説明

真空吸着装置

【課題】真空吸着装置においてワークの設置状況にかかわらず、簡素な構成で前記ワークを確実且つ安定的に吸着することができる。
【解決手段】真空吸着装置10は、負圧流体の供給される供給ポート22を有したボディ12と、該ボディ12の下部に設けられワークWを吸着可能なパッド14と、前記ボディ12とパッド14との間に設けられるシール部材16とを備え、前記パッド14が多孔質体から形成されると共に、前記シール部材16が、前記パッド14に対して剛性が低く形成される。また、パッド14には、該パッド14を平面状に維持する保持プレート26が装着される。そして、例えば、パッド14に対して傾斜したワークWを吸着する際、該パッド14がシール部材16を変形させながら傾斜して前記ワークWに密着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負圧流体の吸引作用下にワークを吸着することが可能な真空吸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、シート状又はパネル状のワーク(例えば、液晶ディスプレイ、太陽電池用セル)を搬送するために真空吸着装置が用いられている。この真空吸着装置は、内部に負圧流体が供給されるボディ本体と、該ボディ本体の開口部に支持体を介して装着される多孔質体とを備え、前記ボディ本体に供給された負圧流体が、支持体の吸気通路を通じて多孔質体へと流通することにより、前記多孔質体の吸着面においてワークが吸着される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−298970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような多孔質体を用いた真空吸着装置は、シート状又はパネル状のワークを搬送するにあたり、前記ワークにおけるしわ、歪み等の発生を抑制して搬送を行うことができるという利点がある。一般的に、真空吸着装置で用いられる多孔質体は、剛性の高い支持体で吸着面が平面状となるように支持されている。
【0005】
しかしながら、このような構成では、例えば、半導体ウェハ等の平面状のワークが真空吸着装置に対して平行に載置された場合には、何ら問題なく吸着することが可能であるが、例えば、前記ワークが前記真空吸着装置の吸着面に対して傾斜して載置されていた場合には、該真空吸着装置をロボットアーム等によって傾斜させてワークを平行な状態としてから吸着作業を行う必要があり、その調整作業が非常に煩雑である。
【0006】
また、真空吸着装置を構成するボディ本体、支持体及び多孔質体に寸法誤差があった場合、前記多孔質体の吸着面に該寸法誤差に起因した凹凸が生じてしまいワークの吸着が不安定となることが懸念される。さらに、上述した吸着面の凹凸を解消するために、該吸着面の加工やボディ本体、支持体等の精度を向上させることが考えられるが、その場合には、製造コストの増加及び製造時間の長期化を招くこととなる。
【0007】
本発明は、前記の課題を考慮してなされたものであり、ワークの設置状況にかかわらず、簡素な構成で前記ワークを確実且つ安定的に吸着することが可能な真空吸着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、本発明は、負圧流体の吸引作用下にワークを吸着する真空吸着装置において、
前記負圧流体の供給されるポートを有したボディと、
多孔質体からなり、前記ボディの下部に設けられ前記ワークを吸着する吸着面を有したパッドと、
前記パッドと前記ボディとの間に設けられ、該ボディに対して前記パッドを変位自在に保持する保持体と、
を備え、
前記保持体は、前記パッドに対して剛性が低く形成されることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、ポートを有したボディとワークを吸着するパッドとの間に保持体を設け、前記保持体を介して前記パッドが前記ボディに対して変位自在に保持されている。そして、この保持体は、パッドに対して剛性が低く形成されているため、例えば、パッドの吸着面に対してワークが平行ではなく傾斜している場合でも、前記パッドを前記ワークに対応して傾斜させて確実に当接させることができるため、前記ワークの設置状況にかかわらず常に確実且つ安定的に前記ワークを吸着することができる。
【0010】
また、真空吸着装置を構成するボディ及びパッドに寸法誤差が生じ、該寸法誤差に起因した組付ばらつきが生じた場合でも、その間に設けられ剛性の低い保持体が前記寸法誤差に対応して変形することにより前記組付ばらつきが好適に吸収される。その結果、パッドの吸着面において寸法誤差に起因した凹凸が生じることが回避され、吸着面が常に略平面状に維持されワークを確実且つ安定的に吸着することができる。
【0011】
さらに、保持体が、ボディの内部の気密を保持するシール部材であるとよい。
【0012】
さらにまた、シール部材は、複数の気泡を内部に有し、該気泡がそれぞれ独立した単独気泡式のゴムスポンジから形成するとよい。
【0013】
またさらに、ボディに設けられ、負圧流体の流通する連通孔を有し、且つ、前記ワークの吸着時において前記パッドを略平面状に保持可能な保持プレートを備えるとよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下の効果が得られる。
【0015】
すなわち、ポートを有したボディとワークを吸着するパッドとの間に保持体を設け、前記保持体を介して前記パッドが前記ボディに対して変位自在に保持することにより、例えば、パッドの吸着面に対してワークが平行ではなく傾斜している場合でも、前記パッドを前記ワークに対応して傾斜させ確実に当接させることができるため、前記ワークの設置状況にかかわらず常に確実且つ安定的に前記ワークを吸着することができると共に、前記ボディ及びパッドに寸法誤差が生じ組付ばらつきが生じた場合でも、保持体が前記寸法誤差に対応して変形することにより前記組付ばらつきが好適に吸収されるため、パッドの吸着面に凹凸が生じることがなく、常に略平面状に維持されたパッドでワークを確実且つ安定的に吸着することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係る真空吸着装置の全体断面図である。
【図2】図1の真空吸着装置におけるパッドのリップ部近傍を示す拡大断面図である。
【図3】図3Aは、図1の真空吸着装置で傾斜したワークを吸着する前の状態を示す断面図であり、図3Bは、図3Aの真空吸着装置で該ワークを吸着した状態を示す断面図である。
【図4】図2のパッドにおける各部位の圧力の関係を示す特性線図である。
【図5】変形例に係るリップ部を有した真空吸着装置の拡大断面図である。
【図6】保持プレートを設ける代わりにパッドに臨む複数のリブをボディに備えた真空吸着装置の拡大断面図である。
【図7】図7Aは、パッドのアーム部をボルトでボディに固定した第1変形例に係る真空吸着装置の拡大断面図であり、図7Bは、前記アーム部の内部に弾発部材を介在させた第2変形例に係る真空吸着装置の拡大断面図である。
【図8】図8Aは、本体部の爪部にシール部材を係合させる第3変形例に係る真空吸着装置の拡大断面図であり、図8Bは、フックピンによってボディとパッドとを連結する第4変形例に係る真空吸着装置の拡大断面図である。
【図9】第5変形例に係る真空吸着装置の全体断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る真空吸着装置について好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら以下詳細に説明する。図1において、参照符号10は、本発明の実施の形態に係る真空吸着装置を示す。
【0018】
この真空吸着装置10は、図1〜図3に示されるように、図示しない真空発生装置に接続されるボディ12と、該ボディ12の下部に設けられワークWを吸着可能なパッド14と、前記ボディ12とパッド14との間に設けられるシール部材16とを含む。なお、真空吸着装置10は、図示しないロボットの搬送アーム等の先端に装着され、前記搬送アームを介してワークWの載置された位置や該ワークWが搬送される所定位置へと移動自在に設けられる。
【0019】
ボディ12は、例えば、金属製材料から円盤状に形成され、ワークW側(矢印A方向)となる一端面が開口すると共に、他端面の略中央には、継手18を介して配管20の接続される供給ポート22が形成される。なお、配管20は、図示しない真空発生装置に対して接続され、供給ポート22に対して負圧流体を供給している。
【0020】
一方、ボディ12の内部には、供給ポート22と連通し、且つ、一端面側(矢印A方向)に向かって開口した空間部24が形成される。そして、真空発生装置から供給ポート22へと供給された負圧流体が空間部24内へと導入される。
【0021】
この空間部24には、例えば、樹脂製材料又は金属製材料から一定厚さの円盤状に形成された保持プレート26が設けられ、その外縁部が前記ボディ12の凹部28に係合され固定されると共に、前記保持プレート26が後述するパッド14の上面に対して当接可能に配置される。また、保持プレート26は、空間部24を覆うようにボディ12と平行な状態で保持される。
【0022】
保持プレート26は、その厚さ方向(矢印A、B方向)に貫通した複数の連通孔32を有し、前記連通孔32は、保持プレート26の半径方向に互いに等間隔離間して平行に形成され、ボディ12の空間部24と開口部とを連通している。
【0023】
パッド14は、例えば、樹脂製材料を焼結することによって形成され、複数の空孔を内部に有した多孔質体からなり、略一定厚さでプレート状に形成された本体部38と、該本体部38の周縁部において薄く形成されたリップ部40とを含む。このパッド14は、内部に空孔が形成された構造であるため、負圧流体が通過可能に形成されると共に可撓性を有している。
【0024】
本体部38は、その下面にワークWを吸着可能な吸着面14aを有すると共に、前記ワークWを吸着していない非吸着状態において保持プレート26と略平行且つ所定間隔離間して設けられる。また、本体部38は、ワークWを負圧流体の供給作用下にパッド14で吸着する際、その上面が保持プレート26の下面に対して当接し、該保持プレート26によって前記パッド14の剛性が確保されると共に略平面状に保持される(図1参照)。
【0025】
リップ部40は、ワークWに臨む下面側(矢印A方向)が前記本体部38と同一平面となり、本体部38側となる上面側(矢印B方向)がプレス成形によって下方へと圧縮されて薄板状に形成される。すなわち、パッド14の上面は、本体部38とリップ部40とが段付状に形成されている。
【0026】
このように、パッド14の本体部38が、複数の空孔を通じて負圧流体が通過可能な通気部として機能し、一方、リップ部40は、プレス成形された際に圧縮され前記空孔が潰されて前記負圧流体の通過が遮断される封止部として機能する。そのため、パッド14では、負圧流体が本体部38のみ通過可能となると共に、前記本体部38に対してリップ部40の剛性が高くなる。また、本体部38を通過する負圧流体が、その側方のリップ部40を通じて外部に漏出することがない。
【0027】
なお、パッド14における空孔の含有率及び大きさ(直径)を、前記パッド14の内部を通過する負圧流体の流通方向(矢印B方向)に沿って徐々に少なく、且つ、小さくなるよう階層的に配置するようにしてもよい。このような構成とすることにより、パッド14の剛性が、空孔の含有率が少なく、且つ、大きさの小さい部位で確保されると共に、負圧流体の透過率が、前記含有率が多く、且つ、前記大きさの大きい部位において好適に確保することが可能となる。そのため、パッド14の剛性を確保しつつ、空孔による空隙率を向上させることができ、それに伴って、真空吸着時におけるワークWの歪みが防止される。
【0028】
シール部材16は、環状に形成されパッド14のリップ部40とボディ12の外縁部との間に設けられ、前記ボディ12における空間部24の気密を保持している。換言すれば、シール部材16は、パッド14とボディ12との間を通じた負圧流体の漏出を防止している。
【0029】
このシール部材16は、例えば、内部に複数の気泡を有し、該気泡がそれぞれ独立した単独気泡式のゴムスポンジからなり、その軸線方向(矢印A、B方向)及び該軸線方向と直交する径方向に弾性変形自在に形成される。また、シール部材16は、多孔質体からなるパッド14より低い剛性で形成される。すなわち、シール部材16は、ボディ12の空間部24内の気密を保持しつつ、前記パッド14の変形を好適に吸収可能に形成されている。
【0030】
換言すれば、シール部材16は、ボディ12に対してパッド14を軸線方向及び径方向に変位自在に懸架する保持体として機能している。
【0031】
さらに、シール部材16は、リップ部40と略同一の幅寸法で形成され、その内周面がパッド14の本体部38に近接するように配置される。このような構成とすることにより、パッド14でワークWを吸着する際、リップ部40に付与される圧力(大気圧)がシール部材16によって好適に緩和される。
【0032】
また、シール部材16は、例えば、ボディ12及び保持プレート26に寸法誤差が生じた場合でも、該寸法誤差に起因した組付ばらつきは、パッド14に対して低い剛性で形成される該シール部材16が変形することによって好適に吸収される。そのため、パッド14の吸着面14aに寸法誤差に起因した凹凸が生じることが回避され、常に略平面状に維持される。
【0033】
なお、上述したシール部材16は、ゴムスポンジから形成される場合に限定されるものではなく、軸線方向及び径方向に弾性変形可能な弾性を有し、パッド14と比較して剛性の低い材質であればよい。
【0034】
本発明の実施の形態に係る真空吸着装置10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次にその動作並びに作用効果について説明する。なお、真空吸着装置10は、例えば、パッド14の吸着面14aが下方(矢印A方向)に臨むように、図示しないロボットの搬送アーム等に予め接続された状態であり、ボディ12の供給ポート22に接続された配管20を、図示しない負圧流体供給源に接続した状態としておく。
【0035】
このような準備作業が完了した状態で、先ず、図示しないロボットの搬送アームを介して真空吸着装置10を移動させ、そのパッド14をワークWの上面に対して当接させる。そして、ボディ12の空間部24に導入された負圧流体が、保持プレート26の連通孔32からパッド14の空孔を通じてワークW側(矢印A方向)に供給される。この際、負圧流体は、シール部材16及びパッド14のリップ部40によってボディ12の空間部24から外部へと漏出することがなく、真空吸着装置10においてワークWに臨む本体部38の吸着面14aからのみ供給される。
【0036】
そして、図1に示されるように、パッド14の吸着面14aから導出された負圧流体によってワークWが前記パッド14に対して吸着される。
【0037】
最後に、ワークWがパッド14に吸着された状態で、真空吸着装置10を搬送アームによって移動させ、前記ワークWを所定位置に載置した後に負圧流体の供給を停止する。これにより、パッド14に対するワークWの吸着状態が解除され、該ワークWが所定位置に載置された状態となる。
【0038】
次に、真空吸着装置10で吸着されるワークWが該真空吸着装置10に対して所定角度傾斜して載置されている場合について説明する。この場合には、図3Aに示されるように、パッド14の吸着面14aを略水平とした状態で前記真空吸着装置10をワークWに向かって下降させ、該パッド14の一部をワークWに接触させた後、さらに下降させていくことにより、シール部材16の一部を圧縮させながら前記パッド14が前記ワークWに対応して傾斜していく。そして、図3Bに示されるように、パッド14がワークWの表面に対して完全に当接することにより吸着される。その後、パッド14は、上方に設けられた保持プレート26に当接することによって略平面状に維持される。
【0039】
最後に、ワークWを上方へと搬送することにより、シール部材16が周方向に均一に圧縮された状態となり、前記ワークWが真空吸着装置10において略水平に保持される。
【0040】
ここで、真空吸着装置10において、パッド14における本体部38の外縁部にリップ部40を設けた場合と、該リップ部40を設けずに前記本体部38の外周面をシール部材で閉塞した場合の吸引力(圧力)の違いについて、図2及び図4を参照しながら簡単に説明する。なお、図4において、実線が、パッド14にリップ部40を設けた場合の特性を示し、一方、破線が、前記リップ部40を設けずに本体部38のみでパッドを構成した場合の特性を示している。また、点aは、図2におけるシール部材16の外周面とパッド14との境界部位、点bは、図2における前記シール部材16の内周面とパッド14との境界部位、点cは、図2における前記点bに対して保持プレート26側(矢印B方向)となる位置を示す。
【0041】
この図4から諒解されるように、リップ部40を設けた場合には、シール部材16の外周面とパッド14との境界部位(点a)近傍における圧力Pa、点bの保持プレート26側となる部位(点c)の圧力Pcがそれぞれ前記リップ部40を設けていない場合と略同一となり、一方、前記リップ部40と本体部38との境界部位(点b)近傍における圧力Pbが、前記リップ部40を設けていない場合と比較して高くなる。
【0042】
そのため、本体部38の外縁部にリップ部40を設けることにより、パッド14でワークWを吸着する際、前記本体部38とシール部材16の境界部位まで負圧流体が安定して供給され、前記リップ部40を設けていないパッド14と比較して吸引力(圧力)を増加させることができる。そのため、ワークWをより一層確実且つ広範囲で安定的に吸着することが可能となる。
【0043】
詳細には、リップ部40を有するパッド14では、吸着可能なワークWの最小サイズが、本体部38の表面積(吸着面14a)と略同等となり、一方、最大サイズが、リップ部40の外周部位より若干だけ大きく設定される。
【0044】
以上のように、本実施の形態では、負圧流体の供給されるボディ12と、前記負圧流体が導出されワークWを吸着可能なパッド14との間に、弾性変形可能なシール部材16を設けると共に、前記シール部材16を前記パッド14より低い剛性で形成する。これにより、パッド14が、ボディ12に対してシール部材16を介して変位自在に設けられるため、例えば、パッド14の吸着面14aに対してワークWが傾斜して略平行でない場合でも、前記パッド14がシール部材16を介して傾動させて当接させることができる。その結果、ワークWの設置状況にかかわらず常に確実且つ安定的に該ワークWを吸着することが可能となる。換言すれば、ワークWの載置状態に合わせて真空吸着装置10の全体をロボット等によって傾斜させるという煩雑な調整作業が不要であり、該真空吸着装置10を傾斜させることなくパッド14のみを傾動させることによって様々な載置状態にあるワークWを確実に吸着することができる。
【0045】
また、真空吸着装置10を構成するボディ12及び保持プレート26に寸法誤差が生じ、該寸法誤差に起因した組付ばらつきが生じた場合でも、パッド14より剛性の低いシール部材16が前記寸法誤差に対応して変形することによって前記組付ばらつきが好適に吸収される。そのため、パッド14の吸着面14aに寸法誤差に起因した凹凸が生じることが回避され、常に略平面状に維持されてワークWが確実且つ安定的に吸着される。さらに、吸着面14aにおける凹凸の発生を回避するために、ボディ12等の寸法精度を向上させる必要がないため、真空吸着装置10の製造コストが高騰してしまうことが回避され、簡素な構成でワークWを確実且つ安定的に吸着することが可能となる。
【0046】
さらに、パッド14は、その上方に設けられた保持プレート26によってワークWの吸着時における剛性が確保され、ワークWの吸着時においてパッド14の吸着面14aを常に略平面状に維持することができる。
【0047】
さらにまた、リップ部40を、パッド14の外縁部をプレス成形することによって簡便且つ確実に形成することができるため、前記パッド14における側方の気密を保持可能な封止手段を別個に設ける場合と比較し、その部品点数を削減することができると共に、組付工数の削減を図ることも可能となる。
【0048】
また、パッド14を、例えば、ボディ12やシール部材16の下面に対して面ファスナーで固定することにより、前記パッド14を容易に着脱することができ、前記パッド14のメンテナンス作業や交換作業を行う際に好適である。また、この場合、シール部材16は、ボディ12又はパッド14のいずれか一方のみに固定されるようにしてもよいし、前記ボディ12及びパッド14に挟持されるような構成としてもよい。
【0049】
一方、上述したパッド14のリップ部40は、図1に示されるように、ボディ12及びシール部材16の外周面から突出することがないように形成されているが、例えば、図5に示される真空吸着装置50のように、パッド52を構成するリップ部54を、前記ボディ12及びシール部材16の外周面に対して外周側に所定長さだけ突出させるようにしてもよい。このような構成とすることにより、ワークWが吸着される際、リップ部54と該ワークWとの間の間隙に大気圧の空気が進入するが、前記大気圧の空気と、パッド52の本体部38側の負圧流体との間に圧力差が生じるため、ワークWの剥離が生じても吸着力が維持される。
【0050】
また、上述した真空吸着装置10において保持プレート26を設ける代わりに、図6に示される真空吸着装置60のように、空間部24に臨むボディ12の内壁面に複数のリブ62を設け、ワークWの吸着時においてパッド14の上面を保持可能な構成としてもよい。このリブ62は、パッド14側(矢印A方向)となる側面が略同一平面となるように形成されている。これにより、ワークWを吸着する際、パッド14の上面がリブ62に当接することによって該パッド14が本体部38側(矢印B方向)へ撓むことが防止され、略平面状に保持される。
【0051】
このように、リブ62を設けることによって保持プレート26の組付工数を削減することが可能となり、組付性の向上を図ることができると共に、部品点数の削減も可能となる。
【0052】
さらに、パッド14におけるリップ部40を、例えば、可撓性を有した薄膜のフィルム状とすることにより、ワークWが平面状ではなく断面湾曲形状である場合でも、前記リップ部40が前記ワークWの断面形状に追従して好適に変形し、シール部材16を弾性変形させながら該ワークWに確実に密着させることが可能となる。その結果、例えば、ワークWがワーク保持用治具や異物等によって平面状ではなく撓んで載置されている場合にも、前記ワークWに対してパッド14を確実に密着させ吸着することが可能となる。
【0053】
なお、上述した真空吸着装置10のように、パッド14がボディ12又はシール部材16に対して面ファスナー(図示せず)で着脱自在に設けられる場合に限定されず、例えば、図7Aに示される第1変形例に係る真空吸着装置70のように、パッド14のリップ部40をシール部材16の外周側へと延在させ、ボディ12の外周面と略平行となるよう上方(矢印B方向)に向かって折曲させたアーム部74を備え、前記アーム部74の端部をボルト76でボディ12の側面に固定するようにしてもよい。このアーム部74は、リップ部40と同様に本体部38をプレス成形することによって薄板状に形成され、その端部は、ボルト76の挿通された孔部78を介してボディ12の軸線方向(矢印A、B方向)に変位自在に支持される。この孔部78は、軸線方向に沿った長円状に形成される。
【0054】
このような構成とすることにより、ボルト76を着脱するという簡単な作業で、パッド14を確実且つ容易に交換できる。また、パッド14に対して圧力が付与されシール部材16を変形させながら変位する場合にも、アーム部74がボルト76に対して所定方向に移動することによってパッド14を好適に前記圧力による変位に対応させることができる。その結果、パッド14の吸着面14aが変形してしまうことが回避され、常に略平面状に維持されてワークWを確実且つ安定的に吸着することが可能となる。
【0055】
また、図7Bに示される第2変形例に係る真空吸着装置80では、パッド14の外側に、シート状のカバーシート82を設け、前記カバーシート82の外縁部には、ボディ12の外周面と略平行となるよう上方(矢印B方向)に向かって折曲したアーム部84が形成される。カバーシート82は、パッド14と同様に多孔質体からなり、そのアーム部84は、ボルト76によってボディ12の側面に固定されると共に、前記アーム部84と前記ボディ12との間には、該アーム部84を半径外方向に付勢する弾発部材86が設けられる。アーム部84及び弾発部材86は、ボルト76で固定された部位から下方に向かって徐々にボディ12から離間する方向に山状に膨出して形成される。
【0056】
このような構成とすることにより、パッド14及びカバーシート82には、シール部材16による軸線方向(矢印A方向)に沿った反力が付与されると共に、例えば、板ばね等からなる弾発部材86による半径外方向への反力が付与されているため、前記軸線方向及び半径方向に変位自在に保持された状態となり、しかも、ボディ12に対して支持された状態となる。その結果、カバーシート82及びパッド14を介してワークWを吸着する際、前記ワークWの形状又は載置状態等に応じて、前記カバーシート82及びパッド14を自在に変位させることが可能となり、前記ワークWを常に確実且つ安定的に吸着することが可能となる。また、上述した第1変形例に係る真空吸着装置70と同様に、ボルト76を着脱するという簡単な作業で、パッド14及びカバーシート82を確実且つ容易に交換することが可能となる。
【0057】
次に、第3変形例に係る真空吸着装置90では、図8Aに示されるように、シール部材16に臨むボディ12の外周面に半径外方向に向かって突出した爪部92を備え、前記シール部材16の内周面が前記爪部92に対して係合されることによって該シール部材16を固定している。このように、ボディ12に爪部92を設けることにより、該ボディ12の外周面に対してシール部材16を簡便且つ確実に固定することができる。なお、ワークWの吸着時には、シール部材16がパッド14とボディ12との間に挟持されるため爪部92による係合は不要であり、非吸着時において前記爪部92と前記シール部材16との係合が必要とされる。この場合、パッド14は、そのリップ部40がシール部材16の下面に対して接着等で固定される。
【0058】
次に、第4変形例に係る真空吸着装置100では、図8Bに示されるように、シール部材102に挿入孔104が形成され、ボディ12に螺合されたフックピン106の先端部が挿入されると共に、前記シール部材102とボディ12の凹部28との間に、弾性材料からなる係止プレート108が設けられ、前記フックピン106の環状溝110が前記係止プレート108の係合孔112に係合される。この係合孔112は、シール部材102の挿入孔104に対して小さな直径で形成されると共に同軸上に形成される。なお、フックピン106、挿入孔104及び係合孔112は、真空吸着装置100の軸線を中心として周方向に沿って等間隔離間するように複数設けられると共に、シール部材102の下面が、パッド14のリップ部40に対して接着等で固定され、上面には係止プレート108が前記接着等によって固定される。
【0059】
このような構成とすることにより、ボディ12とパッド14とを同軸上に組み付けることにより、該ボディ12に設けられたフックピン106の先端部がそれぞれシール部材102の挿入孔104に挿入され、且つ、係止プレート108の係合孔112に係合されるため、前記パッド14をボディ12の下部に対して確実且つ簡便に組み付けることが可能となる。
【0060】
次に、図9に示される第5変形例に係る真空吸着装置120では、ゴム等の弾性材料から蛇腹状に形成されるボディ122と、前記ボディ122の下部に装着されるアダプタ124と、前記アダプタ124の下部に装着されるパッド126とを含み、前記アダプタ124は、外周面に半径内方向に窪んだ断面三角形状の窪み部128を有し、前記窪み部128にボディ122の一部が挿入されることによって固定される。また、パッド126のリップ部40には、環状のシート部130が接着、溶着等によって接続され、前記パッド126の外縁部を覆うように設けられる。シート部130は、例えば、熱可塑性のエラストマから薄膜状に形成される。
【0061】
そして、この真空吸着装置120を組み付ける場合には、シート部130が上方となるようにパッド126を載置した状態で、アダプタ124のスカート部132を前記シート部130と本体部38との間に挿入することにより、前記アダプタ124のリブが前記パッド126の上面に当接した状態となる。次に、アダプタ124の上方からボディ122を接近させ、該アダプタ124の外周を覆うように前記ボディ122を装着する。これにより、ボディ122の一部が、アダプタ124の窪み部128に挿入されて確実に固定されると共に、前記ボディ122のスカート部134が、パッド126のシート部130を覆い、アダプタ124のスカート部132との間に前記シート部130を挟持する。
【0062】
このような構成とすることにより、真空吸着装置120において、ボルト76等を用いることなくパッド126を簡便且つ確実にボディ122に対して装着することができる。
【0063】
なお、本発明に係る真空吸着装置は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【符号の説明】
【0064】
10、50、60、70、80、90、100、120…真空吸着装置
12、122…ボディ 14、52、126…パッド
16、102…シール部材 22…供給ポート
24…空間部 26…保持プレート
28…凹部 32…連通孔
38…本体部 40、54、72…リップ部
62…リブ 74、84…アーム部
76…ボルト 82…カバーシート
86…弾発部材 92…爪部
104…挿入孔 106…フックピン
108…係止プレート 110…環状溝
112…係合孔 124…アダプタ
128…窪み部 130…シート部
132、134…スカート部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負圧流体の吸引作用下にワークを吸着する真空吸着装置において、
前記負圧流体の供給されるポートを有したボディと、
多孔質体からなり、前記ボディの下部に設けられ前記ワークを吸着する吸着面を有したパッドと、
前記パッドと前記ボディとの間に設けられ、該ボディに対して前記パッドを変位自在に保持する保持体と、
を備え、
前記保持体は、前記パッドに対して剛性が低く形成されることを特徴とする真空吸着装置。
【請求項2】
請求項1記載の真空吸着装置において、
前記保持体は、前記ボディの内部の気密を保持するシール部材であることを特徴とする真空吸着装置。
【請求項3】
請求項2記載の真空吸着装置において、
前記シール部材は、複数の気泡を内部に有し、該気泡がそれぞれ独立した単独気泡式のゴムスポンジから形成されることを特徴とする真空吸着装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の真空吸着装置において、
前記ボディに設けられ、前記負圧流体の流通する連通孔を有し、且つ、前記ワークの吸着時において前記パッドを略平面状に保持可能な保持プレートを備えることを特徴とする真空吸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−110982(P2012−110982A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259906(P2010−259906)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000102511)SMC株式会社 (344)
【Fターム(参考)】