説明

滑膜細胞タンパク質

【課題】新規タンパク質シノビオリン(Synoviolin)と、これをコードする遺伝子を提供する。
【解決手段】特定のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。このタンパク質は滑膜組織に特異的に発現するとともに、慢性関節リウマチ(RA)患者においてこのタンパク質を認識する自己抗体の存在を伴う。このタンパク質またはその抗体は、RAの特異的な診断マーカーとして期待でき、遺伝子またはタンパク質を利用して、RAの治療薬スクリーニングの可能性を与える。さらに、synoviolin遺伝子のトランスジェニック動物を得ることができ、このトランスジェニック動物は、RAのモデル動物として、RA治療薬開発に利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性関節リウマチ(以下RAと省略する)に関連する新規なタンパク質、このタンパク質をコードするポリヌクレオチド、そしてこれらタンパク質やポリヌクレオチドの用途に関するものである。より具体的には、RAの特異的な診断マーカーとして期待できる新規なタンパク質に関する。また、RAの治療薬開発に新しいアプローチを与える新規な遺伝子にも関連している。
【背景技術】
【0002】
RAは、関節の滑膜組織に異常な増殖が見られる全身性の慢性炎症性疾患である。滑膜細胞(synovial cell)は、関節の滑膜で1−6層の上皮様層を形成する繊維芽細胞様の細胞で、滑液にプロテオグリカンやヒアルロン酸を供給するものとされている。RA患者の関節では、滑膜組織の増殖、その結果として引き起こされる多層構造、滑膜細胞の他の組織への浸潤といったような症状が観察される。またRA患者の血清中には、自己のIgGのFc領域に対する自己抗体が存在することから、自己免疫疾患のひとつとして考えられているがその病因については未だに解明されていない。
【0003】
前述の自己のIgGを認識する自己抗体の存在は、RAの特徴的な診断指標として古くから利用されてきた。最近では、変性ヒトIgGを主成分とする自己抗体検出用キットが商業的に供給されている。なお、この自己抗体はRA因子とも呼ばれている。RA因子の検出に基づくRAの診断は、疾患に対する特異性、抗体が生じるシステムの解明がなされておらず病因との関連がはっきりしていない、といった問題点がある。
【0004】
RAの病態を、生体内における多彩な免疫反応と骨破壊を伴った関節滑膜の増殖性疾患という2つの側面からとらえた場合、前者の免疫反応に関しては多くの研究がなされ、その分子機序が明らかにされつつある。しかし後者の関節滑膜細胞の研究に関しては、それがRAの主座であるのにも関わらず、その細胞生物学的な特徴すら明らかにされていないのが現状である。RAのような、慢性・難治性疾患の発症や進展の背後にある分子機序を解明することは、疾患の診断、予防、そして治療に必要不可欠である。更に、高齢化の進行がとどまる気配の無い現状では、加齢性疾患でもあるRAの病態解明は社会的に見ても重要な課題である。
【発明の開示】
【0005】
本発明は、RAの診断や治療に新しいアプローチをもたらす新規なタンパク質、ならびにこのタンパク質をコードする新規な遺伝子の提供を課題としている。本発明が提供するタンパク質とそれをコードするポリヌクレオチドは、RAの病因により密接に関連し、診断においては有用な情報を与え、治療技術の開発に当たっては創薬に結びつくものである。さらに本発明は、該タンパク質をコードする遺伝子を発現するトランスジェニック動物、および該遺伝子を欠損させたノックアウト動物を提供することを課題としている。これらの動物は、本発明の遺伝子の機能を解析し、モデル動物としてRAの治療法や治療薬を開発するために有用である。
【0006】
本発明者らは、RA患者の培養ヒト滑膜細胞を免疫原として得た抗ヒト滑膜細胞抗体を用い、RA患者の滑膜細胞のcDNAライブラリーをイムノスクリーニングすることにより、RA患者の滑膜組織で発現している新規な遺伝子の単離に成功した。そしてこの遺伝子がコードするタンパク質を、この遺伝子が発現している組織である滑膜細胞(synovial cell)にちなんでシノビオリン(Synoviolin)と名づけた。
【0007】
本発明者らは、前記培養滑膜細胞の分子量約 80kDa、140kDa、そして 220kDa 分画に対する抗ヒト滑膜細胞抗体の反応性が、前記シノビオリン遺伝子の発現産物により吸収されることを確認した。また、これらのバンドや、前記シノビオリン遺伝子の発現産物が、RA患者の血中に存在する抗体との反応性を示すことを見出した。更に、抗ヒト滑膜細胞抗体は、RA患者の滑膜組織に対して強い反応性を示すことを確認した。
【0008】
また本発明者らは、生化学的な結合実験により、シノビオリンの天然リガンドであるシノビオリンリガンド(以下、SLと省略する)の存在を明らかにした。SLは、シノビオリンのリガンドとして本発明者らが初めて単離したタンパク質である。しかしSLをコードするDNAの塩基配列に基づく検索を試みたところ、S1-5と呼ばれる公知の遺伝子が、5'末端領域と3'末端領域において共通の塩基配列を含むことが明らかとなった。本発明者らが単離したSLとS1-5は、DNAの部分配列のみならず遺伝子の大きさ、発現産物の分子量などがほぼ同じであり、同一のタンパク質である可能性が高い。S1-5["FBNL"(fibrillin-like) または "EFEMP1"(EGF-containing fibrillin-like extracellular matrix protein 1) とも呼ばれる]は、ヒト2倍体繊維芽細胞(human diploid fibroblast)で過剰発現している遺伝子として単離された(Lecka-Czernik, B. et al., Molecular and Cellular Biology, 15, 120-128, 1995)。構造的には、DNA合成を促進するEGF様ドメイン(Epidermal Growth Factor-like domein)を持つ。S1-5については構造と核酸合成の促進活性(細胞増殖活性)は見出されている。また、最近S1-5の変異が Malattia Leventinese(ML)および Doyne honeycomb retinal dystrophy(DHRD)と関連していることが報告(Stone, E. M. et al., Nature Genetics 22, 199-202, 1999)されているものの、RAとの関連については知られていない。またシノビオリンとの親和性については、本発明者らによるまったく新規な知見であることは言うまでもない。
【0009】
さらに本発明者らは、シノビオリン遺伝子を導入したトランスジェニックマウスおよびシノビオリン遺伝子を欠損させたノックアウトマウスを作製し、その表現型を観察した。シノビオリン分子をマウスで過剰に発現させた場合、関節では滑膜の増生、骨、軟骨破壊が認められ、慢性リウマチ関節炎と酷似した症状を示した。一方、シノビオリン遺伝子を完全(ホモ)に欠損させた場合には、胎生期のマウスで不完全な肢芽発生と骨格形成が認められた。これらの表現型によると、滑膜組識だけでなく、軟骨・骨組識の発生・分化・再生、および代謝へのシノビオリンの関与が示唆される。また、シノビオリン強発現マウスの関節症の病変化部位では、滑膜、軟骨、骨組識への代謝、再生が積極的に誘導されていた。これらの結果は、シノビオリン分子がRAを含む関節症へ関与していることを明確に示すものである。更に、シノビオリン強発現マウスが関節症モデル動物として有用であることが確認された。
【0010】
本発明者らは、これらの新規な知見に基づいて、シノビオリンとその遺伝子、その抗体、あるいはリガンドの治療や診断への有用性を明らかにすることにより本発明を完成した。さらに本発明者らは、シノビオリン遺伝子を導入したトランスジェニック動物を作製し、RAの疾患モデルとしての有用性を示した。また本発明者らはシノビオリン遺伝子をlacZ遺伝子に置換したノックイン動物を作成した。シノビオリン遺伝子のノックイン動物は、シノビオリン遺伝子の欠損による影響の解析が可能となる他、シノビオリン遺伝子の内因性プロモーターにより発現されるLacZ(β-ガラクトシダーゼ活性として)の検出により、シノビオリン遺伝子プロモーターの活性を容易に検出することができる。このノックイン動物を利用して、シノビオリン遺伝子の発現を調節する化合物をスクリーニングすることが可能となる。リウマチ患者の関節でのシノビオリン遺伝子の発現亢進を抑制することにより、滑膜増生を防ぎ疾患を寛解させることも可能と考えられる。
【0011】
本発明者らが見出した遺伝子は、RAの疾患の主座である滑膜組織の増殖に密接に関連しており、診断においてはきわめて重要な情報を与えるものである。また、RAの病因である滑膜組織の増殖に関与する本発明の遺伝子、その発現産物、発現産物に対する自己抗体、更に発現産物のリガンドも、RAの病態を説明する上で不可欠な物資と考えられる。特にシノビオリンを認識する自己抗体がRA患者の血中に見出されることは、RAの診断上まったく新しいアプローチをもたらすものである。またこれらの物質は、RAの治療方法の開発においても、今までに無い新しいアプローチをもたらすものでもある。
【0012】
また、シノビオリンリガンドとして同定されたS1-5の変異が、MLおよびDHRDに関連していることから、シノビオリンもまた、これらの疾患の関与している可能性がある。従って、シノビオリンはこれらの疾患の診断に利用され得る他、シノビオリンリガンドとシノビオリンとの結合を調節する化合物や、シノビオリンのリガンドとして作用する化合物等は、これらの疾患に対する医薬の候補となる。
【0013】
また、シノビオリンは発生において未分化間葉系細胞で発現している。したがってシノビオリンを細胞マーカーとして未分化間葉系細胞をセルソーターなどにより分離することができる。分離された未分化間葉系細胞は、試験管内での組織再生のために利用することができる。試験管内で関節を再構築することができれば、慢性リウマチ患者のみならず、関節破壊に苦しむ多くの患者に対する再生医療に有用である。
【0014】
すなわち本発明は、以下のシノビオリンタンパク質、その抗体、それをコードするポリヌクレオチド、それらの用途、シノビオリンリガンドとその用途、ならびにシノビオリン遺伝子の発現が改変されたトランスジェニック動物およびその用途に関する。
〔1〕下記(a)から(e)のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(b)配列番号:1に記載の塩基配列の蛋白質コード領域を含むポリヌクレオチド、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を有し、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質をコードするポリヌクレオチド。
(d)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質をコードするポリヌクレオチド
(e)配列番号:1に記載の塩基配列と少なくとも70%以上の相同性を有する塩基配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質をコードするポリヌクレオチド
〔2〕配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質の部分ペプチドをコードするポリヌクレオチド。
〔3〕〔1〕、または〔2〕に記載のポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質またはペプチド。
〔4〕次の(1)−(3)からなる群から選択される少なくとも1つの活性を有する〔3〕に記載の蛋白質またはペプチド。
(1)慢性関節リウマチ患者の血液中に見出される抗体と結合する
(2)シノビオリンリガンドS1-5と結合する
(3)滑膜増生を促進する
〔5〕〔1〕、または〔2〕に記載のポリヌクレオチドが挿入されたベクター。
〔6〕〔1〕に記載のポリヌクレオチドまたは〔5〕に記載のベクターを保持する形質転換細胞。
〔7〕〔6〕に記載の形質転換細胞を培養し、該形質転換細胞またはその培養上清から発現させた蛋白質またはペプチドを回収する工程を含む、〔3〕に記載の蛋白質またはペプチドの製造方法。
〔8〕〔3〕に記載の蛋白質またはペプチドに結合する抗体。
〔9〕〔3〕に記載のタンパク質またはペプチドを含む、〔3〕に記載のタンパク質またはペプチドを認識する抗体を分析するための免疫学的分析用試薬。
〔10〕慢性関節リウマチの診断、または治療効果の判定を目的とするものである〔9〕の免疫学的分析用試薬。
〔11〕〔3〕に記載のタンパク質またはペプチドと反応する抗体を含む、〔3〕に記載のタンパク質を分析するための免疫学的分析用試薬。
〔12〕慢性関節リウマチの診断、または治療効果の判定を目的とするものである〔11〕に記載の免疫学的分析用試薬。
〔13〕分析すべき〔3〕に記載のタンパク質が滑膜細胞に存在するものである〔12〕の免疫学的分析用試薬。
〔14〕次の工程を含む、生体試料中の〔3〕に記載の蛋白質、および/またはその部分ペプチドに結合する抗体の測定方法。
(1)生体試料を〔3〕に記載の蛋白質、および/またはその部分ペプチドと接触させる工程、および
(2)〔3〕に記載の蛋白質、および/またはその部分ペプチドに結合する抗体を検出する工程
〔15〕次の工程を含む、生体試料中の〔3〕に記載の蛋白質、および/またはその部分ペプチドの測定方法。
(1)生体試料を〔8〕に記載の抗体と接触させる工程、および
(2)〔3〕に記載の蛋白質、および/またはその部分ペプチドに結合する、〔8〕に記載の抗体を検出する工程
〔16〕配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドまたはその相補鎖に相補的な少なくとも15ヌクレオチドを含むポリヌクレオチド。
〔17〕次の工程を含む、生体試料中の〔1〕または〔2〕に記載のポリヌクレオチドの測定方法。
(1)生体試料を〔16〕に記載のポリヌクレオチドと接触させる工程、および
(2)〔1〕または〔2〕に記載のポリヌクレオチドにハイブリダイズする、〔16〕に記載のポリヌクレオチドを検出する工程
〔18〕〔16〕に記載のポリヌクレオチドを含む、〔1〕または〔2〕に記載のポリヌクレオチドの測定用キット。
〔19〕〔3〕に記載のタンパク質または該タンパク質をコードする遺伝子の発現を指標に、該タンパク質を発現する細胞を検出または分離する方法。
〔20〕細胞がリウマチ滑膜細胞である、〔19〕に記載の方法。
〔21〕細胞が未分化間葉系細胞である、〔19〕に記載の方法。
〔22〕〔8〕に記載の抗体を含む、〔3〕に記載のタンパク質を発現する細胞の検出または分離用試薬。
〔23〕次の工程を含む、慢性関節リウマチの検出方法であって、慢性関節リウマチのマーカーが、〔1〕に記載のポリヌクレオチド、〔3〕に記載のタンパク質、〔3〕に記載のペプチド、〔3〕に記載のタンパク質に結合する抗体、および〔3〕に記載のペプチドに結合する抗体からなる群から選択された少なくともひとつのマーカーである方法。
i) 被検者の生体試料中に存在する慢性関節リウマチのマーカーを検出する工程、および
ii) 工程 i)の検出結果を、慢性関節リウマチと関連付ける工程
〔24〕生体試料が被検者の血液であり、慢性関節リウマチのマーカーが〔3〕に記載のタンパク質に結合する抗体、および/または〔3〕に記載のペプチドに結合する抗体である〔23〕に記載の方法。
〔25〕生体試料が被検者の滑膜組織または滑膜細胞であり、慢性関節リウマチのマーカーが〔1〕に記載のポリヌクレオチド、および/または〔3〕に記載のタンパク質である〔23〕に記載の方法。
〔26〕次の工程を含む、被験化合物の〔3〕に記載のタンパク質またはペプチドと結合する活性の検出方法。
a)被験化合物を〔3〕に記載のタンパク質またはペプチドと接触させる工程、および
b)被験化合物と前記タンパク質またはペプチドとの結合を観察する工程
〔27〕次の工程を含む、〔3〕に記載のタンパク質またはペプチドと結合する活性を有する化合物のスクリーニング方法。
a)〔26〕に記載の方法によって被験化合物の〔3〕に記載の蛋白質またはペプチドに対する結合活性を検出する工程、および
b)対照と比較して前記結合活性が高い被験化合物を選択する工程
〔28〕次の工程を含む、〔3〕に記載のタンパク質とそのリガンドとの結合を阻害する活性の検出方法。
a)被験化合物存在下で〔3〕に記載のタンパク質またはペプチドとそのリガンドとを接触させる工程、および
b)前記タンパク質またはペプチドに結合するリガンド、および/または被験化合物を検出する工程
〔29〕リガンドがシノビオリンリガンドS1-5である〔28〕に記載の方法。
〔30〕次の工程を含む、〔3〕に記載のタンパク質とそのリガンドとの結合を阻害する化合物のスクリーニング方法。
a)〔28〕に記載の方法によって、被験化合物の〔3〕に記載のタンパク質とそのリガンドとの結合を阻害する活性を検出する工程、および
b)対照と比較して前記阻害活性が高い被験化合物を選択する工程
〔31〕次の工程を含む、被験化合物の〔3〕に記載のタンパク質によるシグナル伝達を調節する活性を検出する方法。
a)前記タンパク質のリガンドの存在下または不存在下で、被験化合物と前記タンパク質を接触させる工程、および
b)前記タンパク質を介するシグナル伝達を検出する工程
〔32〕次の工程を含む、〔3〕に記載のタンパク質によるシグナル伝達を調節する活性を有する化合物のスクリーニング方法。
a)〔31〕に記載の方法によって、被験化合物の前記タンパク質によるシグナル伝達を調節する活性を検出する工程、および
b)対照と比較して前記調節の活性が高い被験化合物を選択する工程
〔33〕次の工程を含む、〔1〕に記載のポリヌクレオチドの発現を調節する活性の検出方法であって、
a)被験化合物の存在下で〔1〕に記載のポリヌクレオチドを発現する細胞を培養する工程、および
b)前記ポリヌクレオチドの発現レベルを測定する工程、
〔34〕次の工程を含む、〔1〕に記載のポリヌクレオチドの発現を調節する化合物のスクリーニング方法。
a)〔33〕に記載の方法によって、被験化合物の〔1〕に記載のポリヌクレオチドの発現を調節する活性を検出する工程、および
b)対照と比較して前記活性に差を有する被験化合物を選択する工程
〔35〕〔27〕に記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物を有効成分として含む、シノビオリン刺激剤。
〔36〕〔30〕に記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物を有効成分として含む、シノビオリンとシノビオリンリガンドとの結合阻害剤。
〔37〕〔30〕または〔32〕のスクリーニング方法によって得ることができる化合物を有効成分として含む、滑膜増生阻害剤。
〔38〕〔1〕若しくは〔2〕に記載のポリヌクレオチド、〔3〕に記載の蛋白質若しくはペプチド、および〔5〕に記載のベクターからなる群から選択されるいずれかの成分を有効成分として含有する医薬組成物。
〔39〕〔1〕または〔2〕に記載のポリヌクレオチドの発現が改変されているか、または該改変を誘導することができるトランスジェニック非ヒト脊椎動物。
〔40〕〔1〕または2に記載のポリヌクレオチドが外来的に導入されている、〔39〕に記載のトランスジェニック非ヒト脊椎動物。
〔41〕慢性関節リウマチモデル動物である、〔40〕に記載のトランスジェニック非ヒト脊椎動物。
〔42〕内因性に持つ〔1〕または〔2〕のいずれかに記載のポリヌクレオチドの発現が抑制されているトランスジェニック非ヒト脊椎動物。
〔43〕他の遺伝子がノックインされている、〔42〕に記載のトランスジェニック非ヒト脊椎動物。
〔44〕〔40〕または〔42〕に記載のトランスジェニック非ヒト脊椎動物に由来する細胞。
〔45〕次の工程を含む、〔1〕または〔2〕に記載のポリヌクレオチドの内因性プロモーターの活性を調節する活性の検出方法。
a)〔1〕または〔2〕に記載のポリヌクレオチドの内因性プロモーターの制御下にレポーター遺伝子を発現することができる発現系に、被験化合物を接触させる工程、および
b)レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
〔46〕前記発現系が、〔43〕に記載のトランスジェニック非ヒト脊椎動物またはこの動物に由来する細胞である〔45〕に記載の方法。
〔47〕次の工程を含む、〔1〕または〔2〕に記載のポリヌクレオチドの内因性プロモーターの活性を調節する化合物のスクリーニング方法。
a)〔45〕に記載の方法によって、被験化合物の〔1〕または〔2〕に記載のポリヌクレオチドの内因性プロモーターの活性を調節する活性を測定する工程、および
b)対照と比較して、前記活性に差がある被験化合物を選択する工程
〔48〕〔34〕、または〔47〕に記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物を有効成分として含む、〔1〕に記載のポリヌクレオチドの発現を調節するための医薬組成物。
【0015】
また本発明は、〔27〕に記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物を投与する工程を含む、シノビオリンの刺激方法に関する。あるいは本発明は、〔30〕に記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物を投与する工程を含む、シノビオリンとシノビオリンリガンドとの結合阻害方法に関する。更に本発明は、〔30〕または〔32〕のスクリーニング方法によって得ることができる化合物を投与する工程を含む、滑膜増生阻害方法に関する。加えて本発明は、〔1〕若しくは〔2〕に記載のポリヌクレオチド、〔3〕に記載の蛋白質若しくはペプチド、および〔5〕に記載のベクターからなる群から選択されるいずれかの成分を投与する工程を含む、滑膜増生促進方法に関する。更に本発明は、〔34〕、または〔47〕に記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物を投与する工程を含む、〔1〕に記載のポリヌクレオチドの発現を調節するための方法に関する。
【0016】
また本発明は、〔27〕に記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物の、シノビオリンの刺激剤の製造における使用に関する。あるいは本発明は、〔30〕に記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物の、シノビオリンとシノビオリンリガンドとの結合阻害剤の製造における使用に関する。更に本発明は、〔30〕または〔32〕のスクリーニング方法によって得ることができる化合物の、滑膜増生阻害剤の製造における使用に関する。加えて本発明は、〔1〕若しくは〔2〕に記載のポリヌクレオチド、〔3〕に記載の蛋白質若しくはペプチド、および〔5〕に記載のベクターからなる群から選択されるいずれかの成分の、滑膜増生促進剤の製造における使用に関する。更に本発明は、〔34〕、または〔47〕に記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物の、〔1〕に記載のポリヌクレオチドの発現を調節するための医薬品製剤の製造における使用に関する。
【0017】
本発明は、配列番号:1に示す塩基配列の蛋白質コード領域を含むシノビオリンをコードするポリヌクレオチドを提供する。本発明においてポリヌクレオチドは、DNAまたはRNAであってよい。また、修飾されたヌクレオチドを含むものであってもよい。本発明によるシノビオリンをコードするポリヌクレオチドは、前記RA患者の滑膜細胞から公知の方法によりクローニングすることができる(Nucleic Acid Res. 16:7583-7600, 1988)。具体的には、滑膜組織や培養細胞として回収したRA患者の関節炎を発症した組織に由来する滑膜細胞から抽出したmRNAをもとにcDNAライブラリーを得る(Nucleic Acid Research, 16, 7583, 1988)。配列番号:1に示した塩基配列に基づいて設定したプローブを用いて、このライブラリーからハイブリダイズするクローンをスクリーニングすることによってシノビオリン遺伝子を単離することができる。
【0018】
本発明はまた、先に述べたシノビオリンと機能的に同等なタンパク質をコードするポリヌクレオチドをも含む。本発明においてシノビオリンと機能的に同等な蛋白質をコードするポリヌクレオチドを、シノビオリンと機能的に同等なポリヌクレオチドと言う。機能的に同等なタンパク質とは、第1にシノビオリンと免疫学的に同等なタンパク質を示すことができる。すなわち本発明におけるシノビオリンと機能的に同等なタンパク質とは、シノビオリンを特異的に認識し、RA患者の血清中に存在する抗体と反応するものであれば、シノビオリンのドメインであることができる。あるいはこの免疫学的に活性なドメインを含むタンパク質の断片であることもできる。これらの変異体は、RA患者血清パネルと正常者の血清を使ってシノビオリンの断片をスクリーニングすることによって当業者であれば容易に選択することができる。
【0019】
本発明によるシノビオリンと機能的に同等なタンパク質は、免疫学的な特性のみならずSL(S1-5)との結合特性に基づいても定義される。すなわち本発明は、SL(S1-5)との親和性を備えるシノビオリンの断片を含む。これらの変異体は、SL(S1-5)を使って候補タンパク質をスクリーニングすることによって当業者であれば容易に選択することができる。たとえば本発明者らが見出した SL(S1-5)は、実施例に示したようにシノビオリンのcDNAにおいて1233-1592番目に相当する120アミノ酸残基をシノビオリンとの結合に必要な領域として要求する。したがって、この領域を構成するアミノ酸配列からなるタンパク質、あるいはこのアミノ酸配列を含むタンパク質は本発明によるシノビオリンと機能的に同等なタンパク質を構成する。SLとしては accession number AAA65590 (nucleotide accession U03877)、I38449、NP_061489 (nucleotide accession NM_018894)、NP_004096 (nucleotide accession NM_004105)、または Q12805 に特定される S1-5タンパク質や、それらに類似したタンパク質であってヒトシノビオリンタンパク質(配列番号:2)に結合する活性を有するタンパク質を用いることができる(Lecka-Czernik, B. et al., Mol. Cell. Biol. 15, 120-128, 1995; Heon, E. et al., Arch. Ophthalmol. 114, 193-198, 1996; Ikegawa, S. et al., Genomics 35, 590-592, 1996; Katsanis, N. et al., Hum. Genet. 106, 66-72, 2000; Giltay, R. et al., Matrix Biol. 18, 469-480, 1999; Stone, E. M. et al., Nat. Genet. 22, 199-202, 1999)。
【0020】
また、ヒトシノビオリンと機能的に同等なタンパク質としては、滑膜増生を促進する活性を有するタンパク質が挙げられる。ヒトシノビオリン遺伝子が導入されたトランスジェニックマウスは、有意な頻度で関節炎を伴う指の膨脹が認められた。組織学的には、これらの指関節では滑膜増生を伴う骨破壊と異常な骨新生が認められた。ヒトシノビオリンタンパク質と機能的に同等なタンパク質は、滑膜増生を促進する活性に基づいても定義される。滑膜増生の促進は、トランスジェニック動物の作製により検証することができる他、関節への局所的な遺伝子導入、あるいはインビトロ培養滑膜細胞においてタンパク質を発現させることにより検証することができる。本発明のポリヌクレオチドを用いてトランスジェニック動物を得る方法は、後に述べる。
【0021】
また、ヒトシノビオリンと機能的に同等なタンパク質としては、正常な骨形成または四肢の発達に貢献する活性を有するタンパク質が挙げられる。シノビオリンは発生において頭頂骨、四肢、耳などの骨および軟骨が形成される部位に強く発現しており、四肢形成期においては Apical Ectodermal Ridge(AER;外胚葉頂堤)および軟骨・骨原基に強い発現が観察された。ターゲティングにより内因性シノビオリン遺伝子を欠損させたノックアウトマウス胚は、頭頂部から臀部までの長さが短く、頭蓋や四肢の形成が未熟である傾向が認められ、ホモ接合体では肢芽、上下顎骨および耳に形態異常を示し高い確率で胎生致死となった。シノビオリン遺伝子ホモノックアウトマウスは、胎生期において肢芽の発生異常が認められ、また、軟骨及び骨への形成が認められず、肢芽と軟骨、骨の発生部位にシノビオリンの発現が認められたことから、シノビオリン分子が骨格形成および四肢の発達に関与していることが示される。
【0022】
explant法による培養系を用いた解析では、シノビオリンノックアウト(lacZ遺伝子のノックイン)マウス胎仔の肢芽由来の細胞におけるLacZの発現は軟骨・骨および肢の原基となると考えられる未分化間葉系細胞にのみ認められた。さらにアルカリフォスファターゼ染色、Kossaの染色などにより、骨・軟骨形成能がホモノックアウト由来の細胞では遅延していることが確認された。正常な骨形成または四肢の発達への関与は、ノックアウト動物の作製により検証することができる他、インビトロ培養における骨・軟骨細胞のマーカー遺伝子の発現の解析や骨形成能の解析などを利用して行うことも考えられる。またある蛋白質が正常な骨形成または四肢の発達に貢献する活性を有することは、本発明のポリヌクレオチドの発現を抑制されたノックアウト動物や培養細胞において、当該ポリヌクレオチドがコードする蛋白質の投与、あるいは当該蛋白質をコードするDNAまたはRNAの発現によって失われた機能が相補されることによっても確認することができる。
【0023】
加えて本発明によるシノビオリンと機能的に同等なタンパク質は、シノビオリンが有する生化学的な活性に基づいても定義される。シノビオリンの生化学的な活性とは、たとえばチロシンキナーゼやユビキチンリガーゼ活性を示すことができる。これらの生化学的な活性は、シノビオリンに見出された各種のモチーフや、実施例の結果に裏付けられている。すなわち本発明は、シノビオリンが有する少なくとも一つの生化学的な活性を維持したシノビオリンの断片を含む。シノビオリンの生化学的な活性の確認方法や、それぞれの生化学的な活性を保持している領域については後に具体的に述べる。
【0024】
これらのシノビオリンに機能的に同等なタンパク質は、他のタンパク質との融合タンパク質とすることができる。たとえば、FLAGタグ、HAタグ、あるいはヒスチジンタグなどの付加的なアミノ酸配列が付加され、前記シノビオリンに機能的に同等なタンパク質としての少なくとも一つの性状を維持したタンパク質は、前記機能的に同等なタンパク質に含まれる。付加するタンパク質が、シノビオリンとは異なる活性を有している場合も、シノビオリンが有する少なくとも一つの機能を維持している場合には、その融合タンパク質は、本発明に置ける機能的に同等なタンパク質に含まれる。
【0025】
前記本発明のポリヌクレオチドに対して変異を含む塩基配列で構成されるポリヌクレオチドも、当業者によって公知の方法(実験医学別冊・遺伝子工学ハンドブック, pp246-251、羊土社、1991年発行)で単離することができる。たとえば類似する遺伝子を含むライブラリーを対象に、配列番号:1に示す塩基配列(またはその断片)をプローブとしてスクリーニングすれば、相同性の高い塩基配列を持ったDNAをクローニングすることが可能である。このようなライブラリーとしては、配列番号:1の塩基配列に対してランダムに変異を入れたもの、ヒト以外の種に由来する滑膜組織のcDNAライブラリー等を示すことができる。
【0026】
与えられた塩基配列に対してランダムに変異を加える方法としては、たとえばDNAの亜硝酸処理による塩基対の置換が知られている(Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 79:7258-7260, 1982)。この方法では、変異を導入したいセグメントを亜硝酸処理することにより、特定のセグメント内にランダムに塩基対の置換を導入することができる。あるいはまた、目的とする変異を任意の場所にもたらす技術としてはgapped duplex法等がある(Methods in Enzymol., 154:350-367, 1987)。変異を導入すべき遺伝子をクローニングした環状2本鎖のベクターを1本鎖とし、目的とする部位に変異を持つ合成オリゴヌクレオチドをハイブリダイズさせる。制限酵素により切断して線状化させたベクター由来の相補1本鎖DNAを、前記環状1本鎖ベクターにアニールさせ、前記合成ヌクレオチドとの間のギャップをDNAポリメラーゼで充填し、更にライゲーションすることにより完全な2本鎖環状ベクターとする。
【0027】
改変されるアミノ酸の数は、典型的には50アミノ酸以内であり、好ましくは30アミノ酸以内であり、さらに好ましくは5アミノ酸以内(例えば、1アミノ酸)であると考えられる。
アミノ酸を人為的に置換する場合、性質の似たアミノ酸に置換すれば、もとのタンパク質の活性が維持されやすいと考えられる。本発明のタンパク質には、上記アミノ酸置換において保存的置換が加えられたタンパク質であって、ヒトシノビオリン蛋白質(配列番号:2)と機能的に同等なタンパク質が含まれる。保存的置換は、タンパク質の活性に重要なドメインのアミノ酸を置換する場合などにおいて重要であると考えられる。このようなアミノ酸の保存的置換は、当業者にはよく知られている。
【0028】
保存的置換に相当するアミノ酸のグループとしては、例えば、塩基性アミノ酸(例えばリジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性アミノ酸 (例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性アミノ酸 (例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性アミノ酸 (例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐アミノ酸 (例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)、および芳香族アミノ酸 (例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)などが挙げられる。
また、非保存的置換によりタンパク質の活性などをより上昇(例えば恒常的活性化型タンパク質などを含む)または下降(例えばドミナントネガティブなどを含む)させることも考えられる。
【0029】
配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が、置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を有し、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質は、天然に存在する蛋白質を含む。一般に真核生物の遺伝子は、インターフェロン遺伝子等で知られているように、多型現象(polymorphism)を有する。この多型現象によって生じた塩基配列の変化によって、1または複数個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入、および/または付加される場合がある。このように自然に存在する蛋白質であって、かつ配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が、置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を有し、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質は、本発明に含まれる。
【0030】
実際に本発明者らは、本発明の遺伝子を複数の個体からクローニングし、その塩基配列を決定することによって、1アミノ酸を欠失したクローンを確認した。このようなアミノ酸配列に変異を含む蛋白質、並びにそれをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドは、本発明に含まれる。本発明者らが確認した1アミノ酸を欠失したクローンの塩基配列を配列番号:6に、そしてこの塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を配列番号:7に示した。配列番号:6の塩基配列は、配列番号:1における1293-1295に相当するgcaを欠損している。その結果、配列番号:7に記載のアミノ酸配列は、配列番号:2における412位のAlaを欠損している。
【0031】
あるいは多型現象によって塩基配列に変化はあっても、アミノ酸配列が変わらない場合もある。このような塩基配列の変異は、サイレント変異と呼ばれる。サイレント変異を有する塩基配列からなる遺伝子も、本発明に含まれる。なおここで言う多型現象とは、集団内において、ある遺伝子が個体間で異なる塩基配列を有することを言う。多型現象は、異なる遺伝子が見出される割合とは無関係である。
【0032】
この他、シノビオリンと機能的に同等なタンパク質を得る方法として、ハイブリダイゼーションを利用する方法を挙げることができる。すなわち、配列番号:1に示すような本発明によるシノビオリンをコードするポリヌクレオチド、あるいはその断片をプローブとし、これとハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドを単離するのである。ハイブリダイゼーションをストリンジェントな条件下で実施すれば、塩基配列としては相同性の高いポリヌクレオチドが選択され、その結果として単離されるタンパク質にはシノビオリンと機能的に同等なタンパク質が含まれる可能性が高まる。相同性の高い塩基配列とは、たとえば70%以上、望ましくは90%以上の同一性を示すことができる。
なおストリンジェントな条件とは、具体的には例えば 6×SSC、40%ホルムアミド、25℃でのハイブリダイゼーションと、1×SSC、55℃での洗浄といった条件を示すことができる。ストリンジェンシーは、塩濃度、ホルムアミドの濃度、あるいは温度といった条件に左右されるが、当業者であればこれらの条件を必要なストリンジェンシーを得られるように設定することは自明である。
【0033】
ハイブリダイゼーションを利用することによって、たとえばヒト以外の動物種におけるシノビオリンのホモログをコードするポリヌクレオチドの単離が可能である。ヒト以外の動物種、すなわちマウス、ラット、ウサギ、ブタ、あるいはヤギ等の動物種から得ることができるポリヌクレオチドがコードするシノビオリンのホモログは、本発明における機能的に同等なタンパク質を構成する。
【0034】
本発明によるポリヌクレオチドは、その由来を問わない。すなわち、cDNA、ゲノムDNAのほか、合成によって得ることもできる。また、本発明のタンパク質をコードしうる限り、遺伝暗号の縮重に基づく任意の塩基配列を有するポリヌクレオチドが含まれる。
ヒトシノビオリン(配列番号:2)に変異を導入して得たタンパク質や、上記のようなハイブリダイゼーション技術等を利用して単離されるポリヌクレオチドがコードするタンパク質は、通常、ヒトシノビオリン(配列番号:2)とアミノ酸配列において高い相同性を有する。高い相同性とは、少なくとも30%以上、好ましくは50%以上、さらに好ましくは80%以上(例えば、95%以上)の配列の同一性を指す。塩基配列やアミノ酸配列の同一性は、インターネットを利用したホモロジー検索サイトを利用して行うことができる[例えば日本DNAデータバンク(DDBJ)において、FASTA、BLAST、PSI-BLAST、および SSEARCH 等の相同性検索が利用できる[例えば日本DNAデータバンク(DDBJ)のウェブサイトの相同性検索(Search and Analysis)のページ ; http://www.ddbj.nig.ac.jp/E-mail/homology-j.html]。また、National Center for Biotechnology Information (NCBI) において、BLASTを用いた検索を行うことができる(例えばNCBIのホームページのウェブサイトのBLASTのページ; http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/; Altschul, S.F. et al., J. Mol. Biol., 1990, 215(3):403-10; Altschul, S.F. & Gish, W., Meth. Enzymol., 1996, 266:460-480; Altschul, S.F. et al., Nucleic Acids Res., 1997, 25:3389-3402)]。
【0035】
例えば Advanced BLAST 2.1におけるアミノ酸配列の同一性の算出は、プログラムにblastpを用い、Expect値を10、Filterは全てOFFにして、MatrixにBLOSUM62を用い、Gap existence cost、Per residue gap cost、および Lambda ratioをそれぞれ 11、1、0.85(デフォルト値)に設定して検索を行い、同一性(identity)の値(%)を得ることができる(Karlin, S. and S. F. Altschul (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-68; Karlin, S. and S. F. Altschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-7)。
【0036】
本発明は、これらのポリヌクレオチドのタンパク質生産以外の用途も提供するものである。すなわち本発明は、本発明によって提供されるシノビオリンをコードするポリヌクレオチド、あるいはその一部に対するアンチセンスポリヌクレオチドを含む。アンチセンスは、遺伝子の転写を有効に阻害するために、15-20ヌクレオチド程度の鎖長とすることが好ましい。シノビオリンが滑膜細胞の異常な増殖を支えているとすれば、RAの治療においてシノビオリンのアンチセンスが果たす役割は大きい。遺伝子発現の制御という観点から見ると、アンチセンスのみならずリボザイムの設計も可能である。すなわち、配列番号:1で示すDNAのコード領域から転写されたRNAを認識し、これを切断するリボザイムを設計することができる。
【0037】
本発明はまた、これら本発明のポリヌクレオチドまたはその相補鎖と相補的な少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を持つポリヌクレオチドに関する。これらのポリヌクレオチドは、好ましくは上記の本発明のポリヌクレオチドまたはその相補鎖と相補的な20ヌクレオチド以上、より好ましくは25ヌクレオチド以上、さらに好ましくは30ヌクレオチド以上の鎖長を持つポリヌクレオチドである。ここで「相補鎖」とは、A:T(ただしRNAの場合は U)、G:Cの塩基対からなる2本鎖核酸の一方の鎖に対する他方の鎖を指す。また、「相補的」とは、少なくとも15個の連続したヌクレオチド領域で完全に相補配列である場合に限られず、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは90%、さらに好ましくは95%以上の塩基配列上の相同性を有する塩基配列を含む。相同性を決定するためのアルゴリズムは本明細書に記載したものを使用することができる。これらには、例えば上記の本発明のポリヌクレオチドとハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を持つポリヌクレオチドが含まれる。
【0038】
ハイブリダイゼーションは、本発明のポリヌクレオチドに対して特異的であることが好ましい。特異的とは、ストリンジェントなハイブリダイゼーションの条件下で、他のタンパク質をコードするポリヌクレオチドとのクロスハイブリダイゼーションが有意に生じないことを意味する。
【0039】
これらのポリヌクレオチドは、シノビオリン遺伝子の検出や増幅を可能とするプローブやプライマーとして有用である。本発明によるプローブやプライマーは、与えられたストリンジェンシーの基で特異的なハイブリダイズが可能となるように少なくとも15mer程度の鎖長を備え、配列番号:1に示した塩基配列の中でも、シノビオリンに特異的な配列に対してハイブリダイズできる塩基配列を持つものが好ましい。与えられた塩基配列に基づいて、プローブやプライマーに有用な塩基配列を設定することは当業者にとって自明である。本発明に基づいて提供されるシノビオリン遺伝子特異プローブやプライマーを利用すれば、滑膜細胞標本のインサイチュにおけるハイブリダイゼーションやPCRが可能となる。シノビオリンはRA患者の滑膜組織に強発現していることから、その細胞内における発現状態の把握は、RA関節炎症状を把握するための重要な情報を与えるものと考えられる。
【0040】
本発明による新規なタンパク質であるシノビオリンは、RA患者滑膜組織から得ることができる。滑膜細胞はインビトロで培養することができるので、この培養物からシノビオリンを回収することが可能である。具体的には、RA患者から滑膜切除術(synovectomy)により外科的に切除された滑膜組織等をもとにこの組織から滑膜細胞を分離する。分離した細胞を培養すれば、滑膜細胞を付着性細胞として回収することができる(J. Clin. Invest. 92:186-193, 1993)。回収した細胞からは、公知のタンパク質精製技術を組み合わせてシノビオリンを抽出・精製する。
【0041】
本発明は、滑膜細胞から抽出されるヒト・シノビオリンのみならず、シノビオリンと機能的に同等なタンパク質をも含むものである。すなわち、本発明のタンパク質としては、人工的か自然に生じたものかを問わず、ヒト・シノビオリンのアミノ酸配列(配列番号:2)において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入などにより変異したタンパク質であって、ヒトシノビオリンと機能的に同等なタンパク質が含まれる。これらタンパク質におけるアミノ酸の変異数や変異部位は、シノビオリンの機能が保持される限り制限はない。
【0042】
シノビオリンの断片は、プロテアーゼを使った消化により得ることができる。また、配列番号:1に示したシノビオリンをコードするDNAをランダムに切断し、それをファージベクターに挿入してドメインペプチドを提示したファージライブラリーを作成することによっても得ることができる。これらのライブラリーを、シノビオリンを認識する抗体でイムノスクリーニングすれば、免疫学的に活性なドメインを決定することができる。免疫学的に活性なドメインを特定するための手法は、そのままリガンドとの結合活性を持つドメインを特定するための手法としても利用することができる。クローニングしたファージについて、挿入断片の塩基配列を決定すれば、活性ドメインのアミノ酸配列も明らかにすることができる。
【0043】
本発明によるタンパク質、またはその機能的に同等なタンパク質は、糖鎖等の生理的な修飾、蛍光や放射性物質のような標識、あるいは他のタンパク質との融合といった各種の修飾を加えたタンパク質であることができる。ことに後に述べる遺伝子組み換え体においては、発現させる宿主によって糖鎖による修飾に差異が生じる可能性がある。しかしたとえ糖鎖の修飾に違いを持っていても、本明細書中に開示されたシノビオリンタンパク質と同様の性状を示すものであれば、いずれも本発明によるシノビオリン、または機能的に同等なタンパク質である。
【0044】
シノビオリンは、生体材料のみならず、これをコードする遺伝子を適当な発現系に組み込んで遺伝子組み換え体(recombinant)として得ることもできる。シノビオリンを遺伝子工学的な手法によって得るためには、先に述べたシノビオリンをコードするポリヌクレオチドを適当な発現系に組み込んで発現させれば良い。本発明に応用可能なホスト/ベクター系としては、発現ベクターpGEX-5X-3と大腸菌を示すことができる。pGEX-5X-3は外来遺伝子をグルタチオン S-トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質として発現させることができる(Gene, 67:31-40, 1988)ので、シノビオリンをコードする遺伝子を組み込んだpGEX-5X-3をヒートショックでBL21のような大腸菌株に導入し、適当な培養時間の後に isopropylthio-β-D-galactoside(IPTG)を添加してGST融合シノビオリンの発現を誘導する。シノビオリンをコードする遺伝子は、滑膜細胞のcDNAライブラリー等を鋳型としてPCR等で増幅することにより得ることができる。本発明によるGSTはグルタチオンセファロース4Bに吸着するため、発現生成物はアフィニティクロマトグラフィーによって容易に分離・精製することが可能である。
【0045】
シノビオリンの recombinant を得るためのホスト/ベクター系としては、この他にも次のようなものを応用することができる。まず細菌をホストに利用する場合には、ヒスチジンタグ、HAタグ、Flagタグ等を利用した融合タンパクの発現用ベクターが市販されている。酵母では、Pichia属酵母が糖鎖を備えたタンパク質の発現に有効なことが公知である。糖鎖の付加という点では、昆虫細胞をホストとするバキュロウイルスベクターを利用した発現系も有用である(Bio/Technology, 6:47-55, 1988)。更に、哺乳動物の細胞を利用して、CMV、RSV、あるいはSV40等のプロモーターを利用したベクターのトランスフェクションが行われており、これらのホスト/ベクター系は、いずれもシノビオリンの発現系として利用することができる。また、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター等のウイルスベクターを利用して遺伝子を導入することもできる。
【0046】
本発明によって提供される新規なタンパク質シノビオリン、またはその免疫学的に同等なタンパク質は、その免疫学的な特性を利用してRAの診断において有用である。RA患者の血中にはシノビオリンを認識する抗体が高い頻度で検出され、正常者の血中には実質的に検出されない。したがって、本発明によるシノビオリンを抗原として被検者が有する抗体を免疫学的に分析すれば、RAの診断において有用な情報を与える。すなわち、被検者の体液中にシノビオリンに反応する抗体が検出されたときには、被検者がRAであると診断することができる。
【0047】
抗体の免疫学的分析方法には多くの方法が一般に普及している。抗原感作プレートをサンプル中の抗体と反応させ、プレート表面に捕捉される検出対象となる抗体を、抗体特異的な標識抗体で検出する方法は、抗体の免疫学的分析方法としてはもっともポピュラーな方法である(Immunochemistry, 8:871-879, 1971)。標識に酵素を用いた方法はELISA法と呼ばれ、広く普及している。また抗原を吸着させたラテックス粒子をサンプルと混合し、免疫学的な凝集反応として抗体を検出する方法も公知である(Am. J. Med., 21:888-892, 1956)。免疫学的粒子凝集反応は1試薬で迅速な分析が可能な方法であり、大規模なスクリーニングには好適な方法である。
【0048】
更に、最近ではイムノクロマトグラフ法が簡易分析方法として一般化している。この方法を抗体の免疫学的分析方法に応用するには、標識シノビオリンと抗シノビオリン抗体との反応をサンプル中の抗体が阻害するような反応系を構成する。具体的には、たとえば標識シノビオリンとサンプルを最初に接触させ、クロマトグラフ的な展開によって試薬成分である抗シノビオリン抗体と接触するように配置する。サンプル中にシノビオリン抗体が存在する場合には、既に標識シノビオリンが反応してしまっているので、試薬成分である抗シノビオリン抗体とはもはや反応することができない。抗シノビオリン抗体を固定しておいて、その領域における標識シノビオリンの反応状態を観察すれば、サンプルの滴下のみでイムノアッセイを行うことができる。
【0049】
多くのイムノアッセイにおいて、抗体をクラス別に分析することが可能である。特定のクラスの抗体に関する情報が必要な場合には、IgGやIgMといったイムノグロブリンのクラスを識別しうる抗体を組み合わせれば良い。感染症では、通常、感染初期のIgM抗体測定値の上昇、その後に続くIgM抗体測定値の低下とIgG抗体測定値の上昇という遷移が観察される。このようなクラス別の抗体測定値が、本発明においてもRAの臨床的な症状と関連性を持つ可能性がある。より具体的には、抗体のクラス別測定により、薬効の判定や、RA発症の予知に結びつく可能性がある。
【0050】
抗体の検出においては、抗原分子そのもののみならず、化学的に合成したオリゴペプチドを抗原として用いる方法が採用されることも多い。これは、特に優勢なエピトープ、あるいは臨床的になんらかの意味を持つエピトープに特異的な分析系としたほうが非特異的な反応の影響を受けにくくなるためである。シノビオリンについても、このようなアプローチは有効である。具体的には、先に述べた免疫学的に活性なドメインペプチドを得る方法に基づいて、エピトープとして機能するドメインを決定することができる。エピトープは少なくとも3アミノ酸残基で構成できる場合のある事が知られている。また他のタンパク質との免疫学的な識別は、少なくとも8アミノ酸残基で可能となるといわれている。したがって、シノビオリンのアミノ酸配列から選択された少なくとも連続した8アミノ酸残基、通常9アミノ酸残基、好ましくは10アミノ酸残基、より好ましくは11アミノ酸残基からなり、患者血清中の抗体と反応する断片は、本発明における抗体検出用の抗原として望ましい。更に、エピトープを構成するオリゴペプチドに対して、様々な修飾を加えて免疫学的な反応性を向上させる方法も当業者には公知である。たとえば、ヒト血清アルブミンのような不活性タンパク質、あるいは無意味なアミノ酸配列の付加といった修飾が免疫学的な反応性の向上に寄与する。
【0051】
本発明に基づくRAの検出方法に有用なシノビオリン、またはその機能的に同等なタンパク質、あるいはそれらの部分ペプチドは、これらの分子を認識する抗体を分析するための免疫学的分析用試薬とすることができる。本発明による免疫学的分析用試薬は、RAの診断や治療効果の判定に有用である。
【0052】
本発明によるシノビオリンは、RAの治療や予防を目的としたワクチンの開発をも可能とする。シノビオリンがそのリガンドとの結合によって滑膜細胞の増殖をもたらしていると考えられるため、シノビオリンとリガンドとの結合をブロックする抗体を与えるワクチンが提供されれば、RAの治療や予防が実現する。シノビオリンのワクチンを得るには、シノビオリンのエピトープとなるドメインペプチドを中心に、もともとヒトのタンパクであるシノビオリンのドメインペプチドによる免疫刺激をもたらすアジュバントやキャリアタンパク質との組み合わせにより製剤化する方法が一般的である。
【0053】
更に本発明は、シノビオリンを認識する抗体を提供する。本発明によるシノビオリン、または免疫学的に同等のタンパク質、あるいはその断片を免疫原として、公知の方法によりシノビオリンの抗体を得ることができる。通常の免疫操作によってポリクローナル抗体を得ることもできるし(Harlow, E. & Lane, D.; Antibodies; A Laboratry manual. Cold Spring Harbor, New York, 1988)、抗体産生細胞をクローニングすることによりモノクローナル抗体を得ることもできる(Kohler, G. & Milstein, C., Nature 256: 495-7, 1975)。モノクローナル抗体はイムノアッセイにおいて高い感度と特異性を達成するための重要なツールである。
【0054】
免疫には、本発明に基づくシノビオリン(もしくはそれと免疫学的に同等なタンパク質、またはそれらの断片)を適当なアジュバントとともに免疫動物に免疫する。免疫原として有用なシノビオリンの断片として、以下のアミノ酸配列を含むペプチドを示すことができる。
Syno-P3(SLALTGAVVAHAYYC/配列番号:3)、
Syno-P2(TCRMDVLRASLPAQS/配列番号:4)、および
Syno-P1(GAATTTAAGTSATAC/配列番号:5)
【0055】
これらのペプチドを担体蛋白質と結合させて調製された免疫原は、シノビオリンに対して特異的で、かつ十分な結合親和性を有する抗体を与える。免疫原を得るための担体蛋白質には、スカシガイヘモシアニン(KLH)、あるいはウシ血清アルブミン(BSA)等を用いることができる。免疫動物には、ウサギ、マウス、ラット、ヤギ、あるいはヒツジなどが一般に利用される。アジュバントとしては、フロイントのコンプリートアジュバント(FCA)等が一般に用いられる(Adv. Tubercl. Res., 1:130-148, 1956)。適当な間隔で免疫を追加し、抗体価の上昇を確認したところで採血し抗血清を得ることができる。更にその抗体画分を精製すれば、精製抗体とすることもできる。
【0056】
あるいはまた、抗体産生細胞を採取して細胞融合法などによりクローニングすれば、モノクローナル抗体を得ることもできる。このときの抗体産生細胞とは、免疫動物に由来するものの他、シノビオリンに対する自己抗体を産生するRA患者から採取した抗体産生細胞を利用することもできる。更に、こうして得られた免疫動物に由来するモノクローナル抗体産生細胞の抗体遺伝子をもとに、キメラ抗体やヒト化抗体の構築が可能である。抗体をヒトに投与する場合、動物の抗体は異物として排除されるため望ましくない。そこで抗原性の強い抗体の定常領域をヒトの抗体で置換したキメラ抗体や、あるいは定常領域のみならず可変領域のフレームワークまでヒトの遺伝子で置換したヒト化抗体が必要になる。その点、RA患者の抗体産生細胞に由来する抗体の可変領域を利用すれば、ヒト型の抗体を再構成できるので、より容易に安全性の高い抗体の構築が可能である。
【0057】
本発明に基づいて提供されるシノビオリンを認識するキメラ抗体、あるいはヒト化抗体は、RA患者の滑膜細胞を標的とした薬物移送システム(Drug Delivery System; DDS)に有用である。本発明によるシノビオリンを認識する抗体を使ったDDSにおいて、抗体とリンクさせることにより有用性が期待できる物質としては、Fasリガンドや、抗SL抗体などを示すことができる。
【0058】
あるいは本発明の抗体は、シノビオリンの検出に有用である。シノビオリンはRA患者の滑膜組織において強発現している。したがって、滑膜細胞、滑膜組織、あるいは体液中におけるシノビオリンの検出は、RAの診断において有用な情報を与える。具体的には、滑膜組織や血液中にシノビオリンが検出されるときには、RAが進行していると考えられる。本発明の抗体は、シノビオリンの免疫学的検出用試薬とすることができる。組織や血中に存在するタンパク質を、抗体を用いて免疫学的に検出する方法は公知である。本発明の抗体を含む免疫学的分析用試薬は、RAの診断や治療効果の判定に有用である。
【0059】
また本発明の抗体は、シノビオリンを発現する細胞の分離あるいは検出に利用することができる。本発明のシノビオリンタンパク質は、発生においてはAERで発現が見られる他、滑膜、骨・軟骨および肢の原基となる未分化間葉系細胞において強く発現していた。従ってシノビオリンは、AERおよび未分化間葉系細胞のマーカーとして使用されうる。すなわちシノビオリンの発現を指標に、AERおよび未分化間葉系細胞を検出したり分離したりすることができる。抗体は適宜蛍光等により標識される。例えば、シノビオリンに対する抗体を用い、セルソーティング等によりシノビオリンを発現する細胞を分離することができる。分離された未分化間葉系細胞は、試験管内における骨・軟骨の形成、あるいは関節の再構築に有用である。
【0060】
未分化間葉系細胞からは、試験管内(in vitro)または生体内(in vivo)において、骨、軟骨、筋、腱、脂肪、および骨髄等の間質(stroma)が形成される(S. A. Kuznetsov et al., J. Bone Miner. Res. 12, 1335-47, 1997; D. J. Prockop Science 276, 71-4, 1997; C. M. Thompson and R. A. Young, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92, 4587-90, 1995; A. I. Caplan, J. Orthop. Res. 9, 641-50, 1991; A. J. Friedenstein, Int. Rev. Cytol. 47, 327-59, 1976; M. Owen and A. J. Friedenstein, in "Cell and Molecular Biology of Vertebrate Hard Tissues", D. Evered and S. Harnett, Eds., Wiley, Chichester, UK, 1988, pp. 42-60; A. J. Friedenstein et al., Cell Tissue Kinet. 20, 263-72, 1987; B. A. Ashton et al., Clin. Orthop. Relat. Res. 151, 294-307, 1980; I. Bab et al., Clin. Orthop. Relat. Res. 187, 243-54, 1984; S. E. Haynesworth et al., Bone 13, 81-8, 1992; A. I. Caplan, Clin. Plast. Surg. 21, 429-35, 1994; 例えばGenzyme社のウェブサイトも参照, http://www.genzymebiosurgery.com/)。
【0061】
例えば、未分化間葉系細胞を試験管内において分化させ、脂肪細胞系列(adipocytic lineage)、軟骨細胞(chondrocytic lineage)、および骨細胞系列(osteocytic lineage)の細胞を形成させることができる(M. F. Pittenger et al., Science 284, 143-7, 1999)。
【0062】
脂肪細胞への分化は、例えば、1-メチル-3-イソブチルキサンチン、デキサメタゾン、インシュリン、およびインドメタシン処理により誘導することができる(M. F. Pittenger, 米国特許第5827740号, 1998)。軟骨細胞への分化は、例えば、遠心等により細胞を微小塊にした後、血清を含まない培地中で transforming growth factor (TGF)-β3 で刺激することにより分化させることができる(A. M. Mackay et al., Tissue Eng. 4, 415-28, 1998; J. U. Yoo et al., J. Bone Joint Surg. Am. 80A, 1745-57, 1998)。骨細胞への分化は、例えば 10%ウシ胎児血清の存在下、デキサメタゾン、β-グリセロールリン酸、およびアスコルビン酸で誘導することができる(S. A. Kuznetsov et al., J. Bone Miner. Res. 12, 1335-47, 1997; D. J. Prockop Science 276, 71-4, 1997; C. M. Thompson and R. A. Young, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92, 4587-90, 1995; A. I. Caplan, J. Orthop. Res. 9, 641-50, 1991; A. J. Friedenstein, Int. Rev. Cytol. 47, 327-59, 1976; M. Owen and A. J. Friedenstein, in "Cell and Molecular Biology of Vertebrate Hard Tissues", D. Evered and S. Harnett, Eds., Wiley, Chichester, UK, 1988, pp. 42-60; S. P. Bruder et al., J. Cell. Biochem. 64, 278-94, 1997; N. Jaiswal et al., J. Cell. Biochem. 64, 295-312, 1997; S. P. Bruder et al., J. Bone Miner. Res. 13, 655-63 1998)。
【0063】
また、生体内においても、例えば未分化間葉系細胞の子宮内(in utero)への移植により、軟骨細胞、脂肪細胞、筋細胞、心筋細胞、骨髄間質細胞、胸腺間質細胞へ分化させることができる(K. W. Liechty et al., Nature Medicine 6, 1282-1286, 2000)。これらの方法により、分離された未分化間葉系細胞から、試験管内または生体内において組織を再構築させることができる。再構築された組織や器官は、再生医学的応用が期待される。
【0064】
また、シノビオリンは、リウマチ滑膜細胞で強発現していることから、リウマチ滑膜細胞に対する細胞マーカーとしても用いられ得る。本発明の抗体を細胞の分離または検出用試薬として用いる場合には、抗体を他の溶媒や溶質と組み合わせて組成物とすることができる。例えば、蒸留水、pH緩衝試薬、塩、タンパク質、界面活性剤などを組み合わせることができる。
【0065】
シノビオリンはRA患者の滑膜組織において強発現している。また、RA患者の血中においては、シノビオリンを認識する抗体(自己抗体)が高い頻度で検出される。他方健常者の血中では、シノビオリンの抗体は実質的に検出することができない。更にシノビオリンは、インビトロにおいて培養滑膜細胞の増殖を抑制する。これは、滑膜細胞の増殖を促進するリガンドに対して、シノビオリンが競合するためであると考えられる。これらの情報を基に、次のような機序が予想できる。すなわち、シノビオリンの滑膜細胞における強発現が、滑膜細胞に対して増殖促進作用を持つシノビオリンのリガンドとの結合を促し、結果として滑膜細胞の増殖が促進される。そしてこの滑膜細胞の異常増殖こそがRAの病態に他ならない。
【0066】
以上の知見に基づいて、本発明は次の工程を含む、慢性関節リウマチの検出方法、あるいは診断方法を提供する。
i) 被検者の生体試料中に存在するRAのマーカーを検出する工程、および
ii) 工程 i)の検出結果を、RAと関連付ける工程
【0067】
本発明におけるRAの検出方法、あるいは診断方法におけるマーカーは、以下に示すいずれかのマーカーを用いることができる。これらのマーカーの測定方法は、既に述べたとおりである。
・シノビオリンまたはシノビオリンと機能的に同等なポリヌクレオチド、
・シノビオリンまたはシノビオリンと機能的に同等なタンパク質、
・シノビオリンまたはシノビオリンと機能的に同等なペプチド、
・シノビオリンまたはシノビオリンと機能的に同等なタンパク質に結合する抗体、および
・ シノビオリンまたはシノビオリンと機能的に同等なペプチドに結合する抗体
【0068】
たとえば、患者から採取された血液試料中に、シノビオリンまたはシノビオリンと機能的に同等なタンパク質もしくはペプチドと反応する抗体が見出されれば、その患者はRAである可能性が高い。あるいは、患者から採取された滑膜組織におけるシノビオリンまたはシノビオリンと機能的に同等なタンパク質の発現は、RAに起因する滑膜組織の増成を示している。蛋白質の発現は、蛋白質やmRNAの存在を指標として検出することができる。
【0069】
また上記のような機序に基づいて、本発明のシノビオリンとその遺伝子の提供により、RAの治療薬開発の新たなアプローチがもたらされる。まず本発明のシノビオリンにより、シノビオリンに対する結合活性を指標としてシノビオリンのリガンドを検出することができる。すなわち本発明は、以下の工程を含むシノビオリンに対する結合活性の検出方法に関する。
a)被験化合物を、シノビオリンもしくはシノビオリンと機能的に同等なタンパク質、またはペプチドと接触させる工程、および
b)被験化合物と前記タンパク質またはペプチドとの結合を観察する工程
【0070】
更に上記検出方法に基づいて、シノビオリンに対するリガンドのスクリーニングが可能となる。本発明のスクリーニング方法は、具体的には次の工程を含む。
a)上記のシノビオリンに対する結合活性の検出方法によって、被験化合物のシノビオリンもしくはシノビオリンと機能的に同等な蛋白質に対する結合活性を検出する工程、および
b)対照と比較して前記結合活性が高い被験化合物を選択する工程
【0071】
リガンドの候補化合物は、天然の物質やその変異体のみならず、低分子の有機化合物であっても良い。前記タンパク質と候補化合物の結合については、候補化合物を標識しておけば直接検出することができる。あるいは既知のSLとの結合阻害を指標として確認することも可能である。すなわち、S1-5のような本発明の蛋白質との結合活性を有することが明らかな分子の共存下で、候補化合物と本発明の蛋白質を接触させるのである。あるいは、候補化合物と本発明の蛋白質の接触後に、更にSLを接触させることによって、候補化合物の結合活性を評価することもできる。結合阻害を指標とする場合には、標識の必要なのはこの既知のSLのみとなるので、簡便なスクリーニング法となる。
【0072】
対照としては、被験化合物の不存在下で工程a)と同じ操作を行うことが好適である。あるいは、工程a)に比べ、被験化合物をより低い濃度で含む場合であってもよい。また、例えば被験化合物の代わりにシノビオリンに結合することが分かっている分子を用いて工程a)と同じ操作を行い、その分子よりもより高い結合活性を持つ化合物を選択することもできる。
【0073】
この他実施例に示した遺伝子に基づくリガンドのスクリーニング法が可能である。例えば市販の Two-hybrid system を利用し、候補リガンドをコードする遺伝子を含むライブラリーからシノビオリンに結合するタンパク質をコードする遺伝子をスクリーニングすることができる。この方法は、天然のリガンドをスクリーニングするときに有用な方法である。あるいは、cDNAを組み込んだファージライブラリーと標識シノビオリンを用いた発現スクリーニングによりリガンドをクローニングすることも可能である。本発明者らは、このスクリーニング方法によって、シノビオリンの天然リガンドであるSLを発見した。SLは、滑膜細胞表面にあるシノビオリンに結合して細胞増殖を刺激している可能性が有るので、SLの血中レベルの測定がRAの病態と関連する可能性がある。SLは、シノビオリンとの結合活性に基づいて、測定することができる。もちろん抗SL抗体によりイムノアッセイを行うことも可能であるし、両者を組み合わせたサンドイッチ法によってSLを測定することもできる。
【0074】
本発明者らは、シノビオリンを培養滑膜細胞に添加すると、細胞増殖に対して抑制的に作用することを確認した。これを、培地中のSLの中和で説明すると、シノビオリンとそのリガンドとの結合を阻害することが滑膜細胞の異常増殖抑制につながり、結果としてRAの治療効果をもたらすものと考えられる。本発明のスクリーニング方法によって得ることができるリガンドは、シノビオリンとその天然リガンドとの結合を競合的に阻害するので、RAの滑膜細胞の増殖を効果的に抑制する活性(アンタゴニスト)を期待できる。
【0075】
また本発明のスクリーニング方法によって得ることができるシオノビオリンのリガンドには、上記SLと同様にシノビオリンの活性を刺激する活性(アゴニスト)が期待できる。シノビオリンを刺激するリガンドは、シノビオリン刺激剤、あるいは骨形成促進剤として有用である。より具体的には、シノビオリンを刺激するリガンドは、骨粗鬆症、骨折、あるいはスポーツ外傷等の治療薬として利用することができる。
【0076】
これらの結合活性の検出方法、並びにスクリーニング方法を発展させ、更に本発明はシノビオリン、またはその機能的に同等なタンパク質とシノビオリンリガンドとの結合を阻害する活性の検出方法、および化合物のスクリーニング方法を提供する。本発明に基づく、シノビオリンとシノビオリンリガンドとの結合を阻害する活性の検出方法は以下の工程を含む。
a)被験化合物存在下で、シノビオリンもしくはシノビオリンと機能的に同等な蛋白質またはペプチドとそのリガンドとを接触させる工程、および
b)前記タンパク質またはペプチドに結合するリガンド、および/または被験化合物を検出する工程
【0077】
そして上記検出方法に基づいて、シノビオリン、またはその機能的に同等なタンパク質とシノビオリンリガンドとの結合を阻害する化合物のスクリーニング方法が提供される。すなわち本発明は、以下のスクリーニング方法に関する。
a)上記検出方法に基づいて、被験化合物のシノビオリンもしくはシノビオリンと機能的に同等な蛋白質とそのリガンドとの結合を阻害する活性を検出する工程、および
b)対照と比較して前記阻害活性が高い被験化合物を選択する工程
【0078】
対照としては、被験化合物の不存在下で工程a)と同じ操作を行うことが好適である。あるいは、工程a)に比べ、被験化合物をより低い濃度で含む場合であってもよい。また、例えば被験化合物の代わりに、シノビオリンとそのリガンドとの結合を阻害することが分かっている分子を用いて工程a)と同じ操作を行い、その分子よりもより高い結合活性を持つ化合物を選択することもできる。
【0079】
このスクリーニングにより、シノビオリンまたはその機能的に同等なタンパク質に対するアンタゴニストとして作用する化合物を得ることもできる。シノビオリンのリガンドとしては、例えば実施例に記載のSL(S1-5)を用いることができる。具体的には accession number AAA65590、I38449、NP_061489、NP_004096、または Q12805 に特定されるS1-5タンパク質や、シノビオリンタンパク質に結合する活性を有する限り、それらに類似したタンパク質を用いることができる(Lecka-Czernik, B. et al., Mol. Cell. Biol. 15, 120-128, 1995; Heon, E. et al., Arch. Ophthalmol. 114, 193-198, 1996; Ikegawa, S. et al., Genomics 35, 590-592, 1996; Katsanis, N. et al., Hum. Genet. 106, 66-72, 2000; Giltay, R. et al., Matrix Biol. 18, 469-480, 1999; Stone, E. M. et al., Nat. Genet. 22, 199-202, 1999)。シノビオリンとシノビオリンリガンドとの接触は、候補化合物を適用する前もしくは後、または同時に行うことができる。
【0080】
ここでスクリーニングすべき化合物としては、シノビオリン側に結合してリガンドとの結合をブロックするものと、リガンド側をブロックするものが考えられる。シノビオリン側に結合する化合物をスクリーニングするには、リガンドを標識しておき候補化合物と競合させると良い。リガンド側に結合する化合物が候補となっていれば、その逆となる。いずれのスクリーニングにおいても、標識に当たっては放射性同位元素を用いるのが、活性に対する影響が小さいため望ましい。こうして得ることができるシノビオリンのアンタゴニストについても、滑膜細胞の増殖を抑制する作用を持つものと推測され、RAの治療効果を期待できる。
【0081】
また、シノビオリンリガンドであるS1-5は、Malattia Leventinese(ML)および Doyne honeycomb retinal dystrophy(DHRD)の原因遺伝子であることが示唆されている(Stone, E. M. et al., Nature Genetics 22, 199-202, 1999)。これらの疾患は、結晶腔(drusen)と呼ばれる沈着物を生じ、加齢黄斑変性症(age-related macular degeneration; AMD)と類似した症状を示す。これらのことから、シノビオリンもまた、MLおよびDHRDに関与している可能性がある。シノビオリンの変異や多型の検査により、MLおよびDHRDの診断を行うことが考えられる。また、本発明のスクリーニングによって得られる、シノビオリンのリガンドとして作用する化合物や、シノビオリンとS1-5との相互作用を阻害する化合物等は、これらの疾患の予防や治療に貢献する医薬としての利用が期待される。
【0082】
また、本発明のシノビオリンを用いて、化合物のシノビオリンによるシグナル伝達を調節する活性を評価したり、あるいはシノビオリンによるシグナル伝達を調節する化合物をスクリーニングすることができる。具体的には本発明は、次の工程を含む、被験化合物のシノビオリンによるシグナル伝達を調節する活性を検出する方法を提供する。
a)シノビオリンリガンドの存在下または不存在下で、被験化合物とシノビオリンを接触させる工程、および
b)シノビオリンを介するシグナル伝達を検出する工程
【0083】
また本発明は、次の工程を含む、シノビオリンによるシグナル伝達を調節する活性を有する化合物のスクリーニング方法に関する。
a)前記の方法によって、被験化合物のシノビオリンによるシグナル伝達を調節する活性を検出する工程、および
b)対照と比較して前記調節の活性が高い被験化合物を選択する工程
【0084】
対照としては、被験化合物の不存在下で工程a)と同じ操作を行うことが好適である。あるいは、工程a)に比べ、被験化合物をより低い濃度で含む場合であってもよい。また、例えば被験化合物の代わりに、シノビオリンによるシグナル伝達を促進または阻害する活性を有することが分かっている分子を用いて工程a)と同じ操作を行い、その分子よりもより高い調節活性を持つ化合物を選択することもできる。
【0085】
本発明において、シノビオリンによるシグナル伝達とは、シノビオリンに与えられた刺激が、異なる分子に伝えられることを言う。刺激の種類は限定されない。生体におけるシグナル伝達には、多くの様式が存在することが知られている。代表的なシグナル伝達は、蛋白質の修飾による活性の調節である。たとえば、ある種の蛋白質は、リン酸化やアセチル化によって、その蛋白質の活性が調節されている。また蛋白質の切断によって、その活性が制御されるものも知られている。蛋白質の切断をより特異的に行うために、ユビキチンのような分子の存在が重要である。シグナル伝達は、シグナルの伝達によって生じるシグナル伝達を構成する分子の活性や構造の変化を指標として検出することができる。あるいは、シグナル伝達のための複合体の形成を指標として、シグナル伝達を検出することもできる。
【0086】
シグナル伝達としては、特にリン酸化または脱リン酸化シグナルが挙げられる。細胞増殖シグナルの多くは蛋白質リン酸化または脱リン酸化による蛋白質修飾を介して下流のシグナル分子に伝達されることが知られている。本発明のシノビオリンも細胞増殖作用を有することから、シノビオリンを介したシグナル伝達もまた蛋白質のリン酸化により伝達されることが示唆される。実際、本発明者らは、シノビオリン発現によるリン酸化作用を見出した。従って、シノビオリンを介するシグナル伝達を、蛋白質のリン酸化の検出により測定することができる。
【0087】
細胞増殖または分化に関わる受容体は、その酵素活性部位として次のようなドメインを有している(実験医学別冊、Bioscience用語ライブラリー、改訂版サイトカイン・増殖因子、羊土社、1998年発行)。
チロシンキナーゼドメイン(VEGF受容体、PDGF受容体、HGF受容体、EGF受容体など)、
チロシンホスファターゼドメイン(RPTPなど)、または
セリン/スレオニンキナーゼドメイン(TGFβ受容体など)
【0088】
シノビオリンもこれらの酵素活性を直接または間接的に保持していると予想される。酵素活性を間接的に有するとは、シノビオリン分子内に酵素活性サイトは持たないが、シノビオリンに会合する分子が酵素活性を持つことを言う。このような分子としては例えばTNF受容体やGM-CSF受容体などが知られている。したがって、例えばチロシン、セリン、および/またはスレオニンのリン酸化活性を検出することにより、シノビオリンによるシグナル伝達を評価することができる。このとき、シノビオリンリガンドの存在下で、被験化合物の作用を評価することにより、シノビオリンリガンドによってトリガーされるシノビオリンのシグナル伝達に与える被験化合物の影響を評価することができる。具体的には、シノビオリンリガンドによるシオノビオリンに対するシグナル伝達を阻害、または抑制する活性を検出することができる。シノビオリンリガンドとしては、本明細書において述べられたシノビオリンリガンドS1-5を用いることができる。あるいはシノビオリンリガンドの不存在下で被験化合物の作用を評価することにより、被験化合物によるシノビオリンに対する刺激活性を評価することもできる。
【0089】
蛋白質のリン酸化を検出するには、シノビオリンリガンドの存在下または不存在下で、例えば被験化合物および [32P]正リン酸とともにシノビオリン発現細胞をインキュベートする。次いでこの細胞の溶解物から免疫沈降によりリン酸化された蛋白質を回収する。回収した蛋白質はSDS-PAGEで展開後、オートラジオグラフィーにより、リン酸化を検出することができる。リン酸化アミノ酸は、TLCやその他の公知のペプチド分析により同定することができる。
あるいは、リン酸化チロシン抗体など、リン酸化蛋白質に対する特異的抗体を用いて特定のアミノ酸のリン酸化を検出することもできる。
【0090】
一般に、細胞内におけるシグナル伝達因子のリン酸化は、次々に複数の分子に伝達される。つまり一連の伝達経路は、カスケードを構成している。そのため、細胞内の蛋白質全体のリン酸化レベルの変化を評価することによって、その細胞に起きたリン酸化シグナルの大きさを比較することができる。細胞内の全蛋白質を対象にリン酸化レベルを評価する方法は公知である。たとえば、細胞をシノビオリンリガンド等で刺激後、タンパク質をSDS-APGEで展開し、フィルターにブロットした後、抗リン酸化チロシン抗体などを用いたウエスタンブロットによって蛋白質全体のリン酸化レベルを評価することができる。また、例えば[32P]正リン酸で細胞を標識し、細胞をシノビオリンリガンド等で刺激後、細胞タンパク質を二次元電気泳動で展開する。タンパク質をクマシーブルーで染色し、オートラジオグラフィーを行う。リン酸化されたスポットを検出することにより、リン酸化レベルを評価することができる。
【0091】
あるいは、シノビオリンの基質となるリン酸化蛋白質におけるリン酸化のレベルの変化を特異的に測定することもできる。シノビオリンの基質となるリン酸化蛋白質は、たとえば上記の二次元電気泳動においてリン酸化されたスポットを回収し、マイクロシークエンスやマススペクトロメトリーによって同定することができる。同定された基質蛋白質のリン酸化レベルの変化は、例えば基質蛋白質に対する特異抗体を用いて免疫沈降を行い、SDS-APGEで展開後、[32P]の取り込みをオートラジオグラフィーで測定したり、あるいは抗リン酸化チロシン抗体を用いたウェスタンブロッティングなどによって評価することができる(バイオマニュアルシリーズ 分子生物学研究のためのタンパク実験法 竹縄忠臣 稲垣昌樹 編)。
【0092】
上記方法に用いる細胞としては、滑膜細胞(例えばRTF)や外来的にシノビオリン遺伝子を導入した細胞などが挙げられる。被験化合物によりシノビオリンによるリン酸化または脱リン酸化のレベルが低下すれば、この化合物はシノビオリンによるシグナル伝達を阻害する化合物と判断される。また被験化合物によりシノビオリンによるリン酸化または脱リン酸化のレベルが上昇すれば、この化合物はシノビオリンによるシグナル伝達を促進する化合物と判断される。
【0093】
例えばシノビオリンが受容体型チロシンキナーゼとして機能し、チロシンリン酸化を介して下流の分子を活性化しシグナルを伝達する場合、被験化合物によりチロシンリン酸化が抑制されれば、この化合物はシノビオリンによるシグナル伝達を阻害する化合物と判断される。また本発明は、例えばチロシンキナーゼ、チロシンホスファターゼ、またはセリン/スレオニンキナーゼなどの蛋白質キナーゼまたはホスファターゼの阻害剤を用いて、シノビオリンによるシグナル伝達を阻害する方法にも関する。
【0094】
また、シノビオリンによるシグナル伝達の好適な他の一例としては、ユビキチン化シグナルが挙げられる。蛋白質構造予測システム(SMART: Simple Modular Architecture Research Tool (ウェブサイトも参照 http://smart.embl-heidelberg.de/) Schultz et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95, 5857-5864, 1998; Schultz et al., Nucleic Acids Res. 28, 231-234, 2000)により、シノビオリンに Ring finger モチーフ(Joazeiro, C. A. et al., Secience 286, 309-312, 1999)の存在が示された。このモチーフは蛋白質の分解に関わるE3ユビキチン-蛋白質リガーゼに存在することが知られている。またRing finger モチーフは、E2ユビキチン結合酵素の結合部位と考えられている。
【0095】
従って、シノビオリンによるユビキチン化シグナルを検出することにより、シノビオリンによるシグナル伝達を評価することができる。ユビキチン化シグナルは、例えば抗ユビキチン抗体を用いて基質蛋白質のユビキチン化を検出することにより、評価される。また、シノビオリンとE2ユビキチン結合酵素または基質蛋白質との結合、あるいはシノビオリンを含むユビキチンリガーゼ複合体などを検出してもよい。具体的には、例えばタグを付けたシノビオリンを発現するベクターをトランスフェクションした細胞を破砕し、[32P]標識ユビキチンを添加し反応後、抗タグ抗体により免疫沈降する。SDS-PAGEにより展開し、オートラジオグラフィーを行うことによりシノビオリンのユビキチンリガーゼ活性を検出することができる(Hashizume, R. et al., J. Biol. Chem. 276, 14537-14540, 2001)。
【0096】
シノビオリンの基質蛋白質におけるユビキチン化のレベルの変化を特異的に測定することもできる。シノビオリンの基質蛋白質は、たとえばシノビオリンをベイトとした酵母two-hybridスクリーニングなどによって同定することができる。同定された基質蛋白質のユビキチン化レベルの変化は、タグつき基質を精製し、そこに、精製したE1、E2、E3およびユビキチンを添加し、反応後、抗タグ抗体で免疫沈降し、抗ユビキチン抗体による染色によって評価することができる(Yokouchi, M. et al., J. Biol. Chem. 274, 31707-31712, 1999)。
【0097】
被験化合物によりシノビオリンによるユビキチン化シグナルの活性化が低下すれば、この化合物はシノビオリンによるシグナル伝達を阻害する化合物と判定される。また被験化合物によりシノビオリンによるユビキチン化シグナルの活性化が上昇すれば、この化合物はシノビオリンによるシグナル伝達を促進する化合物と判定される。例えばシノビオリンとE2ユビキチン活性化酵素との相互作用を阻害する化合物は、シノビオリンによるユビキチン化シグナルを有効に阻害することができる。また本発明は、ユビキチン化シグナルに関与する酵素の阻害剤を用いて、シノビオリンによるシグナル伝達を遮断する方法を提供する。例えばE2ユビキチン結合酵素、あるいはE3ユビキチンリガーゼの阻害剤を細胞に適用することにより、シノビオリンによるシグナル伝達を阻害することも可能である。
【0098】
以上のような方法によりシノビオリンを介するシグナル伝達を調節する活性を有する化合物を選択することができる。シノビオリンによるシグナル伝達を阻害する化合物は、シノビオリンの活性化に起因する疾患の治療剤として有用である。例えばシノビオリンによるシグナル伝達を阻害する化合物は、滑膜増生阻害として有用である。この化合物を投与することにより滑膜増生を抑制することができ、これによりRAなどの滑膜増生を伴う疾患の予防および治療を行うことが可能となる。また、これらの化合物はMLおよびDHRDに対する医薬としても用いられ得る。あるいは、このシグナル伝達を促進する化合物は、シノビオリン刺激剤、あるいは骨形成促進剤などに用いることができる。例えば、骨粗鬆症、骨折、あるいはスポーツ外傷等の治療薬として利用され得る。
【0099】
シノビオリン遺伝子の発見に基づいて、たとえば次のようなRAおよびシノビオリンが関与するその他の疾患に関する新たな研究が可能となる。まず、シノビオリンの発現を制御しているプロモーターやエンハンサーの構造決定が可能となる。すなわち、配列番号:1に示したシノビオリン遺伝子の塩基配列をもとにゲノムのクローニングを進め、発現制御領域の配列を分析することができる。その結果得られるシノビオリンの転写調節領域は、シノビオリンの転写調節因子の探索に利用することができる。
【0100】
また、本発明のシノビオリンノックアウト動物において、マーカー遺伝子をノックインし、シノビオリン遺伝子の内因性プロモーターの制御下にマーカー遺伝子を発現させれば、この動物またはこの動物由来の細胞を用いて、マーカー遺伝子の発現を指標にシノビオリン遺伝子の発現を制御する薬剤をスクリーニングすることができる。例えば転写調節因子の認識配列を2本鎖として与えれば、デコイ核酸医薬として機能する。
【0101】
また、本発明のポリヌクレオチドを用いて、動物における本発明の蛋白質の生物学的な役割を調べることが可能である。このためには、例えば本発明のDNAを導入して、本発明の蛋白質を過剰発現または異所発現(または異時発現)させ、その効果を検証することによってその役割を調べることができる。遺伝子を全身に導入するには、本発明のDNAのトランスジェニック動物を作製すればよい。あるいは、ジーンターゲティングやアンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム等の投与により本発明のDNAの発現や機能を抑制する loss-of-function(機能喪失)実験も有効である。すなわち本発明は、本発明のDNAの発現が改変されているか、または該改変を誘導することができるトランスジェニック非ヒト脊椎動物を提供する。発現の改変は、野生型と比較して改変されていてもよく、改変を誘導する場合においては、誘導前と比較して改変していてもよい。
【0102】
本発明においてトランスジェニック動物とは、外来的に核酸がゲノムに導入された動物が含まれる。また、「DNAの発現」とは、DNAの転写レベルであってもよく、その転写産物の翻訳レベルであってもよい。また「改変を誘導する」とは、例えば外的な刺激や時期特異的に発現の改変が誘導されたり、掛け合わせによる後代において発現が改変されることを含む。また、一部の細胞または組織における発現の改変も含まれる。本発明のトランスジェニック非ヒト脊椎動物としては、哺乳動物(例えばマウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ならびにウシ等)が好ましく、特にげっ歯類、例えばマウスまたはラットなどを用いることが好適である。
【0103】
本発明のトランスジェニック非ヒト脊椎動物には、本発明の蛋白質をコードするDNAが外来的に導入されているトランスジェニック非ヒト脊椎動物が含まれる。このようなトランスジェニック動物は、例えば本発明の蛋白質をコードするDNAを発現するベクターを、受精卵に導入することにより製造することができる。
【0104】
ベクターの導入は、ベクターと卵を混合後リン酸カルシウムによる処理、エレクトロポレーション、または倒立顕微鏡下におけるマイクロインジェクション法等により行うことができる。または、胚性幹細胞(ES細胞)に本発明のベクターを導入し、選別したES細胞を受精卵(肺盤胞)にマイクロインジェクションにより導入してもよい。
得られた受精卵は、輸精管結紮雄個体との交配により偽妊娠させたレシピエントの卵管内に移植し、産仔を得ることができる。産仔の尾などからDNAを調製し、PCRにより導入DNAの保持を確認する(Brigid Hogan et al. eds., "Manipulating the Mouse Embryo : A Laboratory Manual", Cold Spring Harbor Laboratory, 1994, Gordon, J. W. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77: 7380-7384, 1980; Jaenisch, R. and B. Mintz, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 71: 1250-1254, 1974)。生殖系列に遺伝子が導入されたキメラ動物からは、正常動物と交配することによりヘテロ接合体が得られる。ヘテロ接合体同士の交配によりホモ接合体を得ることができる。本発明のトランスジェニック非ヒト脊椎動物には、これらの子孫も含む。
【0105】
本発明のDNAを生体内で発現させるために用いるプロモーターとしては、例えば全身発現性のプロモーターや、その他の組織特異的、時期特異的プロモーターを用いることができる。
全身性プロモーターとしては、例えばβアクチンプロモーター等が挙げられる。例えば、pCAGGS等に含まれている、ヒトサイトメガロウイルスエンハンサーが連結されたニワトリβアクチンプロモーターを用いることができる。部位特異的または時期特異的に本発明のDNAを発現するトランスジェニック動物を作製する場合、Cre-loxPの系などを利用することが可能である。例えば、部位特異的または時期特異的なプロモーターの下流にCreリコンビナーゼ遺伝子を有するトランスジェニック動物を作製し、別に汎用プロモーターの下流に本発明のポリペプチドをコードするDNAを連結させたベクターを保持するトランスジェニック動物を作製する。この時、プロモーターと本発明のポリペプチドをコードするDNAとの間に一対のloxPに挟まれたストップコドンまたは転写終結シグナル等を挿入しておく。2つの個体を掛け合わせることにより、Creの発現に伴なって本発明のポリペプチドを発現させることができる。
【0106】
また、本発明のトランスジェニック非ヒト脊椎動物には、内因性の本発明の蛋白質をコードするDNAの発現が抑制されているトランスジェニック非ヒト脊椎動物が含まれる。このようなトランスジェニック動物は、例えば、ジーンターゲティングにより製造することができる。このようなトランスジェニック非ヒト脊椎動物を作製するには、例えば本発明のDNAの一部または全部を置換、欠失、付加および/または挿入等により欠損させたターゲティングベクターを胚性幹(ES)細胞に導入し、染色体DNAと相同組み換えを起した細胞を選択する。相同組み換え体の選択のためには公知のポジティブ・ネガティブ選択を行うことができる。ポジティブ選択用マーカーとしては、ネオマイシン耐性遺伝子などの薬剤耐性遺伝子、ネガティブ選択用マーカーとしては、ジフテリア毒素(DT)-A遺伝子や HSV-tk遺伝子などが挙げられる。サザンブロッティングやPCR等により、正しく組み換えられた細胞を選択することができる。得られた細胞は、8細胞期程度の受精卵または胚盤胞の胚盤胞腔などに注入し、輸精管結紮雄と交配させて作製した偽妊娠メス個体の子宮内に移植する。産仔のゲノムDNA解析は上記と同様に行い、ヘテロ接合体およびホモ個体を得ることができる。目的の遺伝子をノックアウトするだけでなく、他の遺伝子をノックインすることもできる。ノックインする遺伝子に特に制限はない。例えばlacZ遺伝子等のマーカー遺伝子が挙げられる。
【0107】
また、内因性の本発明の蛋白質をコードするDNAの発現が抑制されているトランスジェニック非ヒト脊椎動物は、アンチセンス法またはリボザイム法を利用して作製することもできる。アンチセンス法においては、本発明の蛋白質をコードするDNAの転写産物に相補的なRNAをコードするDNAを含むベクターを、また、リボザイム法においては、例えば本発明の蛋白質をコードするDNAの転写産物を切断するRNAをコードするDNAを含むベクターを、上記と同様に哺乳動物の胚性幹細胞に導入し、これを哺乳動物の胚に注入し、該胚から個体を得ればよい。
【0108】
シノビオリンがRAの滑膜細胞増殖症状をもたらしていることから、トランスジェニック動物には次のような用途が考えられる。すなわち、シノビオリン遺伝子、あるいはSLの遺伝子を、適当な動物に組み込んでトランスジェニック動物とし、これを強発現させればRAのモデルとすることができる。このトランスジェニック動物において、滑膜増殖機構を制御する薬剤のスクリーニングを進めることが可能となる。あるいは、ヒトのシノビオリン/SLでRA症状を起こさない動物においては、これらの遺伝子を強発現させることで、シノビオリンやSLの供給源として活用することも可能である。
【0109】
シノビオリン遺伝子を発現するトランスジェニック動物は、滑膜増生を伴う関節炎など、RAと共通する症状を起す。すなわちこの動物は慢性関節リウマチモデル動物となる。この動物を用いて、RAに対する医薬候補化合物を含む、種々の化合物の試験またはスクリーニングを行うことができる。被験化合物をトランスジェニック動物に投与し、症状の寛解または増悪を観察して化合物の効果を検証したり、あるいはスクリーニングを行うことができる。本発明のトランスジェニック動物を利用した試験またはスクリーニングの方法としては、以下の方法が挙げられる。
関節異常を寛解または増悪させる化合物を試験またはスクリーニングする方法であって、(a)本発明のDNAが外来的に導入されているトランスジェニック非ヒト脊椎動物に被験化合物を投与する工程、および(b)投与された動物の関節異常を評価する工程、を含む方法。
【0110】
またシノビオリン遺伝子のノックアウト動物は、シノビオリンの作用の抑制による副作用を調べたり、その副作用を低減する薬剤のアッセイやスクリーニングに利用することができる。またノックアウト動物に局所的、または一過的にシノビオリンを発現させ、シノビオリンの効果を特異的に検証することもできる。また、SL(S1-5)とML/DHRDとの関連より、シノビオリンがSLの細胞内シグナル伝達に関与する可能性があることにより、シノビオリンノックアウト動物は、MLおよびDHRDのモデルとなり得る。例えば組織特異的、時期特異的にシノビオリン遺伝子を(ホモまたはヘテロに)ノックアウトすることが考えられる。
【0111】
シノビオリン遺伝子のノックアウト時にマーカー遺伝子等を導入したノックイン動物を用い、化合物のシノビオリン遺伝子の発現を上昇または下降させる活性を検出することができる。すなわち本発明は、以下の工程を含む被験化合物のシノビオリン遺伝子の発現を調節する活性の検出方法に関する。
a)被験化合物を前記ノックイン動物またはノックイン細胞に適用する工程、および
b)マーカー遺伝子の発現レベルを測定する工程、
【0112】
この検出方法は、シノビオリン遺伝子の発現を調節する化合物のスクリーニングに利用することができる。この方法は、シノビオリン遺伝子の発現を調節する化合物のスクリーニング方法であり、a)上記ノックイン動物またはノックイン細胞に、被験化合物を適用する工程、b)マーカー遺伝子の発現レベルを測定する工程、およびc)ノックインされた遺伝子の発現を上昇または低下させる化合物を選択する工程、を含む方法である。
すなわち、被験化合物を適用した動物または細胞において、マーカー遺伝子の発現を検出し、マーカー遺伝子の発現を上昇または低下させる化合物を選択する。LacZをマーカーに用いた場合のマーカー遺伝子の発現の検出は、実施例に記載の方法により行うことができる。この方法により、個体を用いた試験やスクリーニングに加え、例えば器官や組織を単離して用いたり、トランスジェニック動物から得られた細胞を用いて同様の試験やスクリーニングを行うことも可能である。
【0113】
個体を用いたスクリーニングにおいては、被験化合物は、適当なルートを介して投与される。被験化合物は、例えば静脈注射、皮下注射、筋肉内注射、腹腔内注入、経口投与、経腸投与、経鼻投与などの公知の投与方法により投与され得る。試験管培養系を用いてスクリーニングを行う場合は、被験化合物は例えば培地中に添加される。または、マイクロインジェクション等により細胞内に注入されてもよい。被験化合物が遺伝子である場合は、naked DNAとして、所望のトランスフェクション試薬と組み合わせて、あるいは公知の発現ベクターに組み込んで細胞に遺伝子を導入することができる。シノビオリン遺伝子のプロモーター領域の配列を含む核酸は、デコイとして作用し、シノビオリンの発現を抑制することが期待される。
【0114】
シノビオリン遺伝子の発現を調節する活性は、たとえば以下の工程によって検出することができる。
a)シノビオリンまたはシノビオリンと機能的に同等なポリヌクレオチドの内因性プロモーターの制御下にレポーター遺伝子を発現することができる発現系に、被験化合物を接触させる工程、および
b)レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
【0115】
そしてこの検出方法に基づいて、シノビオリン遺伝子の発現を調節する化合物をスクリーニングすることができる。すなわち本発明は、以下の工程を含む、シノビオリンまたはシノビオリンと機能的に同等なポリヌクレオチドの内因性プロモーターの活性を調節する化合物のスクリーニング方法に関する。
a)前記活性の検出方法に基づいて、被験化合物のシノビオリンまたはシノビオリンと機能的に同等なポリヌクレオチドの内因性プロモーターの活性を調節する活性を測定する工程、および
b)対照と比較して、前記活性に差がある被験化合物を選択する工程
【0116】
対照としては、被験化合物の不存在下で工程a)と同じ操作を行った場合、あるいは工程a)に比べ被験化合物をより低い濃度で含む場合などが挙げられる。また、例えば別の化合物を用いて工程a)と同じ操作を行い、その化合物よりもより高い作用を持つ化合物を選択することもできる。遺伝子の発現には、転写レベルの発現、および翻訳レベルの発現が含まれる。シノビオリン遺伝子の内因性プロモーターの下流に結合されている遺伝子は、天然のシノビオリン遺伝子自体であってもよく、人工的に連結されたレポーター遺伝子であってもよい。シノビオリン遺伝子の内因性プロモーター活性は、例えば下流に連結されている遺伝子のcDNA断片をプローブとしたノーザンハイブリダイゼーション、RT-PCR、該遺伝子がコードする蛋白質に対する抗体を用いたウェスタンブロッティング、免疫沈降、ELISA等により、該遺伝子の転写産物または翻訳残物を検出することにより行うことができる。
【0117】
また、シノビオリン遺伝子のプロモーターの下流にレポーター遺伝子を結合した構築物を作製すれば、これを細胞にトランスフェクションして得られた形質転換細胞を用いて、レポーター遺伝子の発現を指標にスクリーニングを行うこともできる。このような構築物は、シノビオリン遺伝子のプロモーターを含むシノビオリン遺伝子の上流領域のゲノムDNAの下流に、所望のレポーター遺伝子を連結させることにより作製することができる。レポーター遺伝子に特に制限はなく、LacZ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、ルシフェラーゼ、GFP(green fluorescent protein)等を挙げることができる。シノビオリン遺伝子の発現を低下させる化合物は、RAの治療薬の候補となる。
【0118】
本発明の試験またはスクリーニングに用いる被験化合物としては特に制限はなく、無機化合物、有機化合物、ペプチド、蛋白質、天然または合成低分子化合物、天然または合成高分子化合物、組織または細胞抽出液、微生物の培養上清や、植物、海洋生物由来の天然成分などが挙げられるがこれらに制限されない。遺伝子ライブラリーの発現産物または発現cDNAライブラリーなどを用いることもできる。また、上述した、シノビオリンに結合する化合物のスクリーニングや、シノビオリンとSLとの結合を阻害する化合物のスクリーニングにより得られた化合物を被験化合物として投与することもできる。
【0119】
化合物の投与方法は特に制限はなく、in vitroであれば、培養液への添加を含む細胞への接触、マイクロインジェクターやトランスフェクション試薬を用いた細胞への導入などにより実施することができる。in vivoであれば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射、腹腔内投与、経口投与、経腸投与、筋肉内投与、点眼、経鼻投与、関節等への局所注入など当業者に公知の方法により行いうる。化合物は、適宜組成物として投与される。例えば水、生理食塩水、緩衝液、塩、安定剤、保存剤、懸濁剤などと混合され得る。
【0120】
また、シノビオリン遺伝子の発現を調節する化合物のスクリーニングは、トランスジェニック動物ではなく通常の動物またはその動物に由来する細胞等を用いて行うことも可能である。たとえば本発明は、以下の工程を含むシノビオリンまたはシノビオリンと機能的に同等なポリヌクレオチドの発現を調節する活性の検出方法に関する。
a)被験化合物の存在下で、シノビオリンまたはシノビオリンと機能的に同等なポリヌクレオチドを発現する細胞を培養する工程、および
b)前記ポリヌクレオチドの発現レベルを測定する工程、
【0121】
そしてこの検出方法に基づいて、シノビオリン遺伝子の発現を調節する化合物をスクリーニングすることができる。すなわち本発明は、以下の工程を含む、シノビオリンまたはシノビオリンと機能的に同等なポリヌクレオチドの発現を調節する化合物のスクリーニング方法に関する。
a)前記活性の検出方法に基づいて、被験化合物のシノビオリンまたはシノビオリンと機能的に同等なポリヌクレオチドの発現を調節する活性を検出する工程、および
b)対照と比較して前記活性に差を有する被験化合物を選択する工程
【0122】
シノビオリンまたはシノビオリンと機能的に同等なポリヌクレオチドの発現レベルは、先に述べたような方法によって測定することができる。またこのスクリーニング方法には、先に述べたようなその他のスクリーニング方法において被験化合物として用いることができるあらゆる化合物を被験化合物とすることができる。対照としては上記と同様、被験化合物の不存在下で工程a)と同じ操作を行う場合などが挙げられる。
【0123】
本発明の試験またはスクリーニング方法により同定された化合物は、RAやシノビオリンが関与するその他の疾患に対する医薬の候補となり、RA等の疾患の予防または治療に利用することができる。これらの化合物は、有効成分以外に適宜他の溶質や溶媒と組み合わせて医薬組成物とすることができる。本発明のスクリーニング方法により単離される化合物を医薬品として用いる場合には、単離された化合物自体を直接患者に投与する以外に、公知の製剤学的方法により製剤化した医薬組成物として投与を行うことも可能である。
【0124】
例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤などと適宜組み合わせて製剤化して投与することが考えられる。本発明の医薬組成物は、水溶液、錠剤、カプセル、トローチ、バッカル錠、エリキシル、懸濁液、シロップ、点鼻液、または吸入液などの形態であり得る。化合物の含有率は適宜決定すればよい。患者への投与は、一般的には、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射、経口投与、関節内注入、その他の当業者に公知の方法により行いうる。
【0125】
投与量は、患者の体重や年齢、投与方法、症状などにより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。一般的な投与量は、薬剤の有効血中濃度や代謝時間により異なるが、1日の維持量として約0.1mg/kg〜約1.0g/kg、好ましくは約0.1mg/kg〜約10mg/kg、より好ましくは約0.1mg/kg〜約1.0mg/kgであると考えられる。投与は1回から数回に分けて行うことができる。また、該化合物がポリヌクレオチドによりコードされうるものであれば、該ポリヌクレオチドを遺伝子治療用ベクターに組み込み、遺伝子治療を行うことも考えられる。
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0126】
[実施例1] 抗滑膜細胞抗血清の作製
抗滑膜細胞抗血清は、以下のような操作で調製した滑膜細胞を免疫原として用いて得た。10人の慢性関節リウマチ(RA)患者の滑膜除去手術により摘出された関節滑膜組織を、無菌的な状態でphosphate buffered saline(PBS)で洗浄した。洗浄した組織を約5mm立方の大きさに細断し、37℃、20分 0.25%トリプシン/PBS消化を行った。消化された滑膜組織より余分な組織片を取り除き、得られた細胞を10%牛胎仔血清を含むダルベッコ改変イーグル培地(Virology, 8, 396, 1959)(10%FCS-DMEM)を用いて懸濁し、細胞培養用の滅菌シャーレ上で、5%CO2、37℃、24時間培養した。培養上清を捨て、10%FCS-DMEMを用いて洗浄し非接着細胞を取り除き、シャーレに付着した細胞としてリウマチ患者由来滑膜細胞を取得した(The Journal of Clinical Investigation, 92, 186, 1993)。培養された細胞をプールして、RA患者由来の以下の滑膜細胞として実験に用いた。
【0127】
1×105 個の患者由来滑膜細胞を、10%FCS-DMEM 20mLに懸濁して76cm2 の培養フラスコ中で培養した。3日ごとに培地を交換し、2週間後に培養面を細胞が満たした状態になったところで培地を除き、0.05%EDTA/PBSと0.1%トリプシン/PBSを7mLづつ加えて細胞を剥がして回収した。回収した細胞をPBSで洗浄して培地成分を除去し、1mLのPBSに懸濁して免疫原とした。
【0128】
この免疫原を、作成後2時間以内にウサギ(1羽)の耳に静脈注射することにより免疫した。免疫は1週間間隔で合計6回行った。6回目の免疫のときに、ウサギの耳から数mL採血して抗血清を試験したところ、蛍光抗体法によってリウマチ患者の滑膜細胞と反応することが確認できた。6回目の免疫操作の更に1週間後にカテーテルを使って心臓から可能な限りの血液を採取した。この血液を4℃で一晩放置して凝固させ血清を分離した。血清には保存剤として0.1%のアジ化ナトリウムを加え、抗滑膜細胞抗血清として4℃で保存した。
【0129】
[実施例2] 抗滑膜細胞抗血清が認識する抗原(シノビオリン)の遺伝子クローニング
実施例1で得たRA患者10名分の滑膜細胞からAcid guanidine/phenol chloroform法にてtotal RNAを抽出し、poly Tビーズを用いmRNAを精製した(Analytical Biochemistry, 162, 159, 1987)。λZAPベクター(STRATAGENE社)を用いてRA患者滑膜細胞のcDNAライブラリーを常法に従い作製した。picoBlue immunoscreening kit(STRATAGENE社)により、上記実施例1の抗滑膜細胞抗血清によるimmunoscreeningを行った(図1)。得られた陽性クローン(ファージ)をヘルパーファージによりプラスミドpBluescript II SK(+)へと変換した。pBluescripte II SK(+)に挿入されたDNAの塩基配列はM13PrimerM4及びM13PrimerRV(Takara)を用いダイターミネーター法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 74, 5463, 1977)に基づきABI PRISM 377 DNA Sequencer(PERKIN ELMER)により決定した。前述の抗滑膜細胞抗血清が認識する抗原をコードする遺伝子(「シノビオリン」と名付けた)の3'末端から塩基配列を決定し、poly(A)+ 鎖を含む2990bpの塩基配列を明らかにした(配列番号:1の42-3031番目)。この塩基配列を用い、滑膜細胞cDNAライブラリーから5'-RACE(Rapid Amplification of cDNA Ends)法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 85:8998-9002, 1988)により全長シノビオリンの翻訳領域と5'-非翻訳領域の一部及びpoly(A)+ 鎖を含む3031bpの塩基配列を決定した(配列番号:1)。この塩基配列を GenBank によりホモロジーサーチした結果、類似の配列は報告されておらず新規な遺伝子であった。
【0130】
[実施例3] 大腸菌での部分シノビオリン組み換えタンパク質の発現
抗滑膜細胞抗血清を用いたイムノスクリーニングで得られたcDNAクローンから、シノビオリンの一部をコードするcDNA(1799bp; 配列番号:1の1233-3031番)を制限酵素EcoRI及びXhoI処理し抽出した。EcoRI/XhoIの認識配列を末端に持つcDNAを、グルタチオン S-トランスフェラーゼ(GST)融合タンパク質発現ベクターpGEX-5X-3に挿入してサブクローニングした。シノビオリンcDNAの一部を挿入したpGEX-5X-3をBL21大腸菌株に42℃、45秒ヒートショックにより導入し、BL21/synoviolin-GST gene/pGEX-5X-3を得た。このBL21を0.1mg/mLアンピシリンを含むLB培地で培養し、0.1mM isopropylthio-β-D-galactoside(IPTG)を添加して37℃で更に2時間培養し前記融合タンパク質の発現を誘導した。遠心分離法で回収したBL21をPBSで洗浄後、1mg/mLリゾチーム消化し0.1% TritonX-100により可溶化した。可溶化されたGST融合タンパク質を含むBL21由来タンパク質懸濁液をグルタチオンセファロース4B(GS4B)に適用後PBSで洗浄し、50mM還元型グルタチオン/PBSにより目的とするGST-部分シノビオリン融合タンパク質を精製した。
【0131】
[実施例4] 大腸菌での全長シノビオリン組み換えタンパク質の発現
実施例2で得られたシノビオリンをコードするcDNA(1851bp; 配列番号:1の60-1910番)の3'-末端に、2分子のインフルエンザ赤血球凝集素(hemagglutinin;HA)-tagを付加したシノビオリンcDNA(syno-HAHA)を、グルタチオン S-トランスフェラーゼ(GST)融合タンパク質発現ベクターpGEX-5X-1に挿入してサブクローニングした。syno-HAHA遺伝子を挿入したpGEX-5X-1をBL21大腸菌株に42℃、45秒ヒートショックにより導入し、BL21/syno-HAHA/pGEX-5X-1を得た。このBL21を0.1mg/mlアンピシリンを含むLB培地で培養し、0.1mM isopropylthio-β-D-galactoside(IPTG)を添加して30℃で更に3時間培養しN末端にGST、C末端にHAを融合したシノビオリン(GST-シノビオリン-HAHA)タンパク質の発現を誘導した。遠心分離法で回収したBL21をPBSで洗浄した後、1mg/mlリゾチーム消化し0.1% TritonX-100により可溶化した。可溶化したGST-シノビオリン-HAHAタンパク質を含むBL21由来タンパク質懸濁液をグルタチオンセファロース4B(GS4B)に適用後PBSで洗浄し、50mM還元型グルタチオン/Tris-HCl(pH8.0)により目的とするGST-シノビオリン-HAHAタンパク質を精製した。
【0132】
発現の確認は、50mM還元型グルタチオン溶出画分をPBSで200倍、2000倍希釈し、25mM Tris-HCl(pH6.8)、0.25% sodium dodecyl sulfate(SDS)、0.05%メルカプトエタノール、0.1%グリセロールで処理した後、8% SDS polyacrylamide電気泳動(SDS-PAGE)に適用した。SDS-PAGE後、GST-シノビオリン-HAHAタンパク質は、エレクトロブロッティング法によりナイロン膜に転写した。このナイロン膜は、5%スキンミルクを含むPBSで室温、60分ブロッキングを行い、0.5%スキムミルクを含むPBSで400倍に希釈した抗HAモノクローナル抗体(Boehringer mannheim社)で室温、60分免疫反応させた。反応後、0.1% Tween20/PBSで洗浄し、horse radish peroxidase(HRP)標識マウスIgG抗体を2次抗体として室温で60分免疫反応させ、0.1% Tween20/PBSで洗浄し、HRP活性を検出することにより目的抗原を検出した。HRP活性の検出にはECLキット(Amersham社)を用いた(Clinical Chemistry. 25, p1531, 1979)。結果を図2に示した。上記GST-シノビオリン-HAHA融合タンパク質の分子量サイズから、シノビオリンタンパク質の分子量は約80kDaと推測された。
【0133】
[実施例5] in vitroにおける全長シノビオリン組み換えタンパク質の発現
シノビオリン遺伝子(配列番号:1)の末端を制限酵素EcoRI修飾し、pBluescript II KSベクターに挿入した(syno/pBluescript)。その後、syno/pBluescript(1μg)とTNT-coupled Translation System(Promega社)を用いin vitro translation法により、シノビオリンタンパク質を試験管内で[35S]ラベル体として発現させた。[35S]ラベルしたシノビオリンタンパク質は、10% SDS-PAGEに適用しイメージアナライザー(BAS2000, Fujix)により放射活性を検出した。結果を図3に示した。シノビオリン遺伝子から試験管内で翻訳されるシノビオリンタンパク質のSDS-PAGEによる分子量は、約80kDaであることが認められた。
【0134】
[実施例6] ノーザンブロッティング法によるシノビオリン遺伝子の発現確認
実施例1で得られたRA患者由来の滑膜細胞、A549細胞株、Jurkat細胞株そしてHeLa細胞株より常法に従いmRNAを採取した。このmRNA 1μgを1%アガロースゲル電気泳動で分離し、ナイロン膜にコンタクトブロッティング法で転写した。ナイロン膜を80℃、2時間処理し、デンハルト液中で42℃、2時間のプレハイブリダイゼイションを行った。次いで32P放射ラベルしたシノビオリンのcDNA(1799bp; 配列番号:1の1233-3031番)をプローブとして42℃、12時間ハイブリダイズさせた。反応後のナイロン膜を300mM NaCl、30mM sodium citrateで洗浄後、15mM NaCl、1.5mM sodium citrateを使って50℃で再度洗浄を行った。目的のmRNAはX線フィルムを感光させることにより検出した。この結果得られたオートラジオグラフを図4に示した。シノビオリン遺伝子が、RA患者由来滑膜細胞に強く発現していることを認めた。
【0135】
[実施例7] ウエスタンブロッティング法による各種細胞におけるシノビオリンの発現確認
以下の細胞を試料として、シノビオリンの発現状態をウエスタンブロッティング法で確認した。
・ 実施例1で調製したRA患者由来の滑膜細胞
・ヒト臍帯血管内皮細胞(HUVEC)
・HEK(human embryonic kidney)-293T
・実施例3で調製したGST-部分シノビオリン融合タンパク質(陽性コントロール)
【0136】
まず試料とする各種細胞から、1%NP-40で可溶化した細胞溶解液を調製した。各細胞溶解液は25mM Tris-HCl(pH6.8)、0.25% sodium dodecyl sulfate(SDS)、0.05%メルカプトエタノール、0.1%グリセロールで処理し、8% SDS polyacrylamide電気泳動(SDS-PAGE)により分離した。SDS-PAGE後各種細胞由来タンパク質は、エレクトロブロッティング法によりニトロセルロース(NC)膜に転写した。このNC膜に対し、抗滑膜細胞抗血清を、2.0mg/mLのGST-部分シノビオリン融合タンパク質と5%スキムミルクを加えた Tris buffered saline(TBS)で1000倍に希釈して室温で60分免疫反応させた。また、陰性コントロールとして同じ抗体溶液をNC膜と反応させる実験、あるいは抗体溶液中のGST-部分シノビオリン融合タンパク質をGSTのみに代えた実験を同時に行った。反応後のNC膜を 0.1% Tween20/TBSで洗浄し、horse radish peroxidase(HRP)標識抗ウサギIgG抗体を2次抗体として室温で60分免疫反応させ、0.1% Tween20/TBSで洗浄し、HRP活性を検出することにより目的抗原を検出した。HRP活性の検出にはECLキット(Amersham社)を用いた(Clinical Chemistry, 25, p1531, 1979)。結果を図5に示した。
【0137】
コントロール実験(図5;+GST)においてRA患者由来滑膜細胞に検出され、HUVECおよびHEK-293T細胞に検出されない220kDaタンパク質に対する抗滑膜細胞抗血清の免疫反応をGST-部分シノビオリンは阻害し、約140kDaタンパク質、ならびに185kDaタンパク質に対する免疫反応も一部阻害した(図5;+GST-部分シノビオリン)。
【0138】
220kDa以外のバンドで観察された反応性は、他の抗体との反応性をもとにフィブロネクチン(分子量約240kDa)、あるいはラミニンのサブユニット(分子量約200kDa)等と推測され、この実験の結果に基づけばシノビオリンの分子量は約220kDaであることが推測された。しかしながら、実施例5で確認したシノビオリンの分子量は約80kDaである。両者の差から、シノビオリンがSDSでは解離しない多量体構造をとっている可能性が考えられた。
【0139】
[実施例8] ウエスタンブロッティング法によるRA患者由来滑膜細胞におけるシノビオリンタンパク質の発現確認
実施例1で調製したRA患者由来の滑膜細胞を 1% NP-40で可溶化した細胞破砕画分を調製した。この滑膜細胞破砕液は、25mM Tris-HCl(pH6.8)、0.25%sodium dodecyl sulfate(SDS)、0.05%メルカプトエタノール、0.1%グリセロールで処理し、8% SDS polyacrylamide電気泳動(SDS-PAGE)により分離した。SDS-PAGE後、滑膜細胞由来タンパク質は、エレクトロブロッティング法によりニトロセルロース(NC)膜に転写した。このNC膜に対し、5%スキンミルクを加えた Tris buffered saline(TBS)で室温、1時間ブロッキングした後、RA患者由来滑膜細胞を免疫し得られた抗滑膜細胞抗血清(図中の免疫後)を5%スキンミルクを加えたTBSで1000倍希釈して室温、1時間免疫反応させた。同時に、ウサギに滑膜細胞を免疫する前に採取した血清(プレイミューン)を陰性コントロールとして用いた。反応後のNC膜を0.1% Tween20/TBSで洗浄し、horse radish peroxidase(HRP)標識抗ウサギIgG抗体を2次抗体として室温、1時間免疫反応させ、0.1% Tween20/TBSで洗浄し、HRP活性を検出することにより目的抗原を検出した。HRP活性の検出にはECLキット(Amersham社)を用いた(Clinical Chemistry. 25, p1531, 1979)。結果を図6に示した。
【0140】
[実施例9] 免疫染色法による各種細胞や滑膜組織におけるシノビオリンの発現確認
免疫染色法は、滑膜細胞を常法に従いスライドガラス上に固定し、実施例1の抗滑膜細胞抗血清を用いた免疫染色を行った。1% 牛血清アルブミン(BSA)で30分ブロッキングを行った標本に、1%BSAで100倍希釈した抗滑膜細胞抗血清を室温で60分免疫反応させた。また抗血清による観察とともに、この抗血清から精製した精製抗滑膜細胞抗体を用いた実験も行った。精製抗滑膜細胞抗体は、GST-部分シノビオリン融合タンパク質をリガンドとしてイムノアフィニティ精製することにより調製した。リガンドには、配列番号:1の1233-3031番までのシノビオリン遺伝子1799bp挿入したGST-融合タンパク質発現ベクターpGEX-5X-3をBL21に導入後発現させた融合タンパク質を用い、グルタチオンセファロースカラムをファルマシア社の方法により作製してGST-部分syno-GSカラムとした。精製抗滑膜細胞抗体を用いる場合のコントロールには、GSTをリガンドとして同じように抗血清をイムノアフィニティ精製して得た抗GST抗体を用いた。
【0141】
反応後の標本をPBSで洗浄後、fluorescein isothiocyanate標識抗ウサギIgG抗体を2次抗体として免疫反応させた。抗滑膜細胞抗血清に免疫反応する抗原の確認は、共焦点レーザー顕微鏡で行った。結果を図7に示した。本抗血清はRA患者由来滑膜細胞に強く免疫反応することが認められ、この免疫反応は実施例3で作製したGST-部分シノビオリン融合タンパク質によって阻害されることが確認できた(図7上段)。更にこの抗血清から精製した精製抗滑膜細胞抗体では、免疫反応が更に強まり強陽性となることも確認できた(図7下)。
【0142】
RA患者由来滑膜組織の染色は、常法に従い滑膜組織をスライドガラス上に固定して行った。1% BSAで30分ブロッキングした標本に対して、1% BSAで100倍希釈した抗滑膜細胞抗血清を室温で60分間免疫反応させた。反応後の標本をPBSで洗浄し、HRP標識抗ウサギIgG抗体を2次抗体として免疫反応させた。抗滑膜細胞抗血清に免疫反応する抗原は、HRP活性に基づく 3,3'-ジアミノベンジジン四塩酸塩の発色により確認した。前述のウエスタンブロッティング法と同様にして、GST-部分シノビオリン融合タンパク質を用いた抗滑膜細胞抗血清吸収試験を滑膜組織染色に対して行った。GST-部分シノビオリン融合タンパク質を2.0mg/mLあるいはGST(2.0mg/mL)を抗滑膜細胞抗血清に加え組織染色を行った。結果は図8に示した。コントロールで認められた抗滑膜細胞抗血清の滑膜組織に対する染色性は、GST-部分シノビオリン融合タンパク質により弱められることが認められた(図8)。加えて上記GST-部分Syno-GSからの精製抗体を使った滑膜組織に対する免疫染色は、GST-GSから得られた抗体と比較し、強陽性に反応することが認められた(図9)。
ウエスタンブロッティング法(実施例8)および免疫染色法の結果より、抗滑膜細胞抗血清が認識するシノビオリンタンパク質はRA患者由来滑膜細胞及び滑膜組織に発現していることが確認された。
【0143】
[実施例10] RA患者血清中抗シノビオリン抗体の存在
GST-部分シノビオリン融合タンパク質を抗原として、ウエスタンブロッティング法によってRA患者血清中の抗シノビオリン抗体の検出を試みた。実施例7と同様の操作により、まずGST-部分シノビオリン融合タンパク質(100ng/lane)をSDS-PAGEにより泳動し、NC膜に転写した。1次抗体としてRA患者血清(5例)を Tris buffered saline(TBS)で1000倍希釈し、GST-部分シノビオリン融合タンパク質を転写したNC膜に対して室温で60分免疫反応させた。0.1% Tween20/TBSでNC膜を洗浄した後HRP標識抗ヒトIgG抗体を2次抗体として室温で60分免疫反応させ、0.1% Tween20/TBSで洗浄し、HRP活性を検出することにより目的抗原と反応したヒトIgGを検出した。HRP活性の検出は実施例7と同様に行った。結果を図10に示した。RA患者の血清中(5例中5例)にはGST-部分シノビオリン融合タンパク質に対する抗IgG抗体が存在することが認められた(図10)。一方、変形性関節症(OA)患者由来血清及び正常ヒト血清中にはGST-部分シノビオリンを認識する抗体は認められなかった。
【0144】
[実施例11] 発現ライブラリーのスクリーニングによるシノビオリンリガンドの同定
実施例2で作製したRA患者滑膜細胞由来のcDNA発現ライブラリーを用いて、シノビオリンリガンドのスクリーニングを行った(竹縄忠臣、渡邉俊樹編、バイオマニュアルUPシリーズ"タンパク質の分子間相互作用実験法"、pp. 66-67、羊土社; Kaelin, W. G. et al., Cell 70, 351-364, 1992; Skolnik, E. Y. et al., Cell 65, 83-90, 1991; Sambrook, J. et al., Molecular Cloning, a laboratory manual second edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press 12.16-12.20, 1989)。ライブラリーファージを大腸菌(XL1-Blue MRF')に37℃20分間インキュベートして感染させ、Topアガロースと混和後プレートに広げた。42℃で3.5時間培養後、10mM IPTG に浸漬した後乾燥させたニトロセルロースメンブレンをプレートに載せ、さらに37℃で3.5時間培養を行った。メンブレンを回収後、洗浄バッファー[10mM Tris-HCl (pH8.0), 0.5% Skim milk, 0.1% TritonX-100, 150mM NaCl, 1mM EDTA, 5mM MgCl2, 1mM DTT, protease inhibitor(complete, Boehringer Mannheim社)]で5分間の洗浄を5回行った後、ブロッキングバッファー[10mM Tris-HCl (pH8.0), 5% Skim milk, 0.1% Triton X-100, 150mM NaCl, 1mM EDTA, 5mM MgCl2, 1mM DTT, 5% glycerol, protease inhibitor(complete, Boehringer Mannheim社)]に1時間浸漬した。洗浄バッファーで5分間の洗浄を5回行った後、プロテインキナーゼAで 32Pラベルした GST-シノビオリン(実施例3で精製した GST-部分シノビオリン融合タンパク質)をプローブとして加え(約106 cpm/ml)、インキュベートした。メンブレン1枚のカウントが約1kcpmになるまで洗浄バッファーを変えながら洗浄を繰り返し、オートラジオグラフィーによりシグナルを検出した。その結果、シノビオリンに結合するクローンが得られた。このクローンをシノビオリンリガンド(SL)と名付けた。
【0145】
SLのcDNAについて、その5'末端付近の100bp、ならびに3'末端付近の100bpについて塩基配列を決定した。得られた塩基配列情報を基にデータベースの検索を行ったところ、末端部分の100bpにおいてはS1-5[Lecka-Czernik, B. et al., Molecular and Cellular Biology, 15, 120-128, 1995; accession number U03877 (cDNA), AAA65590 (protein)、"EFEMP1"とも呼ばれる: Stone, E. M. et al., Nature Genetics 22, 199-202, 1999; accession number Q12805 (protein)]と呼ばれる公知の遺伝子と共通の配列であることが明らかとなった。両者の遺伝子とその翻訳産物の大きさはほぼ同じであり、同一のタンパク質であることが示唆された。
【0146】
[実施例12] ノーザンブロッティング法によるSL遺伝子の発現
実施例6と同様に各種細胞よりmRNAを採取し、実施例11で得られたSLのcDNAをプローブとしてノーザンブロッティング法を行った。用いた細胞は以下のとおりである。RA患者由来滑膜細胞は、SL遺伝子を強発現していることが認められた(図11)。
HEK-293T
実施例1で調製したRA患者由来の滑膜細胞
A549
HeLa
【0147】
[実施例13] シノビオリンとSLの結合
SL cDNAを実施例3と同様にpGEXベクターに挿入し、GST-SL融合タンパク質を作製し、10% SDS-PAGEにGST-SL(500ng)、コントロールとしてGST(1μg)を適用した。SDS-PAGE後、エレクトロブロッティング法によりナイロン膜に転写した。このナイロン膜を、6M guanidine hydrochrolide、5mM 2-Mercaptoethanolを含む50mM Tris-HCl(pH8.0)で1時間、室温で変性させ、5mM 2-Mercaptoethanol、0.05% Tween20を含む50mM Tris-HCl(pH8.0)で4℃、一晩再生した。再生されたナイロン膜は、Blocking buffer[10mM Tris-HCl (pH8.0), 5% Skim milk, 0.1% Triton X-100, 150mM NaCl, 1mM EDTA, 5mM MgCl2, 1mM DTT, 5% glycerol, protease inhibitor(complete, Boehringer Mannheim社)]で処理し、Blocking buffer(0.5% skim milk以外は上記と同じ組成)で洗浄した。その後、TNT-coupled Translation System(Promega社)及びpcDNA3-HA-シノビオリン-HAHA(配列番号:1のシノビオリンcDNA 1851bp;60-1910にHA-tagを付加したシノビオリンcDNAを発現ベクターpcDNA3に挿入した)を用い、in vitro translationを行い[35S]ラベルしたHA-シノビオリン-HAHA融合タンパク質([35S]HA-シノビオリン-HAHA)をプローブとして用いナイロン膜上のGST-SL及びGSTと室温で2時間反応させた。そのナイロン膜は、10mM Tris-HCl (pH8.0), 0.5% Skim milk, 0.1% TritonX-100, 150mM NaCl, 1mM EDTA, 5mM MgCl2, 1mM DTT, protease inhibitor(complete, Boehringer Mannheim社)で洗浄し、イメージアナライザー(BAS2000, Fujix)で放射活性を検出した。ナイロン膜に転写されたGST-SL融合タンパク質と[35S]HA-シノビオリン-HAHAは、両者の結合が観察された。またコントロールであるGSTと[35S]HA-シノビオリン-HAHAとの結合は認められなかった(図12)。この結果から、シノビオリンとSLは、タンパク質の相互作用により結合することが推測された。
【0148】
また実施例14では、シノビオリンによる培養物中のシノビオリンリガンドの中和を通じて滑膜細胞の増殖が阻害されることを示唆する結果が得られている。これらの結果に基づいて、SLのシノビオリン結合部位に相当する構造を持ったSLの変異体は、シノビオリン-SL間の結合に対する拮抗阻害作用によって滑膜細胞の増殖を抑制する作用を持つ可能性が考えられる。更に、シノビオリンのSL結合部位に相当する構造を持ったシノビオリン変異体についても、SL変異体と同様の拮抗阻害作用を期待できる可能性が有る。
【0149】
[実施例14] MTTアッセイ
実施例1で調製したRA患者由来滑膜細胞を5×103 cell/wellとなるように 96 well plateを用い調製し、GSTまたはGST-部分シノビオリンを最終濃度0.01〜1μMとなるように細胞上清に添加した。培養3日後 3-(4,5-dimethyl-2-thiazolyl)-2,5-diphenyl-2H-tetrazolium bromide (MTT)/PBSを細胞上清に添加し、37℃、5% CO2 の条件で3時間培養を行った。培養後細胞上清を取り除きdimethyl sulfoxideによりMTT formazanの結晶を溶解し吸光度測定を行った(Journal of Immunological Methods, 65, 55, 1983)。10%-FCS/DMEM、37℃、5% CO2 の条件下でのRA患者由来滑膜細胞増殖はGST-部分シノビオリン(1μM)によって有意に抑制された(図13)。
【0150】
[実施例15] シノビオリン遺伝子導入マウスの作製
シノビオリン蛋白質をコードするDNAのN末にFlagタグを連結させ、3'側下流にポリA シグナルを結合させたシノビオリン遺伝子導入用ベクターを構築した。ベクターはpCAGGS(Niwa, H. et al., Gene 108: 193-9, 1991)を基にして構築し、プロモーターには、βアクチンプロモーター、エンハンサーには、ヒトサイトメガロウイルス前期エンハンサー(human cytomegalovirus immediate early enhancer)を用いた(図14)。
【0151】
シノビオリン遺伝子導入用ベクターは、顕微鏡下でマニピュレーターに接続した微小ガラスピペットを用いマイクロインジェクション法によりマウスの卵細胞に導入した。受精卵の雄性前核にDNAを注入し、注入した操作卵は、精管結紮雄マウスとの交配により偽妊娠を誘起した雌マウス(レシピエントマウス)の卵管内に移植した。移植19日後に自然分娩または帝王切開により仔マウスを得た。帝王切開の場合は、別に準備しておいた雌マウスを里親として仔マウスを哺育させた。各出産仔の尾からDNAを採取し、PCR法を用いて導入遺伝子が保持されていることを確認した。
【0152】
その結果、シノビオリン強発現マウスには顕著な関節の腫脹が認められた。シノビオリン遺伝子導入マウスにおける関節症発症率は33%(10匹/30匹)であったことから、関節の腫脹は自然発症的なマウスの奇形(C57B6マウスの水頭症発症率は1%未満)ではなく、シノビオリン分子の関与によるものと考えられる。シノビオリン強発現マウスの左後肢を軟X線撮影した写真を示す(図15)。
【0153】
[実施例16] 関節の組識学的検討
シノビオリン遺伝子導入マウス(1匹)の指関節の組識学的な検討を行った。指関節部分の組識切片をヘマトキシリンエオジン(HE)染色した。ヘマトキシリンエオジン染色は、公知の方法により実施した。
HE染色の結果、関節症を呈した部分においては著しい滑膜増生に伴う骨破壊と異常な骨新生が認められた(図16)。一方、対照とした遺伝子導入マウスの正常な指関節においては、上記所見は観察されなかった(図17上)。
また、指関節における抗Flag抗体による免疫染色を行った結果、シノビオリン遺伝子導入マウスにおいては、増生を示した滑膜組織および軟骨細胞にシノビオリンの発現が認められた(図18)が、遺伝子導入マウスの正常な指関節においては上記所見は観察されなかった(図17下)。
【0154】
[実施例17] ノックアウトマウスの作成
マウスシノビオリン遺伝子断片の翻訳開始点(第一メチオニンを翻訳するATGコドン)にlacZ遺伝子を導入し、ターゲティングベクターを構築した。マーカー遺伝子としてネオマイシン耐性(neo)遺伝子を導入し、またジフテリア毒素A(DT-A)遺伝子も結合させ非相同的な組換えを起こした細胞株を排除できるようにした(図19)。
【0155】
このターゲティングベクターをマウスのES細胞 TT-2 にエレクトロポレーションにより導入し相同組み換えを生じた細胞株を選抜した。得られた細胞をマウスの胚胎盤胞または8細胞期胚に注入し直接仮親の卵管に移植するか、一日培養して胚盤胞まで発生したものを仮親の子官に移植した。その後は、トランスジェニック動物の作製と同様の手法により、ノックアウトマウスを作製した。得られたヘテロ変異マウス(F1)同士を交配させ、ヘテロ及びホモ変異マウスを得た。こうして得られた変異マウスにおいては、本来シノビオリンが発現すべき組織で、シノビオリンに代わってLacZタンパク質(β-ガラクトシダーゼ)が発現する。
【0156】
遺伝子型はサザンブロット解析により確認した。野生型マウス(14匹)およびシノビオリンヘテロノックアウトマウス(32匹)に関しては、生後2週齢ほどのマウスの尾先端3mm程度からDNAを抽出した。シノビオリンホモノックアウトマウスでは、胎生14.5日の胎仔から実体顕微鏡下に尾部および上、下肢の一部を採取し、DNAを抽出した。得られたDNAを制限酵素PstIでDNAを消化したものを用いた。解析結果を図20に示す。野生型では6.5kbp、ホモ変異マウスでは8.5kbp、ヘテロ変異マウスでは両方の位置にバンドが検出された。
【0157】
シノビオリン遺伝子の発現をノーザンブロッティングにより確認した。野生型、ヘテロノックアウトマウス、およびホモノックアウトマウス(胎生12.5日の胚全体)からmRNAを抽出し、1.2%アガロースゲルの各レーンに20μgずつ電気泳動した。その結果、ホモノックアウトマウス(-/-)ではシノビオリンmRNAは検出されず、ヘテロノックアウトマウス(+/-)では、野生型(+/+)に比べ弱いmRNAの発現が見られた(図21)。
【0158】
[実施例18] シノビオリン発現部位の検討
実施例17で得た変異マウスにおけるシノビオリン発現部位をLacZ染色により検討した。すなわち、5-bromo-4-chloro-3-indolyl-β-D-galactoside(X-Gal)を用いて胚全体を発色させ、LacZ(β-ガラクトシダーゼ活性として)の発現分布を調べた。観察した胚の数は、32個である。
その結果、胎生12.5日齢では、頭頂骨および四肢に、13.5日齢では耳および四肢にLacZの強い発現が認められた(図22)。いずれも骨および軟骨が形成される部位であった。更に四肢形成期における四肢組識切片のLacZ染色およびHE染色を行った結果、Apical Ectodermal Ridge(AER;外胚葉頂堤)および軟骨・骨原基(または軟骨・骨)に強い発現が観察された(図23)。
【0159】
さらに、胎生13日齢の肢芽(limb bud)を取りだし、凍結切片を作製後、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色またLacZ染色を行った。具体的には、凍結切片をPBS(-)で5分、3回洗浄し、X-gal染色液[X-gal (20mg/ml) 1.25ml, HEPES (1M) 2.2ml, フェリシアン化カリウム溶液 (100mM) 1.5ml, NaCl (5M) 150μl, MgCl2 (1M) 65μl, 10×PBS(-) 5ml をミリQ水(ミリポア)で50mlとしたもの]に切片をのせたスライドグラスを浸し、37℃で反応を開始させた。染色後、エタノールシリーズおよびキシレンで脱水し、封入した。その結果、LacZの青色の染色が、未分化間葉系の細胞(骨・軟骨の原基)に濃染されていた(図24および25)。
【0160】
[実施例19] 表現型の検討
更にシノビオリン遺伝子ノックアウトマウスの表現型について検討を行った。
胎生12.5日齢では、ホモはヘテロと比較し、頭頂部から臀部までの長さが短く、頭蓋や四肢の形成が未熟である傾向が認められたが、胎生13日齢ではヘテロと野生型の表現型の間に顕著な差は認められなかった(図26)。なお、ホモマウスでは出生が認められず、さらに少なくとも胎生17日以降のホモの胎仔の生存が確認できなかったことにより、胎生致死と考えられた(表1)。
【0161】
【表1】

【0162】
胎生14.5日齢では、ヘテロとホモの間において、頭頂部から臀部までの長さに顕著な差は認められなかった。しかし、ヘテロでは指及び関節が形成されているのに対し、ホモでは形成されず、肢芽異常が認められた(図27)。
更に、ホモで異常を示した後肢に対しLacZおよびHE染色を行った結果、AER及び未分化間葉系細胞の濃縮部位(将来指骨を形成する部位)にシノビオリンの発現を反映するLacZの発現が認められた(図28)。
【0163】
胎生15.5日齢では、ホモは肢芽、上下顎骨および耳に形態異常を示し、死亡していた(図29)。更にアルシャンブルーにより軟骨組識、アリザリンレッドにより骨(石灰化)組識の染色を行った。すなわち、マウスの表皮・真皮・内容物を取り除き、固定液(エタノール:過酸化水素水=9:1)に漬け、その後アルコールシリーズで脱水後、アリザリンレッドおよびアルシャンブルーにより染色し、アルカリ溶液により組識を透明化した。透明化終了後、グリセリン溶液中に保存し染色を観察した。結果、ホモでは軟骨組識(青く染色)、及び骨(石灰化)組識(赤く染色)のいずれも形成が認められなかった(図30)。
以上の結果より、シノビオリン遺伝子ホモノックアウトマウスは、胎生期において肢芽の発生異常が認められ、また、軟骨及び骨への形成が認められず、肢芽と軟骨、骨の発生部位にシノビオリンの発現が認められたことから、シノビオリン分子の骨格形成への関与が強く考えられた。
【0164】
[実施例20] シノビオリン遺伝子ノックアウトマウスにおける関節炎用カクテル投与
マウスにおけるコラーゲン誘導関節炎(CIA)は、ヒト慢性関節リウマチの関節炎モデルとして広く利用されている。実施例17で作製したシノビオリン遺伝子ノックアウトマウス(ヘテロ接合体)または野生型マウスに抗コラーゲン抗体カクテルを投与し、惹起される関節炎を観察した。その結果、シノビオリンのヘテロノックアウトマウスでは、野生型に比べ関節炎の惹起が弱いことが判明した(図31)。この結果からも、シノビオリンがRAにおける関節炎誘発に貢献していることが支持される。
【0165】
[実施例21] シノビオリン遺伝子ノックアウトマウスの胎仔肢芽細胞の初代培養の解析
ノックアウト(KO)マウスより得られた(explant法)細胞のうち、軟骨・骨および肢の原基となると考えられる未分化間葉系細胞にのみLacZ染色、すなわちシノビオリンの発現が認められた。また、胎仔肢芽細胞の初代培養において、LacZ陽性のコロニー(すなわちシノビオリン発現細胞)とアルシャンブルー染色陽性のコロニーは一致しており、さらに双核の典型的な軟骨細胞においてもLacZ(β-ガラクトシダーゼ活性として)の染色(シノビオリンの発現)が見られることから、骨・軟骨分化にシノビオリンが関与していることが支持された。さらにアルカリフォスファターゼ染色、Kossaの染色などにより、骨・軟骨形成能がホモノックアウト由来の細胞では遅延していることが確認された(図32〜38)。
【0166】
Kossa染色は、細胞を洗浄後、硝酸銀溶液(5% w/v)で置換し、蒸留水で軽く洗浄後、チオ硫酸ナトリウム溶液(5% w/v)で還元・定着を行い、洗浄後、ケルンエヒトロート液(0.1% w/v ケルンエヒトロート(ヌクレア・ファストレッド), 5% w/v 硫酸アルミニウム)で対比染色を行った(関 正次, 「組織検査法−組織構造と局所化学−」, 257-258, 杏林書院, 1961; リゾン, L., 今泉 正訳, 「組織化学および細胞化学−理論と方法」, 625-636, 白水社, 1962; 佐野 豊, 「組織化学研究法−理論と術式」, 616-621, 南山堂, 1965)。アルカリフォスファターゼ活性の検出は、アルカリフォスファターゼ組織染色キット(Sigma, Diagnostic Kits and reagents, alkaline phosphatase (AP), leukocyte, Cat. No. 86-R)により行った。
【0167】
[実施例22] シノビオリン遺伝子ノックアウトマウス由来の細胞を用いた被験化合物のアッセイ
シノビオリン遺伝子へテロノックアウトマウス(lacZ遺伝子ノックイン)の初代培養細胞を用いて、被験試料がシノビオリン遺伝子の発現に及ぼす効果をβ-galアッセイにより評価した。3回継代したシノビオリン遺伝子へテロノックアウトマウスの初代培養細胞を24ウェルプレートに1ウェル当たり 0、1×103、3×103、1×104、3×104、および 1×105 細胞播き、10%ウシ胎仔血清を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で一晩培養した。まず、無刺激条件のまま細胞培養に細胞溶解液(プロメガ社製)を細胞層が完全に覆われるのに十分な量(100μl/well)加え、培養プレートを振とう機に移し、細胞層が溶解液に常に浸されるように室温で15分ゆっくりと振とうした。
【0168】
細胞のβ-ガラクトシダーゼ活性は、次のようにして測定した。得られた細胞抽出液 20μl に、Mg溶液(0.1M MgCl2, 4.5M β-メルカプトエタノール)を 1μl、ONPG溶液(o-nitrophenyl-β-D-galactopyranoside)(0.1M リン酸緩衝液 (pH7.5)中に 4mg/ml の濃度)を 22μl、および 0.1M リン酸緩衝液 (pH7.5) 57μl を加え、全量 を 100μl とした。乾燥しないように注意して、37℃で6時間インキュベートした。150μl の 1M 炭酸ナトリウム(Na2CO3 21.2g を H2O に溶かして 200 ml にメスアップし、0.45μm フィルターで濾過したもの)を加えて反応を停止させ、420nmの吸光度を測定してβ-ガラクトシダーゼ活性を定量した。実験は3連で行った。その結果、lacZ遺伝子ノックインマウス細胞において細胞数に依存したβ-ガラクトシダーゼ活性が検出された(図39)。β-ガラクトシダーゼ活性を指標としてプロモーター活性を評価(β-galアッセイ)できることが確認された。
【0169】
次に初代培養細胞に各種薬剤を添加して同様のβ-galアッセイを行い、シノビオリンプロモーター活性に対する各種薬剤の影響を評価した。陰性対照として、培地のみを添加して同様の測定を行った。被験薬剤としては、プレドニソロン(Prednisolone)(0.01-1 μM)、および12-O-tetradecanoylphorbol 13-acetate(TPA; 0.001-0.1 μM)を用いた。プレドニソロンはステロイド性抗炎症剤、TPAはプロテインキナーゼCの活性化剤である。
【0170】
ウエル当たり5×104 の初代培養細胞を撒き、一晩培養後に上記濃度の各薬剤を添加した。薬剤添加後に72時間培養して、各ウエルのβ-ガラクトシダーゼ活性を測定しプロモーター活性を評価した。その結果、これらの薬剤により、濃度依存的にシノビオリンプロモーター活性が影響を受けることが判明した(図40)。すなわち、本発明に基づくアッセイ系によって、薬剤のシノビオリンプロモーターに与える活性を評価しうることが裏付けられた。以上の結果から、このようなアッセイにより、各種の薬剤がシノビオリンプロモーター活性に及ぼす効果を評価することが可能となり、シノビオリンプロモーター活性を促進または抑制する化合物をスクリーニングすることができる。
【0171】
[実施例23] 抗シノビオリンモノクローナル抗体の作製
シノビオリンに対するモノクローナル抗体を以下のように調製した。免疫用のペプチドとして、以下に示すヒトシノビオリンの部分アミノ酸配列を含む3種類のペプチドを合成した。これらのアミノ酸配列は、抗原性を有すると推測された領域から選択した。
Syno-P3(SLALTGAVVAHAYYC/配列番号:3)、
Syno-P2(TCRMDVLRASLPAQS/配列番号:4)、および
Syno-P1(GAATTTAAGTSATAC/配列番号:5)
【0172】
各合成ペプチドに、アミノ酸配列中のCysを介して、スカシガイヘモシアニン(KLH)を結合させた。KLHを結合した各合成ペプチドの 50μgを 0.1ml 生理食塩水に溶解し、フロイントの完全アジュバント(FCA)0.1mlを加えて免疫原を作製した。各免疫原をそれぞれ8匹のマウス(BALB/Cメス、5週齢)背部皮下に0.2ml注射し免疫した。免疫は2週間毎に計4回行い、その1週間後にさらに1回免疫した。最終免疫の8日後に、心臓から採血し血清200μl以上を分取した。ELISAによって抗体価の上昇を確認できた個体から脾細胞を採取し、細胞融合を行った。
【0173】
各免疫原につき3個体のマウス血清について、ELISAによる抗体価の測定結果を図41〜図43に示した。各血清試料は3連でアッセイを行い、その平均値をグラフに示した。いずれの免疫原を用いた場合にも、抗体価が上昇した個体が確認された。これらの免疫原がいずれもシノビオリンの免疫原として有用であることが確認された。
【0174】
ミエローマ細胞株(P3U1)とマウス脾細胞を1:10で混和し、50%のPEG(和光純薬社PEG1540)存在下で細胞融合させた。融合後、脾細胞数が 5×105 個/mlとなるように96ウェルプレートに播いた。HAT培地中で10〜14日培養した後、細胞の増殖を確認し、培養上清の検定した。培養上清の検定には、各合成ペプチドを固相化したELISAプレートを用いた。検定の操作は次のとおりである。ELISAプレートに培養上清を反応させた後、抗マウスIgGヤギ-poxを用いて陽性ウェルを選択した。クローニングに供するウェルを選択し、他の陽性ウェルの細胞については凍結保存した。
【0175】
数日後、一株につき96ウェルプレート1枚、100細胞/プレート(20細胞/ml)となるように撒き、10〜14日間培養した。コロニーを判定し、培養上清の検定を行った。培養上清の検定は、上清50μlを上記スクリーニング用抗原固相化ELISAプレートに適用して行った。第二抗体は、抗マウスIgGヤギ-poxを使用した。選択したコロニーは、培養後、リクローニングし、10〜14日間培養してコロニー判定および培養上清の検定を上記と同様に実施した。親株別にウェルを選択し、24ウェルプレートで培養し、上清を回収してクローンのチェックを行い、抗体のサブクラスおよび抗体産生を検定した。クローニングの結果、シノビオリンに対する高い親和性を有するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマとして、Syno-P2(配列番号:4)を免疫原として得られた2つのクローン10Dbおよび7Bcが選択された。
【0176】
[実施例24] 抗シノビオリンモノクローナル抗体を用いた患者試料のシノビオリンの検出
〈1〉抗シノビオリンモノクローナル抗体による患者由来滑膜細胞のウェスタンブロッティング
実施例23で得られたSyno-P2を認識する2種の抗シノビオリンモノクローナル抗体(10Dbおよび7Bc)を用いて、慢性関節リウマチ患者(RA)由来滑膜細胞の蛋白質をSDS-PAGEで分離し、ウェスタンブロッティング法を行った。ウェスタンブロッティング法の操作は、抗体として実施例23のモノクローナル抗体10Dbおよび7Bcを、そして標識抗体として抗マウスIgGヒツジ-HRPを用いる他は実施例8に記載のとおりである。対照として、変形性関節症患者(OA)由来の滑膜細胞も解析した。その結果、RA患者由来の滑膜細胞で特異的なシグナルが検出された(図44A)。実施例23で得られたモノクローナル抗体は、RA患者の滑膜細胞を特異的に認識することが確認された。これらのモノクローナル抗体は、RAの検出に有用である。
【0177】
〈2〉抗シノビオリンモノクローナル抗体によるRA患者由来滑膜細胞の蛍光免疫染色
モノクローナル抗体10Dbを用いて、RA患者由来滑膜細胞の蛍光免疫細胞化学解析を行った。免疫染色の操作は、抗体として実施例23のモノクローナル抗体10Dbを、そして標識抗体として抗マウスIgGヒツジ-FITCを用いる他は実施例9に記載のとおりである。シノビオリン蛋白質のシグナルは、RA患者由来滑膜細胞で強く検出されたが、二次抗体のみを反応させた対照では検出されなかった(図44B)。
【0178】
〈3〉抗シノビオリンモノクローナル抗体によるRA患者由来滑膜組織の免疫染色
モノクローナル抗体10Dbおよび7Bcを用いて、RA患者から採取した滑膜組織切片の免疫染色を行った。免疫染色の操作は、抗体として実施例23のモノクローナル抗体10Dbおよび7Bcを、そして標識抗体として抗マウスIgGヒツジ-HRPを用いる他は実施例9に記載のとおりである。シノビオリン蛋白質のシグナルは、RA患者由来滑膜組織で強く検出された(図45)。同時に行ったHE染色により、滑膜細胞の増殖層が観察され、その部分がモノクローナル抗体で染色されていることが確認された。これらの結果から、本発明のモノクローナル抗体は、RA患者の滑膜組織を特異的に認識することが確認された。以上のように、シノビオリン抗体を用いて患者試料中のシノビオリンを検出することにより、RAの検査および診断を実施することができる。
【0179】
[実施例25] シノビオリンのユビキチンリガーゼ活性の検出
E3ユビキチン-蛋白質リガーゼは、自己ユビキチン化をすることが知られている(Hashizume R et al., J. Biol. Chem. 276, 14537-14540, 2001)。そこで、シノビオリンについて自己ユビキチン化活性があるかどうか検討した。pCAGGSベクターにFLAG-シノビオリン遺伝子を挿入したプラスミドを、HEK-293細胞にトランスフェクションし、36時間後細胞を回収した。Buffer A [15 mM Tris-HCl pH 7.5、0.5 M NaCl、0.35% NP-40、1 mM PMSF、2μg/ml aprotinin、2μg/ml leupeptin] にて細胞破砕液を得た。細胞破砕液を高速遠心器にて遠心分離し、その上清0.6 mlに、3μgの抗FLAG抗体および7.5μlのプロテインAビーズを添加し、一晩免疫沈降を行った。Buffer Aもしくは0.1% SDS を添加した Buffer Aにて3回、Buffer B [25 mM Tris-HCl pH 7.5, 50 mM NaCl, 0.01% Nonidet P-40, 10% glycerol, 1 mM EDTA] にて2回ビーズを洗浄し、30μlのユビキチンリガーゼ反応液 [50 mM Tris-HCl pH 7.4, 5 mM MgCl2, 2 mM NaF, 10 nM okadaic acid, 2 mM ATP, 0.6 mM DTT, 1.5μg GST-HA-ユビキチン, 40 ng 酵母由来E1, 0.3μg UbcH5c(E2)] を添加し、37℃で30分反応させた。0.1 M DTTを含む 2×Laemmli SDS-loading bufferを30μl加え、ボイルした後、SDS-PAGEにて展開し、ニトロセルロース膜にトランスファーした。一次抗体には抗FLAG抗体(SIGMA)および抗HA抗体(ロシュ・ダイアグノスティックス社)を用いた。HRP活性の検出は実施例7と同様に行った。なお、コントロールとして FLAG-シノビオリン遺伝子をトランスフェクションした細胞の破砕液のみ(免疫沈降前)、または、細胞破砕液を免疫沈降操作して得た溶液(すなわちFLAG-シノビオリンタンパク質とその免疫複合体のみ)を用いた。さらに、GST-HA-ユビキチン、ATP、E1またはE2のいずれかを添加しない反応も行った(GST-HA-ユビキチン非添加の場合はGSTを用いて反応を行った)。0.1% SDS添加Buffer A洗浄によりimmunopurificationしたシノビオリンを用いた結果を図46に示した。抗HA抗体によるブロットにおいて、シノビオリンの分子量(図46 *印)より約35 kDa大きなサイズのバンドが検出された(図46 矢印)。このバンドは抗FLAG抗体によるブロットにも見られ、GST-HA-ユビキチンがシノビオリンに付加したものと考えられた。さらに、ATP、E1またはE2のいずれかを欠損した反応系では、シノビオリンの自己ユビキチン化が起こらないことが示された。Buffer Aのみでビーズを洗浄した場合にも同様の結果となった。これらの結果より、1)シノビオリンを含む免疫複合体にE1およびE2依存的なユビキチンリガーゼ活性が存在し、かつ、immunopurificationの結果より、2)シノビオリンはE3ユビキチン-蛋白質リガーゼ活性を有することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0180】
本発明は、滑膜の発達、ならびに骨・軟骨および四肢の発達に関与する新規な蛋白質をコードする遺伝子「シノビオリン」を提供した。本発明の遺伝子はRAに関与しており、RA患者では、この遺伝子産物に対する抗体が産生されている。本発明の遺伝子およびタンパク質は、RAの診断に有用な新規なマーカーとなる。本発明の「シノビオリン」は、RA患者の関節滑膜細胞に強発現しており、インサイチュハイブリダイゼーションやインサイチュPCRにより、RA疾患の診断や治療効果の判定に貢献する。更に、RA患者の血中にはシノビオリンに対する抗体を高頻度で見出すことができる。これをマーカーとすることでRAの特異的な診断を可能とする。本発明によって提供されるシノビオリン蛋白質、またはその部分ペプチドは患者血清中のシノビオリンに対する抗体の検出に有用である。
【0181】
また、シノビオリンは未分化間葉系細胞において発現している。シノビオリンを細胞マーカーとして利用すれば、胚の細胞などから未分化間葉系細胞を回収することができる。未分化間葉系細胞は骨、軟骨に分化する細胞であり、再生医学的応用が期待されている。すなわち、シノビオリンを細胞マーカーとして回収した未分化間葉系細胞を試験管内または生体内で分化させ、骨・軟骨の形成や関節の再構築を行えば、傷害を受けた骨・軟骨組織や関節を新たに再生させることも可能になる。
【0182】
本発明のシノビオリン、並びにそのリガンドは、RAの主要な病態である関節滑膜細胞の増殖に密接に関連していることが明らかにされた。したがって、本発明によって提供されるシノビオリン、あるいはそのリガンドは、RAの治療方法の開発に当たって重要な知見を与える。より具体的には、シノビオリンとそのリガンドとの結合に関与する化合物をスクリーニングすることにより、これまでとはまったく異なったアプローチでRA治療技術の開発を進めることができるのである。さらにシノビオリンのトランスジェニックマウスは、高い頻度で関節の滑膜が増生し、関節炎を伴う指関節の膨脹を起した。本発明により提供されるシノビオリンのトランスジェニック動物は、RAのモデルとして、その治療技術や医薬品の開発に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0183】
【図1】図1は、抗滑膜細胞抗血清によるイムノスクリーニングにおける陽性コロニーの写真である。
【図2】図2は、大腸菌でのシノビオリン組み換えタンパク質の発現を示す写真である。
【図3】図3は、試験管内でのシノビオリンcDNAから翻訳されるシノビオリンタンパク質発現を示すオートラジオグラフの写真である。
【図4】図4は、シノビオリンのcDNAをプローブとするノーザンブロッティング法によるシノビオリン遺伝子発現の分析結果を示すオートラジオグラフの写真である。
【図5】図5は、各種細胞破砕液の抗滑膜細胞抗血清によるウエスタンブロッティング法の結果と、GST-部分シノビオリンによる抗体吸収実験の結果を示す写真である。矢印は吸収されたバンドを示す。各バンドの分子量は上から順に、約220、185、および 140kDaであった。
【図6】図6は、滑膜細胞破砕液に対する滑膜細胞抗血清を用いたウエスタンブロッティング法の結果を示すオートラジオグラフの写真である。左のレーン(プレイミューン)は滑膜細胞免疫前のウサギ抗血清、右のレーン(免疫後)は滑膜細胞抗血清を用いた。
【図7】図7は、滑膜細胞の抗滑膜細胞抗血清(A)および精製抗滑膜細胞抗体(B)による蛍光免疫染色の結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図8】図8は、滑膜組織の抗滑膜細胞抗血清による免疫染色と、GST-部分シノビオリンによる抗体吸収実験を示す顕微鏡写真である。
【図9】図9は、滑膜組織の精製抗滑膜細胞抗体による免疫染色の結果を示す顕微鏡写真である。GSTアフィニティーカラムにより精製した抗血清(上パネル)およびGST-部分シノビオリンアフィニティーカラムにより精製した抗血清(下パネル)を用いた結果を示す。
【図10】図10は、各種ヒト血清中の抗シノビオリン抗体のウエスタンブロッティング法による検出結果を示すオートラジオグラムの写真である。
【図11】図11は、SLのcDNAをプローブとするノーザンブロッティング法による滑膜細胞におけるSL遺伝子の発現を分析した結果を示すオートラジオグラフの写真である。
【図12】図12は、[35S]ラベルしたHA-シノビオリン-HAHAとGST-SL融合タンパク質との結合を示すオートラジオグラフの写真である。
【図13】図13は、滑膜細胞の増殖に対するシノビオリンの影響をMTTアッセイで分析した結果を示す図である。GST-部分シノビオリンを用いた。
【図14】図14は、シノビオリン遺伝子導入用ベクターの構造を示す図である。CMVエンハンサーを有するβ-アクチンプロモーターによりシノビオリンは全身的に発現する。抗Flagタグ(Flag-tag)抗体により、Flagタグ融合シノビオリン蛋白質の発現が確認できる。
【図15】図15は、シノビオリン遺伝子のトランスジェニックマウスの関節炎を呈する指関節を示す写真である。シノビオリン強制発現マウスの指の外見および軟X線像を示す。右端に正常マウスの指の軟X線像を比較として示した。シノビオリン強制発現マウスは顕著な指の膨脹を示した。
【図16】図16は、シノビオリン遺伝子トランスジェニックマウスの関節炎を呈する指関節の組織学的所見を示す写真である。顕著な膨脹を示した指の関節部分において著しい滑膜増生に伴う骨破壊と異常な骨新生が認められた。
【図17】図17は、遺伝子導入マウスの正常な指関節の組織学的所見を示す写真である。関節軟骨の異常、骨破壊および滑膜の増生は認められない。右下パネルは抗Flag抗体による免疫染色の結果を示す。陽性シグナルは観察されない。
【図18】図18は、シノビオリン遺伝子トランスジェニックマウスの関節炎を呈する指関節におけるシノビオリンの発現を示す写真である。抗Flag抗体により免疫染色を行った。顕著な膨脹を示した指の関節部位において増生した滑膜組織および軟骨細胞にシノビオリンの発現が認められた。
【図19】図19は、シノビオリン遺伝子を欠損させるターゲティングベクターの構造を示す図である。マウスシノビオリン遺伝子断片の翻訳開始点(第一メチオニンを翻訳するATGコドン; "*"で示す)にlacZ遺伝子を導入し、ポジティブセレクションマーカー遺伝子としてネオマイシン耐性(neo)遺伝子を導入した。またジフテリア毒素A(DT-A)遺伝子も結合させネガティブセレクションマーカーとした。相同組み換えを起した個体はシノビオリン遺伝子の発現が欠損する代わりにβ-ガラクトシダーゼが発現し、その酵素活性を利用たLacZ染色により、シノビオリン遺伝子のプロモーターからの発現を検出できる(図22参照)。遺伝子型確認のためのサザンブロット解析(図20参照)に用いたプローブの位置も図示した。
【図20】図20は、シノビオリン遺伝子欠損マウスの遺伝子型の解析の結果を示す写真である。生後約2週齢のマウス尾(野生型およびヘテロ欠損マウス)または胎生14.5日胎仔(ホモ欠損マウス)よりDNAを抽出し、PstIで消化後に、図19に示したプローブを用いたサザンブロッティングを行った。
【図21】図21は、シノビオリン遺伝子欠損マウスのノーザンブロット解析の結果を示す写真である。野生型(+/+)、シノビオリン遺伝子ヘテロノックアウトマウス(+/-)、およびホモノックアウトマウス(-/-)よりmRNAを抽出し、シノビオリン遺伝子断片をプローブにノーザンブロッティングを行った(上パネル)。下パネルにアガロースゲルのEtBr染色を示した。
【図22】図22は、LacZ染色によりシノビオリン発現部位を検討した結果を示す写真である。胎生12.5日齢または胎生13.5日齢の野生型およびヘテロ欠損マウスをLacZにより染色した。シノビオリンの胎生期における発現は、頭頂骨、四肢、耳などの、骨および軟骨が形成される部位に強く認められた。
【図23】図23は、四肢形成期におけるシノビオリンの発現を示す写真である。四肢形成期におけるシノビオリンの発現は、FGF4、BMP2、BMP4 の発現と同様、Apical Ectodermal Ridge(AER; 外胚葉頂堤)に強く認められた。
【図24】図24は、ヘテロ欠損マウスの胎生13日齢の肢芽(limb bud)の凍結切片のLacZ染色を示す写真である。4時間染色を行った。LacZの青色が未分化間葉系の細胞(骨・軟骨の原基)に濃染されている。オリジナル倍率 ×40。
【図25】図25は、ヘテロ欠損マウスの胎生13日齢の肢芽(limb bud)の凍結切片のLacZ染色を示す写真である。4時間染色を行った。LacZの青色が未分化間葉系の細胞(骨・軟骨の原基)に濃染されている。オリジナル倍率 ×200。A, B,および C は、図24に対応する。
【図26】図26は、胎生12.5日齢および胎生13日齢におけるシノビオリン遺伝子ホモ欠損マウスの表現型を示す写真である。胎生12.5日齢および胎生13日齢におけるシノビオリン遺伝子ホモ欠損マウスは、ヘテロ欠損マウスと比較し、頭頂部から臀部までの長さが短く、頭蓋や四肢の形成が未熟である傾向が認められた。胎生13日齢のへテロ欠損マウスと野生型マウスの表現型には、顕著な差は認められなかった。
【図27】図27は、胎生14.5日齢におけるシノビオリン遺伝子欠損マウスの表現型を示す写真である。胎生14.5日齢のシノビオリン遺伝子ホモ欠損マウスに肢芽異常が認められた。
【図28】図28は、胎生14.5日齢のシノビオリン遺伝子ホモ欠損マウスの後肢におけるLacZの発現(シノビオリンの発現を反映)を示す写真である。ホモ欠損マウスの異常な後肢においてLacZは、AERおよび未分化間葉系細胞の濃縮部位に発現が認められた。
【図29】図29は、胎生15.5日齢のシノビオリン遺伝子欠損マウスの表現型を示す写真である。ホモ欠損マウスは、肢芽異常、上顎、下顎骨の異常、耳の形態異常が認められた。心臓の拍動は認められず、生存していなかった。
【図30】図30は、胎生15.5日齢におけるシノビオリン遺伝子欠損マウスの骨格を示す写真である。アルシャンブルー、アリザリンレッド染色を示す。アルシャンブルーによって染色される軟骨およびアリザリンレッドによって染色される石灰化した骨は、シノビオリンホモ欠損マウスに認められなかった。
【図31】図31は、シノビオリンノックアウトマウスにおける、抗コラーゲン抗体カクテルを用いたマウス関節炎モデルを示す写真である。野生型マウス[373(+/+)]またはシノビオリンヘテロノックアウトマウス[372(-/+)]に抗コラーゲン抗体カクテルを投与して関節炎を惹起させた(図中 +)。非投与の野生型マウス(-)も観察した[371(+/+)]。その結果、前肢および後肢共に、関節の膨脹および発赤ともに野生型に比べシノビオリンヘテロノックアウトマウスでは軽度であった。すなわち、野生型マウスで誘発される関節炎に比べ、シノビオリンヘテロノックアウトマウスでは関節炎の惹起が弱いことが判明した。
【図32】図32は、シノビオリン遺伝子ホモ欠損マウス(13dpc胎仔)の肢芽より得られた初代培養細胞のLacZ染色およびアルシャンブルー染色を示す写真である。LacZ陽性のコロニー(すなわちシノビオリン発現細胞)とアルシャンブルー染色陽性のコロニーは一致している。この結果は、骨・軟骨分化にシノビオリンが関与していることを示唆する。継代数1(p1)。
【図33】図33は、13dpcマウス胎仔の肢芽より得られた初代培養細胞のLacZ染色を示す写真である。野生型(+/+)、シノビオリン遺伝子ヘテロ(+/-)またはホモ(-/-)欠損マウス由来の細胞が示されている。シノビオリン遺伝子欠損マウス(lacZ遺伝子のノックイン)でのみLacZの発現が見られる。継代数1(p1)。
【図34】図34は、シノビオリン遺伝子ヘテロ欠損マウス(13dpc胎仔)の肢芽より得られた初代培養細胞のLacZ染色およびアルシャンブルー染色を示す写真である。LacZ陽性のコロニー(すなわちシノビオリン発現細胞)とアルシャンブルー染色陽性のコロニーは一致している。継代数1(p1)。
【図35】図35は、野生型マウス(13dpc胎仔)の肢芽より得られた初代培養細胞のLacZ染色およびアルシャンブルー染色を示す写真である。LacZによる染色は観察されない。継代数1(p1)。
【図36】図36は、シノビオリン遺伝子ヘテロ欠損マウス(13dpc胎仔)の肢芽より得られた初代培養細胞のLacZ染色を示す写真である。2核の典型的な軟骨細胞においても、LacZ染色(シノビオリンの発現)が認められる(200倍の像を参照)。
【図37】図37は、マウス胎仔の肢芽より得られた初代培養細胞の von Kossa染色を示す写真である。野生型(WT)、シノビオリン遺伝子ヘテロ(Hetero)またはホモ(Homo)欠損マウス由来の細胞が示されている。シノビオリン遺伝子欠損マウス(Homo)において骨形成能の低下が認められる。継代数1(p1)。
【図38】図38は、シノビオリンホモ欠損マウス胎仔の肢芽より得られた初代培養細胞(継代数3; p3)のLacZ染色を示す写真である。サブコンフルエントになるまで培養した。LacZ染色(overnight)を行った後、ヘマトキシリンエオシン(HE)染色を行った。
【図39】図39は、シノビオリン遺伝子へテロノックアウトマウス(lacZ遺伝子ノックイン)の初代細胞のβ-galアッセイの結果を示す図である。試料は3連で測定し、その平均と標準偏差を示した。
【図40】図40は、シノビオリン遺伝子へテロノックアウトマウス(lacZ遺伝子ノックイン)の初代細胞のβ-galアッセイにより、シノビオリンプロモーター活性に対する各種薬剤の影響を調べた結果を示す図である。試料は3連で測定し、その平均と標準偏差を示した。
【図41】図41は、Syno-P3を免疫したマウス血清のELISAの結果を示す図である。3個体(No.1〜3)から得た血清を図示した倍率で希釈してELISAを行った。非免疫マウスの血清(図中、正常)を対照に用いた。
【図42】図42は、Syno-P2を免疫したマウス血清のELISAの結果を示す図である。3個体(No.1〜3)から得た血清を図示した倍率で希釈してELISAを行った。非免疫マウスの血清(図中、正常)を対照に用いた。
【図43】図43は、Syno-P1を免疫したマウス血清のELISAの結果を示す図である。3個体(No.1〜3)から得た血清を図示した倍率で希釈してELISAを行った。非免疫マウスの血清(図中、正常)を対照に用いた。
【図44】図44は、抗シノビオリンモノクローナル抗体によるRAおよびOA患者由来滑膜細胞のウェスタンブロッティング(A)および蛍光免疫染色(B)の結果を示す写真である。
【図45】図45は、抗シノビオリンモノクローナル抗体によるRA患者由来滑膜組織の免疫染色の結果を示す写真である。ヘマトキシリン・エオシン(HE)染色像も示した。
【図46】図46は、シノビオリンの自己ユビキチン化活性を示す写真である。FLAG-シノビオリンを、GST-HA-ユビキチン、ATP、E1、およびE2の存在下で反応させ、抗FLAG抗体および抗HA抗体によりシノビオリンのユビキチン化を検出した。CE: 細胞抽出液。IP: 免疫沈降物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)から(e)のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするポリヌクレオチド、
(b)配列番号:1に記載の塩基配列の蛋白質コード領域を含むポリヌクレオチド、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を有し、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質をコードするポリヌクレオチド。
(d)配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質をコードするポリヌクレオチド
(e)配列番号:1に記載の塩基配列と少なくとも70%以上の相同性を有する塩基配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質と機能的に同等な蛋白質をコードするポリヌクレオチド
【請求項2】
配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質の部分ペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
請求項1、または請求項2に記載のポリヌクレオチドによりコードされる蛋白質またはペプチド。
【請求項4】
次の(1)−(3)からなる群から選択される少なくとも1つの活性を有する請求項3に記載の蛋白質またはペプチド。
(1)慢性関節リウマチ患者の血液中に見出される抗体と結合する
(2)シノビオリンリガンドS1-5と結合する
(3)滑膜増生を促進する
【請求項5】
請求項1、または請求項2に記載のポリヌクレオチドが挿入されたベクター。
【請求項6】
請求項1に記載のポリヌクレオチドまたは請求項5に記載のベクターを保持する形質転換細胞。
【請求項7】
請求項6に記載の形質転換細胞を培養し、該形質転換細胞またはその培養上清から発現させた蛋白質またはペプチドを回収する工程を含む、請求項3に記載の蛋白質またはペプチドの製造方法。
【請求項8】
請求項3に記載の蛋白質またはペプチドに結合する抗体。
【請求項9】
請求項3に記載のタンパク質またはペプチドを含む、請求項3に記載のタンパク質またはペプチドを認識する抗体を分析するための免疫学的分析用試薬。
【請求項10】
慢性関節リウマチの診断、または治療効果の判定を目的とするものである請求項9の免疫学的分析用試薬。
【請求項11】
請求項3に記載のタンパク質またはペプチドと反応する抗体を含む、請求項3に記載のタンパク質を分析するための免疫学的分析用試薬。
【請求項12】
慢性関節リウマチの診断、または治療効果の判定を目的とするものである請求項11に記載の免疫学的分析用試薬。
【請求項13】
分析すべき請求項3に記載のタンパク質が滑膜細胞に存在するものである請求項12の免疫学的分析用試薬。
【請求項14】
次の工程を含む、生体試料中の請求項3に記載の蛋白質、および/またはその部分ペプチドに結合する抗体の測定方法。
(1)生体試料を請求項3に記載の蛋白質、および/またはその部分ペプチドと接触させる工程、および
(2) 請求項3に記載の蛋白質、および/またはその部分ペプチドに結合する抗体を検出する工程
【請求項15】
次の工程を含む、生体試料中の請求項3に記載の蛋白質、および/またはその部分ペプチドの測定方法。
(1)生体試料を請求項8に記載の抗体と接触させる工程、および
(2)請求項3に記載の蛋白質、および/またはその部分ペプチドに結合する、請求項8に記載の抗体を検出する工程
【請求項16】
配列番号:1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドまたはその相補鎖に相補的な少なくとも15ヌクレオチドを含むポリヌクレオチド。
【請求項17】
次の工程を含む、生体試料中の請求項1または請求項2に記載のポリヌクレオチドの測定方法。
(1)生体試料を請求項16に記載のポリヌクレオチドと接触させる工程、および
(2)請求項1または請求項2に記載のポリヌクレオチドにハイブリダイズする、請求項16に記載のポリヌクレオチドを検出する工程
【請求項18】
請求項16に記載のポリヌクレオチドを含む、請求項1または請求項2に記載のポリヌクレオチドの測定用キット。
【請求項19】
請求項3に記載のタンパク質または該タンパク質をコードする遺伝子の発現を指標に、該タンパク質を発現する細胞を検出または分離する方法。
【請求項20】
細胞がリウマチ滑膜細胞である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
細胞が未分化間葉系細胞である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
請求項8に記載の抗体を含む、請求項3に記載のタンパク質を発現する細胞の検出または分離用試薬。
【請求項23】
次の工程を含む、慢性関節リウマチの検出方法であって、慢性関節リウマチのマーカーが、請求項1に記載のポリヌクレオチド、請求項3に記載のタンパク質、請求項3に記載のペプチド、請求項3に記載のタンパク質に結合する抗体、および請求項3に記載のペプチドに結合する抗体からなる群から選択された少なくともひとつのマーカーである方法。
i) 被検者の生体試料中に存在する慢性関節リウマチのマーカーを検出する工程、および
ii) 工程 i)の検出結果を、慢性関節リウマチと関連付ける工程
【請求項24】
生体試料が被検者の血液であり、慢性関節リウマチのマーカーが請求項3に記載のタンパク質に結合する抗体、および/または請求項3に記載のペプチドに結合する抗体である請求項23に記載の方法。
【請求項25】
生体試料が被検者の滑膜組織または滑膜細胞であり、慢性関節リウマチのマーカーが請求項1に記載のポリヌクレオチド、および/または請求項3に記載のタンパク質である請求項23に記載の方法。
【請求項26】
次の工程を含む、被験化合物の請求項3に記載のタンパク質またはペプチドと結合する活性の検出方法。
a)被験化合物を請求項3に記載のタンパク質またはペプチドと接触させる工程、および
b)被験化合物と前記タンパク質またはペプチドとの結合を観察する工程
【請求項27】
次の工程を含む、請求項3に記載のタンパク質またはペプチドと結合する活性を有する化合物のスクリーニング方法。
a)請求項26に記載の方法によって被験化合物の請求項3に記載の蛋白質またはペプチドに対する結合活性を検出する工程、および
b)対照と比較して前記結合活性が高い被験化合物を選択する工程
【請求項28】
次の工程を含む、請求項3に記載のタンパク質とそのリガンドとの結合を阻害する活性の検出方法。
a)被験化合物存在下で請求項3に記載のタンパク質またはペプチドとそのリガンドとを接触させる工程、および
b)前記タンパク質またはペプチドに結合するリガンド、および/または被験化合物を検出する工程
【請求項29】
リガンドがシノビオリンリガンドS1-5である請求項28に記載の方法。
【請求項30】
次の工程を含む、請求項3に記載のタンパク質とそのリガンドとの結合を阻害する化合物のスクリーニング方法。
a)請求項28に記載の方法によって、被験化合物の請求項3に記載のタンパク質とそのリガンドとの結合を阻害する活性を検出する工程、および
b)対照と比較して前記阻害活性が高い被験化合物を選択する工程
【請求項31】
次の工程を含む、被験化合物の請求項3に記載のタンパク質によるシグナル伝達を調節する活性を検出する方法。
a)前記タンパク質のリガンドの存在下または不存在下で、被験化合物と前記タンパク質を接触させる工程、および
b)前記タンパク質を介するシグナル伝達を検出する工程
【請求項32】
次の工程を含む、請求項3に記載のタンパク質によるシグナル伝達を調節する活性を有する化合物のスクリーニング方法。
a)請求項31に記載の方法によって、被験化合物の前記タンパク質によるシグナル伝達を調節する活性を検出する工程、および
b)対照と比較して前記調節の活性が高い被験化合物を選択する工程
【請求項33】
次の工程を含む、請求項1に記載のポリヌクレオチドの発現を調節する活性の検出方法であって、
a)被験化合物の存在下で請求項1に記載のポリヌクレオチドを発現する細胞を培養する工程、および
b)前記ポリヌクレオチドの発現レベルを測定する工程、
【請求項34】
次の工程を含む、請求項1に記載のポリヌクレオチドの発現を調節する化合物のスクリーニング方法。
a)請求項33に記載の方法によって、被験化合物の請求項1に記載のポリヌクレオチドの発現を調節する活性を検出する工程、および
b)対照と比較して前記活性に差を有する被験化合物を選択する工程
【請求項35】
請求項27に記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物を有効成分として含む、シノビオリン刺激剤。
【請求項36】
請求項30に記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物を有効成分として含む、シノビオリンとシノビオリンリガンドとの結合阻害剤。
【請求項37】
請求項30または請求項32のスクリーニング方法によって得ることができる化合物を有効成分として含む、滑膜増生阻害剤。
【請求項38】
請求項1若しくは請求項2に記載のポリヌクレオチド、請求項3に記載の蛋白質若しくはペプチド、および請求項5に記載のベクターからなる群から選択されるいずれかの成分を有効成分として含有する医薬組成物。
【請求項39】
請求項1または請求項2に記載のポリヌクレオチドの発現が改変されているか、または該改変を誘導することができるトランスジェニック非ヒト脊椎動物。
【請求項40】
請求項1または2に記載のポリヌクレオチドが外来的に導入されている、請求項39に記載のトランスジェニック非ヒト脊椎動物。
【請求項41】
慢性関節リウマチモデル動物である、請求項40に記載のトランスジェニック非ヒト脊椎動物。
【請求項42】
内因性に持つ請求項1または請求項2のいずれかに記載のポリヌクレオチドの発現が抑制されているトランスジェニック非ヒト脊椎動物。
【請求項43】
他の遺伝子がノックインされている、請求項42に記載のトランスジェニック非ヒト脊椎動物。
【請求項44】
請求項40または請求項42に記載のトランスジェニック非ヒト脊椎動物に由来する細胞。
【請求項45】
次の工程を含む、請求項1または請求項2に記載のポリヌクレオチドの内因性プロモーターの活性を調節する活性の検出方法。
a)請求項1または請求項2に記載のポリヌクレオチドの内因性プロモーターの制御下にレポーター遺伝子を発現することができる発現系に、被験化合物を接触させる工程、および
b)レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
【請求項46】
前記発現系が、請求項43に記載のトランスジェニック非ヒト脊椎動物またはこの動物に由来する細胞である請求項45に記載の方法。
【請求項47】
次の工程を含む、請求項1または請求項2に記載のポリヌクレオチドの内因性プロモーターの活性を調節する化合物のスクリーニング方法。
a)請求項45に記載の方法によって、被験化合物の請求項1または請求項2に記載のポリヌクレオチドの内因性プロモーターの活性を調節する活性を測定する工程、および
b)対照と比較して、前記活性に差がある被験化合物を選択する工程
【請求項48】
請求項34、または請求項47に記載のスクリーニング方法によって得ることができる化合物を有効成分として含む、請求項1に記載のポリヌクレオチドの発現を調節するための医薬組成物。

【図13】
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【図14】
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【図19】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【公開番号】特開2007−82545(P2007−82545A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−241812(P2006−241812)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【分割の表示】特願2002−553488(P2002−553488)の分割
【原出願日】平成13年12月21日(2001.12.21)
【出願人】(301050902)株式会社ロコモジェン (15)
【Fターム(参考)】