説明

車両用前照灯

【課題】光偏向器の反射部を駆動するアクチュエータの負担を軽減するとともに、アクチュエータの耐久性を向上させた車両用前照灯を提供する。
【解決手段】内側圧電アクチュエータ31,32及び外側圧電アクチュエータ51,52は、レーザ光源11からの光が入射される反射部2をX軸回り及びY軸回りにそれぞれ回動させて、車両前方の照射領域を反射部2からの反射光で左右方向及び上下方向に走査する。制御部12は、反射光の上下方向走査周波数(Y軸回りの回動周波数)が左右方向走査周波数(X軸回りの回動周波数)より大きくなるように、内側圧電アクチュエータ31,32及び外側圧電アクチュエータ51,52を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前方の照射領域に光を照射する車両用前照灯に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両前方の照射領域をスポット光で走査することで照射領域を照らす車両用前照灯が知られている。例えば、特許文献1に記載された走査型車両用前照灯は、光源と、光源からの入射光を反射した反射光を車両前方へ出射する反射部と、車両前方の照射領域を反射光により上下方向及び左右方向にそれぞれ走査するように反射部をそれぞれ第1及び第2の軸線回りに回動させるアクチュエータとを備える(特許文献1の図12及び図13)。
【0003】
上記の車両用前照灯は、主走査方向(走査周波数が大となる走査方向)及び副走査方向(走査周波数が小となる走査方向)をそれぞれ左右方向及び上下方向に設定している(特許文献1:図13の横縞線)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−48786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示された従来の走査式車両用前照灯では、走査光の主走査方向、すなわちアクチュエータが高速で反射部を操作しなければならない作動方向が、反射部の回動角度範囲の大きい左右方向に設定されているため、アクチュエータの負担が増大し、その結果、アクチュエータの耐久性が低下するという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、反射部を駆動するアクチュエータの負担を軽減するとともに、アクチュエータの耐久性を向上させた車両用前照灯を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、光源と、前記光源からの入射光を反射した反射光を車両前方へ出射する反射部と、車両前方の照射領域を前記反射光により上下方向及び左右方向にそれぞれ走査するように前記反射部をそれぞれ第1及び第2の軸線回りに回動させるアクチュエータと、前記反射光の上下方向の走査周波数が左右方向の走査周波数より大となるように前記アクチュエータを制御するアクチュエータ制御部とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、反射光の上下方向の走査周波数が左右方向の走査周波数より大きくなるようにアクチュエータを制御することにより、反射光の主走査方向は上下方向となる。これにより、アクチュエータは反射部の回動角度範囲の小さい上下方向に高速で作動すればよいので、アクチュエータの負担が軽減され、アクチュエータの耐久性が向上する。
【0009】
ところで、水平な照射領域においては、遠方ほど、上下回動用軸線回りの反射部の単位回動角当たりの反射光の照射面積が増大するので、そのような照射領域における照度を均一化するためには、反射光が照射領域の遠方部分を照射している時ほど、上下回動用軸線回りの反射部の回動速度を減少させる必要がある。しかしながら、そのために反射部の機械的な回動速度を高精度で制御することは難しい。
【0010】
そこで、光源の光量制御により遠方部分の照射量を増大するならば、機械的運動の回動速度を増減することなく照射先の照度を制御することができるので、制御が簡単となる。しかしながら、従来のように走査光の主走査方向が左右方向である場合には、走査光が遠方部分に留まる時間が相対的に長くなるので、光源を大光量に維持する時間が長くなる。このため、光源の発熱量が増大して、光源の発光効率を低下させる。これを補償するために光源の通電量を増大すると、光源の発熱量がさらに増大して発光効率が低下するという悪循環につながり易い。
【0011】
この問題点は、本発明の車両用前照灯によれば、反射光による上下方向走査の周期において、前記照射領域の上側範囲の走査期間では前記照射領域の下側範囲の走査期間よりも反射光の光量が増大するように制御することで解決される。
【0012】
すなわち、本発明の車両用前照灯は、前記反射光による上下方向走査周期において、照射領域の上側範囲の走査期間では照射領域の下側範囲の走査期間よりも前記反射光の光量が増大するように光源の光量を制御する光量制御部を備えることが好ましい。これによれば、反射光の照射方向に応じて第1軸線回りの反射部の回動速度を増減する制御を行わなくても、照射領域の遠方領域部分の照度を増大させて照射領域の照度を均一化することができる。
【0013】
また、反射光の主走査方向を上下方向とすることにより、反射光が照射領域の遠方部分を照射する期間として光源の光量を大きくする期間と、反射光が照射領域の近傍部分の照射する期間として光源の光量を小さくする期間との切替周波数が増大するので、光源を連続的に大光量にする各期間は短縮される。この結果、光源の発熱が低減するので、発光効率の低下が回避される。こうして、発光効率低下を回避しつつ、照射領域の遠方部分の照度増大を図ることができる。
【0014】
本発明において、前記アクチュエータ制御部は、上下方向走査の上側折り返し点が前記照射領域のカットラインより上となるように前記アクチュエータを制御し、前記光量制御部は、各上下方向走査周期において前記照射領域のカットラインより上の範囲の上下方向走査期間では前記光源を消灯することが好ましい。
【0015】
ここで、カットラインは、左右方向位置に関係なく一律の高さに設定されず、左右方向位置に応じて高さが変化するように設定されることがある。また、カットラインは、アクチュエータによる反射部の上側の折り返し回動角の制御によらず、第1の軸線回りの回動角に応動して光源の点灯と消灯とを切替えることによって生成される。これにより、第1の軸線回りの反射部の回動角度範囲は固定して、アクチュエータの制御を単純化しつつ、任意のカットラインを生成することができる。
【0016】
本発明において、前記光量制御部は、前記光源への連続通電における電流値の増減又は前記光源の不連続通電パルスのパルス幅の増減に基づいて、前記光源の光量を制御することができる。これにより、光源の光量を円滑に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】車両用前照灯の模式図。
【図2】車両用前照灯から出射される走査光の走査角についての説明図。
【図3】光偏向器の詳細な構造図。
【図4】反射部からの反射光の走査パターンを示す図。
【図5】車両用前照灯におけるレーザ光源の光量と反射光の上下角との関係を示す図。
【図6】任意のカットラインをレーザ光源のオン・オフ制御より生成する制御についての説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1において、車両用前照灯10の主要構成について説明する。車両用前照灯10は、車両(図示せず)の前方へ向けて、該車両の前部の左右にそれぞれ配備される。これは、光偏向器1と、光偏向器1の反射部2へレーザ光を出射するレーザ光源11と、レーザ光源11の光量を制御する光量制御部及び反射部2の回動角を制御するアクチュエータ制御部としての制御部12とを備えている。
【0019】
反射部2は、後述するように、相互に直角のX軸及びY軸の回りに回動し、レーザ光源11からの入射光を反射した反射光の向きを車両の前方の照射領域に対し所定の周期で上下左右に変化させる。なお、X軸及びY軸はそれぞれ本発明の第2及び第1軸線に相当する。
【0020】
図2において、車両用前照灯10から出射されるスポット光の走査角について説明する。車両用前照灯10からのスポット光は、レーザ光源11から出射される指向性の強い光であって光偏向器1の反射部2において反射した反射光であるので、以下、これを反射光という。
【0021】
図2(a)は、車両用前照灯10を上方から見て、反射光の左右方向の走査角度範囲を示している。左右角αは、車両用前照灯10内の入射光の反射点を通る鉛直線の回りの角度として定義され、車両用前照灯10の真左をα=0°として、αの正方向を時計方向としている。この場合、車両用前照灯10のまっすぐ前方はα=90°、車両用前照灯10の真右はα=180°となる。α,αは、反射光がそれぞれ最も左側及び右側に向けられた時の左右角αである。反射光の左右方向の走査角度範囲は、α(=65°)〜α(=115°)に設定され、α=90°を中心とする50°になる。
【0022】
図2(b)は、車両用前照灯10を側方から見て、反射光の上下方向の走査角度範囲を示している。図2(b)の右方が車両の前方になる。上下角βは、車両用前照灯10内の入射光の反射点を通る左右水平線の回りの角度として定義され、垂直方向真下をβ=0°として、βの正方向を反時計方向としている。この場合、車両用前照灯10のまっすぐ前方はβ=90°となる。β,βは、反射光がそれぞれ最も下側及び上側に向けられた時の上下角βである。反射光の上下方向走査角度範囲は、β(=80°)〜β(=90°)の10°となる。
【0023】
このように、車両用前照灯10からの前方の照射領域に向けて出射される反射光の走査角は、左右方向が50°であるのに対し、上下方向は10°となり、上下方向が左右方向に比べて格段に小さい。
【0024】
なお、α,α,β,βは、レーザ光源11が通電状態になっていて、反射光が実際に車両の前方へ出射するときの照射領域の左右及び上下の境界線を規定する角度となっている。α〜α及びβ〜βは、反射部2の通常の回動制御(例:後述の図4の走査を実施する回動制御)では、反射部2の回動角度範囲の左右及び上下の回動角度範囲に対応付けられる角度範囲になるが、レーザ光源11のオン、オフ制御を伴う反射部2の回動制御(例:後述の図6の走査を実施する回動制御)では、反射部2の回動角度範囲の左右及び上下の回動角度範囲に対応付けられる角度範囲より狭くなる。
【0025】
図3を参照して、光偏向器1の具体的な構成について説明する。なお、図3では、光偏向器1は横長で図示しているが、すなわち、X軸が左右方向、また、Y軸が上下方向に図示されているが、車両用前照灯10内における光偏向器1の実際の配備では、図1に示すように、縦長で配備される。すなわち、光偏向器1の実際の配備では、Y軸がおおむね左右水平方向となり、また、X軸がおおむね上下方向になる。
【0026】
光偏向器1は、ミラーとしての反射部2と、1対の内側圧電アクチュエータ31,32と、内側支持部4と、1対の外側圧電アクチュエータ51,52と、外側支持部6とを備える。
【0027】
反射部2は、入射した光を反射する矩形の反射面2aと、反射面2aを支持する矩形の反射面支持体2bとを備える。反射面2aは、反射面支持体2b上の金属薄膜を半導体プレーナプロセスを用いて形状加工して形成されている。
【0028】
金属薄膜の厚みは、例えば100〜500nm程度とする。金属薄膜は、例えば、スパッタ法、電子ビーム蒸着法等により成膜する。反射面支持体2bは、シリコン基板で構成される。
【0029】
反射部2は、後で詳細に説明する支持構造により、反射部2の中心に交点を有して相互に直交しかつ反射部2の面方向に延在するX軸及びY軸の回りに回動するようになっている。光偏向器1は、図1に示したように、縦長で配置されるので、反射部2がX軸回りに往復回動することにより反射光の左右角αが増減し、また、反射部2がY軸回りに往復回動することにより反射光の上下角βが増減する。
【0030】
内側圧電アクチュエータ31,32は、反射部2を挟んで対向して配置されている。内側圧電アクチュエータ31,32は、それらの先端部が、反射部2の1対の対向する辺にそれぞれ連結されている。この連結されている反射部2の辺は、Y軸に直交する辺である。
【0031】
内側支持部4は、矩形の枠形状に形成されており、反射部2と内側圧電アクチュエータ31,32とを囲むように設けられている。内側支持部4は、内側圧電アクチュエータ31,32の反射部2が接続されていない側のそれぞれの端部(基端部)が連結されており、内側圧電アクチュエータ31,32を介して反射部2を支持している。
【0032】
外側圧電アクチュエータ51,52は、内側支持部4を挟んで対向して配置されている。外側圧電アクチュエータ51,52は、それらの先端部が、内側支持部4のY軸と平行な方向の1対の対向する辺にそれぞれ連結されている。
【0033】
外側支持部6は、矩形の枠形状に形成されており、内側支持部4と外側圧電アクチュエータ51,52とを囲むように設けられている。外側支持部6には、外側圧電アクチュエータ51,52の、内側支持部4と連結されていない側の1対の他端がそれぞれ連結されている。これにより、外側支持部6は、外側圧電アクチュエータ51,52を介して内側支持部4を支持している。
【0034】
内側圧電アクチュエータ31,32について説明する。内側圧電アクチュエータ31,32は、反射部2に対して上下(図3の上下)方向へ相互に反対側に上下(図3の上下)対称に配置されるだけであり、構造は同一であるので、内側圧電アクチュエータ31についてのみ説明する。なお、内側圧電アクチュエータ32の内側圧電カンチレバー32A〜32Dは、内側圧電アクチュエータ31の内側圧電カンチレバー31A〜31Dにそれぞれ対応している。
【0035】
内側圧電カンチレバー31A〜31Dは、その長さ方向が同じになるようにそれぞれの両端部が隣り合うとともに、反射部2をY軸回りに揺動可能に所定の間隔で並んで配置されている。そして、内側圧電カンチレバー31A〜31Dは、隣り合う圧電カンチレバーに対して折り返すように連結されている。
【0036】
このように、内側圧電アクチュエータ31は、それを形成する内側圧電カンチレバー31A〜31Dが、所謂ミアンダ形状に形成されている。
【0037】
内側圧電カンチレバー31A〜31Dの内の反射部2側に配置されている内側圧電カンチレバー(以下、「1番目の内側圧電カンチレバー」という)31Aは、その隣り合う内側圧電カンチレバー(以下、「2番目の内側圧電カンチレバー」という)31Bと連結されていない側の一端が反射部2の外周部に連結されている。
【0038】
同様に、内側圧電カンチレバー31A〜31Dの内の内側支持部4側に配置されている内側圧電カンチレバー(以下、「4番目の内側圧電カンチレバー」という)31Dは、その隣り合う内側圧電カンチレバー(以下、「3番目の内側圧電カンチレバー」という)31Cと連結されていない側の一端が内側支持部4の内周部に連結されている。
【0039】
これにより、反射部2は、内側圧電アクチュエータ31,32を構成する内側圧電カンチレバー31A〜31D,32A〜32Dの屈曲変形によって、内側支持部4に対してY軸回りに揺動可能となっている。
【0040】
次に、外側圧電アクチュエータ51,52について説明する。外側圧電アクチュエータ51,52は、反射部2に対して左右(図3の左右)方向へ相互に反対側に左右(図3の左右)対称に配置されるだけであり、構造は同一であるので、外側圧電アクチュエータ51についてのみ説明する。なお、外側圧電アクチュエータ52の外側圧電カンチレバー52A〜52Dは、外側圧電アクチュエータ51の外側圧電カンチレバー51A〜51Dにそれぞれ対応している。
【0041】
外側圧電カンチレバー51A〜51Dは、その長さ方向が同じになるようにそれぞれの両端部が隣り合うとともに、反射部2をX軸回りに揺動可能に所定の間隔で並んで配置されている。そして、外側圧電カンチレバー51A〜51Dは、隣り合う圧電カンチレバーに対して折り返すように連結されている。
【0042】
このように、外側圧電アクチュエータ51は、それを形成する外側圧電カンチレバー51A〜51Dが、所謂ミアンダ形状に形成されている。
【0043】
外側圧電カンチレバー51A〜51Dの内の反射部2側(内側支持部4側)に配置されているカンチレバー(以下、「1番目の外側圧電カンチレバー」という)51Aは、その隣り合う外側圧電カンチレバー(以下、「2番目の外側圧電カンチレバー」という)51Bと連結されていない側の一端が内側支持部4の外周部に連結されている。
【0044】
同様に、外側圧電カンチレバー51A〜51Dの内の外側支持部6側に配置されている圧電カンチレバー(以下、「4番目の外側圧電カンチレバー」という)51Dは、その隣り合う外側圧電カンチレバー(以下、「3番目の外側圧電カンチレバー」という)51Cと連結されていない側の一端が外側支持部6の内周部に連結されている。
【0045】
これにより、内側支持部4は、外側圧電アクチュエータ51,52を構成する外側圧電カンチレバー51A〜51D,52A〜52Dの屈曲変形によって、外側支持部6に対してX軸回りに揺動可能となっている。
【0046】
なお、本実施形態の光偏向器1は、内側圧電アクチュエータ31,32及び外側圧電アクチュエータ51,52を、それぞれ4つの圧電カンチレバーで構成しているが、圧電カンチレバーの数はこれに限られるものではない。
【0047】
複数の電極パッド61,62は、外側支持部6の下辺の左側部分及び右側部分にそれぞれ配設されている。電極パッド61は、内側圧電カンチレバー31A〜31D及び外側圧電カンチレバー51A〜51Dの各電極部位に通電するものになっている。電極パッド62は、内側圧電カンチレバー32A〜32D及び外側圧電カンチレバー52A〜52Dの各電極部位に通電するものになっている。
【0048】
各圧電カンチレバーは、起歪体(カンチレバー本体)としての支持体の層上に、下部電極、圧電体及び上部電極を積層した構造を有する。各圧電カンチレバーに対応付けられた駆動電圧が、電極パッド61,62を介して、各圧電カンチレバーに対応付けられた上部電極と下部電極との間に、印加されると、この印加された上部電極と下部電極との間に積層されて各圧電カンチレバーに対応付けられた圧電体が圧電駆動により屈曲変形する。こうして、屈曲変形した圧電体に応じた支持体(圧電カンチレバー)が屈曲変形する。
【0049】
次に、光偏向器1の作動について説明する。まず、内側圧電アクチュエータ31,32により、反射部2を内側支持部4に対してY軸回りに揺動させる場合について説明する。
【0050】
この場合、制御部12は、光偏向器1の電極パッド61,62を介して内側圧電アクチュエータ31,32に駆動電圧が印加される。具体的には、制御部12は、一方の内側圧電アクチュエータ31では、奇数番目の内側圧電カンチレバー31A,31Cを、その対応電極に第1電圧Vy1を印加して、駆動させる。制御部12は、これと共に、一方の内側圧電アクチュエータ31では、偶数番目の内側圧電カンチレバー31B,31Dを、その対応電極に第2電圧Vy2を印加して、駆動させる。
【0051】
さらに、制御部12は、他方の内側圧電アクチュエータ32では、奇数番目の内側圧電カンチレバー32A,32Cを、その対応電極に第1電圧Vy1を印加して、駆動する。これと共に、制御部12は、他方の内側圧電アクチュエータ32では、偶数番目の内側圧電カンチレバー32B,32Dを、その対応電極に第2電圧Vy2を印加して、駆動する。
【0052】
ここで、第1電圧Vy1と第2電圧Vy2は、互いに逆位相或いは位相のずれた交流電圧(例えば正弦波、鋸波等)である。このとき、第1電圧Vy1及び第2電圧Vy2の揺動用の電圧成分は、内側圧電アクチュエータ31,32の垂直方向(図3の上方向U及びその反対の方向である下方向)について、奇数番目の内側圧電カンチレバー31A,31C,32A,32Cと偶数番目の内側圧電カンチレバー31B,31D,32B,32Dとの角度変位が、逆方向に発生するように設定される。
【0053】
例えば、Y軸回りに揺動するとき、内側圧電アクチュエータ31,32の先端部を上方向(図3に示す方向U)に変位させる場合には、奇数番目の内側圧電カンチレバー31A,31C,32A,32Cを上方向に変位させ、偶数番目の内側圧電カンチレバー31B,31D,32B,32Dを下方向に変位させる。内側圧電アクチュエータ31,32の先端部を下方向に変位させるには、奇数番目の内側圧電カンチレバー31A,31C,32A,32Cを下方向に変位させ、偶数番目の内側圧電カンチレバー31B,31D,32B,32Dを上方向に変位させる。
【0054】
これにより、奇数番目の内側圧電カンチレバー31A,31C,32A,32Cと、偶数番目の内側圧電カンチレバー31B,31D,32B,32Dとが、互いに逆方向に屈曲変形する。
【0055】
外側圧電アクチュエータ51,52により、反射部2を外側支持部6に対してX軸回りに揺動させる場合は、制御部12は、光偏向器1の電極パッド61,62を介して外側圧電アクチュエータ51,52に駆動電圧を印加する。具体的には、制御部12は、一方の外側圧電アクチュエータ51では、奇数番目の外側圧電カンチレバー51A,51Cを、その対応電極に第3電圧Vx1を印加して、駆動する。制御部12は、これと共に、一方の外側圧電アクチュエータ51では、偶数番目の外側圧電カンチレバー51B,51Dを、その対応電極に第4電圧Vx2を印加して、駆動する。
【0056】
以上のように、光偏向器1は、反射部2をY軸回りに揺動すると共に内側支持部4をX軸回りに揺動することで、反射部2を様々な角度に駆動させることができ、反射面2aに入射した光を様々な角度に出射することができる。
【0057】
なお、内側圧電アクチュエータ31,32及び外側圧電アクチュエータ51,52は、圧電体を含む圧電カンチレバー32A〜32D及び圧電カンチレバー51A〜51Dを構成要素として装備しているので、内側圧電アクチュエータ31,32及び外側圧電アクチュエータ51,52は、反射部2をY軸回り及びX軸回りに回動させるアクチュエータとしての役割と共に、反射部2をY軸回り及びX軸回りに回動可能に内側支持部4及び外側支持部6に連結する可動連結部としての役割を持つものとなっている。したがって、内側圧電アクチュエータ31,32及び外側圧電アクチュエータ51,52の負担軽減及び耐久性向上は重要課題となる。
【0058】
図4は、反射部2からの反射光が、車両用前照灯10からのスポット光として車両前方の照射領域を走査する走査パターンを示している。車両用前照灯10の反射光による走査パターンを分かり易くするために、車両用前照灯10の前方の所定距離に、α=90°の軸線とβ=90°の軸線との両方に対して垂直に立てた仮想スクリーンを想定し、車両用前照灯10からの反射光が該仮想スクリーン上に生成する走査パターンを示している。
【0059】
図4(a)は反射光の左右方向走査周期の往路期間における反射光の走査パターンであり、図4(b)は反射光の左右方向走査周期の復路期間における反射光の走査パターンとなっている。
【0060】
図4に示すように、光偏向器1からの反射光は仮想スクリーンに光スポット80を生成する。図4の走査パターンは、カットライン81の下側で光スポット80の走査軌跡として示されており、走査軌跡における矢の向きは光スポット80の移動方向を示している。
【0061】
図4において、反射光による上下方向走査の1周期は、仮想スクリーン上で光スポット80が下側折り返し点82又は上側折り返し点83を出発し、次の下側折り返し点82又は上側折り返し点83に戻るまでの期間である。また、反射光による左右方向走査の1周期は、仮想スクリーン上で光スポット80が左側折り返し点84又は右側折り返し点85を出発し、再び同一の左側折り返し点84又は右側折り返し点85に戻るまでの期間である。
【0062】
したがって、反射光の上下方向走査周波数は、上下方向走査周期の逆数となる。また、反射光の左右方向走査周波数は、左右方向走査周期の逆数となる。
【0063】
前述したように、車両用前照灯10では、反射光の主走査方向及び副走査方向がそれぞれ上下方向及び左右方向に設定されるので、反射光の上下方向走査周波数は左右方向走査周波数より大きく設定される。光スポット80の左右方向走査周期の往路期間では、図4(a)に示されるように、光スポット80の上下方向走査周期における左右方向照射部分が照射領域において左から右へ1ピッチずつ移動する。復路期間では、図4(b)に示されるように、光スポット80の上下方向走査周期における左右方向照射部分が照射領域において右から左へ1ピッチずつ移動する。
【0064】
図4では、カットライン81が、水平に設定されており、すなわち左右方向位置に関係なく、等しい高さに設定されている。また、レーザ光源11は常時点灯状態になっている。光スポット80の上下方向走査周期の上側走査折り返し点83は、光スポット80の高さに揃えられている。
【0065】
光偏向器1において、内側圧電アクチュエータ31,32は反射部2の高周波数の往復回動用に用いられ、外側圧電アクチュエータ51,52は反射部2の低周波数の往復回動用に用いられる。
【0066】
したがって、反射光の主走査方向及び副走査方向をそれぞれ左右方向及び上下方向に設定する従来の車両用前照灯では、光偏向器1は、図3のように、横長の状態で車両用前照灯のケーシング内に配備される。すなわち、従来の車両用前照灯では、光偏向器1は、相互に直交するX軸及びY軸が、それぞれ概ね水平方向及び概ね上下方向になるように、配設されていた。
【0067】
これに対し、反射光の主走査方向及び副走査方向をそれぞれ上下方向及び左右方向に設定する車両用前照灯10では、光偏向器1は、図1のように、縦長の状態で車両用前照灯のケーシング内に配備される。すなわち、光偏向器1は、相互に直交するX軸及びY軸が、それぞれ概ね上下方向及び概ね水平方向になるように、配設される。
【0068】
従来の車両用前照灯も、本発明の実施例の車両用前照灯10も、内側圧電アクチュエータ31,32が、反射光を高速の主走査方向に振らせている。しかしながら、従来の車両用前照灯では、主走査方向が反射光の走査角度範囲の大きい左右方向になるので(図2(a)の50°)、内側圧電アクチュエータ31,32は、大きな回動範囲を高速で作動する必要があり、このため、負担が増大するとともに、耐久性が低下する。
【0069】
これに対し、本発明の実施例の車両用前照灯10では、主走査方向が反射光の走査角度範囲の小さい上下方向になって、内側圧電アクチュエータ31,32は、回動範囲を高速で作動する必要があるものの、回動範囲が大幅に縮小し(図2(b)の10°)する。この結果、内側圧電アクチュエータ31,32の負担が大幅に減少するとともに、耐久性が向上する。
【0070】
図5は、車両用前照灯10におけるレーザ光源11の光量と反射光の上下角βとの関係を示している。レーザ光源11の光量は、βに応じて2段階に切替えられる。すなわち、βMを、レーザ光源11の光量を大及び小に切り替える上下角βと定義し、βL≦β<βMでは小光量とされ、βM≦β≦βUでは大光量とされる。
【0071】
レーザ光源11の光量の制御は、具体的には、制御部12がレーザ光源11の通電量を制御することにより行われる。レーザ光源11は、通電量を大きくされるほど、発光量を増大させる。制御部12によるレーザ光源11の通電量の制御の具体的な仕方としては、(a)レーザ光源11は連続通電とし、その連続通電電流値を増減することや、(b)レーザ光源11へ所定周波数で不連続通電パルスを供給し、該不連続通電パルスのパルス幅(デューティ比)を増減することが挙げられる。
【0072】
βL≦β<βMは、反射光が、その上下方向走査周期において、照射領域の車両近辺部分を走査している期間の上下角βに相当し、βM≦β≦βUは遠方部分を走査している期間の上下角βに相当する。外側圧電アクチュエータ51,52によるX軸回りの反射部2の回動が等速であるときは、水平の照射領域における光スポット80の遠近方向走査速度は車両から遠方の地点ほど高速かつ大直径になるので、もしレーザ光源11の光量が一定であれば、水平の照射領域において遠方の地点ほど、照度が低下してしまう。
【0073】
これに対処するために、外側圧電アクチュエータ51,52によるY軸回りの反射部2の回動速度を、反射光が遠方部分を照射しているときほど、低速とする制御が考えられる。しかし、これだと、反射部2の機械的な高速回動を、所定の精度の速度増減により制御しなければならないので、外側圧電アクチュエータ51,52の制御が難しくなる。
【0074】
これに対し、車両用前照灯10では、図5のように、レーザ光源11の光量制御を実施することにより、照射領域の遠方部分を照射している期間は、光スポット80を明るくすることにより、照射領域の照度を均一化する。レーザ光源11の光量制御は、外側圧電アクチュエータ51,52の制御のように、機械的制御とならず、レーザ光源11への通電量を制御するだけで達成できるので、制御が簡単となるとともに、照射領域における照度の均一化の精度が向上する。
【0075】
さらに、従来のように走査光の主走査方向が左右方向である場合には、走査光が遠方部分に留まる時間が相対的に長くなるので、レーザ光源11を大光量に維持する時間が長くなる。このため、レーザ光源11の発熱量が増大して、レーザ光源11の発光効率を低下させる。これを補償するために、従来技術では、レーザ光源11の通電量を増大すると、レーザ光源11の発熱量がさらに増大して発光効率が低下するという悪循環につながり易い。
【0076】
これに対し、車両用前照灯10では、走査光の主走査方向が上下方向とされる結果、反射光が照射領域の遠方部分を照射する期間としてレーザ光源11の光量を大きくする期間と、反射光が照射領域の近傍部分の照射する期間としてレーザ光源11の光量を小さくする期間との切替周波数(頻度)が増大するので、レーザ光源11を連続的に大光量にする各期間は短縮される。これにより、レーザ光源11の発熱が適当な間隔で低減するので、発光効率の低下が回避される。
【0077】
図5では、レーザ光源11の光量は、上下方向走査周期における上下角βの変化に対して2段切替になっているが、βが増大するにつれてレーザ光源11の光量を増大させるのであれば、3段以上の切替や無段階制御にすることもできる。
【0078】
図6は、任意のカットライン81をレーザ光源11のON(オン:点灯)・OFF(オフ:消灯)制御より生成する制御についての説明図である。図6では、車両用前照灯10を装備する車両は、道路の左側レーンを走行しており、走行レーンの右隣りのレーンは対向車が走行するレーンであると想定している。カットライン81の右側部分は、対向車側の照射領域に相当し、対向車の運転手が車両用前照灯10の反射光により眩惑しないように、対向車の運転手の目の高さより低くなるように、左側部分に対して低く設定される。
【0079】
図6における光スポット80の軌跡は、反射部2の回動を説明する便宜上、レーザ光源11を常時通電状態に保持した場合の軌跡となっている。実際には、後述するように、反射部2を回動しつつ、所定の回動角度範囲では、レーザ光源11をオフにするので、反射部2の回動運動は維持されるが、光スポット80の軌跡は生じず、空軌跡(目に見えない軌跡)となる。
【0080】
前述の図4では、左右方向走査周期における光スポット80の往路期間の軌跡と復路期間の軌跡とは(a)及び(b)に別々に示したが、図6では、1つの図にまとめて示している。図6の場合も、往路期間と復路期間では、軌跡における光スポット80の進行方向が逆になる。
【0081】
制御部12は、上側折り返し点83がカットライン81より上となるように、かつ上側折り返し点83が光スポット80の左右方向走査位置に関係なく固定されるように、内側圧電アクチュエータ31,32を介してY軸回りの反射部2の回動角を制御する。Y軸回りの反射部2の回動角の上側折り返し点を固定して任意のカットライン81を生成することは、制御部12による内側圧電アクチュエータ31,32の制御を簡単化する。
【0082】
制御部12は、また、もしレーザ光源11をオンにしていたならば、光スポット80がカットライン81より上を走査する期間において、レーザ光源11をオフに維持する。具体的には、制御部12は、反射部2のX軸回り及びY軸回りの回動角から走査位置を検出して、反射光がカットライン81を下から上へ越える走査位置が検出されたら、レーザ光源11をオンからオフへ切り替え、また、反射光がカットライン81を上から下へ越える走査位置が検出されたら、レーザ光源11をオフからオンへ切り替える。
【0083】
これにより、反射部2は、内側圧電アクチュエータ31,32により反射光をカットライン81より上の範囲へ向けるように制御されるものの、反射光はカットライン81より上の範囲では照射されず、該上の範囲は闇状態になる。
【0084】
図6では、レーザ光源11をオン、オフさせることしか示していないが、図6のオン・オフ制御と合わせて、図4のレーザ光源11の光量制御を実施することもできる。この場合、レーザ光源11は、各上下方向走査周期のオフ期間において冷却されるので、照射領域の遠方部に対するレーザ光源11の光量増大にもかかわらず、レーザ光源11の発光効率の低下が防止される。
【0085】
以上のとおり実施形態について説明したが、本発明はこれに限られるものではない。例えば、光源としては、レーザ光源11に限定されず、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)を使用することもできる。また、コリメータレンズを光源と反射部との間に配置して、光源として、HID(High Intensity Discharge lamp)又はハロゲンランプを使用することもできる。
【符号の説明】
【0086】
2・・・反射部、10・・・車両用前照灯、11・・・レーザ光源(光源)、12・・・制御部(光量制御部)、31,32・・・内側圧電アクチュエータ、51,52・・・外側圧電アクチュエータ、80・・・光スポット、81・・・カットライン、82・・・下側折り返し点、83・・・上側折り返し点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源からの入射光を反射した反射光を車両前方へ出射する反射部と、
車両前方の照射領域を前記反射光により上下方向及び左右方向にそれぞれ走査するように前記反射部をそれぞれ第1及び第2の軸線回りに回動させるアクチュエータと、
前記反射光の上下方向の走査周波数が左右方向の走査周波数より大となるように前記アクチュエータを制御するアクチュエータ制御部とを備えることを特徴とする車両用前照灯。
【請求項2】
請求項1記載の車両用前照灯において、
前記反射光での上下方向走査周期において、前記照射領域の上側範囲の走査期間では前記照射領域の下側範囲の走査期間よりも前記反射光の光量が増大するように前記光源の光量を制御する光量制御部を備えることを特徴とする車両用前照灯。
【請求項3】
請求項2記載の車両用前照灯において、
前記アクチュエータ制御部は、上下方向走査の上側折り返し点が前記照射領域のカットラインより上となるように前記アクチュエータを制御し、
前記光量制御部は、各上下方向走査周期において前記照射領域のカットラインより上の範囲の上下方向走査期間では前記光源を消灯することを特徴とする車両用前照灯。
【請求項4】
請求項2又は3記載の車両用前照灯において、
前記光量制御部は、前記光源の光量を、前記光源への連続通電における電流値の増減又は前記光源の不連続通電パルスのパルス幅の増減に基づいて、制御することを特徴とする車両用前照灯。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−84530(P2013−84530A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225366(P2011−225366)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】