説明

炭化珪素の製造方法

【課題】溶液や廃液中のSiCやSiを排水汚濁なく回収可能し、研削材、砥粒、研磨材として利用可能な炭化珪素を製造する。
【解決手段】SiC微粒子及び/又はSi微粒子を少なくとも含む溶液又は廃液を、炭素粉及び酸化珪素粉を少なくとも含む分離助材を用いて固液分離して固体分を得るステップと、この固体分を必要に応じて炭素粉及び/又は酸化珪素粉を含む添加剤と混合するステップと、炭化珪素を得るために、この固体分又は添加剤と混合された固体分を、非酸化性雰囲気で1850℃を超えて2400℃未満に加熱反応させるステップとを少なくとも含んでなる炭化珪素の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(a)SiC微粉を製造する際の分級工程で目的粒径以下で副産物として生成する不要SiC微粒子を含んだ溶液、(b)単結晶や多結晶のSiインゴットや成形物を研削する際のSi切子微粒子を含有した廃液、(c)SiCを砥粒として単結晶や多結晶シリコンをワイヤーソーで切断し、ウエハー、薄片を製造する際に発生するSiC、Si微粒子を含有したスラリー廃液などの中から、これまで利用が難しく不要とされていたSiCやSi或いはこれらの混合微粉を回収、再生する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、炭化珪素粉は、シリコン,水晶、SiC,GaAs,GaN等の単結晶や多結晶の基板あるいはガラス、セラミックスなどの切断、研削、研磨、更にはSiC成形体の原料に多用されている。この炭化珪素粉は、通常、旧来のアチソン法によりバッチ反応で製造されている。アチソン法は、大気開放のU型炉で、中心に長手方向にグラファイト電極を通し、その電極周りに、数mm〜数cmの珪砂と炭素の混合物を蒲鉾状に積み上げ、グラファイト電極に大電流を流し加熱してSiCを製造するものである。この反応(SiO+3C→SiC+2CO)は吸熱反応であり、グラファイト電極のみが発熱体で高温なので、反応は電極周りは良く反応し、主として高温安定型結晶のα−SiCが生成するが、電極から離れた部分は未反応であったり、比較的用途が限定されている低温安定型結晶のβ−SiCとα−SiCの混合物などが多く生成する。炉は、大気開放なので熱効率が悪く、粉塵や反応で発生するCOガスなどで周囲の環境を汚染し易い。反応後、塊状に硬く固まった炉内物を粗く砕き、所望のα−SiC部分のみを選別し、更に微粉砕する。残りの未反応物やβ−SiCとα−SiCとの混合物は不要品として再度、反応原料に戻される。上記の微粉砕品は更に各種用途に応じて、水などを用いた湿式分級や空気や窒素などを用いた乾式分級で、用途に応じた最適な粒度や粒度分布に調整される。かくして得られたSiC微粉は前記の切断、研削、研磨の砥粒、研削材として或いはSiC成形体の原料粉末として、現在、大量に用いられている。
【0003】
ところで前述の如く、(a)SiC微粉の製造では使用目的や用途により、最適な平均粒径や粒度分布が要求されるため、所望粒度と不要粒度を分ける分級工程が不可欠である。この分級では比較的低コストで精密分級が可能な水分級法が一般的であるが、需要の無い不要なSiC微粉水溶液が多量に発生する。また、乾式分級の場合でも同様に不要の微粉が発生し、それらの処理に困っていた。また、(b)単結晶や多結晶シリコンのインゴットや成形物を研削する際にもSi切子微粒子を含有した廃液が沢山発生しており、その処分も問題となっていた。一方、(c)ワイヤーソーでは水または油の溶媒中に研削材のSiC微粉とエチレングリコール、界面活性剤、防錆剤などの種々の添加材を加えたスラリーを作りシリコンインゴット等の切断に使用する。このスラリーは単結晶や多結晶シリコンを多量に切断すると当初、最適であったSiCの粒径や粒度分布がSiC微粉の磨耗や割れなどで、へたり、細粒化あるいは粒度分布の広がり等で切断能力が低下すると共に、切子のシリコン微粉が蓄積してスラリー粘度が上昇し、スラリーの循環使用が不能となり、新スラリーと交換される。使用不能になった廃スラリーには水または油の溶媒以外に消耗し細粒化したSiCと切子のSi微粉や各種の添加剤が存在しており、排水汚染などの面から単純に廃棄も出来ず、その処分が大きな問題であった。
【0004】
上記(a)、(b)の水溶液や廃液の処理は、現状、その溶液や廃液からSiCやSiの微粉を遠心分離機や濾過機で回収し有効利用しようとしても超微粉のため、固液の完全分離が極めて難しく、止む無く産業廃棄物か焼却処分、或いは大量な熱で加熱乾燥した後、乾燥残渣のSiCやSiを経済的価値の低い溶鉱炉の脱酸剤やアチソン炉の原料戻し等に利用されているに過ぎない。
【0005】
上記(c)のワイヤーソースラリー廃液のSiCとSiの混合微粉については、特許文献1〜2など、これまで幾つかの回収、有効活用法が提案されている。これらの方法は、含有Si微粉をSiCに転換出来るに十分な量の炭素、例えば石油コークスやカーボンブラックを廃スラリーに添加し、乾燥したもの、或いは遠心分離や濾過して得られた固形スラッジをそのまま加熱して切子のSiをSiC(Si+C→SiC)として回収し活用しようとするものである。
しかし、これらの提案法は実施しようとすると種々の問題が発生し、また、得られるSiCは細かな微粉過ぎ利用価値が低くいものである。即ち、上記の方法で炭素に石油コークスを使用した場合、カーボンの比表面積が小さ過ぎ、SiC、Si微粉の吸着が十分に出来ず、遠心分離や濾過しても濾液中に微粉が多く漏洩し、SiC、Si固形分の回収が不十分となり、濾液も混濁して排水処理上、問題となる。また、炭素にカーボンブラックを用いた場合、細かい粒子径のため、廃液の粘度が上がり遠心分離や濾過操作が困難となり、実用的でない。一方、溶液や廃液を固液分離せずにそのまま加熱乾燥するのは大きな熱が必要となり経済的でない。廃スラリ中に残存し回収されたSiC微粉は前記した様にへたりや細粒化のままの状態で、ワイヤーソーなどの高度な用途には使用出来ない。また、SiCと共に回収された切子のSi微粉は加熱によりカーボンと反応し新たにSiCを生成するが、原料となる回収Siはワイヤーソーの切子ゆえ超微粉で、且つ粒度分布が広いため、生成SiCも超微粒で粒度分布が広くなってしまい、回収SiCと同様に、所要の粒径を持ち、且つ粒度分布がシャープであることが要求されるワイヤーソー用などには不向きな低付加価値の物であり、これらの改善が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−116227号公報
【特許文献2】特開2002−255532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、例えば、(a)SiC微粒を製造する際の分級工程で目的粒径以下で副産物として生成する不要SiC微粒子を含んだ溶液、(b)単結晶や多結晶のSiインゴットや成形物を研削する際のSi切子微粒子を含有した廃液、(c)SiCを砥粒として単結晶や多結晶シリコンをワイヤーソーで切断し、ウエハー、薄片を製造する際に発生するSiC、Si微粒子を含有したスラリー廃液、等の溶液や廃液中のSiC、Siを排水汚濁も無くほぼ完璧に回収し、ワイヤーソー、ラッピング、ポリシング用などの高純度で高付加価値の研削材、砥粒、研磨材に再生する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、(a)、(b)及び(c)等のSiC微粒子及び/又はSi微粒子を少なくとも含む溶液又は廃液を、炭素粉及び酸化珪素粉を少なくとも含む分離助材を用いて固液分離して固体分を得るステップと、この固体分を必要に応じて炭素粉及び/又は酸化珪素粉を含む添加剤と混合するステップと、炭化珪素を得るために、この固体分又は添加剤と混合された固体分を、非酸化性雰囲気で1850℃を超えて2400℃未満に加熱反応させるステップとを少なくとも含んでなる炭化珪素の製造方法を提供する。これにより、上記の溶液や廃液中のSiCやSiを排水汚濁なく回収可能で且つ、最適粒径と粒度分布を持った高付加価値な研削材、砥粒、研磨材に再生できる。
即ち、本発明は、上記した溶液や廃液中のSiC微粉及び/又はSi微粉を回収、再生するに際し、その溶液及び/又は廃液に少なくとも炭素粉と酸化珪素粉を組み合わせ、固液分離の分離助材として、更にはSiCの粒径肥大化の反応原料として用い、必要に応じて炭素粉及び/又は酸化珪素粉を含む添加剤と混合した後、非酸化性雰囲気で1850℃を超えて2400℃未満に加熱反応させる。また、固液分離により固体分を回収し、Si微粉及び炭素粉との反応でSiC微粉を生成し、循環使用で消耗して、へたりや細粒化した残存SiC微粉を肥大化(粒成長)して再生し、用途に応じた最適な粒径と粒度分布を得る方法を提供したものである。
【発明の効果】
【0009】
前述した如く、従来法では、廃液に炭素のみの添加なので添加する炭素が大きな粒子径あるいは比表面積の小さい場合は、遠心分離や濾過などの固液分離の際に、細かなSiCやSiは漏れて回収が不十分となる。一方、炭素が細かい微粒子の場合は必要量の炭素を溶液や廃液に添加するとグリースや団子状になり固液分離の操作が不可能となる。また、これらの方法では、回収SiC及びSiと炭素との反応生成物のSiC共々、細かい粒径であり、炭素のみの添加では粒子の肥大化が難しく、所要の大きさの粒径が得られない。これに対して本発明では、炭素と酸化珪素が分離助材及びSiC反応原料として機能するため、消耗し細粒化したSiCも切子Siと炭素より反応生成物のSiCとも粒子の肥大化が起こり、所望の大きさの粒子が得られるものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の方法を更に詳細に説明する。
まず、炭化珪素微粒子及び/又はシリコン微粒子を少なくとも含む溶液又は廃液に、炭素粉及び酸化珪素粉を少なくとも含む分離助材を用いて固液分離して固体分を得る。
炭化珪素微粒子及び/又はシリコン微粒子を少なくとも含む溶液又は廃液は、例えば、(a)SiC微粒を製造する際の水分級などの湿式分級工程で、目的粒径以下で副産物として生成する不要SiC微粒子を含んだ溶液、または、ふるい分級などの乾式分級工程で副産物として生成する不要SiC微粉を分散させた溶液、(b)単結晶や多結晶のSiインゴットや成形物を研削する際のSi切子微粒子を含有した廃液、(c)SiCを砥粒として単結晶や多結晶シリコンをワイヤーソーで切断し、ウエハー、薄片を製造する際に発生するSiC微粒子、Si微粒子を含有したスラリー廃液が挙げられる。
溶液や廃液に含まれる炭化珪素微粒子の平均粒経は、一般には20μm以下で、用途により適切な粒径が用いられ通常は、1〜20μmである。平均粒径が1μm未満まで使用すると切断速度が落ち、生産性が悪くなり、また、所望の粒度や研削、研磨の能力に再生するのが困難となる。一方、20μmを超えると、大きな研削傷や切断ロスが多く発生しやすい。
なお、本明細書に記載する平均粒径は、レーザ回折・散乱法による。
溶液又は廃液中の炭化珪素微粒子とシリコン微粒子の合計量の好ましい濃度は、5〜70%である。希薄すぎると固液分離の効率が悪くなる場合があり、濃縮すぎると流動性が悪く取り扱いが困難となる場合がある。固液分離に先立って、濃縮や希釈を行い、好ましい濃度に調節してもよい。
【0011】
本発明で使用される分離助材は、少なくとも炭素粉と酸化珪素粉を含む。
分離助剤に含まれる炭素粉は、BET法を用いて好ましくは1m/g〜700m/gの比表面積を有する。SiC、Si微粉が炭素に十分吸着し、固液分離も良好となり、操作も容易で、高い回収が可能だからである。比表面積が余り小さいと、分離助材として固形微粒子の吸着能が劣る場合があり、逆に余り大き過ぎると粘度が上がり、固液分離操作が困難になる場合がある。分離助剤に用いる炭素粉の平均粒径は、好ましくは上記比表面積を与えるものであり、例えば0.1μm〜1mmである。
分離助剤に用いる炭素の種類としては、木炭、コークス、活性炭等が挙げられる。
【0012】
分離助剤に用いる酸化珪素粉は、後工程でのSiC化反応を考慮すると、好ましくは1mm以下の平均粒径を有する。
分離助剤に含まれる炭素粉と酸化珪素粉の好ましい質量比は、後工程でのSiC化を考慮すると炭素粉/酸化珪素粉が好ましくは0.6以上である。
【0013】
分離助剤は、固液分離を容易にするため、更に有機高分子凝集剤を含んでもよい。有機高分子凝集剤としては、例えば、ポリアクリルアミド、ポリエチレンアミンやポリエチレンイミンなどの加熱分解して炭素になり、無機凝集剤の様に残存して不純物とならない物が好ましく、これらの使用は、炭化珪素微粒子及び/又はシリコン微粒子の更に効果的な回収が可能である。
分離助剤に含まれる高分子凝集剤の含有量は、凝集効率及び経済性を考慮すると分離助剤に含まれる炭素粉と酸化珪素粉の合計量に対して好ましくは0〜10質量%である。
【0014】
分離助剤の使用量は、溶液又は廃液中の炭化珪素微粒子とシリコン微粒子の合計質量に対して濾過効率や経済性を考慮すると、溶液又は廃液に含まれる炭化珪素微粒子及びシリコン微粒子の合計量1.0モルにつき、好ましくは0.1〜10モルである。
【0015】
固液分離は、公知の方法を用いて行なうことができ、例えば、濾過法、フィルタープレスや遠心分離機の使用が挙げられる。
【0016】
次に、固液分離により分離された固体分は、必要に応じて炭素粉及び/又は酸化珪素粉を少なくとも含む添加剤と混合される。必要に応じてとは、分離助剤として添加した量では、粒径増大化に不十分の場合に添加剤と混合される意味である。
固体分に必要に応じて添加される炭素粉は、SiCの反応原料の一部として、又は反応の場として機能し、反応速度や生成SiCの収率を決定する。したがって、その粒径が余り大きいと反応速度が遅くなると共に生成SiCの収率が低下し経済的でない。固体分に必要に応じて添加される炭素粉の平均粒径は、好ましくは1mm以下、より好ましくは0.1μm〜100μmである。
固体分に必要に応じて添加される炭素の種類としては、木炭、コークス、活性炭等が挙げられる。
【0017】
固体分に必要に応じて添加される酸化珪素粉の粒経は、固体分に必要に応じて添加される炭素粉と異なり、殆ど生成SiCの収率に影響は無いが、余り大き過ぎると反応速度が遅くなり得策でない。固体分に必要に応じて添加される酸化珪素粉の平均粒経は、好ましくは1mm以下である。
【0018】
固体分に必要に応じて炭素粉を添加するか、酸化珪素粉を添加するか、又は両者を如何なる割合で添加するかは、SiCの肥大化の度合いと両者の反応に関与する割合等を考慮して選択できる。
【0019】
分離助材に含まれる炭素粉及び酸化珪素粉と、必要に応じて添加される添加剤に含まれる炭素粉及び酸化珪素粉の合計は、添加剤中の炭素と同様に、共に廃液中に残存していたSiC又は新たに生成するSiCの反応原料となる。即ち、細粒化或いはへたった残存SiC粒には粒の肥大化(粒成長化)原料として働き、新たに生成するSiCにはそのものの反応原料として働く。したがって、固液分離により得られた固体分の組成により、添加される炭素及び酸化珪素の合計量も変わる。
分離助材と添加剤に含まれる炭素粉及び酸化珪素粉との合計量は、溶液又は廃液に含まれる炭化珪素微粒子及びシリコン微粒子の合計量1.0モルにつき、好ましくは0.1〜50モルである。0.1モル未満では、残存SiCの粒径の肥大化が不十分であったり、新たな生成SiCの粒径が極めて微小となる。また、50モルを超えると反応に必要な量に対して過剰となり、反応後、余分な除去工程が必要となる場合があり、粒径が大きく成り過ぎて好ましくない場合がある。
【0020】
次に、炭化珪素を得るために、固液分離後の固体分又は必要に応じて添加剤と混合後の固体分を、非酸化性雰囲気下、加熱反応させる。
加熱反応は、炭化珪素前駆体及び/又はβ−炭化珪素を生成した後、更にα−炭化珪素に結晶転位させるための温度勾配で行うことが好ましい。
酸化珪素が炭素で還元されて生じる中間体は、下記式(1)と(2)に示すようにSiOとSiである。
SiO+C=SiO+CO ・・・(1)
SiO+C=Si+CO ・・・(2)
SiCの反応原料である、酸化珪素が炭素で還元されて生じる中間体のSiOとSi、或いは回収溶液や廃液中の切子などのSi微粉は高温では蒸発揮散しやすい。したがって、加熱反応に際し、SiCを収率良く得るには、反応初期に急昇温せずに、できるだけSiOやSiの形で蒸発揮散させず逸早く、好ましくは1100〜1850℃にて酸化珪素を炭素と完全反応させて炭化珪素前駆体及び/又はβ−炭化珪素を生成した後、更に、好ましくは1850℃を超えて2400℃未満の高温に上げてα−炭化珪素に結晶転位する様な温度勾配が好ましい。一括、炭化珪素前駆体であれ、β−炭化珪素であれ、SiC化合物になれば蒸気圧が極めて小さく、2400℃を以上でないと分解もしないのでロスは殆ど無く、最終の最高温度が1850℃以下であると反応物を完全にα−炭化珪素化するのが困難となる場合があるからである。
非酸化性雰囲気下としては、例えば、窒素、アルゴン等から選ばれるガスの雰囲気下が挙げられる。
なお、炭化珪素前駆体は、例えば残留した廃液中の有機物や添加した有機高分子凝集剤の一部が反応した有機珪素化合物等である。また、炭化珪素前駆体やβ−炭化珪素からα−炭化珪素への結晶転位は、例えば、
X線回折装置による分析等を用いて確認できる。
【0021】
加熱反応に温度勾配を与える方法としては、例えば、同一反応炉内で温度領域をくぎった装置や、温度の異なる複数の反応炉で、温度の低い領域から高い領域へ移動させる方法がある。
好ましくは、一定時間毎に一定距離を移動するプッシャー又はロータリー式密閉反応炉を用いるとよい。量産性と上記の最適な温度勾配が取れ、粉塵の発生も少なく、熱効率も良く、副生ガスの回収が容易に出来る反応炉として、一定時間毎に一定距離を移動する密閉反応炉、例えば温度制御のプシャー式反応炉、ロータリー式反応炉が最適だからである。
【0022】
加熱反応させて得られた炭化珪素粉は、好ましくは1〜200μmの平均粒径を有する。必要であれば、粉砕機を用いて粉砕しても良い。この炭化珪素粉は、研削材、砥粒、研磨材に再利用することができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらになんら限定されるものでない。
実施例1
アチソン法で製造したα−SiCを平均粒径10μmに粉砕した後、水分級で粗め部分と細かめ部分をカットした。粗め部分は、再度、粉砕原料に回した。平均粒径2μm以下の細かめ部分の水溶液1000kg(固形分:40%)と、平均粒径80μmで比表面積393m/gの木炭粉48kgと、平均粒径120μmのシリカ粉70kgを良く混合後に、エクセルフィルターで濾過をした。固液分離は良好で濾過液は微粉の混入もなく透明であった。この回収された固形分を乾燥した。その後、第1ゾーンを1400℃、第2ゾーンを1600℃、第3ゾーンを1800℃、第4ゾーンを2300℃に温度制御したプッシャー炉でArガスの流通下に容器に入れた固形分を30分毎に各ゾーンを移動させながら加熱、反応した。
なお、第1〜第3ゾーンでSiやSiOの蒸発揮散は殆ど無く、β−SiCがほぼ理論値の100%生成し、第4ゾーンで完全にα−SiCに結晶が転移していた。更に大気中、750℃で過剰な炭素を除去した。その結果、平均粒径2μm以下の細かめ部分のα−SiCは平均粒径9.5μmのα−SiCとして、不要なSiC微粉を肥大化(粒成長)して回収、再生された。この物はワイヤーソウー用の砥粒として好適なものであった。
【0024】
比較例1
アチソン法で製造したα−SiCを平均粒径10μmに粉砕した後、水分級で粗め部分と細かめ部分をカットした。粗め部分は、再度、粉砕原料に回した。平均粒径2μm以下の細かめ部分の水溶液1000kg(固形分;40%)と、平均粒径110μmで比表面積0.5m/gのオイルコークス48kgを良く混合後に、エクセルフィルターで濾過をした。しかし、濾布が目詰まりし、固液分離に長時間を要すると共に濾液は混濁して濾液に固形分の微粉が逃げてしまった。
【0025】
比較例2
アチソン法で製造したα−SiCを平均粒径10μmに粉砕した後、水分級で粗め部分と細かめ部分をカットした。粗め部分は、再度、粉砕原料に回した。平均粒径2μm以下の細かめ部分の水溶液1000kg(固形分;40%)と、比表面積750m/gのアセチレンブラック48kgを良く混合後に、エクセルフィルターで濾過をした。しかし、溶液粘度が上がりポンプで送液が出来ず固液分離の操作が不可能であった。
【0026】
実施例2
固形成分35質量%と溶液成分65質量%のワイヤーソー廃液であって、固形成分が30質量%のα−SiCと4.1質量%のSiと0.9質量%のFeからなり、溶液成分がエチレングリコールと界面活性剤と水の混合物であるワイヤーソー廃液を準備した。このワイヤーソー廃液1000kgに平均粒径15μmに粉砕した比表面面積50m/gのコークス20kgと平均粒径50μmのシリカ粉20kg、高分子凝集剤のポリアクリルアミド500gを添加、混合した液をデカンターで固液分離した。固液分離は容易で濾液は無色透明で綺麗であった。分離された固形物に更に上記のコークス56kgとシリカ粉30kgを混合した。この物を乾燥して第1ゾーンを1850℃(このゾーンでほぼ100%のβ−SiCが生成)、第2ゾーンを1950℃、第3ゾーンを2200℃に温度制御したロータリー炉で容器に入れた固形分を20分毎に移動させ、Arガス流通下に加熱反応させた。得られた回収、再生品は100%のα−SiCで平均粒径8μmあり、これは使用前のSiC砥粒の平均粒径8.5μmとほぼ同じに再生することが出来た。なお、再生前の廃液中のSiCは平均粒径3μmでかなり、へたったものであった。
【0027】
比較例3
シリカを添加しない以外は実施例2と全く同一条件で回収、再生を試みた。細粒化したSiCの粒径は肥大化(粒成長)出来ず、殆ど平均粒径3μmそのままであり、切子のSi微粉とコークスとの反応で生成した新たなSiCは平均粒径1μmで2つのピークを持った粒度分布広いものであった。この物はワイヤーソーなどの高度な用途には不向きなものであった。
【0028】
実施例3
単結晶Siインゴットを円筒研削した際のSi切子微粒子を含有した廃水溶液1000kg(切子、平均粒径1.1μmのSi微粒子を25.3質量%、微量のアミン系防錆材を含有)に、平均粒径32μmで比表面積695m/gの活性炭150kgと、平均粒径170μmの石英粉25kg加え、良く混合した後に自動フィルタープレスで固液分離を行った。固液は良く分離し、濾液は無色透明であり、そのまま排水可能であった。回収された固形分は乾燥し実施例1と同じプシャー式反応炉で、第1ゾーンを1300℃、第2ゾーンを1500℃、第3ゾーンを1700℃、第4ゾーンを2250℃に温度制御し、Arガスの流通下に容器に入れた固形分を40分毎に各ゾーンを移動させながら加熱、反応した。なお、第1〜第3ゾーンでSiやSiOの蒸発揮散は殆ど無く、β−SiCがほぼ理論値の100%生成し、第4ゾーンで完全にα−SiC化していた。更に大気中、750℃で過剰な炭素を除去した。その結果、平均粒径1.1μmの細かなSi切子は平均粒径7.5μmのα−SiCとして回収、有効資源化された。この物はラップ研磨用砥粒やSiC成形原料用に好適な価値の高いものであった。
【0029】
比較例4
実施例3で用いたのと同じ廃水溶液1000kgに、平均粒子径53μmのタルク149kgを分離助材として加え、良く混合した後に自動フィルタープレスで固液分離を行った。しかし、濾過速度が極めて遅い上に濾過液は濁りの多いものとなりSiの回収は不完全であり、固形分は利用不能な廃棄物であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素微粒子及び/又はシリコン微粒子を少なくとも含む溶液又は廃液を、炭素粉及び酸化珪素粉を少なくとも含む分離助材を用いて固液分離して固体分を得るステップと、
上記固体分を必要に応じて炭素粉及び/又は酸化珪素粉を少なくとも含む添加剤と混合するステップと、
炭化珪素を得るために、上記固体分又は上記添加剤と混合された固体分を、非酸化性雰囲気下1850℃を超えて2400℃未満に加熱反応させるステップと
を少なくとも含んでなる炭化珪素の製造方法。
【請求項2】
上記加熱反応させて得られる炭化珪素が、1〜200μmの平均粒径を有する請求項1に記載の炭化珪素の製造方法。
【請求項3】
上記分離助材に含まれる炭素粉が、BET法に基づき1〜700m/gの比表面積を有する請求項1又は請求項2に記載の炭化珪素の製造方法。
【請求項4】
上記加熱反応させるステップが、炭化珪素前駆体及び/又はβ−炭化珪素を生成した後、更にα−炭化珪素に結晶転位させるための温度勾配を有する請求項1〜3のいずれかに記載の炭化珪素の製造方法。
【請求項5】
上記加熱反応させるステップが、一定時間毎に一定距離を移動するプッシャー又はロータリー式密閉反応炉を用いる請求項1〜4のいずれかに記載の炭化珪素の製造方法。
【請求項6】
上記分離助材と上記添加剤に含まれる炭素粉及び酸化珪素粉との合計量が、上記溶液又は廃液に含まれる炭化珪素微粒子及びシリコン微粒子の合計量1.0モルにつき0.1〜50モルである請求項1〜5のいずれかに記載の炭化珪素の製造方法。
【請求項7】
上記添加剤に含まれる炭素粉が、100μm以下の平均粒径を有する請求項1〜6のいずれかに記載の炭化珪素の製造方法。
【請求項8】
上記分離助材が、さらに有機高分子凝集剤を含む請求項1〜7のいずれかに記載の炭化珪素の製造方法。


【公開番号】特開2011−37675(P2011−37675A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187603(P2009−187603)
【出願日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【出願人】(595073432)信濃電気製錬株式会社 (10)
【Fターム(参考)】