説明

移動農機及びコンバイン

【課題】 脱穀機における、穀粒を漏下させるためのフィンの開度を、簡単な構成で自動調整する。
【解決手段】 モータ35の駆動により、減速機39、ギヤ37、扇形ギヤ、トラニオン軸79を介して、油圧式無段変速装置(HST)を変速操作する。レバー83の、軸83aを中心とする揺動により、リンク86を横方向に移動させることで、複数のフィン85の角度を変えて隣接するフィン85,85間の開度を変更する。扇形ギヤ38とレバー83とを連動手段としてのワイヤ80で連結する。扇形ギヤ38を矢印K1方向に揺動させて、HSTの出力を高めると穀粒量が増加するが、これに連動してフィン85の開度が大きくなって漏下しうる穀粒量が増加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧式無段変速装置を備えた移動農機及びコンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
移動農機の1つであるコンバインは、前処理装置用や走行用の油圧式無段変速装置(HST)を備えている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このコンバインにおいては、脱穀部の扱胴によって穀稈から穀粒を扱ぎ落とし、扱ぎ落とした穀粒を揺動流板とフィンによって選別している。
【0004】
このフィンの開度は自動調整している。揺動流板上の穀粒の層厚を検出する層厚センサと、フィンの開度を調整する開度モータと、この開度モータを回転駆動する制御部を有して、層厚センサの出力に基づいて制御部により開度モータを制御するようにしている。層厚センサの検出により、揺動流板上の穀粒量が多い場合には、フィンの開度を大きくして穀粒の漏下を促進し、逆に揺動流板上の穀粒量が少ない場合には、フィンの開度を小さくして穀粒の漏下を抑制する。これにより、穀粒のオーバーフローを防止しつつ、穀粒の選別精度を高めるようにしている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−174817号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献1によると、フィンの開度を自動調整するために、層厚センサ、開度モータ、制御部等が必要となるため、その構成が複雑になり、また高価であるという問題があった。すなわち、脱穀装置の選別能力を調整するための構成が複雑で効果であるという問題である。なお、このような問題は、コンバインにおいて脱穀装置の選別能力を調整する場合に限らず、コンバインを含む移動農機において所定の作業装置を自動調整する際にも発生する問題である。
【0007】
そこで、本発明は、油圧式無段変速装置を操作するアクチュエータの駆動によって所定の作業装置を操作し、もって上述の課題を解決するようにした移動農機を提供することを目的とするものである。また、本発明は、油圧式無段変速装置を操作するアクチュエータの駆動によって脱穀装置の選別能力を調整するようにし、もって上述の課題を解決するようにしたコンバインを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、請求項1に係る本発明は、油圧式無段変速装置(31)を備えた移動農機(10)において、
前記油圧式無段変速装置(31)の変速用トラニオン軸(79)を操作するアクチュエータ(35)を備え、前記アクチュエータ(35)を所定の作業装置(15)に連動して、このアクチュエータ(35)の駆動により、前記油圧式無段変速装置(31)を変速操作すると共に前記所定の作業装置(15)を操作してなる、
ことを特徴とする移動農機(10)にある。
【0009】
請求項2に係る本発明は、走行装置(11)に支持され、脱穀装置(15)及びエンジン(71)を搭載した走行機体(11)と、この走行機体(11)の前方に昇降自在に支持され、立毛穀稈を刈取ると共にこの刈取った穀稈を前記脱穀装置(15)に向けて搬送する前処理装置(16)と、を備えてなるコンバイン(10)において、
前記エンジン(71)からの動力を前記前処理装置(16)又は前記走行装置(12)に伝達する油圧式無段変速装置(31)と、前記油圧式無段変速装置(31)の変速用トラニオン軸(79)に連動して、変速操作するアクチュエータ(35)と、前記脱穀装置(15)の選別能力を調節する選別調節手段(83,85,86)と、前記アクチュエータ(35)を前記選別調節手段(83,85,86)に連動する連動手段(80)と、を備え、前記アクチュエータ(35)の駆動により、前記油圧式無段変速装置(31)を変速操作すると共に前記選別調節手段(83,85,86)を操作してなる、
ことを特徴とするコンバイン(10)にある。
【0010】
請求項3に係る本発明は、前記脱穀装置(15)は、脱穀部(51,52)と、選別部(53)と、前記前処理装置(16)からの穀稈を前記脱穀部(51,52)に沿って搬送するフィードチェーン(25)と、を有し、前記選別調節手段(83,85,86)を操作する前記アクチュエータ(35)にて変速操作される前記油圧式無段変速装置(31)が、前記前処理装置(16)及び前記フィードチェーン(25)に動力伝達する前処理装置用油圧式無段変速装置(31)である、
請求項2記載のコンバイン(10)にある。
【0011】
請求項4に係る本発明は、前記前処理装置(16)の上昇に連動して前記アクチュエータ(35)を、前記前処理装置用油圧式無段変速装置(31)の出力が0となるように操作する上昇停止手段(91,100,101)と、前記前処理装置(16)の上昇に連動して、前記連動手段の連動を解除すると共に、前記選別調節手段(83,85,86)を所定選別能力位置に保持する保持手段(95,100,101)と、を備えてなる、
請求項3記載のコンバインにある。
【0012】
なお、前記した括弧内の符号等は、図面を参照するためのものであって、本発明を何ら限定するものではない。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る本発明によると、油圧式無段変速装置(HST)を備えた移動農機において、このHSTを変速操作するアクチュエータにより、上記HSTの外に所定の作業装置を操作するので、アクチュエータにより所定の作業装置を軽くかつ容易に操作できるものでありながら、この所定の作業装置用の特別な駆動手段を必要とせず、構造を簡単にしてコストダウンを図ることができる。
【0014】
請求項2に係る本発明によると、前処理装置用又は走行用HSTを変速操作するアクチュエータにより、脱穀装置の選別能力を調節する選別調節手段を操作するので、この選別調節手段用の特別な駆動手段を必要としない簡単な構造でもって、上記アクチュエータを用いて軽くかつ容易に上記選別調節手段を、脱穀装置への穀稈の供給量に対応して自動的に調節することができる。
【0015】
請求項3に係る本発明によると、前処理装置用HSTのアクチュエータにて上記選別調節手段を操作するので、走行機体の停止状態にあっても、上記前処理装置用HSTにより前処理装置及びフィードチェーンが駆動されているので、手扱ぎ作業を行うことができる。
【0016】
請求項4に係る本発明によると、前処理装置が上昇すると、上昇停止手段により前処理装置用HSTの出力も停止するが、この際は、選別調節手段は、上記連動手段による連動が解除されて、保持手段により所定選別能力状態に保持されるので、脱穀装置に既に供給されている穀稈、穀粒は、所定の選別能力により支障なく選別作業を続行することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面に沿って、本発明の実施の形態について説明する。なお、同一の図面又は異なる図面において同一の符合を付したものは、同様の構成あるいは同様の作用をなすものであり、これらについては、適宜、重複説明を省略している。
【0018】
<実施の形態1>
以下、図面に基づき本発明の実施の形態を説明する。
【0019】
図1ないし図7は本発明の実施の形態を示すものである。このうち、図1は、本発明に係るコンバインの左側面図、図2は、同じく右側面図である。図3は、図1及び図2に示すコンバインの前部の前処理部を示す平面図、図4は、図3の前処理部を外した状態のコンバインの正面図である。図5は、図4におけるギヤケースの設置状態を示す右側面図、図6は、ギヤケースの設置状態を示す正面図である。図7は、図1及び図2に示すコンバインの伝動系統図である。
【0020】
図1ないし図4に示すように、コンバイン10は、機体11の下側に一対のクローラ走行装置(走行装置)12を有し、このクローラ走行装置12の作動により走行及び旋回可能に構成されている。機体11の左右の一方(本実施の形態では右側)には運転席13が配置され、他方(本実施の形態では左側)には脱穀装置15が配置されている。また、機体11の前方には、前処理部(前処理装置)16が配置されている。
【0021】
前処理装置16は、左右一対の支持部材17,18により回転自在に支持された横伝動パイプ20と、この横伝動パイプ20に固定された縦伝動パイプ21とを備えている。この縦伝動パイプ21の先端に、デバイダ22、刈刃(図示せず)、刈取搬送装置(図示せず)等が配置されている。そして、刈刃、刈取搬送装置等は、横伝動パイプ20及び縦伝動パイプ21内を通して伝達される動力によって駆動される。なお、支持部材17は、連結部材23を介して脱穀装置15に固定されている。
【0022】
脱穀装置15には、この脱穀装置15に沿って穀稈を搬送するためのフィードチェーン25が付設されている。このフィードチェーン25と前処理装置16の刈取搬送装置との間には、脱穀装置15に対する穀稈の穂先の通過位置を調整し得るように、横伝動パイプ20に回動自在に支持された扱深さ搬送体26が配置されている。
【0023】
図3〜図6に示すように、機体11の前部には、脱穀装置15と前処理装置16との間に位置するように、支持部材18と取付部材27を介して前処理部駆動用ギヤケース28が配置され、連結部材30を介して脱穀装置15に連結固定されている。すなわち、支持部材18は、前処理部駆動用ギヤケース28の取付部材を兼ねている。機体11の前部に前処理部駆動用ギヤケース28を配置することにより、前処理部駆動用ギヤケース28から前処理装置16への駆動経路を短く構成することができる。
【0024】
前処理部駆動用ギヤケース28の側面には、油圧式無段変速装置(以下「HST」という)31が配置され、HST用のオイルタンク32が付設されている。また、前処理部駆動用ギヤケース28に固定された取付ブラケット33には、モータ(アクチュエータ)35と減速機39とポテンショメータ36が支持されている。
【0025】
そして、モータ35の出力軸に固定されたギヤ37によりHST31のトラニオン軸79に固定された扇形ギヤ38を駆動して、HST31の出力を調整する。また、ポテンショメータ36は、その可動軸に固定されたセンサアーム40を介して扇形ギヤ38の揺動量を検出し、HST31の出力を検出するようになっている。
【0026】
機体11には、脱穀装置15と前処理装置16との間に位置するように、取付部材41を介してオイルタンク42が前処理部駆動用ギヤケース28と機体11の左右方向に並ぶように配置されている。このオイルタンク42内のオイルは、コンバイン10の走行用HSTの潤滑油として使用される外、前処理装置16や他の油圧機器の作動油として使用される。機体11の前部にオイルタンク42を配置することにより、オイルタンク42から各操作部用油圧装置又は動力伝達装置への配置を短くすることができる。
【0027】
機体11には、脱穀装置15と前処理装置16との間に位置するように、扱深さ搬送体26の揺動駆動装置44を前処理部駆動用ギヤケース28とオイルタンク42との間に配置している。揺動駆動装置44は、支持部材17とオイルタンク42との間に配置されたモータ45と、このモータ45の出力軸に固定された送りねじ46と、この送りねじ46に連結され、扱深さ搬送体26を、横伝動パイプ20を中心として回動させるリンク機構47で構成されている。扱深さ搬送体26の揺動駆動装置44を前処理部駆動用ギヤケース28とオイルタンク42の間に配置することにより、コンバイン10をコンパクトに構成することができる。
【0028】
HST31には、このHST31側からオイルタンク42側に向けて送風するように冷却ファン48が配置されている。したがって、前処理部駆動用ギヤケース28の周囲の空気が冷却ファン48の回転により吸引されるので、前処理部駆動用ギヤケース28を冷却することができる。また、オイルタンク42に冷却ファン48から吹付けられる空気によって、オイルタンク42を冷却することができる。また、前処理部駆動用ギヤケース28にHST31を設けた場合、HST31をも有効に冷却することができる。
【0029】
図7に示すように、脱穀装置15は、穀稈から穀粒を扱ぎ落とす第1扱胴51及び第2扱胴52(脱穀部)と、扱ぎ落とされた穀粒と藁屑から穀粒を選別する揺動選別体53と、選別された穀粒を脱穀装置15の外へ搬出する1番ラセン55と、藁屑交じりの穀粒を揺動選別体53に還流させる2番ラセン56と、揺動選別体53に穀粒と藁屑を選別するための選別風を送風する唐箕ファン57と、揺動選別体53から吹き飛ばされた藁屑を吸引して脱穀装置15の外部へ排出する排塵ファン58と、脱穀装置15の後部に配置され脱穀が終わった排藁を短く切断して排出する排藁処理部60と、フィードチェーン25により搬送され、第1扱胴51及び第2扱胴52により脱穀された穀稈をフィードチェーン25から引継ぎ排藁処理部60に搬送する排藁搬送チェーン61とを備えている。なお、コンバイン10に穀粒を貯蔵するグレンタンク(図示せず)と、このグレンタンクから穀粒を搬出するオーガ(不図示)を設置することもできる。
【0030】
コンバイン10の伝動系統は、図7に示すように構成されている。エンジン71の出力軸71aには、プーリ71b,71c,71dが固定されている。プーリ71cからベルト71fを介してコンバイン10の走行駆動系に動力が伝達される。
【0031】
伝動軸72には、プーリ72a,72bと傘歯車72cが固定されている。伝動軸72には、プーリ71dとプーリ72aの間に掛け渡されたベルト71gにより動力が伝達される。
【0032】
第1扱胴51の駆動軸51aには、プーリ51b,51cが固定されている。第2扱胴52の駆動軸52aには、プーリ52bと傘歯車72cと噛合う傘歯車52cが固定されている。プーリ51bとプーリ52bとの間には、ベルト52dが掛け渡されている。
【0033】
伝動軸73には、プーリ73aと傘歯車73bが固定されている。プーリ51cとプーリ73aとの間には、ベルト51dが掛け渡されている。排藁搬送チェーン61の駆動軸61aには、傘歯車73bと噛合う傘歯車61bが固定されている。
【0034】
伝動軸72に伝達された動力は、傘歯車72c,52cを介して駆動軸52aに伝達され、第2扱胴を回転駆動すると共に、プーリ52b、ベルト52d、プーリ51bを介して駆動軸51aに伝達され、第1扱胴51を回転駆動する。さらに、この駆動軸51aの動力を、プーリ51c、ベルト51d、プーリ73aを介して伝動軸73に伝達し、この伝動軸73から傘歯車73b、傘歯車61bを介して駆動軸61aに伝達して、排藁搬送チェーン61を駆動する。
【0035】
2番ラセン56の駆動軸56aには、プーリ56b,56c,56dが固定され、このプーリ56bとプーリ72bとの間には、ベルト72dが掛け渡されている。1番ラセン55の駆動軸55aには、プーリ55bが固定されている。揺動選別体53の駆動軸53aには、プーリ53bが固定されている。唐箕ファン57の駆動軸57aには、プーリ57b,57cが固定されている。プーリ56c,55b,53b,57bの間には、ベルト56eが掛け渡されている。排塵ファン58の駆動軸58aには、プーリ58bが固定されている。排藁処理部60の駆動軸60aには、プーリ60bが固定されている。プーリ56d,58b,60bの間には、ベルト56fが掛け渡されている。
【0036】
伝動軸72からプーリ72b、ベルト72d、プーリ56bに動力が伝達されると、駆動軸56aが駆動され、2番ラセン56を回転駆動させると共に、その動力はプーリ56c、ベルト56e、プーリ55b、プーリ53b、プーリ57bを介して駆動軸55a,53a,57aに伝達され、1番ラセン55、揺動選別体53、唐箕ファン57を駆動する。さらに、プーリ56d、ベルト56f、プーリ58、プーリ60bを介して駆動軸58a、駆動軸60aに伝達され、排塵ファン58及び排藁処理部60を駆動する。
【0037】
前処理部駆動用ギヤケース28を回転自在に貫通するHST31の入力軸31aには、プーリ31bが固定されている。プーリ57cとプーリ31bとの間には、ベルト57dが掛け渡されている。HST31の出力軸31cには、歯車31d,31eが固定されている。
【0038】
前処理部駆動用ギヤケース28には、歯車31dに噛合う歯車列28aによって駆動される出力軸28bと、歯車31eに噛合う歯車列28cによって駆動される出力軸28dが配置されている。出力軸28dにはプーリ28eが固定され、このプーリ28eに掛け渡されたベルト28fを介して前処理装置16を駆動する。出力軸28bは、フィードチェーン25のスプロケット25aに直結され、このフィードチェーン25を駆動する。
【0039】
唐箕ファン57の駆動軸57aからプーリ57c、ベルト57d、プーリ31bを介して入力軸31aに動力が伝達されると、その回転速度がHST31及び前処理部駆動用ギヤケース28の歯車列28a,28cで変速され、それぞれ出力軸28b,28dに出力される。そして、出力軸28bからスプロケット25aを介してフィードチェーン25を駆動し、出力軸28dからプーリ28e及びベルト28fを介して前処理装置16を駆動する。
【0040】
なお、冷却ファン48(図3,図4参照)は、例えば、HST31の出力軸31cを前処理部駆動用ギヤケース28とは反対側に延設して、この出力軸31cに取付ることができる。
【0041】
このように、前処理部駆動用ギヤケース28とオイルタンク42とを機体11の前部に、機体11の左右方向に並べて配置することにより、機体11の前後方向の長さを短くしてコンバイン10をコンパクト化することができる。また、扱深さ搬送体26の揺動駆動装置44を、前処理部駆動用ギヤケース28とオイルタンク42の間に配置することにより、コンバイン10をより一層コンパクト化することができる。
【0042】
前処理部駆動用ギヤケース28とオイルタンク42との間に1個の冷却ファン48を配置したので、前処理部駆動用ギヤケース28とオイルタンク42とを効率よく冷却することができる。また、前処理部駆動用ギヤケース28にHST31を配置することにより、HST31をも冷却することができる。
【0043】
次に、本発明の特徴部分を、上述の図5,図6、及び新たな図8、図9(a),(b)を参照して詳述する。ここで図8はモータ35近傍を左斜め前方から見た斜視図、図9(a)はモータ35近傍を左斜め後方から見た斜視図である。また図9(b)は脱穀装置15(図1,図2参照)のフィン85近傍を左側から見た図である。
【0044】
本発明は、脱穀装置15のフィン85(図9の(b))、すなわち選別調整手段としてのフィン85の開度を、HST31を変速するためのアクチュエータであるモータ35によって調整することを特徴としている。以下、この点について詳述する。
【0045】
上述のように、取付ブラケット33には、モータ35及びこのモータ35の回転を減速すると共に回転方向を左右方向に変換する減速機39が固定されている。減速機39の出力に固定されたギヤ37は、扇形ギヤ38が噛合されている。扇形ギヤ38の揺動中心には、HST31の出力を調整するためのトラニオン軸79が固定されている。また、取付ブラケット33には、ポテンショメータ36が固定されていて、このポテンショメータ36の可動軸には、センサアーム40が固定されている。このセンサアーム40は、扇形ギヤ38に突設されたストッパ38aに向けて、バネ(不図示)によって付勢されており、ストッパ38aに当接することで停止するようになっている。つまり、センサアーム40は、ストッパ38aの移動に追従して移動する。したがって、ポテンショメータ36は、扇形ギヤ38の揺動角度を、センサアーム40を介して検出することができる。
【0046】
扇形ギヤ38には、ワイヤ80の一方の端部が取り付けられており、ワイヤ80の他方の端部は、図9(b)に示すように、レバー83、リンク86を介して、複数のフィン85に連結されている。ワイヤ80は、屈曲可能な環状のカバー81とその内側を摺動自在に貫通するケーブル82とによって構成されている。カバー81の一方の端部81aは、取付ブラケット33の一部である折曲部33aに固定されており、またケーブル82の一方の端部82aは、扇形ギヤ38に固定されている。ケーブル82の他方の端部82bは、レバー83に固定されている。このレバー83は、軸83aによって揺動可能に支持されている。レバー83は、機体の一部との間に介装された引っ張りばね84によって同図中の反時計回りに付勢されている。レバー83の先端側には、リンク86が同図中においてやや右上がりに取り付けられている。リンク86には、下端85b側が屈曲された複数のフィン85が等間隔で取り付けられている。各フィン85の上端85aは、脱穀装置15の側板104によって揺動自在に支持されている。また、各フィン85の下端85bはリンク86によって揺動自在に支持されている。したがって、レバー83が軸83aを中心に時計周りに揺動すると、リンク86は、右方向に移動し、これに伴って、水平面に対する各フィン85が起立し、隣接するフィン85,85の間隔が広く(開度がおおきく)なって、フィン85,85間を落下する穀粒が多くなる。一方、この逆に、レバー83が軸83aを中心に反時計周りに揺動すると、リンク86は、左方向に移動し、これに伴って、各フィン85が倒伏し、隣接するフィン85,85の間隔が狭く(開度が小さく)なって、フィン85,85間を落下する穀粒が少なくなる。
【0047】
図9(b)中のレバー83の右方には、フィン85,85の開度を初期設定するための、フィン調整レバー87が配設されている。フィン調整レバー87は、先端側の軸87bを中心に、揺動可能に支持されており、下端側の把手87aには、上述のワイヤ80のカバー81の他端81b側が固定されている。把手87aは、側板104に立設された5個の凸部88によって形成された4個の間隙に挿入可能であり、挿入箇所によってフィン85の初期角度を調整することができる。左側の間隙に挿入すると、フィン85,85の開度が小さく、逆に右側の間隙に挿入すると、フィン85,85の開度が大きくなる。
【0048】
以上の構成において、例えば、モータ35が正方向に回転すると、この回転は、減速機39によって減速され、さらに回転方向が変換されてギヤ37に伝達され、これにより、扇形ギヤ38が矢印K1方向に揺動する。なお、このK1方向は、HST31の出力が大きくなる方向、すなわち素行速度が速くなる方向であり、また脱穀装置15及び前処理装置16における作業速度が速くなる方向である。この扇形ギヤ38の矢印K1方向の揺動により、ワイヤ80のケーブル81の一方の端部82aが動方向に引っ張られ、他方の端部82bがレバー83を、引っ張りばね84の付勢力に抗して時計回りに揺動させる。これにより、リンク86が右方に移動し、各フィン85,85間の開度が大きくなる。一方、モータ35が逆方向に回転すると、扇形ギヤ38が矢印K1とは逆方向に揺動し、レバー83が引っ張りばね84に引っ張られて反時計回りに揺動し、リンク86を左方に移動させる。これにより、各フィン85,85間の開度が小さくなる。
【0049】
このように、本発明によると、簡単な構成の連動手段、すなわち、ワイヤ80やレバー83等によって構成される連動手段によって、脱穀装置15の作業速度が速くなって処理すべき穀粒量が多くなったときには、これに連動してフィン85,85間の開度を大きくして、穀粒の漏下を促進する。逆に、脱穀装置15の作業速度が遅くなって処理すべき穀粒量が少なくなったときには、これに連動してフィン85,85間の開度を小さくして、穀粒の漏下を抑制することができる。すなわち、機械的な極めて簡単な構成で、連動手段を構築することができ、これにより、穀粒のオーバーフローを防止しつつ、穀粒の選別精度を高めることができる。
【0050】
<実施の形態2>
図10,図11を参照して、本実施の形態を説明する。ここで、図10は、本実施の形態の特徴部分であるカム100近傍を説明する図であり、図11は、前処理装置16の左側面図である。
【0051】
本実施の形態においては、上述の実施の形態1では、1本のワイヤ80で扇形ギヤ38とレバー83を連結していたのに代えて、途中にカム100(図10参照)を介して2本のワイヤ91,95によって扇形ギヤ38とレバー(図10では不図示)とを連結するようにした。これにより、フィン85,85(図9参照)の開度を初期設定するための、フィン調整レバー87を運転席13(図1,図2参照)近傍に配置して操作性を向上させることができる。また、カム100を利用して、前処理装置16を上昇させた場合でも、フィン85,85の開度が小さくならないようにした。
【0052】
なお、図10において、扇形ギヤ38、トラニオン軸79、折曲部33a、フィン調整レバー87、軸87b、把手87a、凸部88は、上述の実施の形態1と同様である。
【0053】
実施の形態1において、例えば、扇形ギヤ38が前処理装置16及び脱穀装置15のフィードチェーン25(図3参照)を操作するための搬送HSTのトラニオン回動用ギヤである場合、このギヤから連結されるワイヤでフィン85,85の開度を調整することになる。コンバイン10がリフトシャット機構を備えている場合、コンバインの改向時に前処理装置16を上昇させると、この機構が作動して、脱穀装置15の動作が停止し、フィン85が全閉側で停止し、穀粒が漏下しなくなるおそれがある。
【0054】
本実施の形態では、このような不具合を防止するための構成を設けた。すなわち、図10,11に示すように、運転席13の近傍に配設した取付ブラケット102に突設した軸100aによってカム100を揺動自在に支持する。ワイヤ91のカバーの一方の端部92aを扇形ギヤ38側の取付ブラケット33の折曲部33aに固定し、他方の端部92bを取付ブラケット102側の折曲部94bに固定する。また、ワイヤ91のケーブルの一方の端部93aを扇形ギヤ38に固定し、他方の端部93bをカム100における軸100aよりも上方に固定する。
【0055】
また、ワイヤ95のカバーの一方の端部96aを、フィン調整レバー87に固定し、ワイヤ95のケーブルの一方の端部97aをカム100における軸100aよりも下方に固定する。ここで、フィン調整レバー87、把手87a、軸87b、凸部88は、図9(b)に示すものと同様なので説明は省略する。
【0056】
上述の構成において、例えばコンバイン10の改向時に前処理装置16の下半部を図11中の矢印K2方向に上昇させると、上半部は時計回りに揺動し、ピン101は、図10,図11中の位置Aから図10中の位置Bに下降する。このとき、カム100を軸100aを中心に時計周りに揺動させる。これにより、扇形ギヤ38が矢印K1方向に揺動し、HSTの出力が0となる。すなわち、ピン101、カム100、ワイヤ91等によって上昇停止手段を構成する。
【0057】
さらに、ピン101の当接によってカム100が軸100aを中心に時計周り揺動することにより、ワイヤ95のケーブルの一方の端部97aが同図中の左方に引っ張られ、他端は、図9(b)中のレバー83を、軸83を中心に時計周りに揺動させ、リンク86を右方に移動させる。これにより、フィン85,85は、全閉されることなく、開状態(所定選別能力位置)を維持することができる。すなわち、ピン101、カム100、ワイヤ95等によって保持手段を構成する。
【0058】
また、実施の形態1においては、フィン調整レバー87は、運転席13から遠い、脱穀装置15の側面に配設されており、さらに、カバー(不図示)によって覆われているため、初期設定の作業が煩雑であった。
【0059】
これに対して、本実施の形態では、フィン調整レバー87は、運転席13の近傍に配設されているので、初期設定時の作業性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係るコンバインの左側面図である。
【図2】本発明に係るコンバインの右側面図である。
【図3】図1及び図2に示すコンバインの前部を示す平面図である。
【図4】図3の前処理部を外したコンバインの正面図である。
【図5】図4におけるギヤケースの設置状態を示す右側面図である。
【図6】図5の正面図である。
【図7】図1及び図2に示すコンバインの伝動系統図である。
【図8】モータ近傍を左斜め前方から見た斜視図である。
【図9】(a)はモータ近傍を左斜め後方から見た斜視図である。(b)は脱穀部のフィン近傍を左側から見た図である。
【図10】カム近傍を説明する図である。
【図11】前処理装置の左側面図である。
【符号の説明】
【0061】
10 コンバイン,移動農機
11 走行機体(機体)
12 走行装置(クローラ走行装置)
15 脱穀装置(所定の作業装置)
16 前処理装置
25 フィードチェーン
28 前処理部駆動用ギヤケース
31 油圧式無段変速装置(HST)
35 アクチュエータ(モータ)
51 第1扱胴(脱穀部)
52 第2扱胴(脱穀部)
53 選別部(揺動選別体)
71 エンジン
79 変速用トラニオン軸(トラニオン軸)
80 連動手段(ワイヤ)
83 選別調節手段(レバー)
85 選別調節手段(フィン)
86 選別調節手段(リンク)
91 上昇停止手段(ワイヤ)
95 保持手段(ワイヤ)
100 上昇停止手段,保持手段(カム)
101 上昇停止手段,保持手段(ピン)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧式無段変速装置を備えた移動農機において、
前記油圧式無段変速装置の変速用トラニオン軸を操作するアクチュエータを備え、
前記アクチュエータを所定の作業装置に連動して、このアクチュエータの駆動により、前記油圧式無段変速装置を変速操作すると共に前記所定の作業装置を操作してなる、
ことを特徴とする移動農機。
【請求項2】
走行装置に支持され、脱穀装置及びエンジンを搭載した走行機体と、この走行機体の前方に昇降自在に支持され、立毛穀稈を刈取ると共にこの刈取った穀稈を前記脱穀装置に向けて搬送する前処理装置と、を備えてなるコンバインにおいて、
前記エンジンからの動力を前記前処理装置又は前記走行装置に伝達する油圧式無段変速装置と、
前記油圧式無段変速装置の変速用トラニオン軸に連動して、変速操作するアクチュエータと、
前記脱穀装置の選別能力を調節する選別調節手段と、
前記アクチュエータを前記選別調節手段に連動する連動手段と、を備え、
前記アクチュエータの駆動により、前記油圧式無段変速装置を変速操作すると共に前記選別調節手段を操作してなる、
ことを特徴とするコンバイン。
【請求項3】
前記脱穀装置は、脱穀部と、選別部と、前記前処理装置からの穀稈を前記脱穀部に沿って搬送するフィードチェーンと、を有し、
前記選別調節手段を操作する前記アクチュエータにて変速操作される前記油圧式無段変速装置が、前記前処理装置及び前記フィードチェーンに動力伝達する前処理装置用油圧式無段変速装置である、
請求項2記載のコンバイン。
【請求項4】
前記前処理装置の上昇に連動して前記アクチュエータを、前記前処理装置用油圧式無段変速装置の出力が0となるように操作する上昇停止手段と、
前記前処理装置の上昇に連動して、前記連動手段の連動を解除すると共に、前記選別調節手段を所定選別能力位置に保持する保持手段と、を備えてなる、
請求項3記載のコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−14272(P2007−14272A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−199458(P2005−199458)
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】