説明

非水電解液電池

【課題】電極等の表面に難燃層を形成しても、放電特性に影響が少ない非水電解液電池を提供する。
【解決手段】正極板3、負極板5およびセパレータ7を備える非水電解液電池1を構成する。正極板3、負極板5、セパレータ7の少なくとも1つの表面に、難燃性材料を用いてイオン透過性を有する多孔質層を形成する。多孔質層は、ホスファゼン化合物からなる難燃性材料を溶融したホットメルトを正極板3、負極板5、セパレータ7の少なくとも1つの表面に塗布して形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液を備えた非水電解液電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の非水電解液を用いた非水電解液電池は、高電圧でエネルギー密度が高く、小型化・軽量化が図れることから、パソコンや携帯電話等の情報端末等の電源を中心に広く一般に普及している。非水電解液電池で用いる非水電解液としては、一般にエステル化合物及びエーテル化合物等の非プロトン性有機溶媒にLiPF等の支持塩を溶解させた溶液が用いられている。しかしながら、非プロトン性有機溶媒は可燃性であるため、電池からの漏液時または異常発熱時に発火する等、安全性の面で課題がある。また最近では、非水電解質電池を電力貯蔵用電源や電気自動車用電源等の大型機器の電源用途に拡大する検討が進められている。そのため電池の大型化に向けた非水電解液電池の安全性を高めることが重要な問題になっている。非水電解液電池の安全性を高める技術としては、例えば、特開2000−173619号公報(特許文献1)に、負極表面を難燃性材料であるホスファゼンモノマーで被覆して電池の発火・破裂を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−173619号公報(段落[0042]、表1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、難燃性材料で電極表面を被覆すると、非水電解液電池の内部温度の上昇による電池の発火や内部圧力の上昇による電池の膨張は抑制できる。しかしながら電極表面に形成された難燃層の存在により、電極と電解液との間のイオン伝導性が阻害されることになる。イオン伝導性が阻害されると、放電特性が低下する等の電池本来の性能の低下を発生するという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、電極等の表面に難燃層を形成しても、放電特性等の電池性能に影響を与えることが少ない非水電解液電池を提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、放電特性を維持しながら、内部短絡などによる急激な放電が生じた場合でも、電池の発火や破裂を抑制することができる非水電解液電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、電池用電解液として非水電解液を備えた非水電解液電池を改良の対象とする。本発明の非水電解液電池では、正極板、負極板及びセパレータの少なくとも1つの表面に、難燃性材料を用いた多孔質層を形成する。正極板、負極板及びセパレータの少なくとも1つの表面とは、例えば、正極板のセパレータと対向する表面、負極板のセパレータと対向する表面またはセパレータの表面等を意味する。多孔質層は、難燃性材料を溶融したホットメルトを正極等の表面に塗布して形成する。本願明細書において、難燃性材料は、常温では固体だが加熱すると可塑化または流動化し、非水電解液の発火を阻止する性質を有する非水電解液に不溶の熱可塑性樹脂である。ホットメルトは、このような熱可塑性樹脂からなる難燃性材料を溶融したものである。ホットメルトを正極板等の表面に塗布する際には、ホットメルトをノズルから表面に向かって噴射する。その結果、ホットメルトを表面に塗布して形成した難燃化材料の塗布層は、いわゆる不織布のように厚み方向に連通する複数の細孔を有する多孔質層となり、優れたイオン透過性を示す。イオン透過性は、多孔質層の細孔内をイオンが通過できることを意味する。言い方を変えると、本願明細書において、多孔質層とは、内部に厚み方向に連通する多数の細孔が形成された不織布状の塗布層と表現することができる。
【0008】
本発明のように、正極板等の表面に難燃性材料を溶融したホットメルトを塗布して形成した多孔質層からなる難燃層を形成すると、正極板等の表面にイオン透過性を有し且つ電解液の発火を抑制する性質(本願明細書ではこの性質を難燃性と表現する)を示す難燃層を形成することができる。このように形成された多孔質層はイオン透過性により正常な電池動作の際には、電池性能に影響を与えることがない。しかし内部短絡などにより急激な放電が生じて電池内の温度が上昇すると難燃性材料が溶融し、非水電解液の発火を抑制する機能を発揮し、電池の内部温度・内部圧力の上昇を抑制することができる。そのため、本発明によれば、電池性能を低下させることなく、電池の発火、引火または電池の膨張、破裂等の危険性を小さくことができ、安全性の高い非水電解質電池を得ることができる。
【0009】
ホットメルトは、接着性を示し且つ温度の低下により硬化するため、正極板等の表面に塗布された難燃性材料からなるホットメルトは、正極板等の表面に付着した状態でそのまま保持される。したがって電池の組立の際に、多孔質層の落下等が問題になることはない。また本発明で用いる多孔質層はイオン透過性を有するため、多孔質層を形成した正極板等の表面と電解液との間のイオン伝導性が低下するのを抑制することができる。そのため、本発明によれば、高電圧、高放電容量、大電流放電性等の非水電解液電池に要求される放電特性を低下させることなく、安全性の高い非水電解質電池を提供することができる。
【0010】
非水電解液電池では、高放電容量、大電流放電性などの放電特性を維持する観点から、多孔質層の多孔度は30〜70%とするのが好ましい。多孔度(P)は、多孔質層の体積V1に占めるに細孔の体積V2を百分率で表したもの(P=V2/V1×100)として定義することができる。また多孔度(P)は、難燃性材料の比重(真比重)をd1とし、多孔質層の比重(見かけ比重)をd2とした場合に、P=〔1−d2/d1〕×100の式から演算したものを用いることもできる。
【0011】
本発明では、上述のようにホットメルトを塗布することにより、多孔度が30〜70%の多孔質層を正極板等の表面に形成することができる。なお、多孔度が30%未満では、イオン透過性またはイオン伝導性が低下するため放電特性が低下する。一方、多孔度が70%を超えると、多孔質層と正極板等の表面との間の接合面積が低下するために、多孔質層の接合強度が低下し、多孔質層が脱落しやすくなる。さらに多孔度が80%超では、正極板等の表面から多孔質層が簡単に脱落するため、難燃性材料の機能を発揮させることができなくなって、非水電解液電池の安全性を確保することができない。
【0012】
難燃性材料を溶融してホットメルトを塗布する方法は、任意である。しかしながら、上述のような多孔度を有する多孔質層を形成するには、ホットメルトを正極板等の表面に塗布する方法として非接触塗工法を用いるのが好ましい。非接触塗工法は、ホットメルトを塗布する公知の方法であり、塗布装置のノズルを塗布対象物に接触させることなくホットメルトを塗布対象物の表面に噴射して塗布する方法である。本発明では、常温で固体の難燃性材料を90℃以上の温度で加熱溶融したホットメルトを、市販のホットメルト塗布装置(コントロールコートガン)を用いて、所定の塗工速度で、正極板等の表面上に噴射した線条状態のホットメルトが、厚み方向に不規則に重なるようにノズル及び正極板等の少なくとも一方を揺動させて塗布する。このようにすると簡単な方法で正極板等の表面に必要なイオン透過性を示す多孔度を有する不織布状の多孔質層を形成することができる。なお不織布状とは、ランダムな繊維状の三次元網目構造を有し、機械的強度に方向性がない状態を意味する。
【0013】
難燃性材料をホットメルトの状態にして正極板等の表面に塗布する観点から、融点が90℃以上の難燃性材料を用いるのが好ましい。融点が90℃以上の難燃性材料は、常温では固体であるが、90℃以上では可塑化または流動化する。電解液の発火温度は90℃よりも高いものが多いため、このような難燃性材料を用いれば、電池内の温度が電解液の発火温度に近付いたときに難燃性材料が軟化し、それまでは軟化しないため、電池性能に影響を与えずに、安全性を高めることができる。なお正極板等の表面に形成する多孔質層の多孔度を確保する観点から、溶融時の粘度が1000〜3500mPa・sの難燃性材料を用いるのが好ましい。溶融時の粘度が1000mPa・s未満では、ホットメルトの粘性が低すぎて、イオン透過性を有する多孔質層を形成することができない。そのため、電極のイオン伝導性が阻害され、高率放電特性が低下する。また溶融時の粘度が3500mPa・sを超えると、ホットメルトの粘性が高すぎて、ノズルからホットメルトが不連続な状態で吐出されるようになるため、不織布状の層を形成することが難しい。そのため高率放電特性が低下する。
【0014】
見方を変えると、正極板の正極活物質に対して難燃性材料の含有量が、3.5〜7.5重量%の範囲となるように多孔質層を構成するのが好ましい。難燃性材料の含有量を正極活物質100重量%に対する難燃性材料の重量%で示したのは、電池の異常発熱時に正極で発生する酸素ラジカルを難燃性材料が捕獲(トラップ)することにより難燃性の効果が得られることを考慮して、酸素ラジカル発生の元になる正極活物質を基準に難燃性材料の使用量を定めたものである。なお、正極板の正極活物質に対して難燃性材料の含有量が3.5重量%未満の範囲では、それなりの効果はあるものの、難燃性材料の量が少ないため、難燃性材料を電池内に配置する効果を十分に発揮することができない可能性がある。また、正極活物質に対して難燃性材料の含有量が7.5重量%を超える範囲では、多孔質層の体積が増加することによってイオン伝導性が阻害されるため、電池特性が低下する。電池特性が低下しても、安全性を高める目的であれば、難燃性材料の含有量を7.5重量%を超える範囲としてもよい。しかし非水電解液電池の安全性を十分に確保して、しかも電池性能を維持するためには、正極活物質に対する難燃性材料の含有量は5.0〜7.5重量%の範囲とするのが好ましい。
【0015】
難燃性材料としては、例えば、常温では固体であるが、加熱すると溶融してホットメルトになるホスファゼン化合物を用いることができる。このようなホスファゼン化合物をホットメルトとして塗布することにより、バインダ等の他の成分が無くても、正極板等の表面に難燃層としての多孔質層をしっかりと付着させた状態で形成することができる。ホスファゼン化合物は、その構造から非水電解液内の酸素(例えば、電池の異常発熱時に正極で発生する酸素ラジカル)を捕獲(トラップ)する性質がある。この性質を利用して、ホスファゼン化合物を正極板の表面に形成することにより、電池の熱暴走反応を効率良く抑制することができる。
【0016】
このようなホスファゼン化合物としては、特に、一般式(I)で表される環状ホスファゼン化合物を用いることができる。
【化1】

【0017】
上記式中、R1〜R6は炭素数1〜10の有機基であり、R1〜R6はすべて同じ炭素数であってもそれぞれ異なる炭素数であってもよい。R1〜R6の有機基として利用可能なものとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などのアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基などのアルコキシ基;メトキシメチル基、エトキシメチル基、プロポキシメチル基、ブトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、プロポキシエチル基、メトキシプロピル基、エトキシプロピル基、プロポキシプロピル基などのアルコキシアルキル基;ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−ブテニル基、1−ペンテニル基、3−ブテニル基、3−ペンテニル基、2−フルオロエテニル基、2,2−ジフルオロエテニル基、1,2,2−トリフルオロエテニル基、4,4−ジフルオロ−3−ブテニル基、3,3−ジフルオロ−2−プロペニル基、5,5−ジフルオロ−4−ペンテニル基等のアルケニル基;フェニル基などのアリール基;フェノキシ基等のアリールオキシ基;等が挙げられる。これらの中でも、メチル基、エチル基、1,2,2−トリフルオロエテニル基が好ましい。
【0018】
なお、R1〜R3中の水素原子は、フッ素原子で置換されていてもよい。R1〜R3中の水素原子をフッ素原子で置換すると、化学的安定性を高め易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(A)は本発明の非水電解液電池として用いるリチウムイオン二次電池の内部を透視した状態で示した概略図であり、(B)は(A)のIB−IB線断面図である。
【図2】本発明の非水電解液電池において、正極板の表面に形成された多孔質層の表面を光学顕微鏡で150倍に拡大して撮影した写真である。
【図3】難燃性材料(ホスファゼン化合物)を溶融したホットメルトを正極板の表面に塗布して形成した多孔質層の多孔度と高率放電容量との関係を示す図である。
【図4】本発明で用いる難燃性材料(ホスファゼン化合物)の溶融時の粘度と高率放電容量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。図1(A)は、本発明の非水電解液電池の実施の形態であるリチウムイオン二次電池の内部を透視状態で示した概略図であり、図1(B)は、図1(A)のIB−IBの断面図である。このリチウムイオン二次電池1は、正極リード端子3aを備える正極板3と、負極リード端子5aを備える負極板5と、正極板3と負極板5との間に配置されたセパレータ7とを備える。正極板3、負極板5およびセパレータ7は、積層されて積層体9を構成する。このリチウムイオン二次電池1は、この積層体9が正極リード端子3aおよび負極リード端子5aが外部に接続可能な状態でケース11内に配置された構造になっている。
【実施例】
【0021】
リチウムイオン二次電池1は、以下のように作製した。まず、非水電解液を調製する。非水電解液は、エチレンカーボネート50体積%とジメチルカーボネート50体積%とからなる混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lになるように溶解させた溶液として調製した。
【0022】
次に、正極板を作製する。正極板の正極活物質には、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)を用いる。まず、このリチウムコバルト酸化物と、導電剤であるアセチレンブラックと、結着剤であるポリフッ化ビニリデンとを、質量比90:5:5で混合し、これをN−メチルピロリドンの溶媒に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを、正極集電体としてのアルミニウム箔に塗布して乾燥した後、プレス加工を施して、正極シートを作製した。
【0023】
さらに、正極シートの表面に、難燃性材料を溶融したホットメルトを塗布した。難燃性材料には、上記一般式(I)においてnが3であって、全Rのうち2つがフェノキシ基、2つがフェニル基、2つがジメチルアミノ基である環状ホスファゼン化合物(以下ホスファゼン化合物Aという。)を用いた。この環状ホスファゼン化合物は、常温では固体であるが、加熱すると溶融してホットメルトになる。このようなホスファゼン化合物をホットメルトとして塗布することにより、バインダ等の他の成分が無くても、正極板等の表面に難燃層としての多孔質層を確実に付着させた状態で形成することができる。
【0024】
難燃性材料の塗布は、非接触塗工法により行った。具体的には、塗布装置としてノードソン社製のコントロールガンCC200(商標)を用い、160℃で溶融したホスファゼン化合物Aのホットメルトを、45m/minの塗工速度で、正極板の表面上にノズルを揺動させながら噴射し、噴射した線条状態のホットメルトが、厚み方向に不規則に重なる不織布状態になるように、正極シートの表面に塗布層を形成した。図2は、正極シートの表面に形成された塗布層の表面を光学顕微鏡で150倍に拡大して撮影した写真である。この顕微鏡写真が示すように、正極シートの表面に形成された塗布層は、不織布状の多孔質層となっている。このような塗布層が形成された正極シートを10cm×20cmに切り取り、アルミニウム箔の集電タブを溶接して正極板を作製した。
【0025】
次に負極板を作製する。負極活物質としては、人造黒鉛を用いる。この人造黒鉛と、結着剤であるポリフッ化ビニリデンとを質量比90:10で混合し、これをN−メチルピロリドンの溶媒に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを、銅箔の負極集電体に塗布して乾燥した後、プレス加工を施して、負極シートを作製した。この負極シートを10cm×20cmに切り取り、切り取ったシートにニッケル箔の集電タブを溶接して負極板を作製した。
【0026】
このように作製した正極板と負極板との間に、ポリエチレンからなるセパレータシートを挟んで、正極板、負極板およびセパレータシートを積層して電池容量が8Ahになるように積層群を作製した。熱融着フィルム(アルミラミネートフィルム)からなる一端が開口した外装材(ケース11)の中に、この積層群を挿入し、さらに調製した非水電解液を外装材中に注入した。その後、外装材中を真空にして、すばやく外装材の開口部をヒートシールすることにより、平板状ラミネート電池の構造をなす非水電解液電池(リチウムイオン二次電池1を作製した。
【0027】
このように作製した非水電解液電池の難燃性を、下記(1)に示す方法で評価した。具体的には、難燃性材料(ホスファゼン化合物A)の塗布量を変化させた実験例1〜7の難燃性を評価した。なお、難燃性材料(ホスファゼン化合物A)の塗布量は、正極活物質に対する重量%で示されている。難燃性の評価結果は表1に示すとおりである。
【0028】
(1)釘刺し安全性試験
作製したラミネート電池について、釘刺しによる安全性試験を行った。釘刺し試験の方法は、まず、25℃の環境下で、4.2〜3.0Vの電圧範囲で、0.1mA/cmの電流密度による充放電サイクルを2回繰り返し、さらに4.2Vまで電池の充電を行った。その後、同じ25℃の温度条件下で、軸部の直径が3mmのステンレス鋼製の釘を、速度0.5cm/sで電池の側面の中心に垂直に突き刺して、電池の発火・発煙の有無および電池の破裂・膨張の有無を確認した。
【表1】

【0029】
表1に示すように、難燃性材料(ホスファゼン化合物A)を塗布しない例(実験例1)および1.0重量%塗布した例(実験例2)では電池の発煙が確認され、難燃性材料(ホスファゼン化合物A)を塗布しない例(実験例1)、1.0重量%塗布した例(実験例2)および2.5重量%塗布した例(実験例3)では電池の膨張が確認された。これらの結果から、難燃性材料(ホスファゼン化合物A)を3.5〜10.0重量%含む非水電解液電池(実験例4〜7)が、内部短絡時の熱暴走による、発火・発煙を抑えるとともに、電池の破裂・膨張を抑えることができ、非水電解液電池の安全性が高まることが分かった。すなわち、難燃性材料(ホスファゼン化合物A)の塗布量が3.5重量%未満では、電池の熱暴走を抑える効果が不十分であり、難燃性材料の塗布量(重量)は、少なくとも正極活物質の重量に対して3.5重量%以上であることが好ましいことが分かった。
【0030】
また、作製したラミネート電池について、多孔質層の状態と放電特性との関係を調べた。放電特性は、下記(2)に示す方法により確認した。具体的には、難燃性材料(ホスファゼン化合物A)の塗布量を正極活物質の重量に対して3.5重量%として形成した多孔質層について、多孔度を変化させた場合(実験例8〜18)の高率放電容量を確認した。なお多孔度は、難燃性材料の比重(真比重)をd1とし、多孔質層の比重(見かけ比重)をd2とした場合に、多孔度はP=〔1−d2/d1〕×100の式から演算した。結果は表2及び図3に示すとおりである。
【0031】
(2)高率放電試験
作製した非水電解液電池(ラミネート電池)について、高率放電試験を行った。25℃にて、上記(1)の釘刺し安全性試験と同じ条件(初期充放電工程と同様の条件)で充電した後、電流24A、終止電圧3.0Vの定電流放電を行った。得られた放電容量を高率放電容量とした。
【表2】

【0032】
表2及び図3に示すように、難燃性材料(ホスファゼン化合物A)を塗布しない例(実験例8)の高率放電容量を100%とすると、多孔度が10%〜25%(実験例9〜11)では、高率放電容量が95%未満となった。これは、イオン透過性またはイオン伝導性が低下して、放電特性が低下したことを示している。これに対して多孔度が30%〜70%(実験例12〜16)では、高率放電容量が95%超となった。なお、多孔度が80%(実験例17)では、多孔質層が脱落し易く、多孔度が90%(実験例18)では、正極板の表面から多孔質層が簡単に脱落することが確認された。これらの傾向は、多孔質層と正極板等の表面との間の接合面積が低下して、多孔質層の接合強度が低下したことによるものと考えられる。これらの結果から、正極板の表面に形成する多孔質層の多孔度は、30〜70%の範囲が好ましいことが分かった。すなわち、正極板の表面に多孔質層の多孔度が30〜70%になるように難燃性材料(ホスファゼン化合物A)を塗布することにより、ホスファゼン化合物が未塗布のものと比べて高率放電容量の低下が少なく、電池性能への影響が少ないことが分かった。
【0033】
さらに、作製したラミネート電池について、難燃性材料(ホスファゼン化合物A)の塗布量と放電特性との関係を調べた。放電特性は、上述の多孔度と放電特性との関係を調べた場合と同様に上記(2)に示す方法により確認した。具体的には、多孔質層の多孔度が50%となるように難燃性材料(ホスファゼン化合物A)の塗布量(正極活物質の重量に対する重量%)を変化させた実験例19〜25の高率放電容量を確認した。結果は表3に示すとおりである。
【表3】

【0034】
表3に示すように、難燃性材料(ホスファゼン化合物A)を塗布しない例(実験例19)の高率放電容量を100%とすると、難燃性材料(ホスファゼン化合物A)の塗布量が3.5重量%〜7.5重量%(実験例20〜22)では、高率放電容量が95%超となった。これに対して塗布量が10%〜15%(実験例23〜25)では、高率放電容量が95%未満となった。これらの結果から、正極板の表面に塗布する難燃性材料(ホスファゼン化合物A)の塗布量は、3.5〜7.5%の範囲が好ましいことが分かった。すなわち、難燃性材料(ホスファゼン化合物A)を3.5〜7.5重量%塗布することで難燃性材料(ホスファゼン化合物A)を塗布しないものに比べて高率放電容量の低下が少なく電池性能への影響が少ないことが分かった。なお、難燃性材料の含有量が3.5重量%未満の範囲では、難燃性材料の量が少ないため、上述のように難燃性材料を電池内に配置する効果を十分に発揮することができない。難燃性材料(ホスファゼン化合物A)の塗布量が7.5重量%を超えると電池特性が低下するのは、多孔度が50%のままで難燃化剤層の厚み(多孔質層の体積)が増加したことによりリチウムイオンの移動(イオン伝導性)が阻害されたことによるものと考えられる。
【0035】
また、作製したラミネート電池について、難燃性材料(ホスファゼン化合物A)の塗布時の粘度と放電特性との関係を調べた。放電特性は、上述の多孔度と放電特性との関係を調べた場合と同様に上記(2)に示す方法により確認した。具体的には、難燃性材料(ホスファゼン化合物A)の塗布量を正極活物質の重量に対して3.5重量%として、難燃性材料(ホスファゼン化合物A)の溶融時の粘度を変化させた実験例26〜39の高率放電容量を確認した。結果は表4および図4に示すとおりである。
【表4】

【0036】
表4および図4に示すように、難燃性材料(ホスファゼン化合物A)を塗布しない例(実験例26)の高率放電容量を100%とすると、難燃性材料(ホスファゼン化合物A)の溶融時の粘度が1000mPa・s未満(実験例27〜29)および4000〜6000mPa・s(実験例36〜38)では、高率放電容量がいずれも95%に満たなかった。また、溶融時の粘度が7000mPa・s(実験例39)では、難燃性材料(ホスファゼン化合物A)の塗布自体が困難となり、正極板の表面に多孔質層を形成することができなかった。これに対して難燃性材料(ホスファゼン化合物A)の溶融時の粘度が1000〜3500mPa・s(実験例30〜35)では、高率放電容量が95%を超えた。これらの結果から、難燃性材料(ホスファゼン化合物A)の溶融時の粘度は、1000〜3500mPa・sの範囲が好ましいことが分かった。なお、難燃性材料(ホスファゼン化合物A)の溶融時の粘度が1000mPa・s未満で高率放電特性が低下したのは、ホットメルトの粘性が低すぎて、イオン透過性を有する多孔質層を形成することができないため、電極のイオン伝導性が阻害されたことによるものと考えられる。また、溶融時の粘度が3500mPa・sを超えると高率放電特性が低下するのは、ホットメルトの粘性が高すぎて、ノズルからホットメルトが不連続な状態で吐出されるようになるため、不織布状の層を形成することが困難となり、多孔質層の多孔度を確保することができないことによるものと考えられる。
【0037】
以上、本発明の実施の形態および実施例について具体的に説明したが、本発明は、これらの実施の形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく変更が可能であるのは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、正極板等の表面に難燃性材料を溶融したホットメルトを塗布して形成した多孔質層からなる難燃層を形成したので、正極板等の表面にイオン透過性を有し且つ難燃性を示す難燃層を形成することができる。そのため、内部短絡などにより急激な放電が生じて電池内の温度が上昇すると難燃性材料が溶融し、非水電解液の発火を抑制する機能を発揮し、電池の内部温度・内部圧力の上昇を抑制することができる。その結果、本発明によれば、電池性能を低下させることなく、電池の発火、引火または電池の膨張、破裂等の危険性を小さくことができ、安全性の高い非水電解質電池を得ることができる。
【符号の説明】
【0039】
1 リチウムイオン二次電池
3 正極板
5 負極板
7 セパレータ
9 積層体
11 ケース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板、負極板及びセパレータの少なくとも1つの表面に、難燃性材料を溶融したホットメルトを塗布して形成したイオン透過性を有する多孔質層が形成されていることを特徴とする非水電解液電池。
【請求項2】
前記多孔質層は、多孔度が30〜70%であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液電池。
【請求項3】
前記難燃性材料は、融点が90℃以上で、溶融時の粘度が1000〜3500mPa・sである請求項1に記載の非水電解液電池。
【請求項4】
前記多孔質層は、前記正極板の正極活物質に対して前記難燃性材料が3.5〜7.5重量%含有されてなる請求項1、2または3に記載の非水電解液電池。
【請求項5】
前記難燃性材料が、常温では固体であるが加熱すると溶融してホットメルトになるホスファゼン化合物である請求項1、2、3または4に記載の非水電解液電池。
【請求項6】
ホスファゼン化合物が環状ホスファゼン化合物である請求項5に記載の非水電解液電池。
【請求項7】
前記環状ホスファゼン化合物が、一般式(I)で表されるホスファゼン化合物である請求項6に記載の非水電解液電池。
【化2】

(上記式中のR1〜R6は、同一又は異なる炭素数1〜10のアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、アルケニル基、アリール基またはアリールオキシ基である。R1〜R3中の水素原子は、フッ素原子で置換されていてもよい。)
【請求項8】
前記正極板の前記セパレータと対向する前記表面に、前記多孔質層が形成されている請求項1に記載の非水電解液電池。
【請求項9】
前記負極板の前記セパレータと対向する前記表面に、前記多孔質層が形成されている請求項1に記載の非水電解液電池。
【請求項10】
前記セパレータの前記表面に、前記多孔質層が形成されている請求項1に記載の非水電解液電池。
【請求項11】
前記表面にノズルを接触させることなく前記ホットメルトを噴射して塗布する非接触塗工法により前記多孔質層が形成されている請求項1に記載の非水電解液電池。
【請求項12】
前記非接触塗工法は、前記ノズルから前記ホットメルトを線条状態で噴射して前記表面に不織布状の塗布層を形成するものである請求項11に記載の非水電解液電池。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−59405(P2012−59405A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199037(P2010−199037)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(593063161)株式会社NTTファシリティーズ (475)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】