説明

カーバイド誘導炭素、冷陰極用電子放出源及び電子放出素子

【課題】カーバイド誘導炭素、冷陰極用電子放出源及び電子放出素子を提供する。
【解決手段】カーバイド化合物をハロゲン族元素含有気体と熱化学反応させ、カーバイド化合物内の炭素を除いた残りの元素を抽出することによって製造されたカーバイド誘導炭素であって、ラマンピークによる分析の結果、1350cm−1での無秩序に誘導されたDバンドに対する1590cm−1でのグラファイトGバンドの強度比率が0.3〜5の範囲にあるカーバイド誘導炭素、BETが1000m/g以上であるカーバイド誘導炭素、X線回折の分析結果、2θ=25°でグラファイト(002)面の弱ピークまたは広いシングルピークが表れるカーバイド誘導炭素、または電子顕微鏡の分析結果、電子回折パターンが非晶質炭素のハロ−パターンを表すカーバイド誘導炭素である。これにより、均一性に優れ、長寿命を有する電子放出源を提供でき、低コストで電子放出源を製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーバイド誘導炭素、冷陰極用電子放出源及び電子放出素子に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、電子放出素子には、電子放出源として熱陰極を利用する方式と、冷陰極を利用する方式とがある。冷陰極を利用する方式の電子放出素子としては、FEA(Field Emitter Array)型、SCE(Surface Conduction Emitter)型、金属−誘電層−金属(Metal Insulator Metal:MIM)型及び金属−誘電層−半導体(Metal Insulator Semiconductor:MIS)型、BSE(Ballistic electron Surface Emitting)型などが知られている。
【0003】
FEA型は、仕事関数が低いかまたはβ関数の高い物質を電子放出源として使用する場合に、真空中で電界差によって容易に電子が放出される原理を利用したものであって、モリブデン(Mo)、シリコン(Si)などを主材質とする先端の尖ったチップ構造物や、グラファイト、DLC(Diamond Like Carbon)などの炭素系物質を電子放出源として適用する。最近では、ナノチューブやナノワイヤなどのナノ物質を電子放出源として適用した素子も開発されている。
【0004】
SCE型は、第1基板上に相互対向して配置された第1電極と第2電極との間に導電薄膜を形成し、導電薄膜に微細な亀裂を形成することによって電子放出源を形成した素子である。上記素子は、電極に電圧を印加することにより導電薄膜の表面に電流を流し、微細な亀裂である電子放出源から電子が放出される原理を利用したものである。
【0005】
MIM型及びMIS型の電子放出素子は、それぞれMIM及びMISの構造になった電子放出源を形成し、誘電層を介して位置する二つの金属または金属と半導体との間に電圧を印加するときに、高い電子電位を有する金属または半導体から低い電子電位を有する金属方向に電子が移動及び加速されつつ放出される原理を利用した素子である。
【0006】
BSE型は、半導体のサイズを電子の平均自由行程より小さな領域に縮少させたときに、電子が散乱せずに走行する原理を利用して、オーミック電極上に金属または半導体からなる電子供給層を形成し、電子供給層上に絶縁体層及び金属薄膜を形成して、オーミック電極及び金属薄膜に電源を印加することによって電子を放出させる素子である。
【0007】
このうち、FEA型電子放出素子は、カソード電極及びゲート電極の配置形態によって大きくトップゲート型とアンダーゲート型とに分けられ、使用される電極の数によって2極管、3極管または4極管に分けられる。
【0008】
前述したような電子放出素子のうち、電子を放出させる電子放出源をなす物質として、カーボン系物質、例えば、伝導性、電界集中効果及び電界放出特性に優れ、仕事関数の低いカーボンナノチューブが広く使用されている。
【0009】
しかし、カーボンナノチューブは、フィールド強化因子(β)の大きいファイバ状であることが一般的であり、このような形態を有する材料は、材料の均一性及び寿命などで多くの問題点を有している。また、ペースト、インクまたはスラリーなどで製造するとき、このようなファイバ状であることによって、粒子形態の他の材料よりも工程上不利であるという問題点を有している。さらに、原料自体が非常に高価な物質であるという問題点もある。
【0010】
カーボンナノチューブのかかる短所を解決するために、最近、安価のカーバイド系化合物からカーボンナノチューブを代替できる物質を開発するための研究が進められている。例えば、特許文献1には、カーバイドを炭素前駆物質として使用して運搬孔隙率を有する作業片を形成し、熱化学処理によって、作業片にナノサイズの孔隙を形成する工程を含む、多孔性炭素製品の製造方法及び製造された多孔性炭素製品を電気層キャパシタで電極物質として使用することが開示されている。また、特許文献2によれば、所定のサイズを有するナノ気孔が分布されたナノ多孔性炭素を冷陰極として採用することが開示されている。
【0011】
【特許文献1】大韓民国特許公開第2001−13225号公報
【特許文献2】ロシア特許公開第2,249,876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、均一性に優れ、かつ長寿命を有する電子放出源を提供できるだけでなく、従来の炭素ナノチューブを採用する場合に比べてはるかに低コストで電子放出源を製造することが可能な、新規かつ改良されたカーバイド誘導炭素、冷陰極用電子放出源及び電子放出素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、カーバイド化合物をハロゲン族元素含有気体と熱化学反応させ、カーバイド化合物内の炭素を除いた残りの元素を抽出することによって製造されたカーバイド誘導炭素であって、ラマンピークによる分析の結果、1350cm−1での無秩序に誘導されたDバンドに対する1590cm−1でのグラファイトGバンドの強度比率が0.3〜5の範囲にあるカーバイド誘導炭素が提供される。
【0014】
また、上記カーバイド化合物は、炭素と周期率表のIII族、IV族、V族またはVI族元素との化合物であってもよい。
【0015】
また、上記カーバイド化合物は、SiC、BC、TiC、ZrC、Al、CaC、TiTaC、MoC、TiN及びZrNからなる群から選択された少なくとも1つのカーバイド化合物であってもよい。
【0016】
また、上記ハロゲン族元素含有気体は、Cl、TiClまたはF気体であってもよい。
【0017】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、カーバイド化合物をハロゲン族元素含有気体と熱化学反応させ、カーバイド化合物内の炭素を除いた残りの元素を抽出することによって製造されたカーバイド誘導炭素であって、BETが1000m/g以上であるカーバイド誘導炭素が提供される。
【0018】
また、上記カーバイド化合物は、炭素と周期率表のIII族、IV族、V族またはVI族元素との化合物であってもよい。
【0019】
また、上記カーバイド化合物は、SiC、BC、TiC、ZrC、Al、CaC、TiTaC、MoC、TiN及びZrNからなる群から選択された少なくとも1つのカーバイド化合物であってもよい。
【0020】
また、上記ハロゲン族元素含有気体は、Cl、TiClまたはF気体であってもよい。
【0021】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、カーバイド化合物をハロゲン族元素含有気体と熱化学反応させ、カーバイド化合物内の炭素を除いた残りの元素を抽出することによって製造されたカーバイド誘導炭素であって、X線回折による分析の結果、2θ=25°でグラファイト(002)面の弱ピークまたは広いシングルピークが表れるカーバイド誘導炭素が提供される。
【0022】
また、上記カーバイド化合物は、炭素と周期率表のIII族、IV族、V族またはVI族元素との化合物であってもよい。
【0023】
また、上記カーバイド化合物は、SiC、BC、TiC、ZrC、Al、CaC、TiTaC、MoC、TiN及びZrNからなる群から選択された少なくとも1つのカーバイド化合物であってもよい。
【0024】
また、上記ハロゲン族元素含有気体は、Cl、TiClまたはF気体であってもよい。
【0025】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、カーバイド化合物をハロゲン族元素含有気体と熱化学反応させ、カーバイド化合物内の炭素を除いた残りの元素を抽出することによって製造されたカーバイド誘導炭素であって、電子顕微鏡による分析の結果、電子回折パターンは、非晶質炭素のハローパターンを表すカーバイド誘導炭素が提供される。
【0026】
また、上記カーバイド化合物は、炭素と周期率表のIII族、IV族、V族またはVI族元素との化合物であってもよい。
【0027】
また、上記カーバイド化合物は、SiC、BC、TiC、ZrC、Al、CaC、TiTaC、MoC、TiN及びZrNからなる群から選択された少なくとも1つのカーバイド化合物であってもよい。
【0028】
また、上記ハロゲン族元素含有気体は、Cl、TiClまたはF気体であってもよい。
【0029】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、上述したようなカーバイド誘導炭素を含む冷陰極用電子放出源が提供される。
【0030】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、上記冷陰極用電子放出源を備えた電子放出素子が提供される。
【発明の効果】
【0031】
以上説明したように本発明によれば、均一性に優れ、かつ長寿命を有する電子放出源を提供できるだけでなく、従来の炭素ナノチューブを採用する場合に比べてはるかに低コストで電子放出源を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0033】
本発明は、低コストで製造可能であるだけでなく、優れた電子放出特性を有するカーバイド誘導炭素、それを利用した電子放出源、及びこのような電子放出源を備えた電子放出素子を提供するためのものである。
【0034】
本発明に係るカーバイド誘導炭素は、カーバイド化合物をハロゲン族元素含有の気体と熱化学反応させて、カーバイド化合物内の炭素を除いた残りの元素を抽出することによって製造される。かかる方法は、韓国特許公開第2001−13225号公報に開示されているように、1)カーバイド化合物の粒子に所定の運搬孔隙率を有する作業片を形成する工程、及び2)350℃〜1200℃の範囲の温度で、ハロゲン族元素含有の気体中で作業片を熱化学的に処理し、作業片中の炭素を除いた残りの元素を抽出することによって、作業片全体にわたってナノ孔隙率を有するカーバイド誘導炭素を製造する工程を含む。
【0035】
本発明は、上記方法によって製造されたカーバイド誘導炭素のうち、特に、ラマンピークによる分析の結果、1350cm−1での無秩序に誘導されたDバンドに対する1590cm−1でのグラファイトGバンドの強度比率が0.3〜5の範囲にあることを特徴とするカーバイド誘導炭素と、BETが1000m/g以上であることを特徴とするカーバイド誘導炭素と、X線回折による分析の結果、2θ=25°でグラファイト面の弱ピークまたは広いシングルピークが表れることを特徴とするカーバイド誘導炭素と、電子顕微鏡による分析の結果、電子回折パターンが非晶質炭素のハローパターンを表すことを特徴とするカーバイド誘導炭素とが、それぞれ優れた電子放出特性を有するという事実を見出して本発明を完成するに至った。
【0036】
一般的に、ラマンピークの分析結果、X線回折の分析結果及び電子顕微鏡の分析結果は、結晶化度に対する尺度としてよく使用されるが、本発明に係るカーバイド誘導炭素は、前述のような分析結果を有することによって、その構造が短範囲で結晶化度を有する非晶質炭素に近接した構造的特性を有する。このように、短範囲で結晶化度を有する非晶質炭素の場合、曲がったグラファイトシート及び非六員環構造の開孔が混在された構造を有すると報告されている(「Enn Lust et al.,J.electroanalytical Chem.,vol.586,p247,2006」を参照)。図1に、上記文献で提案した非晶質炭素のナノ構造を模式的に示す。このような構造を有するカーバイド誘導炭素は、優れた電界放出特性を有し、電界放出は、表面に垂直方向である非六員環構造の開孔で発生すると推定される。
【0037】
図2には、本発明の一実施形態に係るカーバイド誘導炭素に対するラマンピークの分析結果を示す(514.5nm、2mW、60sec(2回)、50×)。図2に示すように、上記カーバイド誘導炭素は、1350cm−1での無秩序に誘導されたDバンドの強度が約1.75であり、1590cm−1でのグラファイトGバンドの強度が約1.70であり、その比率であるI/Iの値は約0.97であるということが分かる。
【0038】
また、図3及び図4には、本発明の一実施形態に係るカーバイド誘導炭素に対するX線回折の分析結果を示す。また、図5は、グラファイトの結晶構造を概略的に示す模式図であり、図6は、従来の技術による結晶質グラファイトに対するX線回折の分析結果を示すグラフである。図3及び図4に示すように、上記カーバイド誘導炭素は、2θ=25°でグラファイト(002)面の弱ピークが表れるということが分かる。グラファイト(002)面のピークとは、図5に示すように、グラファイト結晶の構造を六角柱状と仮定した場合、六角柱の上面に平行方向に入射されるX線回折によって引き起こされるピークを意味する。図6に示すように、結晶質グラファイトは、一般的に、2θ=25°の位置で非常に強いピークを表す。しかし、本実施形態に係るカーバイド誘導炭素は、2θ=25°の位置で非常に弱いピークを表し、したがって、結晶質グラファイトとは異なる非晶質の特性を有するということが分かる。
【0039】
また、図7には、本発明の一実施形態によるカーバイド誘導炭素に対する透過電子顕微鏡(Transmitting Electron Microscope:TEM)写真を示す。図7に示すように、カーバイド誘導炭素の電子回折パターンは、非晶質炭素のハローパターンを表すということが分かる。これは、結晶質炭素の場合、電子回折パターンは複数の点が散開した形態を有するが、本実施形態に係るカーバイド誘導炭素は、図7に示すように、電子回折パターンがこのような点形状を示さず、なだらかな円形であって非晶質炭素のハロ−パターンを示す。したがって、本実施形態に係るカーバイド誘導炭素は、結晶質炭素とは異なる非晶質特性を有するということが分かる。
【0040】
本発明の実施形態に係るカーバイド誘導炭素を製造するためのカーバイド化合物は、望ましくは、炭素と周期率表のIII族、IV族、V族またはVI族元素との化合物であって、さらに望ましくは、SiCまたはBCのようなダイアモンド類カーバイド;TiCまたはZrCのような金属類カーバイド;AlまたはCaCのような塩類カーバイド;TiTaCまたはMoCのような錯物カーバイド;TiNまたはZrNのような炭窒化物;または上述したカーバイド物質の混合物である。また、ハロゲン族元素含有の気体は、Cl、TiClまたはF気体であってもよい。
【0041】
また、本発明は、上述の実施形態に係るカーバイド誘導炭素を含む冷陰極用電子放出源を提供する。以下、本発明の一実施形態に係る電子放出源について説明する。
【0042】
本実施形態に係る電子放出源は、冷陰極用電子放出源であって、加熱によって熱電子を放出するのではなく、イオン衝撃による2次電子放出とイオンとの再結合により発生する光電子放出または電場放出などで電子を放出する。これにより、本実施形態に係る電子放出源は、前述したように優れた電子放出特性を有するカーバイド誘導炭素を含むことによって、その電子放出効率に非常に優れている。
【0043】
本発明に係る電子放出源は、本実施形態により制限されるものではない。本実施形態に係る電子放出源は、上述したカーバイド誘導炭素を含む電子放出源形成用組成物を製造した後、それを基板に印刷及び焼成するなどの方法によって製造される。以下、本実施形態に係る電子放出源の製造方法について説明する。
【0044】
まず、上述のカーバイド誘導炭素及びビークルを含む電子放出源形成用組成物を製造する。上記ビークルは、電子放出源形成用組成物の印刷性及び粘度を調節し、樹脂成分及び溶媒成分を含む。また、電子放出源形成用組成物は、必要に応じて感光性樹脂及び光開始剤、接着成分、フィルタなどをさらに含んでもよい。
【0045】
その後、提供された電子放出源形成用組成物を基板に印刷する。ここで「基板」とは、電子放出源が形成される基板であって、形成しようとする電子放出素子によって異なり、これは、当業者ならば容易に認識できる。例えば、カソード電極とアノード電極との間にゲート電極が備えられた形態の電子放出素子を製造する場合、上記「基板」は、カソード電極となるものであってもよい。
【0046】
電子放出源形成用組成物を印刷する工程は、電子放出源形成用組成物が感光性樹脂を含む場合と感光性樹脂を含んでいない場合とによって異なる。まず、電子放出源形成用組成物が感光性樹脂を含む場合には、別途のフォトレジストパターンが不要である。すなわち、基板上に感光性樹脂を含む電子放出源形成用組成物を塗布した後、それを所望の電子放出源形成領域によって露光及び現像する。一方、電子放出源形成用組成物が感光性樹脂を含んでいない場合には、別途のフォトレジストパターンを利用したフォトリソグラフィ工程が必要である。すなわち、まず、フォトレジスト膜を利用してフォトレジストパターンを形成した後、形成されたフォトレジストパターンを利用して電子放出源形成用組成物を印刷する。
【0047】
上述のような工程により印刷された電子放出源形成用組成物は、焼成工程を経る。焼成工程を通じて、電子放出源形成用組成物のうちカーバイド誘導炭素は、基板との接着力が向上し、その一部以上のビークルは揮発され、他の無機バインダなどが溶融及び固形化されて、電子放出源の耐久性の向上に寄与できる。焼成温度は、電子放出源形成用組成物に含まれたビークルの揮発温度及び時間を考慮して決定されねばならない。焼成工程は、カーバイド誘導炭素の劣化を防止するために、不活性ガスの存在下で行われる。不活性ガスは、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ネオンガス、キセノンガス、及びそれらのうち2つ以上の混合ガスであってもよい。
【0048】
このようにして焼成された焼成結果物の表面は、選択的に活性化工程を経る。活性化工程の一実施形態によれば、熱処理工程を通じてフィルム状に硬化されうる溶液、例えば、ポリイミド系高分子を含む電子放出源の表面処理剤を前記焼成結果物上に塗布した後、それを熱処理し、前記熱処理で形成されたフィルムを剥離する。活性化工程の他の具現例によれば、所定の駆動源で駆動されるローラの表面に接着力を有する接着部を形成して、前記焼成結果物の表面に所定の圧力で加圧することによって活性化工程を行ってもよい。このような活性化ステップを通じてカーバイド誘導炭素が電子放出源の表面に露出されるか、または垂直配向されるように制御されうる。
【0049】
また、本発明は、本発明に係る電子放出源を備える電子放出素子を提供する。
【0050】
本発明に係る電子放出素子は、第1基板と、第1基板上に配置されたカソード電極及び電子放出源と、カソード電極と電気的に絶縁されるように配置されたゲート電極と、カソード電極とゲート電極との間に配置されカソード電極及びゲート電極を絶縁する絶縁体層とを備えるようにしてもよい。このとき、電子放出源は、前述したように、本発明に係るカーバイド誘導炭素を含む。
【0051】
また、上記電子放出素子は、ゲート電極の上側を覆う第2絶縁体層をさらに備え、第2絶縁体層によってゲート電極と絶縁され、ゲート電極と平行な方向に配置された集束電極をさらに備えるなど、多様な変形例が可能である。
【0052】
上記電子放出素子は、多様な電子装置、平板ディスプレイ、TV、X線チューブ、エミッションゲート増幅器等の真空電子装置に非常に有用に用いられることができる。
【0053】
図8には、本発明に係る電子放出素子の一例であって、3極管構造の電子放出素子の部分断面図を示す。
【0054】
図8に示すように、電子放出素子200は、上板201及び下板202を備え、上板201は、上面基板190と、上面基板190の下面190aに配置されたアノード電極180と、アノード電極180の下面180aに配置された蛍光体層170とを備える。
【0055】
下板202は、内部空間を有するように所定の間隔で上面基板190と対向して平行に配置される下面基板110と、下面基板110上にストライプ状に配置されたカソード電極120と、カソード電極120と交差するようにストライプ状に配置されたゲート電極140と、ゲート電極140とカソード電極120との間に配置された絶縁体層130と、絶縁体層130前記ゲート電極140の一部に形成された電子放出源ホール169と、電子放出源ホール169内に配置されてカソード電極120と通電され、ゲート電極140より低く配置される電子放出源160とを備える。
【0056】
上板201及び下板202は、大気圧より低い圧力の真空状態に維持され、真空状態で発生する上板201と下板202との間の圧力を支持し、発光空間210を区画するように、スペーサ192が上板201と下板と202の間に配置される。
【0057】
アノード電極180は、電子放出源160から放出された電子の加速に必要な高電圧を印加して、放出された電子を蛍光体層170に高速で衝突させる。蛍光体層170は、衝突する電子により励起されて、高エネルギーレベルから低エネルギーレベルに低下しつつ、可視光を放出する。カラー電子放出素子の場合には、単位画素をなす複数の発光空間210のそれぞれに、赤色発光、緑色発光、青色発光の蛍光体層がアノード電極180の下面180aに配置される。
【0058】
ゲート電極140は、電子放出源160から電子を容易に放出させる機能を有し、絶縁体層130は、電子放出源ホール169を区画し、電子放出源160とゲート電極140とを絶縁する機能を有する。
【0059】
電界形成により電子を放出する電子放出源160は、前述したように、本発明に係るカーバイド誘導炭素を含む。
【0060】
以下、本発明を下記実施例を通じてさらに詳細に説明するが、本発明は、下記実施例にのみ限定されるものではない。
【0061】
(カーバイド誘導炭素の製造)
(実施例1)
炭素前駆体として粒径0.7μmのα−SiC100gを使用し、グラファイト反応チャンバ、トランスフォーマなどから構成された高温電気炉を利用して、1000℃で1分当り0.5リットルのClガスを流して熱化学反応を7時間維持し、Siを前駆体から抽出することによってカーバイド誘導炭素30gを製造した。
【0062】
上記カーバイド誘導炭素に対するラマンピーク分析、X線回折分析及び電子顕微鏡分析を行った結果、I/I値が約0.5〜1であり、2θ=25°でグラファイト(002)面の弱ピークが表れ、電子回折パターンが非晶質炭素のハロ−パターンを表した。また、合成後の比表面積は、1000〜1100m/gの値を表した。
【0063】
(実施例2)
出発カーバイド化合物として粒径が3μmであるZrC100gを使用し、600℃で5時間熱化学反応させたことを除いては、実施例1と同じ方法によってカーバイド誘導炭素13gを製造した。このカーバイド誘導炭素に対するラマンピークの分析の結果、I/I値が約1〜1.3であり、XRD上で2θ=25°でグラファイト(002)面の広いシングルピークが表れた。また、合成後の比表面積は、1200m/gであった。
【0064】
(実施例3)
出発カーバイド化合物として粒径が3μmであるAl100gを使用し、700℃で5時間熱化学反応させたことを除いては、実施例1と同じ方法によってカーバイド誘導炭素25gを製造した。このカーバイド誘導炭素に対するラマンピーク及びX線回折の分析の結果、I/I値が約1〜3.2であり、2θ=25°でグラファイト(002)面の広いシングルピークが表れた。また、高解像度TEMの分析の結果、多量のグラファイトフリンジが観察された。図10及び図11にそのイメージを示す。また、合成後の比表面積は、1050〜1100m/gであった。
【0065】
(実施例4)
出発カーバイド化合物として粒径が0.8μmであるBC100gを使用し、1000℃で3時間熱化学反応させたことを除いては、実施例1と同じ方法によってカーバイド誘導炭素を製造した。このカーバイド誘導炭素に対するラマンピーク及びX線回折の分析の結果、I/I値が約0.4〜1であり、2θ=25°でグラファイト(002)面の弱ピークが表れた。高解像度TEMの分析の結果、非晶質の開孔からグラファイトフリンジに転移される過程の形態が観察された。図12にそのイメージを示す。また、合成後の比表面積は、1310m/gであった。
【0066】
(比較例1)
出発カーバイド化合物としてファイバ状のβ−SiCを使用した点を除いては、実施例1と同じ方法によってカーバイド誘導炭素を製造した。このカーバイド誘導炭素に対するラマンピークの分析の結果、I/I値が約0.5〜0.8であり、直径が約200nm以上であった。この場合、大径によって垂直方向への配向が行われず、結果的に電界放出が行われなかった。
【0067】
(比較例2)
出発カーバイド化合物として粒径が40μmであるMoC100gを使用した点を除いては、実施例1と同じ方法によってカーバイド誘導炭素5.5gを製造した。このカーバイド誘導炭素に対するラマンピークの分析の結果、I/I値が約0.3〜0.8であった。また、比表面積が800m/gであり、1000未満であった。
【0068】
(比較例3)
出発カーバイド化合物として、実施例4と同じ出発物質であるBCを使用したが、合成温度を1300℃、反応時間を12時間にして実施例1と同じ方法でカーバイド誘導炭素21gを製造した。このカーバイド誘導炭素に対するラマンピーク及びX線回折の分析の結果、I/I値が約6〜7であり、2θ=25°でグラファイト(002)面の狭いシングルピークが表れた。また、電界放出の可能な実施例1〜4とは異なり、比表面積が400m/gと著しく低い値を表した。
【0069】
下記表1には、実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例3に対するカーバイド誘導炭素の主な物性を要約して記載した。
【0070】
【表1】

1)出発カーバイド化合物の物性(出発カーバイド化合物の粒径は、カーバイド誘導炭素の製造以後にも変わりない)
2)カーバイド誘導炭素の合成条件
3)気体の圧力に関係なく発生し、吸着強度が大きく、特定の吸着点にのみ吸着が発生する類型
4)中開孔に毛細管凝縮現象が発生する場合であって、相対圧力に関係なく吸着曲線より脱着曲線が上に存在する類型
5)1/500のデューティ率では電子が放出されないが、1/140のデューティ率では電子が放出される。
【0071】
実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例3のカーバイド誘導炭素に対する物性及び電界放出特性を分析すれば、類似したラマンI/I比率、XRDパターン、TEMモーフォロジーを示すが、電界放出性能において差が観察される。また、同じ出発物質で合成しても、合成条件によって異なる物性及び電界放出性能を表す。出発物質の種類によって同じ合成条件下で合成されても、合成後のカーバイド誘導炭素の炭素間の距離、結晶質の分布、非晶質の開孔のサイズ及び体積が変わるため、異なる電界放出特性を表すと判断される。分析結果から、1/140のデューティ率以上で電界放出の可能なカーバイド誘導炭素材料は、ラマンピークによる分析の結果、1350cm−1での無秩序に誘導されたDバンドに対する1590cm−1でのグラファイトGバンドの強度比率が0.3〜5の範囲にあることを特徴とするカーバイド誘導炭素、比表面積が1000m/g以上である炭素、X線回折の分析結果、2θ=25°でグラファイト(002)面の弱ピークまたは広いシングルピークが表れることを特徴とするカーバイド誘導炭素または電子顕微鏡の分析結果、電子回折パターンが非晶質炭素のハロ−パターンを表すことを特徴とするカーバイド誘導炭素である。
【0072】
(電子放出源及び電子放出素子の製作)
実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例3で製造されたカーバイド誘導炭素1g、アクリレートバインダ6.5g、エトキシレートトリメチオールプロパントリアクリレート5.5g、テキサノール5.5g、光開始剤1g及び可塑剤としてジオクチルフタレート1gを混合した後、3ロールミルを使用して均一なペースト状の電子放出源形成用組成物を得るまで混練した(8回反復)。得られた組成物をITO電極がコーティングされた透明ガラス基板にスクリーン印刷し(10×10mm)、露光(500mJ)及び現像した後、450℃の窒素雰囲気下で焼成し、活性化過程を経てIV測定用冷陰極カソードを製造した。この冷陰極カソードに、100μmの厚さのポリエチレンテレフタレートフィルムをスペーサとして、銅プレートをアノード電極として使用して電子放出素子を製作した。
【0073】
(電子放出素子の性能測定)
上述の工程により製作された電子放出素子に対して、パルス幅が20μm、周波数が100Hzである1/500のデューティ率でパルス電圧を印加して放出電流密度を測定した。その結果、実施例1によるカーバイド誘導炭素を利用した電子放出素子の場合、ターンオンフィールドが約5.8〜7.5V/μmであり、約11.2V/μmで100μm/cmに至る優れた電子放出性能を表した。図9にその結果を示す。
【0074】
実施例2〜実施例4のカーバイド誘導炭素に対しても同じ性能測定実験を行い、その結果を上記表1に要約した。
【0075】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、電子放出素子関連の技術分野に効果的に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】従来の技術による非晶質炭素のナノ構造を概略的に示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るカーバイド誘導炭素に対するラマンピークの分析結果を示すグラフである。
【図3】本発明の一実施形態に係るカーバイド誘導炭素に対するX線回折の分析結果を示すグラフである。
【図4】本発明の一実施形態に係るカーバイド誘導炭素に対するX線回折の分析結果を示すグラフである。
【図5】グラファイトの結晶構造を概略的に示す模式図である。
【図6】従来の技術による結晶質グラファイトに対するX線回折の分析結果を示すグラフである。
【図7】本発明の一実施形態に係るカーバイド誘導炭素に対するTEM写真である。
【図8】本発明に係る電子放出素子の部分断面図の一例である。
【図9】実施例1によるカーバイド誘導炭素の電場による電流密度を示すグラフである。
【図10】実施例3によるAlの合成後のカーバイド誘導炭素のTEMイメージ写真である。
【図11】実施例3によるAlの合成後のカーバイド誘導炭素のTEMイメージ写真である。
【図12】実施例4によるBCの合成後のカーバイド誘導炭素のTEMイメージ写真である。
【符号の説明】
【0078】
110 下面基板
120 カソード電極
130 絶縁体層
140 ゲート電極
160 電子放出源
169 電子放出源ホール
170 蛍光体層
180 アノード電極
190 上面基板
192 スペーサ
200 電子放出素子
201 上板
202 下板
210 発光空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーバイド化合物をハロゲン族元素含有気体と熱化学反応させ、前記カーバイド化合物内の炭素を除いた残りの元素を抽出することによって製造されたカーバイド誘導炭素であって、
ラマンピークによる分析の結果、1350cm−1での無秩序に誘導されたDバンドに対する1590cm−1でのグラファイトGバンドの強度比率が0.3〜5の範囲にあることを特徴とする、カーバイド誘導炭素。
【請求項2】
前記カーバイド化合物は、炭素と周期率表のIII族、IV族、V族またはVI族元素との化合物であることを特徴とする、請求項1に記載のカーバイド誘導炭素。
【請求項3】
前記カーバイド化合物は、SiC、BC、TiC、ZrC、Al、CaC、TiTaC、MoC、TiN及びZrNからなる群から選択された少なくとも1つのカーバイド化合物であることを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載のカーバイド誘導炭素。
【請求項4】
前記ハロゲン族元素含有気体は、Cl、TiClまたはF気体であることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載のカーバイド誘導炭素。
【請求項5】
カーバイド化合物をハロゲン族元素含有気体と熱化学反応させ、前記カーバイド化合物内の炭素を除いた残りの元素を抽出することによって製造されたカーバイド誘導炭素であって、
BETが1000m/g以上であることを特徴とする、カーバイド誘導炭素。
【請求項6】
前記カーバイド化合物は、炭素と周期率表のIII族、IV族、V族またはVI族元素との化合物であることを特徴とする、請求項5に記載のカーバイド誘導炭素。
【請求項7】
前記カーバイド化合物は、SiC、BC、TiC、ZrC、Al、CaC、TiTaC、MoC、TiN及びZrNからなる群から選択された少なくとも1つのカーバイド化合物であることを特徴とする、請求項5または6のいずれかに記載のカーバイド誘導炭素。
【請求項8】
前記ハロゲン族元素含有気体は、Cl、TiClまたはF気体であることを特徴とする、請求項5〜7のいずれかに記載のカーバイド誘導炭素。
【請求項9】
カーバイド化合物をハロゲン族元素含有気体と熱化学反応させ、前記カーバイド化合物内の炭素を除いた残りの元素を抽出することによって製造されたカーバイド誘導炭素であって、
X線回折による分析の結果、2θ=25°でグラファイト面の弱ピークまたは広いシングルピークが表れることを特徴とするカーバイド誘導炭素。
【請求項10】
前記カーバイド化合物は、炭素と周期率表のIII族、IV族、V族またはVI族元素との化合物であることを特徴とする、請求項9に記載のカーバイド誘導炭素。
【請求項11】
前記カーバイド化合物は、SiC、BC、TiC、ZrC、Al、CaC、TiTaC、MoC、TiN及びZrNからなる群から選択された少なくとも1つのカーバイド化合物であることを特徴とする、請求項9または10のいずれかに記載のカーバイド誘導炭素。
【請求項12】
前記ハロゲン族元素含有気体は、Cl、TiClまたはF気体であることを特徴とする、請求項9〜11のいずれかに記載のカーバイド誘導炭素。
【請求項13】
カーバイド化合物をハロゲン族元素含有気体と熱化学反応させ、前記カーバイド化合物内の炭素を除いた残りの元素を抽出することによって製造されたカーバイド誘導炭素であって、
電子顕微鏡による分析の結果、電子回折パターンは、非晶質炭素のハローパターンを表すことを特徴とする、カーバイド誘導炭素。
【請求項14】
前記カーバイド化合物は、炭素と周期率表のIII族、IV族、V族またはVI族元素との化合物であることを特徴とする、請求項13に記載のカーバイド誘導炭素。
【請求項15】
前記カーバイド化合物は、SiC、BC、TiC、ZrC、Al、CaC、TiTaC、MoC、TiN及びZrNからなる群から選択された少なくとも1つのカーバイド化合物であることを特徴とする、請求項13または14のいずれかに記載のカーバイド誘導炭素。
【請求項16】
前記ハロゲン族元素含有気体は、Cl、TiClまたはF気体であることを特徴とする、請求項13〜15のいずれかに記載のカーバイド誘導炭素。
【請求項17】
請求項1〜16のうちいずれか1項に記載のカーバイド誘導炭素を含む冷陰極用電子放出源。
【請求項18】
請求項17に記載の冷陰極用電子放出源を備えた電子放出素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−105922(P2008−105922A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−81826(P2007−81826)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(590002817)三星エスディアイ株式会社 (2,784)
【出願人】(507098427)ロッフェ フィジコ−テクニカル インスティテュート オブ ルシアン アカデミー オブ サイエンシーズ (1)
【Fターム(参考)】