説明

非凝集性炭化ケイ素微粉

【課題】 凝集性を改良した炭化ケイ素微粉を提供する。
【解決手段】 炭化ケイ素粗粉体に、金属酸化物微粒子または炭化ケイ素微粒子を加えてなる炭化ケイ素微粉であって、そのBET比表面積比(=金属酸化物微粒子または炭化ケイ素微粒子のBET比表面積/炭化ケイ素粗粉体のBET比表面積)が20〜80で、且つ、金属酸化物微粒子または炭化ケイ素微粒子の含有量が1〜10%であることを特徴とする。前記炭化ケイ素粗粉体のBET比表面積が1〜10m/gであること、前記金属酸化物が、ケイ素、アルミニウム、チタンの酸化物の少なくとも1種からなること、が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素粗粉体に金属酸化物微粒子または炭化ケイ素微粒子を加え凝集性を改良した炭化ケイ素微粉に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素微粉は、その高硬度性、高熱伝導性、高温耐熱性を活かして、成型砥石、有機ポリマーとの高熱伝導複合体、半導体製造装置の成型部品として使われている。
この場合、炭化ケイ素微粉をポバール、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等のマトリックス、メチルセルロース等のバインダー、各種成型助剤と混合し、重合、加圧或いは加熱して、粘調ワニス、フィルム、構造体が形作られる。また、シリコン、石英等の各種インゴット切断用ワイヤソー、或いはウェハラップ用遊離砥粒としても使われている。
【0003】
粉体の凝集性は、粒子径が細かくなるほど増大し、炭化ケイ素粉体と各種化合物からなる前駆塑性体を混練りする際、凝集粒子により粘度が増大するので、炭化ケイ素微粉を高濃度に配合できない結果、高硬度、高強度、高熱伝導性、高温耐熱性に劣るものとなってしまう欠点があった。
粉体をより高濃度に配合する手段として、より細かい粒子を添加する粗・細混合粉体を用いる方法が採られてきた(特許文献1参照)。この特許文献1では、最頻径1.7〜2.7μmの炭化ケイ素粉末(A)と最頻径10.5〜20.5μmの炭化ケイ素粉末(B)とを用いて、炭化ケイ素焼結体の原料としている。
しかし、この範囲の粗・細粉体の混合では、後述する本発明における比表面積比は、「3.9〜12.7」となって、粉体の凝集の解消には、十分に効果的とは言えない。
【0004】
粒子形状を“球”とした場合には、粗粒子(粒子径R)と細粒子(粒子径r)とを用いて細密充填するときには、四配位で構成される空間に最密充填される細粒子径(r)としては「r=0.225R」、六配位で構成される空間に最密充填される細粒子径(r)としては「r=0.414R」なる関係にあることが知られている。
実用の粉粒体では、粒形状が完全な“球”ではないので、この関係を満足させても、最密充填とはならない。
【0005】
一方、砥石にあっては、配合濃度が少ないと研磨面の表面粗さが増加し仕上がり面精度が悪化する。また、遊離砥粒にあっては、凝集粒子は表面粗さの悪化と共に傷欠陥を発生する原因となる。
粉体粒子径が数十ミクロン以上では、ファンデアワールス引力が弱くなるので凝集は生じにくいが、十ミクロン以下の微粉ではファンデアワールス引力が増大し、凝集不都合が深刻となってくる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−130972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の事情に鑑みて、凝集性を改良した炭化ケイ素微粉を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の非凝集性炭化炭化ケイ素微粉は、炭化ケイ素粗粉体に、金属酸化物微粒子または炭化ケイ素微粒子を加えてなる炭化ケイ素微粉であって、そのBET比表面積比(=金属酸化物微粒子または炭化ケイ素微粒子のBET比表面積/炭化ケイ素粗粉体のBET比表面積)が20〜80で、且つ、金属酸化物微粒子または炭化ケイ素微粒子の含有量が1〜10%であることを特徴とする。前記炭化ケイ素粗粉体のBET比表面積が1〜10m/gであること、前記金属酸化物が、ケイ素、アルミニウム、チタンの酸化物の少なくとも1種からなること、が好ましい。
また、本発明は、請求項1〜3の炭化ケイ素微粉を含む成型体、また、請求項1〜3の炭化ケイ素微粉を含む懸濁液である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の非凝集性炭化ケイ素微粉を含む混合物を用いることによって、粉粒体の凝集性が大幅に改良される。このことにより、例えば弾性砥石に応用した場合には、研磨材の粒径が揃い、それで研磨した加工物の平均表面粗さ特性が改良される。研磨スラリーに応用した場合には、スラリーの低粘度化が図れることで含有率を高められることにより、それで研磨した加工物の平均表面粗さ特性が改良され、傷発生を抑制できる。さらに、有機ポリマーとの混合成型物に応用した場合には、同様に含有率を高められることにより、熱伝導性が改良される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】粉粒体の指標Aと指標Bとの相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
凝集性を軽減する点で、炭化ケイ素粉粒体を粗粉体とした場合には、従来言われてきた最密充填細粒子径よりも遙かに小さな粒子径を持つ金属酸化物または炭化ケイ素微粒子を添加混合することが高充填に有効で、且つ、その粗粒と微粒子との粒子径関係に有効範囲があることを見出すことで、本発明に至った。
粒子径を評価する指標として、ガス吸着によるBET比表面積があり、BET比表面積と粒子直径Dとの間には、
D=6/ρS(ρ:粒子密度、S:BET比表面積)
という関係がある。
凝集を生じるような微細粒子には、このBET比表面積が粒子径の評価として用いられることが多い。
【0012】
本発明の場合、粗粒と微粒子との粒子径関係の有効範囲を検討するに際して、このBET比表面積を利用し、BET比表面積比(=添加される金属酸化物微粒子または炭化ケイ素微粒子のBET比表面積/炭化ケイ素粗粉体の比表面積)が10〜100、更に好ましくは20〜80である、金属酸化物微粒子または炭化ケイ素微粒子を添加することで、凝集を防止することができることを知見・確認した。
粒子半径比で表わせば、r=0.0167R〜0.0667Rとなり、上記最密充填粒子径よりも遙かに小さい。
BET比表面積比が100以上では全く添加効果はなく、10以下では、逆に、凝集を促進する。
【0013】
微粒子を添加される炭化ケイ素粗粉体のBET比表面積は1〜10m/g、特には1〜5m/g、純度は90〜99.9%で、粒子形状は、球状〜破砕形状の何れでもよく、格別問わない。
金属酸化物としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタンが好ましく、これらは、その用途・目的、例えば熱伝導性、硬度、絶縁性等の要求特性に合わせて、種類、添加量が選択される。
金属酸化物微粒子または炭化ケイ素微粒子の炭化ケイ素粗粉体に対する含有量は、0.2〜20%であり、更には1〜10%が好ましい。0.2%以下では凝集性抑制効果が期待できず、20%以上では炭化ケイ素自身の高硬度性、高熱伝導性、高温耐熱性が損なわれる。
【0014】
本発明の炭化ケイ素粗粉体に金属酸化物微粒子または炭化ケイ素微粒子を混合した粉粒体(本発明では、この混合粉粒体を本発明微粉と言う)を含む成型体とは、各種マトリックスとの混合砥石、各種ポリマーとの複合材料・フィルム・接着剤、或いは助剤等各種添加物を加えて成型した後焼成した炭化ケイ素含有バルク成型体を示す。
各種マトリックス、各種ポリマーとしては、ポバール、フェノール、ウレタン、尿素、メラミン、エポキシ、アクリル樹脂が例示でき、これらには成型助剤、潤滑剤等の各種添加助剤を含んでもよい。
【0015】
本発明微粉を含む懸濁液としては、水或いは水溶性グリコール類、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、に本発明微粉を懸濁させた懸濁液を指し、これらには分散助剤、防錆剤、増粘剤等の各種添加剤を含んでもよい。
【0016】
金属酸化物微粒子または炭化ケイ素微粒子と炭化ケイ素粗粉体とは、粉体同士を乾式で機械攪拌しながら混合する、或いは、湿式で機械攪拌しながら混合した後に乾燥する、方法で得られる。
また、微粒子を添加される炭化ケイ素粗粉体を得るために粉砕する際、接触部を、例えばシリカ、アルミナ、チタニア等の金属酸化物で構成された粉砕機で粉砕することにより、摩耗した金属酸化物が微粒子として添加混合される方法でも得られる。
【0017】
以下に、本発明微粉の幾つかの用途を例示する。
{1}ポバールとフェノール樹脂のマトリックス中に本発明微粉が分散含有された弾性砥石
ポバール水溶液、本発明微粉、フェノール樹脂の前駆体であるレゾール、縮合架橋剤であるホルマリン、水、を混合して原料スラリーを調製した後、重合触媒である酸を加え、型枠に注入し加熱縮重合する。反応完了後、型枠から抜き出し、洗浄乾燥し、その後切断加工して製品砥石を得る。この際、切削材である炭化ケイ素微分の含有量が多いほど高性能な砥石が得られる。
【0018】
上記製造過程で原料スラリーを調製する際に、炭化ケイ素を多量に加えるべく粗粒と微粉の混合粉を加える工夫も採られ得るが、凝集し易い通常の炭化ケイ素微粒子はスラリー粘度を上昇させるので、高濃度に炭化ケイ素微粒子を加えられない。
本発明微粉を用いれば原料スラリーに高濃度に加えることができる結果、研磨面粗さが小さく表面精度が良好な弾性砥石が製造できる。
【0019】
{2}分散媒中に本発明微粉を分散させた切削懸濁液
ウェハラップ用スラリーでは、防錆剤等の添加剤と本発明微粉を加えた水スラリーが使われる。シリコン、石英、金属酸化物結晶インゴットのワイヤソー切断用には、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等の水溶性クーラント、或いは鉱油等の油性クーラントに防錆剤等の添加剤と本発明微粉とを加えたスラリーが使われる。小粒径の微粉は凝集力が強く、切削時凝集粒子は傷欠陥を発生させる。
本発明微粉を用いた懸濁液を用いた場合には、傷発生が少なく、且つ研磨面粗さが小さい切削面が得られる。
【0020】
{3}有機ポリマーと本発明微粉からなる高熱伝導成型体
重合硬化剤、重合触媒、無機フィラーを加え、エポキシ樹脂モノマー、フェノール樹脂モノマー或いはシリコーン樹脂モノマーを重合硬化して各種複合材料が製作されている。無機焼結体に比べて複合材料の成型性の良さから、その用途は拡大しているが、無機焼結体に比べて熱伝導率が低く、且つ耐熱性に劣ることから、応用範囲に限界があった。
熱伝導率、耐熱性を向上するために、無機フィラーをシリカからアルミナ、更に炭化ケイ素に代える、或いは複合材料中の無機フィラーの割合を増やす試みがなされてきたが、満足できるものではなかった。
【0021】
炭化ケイ素はそれ自体の熱伝導率が高いので、高密度に混合出来れば、複合体の熱伝導率を向上できるが、高密度に加えると、樹脂とフィラーを混練りする際粘度が高くなり、均一な混合ができず限界があった。
本発明の本発明微粉を用いれば、混合比率が上げられ、熱伝導率の高い複合材料が得られる。
【実施例】
【0022】
以下に、実施例を示して本発明の効果を述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
スラリー粘度を測定することで凝集度合いを評価することができるので、本発明微粉とポリエチレングリコールを混合したスラリーの粘度をコーン型回転粘度計で測定し、また、各粉粒体についてBET比表面積を測定し、以下の如くにして凝集防止効果を評価した。
使用した粉体のBET比表面積は、表1の通りである。
【0023】
【表1】

【0024】
粘度測定条件
仕様ポリエチレングリコール:日本油脂(株)製商品名=PEG#3000
測定温度:25℃
スラリー中の固形分濃度:50質量%
金属酸化物微粒子または炭化ケイ素微粒子の添加濃度:2質量%
指標A=(金属酸化物微粒子または炭化ケイ素微粒子のBET比表面積)÷(炭化ケイ素粗粉体のBET比表面積)
指標B=(金属酸化物微粒子または炭化ケイ素微粒子と炭化ケイ素粗粉体の混合スラリー粘度)÷(炭化ケイ素粗粉体単体スラリー粘度)
ここで、B<1:粘度低下、B>1:粘度上昇、を意味する。
結果を表2に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
表2及び図1に示す如く、指標A(=金属酸化物微粒子または炭化ケイ素微粒子のBET比表面積/炭化ケイ素粗粉体BET比表面積)が20〜60の間で最大50%もの大幅な粘度低下率を示し、凝集防止効果が大きいことを見出した。
上記結果に基づき以下その応用例を示す。
【0027】
[実施例2]
BET比表面積2.6m/gの炭化ケイ素粗粉体に、比表面積85m/gの酸化ケイ素微粉を攪拌混合し、酸化ケイ素を1%含有する本発明微粉を得た。
ポバール水溶液65部、フェノール樹脂の前駆体であるレゾール8部、縮合架橋剤であるホルマリン12部及び水15部の混合水溶液に、この本発明微粉を混合しながら攪拌出来る限度まで52%加えた。
次いで、重合触媒である硫酸を添加し、攪拌脱泡した。その後型に流し込み、100℃から200℃に加熱昇温させながら縮合反応させた後、型抜きした。次いで水洗脱酸→乾燥→焼成後、研磨機に装着できる形状に切断加工した弾性砥石を得て、銅製ワークを研磨した。得られたワークの平均表面粗さ(Ra)は0.025μm、最大表面粗さ(Ry)は0.052μmであった。
【0028】
[比較例1]
実施例1と同様にポバール水溶液、レゾール、ホルマリン及び水の混合水溶液に酸化ケイ素微粉を含まない炭化ケイ素粗粉体を混合しながら加えたが、途中で粘度が上昇し45%までしか加えられなかった。以降、実施例1同様に製造して得られた弾性砥石で研磨された銅ワークの平均表面粗さ(Ra)は0.041μm、最大表面粗さ(Ry)は0.122μmであった。
【0029】
[実施例3]
BET比表面積1.7m/gの炭化ケイ素粗粉体に比表面積56m/gの酸化チタン微粉を攪拌混合し、酸化チタンを2%含有する本発明微粉を得た。
この酸化チタン含有炭化ケイ素粉粒体に水と防錆剤を加え炭化ケイ素濃度が25%の研磨スラリーを調製した。このスラリーを用いラップ機で水晶ウェハを研磨した結果、ウェハの平均表面粗さ(Ra)は0.20μmで、表面には傷は観察されなかった。
【0030】
[比較例2]
BET比表面積1.7m/gの炭化ケイ素粗粉体に、酸化チタンを加えない以外は実施例2と同様に研磨スラリーを調製し、ラップした水晶ウェハの平均表面粗さ(Ra)は0.30μmで、表面には平均18個の傷が観察された。
【0031】
[実施例4]
BET比表面積1.9m/gの炭化ケイ素粗粉体に、BET比表面積77m/gの酸化アルミニウム微粉を攪拌混合し、酸化アルミニウムを10%含有する本発明微粉を得た。
互いに縮合する反応基を鎖中にもつ、分子中にSi-H結合を有するジメチルポリシロキサンと、分子中にビニル基を有するジメチルポリシロキサンの2種類のジメチルポリシロキサンに混練りしながらこの本発明微粉を70%まで加え、次いで硬化触媒(白金触媒)を加え混練りした後、加熱硬化しシリコーン樹脂複合体を得た。この複合体の熱伝導率は1.8W/m℃であった。
【0032】
[比較例3]
酸化アルミニウムを含まないBET比表面積1.9m/gの炭化ケイ素粗粉体を用いた以外は実施例3と同様にし、シリコーン樹脂複合体を得た。この複合体の熱伝導率は0.8W/m℃であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ケイ素粗粉体に、金属酸化物微粒子または炭化ケイ素微粒子を加えてなる炭化ケイ素微粉であって、そのBET比表面積比(=金属酸化物微粒子または炭化ケイ素微粒子のBET比表面積/炭化ケイ素粗粉体のBET比表面積)が20〜80で、且つ、金属酸化物微粒子または炭化ケイ素微粒子の含有量が1〜10%であることを特徴とする非凝集性炭化ケイ素微粉。
【請求項2】
前記炭化ケイ素粗粉体のBET比表面積が1〜10m/gである請求項1に記載の非凝集性炭化ケイ素微粉。
【請求項3】
前記金属酸化物が、ケイ素、アルミニウム、チタンの酸化物の少なくとも1種からなる請求項1〜2の何れかに記載の非凝集性炭化ケイ素微粉。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の非凝集性炭化ケイ素微粉を含む成型体。
【請求項5】
請求項1〜3に記載の非凝集性の炭化ケイ素微粉を含む懸濁液。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−241115(P2011−241115A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114338(P2010−114338)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(595073432)信濃電気製錬株式会社 (10)
【Fターム(参考)】