説明

コンバイン

【課題】走行用および刈取用の静油圧式無段変速装置の変速制御によって、圃場への進入時における穀稈の刈取を円滑に行えるものとする。
【解決手段】変速レバー(70)の変速操作域の中間位置に所定幅の中立域(T)を設定し、操作位置検出装置(71)で検出される変速レバー(70)の変速操作位置が中立域(T)から外れた場合に、該変速レバー(70)の変速操作位置に応じて走行装置駆動用の第1静油圧式無段変速装置(20)を自動的に変速作動させ、走行速度検出装置(73)で検出される走行速度に同調させて刈取搬送装置駆動用の第2静油圧式無段変速装置(21)を自動的に変速作動させ、変速レバー(70)が中立域(T)内に操作されているにも拘わらず、走行速度検出装置(73)によって走行状態が検出された場合に、第2静油圧式無段変速装置(21)の出力を自動的に開始させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンバインに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、下記特許文献1に示すとおり、走行装置の上側に備えた脱穀装置と、この脱穀装置の前側に備えた刈取装置と、この刈取装置で刈り取った穀稈を脱穀装置に供給する供給搬送装置と、エンジンの出力を無段階に変速して走行装置に伝達する走行用静油圧式無段変速装置と、エンジンの出力を無段階に変速して刈取装置に伝達する刈取用静油圧式無段変速装置を有したコンバインが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−113131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1記載の発明は、変速レバーの操作位置を操作位置検出装置により検出し、この検出結果に基づいて走行用静油圧式無段変速装置と刈取用静油圧式無段変速装置を変速制御する構成である。そして、変速レバーの中立域を設定するにあたり、走行開始時に刈取装置を確実に駆動させるために、走行用静油圧式無段変速装置の変速制御用の中立域よりも刈取用静油圧式無段変速装置の変速制御用の中立域を狭く設定している。
【0005】
このため、これら2つの静油圧式無段変速装置の中立域の設定が煩雑となり、この設定に狂いが生じた場合、走行を開始したにも拘わらず刈取装置が駆動されず、植立穀稈を押し倒してしまう問題が生じる。
【0006】
また、例えば、コンバインを畦上から圃場へ下らせながら、この畦際に植立する穀稈から刈り始める場合には、コンバインの自重による急速な走行を避けるために、操縦者は変速レバーを中立域に減速操作する。この際、変速レバーが刈取用静油圧式無段変速装置の変速制御用の中立域内に操作されると、刈取用静油圧式無段変速装置の出力が停止するため、この畦際の穀稈を押し倒す問題が生じる。
【0007】
この発明は、走行用静油圧式無段変速装置および刈取用静油圧式無段変速装置の変速制御によって、圃場への進入時における穀稈の刈取を円滑に行えるものとすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、上述の課題を解決するために、次の技術的手段を講じる。
即ち、請求項1に記載の発明は、走行装置(3)の上側に備えた脱穀装置(2)と、該脱穀装置(2)の前側に備えた刈取装置(4)と、該刈取装置(4)で刈り取った穀稈を脱穀装置(2)に供給する供給搬送装置(12)と、エンジン(22)の出力を無段階に変速して前記走行装置(3)に伝達する第1静油圧式無段変速装置(20)と、エンジン(22)の出力を無段階に変速して前記刈取装置(4)に伝達する第2静油圧式無段変速装置(21)を有するコンバインにおいて、前記第1静油圧式無段変速装置(20)を変速操作する変速レバー(70)の基部に、該変速レバー(70)の変速操作位置を検出する操作位置検出装置(71)を設け、該変速レバー(70)の変速操作域の中間位置には所定幅の中立域(T)を設定し、前記操作位置検出装置(71)で検出される変速レバー(70)の変速操作位置が前記中立域(T)から外れた場合に、該変速レバー(70)の変速操作位置に応じて第1静油圧式無段変速装置(20)を自動的に変速作動させ、走行速度検出装置(73)で検出される走行速度に同調させて第2静油圧式無段変速装置(21)を自動的に変速作動させ、前記変速レバー(70)が中立域(T)内に操作されているにも拘わらず、前記走行速度検出装置(73)によって走行状態が検出された場合に、前記第2静油圧式無段変速装置(21)の出力を自動的に開始させる制御装置(74)を設けたことを特徴とするコンバインとした。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記変速レバー(70)が、中立域(T)内における該中立域(T)の中心位置よりも後進側に偏倚した位置(T’)に操作されている状態で、前記走行速度検出装置(73)によって走行状態が所定時間以上連続して検出された場合に、前記第2静油圧式無段変速装置(21)の出力が自動的に開始される構成としたことを特徴とする請求項1に記載のコンバインとした。
【0010】
請求項3に記載の発明は、前記脱穀装置(2)に備えた扱胴(34)と供給搬送装置(12)にエンジン(22)の出力を無段変速装置を介さずに伝達すると共に、該供給搬送装置(12)の始端部の内側の部位に設けた補助供給搬送装置(13)に前記第2静油圧式無段変速装置(21)の出力を伝達する構成としたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のコンバインとした。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によると、例えば畦から圃場へ下り走行させながら進入する際に、変速レバー(70)を中立域(T)内に操作して第1静油圧式無段変速装置(20)の出力を停止させていても、機体の自重等によってコンバインが下り走行する場合には、第2静油圧式無段変速装置(21)の出力が自動的に開始されて刈取装置(4)が駆動するため、畦際の穀稈を円滑に刈り取ることができ、刈取作業の能率を高めることができる。
【0012】
請求項2に記載の発明によると、上記請求項1に記載の発明の効果を奏するうえで、変速レバー(70)が、中立域(T)内におけるこの中立域(T)の中心位置よりも後進側に偏倚した位置(T’)に操作されていることを条件とすることで、圃場進入時における刈取装置(4)の不用意な駆動を防止でき、操作性を向上させることができる。
【0013】
請求項3に記載の発明によると、上記請求項1または請求項2に記載の発明の効果を奏するうえに、刈取装置(4)と共に供給搬送装置(12)の始端部の内側の部位に設けた補助供給搬送装置(13)を走行速度と同調して駆動することで、刈取装置(4)から供給搬送装置(12)へ刈取穀稈を円滑に引継ぐことができ、刈取作業の能率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】コンバインの側面図
【図2】コンバインの平面図
【図3】伝動機構図
【図4】操縦部の斜視図
【図5】静油圧式無段変速装置を変速させる作動機構の正面図
【図6】静油圧式無段変速装置を変速させる作動機構の側面図
【図7】静油圧式無段変速装置を変速させる作動機構の一部の説明図
【図8】制御装置部分のブロック回路図
【図9】変速レバーの操作位置と走行速度の関係を示すグラフ
【図10】走行速度と刈取装置の駆動速度の関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施例を図面により説明する。
図1、図2に示すとおり、コンバインの機体は、機体フレーム1の下側に走行装置3を設け、機体フレーム1の上側には脱穀装置2とグレンタンク5を左右に並べて設け、グレンタンク5の前側に操縦部6を囲うキャビンCを設け、このキャビンCと脱穀装置2の前側に刈取装置4を設けた構成とする。前記グレンタンク5には、このグレンタンク5内に貯留された穀粒を排出する排出装置7を備える。
【0016】
前記走行装置3は、機体フレーム1の下部に備えた左右の転輪フレーム3aに多数の転輪3bを回転自在に軸支し、これら転輪3bと前端部の駆動輪3cにわたって無端状のクローラ3dを巻き掛けて構成する。前記駆動輪3cは、機体フレーム1の前端部に取り付けた走行用のミッションケース27から駆動される構成とし、このミッションケース27の上部に、エンジン22の出力を無段階に変速してミッションケース27に伝達する走行用静油圧式無段変速装置(第1静油圧式無段変速装置)20を設ける。
【0017】
前記刈取装置4には、前側から順に、分草体10と、引起装置10Aと、刈刃11と、掻込搬送装置(図示省略)と、引継搬送装置10Bを備える。
前記脱穀装置2の上部には、扱胴34を内装する脱穀室を設け、この脱穀室の外側部に、穀稈の穂先側を脱穀室内に供給する供給搬送装置12を設ける。
【0018】
この供給搬送装置12は、無端状のフィードチェン15と、このフィードチェン15の上側に対向して配置した挟扼杆15Bとで構成する。この挟扼杆15Bは、脱穀装置2の上部を覆う上部カバー16に対して上下動自在に取り付け、フィードチェン15側に弾発付勢する。これにより、フィードチェン15と挟扼杆15Bとの間で穀稈を挟持して搬送する。尚、フィードチェン15には、エンジン22の出力を無段変速装置を介さずに伝達する構成とし、供給搬送装置12による穀稈の搬送速度を一定速度とする。これにより、穀稈の搬送速度と扱胴34の回転速度の関係が一定に維持され、脱穀作業を安定して行なうことができる。
【0019】
そして、図2に示すとおり、前記供給搬送装置12の始端部の機体内側の部位には、前記引継搬送装置10Bから刈取穀稈を引継いで供給搬送装置12に受け渡す補助供給搬送装置13を設ける。この補助供給搬送装置13は、引継搬送装置10Bから穀稈を引き継いでフィードチェン15へ受け渡す補助フィードチェン17を備える。
【0020】
次に、図3に示すコンバインの伝動機構について説明する。
エンジン22の出力軸22Aに取り付けた走行用出力プーリー25Aと、ミッションケース27の上部に備える走行用静油圧式無段変速装置20の入力軸20Aに取り付けた入力プーリー26の間に、伝動ベルト26Aを巻き掛ける。
【0021】
この走行用静油圧式無段変速装置20は、入力軸20Aの回転によって作動油を吐き出すプランジャー式のポンプと、この作動油の流入によって回転出力するプランジャー式のモーターから成る。
【0022】
前記エンジン22の出力軸22Aに取り付けた出力プーリー25Bと、左右方向のギヤケース52に軸受けした中間軸29の先端の中間プーリー28の間に、テンションローラ44を備えた伝動ベルト44Aを巻き掛ける。このテンションローラ44を操作して伝動ベルト44Aを緊張させることで、出力プーリー25Bから中間プーリー28へ駆動力が伝達される状態となる。即ち、このテンションローラ44と伝動ベルト44Aによって、脱穀装置2を駆動すると共に刈取装置4を駆動可能な状態とするクラッチKが形成される。
【0023】
前記中間軸29の基部に取り付けた中間歯車30Aと、ギヤケース52の内部に軸受けされた中間伝動軸31の中間部の中間歯車30を噛み合わせ、この中間伝動軸31の一端部に取り付けた傘歯車32Aと、脱穀伝動軸33の一端部に取り付けた傘歯車32を噛み合わせる。この脱穀伝動軸33の他端部に取り付けた脱穀用中間プーリー33Aと、扱胴34を支持する扱胴軸34Aへの伝動機構の入力軸34Bに取り付けた扱胴伝達用プーリー33Bの間に、伝動ベルト33Cを巻き掛ける。尚、この伝動ベルト33Cの中間部から処理胴35へ駆動力を伝達する構成とする。
【0024】
前記中間伝動軸31の他端部に取り付けた刈取用中間歯車36と、前後方向のギヤケース50に軸受けされた中間出力軸41の基部の中間歯車36Aを噛み合わせる。この中間出力軸41の先端に取り付けた選別部駆動用プーリー41Aと、唐箕42の入力軸42Aに取り付けた入力プーリー42Bの間に伝動ベルト42Cを巻き掛ける。前記中間出力軸41の先端部に取り付けた出力プーリー41Bと、排塵伝動ケース41Cの入力軸41Dに取り付けた入力プーリー41Eの間に、伝動ベルト41Fを巻き掛ける。前記排塵伝動ケース41C内において、入力軸41Dの基部から排塵ファン41Gを連動し、更に出力軸41Hを連動して駆動する伝動機構41Iを設ける。前記出力軸41Hの先端部には駆動スプロケット43を取り付け、この駆動スプロケット43と、脱穀装置2の前側の部位に配置した従動ローラ(図示省略)の間に、前記フィードチェン15を巻き掛ける。尚、前記伝動ベルト41Fによって、1番移送螺旋42Cと、第2唐箕42Dと、2番移送螺旋42Eと、揺動選別棚42Fを、連動して駆動する構成とする。
【0025】
前記ギヤケース50の機体内側(操縦部6側)の部位に、刈取搬送用静油圧式無段変速装置(第2静油圧式無段変速装置)21を取り付ける。
この刈取搬送用静油圧式無段変速装置21は、入力軸37の回転によって作動油を吐き出すプランジャー式のポンプと、この作動油の流入によって回転出力するプランジャー式のモーターから成る。この刈取搬送用静油圧式無段変速装置21の入力軸37に取り付けた入力歯車53を、前記中間出力軸41の基部の中間歯車36Aに噛み合わせる。この刈取搬送用静油圧式無段変速装置21の刈取出力軸38は、ギヤケース50内に軸受けした中間出力軸54にスプラインの嵌め合いによって連結する。この中間出力軸54に取り付けた中間出力歯車55に、ギヤケース50に軸受けした出力軸39の基部の中間従動歯車56を噛み合わせる。この出力軸39の先端部に取り付けた出力プーリ45と、刈取装置4の入力軸46Aの外側端部に取り付けた刈取入力プーリー46の間に、伝動ベルト47を掛け回す。
【0026】
前記中間出力軸54に取り付けた中間出力歯車55を、中間軸57Aの一端部に取り付けた有効直径の大きい歯車57に噛み合わせる。この中間軸57Aの他端部に取り付けた有効直系の小さい歯車61を、ギヤケース50に軸受けした出力軸62Aの基部の歯車62に噛み合わせる。この出力軸62Aの先端部には駆動スプロケット19を取り付け、この駆動スプロケット19と前側の従動ローラ(図示省略)の間に、補助フィードチェン17を巻き掛ける。
【0027】
上述のとおり、刈取搬送用静油圧式無段変速装置21の入力軸37は、クラッチKの伝動下手側から駆動されるため、クラッチKが接続されると、脱穀装置2とフィードチェン15が駆動すると共に、刈取搬送用静油圧式無段変速装置21の入力軸37が駆動され、この刈取搬送用静油圧式無段変速装置21の刈取出力軸38から変速回転を出力可能な状態となる。これにより、脱穀装置2とフィードチェン15が駆動されている状態でのみ、刈取装置4と補助フィードチェン17を駆動することができる。
【0028】
前記左右方向の伝動ケース52の供給搬送装置12側(操縦部6とは反対の側)の端部に、前後方向の伝動ケース50を連結した構成としている。
次に、図4に示す操縦部6の構成について説明する。
【0029】
キャビンC内に設ける操縦部6は、機体フレーム1上に設けたステップ11の後部上方に座席10を設け、この座席10の前方に、前側操作パネル107を設け、座席10の左側には側部操作パネル111を設ける。
【0030】
前記前側操作パネル107には、キャビンCの乗り降り口側から順に、機体の走行方向と刈取装置4の高さを調節する操向レバー112及びこの操向レバー112の後側に配置するアームレスト113と、エンジン22を始動するメインキースイッチ113及びエンジン22を緊急停止させるエンジン停止スイッチ116と、エンジン22の回転速度やグレンタンク5内の穀粒貯留量を表示する液晶表示部105と、刈り高さ制御や車速制御等の機能を調節する自動制御系のスイッチや走行用静油圧式無段変速装置20による最高車速を設定する車速設定ダイヤル110等を傾斜面に集中配置した集中操作パネル108を備える。
【0031】
前記側部操作パネル111には、走行用静油圧式無段変速装置20を変速操作する変速レバー70を前後方向に傾倒操作自在に設ける。
しかして、走行用静油圧式無段変速装置20は、変速レバー70の傾倒操作位置に応じて変速作動する構成とし、刈取搬送用静油圧式無段変速装置21は、コンバインの走行速度に応じて変速作動する構成とする。
【0032】
即ち、図5〜図7に、刈取搬送用静油圧式無段変速装置21のトラニオン軸80を回動調節する作動機構81を示す。尚、走行用静油圧式無段変速装置20のトラニオン軸を回動調節する作動機構についても同じ構成とする。
【0033】
刈取搬送用静油圧式無段変速装置21の本体に対して、ステー82を介してモーター83を取り付け、このモーター83の出力軸84には、ブレーキライニング85を介して駆動するピニオンギヤ86を遊嵌状態で取り付ける。このピニオンギヤ86には、トラニオン軸80に取り付けたセクターギヤ87を噛み合わせる。
【0034】
前記変速レバー70を傾倒操作すると、この変速レバー70の操作位置が操作位置検出装置71で検出されてモーター83に作動出力がなされ、モーター83の出力軸84が回転し、ブレーキライニング85の摩擦力によりピニオンギヤ86を回転させ、セクターギヤ87の回動によってトラニオン軸80を所定量回動させ、刈取搬送用静油圧式無段変速装置21の刈取出力軸38の出力回転速度が変速される。
【0035】
前記セクターギヤ87の回動範囲の両端部には、中立位置ストッパ90と最大出力位置ストッパ91を設ける。前記出力軸84には、出力軸84とピニオンギヤ86との間に設けたブレーキライニング85を圧接するバネ92を設ける。
【0036】
前記セクターギヤ87の近傍には、このセクターギヤ87の回動位置を検出するポテンショメータ95を設ける。前記モーター83を覆うカバー96を、モーター83と共にステー82に締結して固定する。
【0037】
そして、図8に示すとおり、制御装置74の入力側に、ミッションケース27内の伝動軸の回転速度から走行速度を検出する光学式または電磁式の走行速度検出装置73と、前記操作位置検出装置71と、刈取搬送用静油圧式無段変速装置21の刈取出力軸38の回転速度(刈取装置4の駆動速度)を検出する刈取回転センサ76と、前記ポテンショメータ95と、倒伏状態選択スイッチ101と、標準状態選択スイッチ102と、操縦部6のステップ11の右前部に設けた掻込ペダル(図示省略)の踏み込み位置を検出するポジションセンサ103と、前記車速設定ダイヤル110と、メインキースイッチ113を接続する。また、制御装置74の出力側には、前記刈取搬送用静油圧式無段変速装置21のトラニオン軸80を回動調節するモーター83と、走行用静油圧式無段変速装置20のトラニオン軸(図示省略)を回動調節するモーター83Bを接続する。
【0038】
図9に、変速レバー70の操作位置に対する走行速度の変速状態を示す。横軸は変速レバー70の操作位置(角度)を示し、符号Fが前進側、符号Rが後進側の操作位置を示す。縦軸は走行速度Vを示す。変速レバー70の前進側の最高速操作位置と後進側の最高速操作位置の間に形成される変速操作域の中間位置に、所定幅の中立域Tを設定し、この設定状態を制御装置74内のメモリに記憶させる。
【0039】
これにより、操作位置検出手段71で検出される変速レバー70の変速操作位置が中立域Tから外れた場合に、制御装置74からモーター83Bへ出力がなされ、走行用静油圧式無段変速装置20のトラニオン軸を自動的に回動調節し、走行用静油圧式無段変速装置20の出力軸が駆動され、走行が開始される。変速レバー70を更に増速操作すると、操作位置検出手段71の検出結果に応じて走行用静油圧式無段変速装置20の出力軸の回転が増速し、走行速度が増速する。尚、この走行速度の上限は、車速設定ダイヤル110で設定した速度に規制される。尚、変速レバー70を中立域Tから前進側へ増速操作した場合の単位操作角度あたりの走行速度の増速量に比べて、変速レバー70を前進走行状態から減速操作した場合の単位操作角度あたりの走行速度の減速量のほうが大きくなる構成とする。これによって、迅速な減速操作が可能となり、安全性が向上する。
【0040】
そして、変速レバー70が中立域Tの中心位置よりも後進側の最高速操作位置寄りに偏倚した位置T’に操作されているにも拘わらず、走行速度検出装置73によって速度パルス(ミッションケース27内の伝動軸が回転しているときに検出されるパルス。単位時間における速度パルスの数によって走行速度が検出される。)が所定時間以上連続して検出された場合に、制御装置74からモーター83へ出力がなされ、刈取搬送用静油圧式無段変速装置21のトラニオン軸80が回動し、この刈取搬送用静油圧式無段変速装置21の刈取出力軸38が回転を開始する設定とする。図9における符号Nで示す範囲が、刈取搬送用静油圧式無段変速装置21の刈取出力軸38が停止状態を維持する範囲であり、符号Sで示す範囲が、刈取搬送用静油圧式無段変速装置21の刈取出力軸38が回転する範囲である。
【0041】
また、図10に示すとおり、変速レバー70の操作位置が中立域Tを出た後の刈取搬送用静油圧式無段変速装置21の変速制御においては、走行速度Vに対して所定の比率で刈取搬送速度Qを増速する標準作業ラインAと、この標準作業ラインAよりも高い比率で刈取搬送速度Qを増速する倒伏作業ラインBを設定する。この標準作業ラインAと倒伏作業ラインBの選択は、変速レバー70の把持部に設けたスイッチ(図示省略)の操作によって行なわれる。尚、変速レバー70の操作位置が中立域Tを出た時点で、刈取搬送用静油圧式無段変速装置21の出力回転速度を所定回転速度まで一気に増速させる構成とすれば、刈取装置4の起動のレスポンスが向上する。また、変速レバー70の把持部に設けたスイッチ(図示省略)の操作によって、刈取搬送用静油圧式無段変速装置21の出力回転速度を、上記標準作業ラインAまたは倒伏作業ラインB上から外れた任意の速度に変更できる構成とすれば、圃場の局部的な倒伏状態等に即座に対応することができる。
【0042】
また、変速レバー70が中立域T内に操作され、且つ、走行速度検出装置73によって走行停止状態が検出された場合には、制御装置74からモーター83への出力によって、刈取搬送用静油圧式無段変速装置21の出力回転を停止させる構成とする。
【0043】
また、前記メインキースイッチ113をエンジン始動側に操作することよって、制御装置74からモーター83へ出力がなされ、刈取搬送用静油圧式無段変速装置21のトラニオン軸80が自動的に減速側へ回動し、中立位置へ復帰する構成とする。これにより、刈取搬送用静油圧式無段変速装置21が出力状態のまま、エンジン22が異常停止した場合でも、このエンジン22の再始動時に刈取装置4が急に高速で駆動されることがなくなり、安全性を向上させることができる。
【0044】
従来より、畦から圃場への進入時に、下り坂を下る場合、コンバインの自重によって機体が自然に坂を下ったり、走行速度が早くなることがあるため、操縦者は、これを予期して、下り坂で変速レバー70を中立域Tに操作することがある。しかし、変速レバー70を中立域Tに操作したまま、圃場に進入すると、刈取装置4が停止しているために、穀稈を押し倒してしまうことがある。
【0045】
また、機体の前進走行速度が過剰に速くなったとき、操縦者は、走行速度を減速させる必要を察知して、変速レバー70を中立域Tの中心位置よりも後進側の位置T’まで操作することがある。
【0046】
これに対し、上述の構成によると、変速レバー70が中立域Tの中心位置よりも後進側の位置T’に操作され、走行速度検出装置73によって速度パルスが所定時間以上連続して検出されると、刈取搬送用静油圧式無段変速装置21の出力を自動的に開始し、刈取装置4が駆動するので、穀稈の押し倒しを防止することができる。
【0047】
また、機体を後進させるときは、変速レバー70を、位置T’を越えて更に後進側の位置へ操作するが、この状態では、制御装置74からモーター83へは出力されず、刈取搬送用静油圧式無段変速装置21は停止状態を維持し、刈取装置4は駆動しない。これにより、圃場進入時における刈取装置4の不用意な駆動を防止でき、操作性を向上させることができる。
【0048】
また、前記中立域Tは、走行用静油圧式無段変速装置20の変速制御において設定すればよく、刈取搬送用静油圧式無段変速装置21の変速制御において中立域の設定は不要となるので、制御を簡素化できる。
【0049】
尚、上記掻込ペダルを踏み込み操作すると、この踏み込み位置がポジションセンサ103で検出され、制御装置74からモーター83へ出力されて、刈取搬送用静油圧式無段変速装置21が出力を開始する構成とする。即ち、圃場の一辺を刈り終えて畦際に至り、変速レバー70を中立域T内に操作して走行を停止した状態では、引起装置10Aに穀稈を係合したままの状態で刈取装置4が停止している。この状態で、掻込ペダルを踏み込み操作することによって刈取装置4を駆動し、引起装置10Aで穀稈を引き起こしながら掻き込み、この畦際の穀稈を刈り取ることができる。また、この刈取搬送用静油圧式無段変速装置21の出力速度(刈取出力軸38の回転速度)は、掻込ペダルの踏み込み位置に応じて変速する構成としているので、刈取装置4の駆動速度を、操縦者の意図した速度に調節でき、畦際の穀稈の刈取操作を容易化することができる。
【0050】
また、上記のポジションセンサ103に代えて、ON/OFF式のスイッチを設け、掻込ペダルを踏み込んだ際にこのスイッチがONし、制御装置74からモーター83へ所定時間にわたり出力される構成としてもよい。これにより、掻込ペダルを踏み込むことで、刈取搬送用静油圧式無段変速装置21の出力速度が徐々に増速し、畦際の穀稈を刈り取ることができる。
【0051】
また、上記走行用静油圧式無段変速装置20および刈取搬送用静油圧式無段変速装置21に代えて、走行装置3を無段変速可能な走行駆動用の電動モーターで駆動し、刈取装置4および補助供給搬送装置13を無段変速可能な刈取駆動用の電動モーターで駆動する構成とし、上述の各制御を行なわせる構成としてもよい。即ち、制御装置74の出力側に、前記モーター83およびモーター83Bに代えて、上記走行駆動用の電動モーターと刈取駆動用の電動モーターを接続する。これらの各電動モーターへ電力を供給するために、エンジン22の駆動力で発電機(図示省略)を駆動し、発電された電力をバッテリーに充電するシステムを設ける。
【0052】
これにより、変速レバー70が中立域Tから前進側へ増速操作されると、この操作位置に応じて制御装置74から走行駆動用の電動モーターへ出力がなされ、走行装置3が増速駆動する。
【0053】
また、変速レバー70が中立域Tの中心位置よりも後進側の最高速操作位置寄りに偏倚した位置T’に操作されているにも拘わらず、走行速度検出装置73によって速度パルスが検出された場合に、制御装置74から刈取駆動用の電動モーターに駆動出力がなされて、刈取装置4および補助供給搬送装置13が駆動を開始する。これにより、圃場への進入時における穀稈の押し倒しを防止することができる。
【0054】
また、掻込ペダルを踏み込み操作すると、この踏み込み位置がポジションセンサ103で検出され、制御装置74から刈取駆動用の電動モーターへ出力されて、刈取装置4および補助供給搬送装置13が、掻込ペダルの踏み込み操作位置に応じた速度で駆動する。これにより、畦際の穀稈の刈取操作を容易化することができる。
【0055】
また、上記ポジションセンサ103に代えて、掻込ペダルの踏み込みを検出するON/OFF式のスイッチを設け、掻込ペダルを踏み込んだ際にこのスイッチがONし、制御装置74から刈取駆動用の電動モーターへ所定時間にわたり出力される構成としてもよい。これにより、掻込ペダルを踏み込むことで、刈取装置4および補助供給搬送装置13の駆動速度が徐々に増速し、畦際の穀稈を刈り取ることができる。
【0056】
また、変速レバー70が中立域Tから前進側に外れた時点で、刈取駆動用の電動モーターを所定速度まで一気に増速し、以後、走行速度検出装置73で検出される走行速度に応じて刈取駆動用の電動モーターを変速駆動する。これにより、刈取装置4および補助供給搬送装置13の駆動開始のレスポンスを向上させることができる。
【0057】
また、変速レバー70の把持部に備えたスイッチの操作によって、刈取駆動用の電動モーターの駆動速度を任意に変速操作できる構成とすれば、圃場の局部的な倒伏状態等に即座に対応することができる。
【0058】
また、変速レバー70が中立域T内に操作され、且つ、走行速度検出装置73による速度パルスの検出が途絶えた場合に、刈取駆動用の電動モーターを停止させる構成とする。
また、変速レバー70の操作による走行駆動用の電動モーターの変速制御において、変速レバー70を中立域Tから前進側へ増速操作した場合の単位操作角度あたりの走行速度の増速量に比べて、変速レバー70を前進走行状態から減速操作した場合の単位操作角度あたりの走行速度の減速量のほうが大きくなる構成とする。これによって、迅速な減速操作が可能となり、安全性が向上する。
【符号の説明】
【0059】
2 脱穀装置
3 走行装置
4 刈取装置
12 供給搬送装置
13 補助供給搬送装置
20 走行用静油圧式無段変速装置(第1静油圧式無段変速装置)
21 刈取搬送用静油圧式無段変速装置(第2静油圧式無段変速装置)
22 エンジン
34 扱胴
70 変速レバー
71 操作位置検出装置
73 走行速度検出装置
74 制御装置
T 中立域
T’ 中立域Tの中心位置よりも後進側の最高速操作位置寄りに偏倚した位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行装置(3)の上側に備えた脱穀装置(2)と、該脱穀装置(2)の前側に備えた刈取装置(4)と、該刈取装置(4)で刈り取った穀稈を脱穀装置(2)に供給する供給搬送装置(12)と、エンジン(22)の出力を無段階に変速して前記走行装置(3)に伝達する第1静油圧式無段変速装置(20)と、エンジン(22)の出力を無段階に変速して前記刈取装置(4)に伝達する第2静油圧式無段変速装置(21)を有するコンバインにおいて、前記第1静油圧式無段変速装置(20)を変速操作する変速レバー(70)の基部に、該変速レバー(70)の変速操作位置を検出する操作位置検出装置(71)を設け、該変速レバー(70)の変速操作域の中間位置には所定幅の中立域(T)を設定し、前記操作位置検出装置(71)で検出される変速レバー(70)の変速操作位置が前記中立域(T)から外れた場合に、該変速レバー(70)の変速操作位置に応じて第1静油圧式無段変速装置(20)を自動的に変速作動させ、走行速度検出装置(73)で検出される走行速度に同調させて第2静油圧式無段変速装置(21)を自動的に変速作動させ、前記変速レバー(70)が中立域(T)内に操作されているにも拘わらず、前記走行速度検出装置(73)によって走行状態が検出された場合に、前記第2静油圧式無段変速装置(21)の出力を自動的に開始させる制御装置(74)を設けたことを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
前記変速レバー(70)が、中立域(T)内における該中立域(T)の中心位置よりも後進側に偏倚した位置(T’)に操作されている状態で、前記走行速度検出装置(73)によって走行状態が所定時間以上連続して検出された場合に、前記第2静油圧式無段変速装置(21)の出力が自動的に開始される構成としたことを特徴とする請求項1に記載のコンバイン。
【請求項3】
前記脱穀装置(2)に備えた扱胴(34)と供給搬送装置(12)にエンジン(22)の出力を無段変速装置を介さずに伝達すると共に、該供給搬送装置(12)の始端部の内側の部位に設けた補助供給搬送装置(13)に前記第2静油圧式無段変速装置(21)の出力を伝達する構成としたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のコンバイン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−10628(P2012−10628A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148655(P2010−148655)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】