説明

超音波モータ

【課題】圧電素子の屈曲振動を積極的に使用することによりねじれ共振振動を効率よく発生させることのできる超音波モータを提供する。
【解決手段】振動子の回転軸方向に伸縮する縦1次共振振動と、回転軸をねじれ軸とするねじれ2次共振振動又はねじれ3次共振振動とを合成することにより、楕円振動を形成してなり、振動子の回転軸方向に伸縮する縦1次共振振動と、回転軸をねじれ軸とするねじれ2次共振振動又はねじれ3次共振振動と、の共振周波数がほぼ一致するように、振動子の矩形状の長さ比率を設定し、振動子は、中心軸に垂直な面内において複数の領域を有し、複数の領域は、中心軸に沿った方向における変位が隣り合う領域で互いに異なり、振動子は、その分極方向に沿った方向に伸縮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波モータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、下記特許文献1には、振動子の縦振動とねじれ振動を合成して楕円振動を発生させ、ロータを回転させる超音波モータが提案されている。そして、下記特許文献1の図1には、振動子の分解斜視図が描かれており、振動子軸方向に対し斜めにカッティングされた弾性体の間に複数枚の圧電素子が挿入された構成となっている。また、圧電素子の正電極は2分割されており、ここでは、それぞれA相、B相と称するものとする。
【0003】
ここで、A相とB相に同位相の交番電圧を印加することで、棒状振動子に縦振動を発生させることができる。また、A相とB相に逆位相の交番電圧を印加することで、棒状振動子にねじれ振動を発生させることができる。尚、振動子の溝位置を調整して縦振動の共振周波数と、ねじれ振動の共振周波数を、ほぼ一致するようにしておく。そして、A相とB相にπ/2位相の異なる交番電圧を印加すると、縦振動とねじれ振動が同時に発生し、棒状弾性体上面に楕円振動を発生させることができる。棒状弾性体上面にロータを押圧することにより、ロータを時計方向(CW方向)若しくは反時計方向(CCW方向)に回転させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−117168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された超音波モータは、その図1に示されるように、圧電素子と弾性体が必要になる、弾性体を斜めにカットしなければならない、縦振動とねじれ振動の周波数を合わせるために弾性体の一部に溝部を設けなければならない、構造が複雑であり組立性に難点がある等の課題があった。それ故、全体として振動子の構成が非常に複雑になり、ねじれ振動が発生しにくいという課題を有していた。
【0006】
したがって本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、圧電素子の屈曲振動を積極的に使用することによりねじれ共振振動を効率よく発生させることのできる超音波モータを提供することにある。また、本発明は、単一の部材からなり、構造が単純であり、溝部等が不要であり、縦振動とねじれ振動を容易に励起することができ、縦振動とねじれ振動を合成することにより楕円振動を形成し、楕円振動によりロータを回転させる超音波モータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る超音波モータは、中心軸に垂直な断面が矩形状の長さ比率を有する振動子と、振動子の楕円振動発生面に接して振動子の楕円振動発生面と直交する中心軸を回転軸として回転駆動されるロータと、を少なくとも備えた超音波モータであって、振動子の回転軸方向に伸縮する縦1次共振振動と、回転軸をねじれ軸とするねじれ2次共振振動又はねじれ3次共振振動とを合成することにより、楕円振動を形成してなり、振動子の回転軸方向に伸縮する縦1次共振振動と、回転軸をねじれ軸とするねじれ2次共振振動又はねじれ3次共振振動と、の共振周波数がほぼ一致するように、振動子の矩形状の長さ比率を設定し、振動子は、中心軸に垂直な面内において複数の領域を有し、複数の領域は、中心軸に沿った方向における変位が隣り合う領域で互いに異なり、振動子は、その分極方向に沿った方向に伸縮することを特徴としている。
【0008】
本発明に係る超音波モータにおいては、複数の領域の各領域は単一の方向に変位し、これにより、回転軸をねじれ軸とするねじれ2次共振振動が形成されることが好ましい。
【0009】
本発明に係る超音波モータにおいては、複数の領域の各領域は異なる方向の変位を含み、これにより、回転軸をねじれ軸とするねじれ3次共振振動が形成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る超音波モータは、圧電素子の縦振動を積極的に使用することによりねじれ共振振動を効率よく発生させることができるという効果を奏する。また、本発明の超音波モータにおいては、単一の部材からなり、構造が単純であり、溝部等が不要であり、縦振動とねじれ振動を容易に励起することができ、縦振動とねじれ振動を合成することにより楕円振動を形成し、楕円振動によりロータを回転させることができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態に係る超音波モータの構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る超音波モータの構成を示す分解斜視図である。
【図3】(a)は、第1実施形態に係る振動子の概略構成を示す斜視図、(b)は、ねじれ1次振動モードにおける振動状態を破線で示した斜視図、(c)は、縦1次振動モードにおける振動状態を破線で示した斜視図、(d)は、ねじれ2次振動モードにおける振動状態を破線で示した斜視図、(e)は、ねじれ3次振動モードにおける振動状態を破線で示した斜視図である。
【図4】振動子の高さを一定として、横軸を短辺の長さ/長辺の長さとしたときの各モードの共振周波数を表したグラフである。
【図5】第1実施形態に係る積層圧電素子の構成を示す分解斜視図である。
【図6】(a)は第1実施形態に係る第1圧電シートの構成を示す斜視図、(b)は第2圧電シートの構成を示す斜視図、(c)は第3圧電シートの構成を示す斜視図である。
【図7】(a)は第1実施形態に係る積層圧電素子を正面上方から見た斜視図、(b)は積層圧電素子を背面上方から見た斜視図である。
【図8】(a)は図7の積層圧電素子の左側面図、(b)は図7の積層圧電素子の右側面図である。
【図9】第1実施形態の積層圧電素子の各領域の変形を示す図であって、正面上方から見た斜視図である。
【図10】(a)は図9の積層圧電素子の左側面図、(b)は図9の積層圧電素子の変形状態を示す左側面図、(c)は図9の積層圧電素子の右側面図、(d)は図9の積層圧電素子の変形状態を示す右側面図である。
【図11】第2実施形態に係る積層圧電素子の構成を示す分解斜視図である。
【図12】(a)は第2実施形態に係る第1圧電シートの構成を示す斜視図、(b)は第2圧電シートの構成を示す斜視図、(c)は第3圧電シートの構成を示す斜視図である。
【図13】(a)は第2実施形態に係る積層圧電素子を正面上方から見た斜視図、(b)は積層圧電素子を背面上方から見た斜視図である。
【図14】(a)は図13の積層圧電素子の左側面図、(b)は図13の積層圧電素子の右側面図である。
【図15】第2実施形態に係る積層圧電素子の各領域の変形を示す図であって、正面上方から見た斜視図である。
【図16】(a)は図15の積層圧電素子の左側面図、(b)は図15の積層圧電素子の変形状態を示す左側面図、(c)は図15の積層圧電素子の右側面図、(d)は図15の積層圧電素子の変形状態を示す右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明に係る超音波モータの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0013】
(第1実施形態)
第1実施形態に係る超音波モータ100は、縦1次共振振動とねじれ2次共振振動の合成により楕円振動を発生させるものであり、図1、図2に示すように、振動子101及びロータ102を備える。
振動子101は、中心軸100c(回転軸)に垂直な断面が矩形状の長さ比率を有する、略直方体形状の圧電素子である。ロータ102は、略円板状をなし、その下面が振動子101の楕円振動発生面101aに設けた摩擦接触部材103a、103bに接し、振動子101の楕円振動発生面101aと直交する中心軸100cを回転軸として回転駆動される。
【0014】
振動子101へのロータ102の取り付け構造について説明する。
振動子101(圧電素子)の節近傍にはホルダ110が固着される。振動子101の楕円振動発生面101aとホルダ110との間には、シャフト105、ロータ102、ベアリング107、押圧バネ108、バネ押さえリング109が順に配置される。この配置は、中心軸100cに対して同心状に行われる。
【0015】
ロータ102の中央の凹部102aにはベアリング107が結合され、ロータ102とベアリング107には中心軸100cに沿うようにシャフト105が挿通される。シャフト105の下部は振動子101の楕円振動発生面101a上に接触配置される。
【0016】
ロータ102及びベアリング107に挿通されたシャフト105の上部先端は、押圧バネ108とバネ押さえリング109に順に挿通され、さらに、ホルダ110の上部の貫通穴110aを通って、ホルダ110の上方に配置されたシャフト固定リング111に螺合される。これにより、シャフト105はホルダ110に固定される。
【0017】
バネ押さえリング109とシャフト105はネジ溝によって互いに螺合されており、バネ押さえリング109を回転させてシャフト105に対する位置を変更することにより、押圧バネ108の力量を調節してロータ102の摩擦接触部材103a、103bへの押圧力量を調節することができる。
【0018】
次に、図3及び図4を参照して、超音波モータ10に使用される振動子101(圧電素子)の共振周波数の一致に関して説明する。
【0019】
図3(a)に示されるように、振動子101は略直方体形状であり、中心軸100cに直交する矩形状の断面の短辺101sの長さをa、長辺101fの長さをb、中心軸100cに沿った高さをcとしている。以下の説明では、高さ方向を、1次振動モードの振動の方向、かつ、ねじれ振動のねじれの軸方向とする。また、a、b、cの大小関係はa<b<cとする。
【0020】
振動子101においては、a、b、cの各寸法を適切な値とすることで、縦1次振動モードの共振周波数とねじれ2次振動モード、若しくはねじれ3次振動モードの、共振周波数をほぼ一致させている。
【0021】
ここで、図3(b)〜(e)には、ねじれ振動の方向p1、p2、縦振動の方向q、及び振動の節Nを示している。節Nは、ねじれ1次振動(図3(b))及び縦1次振動(図3(c))では高さ方向の中心位置に1つ存在し、ねじれ2次振動(図3(d))では高さ方向の2つの位置に存在し、ねじれ3次振動(図3(d))では高さ方向の3つの位置に存在する。
【0022】
また、図3(b)〜(e)において、実線は振動前の振動子101の形状を示しており、破線は振動後の振動子101の形状を示している。
【0023】
図4からわかるように、a/bを変化させた場合には、縦1次振動モードの共振周波数はa/bに依存せず、ほぼ一定の値をとるが、ねじれ振動の共振周波数は、a/b値の増加とともに大きくなっていく。
【0024】
また、ねじれ1次振動モードの共振周波数は、a/bがどのような値をとっても、縦1次振動モードの共振周波数と一致する条件はない。これに対して、ねじれ2次振動モードの共振周波数は、a/b値が0.6となる近傍で、縦1次振動モードの共振周波数と一致する。また、ねじれ3次振動モードの共振周波数は、a/b値が0.3の近傍となるところで、縦1次振動モードの共振周波数と一致する。したがって、第1実施形態の振動子101においては、縦1次ねじれ3次振動ではa/bが0.25〜0.35、縦1次ねじれ2次振動ではa/bが0.5〜0.6、となるように長さa、bをそれぞれ設定する。
【0025】
超音波モータ100においては、振動子101の中心軸100c(回転軸)方向に沿って伸縮する縦1次共振振動と、中心軸100cをねじれ軸とするねじれ2次共振振動又はねじれ3次共振振動と、を合成することにより、楕円振動を形成する。長さa、bの比(比率)は、振動子101の中心軸100c方向に伸縮する縦1次共振振動と、中心軸100cをねじれ軸とするねじれ2次共振振動又はねじれ3次共振振動と、の共振周波数がほぼ一致するように設定する。
【0026】
振動子101は、複数の圧電シートを積層した積層圧電素子120からなり、圧電シートの厚み方向に分極されてなる活性化領域により、縦1次共振振動と、ねじれ2次共振振動と、を発生する。以下に、図5から図8を参照して、振動子101を構成する積層圧電素子120の構成について説明する。ここで、図5は、積層圧電素子120の構成を示す分解斜視図である。図6(a)は第1圧電シート130の構成を示す斜視図、(b)は第2圧電シート140の構成を示す斜視図、(c)は第3圧電シート150の構成を示す斜視図である。図7(a)は、積層圧電素子120を正面上方から見た斜視図であり、(b)は積層圧電素子120を背面上方から見た斜視図である。図8(a)は図7の積層圧電素子120の左側面図、(b)は図7の積層圧電素子120の右側面図である。
【0027】
図5に示すように、積層圧電素子120は、厚み方向(図5の矢印S1方向)の最も上側から順に、2枚の第1圧電シート130、交互に積層された2組の第3圧電シート150及び第2圧電シート140、2枚の第1圧電シート130、を積層してなる。
【0028】
なお、積層圧電素子120を構成する圧電シートの数及び配置は、振動子101の仕様に合わせて任意に選択することができる。
【0029】
図6に示すように、第1圧電シート130、第2圧電シート140、及び第3圧電シート150は、矩形板状の同一形状を備える。第1圧電シート130、第2圧電シート140、及び第3圧電シート150としては、例えば、ハード系のチタン酸ジルコン酸鉛の圧電素子を用いる。第2圧電シート140及び第3圧電シート150からなる圧電素子は、内部電極を含み、厚み方向に分極されてなる活性化領域を有する。
【0030】
第2圧電シート140の上面には、印刷によって、内部電極が4つずつ形成されている。また、第3圧電シート150の上面にも、印刷によって、内部電極が4つずつ形成されている。
【0031】
以下、内部電極及び外部電極の具体的な構成について説明する。
図6(b)に示すように、第2圧電シート140には、+相の第1内部電極141a、+相の第2内部電極142a、+相の第3内部電極143a、及び+相の第4内部電極144aが形成されている。+相の第1内部電極141aと+相の第3内部電極143aは、第2圧電シート140の長手方向(図6の左右方向)の一端側において互いに対向するように離間して配置され、+相の第2内部電極142aと+相の第4内部電極144aは、第2圧電シート140の長手方向の他端側において互いに対向するように離間して配置されている。
【0032】
+相の第1内部電極141a、+相の第3内部電極143aは、その端部141b、143bが第2圧電シート140の長辺140L、140Rに露出するようにそれぞれ延びている。+相の第2内部電極142a、+相の第4内部電極144aは、その端部142b、144bが第2圧電シート140の長辺140L、140Rに露出するようにそれぞれ延びている。端部141bと端部143bは、第2圧電シート140の長手方向において、互いに対応する位置に配置され、端部142bと端部144bについても互いに対応するように配置されている。
【0033】
一方、第3圧電シート150には、図6(c)に示すように、−相の第1内部電極151a、−相の第2内部電極152a、−相の第3内部電極153a、及び−相の第4内部電極154aが形成されている。−相の第1内部電極151aと−相の第3内部電極153aは、第3圧電シート150の長手方向の一端側において互いに対向するように離間して配置され、−相の第2内部電極152aと−相の第4内部電極154aは、第3圧電シート150の長手方向の他端側において互いに対向するように離間して配置されている。
【0034】
−相の第1内部電極151a、−相の第3内部電極153aは、その端部151b、153bが第2圧電シート150の長辺150L、150Rに露出するようにそれぞれ延びている。−相の第2内部電極152a、−相の第4内部電極154aは、その端部152b、154bが第2圧電シート150の長辺150L、150Rに露出するようにそれぞれ延びている。端部151bと端部153bは互いに対応する位置に配置され、端部152bと端部154bについても互いに対応するように配置されている。
【0035】
+相の第1内部電極141aと−相の第1内部電極151a、+相の第2内部電極142aと−相の第2内部電極152a、+相の第3内部電極143aと−相の第3内部電極153a、+相の第4内部電極144aと−相の第4内部電極154a、は第2圧電シート140と第3圧電シート150を積層したときに、互いに対応する位置にそれぞれ形成されている。
【0036】
各内部電極の端部141b、142b、143b、144b、151b、152b、153b、154bには、例えば銀ペーストの印刷によって外部電極が形成される。
【0037】
端部141bに形成された外部電極は、積層圧電素子120の前面(正面)120F上の+相の第1外部電極群121Fを構成し、端部142bに形成された外部電極は、積層圧電素子120の前面120F上の+相の第4外部電極群124Fを構成する(図7、図8)。
【0038】
端部143bに形成された外部電極は、積層圧電素子120の背面120R上の+相の第1外部電極群121Rを構成し、端部144bに形成された外部電極は、積層圧電素子120の背面120R上の+相の第4外部電極群124Rを構成する。
【0039】
端部151bに形成された外部電極は、積層圧電素子120の前面120F上の−相の第2外部電極群122Fを構成し、端部152bに形成された外部電極は、積層圧電素子120の前面120F上の−相の第3外部電極群123Fを構成する。
なお、図1、図2においては外部電極の図示を省略している。
【0040】
端部153bに形成された外部電極は、積層圧電素子120の背面120R上の−相の第2外部電極群122Rを構成し、端部154bに形成された外部電極は、積層圧電素子120の背面120R上の−相の第3外部電極群123Rを構成する。
【0041】
これらの外部電極は、超音波モータ100の外部の電源(不図示)にそれぞれ接続される。接続には、例えばFPC(flexible print circuit)を用い、各電極群にFPCの一端を固着する。
【0042】
積層圧電素子120の前面120F又は背面120Rに形成された8個の外部電極は、+相の第1外部電極群121Fと−相の第2外部電極群122F、−相の第3外部電極群123Fと+相の第4外部電極群124F、+相の第1外部電極群121Rと−相の第2外部電極群122R、及び、−相の第3外部電極群123Rと+相の第4外部電極群124Rがそれぞれ対となり、4組の相を構成する。
【0043】
一方、積層圧電素子120は、中心軸100cに垂直な面内において、中心軸100cの周りを90度ごとに分けた、4つの領域120A、120B、120C、120Dを有する(図7、図8)。領域120Aは−相の第3外部電極群123Fと+相の第4外部電極群124Fの相に、領域120Bは−相の第3外部電極群123Rと+相の第4外部電極群124Rの相に、領域120Cは+相の第1外部電極群121Fと−相の第2外部電極群122Fの相に、領域120Dは+相の第1外部電極群121Rと−相の第2外部電極群122Rの相に、それぞれ対応する。
【0044】
この構成によれば、各相に対して外部の電源から信号を印加すると、信号に対応して各領域が単一方向にそれぞれ変位する。
【0045】
図9、図10を参照して、振動子101、積層圧電素子120の動作について説明する。図9は、積層圧電素子120の各領域の変形を示す図であって、正面上方から見た斜視図である。図10(a)は図9の積層圧電素子120の左側面図、(b)は図9の積層圧電素子120の変形状態を示す左側面図、(c)は図9の積層圧電素子120の右側面図、(d)は図9の積層圧電素子120の変形状態を示す右側面図である。図9、図10においては、外部電極の表示を省略している。
【0046】
図9、図10に示す例では、外部の電源から、第1外部電極群121Fと第2外部電極群122Fとの間、第3外部電極群123Fと第4外部電極群124Fとの間、第1外部電極群121Rと第2外部電極群122Rとの間、及び、第3外部電極群123Rと第4外部電極群124Rとの間、の各相にそれぞれ信号を印加し、これにより、領域120A、120Dをそれぞれ中心軸100cに沿った方向に伸びるように変位させ、領域120B、120Cをそれぞれ中心軸100cに沿った方向に縮むように変位させている。すなわち、積層圧電素子120は、中心軸100cに沿った方向において、隣り合う領域で互いに異なる方向に変位しており、変位方向は分極方向(積層方向S1)に沿った方向になっている。なお、各領域の変位方向は、隣り合う領域で互いに異なる方向になれば図9、図10に示す方向と異なっても良い。
【0047】
このように、4つの領域を変位させると、縦1次共振振動(図3(c))と、中心軸100cをねじれ軸とするねじれ2次共振振動(図3(d))と、の合成により、振動子101の高さ方向の両端面に楕円振動が発生する。したがって、摩擦接触部材103a、103bを介してロータ102に楕円振動が伝達される。また、各領域が上述の方向とは逆の方向に変位するように、それぞれの相に信号を印加すると、逆の方向のねじれ2次共振振動を生じさせることができる。
【0048】
以上の構成により、単一の部材からなり、構造が単純であり、溝部等が不要な振動子101を得ることができる。この振動子101を用いた超音波モータ100は、部品点数が少なくなり、製造が容易となるため、コストを低減することができる。さらに、超音波モータ100は、縦振動とねじれ振動を容易に励起することができ、縦振動とねじれ振動を合成することにより楕円振動を形成し、楕円振動によりロータ102を回転させることができる。
【0049】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る超音波モータは、縦1次共振振動とねじれ3次共振振動の合成により楕円振動を発生させる点が第1実施形態に係る超音波モータ100と異なる。圧電シート以外の構成は第1実施形態に係る超音波モータ100と同様であって、同じ部材については同じ参照符号を使用し、圧電シート以外の構成についての詳細な説明は省略する。
【0050】
第2実施形態の振動子は、複数の圧電シートを積層した積層圧電素子220からなり、圧電シートの厚み方向に分極されてなる活性化領域により、縦1次共振振動と、ねじれ3次共振振動と、を発生する。以下に、図11から図14を参照して、振動子を構成する積層圧電素子220の構成について説明する。ここで、図11は、積層圧電素子220の構成を示す分解斜視図である。図12(a)は第1圧電シート230の構成を示す斜視図、(b)は第2圧電シート240の構成を示す斜視図、(c)は第3圧電シート250の構成を示す斜視図である。図13(a)は、積層圧電素子220を正面上方から見た斜視図であり、(b)は積層圧電素子220を背面上方から見た斜視図である。図14(a)は図13の積層圧電素子220の左側面図、(b)は図13の積層圧電素子220の右側面図である。
【0051】
図11に示すように、積層圧電素子220は、厚み方向(図11の矢印S2方向)の最も上側から順に、2枚の第1圧電シート230、交互に積層された2組の第3圧電シート250及び第2圧電シート240、2枚の第1圧電シート230、交互に積層された2組の第3圧電シート250及び第2圧電シート240、並びに、2枚の第1圧電シート230、を積層してなる。
【0052】
図12に示すように、第1圧電シート230、第2圧電シート240、及び第3圧電シート250は、矩形板状の同一形状を備える。第1圧電シート230、第2圧電シート240、及び第3圧電シート250としては、例えば、ハード系のチタン酸ジルコン酸鉛の圧電素子を用いる。第2圧電シート240及び第3圧電シート250からなる圧電素子は、内部電極を含み、厚み方向に分極されてなる活性化領域を有する。
【0053】
以下、内部電極及び外部電極の具体的な構成について説明する。
図12(b)に示すように、第2圧電シート240には、+相の第1内部電極241a、+相の第2内部電極242a、+相の第3内部電極243a、及び+相の第4内部電極244aが形成されている。+相の第1内部電極241aと+相の第3内部電極243aは、第2圧電シート240の長手方向(図12の左右方向)の一端側において互いに対向するように離間して配置され、+相の第2内部電極242aと+相の第4内部電極244aは、第2圧電シート240の長手方向の他端側において互いに対向するように離間して配置されている。
【0054】
+相の第1内部電極241a、+相の第3内部電極243aは、その端部241b、243bが第2圧電シート240の長辺240L、240Rに露出するようにそれぞれ延びている。+相の第2内部電極242a、+相の第4内部電極244aは、その端部242b、244bが第2圧電シート240の長辺240L、240Rに露出するようにそれぞれ延びている。端部241bと端部243bは、第2圧電シート240の長手方向において、互いに対応する位置に配置され、端部242bと端部244bについても互いに対応するように配置されている。
【0055】
一方、第3圧電シート250には、図12(c)に示すように、−相の第1内部電極251a、−相の第2内部電極252a、−相の第3内部電極253a、及び−相の第4内部電極254aが形成されている。−相の第1内部電極251aと−相の第3内部電極253aは、第3圧電シート250の長手方向の一端側において互いに対向するように離間して配置され、−相の第2内部電極252aと−相の第4内部電極254aは、第3圧電シート250の長手方向の他端側において互いに対向するように離間して配置されている。
【0056】
−相の第1内部電極251a、−相の第3内部電極253aは、その端部251b、253bが第2圧電シート250の長辺250L、250Rに露出するようにそれぞれ延びている。−相の第2内部電極252a、−相の第4内部電極254aは、その端部252b、254bが第2圧電シート250の長辺250L、250Rに露出するようにそれぞれ延びている。端部251bと端部253bは互いに対応する位置に配置され、端部252bと端部254bについても互いに対応するように配置されている。
【0057】
+相の第1内部電極241aと−相の第1内部電極251a、+相の第2内部電極242aと−相の第2内部電極252a、+相の第3内部電極243aと−相の第3内部電極253a、+相の第4内部電極244aと−相の第4内部電極254a、は第2圧電シート240と第3圧電シート250を積層したときに、互いに対応する位置にそれぞれ形成されている。
【0058】
各内部電極の端部241b、242b、243b、244b、251b、252b、253b、254bには、例えば銀ペーストの印刷によって外部電極が形成される。
【0059】
端部241bに形成された外部電極は、積層圧電素子220の前面220F上の+相の第1外部電極群221F、及び+相の第5外部電極群225Fを構成し、端部242bに形成された外部電極は、積層圧電素子220の前面220F上の+相の第4外部電極群224F、及び+相の第8外部電極群228Fを構成する(図13、図14)。
【0060】
端部243bに形成された外部電極は、積層圧電素子220の背面220R上の+相の第1外部電極群221R、及び+相の第5外部電極群225Rを構成し、端部244bに形成された外部電極は、積層圧電素子220の背面220R上の+相の第4外部電極群224R、及び+相の第8外部電極群228Rを構成する。
【0061】
端部251bに形成された外部電極は、積層圧電素子220の前面220F上の−相の第2外部電極群222F、及び−相の第6外部電極群226Fを構成し、端部252bに形成された外部電極は、積層圧電素子220の前面220F上の−相の第3外部電極群223L、及び−相の第7外部電極群227Fを構成する。
【0062】
端部253bに形成された外部電極は、積層圧電素子220の背面220R上の−相の第2外部電極群222R、及び−相の第6外部電極群226Rを構成し、端部254bに形成された外部電極は、積層圧電素子220の背面220R上の−相の第3外部電極群223R、及び−相の第7外部電極群227Rを構成する。
【0063】
積層圧電素子220の前面220F又は背面220Rに形成された16個の外部電極は、積層圧電素子220の前面220Fと背面220Rのそれぞれにおいて4組の相を構成する。具体的には、積層圧電素子220の前面220Fにおいては、+相の第1外部電極群221Fと−相の第2外部電極群222F、−相の第3外部電極群223Fと+相の第4外部電極群224F、+相の第5外部電極群225Fと−相の第6外部電極群226F、−相の第7外部電極群227Fと+相の第8外部電極群228F、がそれぞれ対となり、4組の相を構成する。積層圧電素子220の背面220Rにおいては、+相の第1外部電極群221Rと−相の第2外部電極群222R、−相の第3外部電極群223Rと+相の第4外部電極群224R、+相の第5外部電極群225Rと−相の第6外部電極群226R、−相の第7外部電極群227Rと+相の第8外部電極群228R、がそれぞれ対となり、4組の相を構成する。
【0064】
一方、積層圧電素子220は、中心軸200cに垂直な面内において、中心軸200cの周りを90度ごとに分けた、4つの領域220A、220B、220C、220Dを有する(図13、図14)。
【0065】
領域220Aは、−相の第3外部電極群223Fと+相の第4外部電極群224F、及び、−相の第7外部電極群227Fと+相の第8外部電極群228Fに対応し、領域220Bは、−相の第3外部電極群223Rと+相の第4外部電極群224R、及び、−相の第7外部電極群227Rと+相の第8外部電極群228Rに対応し、領域220Cは、+相の第1外部電極群221Fと−相の第2外部電極群222F、及び、+相の第5外部電極群225Fと−相の第6外部電極群226Fに対応し、領域220Dは、+相の第1外部電極群221Rと−相の第2外部電極群222R、及び、+相の第5外部電極群225Rと−相の第6外部電極群226Rに対応する。
【0066】
この構成によれば、各相に対して外部の電源から信号を印加すると、信号に対応して各領域が変位する。各領域は2組の相をそれぞれ含むため、同一領域内であっても各相に対応する部分を異なる方向に変位させることができる。
【0067】
図15、図16を参照して、振動子101、積層圧電素子220の動作について説明する。図15は、積層圧電素子220の各領域の変形を示す図であって、正面上方から見た斜視図である。図16(a)は図15の積層圧電素子220の左側面図、(b)は図15の積層圧電素子220の変形状態を示す左側面図、(c)は図15の積層圧電素子220の右側面図、(d)は図15の積層圧電素子220の変形状態を示す右側面図である。図15、図16においては、外部電極の表示を省略している。
【0068】
図15、図16に示す例では、外部の電源から、各領域の2組の相に対応する外部電極群間にそれぞれ信号を印加する。これにより、領域220Aでは、第3外部電極群223Fと第4外部電極群224Fに対応する部分では、中心軸200cに沿った方向に伸び、第7外部電極群227Fと第8外部電極群228Fに対応する部分では中心軸200cに沿った方向に縮むように変位する。また、領域220Bでは、223Rと224Rに対応する部分では、中心軸200cに沿った方向に縮み、第7外部電極群227Rと第8外部電極群228Rに対応する部分では、中心軸200cに沿った方向に伸びるように変位する。
【0069】
さらにまた、領域220Cでは、第1外部電極群221Fと第2外部電極群222Fに対応する部分では、中心軸200cに沿った方向に縮み、第5外部電極群225Fと第6外部電極群226Fに対応する部分では、中心軸200cに沿った方向に伸びるように変位する。さらに、領域220Dでは、第1外部電極群221Rと第2外部電極群222Rに対応する部分では、中心軸200cに沿った方向に伸び、第5外部電極群225Rと第6外部電極群226Rに対応する部分では、中心軸200cに沿った方向に縮むように変位する。
【0070】
したがって、積層圧電素子220は、中心軸200cに沿った方向において、隣り合う領域、隣り合う部分で互いに異なる方向に変位しており、変位方向は分極方向(積層方向S2)に沿った方向になっている。なお、各領域の変位方向は、隣り合う領域で互いに異なる方向になれば図15、図16に示す方向と異なっても良い。
【0071】
このように、4つの領域を変位させると、縦1次共振振動(図3(c))と、中心軸200cをねじれ軸とするねじれ3次共振振動(図3(e))と、の合成により、振動子101の高さ方向の両端面に楕円振動が発生する。したがって、摩擦接触部材103a、103bを介してロータ102に楕円振動が伝達される。また、各領域の各部分が上述の方向とは逆の方向に変位するように、それぞれの相に信号を印加すると、逆の方向のねじれ3次共振振動を生じさせることができる。
【0072】
以上の構成により、単一の部材からなり、構造が単純であり、溝部等が不要な振動子101を得ることができる。この振動子101を用いた超音波モータは、部品点数が少なくなり、製造が容易となるため、コストを低減することができる。さらに、超音波モータは、縦振動とねじれ振動を容易に励起することができ、縦振動とねじれ振動を合成することにより楕円振動を形成し、楕円振動によりロータ102を回転させることができる。
なお、その他の構成、作用、効果については、第1実施形態と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0073】
以上のように、本発明に係る超音波モータは、振動とねじれ振動を合成することにより楕円振動を形成し、楕円振動によりロータを回転させる超音波モータに適している。
【符号の説明】
【0074】
100 超音波モータ
100c 中心軸(回転軸)
101 振動子
101a 楕円振動発生面
101f 長辺
101s 短辺
102 ロータ
103a、103b 摩擦接触部材
105 シャフト
107 ベアリング
108 押圧バネ
109 バネ押さえリング
110 ホルダ
111 シャフト固定リング
120 積層圧電素子
120A、120B、120C、120D 領域
120F 前面
120R 背面
121F +相の第1外部電極群
121R +相の第1外部電極群
122F −相の第2外部電極群
122R −相の第2外部電極群
123F −相の第3外部電極群
123R −相の第3外部電極群
124F +相の第4外部電極群
124R +相の第4外部電極群
130 第1圧電シート
140 第2圧電シート
140L、140R 長辺
141a +相の第1内部電極
141b 端部
142a +相の第2内部電極
142b 端部
143a +相の第3内部電極
143b 端部
144a +相の第4内部電極
144b 端部
150 第3圧電シート
150L、150R 長辺
151a −相の第1内部電極
151b 端部
152a −相の第2内部電極
152b 端部
153a −相の第3内部電極
153b 端部
154a −相の第4内部電極
154b 端部
200c 中心軸(回転軸)
220 積層圧電素子
220A、220B、220C、220D 領域
220F 前面
220R 背面
221F +相の第1外部電極群
221R +相の第1外部電極群
222F −相の第2外部電極群
222R −相の第2外部電極群
223F −相の第3外部電極群
223R −相の第3外部電極群
224F +相の第4外部電極群
224R +相の第4外部電極群
225F +相の第5外部電極群
225R +相の第5外部電極群
226F −相の第6外部電極群
226R −相の第6外部電極群
227F −相の第7外部電極群
227R −相の第7外部電極群
228F +相の第8外部電極群
228R +相の第8外部電極群
230 第1圧電シート
240 第2圧電シート
240L、240R 長辺
241a +相の第1内部電極
241b 端部
242a +相の第2内部電極
242b 端部
243a +相の第3内部電極
243b 端部
244a +相の第4内部電極
244b 端部
250 第3圧電シート
250L、250R 長辺
251a −相の第1内部電極
251b 端部
252a −相の第2内部電極
252b 端部
253a −相の第3内部電極
253b 端部
254a −相の第4内部電極
254b 端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸に垂直な断面が矩形状の長さ比率を有する振動子と、前記振動子の楕円振動発生面に接して前記振動子の前記楕円振動発生面と直交する前記中心軸を回転軸として回転駆動されるロータと、を少なくとも備えた超音波モータであって、
前記振動子の前記回転軸方向に伸縮する縦1次共振振動と、前記回転軸をねじれ軸とするねじれ2次共振振動又はねじれ3次共振振動とを合成することにより、前記楕円振動を形成してなり、
前記振動子の前記回転軸方向に伸縮する縦1次共振振動と、前記回転軸をねじれ軸とするねじれ2次共振振動又はねじれ3次共振振動と、の共振周波数がほぼ一致するように、前記振動子の前記矩形状の長さ比率を設定し、
前記振動子は、前記中心軸に垂直な面内において複数の領域を有し、
前記複数の領域は、前記中心軸に沿った方向における変位が隣り合う領域で互いに異なり、
前記振動子は、その分極方向に沿った方向に伸縮することを特徴とする超音波モータ。
【請求項2】
前記複数の領域の各領域は単一の方向にそれぞれ変位し、これにより、前記回転軸をねじれ軸とするねじれ2次共振振動が形成されることを特徴とする請求項1に記載の超音波モータ。
【請求項3】
前記複数の領域の各領域は互いに異なる方向の複数の変位をそれぞれ含み、これにより、前記回転軸をねじれ軸とするねじれ3次共振振動が形成されることを特徴とする請求項1に記載の超音波モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−160580(P2011−160580A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21051(P2010−21051)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】