説明

深海用群電池ユニット、およびセルの電圧値を均等化させる方法、並びにプログラム

【課題】均圧容器に封入された群電池の各セルの電圧値の均等化を、群電池が均圧容器に封入されたまま行い、群電池の充電状態を最適に保つこと。
【解決手段】群電池21〜24は、電圧・温度測定部61と、バランス回路51〜58と、通信制御部62と、を有し、群電池制御部は、個々の通信制御部25から送信された測定結果を受信し、その測定結果に基づいて、個々の群電池21〜24のセル40〜47の電圧値が全ての群電池21〜24において均等になるように、個々の群電池21〜24の通信制御部62に放電実行指示を送信するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、深海用群電池ユニット、およびセルの電圧値を均等化させる方法、並びにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
深海(たとえば深度200m(メートル)以上)を航行する深海探査機は、充電を行うことにより繰り返し使用することができる二次電池を搭載し、この二次電池から電力が供給される電動機を利用して航行する。このような深海探査機では、二次電池として鉛蓄電池に比べ、重量に対する容量比が大きいリチウムイオン電池が使用されている(たとえば特許文献1参照)。なお、鉛蓄電池はリチウムイオン電池に比べ容量比は小さいが、セル毎の電圧値のバラツキに関してはあまり問題にならない。
【0003】
二次電池の単体(以下ではセルと称する)の電圧は、たとえばリチウムイオン電池などでは3.6V(ボルト)程度である。このため、一般的には、セルを複数直列に接続した集合化電池として使用される。たとえば8セルの集合化電池は、28.8Vである。さらに必要に応じて、集合化電池が直列に接続されて使用される。たとえば電動機が100V以上の電圧を必要とするものであれば、8セルの集合化電池を4つ直列に接続して115.2Vを得るようにしている。なお、本明細書において「群電池」とは、上述の集合化電池を含むバッテリ部と、このバッテリ部を監視または制御する電圧監視ボードとを有するものをいう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−153117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、集合化電池は、複数のセルを直列に接続している。このため、個々のセルの充放電特性の差異により、充放電を繰り返すのに伴ってセル毎の電圧値に差(バラツキ)が生じるようになる。この状態を放置したまま充放電をさらに繰り返せば、セル毎の電圧値のバラツキはますます大きくなり、最終的には、充放電不能な事態に陥る。
【0006】
このような事態を回避するためには、定期的に、セル毎の電圧値を測定し、電圧値が高いセルについては放電を行うなどにより、各セルの電圧値を均等化する必要がある。
【0007】
深海探査機の集合化電池は、大きな水圧(深度10m毎に1気圧ずつ増加)に耐えるため、非導電性の液体(たとえば流動パラフィン)が充填された均圧容器に封入されている。したがって、集合化電池を、均圧容器からいったん取り出し、セル毎に分解してその電圧値を個別に測定し、必要に応じてセル毎に放電を行い、その後に再びセルを集合化電池に組み立て、充電を行い、再度、均圧容器に封入することが必要となり、きわめて手間のかかる作業が必要となる。
【0008】
本発明は、このような背景の下に行われたものであって、均圧容器に封入された運用状態にある集合化電池の、全セルの電圧および、集合化電池部の温度測定等の監視が可能となり、集合化電池の運用を最適に保つことができると共に、均圧容器に封入された集合化電池の各セルの電圧値の均等化を、集合化電池が均圧容器に封入されたまま行い、集合化電池の充電状態を最適に保つことができる深海用群電池ユニット、およびセルの電圧値を均等化させる方法、並びにプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のひとつの観点は、深海用群電池ユニットとしての観点である。本発明の深海用群電池ユニットは、充電により繰り返し使用可能な二次電池のセルが複数直列に接続されたバッテリ部を有する群電池と、群電池がさらに複数直列に接続され、非導電性の液体が充填された均圧容器と、を有する深海用群電池ユニットにおいて、群電池は、バッテリ部を構成するセルの個々についてその電圧を測定する電圧測定手段と、バッテリ部を構成するセルの個々についてその電力を放電させる放電手段と、電圧測定手段の測定結果を送信すると共に放電手段への放電実行指示を受信する通信手段と、を有し、個々の通信手段から送信された測定結果を受信し、その測定結果に基づいて、個々の群電池のバッテリ部を構成するセルの電圧値が全ての群電池において均等になるように、個々の群電池の通信手段に放電実行指示を送信する群電池制御手段を有するものである。
【0010】
このとき、個々の群電池の通信手段は、デイジーチェーン接続により群電池制御手段に接続されることができる。
【0011】
さらに、バッテリ部の温度を測定する温度測定手段を有し、群電池制御手段は、温度測定手段の測定結果が所定の値を超えたときには、群電池の放電または充電を停止させることができる。
【0012】
また、バッテリ部の電流を測定する電流測定手段を有することもできる。
【0013】
本発明のさらに他の観点は、セルの電圧値を均等化させる方法である。本発明のセルの電圧値を均等化させる方法は、充電により繰り返し使用可能な二次電池のセルが複数直列に接続されたバッテリ部を有する群電池と、群電池がさらに複数直列に接続され、非導電性の液体が充填された均圧容器と、を有する深海用群電池ユニットにおけるセルの電圧値を均等化させる方法において、群電池の電圧測定手段が、バッテリ部を構成するセルの個々についてその電圧を測定するステップを実行し、群電池の放電手段が、バッテリ部を構成するセルの個々についてその電力を放電させるステップを実行し、群電池の通信手段が、電圧測定手段の測定結果を送信すると共に放電手段への放電実行指示を受信するステップを実行し、深海用群電池ユニットの群電池制御手段が、個々の通信手段から送信された測定結果を受信し、その測定結果に基づいて、個々の群電池のバッテリ部を構成するセルの電圧値が全ての群電池において均等になるように、個々の群電池の通信手段に放電実行指示を送信するステップを実行するものである。
【0014】
本発明のさらに他の観点は、プログラムとしての観点である。本発明のプログラムは、コンピュータに、本発明の深海用群電池ユニットにおける群電池制御手段の機能を実現させるプログラムであって、コンピュータに、個々の通信手段から送信された測定結果を受信し、その測定結果に基づいて、個々の群電池のバッテリ部を構成するセルの電圧値が全ての群電池において均等になるように、個々の群電池の通信手段に放電実行指示を送信する機能を実現させるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、均圧容器に封入された運用状態にある群電池の、全セルの電圧および、バッテリ部の温度測定等の監視が可能となり、群電池の運用を最適に保つことができると共に、均圧容器に封入された群電池の各セルの電圧値の均等化を、群電池が均圧容器に封入されたまま行い、群電池の充電状態を最適に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態の深海探査システムの全体構成を示す図である。
【図2】図1の深海探査機の構成を示す図である。
【図3】図2の群電池ユニットの構成を示す図である。
【図4】図3の群電池の構成を示す図である。
【図5】比較例として1セルからなる電池の放電終止電圧値および充電終止電圧値を示す図である。
【図6】4セルからなる群電池の放電終止電圧値および充電終止電圧値を示す図である。
【図7】各セルの電圧値にバラツキがあり1つのセルが充電終止電圧値である4セルからなる群電池の放電終止電圧値および充電終止電圧値を示す図である。
【図8】各セルの電圧値にバラツキがあり1つのセルが放電終止電圧値である4セルからなる群電池の放電終止電圧値および充電終止電圧値を示す図である。
【図9】図3の群電池制御部の動作を示すフローチャートであり、各セルの電圧値を均等化させる工程を示す図である。
【図10】図3の群電池制御部の動作を示すフローチャートであり、充電工程を示す図である。
【図11】その他の実施の形態の群電池の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(概要)
本発明の実施の形態の深海探査システムは、図1に示すように、深海探査機1と母船2とを有する。深海探査機1は、無人であっても有人であってもよい。また、自立航行型であっても、遠隔制御型であってもよい。
【0018】
図1の例では、超音波などを用いた無線通信により、深海探査機1と母船2とが通信を行っている様子を双方向の矢印で示しているが、通信は、ケーブルを用いた有線通信であってもよい。なお、深海とは、一般的に、深度200m以上をいう。また、水圧は、深度が10m増す毎に1気圧ずつ増加する。たとえば深度200mであれば、水圧は、21気圧になる。
【0019】
深海探査機1は、図2に示すように、群電池ユニット10から電動機11に電力を供給し(実線矢印)、電動機11が推進器12を回転させる。これらの群電池ユニット10および電動機11は、制御装置13によって制御される(一点鎖線矢印)。たとえば制御装置13は、群電池ユニット10の群電池21〜24(図3)のSOC(State of Charge:充電状態)を監視し、電動機11に群電池ユニット10から供給される電力を調整する。さらに、群電池ユニット10は、照明機器14および撮影機器15に対しても電力を供給し(実線矢印)、制御装置13は、照明機器14および撮影機器15を制御する(一点鎖線矢印)。また、制御装置13は、母船2との通信を行い、深海探査機1の各種の情報などを母船2に送信し(上向きの白抜き矢印)、母船2からの制御指示などを受信する(下向きの白抜き矢印)。たとえば制御装置13が群電池ユニット10の群電池21〜24のSOCを母船2に連絡することにより、母船2では、探査があとどれくらい継続可能か否かなどを判断することができる。
【0020】
群電池ユニット10は、たとえばリチウムイオン電池で構成され、母船2に引き揚げられてから、充電が実施されるが、充電に先立って、群電池を構成する各セルの電圧値が測定され、各セルに電圧値の差がある場合には、セル個別放電などを実施して各セルの電圧値の均等化が図られる。
【0021】
(群電池ユニット10の構成について)
群電池ユニット10は、図3に示すように、均圧容器20と、均圧容器20に封入されている群電池21,22,23,24と、群電池制御部(請求項でいう群電池制御手段)25と、ヒューズ26,27と、水中コネクタ28,29とを有して構成される。
【0022】
均圧容器20は、内部に非導電性の液体(たとえば流動パラフィン)が充填されており、均圧容器20の外部に水圧が加えられると、均圧容器20の内部の液体の圧力が外部の圧力と均等になる。これにより均圧容器20の外部から海水などが均圧容器20の内部に浸入することを避けることができる。このように均圧容器20は、内部の液体の圧力が外部の海水の圧力と均等となるため、均圧容器20の内部にある群電池21,22,23,24、群電池制御部25、ヒューズ26,27などは、高圧に耐え得る部材を用いて構成されている。たとえば、コンデンサなどのデバイスでは、デバイスの内部に空間や空洞を有する電解コンデンサなどは使用できない。その他のデバイスについても内部に空間や空洞を有するものは使用されない。
【0023】
群電池21〜24は、それぞれインタフェース部(I/F部)30,31,32、−側の出力端子33、+側の出力端子34を有する。群電池21〜24は、直列に接続され、ヒューズ26,27および水中コネクタ28を介して電動機11などの負荷に電力を供給すると共に、充電用の電源に水中コネクタ28を介して接続され、充電が実施される。一方、群電池21〜24のインタフェース部30,31,32は、デイジーチェーン接続により群電池制御部25に接続されている。
【0024】
群電池制御部25は、デイジーチェーン接続された群電池21〜24の群電池21のインタフェース部32に接続されると共に、水中コネクタ29を介して制御装置13などの上位管理装置に接続されている。群電池制御部25は、深海探査機1が海中を航行中には、群電池21〜24の電圧および温度の情報を収集し、この情報を制御装置13などの上位管理装置に伝達する。また、群電池制御部25は、深海探査機1が母船2に引き揚げられ、群電池21〜24に充電が行われる際には、充電に先立って、後述するセル40〜47の電圧値の均等化が図られ、その後、群電池21〜24が充電される。
【0025】
また、群電池制御部25は、コンピュータであり、CPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、マイクロプロセッサ(マイクロコンピュータ)、DSP(Digital Signal Processor)などにより構成され、内部に、演算処理部、メモリ、およびI/O(Input/Output)ポートなどを有し、インストールされているプログラムを実行することによって、当該コンピュータに、群電池制御部25としての機能が実現される。
【0026】
水中コネクタ28は、群電池21〜24の放電時(深海探査機1が海中を航行中)には、負荷(電動機11、照明機器14、または撮影機器15など)が接続され、群電池21〜24の充電時(深海探査機1が母船2に引き揚げられているとき)には、充電用の電源が接続される。
【0027】
水中コネクタ29は、群電池制御部25を、上位管理装置である制御装置13または群電池制御部25に指示を与える上位管理装置(不図示)などに接続する際に使用される。
【0028】
(群電池21〜24の構成について)
群電池21,22,23,24のそれぞれは、図4に示すように、バッテリ部35および電圧監視ボード36を有して構成される。バッテリ部35は、−側の出力端子33と、+側の出力端子34と、セル40,41,42,43,44,45,46,47と、温度センサ(請求項でいう温度測定手段の一部)48,49とを有して構成される。電圧監視ボード36は、インタフェース部(I/F部)(請求項でいう通信手段の一部)30,31,32と、シリアル/パラレル変換部(S/P変換部)(請求項でいう通信手段の一部)50と、バランス回路(請求項でいう放電手段)51,52,53,54,55,56,57,58と、バッテリスタックモニタ59とを有して構成される。また、バッテリスタックモニタ59は、切替部60と、電圧・温度測定部(請求項でいう電圧測定手段、温度測定手段)61と、通信制御部(請求項でいう通信手段の一部)62とを有して構成される。
【0029】
インタフェース部30は、図3に示すように、は、群電池制御部25を最上位としたときに、上位側とデイジーチェーン接続されるインタフェースである。また、インタフェース部31は、群電池制御部25を最上位としたときに、下位側とデイジーチェーン接続されるインタフェースである。インタフェース部32は、群電池制御部25と通信を行うインタフェースである。具体的には、インタフェース部32は、群電池21〜24からの電圧情報または温度情報などの信号を終端し、群電池制御部25が受信可能な信号形態に変換して群電池制御部25に送信する。または、インタフェース部32は、群電池制御部25から群電池21〜24への制御指示などの信号を終端し、群電池21〜24の通信制御部62が受信可能な信号形態に変換して群電池21〜24に送信する。
【0030】
バッテリ部35のセル40〜47は、たとえば1セル当り最大3.6Vのリチウムイオン電池であり、8個のリチウムイオン電池が直列に接続された集合化電池を構成し、最大28.8Vの電圧を出力端子33,34に出力する。
【0031】
バッテリ部35の温度センサ48,49は、バッテリ部35の温度状態を把握するため温度を測定する。温度センサ48,49は、たとえばNTC ( negative temperature coefficient)型のサーミスタにより構成される。
【0032】
電圧監視ボード36のバランス回路51〜58は、セル40〜47にそれぞれ並列に接続され、内部に放電用の抵抗器(不図示)と、セル40〜47とこの抵抗器とを接断制御するためのスイッチング素子(トランジスタ、電界効果トランジスタなど)(不図示)とを有し、切替部60による切替制御に応じてセル40〜47を個別に放電させることができる。
【0033】
電圧監視ボード36内のバッテリスタックモニタ59の切替部60は、切替部60に接続されている全ての部材の接断制御を実施するためのスイッチング素子を有する。これにより切替部60は、通信制御部62を介して伝達される制御指示信号に基づいて、バランス回路51〜58内部の抵抗器とセル40〜47との接断制御を実施すると共に、セル40〜47および温度センサ48,49と電圧・温度測定部61との接断制御を実施する。
【0034】
電圧監視ボード36内のバッテリスタックモニタ59の電圧・温度測定部61は、切替部60によりセル40〜47のいずれかと接続されたときに、そのセル40〜47の電圧値を測定する。また、切替部60により温度センサ48,49と接続されたときに、その測定結果を取得する。これらの電圧値および温度値の情報は、電圧・温度測定部61から通信制御部62に伝達されて制御装置13に到達する。
【0035】
電圧監視ボード36内のバッテリスタックモニタ59の通信制御部62は、電圧・温度制御部61から伝達された情報をインタフェース部30〜32を介して群電池制御部25に送信すると共に、群電池制御部25からの制御指示信号を受信してこれを切替部60に伝達する。
【0036】
電圧監視ボード36内のシリアル/パラレル変換部50は、インタフェース部30〜32からのパラレル信号をシリアル信号に変換して通信制御部62に出力すると共に、通信制御部62からのシリアル信号をパラレル信号に変換してインタフェース部30〜32に出力する。
【0037】
(動作について)
群電池ユニット10の動作を、主に群電池制御部25の動作に着目して説明する。群電池制御部25の動作は、大きく2つの場合に分けることができる。その1つは、深海探査機1が海中を航行中における動作である。もう1つは、深海探査機1が母船2に引き揚げられた後、群電池21〜24に充電を実施するときにおける動作である。
【0038】
(深海探査機1が海中を航行中における群電池制御部25の動作について)
深海探査機1が海中を航行中には、群電池制御部25は、群電池ユニット10の群電池21〜24の電圧および温度の情報を収集し、収集したこれらの情報を制御装置13に伝達する。制御装置13は、群電池制御部25から伝達された情報に基づいて、群電池21〜24の消耗度合などを考慮しながら負荷(電動機11、照明機器14、または撮影機器15など)の制御を実施する。あるいは群電池21〜24のバッテリ部35の温度が異常に高くなったり、あるいは、群電池21〜24を構成するセル40〜47の電圧が異常に低くなったような場合、制御装置13は、群電池ユニット10と負荷との接続を断ち、電動機11を不図示の予備電源などの非常用電源装置に接続した上で深海探査機1を緊急浮上させるなどの制御を実施することが可能となる。
【0039】
(深海探査機1が母船2に引き揚げられて充電を実施する際の群電池制御部25の動作について)
次に、深海探査機1が母船2に引き揚げられて充電を実施する際の群電池制御部25の動作について説明する。
【0040】
この説明に先立って、個々のセルの充放電特性の差異により、充放電を繰り返すのに伴ってセル毎の電圧値に差(バラツキ)が生じることによる蓄電(バッテリ)容量の低下について説明する。
【0041】
群電池21〜24における使用可能電圧範囲について、図5〜図8を参照して説明する。図5では、比較例として1セルからなる電池を図示し、図6〜図8では、4セルからなる群電池を図示する。図中のハッチング領域の面積でその電池の使用可能電圧範囲を表している。また、ハッチング領域で示した使用可能電圧範囲は、そのセルの充電容量にも相当する。
【0042】
リチウムイオン電池は、過充電および過放電によるダメージが大きいため、放電終止電圧値と充電終止電圧値とが明確に規定されている。図5は、比較例として1セルからなる電池のおける使用可能電圧範囲を示している。群電池21〜24を構成する個々のセルについては、図5に示すように、放電終止電圧値と充電終止電圧値との間が使用可能電圧範囲になる。
【0043】
直列接続された複数のセルからなる群電池であっても、図6に示すように、各セルの電圧値が均等に充電されていれば、図5で示した1セルの電池の使用可能電圧範囲と同じ電圧範囲が使用可能である。なお、図5および図6に示した使用可能電圧範囲がそのセルまたは群電池が取り得る最大の使用可能電圧範囲である。
【0044】
これに対し、各セルの電圧値にバラツキが生じた場合において充電され、図7に示すように、1つのセルの電圧が充電終止電圧値に達してしまうと、他のセルも充電できなくなる。またこの充電状態から放電が行われた場合、図8に示すように、1つのセル(図中右端のセル)が放電終止電圧値に達してしまうと電池群全体からの放電は停止しないと劣化する。すなわち使用可能電圧範囲が、図5および図6に示した使用可能電圧範囲と比べて使用可能電圧範囲が狭くなっており、これにより充電容量についても減少していることがわかる。
【0045】
このように、群電池21〜24では、それぞれの群電池21〜24を構成しているセル40〜47の電圧値が均等であることが要求される。また、このことは、群電池21〜24を直列に接続した場合についても同様に考えることができる。すなわち、群電池ユニット10では、群電池21〜24の電圧値が均等であることが要求される。そこで、セル40〜47の電圧値を均等化させ、さらには、群電池21〜24の電圧値を均等化させるために、群電池制御部25では、以下に示すセル40〜47の電圧値を均等化させる工程を実施する。
【0046】
図9のフローチャートは、深海探査機1が母船2に引き揚げられた後、充電を開始するのに先立って行われるセル40〜47の電圧値を均等化させる工程を示している。
【0047】
START:群電池制御部25は、セル40〜47の電圧値を均等化させる工程の開始を指示されると、ステップS1の手続きに進む。なお、群電池制御部25に対し、セル40〜47の電圧値を均等化させる工程の開始を指示する方法としては、たとえば水中コネクタ29に、群電池制御部25に指示を与えるためのオペレータ端末などを接続し、オペレータがこのオペレータ端末を介して群電池制御部25に指示を与えるようにする。
【0048】
ステップS1:群電池制御部25は、群電池21〜24の通信制御部62を介して切替部60に制御指示を送信し、電圧・温度測定部61に、個々のセル40〜47の電圧値を測定させる。具体的には、切替部60は、電圧・温度測定部61を、順次、セル40〜47に接続し、電圧・温度測定部61に、個々のセル40〜47の電圧値を測定させる。この測定結果は、電圧・温度測定部61から通信制御部62を介して群電池制御部25に伝達される。群電池制御部25が群電池21〜24の個々のセル40〜47の電圧値の測定を完了すると、手続きはステップS2に進む。
【0049】
ステップS2:群電池制御部25は、測定した群電池21〜24のそれぞれのセル40〜47の電圧値にバラツキが有るか否かを判定する。ここで、バラツキが有ると判定されると、手続きは、ステップS3に進む。一方、バラツキが無いと判定されると、工程を終了する(END)。
【0050】
ステップS3:群電池制御部25は、群電池21〜24の全てのセル40〜47の中で、最小電圧値のセル(これをセルminとする)を特定して手続きはステップS4に進む。
【0051】
ステップS4:群電池制御部25は、セルmin以外の群電池21〜24のそれぞれのセル40〜47の放電を開始する。すなわち、群電池制御部25は、通信制御部62を介して切替部60に指示を送信し、セルmin以外の群電池21〜24のそれぞれのセル40〜47がバランス回路51〜58内部の抵抗器に電流を流せるように、セル40〜47とバランス回路51〜58との間の接続関係を制御し、ステップS5の手続きに進む。
【0052】
具体的には、たとえばセル40のみを放電させたい場合、群電池制御部25は、バランス回路51内部の抵抗器がセル40に対して並列に接続された状態となるように、切替部60およびバランス回路51内部のスイッチング素子を制御する。これにより、セル40の電流がバランス回路51に流れ込み、セル40が放電を開始する。また、たとえばセル40,41の2つを放電させたい場合には、群電池制御部25は、バランス回路51,52内部のそれぞれの抵抗器が直列に接続された状態とし、さらに、直列に接続されているセル40,41に対して、バランス回路51,52内部の直列接続された抵抗器が並列に接続された状態となるように、切替部60およびバランス回路51,52内部のスイッチング素子を制御する。これにより、セル40,41からの電流がバランス回路51,52内部の抵抗器に流れ込み、セル40,41が放電を開始する。このようにして他のセル40〜47の放電についても同様に制御される。また、電圧値がセルminと同じになったセル40〜47については、放電を終了させる。
【0053】
ステップS5:群電池制御部25は、ステップS4の手続きに並行してステップS1で説明した手続きと同様に、群電池21〜24のそれぞれのセル40〜47の電圧値を測定し、群電池21〜24の全てのセル40〜47の電圧値が均等化されたか否かを判定する。ここで、群電池21〜24の全てのセル40〜47の電圧値が均等化されたと判定されると工程を終了する(END)。一方、群電池21〜24のいずれかのセル40〜47の電圧値が均等化されていないと判定されると手続きは、ステップS1に戻る。
【0054】
このようにして、図9に示す群電池21〜24の全てのセル40〜47の電圧値を均等化させる工程が終了すると、群電池ユニット10に対して充電工程が開始される。図10のフローチャートは、セル40〜47の電圧値を均等化させる工程が終了した後の充電工程を示している。
【0055】
START:群電池ユニット10の水中コネクタ28に、充電用の電源が接続され、群電池制御部25に、充電工程の開始が指示されると、ステップS6の手続きに進む。なお、群電池制御部25に対する指示の方法は、図9で説明したように、水中コネクタ29に接続されたオペレータ端末などを介してオペレータが行うようにする。あるいは、水中コネクタ28に充電用の電源が接続されたことを群電池制御部25が自律的に検出できる構成をさらに追加し、群電池制御部25が水中コネクタ28に充電用の電源が接続されたことを検出すると、自動的に、ステップS6の手続きに進むようにしてもよい。
【0056】
ステップS6:群電池制御部25は、充電が開始されると、群電池21〜24のそれぞれの切替部60に制御指示を送信し、温度センサ48,49と電圧・温度測定部61とを接続することによりバッテリ部35の温度を測定する。
【0057】
ステップS7:群電池制御部25は、群電池21〜24のそれぞれのバッテリ部35の温度が正常か否かを判定する。ここで、バッテリ部35の温度が正常であると判定されると手続きはステップS8に進む。一方、バッテリ部35の温度が正常でない(すなわち異常)と判定されるとステップS9の手続きに進む。
【0058】
ステップS8:群電池制御部25は、群電池21〜24のそれぞれのセル40〜47の電圧値を測定し、群電池21〜24のそれぞれのセル40〜47のいずれかの電圧値が充電終止電圧値に達したか否かを判定する。ここで、群電池21〜24のそれぞれのセル40〜47のいずれかの電圧値が充電終止電圧値に達したと判定されると充電工程を終了する(END)。一方、群電池21〜24のそれぞれのセル40〜47のいずれの電圧値も未だ充電終止電圧値に達していないと判定されると手続きは、ステップS7に戻る。
【0059】
なお、群電池制御部25は、群電池21〜24のそれぞれのセル40〜47のいずれかの電圧値が充電終止電圧値に達したと判定されると充電工程を終了するが、充電工程に先立って、セル40〜47の電圧値を均等化させる工程を経ているので、群電池21〜24のそれぞれのセル40〜47の充電終止電圧値は、ほぼ同じになる。したがって、群電池制御部25は、群電池21〜24のそれぞれのセル40〜47のいずれかの電圧値が充電終止電圧値に達したと判定されると充電工程を終了するが、実質的には、ほぼ全ての群電池21〜24のそれぞれのセル40〜47において、ほぼ同じ充電終止電圧値に達した時点で、充電工程を終了できる。
【0060】
ステップS9:群電池制御部25は、充電を停止させて工程を終了する(END)。
【0061】
(効果について)
このように、群電池制御部25によれば、均圧容器20に封入されている群電池21〜24を均圧容器20から取り出すことなく、群電池21〜24のセル40〜47の電圧値の均等化を行い、群電池21〜24の充電状態を最適に保つことができる。これにより、群電池制御部25は、群電池21〜24のそれぞれのセル40〜47のいずれかの電圧値が充電終止電圧値に達したと判定されると充電工程を終了するが、実質的には、ほぼ全ての群電池21〜24のそれぞれのセル40〜47において、ほぼ同じ充電終止電圧値に達した時点で、充電工程を終了できる。したがって、図6で説明したように、群電池ユニット10は、最大容量を確保できる。
【0062】
また、群電池21〜24のインタフェース部30〜32は、デイジーチェーン接続により群電池制御部25に接続されるので、均圧容器20から外部への制御信号線の本数を少なくすることができる。これは群電池数がさらに増えた場合でも同様である。このように、均圧容器20から外部への制御信号線の本数を少なくすることは、超高圧下で使用される均圧容器20においては、きわめて有用である。たとえば、水中コネクタ28,29では、外部のケーブルと接続される接触子(ピン)の取付部には、厳重な耐圧シールが施される。水中コネクタ28,29において、このような厳重な耐圧シールを施す必要のある接触子の数が少なくなることは、性能の面およびコストの面において、きわめて有用である。
【0063】
また、バッテリ部35の温度を測定する温度センサ48,49を有し、群電池制御部25は、電圧・温度測定部61の測定結果が所定の値を超えたときには、群電池21〜24の放電または充電を停止させるので、セル40〜47の異常時に重大な事態が発生することを高い精度で避けることができる。
【0064】
このような群電池ユニット10を有する深海探査機1によれば、群電池21〜24を永い時間にわたり高い効率で安全に利用することができ、深海探査の効率化を図ることができる。
【0065】
(その他の実施の形態について)
本発明の実施の形態は、その要旨を逸脱しない限り、様々に変更が可能である。たとえば温度センサ48,49を省略し、電圧・温度測定部61は、電圧値のみを測定可能としてもよい。これによれば、温度によるバッテリ部35の異常検出はできないが、電圧監視のみにより異常の検出は可能である。また、温度センサ48,49を省略し、電圧・温度測定部61は、電圧値のみを測定可能としてもセル40〜47の電圧値の均等化工程などは実施することができる。
【0066】
また、図11に示すように、電流センサ(請求項でいう電流測定手段の一部)70を有し、群電池ユニット10Aに流れる電流を測定することにより、群電池制御部(請求項でいう電流測定手段の一部および群電池制御手段)25A、またはその上位管理装置などにおいて、電圧値、電流値と時間から消費容量(Ah)が計算できるので有用である。なお、電圧値とSOCとの関係を予めシミュレーションにより求めておくことにより、電圧値のみのよってもSOCの測定は可能である。
【符号の説明】
【0067】
1…深海探査機、2…母船、10…群電池ユニット、20…均圧容器、21〜24…群電池、25…群電池制御部(群電池制御手段)、25A…群電池制御部(電流測定手段の一部、群電池制御手段)30,31,32…インタフェース部(通信手段の一部)、40〜47…セル、48,49…温度センサ(温度測定手段の一部)、50…シリアル/パラレル変換部(通信手段の一部)、51〜58…バランス回路(放電手段)、61…電圧・温度測定部(電圧測定手段、温度測定手段)、61A…電圧・電流・温度測定部(電流測定手段の一部)、62…通信制御部(通信手段の一部)、70…電流センサ(電流測定手段の一部)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電により繰り返し使用可能な二次電池のセルが複数直列に接続されたバッテリ部を有する群電池と、前記群電池がさらに複数直列に接続され、非導電性の液体が充填された均圧容器と、を有する深海用群電池ユニットにおいて、
前記群電池は、
前記バッテリ部を構成する前記セルの個々についてその電圧を測定する電圧測定手段と、
前記バッテリ部を構成する前記セルの個々についてその電力を放電させる放電手段と、
前記電圧測定手段の測定結果を送信すると共に前記放電手段への放電実行指示を受信する通信手段と、
を有し、
個々の前記通信手段から送信された前記測定結果を受信し、その測定結果に基づいて、個々の前記群電池の前記バッテリ部を構成する前記セルの電圧値が全ての前記群電池において均等になるように、個々の前記群電池の前記通信手段に前記放電実行指示を送信する群電池制御手段を有する、
ことを特徴とする深海用群電池ユニット。
【請求項2】
請求項1記載の深海用群電池ユニットであって、
個々の前記群電池の前記通信手段は、デイジーチェーン接続により前記群電池制御手段に接続される、
ことを特徴とする深海用群電池ユニット。
【請求項3】
請求項1または2記載の深海用群電池ユニットであって、
前記バッテリ部の温度を測定する温度測定手段を有し、
前記群電池制御手段は、前記温度測定手段の測定結果が所定の値を超えたときには、前記群電池の放電または充電を上位管理装置に通知し停止させる、
ことを特徴とする深海用群電池ユニット。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項記載の深海用群電池ユニットであって、
前記バッテリ部の負荷放電電流および充電電流を測定する電流測定手段を有する、
ことを特徴とする深海用群電池ユニット。
【請求項5】
充電により繰り返し使用可能な二次電池のセルが複数直列に接続されたバッテリ部を有する群電池と、前記群電池がさらに複数直列に接続され、非導電性の液体が充填された均圧容器と、を有する深海用群電池ユニットにおける前記セルの電圧値を均等化させる方法において、
前記群電池の電圧測定手段が、前記バッテリ部を構成する前記セルの個々についてその電圧を測定するステップを実行し、
前記群電池の放電手段が、前記バッテリ部を構成する前記セルの個々についてその電力を放電させるステップを実行し、
前記群電池の通信手段が、前記電圧測定手段の測定結果を送信すると共に前記放電手段への放電実行指示を受信するステップを実行し、
前記深海用群電池ユニットの群電池制御手段が、個々の前記通信手段から送信された前記測定結果を受信し、その測定結果に基づいて、個々の前記群電池の前記バッテリ部を構成する前記セルの電圧値が全ての前記群電池において均等になるように、個々の前記群電池の前記通信手段に前記放電実行指示を送信するステップを実行する、
ことを特徴とする前記セルの電圧値を均等化させる方法。
【請求項6】
コンピュータに、請求項1記載の深海用群電池ユニットにおける前記群電池制御手段の機能を実現させるプログラムであって、
コンピュータに、個々の前記通信手段から送信された前記測定結果を受信し、その測定結果に基づいて、個々の前記群電池の前記バッテリ部を構成する前記セルの電圧値が全ての前記群電池において均等になるように、個々の前記群電池の前記通信手段に前記放電実行指示を送信する機能を実現させる、
ことを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−221881(P2012−221881A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89303(P2011−89303)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000139377)株式会社ワイ・デー・ケー (1)
【Fターム(参考)】