説明

汚れ検知方法、及び医療用観察システム

【課題】良好な観察視野を確保するのに好適な汚れ検知方法を提供すること。
【解決手段】所定の時間間隔で撮影される各画像を複数の領域に分割するステップと、分割された各領域の画像情報を演算するステップと、演算された画像情報を所定の記憶媒体に記憶するステップと、所定数分の画像情報が記憶媒体に記憶されたとき、各領域につき該所定数分の画像情報を相互に比較して差分を計算するステップと、差分の無い領域の数をカウントするステップと、カウントされた領域の数が第一の閾値以上である場合には、観察視野面が汚れていると判定するステップとを含む汚れ検知方法を提供すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、体腔内を撮影する撮影装置の観察視野面の汚れを検知するのに適した汚れ検知方法、及び汚れ検知機能を有する医療用観察システムに関する。
【背景技術】
【0002】
医師が患者の体腔内を観察するときに使用する医療機器として電子スコープが一般的に知られている。電子スコープを使用する医師は、電子スコープの挿入部を体腔内に挿入して、挿入部の先端に備えられた先端部を観察対象近傍に導く。医師は、先端部に搭載されたCCD(Charge Coupled Device)等の固体撮像素子により体腔内を撮影するため、電子スコープやビデオプロセッサの操作部を必要に応じて操作する。医師は、各種操作を行った結果得られる体腔内の映像をモニタを通じて観察し検査や施術等を行う。
【0003】
電子スコープの先端部の外面に露出された対物レンズ面には、体液や残渣等の異物が付着することがある。この種の異物を除去するための機構として、例えば送気送水機構が一般的に知られている。送気送水機構を備える医療用観察システムの具体的構成例は、例えば特許文献1に記載されている。特許文献1に記載の医療用観察システムにおいては、術者が所定のスイッチ操作をした時、洗浄水が送気送水機構によって先端部の対物レンズ等に向けて送水される。対物レンズ等の観察視野上に付着した異物は、送水された洗浄水により吹き飛ばされて除去される。このため、良好な視野が得られることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−237820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の医療用観察システムにおいては、術者本人が施術中等に異物を除去するか否かを主観的に判断する必要がある。そのため、例えば術者本人や他の関係者が撮影画像を術後に改めて(客観的に)確認してみると、思っていたよりも多くの異物が観察視野に付着して、観察視野が不鮮明であり、適切な確認作業を行えない問題点が指摘されている。
【0006】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、良好な観察視野を確保するのに好適な汚れ検知方法、及び医療用観察システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決する本発明の一形態に係る汚れ検知方法は、体腔内を撮影する撮影装置の観察視野面の汚れを検知するのに適した方法であり、次のステップで構成される。すなわち、本発明に係る汚れ検知方法は、所定の時間間隔で撮影される各画像を複数の領域に分割する画像分割ステップと、該分割された各領域の画像情報を演算する画像情報演算ステップと、該演算された画像情報を所定の記憶媒体に記憶する画像情報記憶ステップと、所定数分の画像情報が記憶媒体に記憶されたとき、各領域につき該所定数分の画像情報を相互に比較して差分を計算する差分計算ステップと、差分の無い領域の数をカウントするカウントステップと、該カウントされた領域の数が第一の閾値以上である場合には、観察視野面が汚れていると判定する汚れ判定ステップとから構成される。
【0008】
本発明によれば、観察視野面の汚れが自動的に検知されるため、術者の主観に依存することの無い安定した汚れ検知が実現される。また、数フレームに亘る相関を、画像を細分化して領域毎に検出することで、精度の高い汚れ検知が可能である。
【0009】
本発明に係る汚れ検知方法は、観察視野面を第一の方向に所定角度回転させる視野面回転ステップと、回転の直後に撮影された画像を座標変換して、第一の方向と逆の第二の方向に所定角度回転させた画像を生成する変換画像生成ステップと、第一の方向への回転直前の撮影画像と、座標変換後の生成画像とを比較して、対応する各領域の差分を計算する回転前後差分計算ステップと、回転の前後で差分の無い領域の数をカウントする回転前後カウントステップとを更に含む方法としてもよい。この場合、汚れ判定ステップでは、回転前後カウントステップでカウントされた領域の数が第二の閾値以上である場合に、観察視野面が汚れていると判定される。
【0010】
本発明に係る汚れ検知方法は、所定の情報に基づいて撮影装置の体腔内の位置を推定する位置推定ステップと、該推定された位置に応じて所定数を変更する数変更ステップとを更に含む方法としてもよい。ここで、所定の情報は、例えば撮影装置が体腔内に投入されてから経過した時間であってもよく、又は撮影装置から発信される電波を受信する複数のアンテナの受信強度比であってもよい。
【0011】
本発明に係る汚れ検知方法は、領域のサイズを設定変更する領域サイズ変更ステップを更に含む方法としてもよい。
【0012】
汚れ検知に利用する画像情報には、撮影場所や撮影条件等に影響を受け難い色相情報が望ましい。
【0013】
上記の課題を解決する本発明の一形態に係る医療用観察システムは、所定の観察視野面と、該観察視野面を介して体腔内を所定の時間間隔で撮影する撮影手段と、該時間間隔で撮影される各画像を複数の領域に分割する画像分割手段と、該分割された各領域の画像情報を演算する画像情報演算手段と、該演算された画像情報を所定の記憶媒体に記憶する画像情報記憶手段と、所定数分の画像情報が記憶媒体に記憶されたとき、各領域につき該所定数分の画像情報を相互に比較して差分を計算する差分計算手段と、該差分の無い領域の数をカウントする領域カウント手段と、該カウントされた領域の数が第一の閾値以上である場合には、観察視野面が汚れていると判定する汚れ判定手段とを有するシステムである。
【0014】
本発明に係る医療用観察システムは、観察視野面を第一の方向に所定角度回転させる視野面回転手段と、回転の直後に撮影された画像を座標変換して、第一の方向と逆の第二の方向に所定角度回転させた画像を生成する変換画像生成手段と、第一の方向への回転直前の撮影画像と、座標変換後の生成画像とを比較して、対応する各領域の差分を計算する回転前後差分計算手段と、回転の前後で差分の無い領域の数をカウントする回転前後カウント手段とを更に有する構成としてもよい。この場合、汚れ判定手段は、回転前後カウント手段によりカウントされた領域の数が第二の閾値以上である場合に、観察視野面が汚れていると判定する。
【0015】
本発明に係る医療用観察システムは、所定の情報に基づいて、観察視野面を有する撮影部の体腔内の位置を推定する位置推定手段と、該推定された位置に応じて所定数を変更する数変更手段とを更に有する構成としてもよい。ここで、所定の情報は、例えば撮影部が体腔内に投入されてから経過した時間である。
【0016】
また、撮影部は無線通信機能を有するカプセル型内視鏡であってもよい。この場合、医療用観察システムは、カプセル型内視鏡から発信される電波を受信する複数のアンテナと、各アンテナの受信強度比に基づいて、カプセル型内視鏡の体腔内の位置を推定する位置推定手段と、該推定された位置に応じて所定数を変更する数変更手段とを更に有する構成としてもよい。
【0017】
本発明に係る医療用観察システムは、画像分割の領域のサイズを設定変更する領域サイズ変更手段を更に有する構成としてもよい。
【発明の効果】
【0018】
このように本発明によれば、良好な観察視野を確保するのに好適な汚れ検知方法、及び医療用観察システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第一実施形態の医療用観察システムの使用状態を示す使用状態図である。
【図2】本発明の第一実施形態の医療用観察システムの構成を模式的に示す構成図である。
【図3】本発明の第一実施形態のカプセル型内視鏡の内部構成を模式的に示すブロック図である。
【図4】本発明の第一実施形態のビデオプロセッサの構成を概略的に示したブロック図である。
【図5】本発明の第一実施形態のカプセル型内視鏡の先端側の外観側面を模式的に示す外観側面図である。
【図6】本発明の第一実施形態の医療用観察システムで実行される異物除去処理のフローチャートを示す図である。
【図7】本発明の第一実施形態のカプセル型内視鏡の先端側の内部構成を模式的に示す内部構成図である。
【図8】本発明の第一実施形態のカプセル型内視鏡が有する可動支持部付近の構成を模式的に示す側面図である。
【図9】本発明の第二実施形態のカプセル型内視鏡の構成を模式的に示す側面図である。
【図10】本発明の第三実施形態のカプセル型内視鏡の構成を模式的に示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態のカプセル型内視鏡を有する医療用観察システムについて説明する。
【0021】
図1は、本発明の第一実施形態の医療用観察システム1の使用状態を示す使用状態図である。図2は、第一実施形態の医療用観察システム1の構成を模式的に示す構成図である。
【0022】
図1に示されるように、医療用観察システム1を使用して体腔内を撮影するに際して、着衣10が患者Pに装着される。着衣10には、全面に亘って、カプセル型内視鏡100とのデータの送受をするためのアンテナアレイ(不図示)が実装されている。着衣10の側部には、アンテナアレイに接続された通信装置20が取り付けられている。通信装置20には、HDD(Hard disk drive)等のストレージ(不図示)が内蔵されている。図2に示されるように、通信装置20は、所定のケーブルを介してビデオプロセッサ30と接続されている。ビデオプロセッサ30には、カプセル型内視鏡100によって撮影された画像を表示するモニタ40が接続されている。
【0023】
カプセル型内視鏡100は、体腔内の画像を採取するため、患者Pの口等から体腔内に投入される。図3は、カプセル型内視鏡100の内部構成を模式的に示すブロック図である。図3では説明に必要な構成要素を明瞭に示すため、各構成要素を保持する部材や回路間の結線等について一部図示省略している。図3中一点鎖線AXは、カプセル型内視鏡100の光学構成部分の光軸であり、カプセル型内視鏡100本体の中心軸でもある。カプセル型内視鏡100は、内蔵電源(不図示)により供給される電力、又はビデオプロセッサ30から通信装置20を介して無線で供給される電力によって駆動される。
【0024】
図3に示されるように、カプセル型内視鏡100は、各構成要素を支持する非透過性の筐体102を有している。カプセル型内視鏡100の先端は、透過性を有する透明カバー104で覆われている。カプセル型内視鏡100は、照明ユニット106を有している。照明ユニット106から照射される照明光は、透明カバー104を介して患者Pの体腔内を照明する。
【0025】
照明ユニット106により照明された体腔内からの反射光は、透明カバー104を介して撮影光学系108に入射される。当該反射光は、撮影光学系108のパワーにより固体撮像素子110の受光面上で光学像を結ぶ。固体撮像素子110は、受光面上の各画素で結像した光学像を光量に応じた電荷として蓄積して画像信号に変換する。変換された画像信号は、DSP(Digital Signal Processor)112によって所定の信号処理がされた後、送受信回路114、アンテナ116を介して無線で発信される。アンテナ116から発信された画像信号は、着衣10のアンテナアレイにより受信されて通信装置20で検波され、通信装置20の内蔵ストレージに保存される。又は、検波後、通信装置20からビデオプロセッサ30に速やかに転送される。
【0026】
図4は、ビデオプロセッサ30の構成を概略的に示すブロック図である。ビデオプロセッサ30の各構成要素は、システムコントローラ31によって統括的に制御されている。通信装置20からビデオプロセッサ30に転送された画像信号は、図4に示される前段処理回路32に入力される。前段処理回路32は、入力された画像信号にサンプリング、ホールド、A/D変換等の各種処理を施してフレームメモリ33に出力する。フレームメモリ33は、例えば数フレーム分の画像をバッファリング可能な容量を持つ。バッファリングされた各フレーム画像は、システムコントローラ31によるタイミング制御に従って後段処理回路34に順次出力される。後段処理回路34は、入力されたフレーム画像をNTSC(National Television Standards Committee)やPAL(Phase Alternating Line)等の所定の規格に準拠した映像信号に変換してモニタ40に順次出力する。これにより、カプセル型内視鏡100によって撮影された画像がモニタ40に表示される。
【0027】
図5は、カプセル型内視鏡100の先端側の外観側面を模式的に示す外観側面図である。図5に示されるように、筐体102の周方向には、複数の穴102aが形成されている。各穴102aには、可動支持部122が配置されている。なお、穴102aの穴径と可動支持部122の外径は寸法差が微差であり図5の縮尺では判別し難い。そのため、図5においては、図面を明瞭にする便宜上、穴102aと可動支持部122とを同一の指示線で指示している。
【0028】
図5に示されるように、カプセル型内視鏡100の先端には、透過性フィルム120が透明カバー104全面に密着して該全面を覆った状態で複数枚重ねられている。透過性フィルム120は、透光率の高い材料により構成されている。従って、透過性フィルム120を複数枚重ねた場合にも、透過性フィルム120透過時の光損失は、実質的には生じない。なお、透過性フィルム120は、後述するように体腔内で破棄されることがある。そのため、透過性フィルム120は、例えばコラーゲンやキチン、酸化セルロース等の、人体に対する生体親和性や安全性が保障された生体適合性材料で構成されている。
【0029】
透過性フィルム120は、係止穴120aがフィルム周縁部の複数箇所(例えば2箇所)に開けられている。透過性フィルム120は、2箇所の係止穴120aがそれぞれ異なる可動支持部122に掛けられる。係止穴120aが掛けられる可動支持部122は、透過性フィルム120間でも互いに異なる。透過性フィルム120は、2箇所の係止穴120aが別個の可動支持部122に掛けられたとき、弾性限界に近いテンションがフィルム全面に掛かった状態で透明カバー104全面に密着し該全面を覆う。
【0030】
透明カバー104に付着し得る体液や残渣等の異物は、透過性フィルム120を利用して良好に除去される。図6は、第一実施形態の医療用観察システム1で実行される異物除去処理のフローチャートを示す図である。異物除去処理は、例えばカプセル型内視鏡100の電源が投入されてから切断されるまで所定のタイミング毎に実行される。異物除去処理は、例えばカプセル型内視鏡100とビデオプロセッサ30とが連携処理して実行されるものとしてもよく、或いはカプセル型内視鏡100の単独処理で実行されるものとしてもよい。ここでは、異物除去処理は、前者の連携処理により実行されるものとして説明を行う。なお、以降の本明細書中の説明並びに図面において、処理ステップは「S」と省略して記す。
【0031】
システムコントローラ31は、図6に示されるように、フレーム画像を複数の領域に分割して、各分割領域の画像情報(輝度情報及び色情報)を解析する(S1)。システムコントローラ31は、解析処理の結果得られた各分割領域の色相情報を色相記憶用メモリ35に記憶させる(S2)。色相記憶用メモリ35には、各分割領域につき例えば所定フレーム数分の色相情報が記憶されて、一定時間経過後順次破棄される。
【0032】
システムコントローラ31は、所定フレーム数(所定時間)分の色相情報が色相記憶用メモリ35に記憶された段階で、フレーム間の色相情報の比較を分割領域毎に行う(S3)。システムコントローラ31は、比較処理の結果に基づいて、色相情報が所定フレーム数に対応する期間継続して変化しない(つまり、フレーム間の色相情報の差分値が実質的に0である)分割領域を異物付着領域として検出し、検出された異物付着領域の数をカウントする(S4)。
【0033】
なお、透明カバー104に付着した異物の明度及び彩度は、観察対象物との距離に応じた、該観察対象物からの反射光の強度変化に依存して変化してしまう。すなわち、明度情報及び彩度情報、或いは輝度情報は、撮影場所や撮影条件等に依存して変動が大きいため、判断基準として利用し難い。異物付着領域の検出には、撮影場所や撮影条件等に影響を受け難い色相情報が適している。
【0034】
また、カプセル型内視鏡100によって撮影される画像は、撮影場所によって頻繁に変化したり長時間変化しなかったりする。S3及びS4の処理において異物付着領域の検出精度を向上させるため、検出の際の判断基準であるフレーム数を撮影場所に応じて適宜設定変更してもよい。カプセル内視鏡100の体腔内の位置(撮影場所)は、例えば臨床試験や研究、実験等を重ねることにより、体腔内投入後の経過時間から予測できるようになる。システムコントローラ31は、例えばカプセル型内視鏡100とハンドシェイクして(例えばカプセル型内視鏡100の電源投入直後)からの経過時間を体腔内投入後の経過時間としてカウントする。システムコントローラ31は、カウントされた経過時間に基づいてカプセル内視鏡100の体腔内の位置を推定して、上記のフレーム数を適宜設定変更する。また、アンテナ116から発信された画像信号の強度は、伝播距離の二乗に反比例する。着衣10のアンテナアレイの各アンテナの位置は既知であるため、システムコントローラ31は、各アンテナの受信信号の強度比に基づいてカプセル内視鏡100の体腔内の大凡の位置を推定することもできる。
【0035】
ここで、異物に対する検出分解能を向上させたい場合には、分割領域を細かいサイズに設定するとよい。分割領域を細かく設定するほど異物の形やサイズに依存すること無く様々な異物を高精度に検出することができる。一方、異物除去処理の実行時におけるビデオプロセッサ30の各構成要素の負担を軽減させたい場合には、分割領域を粗いサイズに設定するとよい。分割領域のサイズは、術者によるシステムコントローラ31の操作に応じて適宜設定変更することができる。
【0036】
異物付着領域の画像は、同じ色相で継続して写り込んだものであるため、複数枚のうち表面に露出された最外面の透過性フィルム120に付着された粘着性の高い異物である可能性が高い。異物付着領域の数が第一の閾値未満である場合(S5:NO)、透過性フィルム120に付着された異物が少量であり、撮影に支障をきたすほど観察視野が妨げられていない。そのため、システムコントローラ31は、S1の処理に復帰して、観察視野中の異物付着領域の数の監視を継続する。
【0037】
異物付着領域の検出精度は、検出の際の判断基準であるフレーム数を多く(時間を長く)するほど向上する。しかし、検出判断の基準フレーム数を多くするほど異物が付着した状態での撮影が長くなる弊害が生じる。システムコントローラ31は、異物付着領域の数が第一の閾値以上である場合(S5:YES)、検出判断の基準フレーム数を抑えつつも検出精度を向上させるべく、所定の第一の制御信号を通信装置20を介してカプセル型内視鏡100に送信する(S6)。
【0038】
図7は、カプセル型内視鏡100の先端側の内部構成を模式的に示す内部構成図である。図7では、図面を明瞭化するため、可動支持部122及びその周辺構造を図示省略している。筐体102は、筐体可動部102bと筐体本体部102cの2部品で構成されている。筐体可動部102bは、筐体本体部102cに対して中心軸AX周りに摺動回転自在に筐体本体部102cに支持されている。透明カバー104は、筐体可動部102bと接着されており、筐体本体部102cに対して筐体可動部102bと共に中心軸AX周りに回転自在である。
【0039】
図7に示されるように、透明カバー104の基端側であって撮影光学系108の前面側には、透明カバー104と一体に形成された透過性を有する従動ギヤ104aが配置されている。従動ギヤ104aは、ギヤ形状に入射された光の内部散乱を抑制するため、歯底円が撮影光学系108の瞳外であるように位置及び寸法が設計されている。すなわち、従動ギヤ104aは、撮影画像の画質に実質的に影響を及ぼさない。
【0040】
従動ギヤ104aには、モータ118に軸支された主動ギヤ118aが連結されている。DSP112は、S6の処理で送信された第一の制御信号に従ってモータ118を駆動制御する。モータ118は、例えばステッピングモータであり、主動ギヤ118aを所定角度回転させる。従動ギヤ104aが主動ギヤ118aに従動して回転することにより、透明カバー104、筐体可動部102b、更に透過性フィルム120が一体となって、筐体本体部102cをはじめとするカプセル型内視鏡100の各種内部構成要素(少なくとも撮影光学系108及び固体撮像素子110を含む)に対して中心軸AX周りに回転する。このときの回転角度は、S6の処理で送信された第一の制御信号に従って予め定められており、例えば角度αである。
【0041】
システムコントローラ31は、回転前後のフレーム画像を比較して各分割領域の色相情報の差分値を検出する(S7)。具体的には、システムコントローラ31は、透明カバー104を角度α回転させた直後のフレーム画像を座標変換して−α度回転させて、回転直前の状態に戻す。次いで、回転直前状態に戻されたフレーム画像と、回転直前のフレーム画像とを比較して、対応する各分割領域の色相情報の差分値を検出する。透過性フィルム120に付着された異物は透明カバー104と共に回転しているため、ここで検出される差分値が実質的に0(0又は0に近似する所定範囲内の値)である分割領域は、異物付着領域である可能性が非常に高い。従って、システムコントローラ31は、検出される差分値が実質的に0である分割領域の数が第一の閾値(又は第一の閾値より小さい第二の閾値)以上である場合(S8:YES)、透過性フィルム120に付着された異物が多く撮影に支障をきたすから、S9のクリーニング処理を実行する。システムコントローラ31は、検出される差分値が実質的に0である分割領域の数が第一の閾値(又は第一の閾値より小さい第二の閾値)未満である場合には(S8:NO)、透過性フィルム120に付着された異物が少量であり実質的に撮影に支障をきたさないから、S1の処理に復帰して観察視野中の異物付着領域の数の監視を継続する。なお、透明カバー104の回転は、異物除去処理の実行時のビデオプロセッサ30の負担軽減のため、異物除去処理と別個独立に(例えば定期的に)実行されるようにしてもよい。
【0042】
図8は、可動支持部122付近の構成を模式的に示す側面図である。図8に示されるように、可動支持部122は、付勢バネ124によって図面下方向(矢印B方向)に付勢が掛けられており、軸126を中心に回転するカム128に連結されている。可動支持部122は、初期的に、係止穴120aを掛けて透過性フィルム120を取り付けるため、図8中破線に示された位置に配置されている。
【0043】
なお、図8中、穴102aと可動支持部122との間には比較的大きなクリアランスが形成されている。しかし、カプセル型内視鏡100は極めて微細な構成を有しており、かかるクリアランスも非常に小さい。また、筐体102又は可動支持部122の表面には例えば所定の撥水処理が施されている。従って、穴102aからカプセル型内視鏡100内部に体液等が浸水する虞は無い。
【0044】
S9の処理においてシステムコントローラ31は、所定の第二の制御信号を通信装置20を介してカプセル型内視鏡100に送信する。カプセル型内視鏡100のDSP112は、受信された第二の制御信号に従って、最外面の透過性フィルム120に対応するモータ(不図示)を駆動させる。
【0045】
上記モータの駆動力は、軸126を介してカム128に伝達されて、カム128を図8中矢印A方向に回転させる。カム128の回転力は、可動支持部122に伝達されて可動支持部122を図8中矢印B方向に移動させる。可動支持部122が初期位置から矢印B方向に所定量移動されたとき、透過性フィルム120(係止穴120a)は、可動支持部122から外れる。なお、同一の透過性フィルム120の各係止穴120aに掛けられる2本の可動支持部122は、例えば機械的に連結しており、互いに同期したタイミングで矢印B方向に移動されるように構成されている。カム128が矢印A方向に更に回転を続けると、可動支持部122は、カム128に連動して初期位置に復帰する。
【0046】
各透過性フィルム120は、外面側に重ねられた別の透過性フィルム120により覆われている。そのため、体液や残渣等の異物は、表面に露出された最外面の透過性フィルム120にだけ付着する。従って、観察視野を妨げていた異物は、最外面の透過性フィルム120がカプセル型内視鏡100から外れると同時に観察視野から完全に無くなる。カプセル型内視鏡100は、最外面に新たに現れた透過性フィルム120に異物が付着するまで(全ての透過性フィルム120を使用した場合には透明カバー104自体に異物が付着するまで)良好な視野で撮影を続けることができる。すなわち、第一実施形態によれば、粘着性の強い異物が付着した場合にも観察視野から確実に除去することができ、良好な視野が保証される。
【0047】
図9(a)は、本発明の第二実施形態のカプセル型内視鏡100zの構成を模式的に示す側面図である。図9(b)は、図9(a)中の領域C近傍を拡大して示した拡大図である。第二実施形態のカプセル型内視鏡100zは、透過性フィルム120をカプセル型内視鏡100z本体から外すための構成のみ第一実施形態のカプセル型内視鏡100と相違する。なお、第二実施形態以降の各実施形態において、第一実施形態の構成と同一の又は同様の構成には同一の又は同様の符号を付して説明を省略する。
【0048】
図9(b)に示されるように、カプセル型内視鏡100zは、図8に示される可動支持部122及びその周辺構造の代替として、マニピュレータ130を有している。マニピュレータ130は、筐体102の内部に配置されたモータ(不図示)に連結された軸130aを中心として図9(b)中矢印D方向に回転する。マニピュレータ130の周縁部には、複数の把持部130bが形成されている。各把持部130bは、それぞれ異なる透過性フィルム120を把持している。外面側に重ねられた透過性フィルム120ほど矢印D方向の上流側の把持部に弾性限界に近いテンションで把持されている。
【0049】
カプセル型内視鏡100zのDSP112は、図6のS9の処理で送信された制御信号を受信したとき、上記モータを駆動させて、マニピュレータ130を矢印D方向に所定角度回転させる。異物が付着されている最外面の透過性フィルム120は、マニピュレータ130の回転に伴って弾性限界を超えたテンションが掛かり破断して、観察視野から外れる。第二実施形態においても第一実施形態と同じく、異物が付着されていた透過性フィルム120自体を観察視野から外すため、粘着性の強い異物が付着した場合にも観察視野から確実に除去することができ、良好な視野が保証される。
【0050】
図10(a)、図10(b)はそれぞれ、本発明の第三実施形態のカプセル型内視鏡100yの構成を模式的に示す下面図、側面図である。図10(c)は、図10(b)中の領域L近傍を拡大して示した拡大図である。第三実施形態のカプセル型内視鏡100yは、透過性フィルムの形態及び該フィルムをカプセル型内視鏡100y本体から外すための構成のみ第一実施形態のカプセル型内視鏡100と相違する。
【0051】
図10(a)〜(c)の各図に示されるように、カプセル型内視鏡100yは、中心軸AX方向に延びてカプセル型内視鏡100y本体を外面全周に亘って覆う透過性フィルム120yを有している。カプセル型内視鏡100yは、本体下面側に搬送機構142を有している。
【0052】
搬送機構142は、例えばモータ、該モータにより回転される主動ローラ、及び該主動ローラに従動して回転する従動ローラを有している(何れも不図示)。透過性フィルム120yは、搬送機構142内部で主動ローラと従動ローラに狭持されており、該ローラの回転に伴って図10(b)中矢印E方向に送られる(スライド移動される)。搬送機構142のフィルム送り方向の下流側端部には、クリーニングブレード144が設けられている。図10(c)に示されるように、クリーニングブレード144は、透過性フィルム120yが送られたとき、透過性フィルム120の表面に付着された異物Mを掻き取る。第三実施形態においては、クリーニングブレード144による異物の除去を図6のS9の処理で送信された制御信号の受信時に又は定期的に実施することにより、良好な観察視野が維持される。
【0053】
透過性フィルム120yは、例えば連続紙プリンタで用いられるファンホールド紙のように、送り穴が両サイドに開けられたタイプとしてもよい。かかる場合、搬送機構142には、トラクタユニット(不図示)が設けられている。透過性フィルム120yは、送り穴がトラクタユニットのベルト部に係合されており、ベルト部の回転に伴って図10(b)中矢印E方向に送られることとなる。
【0054】
なお、第三実施形態に示される異物を除去するための構成は、側視型のカプセル型内視鏡(図10(d)参照)にも適用可能である。同じく第一又は第二実施形態の構成も、側視型のカプセル型内視鏡に適用可能である。
【0055】
以上が本発明の実施形態の説明である。本発明は、上記の構成に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲において様々な変形が可能である。例えば透過性フィルム120は、異物が付着し難い素材であれば、複数枚用意する必要が無く一枚だけであってもよい。
【0056】
第一実施形態の可動支持部122を移動させる駆動機構には、当該実施形態で示された駆動機構以外に、例えば圧電アクチュエータやソレノイドを搭載した駆動機構が考えられる。
【0057】
図6の異物除去処理は、例えば電源オン時に継続的に実行される必要はなく、例えばカプセル型内視鏡100が特定位置(例えば小腸等)に到達したときに実行開始されるようにしてもよい。
【0058】
第一又は第二実施形態においても第三実施形態と同じく、透過性フィルム120の取り外し又は破断を、図6のS9の処理で送信された制御信号の受信時のタイミングに限らず定期的に実行するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 医療用観察システム
10 着衣
20 通信装置
30 ビデオプロセッサ
40 モニタ
100 カプセル型内視鏡
120 透過性フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体腔内を撮影する撮影装置の観察視野面の汚れを検知する汚れ検知方法において、
所定の時間間隔で撮影される各画像を複数の領域に分割する画像分割ステップと、
前記分割された各領域の画像情報を演算する画像情報演算ステップと、
前記演算された画像情報を所定の記憶媒体に記憶する画像情報記憶ステップと、
所定数分の前記画像情報が前記記憶媒体に記憶されたとき、各前記領域につき該所定数分の画像情報を相互に比較して差分を計算する差分計算ステップと、
前記差分の無い領域の数をカウントするカウントステップと、
前記カウントされた領域の数が第一の閾値以上である場合には、前記観察視野面が汚れていると判定する汚れ判定ステップと、
を含むことを特徴とする汚れ検知方法。
【請求項2】
前記観察視野面を第一の方向に所定角度回転させる視野面回転ステップと、
前記回転の直後に撮影された画像を座標変換して、前記第一の方向と逆の第二の方向に前記所定角度回転させた画像を生成する変換画像生成ステップと、
前記第一の方向への回転直前の撮影画像と、前記座標変換後の生成画像とを比較して、対応する各前記領域の差分を計算する回転前後差分計算ステップと、
前記回転の前後で前記差分の無い領域の数をカウントする回転前後カウントステップと、
を更に含み、
前記汚れ判定ステップにおいて、前記回転前後カウントステップでカウントされた領域の数が第二の閾値以上である場合に、前記観察視野面が汚れていると判定されることを特徴とする、請求項1に記載の汚れ検知方法。
【請求項3】
所定の情報に基づいて前記撮影装置の前記体腔内の位置を推定する位置推定ステップと、
前記推定された位置に応じて前記所定数を変更する数変更ステップと、
を更に含むことを特徴とする、請求項1又は請求項2の何れか一項に記載の汚れ検知方法。
【請求項4】
前記所定の情報は、前記撮影装置が前記体腔内に投入されてから経過した時間、又は前記撮影装置から発信される電波を受信する複数のアンテナの受信強度比であることを特徴とする、請求項3に記載の汚れ検知方法。
【請求項5】
前記領域のサイズを設定変更する領域サイズ変更ステップを更に含むことを特徴とする、請求項1から請求項4の何れか一項に記載の汚れ検知方法。
【請求項6】
前記画像情報は色相情報であることを特徴とする、請求項1から請求項5の何れか一項に記載の汚れ検知方法。
【請求項7】
所定の観察視野面と、
前記観察視野面を介して体腔内を所定の時間間隔で撮影する撮影手段と、
前記時間間隔で撮影される各画像を複数の領域に分割する画像分割手段と、
前記分割された各領域の画像情報を演算する画像情報演算手段と、
前記演算された画像情報を所定の記憶媒体に記憶する画像情報記憶手段と、
所定数分の前記画像情報が前記記憶媒体に記憶されたとき、各前記領域につき該所定数分の画像情報を相互に比較して差分を計算する差分計算手段と、
前記差分の無い領域の数をカウントする領域カウント手段と、
前記カウントされた領域の数が第一の閾値以上である場合には、前記観察視野面が汚れていると判定する汚れ判定手段と、
を有することを特徴とする医療用観察システム。
【請求項8】
前記観察視野面を第一の方向に所定角度回転させる視野面回転手段と、
前記回転の直後に撮影された画像を座標変換して、前記第一の方向と逆の第二の方向に前記所定角度回転させた画像を生成する変換画像生成手段と、
前記第一の方向への回転直前の撮影画像と、前記座標変換後の生成画像とを比較して、対応する各前記領域の差分を計算する回転前後差分計算手段と、
前記回転の前後で前記差分の無い領域の数をカウントする回転前後カウント手段と、
を更に有し、
前記汚れ判定手段は、前記回転前後カウント手段によりカウントされた領域の数が第二の閾値以上である場合に、前記観察視野面が汚れていると判定することを特徴とする、請求項7に記載の医療用観察システム。
【請求項9】
所定の情報に基づいて、前記観察視野面を有する撮影部の前記体腔内の位置を推定する位置推定手段と、
前記推定された位置に応じて前記所定数を変更する数変更手段と、
を更に有することを特徴とする、請求項7又は請求項8の何れか一項に記載の医療用観察システム。
【請求項10】
前記所定の情報は、前記撮影部が前記体腔内に投入されてから経過した時間であることを特徴とする、請求項9に記載の医療用観察システム。
【請求項11】
前記撮影部は無線通信機能を有するカプセル型内視鏡であって、
前記医療用観察システムは、
前記カプセル型内視鏡から発信される電波を受信する複数のアンテナと、
各前記アンテナの受信強度比に基づいて、前記カプセル型内視鏡の前記体腔内の位置を推定する位置推定手段と、
前記推定された位置に応じて前記所定数を変更する数変更手段と、
を更に有することを特徴とする、請求項7又は請求項8の何れか一項に記載の医療用観察システム。
【請求項12】
前記領域のサイズを設定変更する領域サイズ変更手段を更に有することを特徴とする、請求項7から請求項11の何れか一項に記載の医療用観察システム。
【請求項13】
前記画像情報は色相情報であることを特徴とする、請求項7から請求項12の何れか一項に記載の医療用観察システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−36582(P2011−36582A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188996(P2009−188996)
【出願日】平成21年8月18日(2009.8.18)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】