説明

施肥装置付乗用田植機

【課題】 本発明の課題は、機体の前後長を長くすることなくコンパクト化を図って、低重心で機体の安定性を維持し得る施肥装置付小型乗用田植機を具現することにある。
【解決手段】 本発明は、運転席(7)の後側で苗タンク(30)の前側に設けた施肥装置5のエアチャンバ(45)を各条の肥料繰出部(41)の繰出口(43)より後側に設け、エアチャンバ(45)から屈曲パイプ(46)を介して前側から各条の肥料繰出口(43)へ圧力風を供給し、後方の肥料移送ホース(44)へ肥料を移送すべく構成してあることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、肥料等の粉粒体を圃場に施用する施肥装置付乗用田植機に関し、農業機械の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、ホッパ内の粉粒状肥料をその下側に設けた繰出部によって繰り出し、繰り出された粒状肥料をエアによって圃場まで搬送して施肥する施肥装置を備えた乗用田植機において、この種施肥装置のエアチャンバは各条の肥料繰出口より前方に配置された構成のものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−81099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
かかる従来技術によると、各条の肥料繰出口より前側にエアチャンバが位置しているので、エアチャンバが邪魔になり、肥料ホッパと肥料繰出部とを機体の後方側寄り位置に配置せざるを得ず、機体の前後長が長くなる問題があった。
【0004】
本発明の課題は、機体の前後長を長くすることなくコンパクト化を図って、低重心で機体の安定性を維持し得る施肥装置付小型乗用田植機を具現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、上記課題を解決すべく次のような技術的手段を講じた。
すなわち、請求項1記載の本発明は、運転席(7)の後側で苗タンク(30)の前側に設けた施肥装置5のエアチャンバ(45)を各条の肥料繰出部(41)の繰出口(43)より後側に設け、エアチャンバ(45)から屈曲パイプ(46)を介して前側から各条の肥料繰出口(43)へ圧力風を供給し、後方の肥料移送ホース(44)へ肥料を移送すべく構成してあることを特徴とする。
【0006】
各条の肥料繰出口(43)より後側にエアチャンバ(45)が位置するので、エアチャンバ(45)が邪魔になることなく肥料ホッパ(40)と肥料繰出部(41)とを機体の前寄りの位置に配置できて肥料ホッパ(40)が苗タンク(30)と干渉しない位置に配置でき、機体のコンパクト化が図れる。また、エアチャンバ(45)を車体カバー(9)後端より後側に位置させることができて車体カバーより低位に配置でき、ひいては施肥装置(5)全体を低位置に配置できて機体の低重心化が図れる。
【発明の効果】
【0007】
以上要するに、本発明によれば、各条の肥料繰出口(43)より後側にエアチャンバ(45)が位置するので、エアチャンバが前側にある場合のように邪魔になることがなく、肥料ホッパ(40)と肥料繰出部(41)とを機体の前寄りの位置に配置できて肥料ホッパ(40)が苗タンク(30)と干渉しない位置に配置でき、機体の前後長を短くしコンパクト化を図ることができる。また、エアチャンバ(45)を車体カバー(9)後端より後側に位置させることができて車体カバーより低位に配置でき、ひいては施肥装置全体を低位置に配置できて機体の低重心化が図れ、安定性のある小型の施肥装置付乗用田植機を具現し得た。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
この発明の実施例を図面に基づき説明する。
図1及び図2は、施肥装置を備えた乗用型田植機1を示すもので、この乗用型田植機1は、走行車体2の後側に昇降リンク機構3介して4条植の苗植付部4が昇降可能に装備され、走行車体2の後部上側に施肥装置5の本体部分が設けられている。
【0009】
走行車体2は、走行車輪としての左右一対の前輪10,10及び後輪11,11が架設されてあり、機体の前部にミッションケ−ス12が配置されている。
原動機となるエンジンEからの回転動力がベルト伝動機構20を介してミッションケ−ス12内のミッションに伝達される。該ケ−ス内のミッションに伝達された回転動力は、ケ−ス12内のトランスミッションにて変速された後、走行動力と外部取出動力とに分離して取り出される。そして、走行動力は、前輪10,10及び後輪11,11を駆動する。また、外部取出動力は、苗植付部4と施肥装置5へ伝動される。なお、14はエンジンEのエアクリーナを示す。
【0010】
エンジンEの上部は車体カバ−9で覆われており、その上方に運転席7が設置されている。運転席7の前方には各種操作機構を内装するフロントカバー21及び操作ボックス22が設置されてあり、その上方に左右の前輪10,10を操向操舵するステアリングハンドル8が設けられている。車体カバー9及びフロントカバー21の下端両側は水平状のフロアステップ23となっている。フロアステップ23の後部は、後輪11のフェンダを兼ねるリヤステップ24となっている。また、フロアステップ23よりやや下方で運転席7の両側方に対応する部位には乗降用補助ステップ25が設けられ、前記リヤステップ24には苗補給時に足を置く苗補給用ステップ26が開口して設けられている。走行車体2の前部左右両側には、補給用の苗を載せておく予備苗載台27が設置されている。
【0011】
苗植付部4は、機体に対し油圧昇降シリンダ6を介して昇降する構成であり、マット苗を載せて左右に往復動し苗を一株分づつ各条における前板30aの苗取出口30b,…に供給すると共に横一列の苗を全て苗取出口30b,…に供給すると苗送りベルト30c,…により苗を下方に移送する苗タンク30、植付具31で一株分の苗を切取って土中に植込む4条分の苗植付装置32、左右一対の線引マ−カ33,33、苗植付面を整地するセンタ−フロ−ト34及びサイドフロ−ト35,35等を備えた構成としている。なお、36は前板ガードを示す。
【0012】
施肥装置5は、苗植付部4の前方で、運転席7後側の左右両側に設けられていて、粒状肥料を貯溜するホッパ40内の肥料を肥料繰出部41,…によって繰出ロート42下端の繰出口43から一定量づつ繰り出し、その繰り出された肥料をブロア−47から供給されるエアによって肥料移送ホ−ス44,…を通ってフロ−ト34,35,35の左右両側に設けられた施肥ガイドまで移送し、施肥ガイドの前側に設けた作溝体によって苗植付条の側部近傍に形成される施肥溝内に落し込むようになっている。エンジンEから駆動ベルト51を介して駆動されるブロア47は、吸込口48より吸い込まれて発生する圧力風を左右方向に長いエアチャンバ45から屈曲パイプ46(46a,46b,46c,46d)を経由して肥料移送ホ−ス44,…内に吹き込み、肥料移送ホ−ス44,…内の肥料を苗植付部側の肥料吐出口へ強制移送するようになっている。
【0013】
図例に示すように、ホッパ40は、上部に開閉可能な蓋40aが設けられ、横軸芯Qを支点としてホッパの前側に開閉できるようにして、後方の苗タンク30との干渉を防ぐ構成としている。
【0014】
肥料繰出部41は、ホッパ40内の肥料を下方に繰り出す繰出ロ−ル55を内装してあり、この繰出ロ−ルは、外周部に肥料が入り込む複数個の繰出溝56…が形成され、繰出駆動軸57を介して連動回転駆動されるようになっている。繰出ロール55が回転することにより、ホッパ40から落下供給される肥料が溝56に収容されて下方に搬送され、繰出ロート42下端の繰出口43から繰り出される。繰出ロ−ト42前面側には残留肥料を取り出す場合の取出口58とこの取出口を開閉する揺動開閉可能な開閉蓋59が設けられ、開放時には開閉蓋59と後輪11のリヤステップ(フェンダ)24とが平行するようになっていて、肥料袋のセットが容易にでき、残留肥料の回収容易化を図るようにしている。
【0015】
また、各繰出ロート42(42a,42b及び42c,42d)は左右の後輪11,11を跨がるように左右略均等に振り分けて配置している。運転席7左側の左右繰出部41,41と、運転席7右側の左右繰出部41,41とは、繰出部支持フレーム60,60によってそれぞれ強固に連結保持され、そして、この繰出部支持フレーム60,60は、前記57の軸受部61aを兼ねた軸受支持ステー61を介して車体フレーム13に連結支持されている。
【0016】
エアチャンバ45は、繰出ロート42の後側に配置され、左右横方向に長く構成されている。繰出部41の繰出口43には、エアチャンバ45に連通する屈曲パイプ46の前端が接続され、この屈曲パイプ46の後端に前記肥料移送ホ−ス44,…の端部が接続されている。図4に示す実施例では、このエアチャンバ45を運転席7を挟む左右両側の繰出ロート42b,42c間に介在位置させると共に、エアチャンバと繰出ロートを上下方向にラップさせた構成としている。このため、施肥部の地上高を下げることが可能となり、低重心の施肥装置が構成可能となる。また、エアチャンバ45から各繰出ロート42,…間の屈曲パイプ46a,46b,46c,46dの長さが同一となるようエアチャンバの送風口を配列設定することで、風力を略一定圧にでき風量のバラツキを防止できる。また、図5に示すように、エアチャンバ45を最外側に位置する繰出ロート42aと42dの外方位置まで横方向に長く構成し、エアチャンバ45から各繰出ロート42a,42b,42c,42dへの屈曲パイプ46a,46b,46c,46dをU字状に湾曲させた状態て連通構成するものであっても、各屈曲パイプの長さが同一となり、風圧のバラツキを極減することができる。また、エアチャンバ45は、ホッパ40前端より後側で平面視で該ホッパ40と重複する位置に配置されているので、ホッパ40、繰出部41及びエアチャンバ45を含む施肥装置5の前後幅の縮小化が図れる。
【0017】
ブロア47は、施肥装置5の下方で、車体カバー9の後側に位置させて設け、且つ、リヤステップ24の下方に配置した構成としている。これによれば、施肥装置の幅が狭くなり、コンパクトに構成することができる。また、機体の前後長さも短くすることができる。更に、図例のようにブロアの吹出口を上側に向けた構成とすることで、送風パイプを短くでき、送風効率を高めることができる。ブロア吸込口48の地面からの高さをエンジンEのエアクリーナ14の吸込口の高さ近くまで下げた構成とすることで、重心をできるだけ下方に下げることができる。
【0018】
苗タンクの前側下方に設置してある苗送りアーム37と肥料移送ホース44との関係において、従来は、苗送りア−ムを肥料移送ホース間で移動させるようにしたり、また、苗送り作動時でも肥料移送ホースと苗送りアームが側面視でラップしないようにしていたが、本例では、図9に示すように、苗送り時以外(苗送り非作動時)では苗送りアーム37と肥料移送ホース44は側面視でラップせず(実線(イ)の状態)、苗送り時(苗送り作動時)では肥料移送ホース44が苗送りアーム37とラップ(仮想線(ロ)の状態)するように位置させ、平面視において、苗送りは苗送りアームが肥料移送ホースの背面を通過した後に行うようにし、肥料移送ホースと苗送りアームとの干渉を回避しつつ、肥料移送ホースを苗タンク側にできるだけ近づけた構成としている。
【0019】
図10に示す実施例では、4条植田植機の肥料移送ホースの配置関係において、内側の肥料移送ホース44a,44aは、苗タンク30を支持する縦フレーム38よりも前方に配置し、外側の肥料移送ホース44b,44bは、縦フレーム38より後方で後輪11,11の後方に位置させている。特に、外側の移送ホースは後輪から遠ざけることにより、植付部を本機側に近づけることができ、機体前後長の短縮、並びに前後バランスの向上が図れる。
【0020】
なお、図示のように、肥料移送ホース44に設けてある肥料詰まり時のエア抜き用蓋49は、内側の肥料移送ホース44aにはエア抜き用蓋49を機体後方側に向けた構成とし、外側の肥料移送ホース44bにはその蓋49の向きを外側に向けた構成として、メンテナンス作業の容易化を図るようにしている。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】施肥装置付乗用田植機の側面図
【図2】同上田植機の平面図
【図3】施肥装置の要部の側面図
【図4】施肥装置付乗用田植機の要部の背面図
【図5】施肥装置付乗用田植機の要部の背面図
【図6】施肥装置の要部の側面図
【図7】同上要部の背面図
【図8】施肥装置要部の側面図
【図9】苗植付部の要部の側面図
【図10】苗植付部の要部の側面図
【符号の説明】
【0022】
1 乗用型田植機 4 苗植付部
5 施肥装置 7 運転席
9 車体カバー 30 苗タンク
40 ホッパ 41 肥料繰出部
42 繰出ロート 43 繰出口
44 肥料移送ホース 45 エアチャンバ
46 屈曲パイプ 47 ブロア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転席(7)の後側で苗タンク(30)の前側に設けた施肥装置5のエアチャンバ(45)を各条の肥料繰出部(41)の繰出口(43)より後側に設け、エアチャンバ(45)から屈曲パイプ(46)を介して前側から各条の肥料繰出口(43)へ圧力風を供給し、後方の肥料移送ホース(44)へ肥料を移送すべく構成してあることを特徴とする施肥装置付乗用田植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−325418(P2006−325418A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−149699(P2005−149699)
【出願日】平成17年5月23日(2005.5.23)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】