説明

直流オフセット補正装置

【課題】 連続的な信号を受信する場合であっても、受信レベルや環境条件の変化にも対応してDCオフセットを補正したい。
【解決手段】 可変利得増幅器20は、入力したアナログ信号に対して、可変に設定される利得の値での増幅を実行する。第2ミキサ22と第3ミキサ40は、増幅したアナログ信号をベースバンドのアナログ信号に変換する。第1AD部30と第2AD部44は、ベースバンドのアナログ信号をデジタル信号に変換する。記憶部34は、デジタル信号に含まれるべき直流オフセットの値と、利得の値との関係を記憶する。オフセット補正部36は、記憶部34に記憶された関係を参照しながら、利得の値に対応した直流オフセットの値を特定し、特定した直流オフセットの値によって、デジタル信号に含まれた直流オフセットを補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流オフセット補正技術に関し、特に受信した信号に含まれる直流オフセットを補正する直流オフセット補正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信システムにおける受信装置は、無線周波数の信号を受信する。無線周波数の信号には、増幅器による増幅がなされた後に、周波数変換がなされる。その際、ミキサが、局部発振器からの基準搬送波を使用しながら、無線周波数の信号に対する周波数変換を実行する。ミキサにおいて、局部発振器側と増幅器側のアイソレーションは、一般的に無限大ではないので、基準搬送波は、増幅器側にリークし、増幅器において反射され、ミキサに再び入力される。再びミキサに入力された基準搬送波は、局部発振器からの基準搬送波と同一の周波数であるので、周波数変換された信号に直流オフセット(以下、「DCオフセット」という)が生じる。さらに、増幅器のゲインが変更した場合、増幅器の出力インピーダンスも変化する。その結果、増幅器における反射量も変化するので、再びミキサに入力される基準搬送波の強度も変化する。すなわち、DCオフセットの値が、ゲインの値に応じて変化する(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平10−13482号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
以上のようなDCオフセット影響を低減するために、特許文献1においては、TDMA(Time Division Multiple Access)において割り当てられていないタイムスロットを利用しながら、適宜DCオフセット値を測定し、測定したDCオフセット値によって、補正を実行する。すなわち、これは、適宜DCオフセット値を測定することによって、ゲインの値の変化に対するDCオフセット値の変化に追従している。一方、インマルサットのような衛星通信システムにおいて、受信装置は、連続的な信号を受信する。そのため、当該受信装置は、前述のDCオフセット値を測定するための期間を有していない。また、フェージングの影響や陸上局の切りかえによって、受信した信号の強度が変化するので、ゲインの値も変化する。そのため、連続的な信号を受信する受信装置においても、DCオフセットの影響が発生する。
【0004】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、連続的な信号を受信する場合であっても、受信レベルや環境条件の変化にも対応してDCオフセットを補正する直流オフセット補正装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の直流オフセット補正装置は、入力した第1の周波数のアナログ信号に対して、可変に設定される利得の値での増幅を実行する増幅部と、増幅部において増幅した第1の周波数のアナログ信号を第2の周波数のアナログ信号に変換する周波数変換部と、周波数変換部において変換したアナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換部と、AD変換部において変換したデジタル信号に含まれるべき直流オフセットの値と、増幅部にて設定されるべき利得の値との関係を記憶する記憶部と、記憶部に記憶された関係を参照しながら、増幅部にて設定された利得の値に対応した直流オフセットの値を特定し、特定した直流オフセットの値によって、AD変換部において変換したデジタル信号に含まれた直流オフセットを補正するオフセット補正部と、を備える。
【0006】
「第1の周波数」と「第2の周波数」は、無線周波数、中間周波数、ベースバンドのうちの任意のものでよい。また、中間周波数は、第1中間周波数、第2中間周波数であってもよい。ここで、「第2の周波数」は、一般的に「第1の周波数」よりも低い周波数であるとする。
【0007】
この態様によると、直流オフセットの値と利得の値との関係を予め記憶しており、この関係を使用しながら、現在の利得の値に対応した直流オフセットの値によって、デジタル信号に含まれた直流オフセットを補正するので、逐次補正を実行できる。
【0008】
通信が開始される前に、増幅部における利得の値の設定を変化させながら、AD変換部において変換したデジタル信号に含まれた直流オフセットの値を測定する手段と、設定された利得の値と、測定した直流オフセットの値とを対応づけながら記憶部に記憶させる手段とを含むオフセット推定部をさらに備えてもよい。増幅部において入力される第1の周波数のアナログ信号は、連続信号であってもよい。この場合、直流オフセットの値と利得の値との関係を予め測定するので、連続信号に含まれた直流オフセットの値を補正できる。
【0009】
オフセット推定部は、通信中に、増幅部にて設定された利得の値に対する直流オフセットの値を測定する手段と、設定された利得の値と測定した直流オフセットの値との関係が、記憶部に記憶された関係と異なっていれば、記憶部に記憶された関係を更新する手段とを含んでもよい。この場合、利得の値と直流オフセットの値との関係を更新するので、これらの関係の変化に追従できる。
【0010】
受信装置の温度を測定する温度測定部をさらに備えてもよい。オフセット推定部は、温度測定部において測定された温度の変化がしきい値よりも大きくなった場合に、増幅部にて設定された利得の値に対する直流オフセットの値を測定する手段と、設定された利得の値と測定した直流オフセットの値との関係が、記憶部に記憶された関係と異なっていれば、記憶部に記憶された関係を更新する手段とを含んでもよい。この場合、温度の変化が大きくなったときに、利得の値と直流オフセットの値との関係を更新するので、温度の変化にもとづく、利得の値と直流オフセットの値との関係の変化に追従できる。
【0011】
記憶部は、オフセット推定部において測定された直流オフセットの値と、増幅部にて設定された利得の値とを含むように、直流オフセットの値と利得の値との関係を近似式の形によって記憶しており、オフセット推定部は、記憶部に記憶された関係を更新する際に、新たに測定された直流オフセットの値に対応するように、近似式を平行移動させてもよい。この場合、直流オフセットの値と利得の値との関係を近似式の形によって記憶するので、測定していない利得の値に対しても、直流オフセットの値を導出できる。また、近似式を平行移動させるので、処理を容易にできる。
【0012】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、連続的な信号を受信する場合であっても、受信レベルや環境条件の変化にも対応してDCオフセットを補正できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明を具体的に説明する前に、概要を述べる。本発明の実施例は、インマルサットにおける移動局のごとく、連続した信号を受信する受信装置に関する。受信装置によって受信される信号の強度は変化するので、受信装置は、内部に備えたAGC(Automatic Gain Control)によってゲインを調節しながら、受信した信号を増幅する。また、受信装置は、増幅した信号の周波数をベースバンドへ周波数変換する。その結果、ベースバンドの信号には、DCオフセットが生じる。本実施例に係る受信装置は、連続した信号を受信する場合であっても、DCオフセットを補正するために以下のように動作する。
【0015】
受信装置は、起動する際、すなわち通信の開始前に、ゲインの値を変化させながら、そのときのDCオフセット値を測定する。例えば、ゲインの値を「3dB」、「5dB」等のように変化させ、そのときのDCオフセット値が測定される。また、設定されたゲインの値とDCオフセット値は、ひとつの関係として対応づけられる。さらに、複数の関係から、所定の近似式が導出される。最終的に、近似式は記憶される。通信開始後、受信装置は、AGCによって設定されたゲインの値を取得する。予め記憶された近似式を参照しながら、受信装置は、取得したゲインの値に対応したDCオフセット値を特定する。さらに、受信装置は、特定したDCオフセット値によって、ベースバンドの信号に含まれたDCオフセットを補正する。
【0016】
図1は、本発明の実施例に係る受信装置100の構成を示す。受信装置100は、アンテナ10、LNA(Low Noise Amplifier)部12、第1ミキサ14、第1局部発振器16、BPF(Band−Pass Filter)部18、可変利得増幅器20、第2ミキサ22、第2局部発振器24、π/2移相器26、第1LPF(Low−Pass Filter)部28、第1AD部30、オフセット推定部32、記憶部34、オフセット補正部36、デジタル処理部38、第3ミキサ40、第2LPF部42、第2AD部44、制御部46を含む。
【0017】
LNA部12は、アンテナ10において受信した無線周波数の信号を増幅する。無線周波数の信号は、連続的なアナログ信号である。ここで、LNA部12におけるゲインは、予め定められているものとする。第1ミキサ14は、一端において、LNA部12にて増幅された無線周波数の信号を入力し、他端において、第1局部発振器16からの基準搬送波を入力する。第1ミキサ14は、増幅された無線周波数の信号を中間周波数の信号に周波数変換する。第1局部発振器16からの基準搬送波は、中間周波数に応じて規定されている。BPF部18は、第1ミキサ14からの中間周波数の信号のうち、信号成分を通過させる。すなわち、BPF部18は、第1ミキサ14によって生じた高調波成分を低減させる。
【0018】
可変利得増幅器20は、BPF部18からの中間周波数の信号に対して、可変に設定されるゲインでの増幅を実行する。なお、BPF部18からの中間周波数の信号は、アナログ信号である。また、ゲインの値は、後述のデジタル処理部38によって設定される。第2ミキサ22と第3ミキサ40は、可変利得増幅器20において増幅した中間周波数の信号をベースバンドの信号に周波数変換する。周波数変換を実行するために、第2ミキサ22は、第2局部発振器24からの基準搬送波を入力し、第3ミキサ40は、π/2移相器26を介して、第2局部発振器24からの基準搬送波を入力する。π/2移相器26は、基準搬送波の位相をπ/2だけ変化させる。すなわち、第2ミキサ22は、ベースバンドの信号のうち、同相成分の信号(以下、「同相信号」という)を出力する。
【0019】
また、第3ミキサ40は、ベースバンドの信号のうち、直交成分の信号(以下、「直交信号」という)を出力する。第2ミキサ22と第3ミキサ40は、第1ミキサ14と同様の構成を有する。第1LPF部28は、第2ミキサ22からの同相信号のうち、低域部分を通過させる。すなわち、第1LPF部28は、第2ミキサ22によって生じた高調波成分を低減させる。また、第2LPF部42は、第3ミキサ40からの直交信号のうち、低域部分を通過させる。すなわち、第2LPF部42は、第3ミキサ40によって生じた高調波成分を低減させる。第1AD部30は、第1LPF部28からの同相信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する。また、第2AD部44は、第2LPF部42からの直交信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する。
【0020】
ここで、図2を使用しながら、第1AD部30および第2AD部44から出力されるデジタル信号に含まれるDCオフセットについて説明する。ここで、DCオフセットの発生原因について、説明する。第2局部発振器24から出力された基準搬送波は、第2ミキサ22と第3ミキサ40におけるリークによって、可変利得増幅器20に到達し、これが反射されることによって、DCオフセットが発生する。また、同様の現象は、第1局部発振器16、第1ミキサ14、LNA部12でも生じる。前述のごとく、可変利得増幅器20でのゲインの変化によって、これらで生じるDCオフセット値も変化する。一方、第1LPF部28、第2LPF部42においても、DCオフセットは生じるが、その際のDCオフセットは、可変利得増幅器20でのゲインに依存しない。
【0021】
図2は、受信装置100において補正すべきDCオフセットを説明するための図である。図では、同相成分を「I」軸とし、直交成分を「Q」軸として示す。また、信号は、BPSK(Binary Phase Shift Keying)にて変調されているものとする。DCオフセットが発生していない場合、BPSKのコンスタレーションは、図中の丸印によって示される。すなわち、I軸上の2点として示される。一方、DCオフセットは、図中の「ΔI」、「ΔQ」のごとく示される。ここで、「ΔI」は、I軸におけるDCオフセット値であり、「ΔQ」は、Q軸におけるDCオフセット値である。一般的に、これらは、独立の値となる。このようなDCオフセットの結果、BPSKのコンスタレーションは、図中の×印の位置となる。BPSKでは、Q軸をしきい値として信号の判定がなされる。DCオフセットによって、少なくとも一方の信号点がQ軸と近くなり、誤りの発生確率が上昇する。
【0022】
図1に戻る。オフセット推定部32は、通信が開始される前に、可変利得増幅器20におけるゲインの値の設定を変化させながら、第1AD部30と第2AD部44において変換したデジタル信号に含まれた直流オフセットの値を測定する。また、オフセット推定部32は、DCオフセットの値を同相成分と直交成分のそれぞれに対して測定する。そのために、受信装置100の起動時に、オフセット推定部32は、デジタル処理部38から測定開始の指示を受けつける。また、デジタル処理部38によって、可変利得増幅器20のゲインの値が設定されるとともに、オフセット推定部32は、設定された値を受けつける。例えば、ゲインの値は、「3dB」、「5dB」というように設定される。オフセット推定部32は、デジタル信号の値をDCオフセット値として取得する。
【0023】
さらに、オフセット推定部32は、設定されたゲインの値と、測定したDCオフセット値とを対応づける。図3は、オフセット推定部32において取得されたゲインとDCオフセット値との関係を示す。図示のごとく、ゲイン「A1」に対してオフセット値「B1」が対応づけられている。なお、測定のなされるポイント数は、受信装置100の起動処理として規定された期間のうち、一部の期間にて測定可能なポイント数となる。図1に戻る。さらに、オフセット推定部32は、ゲインとオフセット値を含むように、両者の関係を近似式によって近似する。近似式を導出するために、測定ポイントに対して、内挿補間や最小2乗法が実行されてもよい。最終的に、オフセット推定部32は、設定されたゲインの値と、測定したDCオフセット値との関係を近似式として、記憶部34に記憶させる。
【0024】
記憶部34は、オフセット推定部32から受けつけた関係を近似式の形によって記憶する。図4は、記憶部34に記憶されたゲインとDCオフセット値との関係に対応した近似式を示す。ここでは、説明の明瞭化のために、近似式をグラフによって示すが、実際には、このような近似式に対応した数値が記憶部34に記憶されている。図の横軸は、ゲインを示し、縦軸は、DCオフセット値を示す。図中の点は、オフセット推定部32において測定された測定値を示す。図示のごとく、測定値に近くなるように近似式が導出されている。近似式は、内挿補間、最小2乗法等によって導出される。
【0025】
ゲインが小さい場合、図1の第1ミキサ14、第2ミキサ22、第3ミキサ40において生じるDCオフセット値は小さく、第1LPF部28、第2LPF部42において生じるDCオフセット値が支配的になる。これらのDCオフセット値は、前述のごとく、ゲインの値に依存しないので、ゲインの増加に対して、ほぼ一定のDCオフセット値が導出される。一方、ゲインが大きい場合、図1の第1ミキサ14、第2ミキサ22、第3ミキサ40において生じるDCオフセット値が支配的になる。そのため、ゲインの増加とともに、DCオフセット値も増加する。図1に戻る。
【0026】
オフセット補正部36は、通信中において、記憶部34に記憶された関係、すなわち近似式を参照しながら、可変利得増幅器20にて設定されたゲインの値に対応したDCオフセット値を特定する。そのために、オフセット補正部36は、デジタル処理部38からゲインの値を受けつける。さらに、オフセット補正部36は、特定したDCオフセット値によって、第1AD部30と第2AD部44からのデジタル信号に含まれたDCオフセットを補正する。ここで、オフセット補正部36は、デジタル信号の値から、特定したDCオフセット値を減じることによって、DCオフセットの補正を実行する。なお、以上の処理は、同相成分と直交成分のそれぞれに対して実行される。
【0027】
デジタル処理部38は、オフセット補正部36からデジタル信号に対して、デジタル信号処理を実行する。デジタル信号処理は、任意のものでかまわないが、例えば、復調処理に相当する。また、デジタル処理部38は、AGCによるゲインの設定を実行し、設定したゲインの値を可変利得増幅器20とオフセット補正部36に出力する。ここで、ゲインの設定は、公知の技術であるので、説明を省略する。さらに、デジタル処理部38は、オフセット推定部32における測定のために、可変利得増幅器20に対するゲインの値の設置を実行する。
【0028】
この構成のうち、オフセット推定部32、オフセット補正部36、デジタル処理部38は、ハードウエア的には、任意のコンピュータのCPU、メモリ、その他のLSIで実現でき、ソフトウエア的にはメモリにロードされた通信機能のあるプログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0029】
以上の構成による受信装置100の動作を説明する。図5は、オフセット推定部32による近似式の導出手順を示すフローチャートである。この処理は、前述のごとく、通信の開始前、例えば起動時に実行される。デジタル処理部38によってゲインが設定される(S10)。オフセット推定部32は、DCオフセット値を測定し(S12)、ゲインとDCオフセット値を対応づける(S14)。すべてのゲインに対して、以上の処理が終了していなければ(S16のN)、デジタル処理部38によってゲインの変更がなされ(S18)、ステップ12からの処理が繰り返し実行される。一方、すべてのゲインに対して、以上の処理が終了していれば(S16のY)、オフセット推定部32は、近似式を導出し(S20)、近似式を記憶部34に記憶させる(S22)。
【0030】
図6は、オフセット補正部36によるDCオフセットの補正手順を示すフローチャートである。この処理は、前述のごとく、通信時に実行される。オフセット補正部36は、デジタル処理部38からゲインを取得する(S30)。ゲインがこれまでの値から変更されていれば(S32のY)、オフセット補正部36は、記憶部34に記憶された近似式を参照しながら、DCオフセット値を取得する(S34)。一方、ゲインがこれまでの値から変更されていなければ(S32のN)、オフセット補正部36は、既に取得した現在のDCオフセット値を維持する(S36)。オフセット補正部36は、DCオフセット値による補正を実行する(S38)。
【0031】
ここまでの説明では、通信中において、記憶部34に既に記憶された近似式が使用されることによって、DCオフセット値の補正が実行されている。前述のごとく、近似式は、受信装置100の起動時に導出されている。しかしながら、このように導出された近似式に誤差が生じる場合がある。その一例は、受信装置100内の温度の変化である。すなわち、受信装置100内の温度は、一般的に、通信の開始とともに上昇する。また、DCオフセット値は、温度にも依存するので、通信の開始とともに、DCオフセット値も当初の値から変化する。そのため、DCオフセット値の変化に対応するように、受信装置100は、以下のような処理を実行する。
【0032】
オフセット推定部32は、通信中に、可変利得増幅器20にて設定されたゲインの値に対するDCオフセットの値を測定する。なお、受信装置100の起動時における処理との相違点は、実際の通信において使用されているゲインの値が入力されることである。そのため、ゲインの値がピンポイント的に入力される。オフセット推定部32は、設定されたゲインの値と測定したDCオフセット値との関係が、記憶部34に記憶された近似式と異なっているかを判定する。具体的には、オフセット推定部32は、記憶部34から、現在のゲインの値に対応したDCオフセット値(以下、「参照値」という)を取得する。また、オフセット推定部32は、測定したDCオフセット値と参照値とを比較し、それらの差異がしきい値よりも大きければ、両者が異なっていると判定する。
【0033】
オフセット推定部32は、両者が異なっていれば、記憶部34に記憶された近似式を更新する。ここで、近似式の更新を説明を使用するために、図7を使用する。図7は、記憶部34に記憶されたゲインとDCオフセット値との関係に対応した別の近似式を示す。図7の実線は、図4の近似式に対応する。すなわち、起動時に導出された近似式である。ここで、実線上の丸印が、参照値に相当する。一方、図中の×印が、新たに測定されたときのDCオフセット値に相当する。
【0034】
ここで、DCオフセット値と参照値の差異が、しきい値よりも大きいものとする。近似式の更新は、実線が点線になるように実行される。すなわち、新たに測定されたDCオフセットの値に対応するように、近似式は平行移動される。ここでは、DCオフセット軸方向に、すなわち上方に、近似式は平行移動される。これは、温度の変化によっても、近似式の傾きの変化は小さく、DCオフセット値そのものの変化が生じるという性質にもとづく。
【0035】
図8は、オフセット推定部32による近似式の更新手順を示すフローチャートである。この処理は、前述のごとく、通信時に実行される。オフセット推定部32は、現在のゲインをデジタル処理部38から取得し、DCオフセット値も取得する(S50)。オフセット推定部32は、記憶部34に記憶された近似式と、取得したDCオフセット値とを比較する(S52)。差異がしきい値より大きければ(S54のY)、オフセット推定部32は、近似式を更新する(S56)。一方、差異がしきい値より大きくなければ(S54のN)、オフセット推定部32は、処理を終了する。なお、以上の処理は、適宜実行される。
【0036】
本発明の実施例によれば、DCオフセット値とゲインとの関係を予め記憶しており、この関係を使用しながら、現在のゲインに対応したDCオフセット値によって、デジタル信号に含まれたDCオフセットを補正するので、直ちに補正を実行できる。また、直ちに補正を実行できるので、入力した信号が連続的であっても、補正を実行できる。また、DCオフセット値とゲインとの関係を予め測定するので、通信中の処理を簡略にできる。また、DCオフセット値とゲインとの関係を予め測定するので、通信中の処理のステップ数を削減できる。また、通信中の処理のステップ数を削減できるので、処理を高速にできる。
【0037】
また、DCオフセット値とゲインとの関係を近似式の形によって記憶するので、測定していないゲインに対しても、DCオフセット値を導出できる。また、近似値として記憶するので、測定すべきポイント数を削減できる。また、測定すべきポイント数を削減できるので、処理を短縮できる。また、ゲインとDCオフセット値との関係を更新するので、これらの関係の変化にも追従できる。また、関係を更新するので、温度の変化に伴う、DCオフセット値の変化にも追従できる。また、DCオフセット値の変化に追従できるので、受信特性を向上できる。また、近似式を平行移動させるので、処理を容易にできる。
【0038】
以上、本発明を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0039】
本発明の実施例において、オフセット推定部32は、通信中においても連続的にDCオフセット値を測定している。しかしながらこれに限らず例えば、オフセット推定部32は、温度変化が大きくなったときにDCオフセット値を測定してもよい。受信装置100には、温度測定部が備えられており、温度測定部は、受信装置100の温度を測定する。オフセット推定部32は、温度測定部において測定された温度の変化がしきい値よりも大きくなった場合に、前述の動作を実行することによって、近似式を更新する。本変形例によれば、必要に応じて、近似式を更新するための処理を実行するので、処理量の増加を抑制できる。また、温度の変化が大きくなったときに、ゲインとDCオフセット値との関係を更新するので、温度の変化にもとづく、これらの関係の変化にも追従できる。つまり、DCオフセット値が更新されればよい。
【0040】
本発明の実施例において、受信装置100は、連続信号を受信している。しかしながらこれに限らず、受信装置100は、バースト信号を受信してもよい。すなわち、受信される信号の形式によらず、実施例の適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施例に係る受信装置の構成を示す図である。
【図2】図1の受信装置において補正すべきDCオフセットを説明するための図である。
【図3】図1のオフセット推定部において取得されたゲインとDCオフセット値との関係を示す図である。
【図4】図1の記憶部に記憶されたゲインとDCオフセット値との関係に対応した近似式を示す図である。
【図5】図1のオフセット推定部による近似式の導出手順を示すフローチャートである。
【図6】図1のオフセット補正部によるDCオフセットの補正手順を示すフローチャートである。
【図7】図1の記憶部に記憶されたゲインとDCオフセット値との関係に対応した別の近似式を示す図である。
【図8】図1のオフセット推定部による近似式の更新手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0042】
10 アンテナ、 12 LNA部、 14 第1ミキサ、 16 第1局部発振器、 18 BPF部、 20 可変利得増幅器、 22 第2ミキサ、 24 第2局部発振器、 26 π/2移相器、 28 第1LPF部、 30 第1AD部、 32 オフセット推定部、 34 記憶部、 36 オフセット補正部、 38 デジタル処理部、 40 第3ミキサ、 42 第2LPF部、 44 第2AD部、 46 制御部、 100 受信装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力した第1の周波数のアナログ信号に対して、可変に設定される利得の値での増幅を実行する増幅部と、
前記増幅部において増幅した第1の周波数のアナログ信号を第2の周波数のアナログ信号に変換する周波数変換部と、
前記周波数変換部において変換したアナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換部と、
前記AD変換部において変換したデジタル信号に含まれるべき直流オフセットの値と、前記増幅部にて設定されるべき利得の値との関係を記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された関係を参照しながら、前記増幅部にて設定された利得の値に対応した直流オフセットの値を特定し、特定した直流オフセットの値によって、前記AD変換部において変換したデジタル信号に含まれた直流オフセットを補正するオフセット補正部と、
を備えることを特徴とする直流オフセット補正装置。
【請求項2】
通信が開始される前に、前記増幅部における利得の値の設定を変化させながら、前記AD変換部において変換したデジタル信号に含まれた直流オフセットの値を測定する手段と、設定された利得の値と、測定した直流オフセットの値とを対応づけながら前記記憶部に記憶させる手段とを含むオフセット推定部をさらに備え、
前記増幅部において入力される第1の周波数のアナログ信号は、連続信号であることを特徴とする請求項1に記載の直流オフセット補正装置。
【請求項3】
前記オフセット推定部は、通信中に、前記増幅部にて設定された利得の値に対する直流オフセットの値を測定する手段と、設定された利得の値と測定した直流オフセットの値との関係が、前記記憶部に記憶された関係と異なっていれば、前記記憶部に記憶された関係を更新する手段とを含むことを特徴とする請求項2に記載の直流オフセット補正装置。
【請求項4】
受信装置の温度を測定する温度測定部をさらに備え、
前記オフセット推定部は、前記温度測定部において測定された温度の変化がしきい値よりも大きくなった場合に、前記増幅部にて設定された利得の値に対する直流オフセットの値を測定する手段と、設定された利得の値と測定した直流オフセットの値との関係が、前記記憶部に記憶された関係と異なっていれば、前記記憶部に記憶された関係を更新する手段とを含むことを特徴とする請求項2に記載の直流オフセット補正装置。
【請求項5】
前記記憶部は、前記オフセット推定部において測定された直流オフセットの値と、前記増幅部にて設定された利得の値とを含むように、直流オフセットの値と利得の値との関係を近似式の形によって記憶しており、
前記オフセット推定部は、前記記憶部に記憶された関係を更新する際に、新たに測定された直流オフセットの値に対応するように、近似式を平行移動させることを特徴とする請求項3または4に記載の直流オフセット補正装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−36617(P2007−36617A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−216408(P2005−216408)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】