説明

水田作業車

【課題】 右及び左の後輪を機体にサスペンション機構を介して支持するように構成した水田作業車において、粉粒体を貯留するホッパー及び繰り出し部を機体に備えた場合、エンジンの動力が繰り出し部に適切に伝達されるように構成する。
【解決手段】 エンジンを機体に備え、ミッションケース17を機体に固定して、右及び左の後輪を機体にサスペンション機構32を介して支持する。エンジンの動力がミッションケース17に伝達されて、右及び左の後輪に伝達されるように構成する。粉粒体を貯留するホッパー及び繰り出し部を機体に備えて、ミッションケース17からの動力を繰り出し部に伝達して繰り出し部を駆動する伝動機構97,105,107を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用型田植機や乗用型直播機等の水田作業車における伝動構造に関する。
【背景技術】
【0002】
水田作業車の一例である乗用型田植機では、特許文献1,2に開示されているように、右及び左の前輪に対して、右及び左の後輪を機体にサスペンション機構を介して支持するように構成したものがあり、水田や路上での走行性能の向上を図っている。右及び左の後輪を機体にサスペンション機構を介して支持する構造としては、特許文献1,2のように独立に上下揺動自在な右及び左の支持ケースの後端に右及び左の後輪を支持する構造や、右及び左の後輪を備えた後車軸ケースを機体にサスペンション機構を介して支持する構造がある。
【0003】
【特許文献1】特開2004−17934号公報
【特許文献2】特開2003−81140号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水田作業車では、粉粒体(例えば肥料や種籾等)を貯留するホッパー及び繰り出し部を機体に備えて、繰り出し部から繰り出された粉粒体が供給部を介して田面に供給されるように構成したものがある(特許文献1参照)。この場合、エンジンの動力を繰り出し部に伝達して、繰り出し部を駆動するように構成する必要がある。
本発明は右及び左の後輪を機体にサスペンション機構を介して支持するように構成した水田作業車において、粉粒体を貯留するホッパー及び繰り出し部を機体に備えた場合、エンジンの動力が繰り出し部に適切に伝達されるように構成することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[I]
(構成)
本発明の第1特徴は、水田作業車において次のように構成することにある。
エンジンを機体に備え、ミッションケースを機体に固定して、右及び左の後輪を機体にサスペンション機構を介して支持し、エンジンの動力がミッションケースに伝達されて、右及び左の後輪に伝達されるように構成する。粉粒体を貯留するホッパー及び繰り出し部を機体に備えて、繰り出し部から繰り出された粉粒体が、供給部を介して田面に供給されるように構成する。ミッションケースからの動力を繰り出し部に伝達して繰り出し部を駆動する伝動機構を備える。
【0006】
本発明の第2特徴は、水田作業車において次のように構成することにある。
エンジンを機体に備え、ミッションケースを機体に固定して、右及び左の後輪を備えた後車軸ケースを機体にサスペンション機構を介して支持し、エンジンの動力がミッションケースに伝達され、ミッションケースに備えられた走行出力軸の動力が自在継手及び伝動軸を介して、後車軸ケースに伝達されるように構成する。粉粒体を貯留するホッパー及び繰り出し部を機体に備えて、繰り出し部から繰り出された粉粒体が、供給部を介して田面に供給されるように構成する。ミッションケースからの動力を繰り出し部に伝達して繰り出し部を駆動する伝動機構を備える。
【0007】
(作用)
本発明の第1特徴(請求項2)によると、右及び左の後輪が機体にサスペンション機構を介して支持されており(右及び左の後輪を備えた後車軸ケースが機体にサスペンション機構を介して支持されており)、右及び左の後輪(後車軸ケース)と機体との位置関係が変化する。これに対して、ミッションケースは機体に固定されているので、ミッションケースと機体との位置関係は変化しないのであり、ホッパー及び繰り出し部も機体に備えられているので、ホッパー及び繰り出し部と機体との位置関係も変化しない。
【0008】
これにより、本発明の第1特徴(第2特徴)によると、機体との位置関係が変化しないミッションケースと繰り出し部とに亘って伝動機構を架設しているので、右及び左の後輪と機体との位置関係が変化したり、機体の姿勢が変化したりしても、伝動機構と機体との位置関係は変化せず、エンジンの動力がミッションケースに伝達され、ミッションケースからの動力が繰り出し部に無理なく適切に伝達される。
【0009】
(発明の効果)
本発明の第1特徴(第2特徴)によると、右及び左の後輪を機体にサスペンション機構を介して支持するように構成した水田作業車において、粉粒体を貯留するホッパー及び繰り出し部を機体に備えた場合、エンジンの動力が繰り出し部に無理なく適切に伝達されるようになって、繰り出し部への動力の伝動効率を高めることができた。
【0010】
[II]
(構成)
本発明の第3特徴は、本発明の第2特徴の水田作業車において次のように構成することにある。
走行出力軸がミッションケースから突出し、走行出力軸の端部に自在継手が接続され、自在継手に伝動軸が接続されて、走行出力軸の動力が後車軸ケースに伝達されるように構成する。走行出力軸の自在継手が接続された部分とミッションケースとの間の部分から、動力を取り出して繰り出し部に伝達するように、伝動機構を構成する。
【0011】
(作用)
本発明の第3特徴によると、本発明の第2特徴と同様に前項[I]に記載の「作用」を備えており、これに加えて以下のような「作用」を備えている。
本発明の第2特徴のように、右及び左の後輪を備えた後車軸ケースを機体にサスペンション機構を介して支持した場合、走行出力軸をミッションケースから突出させて、走行出力軸の端部に自在継手を接続し、自在継手に伝動軸を接続することにより、走行出力軸の動力が後車軸ケースに伝達されるように構成することが多い。
【0012】
この場合、後車軸ケースと機体との位置関係が変化すると、これに伴って自在継手及び伝動軸と機体との位置関係も変化するのに対して、走行出力軸はミッションケースに備えられているので、走行出力軸と機体との位置関係は変化しない。これにより、本発明の第3特徴によると、走行出力軸における自在継手が接続された部分とミッションケースとの間の部分から、動力を取り出して繰り出し部に伝達するように、伝動機構を構成しているので、機体との位置関係が変化しない走行出力軸の部分から、伝動機構により動力が無理なく適切に取り出されて繰り出し部に伝達される。
【0013】
本発明の第3特徴によると、後車軸ケース(右及び左の後輪)に伝達される動力が繰り出し部に伝達されるので、機体の走行速度に同調した速度で繰り出し部が駆動される(機体の走行速度が高速になると繰り出し部が高速で駆動され、機体の走行速度が低速になると繰り出し部が低速で駆動されるのであり、機体の走行速度に関係なく、田面に供給される粉粒体の量が略一定なものとなる)。
【0014】
(発明の効果)
本発明の第3特徴によると、本発明の第2特徴と同様に前項[I]に記載の「発明の効果」を備えており、これに加えて以下のような「発明の効果」を備えている。
本発明の第3特徴によると、機体との位置関係が変化しない走行出力軸の部分から、伝動機構により動力が無理なく適切に取り出されて繰り出し部に伝達されるようになり、繰り出し部への動力の伝動効率を高めることができた。
本発明の第3特徴によると、機体の走行速度に同調した速度で繰り出し部が駆動されるので、機体の走行速度に関係なく田面に供給される粉粒体の量が略一定なものとなると言う利点を備えている。
【0015】
[III]
(構成)
本発明の第4特徴は、本発明の第3特徴の水田作業車において次のように構成することにある。
伝動機構における走行出力軸の近傍部分に、動力を伝動及び遮断自在なクラッチを備えている。
【0016】
(作用)
本発明の第4特徴によると、本発明の第3特徴と同様に前項[I][II]に記載の「作用」を備えており、これに加えて以下のような「作用」を備えている。
繰り出し部への動力を伝動及び遮断自在なクラッチを伝動機構に備える場合、本発明の第4特徴によると、伝動機構における走行出力軸の近傍部分にクラッチを備えている。これにより、本発明の第4特徴によると、クラッチがミッションケースに近い位置に配置されることになるので、ミッションケースに接続される操作系(操作ロッドや操作リンク等)と、クラッチに接続される操作系(操作ロッドや操作リンク等)とが互いに近いものとなるので、ミッションケースに接続される操作系及びクラッチに接続される操作系を、コンパクトにまとめて配置することが容易に行えるようになる。
【0017】
(発明の効果)
本発明の第4特徴によると、本発明の第3特徴と同様に前項[I][II]に記載の「発明の効果」を備えており、これに加えて以下のような「発明の効果」を備えている。
本発明の第4特徴によると、繰り出し部への動力を伝動及び遮断自在なクラッチを伝動機構に備える場合、ミッションケースに接続される操作系及びクラッチに接続される操作系を、コンパクトにまとめて配置することが容易に行えるようになって、構造の簡素化及び操作系の配置の為の省スペース化の面で有利なものとなった。
【0018】
[IV]
(構成)
本発明の第5特徴は、本発明の第2〜第4特徴の水田作業車のうちのいずれか一つにおいて次のように構成することにある。
サスペンション機構を介して後車軸ケースを支持する機体の支持部材と後車軸ケースとの間を通して、伝動機構を配置する。
【0019】
(作用)
本発明の第5特徴によると、本発明の第2〜第4特徴のうちのいずれか一つと同様に前項[I]〜[III]に記載の「作用」を備えており、これに加えて以下のような「作用」を備えている。
本発明の第5特徴によると、後車軸ケースを機体の支持部材にサスペンション機構を介して支持した場合、機体の支持部材と後車軸ケースとの間に少し隙間ができるので、この隙間を有効に利用して、機体の支持部材と後車軸ケースとの間を通して伝動機構を配置しているのであり、伝動機構が後車軸ケースの上側に位置している。
【0020】
(発明の効果)
本発明の第5特徴によると、本発明の第2〜第4特徴のうちのいずれか一つと同様に前項[I]〜[III]に記載の「発明の効果」を備えており、これに加えて以下のような「発明の効果」を備えている。
本発明の第5特徴によると、機体の支持部材と後車軸ケースとの間の隙間を有効に利用して、機体の支持部材と後車軸ケースとの間を通して伝動機構を配置することにより、伝動機構を無駄なく配置することができるようになって、省スペース化の面で有利なものとなった。
本発明の第5特徴によると、伝動機構が後車軸ケースの上側に位置しており、伝動機構が田面に接触したりすることが少なくなるので、伝動機構の破損防止及び耐久性の向上と言う面で有利なものとなった。
【0021】
[V]
(構成)
本発明の第6特徴は、本発明の第5特徴の水田作業車において次のように構成することにある。
機体の支持部材に伝動機構を支持させている。
【0022】
(作用)
本発明の第6特徴によると、本発明の第5特徴と同様に前項[I]〜[IV]に記載の「作用」を備えており、これに加えて以下のような「作用」を備えている。
本発明の第6特徴によると、後車軸ケースが機体の支持部材にサスペンション機構を介して支持されるのに加えて、伝動機構が機体の支持部材に支持される。これにより、本発明の第6特徴によると、共通の部材である機体の支持部材に後車軸ケース及び伝動機構が支持されることになるので、機体の支持部材と後車軸ケースとの間を通して伝動機構が配置された状態で、後車軸ケース及び伝動機構の位置関係が精度良く決められる。
【0023】
(発明の効果)
本発明の第6特徴によると、本発明の第5特徴と同様に前項[I]〜[IV]に記載の「発明の効果」を備えておりこれに加えて以下のような「発明の効果」を備えている。
本発明の第6特徴によると、機体の支持部材と後車軸ケースとの間を通して伝動機構が配置された状態で、後車軸ケース及び伝動機構の位置関係が精度良く決められるので、サスペンション機構により後車軸ケースと機体(機体の支持部材)との位置関係が変化しても、後車軸ケースの伝動機構への干渉を適切に避けるように構成することができる(後車軸ケースから不必要に伝動機構を離す必要がない)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
[1]
図1に示すように、右及び左の前輪1、右及び左の後輪2を備えた機体の後部に、リンク機構3及びリンク機構3を昇降駆動する油圧シリンダ4が備えられており、リンク機構3の後部に苗植付装置5が支持されて、水田作業車の一例である乗用型田植機が構成されている。
【0025】
図1に示すように、苗植付装置5は、伝動ケース6、伝動ケース6の後部に回転駆動自在に支持された植付ケース7、植付ケース7の両端に備えられた一対の植付アーム8、接地フロート9及び苗のせ台10等を備えて構成されている。これにより、苗のせ台10が左右に往復横送り駆動されるのに伴って、植付ケース7が回転駆動され、苗のせ台10の下部から植付アーム8が交互に苗を取り出して田面に植え付ける。
【0026】
図1及び図4に示すように、肥料を貯留するホッパー12及び繰り出し部13が運転座席11の後側に固定されて、運転座席11の下側にブロア14が備えられている。接地フロート9に作溝器15(供給部に相当)が備えられて、繰り出し部13と作溝器15とに亘ってホース16が接続されている。これにより、前述のような苗の植え付けに伴って、ホッパー12から肥料が所定量ずつ繰り出し部13によって繰り出され、ブロア14の送風により肥料がホース16を通って作溝器15に供給されるのであり、作溝器15を介して肥料が田面に供給される。
肥料に代えて種籾をホッパー12に貯留することにより、ホッパー12から作溝器15を介して種籾を田面に供給する直播作業も行うことができる(この場合、苗植付装置5を停止させる)。
【0027】
[2]
次に、右及び左の前輪1、右及び左の後輪2の支持構造について説明する。
図1,3,5に示すように、機体の前部にミッションケース17が固定され、ミッションケース17の前部に連結された支持フレーム18に、エンジン19が支持されている。角パイプ状の右及び左の機体フレーム21(機体の支持部材に相当)が、ミッションケース17の後部の上部に連結されて後方に延出されており、ミッションケース17の後部と右及び左の機体フレーム21とに亘って、側面視三角形状の補強部材20が連結されている。
【0028】
図1及び図5に示すように、ミッションケース17の右及び左の横側面から右及び左の前車軸ケース23が延出されて、右及び左の前車軸ケース23の端部に円筒状の支持部23aが斜め前方下方(縦軸芯P1参照)に向いて備えられている。右及び左の前輪1を支持する前輪支持部24が、右及び左の前車軸ケース23の支持部23aに縦軸芯P1周りに回転自在及び縦軸芯P1の方向にスライド自在に支持されている。図2,3,5に示すように、ミッションケース17の下部にピットマンアーム25が縦軸芯P8周りに揺動自在に支持され後向きに延出されて、前輪支持部24とピットマンアーム25とに亘ってタイロッド26が接続されている。図1に示すように、ピットマンアーム25を揺動操作する操縦ハンドル27が備えられており、操縦ハンドル27によりピットマンアーム25を揺動操作することによって、右及び左の前輪1を操向操作する。
【0029】
図3,5,6に示すように、後車軸ケース28が一体的に形成されて、後車軸ケース28に右及び左の後輪2が支持されている。断面コ字状で縦長の右及び左のブラケット22が後車軸ケース28の前部に固定され、右及び左のブラケット22の上部の横軸芯P2周りに右及び左の上リンク29が上下に揺動自在に支持されて前方に延出されており、右及び左の機体フレーム21の中間部に固定されたブラケット21aの横軸芯P3周りに、右及び左の上リンク29が上下に揺動自在に支持されている。
【0030】
図3,5,6に示すように、右及び左のブラケット22の下部に支持ピン31が横外向きに固定されて、支持ピン31の横軸芯P4周りに右及び左の下リンク30が上下に揺動自在に支持されて前方に延出されており、ミッションケース17の後部の下部の横軸芯P5周りに、右及び左の下リンク30が上下に揺動自在に支持されている。右及び左の機体フレーム21に受け部21bが固定されて、支持ピン31に受け部31aが固定されており、右及び左の機体フレーム21の受け部21bと支持ピン31の受け部31aとに亘って、右及び左のサスペンションバネ32(サスペンション機構に相当)が取り付けられている。図5及び図6に示すように、左の機体フレーム21の後端の前後軸芯P6周りに、ラテラルロッド34が上下に揺動自在に支持され、後車軸ケース28の右の後部の前後軸芯P7周りに、ラテラルロッド34が上下に揺動自在に支持されている。
【0031】
これにより、図3,5,6に示すように、後車軸ケース28が右及び左のサスペンションバネ32により上下動及びローリング自在に支持されるのであり、右及び左の上リンク29、右及び左の下リンク30により後車軸ケース28の前後方向の位置が決められ、ラテラルロッド34により後車軸ケース28の左右方向の位置が決められる。
【0032】
[3]
次に、右及び左の前輪1への伝動構造について説明する。
図5及び図7に示すように、ミッションケース17の左の横側部に静油圧式無段変速装置33が連結されており、エンジン19の動力が静油圧式無段変速装置33に伝動ベルト35を介して伝達され、静油圧式無段変速装置33に伝達された動力がそのまま伝動軸36を介して、油圧ポンプ37に伝達されている。
【0033】
図7に示すように、静油圧式無段変速装置33の出力軸33aの動力が伝動ギヤ55を介して伝動軸56に伝達されており、伝動軸56に低速ギヤ57及び高速ギヤ58、伝動ギヤ59が固定されている。伝動軸56と平行に配置された伝動軸60に、シフトギヤ61がスプライン構造にて伝動軸60と一体回転及びスライド自在に外嵌され、伝動軸60に伝動ギヤ62が固定されている。これにより、シフトギヤ61をスライド操作して低速ギヤ57及び高速ギヤ58に咬合させることにより、伝動軸56の動力が高低2段に変速されて伝動軸60に伝達される。
【0034】
図7及び図9に示すように、ミッションケース17、右及び左の前車軸ケース23に亘って一対の伝動軸63が突き合わせて配置され、一対の伝動軸63の間にデフ機構64が備えられており、デフ機構64のケース64aに固定された伝動ギヤ65が伝動ギヤ62に咬合し、一対の伝動軸63の端部にベベルギヤ66が固定されている。円筒部材81がキー構造により一方の伝動軸63に一体回転及びスライド自在に外嵌されており、円筒部材81をデフ機構64のケース64aの端部に咬合させることにより、デフ機構64をロック状態とすることができる。
【0035】
図9に示すように、右及び左の前車軸ケース23の支持部23aに、ベアリング67を介してベベルギヤ68(上側)及び受け部材69(下側)が支持され、ベベルギヤ66,68が咬合している。伝動軸70がスプライン構造によりベベルギヤ68及び受け部材69と一体回転及びスライド自在に取り付けられ、伝動軸70の下端にベベルギヤ71が固定されている。
【0036】
図9に示すように、前輪支持部24に右(左)の前輪1を支持する車軸72、車軸72に固定されたベベルギヤ73が備えられ、前輪支持部24の上端に円筒状のスリーブ74が固定されている。前輪支持部24及びスリーブ74がベアリング75により伝動軸70に回転自在に支持され、右及び左の前車軸ケース23の支持部23aとスリーブ74との間にシール部材76が備えられて、ベベルギヤ71,73が咬合している。上側のベアリング75に受け部材77が当て付けられて、受け部材69,77の間にサスペンションバネ40が内側及び外側に二重に備えられている。
【0037】
これにより、図7及び図9に示すように、静油圧式無段変速装置33の出力軸33aの動力が、伝動軸56,60、デフ機構64、伝動軸63,70及び車軸72を介して右及び左の前輪1に伝達される。前輪支持部24が右及び左の前車軸ケース23の支持部23aに縦軸芯P1周りに回転自在及び縦軸芯P1の方向にスライド自在に支持されるのであり、前輪支持部24の縦軸芯P1の方向へのスライドに対してサスペンションバネ40が作用する。
【0038】
[4]
次に、後車軸ケース28の右及び左の後輪2への伝動構造について説明する。
図2,3,7に示すように、ミッションケース17の後部の下部(平面視で機体の左右中央CLの少し右側)に、走行出力軸78が備えられ後向き突出して、デフ機構64のケース64aに固定されたベベルギヤ79が、走行出力軸78に固定されたベベルギヤ80に咬合している。走行出力軸78の端部に自在継手82が取り付けられ、伝動軸84が円筒継手83(動力を伝達しながら自在継手82に対する伝動軸84のスライドを許容する)を介して自在継手82に接続されている。後車軸ケース28の前部(機体の左右中央CLの少し右側)に入力軸38が前向きに突出しており、伝動軸84と入力軸38とが自在継手82を介して接続されている。
【0039】
図2に示すように、後車軸ケース28に伝動軸39が備えられ、入力軸38に固定されたベベルギヤ38aが、伝動軸39に固定されたベベルギヤ39aに咬合している。伝動軸39の右及び左の端部に、摩擦多板型式の右及び左のサイドクラッチ41が備えられており、右及び左のサイドクラッチ41と右及び左の後輪2を支持する車軸43との間に、伝動軸42が備えられている。これにより図2,3,7に示すように、静油圧式無段変速装置33の出力軸33aの動力が、伝動軸56,60、デフ機構64のケース64a、走行出力軸78、伝動軸84、入力軸38、伝動軸39、右及び左のサイドクラッチ41、伝動軸42を介して右及び左の後輪2に伝達される。
【0040】
図7に示すように、ミッションケース17の内部の壁部と走行出力軸78との間に複数の摩擦板44が備えられ、円盤状の操作部材45が走行出力軸78に相対回転自在に外嵌されている。走行出力軸78の下側を交差するように操作軸46が回転操作自在に支持されており、操作軸46の中間部46aが断面半月状に形成されて、操作軸46の中間部46aが操作部材45の後端に接している。以上のように、摩擦板44、操作部材45及び操作軸46等により、ブレーキ47が構成されており、ブレーキペダル(図示せず)と操作軸46及び静油圧式無段変速装置33とが機械的に連係されている。
【0041】
これにより、ブレーキペダルを踏み操作すると、静油圧式無段変速装置33が中立停止位置に操作されるのであり、操作軸46が図7の紙面時計方向に所定角度だけ回転操作されて、操作軸46の中間部46aにより操作部材45が図7の紙面上方に押し操作され、操作部材45が摩擦板44を押圧して、ブレーキ47が制動側に操作される。図2,7,9に示すように、ブレーキ47が制動側に操作されると、デフ機構64及び伝動軸63,70を介して右及び左の前輪1に制動が掛かるのであり、走行出力軸78、伝動軸84、入力軸38、伝動軸39、右及び左のサイドクラッチ41、伝動軸42を介して右及び左の後輪2に制動が掛かる。
【0042】
図2に示すように、右及び左のサイドクラッチ41はバネ(図示せず)により伝動状態に付勢されており、右及び左のサイドクラッチ41を遮断状態に操作する右及び左の操作アーム51が備えられ、ピットマンアーム25と右及び左の操作アーム51とに亘って連係ロッド53が接続されている。図2に示す状態は、右及び左の前輪1が直進位置A0に操向操作された状態で、右及び左のサイドクラッチ41が伝動状態に操作された状態であり、右及び左の前輪1、右及び左の後輪2に動力が伝達されている。右及び左の前輪1が直進位置A0と右及び左の設定角度A1との間に操向操作されていても、前述の状態となるのであり、機体は直進又は緩やかに右又は左に向きを変える。
【0043】
図2に示すように、右及び左の前輪1が右の設定角度A1と右の操向限度A2との間に操向操作されると、ピットマンアーム25により右の連係ロッド53が引き操作されて、右の操作アーム53により右のサイドクラッチ41が遮断状態に操作されて、右の後輪2が自由回転状態となる。この場合、左のサイドクラッチ41は伝動状態に残されており、左の後輪2に動力が伝達されている。右及び左の前輪1が左の設定角度A1と左の操向限度A2との間に操向操作されると、ピットマンアーム25により左の連係ロッド53が引き操作されて、左の操作アーム53により左のサイドクラッチ41が遮断状態に操作されて、左の後輪2が自由回転状態となる。この場合、右のサイドクラッチ41は伝動状態に残されており、右の後輪2に動力が伝達されている。
【0044】
以上のように右及び左の前輪1が右の設定角度A1と右の操向限度A2との間、又は左の設定角度A1と左の操向限度A2との間に操向操作されると、右及び左の前輪1、旋回外側の後輪2に動力が伝達された状態で、旋回中心側の後輪2への動力が遮断されて、旋回中心側の後輪2が自由回転状態となり、右又は左への旋回が行われる。これにより、旋回中心側の後輪2が旋回に伴って適度に回転しながら前進する状態となり、旋回時に旋回中心側の後輪2によって田面が荒らされる状態が少なくなる。
【0045】
[5]
次に、苗植付装置5への伝動構造について説明する。
図7及び図8に示すように、伝動ギヤ48及び6枚の伝動ギヤ49が一体で回転するように互いに連結されて、伝動ギヤ48及び6枚の伝動ギヤ49が伝動軸60に相対回転自在に外嵌されており、伝動ギヤ48,59が咬合している。伝動軸60と平行に配置された伝動軸50に6枚の変速ギヤ52が相対回転自在に外嵌されて、6枚の変速ギヤ49,52の各々が咬合しており、6枚の変速ギヤ52のうちの一つの変速ギヤ52を選択して伝動軸50に連結及び連結解除自在な操作ロッド54が備えられている。以上のように、6枚の変速ギヤ49,52及び操作ロッド54等により、株間変速装置85が構成されており、操作ロッド54により6枚の変速ギヤ52のうちの一つの変速ギヤ52を選択して伝動軸50に連結することによって、伝動軸60の動力が6段に変速されて伝動軸50に伝達される。
【0046】
図5及び図8に示すように、ミッションケース17の後部の下部(平面視で機体の左右中央CLの位置)に、出力軸86が備えられ後向き突出しており、出力軸86に相対回転自在に外嵌されたベベルギヤ87が、伝動軸50に固定されたベベルギヤ88に咬合している。シフト部材89がスプライン構造にて出力軸86と一体回転及びスライド自在に外嵌され、シフト部材89をベベルギヤ87との咬合側に付勢するバネ90が備えられて、シフト部材89をベベルギヤ87から離し操作する操作ロッド91が備えられており、これによって伝動軸50の動力を出力軸86に伝動及び遮断自在な植付クラッチ92が構成されている。
【0047】
図1,5,6に示すように、伝動軸93が出力軸86に接続されて後方に延出され、平面視で機体の左右中央CLの位置に配置されており、右及び左の機体フレーム21に固定された支持部94に伝動軸93が回転自在に支持されて、伝動軸93が後車軸ケース28の上側に配置されている(側面視で右及び左の機体フレーム21と後車軸ケース28との間に配置されている)。伝動軸93に自在継手82を介して伝動軸95が接続され、伝動軸95が苗植付装置5に接続されている。これにより、図5,7,8に示すように、伝動軸60の動力が、株間変速装置85、ベベルギヤ87,88、植付クラッチ92、出力軸86、伝動軸93,95を介して苗植付装置5に伝達される。
【0048】
[6]
次に、繰り出し部13への伝動構造について説明する。
図3,5,10に示すように、走行出力軸78におけるミッションケース17から突出する部分において、走行出力軸78における自在継手82とミッションケース17との間の部分に伝動ギヤ96が固定されており、伝動ギヤ96を覆うように伝動ケース97(伝動機構に相当)が、ベアリング98を介して相対回転自在に走行出力軸78及び伝動ギヤ96に外嵌されて、走行出力軸78及び伝動ギヤ96と一緒に連れ回りしないように、伝動ケース97がミッションケース17に接続されている。
【0049】
図3,5,10に示すように、伝動ケース97に出力軸99が備えられて後向きに突出しており、出力軸99がミッションケース17の後部の下部(平面視で機体の左右中央CLの少し右側の位置)に位置している。伝動ケース97の内部において、出力軸99に伝動ギヤ100が相対回転自在に外嵌され、伝動ギヤ96,100が咬合しており、シフト部材101がスプライン構造にて出力軸99に一体回転及びスライド自在に外嵌され、シフト部材101を伝動ギヤ100との咬合側に付勢するバネ102が備えられている。これにより、伝動ケース97の内部において、走行出力軸78の動力を出力軸99に伝動及び遮断自在なクラッチ103が構成されている。
【0050】
図3に示すように、クラッチ103を遮断状態に操作(シフト部材101を伝動ギヤ100から離し操作)する操作アーム104が、伝動ケース97の右側部に備えられ、補強部材20に開口部20aが形成されており、操作アーム104が補強部材20の開口部20aに臨んでいる。図3及び図8に示すように、植付クラッチ92を遮断状態に操作(シフト部材89をベベルギヤ87から離し操作)する操作ロッド91が、操作アーム104と同様にミッションケース17から右側に突出している。
【0051】
図3,4,5に示すように、伝動軸105(伝動機構に相当)が出力軸99に接続されて後方に延出され、平面視で機体の左右中央CLの少し右側の位置に配置されており、右及び左の機体フレーム21に固定された支持部106に伝動軸105が回転自在に支持されて、伝動軸105が後車軸ケース28の上側に配置されている(側面視で右及び左の機体フレーム21と後車軸ケース28との間に配置されている)。伝動軸105に操作アーム105aが固定されており、上方に位置する繰り出し部13の入力部13aと伝動軸105の操作アーム105aとに亘って、連係ロッド107(伝動機構に相当)が接続されている。これにより走行出力軸78の動力が、伝動ケース97(伝動ギヤ96,100、クラッチ103及び出力軸99)を介して伝動軸105に伝達され、伝動軸105の回転動力が押し引きの動力として、連係ロッド107を介して繰り出し部13の入力部13aに伝達される。
【0052】
[発明の実施の別形態]
前述の[発明を実施するための最良の形態]に代えて、図11に示すように構成してもよい。
図11に示すように、肥料を貯留するホッパー12及び繰り出し部13を運転座席11の後側に固定するのではなく、支持フレーム108を後車軸ケース28に固定して上方に延出し、支持フレーム108にホッパー12及び繰り出し部13を固定するように構成する。このように構成すると、後車軸ケース28の後部に出力軸109を備え、入力軸38の動力が分岐されて出力軸109に伝達されるように構成し、出力軸109の操作アーム109aと繰り出し部13の入力部13aとに亘って連係ロッド110を接続する。
これにより、走行出力軸78の動力が、伝動軸84及び入力軸38を介して、出力軸109に伝達され、出力軸109の回転動力が押し引きの動力として、連係ロッド110を介して繰り出し部13の入力部13aに伝達される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】乗用型田植機の全体左側面図
【図2】後車軸ケース、右及び左の後輪への伝動系を示す平面図
【図3】後車軸ケースの支持構造、ミッションケースから後車軸ケースへの伝動系及びミッションケースから繰り出し部への伝動系を示す右側面図
【図4】後車軸ケースの支持構造、ミッションケースから後車軸ケースへの伝動系及びミッションケースから繰り出し部への伝動系を示す左側面図
【図5】後車軸ケースの支持構造、ミッションケースから後車軸ケースへの伝動系及びミッションケースから繰り出し部への伝動系を示す平面図
【図6】後車軸ケースの支持構造、ミッションケースから後車軸ケースへの伝動系及びミッションケースから繰り出し部への伝動系、ミッションケースから苗植付装置への伝動系を示す正面図
【図7】ミッションケースの横断平面図
【図8】ミッションケースにおける株間変速装置の付近の横断平面図
【図9】前輪支持部の付近の縦断正面図
【図10】走行出力軸及び伝動ケースの付近の縦断右側面図
【図11】発明の実施の別形態における後車軸ケースの支持構造、ミッションケースから後車軸ケースへの伝動系及びミッションケースから繰り出し部への伝動系を示す左側面図
【符号の説明】
【0054】
2 右及び左の後輪
12 ホッパー
13 繰り出し部
15 供給部
17 ミッションケース
19 エンジン
21 機体の支持部材
28 後車軸ケース
32 サスペンション機構
78 走行出力軸
82 自在継手
84 伝動軸
97,105,107 伝動機構
103 クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを機体に備え、ミッションケースを機体に固定して、右及び左の後輪を機体にサスペンション機構を介して支持し、
前記エンジンの動力がミッションケースに伝達されて、右及び左の後輪に伝達されるように構成すると共に、
粉粒体を貯留するホッパー及び繰り出し部を機体に備えて、前記繰り出し部から繰り出された粉粒体が、供給部を介して田面に供給されるように構成し、
前記ミッションケースからの動力を繰り出し部に伝達して繰り出し部を駆動する伝動機構を備えてある水田作業車。
【請求項2】
エンジンを機体に備え、ミッションケースを機体に固定して、右及び左の後輪を備えた後車軸ケースを機体にサスペンション機構を介して支持し、
前記エンジンの動力がミッションケースに伝達され、前記ミッションケースに備えられた走行出力軸の動力が自在継手及び伝動軸を介して、前記後車軸ケースに伝達されるように構成すると共に、
粉粒体を貯留するホッパー及び繰り出し部を機体に備えて、前記繰り出し部から繰り出された粉粒体が、供給部を介して田面に供給されるように構成し、
前記ミッションケースからの動力を繰り出し部に伝達して繰り出し部を駆動する伝動機構を備えてある水田作業車。
【請求項3】
前記走行出力軸がミッションケースから突出し、前記走行出力軸の端部に自在継手が接続され、前記自在継手に伝動軸が接続されて、前記走行出力軸の動力が後車軸ケースに伝達されるように構成すると共に、
前記走行出力軸の自在継手が接続された部分とミッションケースとの間の部分から、動力を取り出して前記繰り出し部に伝達するように、前記伝動機構を構成してある請求項2に記載の水田作業車。
【請求項4】
前記伝動機構における走行出力軸の近傍部分に、動力を伝動及び遮断自在なクラッチを備えてある請求項3に記載の水田作業車。
【請求項5】
前記サスペンション機構を介して後車軸ケースを支持する機体の支持部材と後車軸ケースとの間を通して、前記伝動機構を配置してある請求項2〜4のうちのいずれか一つに記載の水田作業車。
【請求項6】
前記機体の支持部材に伝動機構を支持させている請求項5に記載の水田作業車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−87366(P2006−87366A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−277827(P2004−277827)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】