説明

樹脂複合材料及び接着剤

【課題】従来に無い画期的な複合材料を提供することにあり、応力分布が均等化されていること、更に、環境負荷が小さく、強度、材料特性の優れた複合材料及び接着剤を提供する。
【解決手段】長繊維(1)と樹脂マトリックス(2)からなる複合材料であって、該樹脂マトリックス(2)は炭素短繊維(3)を分散含有していることを特徴とする複合材料及び接着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭素短繊維を含有する樹脂複合材料及び接着剤に関するものである。更に詳しくは、長繊維と合成樹脂マトリックスの複合材料であって、該合成樹脂マトリックスは、炭素短繊維が前もって分散されており、応力分布が均等化されていることを特徴とする複合材料及び接着剤であり、また環境負荷が改善された複合材料及び接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂複合材料(Fiber reinforced resin composite material、以下、FRCM)は、強度、弾性率に優れ、設計の自由度も大きいことから、近年金属代替材料として様々な工業分野に使用されている。
特に繊維を一方向に引き揃え、樹脂を含浸したプリプレグシートは繊維方向に高い強度と剛性を有することから、構造物の必要物性に応じた材料設計が可能であるため、多用途に用いられている。また、長繊維を平織りや朱子織り等の形態に加工し、積層することにより表面性を向上させたり、破壊に対する靭性を高めたりすることも行われている。
【0003】
例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等の織物、もしくはUD(uni−directional、繊維を一方向に引きそろえたシート)に、未硬化の熱硬化性樹脂、所謂、Bステージを予め含浸させ必要な枚数積層したシートをプリプレグという。このプリプレグをして、所望の形状に成型、硬化させることにより複合材料が得られる。繊維の種類によってカーボンプリプレグ、ガラスプリプレグ、ケプラープリプレグ、後述した熱硬化性樹脂の種類により、エポキシ系プリプレグ、ポリエステル系プリプレグ、ウレタン系プリプレグなどがある。
【0004】
プリプレグは、例えばゴルフシャフト、釣り竿などのスポーツ用、土木・建築、輸送機器、電子・電気機器などの産業用、航空機・ロケット・人工衛星などの航空宇宙用などの用途に用いられる。
【0005】
また、コスト面や性能面を考慮し、単一繊維材料だけでなく、2種類以上、例えば炭素繊維とガラス繊維等を複合することにより、単一繊維材料だけでは得られない性能を付与したハイブリッド積層板なども数多く使用されている。一方、繊維をミクロンオーダーから数ミリ程度の短繊維状に切断することにより、インジェクション用樹脂組成物の強化材、充填材としても使用されている。特に本発明者等が提供した技術として、炭素短繊維は高強度化、軽量化のみならず、繊維自体が導電特性を有することから、樹脂中に混入した導電性樹脂組成物としても注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平6−102364号公報
【特許文献2】特開平4−323009号公報
【特許文献3】特開平6−99160号公報
【特許文献4】特開平7−33904号公報
【特許文献5】特開平7−118440号公報
【特許文献6】特許第3580689号
【特許文献7】特許第1676995号
【特許文献8】特許第1450997号
【特許文献9】特許第1697976号
【特許文献10】特開平5−70227号公報
【特許文献11】特開平7−187832号公報
【特許文献12】特開平10−183039号公報
【特許文献13】特開平8−207012号公報
【特許文献14】特開2008−156510号公報
【特許文献15】特開2008−135584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このようにFRCMは用途により様々な強化形態や繊維長が用いられ、しかも樹脂も数多くの種類が使用される一方、難燃性、不腐食性であるため、廃棄方法も現状では埋め立てによる処分に頼っているのが現状である。FRCMは高機能を有し、しかも決して安価な材料ではないため、これらの材料の安易な廃棄処理はエネルギーロスになり、環境問題的にも好ましいとは言えない。
【0008】
上記の問題点に対し、FRCMの廃材を利用した研究がなされている。例えば、特許文献1には廃棄された繊維強化プラスチックを微粉末状乃至微粒状の粉末にして充填材とした再利用がされている。しかし、再生された粉末は単なる充填材として利用され、プリプレグにおける樹脂マトリックス中に更に炭素繊維を含有させることについて記載するものではない。
【0009】
また特許文献2にはFRCMをマトリックス樹脂の分解点以上、炭素繊維の分解点以下の温度で処理して、マトリックス樹脂の分解物で一体化(結着)された炭素繊維塊を得ている。しかし、この炭素繊維塊はマトリックス樹脂の分解物、即ち炭化物を含んでいるため、樹脂と複合した場合、繊維と樹脂が直接ぬれないため、繊維と樹脂との接着強度が低かったり、分散性が低下したりして満足した複合材が得られない。また再生炭素繊維が得られるとあるだけで、プリプレグにおける樹脂マトリックス中に更に炭素繊維を含有させることについて記載するものではない。
【0010】
特許文献3には破砕したFRCMを、3〜18体積%の酸素濃度で、300〜600℃で燃焼させないで処理し、マトリックスのプラスチックスを熱分解して炭素繊維を回収する方法が記載されている。しかしCFRP(炭素繊維強化プラスティック)から炭素繊維を高収率で回収することができ、CFRPの埋立処理を不要とするばかりか、炭素繊維の再利用を可能にするとはあるが、回収した炭素繊維は、粉砕し、ゴムや熱可塑性樹脂中に混入したり、セメント、モルタル、コンクリートなどに混入して利用するもので、やはりプリプレグにおける樹脂マトリックス中に更に炭素繊維を含有させることについて記載するものではない。
【0011】
特許文献4はCFRPを300〜1000℃で乾留するので、炭素繊維の特性を劣化させることなく、プラスチック成分を炭化物に分解でき、CFRP中から有用な炭素繊維を回収し、再生炭素繊維として利用することができるとあるが、回収した炭素繊維は、粉砕し、ゴムや熱可塑性樹脂中に混入したり、セメントなどに混入して利用するもので、プリプレグにおける樹脂マトリックス中に更に炭素繊維を含有させることについて記載するものではない。
【0012】
特許文献5は廃CFRP製品や、CFRP製品の製造時に発生する切屑等の再利用を可能とする、取り扱いが容易で、しかも、炭素繊維強化熱可塑性プラスチック製品や炭素繊維強化セメント成形体等を製造するときに補強材として利用することができる炭素繊維塊およびその製造方法を提供するもので、再生した炭素繊維塊を充填材として利用するもので、プリプレグにおける樹脂マトリックス中に更に炭素繊維を含有させることについて記載するものではない。
【0013】
本発明者等は、特許文献6として、CFRP廃材を粉砕し、分級し、各分級品の1種又は2種以上を粉砕物の分解ガス充満下、350〜500℃で加熱分解させることにより、樹脂の付着していない所望の短繊維のみを得ることができることを見出した。しかしこれを充填材として熱可塑性樹脂に配合するだけで、プリプレグにおける樹脂マトリックス中に更に炭素繊維を含有させることについて記載するものではない。
【0014】
又、本発明者等は、例えば特許文献7〜9等で、チタン酸カリウィスカー及びこれらとガラス繊維等から成る樹脂複合体について提案した。
又、チタン酸カリとガラス繊維を含む樹脂複合材は、任意の樹脂材料が利用でき、産業上利用性の高いFRCMが期待出来たが、チタン酸カリやカーボンウィスカー等、アスペクト比(繊維長/繊維径)が10以上の大きいウィスカー材料であっても、長繊維の繊維径に比べ繊維長が小さく、長繊維の分布の影響が大きく、面方向に強度が偏在しやすい。
【0015】
特許文献10〜11では、繊維強化セラミックス複合材料に関し、FRCMに適用されている長繊維の集束、織物の概念が認められず、高々、セラミックスの脆性強度の補完にすぎず、FRCMが有する強靭性が不足していた。
【0016】
特許文献12はカーボン繊維、カーボンウィスカーを用いているが、電気抵抗の異方性をPTC(positive temperature coefficient)に利用したもので、いずれも、長繊維強化複合材料の面方向の強度の偏在に対処されていず、斯かる複合材にあっては、長繊維を3次元構造の織物の開発を真剣に試みられている現状にあり、特に、軽量化が要望されている航空機用構造材にあっては、金属に代替できる、等方性FRCMの開発に対する期待が大きい現状にある。
【0017】
また応力が分散され、そりが低減された接着層からなる複合材も寸法安定性、施工性、気密性等の見地から要望されている。
【0018】
特許文献13には台板と表面材からなる表面化粧板のそり、ねじれなどの発生を防止するために、マイカ、ガラスフレーク、金属フレークなどの鱗片状充填材を添加した接着剤を用いて、台板の吸湿膨潤を少なくして、台板と表面材の接着を行うことが提案されている。
特許文献14には接着構造体のそり変形や内部歪の発生を抑制するために、カーボンブラック、SiC等のマイクロ波吸収性の高誘電損率を有するフィラーを含有する接着剤を用いて、局所的な加熱を行い、被着体の接着を行うことが提案されている。
特許文献15には基板とプリプレグを交互に積層した積層体を上下の金属プレートで挟んで加熱接着する際に発生するそりを防止するために、上下の金属プレートの熱膨張係数を相違させて接着を行うことが提案されている。
【0019】
このように、熱膨張率の異なる材料の貼り合わせ等には、各種の配慮がなされているが、応力を分散させた接着層を用いる概念は示唆されていない。
【0020】
本発明の課題は、従来に無い画期的な複合材料を提供することにあり、応力分布が均等化されていること、更に、環境負荷が小さく、強度、材料特性の優れた複合材料及び接着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、以下に係る。
1.長繊維(1)と樹脂マトリックス(2)からなる複合材料であって、該樹脂マトリックス(2)は炭素短繊維(3)を分散含有していることを特徴とする複合材料。
2.炭素短繊維(3)は、その繊維長が長繊維(1)の繊維径の5〜50倍で、且つ、50〜400μmの繊維長を有する炭素短繊維である1に記載の複合材料。
3.長繊維(1)が長繊維の集束体であり、長繊維の配向方向に対し90度の面(直行する面)に、応力分布が均等化されている1又は2に記載の複合材料。
4.繊維の縦方向及び横方向の曲げ弾性率の比が1〜2.0である3に記載の応力分布が均等化されている複合材料。
5.長繊維(1)が長繊維の布帛であり、複合材料の厚み方向に、応力分布が均等化されている1又は2に記載の複合材料。
6.繊維の配行方向及び厚み方向の曲げ弾性率の比が1〜2.0である5に記載の応力分布が均等化されている複合材料。
7.長繊維(1)が炭素繊維であり、マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂である1〜6のいずれかに記載の複合材料。
8.長繊維(1)が植物起源の繊維であり、マトリックス樹脂がポリオレフィン系樹脂である1〜6のいずれかに記載の複合材料。
9.表面導電性が等方性である1〜8のいずれかに記載の複合材料。
10.炭素短繊維(3)が自燃焼成法で得られた炭素短繊維である1〜9のいずれかに記載の複合材料。
11.炭素短繊維(3)の繊維長分布の割合が、重量平均繊維長の±50%(平均繊維長×0.5〜平均繊維長×1.5)の範囲が80%以上である、1〜10のいずれかに記載の複合材料。
12.長繊維(1)と樹脂マトリックス(2)からなる接着剤であって、該樹脂マトリックス(2)は炭素短繊維(3)を分散含有していることを特徴とする接着剤。
13.炭素短繊維(3)は、その繊維長が長繊維(1)の繊維径の5〜50倍で、且つ、50〜400μmの繊維長を有する炭素短繊維である12に記載の接着剤。
14.長繊維(1)が炭素繊維であり、マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂である12〜13のいずれかに記載の接着剤。
15.炭素短繊維(3)が自燃焼成法で得られた炭素短繊維である12〜14のいずれかに記載の接着剤。
16.炭素短繊維(3)の繊維長分布の割合が、重量平均繊維長の±50%(平均繊維長×0.5〜平均繊維長×1.5)の範囲が80%以上である、12〜15のいずれかに記載の接着剤。
【発明の効果】
【0022】
繊維強化複合材料の欠点であった厚み方向の強度が改善され、3次元の等方性が得られたので、自動車、航空機などの高強度、高弾性の筺体、構造材料に適合、軽量化が図れると共に、加工性が改善され、金属代替部材として利用できる。
耐衝撃性、塗装性が改善され自動車のバンパーなど高意匠性が望まれる緩衝部材に適合できる。
航空機の生産時に副生する余剰部材の利用であり、炭素負荷の低減が要望される構造部材に代替できる。
平面及び3次元での等方導電性を有し、電磁波シールド材、静電気除去、帯電防止用部材として有用な材料である。
表面親水性構造材料が得られるので、水性塗装が望まれる建築部材に適合し、又、表面親水性部材は抗結露性を示し、環境負荷、省エネルギーが望まれる内装構造部材に適合できる。
【0023】
本発明の接着剤は応力が分散され、そりが低減された接着層からなり寸法安定性、施工性、気密性等において優れている。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明において、長繊維(1)とは、ガラス繊維、炭素繊維、ウオラストナイト等の無機繊維、アラミド繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維等の合成繊維、絹、綿、麻、人絹、酢酸セルローズ繊維などの天然及び化学処理された天然繊維などが挙げられ、これらの1種または2種以上が併用できる。これらは、紡糸されたフィラメント、撚糸及び紡績された繊維を通常、10〜1000本集束したもの(ストランド)をそのまま、又は、繊維長10mm以下に裁断した、所謂、チョップドファイバー(ショートカットファイバー)、或いは平織り等の織布その他布帛の状態で用いることもできる。これらの繊維表面には通常用いられる表面処理が施されても良い。
【0025】
長繊維(1)の繊維径は通常0.5〜20μm、好ましくは3〜15μm、更に好ましくは6〜12μmの範囲である。長繊維(1)の繊維長は、集束体を利用する時は、通常ロール状に巻き取られた10〜数千mの状態から、例えばプリプレグ等の成型体の長さ、又は幅に合わせて切断された任意の長さで利用される。又、布帛として用いる時も、織布を用いる時は、集束体と同様、成型体の縦、横の寸法と同じ長さであるが、不織布等では、炭素短繊維の繊維長の10倍以上、好ましくは50〜1000倍で、通常、0.5mm〜10cm程度の繊維長からなる、一般に流通している不織布がそのまま利用できる。
【0026】
又、熱可塑性樹脂の射出成型体などでは、ストランドを裁断したチョップドファイバー(チョップドストランド、ショートカットファイバー、以下、チョップドファイバーと称す)が用いられ、係るチョップドファイバーの繊維長も、炭素短繊維の繊維長の10倍以上、好ましくは50〜1000倍で、0.5〜50mm程度の繊維等からなる一般に流通しているチョップドファイバーがそのまま利用できる。
【0027】
本発明において、樹脂マトリックス(2)とは、炭素短繊維(3)を分散含有した樹脂層を言う。
樹脂マトリックス(2)の樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ウレタン樹脂、熱硬化性アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、メラミン・尿素・フェノールなどアミノ樹脂、アルキッド樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等の熱硬化性樹脂を単独、又は2種以上の共重合体、混合物として使用できる。またポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、熱可塑性アクリル樹脂、ビニル樹脂などの熱可塑性樹脂単独及び2種以上の共重合体、混合物等を代表例として例示できる。又、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂のポリマーアロイでも良い。
【0028】
更に、本発明では、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、エポキシ化天然ゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンジエンゴムなどのゴム系マトリックスを用いることもできる。
更に、これらには、通常用いられる、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、着色剤などの添加剤が併用されても良い。
【0029】
本発明において、例えば樹脂マトリックス(2)の樹脂が熱硬化性樹脂である複合材料においては、長繊維は炭素繊維が好ましく、樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、硬質ウレタン樹脂のような熱硬化性樹脂が好ましく、金属類似の等方性強度を示し、航空機などの構造材料に利用できる。
【0030】
本発明において、例えば長繊維(1)が植物起源の繊維であり、樹脂が熱可塑性樹脂である時、親水性の優れた表面性を示し、ポリオレフィン系の複合材でありながら、水系塗料などで表面処理が可能であり、且つ、等方性強度を示す新規複合材料を提供する。植物起源の長繊維としてはセルローズ系繊維、ポリアセタール系繊維が好ましく、熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、即ち、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン―プロピレン共重合体、エチレン−アクリル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマーが好ましい。尚、係る熱可塑性樹脂組成物は、一般に射出成型が便利であり近年、布帛等を中間層としたインサート成形も適用出来るが、チョップドファイバーを分散させた射出成型体が通常適用される態様が多い。本来、これらの樹脂は疎水性が強く、特に、ポリエチレン、ポリプロピレンなどは、有機溶剤系の塗料でも適用が困難であるのに、本発明に係わる、植物起源の長繊維、炭素短繊維、ポリプロピレンから成る複合材では、FRCMの特徴としての強度(靭性)に加え、複合材の表面が親水性を示し、水系表面処理剤、例えば、水系塗料、水系インキ、水系接着剤などが適用できる。
【0031】
本発明の熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とし、植物起源の長繊維を用いたFRCMでは、長繊維は引張弾性率が小さく柔軟性を緩和、引張、曲げ弾性率が改善され、硬度、強靭性が改善された。
【0032】
炭素短繊維(3)は、その繊維長が長繊維(1)の繊維径の5〜50倍で、且つ、50〜400μmの繊維長を有する炭素短繊維(3)が好ましい。その繊維長は長繊維(1)の繊維径の5.5〜40倍が好ましく、10倍以上が特に好ましい。
【0033】
但し、短繊維の繊維長が大き過ぎると、ダマになりやすく、単分散性が劣る。特に、繊維長が1mm以上になると単に、長繊維を増量したのと同様の効果で、応力の分散に効果的でない。従って、短繊維の長さは400μm以下が好ましい。
【0034】
又、炭素短繊維(3)の繊維径は通常3〜15μm、好ましくは4〜13μm、更に好ましくは5〜10μm、特に好ましくは、炭素繊維として常用されている6〜7μmの範囲である。
【0035】
本発明では、マトリックスの応力分散に関連する、撓み(耐屈曲)性が重要であり、ガラス短繊維、合成樹脂短繊維(パイル)では撓み性が不十分で炭素短繊維が最も適していた。尚、炭素短繊維の繊維長を50μm以上としたのは、炭素短繊維には、前述したように、応力分散に係る撓み性が必要で、このような材料としては、アスペクト比(繊維長/繊維径)が10以上が好ましく、炭素短繊維の繊維径は一般に5〜10μmなので、50μm以上が好ましい。
又、長繊維同様、短繊維にあっても通常用いられる表面処理がされていても良い。
【0036】
炭素短繊維は樹脂に対して0.1〜50重量%、更に好ましくは5〜40重量%の範囲で使用され、少なすぎると長繊維との併用効果が乏しく、逆に多すぎると、凝縮力が低下、圧縮応力や撓み性が低下する。
【0037】
炭素短繊維(3)としては、種々の炭素繊維を用いることもできるが、本発明者等が提案した炭素短繊維の製造法に係る、上記特許文献6、或いは文献16〜18に示される炭素繊維強化樹脂複合体の炭素繊維を起源とした自燃焼成法で得られる環境負荷の小さい炭素短繊維が好ましい。
【0038】
文献16:特許第3212543号
文献17:特許第3468690号
文献18:特許第3535972号
【0039】
本発明の炭素短繊維は、1例として本発明者等が係る、上記特許文献6(特許第3580689)記載の方法に準じて製造することができる。具体的には原料として樹脂で結合された炭素繊維あるいは炭素繊維とガラス繊維を用いる。例えば、パイプ状あるいは平板状のエポキシ樹脂をマトリックスとするCFRPの廃材を堅型粉砕機を用いて粗粉砕した後、再度粉砕機にかけ、スクリーン径100μm〜2mmを通すことにより粉砕物を得る。
【0040】
上記粉砕物をスクリーンメッシュを変えることによって、ある程度繊維長の整ったものとする。本発明では粉砕物の繊維長は50μm〜400μmの範囲内であって、平均繊維長の±50%の変動幅以内のものを得る。
【0041】
ここで、繊維長とは重量平均繊維長(Lw)であり、以下の式により求められる。
Lw=ΣWi・Li/Wi
Lw=Σα・Ni・Li/Σα・Ni・Li
Lw=ΣNi・Li/ΣNi・Li
αはπr2ρ(2r=繊維の直径、ρ=密度)、Niは長さLiの繊維の数である。
【0042】
本発明では粉砕物を分級することにより、繊維長の整ったものが容易に得られ、一般に言われる数平均繊維長(Ln)に対し、Ln/Lwが1.05〜1.50で1に近く単分散性を有する優れたものである。
尚、数平均繊維長Lnは、Ln=ΣNi・Li/ΣNi で求められる。
【0043】
又、本発明の平均繊維長は、特記しない限り、重量平均繊維長を意味し、繊維長分布の割合が重量平均繊維長の±50%(平均繊維長×0.5〜平均繊維長×1.5)の範囲が80%以上、特に90%以上であるのが好ましい。例えば、特許文献6(特許第3580689)の段落番号(0023)の表1に記載のような繊維長分布を有する炭素短繊維が好ましい。
また、CFRP廃材を粉砕し、分級し、各分級品の1種又は2種以上を粉砕物の分解ガス充満下、350〜500℃で加熱分解させることにより、樹脂の付着していない所望の短繊維のみを得ることができる。
粉砕物の分解ガスの充満下に加熱するとは、例えば粉砕物を密閉状態で加熱する方法、粉砕物を容器に高充填率で充填し、加熱する方法を挙げることができる。これを自燃焼成法という。容器としては坩堝等を挙げることができ、高充填率とは例えば50〜100容積%、好ましくは80〜99容積%程度の充填率を挙げることができる。
【0044】
上記においては粉砕物の分解ガスの充填下に加熱分解させるため、何ら酸素ガス、空気、窒素ガス等を準備する必要がなく、酸素ガス濃度を絶えず制御する必要も無い。上記の加熱分解は350〜500℃の範囲で行うことが好ましい。加熱分解時間は温度にも依存するが、通常は1〜8時間、好ましくは2〜5時間程度である。
【0045】
近年、環境保護、省資源、特に、原油価格の高騰から、金属に代替できる機能性FRCMに対する期待が大きい。
FRCMに於いては、繊維を一方向に引き揃え、樹脂を含浸したプリプレグシートは繊維方向に高い強度と剛性を有することから、構造物の必要物性に応じた材料設計が可能であるため、多用途に用いられているが、長繊維の配向方向(即ち、縦方向)に対し、90度の面(直行する横方向)の強度が小さい。この性質は、航空機の翼など、大きな平板状複合材では、致命的な欠点であった。
これらのFRCMは、繊維の長軸方向(長さ、及び平面)の強度は優れているが、断面(垂直)方向への補強が不十分で、応力に異方性を示し、均質な応力分布(応力の等方性)が求められていた。
【0046】
本発明において、長繊維(1)が長繊維の集束体である複合材料は、上記長繊維の配向方向に対し90度の面(直行する面)に応力分布が均等化されたものが得られ好ましい。
尚、繊維の配向方向に対し、90度の面とは、長繊維が1方向に揃えて配置された最も一般的な繊維強化複合材料に於いて、繊維の長手方向(縦方向)に対し直行する横方向を意味する。
【0047】
また本発明において、長繊維(1)が布帛である複合材料は、複合材料の厚み方向に応力分布が均等化されたものが得られ好ましい。厚み方向とは、布帛(織布)で補強された繊維強化複合材に於いて、布帛の厚み方向を意味する。
応力分布の均等化とは、例えば繊維の縦方向及び横方向の曲げ弾性率にほとんど差が無いことで示される。本発明では、長繊維(1)が集束体である場合、繊維の縦方向及び横方向の曲げ弾性率の比が1〜2.0、好ましくは1〜1.5、更には1〜1.3の範囲にあるものが得られる。また長繊維(1)が布帛である場合、繊維の配行方向及び厚み方向の曲げ弾性率の比が1〜2.0、好ましくは1〜1.5、更には1〜1.3の範囲にあるものが得られる。
尚、本発明の板状複合材料では、「そり」が著しく抑制された。
また本発明の導電性複合材料は、等方性の表面導電性に優れている。
【0048】
本発明では、特に、炭素長繊維、エポキシ樹脂系熱硬化性樹脂から成る従来のFRCMの製造段階で生じる炭素長繊維含有端材から、本発明者が提案した自燃焼成法により、有効に炭素短繊維が得られるので、循環型の環境負荷の小さい素材が提供できる。
特に、自燃焼成法による炭素短繊維は、従来のミルド法に比し、焼成段階で、前もって、所望の繊維長に合わせて、粗粉砕した材料を用いることにより、繊維長の整った炭素短繊維が得られる。
【0049】
有機質繊維では、従来、パイル、チョップドファイバーなど、mm単位の繊維が、植毛、フィルムの補強材、セメント補強材などに提供されているが、FRCMとしては繊維長が大きすぎ、ダマになりやすく有効に利用できなかった。本発明では、斯かるFRCMに炭素短繊維をマトリックスに分散させることにより、有機質繊維が容易にマトリックス中に均一に分散、応力分布が均等化した。これらの理由は不明であるが、有機質繊維に対し、炭素短繊維の撓み性が大きく、有機質繊維のダマの発生による分散不具合を抑制した効果と推定した。有機質繊維同様、ガラスチョップドファイバーについても効果が認められた。
尚、有機質繊維として、植物起源の繊維を適用した時、理由を解明出来ていないが、本来疎水性のポリオレフィン樹脂と炭素短繊維からなるマトリックスに係る複合材では、表面親水性が認められた。
【0050】
本発明のFRCMの製造は、従来の繊維強化樹脂複合材(CFRP,FRCM)の製法がそのまま適用でき、単に、補強長繊維のクロス、不織布、一方向に引きそろえたシートに対し、樹脂マトリックス中に炭素短繊維を分散させたものを含浸、塗布したプリプレグを作成、成型、硬化させることで得られる。また、あらかじめ樹脂を含浸したプリプレグに対して、短繊維に接着、粘着材を付与して塗布、吹き付けてもよく、さらには、短繊維そのものを直接吹き付けることもできる。また補強長繊維を乾燥状態で短繊維を混ぜて混合した状態でも使用することができる。
【0051】
尚、本発明の複合材は、応力が分散されたことが、熱膨張性にも影響したと思われ、板状複合材では、表裏の温度差などで発生する「そり」が抑制出来た。
このことから、本発明では、単にプリプレグからなる複合材料だけでなく、接着剤としても利用でき、長繊維に、炭素短繊維を分散させたマトリックスからなる接着層は、応力が分散され、そりが低減された。
【0052】
本発明では、板状部材の接合に有効で、特に、アスペクト比(長辺/厚み)が10以上のものは温度、湿度変化の影響を受けて伸縮しやすく、単一素材でも、表裏の温度、湿度差でそりが発生する。従って、本発明では、異種板材に限らず、同種板材の接合時に発生するそりも低減する。又、本発明では、単一板材の表面に、化粧シート、印刷フィルム、防湿シート等の布帛、ステンレス箔等の金属箔を片面、又は両面に接合する時の接着剤として用いることにより、そりが低減する。更に又、本発明では、2枚の合成樹脂板の間に発泡スチロール等の断熱層を中間層として介在させ、各々の合成樹脂板と発泡スチロールの界面の接合時の接着剤として用いた複層構造の断熱材でもそりが低減する。
本発明では、本発明の応力が分散された複合材に対しても、接着剤として用いることが出来る。
【0053】
本発明で利用される被着体としては、内外装建材、筺体部材、浴槽等の保温槽の蓋等が有効で、天然木材、MDF等の集合木材等の木質板材、ケイ酸カルシウム板、繊維セメント板、石膏ボード等の無機板材、FRP板材、ポリプロピレン、アクリル等の樹脂板材等に適応出来る。
【0054】
本発明の接着剤の樹脂マトリックス(2)の樹脂としては、前述[0027]に示した複合材に係る樹脂の何れでも良いが、接着作業性から、室温で流動性を示す液状物又は溶液、及び、ホットメルト接着剤では、塗布作業時、流動性を示すことが必要である。
又、被着体が、室温以上で用いられる時には、熱硬化性接着剤が好ましい。本発明では、通常用いられる接着工程がそのまま利用出来、例えば、被着体の片面若しくは両面に本接着剤を塗布、貼り合わせる。尚、貼り合わせ後、室温又は加熱養生(通常200℃迄)により接着力を発現させる。又、斯かる養生は、単に静置するだけでも良いが、通常の加圧養生、更に、塗布時又は、塗布直後、ロールプレスを行うことも好ましい。
【実施例】
【0055】
以下に参考例、実施例を示すが、何らこれらに限定されるものではない。
【0056】
参考例1 炭素短繊維
エポキシ樹脂をマトリックスに使用したCFRP製ゴルフシャフトを堅型粉砕機により粗粉砕し、スクリーン径12mmを通した後、再度粉砕機にかけスクリーン径1mmを通すことにより、エポキシ樹脂が付着した状態の炭素繊維を主成分とする繊維が得られた。この粉砕物をJISZ8801に準拠した、50〜3000μmのメッシュサイズの異なる多段式自動振盪ふるい機で分別分級して繊維長の整った、エポキシ樹脂が付着した炭素繊維及びガラス繊維の各分級品を得た。なお、粉砕品を蛍光X線分析で分析した結果、ガラス繊維/炭素繊維の重量比率は0.048であった。
次にこの各分級品ごとに坩堝に充填率80容積%で充填し、電気炉を用い、400℃、5時間で粉砕物の分解ガス充満下に加熱分解させる、所謂、自燃燃焼法で、繊維径7μm、且つ、50μm〜500μm範囲内の所望の繊維長分布を有する繊維を得た。得られた繊維のふるいサイズによる平均繊維長と市販のミルド繊維の繊維長分布を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
上記の結果から、自燃燃焼法によりCFRP廃材から再生された繊維は、エポキシ樹脂が付着した状態で粉砕、分級することから市販のミルド繊維と比較して繊維長分布にバラツキが少なく、しかも容易に所望の長さの繊維を得ることができる。
尚、表1では、No.1は、篩残で50μm通過試料、No.2は、80μm通過、50μm残、以下同様に分別された試料を示す。
【0059】
実施例1〜2
ビスフェノールA型エポキシ樹脂[エピコート(登録商標)825、ジャパンエポキシレジン(株)製]に対して、参考例1、試料No.4で得られた平均繊維長105μmの炭素短繊維(ΣRF010、出願人製)を表2記載の割合で混合後、硬化剤[4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、三井化学ファイン(株)製]を、エポキシ樹脂に対して、40重量%加え、均質に混合したものを樹脂マトリックスとした。長繊維として、ガラス繊維(繊維径10μm)を使用した。
上記炭素短繊維を含む樹脂マトリックスを離型紙上に延展後、長繊維を一方向に配向、含浸させたプリプレグを作成、5℃以下で冷蔵保存、該プリプレグを、10枚重ねてプリプレグシートを作成、加圧成型、蒸気養生して、厚み1mmの均一なFRCMを得た。結果を表2に示す。
【0060】
比較例1〜3
実施例1に於いて、本発明の炭素短繊維ΣRF010を用いない比較例(1)、ミルドガラス短繊維(2)、ミルド炭素短繊維(3)に変更した以外は同法で、エポキシ樹脂マトリックスのプリプレグシートを作成、加圧成型、蒸気養生して、厚みの均一なFRCMを得た。比較例の曲げ弾性率はいずれも実施例に比較して小さく、且つ、繊維の配行に対して異方性を示した。
FRCMの曲げ弾性率は、シート状成形体の長繊維方向(縦)及び長繊維と直角な面(横)方向にそれぞれ、ISO178に準拠して曲げ弾性率測定用試験体を切り出し、曲げ弾性率を測定、3個の平均値とした。
【0061】
繊維強化複合材料の導電性測定
各積層体から、縦120mm×横120mmのサンプルを2枚切り出し、1枚は、長辺がガラス長繊維と平行(縦)、別の試料はガラス長繊維と直角(横)になるよう、幅10mmで切断、長さ120mm、幅10mm、厚さ1mmの試験体を5本作成した。導電性ペースト[ドータイト(登録商標)D−550、藤倉化成(株)製]を各試験体、長辺の端部から10mm内側の表面に、幅10mmで外周を塗布、内側で80mm間隔の平行な電極とした。これらのサンプルを、アドバンテスト(株)製、R6581デジタルマルチメーターを用いて、各々の電極間の所謂、四端子法による抵抗を測定し、縦方向と横方向の表面抵抗の平均値を比較した。
【0062】
【表2】

【0063】
縦、横の曲げ弾性率の比率は実施例1、2では2以下、比較例1〜3では全て2.5以上であり、曲げ弾性率の分散が認められた。更に、本発明の炭素短繊維を併用すると、曲げ弾性率が大きく改善できることが明らかになった。実施例1は横方向の弾性率が改善、表面導電性も等方性を示した。
【0064】
実施例3
実施例1でプリプレグのガラス長繊維の配行方向が直角になるよう交互に重ねて、プリプレグシートを作成した以外、同法で厚み1mmの均一なFRCMを作成、シート状成形体から切り出し方向が直角になるよう(縦、横)2種類の試験体を作成、面方向で、縦、横の曲げ弾性を比較したが、10GPa以下では変化無く、縦、横に差が認められず、破壊しなかった。
【0065】
実施例4
実施例1のガラス長繊維をガラスクロス[日東紡(株)、平織、104g/m、厚さ0.1mm、繊維径10μm]にかえ、以下同法でプリプレグを作成、以下実施例3と同法で曲げ弾性率を測定した結果、縦、横、いずれの方向でも10GPa以上で破壊しなかった。
【0066】
比較例4〜6
比較例1〜3に対応したプリプレグを用い、実施例3同様、ガラス長繊維が直角に交差するよう重ねたプリプレグシートを作成、以下同法で曲げ弾性率を測定した。何れの試験体も、縦、横での弾性率の差は認められなかったが、破壊の様子を観察すると、プリプレグの厚み方向のマトリックス間でひび割れが認められ、ガラス長繊維の補強効果が面方向に限定されていた。
【0067】
【表3】

【0068】
実施例5〜6
マトリックスとして、ポリプロピレン[PPブロックコポリマー、サンアロマ一(株)製、PMB−60A、融点168℃]に炭素短繊維を参考例1、No.5(ΣRF015、出願人製、繊維長140μm、繊維径7μm)を分散させたコンパウンド(A)を作成、長繊維としてチョップドガラスファイバー(B1)[日本電気ガラス(株)、チョップドスランド、繊維径10μm、繊維長19〜25mm]又はセルローズ繊維(B2)[三菱レーヨン(株)、アセテート繊維、0.3デニル、繊維長10〜30mm]を用い、PPマトリックスコンパウンド(A)にサイドフィーダーで長繊維(チョップドファイバー)B1又はB2を供給して射出成型、ISO強度試験に準拠した試験片を作成、結果を表4〜5に示す。
【0069】
比較例7〜11
実施例5,6に於いて、PPのみ(比較例7)、長繊維を用いない炭素短繊維(ΣRF015)のみ(比較例8)、及び炭素短繊維を用いない、ガラス長繊維のみ(比較例9)、セルローズ長繊維のみ(比較例10)、ガラス長繊維とセルローズ長繊維の併用のみ(比較例11)の複合材について評価した結果を表4〜5に示す。
実施例5〜6は、炭素短繊維のみ(比較例8)、PPのみ(比較例7)との対比より、引張強度、曲げ弾性率が大きく改善され、更に、セルローズ長繊維を用いた実施例6では、親水性が認められ実用性の優れた複合材が得られた。又、炭素短繊維を用いない比較例9〜11では、強度が不十分で、且つ、親水性も改善されなかった。
尚、親水性は、濡れ指数標準液No.48[ナカライテスク(株)、48dyne/cm]で評価した。
【0070】
【表4】

【0071】
【表5】

【0072】
実施例7
実施例6の試料の表面に水系弾性ウレタン系接着剤[商品名EM802、セメダイン(株)]を塗布したところ均質に塗布出来た。実施例6の表面にEM802を塗布、別途、接着剤を塗布しない実施例6の試料と接着させた試験体のJISK6850 (剛性被着体の引張せん断接着強度)による引っ張り強度は、5MPaで接着層が凝集破壊、優れた接着力を示した。比較例7〜11では、はじいて塗布不能であった。
【0073】
実施例8
ウレタン樹脂[ヘンケルジャパン(株)、JAIA−00464 F]を用い、参考例1の炭素短繊維(ΣRF015、平均繊維長140μm、出願人製)を、ウレタン樹脂100部に対し10部の割合で分散させた熱硬化性接着剤マトリックス(C)を作成、被着体であるPP基材(厚さ3mm)表面に接着剤Cを塗布、ガラスクロス(実施例4と同じ)を重ね次いで、接着剤Cを塗布、PPを重ねて圧接、室温で1週間養生、接着層は、ガラスクロスに炭素短繊維とウレタン樹脂からなるマトリックスが含浸され、PP/接着剤層/PPの構成で断熱板を作成した。次いで、開口部が縦・横40×60cmの恒温水槽に温水を45℃に保ち、45℃の温水を入れ断熱板で蓋をして、断熱板の反りを調べ表6に示した。
【0074】
比較例12〜14
実施例8に於いて、ガラスクロスを用いない接着層、炭素短繊維を用いない接着層に変えた以外同法で調製した接着剤を用い断熱板を作成、ISO178に準拠して試験した結果、いずれの試験体も8GPa前後でガラスクロス間にひび割れが発生、厚み方向の応力分散が不十分であった。又、実施例8同様、断熱板としてのそりを調べ、表6に示した。
【0075】
比較例15〜16
実施例8の炭素短繊維の代わりに、炭素短繊維よりも繊維径、繊維長とも小さいチタン酸カリウィスカー[ティスモD、大塚化学(株)、繊維径0.2μm、繊維長10μm]を用いて同様にして断熱板を作成した。
比較例15では、長繊維(ガラスクロス)の繊維径(10μm)とほぼ同じ繊維長のチタン酸カリウイスカーでは、アスペクト比50と繊維形状をしているので、補強効果は認められたが、そりが発生、応力の分散が不十分であり、長繊維を用いない比較例16では強度も不十分で、そりも発生した。
【0076】
【表6】

【0077】
表6から、実施例8は曲げ弾性率も優れ、短繊維により、面方向の伸縮が厚み方向に分散され、そりの発生が抑制された。比較例15の、繊維長がガラス繊維径より小さいチタン酸カリウィスカー[ティスモD、大塚化学(株)、繊維径0.2μm、繊維長10μm]では、曲げ弾性は十分であったが、そりが発生した。
【0078】
実施例9〜12、比較例17〜18
実施例8の炭素短繊維を、表7に示す参考例1の炭素短繊維に変更した以外、同法で断熱板を作成し、以下、実施例8と同法で評価した結果を表7に示した。
【0079】
【表7】

【0080】
実施例9〜12ではそりが認められず、収縮率の均質化が確認できたが、比較例17では、比較例16と同じ理由、即ち、炭素短繊維の繊維長が不十分、比較例18では、逆に長すぎて、炭素繊維の塊、所謂、ダマが発生、分散性が低下、均質な応力分布が得られず、何れでもそりが発生した。
以上から、本発明では、炭素短繊維の好ましい繊維長は、長繊維の繊維径の5〜50倍で、且つ、50〜400μmであった。
【0081】
そりの発生は、板材の表裏の収縮差が考えられるので、幾何学的考察から、そり発生時の表裏の寸法差について考察、基材のそりと寸法変化は、そりが内側の時(基材裏面が伸びる)、内のりでのそり率(X)と寸法差(△L)の関係は次のようになる。
【0082】
寸法差長さ(△L)=そり率(X)× 厚み ×0.008 (mm)となる。
ここに、伸びた面(L)=元の長さ(L) + △L
そりが外側の時(基材裏面が収縮)も内のりからそり率(X)を測定、
収縮長さ(△L)=そり率(X)× 厚み ×0.008 (mm)
縮んだ面(そりの内側の長さ)=元の長さ(L)−△L
伸縮が不明の時は、内のりとそり率から△Lを求めて外側の伸びとする。
即ち、伸縮量は、厚み(mm)に比例、素材の長さに関係せず、そり率(1m当たりのそりの内法、Xmm)の0.8%に近似する。
尚、そり率(X)は、そり部の長さ(弓の弦)1mに対する内法(mm)。
従って、厚さ3mm、長さ約2m、そり率3mmの時、
内外の寸法差は、3(反り率)×3(厚み)×0.008=0.07(mm/m)
と、そり発生時の伸縮差は、ほとんど誤差範囲に近い小さい量でそりが発生する。
【0083】
本発明では、表裏の収縮差を、応力分布の均質化で吸収、そりの発生を抑制したと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長繊維(1)と樹脂マトリックス(2)からなる複合材料であって、該樹脂マトリックス(2)は炭素短繊維(3)を分散含有していることを特徴とする複合材料。
【請求項2】
炭素短繊維(3)は、その繊維長が長繊維(1)の繊維径の5〜50倍で、且つ、50〜400μmの繊維長を有する炭素短繊維である請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
長繊維(1)が長繊維の集束体であり、長繊維の配向方向に対し90度の面(直行する面)に、応力分布が均等化されている請求項1又は2に記載の複合材料。
【請求項4】
繊維の縦方向及び横方向の曲げ弾性率の比が1〜2.0である請求項3に記載の複合材料。
【請求項5】
長繊維(1)が長繊維の布帛であり、複合材料の厚み方向に、応力分布が均等化されている請求項1又は2に記載の複合材料。
【請求項6】
繊維の配行方向及び厚み方向の曲げ弾性率の比が1〜2.0である請求項5に記載の複合材料。
【請求項7】
長繊維(1)が炭素繊維であり、マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂である請求項1〜6のいずれかに記載の複合材料。
【請求項8】
長繊維(1)が植物起源の繊維であり、マトリックス樹脂がポリオレフィン系樹脂である請求項1〜6のいずれかに記載の複合材料。
【請求項9】
表面導電性が等方性である請求項1〜8のいずれかに記載の複合材料。
【請求項10】
炭素短繊維(3)が自燃焼成法で得られた炭素短繊維である請求項1〜9のいずれかに記載の複合材料。
【請求項11】
炭素短繊維(3)の繊維長分布の割合が、重量平均繊維長の±50%(平均繊維長×0.5〜平均繊維長×1.5)の範囲が80%以上である、請求項1〜10のいずれかに記載の複合材料。
【請求項12】
長繊維(1)と樹脂マトリックス(2)からなる接着剤であって、該樹脂マトリックス(2)は炭素短繊維(3)を分散含有していることを特徴とする接着剤。
【請求項13】
炭素短繊維(3)は、その繊維長が長繊維(1)の繊維径の5〜50倍で、且つ、50〜400μmの繊維長を有する炭素短繊維である請求項12に記載の接着剤。
【請求項14】
長繊維(1)が炭素繊維であり、マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂である請求項12〜13のいずれかに記載の接着剤。
【請求項15】
炭素短繊維(3)が自燃焼成法で得られた炭素短繊維である請求項12〜14のいずれかに記載の接着剤。
【請求項16】
炭素短繊維(3)の繊維長分布の割合が、重量平均繊維長の±50%(平均繊維長×0.5〜平均繊維長×1.5)の範囲が80%以上である、請求項12〜15のいずれかに記載の接着剤。

【公開番号】特開2011−231297(P2011−231297A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105572(P2010−105572)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(510122072)ウィスカー株式会社 (1)
【Fターム(参考)】