スパッタリングターゲット及びそれを用いた磁気メモリの製造方法
【課題】磁気トンネル接合素子のMR比を向上させることが可能なスパッタリングターゲット、及びそれを用いた磁気メモリの製造方法を提供する。
【解決手段】MgOを主成分とし、厚さが3mm以下であるターゲット本体10を備えることを特徴とするスパッタリングターゲット、及びそれを用いた、MR比を向上させることができる磁気メモリの製造方法である。
【解決手段】MgOを主成分とし、厚さが3mm以下であるターゲット本体10を備えることを特徴とするスパッタリングターゲット、及びそれを用いた、MR比を向上させることができる磁気メモリの製造方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、MgOを主成分とするスパッタリングターゲット及びそれを用いた磁気メモリの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル磁気抵抗(TMR)効果の歴史は、1975年のJulliereらの報告から始まり、1995年に宮崎らによる室温で20%の磁気抵抗比の発明を経て、2007年のCoFeB/MgO/CoFeB接合における600%の磁気抵抗比の発現に至っている。近年、同技術を用いた製品開発が加速し、HDDの磁気ヘッドの分野においてMgOトンネル障壁層を用いたTMR効果が採用され、市場に広がっている。磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)の分野でもMgOトンネル障壁層を用いたスピン注入型TMR素子の研究開発が精力的に行われ、読出し抵抗比向上、書込み電流低減の両方を兼ね備えた技術として受け入れられている。
【0003】
一方、MRAMにおけるメモリ開発は、Siデバイスが牽引してきた微細化による低消費電力化と低コスト化のトレンドを伴わなければならず、微細化と低消費電力化の観点から、MgOトンネル障壁層の低抵抗化は必要条件となっている。例えば、1Gbits級の汎用メモリを目指すと、MgOトンネル障壁層の素子抵抗(RA)は、10Ωμm2前後となり、MgOトンネル障壁層の膜厚は、1nm程度となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Y.M.Lee,J.Hayakawa,S.Ikeda,F.Matsukura,and H.Ohno:Appl.Phys.Lett.,89,043506(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、MgOトンネル障壁層の膜厚を1nmとすると、MgOトンネル障壁層の結晶核を安定させる核形成エネルギーΔGの絶対値が小さくなり、MgO(001)結晶化が阻害される。その結果としてMR比の低下が顕在化しはじめる。MR比が低下すると読出し抵抗比が低下し、さらに書込み電流が増加するため大きな課題として認知さている。
【0006】
そこで、本実施形態は、磁気トンネル接合(MTJ)素子のMR比を向上させることが可能なスパッタリングターゲット及びそれを用いた磁気メモリの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態は、MgOを主成分とし、厚さが3mm以下であるターゲット本体を備えることを特徴とするスパッタリングターゲットである。
【0008】
また、本実施形態は、前記スパッタリングターゲットを用いた磁気メモリの製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1実施形態に係るスパッタリングターゲットの正面断面図である。
【図2】第2実施形態に係るスパッタリングターゲットの正面断面図である。
【図3】第3実施形態に係るスパッタリングターゲットの正面断面図である。
【図4】ターゲット本体(MgO)の厚さに対する平均シース電位(Vdc)を示すグラフである。
【図5】ターゲット本体(MgO)とバッキングプレートの合計厚さに対するMR比を示すグラフである。
【図6】第1実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いて作製した垂直磁化MTJ素子の構造を示す概念図である。
【図7】第1及び第2実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いて作製した垂直TMR膜におけるCIPT測定の結果を示すグラフである。
【図8】第1及び第2実施形態に係るスパッタリングターゲットをそれぞれスパッタリング成膜したMgO膜中の不純物元素をICP―MS分析によって評価した結果を示す表である。
【図9】第3実施形態及び比較実施形態に係るスパッタリングターゲットに係るスパッタリングターゲットを用いて作製した垂直TMR膜におけるCIPT測定の結果を示すグラフである。
【図10】第1実施形態に係るスパッタリングターゲットがスパッタ装置に装着された状態を示す正面断面図である。
【図11】第4実施形態に係るスパッタリングターゲットがスパッタ装置に装着された状態を示す正面断面図である。
【図12】第5実施形態に係るスパッタリングターゲットがスパッタ装置に装着された状態を示す正面断面図である。
【図13】第6実施形態に係るスパッタリングターゲットがスパッタ装置に装着された状態を示す正面断面図である。
【図14】第7実施形態に係るスパッタリングターゲットがスパッタ装置に装着された状態を示す正面断面図である。
【図15】第8実施形態に係るMRAMの構成を示す回路図である。
【図16】第8実施形態に係るMRAMの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、第1乃至第3実施形態に係るスパッタリングターゲットついて、図1乃至3に基づいて説明する。図1乃至3は、スパッタリングターゲットの正面断面図、すなわちスパッタリングされる面に対して垂直な面を示している。第1実施形態に係るスパッタリングターゲットは、図1に示すように、円盤状のターゲット本体10と、ターゲット本体10と同径の円盤状に形成され、ターゲット本体10の底面に中心を重ねた状態で接合されたバッキングプレート12とを備えている。第1実施形態において、それぞれの外径t1、t2は、180mmであり、ターゲット本体10の厚さh1は、1.5mm、バッキングプレート12の厚さh2は、2.5mmである。なお、本実施形態では、ターゲット本体10の外径t1が、バッキングプレート12の外径t2よりも大きくても良い。
【0011】
第2実施形態に係るスパッタリングターゲットは、図2に示すようにバッキングプレート12の外径が、ターゲット本体10よりも大きく形成されている点で第1実施形態と異なり、第2実施形態において、ターゲット本体10の外径は、164mm、厚さは、2mm、バッキングプレートの外径は、180mm、厚さは、4mmである。
【0012】
第3実施形態に係るスパッタリングターゲットは、図3に示すように、ターゲット本体10は、その外径は164mm、厚さは1mmであり、バッキングプレート12は、外径180mm×厚さ4mmの円盤状の下部12Aと、下部12Aの上面に中心を重ねた状態で形成され、外径164mm×厚さ3mmの円盤状の上部12Bとから構成されている点で第1及び第2実施形態と異なる。
【0013】
第1乃至第3実施形態に係るスパッタリングターゲットにおいて、ターゲット本体10は、MgOを主成分とし、そのMgOは、MgO粉体を焼結法により高圧下で焼き固め、所望の形状に成型することによって得ることができる。このMgO粉体は、海水と生石灰との反応によって生成した水酸化マグネシウムを精製する湿式精錬法と、マグネシウムを酸化させることによって精製する気相法とがある。気相法の方が不純物の少ない高純度のMgO粉体が得られるため望ましい。ターゲット本体10の主成分であるMgOとしては、単結晶MgOを用いることができる。単結晶MgOを用いることによって、化学量論組成に近いMgOがスパッタリングされるため、MR比を上げることが可能になる。しかし、単結晶MgOは形成過程において高温処理を行なうため、焼結MgOに比べ不純物が多く、MgOトンネル障壁層を低RA化すると、焼結法で作成したMgOを用いたときよりもMR比の低下が大きくなる。そのため、焼結法で作成されたMgOを用いるのがより望ましい。MgOは、NaCl構造に結晶化し、高密度(99%以上)、かつMgO中に含まれるMgO以外の元素が少ないことを併せ持つことが望ましい。第1乃至第3実施形態においては、MgOとして気相法を用いたMgO粉体を原材料として使用し、焼結法を用いて作製した。
【0014】
第1乃至第3実施形態に係るスパッタリングターゲットにおいて、用いられるバッキングプレート12の材料としては、例えば、ステンレス鋼、Al合金、W合金、無酸素銅などが挙げられる。一般的に、バッキングプレートには、熱伝導性の良い無酸素銅が用いられる。しかし、バッキングプレートの厚さが薄くなると無酸素銅の剛性が不十分となるため、薄くても十分な剛性が得られる材料選択が必要となる。また、MgOトンネル障壁層の成膜としてRFマグネトロンスパッタ装置を用いる場合、カソード側に装着されたマグネットから発せられる磁界を弱めないことが望ましいため、バッキングプレートとして高い剛性かつ比透磁率が1.2以下であることが望ましい。そのため、第1実施形態においては、非磁性になるステンレス鋼としてSUS310Sを用いた。一般的な非磁性SUSでは、バッキングプレートとして加工する際に圧延、過熱等の影響で組成偏重をきたし磁化が発生する場合があるが、SUS310Sは、前記バッキングプレート加工に対する磁性化の耐性が強い材料と言える。また、第1実施形態においては、例えば、垂直方向に磁気異方性を持たせたNd2Fe14BとSUSを併せたバッキングプレートを用いても良い。非磁性ステンレス鋼とは逆に、バッキングプレートとして円柱方向(垂直方向)に強い磁気異方性を有する磁性体を用いることで、カソードマグネットから発生する磁界を強化することができる。第2及び第3実施形態に係るスパッタリングターゲットにおいて、バッキングプレートの材料としては、無酸素銅を用いた。無酸素銅を用いたのは、バッキングプレート12が厚く無酸素銅で十分な剛性が得られ、かつ厚いバッキングプレートを使用する場合には熱伝導率が高い材料のほうが好ましいためである。
【0015】
第1乃至第3実施形態において、ターゲット本体10とバッキングプレート12は、Inによって接合させる。第1実施形態においては、ターゲット本体10とバッキングプレート12とを合わせた厚さが4mmになるよう成型する。また、第1乃至第3実施形態に係るスパッタリングターゲットは、バッキングプレートをなくしてMgO単体であるターゲット本体のみとすることも可能であるが、MgO単体にするとターゲット強度が劣化する、さらにMgOの冷却効率が低下するため、薄片MgOにバッキングプレートを接合させたものをスパッタリングターゲットとして用いることが望ましい。
【0016】
図4にターゲット本体(MgO)の厚さに対する平均シース電位(Vdc)を示す。MgOの厚さを3mm以下とすることで、Vdcの絶対値を低減することができる。なお、VdcはArイオンの引き込み電圧を意味するためVdcの絶対値が小さいことが望ましい。
MgOの厚さを3mmまで薄くすることでVdcの絶対値が低減するメカニズムを以下に説明する。MgOは絶縁体のため、静電容量C1を有する。MgOの薄片化によってC1が増加すると、アノード側の静電容量C2との差が小さくなる。VdcはC1とC2の差に比例するため、MgOの薄片化によるC1の増加によってC1とC2の差が小さくなり、Vdcの絶対値が低減する。さらにプラズマを閉じ込めるマグネットの強度が増したことによる放電安定電界の低減によるものと考えられる。MgOの厚さが3mm以下になるとVdcが一定となるのは、VdcはMgOが放出する2次電子の放出量によって決められるためと考えられる。Vdcの絶対値の下限を決める3mmという値はターゲット本体(MgO)の材料によって決定される値と言える。一方、MgOの厚さを薄くすると十分な強度が保てなくなるため、0.1mm以上の厚さが必要である。本実施形態において、ターゲット本体及びバッキングプレートの厚さは、例えばノギス、マイクロメーターなどによって測定される。
【0017】
また、図5にターゲット本体(MgO)とバッキングプレートの合計厚さに対するMR比を示す。MgOとバッキングプレートの合計厚さを薄くすることで磁場強度が増加し、MgOをスパッタリングするArイオンのプラズマ密度が向上する。プラズマ密度を向上させるとスパッタリングターゲット周辺に具備するアースシールド等の冶具(周辺冶具)のスパッタリングを低減することが可能になり、汚染金属の少ないMgOトンネル障壁層を製造することが可能になり、高いMR比を得ることができる。MgOとバッキングプレートの合計厚さを5mm以下にすることで十分高いMR比を得ることが可能になる。一方、MgOとバッキングプレートの強度の問題があり、薄くすると放電中にMgOが熱膨張を引き起こしターゲットが割れる問題を引き起こす。経験的にターゲット本体とバッキングプレートの合計厚さは2mm以上5mm以下が望ましい。
【0018】
上述のように成型された第1及び第2実施形態に係るスパッタリングターゲットをスパッタリング装置に装着し、非スパッタ状態での真空度が2×10−7Paの超高真空下でRFマグネトロンカソード、Arガスを用いて、Arガスをイオン化し、MgOにArイオンをスパッタリングすることで、MgOを放出させ、MgOトンネル障壁層を形成した。このトンネル障壁層を用いて垂直TMR膜を作製し、これを用いて垂直磁化MTJ素子20を作製した。この垂直磁化MTJ素子20は、図6に示すように、上部電極から下部電極まで順に、上部電極、シフト磁場調整層、非磁性層、参照層(或いは固定層、固着層)、トンネル障壁層、記憶層、下地層、下部電極を備える代表的な垂直磁化MTJ素子である。本実施形態において、MR比の測定には、図6の構造を有する垂直磁化MTJ素子20を用いた。図6のトンネル障壁層を本実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いて製造することで、高いMR比を得ることが可能になる。なお、図6の垂直磁化MTJ素子20は一例であり、面内磁化を有するMTJ素子(図示せず)や、MgOトンネル障壁層をFe或いはCoを含む磁性体で挟んだ構造を有するMTJ素子(図示せず)を用いても同様の効果を得ることが可能である。つまり、電圧をかけることにより絶縁体にトンネル電流が流れ、抵抗値が変化する磁気抵抗効果を有するMTJ(磁気トンネル接合)素子であれば良い。
【0019】
第1及び第2実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いて作製した垂直TMR膜について、CIPT(Current−In−Plane Tunneling)測定を行なった(Applied Physics Letters vol.83 84〜86頁参照)。その結果を図7に示す。第1実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いた場合、すべてのRAの値に対して第2実施形態に係るスパッタリングターゲットに比べ高いMR比を得ることが可能になる。例えば、RA10Ωμm2の場合においては、第1実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いるとMR比が195%程度、第2実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いるとMR比が175%程度となり、第1実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いることで第2実施形態に係るスパッタリングターゲットに比べさらに20%程度高いMR比を得ることが可能になる。
【0020】
また、第1及び第2実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いて、それぞれスパッタリング成膜したMgO膜中の不純物元素をICP―MS分析によって評価した。その結果を図8に示す。第1実施形態に係るスパッタリングターゲットは、バッキングプレートとしてSUS310Sを使用しているので、バッキングプレートの成分元素Fe、Cr、Niとボンディング材のIn、さらに比較のCuを分析元素として用い、第2実施形態に係るスパッタリングターゲットは、バッキングプレートとして無酸素銅を用いているので、分析元素としてCu、Inを評価した。第1実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いることで、第2実施形態に係るスパッタリングターゲットに比べ、MgOトンネル障壁層中に含有されたバッキングプレートおよびボンディング材(In)起因の汚染金属の量を2桁から3桁程度低減することが可能になる。ターゲット本体の外径t1とバッキングプレートの外径t2をt1=t2又はt1>t2とすることで、バッキングプレートおよびボンディング材がArプラズマに暴露されなくなり、バッキングプレートおよびボンディング材起因の汚染金属を低減することが可能になる。結果として、より高いMR比を得ることができることが第1及び第2実施形態より明らかとなった。
【0021】
次に、第3実施形態に係るスパッタリングターゲットの比較として、比較実施形態に係るスパッタリングターゲットを用意した。比較実施形態に係るスパッタリングターゲットは、ターゲット本体の厚さが5mmであることを除けば、第3実施形態と同一の構成からなる。これら第3実施形態及び比較実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いて第1実施形態と同手法により、垂直TMR膜を形成し、CIPT測定を実施した。その結果を図9に示す。厚さ1mmのターゲット本体を用いた第3実施形態に係るスパッタリングターゲットの方が、厚さ5mmのターゲット本体を用いた比較実施形態に係るスパッタリングターゲットより、すべてのRAに対して高いMR比を得ることが可能になる。ただし、第3実施形態に係るスパッタリングターゲットと比較実施形態に係るスパッタリングターゲットは、共にバッキングプレートの外径がターゲット本体の外径より大きく、バッキングプレートがArプラズマに暴露されバッキングプレートとボンディング材起因の汚染金属が含有される。両スパッタリングターゲットが汚染金属の影響を受けつつも、第3実施形態に係るスパッタリングターゲットの方が高いMR比を得ることができるのは、第3実施形態に係るスパッタリングターゲットの方が、MgOトンネル障壁層形成過程において平均シース電位(Vdc)によってMgOターゲット本体に引き込まれたArイオンがMgOをスパッタリングし、ArイオンによってスパッタリングされたMgOがMgOトンネル障壁層に衝突することで生じるダメージが小さく、またArイオンによるMgOのスパッタリング過程においてMgOの結合が切れ、乖離したMgとOがトンネル障壁層に到達することで生じる組成偏重が少なく、かつ負イオンによるプラズマダメージの影響を受け難いためである。
【0022】
第1実施形態に係るスパッタリングターゲットは、図10に示すようにターゲット本体10の外径よりも小さな内径を有するホルダ14によって、ターゲット本体の上面を露出させた状態でスパッタリング装置に装着することができる。t1が第1実施形態に係るスパッタリングターゲットの外径を示し、t3が第1実施形態に係るスパッタリングターゲットをスパッタリング装置のカソード表面15に固定するホルダ14の内径を示している。スパッタリングターゲットを固定するホルダ14は、ねじ穴17が形成されており、ねじによってカソード表面15に固定される。薄い第1実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いることで高いMR比を得ることが可能になる。
【0023】
MgOトンネル障壁層形成後の第1実施形態に係るスパッタリングターゲットは、外周部に黒い部分が見受けられた。これは、スパッタリングターゲットを固定するホルダおよびねじからスパッタされた元素が第1実施形態に係るスパッタリングターゲット上面に付着したものである。付着した元素は、MgOトンネル障壁層に対して金属汚染元素として混入、或いはパーティクルの原因となる。前者はMR比の低下を引き起こし、後者は製品の歩留まりの低下を引き起こすため、共に好ましくない。第1の実施形態では、スパッタリングターゲットを5mm以下に薄くすることでプラズマダメージを低減し、周辺冶具をプラズマに曝されないようにすることで、スパッタリングする際にMgO以外の汚染金属を可能な限り低減することが高MR化に有効な手段となる。しかし、バッキングプレートおよびターゲット本体(MgO)を薄くするとカソードマグネットからの磁界が強くなるため、電子およびArイオンの量が増加し、スパッタリングターゲット上面に形成されるプラズマの体積が増加する。結果として、ホルダ14およびねじ17とプラズマの距離が近くなり、ホルダ14およびねじ17による汚染金属の影響が大きくなる。この問題を解決すべく、以下のように第4乃至第7実施形態に係るスパッタリングターゲットを提供する。
【0024】
第4実施形態に係るスパッタリングターゲットは、図11に示すように外径180mm×厚さ2mmの円盤状のターゲット本体10と、ターゲット本体10の外径t1よりも上面の外径t2が大きい円盤状に形成され、ターゲット本体10の底面に中心を重ねた状態でInを用いて接合されたバッキングプレート12とを備えている。バッキングプレート12上面のターゲット本体10より外側12Cには、バッキングプレート12をスパッタリング装置に固定する冶具を設置させる穴、例えばねじ頭を含めたねじ全体が挿入可能なねじ穴16が形成されている。また、バッキングプレート12の底面には、円筒状の突出部18が形成されており、突出部18の外周は、ねじ穴16の位置よりも内側に位置するように形成されている。スパッタリング装置のバッキングプレート12が装着される部位には、突出部18が嵌合可能な凹部が形成されている。本実施形態では、ホルダは不要なため、ホルダによる汚染金属の影響を受けない。また、ターゲット本体10をネジにかからない範囲において可能な限り径方向に大きくすることにより、バッキングプレート12のスパッタリングを防止しMgOトンネル障壁層に含まれる不純物を低減することが可能になる。バッキングプレート12は、Cu或いは非磁性のSUSを用いることが望ましい。また、本実施形態では、ターゲット本体10にねじ穴を開ける必要がないため、ターゲット本体10を安価に作成することが可能である。
【0025】
第5実施形態に係るスパッタリングターゲットは、図12に示すようにターゲット本体10の外径t1がバッキングプレート12と同径であり、ターゲット本体10の外縁近傍、すなわちバッキングプレート12のねじ穴16に整合する位置には、冶具を設置させる穴、例えばねじ穴19が上面から底面に亘って貫通して形成されている点で第4実施形態と異なるが、その他の構成は、第4実施形態と同一である。第5実施形態においては、ターゲット本体のMgOの面積を大きくすることが可能になるので、第4実施形態よりもさらにバッキングプレートのスパッタリングを防止しMgOトンネル障壁層に含まれる不純物を低減することが可能になる。バッキングプレートは、Cu或いは非磁性のSUSを用いることが望ましい。
【0026】
第6実施形態に係るスパッタリングターゲットは、図13に示すようにターゲット本体10のねじ穴19を含む外縁近傍10Aが上面側を突出することにより、その外縁近傍10Aより内側に対し肉厚に構成されている点で第5実施形態と異なるが、その他の構成は、第5実施形態と同一である。第6実施形態は、ターゲット本体10の厚さを中心部より外縁近傍を厚くすることによって、Arイオンによる周辺冶具及びねじのスパッタリングを抑制することが可能となる。さらに、ホルダを用いないとともに、ターゲット本体10のMgOの面積を大きくすることが可能になるので、ホルダ及びバッキングプレート12のスパッタリングを抑制することが可能となる。そのため、第5実施形態よりも汚染金属の影響を抑制でき、高いMR比を得ることが可能になる。すなわち、図13において、h1がターゲット本体中心部の厚さ、h3がターゲット本体外縁近傍10Aの厚さを示し、h1<h3とする。なお、本実施形態においては、ターゲット本体の外縁近傍の厚さが一つの段差により内側よりも肉厚に構成されているが、ターゲットの厚さが連続的に変化している又は厚さが多段階で変化している実施形態とすることも可能である。
【0027】
第7実施形態に係るスパッタリングターゲットは、図14に示すように外径180mm×厚さ2mmの円盤状のターゲット本体10と、ターゲット本体10よりも外径が大きい円盤状に形成され、ターゲット本体10の底面に中心を重ねた状態でInを用いて接合されたバッキングプレート12とを備えている。第7実施形態に係るスパッタリングターゲットは、ターゲット本体10の外径t1よりも小さな内径t3を有するドーナツ状のホルダ14により上方から押さえることによって、ターゲット装置に装着されるように構成されている。第7実施形態に係るスパッタリングターゲットにおいて、バッキングプレート12のターゲット本体10よりも外側の部位は、その上面がターゲット本体10の上面と同一面となるように肉厚に構成されている。ホルダ14がターゲット本体10を押さえる力を肉厚に構成される部分によって分散しているため、ターゲット本体12が割れ難くなる。第7実施形態は、スパッタリングターゲットを固定するホルダ14の内径(t3)<ターゲット本体の外径(t1)<バッキングプレートの外径(t2)の関係を満たすように設計することで、ターゲット本体とバッキングプレートを接続させるボンディング材が露出させるのを防止することが可能になる。結果として高いMR比を得ることが可能になる。スパッタリングターゲットを固定するホルダ14は、ねじによってカソード表面15に固定される。
【0028】
以上説明したように、第1乃至第7の実施形態のスパッタリングターゲットを用いて、高いMR比を有する垂直磁化MTJ素子20を形成することができる。つまり、第1乃至第7の実施形態のスパッタリングターゲットは、磁気トンネル接合(MTJ)素子用として好適に用いることができる。
【0029】
第8実施形態は、上述したMTJ素子20を用いて構成したMRAM(磁気メモリ)であり、図15に示す回路構成を有する。第8実施形態に係るMRAMは、マトリクス状に配列された複数のメモリセルMCを有するメモリセルアレイ32を備えている。メモリセルアレイ32には、それぞれが列(カラム)方向に延在するように、複数のビット線対BL,/BLが配設されている。また、メモリセルアレイ32には、それぞれが行(ロウ)方向に延在するように、複数のワード線WLが配設されている。
【0030】
ビット線BLとワード線WLとの交差領域には、メモリセルMCが配置されている。各メモリセルMCは、MTJ素子20、及び選択トランジスタ31を備えている。選択トランジスタ31としては、例えば、NチャネルMOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタが用いられる。MTJ素子20の一端は、ビット線BLに接続されている。MTJ素子20の他端は、選択トランジスタ31のドレインに接続されている。選択トランジスタ31のゲートは、ワード線WLに接続されている。選択トランジスタ31のソースは、ビット線/BLに接続されている。
【0031】
ワード線WLには、ロウデコーダ33が接続されている。ビット線対BL,/BLには、書き込み回路35及び読み出し回路36が接続されている。書き込み回路35及び読み出し回路36には、カラムデコーダ34が接続されている。データ書き込み時或いはデータ読み出し時にアクセスされるメモリセルMCは、ロウデコーダ33及びカラムデコーダ34によって選択される。
【0032】
メモリセルMCへのデータの書き込みは、以下のように行われる。まず、データ書き込みを行うメモリセルMCを選択するために、このメモリセルMCに接続されたワード線WLがロウデコーダによって活性化される。これにより、選択トランジスタ31がターンオンする。さらに、選択メモリセルMCに接続されたビット線対BL,/BLがカラムデコーダ34によって選択される。
【0033】
ここで、MTJ素子20には、書き込みデータに応じて、双方向の書き込み電流のうち一方が供給される。具体的には、MTJ素子20に図面の左から右へ書き込み電流を供給する場合、書き込み回路35は、ビット線BLに正の電圧を印加し、ビット線/BLに接地電圧を印加する。また、MTJ素子20に図面の右から左へ書き込み電流を供給する場合、書き込み回路35は、ビット線/BLに正の電圧を印加し、ビット線BLに接地電圧を印加する。このようにして、メモリセルMCにデータ“0”、或いはデータ“1”を書き込むことができる。
【0034】
次に、メモリセルMCからのデータ読み出しは、以下のように行われる。まず、書き込みの場合と同様に、選択されたメモリセルMCの選択トランジスタ31がターンオンされる。読み出し回路36は、MTJ素子20に、例えば図面の右から左へ流れる読み出し電流を供給する。この読み出し電流は、スピン注入によって磁化反転する閾値よりも小さい値に設定される。そして、読み出し回路36に含まれるセンスアンプは、読み出し電流に基づいて、MTJ素子20の抵抗値を検出する。このようにして、MTJ素子20に記憶されたデータを読み出すことができる。
【0035】
次に、MRAMの構造例について図16に基づいて説明する。P型半導体基板41内には、STI(shallow trench isolation)構造の素子分離絶縁層42が設けられている。素子分離絶縁層42に囲まれた素子領域(活性領域)には、選択トランジスタ31としてのNチャネルMOSトランジスタが設けられている。選択トランジスタ31は、ソース/ドレイン領域としての拡散領域43及び44、拡散領域43及び44間のチャネル領域上に設けられたゲート絶縁膜45、及びゲート絶縁膜45上に設けられたゲート電極46を有する。ゲート電極46は、図15のワード線WLに相当する。
【0036】
拡散領域43上には、コンタクトプラグ47が設けられている。コンタクトプラグ47上には、ビット線/BLが設けられている。拡散領域44上には、コンタクトプラグ48が設けられている。コンタクトプラグ48上には、引き出し電極49が設けられている。引き出し電極49上には、MTJ素子20が設けられている。MTJ素子20上には、ビット線BLが設けられている。半導体基板41とビット線BLとの間は、層間絶縁層50で満たされている。
【0037】
以上、詳述したように、第8実施形態によれば、第1乃至第7実施形態で説明したいずれかのスパッタリングターゲットを用いたスパッタリング成膜によってトンネル障壁層を形成し、そのトンネル障壁層に接する面にそれぞれ磁気記憶層と磁気参照層を形成することを特徴とする磁気トンネル接合素子の製造方法を提供する。
また、各々に磁気トンネル接合素子を含む複数のメモリセルを有し、メモリセルへのデータの書き込み及びメモリセルからのデータの読み出しを行う磁気メモリの製造方法であって、磁気トンネル接合素子は、第1乃至第7実施形態で説明したいずれかのスパッタリングターゲットを用いたスパッタリング成膜によってトンネル障壁層を形成し、トンネル障壁層に接する面にそれぞれ磁気記憶層と磁気参照層を形成することを特徴とする磁気メモリの製造方法を提供する。
【0038】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0039】
10 ターゲット本体
12 バッキングプレート
14 ホルダ
16 ねじ穴
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、MgOを主成分とするスパッタリングターゲット及びそれを用いた磁気メモリの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル磁気抵抗(TMR)効果の歴史は、1975年のJulliereらの報告から始まり、1995年に宮崎らによる室温で20%の磁気抵抗比の発明を経て、2007年のCoFeB/MgO/CoFeB接合における600%の磁気抵抗比の発現に至っている。近年、同技術を用いた製品開発が加速し、HDDの磁気ヘッドの分野においてMgOトンネル障壁層を用いたTMR効果が採用され、市場に広がっている。磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)の分野でもMgOトンネル障壁層を用いたスピン注入型TMR素子の研究開発が精力的に行われ、読出し抵抗比向上、書込み電流低減の両方を兼ね備えた技術として受け入れられている。
【0003】
一方、MRAMにおけるメモリ開発は、Siデバイスが牽引してきた微細化による低消費電力化と低コスト化のトレンドを伴わなければならず、微細化と低消費電力化の観点から、MgOトンネル障壁層の低抵抗化は必要条件となっている。例えば、1Gbits級の汎用メモリを目指すと、MgOトンネル障壁層の素子抵抗(RA)は、10Ωμm2前後となり、MgOトンネル障壁層の膜厚は、1nm程度となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Y.M.Lee,J.Hayakawa,S.Ikeda,F.Matsukura,and H.Ohno:Appl.Phys.Lett.,89,043506(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、MgOトンネル障壁層の膜厚を1nmとすると、MgOトンネル障壁層の結晶核を安定させる核形成エネルギーΔGの絶対値が小さくなり、MgO(001)結晶化が阻害される。その結果としてMR比の低下が顕在化しはじめる。MR比が低下すると読出し抵抗比が低下し、さらに書込み電流が増加するため大きな課題として認知さている。
【0006】
そこで、本実施形態は、磁気トンネル接合(MTJ)素子のMR比を向上させることが可能なスパッタリングターゲット及びそれを用いた磁気メモリの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態は、MgOを主成分とし、厚さが3mm以下であるターゲット本体を備えることを特徴とするスパッタリングターゲットである。
【0008】
また、本実施形態は、前記スパッタリングターゲットを用いた磁気メモリの製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1実施形態に係るスパッタリングターゲットの正面断面図である。
【図2】第2実施形態に係るスパッタリングターゲットの正面断面図である。
【図3】第3実施形態に係るスパッタリングターゲットの正面断面図である。
【図4】ターゲット本体(MgO)の厚さに対する平均シース電位(Vdc)を示すグラフである。
【図5】ターゲット本体(MgO)とバッキングプレートの合計厚さに対するMR比を示すグラフである。
【図6】第1実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いて作製した垂直磁化MTJ素子の構造を示す概念図である。
【図7】第1及び第2実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いて作製した垂直TMR膜におけるCIPT測定の結果を示すグラフである。
【図8】第1及び第2実施形態に係るスパッタリングターゲットをそれぞれスパッタリング成膜したMgO膜中の不純物元素をICP―MS分析によって評価した結果を示す表である。
【図9】第3実施形態及び比較実施形態に係るスパッタリングターゲットに係るスパッタリングターゲットを用いて作製した垂直TMR膜におけるCIPT測定の結果を示すグラフである。
【図10】第1実施形態に係るスパッタリングターゲットがスパッタ装置に装着された状態を示す正面断面図である。
【図11】第4実施形態に係るスパッタリングターゲットがスパッタ装置に装着された状態を示す正面断面図である。
【図12】第5実施形態に係るスパッタリングターゲットがスパッタ装置に装着された状態を示す正面断面図である。
【図13】第6実施形態に係るスパッタリングターゲットがスパッタ装置に装着された状態を示す正面断面図である。
【図14】第7実施形態に係るスパッタリングターゲットがスパッタ装置に装着された状態を示す正面断面図である。
【図15】第8実施形態に係るMRAMの構成を示す回路図である。
【図16】第8実施形態に係るMRAMの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、第1乃至第3実施形態に係るスパッタリングターゲットついて、図1乃至3に基づいて説明する。図1乃至3は、スパッタリングターゲットの正面断面図、すなわちスパッタリングされる面に対して垂直な面を示している。第1実施形態に係るスパッタリングターゲットは、図1に示すように、円盤状のターゲット本体10と、ターゲット本体10と同径の円盤状に形成され、ターゲット本体10の底面に中心を重ねた状態で接合されたバッキングプレート12とを備えている。第1実施形態において、それぞれの外径t1、t2は、180mmであり、ターゲット本体10の厚さh1は、1.5mm、バッキングプレート12の厚さh2は、2.5mmである。なお、本実施形態では、ターゲット本体10の外径t1が、バッキングプレート12の外径t2よりも大きくても良い。
【0011】
第2実施形態に係るスパッタリングターゲットは、図2に示すようにバッキングプレート12の外径が、ターゲット本体10よりも大きく形成されている点で第1実施形態と異なり、第2実施形態において、ターゲット本体10の外径は、164mm、厚さは、2mm、バッキングプレートの外径は、180mm、厚さは、4mmである。
【0012】
第3実施形態に係るスパッタリングターゲットは、図3に示すように、ターゲット本体10は、その外径は164mm、厚さは1mmであり、バッキングプレート12は、外径180mm×厚さ4mmの円盤状の下部12Aと、下部12Aの上面に中心を重ねた状態で形成され、外径164mm×厚さ3mmの円盤状の上部12Bとから構成されている点で第1及び第2実施形態と異なる。
【0013】
第1乃至第3実施形態に係るスパッタリングターゲットにおいて、ターゲット本体10は、MgOを主成分とし、そのMgOは、MgO粉体を焼結法により高圧下で焼き固め、所望の形状に成型することによって得ることができる。このMgO粉体は、海水と生石灰との反応によって生成した水酸化マグネシウムを精製する湿式精錬法と、マグネシウムを酸化させることによって精製する気相法とがある。気相法の方が不純物の少ない高純度のMgO粉体が得られるため望ましい。ターゲット本体10の主成分であるMgOとしては、単結晶MgOを用いることができる。単結晶MgOを用いることによって、化学量論組成に近いMgOがスパッタリングされるため、MR比を上げることが可能になる。しかし、単結晶MgOは形成過程において高温処理を行なうため、焼結MgOに比べ不純物が多く、MgOトンネル障壁層を低RA化すると、焼結法で作成したMgOを用いたときよりもMR比の低下が大きくなる。そのため、焼結法で作成されたMgOを用いるのがより望ましい。MgOは、NaCl構造に結晶化し、高密度(99%以上)、かつMgO中に含まれるMgO以外の元素が少ないことを併せ持つことが望ましい。第1乃至第3実施形態においては、MgOとして気相法を用いたMgO粉体を原材料として使用し、焼結法を用いて作製した。
【0014】
第1乃至第3実施形態に係るスパッタリングターゲットにおいて、用いられるバッキングプレート12の材料としては、例えば、ステンレス鋼、Al合金、W合金、無酸素銅などが挙げられる。一般的に、バッキングプレートには、熱伝導性の良い無酸素銅が用いられる。しかし、バッキングプレートの厚さが薄くなると無酸素銅の剛性が不十分となるため、薄くても十分な剛性が得られる材料選択が必要となる。また、MgOトンネル障壁層の成膜としてRFマグネトロンスパッタ装置を用いる場合、カソード側に装着されたマグネットから発せられる磁界を弱めないことが望ましいため、バッキングプレートとして高い剛性かつ比透磁率が1.2以下であることが望ましい。そのため、第1実施形態においては、非磁性になるステンレス鋼としてSUS310Sを用いた。一般的な非磁性SUSでは、バッキングプレートとして加工する際に圧延、過熱等の影響で組成偏重をきたし磁化が発生する場合があるが、SUS310Sは、前記バッキングプレート加工に対する磁性化の耐性が強い材料と言える。また、第1実施形態においては、例えば、垂直方向に磁気異方性を持たせたNd2Fe14BとSUSを併せたバッキングプレートを用いても良い。非磁性ステンレス鋼とは逆に、バッキングプレートとして円柱方向(垂直方向)に強い磁気異方性を有する磁性体を用いることで、カソードマグネットから発生する磁界を強化することができる。第2及び第3実施形態に係るスパッタリングターゲットにおいて、バッキングプレートの材料としては、無酸素銅を用いた。無酸素銅を用いたのは、バッキングプレート12が厚く無酸素銅で十分な剛性が得られ、かつ厚いバッキングプレートを使用する場合には熱伝導率が高い材料のほうが好ましいためである。
【0015】
第1乃至第3実施形態において、ターゲット本体10とバッキングプレート12は、Inによって接合させる。第1実施形態においては、ターゲット本体10とバッキングプレート12とを合わせた厚さが4mmになるよう成型する。また、第1乃至第3実施形態に係るスパッタリングターゲットは、バッキングプレートをなくしてMgO単体であるターゲット本体のみとすることも可能であるが、MgO単体にするとターゲット強度が劣化する、さらにMgOの冷却効率が低下するため、薄片MgOにバッキングプレートを接合させたものをスパッタリングターゲットとして用いることが望ましい。
【0016】
図4にターゲット本体(MgO)の厚さに対する平均シース電位(Vdc)を示す。MgOの厚さを3mm以下とすることで、Vdcの絶対値を低減することができる。なお、VdcはArイオンの引き込み電圧を意味するためVdcの絶対値が小さいことが望ましい。
MgOの厚さを3mmまで薄くすることでVdcの絶対値が低減するメカニズムを以下に説明する。MgOは絶縁体のため、静電容量C1を有する。MgOの薄片化によってC1が増加すると、アノード側の静電容量C2との差が小さくなる。VdcはC1とC2の差に比例するため、MgOの薄片化によるC1の増加によってC1とC2の差が小さくなり、Vdcの絶対値が低減する。さらにプラズマを閉じ込めるマグネットの強度が増したことによる放電安定電界の低減によるものと考えられる。MgOの厚さが3mm以下になるとVdcが一定となるのは、VdcはMgOが放出する2次電子の放出量によって決められるためと考えられる。Vdcの絶対値の下限を決める3mmという値はターゲット本体(MgO)の材料によって決定される値と言える。一方、MgOの厚さを薄くすると十分な強度が保てなくなるため、0.1mm以上の厚さが必要である。本実施形態において、ターゲット本体及びバッキングプレートの厚さは、例えばノギス、マイクロメーターなどによって測定される。
【0017】
また、図5にターゲット本体(MgO)とバッキングプレートの合計厚さに対するMR比を示す。MgOとバッキングプレートの合計厚さを薄くすることで磁場強度が増加し、MgOをスパッタリングするArイオンのプラズマ密度が向上する。プラズマ密度を向上させるとスパッタリングターゲット周辺に具備するアースシールド等の冶具(周辺冶具)のスパッタリングを低減することが可能になり、汚染金属の少ないMgOトンネル障壁層を製造することが可能になり、高いMR比を得ることができる。MgOとバッキングプレートの合計厚さを5mm以下にすることで十分高いMR比を得ることが可能になる。一方、MgOとバッキングプレートの強度の問題があり、薄くすると放電中にMgOが熱膨張を引き起こしターゲットが割れる問題を引き起こす。経験的にターゲット本体とバッキングプレートの合計厚さは2mm以上5mm以下が望ましい。
【0018】
上述のように成型された第1及び第2実施形態に係るスパッタリングターゲットをスパッタリング装置に装着し、非スパッタ状態での真空度が2×10−7Paの超高真空下でRFマグネトロンカソード、Arガスを用いて、Arガスをイオン化し、MgOにArイオンをスパッタリングすることで、MgOを放出させ、MgOトンネル障壁層を形成した。このトンネル障壁層を用いて垂直TMR膜を作製し、これを用いて垂直磁化MTJ素子20を作製した。この垂直磁化MTJ素子20は、図6に示すように、上部電極から下部電極まで順に、上部電極、シフト磁場調整層、非磁性層、参照層(或いは固定層、固着層)、トンネル障壁層、記憶層、下地層、下部電極を備える代表的な垂直磁化MTJ素子である。本実施形態において、MR比の測定には、図6の構造を有する垂直磁化MTJ素子20を用いた。図6のトンネル障壁層を本実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いて製造することで、高いMR比を得ることが可能になる。なお、図6の垂直磁化MTJ素子20は一例であり、面内磁化を有するMTJ素子(図示せず)や、MgOトンネル障壁層をFe或いはCoを含む磁性体で挟んだ構造を有するMTJ素子(図示せず)を用いても同様の効果を得ることが可能である。つまり、電圧をかけることにより絶縁体にトンネル電流が流れ、抵抗値が変化する磁気抵抗効果を有するMTJ(磁気トンネル接合)素子であれば良い。
【0019】
第1及び第2実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いて作製した垂直TMR膜について、CIPT(Current−In−Plane Tunneling)測定を行なった(Applied Physics Letters vol.83 84〜86頁参照)。その結果を図7に示す。第1実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いた場合、すべてのRAの値に対して第2実施形態に係るスパッタリングターゲットに比べ高いMR比を得ることが可能になる。例えば、RA10Ωμm2の場合においては、第1実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いるとMR比が195%程度、第2実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いるとMR比が175%程度となり、第1実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いることで第2実施形態に係るスパッタリングターゲットに比べさらに20%程度高いMR比を得ることが可能になる。
【0020】
また、第1及び第2実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いて、それぞれスパッタリング成膜したMgO膜中の不純物元素をICP―MS分析によって評価した。その結果を図8に示す。第1実施形態に係るスパッタリングターゲットは、バッキングプレートとしてSUS310Sを使用しているので、バッキングプレートの成分元素Fe、Cr、Niとボンディング材のIn、さらに比較のCuを分析元素として用い、第2実施形態に係るスパッタリングターゲットは、バッキングプレートとして無酸素銅を用いているので、分析元素としてCu、Inを評価した。第1実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いることで、第2実施形態に係るスパッタリングターゲットに比べ、MgOトンネル障壁層中に含有されたバッキングプレートおよびボンディング材(In)起因の汚染金属の量を2桁から3桁程度低減することが可能になる。ターゲット本体の外径t1とバッキングプレートの外径t2をt1=t2又はt1>t2とすることで、バッキングプレートおよびボンディング材がArプラズマに暴露されなくなり、バッキングプレートおよびボンディング材起因の汚染金属を低減することが可能になる。結果として、より高いMR比を得ることができることが第1及び第2実施形態より明らかとなった。
【0021】
次に、第3実施形態に係るスパッタリングターゲットの比較として、比較実施形態に係るスパッタリングターゲットを用意した。比較実施形態に係るスパッタリングターゲットは、ターゲット本体の厚さが5mmであることを除けば、第3実施形態と同一の構成からなる。これら第3実施形態及び比較実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いて第1実施形態と同手法により、垂直TMR膜を形成し、CIPT測定を実施した。その結果を図9に示す。厚さ1mmのターゲット本体を用いた第3実施形態に係るスパッタリングターゲットの方が、厚さ5mmのターゲット本体を用いた比較実施形態に係るスパッタリングターゲットより、すべてのRAに対して高いMR比を得ることが可能になる。ただし、第3実施形態に係るスパッタリングターゲットと比較実施形態に係るスパッタリングターゲットは、共にバッキングプレートの外径がターゲット本体の外径より大きく、バッキングプレートがArプラズマに暴露されバッキングプレートとボンディング材起因の汚染金属が含有される。両スパッタリングターゲットが汚染金属の影響を受けつつも、第3実施形態に係るスパッタリングターゲットの方が高いMR比を得ることができるのは、第3実施形態に係るスパッタリングターゲットの方が、MgOトンネル障壁層形成過程において平均シース電位(Vdc)によってMgOターゲット本体に引き込まれたArイオンがMgOをスパッタリングし、ArイオンによってスパッタリングされたMgOがMgOトンネル障壁層に衝突することで生じるダメージが小さく、またArイオンによるMgOのスパッタリング過程においてMgOの結合が切れ、乖離したMgとOがトンネル障壁層に到達することで生じる組成偏重が少なく、かつ負イオンによるプラズマダメージの影響を受け難いためである。
【0022】
第1実施形態に係るスパッタリングターゲットは、図10に示すようにターゲット本体10の外径よりも小さな内径を有するホルダ14によって、ターゲット本体の上面を露出させた状態でスパッタリング装置に装着することができる。t1が第1実施形態に係るスパッタリングターゲットの外径を示し、t3が第1実施形態に係るスパッタリングターゲットをスパッタリング装置のカソード表面15に固定するホルダ14の内径を示している。スパッタリングターゲットを固定するホルダ14は、ねじ穴17が形成されており、ねじによってカソード表面15に固定される。薄い第1実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いることで高いMR比を得ることが可能になる。
【0023】
MgOトンネル障壁層形成後の第1実施形態に係るスパッタリングターゲットは、外周部に黒い部分が見受けられた。これは、スパッタリングターゲットを固定するホルダおよびねじからスパッタされた元素が第1実施形態に係るスパッタリングターゲット上面に付着したものである。付着した元素は、MgOトンネル障壁層に対して金属汚染元素として混入、或いはパーティクルの原因となる。前者はMR比の低下を引き起こし、後者は製品の歩留まりの低下を引き起こすため、共に好ましくない。第1の実施形態では、スパッタリングターゲットを5mm以下に薄くすることでプラズマダメージを低減し、周辺冶具をプラズマに曝されないようにすることで、スパッタリングする際にMgO以外の汚染金属を可能な限り低減することが高MR化に有効な手段となる。しかし、バッキングプレートおよびターゲット本体(MgO)を薄くするとカソードマグネットからの磁界が強くなるため、電子およびArイオンの量が増加し、スパッタリングターゲット上面に形成されるプラズマの体積が増加する。結果として、ホルダ14およびねじ17とプラズマの距離が近くなり、ホルダ14およびねじ17による汚染金属の影響が大きくなる。この問題を解決すべく、以下のように第4乃至第7実施形態に係るスパッタリングターゲットを提供する。
【0024】
第4実施形態に係るスパッタリングターゲットは、図11に示すように外径180mm×厚さ2mmの円盤状のターゲット本体10と、ターゲット本体10の外径t1よりも上面の外径t2が大きい円盤状に形成され、ターゲット本体10の底面に中心を重ねた状態でInを用いて接合されたバッキングプレート12とを備えている。バッキングプレート12上面のターゲット本体10より外側12Cには、バッキングプレート12をスパッタリング装置に固定する冶具を設置させる穴、例えばねじ頭を含めたねじ全体が挿入可能なねじ穴16が形成されている。また、バッキングプレート12の底面には、円筒状の突出部18が形成されており、突出部18の外周は、ねじ穴16の位置よりも内側に位置するように形成されている。スパッタリング装置のバッキングプレート12が装着される部位には、突出部18が嵌合可能な凹部が形成されている。本実施形態では、ホルダは不要なため、ホルダによる汚染金属の影響を受けない。また、ターゲット本体10をネジにかからない範囲において可能な限り径方向に大きくすることにより、バッキングプレート12のスパッタリングを防止しMgOトンネル障壁層に含まれる不純物を低減することが可能になる。バッキングプレート12は、Cu或いは非磁性のSUSを用いることが望ましい。また、本実施形態では、ターゲット本体10にねじ穴を開ける必要がないため、ターゲット本体10を安価に作成することが可能である。
【0025】
第5実施形態に係るスパッタリングターゲットは、図12に示すようにターゲット本体10の外径t1がバッキングプレート12と同径であり、ターゲット本体10の外縁近傍、すなわちバッキングプレート12のねじ穴16に整合する位置には、冶具を設置させる穴、例えばねじ穴19が上面から底面に亘って貫通して形成されている点で第4実施形態と異なるが、その他の構成は、第4実施形態と同一である。第5実施形態においては、ターゲット本体のMgOの面積を大きくすることが可能になるので、第4実施形態よりもさらにバッキングプレートのスパッタリングを防止しMgOトンネル障壁層に含まれる不純物を低減することが可能になる。バッキングプレートは、Cu或いは非磁性のSUSを用いることが望ましい。
【0026】
第6実施形態に係るスパッタリングターゲットは、図13に示すようにターゲット本体10のねじ穴19を含む外縁近傍10Aが上面側を突出することにより、その外縁近傍10Aより内側に対し肉厚に構成されている点で第5実施形態と異なるが、その他の構成は、第5実施形態と同一である。第6実施形態は、ターゲット本体10の厚さを中心部より外縁近傍を厚くすることによって、Arイオンによる周辺冶具及びねじのスパッタリングを抑制することが可能となる。さらに、ホルダを用いないとともに、ターゲット本体10のMgOの面積を大きくすることが可能になるので、ホルダ及びバッキングプレート12のスパッタリングを抑制することが可能となる。そのため、第5実施形態よりも汚染金属の影響を抑制でき、高いMR比を得ることが可能になる。すなわち、図13において、h1がターゲット本体中心部の厚さ、h3がターゲット本体外縁近傍10Aの厚さを示し、h1<h3とする。なお、本実施形態においては、ターゲット本体の外縁近傍の厚さが一つの段差により内側よりも肉厚に構成されているが、ターゲットの厚さが連続的に変化している又は厚さが多段階で変化している実施形態とすることも可能である。
【0027】
第7実施形態に係るスパッタリングターゲットは、図14に示すように外径180mm×厚さ2mmの円盤状のターゲット本体10と、ターゲット本体10よりも外径が大きい円盤状に形成され、ターゲット本体10の底面に中心を重ねた状態でInを用いて接合されたバッキングプレート12とを備えている。第7実施形態に係るスパッタリングターゲットは、ターゲット本体10の外径t1よりも小さな内径t3を有するドーナツ状のホルダ14により上方から押さえることによって、ターゲット装置に装着されるように構成されている。第7実施形態に係るスパッタリングターゲットにおいて、バッキングプレート12のターゲット本体10よりも外側の部位は、その上面がターゲット本体10の上面と同一面となるように肉厚に構成されている。ホルダ14がターゲット本体10を押さえる力を肉厚に構成される部分によって分散しているため、ターゲット本体12が割れ難くなる。第7実施形態は、スパッタリングターゲットを固定するホルダ14の内径(t3)<ターゲット本体の外径(t1)<バッキングプレートの外径(t2)の関係を満たすように設計することで、ターゲット本体とバッキングプレートを接続させるボンディング材が露出させるのを防止することが可能になる。結果として高いMR比を得ることが可能になる。スパッタリングターゲットを固定するホルダ14は、ねじによってカソード表面15に固定される。
【0028】
以上説明したように、第1乃至第7の実施形態のスパッタリングターゲットを用いて、高いMR比を有する垂直磁化MTJ素子20を形成することができる。つまり、第1乃至第7の実施形態のスパッタリングターゲットは、磁気トンネル接合(MTJ)素子用として好適に用いることができる。
【0029】
第8実施形態は、上述したMTJ素子20を用いて構成したMRAM(磁気メモリ)であり、図15に示す回路構成を有する。第8実施形態に係るMRAMは、マトリクス状に配列された複数のメモリセルMCを有するメモリセルアレイ32を備えている。メモリセルアレイ32には、それぞれが列(カラム)方向に延在するように、複数のビット線対BL,/BLが配設されている。また、メモリセルアレイ32には、それぞれが行(ロウ)方向に延在するように、複数のワード線WLが配設されている。
【0030】
ビット線BLとワード線WLとの交差領域には、メモリセルMCが配置されている。各メモリセルMCは、MTJ素子20、及び選択トランジスタ31を備えている。選択トランジスタ31としては、例えば、NチャネルMOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタが用いられる。MTJ素子20の一端は、ビット線BLに接続されている。MTJ素子20の他端は、選択トランジスタ31のドレインに接続されている。選択トランジスタ31のゲートは、ワード線WLに接続されている。選択トランジスタ31のソースは、ビット線/BLに接続されている。
【0031】
ワード線WLには、ロウデコーダ33が接続されている。ビット線対BL,/BLには、書き込み回路35及び読み出し回路36が接続されている。書き込み回路35及び読み出し回路36には、カラムデコーダ34が接続されている。データ書き込み時或いはデータ読み出し時にアクセスされるメモリセルMCは、ロウデコーダ33及びカラムデコーダ34によって選択される。
【0032】
メモリセルMCへのデータの書き込みは、以下のように行われる。まず、データ書き込みを行うメモリセルMCを選択するために、このメモリセルMCに接続されたワード線WLがロウデコーダによって活性化される。これにより、選択トランジスタ31がターンオンする。さらに、選択メモリセルMCに接続されたビット線対BL,/BLがカラムデコーダ34によって選択される。
【0033】
ここで、MTJ素子20には、書き込みデータに応じて、双方向の書き込み電流のうち一方が供給される。具体的には、MTJ素子20に図面の左から右へ書き込み電流を供給する場合、書き込み回路35は、ビット線BLに正の電圧を印加し、ビット線/BLに接地電圧を印加する。また、MTJ素子20に図面の右から左へ書き込み電流を供給する場合、書き込み回路35は、ビット線/BLに正の電圧を印加し、ビット線BLに接地電圧を印加する。このようにして、メモリセルMCにデータ“0”、或いはデータ“1”を書き込むことができる。
【0034】
次に、メモリセルMCからのデータ読み出しは、以下のように行われる。まず、書き込みの場合と同様に、選択されたメモリセルMCの選択トランジスタ31がターンオンされる。読み出し回路36は、MTJ素子20に、例えば図面の右から左へ流れる読み出し電流を供給する。この読み出し電流は、スピン注入によって磁化反転する閾値よりも小さい値に設定される。そして、読み出し回路36に含まれるセンスアンプは、読み出し電流に基づいて、MTJ素子20の抵抗値を検出する。このようにして、MTJ素子20に記憶されたデータを読み出すことができる。
【0035】
次に、MRAMの構造例について図16に基づいて説明する。P型半導体基板41内には、STI(shallow trench isolation)構造の素子分離絶縁層42が設けられている。素子分離絶縁層42に囲まれた素子領域(活性領域)には、選択トランジスタ31としてのNチャネルMOSトランジスタが設けられている。選択トランジスタ31は、ソース/ドレイン領域としての拡散領域43及び44、拡散領域43及び44間のチャネル領域上に設けられたゲート絶縁膜45、及びゲート絶縁膜45上に設けられたゲート電極46を有する。ゲート電極46は、図15のワード線WLに相当する。
【0036】
拡散領域43上には、コンタクトプラグ47が設けられている。コンタクトプラグ47上には、ビット線/BLが設けられている。拡散領域44上には、コンタクトプラグ48が設けられている。コンタクトプラグ48上には、引き出し電極49が設けられている。引き出し電極49上には、MTJ素子20が設けられている。MTJ素子20上には、ビット線BLが設けられている。半導体基板41とビット線BLとの間は、層間絶縁層50で満たされている。
【0037】
以上、詳述したように、第8実施形態によれば、第1乃至第7実施形態で説明したいずれかのスパッタリングターゲットを用いたスパッタリング成膜によってトンネル障壁層を形成し、そのトンネル障壁層に接する面にそれぞれ磁気記憶層と磁気参照層を形成することを特徴とする磁気トンネル接合素子の製造方法を提供する。
また、各々に磁気トンネル接合素子を含む複数のメモリセルを有し、メモリセルへのデータの書き込み及びメモリセルからのデータの読み出しを行う磁気メモリの製造方法であって、磁気トンネル接合素子は、第1乃至第7実施形態で説明したいずれかのスパッタリングターゲットを用いたスパッタリング成膜によってトンネル障壁層を形成し、トンネル障壁層に接する面にそれぞれ磁気記憶層と磁気参照層を形成することを特徴とする磁気メモリの製造方法を提供する。
【0038】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0039】
10 ターゲット本体
12 バッキングプレート
14 ホルダ
16 ねじ穴
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MgOを主成分とし、厚さが3mm以下であるターゲット本体を備えることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記スパッタリングターゲットは、磁気トンネル接合素子用であることを特徴とする請求項1記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記ターゲット本体は、バッキングプレートに支持され、ターゲット本体の厚さh1と、バッキングプレートの厚さh2との間に、下記式(1)で示される関係が満たされることを特徴とする請求項1又は2記載のスパッタリングターゲット。
【数1】
【請求項4】
前記バッキングプレートは、ステンレス鋼、Al合金及びW合金のいずれかからなることを特徴とする請求項3記載のスパッタリングターゲット。
【請求項5】
前記ターゲット本体の外径t1と前記ターゲット本体を支持するバッキングプレートの外径t2との間に、下記式(2)で示される関係が満たされることを特徴とする請求項1又は2記載のスパッタリングターゲット。
【数2】
【請求項6】
前記ターゲット本体上面の外縁近傍には、ターゲット本体の上面を露出させた状態で前記スパッタリングターゲットをスパッタリング装置に固定させる冶具を設置させる穴が形成されていることを特徴とする請求項1乃至5いずれか記載のスパッタリングターゲット。
【請求項7】
前記ターゲット本体の外縁近傍の厚さh3と該外縁近傍よりも内側の厚さh1との間に、下記式(3)で示される関係が満たされることを特徴とする請求項1乃至5いずれか記載のスパッタリングターゲット。
【数3】
【請求項8】
前記ターゲット本体の外径t1と前記ターゲット本体を支持するバッキングプレートの外径t2との間に、下記式(4)で示される関係が満たされ、
前記バッキングプレート上面のターゲット本体より外側には、前記スパッタリングターゲットをスパッタリング装置に固定させる冶具を設置させる穴が形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のスパッタリングターゲット。
【数4】
【請求項9】
前記ターゲット本体の外径t1と、前記ターゲット本体を支持するバッキングプレートの外径t2と、ターゲット本体の上面を露出させた状態で前記スパッタリングターゲットをスパッタリング装置に固定させるドーナツ状の冶具の内径t3との間に、下記式(5)で示される関係が満たされ、
前記バッキングプレートの前記ターゲット本体より外側の部位は、前記バッキングプレートの他の部位よりも肉厚に構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のスパッタリングターゲット。
【数5】
【請求項10】
各々に磁気トンネル接合素子を含む複数のメモリセルを有し、前記メモリセルへのデータの書き込み及び前記メモリセルからのデータの読み出しを行う磁気メモリの製造方法であって、前記磁気トンネル接合素子は、請求項1乃至9いずれか記載のスパッタリングターゲットを用いたスパッタリング成膜によってトンネル障壁層を形成し、前記トンネル障壁層に接する面にそれぞれ磁気記憶層と磁気参照層を形成することを特徴とする磁気メモリの製造方法。
【請求項1】
MgOを主成分とし、厚さが3mm以下であるターゲット本体を備えることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記スパッタリングターゲットは、磁気トンネル接合素子用であることを特徴とする請求項1記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記ターゲット本体は、バッキングプレートに支持され、ターゲット本体の厚さh1と、バッキングプレートの厚さh2との間に、下記式(1)で示される関係が満たされることを特徴とする請求項1又は2記載のスパッタリングターゲット。
【数1】
【請求項4】
前記バッキングプレートは、ステンレス鋼、Al合金及びW合金のいずれかからなることを特徴とする請求項3記載のスパッタリングターゲット。
【請求項5】
前記ターゲット本体の外径t1と前記ターゲット本体を支持するバッキングプレートの外径t2との間に、下記式(2)で示される関係が満たされることを特徴とする請求項1又は2記載のスパッタリングターゲット。
【数2】
【請求項6】
前記ターゲット本体上面の外縁近傍には、ターゲット本体の上面を露出させた状態で前記スパッタリングターゲットをスパッタリング装置に固定させる冶具を設置させる穴が形成されていることを特徴とする請求項1乃至5いずれか記載のスパッタリングターゲット。
【請求項7】
前記ターゲット本体の外縁近傍の厚さh3と該外縁近傍よりも内側の厚さh1との間に、下記式(3)で示される関係が満たされることを特徴とする請求項1乃至5いずれか記載のスパッタリングターゲット。
【数3】
【請求項8】
前記ターゲット本体の外径t1と前記ターゲット本体を支持するバッキングプレートの外径t2との間に、下記式(4)で示される関係が満たされ、
前記バッキングプレート上面のターゲット本体より外側には、前記スパッタリングターゲットをスパッタリング装置に固定させる冶具を設置させる穴が形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のスパッタリングターゲット。
【数4】
【請求項9】
前記ターゲット本体の外径t1と、前記ターゲット本体を支持するバッキングプレートの外径t2と、ターゲット本体の上面を露出させた状態で前記スパッタリングターゲットをスパッタリング装置に固定させるドーナツ状の冶具の内径t3との間に、下記式(5)で示される関係が満たされ、
前記バッキングプレートの前記ターゲット本体より外側の部位は、前記バッキングプレートの他の部位よりも肉厚に構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のスパッタリングターゲット。
【数5】
【請求項10】
各々に磁気トンネル接合素子を含む複数のメモリセルを有し、前記メモリセルへのデータの書き込み及び前記メモリセルからのデータの読み出しを行う磁気メモリの製造方法であって、前記磁気トンネル接合素子は、請求項1乃至9いずれか記載のスパッタリングターゲットを用いたスパッタリング成膜によってトンネル障壁層を形成し、前記トンネル障壁層に接する面にそれぞれ磁気記憶層と磁気参照層を形成することを特徴とする磁気メモリの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2013−53324(P2013−53324A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190868(P2011−190868)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000119988)宇部マテリアルズ株式会社 (120)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000119988)宇部マテリアルズ株式会社 (120)
【Fターム(参考)】
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