説明

荷役車両の駆動制御装置

【課題】 適切な走行・荷役同時動作を実現可能にする荷役車両の駆動制御装置を提供する。
【解決手段】 駆動制御装置23のECU22は、エンジン指令回転数を求めるエンジン指令回転数設定部24と、エンジン指令回転数に応じた駆動指令信号をエンジン2に出力するエンジン駆動制御部25と、発電モータ指令電力を求める発電モータ指令電力設定部27と、発電モータ指令電力に応じた駆動指令信号を発電モータ3に出力する発電モータ駆動制御部28とを有している。発電モータ指令電力設定部27は、エンジン指令回転数と発電モータ実回転数(エンジン実回転数)との偏差を算出し、その偏差に応じた発電電力制限率を求め、この発電電力制限率及び走行モータ電力に基づいて、走行モータ11を駆動するための発電電力となる発電モータ指令電力を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同軸上に配置されたエンジン及び発電電動機と走行モータとを備えた荷役車両の駆動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来における荷役車両の駆動制御装置としては、例えば特許文献1に記載されているものが知られている。特許文献1に記載のものは、同軸上に配置されたエンジン、発電電動機及び荷役ポンプと、荷役車両を走行させる走行モータと、発電電動機及び走行モータに駆動電力を供給するバッテリとを備え、荷役作業に高出力を要さないときは、発電電動機が発電機モードとされ、荷役作業に高出力を要するときは、発電電動機が電動機モードとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−298163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術のような荷役車両では、走行モータを駆動するための電力を発電電動機により発電して走行することが多い。この場合、例えば最大荷重の荷物を積んで坂路を登坂するときには、走行モータの駆動電力が大きくなるため、発電電動機に要求される発電電力も大きくなる。このような走行中に荷役作業を行うと、荷役負荷及び発電負荷がエンジンにかかるため、荷役速度の低下等が生じる可能性がある。走行・荷役同時動作時には、そのような不具合を発生させないように発電電動機及び走行モータを制御する必要がある。
【0005】
本発明の目的は、適切な走行・荷役同時動作を実現可能にする荷役車両の駆動制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、エンジンと、発電電動機と、エンジン及び発電電動機と同軸上に配置された荷役ポンプと、荷役ポンプからの作動油により駆動される荷役アクチュエータと、走行動作を行うための走行モータと、発電電動機及び走行モータに駆動電力を供給するバッテリとを備えた荷役車両の駆動制御装置において、エンジンの指令回転数を決定し、当該指令回転数に応じてエンジンを制御するエンジン制御手段と、エンジンの実回転数を検出する回転数検出手段と、エンジンの指令回転数とエンジンの実回転数との偏差を算出する偏差算出手段と、エンジンの指令回転数とエンジンの実回転数との偏差に応じて、走行モータを駆動するための発電電動機の発電電力を制限するように、発電電動機を制御する発電制御手段とを備えることを特徴とするものである。
【0007】
荷役車両の走行時には、走行モータを駆動するために発電電動機により発電が行われ、その発電に必要な分だけエンジンが回転する。この状態で、荷役レバー等の操作手段により荷役アクチュエータが駆動されると、発電負荷に加えて荷役負荷がエンジンに印加されるため、エンジン回転数が低下する。このとき、荷役負荷が高くなるほど、エンジン回転数の低下が大きくなり、エンジンの指令回転数とエンジンの実回転数との偏差が大きくなる。エンジン回転数の低下が大きくなると、荷役アクチュエータの駆動速度(荷役速度)の低下が発生する可能性がある。そこで本発明では、エンジンの実回転数を検出し、エンジンの指令回転数とエンジンの実回転数との偏差を算出し、その偏差に応じて走行モータを駆動するための発電電動機の発電電力を制限することにより、エンジンに印加される発電負荷が当該偏差に応じて低くなる。従って、エンジン回転数の低下が抑えられるため、荷役速度の低下が防止される。これにより、適切な走行・荷役同時動作を実現することができる。
【0008】
好ましくは、エンジンの指令回転数とエンジンの実回転数との偏差が所定値よりも小さいかどうかを判断する判断手段を更に備え、発電制御手段は、判断手段によりエンジンの指令回転数とエンジンの実回転数との偏差が所定値よりも小さいと判断されたときに、エンジンの指令回転数とエンジンの実回転数との偏差に応じて、走行モータを駆動するための発電電動機の発電電力を制限するように、発電電動機を制御する。
【0009】
荷役負荷があまり高くないため、エンジン回転数の低下がそれほど大きくないときは、走行モータを駆動するための発電電動機の発電電力を制限するだけで、荷役性能を維持することができる。従って、エンジンの指令回転数とエンジンの実回転数との偏差が所定値よりも小さいときに、走行モータを駆動するための発電電動機の発電電力を制限することが好適である。
【0010】
このとき、好ましくは、判断手段によりエンジンの指令回転数とエンジンの実回転数との偏差が所定値よりも大きいと判断されたときに、エンジンの指令回転数とエンジンの実回転数との偏差に応じて、エンジンによる荷役ポンプの駆動を発電電動機によりアシストするように、発電電動機を制御する第1アシスト制御手段を更に備える。
【0011】
荷役負荷が十分高くなることで、エンジン回転数が大きく低下したときには、荷役性能を維持するためには、走行モータを駆動するための発電電動機の発電電力を制限するだけでは不十分となる。そこで、この場合には、エンジンの指令回転数とエンジンの実回転数との偏差に応じて、エンジンによる荷役ポンプの駆動を発電電動機によりアシストすることにより、エンジン回転数の大きな低下が抑えられるようになる。
【0012】
第1アシスト制御手段は、走行モータの駆動電力と発電電動機の駆動電力との合計がバッテリの放電電力制限値を越えないように発電電動機を制御することが好ましい。
【0013】
エンジンによる荷役ポンプの駆動を発電電動機によりアシストする際には、バッテリから発電電動機及び走行モータに駆動電力が供給されるため、バッテリ放電電力の余裕度を考慮する必要がある。従って、走行モータの駆動電力と発電電動機の駆動電力との合計がバッテリの放電電力制限値を越えないように発電電動機を制御することにより、バッテリの温度や充電状態等により変化するバッテリの放電電力制限値を守りつつ、適切な走行・荷役同時動作を実現することができる。
【0014】
また、好ましくは、エンジンの実回転数がアイドル回転数よりも低くなったときに、エンジンの実回転数に応じて、エンジンによる荷役ポンプの駆動を発電電動機によりアシストするように、発電電動機を制御する第2アシスト制御手段を更に備える。
【0015】
この場合には、エンジンの実回転数がアイドル回転数よりも低くなると、エンジンによる荷役ポンプの駆動が発電電動機によりアシストされ、エンジンの回転数が上がるため、エンストを防止することができる。
【0016】
さらに、好ましくは、走行モータの駆動電力と発電電動機の駆動電力との合計がバッテリの放電電力制限値を越えないように走行モータを制御する走行制御手段を更に備える。
【0017】
例えば発電電動機による荷役アシストが行われている状態で、アクセルが操作されると、走行モータが駆動され、荷役車両が走行するようになる。この場合には、バッテリから発電電動機及び走行モータに駆動電力が供給されるため、バッテリ放電電力の余裕度を考慮する必要がある。従って、走行モータの駆動電力と発電電動機の駆動電力との合計がバッテリの放電電力制限値を越えないように走行モータを制御することにより、バッテリの温度や充電状態等により変化するバッテリの放電電力制限値を守りつつ、適切な走行・荷役同時動作を実現することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、適切な走行・荷役同時動作を実現することができる。これにより、走行・荷役同時動作時に運転者に違和感を感じさせること無く、走行性能及び荷役性能を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係わる駆動制御装置の一実施形態を備えた荷役車両としてハイブリッド型フォークリフトの概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示したフォークリフトにおける走行動作時及び荷役動作時のパワーの流れを示す概略図である。
【図3】本発明に係わる駆動制御装置の一実施形態を示すブロック図であり、図1に示したECUの機能ブロックを含んでいる。
【図4】図2に示した発電モータ指令電力設定部により実行される発電モータ指令電力設定処理の手順を示すフローチャートである。
【図5】図2に示した発電モータ指令電力設定部で使用される発電電力制限率マップ及び荷役アシスト要求電力マップの一例を示すグラフである。
【図6】図2に示した発電モータ指令電力設定部により実行されるエンスト防止用発電モータ指令電力設定処理の手順を示すフローチャートである。
【図7】図2に示した発電モータ指令電力設定部で使用されるエンスト防止要求電力マップの一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係わる荷役車両の駆動制御装置の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明に係わる駆動制御装置の一実施形態を備えた荷役車両としてハイブリッド型フォークリフトの概略構成を示すブロック図である。同図において、ハイブリッド型フォークリフト1は、機械式または電子式のガバナ(図示せず)を有するエンジン2と、このエンジン2と駆動軸(図示せず)を介して同軸に連結された発電モータ(発電電動機)3と、エンジン2と発電モータ3との間に介在されたクラッチ4とを備えている。
【0022】
発電モータ3は、発電機モードのときはエンジン2により回転駆動されて発電を行う発電機として動作し、電動機モードのときはモータ(電動機)として動作するように構成されている。発電モータ3の動作モードは、ECU22(後述)からのモード切換信号により選択される。
【0023】
また、フォークリフト1は、エンジン2及び発電モータ3と駆動軸(図示せず)を介して同軸に連結された荷役ポンプ5と、この荷役ポンプ5と接続された作動油タンク6と、フォーク(図示せず)を昇降させるリフトシリンダ7と、荷役ポンプ5とリフトシリンダ7との間に設けられた荷役バルブ8とを有している。
【0024】
荷役ポンプ5は、エンジン2及び発電モータ3により駆動され、作動油タンク6内の作動油を吸い上げて吐出する。リフトシリンダ7は、荷役ポンプ5から吐出された作動油により駆動される。荷役バルブ8は、ECU22からの開度指令信号に応じて、荷役ポンプ5とリフトシリンダ7との間で作動油の流れる方向及び流量を制御する。
【0025】
また、フォークリフト1は、走行モータ9と、この走行モータ9により駆動され、フォークリフト1を走行動作させる走行ユニット10とを有している。
【0026】
さらに、フォークリフト1は、バッテリ11と、このバッテリ11と接続されたインバータ(電力変換器)12とを備えている。バッテリ11としては、ニッケル水素バッテリ、リチウムイオンバッテリ及び鉛蓄電池等が用いられる。インバータ12は、発電機モードとして動作する発電モータ3により発生した電気をバッテリ11に蓄えると共に、電動機モードとして動作する発電モータ3及び走行モータ9が回転駆動されるときに、バッテリ11の電力を発電モータ3及び走行モータ9に供給する。バッテリ11に対する充放電は、ECU22からのモード切換信号及び駆動指令信号により制御される。
【0027】
また、フォークリフト1は、エンジン2を始動するためのイグニッションスイッチ13と、アクセル14の開度を検出するアクセルセンサ15と、荷役レバー16の操作量を検出する荷役レバーセンサ17と、発電モータ3の実際の回転数(発電モータ実回転数)を検出する回転数センサ18と、発電モータ3の出力電力(発電モータ電力)を検出する発電モータ電力検出器19と、走行モータの出力電力(走行モータ電力)を検出する走行モータ電力検出器20と、バッテリ11の温度や充電状態等といったバッテリ11の状態を検出するバッテリ状態検出器21と、上記のECU(Electronic Control Unit)22とを備えている。ここでの荷役レバー16は、リフトシリンダ7の駆動操作を行うリフトレバーである。
【0028】
ECU22は、フォークリフト1全体のシステム制御を行う。ECU22は、イグニッションスイッチ13のON/OFF信号、アクセルセンサ15、荷役レバーセンサ17及び回転数センサ18、発電モータ電力検出器19、走行モータ電力検出器20及びバッテリ状態検出器21の検出信号を入力し、所定の処理を行い、エンジン2、発電モータ3、荷役バルブ8、走行モータ9及びインバータ12に各種信号を出力する。具体的には、ECU22は、エンジン2、発電モータ3及び走行モータ9に駆動指令信号を出力し、荷役バルブ8に荷役レバー16の操作量に応じた開度指令信号を出力し、インバータ12にモード切換信号を出力する。また、ECU22は、発電モータ3及び走行モータ9に対する駆動指令信号をインバータ12にも出力する。
【0029】
図2は、上記フォークリフト1における走行動作時及び荷役動作時のパワーの流れを示す概略図である。図2(a)は走行単独動作時のパワーの流れを示し、図2(b)は荷役単独動作時のパワーの流れを示し、図2(c)は走行・荷役同時動作時のパワーの流れを示している。
【0030】
図2(a)に示す走行単独動作時には、発電モータ3は、発電機モードとして動作し、走行モータ9を回転駆動させる電力を補うように発電を行う。このとき、バッテリ11は、主に走行回生電力の充電、エンジン2の出力遅れ時の放電等に利用される。
【0031】
図2(b)に示す荷役単独動作時には、荷役ポンプ5を駆動させるのに必要な力は、主にエンジン2で発生する。荷役負荷が低負荷であるときや、荷役動作が停止しているときは、発電モータ3は発電機モードとして動作し、バッテリ11を充電する。荷役負荷が高負荷であるときは、発電モータ3は電動機モードとして動作し、エンジン2の出力をアシストする。
【0032】
図2(c)に示す走行・荷役同時動作時には、走行モータ9及び荷役ポンプ5を駆動させるのに必要な力は、エンジン2と電動機モードとして動作する発電モータ3とで発生する。
【0033】
図3は、本発明に係わる駆動制御装置の一実施形態を示すブロック図であり、図1に示したECU22の機能ブロックを含んでいる。同図において、本実施形態の駆動制御装置23は、上記のアクセルセンサ15、荷役レバーセンサ17、回転数センサ18、発電モータ電力検出器19、走行モータ電力検出器20、バッテリ状態検出器21及びECU22を備えている。
【0034】
ECU22は、エンジン指令回転数設定部24と、エンジン駆動制御部25と、バッテリ放電電力制限値決定部26と、発電モータ指令電力設定部27と、発電モータ駆動制御部28と、走行モータ指令電力設定部29と、走行モータ駆動制御部30とを有している。
【0035】
エンジン指令回転数設定部24は、荷役レバーセンサ17及び走行モータ電力検出器20の検出値に基づいて、エンジン2に対して要求されるエンジン指令回転数を求める。具体的には、エンジン指令回転数設定部24は、走行動作に必要とされる走行要求回転数及び荷役動作に必要とされる荷役要求回転数のうち値の大きい方を、エンジン指令回転数として設定する。
【0036】
走行要求回転数は、走行要求電力と走行要求回転数との関係を表す走行要求回転数マップ(図示せず)から得られる。走行要求電力は、走行モータ電力検出器20により検出された走行モータ電力を用いて、下記式により算出される。なお、発電電力は負(−)で表されるため、走行動作に必要な発電電力である走行要求電力は負となる。
走行要求電力=(−1)*走行モータ電力 …(A)
【0037】
荷役要求回転数は、荷役レバーセンサ17により検出された荷役レバー16の操作量と荷役要求回転数との関係を表す荷役要求回転数マップ(図示せず)から得られる。
【0038】
エンジン駆動制御部25は、エンジン指令回転数設定部24により得られたエンジン指令回転数に応じた駆動指令信号をエンジン2のスロットルアクチュエータ(図示せず)に出力する。
【0039】
バッテリ放電電力制限値決定部26は、バッテリ状態検出器21により検出されたバッテリ11の温度や充電状態等に基づいて、バッテリ11の放電電力制限値(バッテリ放電電力制限値)を決定する。
【0040】
発電モータ指令電力設定部27は、エンジン指令回転数設定部24により得られたエンジン指令回転数と、回転数センサ18及び走行モータ電力検出器20の検出値と、バッテリ放電電力制限値決定部26により得られたバッテリ放電電力制限値とに基づいて、通常の発電モータ指令電力(以下、単に発電モータ指令電力という)を求める。また、発電モータ指令電力設定部27は、回転数センサ18の検出値に基づいて、エンスト防止用発電モータ指令電力を求める。
【0041】
図4は、発電モータ指令電力設定部27により実行される発電モータ指令電力設定処理の手順を示すフローチャートである。なお、本処理では、クラッチ4は常につながった状態となっている。
【0042】
同図において、まずエンジン指令回転数設定部24により得られたエンジン指令回転数と、回転数センサ18により検出された発電モータ実回転数とを入力する(手順S101)。なお、エンジン2と発電モータ3とは同軸上に配置されているため、発電モータ実回転数は、エンジン2の実際の回転数(エンジン実回転数)と等しい。このため、発電モータ実回転数の代わりに、エンジン実回転数を直接検出しても良い。
【0043】
続いて、下記式によりエンジン回転数制御偏差を算出する(手順S102)。
エンジン回転数制御偏差=エンジン指令回転数−発電モータ実回転数
【0044】
続いて、エンジン回転数制御偏差が予め設定された閾値Aよりも小さいかどうかを判断する(手順S103)。エンジン回転数制御偏差が閾値Aよりも小さいと判断されたときは、例えば図5(a)に示すような発電電力制限率マップを用いて、エンジン回転数制御偏差に応じた発電電力制限率を求める(手順S104)。
【0045】
発電電力制限率マップは、エンジン回転数制御偏差と発電電力制限率との関係を表すマップである。図5(a)に示す発電電力制限率マップは、エンジン回転数制御偏差がPrpmまでは発電電力制限率が100%であり、エンジン回転数制御偏差がPrpmを越えると発電電力制限率がエンジン回転数制御偏差に比例して下がり、エンジン回転数制御偏差がP(>P)rpm以上になると発電電力制限率が0%になるように設定されている。
【0046】
続いて、走行モータ電力検出器20により検出された走行モータ電力を入力する(手順S105)。そして、上記(A)式を用いて走行要求電力を算出する(手順S106)。
【0047】
続いて、発電電力制限率及び走行要求電力を用いて、下記式により発電モータ指令電力を算出する(手順S107)。この時の発電モータ指令電力は、発電モータ3を発電機モードとして動作させて、走行モータ11を駆動するための指令発電電力である。
発電モータ指令電力=走行要求電力*発電電力制限率/100
【0048】
上記の手順S103でエンジン回転数制御偏差が閾値A以上であると判断されたときは、バッテリ放電電力制限値決定部26により得られたバッテリ放電電力制限値と、走行モータ電力検出器20により検出された走行モータ電力とを入力する(手順S108)。そして、バッテリ放電電力制限値及び走行モータ電力を用いて、下記式によりバッテリ放電余裕電力を算出する(手順S109)。
バッテリ放電余裕電力=バッテリ放電電力制限値−走行モータ電力
【0049】
続いて、バッテリ放電余裕電力が0より大きいかどうかを判断し(手順S110)、バッテリ放電余裕電力が0以下であるときは、本処理を終了する。バッテリ放電余裕電力が0より大きいときは、例えば図5(b)に示すような荷役アシスト要求電力マップを用いて、エンジン回転数制御偏差に応じた荷役アシスト要求電力を求める(手順S111)。
【0050】
荷役アシスト要求電力マップは、エンジン回転数制御偏差と荷役アシスト要求電力との関係を表すマップである。図5(b)に示す発電電力制限率マップは、エンジン回転数制御偏差がP(>P)rpmを越えると荷役アシスト要求電力が0kWからエンジン回転数制御偏差に比例して上がり、エンジン回転数制御偏差がP(>P)rpm以上になると荷役アシスト要求電力がQkWで一定となるように設定されている。
【0051】
続いて、バッテリ放電余裕電力が荷役アシスト要求電力よりも大きいかどうかを判断し(手順S112)、バッテリ放電余裕電力が荷役アシスト要求電力よりも大きいときは、荷役アシスト要求電力を発電モータ指令電力に設定する(手順S113)。バッテリ放電余裕電力が荷役アシスト要求電力以下であるときは、バッテリ放電余裕電力を発電モータ指令電力に設定する(手順S114)。手順S113,S114で決定された発電モータ指令電力は、発電モータ3を電動機モードとして動作させて、エンジン2の出力をアシストするための指令駆動電力である。
【0052】
図6は、発電モータ指令電力設定部27により実行されるエンスト防止用発電モータ指令電力設定処理の手順を示すフローチャートである。なお、本処理でも、クラッチ4は常につながった状態となっている。
【0053】
同図において、回転数センサ18により検出された発電モータ実回転数(エンジン実回転数)を入力する(手順S121)。そして、発電モータ実回転数がアイドル回転数(例えば750rpm)以下であるかどうかを判断し(手順S122)、発電モータ実回転数がアイドル回転数以下でないときは、本処理を終了する。
【0054】
発電モータ実回転数がアイドル回転数以下であるときは、例えば図7に示すようなエンスト防止要求電力マップを用いて、発電モータ実回転数(エンジン実回転数)に応じたエンスト防止要求電力を求め、このエンスト防止要求電力を発電モータ指令電力に設定する(手順S123)。
【0055】
エンスト防止要求電力マップは、エンジン実回転数とエンスト防止要求電力との関係を表すマップである。図7に示すエンスト防止要求電力マップは、エンジン実回転数がR〜Rrpmのときは、エンジン実回転数が下がるに従ってエンスト防止要求電力が高くなり、エンジン実回転数がRrpm以下になると、エンスト防止要求電力がSkWで一定となるように設定されている。
【0056】
図3に戻り、発電モータ駆動制御部28は、上記のように発電モータ指令電力設定部27により設定された発電モータ指令電力に応じた駆動指令信号を発電モータ3に出力する。このとき、発電モータ3を電動機モードで動作させる際に、エンスト防止要求電力によるアシスト動作は、荷役アシスト要求電力によるアシスト動作に優先して実施される。
【0057】
走行モータ指令電力設定部29は、アクセルセンサ15及び発電モータ電力検出器19の検出値と、バッテリ放電電力制限値決定部26により得られたバッテリ放電電力制限値とに基づいて、走行モータ9に対して要求される走行モータ指令電力を求める。走行モータ指令電力設定部29は、アクセルセンサ15によりアクセル14の操作が検出されたときに走行モータ指令電力を求める。
【0058】
このとき、走行モータ指令電力設定部29は、バッテリ放電電力制限値の超過を防ぐために走行モータ指令電力を制限する。具体的には、走行モータ指令電力設定部29は、バッテリ放電電力制限値と発電モータ電力との差分(バッテリ放電電力制限値−発電モータ電力)を算出し、その差分が0よりも大きいときは、当該差分を走行モータ指令電力に設定し、バッテリ放電電力制限値と発電モータ電力との差分が0以下であるときは、走行モータ指令電力を0とする。
【0059】
走行モータ駆動制御部30は、走行モータ指令電力設定部29により設定された走行モータ指令電力に応じた駆動指令信号を走行モータ9に出力する。
【0060】
以上において、荷役レバーセンサ17、走行モータ電力検出器20、ECU22のエンジン指令回転数設定部24及びエンジン駆動制御部25は、エンジン2の指令回転数を決定し、当該指令回転数に応じてエンジン2を制御するエンジン制御手段を構成する。回転数センサ18は、エンジン2の実回転数を検出する回転数検出手段を構成する。ECU22の発電モータ指令電力設定部27における上記手順S101,S102は、エンジン2の指令回転数とエンジン2の実回転数との偏差を算出する偏差算出手段を構成する。走行モータ電力検出器20、ECU22の発電モータ指令電力設定部27における上記手順S104〜S107、同発電モータ駆動制御部28は、エンジン2の指令回転数とエンジン2の実回転数との偏差に応じて、走行モータ11を駆動するための発電電動機3の発電電力を制限するように、発電電動機3を制御する発電制御手段を構成する。
【0061】
また、ECU22の発電モータ指令電力設定部27における上記手順S103は、エンジン2の指令回転数とエンジン2の実回転数との偏差が所定値よりも小さいかどうかを判断する判断手段を構成する。走行モータ電力検出器20、バッテリ状態検出器21、ECU22のバッテリ放電電力制限値決定部26、同発電モータ指令電力設定部27における上記手順S108〜S114、同発電モータ駆動制御部28は、判断手段によりエンジン2の指令回転数とエンジン2の実回転数との偏差が所定値よりも大きいと判断されたときに、エンジン2の指令回転数とエンジン2の実回転数との偏差に応じて、エンジン2による荷役ポンプ5の駆動を発電電動機3によりアシストするように、発電電動機3を制御する第1アシスト制御手段を構成する。
【0062】
さらに、ECU22の発電モータ指令電力設定部27における上記手順S121〜S123、同発電モータ駆動制御部28は、エンジン2の実回転数がアイドル回転数よりも低くなったときに、エンジン2の実回転数に応じて、エンジン2による荷役ポンプ5の駆動を発電電動機3によりアシストするように、発電電動機3を制御する第2アシスト制御手段を構成する。
【0063】
また、発電モータ電力検出器19、バッテリ状態検出器21、ECU22のバッテリ放電電力制限値決定部26、走行モータ指令電力設定部29及び走行モータ駆動制御部30は、走行モータ9の駆動電力と発電電動機3の駆動電力との合計がバッテリ11の放電電力制限値を越えないように走行モータ9を制御する走行制御手段を構成する。
【0064】
以上のように構成したフォークリフト1において、走行単独動作時には、基本的に発電モータ3は発電機モードとして動作し、走行負荷に応じた発電が発電モータ3により行われ、その発電に必要な分だけエンジン2が回転している状態となる。その状態で、荷役レバー16が操作されることで、リフトシリンダ7によりリフト動作が行われると、荷役負荷がエンジン2に印加されるため、エンジン2の回転数が下がり、エンジン指令回転数とエンジン実回転数との偏差が大きくなる。このとき、荷役負荷が高くなるほど、エンジン2の回転数の低下が増大する。
【0065】
本実施形態では、エンジン指令回転数とエンジン実回転数との偏差(エンジン回転数制御偏差)に応じて発電電力を制限するような発電モータ指令電力が設定され、この発電モータ指令電力に応じて発電モータ3が制御される。従って、エンジン2にかかる発電負荷が低減されるため、エンジン2の回転数の低下が抑えられる。これにより、リフト速度(荷役速度)の低下が防止されるため、運転者に違和感を感じさせることが無い。
【0066】
また、エンジン回転数制御偏差が更に大きくなると、荷役性能を維持するために、発電モータ3は電動機モードとして動作し、エンジン2による荷役ポンプ5の駆動を発電モータ3によりアシスト(荷役アシスト)するような発電モータ指令電力が設定され、この発電モータ指令電力に応じて発電モータ3が制御される。この場合には、走行モータ9の駆動に必要な電力は、全てバッテリ11から供給されることになる。
【0067】
従って、バッテリ放電電力制限値と走行モータ電力との差分をとってバッテリ放電余裕電力が算出され、バッテリ放電電力に余裕があるときは、そのバッテリ放電余裕電力の範囲内で荷役アシストが実施され、バッテリ放電電力に余裕がないときは、荷役アシストが実施されないこととなる。
【0068】
また、走行停止状態において高負荷の荷役動作を行う際には、発電モータ3は電動機モードとして動作し、発電モータ3により荷役アシストが行われるため、バッテリ11は放電している状態にある。この状態でアクセル14が操作されると、走行モータ電力が発生する。このとき、走行モータ電力と発電モータ電力との合計がバッテリ放電電力制限値を超過しないように、バッテリ放電電力制限値と発電モータ電力との差分をとって走行モータ指令電力が設定され、その走行モータ指令電力に応じて走行モータ9が制御されることで、走行モータ9の駆動が制限されるようになる。
【0069】
なお、走行単独動作時においても、走行モータ電力がバッテリ放電電力制限値を越えることが無いように、バッテリ放電電力制限値と発電モータ電力との差分をとって走行モータ指令電力が設定されることで、走行モータ9の駆動が制限される。
【0070】
さらに、エンジン実回転数がアイドル回転数より下がったときは、エンジン実回転数に応じたエンスト防止要求電力が設定され、そのエンスト防止要求電力に応じて発電モータ3が制御されることにより、発電モータ3によるエンスト防止アシストが実施されるようになる。
【0071】
以上のように本実施形態によれば、走行中に荷役負荷が印加されたときに、エンジン指令回転数とエンジン実回転数との偏差の増加に従って発電モータ3による発電電力を減少させるようにしたので、エンジン2の回転数の低下が抑えられ、荷役速度の低下が抑制される。これにより、荷役性能を低下させること無く、走行・荷役同時動作を実施することができる。
【0072】
また、走行モータ電力と発電モータ電力との和がバッテリ放電電力制限値を超過しないように走行モータ9及び発電モータ3の駆動を制限するようにしたので、バッテリ放電電力制限値範囲内で電力を限界まで使用しながら、走行・荷役同時動作を実施することができる。
【0073】
そのように適切な走行・荷役同時動作が実現可能となるので、走行負荷及び荷役負荷に対して必要なパワーを得るためにエンジンを大型化しなくて済み、小型エンジンを使用して燃費の向上を図ることができる。
【0074】
また、エンジン2の回転数がアイドル回転数より下がったときは、発電モータ3によるアシストを最優先で実施するようにしたので、例えばエンジン2の低回転からの突発的な負荷変動によるエンジン2の回転数低下が発生しても、エンストを防止することができる。
【0075】
さらに、温度や充電状態により変動するバッテリ放電電力制限値が常に守られるので、バッテリ11を確実に保護することができる。また、エンジン指令回転数と発電モータ実回転数との偏差を算出して発電モータ指令電力を求めるので、荷役負荷を検出・推定するための圧力センサ等の部品を追加しなくて済み、低コスト化を図ることができる。
【0076】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、フォークをリフトさせる荷役動作のみ説明したが、本発明は、リフト以外の荷役動作、例えばフォークをティルト(前後傾)させるものや、他のアタッチメント(回転クランプ等)を動作させるものにも適用可能である。
【符号の説明】
【0077】
1…フォークリフト(荷役車両)、2…エンジン、3…発電モータ(発電電動機)、5…荷役ポンプ、7…リフトシリンダ(荷役アクチュエータ)、9…走行モータ、11…バッテリ、17…荷役レバーセンサ(エンジン制御手段)、18…回転数センサ(回転数検出手段)、19…発電モータ電力検出器(走行制御手段)、20…走行モータ電力検出器(エンジン制御手段、発電制御手段、第1アシスト制御手段)、21…バッテリ状態検出器(第1アシスト制御手段、走行制御手段)、22…ECU、23…駆動制御装置、24…エンジン指令回転数設定部(エンジン制御手段)、25…エンジン駆動制御部(エンジン制御手段)、26…バッテリ放電電力制限値決定部(第1アシスト制御手段、走行制御手段)、27…発電モータ指令電力設定部(偏差算出手段、判断手段、発電制御手段、第1アシスト制御手段、第2アシスト制御手段)、28…発電モータ駆動制御部(発電制御手段、第1アシスト制御手段、第2アシスト制御手段)、29…走行モータ指令電力設定部(走行制御手段)、30…走行モータ駆動制御部(走行制御手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、発電電動機と、前記エンジン及び前記発電電動機と同軸上に配置された荷役ポンプと、前記荷役ポンプからの作動油により駆動される荷役アクチュエータと、走行動作を行うための走行モータと、前記発電電動機及び前記走行モータに駆動電力を供給するバッテリとを備えた荷役車両の駆動制御装置において、
前記エンジンの指令回転数を決定し、当該指令回転数に応じて前記エンジンを制御するエンジン制御手段と、
前記エンジンの実回転数を検出する回転数検出手段と、
前記エンジンの指令回転数と前記エンジンの実回転数との偏差を算出する偏差算出手段と、
前記エンジンの指令回転数と前記エンジンの実回転数との偏差に応じて、前記走行モータを駆動するための前記発電電動機の発電電力を制限するように、前記発電電動機を制御する発電制御手段とを備えることを特徴とする荷役車両の駆動制御装置。
【請求項2】
前記エンジンの指令回転数と前記エンジンの実回転数との偏差が所定値よりも小さいかどうかを判断する判断手段を更に備え、
前記発電制御手段は、前記判断手段により前記エンジンの指令回転数と前記エンジンの実回転数との偏差が前記所定値よりも小さいと判断されたときに、前記エンジンの指令回転数と前記エンジンの実回転数との偏差に応じて、前記走行モータを駆動するための前記発電電動機の発電電力を制限するように、前記発電電動機を制御することを特徴とする請求項1記載の荷役車両の駆動制御装置。
【請求項3】
前記判断手段により前記エンジンの指令回転数と前記エンジンの実回転数との偏差が前記所定値よりも大きいと判断されたときに、前記エンジンの指令回転数と前記エンジンの実回転数との偏差に応じて、前記エンジンによる前記荷役ポンプの駆動を前記発電電動機によりアシストするように、前記発電電動機を制御する第1アシスト制御手段を更に備えることを特徴とする請求項2記載の荷役車両の駆動制御装置。
【請求項4】
前記第1アシスト制御手段は、前記走行モータの駆動電力と前記発電電動機の駆動電力との合計が前記バッテリの放電電力制限値を越えないように前記発電電動機を制御することを特徴とする請求項3記載の荷役車両の駆動制御装置。
【請求項5】
前記エンジンの実回転数がアイドル回転数よりも低くなったときに、前記エンジンの実回転数に応じて、前記エンジンによる前記荷役ポンプの駆動を前記発電電動機によりアシストするように、前記発電電動機を制御する第2アシスト制御手段を更に備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の荷役車両の駆動制御装置。
【請求項6】
前記走行モータの駆動電力と前記発電電動機の駆動電力との合計が前記バッテリの放電電力制限値を越えないように前記走行モータを制御する走行制御手段を更に備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の荷役車両の駆動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−105125(P2011−105125A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261926(P2009−261926)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】