説明

アルミニウム精錬用カソードカーボンブロック及びその製造方法

【課題】アルミ電解炉におけるエネルギー効率を改善するために、電気比抵抗が低く、熱伝導性の高いアルミニウム精錬用カソードカーボンブロックおよびその製造方法を提供する。アルミニウム溶湯との濡れ性も改善され、且つ電解浴による電気化学的侵食の速度を低下させて長寿命を達成できるアルミニウム精錬用カソードカーボンブロックおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】
混合工程では、炭化原料64〜97%と炭化チタン3〜36%の混合比率で混合する。このとき、粒子径1mm以下の原料組成において炭化チタン比率を5〜100%とする。捏合・成形工程では、混合工程を経た混合物に有機バインダーを加え捏合し、成形する。焼成工程では、成形体を焼成する。黒鉛化処理工程では、焼成工程を経て焼成された焼成体を2400〜3000℃で黒鉛化処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム精錬用電解炉の陰極に使用されるカソードカーボンブロック及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム精錬用電解炉(アルミ電解炉)の陰極にはカーボンブロック(カソードカーボンブロック)が使用される。このカソードカーボンブロックはアルミ電解炉の炉底を構成する重要なライニング材料であるが、陰極としての役割を担い、陰極を通して供給される電力は、アルミ電解炉中の電解浴中に電子を供給してアルミニウムイオンを金属アルミニウムに還元するものである。
【0003】
従来のカソードカーボンブロックの製造方法としては、焙焼無煙炭もしくは人造黒鉛またはこれらの混合物からなる炭素質原料を粒度調整した混合物に、有機バインダーを加え、捏合、成形し、非酸化雰囲気中において約1000℃で焼成する方法がある。しかしながら、この方法では、カソードカーボンブロックにアルミ電解炉操業中に熱応力やNa浸入による膨潤などでキレツが発生し、損傷劣化し、それらが原因となりアルミ電解炉の停止に至るという問題があった。
【0004】
そこで、このような問題を解決するために、か焼コークスを粒度調整した混合物に、有機バインダーを加え、捏合、成形し、非酸化雰囲気で焼成した後、2000℃以上の温度で黒鉛化処理してカソードカーボンブロックを得る方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この方法で得られたカソードカーボンブロックは熱応力やNa浸入に対して優れた抵抗性を示すことなどから、カソードカーボンブロックのキレツ発生や損傷劣化によるアルミ電解炉の停止が解消される。この黒鉛化処理されたカソードカーボンブロックは電気比抵抗が低く、大電流操業が可能なことから、近年の大型のアルミ電解炉にはこのカソードカーボンブロックの使用が主流となっている。
【0005】
この黒鉛化処理されたカソードカーボンブロックは優れた特性を有する材料であるが、近年のアルミ電解炉のさらなる大型化への志向、あるいは地球温暖化対策への意識への高まりを背景に、アルミニウムの生産における省エネルギー化が求められ、さらなる低電気比抵抗・高熱伝導率のカソードカーボンブロックが望まれていた。
【0006】
一方、カソードカーボンブロックは、アルミ電解炉の炉底を構成する重要なライニング材料でもあるが、操業中に電解浴による物理的侵食、電気化学的侵食を受けて消耗する。消耗原因のひとつである電気化学侵食はAlの生成、溶解によって進行する現象である。この反応は、炭素とアルミニウムの化学反応であるため、アルミ電解炉の陰極にカーボンブロックを使用する限り、避けることができないものである。
【0007】
アルミニウム精錬用陰極としては古くから、優れた電気伝導度を示し、且つアルミニウム溶湯に対する溶解度の低い材料として、TiCとTiBとの混合物において、TiCに対してTiBを10重量%添加する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。この引用文献2においては、970℃のアルミニウム溶湯に対する溶解度が約1/3に低減し、陰極用材質としてのコストと性能(寿命)とのバランスを考慮すると、75〜95%TiC,5〜25%TiBの混合物が適していることが開示されている。
【0008】
また、カソードカーボンブロックとアルミニウム溶湯との濡れ性を改善し、アルミ電解浴による電気化学的侵食を防止するため、カソードカーボンブロックに、前述のようなRefractory Hard Substances(TiB、TiC等の硼化物、炭化物)を混入させる方法が知られている(例えば、引用文献3参照)。この特許文献3では、Refractory Hard Substancesを含むカソードカーボンブロックを使用して、カソード電極に傾斜をつけるアルミ電解炉の構造が提唱され、カソード電極の上部に堆積するアルミニウム溶湯をアルミ電解炉の底部に設けたドレインに回収するいわゆるドレインカソードが開示されている。
【0009】
以上のように、特に優れた電気伝導度を有し、メタルや電解浴への溶解度の極めて低いTiBは、不消耗電極の研究開発に重要な役割を果たしてきた。しかし、原料であるTiB粉末は、酸素等の不純物の含有量を低く抑えた高純度なものが必要とされ、また、高価であるために不消耗電極の実用化を妨げる大きな要因となっていた。
【0010】
そこで、近年では、TiBの使用量を削減しつつ、メタルとの濡れ性を改善したカソードカーボンブロックとするため、カソードカーボンブロックの表面にTiBをコーティングする技術などが開発されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭52−119615号公報
【特許文献2】米国特許第3,028,324号
【特許文献3】米国特許第3,400,061号
【特許文献4】特表2001−518978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献4の発明では、TiBコーティング層はカソードカーボンブロックと熱膨張係数が異なり、また耐熱衝撃性に劣るため、カソードカーボンブロックとの界面等で亀裂が発生し、あるいはカソードカーボンブロックから剥がれやすいといった欠点がある。このようにカソードカーボンブロックの表面にコーティング層を設ける技術では、その効果はコーティング層が健全である部分あるいは健全である期間に限定され、十分な持続的効果を得ることができない。またコーティングするためにプラズマ溶射などの工程を必要とし、経済的な観点からも、商業規模での採用、実用化に課題が残る。そこで、長期に亘りアルミニウム溶湯との濡れ性を確保しながら、電気化学的侵食を防止できる実用的なカソードカーボンブロックの出現が望まれていた。
【0013】
本発明は、上述した課題を解決するものであり、その目的は、アルミ電解炉におけるエネルギー効率を改善するために、電気比抵抗が低く、熱伝導性の高いアルミニウム精錬用カソードカーボンブロックおよびその製造方法を提供することである。さらに、アルミニウム溶湯との濡れ性も改善され、且つ電解浴による電気化学的侵食の速度を低下させて長寿命を達成できるアルミニウム精錬用カソードカーボンブロックおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の目的を達成するために、本発明のアルミニウム精錬用カソードカーボンブロックは、質量%で、か焼コークス、黒鉛もしくはこれらの混合物からなる炭素原料64〜97%、炭化チタン3〜36%の混合比率とし、粒子径1mmを超える炭素原料同士の空隙が粒子径1mm以下の原料によって充填され、粒子径1mm以下の原料組成において炭化チタン比率が5〜100%であることを特徴とする。
なお、炭化チタンの平均粒径が1mm以下としたアルミニウム精錬用カソードカーボンブロックも本発明の一態様である。
【0015】
また、本発明のアルミニウム精錬用カソードカーボンブロックの製造方法は、質量%で、か焼コークス、黒鉛もしくはこれらの混合物からなる炭素原料64〜97%、炭化チタン3〜36%の混合比率とし、粒子径1mm以下の原料組成において炭化チタン比率が5〜100%となるように粒度調整した混合物に、有機バインダーを加え、捏合、成形し、非酸化雰囲気で焼成した後、黒鉛化処理を施してカーボンブロックを得ることを特徴とする。
なお、黒鉛化処理の温度が2400〜3000℃としたアルミニウム精錬用カソードカーボンブロックの製造方法も本発明の一態様である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、低電気比抵抗・高熱伝導率の特性を具備するアルミニウム精錬用カソードカーボンブロックおよびその製造方法が提供することができ、アルミニウムの製造におけるエネルギー効率を改善することができる。また、アルミニウム溶湯に濡れ易いアルミニウム精錬用カソードカーボンブロックおよびその製造方法により、アルミニウム精錬の電流効率が向上し、アルミ電解炉の寿命を延長することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】侵食試験の小型実験装置概略図
【図2】粒子径1mm以下の原料組成における炭素原料と炭化チタンの混合物の炭化チタン比率と侵食速度の関係を示すグラフ
【図3】カソードカーボンブロック中の炭化チタン含有量が0%と15%の場合の処理温度と電気比抵抗の関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0018】
[1.製造工程]
本実施形態のカソードカーボンブロックの製造方法は、次のような各工程を有する。
(1)炭素原料と炭化チタンを混合する混合工程。
(2)混合工程を経た混合物と有機バインダーを捏合し、その捏合物を成形する捏合・成形工程。
(3)成形された成形体を非酸化雰囲気中で焼成する焼成工程。
(4)焼成工程を経て焼成された焼成体を黒鉛化処理する黒鉛化処理工程。
以下、各工程を具体的に説明する。
【0019】
(1)混合工程
混合工程では、炭化原料64〜97%と炭化チタン3〜36%の混合比率で混合する。このとき、粒子径1mm以下の原料組成において炭化チタン比率が5〜100%とする。
【0020】
〔炭素原料〕
炭素原料としては粉砕し、粒度調整したか焼コークス、黒鉛もしくはこれらを混合したものを使用する。このか焼コークスとしては、石油系か焼コークス、石炭系か焼コークス等を一種単独または二種類以上混合して使用することができる。また、黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛等を使用することができる。
【0021】
〔炭化チタン〕
炭化チタンには、TiCの他に微量の炭窒化チタンや酸化チタン、炭素等も含まれる場合がある。これらの物質は、炭化チタンを製造する際に、炉の雰囲気や温度によって製造過程で副次的に生成されるものや、未反応分として残存するものである。したがって、本願発明において、炭化チタンとは、実質的にTiCからなる粉末状或いは塊状の物質のことを意味するが、炭窒化チタンや酸化チタン、炭素等の不可避的不純物も含むものとする。
【0022】
〔炭化チタンの平均粒径(1mm以下)〕
炭化チタンは、カソードカーボンブロックの黒鉛化処理の際、触媒として作用し炭素原料の黒鉛化を促進するとともに、アルミ電解炉におけるカソードカーボンブロックとアルミニウム溶湯との濡れ性を改善し、カソードカーボンブロックの侵食速度を低減してアルミ電解炉の寿命を伸ばす効果がある。当然のことながら、平均粒径1mmを超える炭化チタンは、カソードカーボンブロック製造の黒鉛化において触媒としての作用効果が低減するとともに、アルミ電解炉におけるカソードカーボンブロックの侵食速度低減効果が小さくなる。1mm超の炭化チタンを用いて侵食速度低減効果を得ようとすると必要以上の炭化チタンの量が必要となるので経済的ではない。したがって、炭化チタンの平均粒径は小さい方が好ましい。しかしながら、炭化チタンの平均粒径が1μm未満の場合、炭化チタンの調達コストが高くなりすぎて経済的ではない。したがって、好ましい炭化チタンの平均粒径は1μm〜1mmの範囲である。さらに好ましい炭化チタンの平均粒径は7μm〜50μmの範囲である。なお、ここにおける平均粒径とはD50のことを意味する。
【0023】
〔炭化チタンの添加量(3〜36質量%):黒鉛化促進効果〕
炭化チタンをカソードカーボンブロックに3〜36質量%添加させることにより、黒鉛化処理の際に炭化チタンの触媒効果によってカーボンの黒鉛化が促進され、電気比抵抗の低いカソードカーボンブロックを製造することができる。また炭化チタンの添加によって、黒鉛化処理温度を低下させることが可能となり、黒鉛化に必要なコストを削減でき生産性が向上する。炭化チタンを36質量%超えて含有させたとしても、それ以上の触媒効果を得ることが困難となり、しかも炭素材料の混合比率が減少するため、カソードカーボンブロックの熱的・機械的特性が劣化するおそれがある。したがって、本願発明におけるカソードカーボンブロック中の炭化チタンの混合比率は、3〜36質量%が好ましい。さらに原料費など経済性も考慮すると好ましい炭化チタンの混合比率は、3〜10質量%であり、さらに好ましい炭化チタンの混合比率は、3〜5質量%である。
【0024】
〔炭化チタンの添加量(3〜36質量%):侵食速度低減効果〕
炭化チタンをカソードカーボンブロックに3〜36質量%添加させることにより、アルミニウム精錬の際、カソードカーボンブロックとアルミニウム溶湯との濡れ性が改善される。濡れ性の改善を図り長寿命化を実現するためには、炭化チタンはカソードカーボンに対して10質量%以上添加させることが望ましい。また、炭化チタンを36質量%超えて添加させたとしても、それ以上の侵食速度低減効果を得ることが困難となり、しかも炭素材料の混合比率が減少するため、カソードカーボンブロックの熱的・機械的特性が劣化するおそれがある。したがって、本願発明におけるカソードカーボンブロック中の炭化チタンの混合比率は、侵食速度低減効果の面においても3〜36%質量の範囲が好ましい。さらにカソードカーボンブロックの実質的な寿命延長も考慮すると、好ましい炭化チタンの混合比率は、10〜30質量%である。
【0025】
〔粒度調整:粒子径1mm以下の原料組成における炭素原料と炭化チタンの混合物の炭化チタン比率(5〜100質量%)〕
粒子径1mm以下の原料組成において、炭素原料と炭化チタンの混合物の炭化チタン比率が5〜100質量%となるように粒度調整されることが望ましい。比較的微細な粒子である炭化チタン(粒子径0.001〜0.030mm)は、粒子径1mm以下の炭素原料とともに、カソードカーボンブロック中の1mmを超える炭素原料の粒子の周囲を取り囲み、微細組織を構成する。この微細組織における炭化チタン混合比率を、5〜100質量%となるように調整することにより、アルミニウム溶湯との濡れ性を改善することが可能となった。微細な粒子である炭化チタンはこの微細組織を構成する主要な原料である。
【0026】
粒子径1mm以下の炭素原料と炭化チタンの混合物中の炭化チタン比率が5質量%未満であると、微細組織そのもののアルミニウム溶湯との濡れ性が改善されない。したがって、本願発明において、粒子径1mm以下の原料組成における炭素原料と炭化チタンの混合物中の炭化チタン比率が5〜100質量%となるように粒度調整されることが望ましい。さらにカソードカーボンブロックの実質的な寿命延長も考慮すると、粒子径1mm以下の原料組成において、炭素原料と炭化チタンの混合物中の炭化チタン比率が20〜55質量%となるように粒度調整されることがさらに好ましい。
【0027】
(2)捏合・成形工程
捏合工程では、混合工程を経た混合物に有機バインダーを加えて捏合する。この有機バインダーとしては炭素材料の製造に常用されるコールタールピッチ、コールタール或いは樹脂などを一種単独または二種以上混合したものを使用することができる。捏合方法として特に限定はなく、例えばニーダーを使用し、通常120〜150℃の温度で行われる。成形方法としては特に限定はなく、押出し成形または型込成形、あるいは振動成形が採用できる。成形体の大きさや形状は使用するアルミ電解炉の形式に応じて決めればよい。
【0028】
良好な成形体を得るには、バインダーは炭素原料とよく混じり、均一充填を可能にし、適正な圧力で成形できるようにしなければならない。また、焼成前の成形体においてもある程度の強度が要求されるので、バインダーには接着剤としての働きも求められる。このバインダー量が過少であれば接着や成形時の充填が不十分となり、また過大となれば焼成時に変形し、また組織内に空隙が増加する。有機バインダーの使用量は、原料とバインダーの性状によって最適値が決まるが、通常、上記の混合物に対する割合として10〜30重量%の範囲が適量である。
【0029】
(3)焼成工程
焼成工程では、捏合・成形工程を経た成形体を非酸化雰囲気中で焼成する。焼成はバインダーを炭素化して炭素原料と一体化させる工程であり、800〜1300℃までの温度であれば十分に炭素化する。したがって、焼成は、非酸化雰囲気下で800〜1300℃の温度とすればよく、非酸化雰囲気としては、コークスブリーズ中、真空容器中、あるいはNやAr等の不活性雰囲気中で実施すればよい。
【0030】
(4)黒鉛化処理工程
黒鉛化処理工程では、焼成された焼成体を黒鉛化処理する。黒鉛化は黒鉛化炉中2400〜3000℃の温度で行われる。黒鉛化炉については特に限定はないが、代表的なものとして間接通電方式(アチソン炉)や直接通電方式(LWG炉)がある。
【0031】
〔黒鉛化処理温度(2400〜3000℃)〕
原料であるか焼コークスの黒鉛化を可能にし、低電気比抵抗、高熱伝導性のカソードカーボンブロックを製造するためには、黒鉛化処理温度2400℃以上が必要である。これは相変態を伴う熱力学的要請である。2400℃未満の黒鉛化処理温度では、黒鉛化が進まず、低電気比抵抗、高熱伝導性のカソードカーボンブロックが得られない。3000℃を超える黒鉛化処理温度では、必要以上に熱量や電力量を加えることになり、また黒鉛化処理炉の老朽化が進みコスト増大につながるおそれがある。したがって、好ましい黒鉛化処理温度は2400〜3000℃の範囲である。より好ましい黒鉛化処理温度は2600〜3000℃の範囲であり、さらに好ましい黒鉛化処理温度は2800〜3000℃の範囲である。
【0032】
〔熱伝導率(115W/(m・K)以上)〕
以上のような製造方法によって製造されたカソードカーボンブロックの熱伝導率は、115W/(m・K)以上であることが好ましい。より好ましくは、120W/(m・K)以上の熱伝導率である。さらに好ましくは、130W/(m・K)以上の熱伝導率である。
【0033】
〔電気比抵抗値(11μΩm以下)〕
また、カソードカーボンブロックの電気抵抗値は、11μΩm以下であることが好ましい。より好ましくは、10μΩm以下の電気抵抗値であり、さらに好ましくは、9μΩm以下の電気抵抗値である。
【0034】
[2.カーボンブロックの作用効果]
以上の製造手順により製造したカーボンブロックでは、炭素材料の黒鉛化において炭化チタンが触媒として作用する。炭素材料を主原料とし、適切な粒径の炭化チタンを触媒として添加したカソードカーボンブロックとすることで、高温の黒鉛化処理における炭素材料の黒鉛化を促進させることができる。これにより低電気比抵抗、且つ高熱伝導率のカソードカーボンブロックを提供し、アルミ電解炉操業のエネルギー効率を高めるとともに、アルミ電解炉の熱バランスを適正に保つものである。すなわち、この炭素材料を主原料とし、炭化チタンを添加することにより、黒鉛化処理温度が比較的低い場合であっても、低電気比抵抗、高熱伝導性のカソードカーボンブロックを得ることが可能となった。
【0035】
また、前記の製造手順により製造したカーボンブロックでは、アルミニウム溶湯に濡れやすい炭化チタンをカソードカーボンブロックに含有させ、カソードカーボンブロック表面をアルミニウム溶湯に覆われ易くさせる。これにより、アルミ電解炉において侵食速度を低減させるものである。この電気化学的侵食の速度はAlの生成速度と溶解速度に依存するので、Alの溶解速度を低減することができれば、侵食速度を低減させることができる。すなわち、アルミニウム溶湯に対するAlの溶解度は電解浴に対する溶解度よりもはるかに小さいので、カソードカーボンブロック表面に生成したAlがアルミニウム溶湯と接触していればその溶解速度は小さく、電解浴と接触していれば溶解速度は大きくなる。
【0036】
実際のアルミ電解炉においては、カソードカーボンブロックがアルミニウム溶湯よりも電解浴に濡れ易いため、カソードカーボンブロックの表面には、しばしば電解浴が存在する。すなわち、実炉において生成したAlは溶解速度が大きい状態に曝されている。電気化学的侵食の速度が大きいという欠点を除けば、炭素材料は熱的・電気的・機械的特性が優れ、化学的に安定で、資源的にも利用しやすい原料である。この炭素材料を主原料とし、炭化チタンを添加することにより、炭素材料の特徴を維持しつつ、アルミ電解炉操業におけるカソードカーボンブロックの侵食速度を低減することができる。本発明によれば、侵食によるカソードカーボンブロックの消耗をゼロとすることは出来ないが、炭化チタンはカソードカーボンブロック全体に分散しているので、持続的に侵食速度低減効果を有することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。各特性比較における評価方法は、以下に示す。
【0038】
[評価方法]
(1)カソードカーボンブロックの電気比抵抗:JIS R 7202-1979「ケルビンダブルブリッジ法」に準拠。
(2)カソードカーボンブロックの熱伝導率:炭素協会規格JCAS-19「コールラウシュ法」に準拠。
(3)カソードカーボンブロックの侵食速度:
侵食速度は小型の実験装置で実際に溶融塩電解を実施した後の試料容積変化を評価する試験方法を採用した。図1は、カソードカーボンブロックの侵食速度の評価試験を行なう装置である。符号1は、内部に溶融した電解浴2を入れた黒鉛るつぼであり、黒鉛るつぼ1には、陰極側の導電棒3にアダプター4を介して接続された試験片5を溶融した電解浴2に浸漬する。黒鉛るつぼ1はステンレス鋼製の外郭6で支持され、外郭6に陽極側の導電棒7を接続した。
【0039】
試料容積変化を評価する試験では、試験片5を陰極、黒鉛るつぼ3を陽極として80Aの電流で電解する。電解は48時間実施し、その後試料を取り出し、冷却した。侵食速度は電解前後の試料容積変化から求めた。この試験方法は通常のアルミ電解炉とは異なり、陰極が電解浴中に吊り下がる形になるため、試料と電解浴が非常に接触しやすくカソードカーボンブロックとしては非常に過酷な条件下にさらされている状態となっており、侵食速度としては実際のアルミ電解炉に使用される場合よりも早くなる。
【0040】
[第1の特性比較(炭化チタンの添加量の比較)]
[実施例1〜7及び比較例1〜3]
第1の特性比較の実施例1〜7及び比較例1〜3では、炭素原料と混合する炭化チタンの添加量を変化させてカソードカーボンブロックを製造し、炭化チタン含有量の異なるカーボンブロックの特性比較を行った。本特性比較で使用する炭素原料としては、石炭系か焼コークスと人造黒鉛を混合して使用した。
【0041】
実施例1〜7及び比較例1〜3では、表1に示す配合に従って、炭素原料および炭化チタンの合計に対して、有機バインダーとしてコールタールピッチを外掛けで19%加え、捏合し、成形圧力20MPaで型込め成形して、約110×65×230mmの成形体を得た。さらにこの成形体をコークスブリーズ中に埋没して非酸化雰囲気下で1000℃の温度で焼成し、間接通電方式(アチソン炉)黒鉛化炉で、2800℃で黒鉛化処理を施した。得られたカソードカーボンブロックについて、電気比抵抗、熱伝導率、侵食試験を行った結果も表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1から明らかなように、炭化チタンを含有しない比較例1と炭化チタン含有量2%の比較例2における電気比抵抗および熱伝導率は同等である。これらに対し、実施例1から実施例7においては、炭化チタンの含有量が増加するほど、低電気比抵抗、高熱伝導率となっており、優れた電気的・熱的特性を示している。
【0044】
また、実施例1〜7においては、炭化チタンの含有量(粒子径1mm以下の原料組成における炭化チタン混合比率)が増加するほど、侵食速度が低減されており、優れた耐侵食性を示している。後述の第2の特性比較の炭化チタンの含有量36%(粒子径1mm以下の原料組成における炭化チタン混合比率が55%)とした実施例11においても、侵食速度は十分に低減されている。
【0045】
これらに対し、炭化チタンの含有量2%(粒子径1mm以下の原料組成における炭化チタン混合比率が4%)の比較例2においては電気比抵抗の低下および熱伝導率の増加が十分ではなく、また侵食速度も十分低減されない。比較例3は使用した炭化チタンの粒径が1mm以上であるので、侵食速度は十分低減されない。
【0046】
以上より、炭素原料に炭化チタンを3〜36質量%添加することにより、侵食速度が低減されており、優れた耐侵食性をもつカソードカーボンブロックとその製造方法を提供することができる。
【0047】
[第2の特性比較(粒子径1mm以下の原料組成における炭化チタン混合比率の比較)]
[実施例8〜11および比較例4]
第2の特性比較の実施例8〜11および比較例4では、粒子径1mm以下の原料組成における炭化チタン混合比率を変化させてカソードカーボンブロックを製造し、その混合比率が異なるカソードカーボンブロックの特性比較を行った。本特性比較で使用する炭素原料としては、実施例8および比較例4については石油系か焼コークスと人造黒鉛を、実施例9〜11については石炭系か焼コークスと人造黒鉛を使用した。
【0048】
第2の特性比較の実施例8〜11および比較例4では、表2に示す配合に従って、炭素原料および炭化チタンの合計に対して、有機バインダーとしてコールタールピッチを外掛けで17〜20%加え、捏合し、押出し成形にて約700×600×3600mmの成形体を得た。さらにこの成形体をリードハンマータイプの連続焼成炉で非酸化雰囲気中1250℃の温度で焼成し、間接通電方式(アチソン炉)黒鉛化炉で2800℃で黒鉛化処理し、得られたカソードカーボンブロックについて侵食試験を行った結果も表2に示す
【0049】
【表2】

【0050】
表2から明らかなように、炭化チタンが含まれない比較例4の侵食速度は大きい。これに対し、粒子径1mm以下の原料組成において炭化チタン比率を11〜55%とした実施例8から実施例11においては、炭化チタンの含有量(粒子径1mm以下の原料組成における炭化チタン混合比率)が増加するほど、侵食速度が低減されており、優れた耐侵食性を示している。
【0051】
また、表1と表2の結果から、図2に示すようなグラフを描くことができる。図2は、粒子径1mm以下の原料組成における炭素原料と炭化チタンの混合物の炭化チタン比率と侵食速度の関係を示すグラフである。図2からは、粒子径1mm以下の原料組成における炭素原料と炭化チタンの混合物の炭化チタン比率(%)の増加に伴い、侵食速度が低減されていくことは明らかである。すなわち、炭化チタン比率が5%以上で侵食速度の低減効果が十分に発揮され、さらに炭化チタン比率が55%以上の場合においても同様に侵食速度低減効果が得られることは明白である。粒子径1mm以下の炭素原料と炭化チタンの混合物中の炭化チタン比率が5質量%未満では、微細組織そのもののアルミニウム溶湯との濡れ性が改善されないため、侵食速度の低減効果が十分に発揮されない。
【0052】
以上より、粒子径1mm以下の原料組成において炭化チタン比率を5〜100%とすることにより、侵食速度が低減され、優れた耐侵食性をもつカソードカーボンブロックとその製造方法を提供することができる。
【0053】
[第3の特性比較(黒鉛化処理温度の比較)]
第3の特性比較では、実施例12〜14および比較例5〜11として、黒鉛化処理工程における処理温度を変化させカソードカーボンブロックを製造し、黒鉛化処理温度が異なるカーボンブロックの特性比較を行った。本特性比較で使用する炭素原料としては石炭系か焼コークスを使用した。
【0054】
実施例12〜14および比較例5〜11では、表3に示す配合に従って、後述する製造の手順で炭化チタン含有量の異なるカソードカーボンブロックを得た。製造の手順としては、炭素原料および炭化チタンの合計に対して、有機バインダーとしてコールタールピッチを外掛けで18%加え、捏合し、成形圧力20MPaで型込め成形して、約100φ×130mmの成形体を得た。さらにこの成形体をコークスブリーズ中に埋没して非酸化雰囲気下で1000℃の温度で焼成し、間接通電方式(アチソン炉)黒鉛化炉で温度を変えて、黒鉛化処理を施した。得られたカソードカーボンブロックの電気比抵抗を測定した結果を表3に示す。また、図3は、カソードカーボン中の炭化チタン含有量が0%と15%の場合の処理温度と電気比抵抗の関係を示すグラフである。
【表3】

【0055】
表3及び図3からは、炭化チタンを添加しない比較例5〜9及び炭化チタンを15質量%添加した実施例実施例12〜14では、黒鉛化処理温度が2400℃を超えると炭化チタンの触媒効果が表れることが判る。さらに、実施例12〜14と比較例7〜9とを比較すると、黒鉛化処理温度が2400℃を超えると炭化チタンが無い場合に比べて電気比抵抗の低下が大きくなっていることがわかる。
【0056】
以上より、カソードカーボンブロックの黒鉛化処理温度を2400℃以上にすることで、原料であるか焼コークスの黒鉛化を可能になり、電気比抵抗が低減することが判る。また、3000℃を超える黒鉛化処理温度では、必要以上に熱量や電力量を加えることになり、また黒鉛化処理炉の老朽化が進みコスト増大につながるおそれがある。従って、炭化チタンを添加し、黒鉛化処理温度を2400〜3000℃とすることにより、低電気比抵抗、高熱伝導性のカソードカーボンブロックとその製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0057】
1…黒鉛るつぼ
2…電解浴
3…陰極導電棒
4…アダプター
5…試験片
6…電解槽外郭
7…陽極導電棒


【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、か焼コークス、黒鉛、もしくはこれらの混合物からなる炭素原料64〜97%、炭化チタン3〜36%の混合比率とし、粒子径1mmを超える炭素原料同士の空隙が粒子径1mm以下の原料によって充填され、粒子径1mm以下の原料組成において炭化チタン比率が5〜100%であることを特徴とするアルミニウム精錬用カソードカーボンブロック。
【請求項2】
上記炭化チタンの平均粒径が、1mm以下であることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム精錬用カソードカーボンブロック。
【請求項3】
熱伝導率が115W/(m・K)以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルミニウム精錬用カソードカーボンブロック。
【請求項4】
電気比抵抗値が11μΩm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のアルミニウム精錬用カソードカーボンブロック。
【請求項5】
質量%で、か焼コークス、黒鉛、もしくはこれらの混合物からなる炭素原料64〜97%、炭化チタン3〜36%の混合比率とし、粒子径1mm以下の原料組成において炭化チタン比率が5〜100%となるように粒度調整した混合物に、有機バインダーを加え、捏合、成形し、非酸化雰囲気で焼成した後、黒鉛化処理を施してカーボンブロックを得ることを特徴とするアルミニウム精錬用カソードカーボンブロックの製造方法。
【請求項6】
前記炭化チタンの平均粒径が、1mm以下であることを特徴とする請求項5に記載のアルミニウム精錬用カソードカーボンブロックの製造方法。
【請求項7】
上記黒鉛化処理の温度が、2400〜3000℃であることを特徴とする請求項5または請求項6に記載のアルミニウム精錬用カソードカーボンブロックの製造方法。


【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−208252(P2011−208252A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78759(P2010−78759)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(591098798)日本電極株式会社 (2)
【Fターム(参考)】