説明

突入電流制限回路

【課題】周囲温度等の環境条件によらず安定に突入電流を抑制することができ、回路損失が小さく、シンプルに構成することが可能な突入電流制限回路を提供する。
【解決手段】整流回路14の出力から平滑コンデンサ16を通過する突入電流の経路に接続され、スイッチ制御信号によって断続制御されるスイッチ20を有する。スイッチ制御信号を発生するスイッチ制御部22は、整流回路14の整流電圧を検出する整流電圧検出手段26と、平滑コンデンサ16の平滑電圧を検出する平滑電圧検出手段28を備える。スイッチ制御部22は、各検出手段の検出結果を受けスイッチ制御信号を発生させるスイッチ制御信号発生手段30を備える。スイッチ制御信号発生手段30は、整流電圧の波形が下り勾配となる期間であって、平滑電圧が前記整流電圧よりも低く、その差分が第一の基準電圧以下の期間にスイッチがオン状態になるスイッチ制御信号を発生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、商用電源等の交流電圧を整流平滑する整流回路及び平滑コンデンサを有する直流電源装置に設けられ、交流電圧の投入時に平滑コンデンサに流れ込む突入電流を制限する突入電流制限回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の突入電流制限回路として、例えば、特許文献1に開示されているように、交流電圧を整流して整流電圧を出力する整流回路と、その整流回路の出力に接続された電解コンデンサ(平滑コンデンサ)を備えたスイッチング電源回路に使用され、整流回路と電解コンデンサとの間に正特性サーミスタ及び抵抗の直列回路が接続され、その直列回路と並列に負特性サーミスタが接続された突入電流防止回路がある。この突入電流防止回路は、自身が有する合成抵抗値によって突入電流を制限すると共に、周囲温度が低いときでも当該合成抵抗値が一定以下になるように温度補償し、スイッチング電源回路の起動不良を防止するものである。
【0003】
また、特許文献2に開示されているように、交流電圧を整流して整流電圧を出力するダイオード(整流回路)と、そのダイオードの出力に接続されたコンデンサ(平滑コンデンサ)と、そのコンデンサの電圧を変圧して出力するスイッチング電源とを備えたスイッチング電源回路に使用された突入電流防止回路も提案されている。この突入電流防止回路は、整流回路とコンデンサとの間に電流制限用の抵抗が接続され、その抵抗と並列に、スイッチング電源がスイッチング動作をしているときにオン状態を保持するサイリスタが接続されたものである。そして、この突入電流防止回路は、交流電圧の投入時には電流制限用の抵抗によって突入電流を制限し、スイッチング電源の定常動作時にはサイリスタが導通して電流制限用の抵抗に損失が生じないようにするものである。
【0004】
また、特許文献3に開示されているように、交流電圧を整流して整流電圧を出力するダイオードスタック(整流回路)と、インダクタ、主スイッチング素子及び整流素子で構成され、整流電圧をチョップする昇圧コンバータと、昇圧コンバータが出力する断続電圧を平滑した平滑電圧を生成する平滑コンデンサを備えたスイッチング電源装置(直流電源装置)に使用された突入電流防止回路もある。この突入電流防止回路は、昇圧コンバータと平滑コンデンサとの間に電流制限手段(抵抗またはサーミスタ)が接続され、電流制限手段と並列に、整流電圧が平滑電圧よりも低いときにオンするスイッチ回路が接続されたものである。そして、この突入電流防止回路は、交流電圧の投入時には電流制限用の抵抗によって突入電流を制限し、昇圧コンバータの昇圧動作によって平滑電圧が整流電圧よりも高くなると、サイリスタが導通して電流制限用の抵抗に損失が生じないようにするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−97327号公報
【特許文献2】特開平8−103074号公報
【特許文献3】特開2000−253650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の突入電流防止回路の場合、交流電圧の投入時に流れる突入電流を制限するため、ある程度大きな合成抵抗値が必要である。従って、突入電流が流れない定常動作中にも一定の合成抵抗値が残留するので、特に大電力用の電源装置に使用すると、電源効率が著しく低下したりサーミスタ等の定常的な発熱が無視できなくなるという問題があった。
【0007】
また、特許文献2,3の突入電流防止回路の場合、大電力用の電源装置に使用しても、定常動作中の電源効率の低下を回避することができる。しかし、一般に、大電力用の電源装置は、大きな静電容量の電解コンデンサ(平滑コンデンサ)が使用されるので、交流電圧投入時の突入電流を吸収する動作によって、電流制限手段に大きな損失が生じる。従って、電流制限手段として耐サージ性に優れた大型の抵抗器又はサーミスタ素子を使用しなければならず、装置の小型化の妨げになるという問題があった。
【0008】
また、特許文献3の突入電流防止回路に類似した構成として、特許文献3の電流制限手段に並列接続されたサイリスタを、平滑電圧が所定電圧よりも高いときに導通させる構成にしたり、同じく当該サイリスタを、昇圧コンバータの後段に接続されたスイッチング電源回路がスイッチング動作をしているときに導通させる構成なども実用化されている。しかし、いずれの構成も、突入電流を電流制限手段で吸収して損失する動作が行われる点は同じであり、電流制限手段として耐サージ性の優れた大型の抵抗器等を使用しなければならなかった。
【0009】
この発明は、上記背景技術に鑑みて成されたもので、周囲温度等の環境条件によらず安定に突入電流を制限することができ、回路損失が小さく、シンプルに構成することが可能な突入電流制限回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、入力された交流電圧を整流して脈流の整流電圧を出力する整流回路と、前記整流電圧を平滑し両端に平滑電圧を生成する平滑コンデンサとを備えた直流電源装置に設けられ、前記整流回路に交流電圧が投入されたときに、前記整流回路の出力から前記平滑コンデンサに流れ込む突入電流を制限する突入電流制限回路であって、前記整流回路の出力から前記平滑コンデンサを通過する突入電流の経路に接続され、スイッチ制御信号によって制御されるスイッチと、前記整流電圧を検出する整流電圧検出手段、前記平滑電圧を検出する平滑電圧検出手段、及び、各検出手段の検出結果を受け前記スイッチ制御信号を発生するスイッチ制御信号発生手段が設けられたスイッチ制御部とを備え、前記スイッチ制御信号発生手段は、前記整流電圧の波形が下り勾配となる期間であって、前記平滑電圧が前記整流電圧よりも低く、且つ、その差分が第一の基準電圧以下の期間に前記スイッチがオン状態になるスイッチ制御信号を発生する突入電流制限回路である。
【0011】
また、この発明は、入力された交流電圧を整流して脈流の整流電圧を出力する整流回路と、チョークコイル、主スイッチング素子及び整流素子で構成され、前記整流電圧をチョップして昇圧する昇圧コンバータと、前記昇圧コンバータが出力する断続電圧を平滑し両端に平滑電圧を生成する平滑コンデンサを備えた直流電源装置に設けられ、前記整流回路に交流電圧が投入されたときに、前記整流回路の出力から前記平滑コンデンサに流れ込む突入電流を抑制する突入電流制限回路であって、前記整流回路の出力から前記整流素子を介して前記平滑コンデンサを通過する突入電流の経路に接続され、スイッチ制御信号によって制御されるスイッチと、前記整流電圧を検出する整流電圧検出手段、前記平滑電圧を検出する平滑電圧検出手段、及び、各検出手段の検出結果を受け前記スイッチ制御信号を発生するスイッチ制御信号発生手段が設けられたスイッチ制御部とを備え、前記スイッチ制御信号発生手段は、前記整流電圧の波形が下り勾配となる期間であって、前記平滑電圧が前記整流電圧よりも低く、且つ、その差分が第一の基準電圧以下の期間に前記スイッチがオン状態になるスイッチ制御信号を発生する突入電流制限回路である。前記スイッチは、前記昇圧コンバータの出力と前記平滑コンデンサとの間に接続されている。
【0012】
また、前記スイッチ制御部は、前記昇圧コンバータの動作状態を観測するコンバータ動作観測手段を備え、前記スイッチ制御信号発生手段は、前記コンバータ動作監視手段の観測結果を受け、前記昇圧コンバータがチョップ動作を行っている期間は、前記平滑電圧と前記整流電圧との関係によらず、前記スイッチがオン状態に保持するスイッチ制御信号を発生するものである。
【0013】
あるいは、前記スイッチ制御信号発生手段は、前記平滑電圧が第二の基準電圧よりも高い期間は、前記整流電圧の波形の勾配、及び、前記平滑電圧と前記整流電圧との関係によらず、前記スイッチがオン状態に保持するスイッチ制御信号を発生する構成にすることもできる。
【0014】
また、前記スイッチは、前記突入電流がアノードからカソードの向きに流れるように接続され、前記スイッチ制御信号がゲート・カソード間に入力されるサイリスタであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
この発明の突入電流制限回路は、交流電圧の投入時に突入電流を抵抗素子等で吸収する動作を行わないので、回路損失が非常に小さく、周囲温度等の環境条件によらず、突入電流を安定的に小さな値に抑えることができる。また、力率改善などの目的で昇圧コンバータが設けられたスイッチング電源装置にも容易に適用することができ、同様の作用効果を得ることができる。さらに、スイッチにサイリスタを用いると、スイッチ制御部の構成をより簡単化することができる。
【0016】
また、突入電流が流れない定常動作中や昇圧コンバータのチョップ動作中はスイッチをオン状態に保持することが好ましいが、この発明の突入電流制限回路の構成で容易に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の第一の実施形態の突入電流制限回路が設けられたスイッチング電源装置を示す回路図である。
【図2】第一の実施形態の突入電流制限回路のスイッチであるサイリスタを示す図である。
【図3】第一の実施形態の突入電流制限回路の動作を説明するタイムチャートである。
【図4】図3における期間Aの詳細な動作を説明するタイムチャートである。
【図5】第一の実施形態の突入電流制限回路のスイッチの変形例であるMOS型FETを示す図である。
【図6】第一の実施形態の突入電流制限回路のスイッチとしてMOS型FETを使用したときの、期間Aの詳細な動作を説明するタイムチャートである。
【図7】この発明の第二の実施形態の突入電流防止回路が設けられた直流電源装置を示す回路図である。
【図8】第二の実施形態の突入電流制限回路の動作を説明するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の突入電流制限回路の第一の実施形態について、図1〜図6に基づいて説明する。第一の実施形態の突入電流制限回路10は、直流電源装置12内に設けられており、まず直流電源装置12の構成を説明し、次に突入電流制限回路10の構成について説明する。
【0019】
直流電源装置12は、図1に示すように、入力された交流電圧Viを整流して脈流の整流電圧Vsを生成する整流回路14と、整流回路14の出力に接続され整流電圧Vsを平滑する平滑コンデンサ16を備え、平滑コンデンサ16の両端に発生する平滑電圧Voを負荷18に供給する装置である。整流回路14は、全波整流回路と半波整流回路のいずれでもよいが、ここでは、一般的なブリッジ構成の全波整流回路が選択されている。負荷18は、例えば、平滑電圧Voを様々な直流電圧に変換するDC−DCコンバータ等である。
【0020】
突入電流制限回路10は、スイッチ20とスイッチ制御部22で構成され、整流回路14の出力から平滑コンデンサ16に流れ込む突入電流を抑制するものである。スイッチ20は、後述するスイッチ制御信号Vgを受けて回路を断続する素子であり、整流回路14のプラス側の出力14aと平滑コンデンサ16のプラス側の端子16aとの接続点に挿入されている。
【0021】
スイッチ20は、比較的取り扱いが容易な半導体スイッチであることが好ましく、ここでは、図2に示すサイリスタ24が選択され、アノード端子Aが整流回路14の出力14aに、カソード端子Kが平滑コンデンサ16の端子16aに接続されている。サイリスタ24は、周知のように、ゲート・カソード端子間にハイレベルの信号が印加されるとオンし、その信号がローレベル転じても、自己のラッチ機能によりオン状態が維持される。そして、アノード端子Aからカソード端子Kに流れる電流が一定以下になるとラッチが解除されてオフに転じる動作をする。
【0022】
スイッチ制御部22は、整流電圧検出手段26、平滑電圧検出手段28及びスイッチ制御信号発生手段30で構成され、アナログ/デジタル変換器(A/D変換器)、クロック、CPU、メモリ等を備えたマイクロコンピュータ内に集積して設けられている。整流電圧検出手段26は、整流回路14の出力14aに発生する整流電圧Vsを検出する。平滑電圧検出手段28は、平滑コンデンサ16の端子16aに発生する平滑電圧Voを検出する。
【0023】
スイッチ制御信号発生手段30は、2つの検出手段26,28の検出結果を受けて所定の演算処理を行い、スイッチ20として設けられたサイリスタ24の断続動作を制御するスイッチ制御信号Vgを発生させ、サイリスタ24のゲート・カソード端子間に向けて出力する。
【0024】
このスイッチ制御信号発生手段30は、演算処理を行って、少なくとも、以下に示す3つの条件を充足するか否かを判定する。第一に、現在、整流電圧Vsが時間とともに低下している期間中であるか否か、すなわち、Vs波形が下り勾配の期間であるか否かを判定する。第二に、平滑電圧Voと整流電圧Vsとを比較し、平滑電圧Voの方が低く、その差分が第一の基準電圧Vdef以下であるか否かを判定する。第三に、平滑電圧Voが第二の基準電圧Vkより低いか否かを判定する。
【0025】
スイッチ制御信号発生手段30は、上記の演算処理を継続的に繰り返し、第三の条件を充足するときは、次の動作を行う。第一と第二の条件のうち片方でも充足しないときは、ローレベルのスイッチ制御信号Vgを出力する(状態1)。その後、第一と第二の条件を共に充足したタイミングで、ハイレベルのスイッチン制御信号Vgを出力する(状態2)。このハイレベルの時間は短く、第一と第二の条件を共に充足する期間が継続しても、その継続期間中はローレベルのスイッチン制御信号Vgを出力する(状態3)。直流電源装置12では、交流電圧Viが投入されると、上記の状態1、状態2、状態3を繰り返す動作が行われることになる。一方、第三の条件を充足しないときは、第一と第二の条件を充足するか否かにかかわらず、ハイレベルのスイッチン制御信号Vgを出力する(状態4)。詳しくは、突入電流制限回路10の動作説明の中で述べる。
【0026】
次に、スイッチ20としてサイリスタ24を使用した突入電流制限回路10、及び、直流電源装置12の動作について、図3のタイムチャートに基づいて説明する。まず、t11のタイミングで直流電源装置12の入力に交流電圧Viが投入され、整流回路14の出力に、交流電圧Viを全波整流した整流電圧Vsが発生する。ここでは、説明の便宜のため、Vs波形が上り勾配となるタイミングで、交流電圧Viが投入された様子を示している。
【0027】
タイミングt11では、図3から分かるように、第三の条件を充足するが、第一及び第二の条件を充足しないため、スイッチ制御信号Vgはローレベルとなり、サイリスタ24がオフしている。従って、平滑電圧Voはゼロ電圧である。
【0028】
タイミングt12では、第三の条件を充足し、整流電圧Vsが下り勾配の期間に入っているので第一の条件も充足する。しかし、整流電圧Vsが非常に高く、平滑電圧Voとの差が第一の基準電圧Vdefよりも大きいので、第二の条件を充足しない。従って、スイッチ制御信号Vgはローレベルを継続し、サイリスタ24のオフが維持され、平滑電圧Voもゼロ電圧のままである。
【0029】
タイミングt21になると、整流電圧Vsが低下して平滑電圧Voとの差が第一の基準電圧Vdefになっており、第二の条件を充足する。従って、第一及び第二の条件を共に充足するので、このt21のタイミングでスイッチ制御信号Vgがハイレベルに転じ、サイリスタ24がオンする。サイリスタ24がオンすると、平滑コンデンサ16を充電する電流Iswが、整流回路14の出力14a、サイリスタ24、平滑コンデンサ16の経路に流れ、平滑電圧Voが上昇する。この電流Iswがいわゆる突入電流に相当する。
【0030】
平滑コンデンサ16の平滑電圧Voが上昇する動作は、タイミングt21,t22,・・・,t2n,・・・ごとに同様に繰り返される。そこで、タイミングt2nを含む期間Aの動作を拡大して表した図4のタイムチャートを用いて、さらに詳しく説明する。t2nのタイミングでスイッチ制御信号Vgがハイレベルに転じると、サイリスタ24がオンし、平滑コンデンサ16を充電する電流Iswが流れ始める。その後、スイッチ制御信号Vgは短時間のうちにローレベルに転じるが、サイリスタ24は自己のラッチ機能によってオンを継続し、電流Iswが流れ続ける。その後、整流電圧Vsが徐々に低下して平滑電圧Voよりも低くなると、サイリスタ24のカソード端子がアノード端子よりも高電位となって電流Iswがゼロになり、サイリスタ24のラッチが自動的に解除されてオフに転じる。
【0031】
突入電流に相当する電流Iswのピーク値Ipは、式(1)のように表すことができる
【数1】

【0032】
ここで、Zcは、電流Iswが流れる経路の固定インピーダンスであり、平滑コンデンサ18の静電容量や寄生抵抗、回路パターンの寄生抵抗等を合成したインピーダンスである。式(1)から分かるように、ピーク値Ipは、サイリスタ24がオンに転じるときの整流電圧Vsと平滑電圧Voとの差分(Vs−Vo)に略比例するので、第一の基準電圧Vdefを小さくすれば、ピーク値Ipを小さくすることができる。従って、第一の基準電圧Vdefを調整することによって、突入電流に相当する電流Iswを所望の小さな値に制限することができる。
【0033】
サイリスタ24がオフに転じた後は、整流電圧Vsが平滑電圧Voよりも低い期間が続くが、この期間は、第三の条件を充足するが、少なくとも第二の条件を充足しないため、スイッチ制御信号Vgはローレベルを継続し、サイリスタ24のオフが維持され、平滑電圧Voもほぼ一定に保持される。
【0034】
図4を用いて説明した上記の動作は、タイミングt21,t22,・・・ごとに繰り返し行われ、図3に示すように、平滑電圧Voが階段状に上昇する。そして、t31のタイミングt31で平滑電圧Voが第二の基準電圧Vkに達する。平滑電圧Voが第二の基準電圧Vkに達すると、第三の条件を充足しないので、スイッチ制御信号発生手段30は、第一と第二の条件を充足するか否かにかかわらず、ハイレベルのスイッチ制御信号Vgを継続出力し、サイリスタ24のオンが継続する。ここで、第二の基準電圧Vkは、整流電圧Vsのピーク値よりも僅かに低い電圧であるので、サイリスタ24の電流Iswは、タイミングt31以降、式(1)で表される突入電流分は小さくなっており、負荷18によって決まる比較的小さな定常電流が流れることになる。
【0035】
以上説明したように、突入電流制限回路10は、交流電圧Viの投入時に突入電流に相当する電流Iswを抵抗素子等で吸収する動作を行わないので、突入電流制限回路10の回路損失を非常に小さくすることができる。また、脈流の整流電圧Vsが平滑電圧Voよりも高く、且つ、その差分が第一の基準電圧Vdef以下になったタイミングでサイリスタ24がオンする構成ため、周囲温度等の環境条件によらず、電流Iswを安定的に小さな値に抑えることができる。また、整流電圧Vsが下り勾配の期間にサイリスタ24をオンさせる構成のため、整流電圧Vsが平滑電圧Voに第一の基準電圧Vdefを加算した電圧に達した後、サイリスタ24がオンするまでに、何らかの要因で遅延が生じたとしても、整流電圧Vsと平滑電圧Voとの差分が第一の基準電圧Vdefよりも小さくなってからサイリスタ24スイッチがオンすることになるので、式(1)のピーク値Ipが小さくなる方向になり安全である。
【0036】
また、スイッチ20にサイリスタ24を用いているので、交流電圧Viの投入時、スイッチ制御信号発生手段30は、サイリスタ24をオンさせるタイミングで、短幅のトリガパルスをスイッチ制御信号Vgとして発生させるだけで、上記の突入電流制限動作を実現することができる。従って、スイッチ制御信号発生手段30は、スイッチ20のオフのタイミングを規定する信号を生成する必要がないので、構成を非常にシンプルにすることができる。
【0037】
また、突入電流が流れない定常動作中はサイリスタ24をオン状態に保持することが好ましいが、突入電流制限回路10は、「平滑電圧Voが第二の基準値Vk以上のときを定常動作中と判定する」という実用的な考え方に基づき、当該判定をスイッチ制御信号発生手段30が行うように構成されているので、スイッチ制御部22の構成を複雑にすることなく、所望の動作を実現することができる。
【0038】
ここで、図1の直流電源装置12の構成には示されていないが、スイッチ20として用いられる半導体スイッチ等の制御端子とスイッチ制御信号発生手段30の出力との間に、比較的大きな電流を出力可能なバッファとして動作するドライバ回路を接続してもよい。ドライバ回路を接続すれば、例えば、半導体スイッチの制御端子に大きな寄生容量が存在しても、半導体素子スイッチを制御信号Vgに対して遅延なく断続動作させることができる。同様に、図1には示されていないが、整流回路14の前段又は後段に、高周波の入力帰還ノイズを減衰するノイズフィルタや小容量のコンデンサが接続されていても、上記の突入電流を制限する動作にはほとんど影響しない。
【0039】
次に、突入電流制限回路10の変形例であって、スイッチ20を、サイリスタ24に代えて、N−chのMOS型FET32に変更した構成について説明する。MOS型FETは、サイリスタに比べて導通抵抗が小さいという特徴がある。図5に示すMOS型FET32は、ドレイン端子Dが整流回路14の出力14aに、ソース端子Sが平滑コンデンサ16の端子16aに接続される。MOS型FET32は、ゲート・ソース端子間にハイレベルの信号が印加されている間はオンし、その信号がローレベルの間はオフする素子である。従って、スイッチ制御信号発生手段30が発生するスイッチ制御信号Vgは、自己ラッチ機能を有するサイリスタ24用の制御信号と異なり、MOS型FET32用の制御信号でなければならない。
【0040】
スイッチ制御信号発生手段30は、MOS型FET32を制御するため、上述した第一から第三の条件を判定する演算処理を継続的に行う。そして、第三の条件を充足するときは、次の動作を行う。第一と第二の条件のうち1つでも充足しない期間は、ローレベルのスイッチ制御信号Vgを出力する(状態1)。その後、第一と第二の条件を共に充足する期間は、ハイレベルのスイッチン制御信号Vgを出力する(状態2)。その後、第二の条件を充足するか否かにかかわらず、第一の条件を充足している間は、ハイレベルのスイッチ制御信号Vgを継続出力する(状態3)。直流電源装置12に入力が投入されると、上記の状態1、状態2、状態3を繰り返す動作が行われることになる。一方、第三の条件を充足しない期間は、第一と第二の条件を充足するか否かにかかわらず、ハイレベルのスイッチン制御信号Vgを継続的に出力する。
【0041】
突入電流制限回路10及び直流電源装置12の動作は、サイリスタ24をMOS型FET32に置き換えても、図3のタイムチャートとほぼ同様であり、突入電流に相当するIswをピーク値Ipに制限する。このとき、スイッチ制御信号Vgは、期間Aの時間軸を拡大した図6に示すように、図4に比べてハイレベルの時間が長いパルスになる。これによって、第一と第二の条件を共に充足する期間中、確実に電流Iswを流し続けることができる。
【0042】
以上説明したように、突入電流制限回路10のスイッチ20として、導通抵抗が比較的小さいMOS型FET32を選択する場合においても、スイッチ制御信号発生手段30の構成を僅かに変更するだけで容易に対応することができ、突入電流制限回路10の損失を一層小さくすることができる。
【0043】
次に、この発明の突入電流制限回路の第二の実施形態について、図7〜図8に基づいて説明する。第二の実施形態の突入電流制限回路40は、昇圧コンバータ42を備えた直流電源装置44内に設けられており、まず直流電源装置44の構成を説明し、次に突入電流制限回路40の構成を説明する。ここで、上記の突入電流制限回路10及び直流電源装置12と同様の構成は、同一の符号を付して説明を省略する。
【0044】
直流電源装置44は、図7に示すように、整流回路14と平滑コンデンサ16の間に、力率改善用の昇圧コンバータ42が設けられている。昇圧コンバータ42は、一端が整流回路14の出力14aに接続されたチョークコイル46と、チョークコイル46の他端から平滑コンデンサ16の端子16aの向きに導通可能な整流素子であるダイオード48と、チョークコイル46とダイオード48との接続点とグランドとの間に接続された主スイッチング素子50と、主スイッチング素子の断続動作を制御するコンバータ制御部52を備えている。昇圧コンバータ42は、主スイッチング素子50を高い周波数で断続して商用周波の整流電圧Vsをチョップし、昇圧された平滑電圧Voを平滑コンデンサ16に生じさせ、負荷18に供給する動作をする。
【0045】
突入電流制限回路40は、スイッチ20とスイッチ制御部54で構成され、整流回路12の出力からダイオード48を介して平滑コンデンサ14に流れ込む突入電流を抑制するものである。スイッチ20は、ここでは、図2に示すサイリスタ24が選択され、アノード端子Aがダイオード48のカソード端子に、カソード端子Kが平滑コンデンサ16の端子16aに接続されている。
【0046】
スイッチ制御部54は、上記スイッチ制御部22と同様に、整流電圧検出手段26、平滑電圧検出手段28を備え、新たにコンバータ動作観測手段56が設けられ、さらに、スイッチ制御信号発生手段30に代えて、スイッチ制御信号発生手段58が設けられている。
【0047】
コンバータ動作観測手段56は、昇圧コンバータ42のチョップ動作が停止しているか否かを観測するもので、ここでは、コンバータ制御部52から、主スイッチング素子50への制御信号が出力されているか否かを示す情報を入手する。
【0048】
スイッチ制御信号発生手段58は、2つの検出手段26,28の検出結果と、コンバータ動作観測手段56が入手した情報を受けて所定の演算処理を行い、サイリスタ24を断続制御するスイッチ制御信号Vgを発生し、サイリスタ24のゲート・カソード端子間に向けて出力する。
【0049】
スイッチ制御信号発生手段58は、演算処理を行って、少なくとも、次の3つの条件についての判定を行う。第一に、現在、整流電圧Vsが時間とともに低下している期間中であるか否か、すなわち、Vs波形が下り勾配の期間であるか否かを判定する。第二に、平滑電圧Voと整流電圧Vsとを比較し、平滑電圧Voの方が低く、その差分が第一の基準電圧Vdef以下であるか否かを判定する。第三に、主スイッチング素子50が断続動作を停止しているか否かを判定する。従って、この第三の判定の内容が、上記のスイッチ制御信号発生手段30が行う第三の判定の内容と異なっている。
【0050】
スイッチ制御信号発生手段58は、上記の演算処理を継続的に繰り返し、第三の条件を充足するときは、次の動作を行う。第一と第二の条件のうち片方でも充足しないときは、ローレベルのスイッチ制御信号Vgを出力する(状態1)。その後、第一と第二の条件を共に充足したタイミングで、ハイレベルのスイッチン制御信号Vgを出力する(状態2)。このハイレベルの時間は短く、第一と第二の条件を共に充足する期間が継続しても、その継続期間はローレベルのスイッチン制御信号Vgを出力する(状態3)。直流電源装置44に入力が投入されると、上記の状態1、状態2、状態3を繰り返す動作が行われることになる。一方、第三の条件を充足しないときは、第一と第二の条件を充足するか否かにかかわらず、ハイレベルのスイッチン制御信号Vgを出力する(状態4)。
【0051】
次に、スイッチ20としてサイリスタ24を使用した突入電流制限回路40、及び、直流電源装置44の動作について、図8のタイムチャートに基づいて説明する。t11のタイミングで直流電源装置12の入力に交流電圧Viが投入されると、整流回路14の出力に、交流電圧Viを全波整流した整流電圧Vsが発生する。その後、タイミングt21,t22,・・・,t2n,・・・ごとに平滑電圧Voが階段状に上昇する。この動作は、図3及び図4に示す直流電源装置12の動作と同様である。ただし、直流電源装置44の場合、式(1)のインピーダンスZcに該当するインピーダンスは、平滑コンデンサ18の静電容量や寄生直列抵抗、回路の配線抵抗のほか、チョークコイル46のインダクタンスや寄生直列抵抗、ダイオード48の動作抵抗等も合わせて合成した値になる。
【0052】
その後、タイミングt31で、昇圧コンバータ42のチョップ動作が開始する。このチョップ動作が開始すると、第三の条件を充足しなくなるので、スイッチ制御信号発生手段58は、第一と第二の条件を充足するか否かにかかわらず、ハイレベルのスイッチ制御信号Vgを継続出力し、サイリスタ24はオン状態に保持される。ここで、昇圧コンバータ42のチョップ動作が開始するとき、すでに平滑電圧Voが整流電圧Vsのピーク値よりも僅かに低い電圧にまで上昇しているので、サイリスタ24の電流Iswは、タイミングt31以降、式(1)で表される突入電流は小さくなっており、昇圧のために平滑コンデンサ16を充電する比較的小さな電流と、負荷18によって決まる比較的小さな定常電流が流れることになる。
【0053】
以上説明したように、突入電流制限回路40は、昇圧コンバータ42を備えた直流電源装置44の突入電流に確実に制限し、上記の突入電流制限回路10と同様の効果を得ることができる。
【0054】
また、直流電源装置44の場合、負荷18等との関係により、昇圧コンバータ42がチョップ動作しているときにサイリスタ24をオン状態に保持する動作を行うことが好ましいため、ここでは、スイッチ制御部をスイッチ制御部54の構成にすることによってその動作を実現している。しかし、例えば、平滑電圧Voが所定の電圧よりも高いときにサイリスタ24をオン状態に保持する動作の方が好ましい場合は、スイッチ制御部として、突入電流制限回路10のスイッチ制御部22の構成にすることも可能である。
【0055】
なお、この発明の突入電流抑制回路は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、突入電流が流れる経路に挿入するスイッチは、電気信号であるスイッチ制御信号によって制御可能なものであれば、サイリスタ、MOS型FETのほか、GTOサイリスタ(Gate Turn Off thyristor)等の他の半導体スイッチ素子、電磁的に動作する機械式リレー等を使用することができる。
【0056】
スイッチ制御部は、マイクロコンピュータ内に集積して構成する方法のほか、オペアンプやコンパレータその他のディスクリート部品を用いて構成することも可能である。上述したように、スイッチ制御信号発生手段が行う処理は比較的簡単な内容であるため、ディスクリート部品でも比較的コンパクトに構成することができ、コスト低減を図ることも可能である。
【0057】
この発明の突入電流抑制回路が昇圧コンバータを有する直流電源装置に構成された場合、平滑コンデンサよりも静電容量が十分小さなコンデンサを、整流回路の出力端子とグランドの間や、スイッチの入力側の一端とグランドの間に接続してもよい。これによって、突入電流抑制回路及び昇圧コンバータの動作上の安定度が高くなり、誤動作しにくくすることができる。
【0058】
また、スイッチは、部品配置の都合などあれば、昇圧コンバータのチョークコイルと直列の位置に接続してもよく、昇圧コンバータの出力に接続する場合とほぼ同様の作用効果を得ることができる。また、コンバータ動作観測手段は、昇圧コンバータがチョップ動作を行っているか否かを示す情報を入手することができればよく、例えば、主スイッチング素子の両端のスイッチングパルスや、チョークコイルの両端のスイッチングパルスなどを観測する構成にしてもよい。
【符号の説明】
【0059】
10,40 突入電流制限回路
12,44 直流電源装置
14 整流回路
16 平滑コンデンサ
20 スイッチ
22,54 スイッチ制御部
24 サイリスタ
26 整流電圧検出手段
28 平滑電圧検出手段
30,58 スイッチ制御信号発生手段
32 MOS型FET
42 昇圧コンバータ
46 チョークコイル
48 ダイオード
50 主スイッチング素子
52 コンバータ制御部
56 コンバータ動作観測手段
Vdef 第一の基準電圧
Vk 第二の基準電圧
Vo 平滑電圧
Vs 整流電圧


【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された交流電圧を整流して脈流の整流電圧を出力する整流回路と、前記整流電圧を平滑し両端に平滑電圧を生成する平滑コンデンサとを備えた直流電源装置に設けられ、前記整流回路に交流電圧が投入されたときに、前記整流回路の出力から前記平滑コンデンサに流れ込む突入電流を制限する突入電流制限回路において、
前記整流回路の出力から前記平滑コンデンサを通過する突入電流の経路に接続され、スイッチ制御信号によって制御されるスイッチと、
前記整流電圧を検出する整流電圧検出手段、前記平滑電圧を検出する平滑電圧検出手段、及び、各検出手段の検出結果を受け前記スイッチ制御信号を発生するスイッチ制御信号発生手段が設けられたスイッチ制御部とを備え、
前記スイッチ制御信号発生手段は、前記整流電圧の波形が下り勾配となる期間であって、前記平滑電圧が前記整流電圧よりも低く、且つ、その差分が第一の基準電圧以下の期間に前記スイッチがオン状態になるスイッチ制御信号を発生することを特徴とする突入電流制限回路。
【請求項2】
入力された交流電圧を整流して脈流の整流電圧を出力する整流回路と、チョークコイル、主スイッチング素子及び整流素子で構成され、前記整流電圧をチョップして昇圧する昇圧コンバータと、前記昇圧コンバータが出力する断続電圧を平滑し両端に平滑電圧を生成する平滑コンデンサを備えた直流電源装置に設けられ、前記整流回路に交流電圧が投入されたときに、前記整流回路の出力から前記平滑コンデンサに流れ込む突入電流を抑制する突入電流制限回路において、
前記整流回路の出力から前記整流素子を介して前記平滑コンデンサを通過する突入電流の経路に接続され、スイッチ制御信号によって制御されるスイッチと、
前記整流電圧を検出する整流電圧検出手段、前記平滑電圧を検出する平滑電圧検出手段、及び、各検出手段の検出結果を受け前記スイッチ制御信号を発生するスイッチ制御信号発生手段が設けられたスイッチ制御部とを備え、
前記スイッチ制御信号発生手段は、前記整流電圧の波形が下り勾配となる期間であって、前記平滑電圧が前記整流電圧よりも低く、且つ、その差分が第一の基準電圧以下の期間に前記スイッチがオン状態になるスイッチ制御信号を発生することを特徴とする突入電流制限回路。
【請求項3】
前記スイッチは、前記昇圧コンバータの出力と前記平滑コンデンサとの間に接続された請求項2記載の突入電流制限回路。
【請求項4】
前記スイッチ制御部は、前記昇圧コンバータの動作状態を観測するコンバータ動作観測手段を備え、
前記スイッチ制御信号発生手段は、前記コンバータ動作監視手段の観測結果を受け、前記昇圧コンバータがチョップ動作を行っている期間は、前記平滑電圧と前記整流電圧との関係によらず、前記スイッチがオン状態に保持するスイッチ制御信号を発生する請求項2又は3記載の突入電流制限回路。
【請求項5】
前記スイッチ制御信号発生手段は、前記平滑電圧が第二の基準電圧よりも高い期間は、前記整流電圧の波形の勾配、及び、前記平滑電圧と前記整流電圧との関係によらず、前記スイッチがオン状態に保持するスイッチ制御信号を発生する請求項1乃至3のいずれか記載の突入電流制限回路。
【請求項6】
前記スイッチは、前記突入電流がアノードからカソードの向きに流れるように接続され、前記スイッチ制御信号がゲート・カソード間に入力されるサイリスタである請求項1乃至5のいずれか記載の突入電流制限回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−109788(P2011−109788A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261494(P2009−261494)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000103208)コーセル株式会社 (80)
【Fターム(参考)】