説明

コンバイン

【課題】掻込搬送装置から引継搬送装置へ刈取穀稈を受け渡す際に、この刈取穀稈の脱落を防止し、コンバインの刈取脱穀作業の能率を向上させる。
【解決手段】HST(18)出力を走行装置(2)の車軸(34)と刈取装置(6)の入力軸(70)に伝動する第1伝動分岐部(A)と、刈取装置(6)の入力軸(70)に入力された駆動力を引継搬送装置(68)と刈取前処理部(6a)に伝動する第2伝動分岐部(B)を設け、第2伝動分岐部(B)と刈取前処理部(6a)との間に設けた有段変速装置(C)を低速側にすると、掻込搬送装置(67)と引継搬送装置(68)の各搬送速度とが同等となり、該装置(C)を高速側にすると掻込搬送装置(67)が引継搬送装置(68)よりも高速となる設定とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンバインに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に例示されるように、車台の下側に走行装置を設け、車台の上側に脱穀装置と穀粒貯留装置を左右に並べて設け、該穀粒貯留装置の前側に操縦部を設け、前記脱穀装置および操縦部の前側に刈取装置を設け、該刈取装置を、引起装置および掻込搬送装置を有する刈取前処理部と、前記掻込搬送装置の搬送終端部から刈取穀稈を引き継いで脱穀装置のフィードチェンへ受け渡す引継搬送装置とから構成し、前記車台に設けたエンジンの駆動力を無段階に変速して出力する静油圧式無段変速装置を設け、該静油圧式無段変速装置から出力された駆動力を前記走行装置の車軸に至る伝動経路と刈取装置の入力軸に至る伝動経路とに並列に分岐させて伝動する第1伝動分岐部を設け、前記刈取装置の入力軸に入力された駆動力を引継搬送装置に至る伝動経路と刈取前処理部に至る伝動経路とに並列に分岐させて伝動する第2伝動分岐部を設け、該第2伝動分岐部から刈取前処理部に至る伝動経路中に有段変速装置を設けたコンバインが知られている。
【0003】
このように第2伝動分岐部から刈取前処理部に至る伝動経路中に有段変速装置を設けることによって、走行速度と刈取装置の駆動速度とを同調させながらも、有段変速装置を高速側に切り換えることによって引起装置と掻込搬送装置の搬送速度を高め、倒伏穀稈の刈取作業を円滑に行なうことを目的としている。
【0004】
また、立毛穀稈の刈取作業時には、有段変速装置を低速側に切り換えることによって引起装置の駆動速度を低下させ、ラグが穀稈の穂先に過剰に作用して脱粒するのを防止している。
【特許文献1】特開2000−175549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1に開示された発明では、第2伝動分岐部から刈取前処理部に至る伝動経路中に設けた有段変速装置を変速作動させた場合に、掻込搬送装置の搬送速度と引継搬送装置の搬送速度との速度関係がどのように変化するか示されていない。
【0006】
従って、立毛穀稈の刈取作業において引起装置の高速駆動による脱粒を防ぐために、この有段変速装置を低速側に切り換えた状態で、掻込搬送装置の搬送速度が引継搬送装置の搬送速度よりも低速となると、掻込搬送装置によって搬送されてくる刈取穀稈を引継搬送装置に受け渡す際に、この刈取穀稈の層厚が薄くなり、良好に引き継がれずに脱落してしまう問題が生じる。
【0007】
また、この有段変速装置を低速側に切り換えた状態で、掻込搬送装置の搬送速度が引継搬送装置の搬送速度よりも高速となると、掻込搬送装置によって搬送されてくる刈取穀稈を引継搬送装置に受け渡す際に、この刈取穀稈の層厚が厚くなりすぎ、詰まりを生じる問題が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、上述の如き課題を解決するために、次のような技術的手段を講じる。
即ち、請求項1記載の発明は、車台(1)の下側に走行装置(2)を設け、車台(1)の上側に脱穀装置(3)と穀粒貯留装置(4)を左右に並べて設け、該穀粒貯留装置(4)の前側に操縦部(5)を設け、前記脱穀装置(3)および操縦部(5)の前側に刈取装置(6)を設け、該刈取装置(6)を、引起装置(62)および掻込搬送装置(67)を有する刈取前処理部(6a)と、前記掻込搬送装置(67)の搬送終端部から刈取穀稈を引き継いで脱穀装置(3)のフィードチェン(69)へ受け渡す引継搬送装置(68)とから構成し、前記車台(1)に設けたエンジン(14)の駆動力を無段階に変速して出力する静油圧式無段変速装置(18)を設け、該静油圧式無段変速装置(18)から出力された駆動力を前記走行装置(2)の車軸(34)に至る伝動経路と刈取装置(6)の入力軸(70)に至る伝動経路とに並列に分岐させて伝動する第1伝動分岐部(A)を設け、前記刈取装置(6)の入力軸(70)に入力された駆動力を引継搬送装置(68)に至る伝動経路と刈取前処理部(6a)に至る伝動経路とに並列に分岐させて伝動する第2伝動分岐部(B)を設け、該第2伝動分岐部(B)から刈取前処理部(6a)に至る伝動経路中に有段変速装置(C)を設け、該有段変速装置(C)を低速側に切り換えた状態では、掻込搬送装置(67)の搬送速度と引継搬送装置(68)の搬送速度とが同等の速度となり、該有段変速装置(C)を高速側に切り換えた状態では、掻込搬送装置(67)の搬送速度が引継搬送装置(68)の搬送速度よりも高速となる速度関係に設定したことを特徴とするコンバインとした。
【0009】
また、請求項2記載の発明は、前記有段変速装置(C)の変速操作スイッチ(55)を、静油圧式無段変速装置(18)を変速操作する主変速レバー(19)に設けたことを特徴とする請求項1記載のコンバインとした。
【発明の効果】
【0010】
倒伏穀稈の刈取作業では低速走行するために掻込搬送装置によって搬送される刈取穀稈量が少なくなるが、請求項1記載の発明によると、有段変速装置Cを高速側に切り換えることによって掻込搬送装置67の搬送速度が引継搬送装置68の搬送速度よりも高速となり、掻込搬送装置67から引継搬送装置68へ刈取穀稈を受け渡す際に、この刈取穀稈の層厚を厚くして脱落を防止し、刈取穀稈の搬送を円滑に行なえ、コンバインの刈取脱穀作業の能率を向上させることができる。また、立毛穀稈の刈取作業では高速走行するために掻込搬送装置によって搬送される刈取穀稈量が多くなるが、請求項1記載の発明によると、有段変速装置Cを低速側に切り換えることによって引起装置62の駆動速度を低下させ、ラグの過剰作用による脱粒を少なくすることができ、また、掻込搬送装置67の搬送速度と引継搬送装置68の搬送速度とが同等の速度となり、掻込搬送装置67から引継搬送装置68への刈取穀稈の受け渡しを良好にして刈取穀稈の搬送を円滑に行なうことができ、コンバインの刈取脱穀作業の能率を高めることができる。
【0011】
また、請求項2記載の発明によると、上記請求項1記載の発明の効果を奏するうえに、主変速レバー19を把持して走行速度を加減しながら、この主変速レバー19を把持した手指で変速操作スイッチ55を操作して刈取前処理部6aを変速させることができ、操作性の向上によってコンバインの刈取脱穀作業の能率を更に高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
この発明におけるコンバインの実施の形態を、4条刈りのコンバインを例示して説明する。
図1、図2に示すように、このコンバインは、車台1の下側に走行装置2を設け、車台1の上側に脱穀装置3と穀粒貯留装置4を左右に並べて設け、該穀粒貯留装置4の前側に操縦部5を設け、前記脱穀装置3および操縦部5の前側に刈取装置6を設け、前記脱穀装置3の後側に排藁カッター7を設けて構成する。
【0013】
前記走行装置2は、車台1の前部に取り付けたミッションケース8から駆動される左右の駆動スプロケット9と、左右の転輪フレーム10に軸支された多数の転輪11群とにわたってクローラ12を巻き掛けて構成する。
【0014】
前記ミッションケース8は、車台1に搭載されたラジエータ13を備えたエンジン14から駆動する構成である。即ち、冷却ファン15を備えたエンジン14の出力軸16から伝動ベルト17を介して静油圧式無段変速装置18のポンプ18aの入力軸18bへ伝動し、該ポンプ18aと閉回路をなすモータ18cの出力軸18dから無段階に変速した駆動力を出力する構成とする。この変速は、前記ポンプ18aの斜盤18eの角度を、後述する操縦部5に設けた主変速レバー19からリンク機構20を介して操作することによって行なわれる。
【0015】
そして、前記モータ18cの出力軸18dを、ミッションケース8の入力軸21にスプライン係合させて連結する。この入力軸21からギヤ伝動機構22を介して副変速軸23へ伝動し、該副変速軸23上にスライド自在に設けた有効径の異なる2つの副変速ギヤ24と、該副変速軸23の下位に設けた中間軸25に固定の有効径の異なる2つの中間ギヤ26との間に、2段変速式の副変速機構27を形成する。前記中間軸25に固定の出力ギヤ28を下位のサイドクラッチ軸29に固定のセンターギヤ30に噛み合わせ、該センターギヤ30に左右両側から噛み合う左右のサイドクラッチギヤ31をスライド自在に設け、該左右のサイドクラッチギヤ31の外側に該サイドクラッチギヤ31に制動力を付与する左右のサイドブレーキ32を設け、前記サイドクラッチギヤ31に噛み合う左右のホイルギヤ33を設け、該左右のホイルギヤ33から車軸34を介して前記駆動スプロケット9を駆動する構成とする。
【0016】
また、前記中間軸25をミッションケース8の外部へ突出させ、該突出端部に刈取出力プーリ35を取り付ける。
尚、上記中間軸25部にて、静油圧式無段変速装置18から出力された駆動力を、走行装置2の車軸34に至る伝動経路と、刈取出力プーリ35を経て刈取装置6の入力軸に至る伝動経路とに並列に分岐させて伝動する構成であり、当該部分を第1伝動分岐部Aと称する。
【0017】
前記脱穀装置3は、扱胴36を軸支した扱室37と、排塵処理胴38を軸支した排塵処理室39と、二番処理胴40を軸支した二番処理室41と、排塵ファン42を設けると共に上側に排藁搬送装置43を備えた排塵室44との下側に、揺動選別棚、唐箕、一番移送螺旋、二番移送螺旋を備えた選別室(図示省略)を設けて構成する。前記扱室37の外側部には、穀稈を該扱室37に突っ込んだ状態で後方へ搬送するフィードチェン69を設ける。該フィードチェン69は、脱穀装置3と共にエンジン14から一定速度で駆動される。
【0018】
前記穀粒貯留装置4は、下窄まりの箱型に形成したタンク本体45の背面上部に一番揚穀筒46の上端部を接続し、タンク本体45の底部に機体前後方向に沿う底部搬送螺旋軸47を回転自在に軸支し、該底部搬送螺旋軸47の前方突出端部とベベルギヤケース48との間を排出クラッチ(図示省略)を備えた伝動ベルト49で連動し、該ベベルギヤケース48とエンジン14の出力軸16とを伝動ベルト50で連動し、前記タンク本体45の後側に、前記底部搬送螺旋軸47から連通する穀粒排出オーガの揚穀螺旋筒51を設けて構成する。
【0019】
前記操縦部5は、エンジン14を覆うエンジンカバーの上部に座席を設け、該座席の前方に前部操作ポスト52を設け、該前部操作ポスト52上部の右側寄りの位置に前記左右のサイドクラッチギヤ31,31のうちの一方をセンターギヤ30から離脱させて旋回させる操向レバー53を設ける。また、前記座席の左側方に側部操作パネル54を設け、該側部操作パネル54に前記主変速レバー19を配置する。該主変速レバー19の把持部には後述する変速操作スイッチ55を設ける。
【0020】
前記刈取装置6は、車台1の前部一側に取り付けた刈取懸架台56の上部の受け部に上部横伝動ケース57を横軸芯まわりに回動自在に支持し、該上部横伝動ケース57の左右方向中間部から斜め前方下方へ向けて支持フレーム58を延設し、該支持フレーム58の前下端部に左右方向の下部横伝動ケース59を取り付け、該下部横伝動ケース59から前方へ向けて分草パイプ60を延設し、該分草パイプ60の基部間に刈刃61を取り付け、該分草パイプ60の前部に引起装置62の下部を支持させ、該分草パイプ60の各先端部に分草体63を取り付け、前記刈刃61の上側から後方へ向けて、掻込ベルト64と掻込スターホイル65と株元搬送チェン66からなる掻込搬送装置67を設けて刈取前処理部6aを構成し、該刈取前処理部6aに、掻込搬送装置67の後端部に上側から接近および離間自在な引継搬送装置68を設けて構成する。
【0021】
前記引継搬送装置68は、株元搬送装置68aと穂先搬送装置68bとからなり、後部の横向きの入力軸を中心として、その前部が上下動するように構成し、前記掻込搬送装置67の後端部と引継搬送装置68の前端部との上下間隔を変更することによって、搬送穀稈の挟持位置を変更して扱ぎ深さを調節する構成とする。
【0022】
前記刈刃61と引起装置62と掻込搬送装置67は、下部横伝動ケース59から連動して駆動される構成とする。
しかして、前記上部横伝動ケース57内に軸支した入力軸70の機体内側突出端部に刈取入力プーリ71を取り付け、該刈取入力プーリ71と前記刈取出力プーリ35との間に、刈取テンションクラッチを備えた伝動ベルト72を巻き掛ける。前記入力軸70の中間部にベベルギヤ73を取り付け、該ベベルギヤ73を、前記支持フレーム58内に軸支した主伝動軸74の上端部に回転自在に遊嵌したベベルギヤ75に噛み合わせる。該ベベルギヤ75には筒部を経てその下端部に爪部76を有したギヤ77を一体的に設ける。また、該爪部76から所定間隔をおいて爪部78を有したギヤ79を主伝動軸74に対して回転自在に遊嵌して設ける。該ギヤ79と前記ギヤ77とをギヤ増速機構80を介して連動し、該ギヤ77とギヤ79とが互いに同じ方向に異なる速度で回転するように連動する。そして、前記爪部76と爪部78との間における主伝動軸74の部位に、前記爪部76および爪部78に択一的に噛み合う爪部81を両面に有した摺動子82を、主伝動軸74に対して長手方向摺動自在にスプライン係合して設ける。これにより、摺動子82を軸芯方向にスライドさせて爪部81が爪部76と噛み合うと、該爪部76と一体のベベルギヤ75の回転が摺動子82を介して主伝動軸74に伝わり、摺動子82を軸芯方向に逆向きにスライドさせて爪部81が爪部78に噛み合うと、該つめ部78と一体のギヤ増速機構80を経たギヤ79の高速回転が摺動子82を介して主伝動軸74に伝わる構成である。この構成を有段変速装置Cと称し、この有段変速装置Cによって、刈取前処理部6aを高低2段変速できる。また、前記摺動子82のスライドは、シフタ83を介した電動モータ84の作動によって行なわれる。
【0023】
また、前記入力軸70の外側端部からチェン伝動機構85を介して中間伝動軸86を駆動し、該中間伝動軸86の外側端部から、前記引継搬送装置68の株元搬送装置68aと穂先搬送装置68bとを駆動する構成とする。該引継搬送装置68は、この中間伝動軸86を中心として、前部が上下動するように回動する構成である。
【0024】
上記の構成において、入力軸70からベベルギヤ73を経て主伝動軸74に至る伝動経路と、入力軸70から中間伝動軸86を経て引継搬送装置68に至る伝動経路とに並列に分岐させており、この伝動が分岐するベベルギヤ73の部位を第2伝動分岐部Bと称する。
【0025】
そして、前記有段変速装置Cを低速側に切り換えた状態では、掻込搬送装置67の搬送速度と引継搬送装置68の搬送速度とが同等の速度となり、該有段変速装置Cを高速側に切り換えた状態では、掻込搬送装置67の搬送速度が引継搬送装置68の搬送速度よりも高速となる速度関係に、前記ギヤ増速機構80の増速比率などの各ギヤの伝動比率を設定する。
【0026】
更に、前記主変速レバー19の把持部に設けた刈取変速スイッチ55の操作によって電動モータ84を作動させ、前記摺動子82を軸芯方向にスライドさせるように連繋する。即ち、静油圧式無段変速装置18が駆動出力する走行中であっても、この刈取変速スイッチ55の操作によって、摺動子82の爪部81が爪部76に噛み合う低速伝動状態と、摺動子82の爪部81が爪部78に噛み合う高速伝動状態とに、択一的に切り換えることができる。
【0027】
また、上記支持フレーム58における有段変速装置Cを設けた部位よりも下側の部位に、刈取上下シリンダ103のピストン先端部を取り付け、該刈取上下シリンダ103のシリンダ基部を車台1側に取り付ける。これによって、刈取前処理部6aの下部が圃場面に突っ込んでも、有段変速装置C部に過大な力が作用せず、該有段変速装置C内蔵部の破損を防止することができる。
【0028】
倒伏穀稈の刈取作業では低速走行するために掻込搬送装置によって搬送される刈取穀稈量が少なくなるが、上記の構成によると、有段変速装置Cを高速側に切り換えることによって掻込搬送装置67の搬送速度が引継搬送装置68の搬送速度よりも高速となり、掻込搬送装置67から引継搬送装置68へ刈取穀稈を受け渡す際に、この刈取穀稈の層厚を厚くして脱落を防止し、刈取穀稈の搬送を円滑に行なえ、コンバインの刈取脱穀作業の能率を向上させることができる。また、立毛穀稈の刈取作業では高速走行するために掻込搬送装置によって搬送される刈取穀稈量が多くなるが、請求項1記載の発明によると、有段変速装置Cを低速側に切り換えることによって引起装置62の駆動速度を低下させ、ラグの過剰作用による脱粒を少なくすることができ、また、掻込搬送装置67の搬送速度と引継搬送装置68の搬送速度とが同等の速度となり、掻込搬送装置67から引継搬送装置68への刈取穀稈の受け渡しを良好にして刈取穀稈の搬送を円滑に行なうことができ、コンバインの刈取脱穀作業の能率を高めることができる。また、引継搬送装置68は有段変速装置Cによっては変速されず、フィードチェン69と一定の速度関係を維持できるため、この引継搬送装置68からフィードチェン69への引継時に、穀稈の脱落がなく、安定した姿勢で引き継ぐことができるため、脱穀作業の能率が向上する。
【0029】
また、刈取作業中に、主変速レバー19を把持して走行速度を加減しながら、この主変速レバー19を把持した手指で変速操作スイッチ55を操作して刈取前処理部6aを変速させることができ、操作性の向上によってコンバインの刈取脱穀作業の能率を更に高めることができる。
【0030】
また、上記有段変速装置Cと副変速機構27とによって刈取前処理部6aを4段階に変速でき、刈取前処理部6a側に4段変速装置を設ける場合に比較して、コンパクトに構成することができる。
【0031】
図3、図4、図5に示すように、前記有段変速装置Cのシフタ83を、操縦部5の側部操作パネル54に設けた刈取変速レバー87の操作によって変速作動させるように構成してもよい。図5に示すように、該刈取変速レバー87は、主変速レバー19の操作溝の右側(側部操作パネル54における座席寄りの位置)に配置する。88はスロットルレバーの操作溝、89は前記副変速機構27を変速操作する副変速レバーの操作溝、90は刈取テンションクラッチおよび脱穀テンションクラッチ(図示省略)を入り切り操作する刈取脱穀クラッチレバーの操作溝、91はエンジン回転数や警告灯などを備えた表示部、92は操縦者が把持するハンドルである。前記表示部91に、「刈取変速(低)」などの有段変速装置Cの切換状態を表示してもよい。
【0032】
図6に上記コンバインの伝動機構を示す。
93は揺動選別棚、94は唐箕、95は一番移送螺旋、96は二番移送螺旋である。
図7に、上記4条刈りのコンバインとは引継搬送装置68部の構造の異なる5条刈りのコンバインの伝動機構を示す。
【0033】
この構成の場合には、主伝動軸74の中間部からベベルギヤ伝動機構97を介して引継搬送装置68を駆動する構成としており、該引継搬送装置68は、その前部の入力軸98を中心として、その後部を上下動させ、後側に続く供給チェン99へ穀稈を引き継ぐ際に、穀稈の挟持位置を変更して、扱ぎ深さを調節する構成である。前記供給チェン99に引き継がれた穀稈は、補助フィードチェン99aおよびフィードチェン69の始端部へ引き継がれる。前記補助フィードチェン99aは、入力軸70の外側端部からベルト伝動機構101およびギヤ伝動機構102を介して駆動する構成とし、走行速度に同調させる。
【0034】
この構成においても、上記4条刈りのコンバインの実施例と同様の効果が得られる。
図8は、走行速度と刈取前処理部6aの駆動速度との関係、および走行速度と引継搬送装置68の駆動速度との関係を示すグラフであり、有段変速装置Cを高速側に切り換えた状態では、刈取前処理部6aの駆動速度はラインS1をたどり、引継搬送装置68の駆動速度はラインS1よりも緩勾配のラインS2をたどる。また、有段変速装置Cを低速側に切り換えた状態では、刈取前処理部6aの駆動速度と引継搬送装置68の駆動速度とが共にラインS2をたどる。
【0035】
図9は、有段変速装置Cによる変速と副変速機構27による変速とを組み合わせた状態での、走行速度と刈取前処理部6aの駆動速度との関係を示すグラフである。
ラインS3は有段変速装置Cが高速で副変速機構27が低速の状態、ラインS4は有段変速装置Cが低速で副変速機構27が低速の状態、ラインS5は有段変速装置Cが高速で副変速機構27が高速の状態、ラインS6は有段変速装置Cが低速で副変速機構27が高速の状態を示す。この4つのラインS3〜S6は、徐々に勾配が緩くなっており、これら4つのラインを選択できることによって、条件に適した変速操作を行いやすく、また誤操作することが少なくなる。
【0036】
図10に示すように、踏み込み操作によって左右両側のサイドクラッチギヤ31をセンターギヤ30から離脱させると共に駐車ブレーキを入り操作する駐車ブレーキペダル104を設け、該駐車ブレーキペダル104を踏み込み位置でロックするロック部材105を設け、該ロック部材105と主変速レバー19とをワイヤ106で連繋して、主変速レバー19を中立位置(走行停止位置)で左右方向に倒し操作することによって、ロック部材105がロック解除作動するように構成してもよい。そして、駐車ブレーキペダル104の基部と前記有段変速装置Cのシフタ83をワイヤ107で連繋し、駐車ブレーキペダル104の踏み込みによって有段変速装置Cが低速側に切り換わる構成としてもよい。
【0037】
即ち、有段変速装置Cを高速側に切り換えて倒伏穀稈の刈取作業を行ない、畦際に到達して主変速レバー19を中立位置へ戻し操作して走行停止した後、駐車ブレーキペダル104を踏み込んで左右のサイドクラッチ31をセンターギヤ30から離脱させると共に駐車ブレーキを入り作動させ、この状態で主変速レバー19を前進側へ増速操作すれば、静油圧式無段変速装置18が駆動されて刈取装置6が駆動され、引起装置62による引起し途中で抱えていた畦際の植立穀稈を刈り取ることができる。しかしながら、有段変速装置Cが高速側に切り換わったままであると、走行停止状態のまま刈取前処理部6aが高速で駆動されることとなり、刈取前処理部6aに詰まりを生じるおそれがある。そこで、上記のように駐車ブレーキペダル104を踏み込んだ際に有段変速装置Cが低速側に切り換わる構成とすれば、畦際での刈取時に刈取前処理部6aが過度に増速駆動されず、刈取前処理部6aの詰まりを防止することができる。また、主変速レバー19を中立位置において左右方向へ倒し操作し、ロック部材105によるロック状態が解除されて駐車ブレーキペダル104が初期状態に戻ると、有段変速装置Cが高速側に復帰するように構成するとよい。これによって、通常の刈取作業に迅速に復帰することができ、操作性の向上および刈取作業能率の向上を図ることができる。
【0038】
尚、図11に示すように、ミッションの構造を変更してもよい。
即ち、左右のホイルギヤ33,33間にわたって差動ギヤ機構108の左右の差動出力ギヤ109を噛み合わせ、該差動出力ギヤ109と一体のベベルギヤ110,110をデフケース111の内側面に軸支した遊星ベベルギヤ112に噛み合わせ、該デフケース111の外周部に設けた外周ギヤ113に、制御軸114に設けた出力ギヤ115を噛み合わせる。この制御軸114上に、有効径の異なる2つのギヤ116,116を回転自在に設け、該2つのギヤ116,116を択一的に制御軸114と一体化させる直進用クラッチ117および旋回用クラッチ118を設ける。そして、前記2つのギヤ116,116を、センターギヤ30および該センターギヤ30と一体で小径のギヤ119に噛み合わせる。左右のサイドクラッチギヤ31,31は左右のホイルギヤ33,33に噛み合わせる。また、入力軸21に、広幅の出力ギヤ120を軸芯方向摺動自在に設け、該出力ギヤ120の内周部に形成したスプライン部と、入力軸21に形成したスプライン部とが、該出力ギヤ120の摺動方向の一部においてのみ噛み合うように構成する。121は出力ギヤ120を摺動させるシフタであり、該シフタ121を駐車ブレーキペダル104の踏み込み操作に連繋させ、駐車ブレーキペダル104を踏み込んだ際に、シフタ121の回動によって出力ギヤ120が摺動して入力軸21とのスプライン係合が外れるように構成する。即ち、上記のミッション伝動構造では、左右のサイドクラッチギヤ31,31をセンターギヤ30から離脱させても、入力軸21からの回転が下位へ伝わると、差動ギヤ機構108を介して車軸34,34が駆動されてしまい走行停止状態を維持できないが、入力軸21と出力ギヤ120との係合を断つことによって、静油圧式無段変速装置18の出力が車軸34,34側へ伝わらず、走行停止状態を維持できる。副変速ギヤ24は副変速軸23に回転自在に遊嵌しており、入力軸21に固定した出力ギヤ122から副変速軸23に固定した入力ギヤ123に静油圧式無段変速装置18の出力回転が伝わり、副変速軸23の突出端部に取り付けた刈取出力プーリ35が駆動されて、刈取装置6が駆動されるため、走行停止状態のまま畦際の穀稈を刈り取ることができる。
【0039】
上記の構成に加え、図12に示すように、主変速レバー19の操作溝124の前進増速側に、該主変速レバー19の増速操作限界位置を規制する規制体125を設け、該規制体125を、前記駐車ブレーキペダル104の踏み込み操作に連動して操作溝124内に張り出すようにワイヤ126で連繋してもよい。即ち、畦際で走行停止して刈取装置6を駆動する際に、主変速レバー19の増速操作限界位置を規制することによって、静油圧式無段変速装置18の出力回転が過度に増速することを防止し、刈取前処理部6aが高速駆動されて穀稈が詰まる不具合を解消することができる。
【0040】
また、図13に示すように、主変速レバー19の前進側の操作溝124を所定位置でクランク状に屈折させ、この屈折部127に「掻き込み範囲」というような表示を施すとよい。これによって、上述のように畦際で主変速レバー19を増速操作して刈取装置6を駆動する際に、主変速レバー19の適正な増速操作位置を操縦者が視認でき、また、主変速レバー19が屈折部127に当たる感覚で、適正な増速操作位置を判断することができ、操作性が向上する。
【0041】
また、前記刈取テンションクラッチを入り切り操作する刈取クラッチレバーのクラッチ入り操作状態を検出する刈取クラッチレバーセンサと、駐車ブレーキペダル104の踏み込み状態を検出する駐車ブレーキセンサと、主変速レバー19が前進側に操作されたことを検出する変速センサとを設け、これらをコントローラの入力側に接続する。一方、前記刈取テンションクラッチを入り切り操作する電動モータを設け、この電動モータの作動リレーをコントローラの出力側に接続する。
【0042】
この構成により、刈取クラッチレバーセンサによって刈取クラッチが入り操作されていることを検出し、且つ、駐車ブレーキセンサによって駐車ブレーキペダル104が踏み込まれていることを検出している状態で、変速センサによって主変速レバー19が前進側に操作されたことを検出した場合には、前記電動モータが正転して刈取テンションクラッチが接続され、静油圧式無段変速装置18の駆動出力によって刈取装置6が駆動し、この刈取装置6の駆動開始から設定時間経過した時点で、前記電動モータが逆転して、刈取テンションクラッチを切断するように連繋する。また、これに連動して、前記電動モータ84が作動して、有段変速装置Cが自動的に低速側に切り換わる構成とすれば、刈取前処理部6aの過剰な高速駆動が防止され、刈取装置6で穀稈が詰まるような不具合の発生を防止することができる。上記設定時間は、畦際で走行停止した際に引起装置62のラグに係合している植立穀稈を描き込んで刈り取れるだけの時間とし、これ以上の時間にわたって刈取装置6を駆動することはない。これによって、畦際の穀稈を刈り取る際の煩雑な操作から開放され、操作性の向上によって刈取作業の能率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】コンバインの説明用平面図である。
【図2】コンバインの説明用側面図である。
【図3】コンバインの説明用平面図である。
【図4】図3における要部の拡大図である.
【図5】操縦部の説明用平面図である。
【図6】コンバインの伝動機構の説明図である。
【図7】コンバインの伝動機構の説明図である。
【図8】走行速度と刈取前処理部の駆動速度との関係、および走行速度と引継搬送装置の駆動速度との関係を示すグラフである。
【図9】有段変速装置による変速と副変速機構による変速とを組み合わせた状態での走行速度と刈取前処理部の駆動速度との関係を示すグラフである。
【図10】コンバインの操作系の説明図である。
【図11】別構成におけるミッションの説明用展開図である。
【図12】コンバインの操作系の説明図である。
【図13】主変速レバーの操作溝部の説明図である。
【符号の説明】
【0044】
1 車台
2 走行装置
3 脱穀装置
4 穀粒貯留装置
5 操縦部
6 刈取装置
6a 刈取前処理部
14 エンジン
18 静油圧式無段変速装置
19 主変速レバー
34 車軸
55 変速操作スイッチ
62 引起装置
67 掻込搬送装置
68 引継搬送装置
69 フィードチェン
70 入力軸
A 第1伝動分岐部
B 第2伝動分岐部
C 有段変速装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車台(1)の下側に走行装置(2)を設け、車台(1)の上側に脱穀装置(3)と穀粒貯留装置(4)を左右に並べて設け、該穀粒貯留装置(4)の前側に操縦部(5)を設け、前記脱穀装置(3)および操縦部(5)の前側に刈取装置(6)を設け、該刈取装置(6)を、引起装置(62)および掻込搬送装置(67)を有する刈取前処理部(6a)と、前記掻込搬送装置(67)の搬送終端部から刈取穀稈を引き継いで脱穀装置(3)のフィードチェン(69)へ受け渡す引継搬送装置(68)とから構成し、前記車台(1)に設けたエンジン(14)の駆動力を無段階に変速して出力する静油圧式無段変速装置(18)を設け、該静油圧式無段変速装置(18)から出力された駆動力を前記走行装置(2)の車軸(34)に至る伝動経路と刈取装置(6)の入力軸(70)に至る伝動経路とに並列に分岐させて伝動する第1伝動分岐部(A)を設け、前記刈取装置(6)の入力軸(70)に入力された駆動力を引継搬送装置(68)に至る伝動経路と刈取前処理部(6a)に至る伝動経路とに並列に分岐させて伝動する第2伝動分岐部(B)を設け、該第2伝動分岐部(B)から刈取前処理部(6a)に至る伝動経路中に有段変速装置(C)を設け、該有段変速装置(C)を低速側に切り換えた状態では、掻込搬送装置(67)の搬送速度と引継搬送装置(68)の搬送速度とが同等の速度となり、該有段変速装置(C)を高速側に切り換えた状態では、掻込搬送装置(67)の搬送速度が引継搬送装置(68)の搬送速度よりも高速となる速度関係に設定したことを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
前記有段変速装置(C)の変速操作スイッチ(55)を、静油圧式無段変速装置(18)を変速操作する主変速レバー(19)に設けたことを特徴とする請求項1記載のコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−178100(P2009−178100A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20784(P2008−20784)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】