説明

電気加熱式の排ガス浄化装置

【課題】電気加熱式の排ガス浄化装置に関し、別途のシステムを適用することなく、排ガス中の凝縮水が浄化装置内に浸入してきた場合でも、通電不可によって触媒加熱がなされず、排ガス浄化が実行できないといった課題が生じ得ない電気加熱式の排ガス浄化装置を提供する。
【解決手段】導電性を有する中空の基材1の内部1aには少なくとも水平絶縁材5が配されて上方空間1a1と下方空間1a2が画成され、それぞれの空間にハニカム触媒2A,2Bが形成されており、基材1には上方空間1a1と下方空間1a2のそれぞれに固有の一対の上方電極3Aと下方電極3Bが形成され、上方電極3Aと下方電極3Bのそれぞれによって上方空間と下方空間それぞれのハニカム触媒2A,2Bが加熱されるようになっている排ガス浄化装置200である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば車両に搭載されて排ガスを浄化する排ガス浄化装置に係り、特に触媒を電気加熱することによって排ガスを浄化する電気加熱式の排ガス浄化に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種産業界においては、環境影響負荷低減に向けた様々な取り組みが世界規模でおこなわれており、中でも、自動車産業においては、燃費性能に優れたガソリンエンジン車は勿論のこと、ハイブリッド車や電気自動車等のいわゆるエコカーの普及とそのさらなる性能向上に向けた開発が日々進められている。
【0003】
ところで、車両エンジンとマフラーを繋ぐ排ガスの排気系統には、常温時の排ガスを浄化することに加えて、冷間時には電気加熱によって触媒を活性化させて排ガスを浄化する電気加熱式の排ガス浄化装置が搭載されることがある。この電気加熱式の排ガス浄化装置は、たとえば特許文献1に開示されるハニカムヒーターの構造からも明らかなように、ハニカム触媒に一対の電極を取り付け、電極を通電することでハニカム触媒を加熱し、ハニカム触媒の活性を高めてこれを通過する排ガスを無害化するものである(電気加熱式触媒(EHC: Electrically Heated Converter))。
【0004】
また、この排気系統には、別途の三元触媒を備えた排ガス浄化装置も搭載されており、たとえば電気加熱式の排ガス浄化装置で浄化しきれなかった排ガスをこの三元触媒浄化装置にて浄化し、浄化された排ガスがサブマフラーやメインマフラーなどからなるマフラーに流通されるようになっている。
【0005】
電気加熱式触媒の反応初期の温度は300℃程度であるが、たとえばエンジン作動時に生成される排ガスが排気されるまでの極めて短い時間で、触媒を効果的に加熱し、その性能を発揮し得る状態にすることが重要である。
【0006】
上記する排ガス中には多量の水分が含まれているが、これが排気系統の下流側の低温領域で冷却されると、排ガス中の水分が凝縮水となり、たとえば車両走行時にはこの凝縮水がサブマフラー位置に1リットル以上の量にまで増大しながら留まることがある。そして、車両制動時には、この凝縮水が上記する排ガス浄化装置やさらに上流側のスタートコンバーターにまで逆流することもあり得る。
【0007】
従来の電気加熱式の排ガス浄化装置においては、逆流してきた凝縮水によって電極の絶縁不良(漏電)が生じ、通電不可となり得るといった課題が懸念されていた。これは、従来の排ガス浄化装置を構成する電極が凝縮水に曝されている構造となっていたこともその要因の一つである。
【0008】
漏電時には触媒の電気加熱ができないことより、たとえば上記するエンジン作動時や車両制動時においては電気加熱式触媒による排ガス浄化が全く期待できない。そこで、この漏電を回避するべく、排ガス浄化装置を含む浄化システムの全体を降圧システムとするといった改良も考えられるが、この場合には別途のシステムを車両に搭載することとなり、車両重量の増加に伴う燃費性能低下の原因となりかねない。
【0009】
排ガスからの凝縮水の生成が不可避であることに鑑みれば、凝縮水の生成や生成された凝縮水が排ガス浄化装置に逆流してくることを許容しながら、当該浄化装置の構造に改良を加えることで、仮に凝縮水が浄化装置内に浸入してきた場合でも電気加熱式触媒の加熱を可能とし、もって排ガス浄化を保障することのできる装置の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平3−288525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、電気加熱式の排ガス浄化装置に関し、別途のシステムを適用することなく、排ガス中の凝縮水が浄化装置内に浸入してきた場合でも、通電不可によって触媒加熱がなされず、排ガス浄化が実行できないといった課題が生じ得ない電気加熱式の排ガス浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成すべく、本発明による電気加熱式の排ガス浄化装置は、導電性を有する中空の基材と該基材内に収容されたハニカム触媒を少なくとも備え、排ガスの排気系統に設置されて該排ガスを浄化する電気加熱式の排ガス浄化装置であって、前記基材の内部には少なくとも水平絶縁材が配されて上方空間と下方空間が画成され、それぞれの空間にハニカム触媒が形成されており、基材には上方空間と下方空間のそれぞれに固有の一対の電極である上方電極と下方電極が形成され、上方電極と下方電極のそれぞれによって上方空間と下方空間それぞれのハニカム触媒が加熱されるようになっており、下方電極への通電を止めることができるようになっているものである。
【0013】
本発明の排ガス浄化装置は、電気加熱式触媒が導電性基材の中空内に設けられた装置に関し、この基材内部を少なくとも上下2つの空間に分離し、双方の空間それぞれに固有の一対の電極を設けることにより、凝縮水が溜まり得る下方空間に対応した電極の過電流を検知して漏電前に通電を停止し、これと同時に上方空間の触媒には通電を継続してハニカム触媒を加熱し、排ガスの浄化を停止させることなく担保するものである。
【0014】
さらには、導電性の基材により、上方空間の電極で生じた熱を下方空間へ伝熱して溜まった凝縮水を早期に蒸散させ、下方空間を通電可能な状態に移行させるようにしている。
【0015】
ここで、使用されるハニカム触媒は特に限定されるものではないが、炭化ケイ素やステンレス系金属等の導電性金属からなる四角形もしくは六角形の多数の格子輪郭からなり、各格子内にアルミナやジルコニア、セリア等を主成分とするマトリックス担体内に白金やパラジウム、ロジウムなどの触媒金属が分散して担持され、格子中央には排ガスが通過する通気孔が形成された構造を有するものである。
【0016】
この排ガス浄化装置が配設される排気系統には、エンジン、排ガス浄化装置、三元触媒、サブマフラー、メインマフラーなどが順に配設されている。
【0017】
また、基材内を上下2つの空間に分割する水平絶縁材は、セラミックス、セメント、熱硬化性もしくは熱可塑性の樹脂などから形成される。
【0018】
本発明の電気加熱式の排ガス浄化装置は、従来構造の排ガス浄化装置に対して、基材を少なくとも上下2つの空間に分割し、それぞれの空間に固有の一対の電極を設けただけの極めて簡易な改良構造を有するものである。この簡易な改良構造により、凝縮水の生成や生成された凝縮水が排ガス浄化装置に逆流してくることを許容しながら、一部のハニカム触媒への通電を担保して排ガス浄化を保障することができる。
【0019】
なお、基材の内部における水平絶縁材の配設位置(もしくは配設レベル)、すなわちこの位置によって変化する上方空間と下方空間それぞれの体積は、逆流し得る凝縮水の量や、排ガス浄化を最小限保障するに当たって上方空間に要求される電流値、さらにはこの電流値によって決定される下方空間へ伝熱される熱量などが総合勘案されて調整されるのがよい。したがって、たとえば、水平絶縁材がたとえば円形輪郭の基材の中央位置(中心点を通る直径)に配設された形態、水平中心よりも上方に配設された形態(上方空間の体積が相対的に小さくなる)、水平中心よりも下方に配設された形態(上方空間の体積が相対的に大きくなる)などの形態バリエーションが挙げられる。
【0020】
また、本発明による電気加熱式の排ガス浄化装置の他の実施の形態において、少なくとも前記下方空間にはさらに鉛直絶縁材が配され、少なくとも該下方空間が複数の分割空間に画成されるとともにそれぞれの分割空間には固有のハニカム触媒と固有の一対の電極である分割電極が形成されており、前記下方電極が複数の該分割電極からなるものである。
ここで、「少なくとも下方空間にはさらに鉛直絶縁材が配され」とは、下方空間にのみ鉛直絶縁材が配された形態のほか、上方空間と下方空間の双方に鉛直絶縁材が配された形態を包含する意味である。
【0021】
また、「複数の分割空間」とは、たとえば下方空間が1つの鉛直絶縁材にて2つの分割空間を成す形態、2つ以上の鉛直絶縁材にて3つ以上の分割空間を成す形態などを包含している。
【0022】
そして、形成された分割空間のそれぞれが固有のハニカム触媒と固有の一対の電極を有している。たとえば2つの鉛直絶縁材にて下方空間が3つの分割空間を成す形態においては、その中央の分割空間にのみ凝縮水が溜まって過電流が生じていた場合でも、この分割空間の電極への通電のみを停止し、その他の2つの分割空間はそれぞれに固有の電極に通電されて固有のハニカム触媒を加熱することができ、これと上方空間のハニカム触媒とで排ガス浄化を保障することが可能となる。
【0023】
さらに、本発明による電気加熱式の排ガス浄化装置の好ましい実施の形態は、下方電極間の電流値、もしくは下方電極が複数の下方分割電極からなる場合はそれぞれの分割電極間の電流値、を測定するセンサと、該センサからの測定データが送信される制御部を前記排ガス浄化装置がさらに備え、前記制御部には一定の電流閾値が設定されており、前記測定データが該電流閾値を超えた際に該測定データに対応する下方電極もしくは分割電極への通電が該制御部にてOFF制御され、少なくとも上方電極への通電は継続されるようになっているものである。
【0024】
たとえば、下方電極や、これが分割されて複数の分割電極からなる場合の各分割電極が、電源と通じる回路中にそれぞれに固有のスイッチング素子を備えているのがよい。そして、通電可能時の電流値と漏電に至り得る過電流値との間の任意の電流値を電流閾値として設定し、たとえば下方電極の電流値に関する測定データがこの電流閾値を超えていると制御部にて判定された際に、制御部よりスイッチング素子にOFF指令信号が送信されて下方電極への通電がOFF制御されるような制御機構が構成できる。
【0025】
なお、下方電極への通電がOFF制御されている際に、上方電極への通電はそのまま継続され、上方空間に対応するハニカム触媒の加熱が継続されて排ガス浄化は保証される。さらに、基材を介して、上方で生じた熱が下方へ伝熱され、下方空間に溜まっている凝縮水を可及的速やかに蒸散し、下方電極の過電流状態が解消された際に、下方電極への通電が再開され、初期の排ガス浄化性能を回復させることができる。
【発明の効果】
【0026】
以上の説明から理解できるように、本発明の電気加熱式の排ガス浄化装置によれば、水平絶縁材にて中空の基材を少なくとも上下2つの空間に分割し、それぞれの空間に固有の一対の電極を設けた改良構造により、該装置内に浸入してきた凝縮水によって下方空間に過電流が生じ、漏電前に下方空間への通電を停止した場合であっても、通電可能な上方空間への通電が担保され、これによって上方空間内のハニカム触媒の加熱とこれによる継続的な排ガス浄化を保証することができる。また、基材を介して上方で生じた熱が下方へ伝熱され、下方空間に溜まっている凝縮水を可及的速やかに蒸散させ、下方電極の過電流状態が解消された際には下方電極への通電が再開され、初期の排ガス浄化性能を回復させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の排ガス浄化装置を含む排ガスの排気系統を説明した模式図である。
【図2】(a)は本発明の排ガス浄化装置の一実施の形態を説明した模式図であり、(b)は図2aのb部の拡大図である。
【図3】本発明の排ガス浄化装置の他の実施の形態を説明した模式図である。
【図4】(a)〜(f)はいずれも基材の内部の分割形態を説明した模式図である。
【図5】図2で示す排ガス浄化装置の制御フロー図である。
【図6】図3で示す排ガス浄化装置の制御フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の排ガス浄化装置を含む排ガスの排気系統を説明した模式図であり、図2aは本発明の排ガス浄化装置の一実施の形態を説明した模式図であり、図2bは図2aのb部の拡大図である。さらに、図3は本発明の排ガス浄化装置の他の実施の形態を説明した模式図である。
【0029】
本発明の電気加熱式の排ガス浄化装置200は、図1で示す排気系統内に介在するものであり、この排気系統には、エンジン100、排ガス浄化装置200、三元触媒浄化装置300、サブマフラー400およびメインマフラー500が配されて相互に系統管で繋がれ、エンジン100で生成された排ガスは同図のX1方向に排気されるようになっている。
【0030】
図示する排気系統では、たとえばエンジン100を始動させた際に、可及的速やかに排ガス浄化装置200を構成するハニカム触媒を所定温度まで加熱昇温し、エンジンから流通してくる排ガスをこのハニカム触媒にて効果的に浄化することが重要であり、排ガス浄化装置200で浄化しきれなかった排ガスはその下流に位置する三元触媒浄化装置300にて浄化されることになる。
【0031】
電気加熱式の排ガス浄化装置200は、浄化装置本体10と、制御部30、浄化装置本体10に通電する電源20から大略構成される。
【0032】
ここで、図2,3の順に、排ガス浄化装置の実施の形態を詳述する。
図2で示す排ガス浄化装置200を構成する浄化装置本体10は、導電性で中空の基材1と、その中空内部1aに配設された水平絶縁材5と、この水平絶縁材5によって内部1aが上下2つに分割された上方空間1a1、下方空間1a2のそれぞれに配設されたハニカム触媒2A,2Bと、上方空間のハニカム触媒2Aを加熱する一対の電極3Aおよび下方空間のハニカム触媒2Bを加熱する一対の電極3Bと、から大略構成されている。なお、各電極3A,3Bは、短絡防止用の絶縁カバー3Aa,3Bbで回路電線の根元がカバーされている。また、図示を省略するが、基材1は不図示のコンバータケースに収容され、このコンバータケースと基材1の当接箇所には不図示の緩衝マットなどが介在しているのがよい。
【0033】
基材1は、炭化ケイ素やステンレス系金属等の導電性金属からなり、その内部のハニカム触媒2A,2Bを構成する多数の格子輪郭も基材1と同様の導電性素材から形成することができる。
【0034】
ハニカム触媒2A(ハニカム触媒2Bも同様)は、図2bで示すように、炭化ケイ素やステンレス系金属等の導電性金属からなる四角形の多数の格子輪郭2Aaからなり、各格子内にアルミナやジルコニア、セリア等を主成分とするマトリックス担体内に白金やパラジウム、ロジウムなどの触媒金属が分散して担持された触媒層2Abが形成され、触媒層2Abの内部には少なくとも排ガスが通過する通気孔2Acが形成されている。
【0035】
さらに、基材1の内部1aを上下2つの空間に分割する水平絶縁材5は、セラミックス、セメント、熱硬化性もしくは熱可塑性の樹脂などから形成される。
【0036】
基材1の各電極3A,3Bへ通電されると、導電性を有する基材1から各格子輪郭2Aaへ電流が流れ、触媒層2Abが加熱昇温されて触媒活性が高められる。
【0037】
上方空間のハニカム触媒2Aおよび下方空間のハニカム触媒2Bにはそれぞれに固有の電極3A,3Bが設けられ、これらの正極および負極が並列回路4を成して電源30に電気的に繋がっている。
【0038】
したがって、仮に下方空間に凝縮水が溜まり、通常通電時よりも大きな過電流が流れているために漏電前に下方空間の電極3Bへの通電を停止した場合でも、これとは独立した上方空間の電極3Aへの通電を継続することができ、基材1の上方領域で昇温した熱は下方領域へ伝熱され、この熱によって下方空間1a2内に溜まった凝縮水を蒸散させて過電流状態を解消させ、下方空間の電極3Bへの通電を再開させることができる。
【0039】
ここで、上記する下方空間の電極回路に生じている過電流状態の検知やその際の通電停止制御に関して説明する。
【0040】
下方空間の電極回路には、図2aで示すように電流センサ7とスイッチング素子6が介在しており、これら電流センサ7およびスイッチング素子6はともに制御部20に通じている。
【0041】
制御部20内の詳細な構成の図示は省略するが、この制御部20内には、電流センサ7からの電流値に関する測定データが入力されるインターフェース、所定の電流閾値データが格納されている格納部、測定データと電流閾値データを比較する比較演算部、測定データが電流閾値データよりも大きな場合にスイッチング素子6に対してOFF制御信号を送信する信号送信部、これら各部の作動を司るCPUとRAMやROM、さらにはこれらを繋ぐバスなどが内蔵されている。
【0042】
たとえばサブマフラー400側から凝縮水が逆流して浄化装置本体10の特に下方空間1a2内に浸入し、これが所定量溜まると、この回路内には過電流が流れることになる。
一方、制御部20の格納部には、通電可能時の電流値と漏電に至り得る過電流値との間の任意の電流値が電流閾値として格納されている。
【0043】
電流センサ7は電極3Bの回路内を流れる電流値を常時測定しているが、下方空間の電極回路に過電流が流れ、この過電流に関する測定データが制御部20に送信されると、この制御部20より電極3Bの回路への通電を停止するべく、スイッチング素子6にOFF信号が送信されるようになっている。この通電停止により、電極間の漏電が効果的に阻止される。
【0044】
一方、図3で示す排ガス浄化装置200Aを構成する浄化装置本体10Aは、基材1の内部1aを水平絶縁材5のみならず鉛直絶縁材8にて分割し、上方空間と下方空間がこれらの部材5,8にてそれぞれ2分割されて合計4つの分割空間1a1’、1a2’からなるものである。
【0045】
また、それぞれの分割空間1a1’、1a2’に固有の一対の電極3A1、3B1を形成するべく、鉛直絶縁材8の両側に対向する基材1表面の電極と対を成す電極が配設されている。
【0046】
さらに、各分割空間1a1’、1a2’に対応する電極回路内に電流センサ7とスイッチング素子6が介在し、これらが制御部20にデータ送受信可能に接続されている。
浄化装置本体10Aによれば、下方空間の左右いずれか一方の分割空間のみ過電流が流れている場合や、下方空間のみならず上方空間の左右いずれか一方の分割空間にも過電流が流れている場合に、過電流が流れている空間の電極回路への通電を停止させることができ、浄化装置本体10よりもより精緻な制御が可能となる。
【0047】
尤も、浄化装置本体10と浄化装置本体10Aは双方に固有のメリットがあり、浄化装置本体10では、基材の内部が上下2つの空間しか分割されていないものの、分割数が少ないことからスイッチング素子や電流センサ数が少なくて済み、制御部における演算負荷も少ない。一方、浄化装置本体10Aでは、基材の内部が4つの空間に分割されていることから、通電継続可能な基材内部のエリア選別をより精緻におこなうことができる。
【0048】
図4は、基材の内部の分割形態のバリエーションの一例を示したものであり、ハニカム触媒の図示を省略して、基材1の輪郭とその内部に配設され得る水平絶縁材5、鉛直絶縁材8のみを模擬したものである。なお、基材1の輪郭は円形であるが、円形以外にも、楕円形、矩形、正方形やそれ以外の多角形など、配設されるスペースや他の機器との関係で所望の輪郭が設定できる。
【0049】
図4aは図2aの基材形態を、図4fは図3の基材形態をそれぞれ示すものであり、図4aは円中心Oを通る水平絶縁材5にて上方空間1a1と下方空間1a2の各面積および各体積が同一である基材形態である。一方、図4fは円中心Oを通る水平絶縁材5および鉛直絶縁材8にて上方および下方の各分割空間1a1’、1a2’の各面積および各体積が同一である基材形態である。
【0050】
一方、図4bで示す基材は、水平絶縁材5が円中心Oよりも上方に配設され、上方空間1a1の体積が相対的に小さくなっている形態であり、図4cで示す基材は、逆に水平絶縁材5が円中心Oよりも下方に配設され、上方空間1a1の体積が相対的に大きくなっている形態である。
【0051】
これら水平絶縁材5の配設レベルは、逆流し得る凝縮水の量や、排ガス浄化を最小限保障するに当たって上方空間に要求される電流値、さらにはこの電流値によって決定される下方空間へ伝熱される熱量などを加味して調整されるのがよい。
【0052】
また、図4dで示す基材は、図4aに対して円中心Oを通る鉛直絶縁材8にて下方空間を2つの分割空間1a2’に分割してなる形態であり、図4eで示す基材は、4aに対して2つの鉛直絶縁材8にて下方空間を3つの分割空間1a2”に分割してなる形態である。
【0053】
次に、図5で示す排ガス浄化装置200の制御フロー図、図6で示す排ガス浄化装置200Aの制御フロー図を参照して、過電流の測定とこの測定データを使用してなる通電停止の有無を判断する制御部における制御方法を概説する。
【0054】
まず、下方空間の電極回路への通電の有無を判断する排ガス浄化装置200の制御方法に関し、エンジン始動(ステップS1)の後に、上方電極と下方電極への通電が開示され、下方電極の電流値を電流センサにて測定し、測定データが制御部へ随時送信される(ステップS2)。
【0055】
送信されてきた測定データを、既述するように制御部内の格納部に格納されている電流閾値と比較演算部にて比較する(ステップS3)。
【0056】
この電流閾値は、通常通電時よりも大きな電流値であって漏電に至り得る所定の電流値に設定されており、測定データが電流閾値よりも小さい場合には下方空間の電極回路において漏電の危険性はないとして上下双方の電極回路における通電を所定時間継続する(ステップS4)。
【0057】
一方、測定データが電流閾値よりも大きい場合には下方空間の電極回路において漏電の危険性があるとして下方電極のみ通電を停止し(ステップS5)、所定時間経過させた後に測定データと電流閾値の比較を再度実行する(ステップS6)。このステップS5からステップS6までの時間の間に、基材を介して上方電極で生じた熱が基材の下方に伝熱され、この熱で溜まっている凝縮水が蒸散され、下方電極の過電流状態が解消された際には、ステップS6で測定データが電流閾値よりも小さくなる結果が得られることになる。この場合には、ステップS2に戻り、ステップS3、ステップS4に移行して上下双方の電極への通電が再開される。
【0058】
なお、これらのルーチンを所定回数繰り返しても依然として測定データが電流閾値より大きな状態が解消されない場合には、他の部位で漏電が生じている、もしくは蒸発できない量の凝縮水で冠水してしまっている、などと判断し、システム異常が警報されるようにしておくのがよい。
【0059】
また、図示を省略するが、浄化装置本体10内に熱電対を配設しておき、基材1の下方空間内の基材温度を常時計測し、この温度データも制御部へ送信するような制御機構であってもよい。この場合、基材1の温度にも温度閾値を設けておき、ステップS4からさらに下方の基材温度と温度閾値とを比較するステップがあり、基材温度が温度閾値以上の場合は通電を終了し、温度閾値未満の場合には上下双方の電極への通電を継続するべくステップS4に戻るような制御方法を適用できる。
【0060】
一方、図6で示す排ガス浄化装置200Aの制御フローでは、図5の制御フローに対し、制御される電極回路が各分割空間に対応した4つの電極回路のすべてである点で相違している(図5におけるステップS2〜S6がステップS2’〜ステップS6’となる)。
【0061】
上記する本発明の排ガス浄化装置200,200Aを適用することにより、排ガス浄化装置を構成する浄化装置本体10,10Aへ凝縮水が逆流してきた場合でも、この凝縮水による電極回路の漏電が回避され、かつ、一部のハニカム触媒の加熱昇温を継続して排ガス浄化を継続することができる。さらに、通電が継続している電極回路での熱を基材を介して通電停止の回路領域に伝熱し、凝縮水を可及的速やかに蒸散させて通電停止回路の通電を再開させることができるものである。
【0062】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0063】
1…基材、1a…内部(中空部)、1a1…上方空間、1a2…下方空間、2A…上方空間のハニカム触媒、2Aa…格子輪郭、2Ab…触媒層、2Ac…通気孔、2B…下方空間のハニカム触媒、3A…上方電極、3B…下方電極、3A1、3B1…分割電極、4…回路、5…水平絶縁材、6…スイッチング素子、7…センサ、8…鉛直絶縁材、10,10A…浄化装置本体、20…制御部、30…電源、200,200A…排ガス浄化装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する中空の基材と該基材内に収容されたハニカム触媒を少なくとも備え、排ガスの排気系統に設置されて該排ガスを浄化する電気加熱式の排ガス浄化装置であって、
前記基材の内部には少なくとも水平絶縁材が配されて上方空間と下方空間が画成され、それぞれの空間にハニカム触媒が形成されており、
基材には上方空間と下方空間のそれぞれに固有の一対の電極である上方電極と下方電極が形成され、上方電極と下方電極のそれぞれによって上方空間と下方空間それぞれのハニカム触媒が加熱されるようになっており、下方電極への通電を止めることができるようになっている電気加熱式の排ガス浄化装置。
【請求項2】
少なくとも前記下方空間にはさらに鉛直絶縁材が配され、少なくとも該下方空間が複数の分割空間に画成されるとともにそれぞれの分割空間には固有のハニカム触媒と固有の一対の電極である分割電極が形成されており、前記下方電極が複数の該分割電極からなる、請求項1に記載の電気加熱式の排ガス浄化装置。
【請求項3】
下方電極間の電流値、もしくは下方電極が複数の下方分割電極からなる場合はそれぞれの分割電極間の電流値、を測定するセンサと、該センサからの測定データが送信される制御部を前記排ガス浄化装置がさらに備え、
前記制御部には一定の電流閾値が設定されており、前記測定データが該電流閾値を超えた際に該測定データに対応する下方電極もしくは分割電極への通電が該制御部にてOFF制御され、少なくとも上方電極への通電は継続されるようになっている、請求項1または2に記載の電気加熱式の排ガス浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−241751(P2011−241751A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114305(P2010−114305)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】