説明

研磨ヘッド、研磨装置及びワークの研磨方法

【課題】ワックスレス方式の研磨ヘッドにおいて、バッキングフィルムのライフ初期の外周部の反り上がりを抑制し、ワークの研磨前の形状に依らずにワークを高平坦に研磨可能な研磨ヘッド、研磨装置、及びワークの研磨方法を提供する。
【解決手段】ワークの表面を定盤上に貼り付けた研磨布に摺接させて研磨する際に前記ワークを保持するための研磨ヘッドであって、少なくとも、前記ワークの裏面を保持するための、セラミックからなり、かつ、可撓性を有するワーク保持盤と、該ワーク保持盤の前記ワークを保持する側と反対の面上に形成された密閉空間と、該密閉空間内の圧力を制御する圧力制御手段とを有し、前記圧力制御手段で前記密閉空間内の圧力を制御することによって、前記可撓性を有するワーク保持盤の形状を中凸形状又は中凹形状に調整できるものであることを特徴とする研磨ヘッド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨ヘッドとその研磨ヘッドを具備した研磨装置、及びワークの研磨方法に係り、特にワックスレスマウント方式によるワークの研磨において、高平坦なワークを得るのに好適な研磨ヘッド、研磨装置、及びワークの研磨方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体デバイスの高集積化に伴い、それに用いられている半導体ウェーハの平面度の要求は益々厳しいものとなっている。また、半導体チップの収率を上げるためにウェーハのエッジ近傍の領域までの平坦性が要求されている。
半導体ウェーハの形状は最終の鏡面研磨加工によって決定されている。特に直径300mmのシリコンウェーハでは厳しい平坦度の仕様を満足するために両面研磨での一次研磨を行い、その後に表面のキズや面粗さの改善のために片面での表面二次及び仕上げ研磨を行っている。
【0003】
片面の表面二次及び仕上げ研磨では両面一次研磨で作られた平坦度を維持あるいは改善するとともに表面側にキズ等の欠陥の無い完全鏡面に仕上げることが要求されている。
一般的な片面研磨装置は、例えば図10に示すように、研磨布102が貼り付けられた定盤103と、研磨剤供給機構104と、研磨ヘッド101等から構成されている。このような研磨装置110では、研磨ヘッド101でワークWを保持し、研磨剤供給機構104から研磨布102上に研磨剤105を供給するとともに、定盤103と研磨ヘッド101をそれぞれ回転させてワークWの表面を研磨布102に摺接させることにより研磨を行う。
【0004】
ワークを研磨ヘッドに保持する方法としては、平坦なワーク保持盤にワックス等の接着剤を介してワークを貼り付ける方法等がある。また、図11に示すように、バッキングフィルム113aと呼ばれる弾性膜の上にワークの飛び出し防止用のテンプレート113bが接着されて市販されているテンプレートアセンブリ113をワーク保持盤112に貼ってワークWを保持するワックスレス方式の研磨ヘッド121等がある。
【0005】
ワックスレス方式の別の研磨ヘッドとして、図12に示すように、市販のテンプレートの代わりにワーク保持盤112の表面にバッキングフィルム113aを貼り、ワーク保持盤側面にワーク飛び出し防止用の円環状のガイドリング113bを設けた研磨ヘッド131等も用いられている。
【0006】
しかしながら、図11、図12に示すようなワックスレス方式の研磨ヘッド121、131を用いてワークを研磨した場合、バッキングフィルム113aが軟質なフィルムのために外周部における保形性が低下する現象により、外周部の研磨量が低下し外周部が反り上がることにより、ワーク形状が中凹形状に仕上がり、ワークの平坦度を劣化させる問題があった(特許文献1参照)。この問題に対して特許文献1のように、ワークの裏面外周部にスペーサーリングを挿入してワーク外周部の圧力が高くなるようにして、ワーク外周部の反り上がりを抑制する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−274012号公報
【特許文献2】特開平11―216661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、外周部の反り上がりは、バッキングフィルム113aのライフ初期のみで発生する現象で、バッキングフィルムのライフの進行とともに、研磨後のワークは外周ダレ形状へと変化していく。そのため、そのライフに合わせて厚さの異なるスペーサーリングに交換したり、スペーサーリング自体を取り外したりする必要があり、作業性が悪く、さらにスペーサーリングの厚さ調整も難しいので、安定した加工精度が得られない問題も生じていた。
【0009】
さらに、ワックスレス方式の研磨ヘッドの場合、ワークの裏面の凹凸を軟質なバッキングフィルム113aで吸収し、ワーク表面での研磨圧力を均一に保ついわゆる均一研磨を行うため、研磨前のワーク形状が中凸形状又は中凹形状の場合には、ワークの平坦度を改善することができない問題もある。
【0010】
これらの問題に対して特許文献2のように、例えば研磨前のワークが中凸形状の場合には、バッキングフィルムを貼る前にワーク保持盤の中心部にスペーサーを挿入し、ワーク保持面を中凸形状にし、ワーク中心部の研磨量が多くなるように調整してワークを平坦に研磨する方法が提案されている。
【0011】
しかしながら、この方法ではワークの形状に合わせてワーク保持盤とバッキングフィルムの間に挿入するスペーサーを交換しなければならず、作業性が著しく悪く、さらにスペーサーの厚さ調整も難しく、安定してワークを平坦に研磨することが困難であった。
【0012】
本発明はこのような問題点に鑑みなされたもので、ワックスレス方式の研磨ヘッドにおいて、バッキングフィルムのライフ初期の外周部の反り上がりを抑制し、ワークの研磨前の形状に依らずにワークを高平坦に研磨可能な研磨ヘッド、研磨装置、及びワークの研磨方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明によれば、ワークの表面を定盤上に貼り付けた研磨布に摺接させて研磨する際に前記ワークを保持するための研磨ヘッドであって、少なくとも、前記ワークの裏面を保持するための、セラミックからなり、かつ、可撓性を有するワーク保持盤と、該ワーク保持盤の前記ワークを保持する側と反対の面上に形成された密閉空間と、該密閉空間内の圧力を制御する圧力制御手段とを有し、前記圧力制御手段で前記密閉空間内の圧力を制御することによって、前記可撓性を有するワーク保持盤の形状を中凸形状又は中凹形状に調整できるものであることを特徴とする研磨ヘッドが提供される。
【0014】
このような研磨ヘッドを用いることによって、ワークを可撓性を有するセラミックで保持することで、研磨するワークの形状や、バッキングフィルムの使用状況に応じてワーク保持盤の形状を中凸形状又は中凹形状に調整して、バッキングフィルムのライフ初期の外周部の反り上がりを抑制し、ワークの研磨前の形状に依らずにワークを高平坦に研磨できる。
【0015】
このとき、前記ワーク保持盤は、該ワーク保持盤の外径と、中凸形状又は中凹形状に調整できる最大変化量との比(最大変化量/外径)が0.028×10−3〜0.222×10−3であるような可撓性を有するものであることが好ましい。
このようなものであれば、バッキングフィルムのライフ初期の外周部の反り上がりをより確実に抑制し、ワークの研磨前の形状に依らずにワークをより確実に高平坦に研磨できる。
【0016】
またこのとき、前記密閉空間の内径が前記ワークの外径より大きいものであることが好ましい。
このようなものであれば、ワーク全体に亘って高平坦に研磨でき、特にワーク外周部の反り上がり形状をより確実に抑制できる。
【0017】
またこのとき、前記圧力制御手段は、前記密閉空間内の圧力を加圧又は減圧のいずれか一方、或いはその両方に制御可能なものとすることができる。
圧力制御手段が密閉空間内の圧力を加圧に制御可能なものであれば、ワーク保持盤を予め中凹形状に形成し、密閉空間を加圧制御すればワーク保持盤を中凹形状から中凸形状に調整できるので、ワークの研磨時にどちらの形状にもすることができる。また、圧力制御手段が密閉空間内の圧力を減圧に制御可能なものであれば、ワーク保持盤を予め中凸形状に形成し、密閉空間を減圧制御すればワーク保持盤を中凸形状から中凹形状に調整できる。さらに、圧力制御手段がその両方に制御可能なものであれば、平坦に形成したワーク保持盤を用い、密閉空間を減圧又は加圧に制御することにより、ワーク保持盤を中凹形状にも中凸形状にも任意に調整可能なものとなる。
【0018】
このとき、前記ワーク保持盤の材質がアルミナセラミック又は炭化珪素セラミックであることが好ましい。
このような熱膨張係数の小さい材質のワーク保持盤を用いることにより、研磨加工時のワーク保持盤の熱変形を抑えて、ワークを高平坦に研磨できる。
【0019】
また、本発明によれば、ワークの表面を研磨する際に使用する研磨装置であって、少なくとも、定盤上に貼り付けられた研磨布と、該研磨布上に研磨剤を供給するための研磨剤供給機構と、前記ワークを保持するための研磨ヘッドとして、本発明の研磨ヘッドを具備するものであることを特徴とする研磨装置が提供される。
このような研磨装置であれば、研磨するワークの形状や、バッキングフィルムの使用状況に応じてワーク保持盤の形状を中凸形状又は中凹形状に調整することによって、バッキングフィルムのライフ初期の外周部の反り上がり、及びライフ後期の外周部のダレのいずれをも抑制し、ワークの研磨前の形状に依らずにワークを高平坦に研磨できるものとなる。
【0020】
また、本発明によれば、ワークの表面を定盤上に貼り付けた研磨布に摺接させて研磨するワークの研磨方法であって、本発明の研磨ヘッドによって前記ワークを保持し、前記研磨ヘッドの密閉空間内の圧力を制御することによって、可撓性を有する前記ワーク保持盤の形状を調整した後、前記ワークを研磨することを特徴とするワークの研磨方法が提供される。
このような方法であれば、研磨するワークの形状や、バッキングフィルムの使用状況に応じてワーク保持盤の形状を中凸形状又は中凹形状に調整することによって、バッキングフィルムのライフ初期の外周部の反り上がり、及びライフ後期の外周部のダレのいずれをも抑制し、ワークの研磨前の形状に依らずにワークを高平坦に研磨できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の研磨ヘッドは、セラミックからなり、かつ、可撓性を有するワーク保持盤と、ワーク保持盤のワークを保持する側と反対の面上に形成された密閉空間とを有し、密閉空間内の圧力を制御することによって、可撓性を有するワーク保持盤の形状を中凸形状又は中凹形状に調整できるものであるので、バッキングフィルムのライフ初期には、ワーク保持盤の形状を中凹形状に調整することでワーク外周部の反り上がり形状を抑制することができる。また、バッキングフィルムのライフ後期には逆の調整をすることでバッキングフィルムの使用状態に関わらずワークを高平坦に研磨できる。さらにワークの研磨前の形状に応じてワーク保持盤の中凹凸形状を調整することでワークを高平坦に研磨できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の研磨ヘッド及び研磨装置の一例を示す概略図である。
【図2】管状部品とワーク保持盤とを接着して密閉空間を形成する本発明の研磨ヘッドの一例を示す概略図である。
【図3】ワーク保持盤が密閉空間の外周を形成する一体型のものである本発明の研磨ヘッドの一例である。
【図4】加圧制御装置及び減圧制御装置を有する本発明の研磨ヘッドの一例である。
【図5】実施例1においてワーク保持盤の平面度を測定した結果を示す図である。
【図6】実施例1及び比較例1の結果を示す図である。
【図7】実施例2及び比較例2の結果を示す図である。
【図8】実施例3及び比較例3の結果を示す図である。
【図9】実施例4及び比較例4の結果を示す図である。
【図10】従来の研磨ヘッド及び研磨装置の一例を示す概略図である。
【図11】バッキングフィルムを用いた従来の研磨ヘッドの一例を示す概略図である。
【図12】バッキングフィルムを用いた従来の研磨ヘッドの別の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図11や図12で示すような、バッキングフィルムを用いた従来のワックスレス方式の研磨ヘッドを用いてワークを研磨した場合、バッキングフィルムが軟質なフィルムのために外周部における保形性が低下する現象により、外周部の研磨量が低下し外周部が反り上がることにより、ワーク形状が中凹形状に仕上がり、ワークの平坦度を劣化させてしまう問題が発生する。
【0024】
そこで、本発明者はこのような問題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、ワーク保持盤を変形可能な薄いセラミック製保持盤とし、そのワーク保持盤のワークを保持する側と反対の面上に密閉空間を配し、該密閉空間の圧力を制御してワーク保持盤を中凹形状に変形させることで、ワーク外周部の研磨圧力を調整する手段を見出した。さらに、バッキングパッドのライフ初期にはワーク保持盤の中凹形状が大きくなるように密閉空間の圧力を制御し、バッキングパッドのライフとともにワーク保持盤の中凹形状が小さくなるように該密閉空間の圧力を調整することで、従来技術のような煩雑なスペーサーリングの交換を必要とせず、バッキングパッドのライフに依らずにワークを平坦に研磨できることを見出し、本発明を完成させた。
【0025】
以下、添付の図面を参照しつつ、本発明の研磨ヘッド、研磨装置及びワークの研磨方法について具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図1は本発明の研磨ヘッドの一例と該研磨ヘッドを搭載した研磨装置の一例を示した概略図である。
まず、本発明の研磨ヘッドについて説明する。図1に示すように、研磨ヘッド1は主に、研磨ヘッド本体11と、ワークWの裏面を保持するための、セラミックからなり、かつ、可撓性を有するワーク保持盤12と、ワーク保持盤のワークWを保持する側と反対の面上に形成された密閉空間14と、密閉空間内の圧力を制御する圧力制御手段15とを有している。
【0026】
ワークWはワーク保持盤12上に貼られたバッキングフィルム13a上に保持されている。また、研磨中にワークWが研磨ヘッド1から飛び出さないように、ワークWの外側にテンプレート13bが設けられている。ここで、バッキングフィルム13aの上にテンプレート13bを貼ってテンプレートアセンブリ13として市販されているものを用いることができる。或いは、テンプレート13aの代わりに、ワーク保持盤12上に貼られたバッキングフィルム13aの外側にワーク飛び出し防止用の円環状のガイドリングを設けても良い。
【0027】
ワーク保持盤12のワークWを保持する側と反対の面上に形成された密閉空間14は圧力制御装置15に連結されており、該圧力制御装置15によって、密閉空間14内の圧力を制御できるようになっている。
また、上述のようにワーク保持盤12はセラミックからなり、かつ、可撓性を有する。ここで、ワーク保持盤12の可撓性はワーク保持盤12の厚さを薄くすることによって得ることができる。ここで、ワーク保持盤12の厚さは、特に限定されず、使用するセラミック材質や、ワーク保持盤12の外径、及び密閉空間の内径などに応じて適宜調整される。すなわち、ワークを平坦に研磨するために必要な中凸形状或いは中凹形状に変形できる厚さであればよい。
【0028】
ここで、本発明におけるワーク保持盤の可撓性とは、ワーク保持盤が中凸形状又は中凹形状へ変化可能であること意味し、例えば以下の範囲で変化可能であることが好ましい。
すなわち、ワーク保持盤の外径と、中凸形状又は中凹形状に調整できる最大変化量との比(最大変化量/外径)が0.028×10−3〜0.222×10−3であることが好ましい。これは、例えば外径が360mmの際に最大変化量が10μm〜80μmである場合に相当する。
なお、ワーク保持盤の中凸形状とは、ワーク保持盤を側面方向から見たとき、ワーク保持盤の中央部を中心に下方に突き出た形状を意味し、中凹形状はワーク保持盤の中央部を中心に上方に突き出た形状を意味する。
【0029】
このように、本発明の研磨ヘッドは、セラミックからなるものなのでワークを高精度に研磨するのに必要な剛性を保ちつつ、厚さを調整して可撓性を有するように構成され、すなわち、ワーク保持盤12はその形状を変化させることができる。そして、上記した圧力制御装置15によって、密閉空間14内の圧力を大気圧よりも高くすることによって、ワーク保持盤12の形状を中凸形状に調整でき、また、密閉空間14内の圧力を大気圧よりも低くすることによって、ワーク保持盤12の形状を中凹形状に調整できる構造になっている。
【0030】
また、ワークとして半導体基板を用いる場合、研磨剤としてアルカリ或いは酸性溶液が使用されるため、ワーク保持盤を金属材料で形成すると金属イオンの溶出によって金属汚染が問題となるが、セラミックからなるワーク保持盤を用いることによって、このような金属汚染を回避することができる。さらに、研磨後のワークは非常に高い平坦性が要求されるが、そのために必要なワーク保持盤自体の加工精度を高いものとすることができる。
さらに、ワーク保持盤材料12の材質としては、研磨時のワーク保持盤12の熱変形を抑える目的から熱膨張係数の小さい材料が好ましいので、アルミナセラミック又は炭化珪素セラミックが好ましい。表1は、アルミナ、炭化珪素のセラミック材料とステンレス鋼(SUS304)のヤング率、熱膨張係数を示したものである。アルミナや炭化珪素セラミックはステンレス鋼に比べて極めて小さい熱膨張係数となっている。
【0031】
このような本発明の研磨ヘッドであれば、研磨するワークの形状や、バッキングフィルムの使用状況に応じてワーク保持盤の形状を中凸形状又は中凹形状に調整してワークを高平坦に研磨できるものとなる。
すなわち、密閉空間の圧力を減圧して大気圧よりも低くすることによってワーク保持盤の形状を中凹形状にし、ワーク外周部の研磨量を多くなるように調整することにより、バッキングフィルムのライフ初期に見られるワーク外周部の反り上がり形状を抑制でき、高平坦なワークの研磨加工が実現できる。また、研磨前のワーク形状が中凸形状の場合には、すなわち、ワークが外周ダレ形状の場合には、密閉空間の圧力を加圧して大気圧よりも高くすることによって、ワーク保持盤の形状を中凸形状にし、ワーク中心部の研磨量を多くなるように調整することにより、ワークの形状を平坦に修正することができる。もちろん、研磨するワークが平坦であり、バッキングフィルムのライフからも平坦な研磨ができるときは、ワーク保持盤も平坦に調整して研磨することができる。
【0032】
ここで、研磨ヘッドの密閉空間を例えば以下のようにして構成することができる。
図2に示す研磨ヘッド21のように、剛性の高い管状部品16の下面側にワーク保持盤12を接着し、該管状部品16の上面側に円板状の裏板17を配して密閉空間14を形成することができる。或いは、上記管状部品16とワーク保持盤12を接着するのでなく、図3に示す研磨ヘッド31のように、ワーク保持盤が密閉空間の外周を形成する一体型のものを用いても良い。
【0033】
このとき、密閉空間14の内径がワークWの外径よりも大きいものであれば、ワーク全体に亘って高平坦な研磨が可能となり、特にワーク外周部の反り上がり形状をより確実に抑制できる。
また、ワーク保持盤のワークを保持する側と反対の面上に複数の密閉空間を設け、更に夫々に独立した圧力制御装置を連結して、夫々の密閉空間内の圧力を制御して、より高精度にワーク保持盤の形状を調整できるようにしても良い。
【0034】
また、圧力制御手段15は、密閉空間14内の圧力を加圧又は減圧のいずれか一方のみに制御可能なものでも良い。圧力制御手段15が密閉空間14内の圧力を加圧のみ制御可能な場合には、ワーク保持盤12を予め中凹形状に形成しておくことができる。この場合、密閉空間を加圧制御すればワーク保持盤を中凹形状から中凸形状に調整できるので、ワークの研磨時にどちらの形状にもすることができる。
一方、圧力制御手段15が密閉空間14内の圧力を減圧のみに制御可能な場合、ワーク保持盤12を予め中凸形状に形成しておくことができる。この場合、密閉空間を減圧制御すればワーク保持盤を中凸形状から中凹形状に調整できるので、同様に、ワークの研磨時にどちらの形状にもすることができる。
【0035】
さらに、圧力制御手段14がその両方に制御可能な、加圧制御装置及び減圧制御装置を有するものとすることもできる。図4に示す研磨ヘッド41では、密閉空間14が加圧制御装置42及び減圧制御装置43に連結されており、バルブ開閉により密閉空間14内を加圧、減圧のいずれにも制御できる構造となっている。
このようなものであれば、ワーク保持盤を平坦に形成し、密閉空間を減圧又は加圧に制御することにより、ワーク保持盤をその初期形状によらず中凹形状にも中凸形状にも任意に調整可能となる。
【0036】
次に本発明の研磨装置及びワークの研磨方法について説明する。
図1に示すように、研磨装置10は、定盤3と、定盤3上に貼り付けられた研磨布2と、該研磨布2上に研磨剤5を供給するための研磨剤供給機構4と、ワークWを保持するための研磨ヘッドとして、上記した本発明の研磨ヘッドを有している。
このような研磨装置を用い、本発明のワークの研磨方法では、まず、本発明の研磨ヘッドによってワークWを保持する。次に、研磨ヘッドの密閉空間14内の圧力を制御することによって、可撓性を有するワーク保持盤12の形状を調整する。この際、上記研磨ヘッドの説明で記載したように、研磨するワークの形状や、バッキングフィルムの使用状況に応じてワーク保持盤の形状を中凸形状又は中凹形状に調整する。その後、ワークの表面を定盤3上に貼り付けた研磨布2に摺接させて研磨する。
【0037】
このような本発明の研磨装置及びワークの研磨方法であれば、バッキングフィルムのライフに関わらず、また、ワークの研磨前の形状に依らずにワークを高平坦に研磨できる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
まず、図4に示すような研磨ヘッドを以下のように作製し、ワーク保持盤の平面度を測定した。
外径360mm、厚さ6mmの平坦に加工したアルミナセラミック製のワーク保持盤12を外径360mm、内径320mm、厚さ20mmのセラミック製管状部品16の下面に市販のエポキシ樹脂接着剤で接着した。更に管状部品16の上面に、ステンレス鋼(SUS304)でできた裏板をボルトで締結し、密閉空間14を形成した。また、加圧制御装置42と減圧制御装置43をバルブを介して密閉空間に連結した。
【0040】
このように作製した研磨ヘッドを上下反転して置き、密閉空間内14の圧力を、加圧制御装置42及び減圧制御装置43を用いて大気圧に対してマイナス50〜プラス50kPaの範囲で変化させてワーク保持盤12の平面度を測定した。ワーク保持盤の平面度測定には、黒田精工(株)のNANOMETRO 1000FRを用いた。
【0041】
その結果を図5に示す。図5の横軸は大気圧に対しての圧力変化でプラスは加圧、マイナスは減圧を示す。また、図5の縦軸はその圧力変化でのワーク保持盤の平面度を示し、プラスは中凸形状、マイナスは中凹形状を表す。図5に示すように、ワーク保持盤は密閉空間内の圧力変化にほぼ線形に変形し、ワーク保持盤の形状を中凹形状にも中凸形状にも調整可能であることが分かる。
【0042】
次に上記のようにして作製した研磨ヘッドのワーク保持盤の表面に、外径355mm、内径302mm、厚さ575μmのテンプレートをバッキングフィルム表面に貼った市販のテンプレートアセンブリを貼り、図1に示すような研磨装置にこの研磨ヘッドを装着し、ワークWとして直径300mm、厚さ775μmのシリコン単結晶ウェーハを研磨した。なお、使用したシリコン単結晶ウェーハは、その両面に予め一次研磨を施し、エッジ部にも研磨を施したものである。定盤には直径800mmであるものを使用し、研磨布には通常用いられるものを使用した。また、バッキングフィルムはライフ初期のものを用いた。
【0043】
研磨の際には、研磨剤にはコロイダルシリカを含有するアルカリ溶液を使用し、研磨ヘッドと定盤はそれぞれ30rpmで回転させた。ワークWの研磨荷重(押圧力)は、不図示の加圧手段により、ウェーハの表面の面圧換算で20kPaとなるようにした。また、ワーク保持盤の形状を中凹形状27μmとなるように、減圧装置を制御して密閉空間内の圧力を大気圧に対して減圧10kPaにしてウェーハを研磨した。なお、研磨時間はウェーハの平均研磨代が400nmになるように調整した。
【0044】
このようにして研磨したウェーハ面内の研磨代のばらつきを評価した。研磨代については、平坦度測定器で研磨前後のウェーハの厚さを平坦度保証エリアとして最外周部2mm幅を除外した領域について測定し、ウェーハの直径方向のクロスセクションでの研磨前後の厚さの差分をとることで算出した。平坦度測定器としては、KLA−Tencor社製の平坦度測定器(WaferSight)を用いた。
【0045】
ウェーハの研磨代分布の結果を図6に示す。図6に示すように、実施例1では、外周部と中心部の研磨代は同等になっており、ウェーハの直径方向での研磨代の最大値と最小値の差(レンジ)は32.5nmとなり、研磨代ばらつきが大幅に抑えられていることが分かる。これに対し後述する比較例1の場合、外周部の研磨代が中心部に対して少ない研磨代分布となり、ウェーハの直径方向での研磨代の最大値と最小値の差(レンジ)は148nmと実施例1と比べ悪化していた。
このように本発明によれば、バッキングフィルムのライフ初期の外周部の反り上がりを抑制することができることが確認できた。
【0046】
(実施例2)
研磨前の研磨面側の形状が中凸形状のシリコン単結晶ウェーハを用い、ワーク保持盤の形状が中凸形状10μmになるように密閉空間内の圧力を大気圧に対して加圧5kPaに設定した以外は、実施例1における研磨条件と同じにしてシリコン単結晶ウェーハの研磨を行い、ウェーハの形状変化について評価した。なお、ここで言うシリコン単結晶ウェーハの中凸形状は、外周ダレ形状に相当する。ここで、以下の図7−9で示す研磨前のウェーハの形状は代表形状であり、ほぼ同じ形状のウェーハを用いた。
【0047】
ウェーハの形状変化の結果を図7に示す。図7はウェーハの研磨面側を上に向けたときのウェーハ研磨面の形状を示した図である。図7に示すように、ワーク保持盤を中凸形状にした効果により、ウェーハの中心部分の研磨代が増加したため、ウェーハの直径方向の厚さの最大値と最小値の差(レンジ)は、134.3nmから63.5nmと大幅に改善され、ウェーハを平坦な形状に修正できた。
一方、後述する比較例2の場合、ウェーハの直径方向の厚さの最大値と最小値の差(レンジ)は、134.3nmから91.6nmへ改善が見られたが、これはバッキングフィルムのライフ初期に見られる外周部の反り上がり効果によるものであり、研磨前のワークの形状に対して、中心部の中凸形状はあまり変化しておらず、上記のレンジの改善も実施例2と比べ小さくなっていることが分かる。
【0048】
なお、実施例2における密閉空間内の圧力調整条件を、ワーク保持盤の形状を中凹形状27μmとなるように、密閉空間内の圧力を大気圧に対して減圧10kPaに設定した場合には、ほぼ均一な研磨代分布となり、そのため研磨前のウェーハの形状をほぼ維持しており、ウェーハの直径方向の厚さの最大値と最小値の差(レンジ)は、134.3nmから122.8nmとほぼ同等のレベルとなった。
【0049】
このように、本発明によれば、ウェーハの研磨前の形状に合わせてワーク保持盤の凹凸形状を調整することでウェーハを高平坦に研磨できることが確認できた。
【0050】
(実施例3)
研磨前の形状がやや中凹形状のシリコン単結晶ウェーハを用い、ワーク保持盤の形状が中凹形状37μmになるように密閉空間内の圧力を大気圧に対して減圧15kPaの設定にした以外は、実施例1における研磨条件と同じにしてシリコン単結晶ウェーハの研磨を行い、ウェーハの形状変化について評価した。
【0051】
ウェーハの形状変化を図8に示す。図8に示すように、ワーク保持盤を中凹形状にした効果により、ウェーハの外周部分の研磨代が増加したため、ウェーハの直径方向の厚さの最大値と最小値の差(レンジ)は、67.7nmから42.2nmと改善され、ウェーハをさらに平坦な形状に修正できた。
一方、後述する比較例3の場合、研磨前のウェーハの形状に対して、中心部の中凹形状はあまり変化しおらず、バッキングフィルムのライフ初期に見られる外周部の反り上がり効果により、ウェーハの直径方向の厚さの最大値と最小値の差(レンジ)は、67.7nmから191.6nmと大幅に悪化した。
【0052】
なお、実施例3における密閉空間内の圧力調整条件を、ワーク保持盤の形状を中凹形状27μmとなるように、密閉空間内の圧力を大気圧に対して減圧10kPaに設定した場合には、ほぼ均一な研磨代分布となり、そのため研磨前のウェーハの形状をほぼ維持しており、ウェーハの直径方向の厚さの最大値と最小値の差(レンジ)は、67.7nmから77.2nmとほぼ同等のレベルとなった。
【0053】
(実施例4)
研磨前の形状が中凸形状のシリコン単結晶ウェーハを用い、ワーク保持盤の形状が中凸形状80μmになるように密閉空間内の圧力を大気圧に対して加圧31.5kPaの設定にした以外は、実施例1における研磨条件と同じにしてシリコン単結晶ウェーハの研磨を行い、ウェーハの形状変化について評価した。
【0054】
ウェーハの形状変化を図9に示す。図9に示すように、ワーク保持盤を中凸形状にした効果により、ワークの中心部分の研磨代が増加したため、ウェーハの直径方向の厚さの最大値と最小値の差(レンジ)は、329.9nmから66.6nmと大幅に改善され、ウェーハを平坦な形状に修正できた。
一方、後述する比較例4の場合、ウェーハの直径方向の厚さの最大値と最小値の差(レンジ)は、329.9nmから205.8nmへ改善が見られたが、これはバッキングフィルムのライフ初期に見られる外周部の反り上がり効果によるものであり、研磨前のウェーハの形状に対して、中心部の中凸形状はあまり変化しておらず、上記のレンジの改善も実施例4と比べ小さくなっていることが分かる。
【0055】
(比較例1)
外径360mm、厚さ20mm、平面度0.8μmの平坦なアルミナセラミック製のワーク保持盤を用い、本発明の密閉空間を有さない図11に示すような研磨ヘッドを用いた以外、実施例1と同様な条件でシリコン単結晶ウェーハを研磨し、実施例1と同様に評価した。
その結果を図6に示す。図6に示すように、ウェーハの直径方向での研磨代の最大値と最小値の差(レンジ)は148nmと実施例1の32.5nmと比べ悪化しており、研磨代のばらつきが実施例1と比べて悪化していることが分かった。
【0056】
(比較例2)
外径360mm、厚さ20mm、平面度0.8μmの平坦なアルミナセラミック製のワーク保持盤を用い、本発明の密閉空間を有さない図11に示すような研磨ヘッドを用いた以外、実施例2と同様な条件でシリコン単結晶ウェーハを研磨し、実施例2と同様に評価した。
その結果を図7に示す。図7に示すように、ウェーハの直径方向の厚さの最大値と最小値の差(レンジ)は91.6nmと実施例2の63.5nmと比べ悪化していることが分かった。
【0057】
(比較例3)
外径360mm、厚さ20mm、平面度0.8μmの平坦なアルミナセラミック製のワーク保持盤を用い、本発明の密閉空間を有さない図11に示すような研磨ヘッドを用いた以外、実施例3と同様な条件でシリコン単結晶ウェーハを研磨し、実施例3と同様に評価した。
その結果を図8に示す。図8に示すように、ウェーハの直径方向の厚さの最大値と最小値の差(レンジ)は191.6nmと実施例3の42.2nmと比べ大幅に悪化していることが分かった。
【0058】
(比較例4)
外径360mm、厚さ20mm、平面度0.8μmの平坦なアルミナセラミック製のワーク保持盤を用い、本発明の密閉空間を有さない図11に示すような研磨ヘッドを用いた以外、実施例4と同様な条件でシリコン単結晶ウェーハを研磨し、実施例4と同様に評価した。
その結果を図9に示す。図9に示すように、ウェーハの直径方向の厚さの最大値と最小値の差(レンジ)は205.8nmと実施例4の66.6nmと比べ大幅に悪化していることが分かった。
【0059】
【表1】

【0060】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
例えば、本発明に係る研磨ヘッドは図1、図2、図3、図4に示した態様に限定されず、例えば、ヘッド本体の形状等は特許請求の範囲に記載された要件以外については適宜設計すればよい。また、ワーク保持盤のワークを保持する側と反対の面上に複数の独立した密閉空間を設け、より精密にワーク保持盤形状を調整する構造としても良い。
さらに研磨装置の構成も図1に示したものに限定されず、例えば本発明に係る研磨ヘッドを複数備えた研磨装置とすることもできる。
【符号の説明】
【0061】
1、21、31、41…研磨ヘッド、 2…研磨布、 3…定盤、
4…研磨剤供給機構、 5…研磨剤、 10…研磨装置、
11…研磨ヘッド本体、 12…ワーク保持盤、
13…テンプレートアセンブリ、 13a…バッキングフィルム、
13b…テンプレート、 14…密閉空間 、15…圧力制御手段、
16…管状部品、 17…裏板、 42…加圧制御装置、 43…減圧制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの表面を定盤上に貼り付けた研磨布に摺接させて研磨する際に前記ワークを保持するための研磨ヘッドであって、少なくとも、
前記ワークの裏面を保持するための、セラミックからなり、かつ、可撓性を有するワーク保持盤と、
該ワーク保持盤の前記ワークを保持する側と反対の面上に形成された密閉空間と、
該密閉空間内の圧力を制御する圧力制御手段とを有し、
前記圧力制御手段で前記密閉空間内の圧力を制御することによって、前記可撓性を有するワーク保持盤の形状を中凸形状又は中凹形状に調整できるものであることを特徴とする研磨ヘッド。
【請求項2】
前記ワーク保持盤は、該ワーク保持盤の外径と、中凸形状又は中凹形状に調整できる最大変化量との比(最大変化量/外径)が0.028×10−3〜0.222×10−3であるような可撓性を有するものであることを特徴とする請求項1に記載の研磨ヘッド。
【請求項3】
前記密閉空間の内径が前記ワークの外径より大きいものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の研磨ヘッド。
【請求項4】
前記圧力制御手段は、前記密閉空間内の圧力を加圧又は減圧のいずれか一方、或いはその両方に制御可能なものであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の研磨ヘッド。
【請求項5】
前記ワーク保持盤の材質がアルミナセラミック又は炭化珪素セラミックであることを特徴とする請求項1乃至請求項4に記載の研磨ヘッド。
【請求項6】
ワークの表面を研磨する際に使用する研磨装置であって、少なくとも、定盤上に貼り付けられた研磨布と、該研磨布上に研磨剤を供給するための研磨剤供給機構と、前記ワークを保持するための研磨ヘッドとして、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の研磨ヘッドを具備するものであることを特徴とする研磨装置。
【請求項7】
ワークの表面を定盤上に貼り付けた研磨布に摺接させて研磨するワークの研磨方法であって、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の研磨ヘッドによって前記ワークを保持し、前記研磨ヘッドの密閉空間内の圧力を制御することによって、可撓性を有する前記ワーク保持盤の形状を調整した後、前記ワークを研磨することを特徴とするワークの研磨方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−4928(P2013−4928A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137789(P2011−137789)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】