説明

アクチュエータ

【課題】 小型で移動軸を前進と後進させることができ、移動軸の前進と後進の移動限界を高精度に決めることができるアクチュエータを提供する。
【解決手段】 振動駆動部材10は、筒状の振動体11を有し、振動体11の4つの側面に駆動素子15a〜15dが設けられ、振動体11の振動の節が支持部18で支持されている。振動体11が屈曲変形し、その屈曲方向が回転方向へ変化すると、振動体11の雌ねじ部に嵌合している移動軸20がX1−X2方向へ移動する。移動軸20には4個の当接突起31a〜31dが設けられ、固定側では、前進ストッパ33a,33bと後進ストッパ35a,35bが設けられている。いずれかの当接突起とストッパとが回転方向で当たることで、移動軸20の前進限界位置と後進限界位置が決められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雌ねじ部を有する振動体が屈曲振動し、前記雌ねじ部と噛み合う雄ねじ部を有する移動軸が直進するアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
以下の特許文献1に、直動アクチュエータに関する発明が開示されている。この直動アクチュエータは、ハウジングの内部に、転がり軸受で回転自在に支持されたナットと、微細振動でナットに回転力を与える超音波モータが内蔵されており、前記ナットに、ねじ軸が挿通されている。前記ハウジングの内部に、軸方向に沿うガイド溝が形成され、ねじ軸に前記ガイド溝の内部を摺動する導電部材が設けられて、ねじ軸の回り止め手段が構成されている。前記超音波モータによってナットが回転させられると、回り止め手段で回転が規制されているねじ軸が直線的に移動する。
【0003】
前記ガイド溝内に抵抗体が設けられ、ねじ軸に設けられた前記導電部材が抵抗体を摺動する。導電部材で抵抗値の変化を検知することで、ねじ軸の移動位置を検知できるようになっている。
【0004】
以下の特許文献2に記載されたアクチュエータは、雄ねじ部を有するシャフトと、このシャフトを順回転方向と逆回転方向へ往復振動させる圧電体が設けられ、内部に雌ねじ部を有する可動部材が、シャフトに螺着されている。圧電体によりシャフトが順方向へ回転させられると、可動部材が一緒に回転し、シャフトが逆方向へ回転するときに、可動部材がその慣性力によりその場に留まろうとする。この繰り返しにより、可動部材がシャフトの軸方向へ移動させられる。
【0005】
特許文献2に記載されたアクチュエータは、シャフトと可動部材にそれぞれストッパが設けられており、ストッパどうしが回転方向に向けて当たることで、可動部材の下降方向の移動限界が決められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−284363号公報
【特許文献2】特開2008−271667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されている直動アクチュエータは、ハウジングの内部に転がり軸受や超音波アクチュエータを内蔵する構造であるため、ハウジングの内部構造が複雑であり、小型のアクチュエータとして構成するのは困難である。ねじ軸の移動位置を検知するために、ガイド溝の内部に抵抗体を設けているため、さらにハウジングの内部構造が複雑になる。また、ねじ軸に固定された導電部材が抵抗体に常に摺動する構造であるため、駆動負荷が大きく、抵抗体と導電部材との接触抵抗の変化によって、ねじ軸の移動位置を正確に決定することが難しい。
【0008】
特許文献2に記載されているアクチュエータは、シャフトと可動部材のそれぞれにストッパが設けられている。しかし、このストッパは、可動部材が必要以上に下降して、シャフトの雄ねじ部と可動部材の雄ねじ部とが噛み付くのを防止するために設けられたものであって、可動部材の進退位置を決めようとしているものではない。すなわち、シャフトは順回転方向と逆回転方向へ微細な角度だけ往復方向へ回転振動するが、可動部材はシャフトに追従して一方向へのみ微細な角度だけ回動しその後は慣性力で留まろうとするために、シャフトに設けられた1個のストッパと可動部材に設けられた1個のストッパがいつの時点で当たるのか予測ができず、このストッパによって可動部材の移動限界位置を正確に決めることはできない。
【0009】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、簡単な構造できわめて小型に構成でき、しかも移動軸の2方向の移動位置を高精度に決めることができるアクチュエータを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、内部に雌ねじ部を有する弾性変形可能な振動体と、外周に雄ねじ部を有して前記雌ねじ部に挿通される移動軸と、前記振動体を屈曲させその屈曲方向を軸回りに変位させる駆動素子とを有するアクチュエータにおいて、
前記移動軸に、軸方向と交叉する向きに突出する当接突起が設けられ、前記移動軸の一方向の移動終端部と他方向への移動終端部に、前記当接突起が当たるストッパ部材が設けられており、前記当接突起または前記ストッパ部材が、前記移動軸の回転方向に間隔を空け且つ軸方向の同じ位置に複数個設けられていることを特徴とするものである。
【0011】
本発明のアクチュエータは、雌ねじ部を有する振動体を屈曲変形させる構造であるため、振動体の構造が複雑にならずに小型化でき、また移動軸の移動に際して必要以上に大きな負荷がかかることがない。
【0012】
移動軸は、回転しながら前進し後進するため、移動軸に設けられた当接突起とストッパ部材とが周方向に向けて当たることで、前進方向と後進方向の移動限界で移動軸を確実に止めることができる。このとき、雄ねじ部と雌ねじ部との接触が必要以上に緩んだり、接触摩擦が過大となることもなく、停止後の再駆動の際に、スムースに起動できる。また、当接突起またはストッパ部材が回転方向に複数個設けられているため、ある回転位相で当接突起とストッパ部材とが当たらなくても、その直後に当接突起とストッパ部材とを当てることができ、移動軸の前進時の移動限界位置と後進時の移動限界位置を精度良く決めることができる。
【0013】
本発明は、前記当接突起と前記ストッパ部材の一方は、前記移動軸の回転方向に90度の角度を空けて4個設けられ、他方は、前記移動軸の回転方向に180度の角度を空けて2個設けられている。
【0014】
あるいは本発明は、前記当接突起と前記ストッパ部材の一方は、前記移動軸の回転方向に90度の角度を空けて4個設けられ、他方は、1個設けられているものである。
【0015】
本発明は、前記移動軸に、前記ストッパ部材が4個設けられているものが加工しやすさの点から好ましい。
【0016】
本発明では、前記ストッパ部材を、前記移動軸の端部を加圧して前記移動軸と一体に形成することが可能である。
また、本発明は、前記移動軸に対し、軸方向への付勢力が付与されている。
【発明の効果】
【0017】
本発明のアクチュエータは、振動体の構成が簡単であるために、小型に構成することができる。また当接突起とストッパ部材とで、移動軸の前進限界位置と後進限界位置を高精度に決めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施の形態のアクチュエータを示す斜視図、
【図2】振動体と移動軸を示す斜視図、
【図3】振動体と駆動素子を示す断面図、
【図4】振動体と駆動素子の端面図、
【図5】振動体の屈曲振動の説明図、
【図6】雌ねじ部と雄ねじ部との噛み合い状態を示す拡大断面図、
【図7】(A)は当接突起の端面図、(B)は当接突起の側面図、
【図8】当接突起とストッパ部材との対向状態を示す端面図、
【図9】本発明の第2の実施の形態のアクチュエータを示す斜視図、
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に示すアクチュエータ1は、振動駆動部材10と前記振動駆動部材10に挿入された移動軸20とを有している。
【0020】
図2ないし図4に示すように、振動駆動部材10は筒状の振動体11を有している。振動体11は、金属製であり、弾性変形自在である。図4に示すように、振動体11は、4つの側面11a,11b,11c,11dを有している。4つの側面11a,11b,11c,11dは全て前後方向(X1−X2方向)に延びる平面であり、側面11aと側面11bが90度の角度であり、側面11bと側面11c、側面11cと側面11d、ならびに側面11dと側面11aが90度である。また、側面11aと側面11bとの間、側面11bと側面11cとの間、側面11cと側面11dとの間、および側面11dと側面11aとの間に、それぞれ面取り部11eが形成されている。
【0021】
図3に示すように、振動体11には、前方(X1側)の端面11fから後方(X2側)の端面まで貫通する貫通穴12が形成されている。貫通穴12の中心線は、振動体11のX1−X2方向に延びる中心線に一致している。貫通穴12の中央部には雌ねじ部13が形成されている。雌ねじ部13は長さL1の範囲で連続して形成されており、長さL1は、貫通穴12の全長L0の1/3である。雌ねじ部13は、貫通穴12のX1−X2方向の中央部に形成されている。
【0022】
貫通穴12は、前記雌ねじ部13よりも前方が逃げ穴12aで、後方が逃げ穴12bである。逃げ穴12a,12bには雌ねじが形成されていない。逃げ穴12a,12bの内直径は、雌ねじ部13のねじ谷の直径よりも大きく形成されている。
【0023】
図4に示すように、振動体11の側面11aには駆動素子15aが固定され、側面11bに駆動素子15bが、側面11cに駆動素子15cが、側面11dに駆動素子15dがそれぞれ固定されている。それぞれの駆動素子15a,15b,15c,15dは、それぞれの側面11a,11b,11c,11dに絶縁層を介して設置された内側電極16aと、内側電極16aに対向する外側電極16bと、内側電極16aと外側電極16bに挟まれた圧電素子16とから構成されている。なお、圧電素子16は、電極層と圧電材料層とが交互に複数層に積層されて、それぞれの圧電材料層に同じ電界が印加される積層構造が好ましい。前記積層構造とすることで、低い駆動電圧で大きな歪みを発生させることができる。
【0024】
図示省略されているが、振動駆動部材10は、金属材料などで筒形状に形成されたホルダの内部に保持される。そして、振動駆動部材10は、前記ホルダの内部で8箇所の支持部18において支持されている。支持部18は、小面積で塗布された接着剤で形成され、またはホルダから振動駆動部材10に向けて延びる針状の支持突起などである。いずれにせよ、支持部18は、小面積の支持構造であり実質的に点支持構造である。
【0025】
支持部18は、振動体11のそれぞれの側面11a,11b,11c,11dを、駆動素子15a,15b,15c,15dの外側から支持している。支持部18は、側面11a,11b,11c,11dの幅寸法を二分する中心線上に位置し、それぞれの側面11a,11b,11c,11dにおいて、前後方向(X1−X2方向)に距離L2を空けて配置されている。距離L2は、振動駆動部材10が図5に示すように、固有振動数で屈曲振動したときの波長λの1/2となるように設定されている。すなわち、振動駆動部材10は、振動の節において支持部18で支持される。
【0026】
前記移動軸20は、その軸方向のほぼ全長に渡って外周に雄ねじ部21が形成されている。雄ねじ部21のピッチ円は、図3に示す振動体11に形成された雌ねじ部13のピッチ円よりもわずかに小さく、図6に示すように、雄ねじ部21と雌ねじ部13とが噛み合ったときに、ねじの表面に軸方向(X1−X2方向)および軸と直交する方向に若干の隙間が生じている。
【0027】
図1に示すように、移動軸20の前方(X1側)の端部に、突出部20aが形成され、この突出部20aが、駆動対象物25の平面状の端面25aに接触している。突出部20aは、軸中心においてX1側に最も突出する円錐形状であり、その先端はきわめて小半径の球面である。よって、突出部20aは、端面25aに当接している状態できわめて小さい摩擦負荷で回転可能である。
【0028】
駆動対象物25は、付勢部材であるばね部材26によってX2方向へ付勢されている。そのため、移動軸20にはX2方向への付勢力Fが作用している。図6に拡大して示すように、前記付勢力Fによって、移動軸20の雄ねじ部21のねじ山のX2側に向く側面が、振動体11の雌ねじ部13のねじ谷のX2側の内側面に加圧されて、与圧が付与されている。
【0029】
駆動対象物25は、アクチュエータ1が搭載される機器によって異なるが、例えば小型カメラの場合は、駆動対象物25のX1−X2方向の移動によってレンズが光軸方向に移動させられて、自動焦点合致装置やズーム装置として使用される。または、駆動対象物25によって、ポンプのシリンダが駆動され、または監視カメラなどが移動させられる。
【0030】
図1に示すように、アクチュエータ1のX2側の端部には、位置決め機構30が設けられている。
【0031】
位置決め機構30では、移動軸20のX2側の端部に当接突起31a,31b,31c,31dが一体に形成されている、図7および図8に示すように、当接突起31a,31b,31c,31dは、移動軸20の軸中心と直交する向きに延びている。それぞれの当接突起は薄板状であり、面積の大きな表面および裏面が軸線方向と並行に向けられている。当接突起31a,31b,31c,31dは、移動軸20の回転方向に向けて90度の角度間隔を空けて形成されている。
【0032】
前記当接突起31a,31b,31c,31dは次のようにして形成される。
金属製で断面が円形の軸の外周に雄ねじ部21が加工される。この加工の前または後の工程において、前記軸の端部が、4方向からチャック状の金型によって挟圧され、軸の端部が加圧されて塑性変形させられる。この圧痕加工によって、当接突起31a,31b,31c,31dが支持軸20と一体に加工される。
【0033】
圧痕加工で形成することで、移動軸20の端部に、当接突起31a,31b,31c,31dを容易に形成できる。また、図7(A)に示すように、当接突起31a,31b,31c,31dが90度の角度配置で4箇所に形成されていると、金型で4方向から加圧することで、当接突起31a,31b,31c,31dを形成しやすい。
【0034】
図1に示すように、位置決め機構30には、規制部材32が設けられている。この規制部材32は、移動軸20とは別の回転しない部分に固定されている。例えば、規制部材32が、振動駆動部材10を保持する筒状の前記ホルダに固定される。あるいは、規制部材32が、振動体11のX2側に向く端面11gに固定される。
【0035】
規制部材32には、前進ストッパ33a,33bと、後進ストッパ35a,35bが設けられている。前進ストッパ33a,33bは、移動軸20のX1方向への移動限界位置を決めるものである。前進ストッパ33aと前進ストッパ33bは、移動軸20の回転方向へ180度の角度間隔で配置されている。前進ストッパ33aと前進ストッパ33bは、薄板状であり、面積の広い表面および裏面が移動軸20の軸方向に沿って延びている。前進ストッパ33aのX2側に向く端部34aと、前進ストッパ33bのX2側に向く端部34bは、移動軸20の軸方向の同じ位置にある。
【0036】
後進ストッパ35aと後進ストッパ35bは、前進ストッパ33a,33bよりもX2側に位置している。後進ストッパ35a,35bによって、移動軸20のX2方向の移動限界位置が決められる。後進ストッパ35aと後進ストッパ35bは、移動軸20の回転方向へ180度の角度間隔で配置され、図8に示すように、前進ストッパ33a,33bと後進ストッパ35a,35bは、移動軸20の回転方向へ90度の角度を空けて配置されている。後進ストッパ35aと後進ストッパ35bは、面積の広い表面および裏面が移動軸20の軸方向に沿って延びる薄板形状である。後進ストッパ35aのX1側に向く端部36aと、後進ストッパ35bのX1側に向く端部36bは、移動軸20の軸方向の同じ位置にある。
【0037】
次に、アクチュエータ1の動作を説明する。
図4に示す駆動素子15aに対して圧電素子16が伸びる電界が与えられ、これに対向する位置の駆動素子15cに対して圧電素子16が収縮する電界が与えられると、図5(A)に示すように、振動体11は側面11aが上向きに凸状となるように屈曲する。続いて、駆動素子15bに対して圧電素子16が伸びる電界が与えられ、これに対向する位置の駆動素子15dに対して圧電素子16が収縮する電界が与えられると、図5(B)に示すように、振動体11は側面11bが紙面の奥方向へ凸状となるように屈曲する。次に、駆動素子15aに対して圧電素子16が収縮する電界が与えられ、駆動素子15cに対して圧電素子16が伸びる電界が与えられ、駆動素子15aに対して圧電素子16が収縮する電界が与えられると、図5(C)に示すように、振動体11は側面11cが下向きに凸状となるように屈曲する。さらに、駆動素子15bに対して圧電素子16が収縮する電界が与えられ、駆動素子15dに対して圧電素子16が伸びる電界が与えられると、振動体11は側面11dが紙面の手前方向へ凸状となるように屈曲する。
【0038】
各駆動素子15a,15b,15c,15dに対して、電界が順番に与えられることで、図5(A)(B)(C)に示す振動体11の屈曲が繰り返されて振動するが、このとき振動体11は、支持部18の支持スパンL2が振動波長の1/2となる固有振動数によって駆動される。
【0039】
図5(A)に示す屈曲変形のときは、振動体11に形成された雌ねじ部13の前端が点Pf1において、雌ねじ部13の後端が点Pb1において、他の部分よりも、雄ねじ部21と強く噛み合わせられる。すなわち、雄ねじ部21に対し、雌ねじ部13の前端と後端が、互いに逆方向から大きな力で噛み合わされる。振動体11の屈曲方向が、X1方向に向かって反時計方向に順番に変化すると、雌ねじ部13の前端と雄ねじ部21との噛み合わせ部が、Pf1,Pf2,Pf3,・・・の順に変化し、雌ねじ部13の後端と雄ねじ部21との噛み合わせ部が、Pb1,Pb2,Pb3,・・・の順に変化する。この接触点の回転に伴って、移動軸20が、X1方向に向けて反時計方向へ回転させられ、ねじの摺動によって、移動軸20がX2方向へほぼ直線的に進行する。
【0040】
各振動素子15a,15d,15c,15bに対して、前記と逆の向きに電界が順番に与えられると、振動体の屈曲の凸側が、X1方向に対して時計方向へ連続する。このとき、雌ねじ部13と雄ねじ部21との当接点が、X1方向において時計方向に回転し、移動軸20がX1方向に対して時計方向へ回転する。その結果、移動軸20がX1方向へほぼ直線的に移動する。
【0041】
移動軸20のX1−X2方向への移動に追従して駆動対象物25が移動し、駆動対象物25によって、各種機器の移動部材の移動制御が行われる。
【0042】
移動軸20が回転しながらX1方向へ移動し、移動軸20に形成されている当接突起31aと当接突起31cが、前進ストッパ33aと前進ストッパ33bに回転方向に向けて面当接し、あるいは、当接突起31bと当接突起31dが、前進ストッパ33aと前進ストッパ33bに回転方向に向けて面当接すると、それ以上は移動軸20がX1方向へ移動せず、移動軸20がX1方向への移動限界位置に至る。
【0043】
移動軸20が回転しながらX2方向へ移動しているときは、移動軸20に形成されている当接突起31aと当接突起31cが、後進ストッパ35aと後進ストッパ35bに回転方向に向けて面当接し、あるいは、当接突起31bと当接突起31dが、後進ストッパ35aと後進ストッパ35bに回転方向に向けて面当接すると、それ以上は移動軸20がX2方向へ移動せず、移動軸20がX2方向への移動限界位置に至る。
【0044】
移動軸20には、当接突起31a,31b,31c,31dが90度の角度範囲で配置されているため、例えば、当接突起31a,31cが、前進ストッパ33a,33bに当たらずにその端部34a,34bの直前をぎりぎりに通過したとしても、移動軸20がその位置から最大でも90度回転した時点で、当接突起31b,31dが、前進ストッパ33a,33bに面当接する。そのため、移動軸20の前進方向の移動限界位置のばらつきを、雄ねじ部21のピッチの1/4の距離未満に抑えることができる。これは、移動軸20のX2方向への移動限界においても同じであり、X2方向での停止位置のばらつきは、雄ねじ部21のピッチの1/4未満である。
【0045】
前進ストッパ33a,33bは、180度の角度を空けて一対設けられており、前進ストッパ33aの端部34aと前進ストッパ33bの端部34bが、X1−X2方向の同じ位置にある。雄ねじ部21のピッチ円の直径は、雌ねじ部13のピッチ円の直径よりも小さく、図6に示すように、振動体11の貫通穴12の内部で移動軸20が前後方向(X1−X2方向)および半径方向へ若干の移動余裕を有している。そのため、移動軸20が、前進するときにがたつきを生じることがある。移動軸20の移動時のがたつきによって、例えば当接突起31aが、前進ストッパ33aに当たらない位置となっても、その逆側に位置する当接突起31cが前進ストッパ33bに当たる確率が高くなる。よって、その後に、90度も回転させるまでもなく、移動軸20を前進方向の移動限界位置において高精度に位置決めして止めやすくなる。これは、移動軸20がX2方向へ移動するときにおいても同じである。
【0046】
このアクチュエータ1は、図5に示すように、距離L1を空けた位置で、雄ねじ部21のねじ山と雌ねじ部13のねじ谷が接触し、その接触摩擦により移動軸20が回転させられる構造である。そのため、ばね部材26による付勢力Fを適正に設定しておけば、移動軸20が移動するときの回転トルクはあまり大きくなく、しかも移動軸20のX1−X2方向への仕事量を大きくすることができる。
【0047】
ここで、この実施の形態とが異なるストッパ構造を採用し、移動軸20のX2側の端部をストッパに突き当てて移動限界位置を決める構造にすると、大きな力でストッパに当たった時点で、図6に示すねじ山とねじ谷との接触圧力が低下し、最悪の場合は、ねじ山とねじ谷がX1−X2に離れてしまう。このような現象が生じると、その後に移動軸20をX1方向へ戻そうとして振動の回転方向を逆転させても、移動軸20を回転させることができず、移動軸20がX1方向へ移動できないことがある。逆に、移動軸20のX1側の端部または駆動対象物25のX1側の端部をストッパに突き当てる構造にすると、ストッパに突き当たった時点で、雌ねじ部13と雄ねじ部21とが強く噛み込んでしまい、ねじ山とねじ谷との接触摩擦力が過大になり、その次に、振動体11の屈曲回転方向を逆転させても移動軸20がX2方向へ動きにくくなる課題がある。
【0048】
これに対し、実施の形態の前記アクチュエータ1は、当接突起31a,31b,31c,31dが、前進ストッパ33a,33bと後進ストッパ35a,35bに対して回転方向から当たる構造であるが、前記のように移動軸の回転トルクは小さいので、きわめて小さい負荷で、移動軸20を前進限界位置と後進限界位置で止めることができる。また、停止後に振動体11の屈曲変形の回転方向を逆向きにすることで、直ちに移動軸20を逆方向へ移動させることができる。
【0049】
図9は本発明の第2の実施の形態のアクチュエータ101を示している。
このアクチュエータ101の位置決め機構130では、1個の前進ストッパ33と1個の後進ストッパ35が設けられている。移動軸20には、4個の当接突起31a,31b,31c,31dが設けられており、いずれかの当接突起が前進ストッパ33に回転方向に向けて当接したときに、移動軸20が前進方向の移動限界位置となる。また、いずれかの当接突起が後進ストッパ35に当接したときに、移動軸20が後進方向の移動限界位置となる。
【0050】
図9に示すアクチュエータ101でも、移動軸20に当接突起31a,31b,31c,31dが90度間隔で配置されているため、移動軸20の前進と後進での限界停止位置のばらつきを、ねじのピッチの1/4を超えない範囲とすることができる。
【0051】
なお、前記実施の形態とは逆に、前進ストッパおよび後進ストッパが90度の角度間隔で設けられ、移動軸20に設けられた当接突起が180度の角度で2枚設けられ、または1枚設けられてもよい。
【0052】
また、前進ストッパと後進ストッパまたは当接突起を、45度の間隔で8枚設けるなど、4枚以上に構成することが可能である。
【符号の説明】
【0053】
1,101 アクチュエータ
10 振動駆動部材
11 振動体
11a,11b,11c,11d 振動体の側面
11f,11g 振動体の端面
12 貫通穴
13 雌ねじ部
15a,15b,15c,15d 駆動素子
16 圧電素子
16a 内側電極
16b 外側電極
18 支持部
20 移動軸
21 雄ねじ部
25 駆動対象物
26 ばね部材
30,130 位置決め機構
31a,31b,31c,31d 当接突起
33,33a,33b 前進ストッパ
35,35a,35b 後進ストッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に雌ねじ部を有する弾性変形可能な振動体と、外周に雄ねじ部を有して前記雌ねじ部に挿通される移動軸と、前記振動体を屈曲させその屈曲方向を軸回りに変位させる駆動素子とを有するアクチュエータにおいて、
前記移動軸に、軸方向と交叉する向きに突出する当接突起が設けられ、前記移動軸の一方向の移動終端部と他方向への移動終端部に、前記当接突起が当たるストッパ部材が設けられており、前記当接突起または前記ストッパ部材が、前記移動軸の回転方向に間隔を空け且つ軸方向の同じ位置に複数個設けられていることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項2】
前記当接突起と前記ストッパ部材の一方は、前記移動軸の回転方向に90度の角度を空けて4個設けられ、他方は、前記移動軸の回転方向に180度の角度を空けて2個設けられている請求項1記載のアクチュエータ。
【請求項3】
前記当接突起と前記ストッパ部材の一方は、前記移動軸の回転方向に90度の角度を空けて4個設けられ、他方は、1個設けられている請求項1記載のアクチュエータ。
【請求項4】
前記移動軸に、前記ストッパ部材が4個設けられている請求項2または3記載のアクチュエータ。
【請求項5】
前記ストッパ部材は、前記移動軸の端部が加圧されて前記移動軸と一体に形成されている請求項1ないし4のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項6】
前記移動軸に対し、軸方向への付勢力が付与されている請求項1ないし5のいずれかに記載のアクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−147204(P2011−147204A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3716(P2010−3716)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】