説明

アンテナ装置およびアンテナ装置を用いた無線通信システム

【課題】無線アクセスポイント装置を用いた無線通信システムのアンテナ装置を、複数のアンテナ素子を有していても、目立つことなく、安価に、壁に埋め込む又は貼り付けることができるように提供し、アンテナ装置の放射面側に障害物があっても、MIMO通信の品質を保つ。
【解決手段】内壁10に接着したアンテナ装置1は、複数のアンテナ素子2にそれぞれ接続する複数の給電線3と、給電部4とで構成され、給電部4は複数の結合素子5を備え、その周囲は磁性体6に囲まれている。無線アクセスポイント装置11はアンテナポート7を備えており、アンテナポート7には同軸ケーブル8が接続される。アダプタ9は給電部4と同構成であり、給電部4とアダプタ9とは電磁結合により給電される。障害物によりアンテナ素子2が覆われる場合には、MIMO通信起動時に、複数のアンテナ素子2の中から通信品質が最適となるアンテナ素子組み合わせを選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構内無線LANや高速固定通信などの無線通信システムに用いるアンテナ装置に係り、特に無線アクセスポイント装置用のアンテナ装置およびアンテナ装置を用いた無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、屋内または屋外で利用される無線通信システムに使用するアンテナ装置として、アンテナ装置を窓ガラスに取り付けて使用する構成としたものが知られている(例えば、特許文献1)。図6は従来のアンテナ装置の取り付け状態を示す断面図である。図6において、窓ガラス91には貫通穴91aがあけてあり、貫通穴91aにコネクタ92を通すことにより屋外の受信アンテナ2と屋内の送信アンテナ1を接続している。
【0003】
また、アンテナ装置が突出せず目立たない構成としたものも知られている(例えば、特許文献2及び特許文献3)。図7に、従来のアンテナ装置を照明装置の裏に設けたときの分解斜視図を示す。図7において、アンテナ装置を含む通信機能モジュール104は照明取付器具101に具備されており、照明装置102と一体化されて天井100に取り付けられる。図8は、他の従来のアンテナ装置の実施形態を示す図である。図8において、基板111は、ガラスなどの透明な樹脂材料であり、アンテナパターン112及び給電線113は、ITO(Indium−Tin Oxide)膜などの透明な伝導材料で構成される。そして、このアンテナ装置を天井や壁に取り付けて使用する。
【0004】
また、アンテナ装置を壁に埋め込んで使用する構成としたものも知られている(例えば、特許文献4)。図9に、アンテナ装置を壁に埋め込んで使用する従来のアンテナ装置の実施形態を示す。図9において、アンテナ装置122は壁121に埋め込まれ、RFケーブル123を通してアクセスポイント装置124に接続され、アンテナ装置122は無線通信用端末125と送受信を行うことができる。図7から図9に示した従来のアンテナ装置によれば、アンテナ装置自体が目立たないため、屋内の雰囲気を損なうことなく無線通信ができる。
【特許文献1】特開2004−56457号公報(第8ページ、図8)
【特許文献2】特開2003−16831号公報(第2−3ページ、図1)
【特許文献3】特開平10−233612号公報(第2ページ、図1)
【特許文献4】特開2004−140832号公報(第6−7ページ、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図6に示したアンテナ装置は、窓ガラスに取り付ける構成となっており、一度アンテナ装置を設置すると、アンテナ装置の位置や向きを動かさない限り、指向性が制御できず、無線通信用端末が移動した場合に通信品質が劣化するという問題があった。
【0006】
また、図7に示したアンテナ装置は、アンテナ装置自体は目立たない場所に設置できるが、アンテナ装置を含む通信機能モジュールを取り付けるための照明取付器具が新規に必要である。また、MIMO(Multi Input Multi Output)通信のように複数のアンテナ素子を利用して通信をおこなう場合、アンテナ素子の設置スペースが限られてしまう。図8に示したアンテナ装置は、アンテナ装置自体は目立たないように設置できるが、透明な樹脂材料および透明な伝導材料で構成されるため、材料コストが高くなるという問題があった。さらに、図9に示したアンテナ装置もアンテナ装置自体は目立たないように設置できるが、アクセスポイント装置とアンテナ装置の接続のために壁に穴をあける必要があり、ユーザーが容易に取り付けることは困難であった。
【0007】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされたものであり、無線アクセスポイント装置を用いた無線通信システムのアンテナ装置を、目立つことなく、かつ安価に提供することを目的とするものである。また、障害物によりアンテナ素子が覆われた場合でもMIMO通信の通信品質を保つことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のアンテナ装置は、アンテナ装置と無線アクセスポイント装置との電磁界結合によりアンテナ装置への給電をするものであって、建物の内壁に埋め込むことが可能な構成にしている。
【0009】
この構成により、アンテナ装置を目立つことがなく設置でき、かつ、アンテナ装置が落下する危険がない。また、アンテナ装置を透明にしなくて済む。そして、アンテナ素子間隔を半波長以上離して配置することが望ましいMIMO通信においても、アンテナ装置が目立つことがないため、アンテナ素子数が増えてアンテナ装置を設置するスペースが大きくなっても、屋内の雰囲気を損なうことがない。
【0010】
また、本発明のアンテナ装置を利用してMIMO通信をおこなう場合、複数のアンテナ素子の中からMIMO通信に最適な組み合わせを選択する手段を無線アクセスポイント装置に有する。
【0011】
これにより、アンテナ素子が障害物に覆われても、別のアンテナ素子を利用してMIMO通信が可能となるため、通信品質を保つことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、アンテナ装置と無線アクセスポイント装置との電磁界結合によりアンテナ装置への給電をするものであって、建物の内壁に埋め込むことを可能としたものであり、アンテナ装置を目立つことなく、かつ安価に設置でき、また、アンテナ装置の通信品質を安定的に保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0014】
(実施の形態1)
図1は、本発明の第1の実施の形態におけるアンテナ装置およびそれを用いた無線通信システムの利用概念図である。図1に、本発明の無線通信システムを室内に設置した状態を示す。アンテナ装置1は内壁10に接着した構造である。アンテナ装置1は、複数のアンテナ素子2と、アンテナ素子2にそれぞれ接続する複数の給電線3と、給電部4とで構成される。アンテナ素子2および給電線3は、マイクロストリップで形成される。給電部4は、給電線3にそれぞれ接続する複数の結合素子5を備え、また、給電部4の周囲は磁性体6に囲まれている。そして、アンテナ装置1を壁紙18で覆っている。ここで、結合素子5は、電磁結合を行うために平面的なコイルを幾重にも配設した構造をしている。
【0015】
一方、外部の無線アクセスポイント装置11はアンテナポート7を備えており、アンテナポート7には同軸ケーブル8が接続される。同軸ケーブル8の他端に備えたアダプタ9は、給電部4と同じ構成である。すなわち、アダプタ9には同軸ケーブル8に接続した複数の給電素子5を設け、周囲を磁性体6で囲んでいる。図1では給電部4とアダプタ9を取り外した状態で示しているが、アダプタ9と給電部4とはゴム磁性体などでできた磁性体6の磁力により固定される。また、アンテナ装置への給電方式は、給電部4の結合素子5とアダプタ9の結合素子5との電磁界結合を利用した電磁界結合給電である。
【0016】
図2は、本発明の第1の実施の形態におけるアンテナ装置の設置方法を示した斜視図である。図2に示すように、アンテナ装置1は、建物の壁下地板19と壁紙18との間に挟まれた構造を有する。また、アンテナ装置1は壁紙18で放射面が覆われるため、アンテナ素子2の形状は壁紙18の誘電率を考慮して設計する。
【0017】
このように、本実施の形態におけるアンテナ装置によれば、アンテナ装置が目立つことなく、壁に穴を開ける必要もなく容易に設置でき、また、アンテナ装置が落下することもない。また、事前の高価なケーブル配線や無線アクセスポイント装置の設置工事が不要である。
【0018】
以上説明した実施の形態においては、給電部4とアダプタ9との固定方法として磁性体6の磁力を利用したが、その他にも、接着剤や貼着テープなど様々な接着方法を利用することもできる。この場合、室内の雰囲気が若干損なわれるが、内蔵されたアンテナ装置1の位置が、はっきりと目視でき、給電部4とアダプタ9との接続が容易になるという効果が得られる。
【0019】
なお、本実施の形態では、壁にアンテナ装置を埋め込む形態を示したが、アンテナ装置を額縁に入れて、壁にかけるようにしても同様の効果が得られる。
【0020】
(実施の形態2)
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。図4に、本発明の第2の実施の形態におけるアンテナ装置およびそれを利用したMIMO通信システムの利用形態図を示す。なお、第1の実施の形態と同様の構成を有するものについては、同一符号を付してその説明を省略する。
【0021】
図3に示すように、アンテナ装置1は、絵画などの障害物30により、アンテナ素子2が覆われてしまう場合がある。本発明の第2の実施の形態では、アンテナ素子2が障害物30に覆われてもMIMO通信により通信品質を保つようにしている。
【0022】
図4は、本発明の第2の実施の形態におけるMIMO通信動作を示す概略ブロック図であり、送信アンテナ2本、受信アンテナ2本を用いたMIMO通信動作を想定している。無線アクセスポイント装置11は、利用するアンテナ素子を切り替えるスイッチ33と、信号の変復調処理をする複数の送受信回路34と、チャネル推定処理や時空間復号化処理をおこなう信号処理部35とで構成される。
【0023】
ここでは、端末装置12を送信側、無線アクセスポイント装置11を受信側として説明する。端末装置12の一方のアンテナ素子31からの送信信号がt1、端末装置12の他方のアンテナ素子32からの送信信号がt2である。また、アンテナ装置1で受信した後、無線アクセスポイント装置11のスイッチ33、送受信回路34を経由して信号処理部35に到達する2つの受信信号のうち、一方の受信信号がr1、他方の受信信号がr2である。信号処理部35で推定したチャネル応答値をa11、a12、a21、a22とする。
【0024】
図5は、本発明の第2の実施の形態におけるMIMO通信における無線アクセスポイント装置11の動作を表すフローチャートである。MIMO通信が起動されると(S1)、スイッチ33が任意のアンテナ素子組み合わせに切り替えられる(S2)。ここでは、スイッチ33はアンテナ素子21とアンテナ素子22がそれぞれ送受信回路34に接続させるよう切り替えられるものとする。そして、端末装置12からアンテナ装置1に送信された信号を送受信回路34で復調し(S3)、信号処理部35でチャネル応答値を推定する(S4)。そして、アンテナ素子の送受信信号及びチャネル応答値より、チャネル応答行列Aを算出する(S5)。チャネル応答値を要素とするチャネル応答行列Aは下記の数式1のように関係付けられる。
【0025】
【数1】

【0026】
次に、チャネル応答行列Aとその複素共役転置行列Bを用いて、正方行列を形成するために新たに行列Cを下記の数式2のように算出する(S6)。ただし、※印は複素共役を表す。
【0027】
【数2】

【0028】
次に、行列Cの行列式dを算出する(S7)。行列式dは下記の数式3のように算出する。
【0029】
【数3】

【0030】
そして、算出した行列式dを記憶手段に格納しておく(S8)。この行列式dが大きいほど、信号を分離する能力が高いため、MIMO通信の品質が良い。つまり、行列式dがMIMO通信の品質を表す指標となる。
【0031】
次に、すべてのアンテナ素子の組み合わせを試行したか否かを判定し(S9)、すべてのアンテナ素子の組み合わせを試行していなければ、スイッチ33を別のアンテナ素子組み合わせに切り替え(S2)、S3からS9の動作を繰り返す。本実施の形態のように、アンテナ装置1のアンテナ素子数が4本で、その中でMIMO通信に利用するアンテナ素子が2本の場合、すべてのアンテナ素子組み合わせは6通りであるため、S3からS9の動作は6回繰り返される。
【0032】
すべてのアンテナ素子組み合わせを試行したら、算出された行列式dが最大となるアンテナ素子組み合わせにスイッチ33を設定し(S10)、MIMO通信をおこなう(S11)。
【0033】
このように、本実施の形態におけるアンテナ装置によれば、MIMO通信時において、アンテナ装置の放射面に障害物がある場合にも、アンテナ素子組み合わせを最適化することにより、通信品質の劣化を抑止することができる。
【0034】
なお、本実施の形態では、行列式を求めるために、チャネル応答行列Aを用いて新たに正方行列Cを算出したが、送信アンテナ素子数と受信アンテナ素子数が同じである場合はチャネル応答行列Aが正方行列となるため、チャネル応答行列Aの行列式を直接算出しても良い。この場合、演算処理が削減できるという効果が得られる。
【0035】
また、図6に示したように、本実施の形態で説明した処理は、MIMO通信動作起動時におこなうとしたが、MIMO通信中におこなっても良い。この場合、屋内の伝搬環境が変動しても、常に最適なアンテナ素子組み合わせを維持できるという効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のアンテナ装置は、無線アクセスポイント装置用のアンテナ装置として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第1の実施の形態におけるアンテナ装置およびそれを利用した無線通信システムの利用形態図
【図2】本発明の第1の実施の形態におけるアンテナ装置の設置方法を示した斜視図
【図3】本発明の第2の実施の形態におけるアンテナ装置およびそれを利用したMIMO通信システムの利用形態図
【図4】本発明の第2の実施の形態におけるMIMO通信動作を示す概略ブロック図
【図5】本発明の第2の実施の形態におけるMIMO通信における無線アクセスポイント装置の動作を表すフローチャート
【図6】従来の無線信号を屋外から屋内に引き込む無線伝送装置の略線図
【図7】従来のアンテナ装置の実施形態を示す図
【図8】従来のアンテナ装置の実施形態を示す図
【図9】従来のアンテナ装置の実施形態を示す図
【符号の説明】
【0038】
1 アンテナ装置
2、21、22、23、24、31、32 アンテナ素子
3 給電線
4 給電部
5 結合素子
6 磁性体
7 アンテナポート
8 同軸ケーブル
9 アダプタ
10 内壁
11 無線アクセスポイント装置
12 端末装置
18 壁紙
19 壁下地板
30 障害物
33 スイッチ
34 送受信回路
35 信号処理部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線アクセスポイント装置用のアンテナ装置であって、前記無線アクセスポイント装置から前記アンテナ装置への給電を、前記アンテナ装置のアダプタと前記無線アクセスポイント装置のアダプタとの電磁界結合により行うよう構成したアンテナ装置。
【請求項2】
建物の内壁に接着する貼り付け手段を前記アンテナ装置に設けたことを特徴とする請求項1記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記アンテナ装置にアンテナ素子を複数設け、MIMO(Multi Input Multi Output)通信を行うよう構成したことを特徴とする請求項1または請求項2記載のアンテナ装置。
【請求項4】
請求項3に記載のアンテナ装置を用いてMIMO(Multi Input Multi Output)通信を行うよう構成したことを特徴とする無線通信システム。
【請求項5】
前記無線アクセスポイント装置は、送受信回路と、アンテナ素子を切り替えるスイッチと、信号処理部とを具備し、MIMO通信時は、前記アンテナ装置の複数のアンテナ素子の組み合わせを選択する選択手段を有することを特徴とする請求項4記載の無線通信システム。
【請求項6】
無線通信方法は、MIMO通信時において、端末装置からアンテナ装置に送信された信号を無線アクセスポイント装置で復調するステップと、復調した信号からMIMOチャネル応答値を推定するステップと、推定したMIMOチャネル応答値を要素とするチャネル応答行列を形成するステップと、形成したチャネル応答行列と前記チャネル応答行列の複素共役転置行列との積を算出するステップと、算出した行列の行列式を算出するステップとを含み、前記無線アクセスポイント装置のスイッチを切り替えて、複数のアンテナ素子の組み合わせすべてに対して前記行列式の算出をおこない、前記行列式の値が最大となる前記アンテナ素子の組み合わせを選択してMIMO通信をおこなうことを特徴とする請求項5記載の無線通信システム。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−319864(P2006−319864A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−142649(P2005−142649)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】