説明

負のグース−ヘンシェンシフトを利用した光素子

【課題】 負のグース−ヘンシェンシフトを利用して光速度を遅延させる光素子を提供する。
【解決手段】 入射された光をガイドして出射する光導波路と、光導波路の一側に形成されている第1反射層と、光導波路の他側に形成されている第2反射層と、を備え、第1反射層及び第2反射層のうち少なくとも一つは、負のグース−ヘンシェンシフト特性を表す物質からなる光素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光素子に係り、より詳細には、負のグース−ヘンシェンシフト(negative Goos−Hanchen shift)を利用して光速度を遅延させる光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ及び情報機器の発達につれて情報の量は幾何級数的に増加しつつあり、現在の電気的通信網、コンピュータなどの技術力の発展速度を超えて、既に飽和状態に至っている。したがって、ぼう大な量の情報をさらに早く処理できる通信技術が必要になった。光は電磁波とは異なって電磁波干渉効果を排除するため、平行情報処理が可能であるという長所がある。電子素子より非常に速い光素子を利用して光コンピュータ、光ネットワークについての技術開発がなされており、多様な光素子についての研究が活発に進みつつある。
【0003】
一方、光は秒当たり約30万kmの速い速度で媒質に沿って伝播されるが、人間が使用する光回路で信号を伝達する手段として光を使用するため、信号の伝達速度は光の速度と同じであるといえる。これらの回路の設計で、設計者の必要に応じて信号の伝達速度を変化させる必要性があるが、従来の光速度遅延素子は、所望のほど光速度が遅延されるように調節できなく、かつ遅延される光速度も数十ナノ秒(ns)ほどで非常に微小であった。したがって、光速度の遅延程度を調節でき、かつ遅延速度を大きく延ばすことができる光速度遅延素子についての研究が多くなされている。
【0004】
光速度遅延素子についての研究は、干渉変調器を利用した位相調節方法、リング共振器を利用した速度遅延方法、光結晶構造の非線形性を利用した方法などが提示されている。特に、光結晶構造を利用する光速度遅延素子について多くの研究がなされている。
【0005】
光結晶構造を利用した光速度遅延素子は、周波数帯域幅の影響及び高次分散を考慮して、遅い光の群速度を持つように光結晶導波路を構成する。光結晶導波路の分散特性曲線を調べれば、コアとクラッディングとを通る光の分散特性曲線の間で非線形的な分散特性を示す領域を確認することができ、これを利用して光の群速度が遅い光速度遅延素子を製作できる。しかし、かかる光結晶導波路は、製造工程が非常に複雑で製造し難く、一度製造された素子は遅延特性を調節できないという問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする技術的課題は、負のグース−ヘンシェンシフトを利用して光速度を遅延させる、新たな概念の光素子を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の技術的課題を解決するための、本発明による光素子は、入射された光をガイドして出射する光導波路と、前記光導波路の一側に形成されている第1反射層と、前記光導波路の他側に形成されている第2反射層と、を備え、前記第1反射層及び前記第2反射層のうち少なくとも一つは、負のグース−ヘンシェンシフト特性を表す物質からなる。
【0008】
前記負のグース−ヘンシェンシフト特性を表す物質は、貴金属である。
【0009】
前記第1反射層及び前記第2反射層のうち負のグース−ヘンシェンシフト特性を表す物質からなる反射層は、前記光導波路と対向する一面にパターンが形成されており、前記パターンは、前記光導波路内の光の進行方向と直交する方向を持つライン状の凹凸が周期的に形成されているラインパターンである。
【0010】
前記光導波路は、電場の変化により屈折率が変わる物質からなり、前記光導波路は、CdTeなどのII−VI族化合物半導体で形成される。
【0011】
前記光導波路に電場を印加する電場印加手段をさらに備えて、前記電場印加手段を通じて前記光導波路に電場を印加して、前記光導波路を進む光の速度を調節できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光導波路の両側に負のグース−ヘンシェンシフト特性を表す物質からなる反射層を形成することによって、光導波路を進む光速度を遅延させることができる。特に、反射層にライン状の凹凸が周期的に形成されているラインパターンを形成することによって、グース−ヘンシェンシフトがさらに大きい負の値を持つようにすることができる。そして、光導波路が電場の印加によって屈折率が変わる物質からなるようにして、電場を印加して光の群速度を調節できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】グース−ヘンシェンシフトを説明するための図面である。
【図2】本発明による光素子についての望ましい一実施形態を概略的に示した図面である。
【図3】本発明による光素子に備えられる反射層の一例を概略的に示した図面である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、負のグース−ヘンシェンシフトを利用した光素子である。本発明を説明する前に、グース−ヘンシェンシフトについて先ず説明する。
【0015】
図1は、グース−ヘンシェンシフトを説明するための図面である。
【0016】
図1(a)に示したように、第1媒質で進行している光が屈折率の相異なる第2媒質に合えば、第1媒質と第2媒質との境界面で反射する。この時、入射光の反射地点は、必ずしも入射光と第1及び第2媒質の境界面とが合う地点であるものではない。
【0017】
さらに詳細に説明すれば、図1(b)に示したように、入射される光110が反射される地点は、入射された光が第1媒質と第2媒質との境界面に合う地点120より前方の地点130であるか、または後方の地点140でありうる。すなわち、光が入射された地点120より前方の地点130であるか、または後方の地点140から反射された光150、160が進む。これをグース−ヘンシェン効果といい、入射された光110が第1媒質と第2媒質との境界面に合う地点120と、反射された光が進む地点130、140との間の距離をグース−ヘンシェンシフトという。この時、前方の地点130から反射された光150が進む場合を、正のグース−ヘンシェンシフトといい、後方の地点140から反射された光160が進む場合を、負のグース−ヘンシェンシフトという。
【0018】
入射た光が正のグース−ヘンシェンシフトして反射されるか、または負のグース−ヘンシェンシフトして反射されるかは、第2媒質により決定されるが、負のグース−ヘンシェンシフト特性を表す物質は、金(Au)、銀(Ag)などの貴金属が主になっている。そして、どれほどグース−ヘンシェンシフトが起きるかは、第2媒質の構成物質以外に、入射された光の波長、入射角度、第2媒質表面形状などにより変化する。
【0019】
以下、添付した図面を参照して本発明による負のグース−ヘンシェンシフトを利用した光素子の望ましい実施形態について詳細に説明する。しかし、本発明は以下で開示される実施形態に限定されるものではなく、相異なる多様な形態で具現され、但し、本実施形態は本発明の開示を完全にし、かつ当業者に発明の範ちゅうを完全に知らせるために提供されるものである。
【0020】
図2は、本発明による光素子についての望ましい一実施形態を概略的に示した図面であり、図3は、本発明による光素子に備えられる反射層の一例を概略的に示した図面である。
【0021】
図2及び図3を参照すれば、本発明による光素子200は、光導波路210、第1反射層220、第2反射層230及び電場印加手段240を備える。
【0022】
光導波路210は、内部に入射された光をガイドして外部に出射する。光導波路210は、電場の変化により屈折率が変わる物質からなりうるが、望ましくは、kerr定数が大きくて、外部電場の変化により屈折率が相対的に多く変わる物質からなる。光導波路210が電場の変化により屈折率が変わる物質からなれば、外部から電場が印加された時、電気−光学的効果により光導波路210の内部で進む光の群速度を屈折率の変化で調節可能になる。したがって、光導波路210の内部を進む光の群速度を調節しやすくなる。特に、光導波路210がkerr定数の大きい物質からなれば、光の群速度をさらに調節しやすくなる。このために、光導波路210はII−VI族化合物半導体からなり、望ましくは、CdTeからなりうる。
【0023】
第1反射層220と第2反射層230とは、それぞれ光導波路210の一側及び他側に形成されて、光導波路210の内部を進む光を反射させる。第1反射層220及び第2反射層230のうち少なくとも一つは、負のグース−ヘンシェンシフト特性を表す物質からなる。本実施形態では、第1反射層220と第2反射層230とがいずれも負のグース−ヘンシェンシフト特性を表す物質からなる場合を示した。第1反射層220及び第2反射層230が負のグース−ヘンシェンシフト特性を表すように、第1反射層220及び第2反射層230は金、銀などの貴金属からなりうる。
【0024】
そして、第1反射層220及び第2反射層230は、負のグース−ヘンシェンシフト程度を大きくするために、光導波路210の対向面にパターンが形成されうる。ここで、パターンは、格子のように一面に凹凸が形成されている形態を意味する。第1反射層220及び第2反射層230に形成されているパターンは、図3に図示されているように、ライン状の凹凸が周期的に形成されているラインパターンでありうる。この時、各ラインの形成方向は、図3に示したように、光の進行方向と直交する方向に形成して初めて、負のグース−ヘンシェンシフト程度をさらに大きくすることができる。負のグース−ヘンシェンシフト程度は、入射される光の波長、入射角、パターンの形状などにより調節できる。ここで、パターンの形状は、前述したようにラインパターンであることが望ましく、ラインパターンの凹凸高さを調節して負のグース−ヘンシェンシフト程度を調節できる。
【0025】
このように、第1反射層220及び第2反射層230を負のグース−ヘンシェンシフト特性を表す物質で構成すれば、光導波路210の内部を進む光の群速度を遅延させることができる。例えば、図2の参照番号250で表示されたように、光が光導波路210内に入射される場合を仮定する。第1反射層220及び第2反射層230が負のグース−ヘンシェンシフト特性を表していない物質で構成された場合には、点線で表示された参照番号260のように、光が光導波路210内を進むようになる。しかし、第1反射層220及び第2反射層230が負のグース−ヘンシェンシフト特性を表す物質で構成された場合には、実線で表示された参照番号270のように、光が光導波路210内を進むようになる。すなわち、第1反射層220及び第2反射層230が負のグース−ヘンシェンシフト特性を表す物質で構成されれば、そうでない場合に比べてさらに後方から反射するので、光の全体進行経路が長くなる。したがって、光導波路210を進む光の群速度は遅延される効果を奏する。
【0026】
電場印加手段240は、光導波路210に電場を印加するものであって、電場印加手段240を利用して光導波路210に電場を印加することによって、光導波路210の屈折率を変化させることができる。第1反射層220及び第2反射層230がいずれも金属からなるので、電場印加手段240は、光導波路210に電場を印加するために複雑な構造を持つ必要がない。電場を印加して光導波路210の屈折率を変化させれば、前述したように、電気−光学的効果により光導波路210の内部で進む光の群速度を調節できる。そして、光導波路210の屈折率の変化を通じて負のグース−ヘンシェンシフト程度を調節できる。すなわち、電場印加手段240を通じて光導波路210に電場を印加することによって、光導波路210内を進む光の群速度を調節可能になる。
【0027】
従来の光結晶構造などを利用した光速度遅延素子は、素子の製作後に光の群速度を調節できないが、本発明による光素子200は、素子の製作後にも光導波路210に電場を印加して光の群速度を調節できるようになる。そして、本発明による光素子200は、光の波長、入射角、パターンの形状、印加される電場の強度などを調節して、光が遅延される時間を従来の光速度遅延素子に比べて顕著に長めることができる。本発明による光素子200は、OPCB(optical printed circuit board)、光集積化回路などで光速度を調節できる素子として利用され、光ネットワーク、光通信、光コンピュータシステムなどへの応用ができる。
【0028】
以上、本発明の望ましい実施形態について図示して説明したが、本発明は前述した特定の望ましい実施形態に限定されず、特許請求の範囲で請求する本発明の趣旨を逸脱せずに当業者ならば誰でも多様な変形実施が可能であるということはいうまでもなく、かかる変更は、特許請求の範囲に記載の範囲内にある。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、光素子関連の技術分野に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0030】
200 光素子
210 光導波路
220 第1反射層
230 第2反射層
240 電場印加手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射された光をガイドして出射する光導波路と、
前記光導波路の一側に形成されている第1反射層と、
前記光導波路の他側に形成されている第2反射層と、を備え、
前記第1反射層及び前記第2反射層のうち少なくとも一つは、負のグース−ヘンシェンシフト特性を表す物質からなることを特徴とする光素子。
【請求項2】
前記負のグース−ヘンシェンシフト特性を表す物質は、貴金属であることを特徴とする請求項1に記載の光素子。
【請求項3】
前記第1反射層及び前記第2反射層のうち負のグース−ヘンシェンシフト特性を表す物質からなる反射層は、前記光導波路と対向する一面にパターンが形成されていることを特徴とする請求項1に記載の光素子。
【請求項4】
前記パターンは、前記光導波路内の光の進行方向と直交する方向を持つライン状の凹凸が周期的に形成されているラインパターンであることを特徴とする請求項3に記載の光素子。
【請求項5】
前記光導波路は、電場の変化により屈折率が変わる物質からなることを特徴とする請求項1ないし4のうちいずれか1項に記載の光素子。
【請求項6】
前記光導波路は、II−VI族化合物半導体で形成されることを特徴とする請求項5に記載の光素子。
【請求項7】
前記II−VI族化合物半導体は、CdTeであることを特徴とする請求項6に記載の光素子。
【請求項8】
前記光導波路に電場を印加する電場印加手段をさらに備えることを特徴とする請求項1ないし4のうちいずれか1項に記載の光素子。
【請求項9】
前記電場印加手段を通じて前記光導波路に電場を印加して、前記光導波路を進む光の速度を調節することを特徴とする請求項8に記載の光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−164577(P2011−164577A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231867(P2010−231867)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(510273927)財団法人 中央大学校 産学協力団 (1)
【Fターム(参考)】