説明

規則性メソポーラス炭素−ケイ素ナノ複合材料の合成

規則性メソ多孔質炭化ケイ素(OMSiC)ナノ複合材料の調製方法には、フェノール樹脂、前加水分解したオルトケイ酸テトラエチル、界面活性剤、およびブタノールを含む前駆体組成物の蒸発誘起性の自己組織化を使用することが好ましい。前駆体混合物を乾燥し、架橋し、加熱して、中程度の大きさの細孔の規則的離散領域を有する規則性メソ多孔質炭化ケイ素材料を形成する。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、「規則性メソポーラス炭素−ケイ素ナノ複合材料の合成(Synthesis Of Ordered Mesoporous Carbon-Silicon Nanocomposites)」という発明の名称で2008年8月13日に出願した米国特許出願第12/190,867号の優先権を主張する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、規則性メソ多孔質炭化ケイ素ナノ複合材料の形成方法に関する。
【背景技術】
【0003】
規則性メソ多孔質炭化ケイ素ナノ複合材料は、界面活性剤、油、炭素前駆体、およびシリカ前駆体のうち少なくとも1つを含む水性の前駆体組成物を使用して作られる。本発明の方法は、得られたナノ複合材料のメソポーラス構造、寸法、表面積およびマクロスケールの形態のほか、合成の際の無機相の調節も提供する。
【0004】
非酸化物セラミックは、数々の有利な電気的、機械的および他の機能特性を有することから、調査研究の対象となっている。例えば炭化ケイ素(SiC)は、高温における機械的安定性、高硬度、および優れた熱伝導性を兼ね備えた半導体材料である。その化学的不活性および過酷な環境に耐える能力を理由に、触媒担体としての用途が考慮されてきた。しかしながら、市販の炭化ケイ素は、触媒用途には不向きな低い比表面積を有する。結果として、高表面積の炭化ケイ素を調製するための新しい方法が開発されている。
【0005】
高表面積の炭化ケイ素を調製するための技術の1つは、SiC前駆体を用いて高表面積のシリカを浸透させ、続いてHFでエッチングすることによりシリカテンプレートを除去する方法である。この方法の例として、炭化ケイ素前駆体の化学的蒸気または液体への浸透、またはナノサイズのシリカのテンプレートへの浸透が挙げられる。このような方法は、不規則な構造を有する高表面積の炭化ケイ素の形成に使用することができる。
【0006】
高表面積の炭化ケイ素を調製するためのさらなる方法としては、多孔質の炭素基材へのシリカ前駆体の浸透が挙げられる。C/SiO2のモル比を調整することにより、多孔質の不規則な結晶質SiCナノ粒子およびナノファイバを形成することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のことを考慮して、開(高表面積)骨格を備えた規則的な多孔質の炭化ケイ素材料の調製に関心が寄せられている。触媒作用に加えて、これらの材料は、燃料電池および太陽電池、ならびに吸着および/または分離化学を含めた用途に用いることができる。これらの材料の構造および形態の両方における多用途性は非常に望ましいことから、処理能力が強化された、改善された安価な合成法を提供することは有利であろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、出願人は、炭素およびケイ素前駆体、非イオン性の界面活性剤、および油(例えば水非混和性の液体)を含む水性の前駆体混合物を形成し、前記前駆体混合物を乾燥および架橋して中間生成物を形成し、前記架橋中間体を加熱することにより、規則性メソ多孔質炭化ケイ素材料を調製することができることを、思いがけなく見出した。加熱工程は、3つの反応:1)炭素前駆体の炭化、2)シリカ前駆体の凝縮、および3)前駆体の炭素熱還元を推進し、炭化ケイ素を形成する。
【0009】
前駆体混合物を調製した後、かつ、炭素およびケイ素前駆体を架橋する前に、界面活性剤を自己組織化させて前駆体のためのテンプレートを形成し、これが、界面活性剤の加熱および除去の際に、中程度の大きさの多孔質の規則化領域を含む炭化ケイ素複合材料を形成する、中程度の大きさの液晶相を規定する。
【0010】
規則性メソ多孔質炭化ケイ素ナノ複合材料は、約2〜50nmの大きさの細孔が三次元的に規則化および相互接続した配列を含む。これらの材料は、約2200m2/gと同じくらい高いBET比表面積を示す場合があり、典型的には、不活性雰囲気において優れた熱安定性を示し、酸および塩基による攻撃に対し強い抵抗を示す。
【0011】
本発明の付加的な特徴および利点は、以下の詳細な説明に記載され、一部にはその説明から当業者にとって容易に明らかとなり、あるいは、以下の詳細な説明、特許請求の範囲、ならびに添付の図面を含めた本明細書に記載される本発明を実施することによって認識されよう。
【0012】
前述の概要および以下の詳細な説明は本発明の実施の形態を提案し、特許請求の範囲に記載される本発明の本質および特性を理解するための概観または枠組みを提供することの両方が意図されていることが理解されるべきである。添付の図面は、本発明のさらなる理解を提供するために含まれ、本明細書に取り込まれ、その一部を構成する。図面は、本発明のさまざまな実施の形態を例証しており、説明と共に、本発明の原理および動作を説明うる役割をする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1A】900℃で加熱した後の規則性メソポーラスSiCサンプルの広角X線回折パターン。
【図1B】1600℃で加熱した後の規則性メソポーラスSiCサンプルの広角X線回折パターン。
【図2A】900℃で加熱した後の規則性メソポーラスSiCサンプルの低角X線回折パターン。
【図2B】1600℃で加熱した後の規則性メソポーラスSiCサンプルの低角X線回折パターン。
【図3A】1300℃または1450℃で加熱した後の規則性メソポーラスSiCサンプルの低角XRD反射。
【図3B】1300℃または1450℃で加熱した後の規則性メソポーラスSiCサンプルの広角XRD反射。
【図4】600℃、900℃または1600℃で加熱した後の規則性メソポーラスSiCサンプルの29Si MAS NMRスペクトルのプロット。
【図5】異なる炭素熱条件下で形成された規則性メソポーラスSiCサンプルのSEM顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、一般に、蒸発誘起性の自己組織化によって規則性メソポーラスケイ素−炭素ナノ複合材料を形成する方法に関する。好ましい方法は、炭素前駆体としてのフェノール樹脂、無機(ケイ素)前駆体としての前加水分解したオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、界面活性剤としての3ブロック共重合体、および油相としてのブタノールを含む配合物の熱処理を含む。
【0015】
本発明の方法に従って、規則化細孔構造を有するナノ複合材料が提供され、ここで、配合における炭素/ケイ素含量は、フェノール樹脂/オルトケイ酸テトラエチルの質量比を調整することによって変えることができる。
【0016】
窒素(またはアルゴン)下におけるナノ複合材料の熱処理は、900℃において、主に非晶質の炭素およびSiO2を生じるが、1300℃よりも高い処理温度では、多結晶β−炭化ケイ素および少量の非晶質炭素を含む、規則性メソ多孔質炭化ケイ素(OMSiC)が形成される。1600℃における熱処理は、最少量の残留炭素とともに、多結晶β−炭化ケイ素を生成する。一定のメゾスコピックd−スペーシングおよび不変の正規化質量からも明らかなように、細孔構造は、SiO2のSiCへの転換の間に(900℃〜1600℃)変化しないことが有利である。
【0017】
本明細書では、炭化とは、有機物質が熱分解を通じて炭素または炭素含有残基に転換されることをいう。炭素熱還元とは、高温における炭素との反応を介した、物質の還元のことをいう。
【0018】
本発明の方法によれば、得られたOMSiCは、幅広いOMSiC構造を可能にする、元々のメソポーラスC/SiO2構造を再現する。残留炭素は、空気中で焼成することによって除去することができ、規則化された細孔配置を有する白みがかった灰色結晶質のβ−炭化ケイ素を生じうる。
【0019】
従来のナノ複合材料の合成方法と比較した、本発明のこれらおよび他の態様および利点を以下にまとめる:
・本発明の方法は、無機テンプレートの使用を排除し、これによって調製工程の数、およびこれらの材料の生産に関する費用を低減することが可能である。無機テンプレートの必要性を回避することによって、本方法は、強塩基および/またはHFエッチングに依存せずに済む。・900℃〜1600℃の温度範囲での炭素熱還元は、一定のメゾスコピックd−スペーシングおよび不変質量を示す(表面積および細孔体積に正規化した)。これは、得られたOMSiCが元のメソポーラスC/SiO2構造を複製するという結果を支持している。このような複製は、優れたプロセス柔軟性および構造進化の制御を備えた、幅広いOMSiC構造を可能にする。
【0020】
・炭素熱還元を通じたメソ多孔性の熱安定性は、メソポーラス耐火物の金属酸化物の研究に対して明暗を有し、結晶質の相転移(例えばチタニア中のアナターゼからルチルへの転移)または単純な粒成長はメソポーラス構造に損傷を与える。
【0021】
・アルゴン中で前駆体混合物を加熱することによって、約1200〜1600℃のプロセス温度範囲にわたり、六角形に規則化した細孔構造を有する多結晶β−炭化ケイ素が得られる。
【0022】
・N2中で前駆体混合物を加熱することにより、約1300〜1600℃のプロセス温度範囲にわたり、六角形に規則化した細孔構造を有する多結晶β−炭化ケイ素および結晶質のSixy(50%)を得ることができる。
【0023】
・前駆体混合物を約1600℃の温度まで加熱することによって、高表面積(600〜800m2/g)の規則性メソ多孔質炭化ケイ素材料を調製することができる。
【0024】
・酸素(例えば大気)中で焼成することによって、残留炭素を除去することができ、規則化細孔構造および高表面積を保持しつつ、白みがかった灰色結晶質のβ−炭化ケイ素を得ることができる。
【0025】
・前駆体混合物の組成、溶媒の選択、湿度、架橋結合条件、炭化、炭素熱および炭化後の状態などの実験変数およびプロセス変数によって、炭化ケイ素メソ細孔構造を調節することができる。
【0026】
本発明の他の態様および利点を以下に開示する:
材料
OMSiCナノ複合材料では、幾つかの異なる出発配合物を使用して、六角形に規則化した細孔構造を形成することができ、ここで、炭素/ケイ素含量はフェノール樹脂/オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)の質量比を調整することによって変化する。
【0027】
本発明の方法に用いられる前駆体混合物は、例えば、炭素前駆体、無機(Si)前駆体、界面活性剤、および油を含む。好ましい炭素前駆体は、2つの異なる分子量種(GPCデータ、Mn 〜2800および〜1060)を含む510D50フェノール樹脂(Georgia Pacific)である。追加の適切な水溶性の炭素前駆体としては、他のフェノール樹脂、熱硬化性の炭水化物、ポリビニルアルコール、レゾルシン・ホルムアルデヒド、ペプチド両親媒性物質、脂質、および他の生物学的に生成する材料が挙げられる。好ましいケイ素前駆体としては、TEOSおよび他のポリカルボシランが挙げられる。
【0028】
有用な界面活性剤は、BASF,Inc.から市販されるPEOy−PPOx−PEOy3ブロック共重合体である。特にプルロニック(Pluronic(商標))F127(x=106、y=70)が、開示される本発明の方法と併せて用いられた。追加の非イオン性の界面活性剤としては「プルロニック」P123(x=20、y=70)、「プルロニック」F103(x=17、y=60)、「プルロニック」F108(x=127、y=50)、「プルロニック」F88(x=104、y=39)および「プルロニック」F65(x=19、y=29)が挙げられる。前駆体混合物に1つ以上の界面活性剤を含めてもよい。
【0029】
界面活性剤は、炭素およびケイ素前駆体のための一時的な、取り外し可能な有機テンプレートとして機能する。前駆体混合物に取り込まれる水および油の添加量は、その液晶相を通じた界面活性剤の自己組織化を操作し、同様に、得られた炭化ケイ素材料の構造および特性の操作にも用いることができる。特に、前駆体混合物の化学は、例えば、細孔直径および細孔体積の調節に使用することができる。
【0030】
PEOy−PPOx−PEOy3ブロック共重合体を含む前駆体混合物では、油はPPOブロックの膨張剤として作用する。油相の添加により、水性の混合物が二相系から三相系へと変化する。油相はまた、水、界面活性剤および前駆体組成物の範囲を拡張し、その範囲内では特定のメソ構造は安定である。前駆体混合物中の油の濃度を利用して、ミセル構造の疎水性部分の増大を調節することができ、得られた規則性メソ多孔質炭化ケイ素の細孔径および細孔のメソ構造を調節することもできる。
【0031】
油の例はブタノールである。しかしながら、ブタノールに代えて、または加えて、他の適切な油として、p−キシレン、オクタン、ヘキサデカン、ヘキサノール、ペンタノール、酢酸ブチル、メシチレンおよび1,3,5−トリメチルベンゼンが挙げられる。
【0032】
水は、加水分解を開始するのに用いられる酸の希釈剤として、または加水分解反応の生成物として、前駆体混合物に間接的に加えられうる。
【0033】
PEOy−PPOx−PEOy3ブロック共重合体を含む前駆体混合物では、水が存在する場合には、水はPEOブロックと相互作用し、炭素および/またはケイ素前駆体を含む相を増大させることによって、界面活性剤の自己組織化テンプレートに影響を与えうる。前駆体混合物中の水の濃度を利用して、架橋材料および熱処理後の生成物の両方におけるメソポーラスチャネルの組織化を調節することができる。
【0034】
合成
1つの実施の形態に従ったケイ素・炭素・ナノ複合材料は、以下の方法を用いて製造することができる。最初に3.7gのF127を無水エタノール(〜9ml)に加え、界面活性剤が少なくともある程度溶解するまで、加熱と同時に攪拌することによって配合210を調製した。次に、3mlのフェノール樹脂をゆっくりと加えた後、強攪拌した。その後、1.5mlのブタノールを混合物に加え、攪拌を続けた。
【0035】
別々のバイアルにおいて、1.9mlのTEOSを無水エタノール(〜1ml)および0.1mlの1.57N HClと混合した。TEOS溶液を20分間放置してTEOSを加水分解し、その後、2種類の溶液を混合した。合わせた混合物を室温で20〜30分間攪拌し、その後、るつぼに注ぎ、室温で少なくとも12時間乾燥し、150℃で24時間の過程で架橋した。
【0036】
高温のチューブ炉(Deltech Inc社(米国コロラド州デンバー所在))内のアルミナのるつぼにおいて、多重ステップの温度プログラムを用いて炭化および炭素熱還元を行った。温度プログラムの例は、(1)約2℃/分の速度で室温から400℃まで加熱し、(2)400℃で3時間保持し、(3)400℃から炭化(または炭素熱還元)温度まで約1℃/分で加熱し、(4)その上昇温度で3〜12時間保持し、(5)室温まで冷却する工程を含む。サンプルに残留炭素が含まれていた場合は、それらをさらに空気中または制御雰囲気内で、650℃に加熱し、残留炭素材料を酸化した。各配合を、N2流下で、典型的には、900、1300、1450または1600℃の温度で熱処理した。上述の通り、N2を用いた熱処理は(Arとは対照的に)、窒化ケイ素を形成する結果を生じうる。
【0037】
規則性メソポーラス炭素/SiO2複合材料は、シリカ成分の炭素熱還元によってSiCを形成する。還元は約1300℃で開始し、約1450℃で結晶化度の上昇を示し、約1600℃でよく規則化したβ−SiCを形成する。反応条件に応じて、α−SiC多形体も同様に形成されうる。
【0038】
一定のメゾスコピックd−スペーシング、および各サンプルの不変の正規化質量から明らかなように、細孔構造は、規則性メソポーラス炭素(OMC)/SiO2からSiCへの転換の間に変化しないことが有利である。よって、得られたOMSiCは、元のメソポーラスC/SiO2構造を保持する。形成されたままのOMSiC材料を追加的に処理することによって任意の残留炭素を除去して、規則性メソポーラスマイクロ構造を保持する純粋なSiCを形成することができる。
【0039】
炭素/シリカ比の影響
上記のように調製した配合物を、900℃または1600℃で最初に熱処理し、炭素およびシリカ含量について分析した。表1は、「プルロニック」F127、フェノール樹脂、前加水分解したTEOS、およびブタノールに基づいた初期の組成を示している。熱処理後、元素分析データからC/SiO2のモル比を計算した。表1に記載されるC/SiO2の値から、炭素のシリカに対する比が>3、すなわち約6〜20であることが分かる。
【表1】

【0040】
3より大きい炭素/シリカ比では、下記反応:
SiO2(s)+ 3c(s) → SiC(s)+2 CO(g)
によれば、炭素含量は、これらの組成についてのシリカの炭素熱還元にとって十分である。
【0041】
炭素熱還元の間の化学量論のC/SiO2混合物からのCO損失は、Si含量が30%から70%に増大すると共に、〜59%の質量損失を生じうる。表1に記載する炭素が豊富なサンプルでは、処理温度を1600℃まで上昇させると、Si含量が約60〜65%豊富化された。加熱の際にケイ素が損失されないと仮定すれば(SiO(g)の形成に起因して)、これは、複合材料の質量が高温処理の間に35〜40%低下したことを示している。
【0042】
X線回折
図1は、(a)900℃または(b)1600℃で3時間加熱したOMSiC配合物209〜211の広角XRD反射を示している。900℃の処理温度(図1(a))の後、明らかなSiC回折ピークは観察されなかったが、非晶質炭素の存在の明らかな兆候が存在した。対照的に、結晶質のSiCは、材料が1600℃に加熱された場合に検出された(図1(b))。β−SiCの(111)、(200)および(220)面の指標となりうる、2θ値35.6°、41.4°および59.9°における3つの回折ピークがはっきりと観察できる。1600℃で処理した後、これらの3つの配合物について、残留非晶質炭素相もまた検出される。
【0043】
図2は、図1に示すOMSiCサンプルの対応する低角粉末X線回折パターンを示している。データは、サンプルの細孔構造が、93〜100nmのd−スペーシングに非常に強い低角度ピークを有するとともに、メゾスコピックスケール上で規則化されることを示唆している。各それぞれの配合では、低角XRDにおける(100)ピークの位置は、900℃または1600℃で処理したサンプルについて、同じ状態のままであった。これは、炭素前駆体およびシリカ前駆体の熱処理の間のメソ細孔構造の並外れた熱耐久性を実証している。
【0044】
結晶質の炭化ケイ素の形成機構をさらによく解明するために、1600℃より低い幾つかの追加の熱処理温度についても試験した。図3は、N2下で3時間、1300℃または1450℃まで加熱処理し、その後、N2/O2混合下、650℃で随意的にか焼された、210の配合物についての(a)低角および(b)広角XRDを示している。
【0045】
低角XRD反射によれば、OMSiC−1300および1450は、すべての温度において非常に高いメソ細孔規則性を示している。広角X線回折パターンは、温度が1300℃を超える場合に、結晶質のSiCが観察されうることを示唆している。β−SiCの回折ピークは、温度が〜1450℃に近づくとさらに非常に強くなり、β−SiCがメソポーラスSiCの主成分であることを示唆している。2θ値35.6°、41.4°、59.9°および72°における4つの回折ピークがはっきりと観察され、これは、β−SiCの(111)、(200)、(220)および(311)面の指標となりうる。XRDデータに基づいて、炭素熱温度の上昇は、メソ細孔規則に大した影響を与えずに、SiC格子の結晶化度に明らかな改善を生じさせる。
【0046】
2下における炭化/炭素熱反応の後、N2/O2(2%)混合の制御雰囲気下、650℃で8時間、随意的な焼成工程を行い、残留炭素を除去した。焼成工程の例は、炭化後、炭素熱的還元後のサンプルを、酸素含有環境で約600〜700℃の温度に加熱することを含む。低レベルのO2で処理した後、サンプルの色が黒から白っぽい灰色に変化し、広角XRDは、1450℃サンプルの明らかなβ−SiC形成を示している。図3をさらに参照すると、一部の窒化ケイ素(Si34)は、1300および1450℃における炭素熱還元工程の間に形成される。
【0047】
NMR
2 流下、(i)600、(ii)900および(iii)1600℃で加熱処理したサンプルの29Si MAS NMRスペクトルを、図4(a)にプロットした。600℃のサンプルの拡大スペクトルを、破線で示したガウスフィットと共に、図4(b)に示す。この低い処理温度では、検出されたケイ素種のみが、中心が−105ppm近くにある共鳴を生じさせる(図4aの(i)および(ii)参照)。このピークの要因は、シリカ環境にある。図4(a)の600℃サンプルは、図4(b)のように拡大した場合に、3つのガウス共鳴の合計に適合しうる、追加の微細構造を示している。−111、−102および−94ppmの化学シフトにおけるこれらの3つのピークは、それぞれ、0、1つおよび2つのシラノールを有するシリカに相当する。
【0048】
より高い処理温度では、単一の新しい共鳴は、−20ppmの(図4aの化学シフト(iii))を有するように思われる。この共鳴はSiCに割り当てられ、この材料中に存在する実質的にすべてのケイ素が酸化物から炭化物に転換されたことを示唆している。
【0049】
XRDデータに関連する上記論述と一致して、窒化ケイ素(Si34)もまた、窒素中、1450℃で加熱されたサンプルで検出される。これらの材料の一部では、Si34含量は、−48ppm付近の29SiのNMR共鳴から生じるように、顕著であり、炭化ケイ素の形成を抑制する可能性が高い。
【0050】
物理吸着
900℃および1600℃に加熱した3つの配合物(配合物209、210および211)について、窒素およびアルゴン(N2およびAr)の物理吸着の測定を表2に示す。これらのサンプルの異なるOMC/SiO2比を表1に示す。物理吸着データによれば、これらの材料は、OMSiC−900では400〜500m2/g、OMSiC−1600については600〜900m2/gの高い比表面積を有する。
【0051】
炭化/炭素熱還元を1600℃で行った実施の形態では、サンプルは、900℃〜1600℃の温度範囲にわたり、35〜40%の質量損失を示している。質量損失に関して正規化することにより、測定した表面積は炭素熱還元プロセス全体を通じて安定な細孔の寸法と一致している。表2を参照すると、これらの材料はまた、3.9〜4.9nm(N2吸着)および5.6〜5.9nm(Ar吸着)の平均吸着細孔直径を有する、狭い細孔径分布を有している。
【0052】
5.7/1〜10.5/1のC/SiO2のモル比範囲にわたり、900℃に加熱されたサンプルの細孔窓サイズは、収着等温線のヒステリシスループおよび細孔径分布データを比較した場合、ほぼ等しい。ピーク細孔径は4.8nmから5.8nmへとわずかに変化し、これは、細孔構造におけるわずかな相違を示唆している。しかしながら、ピーク吸着細孔径は、炭素熱温度の上昇と共に増大する(表2のN2データ参照)。XRDからのd−スペーシングは劇的変化を示さないことから、細孔壁は、炭素熱温度の上昇に伴って低下すると考えられる。
【0053】
表2において、BJHとは、Barrett,JoynerおよびHalendaのモデルに従って計算した表面積(SA)、細孔体積(PV)および細孔直径(PD)データのことをいう。表面積(SA)データ(m2/g単位で示す)は、脱着累積表面積(DCSA)および吸着累積表面積(ACSA)の両方として表にまとめた。同じように、細孔体積データ(cc/g単位で示す)は、脱着累積細孔体積(DCPV)および吸着累積細孔体積(ACPV)の両方として表にまとめた。BJH吸着性の細孔直径(APD)(オングストローム単位)およびBJH最大細孔直径(MPD)(オングストローム単位)も表にまとめた。
【表2】

【0054】
SEM/TEM
走査電子顕微鏡法を用いて、サンプル209、210および211を評価した。209および211は両方とも粉末であったが、210は圧粉の劈開表面であった。900℃(図5(a))および1600℃(図5(b))で処理した2種類の配合物のSEM顕微鏡写真(210:左側の画像、および211:右側の画像)およびその対応するフーリエ変換を図5(a)および(b)に示す。
【0055】
SEMデータは、六角形の細孔の対称性を裏付けるフーリエ変換画像と共に、OMSiC−900℃および1600℃で処理したサンプルにおける、規則化した細孔構造を明らかにしている。これらのサンプルのすべてが六角形の細孔構造を有するが、SEMで観察され、状態図から予想されるように、サンプル210および211では、構造的規則性がより良好に画成されていた。細孔径は4.5〜5nmの範囲であった。
【0056】
サンプル210〜900の劈開断面の分析から、追加の相が明らかになった。この相は、残りの材料と比較してケイ素が豊富であった。しかしながら、細孔の配向は、相境界全体にわたり同じ状態のままであった。
【0057】
炭素熱還元の後、空気中で焼成プロセスを行った後、サンプル210および211について、透過電子顕微鏡法(TEM)を使用した。これらのサンプルは非導電性であったため、従来のSEM画像は不可能であった。図5(c)は、空気処理したOMSiCサンプル(1450℃で処理後、N2/O2(2%)下、650℃で8時間処理)の透過条件下で撮影した画像を示している。
【0058】
炭化ケイ素に代わる手段として、本開示の方法は、シリカ前駆体のための適切な無機前駆体を代わりに用いることによって、他の金属炭化物(例えばTiC、TaC、WCまたはW2C)を生産するように、容易に適合することができる。
【0059】
本発明の精神および範囲から逸脱することなく、さまざまな変更および変形を本発明に行いうることは、当業者にとって明らかであろう。本発明の精神および物質を取り込んだ開示される実施の形態の変更の結合、小結合および変形は、当業者によって想起されうることから、本発明は、添付の特許請求の範囲およびそれらの等価物の範囲内にあるすべてを含むものと理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
規則性メソ多孔質炭化ケイ素ナノ複合材料を形成する方法であって、
炭素前駆体、シリカ前駆体、界面活性剤、および油を含む前駆体混合物を形成し、
前記前駆体混合物を乾燥し、前記炭素前駆体およびシリカ前駆体を架橋して、界面活性剤系の自己組織化テンプレートと、前記テンプレートによって規則化された、炭素前駆体およびシリカ前駆体系のメソ構造相とを形成し、
前記前駆体を熱処理して、規則性メソ多孔質炭化ケイ素ナノ複合材料を形成する、
各工程を有してなる方法。
【請求項2】
前記炭素前駆体がフェノール樹脂を含み、前記シリカ前駆体が前加水分解したオルトケイ酸テトラエチルを含み、前記界面活性剤が3ブロック共重合体を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
炭素のシリカに対するモル比が3より大きいことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
中程度の大きさの多孔質の規則化領域を有する炭化ケイ素を含む、規則性メソ多孔質炭化ケイ素ナノ複合材料。
【請求項5】
前記ナノ複合材料が、六角形に規則化した細孔構造を有する多結晶β−炭化ケイ素を含むことを特徴とする請求項4記載の規則性メソ多孔質炭化ケイ素ナノ複合材料。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5a)】
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【図5b)】
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【図5c)】
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【公表番号】特表2011−530481(P2011−530481A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522989(P2011−522989)
【出願日】平成21年8月12日(2009.8.12)
【国際出願番号】PCT/US2009/004610
【国際公開番号】WO2010/019229
【国際公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】