説明

靴の裏当材

【課題】既存の靴に対して事後的に高い衝撃緩和機能をもたせることのできる靴の裏当材を提供する。
【解決手段】裏当材1を、弾性材でシート状に形成し、靴底3の前部寄りの接地部31aの外面に装着することで、上記裏当材1を履いての歩行時には上記裏当材1が直接路面に当接し、上記靴底3は路面に直接当接しない。このため、歩行に伴って路面との間において発生する衝撃は、例えば、靴底3が路面に直接当接する場合に比して、より小さいものとなる。この結果、衝撃が上記裏当材1から上記靴底3を介して足60の膨出部63側に伝達されたとしても、この伝達衝撃により上記膨出部63が受けるダメージは、例えば、靴底が直接路面に当接する場合に受けるダメージに比して、軽減され、それだけ足裏に対する保護性能が向上し、歩行時の足の痛さが軽減され、快適な履き心地が得られるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、靴底の外面に事後的に装着されて歩行時の足裏側への衝撃伝達を可及的に緩和する靴の裏当材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
靴は、通常、足裏全体をカバーする板状の本底と該本底の後端側に位置するヒール部を備えた靴底と、該靴底の上面側に足を覆うように設けられた甲革と、該甲革の内底側に設けられた中底を備えて構成される(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
ところで、靴の中でも、図7に示すようにヒールの高い女性用の靴2(所謂「ハイヒール」)においては、ヒール部32の高さが高いことから、該ヒール部32から前方へ延びる本底31は大きく前方へ湾曲状に下降傾斜した後、その前部31aが路面に接地するような形体とされる。
【0004】
この場合、上記本底31部分はその耐摩耗性と形状保持性が要求されることから、硬質の樹脂材とか木材を用いて上記ヒール部32部分と一体的に成形されている。このため、歩行に伴って路面Gと本底31の接地部31aとの間において発生する衝撃は大きい。さらに、近年、ある程度のクッション性をもつ土質路面は極めて少なく、殆どがアスファルト路面とかコンクリート路面、あるいはタイル路面であるが、これらの路面は反発性が極めて高いことから、歩行によって生じる衝撃がさらに増長されることになる。
【0005】
また、靴2を足60に履いた状態では、上記本底31の傾斜によって足60には前方への滑り作用が働くため、指先部61の後方側の膨出部63を上記本底31の前部31aの内面側に押し付けることで足60の前方への滑りを規制するようになっている。
【0006】
一方、上記足60の骨格は、図10に示すように、指先側の末節骨71から順次、基節骨72、中足骨73、楔状骨74、距骨75及び踵骨76が配置された構成となっており、しかも上記中足骨73の前部73aは上記膨出部63に対応する位置にあって、歩行に伴う衝撃(図10の矢印F参照)が直接的に入力される部位である。
【0007】
この場合、上記中足骨73はこれに上下方向(中足骨73の長手方向に直交する方向)から衝撃が入力されたときは楔状骨74との関節部分の動きでその衝撃を吸収できるが、上述のように靴2の本底31の前傾に対応して、上記中足骨73の前部73aにはその長手方向に近い方向から衝撃が入力されるため、間接の動きによる衝撃緩和作用が十分に得られない。
【0008】
これらのことから、ハイヒールを履いて歩行する場合、靴底3側から大きな衝撃が足60の膨出部63部分に入力されることになり、特にハイヒールを日常的に使用する女性からは、「ハイヒールを履いて歩行すると足が痛く、さらに頭まで響く」という声が多く聞かれるところである。
【0009】
【特許文献1】 特開2002−85108号公報
【特許文献2】 特開2005−152596号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような問題を解決する手法として、特許文献1に示されるように内底の前部にクッション材を敷設するとか、特許文献2に示されるように内底の前部にパン材を敷設し、これらクッション材とかパン材の衝撃吸収機能によって歩行に伴って靴底側から足裏側へ伝達される衝撃を緩和させることが考えられる。
【0011】
しかし、これらの手法は、一旦、靴底側に入力された衝撃を、これが足裏側へ伝達されるまでの間において吸収緩和させようとするものであって、歩行に伴って生じる衝撃そのものを緩和させるものではないことから、大きな効果は望めない。
【0012】
また、靴底それ自体に路面側からの衝撃を緩和する機能をもたせることも可能ではあるが、これは当該機能を備えた靴を購入して初めてその効果が得られるものであって、例えば、元来、上記機能をもたない手持ちの靴においては望み得ないものである。特に、ハイヒールは服装とか場所等に合わせて選択するのが通例であって、女性の多くが形体とか色等が異なるハイヒールを複数所持している場合が多く、従って、全ての靴に当初から上記機能をもたせることは、靴の使用状況によっては当該機能を必要としない場合もあることを考え合わせると、現実的な手法とは言い難い。
【0013】
そこで本発明は、既存の靴に対して事後的に、高い衝撃緩和機能をもたせることのできる靴の裏当材を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願の第1の発明に係る靴の裏当材は、弾性材でシート状に形成され、靴底3の前部寄りの接地部31aの外面に装着されることを特徴としている。
【0015】
本願の第2の発明に係る裏当材は、上記第1の発明に係る靴の裏当材において、上記接地部31aの外面に貼着又は接着により装着されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
(a) 本願の第1の発明に係る靴の裏当材
【0017】
(a−1) 本願の第1の発明に係る靴の裏当材によれば、該裏当材1が、弾性材でシート状に形成され、靴底3の前部寄りの接地部31aの外面に装着されるものであることから、上記裏当材1を履いての歩行時には上記裏当材1が直接路面に当接し(即ち、硬質材と軟質材の当接)、上記靴底3は路面に直接当接しない。このため、歩行に伴って路面との間において発生する衝撃は、例えば、靴底3が路面に直接当接する場合(即ち、硬質材同士の当接)に比して、極めて小さいものとなる(換言すれば、発生する衝撃そのものが小さく抑えられる)。
【0018】
このように、発生する衝撃自体が小さく抑えられることで、この衝撃が上記裏当材1から上記靴底3を介して足60の膨出部63側に伝達されたとしても、この伝達衝撃により上記膨出部63が受けるダメージは、例えば、靴底が直接路面に当接する硬質材同士の当接のように、発生する衝撃そのものが大きく、この大きな衝撃がクッション材等で緩和されて足裏に伝達されるような場合において受けるダメージに比して、極めて小さく、それだけ足裏に対する保護性能が向上し、歩行時の足の痛さが軽減され、快適な履き心地が得られるものである。
【0019】
(aー2) 上記裏当材1が弾性材でシート状に形成されていることから、この裏当材1を靴底3の外面に装着しても、該裏当材1の存在によって足裏に違和感を与えることは殆どなく、高い衝撃緩和作用と快適な履き心地の両立が可能である。
【0020】
(b) 本願の第2の発明に係る靴の裏当材
【0021】
本願の第2の発明に係る靴の裏当材によれば、上記(a)に記載の効果に加えて、以下のような効果が得られる。即ち、この発明では、上記裏当材1が、靴底3の前部寄りの接地部31aの外面に貼着又は接着により装着される構成であることから、
(b−1)該裏当材1を既存の靴2に装着して高い衝撃緩和作用を得ることができる、
(b−2)特に貼着構造のものにおいては、例えば、複数の靴2の中の一つに上記裏当材1を既に装着していたが、その後、服装等とのマッチングから他の靴を選択したような場合には、先の靴から上記裏当材1を取外してこれを新たに選択された靴2に装着することができ、該裏当材1の有効利用が可能となる、
(b−3)上記裏当材1として、形状とかデザインの異なるものを複数個用意することで、例えば、これら複数個の裏当材1を好みに応じて使用することで、その使用態様の拡大が可能である、
等の効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本願発明を好適な実施形態に基づいて具体的に説明する。
【0023】
第1の実施形態
図1及び図2には、本願発明の第1の実施形態に係る裏当材1を靴2の靴底3の表面に装着した状態を示している。
【0024】
ここで、上記靴2は、女性用のパンプスタイップのハイヒールであって、靴底3と甲革4及び中底5を備えて構成される。また、上記靴底3は、板状の本底31と該本底31の後端部に設けられたヒール部32を一体的に成形して構成される。さらに、上記本底31は、上記ヒール部32部分から前方に向かって湾曲状に下降傾斜した後、路面Gに沿うように略平面状に延出する形状をもつものであって、この略平面状部分を接地部31aとしている。そして、この接地部31aの表面に、次述する裏当材1が装着される。
【0025】
上記裏当材1は、図3に示すように、所定厚さ(例えば、0.5〜1.5mmが好適)の弾性材を用いてシート状に形成されている。この場合、上記裏当材1の素材としては、弾性のみならず耐磨耗性をも考慮して、例えば、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)等のゴム類とか、EVA,PU,ポリ塩化ビニル(PVC)等のエラストマー等が好適である。
【0026】
この裏当材1の表面1aには、滑り止め用の溝11が所定数設けられているが、この溝11の形状は図3に示すような平行な直線状に形成するとか、図4に示すように交差直線状に形成するなど、任意に設定できるものである。
【0027】
また、上記裏当材1は、上記靴底3の本底31の表面に貼着又は接着により装着されるもので、例えば、貼着により装着する場合には、該裏当材1の裏面1bに貼着を設け、その使用に際しては、図3及び図4に鎖線図示するように、剥離紙10を取外して粘着剤により上記本底31側に貼着する。また、接着により装着する場合には、上記裏当材1の装着に際して、適宜の接着剤を該裏当材1側あるいは上記本底31側に塗布して固定する。
【0028】
このように構成された上記裏当材1は、図1及び図2に示すように、上記靴底3の本底31の接地部31a部分の表面に装着される。
【0029】
このように上記靴2の靴底3に上記裏当材1を装着することで、以下のような作用効果が得られる。
【0030】
即ち、弾性材でシート状に形成された上記裏当材1を、上記靴底3の前部寄りの接地部31aの外面に装着することで、上記靴2を履いての歩行時には、上記裏当材1が直接路面Gに当接し(即ち、硬質材と軟質材の当接)、上記靴底3は路面に直接当接しない。このため、歩行に伴って路面との間において発生する衝撃は、例えば、靴底3が路面に直接当接する場合(即ち、硬質材同士の当接)に比して、極めて小さいものとなる。
【0031】
このように発生する衝撃自体が小さくなることで、この衝撃が上記裏当材1から上記靴底3を介して足60の膨出部63側に伝達されたとしても、この伝達衝撃により上記膨出部63が受けるダメージは、例えば、靴底が直接路面に当接する硬質材同士の当接のように、発生する衝撃そのものが大きく、この大きな衝撃がクッション材等で緩和されて足裏に伝達される場合において受けるダメージに比して、極めて小さく、それだけ足裏に対する保護性能が向上し、歩行時の足の痛さが軽減され、快適な履き心地が得られる。
【0032】
即ち、本願発明に係る裏当材1は、歩行に伴って発生する衝撃そのものをその発生段階において抑えるものであって、発生段階の衝撃に対しては何等の抑制機能をもたず、発生した大きな衝撃を靴の内底に設けたクッション材等によって緩和させる従来の手法とは、衝撃の緩和メカニズムを全く異にするものであり、この衝撃の緩和メカニズムの相違に起因して、上記の如き従来手法では得られない特有の作用効果が得られるものである。
【0033】
また、上記裏当材1が弾性材でシート状に形成されていることから、この裏当材1を靴底3の外面に装着しても、該裏当材1の存在によって足裏に違和感を与えることは殆どなく、高い衝撃緩和作用と快適な履き心地の両立が可能である。
【0034】
一方、上記裏当材1が、靴底3の前部寄りの接地部31aの外面に着脱自在に装着されることから、該裏当材1を既存の靴2に装着して高い衝撃緩和作用を得ることができる。
【0035】
また、特に貼着構造のものにおいては、例えば、複数の靴2の中の一つに上記裏当材1を既に装着していたが、その後、服装等とのマッチングから他の靴2を選択したような場合には、先の靴2から上記裏当材1を取外してこれを新たに選択された靴2に装着することができ、該裏当材1の有効利用が可能となる。
【0036】
さらに、上記裏当材1として、形状とかデザインの異なるものを複数個用意することで、例えば、これら複数個の裏当材1を好みに応じて使用することで、その使用態様の拡大が可能となる。この場合、上記裏当材1の平面形状は、図3に示すような上記靴底3の形状に対応する形状とする他に、例えば、図5に示すようなハート形等の周知形状とか、図6に示すような魚形等の事物形状とするなど、任意に設定可能である。これによって、上記裏当材1を、それ本来の「衝撃緩和機能材」として用いる他に、「おしゃれ感覚」で用いることもできる。
【0037】
第2の実施形態
図6及び図7には、本願発明の第2の実施形態に係る裏当材1を靴2の本底31に装着した状態を示している。
【0038】
この第2の実施形態の裏当材1は、上記第1の実施形態における上記裏当材1が単一で使用されるものであったのに対して、該裏当材1を小形に形成し、これを使用者の好みとか、個人差のある足裏の条件等に応じて、所定数を且つ好みの配置パターンで装着するものである。
【0039】
尚、図7に示される裏当材1はこれを円形に形成し、図8に示されるものはこれを星型に形成したものであるが、この裏当材1の形状はこれら以外にも適宜に設定できることは勿論である。そして、この裏当材1の形状を多種類用意することで、使用者の「おしゃれ感覚」をより一層刺激して購入意欲を惹起することができる。
【0040】
その他
図9には、本願発明に係る裏当材1をサンダルタイプのハイヒール2の本底31に装着した状態を示している。このようなサンダルタイプのハイヒール2においては、パンプスタイプのハイヒールのような甲革4が設けられておらず、これに代わるものとして網状の足掛帯6が設けられているのみである。
従って、このようなサンダルタイプのハイヒール2においては、足60の側部を拘束する機能、換言すれば、足60が上記靴底3の前傾形状によって前方へ移動される作用を規制する機能が低く、上記足60の膨出部63部分により大きな力が掛かる構造であることから、上記本底31の接地部31aの表面に上記裏当材1を装着したことによる効果がより一層顕著となるものである。
【0041】
なお、この実施形態では、上記靴2として女性用のハイヒールを例示しているが、これに限定されるものではなく、例えば、ビジネスシューズ等のローヒールタイプの靴とか、スポーツシューズ等にも広く適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】 本願発明の第1の実施の形態に係る裏当材を靴に装着した状態を示す断面図である。
【図2】 図1のII−II矢視図である。
【図3】 図1に示した裏当材の拡大斜視図である。
【図4】 図3に示した裏当材の変形例を示す斜視図である。
【図5】 裏当材の他の平面形状例である。
【図6】 裏当材の他の平面形状例である。
【図7】 本願発明の第2の実施の形態に係る裏当材を靴に装着した状態を示す裏面図である。
【図8】 本願発明の第2の実施の形態に係る裏当材の他の平面形状例における裏面図である。
【図9】 本願発明の裏当材の他の適用例を示す断面図である。
【図10】 靴と足骨の位置関係を示す側面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 ・・裏当材
2 ・・靴
3 ・・靴底
4 ・・甲革
5 ・・中底
6 ・・足掛帯
10 ・・剥離紙
11 ・・溝
31 ・・本底
32 ・・ヒール部
60 ・・足
61 ・・指先部
63 ・・膨出部
73 ・・中足骨

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性材でシート状に形成され、靴底(3)の前部寄りの接地部(31a)の外面に装着されることを特徴とする靴の裏当材。
【請求項2】
請求項1において、
上記接地部(31a)の外面に貼着又は接着により装着されることを特徴とする靴の裏当材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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