。補正治具40は、一定の半径Rを有して半真球状に形成された半球部41と、半球部41の底面中央に突設された円筒状の固定部42とからなっている。固定部42の直径Dは、孔32a、32bの内径dと略同一に設定されている。半球部41の中心Pは、孔32a、32bの中心33a、33bと一致している。また、固定部42の軸心Sは、半球部41の中心P及び孔32a、32bの中心33a、33bを通るように設定されている。なお、以下では便宜上、センサ座標系10から見た中心PをP´、機械座標系11からみた中心PをP″と表記することとする。
【0025】
作業ロボット1には、複数の基準教示点が設定されている。ここでは、図4に示すように、起立したフランジ部31a、31bの外側(図4(a)の右側)に設定される複数の基準教示点をTとし、起立したフランジ部31aの内側且つ水平なフランジ部31aの上側に設定される複数の基準教示点をUと称することとする。なお、図4では、ワーク30a、30bの長手方向に沿って並ぶ3つの基準教示点T、Uしか図示していないが、実際には、基準教示点T、Uはワーク30a、30bの表面の全域にわたって設定されている。例えば、複数の基準教示点が長手方向に沿って配列されてなる基準教示点列が、上下に複数列設定されている。ただし、基準教示点は、ワーク30a、30bの形状等に応じて適宜設定することができる。また、詳細は後述するが、本実施形態では、対象ワーク30bの形状誤差を計測するために、形状計測教示点T′、U′を用いる。形状計測教示点T′、U′は基準教示点T,Uと一致していてもよく、異なっていてもよい。ここでは、形状計測教示点T′、U′は、基準教示点T、Uと異なっており、それぞれ基準教示点T、Uの近傍の位置に設定されている。
【0026】
図1に示すように、作業ロボット1には制御装置7が設けられている。制御装置7は作業ロボット1に内蔵されていてもよいが、本実施形態では、作業ロボット1の外部に配置されたパーソナルコンピュータによって構成されている。このように、制御装置7は、作業ロボット1の内部にあっても外部にあってもよく、また、専用の装置に限らず、汎用的な装置であってもよい。制御装置7は、演算部5と、記憶部8と、演算部5の演算結果に基づいて基準教示点T、Uを補正する補正部6とを備えている。演算部5、記憶部8及び補正部6が行う具体的な処理については後述する。
【0027】
作業ロボット1または制御装置7は、機械座標系11からみたセンサ座標系10の位置姿勢(X,Y,Z,α,β,γ)、即ち機械座標系11からみた2次元変位センサ3の位置姿勢情報を取得する機能を有している。ここで、「X,Y,Z」は、機械座標系11からみたセンサ座標系10の原点位置情報であり、「α,β,γ」は、機械座標系11からみたセンサ座標系10の姿勢情報である。なお、「α,β,γ」はZ−Y−Z系のオイラー角で表される。ただし、上記原点位置情報及び上記姿勢情報の表記方法は、これらに限定されるものではない。
【0028】
本実施形態に係る教示点補正装置は、以上のように構成されている。次に、作業ロボット1の基準教示点T、Uを補正する方法について説明する。図5及び図6は、本実施形態に係る補正方法のフローチャートである。本補正方法は、対象ワーク30bの設置誤差だけでなく、形状誤差をも考慮したものである。
【0029】
始めに、ステップS11において、設置台の上に基準ワーク30aを設置する。次に、ステップS12において、基準ワーク30aを対象として基準教示点T、U(図4参照)を作成する。なお、基準教示点T、Uは、オペレータが制御装置7を用いて手動で作成してもよく、予め定められたプログラムに従って制御装置7自体が自動的に作成してもよい。作成された基準教示点T、Uは、制御装置7の記憶部8に記憶される。次に、ステップS13に進み、基準ワーク30aを対象として、形状測定教示点T´、U´(図4参照)を作成する。形状測定教示点T´、U´についても、手動で作成されてもよく、自動的に作成されてもよい。作成された形状測定教示点T´、U´も、制御装置7の記憶部8に記憶される。
【0030】
次に、ステップS14において、以下のようにして基準ワーク30aの特徴点(以下、基準特徴点という)を測定する。前述したように、基準ワーク30aの孔32aには、補正治具40が嵌め込まれている。図3に示すように、固定部42の軸心Sは補正治具40の半球部41の中心Pを通るので、孔32aの中心33aは、基準ワーク30aの上面を含む平面上において、半球部41の中心Pと一致する。従って、半球部41の中心Pを求めることは、基準特徴点たる孔32aの中心33aの位置を求めることとなる。そのため、ここでは基準特徴点として、中心Pの位置を求める。
【0031】
具体的には、作業ロボット1のアーム2を半球部41の上方位置に移動させた後、2次元変位センサ3により、半球部41の断面形状を計測する。そして、これを断面情報として、制御装置7の記憶部8に記憶させる。
【0032】
なお、前述したように、本実施形態では2次元変位センサ3として、2次元レーザセンサを用いている。2次元変位センサ3によるレーザの照射は、半球部41の一箇所について1度だけ行えばよく、しかも半球部41に対して任意の角度で照射すればよい。そのため、一連の検出作業を煩雑化せしめるようなことはなく、効率的に作業を行うことができる。また、レーザが照射可能な範囲内にあれば、基準ワーク30aは作業ロボット1に対してどのように配置されていてもよく、この手法は柔軟に幅広く適用できるという利点がある。
【0033】
更に、2次元変位センサ3によるレーザの照射は、基準ワーク30aの孔32aに対して直接行われるのではなく、孔32aに固定した補正治具40の半球部41に対して行われる。これによれば、レーザの光軸方向と平行な部位における検出精度に欠けるとされている2次元変位センサ3の欠点を適切に補完しつつ、半球部41の断面形状を精度良く的確に計測することができる。その結果、基準特徴点である孔32aの中心33aの検出精度が向上することになる。
【0034】
前記断面情報は、図7(a)に示すように、センサ座標系10の原点Oを基準とするものであり、Y−Z平面において、半球部41から取得した円弧部50の曲線上にある複数の座標点(y,z)からなっている。演算部5は、かかる断面情報から、円の最小二乗法や後述する三平方の定理等を用いて、センサ座標系10からみた半球部41の中心P′の座標(a,b,c)を算出する。なお、以下に説明する各演算は、全てこの演算部5により行われる。
【0035】
−Z平面において、中心座標(b,c)、半径rからなる円の一般式は、(Y−b)+(Z−c)=rで表される。先ず、この円の方程式の最小二乗法を用いて、下記の式からA、B、Cの値を求める。
【数1】

【0036】
これにより得られるA、B、Cは、A=−2a、B=−2b、C=a+b−rという関係を有している。これらにより、センサ座標系10からみた半球部41の円弧部50の中心(b,c)と半径rとが算出される。
【0037】
次に、半球部41の中心P′(a,b,c)のX軸成分aを演算する。図7(b)に示すように、センサ座標系10のX−Z平面に着目すると、X軸成分aは円弧部50の半径rと、既知である半球部41の半径Rとから、三平方の定理a=R−rで求めることができる。
【0038】
このようにして、センサ座標系10における半球部41の中心P′(a,b,c)が算出される。次に、半球部41の中心Pに関して、センサ座標系10から機械座標系11への座標変換を行う。即ち、センサ座標系10における中心P′(a,b,c)から、機械座標系11における中心P″(a´,b´,c´)を演算する。具体的には、前述のようにして得られたセンサ座標系10からみた半球部41の位置情報(a,b,c)と、作業ロボット1が取得した、機械座標系11からみたセンサ座標系10の位置姿勢(X,Y,Z)とから、以下の式により、機械座標系11からみた半球部41の中心P″の位置(a´,b´,c´)が算出される。
【数2】

【0039】
ここで、R、Rは、それぞれY軸回り、Z軸回りの回転行列である。このようにして求められた半球部41の中心P″が、基準ワーク30aの上面を含む平面上における孔32aの中心として検出されることになる。これにより、基準ワーク30aの孔32aの中心33aの位置を、機械座標系の座標値で表すことができる。
【0040】
次に、同様にして、基準ワーク30aの他方の孔32aの中心33aの座標を求める。以下、このようにして求められた基準ワーク30aの一方の孔32aの中心33aを座標(A1,A1,A1)、他方の孔32aの中心33aを座標(B1,B1,B1)で表すこととする(図10参照)。これら基準特徴点の位置は、記憶部8に記憶される。以上がステップS14における処理である。
【0041】
次に、ステップS15に進み、形状測定教示点T´、U´において、基準ワーク30aの2次元断面形状を測定する。形状測定教示点T´においては、図8に示すように、2次元変位センサ3によって、起立しているフランジ部31aの断面形状に関する情報(以下、断面情報という)を取得する。かかる断面情報は、z=ay+bという直線を表す式の形で表される。定数a、bは、最小二乗法を用いて求められる。形状測定教示点U´においては、図9に示すように、2次元変位センサ3によって、両フランジ部31aとコーナー部34aの断面情報を取得する。起立しているフランジ部31a、水平なフランジ部31aの断面情報は、それぞれ直線L1、L2を表す式の形で取得される。直線L1及び直線L2は、上述と同様の方法によって求められる。一方、コーナー部34aの断面情報は、直線L1及び直線L2に内接する内接円の中心V(y,z)と半径rとで表される。なお、ここでは、基準教示点Uは内接円の中心Vとほぼ一致している。また、基準教示点Uはコーナー部34aの中心に位置しており、直線L1及び直線L2の2等分線M上に位置している。コーナー部34aは、上記内接円上に位置する点群(y2i,z2i)で表現することができる。
【0042】
内接円の中心(y,z)は、以下の式で表される。
【数3】

ここで、a,b,a、bは、直線L1及びL2より定まる定数である。一方、円の方程式は、(Y−y+(Z−z=rで表される。そこで、下式が最小となるrを求め、このrを上式に代入することによって、内接円の中心(y,z)を算出することができる。
【数4】

【0043】
このようにして算出された基準ワーク30aの断面情報は、記憶部8に記憶される。以上がステップS15における処理である。ステップS14及びステップS15によって、基準の設置位置及び形状が計測されたことになる。
【0044】
次に、ステップS16において、設置台から基準ワーク30aを取り外し、代わりに対象ワーク30bを設置する。即ち、ワークを対象ワーク30bに交換する。
【0045】
次に、ステップS17に進み、対象ワーク30bの特徴点(以下、対象特徴点という)を測定する。前述したように本実施形態では、対象ワーク30bの孔32bの中心33bが対象特徴点となる。対象特徴点の具体的な測定方法は、基準ワーク30aの基準特徴点の測定方法(ステップS14参照)と同様であるので、ここではその説明は省略する。以下、対象ワーク30bの一方の孔32bの中心33bを座標(A2,A2,A2)、他方の孔32bの中心33bを座標(B2,B2,B2)で表すこととする(図10参照)。
【0046】
次に、ステップS18に進み、演算部5が対象ワーク30bの設置誤差を演算する。設置誤差は、図10に示す平行移動成分Δxyzと、図10に示すZ軸回りの回転成分θと、図11に示すY軸回りの回転成分θxyとによって表すことができる。なお、θxyは、X−Y平面に対する傾斜角度に関する成分と言うこともできる。図10において、点35aは基準ワーク30aの両孔32aの中心33a同士の中間点を表し、点35bは対象ワーク30bの両孔32bの中心33b同士の中間点を表している。平行移動成分Δxyz(x,y,z)は、点35aと点35bとの位置の差を演算することによって求められる。このように、平行移動成分Δxyzを算出する際には、特徴点そのものでなく、特徴点から定められる特定の点を利用してもよい。なお、このような特定の点は上記中間点35a、35bに限定される訳ではなく、任意に設定することができる。もちろん、特徴点そのものを利用して平行移動成分Δxyzを算出するようにしてもよい。
【0047】
以上のような5自由度の各補正量は、以下の各式から求められる。
【数5】

【数6】

【0048】
以上の演算結果は、演算部5から補正部6に送られる。補正部6は、上記演算結果に基づいて、基準教示点T、Uの設置誤差を補正し(ステップS19)、形状測定教示点T´、U´の設置誤差を補正する(ステップS20)。具体的には、基準教示点T、U及び形状測定教示点T´、U´を平行移動成分Δxyz(x、y、z)だけ移動させ、且つ、回転成分θ及びθxyだけ中間点35b回りに回転させる。
【0049】
次に、ステップS21に進み、設置誤差の補正を行った後の形状測定教示点T´、U´において、対象ワーク30bの2次元断面形状の測定を行う。なお、対象ワーク30bの2次元断面形状の測定は、基準ワーク30aの2次元断面形状の測定(ステップS15参照)と同様である。形状測定教示点T´における測定(図8参照)では、起立しているフランジ部31bの断面情報は、z=ay+bという形で表される。定数a、bは、最小二乗法を用いて求められる。形状測定教示点U´における測定(図9(b)参照)では、直線L1´及びL2´と、それらに内接する内接円の中心V´及びその半径r´が求められる。
【0050】
次に、ステップS22に進み、演算部5が対象ワーク30bの形状誤差を演算する。即ち、演算部5は、記憶部8に記憶されている基準ワーク30aの形状と、測定された対象ワーク30bの形状とを比較し、その差を形状誤差として算出する。
【0051】
具体的には、起立したフランジ部31bについては、下記の式によって、形状誤差(Δy,Δz,θ)が求められる。ここで、θ=arctan(a)、θ=arctan(a)である。
【数7】

【0052】
なお、このようにして求められた形状誤差は、センサ座標系10からみたものである。そのため、補正部6は、この形状誤差を機械座標系11の形状誤差に変換する。機械座標系11からみた形状誤差、言い換えると較正量(Δx´,Δy´,Δz´)は、下記の式にて表される。
【数8】

ここで、R、Rは、それぞれY軸回り、Z軸回りの回転行列である。較正角度θは変換せずにそのまま用いることとする。
【0053】
コーナー部34bの形状誤差は、図9(b)に示すように、位置成分変化量Δyz(Δy,Δz)と姿勢変化量θとで表される。ここでは、位置成分変化量Δyz(Δy,Δz)は、基準ワーク30aの内接円の中心Vと、対象ワーク30bの内接円の中心V´との間の移動量によって求められる。姿勢変化量θは、基準ワーク30aの直線L1及びL2の2等分線Mと、対象ワーク30bの直線L1´及びL2´の2等分線M´との間の変化量によって求められる。なお、φは直線L1と直線L2との間の2等分角であり、φは直線L1´と直線L2´との間の2等分角である。
【0054】
このようにして求められた形状誤差も、センサ座標系10からみたものである。そのため、補正部6は、この形状誤差を機械座標系11の形状誤差に変換する。機械座標系11からみた形状誤差、言い換えると較正量(Δx´,Δy´,Δz´)は、下記の式にて表される。
【数9】

ここで、R、Rは、それぞれY軸回り、Z軸回りの回転行列である。較正角度θは変換せずにそのまま用いることとする。
【0055】
以上のようにして、対象ワーク30bの形状誤差が算出される。なお、設置誤差に関する残りの1自由度の誤差は、形状誤差の補正と一緒にまとめて補正されることになる。ステップS22の後はステップS23に進み、補正部6は、機械座標系11からみた形状誤差を補正後の教示点(ステップS19参照)に加えることにより、対象ワーク30bの補正後の教示点を算出する。これが、対象ワーク30bに対して作業を行う際の作業ロボット1の教示点となる。本補正の終了後、補正後の基準教示点に基づいて作業ロボット1が作動し、ツール4によって対象ワーク30bに所定の作業が行われる。
【0056】
なお、設置誤差または形状誤差が予め設定されている公差の範囲内である場合は、特に補正をする必要はない。前述の各補正は、対象ワーク30bに応じて適宜に実行してもよい。
【0057】
以上のように、本実施形態によれば、形状誤差を演算することができるので、設置誤差を従来よりも正確に求めることができる。また、設置誤差及び形状誤差の両方を考慮した上で基準教示点を補正することができるので、作業ロボット1による対象ワーク30bに対する各種作業を、より的確に行うことが可能となる。即ち、従来は、形状誤差がある対象ワーク30bの場合、形状誤差の影響が設置誤差に含まれてしまい、設置誤差を正確に特定することができなかった。また、そもそも形状誤差を考慮することができなかった。しかし、本実施形態によれば、より正確に特定できた設置誤差に加えて、形状誤差をも考慮することができるので、基準教示点を高度に補正することができる。
【0058】
また、本実施形態に係る補正作業は一連の作業が簡易であるために、ツール4による本来の作業に支障を与えるようなこともなく、効率良く迅速に行うことができる。
【0059】
更に、本実施形態に係る教示点補正装置は、全体が簡易に構成されているために、その製作も容易に且つ安価に行えるという実用的な利点もある。
【0060】
なお、対象ワーク30bの設置誤差及び形状誤差を求める具体的手段は、上記実施形態のものに限られるものではない。要は、2次元変位センサ3により計測された各ワーク30a、30bの位置及び断面形状に関する情報に基づいて、誤差が求められるものであればよい。
【0061】
上記実施形態では、単一の2次元変位センサ3によって、特徴点の位置及び断面情報を取得することとしていた。しかし、特徴点の位置を他のセンサで検出することも可能である。
【0062】
また、作業ロボット1に設定される基準教示点T、Uの具体的な位置や方向等は一切問うものではなく、これらは例えば対象ワーク30bに対して作業を行うツール4の種類や形状等に応じて適宜変更される。
【0063】
更に、本発明が適用可能なワーク30の種類は、決して上記実施形態の如き断面略Lの字状に形成された長尺状の山形鋼に限定されるものではない。例えば、断面略Cの字状に形成された長尺状の溝形鋼は勿論のこと、その他種々の形状を有するワーク30に対して幅広く適用可能である。ただし、本発明に係る教示点補正装置や補正方法は、形状誤差についても補正するものであるために、一般に変形が生じ易いとされる、前記断面略Lの字状又はCの字状の長尺ワークに対して、特に好適である。
【0064】
その他、作業ロボット1の各部の具体的な構成も、本発明の意図する範囲内において任意に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0065】
1 作業ロボット
3 2次元変位センサ(センサ)
5 演算部(演算手段)
6 補正部(補正手段)
8 記憶部
30a 基準ワーク
30b 対象ワーク
31a、31b フランジ部
34a、34b コーナー部
T、U 基準教示点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業ロボットに予め設定された基準教示点を、作業対象となる対象ワークに応じて補正する教示点補正装置であって、
所定箇所に設置された補正の基準となる基準ワークと、前記基準ワークに代えて前記所定箇所に設置された対象ワークとを計測対象として、前記基準ワーク及び前記対象ワークに設定された特徴点の位置と、前記基準ワーク及び前記対象ワークの断面形状との計測が可能な、前記作業ロボットに設けられたセンサと、
前記基準ワークの特徴点の位置と前記対象ワークの特徴点の位置とを比較することによって前記対象ワークの設置誤差を演算すると共に、前記基準ワークの断面形状と前記対象ワークの断面形状とを比較することによって前記対象ワークの形状誤差を演算する演算手段と、
前記演算手段によって演算された設置誤差及び形状誤差に基づいて、前記基準教示点を補正する補正手段と、
を備えた教示点補正装置。
【請求項2】
前記基準ワーク及び前記対象ワークは、略L字状または略C字状のコーナー部を有する横断面形状を有する長尺物からなり、
前記センサは、前記基準ワーク及び前記対象ワークの横断面形状を計測するように構成され、
前記演算手段は、前記基準ワークの横断面形状と前記対象ワークの横断面形状とを比較することによって前記対象ワークの形状誤差を演算する、請求項1に記載の教示点補正装置。
【請求項3】
前記基準ワーク及び前記対象ワークには、少なくとも長手方向に離れた複数の特徴点が設定され、
前記演算手段は、前記基準ワーク及び前記対象ワークの所定の特徴点または前記複数の特徴点から定められる特定の点に関する位置の変化から、設置誤差の3自由度の平行移動成分を演算し、前記複数の特徴点から定められる直線の傾きの変化から、設置誤差の2自由度の回転成分を演算する、請求項2に記載の教示点補正装置。
【請求項4】
前記センサは、2次元変位センサからなっている、請求項1〜3のいずれか一つに記載の教示点補正装置。
【請求項5】
作業ロボットに予め設定された基準教示点を、作業対象となる対象ワークに応じて補正する教示点補正方法であって、
補正の基準となる基準ワークを所定箇所に設置するステップと、
前記基準ワークに設定された特徴点の位置を計測するステップと、
前記基準ワークの所定の断面形状を計測するステップと、
前記基準ワークに代えて対象ワークを前記所定箇所に設置するステップと、
前記対象ワークに設定された特徴点の位置を計測するステップと、
前記対象ワークの所定の断面形状を計測するステップと、
前記基準ワークの特徴点の位置と前記対象ワークの特徴点の位置とを比較することによって、前記対象ワークの設置誤差を演算するステップと、
前記基準ワークの前記断面形状と前記対象ワークの前記断面形状とを比較することによって、前記対象ワークの形状誤差を演算するステップと、
前記設置誤差及び前記形状誤差に基づいて、前記基準教示点を補正するステップと、
を備えた教示点補正方法。
【請求項6】
前記基準ワーク及び前記対象ワークは、略L字状または略C字状のコーナー部を有する横断面形状を有する長尺物からなり、
前記基準ワーク及び前記対象ワークの前記断面形状を計測する各ステップは、前記基準ワーク及び前記対象ワークの横断面形状を計測する各ステップであり、
前記形状誤差を演算するステップは、前記基準ワークの横断面形状と前記対象ワークの横断面形状とを比較することによって前記対象ワークの形状誤差を演算するステップである、請求項5に記載の教示点補正方法。
【請求項7】
前記基準ワーク及び前記対象ワークには、少なくとも長手方向に離れた複数の特徴点が設定され、
前記設置誤差を演算するステップは、前記基準ワーク及び前記対象ワークの所定の特徴点または前記複数の特徴点から定められる特定の点に関する位置の変化から、設置誤差の3自由度の平行移動成分を演算し、前記複数の特徴点から定められる直線の傾きの変化から、設置誤差の2自由度の回転成分を演算するステップである、請求項6に記載の教示点補正方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2011−183535(P2011−183535A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53923(P2010−53923)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000002358)新明和工業株式会社 (919)
【Fターム(参考)】