説明

茸菌床栽培施設及び茸菌床栽培方法

【課題】茸の栽培に適した環境を簡易な構成により設定し、人工的に茸の成長を促進させる茸菌床栽培施設及び茸菌床栽培方法を提供する。
【解決手段】茸菌床栽培施設1は、接種菌床体10が収納された容器11を、温度制御手段13により室内温度を設定された第1温度範囲(T1)内に制御して一定の時間育成する第1育成室2と、接種菌床体10が収納された容器11を、室内温度管理手段20により室内温度を第1温度範囲(T1)よりも低い温度である設定された第2温度範囲(T2)内に制御して一定の時間育成する第2育成室3と、容器11内の接種菌床体10に散水する散水室4と、茸菌床栽培施設1内に設けられた搬送手段6と、を備え、搬送手段6は、複数の台車12にそれぞれ配置された複数の容器11を、散水室4を経由させながら第1育成室2と第2育成室3とを交互に巡回させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茸菌床栽培施設及び茸菌床栽培方法に係り、特に、おが屑と茸栄養源とを混合して固形にした菌床体に種菌を接種し、その接種菌床体を容器に収納して熟成させて茸栽培を行う茸菌床栽培施設及び茸菌床栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、椎茸、マツタケ、シメジ、エノキタケなどの菌類(以下、「茸」と称す。)の栽培方法には、原木栽培、菌床栽培、堆肥栽培などがある。原木栽培とは、原木を培地として茸を育成して栽培する方法である。堆肥栽培とは、家畜の堆肥や藁を培地として茸を育成して栽培する方法である。一方、菌床栽培とは、おが屑と米糠などの栄養源を混ぜた人工の培地で茸を育成して栽培する方法である。
【0003】
また、この菌床栽培では、茸を大量生産するために茸生産用の施設を設けて人工的な環境のなかで茸を栽培する人工栽培が行われている。この菌床栽培での人工栽培方法は、おが屑と茸栄養源とを混合して固形にした菌床体に種菌を接種し、その接種菌床体を容器に収納して熟成させて茸栽培を行うのが一般的である。この場合、おが屑には茸の原木栽培で使用済みとなった原木を粉砕したものなどが使用される。
【0004】
この茸はもともと山林に自生しており、一般的に湿気の多い暗い場所を好む。従って、菌床栽培での人工栽培においては、この茸の好む自然環境を人工的に茸生産用の施設に設定するのが好ましい。この設定すべき環境要素には、温度管理、湿度管理、照度管理、CO2濃度管理などがあるが、オゾンなどの新鮮な空気を供給するためのオゾン濃度管理も含まれる。また、茸の人工栽培においては、茸に対して適切な水分を供給すること、茸にとって有害な病害虫の侵入を防止すること、さらに、茸が振動を受けないように扱うことなどが重要となる。
【0005】
一方、特許文献1には、茸菌床栽培方法並びに、茸菌床栽培システム、及び、茸菌床栽培に使用される栽培場及び容器入り菌床体が開示されている。ここでは、接種菌床体の多数を、環境機械を有する覆い体内に搬入し、環境機械による特定環境の下で熟成させた後に、各容器入り接種菌床体の容器を開放し、この後、その接種菌床体に散水し茸を生えさせ成長させ採取することが記載されている。また、この覆い体内では、容器入りの接種菌床体を無限搬送手段により覆い体内で上下方向に循環移動させることが記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2002−204622号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
菌床栽培を人工栽培で行う場合には、茸が生育する自然環境にできるだけ適合させた環境を設定しなければならない。一方、茸菌床栽培施設は簡易な構成による施設としなければならない。
【0008】
本願の目的は、かかる課題を解決し、茸の栽培に適した環境を簡易な構成により設定し、人工的に茸の成長を促進させる茸菌床栽培施設及び茸菌床栽培方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る茸菌床栽培施設は、おが屑と茸栄養源とを混合して固形にした菌床体に種菌を接種し、その接種菌床体を容器に収納して熟成させて茸の栽培を行う茸菌床栽培施設において、接種菌床体が収納された容器を、室内温度管理手段により室内温度を第1の温度範囲内に制御して一定時間育成する第1の育成室と、接種菌床体が収納された容器を、室内温度管理手段により室内温度を第1の温度範囲よりも低い温度である第2の温度範囲に制御して一定時間育成する第2の育成室と、容器内の接種菌床体に散水する散水室と、茸菌床栽培施設内に設けられた搬送手段と、を備え、搬送手段は、複数の台車上にそれぞれ配置された複数の容器を、散水室を経由させながら第1の育成室と第2の育成室とを交互に巡回させることを特徴とする。
【0010】
この構成により、容器内の接種菌床体は、日中の外気温を想定した比較的高温な第1の設定温度に制御され、日中を想定した一定時間の間育成される第1の育成室と、夜間の外気温を想定した比較的高温な第2の設定温度に制御され、夜間を想定した一定時間の間育成される第2の育成室とを巡回し、昼夜の気温の日較差、及び昼夜の時間差という自然環境に近い状態で熟成される。また、容器内の接種菌床体は、第1の育成室と第2の育成室とを巡回する際に、散水室を経由することで、日中を想定した第1の育成室と夜間を想定した第2の育成室との巡回の間において熟成に必要な水分が補給される。
【0011】
また、茸菌床栽培施設は、搬送手段が、茸菌床栽培施設の床面に設けられたガイドレールと、台車に設けられた車輪と、駆動装置とから構成され、茸菌床栽培施設内において平面的に台車を巡回させることが好ましい。また、茸菌床栽培施設は、搬送手段が、茸菌床栽培施設の天井面に設けられたガイドレールと、ガイドレールに台車を懸垂させる車輪と、駆動装置とから構成され、茸菌床栽培施設内において平面的に台車を巡回させることが好ましい。これらにより、接種菌床体が収納された複数の容器は、搬送手段により茸菌床栽培施設内を自動的に巡回し、均質な茸が人手によらず栽培できる。また、茸菌床栽培施設内において平面的に台車を巡回させることで、簡易な構成により茸栽培をすることができる。そして、茸に対してほぼ同一の条件下で育成でき、偏りのない熟成栽培が実現できる。
【0012】
また、茸菌床栽培施設は、搬送手段が、複数の台車にそれぞれ配置された複数の容器のうち、熟成された茸が収納された容器を採取し、新たな接種菌床体が収納された容器を設置する採取室を経由させながら、第1の育成室と第2の育成室とを交互に巡回させることが好ましい。これにより、接種菌床体が収納された容器は、一箇所において集中的に人手により交換でき、作業者の移動する範囲を減少させて茸の栽培に伴う労力が削減できる。
【0013】
また、茸菌床栽培施設は、搬送手段が、ガイドレール又は車輪に台車に発生する振動を低減する防振手段を有することが好ましい。これにより、振動が好ましくない茸に対して、搬送に伴い台車に発生する振動などを低減することができる。
【0014】
また、茸菌床栽培施設は、茸菌床栽培施設の出入口にはエアーシャワーが設置され、病害虫の茸菌床栽培施設内への侵入を防止することが好ましい。これにより、病害虫を嫌う茸に対して、作業員の出入りや接種菌床体の搬入又は搬出の際において、病害虫が茸菌床栽培施設内に侵入することを遮断することができ、衛生的な栽培が実現できる。
【0015】
また、茸菌床栽培施設は、第1の育成室及び第2の育成室が、それぞれ茸菌床栽培施設内の他の室と空間的に仕切られ、室内温度管理手段が、室内を加熱冷却する空気調和機と、室内温度を計測する温度センサと、空気調和機を制御して室内温度をそれぞれ第1の温度範囲内又は第2の温度範囲内に保持する温度制御部と、から構成されることが好ましい。これにより、第1の育成室及び第2の育成室の温度制御を適切に行うことができ、茸の育成に適した自然環境の気温に近い環境を設定できる。
【0016】
また、茸菌床栽培施設は、第1の育成室及び第2の育成室が、室内を加湿する加湿器と、室内湿度を計測する湿度センサと、空気調和機を制御し室内湿度を所定の範囲内に保持させる湿度制御部と、から構成される室内湿度管理手段を有することが好ましい。これにより、第1の育成室及び第2の育成室の湿度制御を適切に行うことができ、茸の育成に適した自然環境の湿り気に近い環境を設定できる。
【0017】
また、茸菌床栽培施設は、第1の育成室及び第2の育成室が、室内の照明設備と、室内の照度を一定時間の間に一定の照度範囲に保持する照度制御部と、から構成される室内照度管理手段を有することが好ましい。これにより、室内照度を所定の範囲内に保持することができ、茸の育成に適した照度を設定できる。
【0018】
また、茸菌床栽培施設は、第1の育成室及び第2の育成室が、室内を換気する換気装置と、室内の二酸化炭素濃度を計測するCO2濃度センサと、換気装置を制御し室内の二酸化炭素濃度を一定値以下に保持させる換気装置制御部と、からなる室内CO2濃度管理手段を有することが好ましい。これにより、第1の育成室及び第2の育成室のCO2濃度制御を適切に行うことができ、茸の育成に適した自然環境の空気に近い環境を設定できる。
【0019】
さらに、茸菌床栽培施設は、第1の育成室及び第2の育成室が、負イオン及びオゾンを発生させる負イオン・オゾン発生器と、オゾン濃度センサと、室内のオゾン濃度を一定値以下に制御するオゾン濃度制御部と、からなる室内オゾン濃度管理手段を有することが好ましい。これにより、第1の育成室及び第2の育成室のオゾン濃度制御を適切に行うことができ、茸の育成に適した自然環境のオゾンに近い環境を設定できる。また、病害虫の発生を予防することができ衛生的な栽培が可能となる。
【0020】
また、本発明に係る茸菌床栽培方法は、おが屑と茸栄養源とを混合して固形にした菌床体に種菌を接種し、その接種菌床体を容器に収納して熟成させて茸栽培を行う茸菌床栽培方法において、接種菌床体が収納された複数の容器を順番に、第1の温度範囲内の状態で一定時間育成する第1の育成ステップと、第1の育成ステップを終了した容器について、容器内の接種菌床体に散水する散水ステップと、散水ステップを終了した容器について、第1の温度範囲よりも低い温度である第2の温度範囲の状態で一定時間育成する第2の育成ステップと、が循環され、熟成した茸が収納された容器については、茸を採取するために上記循環から離脱されることを特徴とする。
【0021】
この構成により、容器内の接種菌床体は、日中の外気温を想定した比較的高温な第1の室内温度のもとで、日中を想定した一定時間の間育成される第1の育成ステップと、夜間の外気温を想定した比較的高温な第2の設定温度に制御され、夜間を想定した一定時間の間育成される第2の育成ステップとが循環され、昼夜の気温の日較差、及び昼夜の時間差という自然環境に近い状態で熟成される。また、容器内の接種菌床体は、第1の育成ステップと第2の育成ステップとが循環される際に、散水ステップを経由することで、日中を想定した第1の育成ステップと夜間を想定した第2の育成ステップとの循環の間において熟成に必要な水分が補給される。
【0022】
さらに、茸菌床栽培方法は、接種菌床体が収納された複数の容器は、複数の台車上にそれぞれ配置され、搬送手段により茸菌床栽培施設内において平面的に各ステップを循環することが好ましい。これにより、接種菌床体が収納された複数の容器は、搬送手段により茸菌床栽培施設内を自動的に巡回し、均質な茸が人手によらず栽培できる。また、茸菌床栽培施設内において平面的に台車を巡回させることで、簡易な構成により茸栽培をすることができる。そして、茸に対してほぼ同一の条件下で育成でき、偏りのない熟成栽培が実現できる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明に係る茸菌床栽培施設及び茸菌床栽培方法によれば、茸の栽培に適した環境を簡易な構成により設定し、人工的に茸の成長を促進させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、図面を用いて本発明に係る茸菌床栽培施設の実施の形態につき、詳細に説明する。
【0025】
図1に、茸菌床栽培施設の1つの実施形態の概略構成を茸菌床栽培施設の平面図で示す。また、図2に、図1の茸菌床栽培施設1のA−A断面を示す。ここで、図2(a)は、茸菌床栽培施設1全体の断面であり、図2(b)は、床面18に設置されたガイドレール14と台車12の車輪9との関係を示す拡大断面である。さらに、図3には、接種菌床体10が収納された容器11が配置された台車12の1つの実施例について示す。ここで、図3(a)は、容器11が配置された台車12の全体を示す透視図であり、図3(b)は、接種菌床体10が収納された容器11を示す拡大透視図である。
【0026】
茸菌床栽培施設1は、第1育成室2、第2育成室3、散水室4、及び採取室5の各室から構成される。また、茸菌床栽培施設1は、ガイドレール14、車輪9などから構成される搬送手段6を備える。
【0027】
第1育成室2では、接種菌床体10が収納された容器11が配置された台車12aを、後述する室内温度管理手段20により室内温度を第1温度範囲(T1±α)内に制御し、また、後述する室内湿度管理手段30により室内の湿度を一定の範囲内に制御し、さらに、後述する室内照度管理手段60により室内の照度を一定の範囲内に制御して一定時間育成する。また、第2育成室3では、接種菌床体10が収納された容器11が配置された台車12bを、後述する室内温度管理手段20により室内温度を第1温度範囲(T1±α)よりも低温である第2温度範囲(T2±β)内に制御し、また、後述する室内湿度管理手段30により室内の湿度を一定の範囲内に制御し、さらに、後述する室内照度管理手段60により室内の照度を一定の範囲内に制御して一定時間育成する。
【0028】
本実施形態では、第1設定温度(T1)は略摂氏22度程度であり、第1設定温度(T1)よりも低温である第2設定温度(T2)は略摂氏15度程度である。また、設定温度(T1,T2)の範囲を示すα、βは、茸の生育に適切な範囲として予め設定される。これらの設定温度(T1、T2)については、茸の生育に適した気温の日較差から設定される。すなわち、第1設定温度(T1)を日中の外気温として想定し、第2設定温度(T2)を夜間の外気温として想定し、これらの設定温度を繰り返して茸に与える。さらに、この温度設定と共に室内照度を一定範囲内とすることで、人工栽培される茸を自然環境に近い状態で熟成させることができる。また、第1育成室2での育成時間は日中の時間を想定し、第2育成室3での育成時間は夜間の時間を想定し、これらの育成時間の割合を保ちながら繰り返して茸に与え、1回の巡回にかかる時間を短縮することで人工栽培される茸を早期栽培させることができる。本実施形態では、1日に3回第1育成室2と第2育成室3とを巡回させることで茸の早期栽培を可能とする。
【0029】
散水室4では、台車12に配置された容器11内の接種菌床体10に散水装置20により散水する。採取室5では、熟成された茸が収納された容器11を採取して新たな接種菌床体10が収納された容器11に交換する。
【0030】
図1及び図2(b)に示すように、茸菌床栽培施設1の床面18には床面18から凹状に窪んだピットであるガイドレール14が設置され、第1育成室2、第2育成室3、散水室4、及び採取室5の各室を巡回する。搬送手段6は、複数の台車12上にそれぞれ配置された複数の容器11を、散水室4を経由させながら第1育成室2と第2育成室3とを交互に巡回させることができる。本実施形態では、搬送手段6は、茸菌床栽培施設1の床面18に設けられたガイドレール14に車輪9付の台車12を設置させ、茸菌床栽培施設1内において平面的に台車12を巡回させる方式であるが、茸菌床栽培施設1の天井面19に設けられたガイドレール14に車輪9付の台車12を懸垂させ、茸菌床栽培施設1内において平面的に台車12を巡回させる方式であっても良い。
【0031】
搬送手段6は、台車12に発生する振動を低減する防振手段15を有する。搬送手段6には台車12に発生する振動を低減する防振手段15a又は15bが備えられる。この防振手段15には、台車が床面18に対して振動した場合に、振動を緩和する緩衝材、或いは振動エネルギを吸収する減衰材が用いられる。例えば、図2(b)に示すように、床面18に設置されたガイドレール14に設けられた緩衝材15aであっても良い。また、台車12と車輪9との間に設けられた減衰材15bであっても良い。
【0032】
第1育成室2は、茸菌床栽培施設1内の他の室である第2育成室3、散水室4、及び採取室5とは間仕切壁23、電動シャッタ付き壁24、及び天井面19により空間的に仕切られる。そして、後述する室内温度管理手段20により室内温度が第1温度範囲(T1±β)内に制御される。また、第2育成室3は、茸菌床栽培施設1内の他の室である第1育成室2、散水室4、及び採取室5とは間仕切壁23、電動シャッタ付き壁24、及び天井面19により空間的に仕切られる。そして、後述する室内温度管理手段20により室内温度が第2温度範囲(T2±β)内に制御される。他の実施例として、第1育成室2のみが他の室と仕切られ、第2育成室3は散水室4及び採取室5と一体となって室内温度管理手段20により室内温度が第2温度範囲(T2±β)内に制御されても良い。
【0033】
茸菌床栽培施設1の出入口7にはエアーシャワー8が設置され、病害虫の茸菌床栽培施設1内への侵入を防止する。すなわち、茸は病害虫により損傷を受けるため排除しなければならない。病害虫は茸菌床栽培施設1の出入口7を出入りする作業者、或いは出入口7から搬入、搬出される接種菌床体10や台車12と共に茸菌床栽培施設1内に侵入しやすい。従って、出入口7を出入りする作業者、或いは出入口7から搬入、搬出される接種菌床体10や台車12にエアーシャワー8を吹き付けることで病害虫の侵入を防止する。このエアーシャワー8は、病害虫以外にも塵埃が茸菌床栽培施設1内に侵入するのを防止する効果もある。
【0034】
図4に、室内温度管理手段20の構成を示す。第1育成室2及び第2育成室3は、室内温度管理手段20を有する。この室内温度管理手段20は、室内を加熱冷却する空気調和機21と、室内温度を計測する温度センサ22と、空気調和機21を制御して室内温度をそれぞれ第1の温度範囲内または第2の温度範囲内に保持する温度制御部23とから構成される。温度制御部23は、第1育成室2及び第2育成室3内に設置された温度センサ22の測定値に基づき、空気調和機21により室内温度を第1温度範囲(T1±α)内又は第2温度範囲(T2±β)内に制御する。
【0035】
図4に、室内湿度管理手段30の構成を示す。第1育成室2及び第2育成室3は、室内湿度管理手段30を有する。この室内湿度管理手段30は、室内を加湿する加湿器31と、室内湿度を計測する湿度センサ32と、空気調和機21を制御し室内湿度を所定の範囲内に保持させる湿度制御部33と、から構成される。湿度制御部33は、第1育成室2及び第2育成室3内に設置された湿度センサ32の測定値に基づき、加湿器31の制御により室内湿度を60%〜90%に制御する。
【0036】
図4に、室内CO2濃度管理手段40の構成を示す。第1育成室2及び第2育成室3は、室内CO2濃度管理手段40を有する。この室内CO2濃度管理手段40は、室内を換気する換気装置41と、室内の二酸化炭素濃度を計測するCO2濃度センサ42と、換気装置を制御し室内の二酸化炭素濃度を一定値以下に保持させる換気装置制御部43とから構成される。換気装置制御部43は、第1育成室2及び第2育成室3内に設置されたCO2濃度センサ42の測定値に基づき、換気装置41の制御により室内のCO2濃度を制御する。
【0037】
本実施形態では、換気方法として図5にその概念を示すロスナイによる換気方法を用いる。ロスナイによる換気方法とは、換気と吸気との間で熱交換を行いながら室内の温度及び湿度に近づけて外気を取り入れる方式であり、換気による室内温度及び湿度の変化を最小限に抑える方式である。図5に示すように、ロスナイ44の内部は4室に仕切られ、室外側には排気送風機46が、室内側には給気送風機45が設けられている。ロスナイエレメント47は、特殊加工紙からなる全透過式交換器である。外気は給気送風機45の稼動により吸引されプレフィルタ48によりフィルタにかけられた後に室内給気となる。一方、室内気は排気送風機46の稼動により吸引されプレフィルタ48によりフィルタにかけられた後に排気となる。この2つの流路はロスナイエレメント47で交差し、そこで外気と室内気は相互に熱交換される。
【0038】
図4に、室内照度管理手段60の構成を示す。第1育成室2及び第2育成室3は、室内照度管理手段60を有する。この室内照度管理手段60は、室内に設けられた照明設備61と、照度計62と、室内の照度を一定時間の間一定の範囲に保持する照度制御部63とから構成される。照度制御部63は、第1育成室2及び第2育成室3内に設置された照度計62の測定値に基づき、照明設備61の制御により室内の照度を制御する。
【0039】
図4に、室内オゾン濃度管理手段50の構成を示す。第1育成室2及び第2育成室3は、室内オゾン濃度管理手段50を有する。この室内オゾン濃度管理手段50は、負イオン及びオゾンを発生させる負イオン・オゾン発生器51と、オゾン濃度センサ52と、室内のオゾン濃度を一定値以下に制御するオゾン濃度制御部53とから構成される。オゾン濃度制御部53は、第1育成室2及び第2育成室3内に設置されたオゾン濃度センサ52の測定値に基づき、負イオン・オゾン発生器51の制御により室内のオゾン濃度を制御する。
【0040】
図6に負イオン・オゾン発生器51の概要を示す。負イオン・オゾン発生器51は、パルス発生回路54から放電線55に負極の高電圧パルス(パルス電圧)を印加しつつ、モータ56により回転駆動されるファン57により放電線55に送風することで、放電線54から負イオンとオゾンが発生する。すなわち、負イオン・オゾン発生器51は、その際に放電空間に生じる無数のコロナ放電のエネルギにより空気中の酸素(O2)を変化させてオゾン(O3)を発生させる。また、その際に酸素分子等が電子と衝突してイオン化し負イオンが発生する。
【0041】
図7に、茸菌床栽培方法の1つの実施形態の概略構成をフローチャートで示す。種菌床体が収納された複数の容器11を順番に、第1温度範囲(T1±α)内の条件で一定時間育成する(S1)。S1を終了した容器11について、容器11内の接種菌床体10に散水する(S2)。S2を終了した容器11について、第1温度範囲(T1)よりも低い温度である第2温度範囲(T2±β)内の条件で一定時間育成する(S3)。茸の熟成が完了した容器11かを判断する(S4)。茸の熟成が完了した容器11である場合には、熟成した茸が収納された容器11を採取する(S5)。そして、新たな接種菌床体10を収納した容器11を台車12に配置する(S6)。茸の熟成が完了していない容器11である場合には、S1にもどり容器11を再度S1〜S3に循環させる。
【0042】
接種菌床体10が収納された複数の容器11は、複数の台車12上にそれぞれ配置され、搬送手段6により茸菌床栽培施設1内において平面的に上記ステップ(S1)〜(S3)を循環する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る茸菌床栽培施設の1つの実施形態の概略構成を示す平面図である。
【図2】図1の茸菌床栽培施設のA−A断面を示す断面図である。
【図3】接種菌床体が収納された容器が配置された台車の1つの実施例について示す透視図である。
【図4】室内温度管理手段、室内湿度管理手段、室内照度管理手段、室内CO2濃度管理手段、及び室内オゾン濃度管理手段の構成を示すブロック図である。
【図5】ロスナイによる換気方法の原理を示す概念図である。
【図6】負イオン・オゾン発生器の概要を示す説明図である。
【図7】茸菌床栽培方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0044】
1 茸菌床栽培施設、2 第1育成室、3 第2育成室、4 散水室、5 採取室、6 搬送手段、7 出入口、8 エアーシャワー、9 車輪、10 接種菌床体、11 容器、12a,12b,12c,12d 台車、13 散水装置、14 ガイドレール、15a,15b 防振手段(緩衝材)、16 間仕切壁、17 電動シャッタ付き間仕切壁、18 床面、19 天井面、20 室内温度管理手段、21 空気調和機、22 温度センサ、23 温度制御部、30 室内湿度管理手段、31 加湿器、32 湿度センサ、33 湿度制御部、40 室内CO2濃度管理手段、41 換気装置、42 CO2濃度センサ、43 オゾン濃度制御部、44 ロスナイ、45 給気送風機、46 排気送風機、47 ロスナイエレメント、48 プレフィルタ、50 室内オゾン濃度管理手段、51 負イオン・オゾン発生器、52 オゾン濃度センサ、53 オゾン濃度制御部、54 パルス発生回路、55 放電線、56,57 モータ、60 室内照度管理手段、61 照度設備、62 照度計、63 照度制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
おが屑と茸栄養源とを混合して固形にした菌床体に種菌を接種し、その接種菌床体を容器に収納して熟成させて茸の栽培を行う茸菌床栽培施設において、
接種菌床体が収納された容器を、室内温度管理手段により室内温度を第1の温度範囲内に制御して一定時間育成する第1の育成室と、
接種菌床体が収納された容器を、室内温度管理手段により室内温度を第1の温度範囲よりも低い温度である第2の温度範囲に制御して一定時間育成する第2の育成室と、
容器内の接種菌床体に散水する散水室と、
茸菌床栽培施設内に設けられた搬送手段と、を備え、
搬送手段は、複数の台車上にそれぞれ配置された複数の容器を、散水室を経由させながら第1の育成室と第2の育成室とを交互に巡回させることを特徴とする茸菌床栽培施設。
【請求項2】
請求項1に記載の茸菌床栽培施設であって、搬送手段は、茸菌床栽培施設の床面に設けられたガイドレールと、台車に設けられた車輪と、駆動装置とから構成され、茸菌床栽培施設内において平面的に台車を巡回させることを特徴とする茸菌床栽培施設。
【請求項3】
請求項1に記載の茸菌床栽培施設であって、搬送手段は、茸菌床栽培施設の天井面に設けられたガイドレールと、ガイドレールに台車を懸垂させる車輪と、駆動装置とから構成され、茸菌床栽培施設内において平面的に台車を巡回させることを特徴とする茸菌床栽培施設。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1に記載の茸菌床栽培施設であって、搬送手段は、複数の台車にそれぞれ配置された複数の容器のうち、熟成された茸が収納された容器を採取し、新たな接種菌床体が収納された容器を設置する採取室を経由させながら、第1の育成室と第2の育成室とを交互に巡回させることを特徴とする茸菌床栽培施設。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1に記載の茸菌床栽培施設であって、搬送手段は、ガイドレール又は車輪に台車に発生する振動を低減する防振手段を有することを特徴とする茸菌床栽培施設。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1に記載の茸菌床栽培施設であって、茸菌床栽培施設の出入口にはエアーシャワーが設置され、病害虫の茸菌床栽培施設内への侵入を防止することを特徴とする茸菌床栽培施設。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1に記載の茸菌床栽培施設であって、第1の育成室及び第2の育成室は、それぞれ茸菌床栽培施設内の他の室と空間的に仕切られ、室内温度管理手段は、室内を加熱冷却する空気調和機と、室内温度を計測する温度センサと、空気調和機を制御して室内温度をそれぞれ第1の温度範囲内又は第2の温度範囲内に保持する温度制御部と、から構成されることを特徴とする茸菌床栽培施設。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1に記載の茸菌床栽培施設であって、第1の育成室及び第2の育成室は、室内を加湿する加湿器と、室内湿度を計測する湿度センサと、空気調和機を制御し室内湿度を所定の範囲内に保持させる湿度制御部と、から構成される室内湿度管理手段を有することを特徴とする茸菌床栽培施設。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1に記載の茸菌床栽培施設であって、第1の育成室及び第2の育成室は、室内の照明設備と、室内の照度を一定時間の間に一定の照度範囲に保持する照度制御部と、から構成される室内照度管理手段を有することを特徴とする茸菌床栽培施設。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1に記載の茸菌床栽培施設であって、第1の育成室及び第2の育成室は、室内を換気する換気装置と、室内の二酸化炭素濃度を計測するCO2濃度センサと、換気装置を制御し室内の二酸化炭素濃度を一定値以下に保持させる換気装置制御部と、からなる室内CO2濃度管理手段を有することを特徴とする茸菌床栽培施設。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1に記載の茸菌床栽培施設であって、第1の育成室及び第2の育成室は、負イオン及びオゾンを発生させる負イオン・オゾン発生器と、オゾン濃度センサと、室内のオゾン濃度を一定値以下に制御するオゾン濃度制御部と、からなる室内オゾン濃度管理手段を有することを特徴とする茸菌床栽培施設。
【請求項12】
おが屑と茸栄養源とを混合して固形にした菌床体に種菌を接種し、その接種菌床体を容器に収納して熟成させて茸栽培を行う茸菌床栽培方法において、
接種菌床体が収納された複数の容器を順番に、第1の温度範囲内の状態で一定時間育成する第1の育成ステップと、
第1の育成ステップを終了した容器について、容器内の接種菌床体に散水する散水ステップと、
散水ステップを終了した容器について、第1の温度範囲よりも低い温度である第2の温度範囲の状態で一定時間育成する第2の育成ステップと、が循環され、
熟成した茸が収納された容器については、茸を採取するために上記循環から離脱されることを特徴とする茸菌床栽培方法。
【請求項13】
請求項12に記載の茸菌床栽培方法であって、接種菌床体が収納された複数の容器は、複数の台車上にそれぞれ配置され、搬送手段により茸菌床栽培施設内において平面的に各ステップを循環することを特徴とする茸菌床栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−11758(P2010−11758A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−173068(P2008−173068)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】