説明

インバータ装置

【課題】特別な検出器等を設けることなく、簡易な構成により充電回路の故障検出を行うことができるインバータ装置を提供することを目的とする。
【解決手段】交流電圧を直流電圧に変換するコンバータ部11と、直流電圧を平滑する平滑コンデンサ12と、平滑コンデンサ12により平滑された直流電圧を交流電圧に変換するインバータ部13と、抵抗器14と接点要素15との並列回路から構成される充電回路16と、平滑コンデンサ12の両端電圧を検出する電圧検出部17とを備えたインバータ装置10において、電圧検出部17で検出された電圧検出信号に基づく電圧検出値の傾きから接点要素15の短絡故障あるいは開放故障を検出する充電回路故障検出部18を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、直流電圧を平滑する平滑コンデンサと、この平滑された直流電圧を交流電圧に変換するインバータ部とを備えたインバータ装置において、平滑コンデンサを初期充電する充電回路の故障を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にインバータ装置においては、直流中間部に平滑コンデンサを備えている。このようなインバータ装置の起動時には、交流電源の交流電圧をコンバータ部により整流して平滑コンデンサを充電するが、電源投入直後は平滑コンデンサに電荷が充電されていないので大きな突入電流が流れる。この初期充電時の突入電流を抑制するために、抵抗器とこの抵抗器の両端を短絡するリレー等の接点要素とからなる充電回路を設けている。
【0003】
この充電回路の異常を検出するものとして、例えば特許文献1に示すものがある。この特許文献1には、抵抗器の通流状態を検出する通流検出器を設け、抵抗器への通流状態があらかじめ定められた充電時間を超えて一定時間以上継続する場合には充電回路の故障と判断して異常表示を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−225134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1では、充電回路の故障検出を行うために抵抗器の通流状態を検出する電流検出器等の通流検出器が必要であり、インバータ装置が大型化するとともに、コストアップになるという問題があった。
【0006】
この発明の目的は、特別な検出器等を設けることなく、平滑コンデンサの耐圧保護などを目的として一般に設けられている既設の電圧検出器を用いて充電回路の故障検出を容易に実現することができるインバータ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明は、直流電圧を平滑する平滑コンデンサと、該平滑コンデンサにより平滑された直流電圧を交流電圧に変換するインバータ部と、抵抗器と接点要素との並列回路から構成され前記平滑コンデンサを初期充電する充電回路と、前記平滑コンデンサの両端電圧を検出する電圧検出部とを備えたインバータ装置において、前記電圧検出部で検出された電圧に基づき、所定期間内における前記電圧の変位量から前記接点要素の短絡故障または/および開放故障を検出する充電回路故障検出部を備えるものとする。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、抵抗器と接点要素との並列回路から構成され平滑コンデンサを初期充電する充電回路と、平滑コンデンサの両端電圧を検出する電圧検出部と、この電圧検出部で検出された電圧に基づき、所定期間内における前記電圧の変位量から接点要素の短絡故障あるいは開放故障を検出する充電回路故障検出部とを備えることにより、特別な検出器等を設けることなく、簡易な構成により充電回路の故障検出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態を示す回路構成図
【図2】この発明の正常時の動作を説明するタイムチャート
【図3】この発明の接点要素の短絡故障時の動作を説明するタイムチャート
【図4】この発明の接点要素の開放故障時の動作を説明するタイムチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1はこの発明の実施の形態を示すインバータ装置の回路構成図である。図1において、1は三相の商用交流電源、2はインバータ装置10の入力側に設けられた遮断器、3はインバータ装置10により駆動される電動機である。
【0011】
また、11は交流電圧を三相全波整流するコンバータ部であり、ダイオードを三相ブリッジ接続したものである。12は直流母線間に接続されてコンバータ部11の出力を平滑する平滑コンデンサであり、通常は電解コンデンサが用いられている。13は平滑コンデンサ12の両端の平滑された直流電圧を入力として所望の周波数と電圧とをもつ交流電圧に変換するインバータ部であり、IGBT等の半導体スイッチング素子と還流用ダイオードとの逆並列回路を三相ブリッジ接続したものである。これらコンバータ部11,平滑コンデンサ12,インバータ部13によりインバータ装置10の主回路が構成されている。14はコンバータ部11と平滑コンデンサ12との間に接続されて初期充電電流を限流するための抵抗器、15は抵抗器14に並列に接続されて抵抗器14の両端を短絡するリレー等の接点要素であり、この抵抗器14および接点要素15により平滑コンデンサ12を初期充電するための充電回路16を構成している。
【0012】
17は平滑コンデンサ12の両端の直流電圧を検出する電圧検出部であり、検出した電圧検出値を電圧検出信号として送出する。なお、電圧検出部17は平滑コンデンサ12の耐圧保護などを目的としてインバータ装置10に一般的に設けられているものである。18は電圧検出部17からの電圧検出信号に基づいて所定期間の電圧上昇の傾きを演算し、この傾きから接点要素15の開放故障あるいは短絡故障を判定する充電回路故障検出部である。この充電回路故障検出部18は接点要素14を開閉するための接点信号を出力し、また接点要素14の故障と判定した際に故障検出信号を出力する。19はインバータ制御部であり、不図示の周波数設定器からの周波数指令値に基づいて電圧指令信号を演算し、この電圧指令信号とキャリア周波数信号との比較によるPWM演算を行ってインバータ部13を構成する各半導体スイッチング素子をオン・オフ制御するためのPWM信号を生成する。20は充電回路故障検出部18が故障を検出した際の故障表示を行う表示部である。
【0013】
このような構成において、図2を参照しながら充電回路16が正常時の初期充電動作を説明する。
【0014】
インバータ装置10を起動する際、時刻t0において遮断器2が閉路されて商用交流電源1が投入されると、交流電圧がコンバータ部11により整流されて平滑コンデンサ12の初期充電が開始される。このとき接点要素15は開放されているので、平滑コンデンサ12には抵抗器14を介して抑制された充電電流が流れ、抵抗器14と平滑コンデンサ12の時定数で決まる時間で平滑コンデンサ12の電圧が上昇する。
【0015】
次に、時刻t1において平滑コンデンサ12の両端電圧が所定の電圧V1(例えば、初期充電完了後のピーク充電電圧の80%程度にあらかじめ設定した値)に達すると、あらかじめ定めた所定時間T1が経過した後の時刻t2における電圧を電圧検出部17で検出し、充電回路故障検出部18により時刻t1での電圧検出信号に基づく電圧検出値と時刻t2での電圧検出信号に基づく電圧検出値とから時刻t1−t2間の電圧上昇の傾きを演算する。この演算した傾きがあらかじめ設定されている第1の基準値未満のときは充電回路16が正常と判断(接点要素15が短絡故障していないと判断)するとともに、接点信号をONにして接点要素15を閉路して抵抗器14を短絡することによって平滑コンデンサ12を完全に充電する。このとき充電回路故障検出部18からの故障検出信号はOFFのままである。
【0016】
次に、充電回路故障検出部18では、時刻t2からあらかじめ定めた所定時間T2が経過した後の時刻t3において時刻t2−t3間の電圧上昇の傾きを時刻t2およびt3での電圧検出信号に基づいて演算する。この演算した傾きがあらかじめ設定した第2の基準値以上のときは充電回路16が正常と判断(接点要素15が開放故障していないと判断)する。このときも充電回路故障検出部18からの故障検出信号はOFFのままである。なお、上述の第1の基準値と第2の基準値は同じ値にしてもよいし、それぞれ別の値にしてもよい。
【0017】
その後、あらかじめ定めた所定時間T3が経過した後の時刻t4において運転信号がOFFからONになるが、このときの故障検出信号はOFFであるので、PWM信号がONになる。インバータ制御部19ではPWM信号を生成し、このPWM信号に従ってインバータ部13を構成する各半導体スイッチング素子をオン・オフ制御することにより、インバータ装置10の出力電圧がその指令値に一致するような制御が行われる。
【0018】
次に、図3を参照しながら充電回路16が故障時(接点要素15の短絡故障時)の動作を説明する。
【0019】
時刻t0において遮断器2が閉路され商用交流電源1が投入されると、コンバータ部11を介して平滑コンデンサ12の初期充電が開始される。ここで接点要素15が溶着するなどして短絡故障している場合、遮断器2を閉路すると平滑コンデンサ12の両端電圧が急峻に上昇する。
【0020】
次に、時刻t11において平滑コンデンサ12の両端電圧が所定の電圧V1に達すると、あらかじめ定めた所定時間T1が経過した後の時刻t12での電圧を電圧検出部17で検出し、充電回路故障検出部18により時刻t11の電圧検出信号に基づく電圧検出値と時刻t12の電圧検出信号に基づく電圧検出値とから時刻t11−t12間の電圧上昇の傾きを演算する。この演算した傾きが第1の基準値以上のときは充電回路16の故障と判断(接点要素15が短絡故障と判断)し、故障検出信号をインバータ制御回路19に出力する。そしてインバータ制御回路19からアラーム信号を出力し、表示部20に充電回路16の故障を表示する。
【0021】
その後、時刻t14において運転信号がOFFからONになるが、充電回路故障検出部18からの故障検出信号がONのため、PWM信号はOFFとなりインバータ装置10を停止する。
【0022】
なお、故障判定の精度を向上させるために、時刻t12で接点信号をONにし、この時刻t12の前後の電圧検出信号の値から電圧上昇の傾きを充電回路故障検出部18で演算し、この演算した傾きから充電回路16の故障を判断するシーケンスを追加するようにしてもよい。このとき、電圧上昇の傾きに変化がなければ充電回路16の短絡故障と判断し、電圧上昇の傾きに変化があれば充電回路16が正常と判断する。
【0023】
また、充電回路故障検出部18が充電回路16の短絡故障と判断した場合、遮断器信号に基づいて遮断器2を開路する機能を備えることによって、より安全にインバータ装置10の保護を行うことができる。
【0024】
次に、図4を参照しながら充電回路16が故障時(接点要素15の開放故障時)の動作を説明する。
【0025】
時刻t0において遮断器2が閉路され商用交流電源1が投入されると、コンバータ部11を介して平滑コンデンサ12の初期充電が開始される。このとき接点要素15は開放されており、抵抗器14と平滑コンデンサ12の時定数で決まる時間で平滑コンデンサ12の両端電圧が上昇する。
【0026】
次に、時刻t21において平滑コンデンサ12の両端電圧が所定の電圧V1に達すると、あらかじめ定めた所定時間T1が経過した後の時刻t22での電圧を電圧検出部17で検出し、充電回路故障検出部18により時刻t21の電圧検出信号に基づく電圧検出値と時刻t22の電圧検出信号に基づく電圧検出値とから時刻t21−t22間の電圧上昇の傾きを演算する。この演算した傾きが第1の基準値未満のときは充電回路16が正常と判断(接点要素15が短絡故障していないと判断)し、接点信号をONにする。このとき充電回路故障検出部18からの故障検出信号はOFFのままである。
【0027】
ここで何らかの原因で接点要素15が開放したまま閉路できない故障が発生した場合、抵抗器14の両端が短絡できないために抵抗器14に電流が流れ続け、平滑コンデンサ12の両端電圧は時刻t22以前と同様に抵抗器14と平滑コンデンサ12の時定数で決まる時間でゆっくりと上昇する。次に、あらかじめ定めた所定時間T2が経過した後の時刻t23において、時刻t22およびt23での電圧検出信号に基づいて時刻t22−t23間の電圧上昇の傾きを充電回路故障検出部18で演算する。この演算した傾きが第2の基準値未満のときは充電回路16が故障と判断(接点要素15が開放故障と判断)し、充電回路故障検出部18がインバータ制御回路19に故障検出信号を出力する。そしてインバータ制御回路19からアラーム信号を出力し、表示部20に充電回路16の故障を表示する。
【0028】
その後、時刻t24において運転信号がOFFからONになるが、充電回路故障検出部18からの故障検出信号がONのため、PWM信号はOFFとなりインバータ装置10を停止する。
【0029】
なお、充電回路故障検出部18が充電回路16の開放故障と判断した場合、遮断器信号により遮断器2を開路する機能を備えることによって、より安全にインバータ装置10の保護を行うことができる。
【0030】
また、上記実施の形態においては、所定期間内における前記電圧の変位量として、所定期間内の電圧上昇の傾きを演算して充電回路の故障を判断するようにしているが、所定期間内の電圧上昇値(偏差)から充電回路の故障を判断するようにしてもよい。
【0031】
以上のように、本発明によれば、平滑コンデンサ12の初期充電時に電圧検出部17で検出された電圧検出信号に基づく電圧検出値の所定期間内における電圧の変位量から接点要素15の短絡故障あるいは開放故障を検出する充電回路故障検出部18を備えることにより、平滑コンデンサ12の耐圧保護などを目的として一般に設けられている既設の電圧検出部17のみを用いて充電回路16の故障の検出を容易に実現し、抵抗器14の異常発熱による焼損等の二次故障を防止することができる。
【符号の説明】
【0032】
10…インバータ装置、11…コンバータ部、12…平滑コンデンサ、13…インバータ部、14…抵抗器、15…接点要素、16…充電回路、17…電圧検出部、18…充電回路故障検出部、19…インバータ制御部、20…表示部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧を平滑する平滑コンデンサと、該平滑コンデンサにより平滑された直流電圧を交流電圧に変換するインバータ部と、抵抗器と接点要素との並列回路から構成され前記平滑コンデンサを初期充電する充電回路と、前記平滑コンデンサの両端電圧を検出する電圧検出部とを備えたインバータ装置において、
前記電圧検出部で検出された電圧に基づき、所定期間内における前記電圧の変位量から前記接点要素の短絡故障を検出する充電回路故障検出部を備えたことを特徴とするインバータ装置。
【請求項2】
直流電圧を平滑する平滑コンデンサと、該平滑コンデンサにより平滑された直流電圧を交流電圧に変換するインバータ部と、抵抗器と接点要素との並列回路から構成され前記平滑コンデンサを初期充電する充電回路と、前記平滑コンデンサの両端電圧を検出する電圧検出部とを備えたインバータ装置において、
前記電圧検出部で検出された電圧に基づき、所定期間内における前記電圧の変位量から前記接点要素の開放故障を検出する充電回路故障検出部を備えたことを特徴とするインバータ装置。
【請求項3】
直流電圧を平滑する平滑コンデンサと、該平滑コンデンサにより平滑された直流電圧を交流電圧に変換するインバータ部と、抵抗器と接点要素との並列回路から構成され前記平滑コンデンサを初期充電する充電回路と、前記平滑コンデンサの両端電圧を検出する電圧検出部とを備えたインバータ装置において、
前記電圧検出部で検出された電圧に基づき、所定期間内における前記電圧の変位量から前記接点要素の開放故障および短絡故障を検出する充電回路故障検出部を備えたことを特徴とするインバータ装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のインバータ装置において、前記充電回路故障検出部が故障を検出した際に、インバータの運転を停止し、前記充電回路の故障を表示部に表示することを特徴とするインバータ装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のインバータ装置において、前記充電回路故障検出部が故障を検出した際に、当該インバータ装置の入力側に設けられた遮断器を開放することを特徴とするインバータ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−120376(P2012−120376A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269500(P2010−269500)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】