説明

車両用バッテリの固定構造

【課題】複数のバッテリを一体的に上下から隙間なく挟み込んで確実に固定できる車両用バッテリの固定構造を提供する。
【解決手段】車両に設けられたバッテリケース内に複数のバッテリセル30を並べ、当該複数のバッテリセル30をバッテリ固定ブラケット35によってバッテリケースのケース本体20に固定する車両用バッテリの固定構造であって、バッテリ固定ブラケット35は、複数のバッテリセル30の上面を下方に押さえる上部ブラケット36と、上部ブラケット36に対して上下方向に相対移動可能に係止され、複数のバッテリセル30の下面をまとめて支持する下部ブラケット37とを備え、複数のバッテリセル30を上部ブラケット36及び下部ブラケット37により上下に挟み込んでケース本体20に載せ、上部ブラケット36をケース本体20に上方から締結手段により固定することで、バッテリセル30をケース本体20に固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるバッテリの車両への固定構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、大容量のバッテリが搭載され、当該バッテリの電力で駆動されるモータを走行駆動源の1つとするハイブリッド車や電気自動車が広く開発されている。
このような電動車両に搭載されるバッテリは、容量及び出力電圧を確保するため、複数のバッテリをバッテリケース内に収納して構成されている。
バッテリケースは、例えば上部が開口した箱状に形成されバッテリが収納されるケース本体(ロアケース)と、ケース本体を覆う蓋状のカバー(アッパーケース)とから構成されている。
【0003】
ケース本体内に搭載される複数のバッテリは、例えばベルト状のブラケットによってまとめられており、バッテリ交換やメンテナンス時においてバッテリ全体のケース本体への着脱を容易にしている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−236826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示された技術では、複数のバッテリをまとめるブラケットとは別に、バッテリ自体にケース本体に固定されるブラケットを備えているので、バッテリの形状が複雑化し、バッテリの共通化を妨げる要因となる虞がある。
外形が単純な直方体である複数のバッテリをケース本体に固定するために、ケース本体の底板に載せた複数のバッテリを、ベルト状のブラケットによって上方からまとめて抑え、このブラケットの両端部をケース本体にボルトによって下方に締め付けつつ固定することが考えられる。
【0006】
しかしながら、走行振動により緩まないようにボルトを強く締め付ける必要があり、よってブラケットによりバッテリが強く上方から押さえ付けられ、幅方向に薄い形状のバッテリを多く重ねている場合や、ケース本体が撓みやすい材質で形成されている場合には、バッテリの下端が開いてハの字状に斜めに固定されてしまう虞がある。したがって複数のバッテリの上部に例えば電圧監視用の基板が設けられている場合には、このようにバッテリがハの字状に斜めになると、バッテリ上部の基板が曲げられて破損する虞がある。
【0007】
また、単純に複数のバッテリをブラケットにより押さえつけるように固定した構造では、特許文献1のようにバッテリをまとめてケース本体から取り外すことができなくなり、メンテナンス性が低下してしまう。
そこで、バッテリを比較的撓みにくい鋼製の2個のブラケットにより上下から挟み込み、これらのブラケットを共にケース本体に固定する方法が考えられるが、バッテリやブラケットの上下寸法のバラツキによりバッテリとブラケットとの間に隙間が生じ、バッテリを確実に固定することが困難となる虞がある。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、複数のバッテリをブラケットによってまとめて固定する車両用バッテリの固定構造において、複数のバッテリを一体的に上下から隙間なく挟み込んで確実に固定できる車両用バッテリの固定構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するべく、請求項1の車両用バッテリの固定構造は、車両に設けられた載置台上に複数のバッテリを並べ、当該複数のバッテリを固定手段によって前記載置台に固定する車両用バッテリの固定構造であって、前記固定手段は、前記複数のバッテリの上面を押さえる上部固定手段と、該上部固定手段に係止されると共に前記複数のバッテリの下面を支持する下部固定手段とを備え、前記下部固定手段は、前記上部固定手段に対して上下方向に相対移動可能に係止され、前記上部固定手段は、締結手段により上方から前記載置台に締結されて前記バッテリを固定することを特徴とする。
【0010】
また、請求項2の車両用バッテリの固定構造は、請求項1において、前記下部固定手段は、前記バッテリの側面を両側から押さえる押し付け手段を備えることを特徴とする。
また、請求項3の車両用バッテリの固定構造は、請求項1または2において、前記上部固定手段の上下方向に延びる部位に係止孔が設けられるとともに、前記下部固定手段にフック状の係止手段が備えられ、前記係止手段を前記係止孔の縁部に係止することで前記下部固定手段が前記上部固定手段に係止されることを特徴とする。
【0011】
また、請求項4の車両用バッテリの固定構造は、請求項3において、前記バッテリを前記載置台に固定した状態で、前記係止手段と前記係止孔の縁部との間に隙間が形成されるように、前記係止孔の形状が設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の車両用バッテリの固定構造によれば、複数のバッテリが上部固定手段と下部固定手段とにより上下から挟み込むようにして載置台に固定されるので、複数のバッテリを一体的に固定することができる。
そして、このバッテリの固定時には、下部固定手段が上部固定手段に対して上下方向に相対移動可能に係止され、上部固定手段が載置台に固定されるので、バッテリの上下寸法あるいはバッテリ固定ブラケットの上下寸法にバラツキがあったとしても、下部ブラケットとバッテリモジュールの下面とを確実に密着させることができ、バッテリを確実に固定することができる。
【0013】
請求項2の車両用バッテリの固定構造によれば、下部固定手段は、バッテリの側面を両側から押し付ける押し付け手段を備えているので、バッテリのガタツキをなくし、バッテリをより確実に固定することができる。
請求項3の車両用バッテリの固定構造によれば、下部固定手段に設けられた係止手段を、上部固定手段に設けられた係止孔の縁部に係止することで、簡単な構造で下部固定手段を上部固定手段に係止することが可能となる。
【0014】
請求項4の車両用バッテリの固定構造によれば、バッテリを載置台に固定した状態で、係止手段と係止孔の縁部との間に隙間が形成されるので、下部固定手段を上部固定手段に上下方向に相対移動可能に係止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るバッテリユニットが載置された電気自動車の斜視図である。
【図2】バッテリユニットの概略構成図である。
【図3】バッテリモジュールの固定構造を示す斜視図である。
【図4】バッテリモジュールの固定構造を示す縦断面図である。
【図5】バッテリモジュール持ち上げ時の状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係るバッテリが搭載された電気自動車用の斜視図である。
図1に示すように、電気自動車1は車体2の床下にバッテリユニット10が載置されるとともに、図示しない外部からの充電経路とを備えており、当該充電経路から電力の供給を受けて充電を行う充電器12が車体2の後部に配置され、バッテリユニット10は充電器12に接続されて蓄電するように構成されている。電気自動車は、バッテリユニット10を動力源として図示しない電気モータを駆動することで、タイヤを回転駆動し走行可能となっている。
【0017】
図2は、バッテリユニット10の概略構成図である。
図2に示すように、バッテリユニット10は、バッテリケース15内に複数のバッテリモジュール18が収納されて構成されている。バッテリケース15は、上面が開口した箱形のケース本体20(載置台)とケース本体20の上面を覆うカバー22とから構成されている。ケース本体20及びカバー22は電気絶縁性を有する樹脂により形成されている。
【0018】
バッテリモジュール18は、直方体の形状であって、ケース本体20上に2列に車両前後方向に複数個並べて収納されている。ケース本体20及びカバー22の周縁部には、互いに重なりあうように夫々フランジ23、24が形成されている。フランジ23、24には、所定間隔毎にボルト孔が設けられており、当該ボルト孔に夫々ボルト28を挿入し、ナット29によって締め付けることで、ケース本体20とカバー22とが固定される構造となっている。
【0019】
図3は、バッテリモジュール18の固定構造を示す斜視図である。
図4は、バッテリモジュール18の固定構造を示す縦断面図である。
図3、4に示すように、バッテリモジュール18は、直方体の形状のバッテリセル30(本発明のバッテリに該当する。)を車幅方向に並べて構成されている。バッテリモジュール18の上面には、電池基板31が設けられている。電池基板31には、バッテリセル30毎に温度センサが設けられ各バッテリセル30の温度を検出するとともに、バッテリセル30の電圧を検出して、バッテリセル30毎に充電状態を監視する機能を有する。
【0020】
バッテリモジュール18は、バッテリ固定ブラケット35(固定手段)によりケース本体20に固定されている。本実施形態のバッテリ固定ブラケット35は、鋼板を折り曲げて形成され、バッテリモジュール18を上部から押さえる上部ブラケット36(上部固定手段)と、バッテリモジュール18の下部を支持する下部ブラケット37(下部固定手段)により構成されている。
【0021】
上部ブラケット36は、バッテリモジュール18の上面に載せられ、バッテリモジュール18を構成する複数のバッテリセル30上を横断するように配置されている。上部ブラケット36の両端部は、バッテリモジュール18の側面に沿って下方に曲げられており、更にその両端部でバッテリモジュール18の上面と平行に幅方向外方に曲げられている。また、この上部ブラケット36の両端部の幅方向外方に曲げられた部位36aには、ボルト孔38が設けられている。一方、ケース本体20には、各バッテリモジュールの両脇に夫々、ボルト(締結手段)39を固定するための固定部20aが設けられている。固定部20aは、ケース本体20の底板から上方に円柱状に突出するように形成されており、その上端にボルト(締結手段)39が下方に向かって螺合可能なようにねじ穴が設けられている。
【0022】
また、上部ブラケット36の下方に曲げられた部位である側板部36bには、下部ブラケットの端部を引っかけて係止するための四角形状の係止孔40が設けられている。
下部ブラケット37は、一つのバッテリモジュール18を構成する全てのバッテリセル30を載せることができるように形成されている。下部ブラケット37の車幅方向両側端部は、バッテリモジュール18の側面に沿って上方に曲げられており、更にその端部が外側にフック状に折り曲げられてフック部37a(係止手段)が形成されている。下部ブラケット37のフック部37aを上部ブラケット36の係止孔40に引っ掛けて、上部ブラケット36と下部ブラケット37とにより、バッテリモジュール18の複数のバッテリセル30を上下から挟むようにして支持する構成となっている。
【0023】
また、フック部37aを係止孔40に引っ掛けて上部ブラケット36に下部ブラケット37を支持させたときに、上部ブラケット36に対して下部ブラケット37が上下に移動可能となるように、係止孔40の上下幅寸法が設定されている。
更に、バッテリモジュール18を上部ブラケット36と下部ブラケット37とにより挟んだ状態で、ケース本体20に載せ、ボルト(締結手段)39をねじ込んで上部ブラケット36をケース本体20に固定したときに、下部ブラケット37のフック部37aが、上部ブラケット36の係止孔40の中で上下に隙間が設けられるように、係止孔40の上下位置が設定されている。
【0024】
また、下部ブラケット37の上下方向に延びる側板部37bは、バッテリモジュール18の側面に向かって突出する押し付け部37cが設けられている。押し付け部37cは、側板部37bの一部をプレス等により折り曲げて形成され、バッテリモジュール18の側面を両側から支持できるように突出高さが設定されている。
上記の構成により、本実施形態では、上記のようにバッテリモジュール18を上部ブラケット36と下部ブラケット37とにより挟んだ状態で、ケース本体20に載せ、ボルト(締結手段)39をねじ込んで上部ブラケット36をケース本体20に固定することで、バッテリモジュール18がケース本体20上に固定される。
【0025】
本実施形態では、上部ブラケット36に対して上下に相対移動可能な下部ブラケット37を備えており、バッテリモジュール18をケース本体上に固定したときに、バッテリセル30の上下寸法あるいは上部ブラケット36及び下部ブラケット37の上下寸法にバラツキがあったとしても、下部ブラケット37とバッテリモジュール18の下面とを確実に密着させることができる。また、本実施形態では、下部ブラケット37が鋼板のような比較的高剛性の材質で形成されているので、例えトレイ20の剛性が低くても、下部ブラケット37とバッテリモジュール18のとの密着は確保される。
【0026】
また、例えボルト(締結手段)39を強くしめ過ぎたとしても、下部ブラケット36が上部ブラケット36に対して上下に相対移動可能であるので、バッテリモジュール18への上下方向からの押し付け力を抑制することができる。
以上のように、下部ブラケット37とバッテリモジュール18のとの密着が確保され、バッテリモジュール18を上部ブラケット36及び下部ブラケット37によって上下方向に確実に挟み込んで押さえつつも、バッテリモジュール18の過度な押し付けが抑制されるので、バッテリモジュール18の固定時にバッテリセル30がハの字状に開くことが回避され、バッテリモジュール18の上面に設けられている電池基板31の破損を防止することができる。
【0027】
図5は、ボルト(締結手段)39を外してバッテリモジュール18を持ち上げたときの状態を示す説明図である。
図5に示すように、ボルト(締結手段)39を外してバッテリモジュール18を持ち上げた場合には、下部ブラケット37のフック部37aが上部ブラケット37の係止孔40に引っかかって吊り下げられ、上部ブラケット36とともに持ち上げられるので、複数のバッテリセル30を一体的に持ち上げることが可能となる。したがって、バッテリモジュール18のケース本体20からの着脱が容易となり、メンテナンス性を向上させることができる。
【0028】
また、本実施形態では、下部ブラケット37の側板部37bにバッテリモジュール18を車幅方向両側から押し付ける押し付け部37cが備えられているので、バッテリモジュール18の固定時にはバッテリセル30の開きを更に抑制し、バッテリモジュール18の持ち上げ時には、バッテリセル30を安定して支持することができる。
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。
【0029】
例えば、上部ブラケット36及び下部ブラケット37は、バッテリモジュール18の上方及び下方から押さえる構造であれば適宜形状を変更することが可能である。
また、本実施形態では、電気自動車のバッテリに本願の固定構造を適用しているが、エンジン駆動の車両においても、車両に並べて搭載された複数個のバッテリの固定構造に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 電気自動車
18 バッテリモジュール
20 ケース本体
30 バッテリセル
36 上部ブラケット
37 下部ブラケット
37a フック部
37b 押し付け部
40 係止孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられた載置台上に複数のバッテリを並べ、当該複数のバッテリを固定手段によって前記載置台に固定する車両用バッテリの固定構造であって、
前記固定手段は、前記複数のバッテリの上面を押さえる上部固定手段と、該上部固定手段に係止されると共に前記複数のバッテリの下面を支持する下部固定手段とを備え、
前記下部固定手段は、前記上部固定手段に対して上下方向に相対移動可能に係止され、
前記上部固定手段は、締結手段により上方から前記載置台に締結されて前記バッテリを固定することを特徴とする車両用バッテリの固定構造。
【請求項2】
前記下部固定手段は、前記バッテリの側面を両側から押さえる押し付け手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の車両用バッテリの固定構造。
【請求項3】
前記上部固定手段の上下方向に延びる部位に係止孔が設けられるとともに、
前記下部固定手段にフック状の係止手段が備えられ、
前記係止手段を前記係止孔の縁部に係止することで前記下部固定手段が前記上部固定手段に係止されることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用バッテリの固定構造。
【請求項4】
前記バッテリを前記載置台に固定した状態で、前記係止手段と前記係止孔の縁部との間に隙間が形成されるように、前記係止孔の形状が設定されていることを特徴とする請求項3に記載の車両用バッテリの固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−164431(P2012−164431A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21661(P2011−21661)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】