説明

車両用前照灯

【課題】 比較的少数の発光素子で車両前方の広範囲を照明するとともに、配光パターンの照射範囲や照度分布を周囲環境や道路状況に合わせて多様に変化させる。
【解決手段】 前照灯ハウジングに設置されたミラーユニット4のベース5に回動体21を支持し、回動体21の表面にミラー22を設ける。回動体21を走査用アクチュエータ13で駆動し、ミラー22の反射光を車両前方で水平方向に高速スキャンする。光源15に複数の発光素子30をミラー22の回動軸線方向に並べて配列し、ミラー22に縦長の照射パターンを形成する。光源15は、隣接する発光素子30の縦方向の境界線33をミラー22の回動方向と交差させ、横方向の境界線35を回動方向から遮る素子配列を備え、配光パターンから横縞や暗部を解消する。平凸レンズ29は光源15からの光をミラー22の大きさに合わせて成形し、平行光をミラー22に入れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の発光素子からの光をミラーで反射させ、車両前方の照明領域をスキャンする車両用前照灯に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の発光素子またはミラーを用いて、車両前方に配光パターンを形成する技術が知られている。例えば、特許文献1には、多数の半導体光源(発光素子)が配列されたマトリックスを複数領域に区分し、領域ごとに光源の稼動を制御して、配光パターンを切り替える車両用照明装置が記載されている。
【0003】
特許文献2では、縦横に配列された多数の反射素子(ミラー)の向きを個別に制御して、周囲環境に適した配光パターンを形成する車両用照明装置が提案されている。
【特許文献1】特開2001−266620号公報
【特許文献2】特開平9−104288号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来の車両用照明装置によると、車両前方の広い範囲を照明するために、多数の発光素子やミラーが必要になるという問題点があった。また、配光パターンの照射範囲や照度分布を変化させるための制御が発光素子やミラーの数に応じて複雑化するという不都合もあった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、比較的少数の発光素子で車両前方の広範囲を照明できるとともに、配光パターンの照射範囲や照度分布を周囲環境や道路状況に合わせて多様に変化させることができる車両用前照灯を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の車両用前照灯は、複数の発光素子からなる光源と、光源が出射した光を車両前方に反射するミラーと、ミラーの大きさに合わせて光源からの出射光を成形する成形用光学系と、ミラーを往復回動しミラーの反射光により車両前方の照明領域をスキャンする走査用アクチュエータとを備えたことを特徴とする。
【0007】
ここで、成形用光学系としては、発光素子の個数やミラーの大きさを考慮し、各種の光学素子を採用できる。例えば、集光レンズ、拡散レンズ、自由曲面レンズ、楕円面反射鏡、放物面面反射鏡等を単独でまたは組み合わせて採用できる。光源からの光を有効利用する観点からは、複数の発光素子が出射した光を平行光に成形してミラーに入射させる光学系(例えば、平凸レンズやフレネルレンズ等)を好ましく使用できる。
【0008】
また、成形用光学系として、複数の発光素子が出射した光を集光させてミラーに入射させる光学系(例えば、両凸レンズや凹面反射鏡等)を使用することも可能である。この場合、ミラーからの反射光を平行光に成形する投影レンズを併用するのが好ましい。特に、成形用光学系の集光点(両凸レンズを用いた場合の焦点)をミラーの入射側に設定し、投影レンズの焦点をミラーの後側に設定するのがより好ましい。
【0009】
また、本発明の車両用前照灯は、車両前方に形成される配光パターンから縞模様や暗部を解消するための手段を提供する。具体的には、光源が隣接する少なくとも2つの発光素子の境界線をミラーの回動方向と交差させる素子配列を備えたことを特徴とする。あるいは、光源が隣接する少なくとも2つの発光素子の境界線をミラーの回動方向から遮る素子配列を備えたことを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明の車両用前照灯は、車両前方を水平および垂直方向へ広範囲にスキャンできるように、光源が複数の発光素子をミラーの回動軸線方向に並べた素子配列を備え、ミラーが縦長の照射パターンを反射し、走査用アクチュエータが照射パターンにより照明領域を水平方向にスキャンすることを特徴とする。
【0011】
車両前方の配光パターンを多様に変化させるために、本発明の車両用前照灯は、複数の発光素子の光出力をミラーの回動角度に関連付けて個別に制御する制御手段を備えている。制御手段は、例えば、車両前方域の撮像データに基づいて複数の発光素子の光出力を個別に制御する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の車両用前照灯によれば、光源に複数の発光素子を設け、発光素子の出射光を成形用光学系により成形するので、比較的少数の発光素子で車両前方の広範囲を照明できるとともに、配光パターンの照射範囲や照度分布を周囲環境や道路状況に合わせて多様に変化させることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例1を示す車両用前照灯の全体図である。
【図2】ミラーユニットおよび光源ユニットを示す斜視図である。
【図3】光源、成形用光学系およびミラーを示す光路図である。
【図4】前照灯の光学作用を示す光路図である。
【図5】光源の素子配列を示す模式図である。
【図6】光源の調光制御を示す模式図である。
【図7】本発明の実施例2を示す車両用前照灯の全体図である。
【図8】光源、成形用光学系、ミラーおよび投影レンズを示す光路図である。
【図9】成形用光学系の変更例を示す光路図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1〜図6は本発明の実施例1を示し、図1は車両用前照灯の全体的な構成を示し、図2はミラーユニットと光源ユニットを示し、図3は光源と成形用光学系とミラーの組合せを示し、図4は前照灯の光学作用を示し、図5は光源の素子配列を示し、図6は光源の調光制御を示す。図7〜図9は、本発明の実施例2を示し、図7は車両用前照灯の全体的な構成を示し、図8は光源と成形用光学系とミラーと投影レンズの組合せを示し、図9は成形用光学系の変更例を示す。各図において、同一の符号は同等の機能を備えた部材を示す。
【実施例1】
【0015】
図1に示すように、実施例1の車両用前照灯1は車体の前部に設置されるハウジング2を備えている。ハウジング2の前面は透光カバー3で覆われ、ハウジング2の中央部にミラーユニット4が設置されている。ミラーユニット4のベース5は傾斜した状態でブラケット6によりでハウジング2に取り付けられ、ベース5と透光カバー3との間にエクステンション7が配設されている。ミラーユニット4の下側において、ハウジング2の底壁部には光源ユニット8と制御ユニット9とが設置されている。光源ユニット8の設置部位は、図示例に限定されず、ハウジング2の側壁部とすることもできる。
【0016】
制御ユニット9には、CPU10、ROM11およびRAM12とが配設されるとともに、ミラーユニット4の走査用アクチュエータ13(図2参照)を制御するアクチュエータ制御部14と、光源ユニット9の光源15を制御する光源制御部16とが設けられている。ROM11には複数の配光制御プログラムが格納され、CPU10がこれらのプログラムを選択的に実行し、アクチュエータ制御部13と光源制御部16とに動作指令を出力し、車両前方の配光パターンを制御する。また、制御ユニット9は自動車の画像処理装置17に接続され、画像処理装置17が車載カメラ18の撮像データを解析して、車両前方の路面情報を制御ユニット9に提供するようになっている。
【0017】
図2に示すように、ミラーユニット4のベース5は開口部20の内側に回動体21を備え、回動体21の表面にミラー22がメッキまたは蒸着等の手段で被着されている。回動体21は垂直方向のトーションバー23でベース5に対し左右へ回動可能に支持され、ベース5の左右にトーションバー23と直交する磁界を形成する永久磁石24が配設されている。回動体21にはコイル25が配線され、端子部26を介して制御ユニット9に接続されている。そして、永久磁石24とコイル25が走査用アクチュエータ13を構成し、アクチュエータ制御部14がコイル25に流れる駆動電流の大きさと向きを制御し、回動体21がミラー22と一体に垂直軸線(O)の周りで往復回動するようになっている。
【0018】
光源ユニット8は、ケーシング28(図1参照)の下部に光源15を備え、ケーシング28の上部に成形用光学系としての平凸レンズ29を備えている。光源15は複数の発光素子30からなり、発光素子30が光源基板31上に配列され、光源基板31の下面に発光素子30を冷却するヒートシンク32が設けられている。発光素子30には拡散光DRを放射するLEDが用いられ、複数のLEDが後述する素子配列で光源基板31上に並べられている。そして、平凸レンズ29が光源15からの光をミラー22の大きさに合わせて成形して、ミラー22に入れるようになっている。したがって、複数の発光素子30の光を有効に利用して、ミラー22の反射光を明るくすることができる。
【0019】
この実施例の車両用前照灯1では、成形用光学系に平凸レンズ29を使用しているので、図3に示すように、光源15の出射光(LEDの拡散光DR)が平凸レンズ29で成形された後に、平行光PRとしてミラー22に入る。このため、ミラー22は平行光をそのまま反射し、反射光RRを車両前方で直接スキャンできる。したがって、ミラー22の前方から投影レンズ等の集光用光学系を省き、前照灯1の光学系部品の数を削減できる。また、集光用光学系の制限を受けることなく、ミラー22を大きな角度で回動し、車両前方を広範囲にスキャンできる利点もある。ただし、平凸レンズ29は、平行光をミラー22に入れるため、レンズ径を大きくしても、ミラー22に入りきらない光線を生じることもある。
【0020】
図2、図4、図5に示すように、光源15は、成形用光学系との組合せにおいて、車両用に適した配光パターンを形成できる素子配列を備えている。例えば、図2、図4に示す光源15は、縦方向(ミラー22の回動軸線方向)に複数の発光素子30を横2列に並べ、縦方向の境界線33をミラー22の回動方向(H−H)と交差させ、横方向の境界線35を左右に隣接する発光素子30でミラー22の回動方向から遮る素子配列を備えている。平凸レンズ29は各発光素子30の出射光をミラー22の大きさに合わせて成形し、ミラー22に縦長の照射パターンIPを映し出す。そして、ミラー22が照射パターンIPを車両前方に反射し、走査用アクチュエータ13がミラー22を回動し、照射パターンIPにより照明領域S(スクリーンを代替示)を水平方向にスキャンする。したがって、車両前方に形成される配光パターンPから横縞模様や暗部を解消することができる。
【0021】
図5(a)に示す光源15は、2つの発光素子30を横に並べ、縦方向の境界線33をミラー22の回動方向と直角に交差させる素子配列を備えている。この場合、発光素子30の出射光は、素子の横置きにより上下幅が不足するが、平凸レンズ29によりミラー22の大きさに合わせて拡張される。図5(b)の光源15は、2つの発光素子30を斜状に並べ、境界線34をミラー22の回動方向と斜めに交差させる素子配列を備えている。図5(c),(d)に示す光源15は、より多数の発光素子30を縦横に配列し、縦方向の境界線33をミラー22の回動方向と交差させ、横方向の境界線35を左右に隣接する発光素子30によりミラー22の回動方向両側から遮る素子配列を備えている。いずれの素子配列によっても、ミラー22からの反射光が照明領域Sで垂直方向に重なり合うので、配光パターンPから横縞模様や暗部、または発光素子30の色むらを解消して、車両前方の視認性を高めることができる。
【0022】
図2、図4に示す縦長の素子配列は、図6に示すように、縦長の照射パターンIPを水平方向へ高速スキャンして、車両前方の照明領域Sを水平および垂直方向へ広範囲にスキャンできる利点がある。また、複数の発光素子30の光出力を個別に制御することで、路面状況に合わせて配光パターンPを変化させることができる。具体的には、車載カメラ18で走行方向前方の路面を撮像し、画像処理装置17の出力に基づいて、制御ユニット9が走査用アクチュエータ13と光源15とを制御し、ミラー22の回動角度に関連付けて複数の発光素子30の光出力を個別に調整する。
【0023】
例えば、図6(a)に示すように、すれ違い用配光領域36を照射する発光素子30の光出力を高め、白線37を照射する発光素子30の光出力をさらに高め、それ以外の発光素子30を消灯させる制御を行うことで、白線37や路肩を見やすく照明できる。また、図6(b)に示すように、カーブ路の白線37に追従させて、発光素子30の光出力を調整することで、道路線形に合わせて配光パターンPを変化させることができる。したがって、比較的少数の発光素子30で車両前方の広範囲を照明できるとともに、配光パターンPの照度分布を道路状況に合わせて多様に変化させることができる。また、ミラー22を駆動する走査用アクチュエータ13の振幅を動的に変化させることにより、周囲環境や道路状況に適した照明領域と照度分布を容易に得られる。
【実施例2】
【0024】
図7〜図9に示すように、実施例2の車両用前照灯41では、成形用光学系に両凸レンズ42が用いられている。ミラー22の前方には、ミラー22の反射光を平行光に成形するための投影レンズ(平凸レンズ)43が設置されている。その他の構成は実施例1の車両用前照灯1と同じであり、以下に両凸レンズ42と投影レンズ43の構成並びに作用について説明する。
【0025】
図8に示す成形用光学系では、両凸レンズ42の焦点F1がミラー22の入射側に設定され、両凸レンズ42のもう一方の焦点付近に光源15が配置されている。光源15の複数の発光素子30から出た光は、両凸レンズ42でミラー22の大きさに合わせて成形され、焦点F1で集光した後に、ミラー22に入る。ミラー22の反射光RRは、投影レンズ43で成形され、平行光PRとして車両前方に投射される。投影レンズ43は、焦点F2がミラー22の後側に位置するように、保持板44(図7参照)で前照灯ハウジング2に保持されている。回動体21の軸線上の点Oから両凸レンズ42の焦点F1までの距離L1は、点Oから投影レンズ43の焦点F2までの距離L2と同等に設定されている。これにより、ミラー22の反射光RRはあたかも投影レンズ43の焦点F2から出射されたかのようにふるまい、ミラー22の回動によりその出射点が投影レンズ43の焦点面FP上を往復する。
【0026】
図8に示す成形用光学系によれば、両凸レンズ42が複数の発光素子30からの光をミラー22の入射側で集光させるので、実施例1の平凸レンズ29と比較し、光源15が出射した光をより有効に利用することができる。このため、発光素子30の数が増えた場合でも、レンズ径の大きな両凸レンズ42を使用することで、光源15からのすべての光をミラー22に入れることができる。特に、両凸レンズ42の焦点F1がミラー22の入射側に設定されているので、ミラー22と投影レンズ43とを接近させ、反射光PRを投影レンズ43に入射しやすくして、明るい配光パターンを形成できる。また、投影レンズ43の焦点F2がミラー22の後側に設定されているので、ミラー22と投影レンズ43との距離(D1)を短縮し、車両用前照灯1の小型化を促進できる利点もある。
【0027】
図9に示す成形用光学系では、両凸レンズ42の焦点F1がミラー22の後側に設定されている。この構成によると、両凸レンズ42による集光作用は得られるが、光源15からの光が投影レンズ43の焦点付近で集光するので、投影レンズ43の焦点面FPがミラー22の前方に移る。このため、ミラー22と投影レンズ43との距離(D2)が比較的長くなり、光学系全体の設置スペースが大きくなる。
【0028】
本発明は上記実施例に限定されるものではなく、以下に例示するように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、各部の構成や形状を適宜に変更して実施することも可能である。
(1)図1に示す前照灯ハウジング2内に複数のミラーユニット4を設置すること。
(2)ハウジング2内において、ミラーユニット4を他の照明ユニットと組み合わせて、車両用前照灯1の一部として機能させること。
(3)光源ユニット8をミラーユニット4の横方向に配置し、ミラー22の回動軸線を鉛直方向に形成すること。
(4)図2に示す1軸走査用アクチュエータ13にかえ、2軸走査用アクチュエータを使用すること。
(5)1軸または2軸走査用アクチュエータ13として、静電駆動方式のアクチュエータを使用すること。
【符号の説明】
【0029】
1 車両用前照灯(実施例1)
2 ハウジング
4 ミラーユニット
8 光源ユニット
9 制御ユニット
13 走査用アクチュエータ
15 光源
21 回動体
22 ミラー
29 平凸レンズ
30 発光素子
41 車両用前照灯(実施例2)
42 両凸レンズ
43 投影レンズ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、ミラーと、光源からの光をミラーに入射させる成形用光学系と、ミラーの反射光を車両前方に透過させる投影レンズと、ミラーを駆動し投影レンズを透過した光で車両前方の照明領域をスキャンする走査用アクチュエータとを備え、前記投影レンズの焦点がミラーの後側に位置することを特徴とする車両用前照灯。
【請求項2】
前記ミラーが、投影レンズとその焦点との間の位置で光源からの光を入射する請求項1記載の車両用前照灯。
【請求項3】
前記走査用アクチュエータが、投影レンズとその焦点との間に位置する軸線の周りでミラーを回動する請求項1または2記載の車両用前照灯。
【請求項4】
前記ミラーの回動に伴い、ミラーの後側に投影レンズの焦点面が形成される請求項3記載の車両用前照灯。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−101985(P2013−101985A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−45564(P2013−45564)
【出願日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【分割の表示】特願2008−64077(P2008−64077)の分割
【原出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】