説明

ZnO蒸着材及び該ZnO蒸着材を用いてZnO膜を形成する方法

【課題】ZnO膜の成膜時にスプラッシュの発生を防止することができる、ZnO蒸着材を提供する。
【解決手段】ZnO蒸着材は、ZnOの多孔質焼結体からなり、その焼結体が0.2以上3.0%未満の気孔率とすることで、内部に存在するガスを著しく減少させることができ、0.1〜300μmの範囲の平均気孔径をとすることで、蒸発速度を高くすることが可能となり、製造コストを低減することができる。ZnO膜は、上記ZnO蒸着材を用いて形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AC型のプラズマディスプレイパネルに用いられる膜や、透明導電膜の成膜等に好適なZnO蒸着材及びこのZnO蒸着材を用いてZnO膜を形成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶(Liquid Crystal Display : LCD)をはじめとして、各種の平面ディスプレイの研究開発と実用化はめざましく、その生産も急増している。カラープラズマディスプレイパネル(PDP)についても、その開発と実用化の動きが最近活発になっている。PDPは、電極構造の点で金属電極がガラス誘電体層で覆われるAC型と、放電空間に金属電極が露出しているDC型とに分類されるが、AC型が主流である。
【0003】
このAC型PDPでは、イオン衝撃のスパッタリングによりガラス誘電体層の表面が変質して放電開始電圧が上昇しないように、ガラス誘電体層表面に高い昇華熱を持つ保護膜をコーティングする必要がある。この保護膜は直接放電空間と接しているため、耐スパッタリング性の他に複数の重要な役割を担っている。即ち、保護膜に求められる特性は、放電時の耐スパッタリング性、高い二次電子放出能、絶縁性及び光透過率などである。これらの条件を満たす材料として、一般的にMgOが挙げられ、このMgOを蒸着材として電子ビーム蒸着法又はイオンプレーティング法により成膜されたMgO膜が使用されている。
【0004】
そして、このMgO膜を成膜するための蒸着材として、MgO純度が99.5%以上かつ相対密度が97%以上の多結晶MgOの焼結体ペレットからなる多結晶MgO蒸着材(例えば、特許文献1参照)が知られている。この特許文献1に記載された多結晶MgO蒸着材では、高純度かつ高密度の多結晶MgO蒸着材を用いてAC型PDP等のMgO膜を成膜すると、スプラッシュが極めて少なく高速で安定した成膜ができるとともに、膜厚分布を向上できるので、略均一な膜質を有するMgO膜を得られるとしている。
【0005】
一方、太陽電池などの光電変換装置などを製造する場合には、透明導電膜が不可欠である。従来の透明導電膜としては、ITO膜(錫をドープしたインジウム酸化物膜)が知られている。ITO膜は、透明性に優れ、低抵抗であるという利点を有する。ここで、太陽電池や液晶表示装置等にあっては、その低コスト化が求められている。しかし、インジウムが高価なことから、ITO膜を透明導電膜として用いると、その太陽電池等も必然的に高価なものになってしまう難点があった。
【0006】
この点を解消するために、一層安価に作製することのできるAl、B、Siなどの導電活性元素をドープした酸化亜鉛系膜を太陽電池等の透明導電膜として使用することが提案され、この酸化亜鉛系膜を電子ビーム蒸着法や、イオンプレーティング法などでの真空蒸着により形成するための酸化亜鉛系ターゲットが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。この酸化亜鉛系ターゲットによると、上記導電活性元素を亜鉛に対して所定量含有させることにより極めて低抵抗な酸化亜鉛系焼結体が得られ、この焼結体は、原料粉末が微細で高分散性を有するほど焼結密度が向上し導電性が向上するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−291854号公報(請求項1、段落番号[0009])
【特許文献2】特開平6−2130号公報(特許請求の範囲の請求項2,請求項3及び請求項4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記特許文献に示されたそれぞれの蒸着材は、多孔質であることから、MgO膜又はZnO膜を成膜するためにその蒸着材を加熱すると多孔質内部のガスが膨張し、この膨張したガスの逃げ場がなく蒸着材に大きな応力が発生する。このため上記応力により蒸着材にクラックが生じ、このクラックを起点に蒸着材の一部が破損して破損微粒子が飛び散り、スプラッシュが発生する不具合があった。
本発明の目的は、ZnO膜の成膜時にスプラッシュの発生を防止することができる、ZnO蒸着材及びこのZnO蒸着材を用いてZnO膜を形成する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、ZnOの多孔質焼結体からなり、その焼結体が0.2以上3.0%未満の気孔率を有するZnO蒸着材である。
この請求項1に記載されたZnO蒸着材では、気孔率を0.2以上3.0%未満とするので、ZnO蒸着材の内部に存在するガスを著しく減少させることができる。このため、ZnO膜を成膜するためにその蒸着材を加熱しても、多孔質内部のガスが膨張することに起因する応力は従来よりも減少する。これによりZnO蒸着材にクラックが生じるようなことはなく、クラックに起因するスプラッシュの発生を有効に防止することができる。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明であって、ZnOの多孔質焼結体が0.1〜300μmの範囲の平均気孔径を有することを特徴とする。
この請求項2に記載されたZnO蒸着材では、気孔の平均気孔径を0.1〜300μmとすることによって、蒸発速度を高くすることが可能となり、ZnO膜の成膜速度を大きくして製造コストを低減することができる。
【0011】
なお、気孔径(気孔の内径)とは、例えばSEM(走査電子顕微鏡)等の観察手段によって蒸着材断面部分を観察した際に、存在する気孔においてその内部寸法のうち最大のものを意味する。この気孔の評価方法としては、置換法による気孔率の測定、顕微鏡法による気孔率の測定、ガス吸着による表面積及び細孔分布の測定、水銀圧入法による表面積及び細孔分布の測定、ガス透過法による表面積測定、又はX線小角散乱法による細孔分布の測定等を採用することができる。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2記載のZnO蒸着材を用いてZnO膜を形成する方法である。
【0013】
なお、この明細書において、ZnO粉末や多孔質造粒粉末の平均粒径の値は、レーザー回折法により算出又は測定される値とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のZnO蒸着材では、その気孔率を0.2以上3.0%未満とするので、ZnO蒸着材の内部に存在するガスを著しく減少させることができる。このため、ZnO膜を成膜するためにそのZnO蒸着材を加熱しても、多孔質内部のガスが膨張することに起因する応力は従来よりも減少する。これによりZnO蒸着材にクラックが生じるようなことはなく、クラックに起因するスプラッシュの発生を有効に防止することができる。そして、気孔の平均気孔径を0.1〜300μmとすることによって、蒸発速度を高くすることが可能となり、ZnO膜の成膜速度を大きくして製造コストを低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明に係るZnO蒸着材及びその製造方法の実施の形態を詳しく説明する。
本実施形態のZnO蒸着材は、気孔率が0.2以上3.0%未満、好ましくは0.2以上1.5%未満の多結晶ZnOの焼結体ペレットからなる。この実施の形態では、多結晶ZnOの焼結体ペレットからなる蒸着材10を示す。この焼結体ペレットからなるZnO蒸着材は、円板状又は球状に形成される。このZnO蒸着材が球状である場合には、その直径は5〜30mm、好ましくは5〜15mmに形成される。この直径を5〜30mmに限定したのは、直径が5mm未満では小さすぎてスプラッシュの発生原因となり、直径が30mmを越えると実際の製造工程において取り扱いが困難となるからである。このZnO蒸着材が円板状である場合には、その直径は5〜40mm、好ましくは5〜20mmであって、高さが1〜20mm、好ましくは2〜10mmに形成される。この直径を5〜40mmに限定し、高さを1〜20mmに限定したのは、直径が5mm未満又は高さが1mm未満では小さすぎてスプラッシュの発生原因となり、直径が40mmを越えるか又は高さが20mmを越えると実際の製造工程において取り扱いが困難となるからである。
【0016】
また、この焼結体ペレットの平均結晶粒径は1〜300μmであり、焼結体からなる多結晶ペレットの結晶粒内には平均気孔径0.1〜300μm程度の丸みを帯びた気孔を有する多孔質焼結体とされる。更に、本実施形態のZnO蒸着材は、ZnO純度が99.0%以上、更に好ましくは99.5%以上、99.9%以上の多結晶ZnOの焼結体ペレットからなる。ここで、気孔率が0.2%未満である場合には、蒸発速度が所望の高さに維持できないため好ましくなく、また、気孔率が3.0%以上である場合には、スプラッシュの発生が多くなってしまうため好ましくない。
【0017】
本発明では、ZnO蒸着材の気孔の平均気孔径が0.1〜300μmであり、かつ上記の気孔率とされることによって、蒸発速度を高くすることが可能となる。更に、気孔の平均気孔径が0.1〜250μmの範囲にあること、又は、気孔の平均気孔径が0.1〜100μmの範囲にあることにより、より一層蒸発速度を高めることが可能となる。ここで、気孔径が0.1μm未満である場合には、気孔を有するメリットがないため好ましくなく、気孔径が300μmを越えた場合には、焼結体の強度が低下するため、EB(電子ビーム)照射による破損、即ちスプラッシュの原因となるため好ましくない。
【0018】
なお、気孔の形状は、丸みを帯びたものが好ましく、気孔の表面に更に細かい気孔が形成されている方が蒸発速度向上のためには好ましい。また、気孔の評価方法として、表面積測定において、5〜40m2/g であることが、細孔分布の測定においては、1〜100μmの範囲に少なくとも一つの細孔分布のピークを持つことが好ましい。
【0019】
また、気孔以外の部分(骨部分)はほぼ焼結している状態とされ、例えば、多孔質焼結体の骨部分の密度は98%以上であることが好ましく、更に、前記ZnOの焼結体からなる多結晶ペレットの平均結晶粒径が1〜300μmであって、焼結体ペレット内に0.1〜300μm程度の丸みを帯びた気孔を有することができる。このZnO蒸着材では、多結晶ZnOの焼結体ペレットが微細な結晶構造を有し、かつその結晶粒界に欠陥が生じるのを低減できるため、成膜されたZnO膜は、ZnOの膜密度、膜厚分布、屈折率、耐スパッタ性、放電特性(放電電圧、放電応答性等)、絶縁性等の膜特性が優れたものとなる。ここで、平均結晶粒径が1μm未満であると成膜速度を低下させる不具合があり、その平均結晶粒径が300μmを越えると添加元素の蒸着率が不均一になる不具合がある。そしてこの平均結晶粒径は5〜40μmの範囲にあることが好ましく、10〜30μmの範囲にあることが更に好ましい。
【0020】
次に、このように構成されたZnO蒸着材の製造方法を説明する。
まず、純度が99.0%以上のZnO粉末とバインダと有機溶媒とを減圧下において混合して濃度が45〜75質量%のスラリーを調製する。スラリーの濃度を45〜75質量%に限定したのは、75質量%を越えると上記スラリーが非水系であるため、安定した造粒が難しい問題点があり、45質量%未満では均一な組織を有する緻密なZnO焼結体が得られないからである。即ち、スラリー濃度を上記範囲に限定すると、スラリーの粘度が200〜1000cpsとなり、スプレードライヤによる粉末の造粒を安定して行うことができる。そして、この混合を減圧下において行うことによりスラリーに含まれるガスを減少させることにより、後述する成形体の密度が高くなって緻密な焼結体の製造が可能になる。
【0021】
ここで、ZnO粉末の平均粒径は0.1〜10μmの範囲内にあることが好ましい。ZnO粉末の平均粒径を0.1〜10μmと限定したのは、0.1μm未満では、粉末が細かすぎて凝集するため、粉末のハンドリングが悪くなり、45質量%以上の高濃度スラリーを調製することが困難となるためであり、10μmを越えると、微細構造の制御が難しく、緻密な焼結体ペレットが得られないからである。またZnO粉末の平均粒径を上記範囲に限定すると、焼結助剤を用いなくても所望の焼結体ペレットが得られる利点もある。バインダとしてはポリエチレングリコールやポリビニールブチラール等を、有機溶媒としてはエタノールやプロパノール等を用いることが好ましい。バインダは0.2〜2.5質量%添加することが好ましい。ここで、バインダと添加剤とが共通のブチラール系である場合、バインダを別に添加する必要がなくなる。
【0022】
また、ZnO粉末とバインダと有機溶媒との湿式混合、特にZnO粉末と分散媒である有機溶媒との湿式混合は、減圧下において湿式ボールミル又は撹拌ミルにより行われることが好ましい。湿式ボールミルでは、ZrO2 製ボールを用いる場合には、直径5〜10mmの多数のZrO2 製ボールを用いて8〜24時間、好ましくは20〜24時間湿式混合される。ZrO2 製ボールの直径を5〜10mmと限定したのは、5mm未満では混合が不十分となることからであり、10mmを越えると不純物が増大する不具合があるからである。また混合時間が最長24時間と長いのは、長時間連続混合しても不純物の発生が少ないからである。一方、湿式ボールミルにおいて、鉄芯入りの樹脂製ボールを用いる場合には、直径10〜15mmのボールを用いることが好ましい。
【0023】
撹拌ミルでは、直径1〜3mmのZrO2 製ボールを用いて0.5〜1時間湿式混合される。ZrO2 製ボールの直径を1〜3mmと限定したのは、1mm未満では混合が不十分となることからであり、3mmを越えると不純物が増える不具合があるからである。また、混合時間が最長1時間と短いのは、1時間を越えると原料の混合のみならず粉砕の仕事をするため、不純物の発生の原因となり、また1時間もあれば十分に混合できるからである。更に、粉末と添加剤の混合/造粒は、一般的な転動造粒法で行ってもよい。この場合、工程後のボール等との分離作業が必要なく、工程が簡略化される利点がある。
【0024】
次に上記スラリーを減圧下において噴霧乾燥して平均粒径が50〜300μmの造粒粉末を得た後、この造粒粉末を減圧下において所定の型に入れてその減圧下において所定の圧力で成形する。ここで、平均粒径を50〜300μmと限定したのは、50μm未満では成形性が悪い不具合があり、300μmを越えると成形体密度が低く強度も低い不具合があるからである。上記噴霧乾燥は減圧下におけるスプレードライヤを用いて行われることが好ましく、所定の型は減圧下に存在する一軸プレス装置又は冷間静水圧成形装置(CIP(Cold Isostatic Press)成形装置)が用いられる。一軸プレス装置では、造粒粉末を10〜200kgf/cm2 (0.98〜19.6MPa)、好ましくは10〜100kgf/cm2 (0.98〜9.8MPa)の圧力で一軸加圧成形し、CIP成形装置では、造粒粉末を10〜200kgf/cm2(0.98〜19.6MPa) 、好ましくは10〜100kgf/cm2 (0.98〜9.8MPa)の圧力でCIP成形する。圧力を上記範囲に限定したのは、成形体の密度を高めるとともに焼結後の変形を防止し、後加工を不要にするためである。
【0025】
そして、上述したように、スラリーを調製する工程と、多孔質造粒粉末を得る工程と、多孔質成形体を得る工程とを減圧下において行うことにより、常圧に戻された状態で多孔質成形体の気孔率を著しく低下させることができる。ここで、スラリーを調製する工程と、多孔質造粒粉末を得る工程と、多孔質成形体を得る工程とは、500hPa以下に調圧された減圧下において行われることが好ましい。500hPaを越える雰囲気下においてこれらを行っても比較的低い気孔率を有するZnO蒸着材を得ることが困難となるからである。特に、これらの工程は、比較的低い減圧下である10Pa以下に調圧された減圧下において行われることが更に好ましい。
【0026】
次に成形体を常圧下において焼結する。焼結する前に成形体を350〜620℃の温度で脱脂処理することが好ましい。この脱脂処理は成形体の焼結後の色むらを防止するために行われ、時間をかけて十分に行うことが好ましい。焼結は1000〜1400℃の温度で1〜5時間行うことが好ましい。そして、スラリーを調製する工程と、多孔質造粒粉末を得る工程と、多孔質成形体を得る工程とが減圧下において行われ、焼結のために常圧に戻された状態で多孔質成形体の気孔率は著しく低下する。このため、この多孔質成形体を焼結することにより得られたZnOの多孔質焼結体にあっても、その気孔率は著しく低下し、従来製造することが困難であった0.2以上3.0%未満の範囲の比較的低い気孔率を有するZnO蒸着材を得ることができる。
【0027】
本実施形態の製造方法において得られた、気孔率が0.2以上3.0%未満で気孔径が0.1〜300μmの多結晶ペレットからなるZnO蒸着材では、その気孔率が0.2以上3.0%未満とするので、ZnO蒸着材の内部に存在するガスを著しく減少させることができる。このため、ZnO膜を成膜するためにその蒸着材を加熱しても、多孔質内部のガスが膨張することに起因する応力は従来よりも減少する。これにより蒸着材にクラックが生じるようなことはなく、クラックに起因するスプラッシュの発生を有効に防止することができる。また、ZnOの多孔質焼結体が0.1〜300μmの範囲の平均気孔径を有するので、蒸発速度を高くすることが可能となり、成膜速度を大きくして製造コストを低減することができる。
【実施例】
【0028】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
以下に示す各実施例及び比較例において、市販のZnO粉末(純度99%以上、平均粒径0.3μm)を使用した。何れの場合にもスラリーの調製には湿式ボールミル(直径5〜20mmのZrO2 製ボール使用)を用い、24時間混合した。更に、何れの場合にも、成形装置として一軸成形プレス装置を用い、100kgf/cm2(9.8MPa)の圧力で、外径6.7mmφ、厚さ2.0mmに成形した。この成形体を電気炉に入れ、大気中1300℃で3時間焼成し、焼結体ペレットにした。また、実施例及び比較例において、気孔率は置換法によって測定した。平均気孔径及び結晶粒径の測定はSEM(走査電子顕微鏡)により行った。また、以下に示す各実施例及び比較例において、「常圧」とは1気圧(1013hPa)の圧力下を意味し、「減圧」とは常圧である1013hPaより低い100kgf/cm2(9.8MPa)の圧力下を意味するものとする。
【0029】
<実施例1>
ZnO粉末からなる原料粉末100gに、バインダとしてポリビニルブラチールを1質量%添加し、更に分散媒としてメタノール変性アルコールを加えて、湿式ボールミルを用い減圧下において混合して濃度30質量%のスラリーとした。次いで、このスラリーを減圧下において噴霧乾燥して平均粒径が約200μmの多孔質造粒粉末を得た。この造粒粉末を減圧下において加圧成形し、この成形体を焼成して多孔質焼結体ペレット(ZnO蒸着材)を製造した。この焼結体を実施例1とし、その気孔率を表1に示す。
【0030】
<実施例2>
スラリーの調製を減圧せずに常圧において行ったことを除き、実施例1と同一の条件及び手順により多孔質焼結体ペレット(ZnO蒸着材)を製造した。即ち、実施例1と同一のZnO粉末からなる原料粉末100gに、バインダとしてポリビニルブラチールを1質量%添加し、更に分散媒としてメタノール変性アルコールを加えて、湿式ボールミルを用い常圧下において混合して濃度30質量%のスラリーとした。次いで、このスラリーを減圧下において噴霧乾燥して平均粒径が約200μmの多孔質造粒粉末を得た。この造粒粉末を減圧下において加圧成形し、この成形体を焼成して多孔質焼結体ペレット(ZnO蒸着材)を製造した。この焼結体を実施例2とし、その気孔率を表1に示す。
【0031】
<実施例3>
スラリーの調製と造粒を減圧せずに常圧において行ったことを除き、実施例1と同一の条件及び手順により多孔質焼結体ペレット(ZnO蒸着材)を製造した。即ち、実施例1と同一のZnO粉末からなる原料粉末100gに、バインダとしてポリビニルブラチールを1質量%添加し、更に分散媒としてメタノール変性アルコールを加えて、湿式ボールミルを用い常圧下において混合して濃度30質量%のスラリーとした。次いで、このスラリーを常圧下において噴霧乾燥して平均粒径が約200μmの多孔質造粒粉末を得た。この造粒粉末を減圧下において加圧成形し、この成形体を焼成して多孔質焼結体ペレット(ZnO蒸着材)を製造した。この焼結体を実施例3とし、その気孔率を表1に示す。
【0032】
<比較例1>
スラリーの調製と造粒と加圧成のいずれも減圧せずに常圧において行ったことを除き、実施例1と同一の条件及び手順により多孔質焼結体ペレット(ZnO蒸着材)を製造した。即ち、実施例1と同一のZnO粉末からなる原料粉末100gに、バインダとしてポリビニルブラチールを1質量%添加し、更に分散媒としてメタノール変性アルコールを加えて、湿式ボールミルを用い常圧下において混合して濃度30質量%のスラリーとした。次いで、このスラリーを常圧下において噴霧乾燥して平均粒径が約200μmの多孔質造粒粉末を得た。この造粒粉末を常圧下において加圧成形し、この成形体を焼成して多孔質焼結体ペレット(ZnO蒸着材)を製造した。この焼結体を比較例1とし、その気孔率を表1に示す。
【0033】
<比較例2>
ZnO粉末からなる原料粉末100gに、バインダとしてポリビニルブラチールを1質量%添加し、さらに分散媒としてメタノール変性アルコールを加えて、濃度30質量%のスラリーとした。次いで、このスラリーをボールミルに入れ、空気を吹き込んで湿式混合し、ガス含有スラリーとした。このスラリーを真空乾燥機にて80℃で分散媒を気化させ、引き続き乾式解砕して、平均粒径200μmの多孔質造粒粉末を得た。この造粒粉末を常圧において加圧成形し、この成形体を焼成して多孔質焼結体ペレット(ZnO蒸着材)を製造した。この焼結体を比較例2とし、その気孔率を表1に示す。
【0034】
<比較例3>
実施例1で用いた原料粉末であるZnO粉末を篩い分けし、平均粒径60μmおよび粒度分布が55〜65μmの範囲内に含まれるZnO粉末を得た。このZnO粉末を含む原料粉末に、バインダとしてポリビニルブチラールを1質量%添加し、有機溶媒としてメタノール変性アルコールを30質量%添加し、それらを混合してZnO粉末の濃度が30質量%のスラリーを調した。次いで、このスラリーを常圧下において噴霧乾燥して平均粒径が約200μmの多孔質造粒粉末を得た。この造粒粉末を常圧下において加圧成形し、この成形体を焼成して多孔質焼結体ペレット(ZnO蒸着材)を製造した。この焼結体を比較例3とし、その気孔率を表1に示す。
【0035】
<評価試験及び評価>
実施例1〜3のZnO蒸着材、比較例1〜3のZnO蒸着材を用い、電子ビーム蒸着法により、膜厚200nmのZnO膜を成膜した。即ち、電子ビーム蒸着装置のハース(直径50mm、深さ25mm)にサンプルの蒸着材を仕込み、到達真空度2.66×10-4Pa(2.0×10-6Torr)、O2分圧1.33×10-2Pa(1.0×10-4Torr)の雰囲気に調整し、加速電圧10kV、ビームスキャンエリア約40mmφの電子ビームを照射してZnO蒸着材を加熱し、ZnO膜を形成した。
【0036】
実施例1〜3及び比較例1〜3で成膜したZnO膜について、電子ビーム蒸着装置のハースより飛び出したスプラッシュの数を測定した。このスプラッシュ数の測定は、電子ビームを照射したときに飛散する蒸着材の数をデジタルビデオで撮影して数えた。なお、スプラッシュの測定は1回当たり10分間行い、5回ずつ実施し、数値は平均値とした。その結果、実施例1では0.6、実施例2では0.8、実施例3では1.2、比較例1では6.6、比較例2では8.2及び比較例3では10.4であった。これらの結果を減圧したプロセスとともに以下の表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1から明らかなように、実施例1〜3と比較例1〜3を比較すると、気孔率が0.2%以上3.0未満である実施例1〜3のZnO蒸着材を用いた場合のスプラッシュは1.2以下と比較的低い値を示した。これは、気孔率が低いので、蒸着材の内部に存在するガスが著しく減少し、膜を成膜するためにその蒸着材を加熱しても、蒸着材にクラックが生じるようなことはなく、クラックに起因するスプラッシュの発生を有効に防止することができたことによるものと考えられる。
【0039】
また、気孔率が0.2%以上3.0未満である実施例1〜3のZnO蒸着材は、スラリー調製工程、造粒工程及び成形プレス工程のいずれか1以上の工程を減圧下において行っており、いずれの工程も減圧しない比較例1の気孔率は3.0であった。このことから、スラリーを調製する工程、多孔質造粒粉末を得る工程、多孔質成形体を得る工程のいずれか1以上の工程を減圧下において行うことにより、気孔率が0.2%以上3.0未満のZnO蒸着材を得ることができ、全ての工程を減圧下においてに行うことにより、より気孔率の低い蒸着材が得られることが判る。
【0040】
一方、気孔率が3.0以上である比較例1〜3のZnO蒸着材を用いた場合のスプラッシュは6.6を越える高いものとなった。これは、気孔率が高いので、膜を成膜するためにその蒸着材を加熱した際に、蒸着材の内部に存在するガスが膨張して蒸着材にクラックが生じ、このクラックに起因するスプラッシュの発生が増大したことによるものと考えられる。
【0041】
以上のことから、本発明の蒸着材及びその製造方法が効果的であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZnOの多孔質焼結体からなり、前記焼結体が0.2以上3.0%未満の気孔率を有するZnO蒸着材。
【請求項2】
ZnOの多孔質焼結体が0.1〜300μmの範囲の平均気孔径を有する請求項1記載のZnO蒸着材。
【請求項3】
請求項1又は2記載のZnO蒸着材を用いてZnO膜を形成する方法。

【公開番号】特開2013−57124(P2013−57124A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−225579(P2012−225579)
【出願日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【分割の表示】特願2008−57102(P2008−57102)の分割
【原出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】