説明

車両用操舵装置

【課題】ラジオノイズの検査や動作確認検査などを効率よく行うことのできる車両用操舵装置を提供する。
【解決手段】状態検出部70が、車両の状態を検出する。VGRS−ECU20において第1受信部26が外部からコマンドを受信すると、第1判定部27は、車両駆動手段の停止中に、検出される車両状態が、所定の検査モード移行条件を満たしているか判定する。第1動作制御部29は、所定の検査モード移行条件が満たされたことが判定されると、VGRSアクチュエータ21を検査モードで動作可能とさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用操舵装置に関し、特に開発段階や車両出荷前における検査に適した車両用操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、操舵軸を回転させるアクチュエータを用いて、運転者により操舵ハンドルに入力された操舵角に対する前輪の転舵角の伝達比(ステアリングギア比)を可変とするギア比可変ステアリング(VGRS:Variable Gear Ratio Steering)システムが知られている。VGRSシステムは、低車速時にステアリングギア比を大きくして、小さいハンドル操作で大きく転舵輪を転舵するように制御し、一方で高車速時にはステアリングギア比を小さくして、大きなハンドル操作を行っても大きく転舵輪を転舵しないように制御する。また後輪用転舵装置として、前輪の操舵状態に応じて後輪の転舵角をアクチュエータにより制御するアクティブリアステアリング(ARS:Active Rear Steering)システムも知られている。VGRSシステムおよびARSシステムは、車両用操舵装置を構成する。
【0003】
ところで、製造した車両が市場に送り出されるまでには、様々な検査をパスしなければならない。たとえば開発段階では、車両用操舵装置から生じるラジオノイズが検査され、また車両出荷前には、車両用操舵装置が適切に動作するか検査される。特許文献1には、前輪用ターンテーブルと、後輪用ターンテーブルと、前輪の転舵角を測定する前輪転舵角測定手段と、後輪の転舵角を測定する後輪転舵角測定手段とを備えた操舵特性検査装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−206633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
VGRSシステムおよびARSシステムを備えた車両用操舵装置では、走行状態において両システムが動作することで、快適な車両走行が実現される。しかしながら、その前段階、すなわち出荷前の検査段階においてラジオノイズを評価する際、検査対象であるシステムの起動とともに他のシステムが起動されると、他のシステムからもラジオノイズが発生するため、検査対象とするシステムのラジオノイズを正確に測定できない。そのためラジオノイズを評価する際には、対象であるシステム以外のシステム起動を可能な限りなくして、測定ノイズに、他システムのノイズが重畳しないようにすることが好ましい。また出荷前の動作確認検査に際しては、可能な限り検査時間を短くすることが要求される。さらに、開発段階のラジオノイズ検査や出荷前の動作確認検査を、簡易な仕組みで実現することも要求されている。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ラジオノイズの検査や動作確認検査などを効率よく行うことのできる車両用操舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の車両用操舵装置は、転舵輪に対して転舵角を与えるアクチュエータを備えた車両用操舵装置であって、アクチュエータの動作を制御する制御装置と、車両の状態を検出する検出手段とを備える。制御装置は、外部からコマンドを受信する受信手段と、コマンドを受信した後、車両駆動手段の停止中に、検出手段により検出される車両状態が、所定の検査モード移行条件を満たしているか判定する手段と、所定の検査モード移行条件が満たされたことが判定されると、アクチュエータを検査モードで動作可能とさせる動作制御手段とを備える。
【0008】
この態様によると、制御装置はコマンドの受信を契機として、車両駆動手段(たとえばエンジン)の停止中に、検査モードでアクチュエータを動作可能とさせるか否かを判定できる。これにより検査時に簡易な仕組みでアクチュエータを好適に動作させることが可能となる。
【0009】
制御装置は、第1アクチュエータの動作を制御する第1制御装置を含んでもよい。第1制御装置は、検出手段により検出される車両状態が、第1通常モード移行条件を満たしているか判定する第1判定手段と、第1通常モード移行条件が満たされたことが判定されると、第1アクチュエータを通常モードで動作可能とさせる第1動作制御手段と、外部からコマンドを受信する第1受信手段とを備える。ここで第1通常モード移行条件は、車両駆動手段が駆動されていることを1つの条件として含んでいる。第1受信手段がコマンドを受信すると、第1判定手段は、検出手段により検出される車両状態が、車両駆動手段が駆動されていることを条件に含まない第1検査モード移行条件を満たしているか判定し、第1動作制御手段は、第1検査モード移行条件が満たされたことが判定されると、第1アクチュエータを検査モードで動作可能とさせてもよい。
【0010】
このように第1通常モード移行条件とは別に、第1検査モード移行条件を設定することで、第1受信手段が外部からコマンドを受信したことを契機として、検査モードで第1アクチュエータを動作可能とする仕組みを提供できる。
【0011】
制御装置は、第2アクチュエータの動作を制御する第2制御装置を含んでもよい。第2制御装置は、検出手段により検出される車両状態が、第2通常モード移行条件を満たしているか判定する第2判定手段と、第2通常モード移行条件が満たされたことが判定されると、第2アクチュエータを通常モードで動作可能とさせる第2動作制御手段と、外部からコマンドを受信する第2受信手段とを備える。ここで第2通常モード移行条件は、車両が動いていることを1つの条件として含んでいる。第2受信手段がコマンドを受信すると、第2判定手段は、検出手段により検出される車両状態が、車両が実質的に停止していることを1つの条件として含む第2検査モード移行条件を満たしているか判定し、第2動作制御手段は、第2検査モード移行条件が満たされたことが判定されると、第2アクチュエータを検査モードで動作可能とさせてもよい。
【0012】
このように第2通常モード移行条件とは別に、第2検査モード移行条件を設定することで、第2受信手段が外部からコマンドを受信したことを契機として、検査モードで第2アクチュエータを動作可能とする仕組みを提供できる。
【0013】
第1制御装置または第2制御装置は、いずれか一方に対して発行される第1タイプのコマンドを受信すると、当該一方の動作制御手段が、対応するアクチュエータを検査モードで動作可能とし、第1制御装置および第2制御装置が、双方に対して発行される第2タイプのコマンドを受信すると、双方の動作制御手段が、対応するアクチュエータを検査モードで動作可能としてもよい。また第2制御装置において、第2受信手段が、第3タイプのコマンドを受信すると、第2判定手段が、車両状態が直進状態移行条件を満たしているか判定し、直進状態移行条件が満たされたことが判定されると、第2動作制御手段が、第2アクチュエータを制御して転舵輪を直進状態に転舵する。このようにコマンドを使い分けることにより、効率的な検査や状態復帰を実現することが可能となる。なお第1制御装置は、VGRS制御装置であり、第2制御装置は、ARS制御装置であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、検査を効率よく行うことのできる車両用操舵装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】車両用操舵装置が搭載された車両を概略的に示す図である。
【図2】車両用操舵装置の機能ブロックを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、車両用操舵装置1が搭載された車両を概略的に示す図である。この車両の車両用操舵装置1は、運転者によって回動操作される操舵ハンドル10を備える。操舵ハンドル10は、操舵入力軸11の上端に固定されており、操舵入力軸11の下端は、伝達比可変アクチュエータであるVGRSアクチュエータ21に接続されている。VGRSアクチュエータ21は、電動モータであるVGRSモータ22および減速機を有し、操舵入力軸11の回転量(または回転角)に対して、減速機に接続された転舵出力軸12の回転量(または回転角)を適宜変更する。
【0017】
VGRSモータ22は、そのモータハウジングが操舵入力軸11と一体的に接続されており、運転者による操舵ハンドル10の回動操作に従って一体的に回転するようになっている。また、VGRSモータ22の駆動シャフトは減速機に接続されており、VGRSモータ22の回転力が駆動シャフトを介して減速機に伝達される。減速機は、所定のギア機構によって構成されており、転舵出力軸12は上端にてこのギア機構に接続されている。これにより減速機は、VGRSモータ22の回転力が駆動シャフトを介して伝達されると、ギア機構によって駆動シャフトの回転を減速して転舵出力軸12に伝達する。したがってVGRSアクチュエータ21は、VGRSモータ22の駆動シャフトを介して、操舵入力軸11と転舵出力軸12とを相対回転可能に連結している。
【0018】
また車両用操舵装置1は、転舵出力軸12の下端に接続された前輪側転舵機構である前輪転舵ユニット40を備えている。前輪転舵ユニット40は、例えば、ラックアンドピニオン式を採用したギアユニットであり、転舵出力軸12の下端に一体的に組み付けられたピニオンギアの回転がラックバーに伝達されるようになっている。また、前輪転舵ユニット40には、運転者によって操舵ハンドル10に入力される操舵力(より具体的には、操舵トルク)を軽減するための電動モータであるEPS(Electric Power Steering)モータ51が設けられており、EPSモータ51の発生するトルク(所謂、アシスト力)がラックバーに伝達されるようになっている。
【0019】
この構成により、転舵出力軸12の回転力がピニオンギアを介してラックバーに伝達されるとともに、EPSモータ51のアシスト力がラックバーに伝達される。これによりラックバーは、ピニオンギアからの回転力およびEPSモータ51のアシスト力によって軸線方向に変位し、ラックバーの両端に接続された左右前輪FW1,FW2が左右に転舵されるようになっている。
【0020】
また車両用操舵装置1は、左右前輪FW1,FW2の転舵に関連して左右後輪RW1,RW2を転舵させることができる。このため、車両用操舵装置1は、左右後輪RW1,RW2を転舵させるための後輪転舵ユニット41を備えている。後輪転舵ユニット41は、左右後輪RW1,RW2を転舵させる回転駆動力を発生するARSアクチュエータ31を備え、ARSアクチュエータ31はARSモータ32を有している。後輪転舵ユニット41は周知のギア機構を有していて、ARSモータ32の回転を減速するとともに、減速した回転運動を軸線方向運動に変換し、左右後輪RW1,RW2に伝達する。
【0021】
この構成により、運転者による操舵ハンドル10の回動操作に応じて、すなわち、左右前輪FW1,FW2の転舵に合わせてARSモータ32が回転駆動し、ギア機構によって減速された回転が軸線方向運動に変換される。そして、この軸線方向運動が左右後輪RW1,RW2に伝達されて、左右後輪RW1,RWが左右に転舵されるようになっている。
【0022】
車両用操舵装置1において、VGRS制御装置(以下、「VGRS−ECU20」という)が、VGRSアクチュエータ21の動作を制御し、具体的にはVGRSモータ22の回転を制御して、前輪FW1,FW2に対して転舵角を与える。VGRS−ECU20およびVGRSアクチュエータ21は、VGRSシステム25を構成する。またARS制御装置(以下、「ARS−ECU30」という)が、ARSアクチュエータ31の動作を制御し、具体的にはARSモータ32の回転を制御して、後輪RW1,RW2に対して転舵角を与える。ARS−ECU30およびARSアクチュエータ31は、ARSシステム35を構成する。またEPS制御装置(以下、「EPS−ECU50」という)が、EPSモータ51の回転を制御する。EPS−ECU50およびEPSモータ51は、EPSシステムを構成する。各ECUはCPUを含むマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート等を備えている。
【0023】
車両用操舵装置1は、通常モードと検査モードを含む複数の動作モードのうちの1つの動作モードで動作可能である。通常モードは、車両走行時に適用される動作モードであり、車両走行中、VGRSシステム25およびARSシステム35が、操舵ハンドル10の操舵角や車速などに応じて、それぞれ前輪FW1,FW2および後輪RW1,RW2の転舵角を制御する。VGRSシステム25およびARSシステム35には、それぞれ通常モードで動作するための条件(以下、「通常モード移行条件」という)が設定されており、それぞれの通常モード移行条件が満たされると、各システムが起動する。なお車両用操舵装置1において、ARSシステム35の通常モード移行条件には、VGRSシステム25が起動していることが1つの条件として含まれている。したがってARSシステム35は、VGRSシステム25が起動している場合に限って、通常モードで起動可能とされる。
【0024】
一方、検査モードは、開発段階や車両出荷前の検査時に適用される動作モードであり、車両停止中に、外部機器よりVGRSシステム25およびARSシステム35の一方もしくは双方に対して設定される。検査モードでは、車両が停止していることを前提とするため、通常モードと異なり、車速に応じた転舵角の制御は実行されなくてよい。本実施例の車両用操舵装置1には、VGRSシステム25およびARSシステム35を外部機器と接続するための接続部60が設けられており、外部機器は接続部60に接続して、所定のコマンドを送信できる。外部機器はパーソナルコンピュータや検査用の専用ツールなどの情報処理装置であり、VGRSシステム25およびARSシステム35に対して、コマンドを送信できるものであればよい。なおVGRSシステム25およびARSシステム35が無線通信モジュールを備えている場合には、外部機器は、無線でコマンドを送信してもよい。VGRSシステム25およびARSシステム35は、コマンドを受信すると、車両状態に基づいて、コマンドに応じた検査モードで動作することができる。
【0025】
本実施例では、2種類の検査用コマンドと、1つの状態復帰用コマンドが用意されている。2種類の検査用コマンドを、それぞれ第1タイプの検査用コマンド、第2タイプの検査用コマンドと呼ぶ。オペレータは外部機器を操作して、状況に応じたコマンドを車両用操舵装置1に対して送信する。
【0026】
第1タイプの検査用コマンドは、VGRSシステム25またはARSシステム35のいずれか一方に対して発行され、発行されたシステムのみが動作する。第1タイプの検査用コマンドは、ラジオノイズを検査する際に発行される。VGRSシステム25またはARSシステム35の一方のみを起動することで、他方のシステムからラジオノイズを発生させることなく、一方のシステムのラジオノイズを正確に測定することができる。
【0027】
第2タイプの検査用コマンドは、VGRSシステム25およびARSシステム35の双方に発行され、双方のシステムが動作する。第2タイプの検査用コマンドは、出荷前の動作確認検査を行う際に発行される。VGRSシステム25およびARSシステム35を同時に起動することで、両者を別個に起動する場合と比べて、動作確認時間を短縮することができる。
【0028】
また状態復帰用コマンドは、ARSシステム35に対して発行され、後輪RW1,RW2を強制的に直進状態に復帰させるコマンドである。出荷前の動作確認検査の際、なんらかの事情により後輪RW1,RW2が直進状態に戻っていない場合に発行される。
【0029】
図2は、車両用操舵装置1の機能ブロックを示す図である。状態検出部70は、各種センサ類に接続して、車両の状態を検出する。状態検出部70は、少なくとも、車速、イグニッションのオンオフ状態、車輪転舵角の状態、車両駆動手段(たとえばエンジン)の状態、EPSシステムの状態などを、車両状態として検出する。状態検出部70は、車両状態を常時監視し、検出結果をVGRS−ECU20およびARS−ECU30に供給する。
【0030】
VGRS−ECU20は、第1受信部26、第1判定部27、第1条件保持部28および第1動作制御部29を備える。第1受信部26は、接続部60を介して外部機器からコマンドを受信する。コマンドには宛先が設定されており、第1受信部26は、コマンドの宛先がVGRSシステム25の場合に、コマンドを受け付ける。第1条件保持部28は、少なくとも通常モードおよび検査モードへの移行判定条件を保持している。以下、検査モードへの移行判定条件を「検査モード移行条件」と呼び、第1条件保持部28が保持している通常モードおよび検査モードへの移行判定条件を、それぞれ「第1通常モード移行条件」および「第1検査モード移行条件」と呼ぶ。第1判定部27は、状態検出部70により検出される車両状態が、第1条件保持部28にて保持される条件を満たしているか判定する。第1動作制御部29は、条件が満たされたことが判定されると、VGRSアクチュエータ21を対応する動作モードで動作可能とさせる。
【0031】
第1受信部26が外部機器からコマンドを受信すると、第1判定部27は、状態検出部70により検出される車両状態が、第1検査モード移行条件を満たしているか判定する。本実施例の車両用操舵装置1において、第1受信部26がコマンドを受信しなければ、VGRSシステム25が検査モードで動作することはない。一方、第1判定部27は、基本的に常時、第1通常モード移行条件が満たされているか判定し、第1通常モード移行条件が満たされていると、第1動作制御部29が、VGRSアクチュエータ21を通常モードで動作可能とさせる。
【0032】
通常モードにおけるVGRSシステム25の動作について説明する。第1通常モード移行条件は、以下の条件を含む。
(a1)エンジン始動後(たとえば、エンジン回転数≧300[rpm])
(a2)EPSシステムが正常動作中
(a3)センサが正常動作中
(a4)イグニッションオン
なお(a1)〜(a4)の条件が一定時間継続したことが、さらなる条件として付加されてもよい。
第1通常モード移行条件は、(a1)に示すように、車両駆動手段(エンジン)が駆動されていることを1つの条件として含んでいる。車両状態が第1通常モード移行条件を満たすと、第1動作制御部29がVGRSアクチュエータ21を通常モードで動作可能とし、運転者による操舵ハンドル10の操作に応じて、VGRSモータ22を駆動する。
【0033】
一方、車両用操舵装置1の開発段階においては、接続部60に外部機器が接続される。このとき第1受信部26が、VGRSシステム25宛の第1タイプのコマンドを受信すると、第1判定部27は、状態検出部70により検出される車両状態が、第1検査モード移行条件を満たしているか判定する。ここで第1検査モード移行条件は、第1通常モード移行条件から、エンジンが駆動されていることを除外したものである。したがって第1検査モード移行条件は、上記(a1)〜(a4)のうち、(a1)を除外した(a2)〜(a4)である。
【0034】
第1条件保持部28は、(a2)〜(a4)の条件を第1検査モード移行条件として、第1通常モード移行条件とは別個に保持してもよいが、第1通常モード移行条件のみを保持していてもよい。この場合、第1受信部26がコマンドを受信すると、第1判定部27は、第1通常モード移行条件から(a1)の条件を除外したものを第1検査モード移行条件として設定し、車両状態と比較する。これにより第1条件保持部28は、2つの移行条件を保持しなくてよく、保持内容を簡素化できる。第1検査モード移行条件が満たされたことが判定されると、第1動作制御部29は、VGRSアクチュエータ21を検査モードで動作可能とする。
【0035】
ラジオノイズ検査では、たとえばスペクトラムアナライザなどの計測器が使用される。第1動作制御部29は、検査者による操舵ハンドル10の操作に応じてVGRSアクチュエータ21を動かし、計測器が、VGRSシステム25から生じるラジオノイズを計測する。このときARSシステム35は起動されていないため、計測器は、ARSシステム35からのラジオノイズを重畳することなく、VGRSシステム25からのラジオノイズを計測することができる。
【0036】
ARS−ECU30は、第2受信部36、第2判定部37、第2条件保持部38および第2動作制御部39を備える。第2受信部36は、接続部60を介して外部機器からコマンドを受信し、コマンドの宛先がARSシステム35の場合に、コマンドを受け付ける。第2条件保持部38は、少なくとも通常モードおよび検査モードへの移行判定条件を保持しており、第2条件保持部38が保持している通常モードおよび検査モードへの移行判定条件を、それぞれ「第2通常モード移行条件」および「第2検査モード移行条件」と呼ぶ。第2判定部37は、状態検出部70により検出される車両状態が、第2条件保持部38にて保持される条件を満たしているか判定する。第2動作制御部39は、条件が満たされたことが判定されると、ARSアクチュエータ31を対応する動作モードで動作可能とさせる。
【0037】
第2受信部36が外部機器からコマンドを受信すると、第2判定部37は、状態検出部70により検出される車両状態が、第2検査モード移行条件を満たしているか判定する。本実施例の車両用操舵装置1において、第2受信部36がコマンドを受信しなければ、ARSシステム35が検査モードで動作することはない。一方、第2判定部37は、基本的に常時、第2通常モード移行条件が満たされているか判定し、第2通常モード移行条件が満たされていると、第2動作制御部39が、ARSアクチュエータ31を通常モードで動作可能とさせる。
【0038】
通常モードにおけるARSシステム35の動作について説明する。第2通常モード移行条件は、車両が動いていることを1つの条件として含む。既述したようにVGRSシステム25は、前輪FW1,FW2に転舵角を与え、ARSシステム35は、後輪RW1,RW2に転舵角を与える。車両停止時に運転者が操舵ハンドル10を操作すると、その操作力は前輪FW1,FW2に伝達されるが、後輪RW1,RW2には伝達されない。そのため車両停止時にARSシステム35が後輪RW1,RW2に転舵角を与えるとすると、非常に大きな負荷がかかる可能性があるため、第2通常モード移行条件は、車両が動いていることを1つの条件として含んでいる。車両状態が第2通常モード移行条件を満たすと、第2動作制御部39がARSアクチュエータ31を通常モードで動作可能とし、運転者による操舵ハンドル10の操作に応じて、ARSモータ32を駆動する。
【0039】
一方、車両用操舵装置1の開発段階においては、接続部60に外部機器が接続される。このとき第2受信部36が、ARSシステム35宛の第1タイプのコマンドを受信すると、第2判定部37は、状態検出部70により検出される車両状態が、第2検査モード移行条件を満たしているか判定する。第2検査モード移行条件は、以下の条件を少なくとも含む。
(b1)停車中である(たとえば、車速≦4km/h)
(b2)後輪転舵角が直進状態付近にある
(b3)センサが正常動作中
(b1)に示すように第2検査モード移行条件は、車両が実質的に停止していることを1つの条件として含む。実際には第2検査モード移行条件は車速が0であることを要求するが、たとえばセンサばらつきなどを考慮して、車速≦4km/hである場合に、車両が停止していることを判定することとしている。このように第2通常モード移行条件では、車両が動いていることが1つの条件とされていたが、第2検査モード移行条件では、反対に車両が動いていないことが1つの条件とされる。なおエンジンが停止中であることは、ラジオノイズ検査を行う上での前提条件である。
【0040】
第2検査モード移行条件が満たされたことが判定されると、第2動作制御部39は、ARSアクチュエータ31を検査モードで動作可能とする。これによりラジオノイズ検査を行う環境が整えられる。ラジオノイズ検査では、第2動作制御部39は、検査者による操舵ハンドル10の操作に応じてARSアクチュエータ31を動かし、計測器が、ARSシステム35から生じるラジオノイズを計測する。このときVGRSシステム25は起動されていないため、計測器は、VGRSシステム25からのラジオノイズを重畳することなく、ARSシステム35からのラジオノイズを計測することができる。
【0041】
続いて、出荷前の動作確認検査におけるVGRSシステム25およびARSシステム35の動作について説明する。出荷前の検査段階において、接続部60に外部機器が接続される。このとき第1受信部26および第2受信部36が、VGRSシステム25およびARSシステム35宛の第2タイプのコマンドを受信する。なおエンジンが停止中であることは、動作確認検査を行う上での前提である。
【0042】
VGRS−ECU20において、第1判定部27は、状態検出部70により検出される車両状態が、第1検査モード移行条件を満たしているか判定する。第1検査モード移行条件は、ラジオノイズ検査に際して使用したものと同じであってもよく、また別であってもよい。第1判定部27が、車両状態が第1検査モード移行条件を満たしていることを判定すると、第1動作制御部29は、VGRSアクチュエータ21を検査モードで動作可能とさせる。また、ARS−ECU30において、第2判定部37は、状態検出部70により検出される車両状態が、第2検査モード移行条件を満たしているか判定する。第2検査モード移行条件は、ラジオノイズ検査に際して使用したものと同じであってもよく、また別であってもよい。第2判定部37が、車両状態が第2検査モード移行条件を満たしていることを判定すると、第2動作制御部39は、ARSアクチュエータ31を検査モードで動作可能とさせる。
【0043】
これにより出荷前の検査段階において、VGRSシステム25およびARSシステム35の双方が起動される。通常モードでは車両停止中に動作しないARSシステム35も、第2タイプのコマンドによる検査モードではVGRSシステム25とともに動作できるようになる。検査者が操舵ハンドル10を操舵すると、VGRSシステム25およびARSシステム35がそれぞれ転舵輪を転舵させるため、両システムの動作確認を一度に行うことが可能となり、検査時間を短縮できる。
【0044】
なお出荷前の動作確認検査において、ARSシステム35が後輪RW1,RW2を転舵する。動作確認検査の終了時には、後輪RW1,RW2は直進状態を向くように制御される設計となっているが、一方で、動作確認検査中に何らかのエラーが発生して、後輪RW1,RW2が直進状態に戻らない可能性もないわけではない。このような万が一の場合のフェールセーフ機能として、操作者は、外部機器から第3タイプのコマンドをARS−ECU30に送信できるようにしている。第2受信部36は、第3タイプのコマンドを受信すると、第2判定部37は、車両状態が、以下の直進状態移行条件
(c1)車速≦4km/h
(c2)センサが正常動作中
を満たしているか判定する。直進状態移行条件が満たされていれば、第2動作制御部39が、ARSアクチュエータ31を制御して転舵輪を強制的に直進状態に転舵する。これにより、検査場から当該車両をスムーズに移動させることができ、フェールセーフ機能に優れた車両用操舵装置1を提供することができる。
【0045】
以上、実施の形態をもとに本発明を説明した。これらの実施形態は例示であり、各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0046】
1・・・車両用操舵装置、10・・・操舵ハンドル、11・・・操舵入力軸、12・・・転舵出力軸、20・・・VGRS−ECU、21・・・VGRSアクチュエータ、22・・・VGRSモータ、25・・・VGRSシステム、26・・・第1受信部、27・・・第1判定部、28・・・第1条件保持部、29・・・第1動作制御部、30・・・ARS−ECU、31・・・ARSアクチュエータ、32・・・ARSモータ、35・・・ARSシステム、36・・・第2受信部、37・・・第2判定部、38・・・第2条件保持部、39・・・第2動作制御部、40・・・前輪転舵ユニット、41・・・後輪転舵ユニット、50・・・EPS−ECU、51・・・EPSモータ、60・・・接続部、70・・・状態検出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転舵輪に対して転舵角を与えるアクチュエータを備えた車両用操舵装置であって、
前記アクチュエータの動作を制御する制御装置と、
車両の状態を検出する検出手段と、を備え、
前記制御装置は、
外部からコマンドを受信する受信手段と、
コマンドを受信した後、車両駆動手段の停止中に、前記検出手段により検出される車両状態が、所定の検査モード移行条件を満たしているか判定する手段と、
所定の検査モード移行条件が満たされたことが判定されると、前記アクチュエータを検査モードで動作可能とさせる動作制御手段と、
を備えることを特徴とする車両用操舵装置。
【請求項2】
前記制御装置は、第1アクチュエータの動作を制御する第1制御装置を含み、
前記第1制御装置は、
前記検出手段により検出される車両状態が、第1通常モード移行条件を満たしているか判定する第1判定手段と、
第1通常モード移行条件が満たされたことが判定されると、前記第1アクチュエータを通常モードで動作可能とさせる第1動作制御手段と、
外部からコマンドを受信する第1受信手段と、を備え、第1通常モード移行条件は、車両駆動手段が駆動されていることを1つの条件として含むものであって、
前記第1受信手段がコマンドを受信すると、前記第1判定手段は、前記検出手段により検出される車両状態が、車両駆動手段が駆動されていることを条件に含まない第1検査モード移行条件を満たしているか判定し、
前記第1動作制御手段は、第1検査モード移行条件が満たされたことが判定されると、前記第1アクチュエータを検査モードで動作可能とさせることを特徴とする請求項1に記載の車両用操舵装置。
【請求項3】
前記制御装置は、第2アクチュエータの動作を制御する第2制御装置を含み、
前記第2制御装置は、
前記検出手段により検出される車両状態が、第2通常モード移行条件を満たしているか判定する第2判定手段と、
第2通常モード移行条件が満たされたことが判定されると、前記第2アクチュエータを通常モードで動作可能とさせる第2動作制御手段と、
外部からコマンドを受信する第2受信手段と、を備え、第2通常モード移行条件は、車両が動いていることを1つの条件として含むものであって、
前記第2受信手段がコマンドを受信すると、前記第2判定手段は、前記検出手段により検出される車両状態が、車両が実質的に停止していることを1つの条件として含む第2検査モード移行条件を満たしているか判定し、
前記第2動作制御手段は、第2検査モード移行条件が満たされたことが判定されると、前記第2アクチュエータを検査モードで動作可能とさせることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用操舵装置。
【請求項4】
前記第1制御装置または前記第2制御装置は、いずれか一方に対して発行される第1タイプのコマンドを受信すると、当該一方の前記動作制御手段が、対応する前記アクチュエータを検査モードで動作可能とし、
前記第1制御装置および前記第2制御装置が、双方に対して発行される第2タイプのコマンドを受信すると、双方の前記動作制御手段が、対応する前記アクチュエータを検査モードで動作可能とすること、を特徴とする請求項3に記載の車両用操舵装置。
【請求項5】
前記第2制御装置において、前記第2受信手段が、第3タイプのコマンドを受信すると、前記第2判定手段が、前記車両状態が直進状態移行条件を満たしているか判定し、直進状態移行条件が満たされたことが判定されると、前記第2動作制御手段が、前記第2アクチュエータを制御して転舵輪を直進状態に転舵する、ことを特徴とする請求項3または4に記載の車両用操舵装置。
【請求項6】
前記第1制御装置は、VGRS制御装置であり、前記第2制御装置は、ARS制御装置であることを特徴とする請求項3から5のいずれかに記載の車両用操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−113773(P2013−113773A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261972(P2011−261972)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】