説明

重層塗布方法及び平版印刷版並びにその製造方法

【課題】上層の塗布手段として非接触方式の塗布コータを使用して複層を逐次重層塗布する場合に、塗り付け不良や液はじき、あるいは塗布スジ等の塗布欠陥が発生しないように安定塗布することができる。
【解決手段】続走行するウェブ12上に、ロッド塗布装置14で塗布した感光層保護層(A)L1が未乾燥状態にあるうちにエクストルージョン塗布装置16で感光層保護層(B)L2を重ねて塗布する逐次重層塗布の際に、感光保護層(B)L2の湿潤塗布量をW(cc/m)、ウェブ12の走行速度をU(m/分)、感光層保護層(B)L2の動的表面張力をγ1(mN/m)、感光層保護層(A)L1の静的表面張力をγ2(mN/m)としたときに、次式W/[U(γ1−γ2)]≧0.018…(A1)を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重層塗布方法及び平版印刷版並びにその製造方法に係り、さらに詳しくは、連続走行する帯状のウェブ上に複数の層を重ねて塗布する重層塗布方法及びその重層塗布方法を用いた平版印刷版の製造方法並びに平版印刷版に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、平版印刷版の製造は、一般的に、帯状のアルミニウム板の一方又は両方の面を常法に従って砂目立てして平版印刷版製造用の支持体であるウェブを製造し、このウェブの砂目立てした面に、陽極酸化皮膜等の前処理を施した後、ウェブに複数の塗布液を重ねて塗布する重層塗布を行う工程がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
重層塗布の塗布液としては、ウェブに感光層A(下層)を塗布し、その下層が未乾燥状態(塗布液の固形分濃度が60%以下の湿潤状態)のうちに別の感光層B(上層)を重層塗布する場合、あるいは感光層(下層)を塗布し、その感光層が未乾燥状態のうちに感光層保護層(上層)を重層塗布する場合、あるいは感光層を塗布乾燥した後に、感光層保護層Aを塗布し、その感光層保護層が未乾燥状態のうちに感光層保護層Bを重層塗布する場合等がある。
【0004】
また、複数の層を重層塗布する塗布方式としては、逐次重層塗布と同時重層塗布とがある。逐次重層塗布は、下層と上層とを別の塗布手段で順番に塗布する方式であり、上層の塗布手段としてはエクストルージョンコータ、スライドビードコータ、スラドカーテンコータ等のように、下層と塗布手段先端との間に所定のクリアランスを設けて下層に塗布手段先端が接触しない非接触方式の塗布手段を使用することが一般的である(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【0005】
一方、同時重層塗布は、スライドビードコータ又はスライドカーテンコータのように、複数のスリットからスライド面に複数の塗布液を押し出してスライド面で重層させ、重層した塗布液をスライド面に流下してスライド面先端からウェブに塗布する方式である。
【0006】
上記した逐次重層塗布や同時重層塗布は、平版印刷版の製造に限らず、写真感光材料や磁気記録媒体等のように塗布工程を備えた各種塗布製品の製造ラインに採用されている。
【特許文献1】特開2004−223456号公報
【特許文献2】特開昭59−189967号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のように上層の塗布手段として非接触方式の塗布手段を使用して複層を逐次重層塗布する場合、下層に上層が良好に塗り付かない塗り付け不良や液はじき、あるいは製造された平版印刷版の塗布面に塗布スジが形成される等の塗布欠陥が発生する場合があるという問題がある。
【0008】
一方、上記のように、スライドビードコータ又はスライドカーテンコータで同時重層塗布する場合にも、下層塗布液と上層塗布液とが重なった重層液がスライド面を流下する際に、重層液の流下状態が不安定になり、スライド面上で流れムラや液はじき等が発生し、塗布欠陥の原因になる場合がある。
【0009】
そして、上記した逐次重層塗布及び同時重層塗布において発生する塗布欠陥は、ウェブの走行速度が60m/分以上の高速塗布や複層合計の塗布量が湿潤状態で50cc/m以下の薄膜塗布において発生し易い。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、1つ目の課題は、上層の塗布手段として非接触方式の塗布コータを使用して複層を逐次重層塗布する場合に、塗り付け不良や液はじき、あるいは塗布スジ等の塗布欠陥が発生しないように安定塗布することができる重層塗布方法及びその重層塗布方法を用いた平版印刷版の製造方法並びに平版印刷版を提供することを目的とする。
【0011】
また、2つ目の課題は、スライド面を有する塗布手段を使用して複層を同時重層塗布する場合に、スライド面上で流れムラや液はじき等が発生することを防止し、これにより塗布欠陥を発生させないようにできる重層塗布方法及びその重層塗布方法を用いた平版印刷版の製造方法並びに平版印刷版を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、連続走行するウェブ上に、第1の塗布手段で塗布した下側の層が未乾燥状態にあるうちに第2の塗布手段で上側の層を重ねて塗布することにより2層以上の複層を形成する逐次重層塗布であって、第2の塗布手段として非接触方式の塗布手段を使用して複層を逐次重層塗布する場合、湿潤塗布量Wと塗布速度Uとの関係において、上層の塗布液と下層の塗布液との液物性値を表面張力差及び/又は粘度差で規定することが塗布欠陥防止に重要であるとの知見を得た。特に、60m/分以上の高速塗布の場合や、ウェブに塗布される複層合計の塗布量が湿潤状態で50cc/m以下である薄層塗布の場合において重要である。
【0013】
具体的には、塗布液の液物性値を表面張力で規定する場合、(i)下層の静的表面張力、上層の動的表面張力、上側の層の湿潤塗布量、及びウェブの走行速度の4つの因子を所定の関係に制御することで、塗り付け不良や液はじき、塗布スジ等の塗布欠陥の発生を顕著に抑制できる。ここで重要な点は、上層の表面張力は動的表面張力で規定する必要があることである。これは、ラボで測定した表面張力(静的表面張力)は小さいのに、実際の塗布のように下層と上層との界面が流動状態で不安定な状態での表面張力(動的表面張力)は大きくなる液性の上層塗布液ほど塗布欠陥が発生し易いことから、上層の表面張力を静的表面張力で規定すると、下層と上層との表面張力差を正しく把握できないからである。
【0014】
さらに、(i)に加え塗布液の粘度を規定した場合、(ii)下層の粘度、上層の粘度、下層の静的表面張力、上層の動的表面張力、上側の層の湿潤塗布量、及びウェブの走行速度の6つの因子を所定の関係に制御することで、塗り付け不良や液はじき、塗布スジ等の塗布欠陥の発生を顕著に抑制できることを見いだした。
【0015】
従って、本発明の重層塗布方法を実施することにより、塗布開始から塗布終了まで良好な面質で塗布を行うことができる。
【0016】
また、本発明者は、上記の逐次重層塗布に限らず、連続走行するウェブ上に、スライド面を有するスライドビード方式又はスライドカーテン方式の塗布手段で2層以上の複層を同時重層塗布する塗布方法においても上記した4つの因子の関係を満たすことで、スライド面上で流れムラや液はじき等が発生することを防止できることを見いだした。本発明は上記知見に基づいて成されたものである。
【0017】
本発明の請求項1は上記目的を達成するために、連続走行するウェブ上に、第1の塗布手段で塗布した下側の層が未乾燥状態にあるうちに第2の塗布手段で上側の層を重ねて塗布することにより2層以上の複層を形成する逐次重層塗布であって、前記第2の塗布手段として前記下側の層とは非接触の状態で塗布液を塗布する非接触塗布方式を用いた重層塗布方法において、前記上側の層の湿潤塗布量をW(cc/m)、前記ウェブの走行速度をU(m/分)、前記上側の層の動的表面張力をγ1(mN/m)、前記上側の層に接する下側の層の静的表面張力をγ2(mN/m)としたときに、次式(A1)の関係を満足することを特徴とする重層塗布方法を提供する、W/[U(γ1−γ2)]≧0.018…(A1)。
【0018】
請求項1は逐次重層塗布の場合であり、W/[U(γ1−γ2)]≧0.018…(A1)の関係を満足するようにしたので、塗布開始から塗布終了まで、塗り付け不良や液はじき、塗布スジ等の塗布欠陥の発生を顕著に抑制できる。好ましくは、W/[U(γ1−γ2)]≧0.02を満足することである。
【0019】
本発明の請求項2は上記目的を達成するために、連続走行するウェブ上に、第1の塗布手段で塗布した下側の層が未乾燥状態にあるうちに第2の塗布手段で上側の層を重ねて塗布することにより2層以上の複層を形成する逐次重層塗布であって、前記第2の塗布手段として前記下側の層とは非接触の状態で塗布液を塗布する非接触塗布方式を用いた重層塗布方法において、前記上側の層の湿潤塗布量をW(cc/m)、前記ウェブの走行速度をU(m/分)、前記上側の層の動的表面張力をγ1(mN/m)、前記上側の層に接する下側の層の静的表面張力をγ2(mN/m)、前記上側の層の液粘度をμ1(mPa・s)、前記上側の層に接する下側の層の液粘度をμ2(mPa・s)としたときに、次式(B1)、(B2)、及び(B3)の関係を満足することを特徴とする重層塗布方法を提供する、W/[U(γ1−γ2)]≧0.018…(B1)、μ1>μ2…(B2)、W(μ1−μ2)/U≧1.1…(B3)。
【0020】
請求項2は逐次重層塗布の場合であり、W/[U(γ1−γ2)]≧0.018…(B1)、μ1>μ2…(B2)、W(μ1−μ2)/U≧1.1…(B3)の関係の3つの式を満足するようにしたので、一層塗り付け不良や液はじきと、塗布スジ等の塗布欠陥の発生を顕著に抑制できる。好ましくはW/[U(γ1−γ2)]≧0.02、W(μ1−μ2)/U≧2.0を満足することである。
【0021】
本発明の請求項3は上記目的を達成するために、連続走行するウェブ上に、スライド面を有するスライドビード方式又はスライドカーテン方式の1つの塗布手段で2層以上の複層を同時重層塗布する塗布方法において、前記上側の層の湿潤塗布量をW(cc/m)、前記ウェブの走行速度をU(m/分)、前記上側の層の動的表面張力をγ1(mN/m)、前記上側の層に接する下側の層の静的表面張力をγ2(mN/m)としたときに、次式(A1)の関係を満足することを特徴とする重層塗布方法を提供する、W/[U(γ1−γ2)]≧0.018…(A1)。
【0022】
請求項3は、同時重層塗布の場合であり、W/[U(γ1−γ2)]≧0.018…(A1)の関係を満足するようにしたので、スライド面上で流れムラや液はじき等が発生することを防止し、これにより塗布欠陥を発生させないようにできる。好ましくはW/[U(γ1−γ2)]≧0.02を満足することである。
【0023】
本発明の請求項4は上記目的を達成するために、連続走行するウェブ上に、スライド面を有するスライドビード方式又はスライドカーテン方式の1つの塗布手段で2層以上の複層を同時重層塗布する塗布方法において、前記上側の層の湿潤塗布量をW(cc/m)、前記ウェブの走行速度をU(m/分)、前記上側の層の動的表面張力をγ1(mN/m)、前記上側の層に接する下側の層の静的表面張力をγ2(mN/m)、前記上側の層の液粘度をμ1(mPa・s)、前記上側の層に接する下側の層の液粘度をμ2(mPa・s)としたときに、次式(B1)、(B2)及び(B3)の関係を満足することを特徴とする重層塗布方法を提供する、W/[U(γ1−γ2)]≧0.018…(B1)、μ1>μ2…(B2)、W(μ1−μ2)/U≧1.1…(B3)。
【0024】
請求項4は同時重層塗布の場合であり、W/[U(γ1−γ2)]≧0.018…(B1)、μ1>μ2…(B2)、W(μ1−μ2)/U≧1.1…(B3)の関係の3つの式を満足するようにしたので、スライド面上で流れムラや液はじき等が発生することを防止し、これにより塗布欠陥を発生させないようにできる。好ましくはW/[U(γ1−γ2)]≧0.02、W(μ1−μ2)/U≧2.0を満足することである。
【0025】
請求項5は請求項1〜4の何れか1において、前記上側の層の塗布手段は、エクストルージョン塗布、スライドビード塗布、スライドカーテン塗布の何れかであることを特徴とする。
【0026】
請求項5は、上側の層を塗布する非接触方式の塗布手段の好ましい態様を示したものである。
【0027】
請求項6は請求項1〜5の何れか1において、前記ウェブの走行速度は60m/分以上であることを特徴とする。これは、本発明はウェブの走行速度が60m/分以上において特に有効だからである。
【0028】
請求項7は請求項1〜6の何れか1において、前記ウェブに塗布される複層合計の塗布量が湿潤状態で50cc/m以下であることを特徴とする。これは、本発明はウェブに塗布される複層合計の塗布量が湿潤状態で50cc/m以下の薄層塗布において特に有効だからである。
【0029】
本発明の請求項8は前記目的を達成するために、請求項1〜7のいずれか1に記載された重層塗布方法を使用して平版印刷版を製造することを特徴とする平版印刷版の製造方法を提供する。本発明の重層塗布方法を平版印刷版の製造に適用することで、面状に優れた平版印刷版を製造できるからである。
【0030】
請求項9は前記目的を達成するために、請求項8の平版印刷版の製造方法により製造されたことを特徴とする平版印刷版を提供する。これにより、面状に優れた平版印刷版を得ることができる。
【0031】
請求項10は請求項9の平版印刷版において、感光層を塗布乾燥後、感光層保護層である感光層保護下層と感光層保護上層が2層重層塗布されることを特徴とする。請求項10は平版印刷版において、重層塗布方法を使用して形成する下層と上層との好適な一例を示したものである。
【0032】
請求項11は請求項10の平版印刷版において、感光層保護層塗布液の溶媒が純粋である水系塗布液であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、上層の塗布手段として非接触方式の塗布手段を使用して複層を逐次重層塗布する場合に、塗り付け不良や液はじき、塗布スジ等の塗布欠陥が発生しないように安定塗布することができる。
【0034】
また、本発明によれば、スライド面を有する1つの塗布手段を使用して複層を同時重層塗布する場合に、スライド面上で流れムラや液はじき等の塗布欠陥を発生させないようにできる。
【0035】
また、本発明の重層塗布方法により平版印刷版を製造すれば、面状に優れた高品質な平版印刷版を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、図面に従って本発明に係る重層塗布方法及びその重層塗布方法を用いた平版印刷版の製造方法並びに平版印刷版の好ましい実施の形態について説明する。
本発明の重層塗布方法を、平版印刷版の製造に組み込んだ一例で説明するが、本発明は、平版印刷版の製造に組み込むことに限定されず、重層塗布を行う各種の製造ラインに適用できる。
【0037】
また、本実施の形態では、下側の層として感光層保護層(A)L1を塗布し、上側の層として感光層保護層(B)L2を塗布する例で説明する。しかし、本発明は、上下層を感光層保護層であることに限定されない。また、下層及び上層の2層に限定されず、2層以上の重層塗布であればよい。例えば、3層の場合には、最下層と中間層とが下側の層と上側の層との関係になり、更には中間層と最上層とが下側の層と上側の層との関係になる。
【0038】
(第1の実施の形態)
本発明の重層塗布方法の第1の実施の形態は、連続走行するウェブ上に、ロッド塗布装置で感光層保護層(A)L1(下側の層、以下「下層」という)を塗布形成し、感光層保護層(A)L1が未乾燥状態(塗布液の固形分濃度が60%以下の湿潤状態)にあるうちにエクストルージョン塗布装置(非接触方式)で感光保護層(B)L2(上側の層、以下「上層」という)を重ねて塗布する逐次重層塗布の場合である。
【0039】
図1には、本発明の重層塗布方法の第1の実施の形態を実施するための一形態である塗布ライン10が示されている。塗布ライン10には、平版印刷版の支持体であるアルミニウム製のウェブ12が走行される。このウェブ12には、砂目立て処理及び陽極酸化皮膜処理等の前処理が施された後、感光層がロッド塗布等により塗布、熱風乾燥等により乾燥され、アルミニウム支持体上に感光層が形成されている。
【0040】
この塗布ライン10では、ウェブ12は矢印aで示す一定の搬送方向に沿って連続走行するようになっており、この走行方向の上流側から順に、感光層保護層(A)L1(下層)を塗布するロッド塗布装置14、感光層保護層(B)L2(上層)を塗布するエクストルージョン塗布装置16が配設される。
【0041】
ここで、上層を塗布する塗布手段は、上記の通り、下側の層とは非接触の状態で塗布液を塗布する非接触塗布方式であることが必要であり、上記のエクストルージョン塗布装置の他に、例えばスライドビード塗布装置、スライドカーテン塗布装置を好適に使用できる。一方、下層を塗布する塗布手段は、非接触塗布方式であることに限定されず、ブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、グラビアコーター、ロッドブレードコーター、リップコーター、カーテンコーター、ダイコーター及びスライドビード等の各種公知の塗工装置を使用できる。
【0042】
また、エクストルージョン塗布装置16の下流側には、感光層保護層(A)L1(下層)と感光層保護層(B)L2(上層)とを重層塗布した重層塗布層L3を乾燥させる乾燥装置18が配設される。乾燥装置18としては、重層塗布層L3を熱風で乾燥する熱風乾燥タイプ、赤外線で乾燥する赤外線乾燥タイプ、重層塗布層L3近傍に凝縮板を配置する凝縮乾燥タイプ等の各種の乾燥装置を使用できる。
【0043】
次に、ロッド塗布装置14とエクストルージョン塗布装置16のそれぞれの構成要素について詳細に説明する。
【0044】
ロッド塗布装置14は、図2に示すように、主として、ウェブ12に当接しつつ、ウェブ12の走行方向aと同方向(矢印b方向)に回転するロッド14Aと、上面に形成されたV字型の溝によりロッド14Aを支持するロッド支持部材14Bと、ロッド支持部材14Bの上流側に立設された上流側堰板14Cと、ロッド支持部材14Bの下流側に立設された下流側堰板14Dと、ロッド支持部材14B、上流側堰板14C、及び下流側堰板14Dが固定されている基台14Eと、で構成される。
【0045】
ロッド支持部材14Bと上流側堰板14Cとの間には、ロッド14Aの上流側に感光層保護層(A)塗布液を供給する上流側給液流路14Fが設けられ、ロッド支持部材14Bと下流側堰板14Dとの間には、ロッド14Aの下流側に感光層保護層(A)塗布液を供給する下流側給液流路14Gが設けられる。上流側給液流路14Fと下流側給液流路14Gとは、ロッド支持部材14Bにおける下部に設けられた連通流路14Hにより連通している。そして、上流側給液流路14Fの下端部には、感光層保護層(A)塗布液を供給する給液管路14Jが接続されている。
【0046】
また、ウェブ12の上方には、感光層保護層(A)塗布液の塗布時において、回転軸14Lを中心に従動回転しつつ、ウェブ12をロッド14Aに対して押圧する1対のウェブ押圧ローラ14Kが配設される。即ち、ウェブ押圧ローラ14Kの回転軸14Lは、図示しないスライド手段により、図2のA−B方向にスライド可能となっている。
【0047】
ロッド14Aとしては、転造加工によりロッド表面の円周方向に溝を一定間隔で刻設した転造ロッド、ロッド表面にワイヤーを密に巻回したワイヤーロッド等を好適に使用できる。
【0048】
ロッド14Aの外径は、ロッドを転造加工する際の精度(真直度・真円度)、回転モーメント及び重量バランス等の観点からφ1〜30mmの範囲とすることが好ましく、φ6〜20mmの範囲とすることが更に好ましい。
【0049】
ロッド支持部材14Bとしては、回転するロッド14Aを確実に支持することが可能であれば限定されないが、ロッド14Aとの摩擦係数が低いものが、ロッド14Aのスムーズな回転にとって好ましく、更には耐磨耗性の高いものが好ましい。これらの条件を満たすものとしては、ポリエチレン樹脂、フッ素樹脂、ポリアセタール樹脂等を挙げることができ、これらのうちでもテフロン(R)(米国DuPont社の商品名)の名で知られるポリテトラフルオロエチレン、デルリン(米国DuPont社の商品名)の名で知られるポリアセタール樹脂が摩擦係数、強度(耐磨耗性)の点で特に好適である。更に、これらのプラスチック材料にグラスファイバー、グラファイト、二硫化モリブデン等の充填材を添加したものも用いることができる。更には、ロッド支持部材14Bを金属材料で製作した後、その表面(少なくともロッド14Aを支持する部分)に前述のプラスチック材料をコーティングしたり、貼りつけたりして、ロッド14Aとの間の摩擦係数を小さくさせてもよい。あるいは、各種金属材料に前述のプラスチック材料を含浸させたもの(たとえば、アルミニウムにポリテトラフルオロエチレンを含浸させたもの)をロッド支持部材14Bに用いることもできる。
【0050】
図3はエクストルージョン塗布装置16の構成である。
【0051】
図3に示すように、エクストルージョン塗布装置16は、主として、ダイコーター20と、走行するウェブ12を巻き掛け支持するバックアップローラ22とで構成される。ダイコーター20は、略直方体状のブロック状に形成されたダイコーター本体20Aを備え、ダイコーター本体20Aは、バックアップローラ22に向かって断面が楔状に突出した先端部20Bを有する。そして、先端部20Bの先端にはバックアップローラ22の回転軸22A方向に平行な先端面20Cが形成される。この先端面20Cと、バックアップローラ22に巻き掛けられたウェブ12との間には、通常約0.1〜1mm程度のクリアランス(隙間)が形成される。そして、後述するスリットから先端面20Cに吐出された塗布液は、ウェブ12と先端面20Cとの間、即ちクリアランスに塗布液のビード20M(液溜まり)を形成し、このビード20Mを介してウェブ12に塗布される。これにより、エクストルージョン塗布装置16は、ロッド塗布装置14によって既に塗布されている感光層保護層(A)L1(下層)に非接触な状態で感光層保護層(B)L2(上層)を塗布することができる。
【0052】
ダイコーター本体20Aの内部には、感光層保護層(B)塗布液が吐出される狭隘な流路であるスリット20Dが形成される。このスリット20Dは、ウェブ12の幅方向に沿って細長く開口すると共に、スリット20Dの下端がマニホールド20Eを介して給液流路20Fに連通している。これにより、給液流路20Fから供給された感光層保護層(B)塗布液は、マニホールド20Eにおいてウェブ12の幅方向に拡流され、スリット20Dを流れて先端面20Cから吐出される。
【0053】
また、ダイコーター本体20Aの先端部20B下方には、減圧チャンバ20Gが設けられ、ダイコーター本体20Aの先端部20Bと、バックアップローラ22と、減圧チャンバ20Gとで囲まれた部分に減圧空間20Nが形成される。
【0054】
減圧チャンバ20Gの側面には、減圧チャンバ20Gの内部を減圧する減圧管20Hが接続される。これにより、減圧空間20Nを減圧することで上述したビード20Mの上流側を減圧し、ビード20Mを安定に形成できるようにする。
【0055】
減圧チャンバ20Gの内部には、スリット20Dから吐出された感光層保護層(B)塗布液のうち、ウェブ12に塗布されなかった余剰分を受ける樋状の余剰液受け20Jが設けられ、余剰液受け20Jは排液管20Kを介して貯留槽20Lに接続される。
次に、上記説明した図1の塗布ライン10を用いて本発明の重層塗布方法について説明する。
【0056】
先ず、ウェブ12の砂目立て及び陽極酸化皮膜等の前処理がなされた面に、ロッド塗布装置等を用いて感光層を塗布し、熱風乾燥方式などを用いて乾燥させる。続いて、前記感光層が塗布乾燥された塗布膜面上に、ロッド塗布装置14により感光層保護層(A)塗布液を塗布する。即ち、既に感光層が塗布されているウェブ12とロッド14Aとを当接させると共に、感光層保護層(A)塗布液を上流側給液流路14Fと下流側給液流路14Gとに供給する。これにより、ウェブ12とロッド14Aとが当接した上流側には、塗布液の第1液溜まり14Mが形成されると共に、下流側には第2液溜まり14Nが形成される。そして、回転するロッド14Bがこれらの液溜まり14M,14Nから感光層保護層(A)塗布液を汲み上げてウェブ12に転写することにより、感光層保護層(A)塗布液がウェブ12に所定の厚みで塗布される。これにより、ウェブ12に下層である感光層保護層(A)L1が形成される。
【0057】
次に、感光層保護層(A)L1が形成されたウェブ12を、感光層保護層(A)L1が未乾燥状態であるうちにエクストルージョン塗布装置16まで走行し、感光層保護層(A)L1の上に感光層保護層(B)L2を重層塗布する。即ち、ダイコーター本体20Aのスリット20Dから感光層保護層(B)塗布液を吐出させると共に、減圧チャンバ20Gの内部を50〜1000Pa・sの範囲に減圧する。これにより、ダイコーター本体20Aの先端面20Cと、ウェブ12に塗布された感光層保護層(A)L1との間にビード20Mを形成し、このビード20Mを介して未乾燥状態にある感光層保護層(A)L1の上に感光層保護層(B)L2を重層塗布する(いわゆる、WET ON WET塗布を行う)。感光層保護層(A)L1と感光層保護層(B)L2とが逐次重層塗布された重層塗布層L3は乾燥装置18により乾燥された後、図示しない巻取装置に巻回される。これにより平版印刷版が製造される。
【0058】
かかる逐次重層塗布において、下記の[A]、[B]の何れかを満足するように塗布する。
【0059】
[A]感光層保護層(B)L2(上層)の湿潤塗布量をW(cc/m)、ウェブ12の走行速度をU(m/分)、感光層保護層(B)L2(上層)の動的表面張力をγ1(mN/m)、感光層保護層(A)L1(下層)の静的表面張力をγ2(mN/m)としたときに、次式(A1)の関係を満足する。
【0060】
W/[U(γ1−γ2)]≧0.018(好ましくは0.02)…(A1)
[B]感光層保護層(B)L2(上層)の湿潤塗布量をW(cc/m)、ウェブ12の走行速度をU(m/分)、感光層保護層(B)L2(上層)の動的表面張力をγ1(mN/m)、感光層保護層(A)L1(下層)の静的表面張力をγ2(mN/m)、感光層保護層(B)L2(上層)の液粘度をμ1(mPa・s)、感光層保護層(A)L1(下層)の液粘度をμ2(mPa・s)としたときに、次式(B1)、(B2)、及び(B3)の関係を満足する。
【0061】
W/[U(γ1−γ2)]≧0.018(好ましくは0.02)…(B1)
μ1>μ2…(B2)
W(μ1−μ2)/U≧1.1(好ましくは2.0)…(B3)
このように、逐次重層塗布において、上記の[A]、[B]の何れかを満足するように塗布することにより、感光層保護層(B)L2が感光層保護層(A)L1に塗りつきにくいという塗り付け不良や、感光層保護層(B)L2が感光層保護層(A)L1によって弾かれてしまうという液はじき、あるいは製造された平版印刷版の面状に塗布スジが見られると等の塗布欠陥が発生しないように安定塗布することができる。
【0062】
(第2の実施の形態)
本発明の重層塗布方法の第2の実施の形態は、連続走行するウェブ12上に、スライド面を有する1つのスライドビード塗布装置で感光層保護層(A)L1(下層)と感光層保護層(B)L2(上層)とを同時重層塗布する場合である。尚、第1の実施の形態と同じ部材、装置には同符号を付して説明する。
【0063】
図4には、本発明の重層塗布方法の第2の実施の形態を実施するための一形態である塗布ライン30が示されている。塗布ライン30には、平版印刷版の支持体であるウェブ12が走行される。このウェブ12には、砂目立て処理及び陽極酸化皮膜処理等の前処理が施された後、感光層がロッド塗布等により塗布、熱風乾燥等により乾燥され、アルミニウム支持体上に感光層が形成されている。
【0064】
この塗布ライン30では、ウェブ12は矢印aで示す一定の搬送方向に沿って連続走行するようになっており、この走行経路に、感光層保護層(A)L1(下層)と感光層保護層(B)L2(上層)とを同時重層塗布するスライドビード塗布装置32が設けられる。尚、スライド面を備えた塗布手段としては、スライドビード塗布装置の他に、公知のスライドカーテン塗布装置を使用することができる。また、スライドビード塗布装置32の下流位置に設けられる乾燥装置18は第1の実施の形態と同様であり説明は省略する。
【0065】
スライドビード塗布装置32は、図5及び図6に示すように、主として、スライドホッパー本体34とウェブ12を巻き掛け支持するバックアップローラ36とで構成される。ウェブ12に塗布される感光層保護層(A)塗布液及び感光層保護層(B)塗布液は、図示しない塗布液タンクからそれぞれの供給ライン38、40を介してスライドホッパー本体34内の各マニホールド42、44に供給される。スライドホッパー本体34は、主として複数のダイブロック46、46…と、ダイブロック46同士を合わせた状態でその側面に当てがう一対の側板48(図6参照)とで構成され、スライドホッパー本体34内部には、供給管38、40、マニホールド42、44、スリット50、52、スライド面54から成る各塗布液L1’、L2’(感光層保護層(A)塗布液及び感光層保護層(B)塗布液)が流れる経路が形成される。マニホールド42、44に供給された各塗布液L1’、L2’は塗布幅方向に拡流された後、各スリット50、52を介してスライドホッパー本体34上面の下方傾斜したスライド面54に押し出される。スライド面54に押し出された各塗布液L1’、L2’は、互いに混ざり合うことなく重層液L3’となってスライド面54を流下し、スライド面54下端のリップ先端58に達する。リップ先端58に達した重層液L3’は、リップ先端58と、バックアップローラ36に巻き掛けられて走行するウェブ12とのクリアランス(隙間)60に重層液L3’のビード62(液溜まり)を形成し、このビード62を介してウェブ12に塗布される。これにより、感光層保護層(A)L1(下層)と感光層保護層(B)L2(上層)とが同時重層塗布された重層L3が形成される。
【0066】
また、スライドホッパー本体34のリップ先端58下方には、減圧チャンバ66が設けられ、スライドホッパー本体34とバックアップローラ36と減圧チャンバ66とで囲まれた部分に減圧空間68が形成される。減圧チャンバ66の側面には真空装置(図示せず)に接続される排気管70が接続され、底面には減圧チャンバ66の内部に落下した重層液L3’を排出する排液管72が接続される。この減圧チャンバ66は、ビード62の上流側(図5における下側)を負圧にしてビード62を安定化させる。減圧チャンバ66内部の減圧空間68は50〜1000Pa・sの範囲で減圧することが好ましい。
かかる第2の実施の形態における同時重層塗布の場合にも、下記の[A]、[B]の何れかを満足するように塗布する。
【0067】
[A]感光層保護層(B)L2(上層)の湿潤塗布量をW(cc/m)、ウェブ12の走行速度をU(m/分)、感光層保護層(B)L2(上層)の動的表面張力をγ1(mN/m)、感光層保護層(A)L1(下層)の静的表面張力をγ2(mN/m)としたときに、次式(A1)の関係を満足する。
【0068】
W/[U(γ1−γ2)]≧0.018(好ましくは0.02)…(A1)
[B]感光層保護層(B)L2(上層)の湿潤塗布量をW(cc/m)、ウェブ12の走行速度をU(m/分)、感光層保護層(B)L2(上層)の動的表面張力をγ1(mN/m)、感光層保護層(A)L1(下層)の静的表面張力をγ2(mN/m)、感光相補誤送(B)L2(上層)の液粘度をμ1(mPa・s)、感光層保護層(A)L1(下層)の液粘度をμ2(mPa・s)としたときに、次式(C1)、(C2)、及び(C3)の関係を満足する。
【0069】
W/[U(γ1−γ2)]≧0.018(好ましくは0.02)…(B1)
μ1>μ2…(B2)
W(μ1−μ2)/U≧1.1(好ましくは2.0)…(B3)
このように、同時重層塗布において、上記の[A]、[B]の何れかを満足するように塗布することにより、スライド面を有する塗布コータを使用して複層を同時重層塗布する場合に、スライド面上で流れムラや液はじき等の塗布欠陥を発生させないようにできる。
【0070】
尚、本発明で使用するウェブ12は、帯状のものでもシート状のものでも良く、アルミニウム等の薄板金属(上記したアルミ製のウェブ12)、紙、プラスチックフィルム、レジンコーティング紙、合成紙等を使用できる。ウェブ12としてアルミニウム板を使用する場合には、例えば、JIS1050材、JIS1100材、JIS1070材、Al−Mg系合金、Al−Mn系合金、Al−Mn−Mg系合金、Al−Zr系合金、Al−Mg−Si系合金等を適用し得る。プラスチックフィルムの場合の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン等のビニル重合体、6,6−ナイロン、6−ナイロン等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、セルトーストリアセテート、セルロースダイアセテート等のセルロースアセテト等が使用される。また、レジンコーティング紙に用いるレジンとしては、ポリエチレンをはじめとするポリオレフィンが代表的であるが、これらには限定されない。
【0071】
ウェブ12の厚みも特に限定されないが、0.01mm〜1.0mm程度のものが取り扱いや、汎用性の点で有利である。
【0072】
また、ウェブ12上に予め塗布乾燥される感光層塗布液としては、例えば、高分子化合物の水溶液や、有機溶剤溶液、顔料分散液、コロイド溶液などを用いることができる。平版印刷版の感光層を構成するための感光層塗布液としては、以下の(1)〜(11)の態様の感光層を構成するような感光液が挙げられる。
【0073】
(1) 感光層が赤外線吸収剤、熱によって酸を発生する化合物、および酸によって架橋する化合物を含有する態様。
【0074】
(2) 感光層が赤外線吸収剤、および熱によってアルカリ溶解性となる化合物を含有する態様。
【0075】
(3) 感光層が、レーザー光照射によってラジカルを発生する化合物、アルカリに可溶のバインダー、および多官能性のモノマーあるいはプレポリマーを含有する層と、酸素遮断層との2層を含む態様。
【0076】
(4) 感光層が、物理現像核層とハロゲン化銀乳剤層との2層からなる態様。
【0077】
(5) 感光層が、多官能性モノマーおよび多官能性バインダーとを含有する重合層と、ハロゲン化銀と還元剤を含有する層と、酸素遮断層との3層を含む態様。
【0078】
(6) 感光層が、ノボラック樹脂およびナフトキノンジアジドを含有する層と、ハロゲン化銀を含有する層との2層を含む態様。
【0079】
(7) 感光層が、有機光導電体を含む態様。
【0080】
(8) 感光層が、レーザー光照射によって除去されるレーザー光吸収層と、親油性層および/または親水性層とからなる2〜3層を含む態様。
【0081】
(9) 感光層が、エネルギーを吸収して酸を発生する化合物、酸によってスルホン酸またはカルボン酸を発生する官能基を側鎖に有する高分子化合物、および可視光を吸収することで酸発生剤にエネルギーを与える化合物を含有する態様。
【0082】
(10) 感光層が、キノンジアジド化合物と、ノボラック樹脂とを含有する態様。
【0083】
(11) 感光層が、光又は紫外線により分解して自己もしくは層内の他の分子との架橋構造を形成する化合物とアルカリに可溶のバインダーとを含有する態様。
【実施例1】
【0084】
次に、本発明の第1の実施の形態で説明した塗布ライン10を使用して平版印刷版を製造した実施例を説明するが、勿論本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0085】
1.支持体(ウェブ12)の作製
厚さ0.30mm、幅1030mmのJIS A 1050アルミニウム帯状板を用いて、以下に示す表面処理を行い、表面処理及び感光層塗布乾燥の施された支持体(ウェブ12)を得た。
【0086】
<表面処理>
表面処理は、以下の(a)〜(f)の各種処理を連続的に行った。なお、各処理及び水洗の後にはニップローラで液切りを行った。
【0087】
(a)アルミニウム板を苛性ソーダ濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%、温度70℃の水溶液でエッチング処理を行い、アルミニウム板を5g/m溶解し、その後水洗を行った。
【0088】
(b)温度30℃の硝酸濃度1質量%水溶液(アルミニウムイオン0.5質量%含む)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後水洗した。
【0089】
(c)60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。この時の電解液は、硝酸1質量%水溶液(アルミニウムイオン0.5質量%、アンモニウムイオン0.007質量%含む)、温度30℃であった。交流電源は電流値がゼロからピークに達するまでの時間TPが2msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電流密度は電流のピーク値で25A/dm、電気量はアルミニウム板が陽極時の電気量の総和で250C/cmであった。補助陽極には電源から流れる電流の5%を分流させた。その後水洗を行った。
【0090】
(d)苛性ソーダ濃度26質量%、アルミニウムイオン濃度6.5質量%の水溶液でスプレーによるエッチング処理を35℃で行い、アルミニウム板を0.2g/m溶解し、前段の交流を用いて電気化学的な粗面化を行ったときに生成した水酸化アルミニウムを主体とするスマット成分の除去と、生成したピットのエッジ部分を溶解し、エッジ部分を滑らかにした。その後水洗した。
【0091】
(e)温度60℃の硫酸濃度25質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む)で、スプレーによるデスマット処理を行い、その後スプレーによる水洗を行った。
【0092】
(f)硫酸濃度170g/リットル(アルミニウムイオンを0.5質量%含む)の水溶液中、温度33℃、電流密度が5(A/dm)で、50秒間陽極酸化処理を行った。その後水洗を行った。この時の陽極酸化皮膜重量が2.7g/mであった。
【0093】
このようにして得られたアルミニウム支持体の表面粗さRaは0.27(測定機器;東京精密(株)製サーフコム、蝕針先端径2ミクロンメーター)であった。
【0094】
<バックコート層>
次に、このアルミニウム支持体裏面に下記下塗り層用塗布液をワイヤーバーにて塗布し、100℃10秒間乾燥した。塗布量は0.5g/mであった。
(バックコート層用塗布液)
・PR55422 (住友ベークライト(株) 0.44g
(フェノール/m-クレゾール/p-クレゾール=5/3/2 平均分子量 5300)
・フッ素系界面活性剤 0.002g
(メガファックF−780−F 大日本インキ化学工業(株)、
メチルイソブチルケトン(MIBK)30質量%溶液)
・メタノール 3.70g
・1−メトキシ−2−プロパノール 0.92g
<下塗り層>
次に、このアルミニウム支持体表面に下記下塗り層用塗布液をワイヤーバーにて塗布し、100℃10秒間乾燥した。塗布量は10mg/mであった。
【0095】
(下塗り層用塗布液)
・下記構造の高分子化合物[化1](重量平均分子量:10,000)0.05g
【0096】
【化1】

【0097】
・メタノール 27g
・イオン交換水 3g
<感光層>
この上に、下記組成の高感度光重合性組成物P-1を乾燥塗布質量が1.4g/m2となるようにロッド塗布装置等で塗布し、125℃で34秒熱風乾燥させ、感光層を形成した。
【0098】
(光重合性組成物P-1)
・赤外線吸収剤([化2]) 0.038g
・重合開始剤A([化3]) 0.061g
・重合開始剤B([化5]) 0.094g
・メルカプト化合物([化4のE1〜E4]) 0.015g
・重合性化合物([化6]) 0.425g
・バインダーポリマーA([化7]) 0.311g
・バインダーポリマーB([化8]) 0.250g
・バインダーポリマーC([化9]) 0.062g
・添加剤([化10]) 0.079g
・重合禁止剤([化11]) 0.0012g
・エチルバイオレット([化12]) 0.021g
・フッ素系界面活性剤 0.0081g
(メガファックF−780−F 大日本インキ化学工業(株)、
メチルイソブチルケトン(MIBK)30質量%溶液)
・メチルエチルケトン 5.886g
・メタノール 2.733g
・1−メトキシ−2−プロパノール 5.886g
【0099】
【化2】

【0100】
【化3】

【0101】
【化4】

【0102】
【化5】

【0103】
【化6】

【0104】
【化7】

【0105】
【化8】

【0106】
【化9】

【0107】
【化10】

【0108】
【化11】

【0109】
【化12】

【0110】
2.感光層保護層(A)L1(下層)及び感光層保護層(B)L2(上層)塗布
上記1で得たウェブ12上にロッド塗布装置14を用いて感光層保護層(A1)L1(下層)を塗布し、感光層保護層(A)L1が未乾燥状態にあるうちに非接触塗布方式のエクストルージョン塗布装置16を用いて感光層保護層(B)L2(上層)を逐次重層塗布した。次に、感光層保護層(A)L1と感光層保護層(B)L2とが重層塗布された重層塗布層L3を乾燥装置18で乾燥し、これにより平版印刷版を製造した。
【0111】
<感光層保護層(A)下層(L1)>
合成雲母(ソマシフMEB−3L、3.2%水分散液、コープケミカル(株)製)、ポリビニルアルコール(ゴーセランCKS−50:ケン化度99モル%、重合度300、スルホン酸変性ポリビニルアルコール日本合成化学工業株式会社製)界面活性剤A(日本エマルジョン社製、エマレックス710)及び界面活性剤B(アデカプルロニックP-84:旭電化工業株式会社製)の混合水溶液(保護層用塗布液)をロッド塗布装置14で塗布液の湿潤塗布量Wが15(cc/m)となるように塗布した。
【0112】
この混合水溶液(保護層用塗布液)中の合成雲母(固形分)/ポリビニルアルコール/界面活性剤A/界面活性剤Bの含有量割合は、7.5/89/2/1.5(質量%)であり、塗布量は(乾燥後の被覆量)は0.5g/mであった。
【0113】
<感光層保護層(B)上層(L2)>
前記感光層保護層(A)が未乾燥状態(湿潤状態)であるうちに、感光層保護層(A)表面上に、有機フィラー(アートパールJ−7P、根上工業(株)製)、合成雲母(ソマシフMEB−3L、3.2%水分散液、コープケミカル(株)製)、ポリビニルアルコール(L−3266:ケン化度87モル%、重合度300、スルホン酸変性ポリビニルアルコール日本合成化学工業株式会社製)、増粘剤(セロゲンFS−B、第一工業製薬(株)製)、高分子化合物A、及び界面活性剤(日本エマルジョン社製、エマレックス710)の混合水溶液(保護層用塗布液)をエクストルージョン塗布装置16で、感光層保護層(B)の湿潤塗布量が35(cc/m)となるように塗布した。このときのダイコーター本体20Aの先端面20Cと、ウェブ12に塗布された感光層保護層(A)L1の面との間のクリアランスを0.25mmとし、減圧チャンバの減圧度は200Ps・sとした。
【0114】
この混合水溶液(保護層用塗布液)中の有機フィラー/合成雲母(固形分)/ポリビニルアルコール/増粘剤/高分子化合物A/界面活性剤の含有量割合は、4.7/2.8/67.4/18.6/2.3/4.2(質量%)であり、塗布量は(乾燥後の被覆量)は1.2g/mであった。
【0115】
<感光層保護層(A/B)の乾燥>
感光層保護層(A)L1と感光層保護層(B)L2とが重層塗布された重層塗布層L3を熱風乾燥装置18で温度125℃、風速7.0m/secで約20秒間乾燥乾燥する。
【0116】
そして、塗布速度(ラインスピード)を60、80、120(m/分)の3段階に高速化したときに、本発明のW/[U(γ1−γ2)]≧0.018(好ましくは0.02)…式(A1)の関係を満足する場合と、満足しない場合とで、製造された平版印刷版の面状がどのように異なるかを試験した。面状の評価は次の通りである。
【0117】
○=はじき、塗布すじ、塗布むら、塗りつけ不良、長時間(30分以上)発生なし
△=塗り付くが、時間経過とともに、液はじき、液膜切れ、塗布すじ、塗布むらが発生
×=はじき、塗布すじ、塗布むら、塗りつけ不良発生
尚、塗布液の動的表面張力は、協和界面科学(株)製のBP−D3型を、また、静的表面張力は協和界面科学(株)製のCBVP−Z型を用いて、室温25℃の環境下で測定した。
【0118】
その結果を図7に示す。図7における項目「式(A1)」の数値は、式(A1)に必要な数値を代入して計算した値である。
【0119】
図7に示すように、式(A1)の計算値が0.018以上を満足しない試験No.4、11、14、15については、製造された平版印刷版の面状が×であり、平版印刷版の製品品質として不合格であった。
【0120】
これに対して、式(A1)の計算値が0.018以上を満足する試験No.1〜3、5〜10、12〜13については、製造された平版印刷版の面状が△〜○であり、平版印刷版の製品品質として合格であった。特に、式(A1)の計算値が0.02以上を満足する試験No.2、3、6〜10、及び12、13については全て○であり良好な面状であった。
【実施例2】
【0121】
平版印刷版の製造方法及びロッド塗布装置、エクストルージョン塗布装置の条件、感光層L1、酸化防止層L2の組成、及び製造された平版印刷版の面状の評価基準については実施例1と同様である。
【0122】
そして、塗布速度(ラインスピード)を60、80、120(m/分)の3段階に高速化したときに、本発明の
W/[U(γ1−γ2)]≧0.018(好ましくは0.02)…(B1)
μ1>μ2…(B2)
W(μ1−μ2)/U≧1.1(好ましくは2.0)…(B3)の関係を満足する場合と、満足しない場合とで、製造された平版印刷版の面状がどのように異なるかを試験した。尚、塗布液の粘度は、B型粘度計を使用して室温(25℃)で測定した。
【0123】
その結果を図8に示す。図8における項目「式(B1)」、「式(B2)」及び「式(B3)」の数値は、式(B1)、式(B2)及び式(B3)に必要な数値を代入して計算した値である。また、式(B2)において、「Y」は式(B2)を満足する場合、「N」は式(B2)を満足しない場合である。
【0124】
図8に示すように、式(B1)、式(B2)及び式(B3)を満足しない試験No.16、17、21、22、24、28、29、30、31、34は面状評価が×〜△であり、高品質な平版印刷版が得られなかった。
【0125】
これに対して、式(B1)、式(B2)及び式(B3)を満足する試験No.18、19、20、23、25、26、27、32、33は面状評価が○であり、高品質な平版印刷版が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】本発明の第1の実施の形態の逐次重層塗布方法を組み込んだ塗布ラインの構成図
【図2】第1の実施の形態で第1の塗布手段として使用したロッド塗布装置を説明する説明図
【図3】第1の実施の形態で第2の塗布手段として使用したエクストルージョン塗布装置を説明する説明図
【図4】本発明の第2の実施の形態の同時重層塗布方法を組み込んだ塗布ラインの構成図
【図5】第2の実施の形態で使用したスライドビード塗布装置を説明する側面断面図
【図6】第2の実施の形態で使用したスライドビード塗布装置を説明する上面図
【図7】本発明の第1の実施の形態の実施例であり、上層と下層の塗布液の液物性として表面張力で規定した場合の表図
【図8】本発明の第1の実施の形態の実施例であり、上層と下層の塗布液の液物性として粘度で規定した場合の表図
【符号の説明】
【0127】
10…逐次重層塗布の塗布ライン、12…ウェブ、14…ロッド塗布装置、16…エクストルージョン塗布装置、18…乾燥装置、20…ダイコーター、22…バックアップローラ、30…同時重層塗布の塗布ライン、32…スライドビード塗布装置、34…スライドホッパー本体、36…バックアップローラ、38、40…供給ライン、42、44…マニホールド、46…ダイグロック、48…側板、50、52…スリット、54…スライド面、56…重層液、58…リップ先端、60…クリアランス、62…ビード、68…減圧チャンバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続走行するウェブ上に、第1の塗布手段で塗布した下側の層が未乾燥状態にあるうちに第2の塗布手段で上側の層を重ねて塗布することにより2層以上の複層を形成する逐次重層塗布であって、前記第2の塗布手段として前記下側の層とは非接触の状態で塗布液を塗布する非接触塗布方式を用いた重層塗布方法において、
前記上側の層の湿潤塗布量をW(cc/m)、前記ウェブの走行速度をU(m/分)、前記上側の層の動的表面張力をγ1(mN/m)、前記上側の層に接する下側の層の静的表面張力をγ2(mN/m)としたときに、次式(A1)の関係を満足することを特徴とする重層塗布方法。
W/[U(γ1−γ2)]≧0.018…(A1)
【請求項2】
連続走行するウェブ上に、第1の塗布手段で塗布した下側の層が未乾燥状態にあるうちに第2の塗布手段で上側の層を重ねて塗布することにより2層以上の複層を形成する逐次重層塗布であって、前記第2の塗布手段として前記下側の層とは非接触の状態で塗布液を塗布する非接触塗布方式を用いた重層塗布方法において、
前記上側の層の湿潤塗布量をW(cc/m)、前記ウェブの走行速度をU(m/分)、前記上側の層の動的表面張力をγ1(mN/m)、前記上側の層に接する下側の層の静的表面張力をγ2(mN/m)、前記上側の層の液粘度をμ1(mPa・s)、前記上側の層に接する下側の層の液粘度をμ2(mPa・s)としたときに、次式(B1)、(B2)、及び(B3)の関係を満足することを特徴とする重層塗布方法。
W/[U(γ1−γ2)]≧0.018…(B1)
μ1>μ2…(B2)
W(μ1−μ2)/U≧1.1…(B3)
【請求項3】
連続走行するウェブ上に、スライド面を有するスライドビード方式又はスライドカーテン方式の1つの塗布手段で2層以上の複層を同時重層塗布する塗布方法において、
前記上側の層の湿潤塗布量をW(cc/m)、前記ウェブの走行速度をU(m/分)、前記上側の層の動的表面張力をγ1(mN/m)、前記上側の層に接する下側の層の静的表面張力をγ2(mN/m)としたときに、次式(A1)の関係を満足することを特徴とする重層塗布方法。
W/[U(γ1−γ2)]≧0.018…(A1)
【請求項4】
連続走行するウェブ上に、スライド面を有するスライドビード方式又はスライドカーテン方式の1つの塗布手段で2層以上の複層を同時重層塗布する塗布方法において、
前記上側の層の湿潤塗布量をW(cc/m)、前記ウェブの走行速度をU(m/分)、前記上側の層の動的表面張力をγ1(mN/m)、前記上側の層に接する下側の層の静的表面張力をγ2(mN/m)、前記上側の層の液粘度をμ1(mPa・s)、前記上側の層に接する下側の層の液粘度をμ2(mPa・s)としたときに、次式(B1)、(B2)、及び(B3)の関係を満足することを特徴とする重層塗布方法。
W/[U(γ1−γ2)]≧0.018…(B1)
μ1>μ2…(B2)
W(μ1−μ2)/U≧1.1…(B3)
【請求項5】
前記第2の塗布手段は、エクストルージョン塗布、スライドビード塗布、スライドカーテン塗布の何れかであることを特徴とする請求項1、2の何れか1の重層塗布方法。
【請求項6】
前記ウェブの走行速度は60m/分以上であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1の重層塗布方法。
【請求項7】
前記ウェブに塗布される複層合計の塗布量が湿潤状態で50cc/m以下であることを特徴とする請求項1〜6の何れか1の重層塗布方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1に記載された重層塗布方法を使用して平版印刷版を製造することを特徴とする平版印刷版の製造方法。
【請求項9】
請求項8の平版印刷版の製造方法により製造されたことを特徴とする平版印刷版。
【請求項10】
請求項9の平版印刷版において、上層、下層とも感光層保護層であることを特徴とする平版印刷版。
【請求項11】
請求項10の平版印刷版において、感光層保護層塗布液の溶媒が純水である水系塗布液であることを特徴とする平版印刷版。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−178848(P2008−178848A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−28456(P2007−28456)
【出願日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】