説明

車両用前照灯装置

【課題】集光および拡散した配光パターンの形成が可能な車両用前照灯装置を提供する。
【解決手段】車両用前照灯装置10は、複数の半導体発光素子が互いに間隔をもって配置されている光源14と、光源から出射した光を車両前方に光源像として投影する投影レンズ16と、投影レンズ16の車両前方側に設けられ、光源像の倍率を変化させる倍率変化機構22と、を備える。複数の半導体発光素子は、投影レンズの焦点よりも前方に配置されていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用前照灯装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の半導体発光素子をマトリックス状に配置した光源と、集光レンズとを備え、所定の配光パターンで前方を照射するように構成されている車両用の照明装置が考案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
このような照明装置は、複数の半導体発光素子の一部を選択点灯したり、点灯する際の通電量を制御することで種々の配光パターンを実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−266620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両用前照灯装置は、状況に応じて集光した配光パターンや拡散した配光パターンを形成できるとよい。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、集光および拡散した配光パターンの形成が可能な車両用前照灯装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の車両用前照灯装置は、複数の半導体発光素子が互いに間隔をもって配置されている光源と、光源から出射した光を車両前方に光源像として投影する投影レンズと、投影レンズの車両前方側に設けられ、光源像の倍率を変化させる倍率変化機構と、を備える。
【0008】
この態様によると、投影レンズや光源の位置を変えずに光源像の倍率を変えることができる。
【0009】
複数の半導体発光素子は、投影レンズの焦点よりも前方に配置されていてもよい。これにより、隣接する半導体発光素子の間の暗部が、投影された光源像において目立たなくなる。
【0010】
半導体発光素子は、その発光面が車両前方を向くように配置されていてもよい。これにより、リフレクタなどの反射部材が必要なくなる。
【0011】
半導体発光素子は、その発光面が矩形であり、該発光面の辺が車幅方向に対して斜めになるように配置されていてもよい。これにより、斜めのカットオフラインを形成しやすくなる。また、水平方向のカットオフラインをぼかすことができる。
【0012】
倍率変化機構は、光源像の車幅方向への倍率の変化が上下方向への倍率の変化よりも大きくなるように構成されている光学系であってもよい。これにより、車幅方向の広い範囲を対象とした集光、拡散配光パターンの形成が可能となる。
【0013】
光学系は、アナモルフィックレンズ系であってもよい。これにより、簡易な構成で集光および拡散した配光パターンの形成が可能となる。
【0014】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、集光および拡散した配光パターンの形成が可能な車両用前照灯装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施の形態に係る車両用前照灯装置の構成を模式的に示す斜視図である。
【図2】光源として複数の半導体発光素子をマトリックス配置した車両用前照灯装置の要部を側方から見た図である。
【図3】図3(a)は、本実施の形態に係る光学系における拡散配光パターン形成時の光路を示す模式図、図3(b)は、本実施の形態に係る光学系における集光配光パターン形成時の光路を示す模式図である。
【図4】図4(a)〜図4(c)は、本実施の形態に係る車両用前照灯装置により形成可能な配光パターンを示す図である。
【図5】複数のLEDチップをマトリックス配置した状態を正面から見た図である。
【図6】図6(a)は、焦点から出た光が投影レンズに入射した場合の光路を示す図、図6(b)は、焦点より後方から出た光が投影レンズに入射した場合の光路を示す図、図6(c)は、焦点より前方から出た光が投影レンズに入射した場合の光路を示す図である。
【図7】矩形のLEDチップの各辺を水平方向と平行に配置したマトリックスLEDの配列を示す模式図である。
【図8】本実施の形態の変形例に係る車両用前照灯装置の要部を側方から見た概略構成図である。
【図9】図8に示す光源を正面から見たマトリックスLEDの配列を示す模式図である。
【図10】図10(a)は、本実施の形態に係る車両用前照灯装置により形成されるロービーム配光パターンを示す図、図10(b)は、本実施の形態に係る車両用前照灯装置により形成されるハイビーム配光パターンを示す図である。
【図11】本実施の形態に係るマトリックスLEDの一部を拡大した図である。
【図12】図12(a)、図12(b)は、実施の形態に係るマトリックスLEDの変形例を説明するための図である。
【図13】図13(a)〜図13(c)は、マトリックスLEDにより形成されるスポットビーム状の配光パターンを示す図である。
【図14】本実施の形態に係る車両用前照灯装置により形成される配光パターンの一例を示す図である。
【図15】ヘッドライトシステムの概略構成を示すブロック図である。
【図16】本実施の形態に係るヘッドライトシステムにおける制御の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0018】
近年、車両などの前照灯ユニット(ヘッドライト)の光源として、LEDなどの半導体発光素子を複数用いた装置の開発が進んでいる。図1は、本実施の形態に係る車両用前照灯装置の構成を模式的に示す斜視図である。図2は、光源として複数の半導体発光素子をマトリックス配置した車両用前照灯装置の要部を側方から見た図である。
【0019】
車両用前照灯装置10は、複数の半導体発光素子としてのLEDチップ12が互いに間隔をもって配置されている光源14と、光源14から出射した光を車両前方に光源像として投影する投影レンズ16と、投影レンズの車両前方側に設けられ、光源像の倍率を変化させる倍率変化機構22と、を備える。
【0020】
光源14は、LED回路基板18およびヒートシンク20を有する。複数のLEDチップ12は、投影レンズ16の焦点F近傍に配置されている。図2では、投影レンズ16の焦点Fを含み、光軸Lと垂直な平面に複数のLEDチップ12が配置されている。ここで、Hは投影レンズの主点、fは焦点距離、fbはバックフォーカスを示している。
【0021】
一般に投射型光学系の配光は、投影レンズの焦点距離、光源像のサイズと倍率により決定される。したがって、レンズの焦点距離や光源サイズなどの光学系パラメータを変更せずに基本配光を拡大したい場合には、その方法は倍率を変更するのみとなる。具体的には、光源の位置を前後させて行う。しかしながら、光源を移動させて倍率を変化させると光源のLEDチップ像が目立つため、他の方法が求められている。
【0022】
そこで、本実施の形態に係る車両用前照灯装置10は、光源14と投影レンズ16との距離が一定の状態で光源像の倍率を変化させるために、倍率変化機構22を備えている。
【0023】
倍率変化機構22は、投影レンズ16の前方に配置され、アナモルフィックレンズ系を構成する凹レンズ24および凸レンズ26と、凸レンズ26を光軸Lと平行な方向に移動させるアクチュエータ28と、を備える。凹レンズ24および凸レンズ26のうち、投影レンズ16側に凸レンズ26が配置されている。凸レンズ26は、上下方向D1では厚みが変化せず、水平方向(車幅方向)D2では厚みが変化する形状である。また、凹レンズ24も、上下方向D1では厚みが変化せず、水平方向D2では厚みが変化する形状である。つまり、凹レンズ24および凸レンズ26は、円筒面の一部と同じまたは近似したレンズ面を有する。
【0024】
凸レンズ26の四隅にはガイドピン30が設けられており、1つのガイドピン30にはスクリュー30aが形成されている。アクチュエータ28は、スクリュー30aと噛み合う歯車28aを有している。そして、アクチュエータ28を動作させることで、ガイドピン30を介して凸レンズ26が光軸方向に移動する。これにより、凸レンズ26と凹レンズ24との間隔が調整される。
【0025】
なお、光源14、投影レンズ16、凸レンズ26、凹レンズ24、アクチュエータ28等の部品を収容する灯体(不図示)を左右方向にスイブルするアクチュエータ32が車両用前照灯装置10の下部に設置されている。アクチュエータ32は、灯体全体を支持する軸34が固定されているステージ36を回転駆動する。これにより、車両用前照灯装置10が照射するビーム全体をスイブルできる。
【0026】
図3(a)は、本実施の形態に係る光学系における拡散配光パターン形成時の光路を示す模式図、図3(b)は、本実施の形態に係る光学系における集光配光パターン形成時の光路を示す模式図である。
【0027】
車両用前照灯装置として、車速が遅い場合にはより広い範囲を照射すべく拡散配光パターンを形成し、車速が速い場合にはより遠方の範囲まで照射すべく集光配光パターンを形成する構成が求められる。また、通常の車両用前照灯装置においては、上下方向には拡散せずに水平(左右)方向のみに集光、拡散することが望まれる。
【0028】
そこで、本実施の形態に係る車両用前照灯装置10は、倍率変化機構22により凹レンズ24と凸レンズ26とのレンズ間隔を変化させることで、集光、拡散配光パターンの形成を行っている。なお、凹レンズ24および凸レンズ26の曲率半径Rが同一の場合、それらを密着させたときには、凹レンズ24から出射する光線は平行光線となる。また、凹レンズ24および凸レンズ26の曲率半径Rが同一でない場合、凸レンズ26から射出する光線の集光点を凹レンズ24の焦点位置に一致させれば集光状態となり、その位置よりも凹レンズ24と凸レンズ26との間隔を広げれば拡散状態となる。
【0029】
例えば、図3(a)に示すように、アクチュエータ28により凸レンズ26を凹レンズ24から離間させることで、投影レンズ16を出射したビームは、上下方向での倍率は変化せず、水平方向(車幅方向)D2のみ拡大される。一方、図3(a)に示すように、アクチュエータ28により凸レンズ26を凹レンズ24に近接させることで、投影レンズ16を出射したビームは、上下方向での倍率は変化せず、水平方向(車幅方向)D2のみ集光される。なお、倍率変化機構22は、光源像の上下方向の倍率が等倍よりも大きくなる構成であってもよい。
【0030】
図4(a)〜図4(c)は、本実施の形態に係る車両用前照灯装置により形成可能な配光パターンを示す図である。図4(a)に示す配光パターンPcは、集光配光パターンを示す。図4(b)に示す配光パターンPdは、拡散配光パターンを示す。図4(c)に示す配光パターンPsは、集光配光パターンをスイブルした状態の配光パターンを示す。
【0031】
このように、車両用前照灯装置10は、投影レンズ16や光源14の位置を変えずに光源像の倍率を変えることができ、集光および拡散した配光パターンの形成が可能となる。また、倍率変化機構22には、光源像の車幅方向への倍率の変化が上下方向への倍率の変化よりも大きくなるように構成されている光学系が好適である。これにより、車幅方向の広い範囲を対象とした集光、拡散配光パターンの形成が可能となる。また、本実施の形態では、光学系としてアナモルフィックレンズ(anamorphic lens)系を採用している。これにより、簡易な構成で集光および拡散した配光パターンの形成が可能となる。なお、光学系としては、アナモルフィックレンズ系に限らず、本願発明の範囲を逸脱しない範囲で種々の光学系の採用が可能である。
【0032】
次に、光源の構成や位置に関して、より好ましい形態について説明する。
【0033】
図5は、複数のLEDチップをマトリックス配置した状態を正面から見た図である。このようにマトリックス配置した複数のLEDチップ(以下、「マトリックスLED」と称する。)からなる光源を車両前方に向け、その前方に投影レンズを配置した光学系は、焦点Fを含む平面上のLEDチップの輝度分布が前方に投射される。したがって、LEDチップが複数であればスクリーン上にそのLEDチップ群の輝度分布が投影される。しかしながら、このようなマトリックスLEDを用いたヘッドランプでは以下の点で改善の余地がある。
【0034】
(1)LEDチップ間の暗部(図5に示す隙間g1、g2に対応)がスクリーン上で目立つ。このような暗部は、運転者の視認性を部分的に低下させる。例えば、道路前方に衝立があった場合には、そこに矩形の模様が現れる。また、路面に縞模様が現れる場合もある。
【0035】
(2)ロービーム配光パターンに必要な斜め(45度)カットオフラインのZ配光を形成しづらい。また、カットオフライン近傍をぼかせない。
【0036】
次に、投影レンズによる結像について説明する。図6(a)は、焦点から出た光が投影レンズに入射した場合の光路を示す図、図6(b)は、焦点より後方から出た光が投影レンズに入射した場合の光路を示す図、図6(c)は、焦点より前方から出た光が投影レンズに入射した場合の光路を示す図である。
【0037】
図6(a)に示すように、焦点F上に光源(物体)を設置するとその像は無限遠に結像する。実際の投影レンズの焦点距離は30〜50mm程度であり、この焦点距離と比較すると、結像スクリーンまでの距離(10mまたは25m)は無限遠といえる。そのため、スクリーン上には光源の輝度分布がほぼそのまま投影され、LEDチップ間の暗部が目立つ。
【0038】
また、図6(b)に示すように、焦点Fの後側に光源を設置した場合、光源の像は倍率b/aの実像となるため、依然としてLEDチップ間の暗部は目立つ。
【0039】
一方、図6(c)に示すように、焦点Fの前側に光源を設置した場合、光源の像は虚像となりスクリーンには結像しない。なお、光源を投影レンズに接近させすぎると、投影レンズの機能をなさず、所望の配光も形成することが困難となる。
【0040】
本発明者は、このような知見に基づいて鋭意検討した結果、マトリックスLEDの輝度ムラを目立たなくさせるためには、焦点より前側で、かつ、極力焦点近傍にLEDチップを配置することで光源の像を虚像とすることが好ましい点に想到した。また、虚像の倍率は極力大きい方がよい点にも想到した。そこで、虚像の倍率を以下に求める。
【0041】
図6(c)に示すように、物体(光源)と投影レンズとの距離をa、焦点距離をfとすると、結像位置(結像距離b)は、近軸光学系の結像式である式(1)で表される。
1/f=1/a−1/b・・・式(1)
【0042】
ここで、距離aをf/2、2f/3、3f/4、4f/5、9f/10、19f/20としたときの、虚像の結像距離bと倍率b/aを表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
図6(c)に示すように、光源からの射出光線はあたかも虚像位置より出射するように進む。したがって、スクリーン上の輝度分布は倍率が高いほど複数の半導体発光素子(LEDチップ)が重ね合わさるようになり、スクリーン上のムラが目立たなくなる。
【0045】
次に、前述のロービーム配光パターンに必要な斜めカットオフラインを形成しづらい点や、カットオフライン近傍をぼかせない点について説明する。図7は、矩形のLEDチップの各辺を水平方向と平行に配置したマトリックスLEDの配列を示す模式図である。
【0046】
図7に示すマトリックスLEDの場合、点線で囲まれている領域R1のLEDチップを点灯させ、それ以外のLEDチップを消灯しても、45度の斜めカットオフラインを有するZ配光は形成できない。仮に、図7に示すようなLEDチップの配列でZ配光を実現するためには、更にLEDチップの個数を増加させ、擬似的に斜めカットオフラインを形成する必要がある。しかしながら、そのような場合には、マトリックスLEDのサイズが増大するため、投影レンズの焦点距離を長くする必要があり、結果的に灯具サイズの拡大を招く。そこで、発明者は、これらの問題を鋭意検討し、後述するレイアウトのマトリックスLEDを採用することに想到した。
【0047】
そこで、前述の車両用前照灯装置における光源の位置やLEDチップの配列を更に改良した変形例の構成について以下に説明する。
【0048】
図8は、本実施の形態の変形例に係る車両用前照灯装置10の要部を側方から見た概略構成図である。図8に示す光源14では、複数のLEDチップ12は、投影レンズ16の焦点Fよりも前方に配置されている。
【0049】
したがって、本実施の形態に係る車両用前照灯装置10においては、前述のように、光源像が虚像として前方に投影されるため、隣接するLEDチップ12の間の暗部が、投影された光源像において目立たなくなる。なお、複数のLEDチップ12は、その発光面が車両前方を向くように配置されている。これにより、リフレクタなどの反射部材が必要なくなる。
【0050】
図9は、図8に示す光源を正面から見たマトリックスLEDの配列を示す模式図である。図9に示すマトリックスLEDでは、発光面が矩形のLEDチップの各辺が水平方向(車幅方向)に対して斜め(水平に対して45度)になるように各LEDチップが配置されている。
【0051】
このようなマトリックスLEDの場合、点線で囲まれている領域R2のLEDチップを点灯させ、それ以外のLEDチップを消灯すると、点灯しているLEDチップ12a〜12cによって、明瞭な45度の斜めカットオフラインが形成される。また、点灯しているLEDチップの領域R2の上縁は、ノコギリ歯形状となっているため、水平方向のカットオフラインをぼかすことができる。
【0052】
図10(a)は、本実施の形態に係る車両用前照灯装置により形成されるロービーム配光パターンを示す図、図10(b)は、本実施の形態に係る車両用前照灯装置により形成されるハイビーム配光パターンを示す図である。図9に示すマトリックスLEDのうち、領域R2に配置されているLEDチップを点灯することで、図10(a)に示すように、マトリックスLEDからなる光源によって、Z配光のロービーム配光パターンPLが形成される。また、図9に示すマトリックスLEDの全てを点灯することで、図10(b)に示すハイビーム配光パターンPHが形成される。
【0053】
次に、LEDチップの大きさと各LEDチップ間の間隔とに応じた適切な虚像の倍率について説明する。図11は、本実施の形態に係るマトリックスLEDの一部を拡大した図である。図11で、WはLEDチップのサイズ、Pは近接するLEDチップのピッチ間隔、PhはLEDチップの水平方向のピッチ間隔、PvはLEDチップの垂直方向のピッチ間隔である。
【0054】
この場合、虚像の倍率は、少なくともP/W倍が必要である。例えば、チップサイズWが1mm□、ピッチ3mmとすればP/W=3であり、投影レンズによる結像倍率は少なくとも3倍必要である。それを実現する物体位置(距離)は、表1より2f/3となる。
【0055】
したがって、LEDチップは、投影レンズより焦点距離fの2/3の位置から焦点Fの位置の間に設置する必要がある。しかし、焦点F上にLEDチップを設置するとスクリーン上には輝度ムラが目立ち始める。
【0056】
そこで、LEDチップは、投影レンズ16の焦点距離をf[mm]、LEDチップの発光面の一辺をW[mm]、一のLEDチップと隣接している他のLEDチップとのピッチをP[mm]とすると、LEDチップと投影レンズ16との距離が((P−W)/P)×f以上となるように配置されているとよい。
【0057】
なお、P/W=3の場合、LEDチップの設置誤差Sも含めて考えれば、LEDチップ位置は投影レンズより2f/3からf−Sまでの間に設置すればよい。実際には、量産性を考慮し実際のP/Wより大きな倍率となるような位置に光源を設置するとよい。また、設置誤差Sは、製造精度の標準偏差σを考慮して適宜に設定すればよい。
【0058】
上述のように、マトリックスLEDは投影レンズの焦点位置Fより前方(投影レンズ側)に設置するとよい。マトリックスLEDの設置範囲は、LEDチップサイズをW、ピッチ(チップの設置間隔)をPとしたとき、投影レンズによる虚像の倍率がP/Wより大きく、50倍より小さな倍率の位置(f=50のとき、a=49)の範囲が好ましい。
【0059】
詳述すると、LEDチップは、投影レンズ16の焦点距離をf[mm]とすると、LEDチップ12と投影レンズ16との距離が0.98f以下となるように配置されているとよい。これにより、マトリックスLEDのチップ間の暗部を目立たなくすることができる。なお、マトリックスLEDにおいて、隣接するLEDチップまでの間隔が縦方向と横方向とで異なる場合、ピッチ間隔Pは広い(Pが大きい)方で設定する。
【0060】
なお、マトリックスLEDは、LEDチップの水平方向のピッチ間隔Phが、垂直方向ピッチ間隔Pv以上であるとよい。これにより、Z配光形状を更に明瞭にすることができる。また、鉛直方向に光束密度を高めることができることから、ヘッドライトに適した横長の配光パターンが形成しやすくなる。
【0061】
このように、本実施の形態に係る車両用前照灯装置10は、光源にマトリックスLEDを採用した投影型のヘッドランプであり、前方監視センサからの前方車両の存在状況に基づいて、マトリックスLEDの点灯部位若しくは点灯電流を設定することが可能であり、一般的なロービーム用配光パターンやハイビーム用配光パターンに加えて、様々な配光パターンの実現が可能である。
【0062】
次に、マトリックスLEDを使用した配光可変型ヘッドランプシステムの変形例について説明する。図12(a)、図12(b)は、実施の形態に係るマトリックスLEDの変形例を説明するための図である。図13(a)〜図13(c)は、マトリックスLEDにより形成されるスポットビーム状の配光パターンを示す図である。
【0063】
図12(a)、図12(b)に示すように、変形例に係るマトリックスLEDは、LEDチップを4〜10個程度使用する。例えば、マトリックスLEDは、図12(a)に示すように配列され、スポットビーム状の配光パターンを形成するように構成されている。この場合、図13(a)に示すような矩形のスポットビーム状の配光パターンP1となる。この配光パターンP1を、図13(b)に示すように、曲路で水平方向に移動させてもよい。
【0064】
また、マトリックスLEDは、図12(b)に示すように一部のLEDチップ12dが菱形配置となるように配列され、スポットビーム状の配光パターンを形成するように構成されていてもよい。この場合、図13(c)に示すような横長楕円のスポットビーム状の配光パターンP2が形成しやすくなる。
【0065】
図14は、本実施の形態に係る車両用前照灯装置により形成される配光パターンの一例を示す図である。本実施の形態に係る車両用前照灯装置10は、図14に示すように、一部の領域R3を照射しない配光パターンPH’を形成することができる。これにより、前方車両にグレアを与えないようにしながら、車両前方の視認性を確保することができる。
【0066】
(制御システム構成)
次に、ヘッドライトの制御システムの構成について説明する。図15は、ヘッドライトシステムの概略構成を示すブロック図である。
【0067】
ヘッドライトシステム100は、左右それぞれの車両用前照灯装置10、配光制御ECU102、前方監視ECU104等を備えている。車両用前照灯装置10は、前述のようにマトリックスLEDからなる光源14と、投影レンズ16と、それらを収容する灯体とを有する。また、各車両用前照灯装置10には、凸レンズ26の移動や灯体をスイブルする駆動装置(ACT)106が接続されている。駆動装置106は、前述のアクチュエータ28やアクチュエータ32が相当する。
【0068】
前方監視ECU104は、車載カメラ108、レーダ110、車速センサ112などの各種センサが接続されている。前方監視ECU104は、センサから取得した撮像データを画像処理し、前方車両(対向車や先行車)やその他の路上光輝物体、そして区画線(レーンマーク)を検出し、それらの属性や位置など配光制御に必要なデータを算出する。算出されたデータは、車内LANなどを介して配光制御ECU102や各種車載機器に発信される。
【0069】
配光制御ECU102は、車速センサ112、舵角センサ114、GPSナビゲーション116、ヘッドランプスイッチ118などが接続されている。配光制御ECU102は、前方監視ECU104から送出されてくる路上光輝物体の属性(対向車、先行車、反射器、道路照明)、その位置(前方、側方)と車速に基づいて、その走行場面に対応した配光パターンを決定する。例えば、配光制御ECU102は、形成すべき配光パターンとして、車速が速い場合は集光配光パターンを、車速が低い場合は拡散配光パターンを決定する。そして、配光制御ECU102は、その配光パターンを実現するために必要な配光可変ヘッドランプの制御量を決定する。ここで、制御量は、例えば、上下・左右ビーム移動量、マスキング部分(遮光領域)の位置と範囲、凸レンズ26の移動量などである。
【0070】
また、配光制御ECU102は、駆動装置106や、マトリックスLEDの各LEDチップの制御内容(点消灯、投入電力など)を決定する。なお、駆動装置106には、配光可変ランプユニットを上下・左右方向などに駆動するメカ式の駆動装置を用いることができる。ドライバ120は、配光制御ECU102からの制御量の情報を、駆動装置106や配光制御素子の動作に対応した命令に変換すると共にそれらを制御する。
【0071】
(制御フローチャート)
図16は、本実施の形態に係るヘッドライトシステムにおける制御の一例を示すフローチャートである。
【0072】
図16に示す処理は、ヘッドランプスイッチなどにより選択された場合や、各種センサの情報に基づいて所定の状況(夜間走行やトンネル内走行)が認識された場合に、所定の間隔で繰り返し実行される。
【0073】
はじめに、配光制御ECU102や前方監視ECU104は、カメラや各種センサ、スイッチなどから必要なデータを取得する(S10)。データは、例えば、車両前方の画像、車速、車間距離、走路の形状、ハンドルの舵角、ヘッドランプスイッチにより選択されている配光パターンなどのデータである。
【0074】
前方監視ECU104は、取得したデータに基づいてデータ処理1を行う(S12)。データ処理1により、車両前方の光輝物体の属性(信号灯、照明灯、デリニエータなど)や、車両の属性(対向車、先行車)、車速、車間距離、輝物体の輝度、道路形状(車線幅、直線路、曲路)などのデータが算出される。
【0075】
次に、配光制御ECU102は、データ処理1で算出されたデータに基づいてデータ処理2を行い(S14)、適切な配光パターンを選択する。選択される制御配光パターンは、例えば、ロービーム用配光パターン、ハイビーム用配光パターン、ADB(Adaptive Driving Beam)、集光配光パターン、拡散配光パターンなどである。また、選択された配光パターンに応じて、LEDチップの点消灯や投入電力の制御量が決定される。
【0076】
なお、ADBが選択された場合(S16のYes)、配光制御ECU102によりデータ処理3が行われる(S18)。データ処理3では、例えば、ADB制御による照明エリアや遮光エリア、照明光量、照射方向が決定される。また、これらの情報に加えてデータ処理1で算出されたデータに基づいてAFS(Adaptive Front-Lighting System)制御も可能である。AFS制御とは、曲路や走行地域(市街地、郊外、高速道路)、天候に応じて配光を制御するものである。なお、ADBが選択されていない場合(S16のNo)、ステップS18はスキップされる。
【0077】
次に、配光制御ECU102は、データ処理4においてドライバ用にデータを変換し(S20)、配光制御素子やアクチュエータ(ACT)を駆動する(S22)ことで、ADB制御やスイブル制御を行う。
【0078】
以上、本発明を実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【符号の説明】
【0079】
10 車両用前照灯装置、 12 LEDチップ、 14 光源、 16 投影レンズ、 22 倍率変化機構、 24 凹レンズ、 26 凸レンズ、 28 アクチュエータ、 28a 歯車、 30 ガイドピン、 30a スクリュー、 32 アクチュエータ、 100 ヘッドライトシステム、 102 配光制御ECU、 104 前方監視ECU、 106 駆動装置、 108 車載カメラ、 110 レーダ、 112 車速センサ、 114 舵角センサ、 116 GPSナビゲーション、 118 ヘッドランプスイッチ、 120 ドライバ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の半導体発光素子が互いに間隔をもって配置されている光源と、
前記光源から出射した光を車両前方に光源像として投影する投影レンズと、
前記投影レンズの車両前方側に設けられ、光源像の倍率を変化させる倍率変化機構と、
を備えることを特徴とする車両用前照灯装置。
【請求項2】
前記複数の半導体発光素子は、前記投影レンズの焦点よりも前方に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用前照灯装置。
【請求項3】
前記半導体発光素子は、その発光面が車両前方を向くように配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用前照灯装置。
【請求項4】
前記半導体発光素子は、その発光面が矩形であり、該発光面の辺が車幅方向に対して斜めになるように配置されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の車両用前照灯装置。
【請求項5】
前記倍率変化機構は、光源像の車幅方向への倍率の変化が上下方向への倍率の変化よりも大きくなるように構成されている光学系であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の車両用前照灯装置。
【請求項6】
前記光学系は、アナモルフィックレンズ系であることを特徴とする請求項5に記載の車両用前照灯装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−54963(P2013−54963A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193226(P2011−193226)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】