説明

セラミックス材料、及びその製造方法

【課題】透光性と耐プラズマ性とを併せ持つセラミックス材料、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】窒化アルミニウムと炭化ケイ素との比が少なくとも75:25であり、焼結助剤としてイットリアとフェノール樹脂とを使用して作製されるセラミックス材料は、透光性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化アルミニウムと炭化ケイ素の複合体であるセラミックス材料、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウムや炭化ケイ素などのセラミックス材料は、高い熱伝導性、或いは高い耐熱性などの優れた特性を有するため、半導体の製造装置を構成する部材として用いられる。例えば、窒化アルミニウムは、純度や焼成条件を調整することによって、透光性を発現することが知られている。そのため、窒化アルミニウムは、半導体製造装置のプラズマを発生させる発生部から高周波を導入する部分に設置される窓部の材料や、半導体製造装置のチャンバー内を監視する窓部の材料として使用することができる(特許文献1参照)。
【0003】
半導体の製造プロセスにおいて、例えば、エッチング加工では、ハロゲン系ガスの存在下で高周波を導入してプラズマを発生させる。そのため、静電チャック、サセプタなどのウェハ保持器や、上述した窓部などは、ハロゲン系ガスのプラズマの影響を受けやすく、特に、ハロゲン系ガスのプラズマによって腐食されやすい。
【0004】
そこで、特許文献1では、窒化アルミニウムの表面に酸化アルミニウムや酸化ケイ素などの酸化物層を形成することによって、窒化アルミニウムのプラズマによる腐食に対する耐性(耐プラズマ性という)を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】PCT/JP2005/000791
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示されたように、窒化アルミニウムに酸化アルミニウムや酸化ケイ素などの酸化物層を形成する処理のためのコスト増加が、半導体製品全体のコスト増加に繋がるという問題がある。また、窒化アルミニウムの場合、表面に酸化物層を形成すると、透光性が低下する。
【0007】
そこで、本発明は、半導体製造装置などに適用可能な、透光性と耐プラズマ性とを併せ持つセラミックス材料、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者らは、耐プラズマ性と透光性とを併せ持つセラミックス材料について、鋭意検討した結果、窒化アルミニウムと炭化ケイ素との比が少なくとも75:25であり、焼結助剤としてイットリアとフェノール樹脂とを使用して作製されたセラミックス材料は、透光性を有することを見出した。
【0009】
また、本発明の特徴は、窒化アルミニウムと、前記炭化ケイ素との比が90:10であることを要旨とする。窒化アルミニウムと炭化ケイ素との比が90:10であるとき、比が75:25のときよりも透光性を向上させることができる。
【0010】
また、本発明の特徴は、炭化ケイ素と窒化アルミニウムの複合系であって、焼結助剤としてフェノール樹脂とイットリア(酸化イットリウム)とを用いる。前記フェノール樹脂は、前記炭化ケイ素に対して5〜15重量%、前記イットリアは、前記窒化アルミニウムに対して3〜6重量%の割合で混合されることを要旨とする。フェノール樹脂が5重量%を超えると、焼成工程において炭化し、カーボンとしてセラミックス材料内部に残留するため、透光性が損なわれる原因となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、半導体製造装置に適用可能な、透光性と耐プラズマ性とを併せ持つセラミックス材料、及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るセラミックス材料について説明する。具体的には、(1)セラミックス材料の原料物質、(2)セラミックス材料の製造方法、(3)セラミックス材料の評価、(4)その他の実施形態について説明する。
【0013】
(1)セラミックス材料の原料物質
(1−1)炭化ケイ素
実施形態に係るセラミックス材料の製造に用いることのできる原料物質について説明する。炭化ケイ素粉末は、α型、β型、非晶質、あるいはこれらの混合物等を広く用いることができる。炭化ケイ素粉末は、市販品を用いてもよい。中でもβ型炭化ケイ素粉末が好適に用いられる。炭化ケイ素粉末の粒度は、0.01〜10μm程度である。粒度が0.05〜2μmである炭化ケイ素粉末を使用することもできる。粒径が0.01μm未満であると、計量、混合等の処理工程における取り扱いが困難となり、一方10μmを超えると、粉体の比表面積、即ち、隣接する粉体との接触面積が小さくなり、窒化アルミニウム粉末との均一化が図れないため、好ましくない。
【0014】
高純度の炭化ケイ素粉末を用いると、得られる窒化アルミニウムと炭化ケイ素との複合体も高純度にすることができる。高純度の炭化ケイ素粉末とは、例えば、ケイ素化合物(以下「ケイ素源」という場合がある)と、加熱により炭素を発生する有機材料と、重合触媒または架橋触媒とを混合し、得られた固形物を非酸化性雰囲気中で焼成することにより製造することができる。ケイ素源としては、液状、および固体状の化合物を広く用いることができるが、少なくとも液状の化合物を1種以上用いる。
【0015】
液状のケイ素源としては、アルコキシシラン(モノ−、ジ−、トリ−、テトラ−)の重合体等が挙げられる。アルコキシシランの重合体の中では、テトラアルコキシシランの重合体が好適に用いられる。具体的には、メトキシシラン、エトキシシラン、プロピロキシシラン、ブトキシシラン等が挙げられるが、ハンドリングの点からはエトキシシランが好ましい。テトラアルコキシシラン重合体の重合度は2〜15程度であると液状の低分子量重合体(オリゴマー)となる。その他、重合度が高いケイ酸ポリマーで液状のものもある。
【0016】
液状のケイ素源と併用可能な固体状のケイ素源としては、炭化ケイ素が挙げられる。ここにいう炭化ケイ素には、一酸化ケイ素(SiO)、二酸化ケイ素(SiO)の他、シリカゾル(コロイド状超微細シリカ含有液であって、コロイド分子内にOH基やアルコキシ基を含有するもの)、微細シリカ、石英粉体等も含まれる。これらのケイ素源の中でも、均質性やハンドリング性が良好であるテトラアルコキシシランのオリゴマー、またはテトラアルコキシシランのオリゴマーと微粉体シリカとの混合物等が好ましい。また、これらのケイ素源は高純度であることが好ましく、具体的には初期の不純物含有量が20ppm以下であるのが好ましく、5ppm以下であるのがさらに好ましい。
【0017】
炭素源としては、加熱により炭素を生成する有機材料を用いることができる。炭素源としては、液状のものの他、液状のものと固体状のものを併用することもできる。残炭率が高く、かつ触媒あるいは加熱により重合または架橋する有機材料が好ましい。具体的には、フェノール樹脂、フラン樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、ポリビニルアルコール等のモノマー、およびプレポリマーが好ましい。その他、セルロース、しょ糖、ピッチ、タール等の液状物も用いられる。中でもレゾール型フェノール樹脂が、熱分解性および純度の点で好ましい。有機材料の純度は、目的に応じて適宜、制御すればよい。特に高純度の炭化ケイ素粉末が必要な場合は、不純物元素の含有量が各々5ppm未満である有機材料を用いるのが好ましい。
【0018】
炭素源とケイ素源との配合比率は、炭素とケイ素のモル比(以下「C/Si」と略記する。)を目安に好ましい範囲をあらかじめ決定することができる。ここにいうC/Siとは、炭素源とケイ素源との混合物を1000℃にて炭化した炭化ケイ素中間体を元素分析し、その分析値より得られるC/Siである。炭素は、以下の反応式で表されるように、酸化ケイ素と反応し、炭化ケイ素に変化する。
【0019】
式(I): SiO+3C→SiC+2CO
したがって、化学量論的には、C/Siが3.0であると、炭化ケイ素中間体における遊離炭素は0%になるが、実際にはSiOガス等が揮散するため、C/Siが3.0より低い値であっても遊離炭素が発生する。
【0020】
遊離炭素は、粒成長を抑制する効果を有するので、目的とする粉末粒子の粒径に応じて、C/Siを決定し、その比となるようにケイ素源と炭素源とを配合すればよい。例えば、約1気圧、1600℃以上で、ケイ素源と炭素源との混合物を焼成する場合、C/Siが2.0〜2.5の範囲になるように配合すると、遊離炭素の発生を抑制することができる。同条件で、C/Siが2.5を超えるように配合すると、遊離炭素の発生が顕著となり、粒子の小さな炭化ケイ素粉末が得られる。
【0021】
ケイ素源と炭素源との混合物を硬化させ、固形物にすることもできる。硬化の方法としては、加熱による架橋反応を利用する方法、硬化触媒により硬化する方法、電子線や放射線を利用する方法等がある。硬化触媒は、用いる有機材料に応じて適宜選択できるが、フェノール樹脂、フラン樹脂を有機材料に用いた場合は、トルエンスルホン酸、トルエンカルボン酸、酢酸、蓚酸、塩酸、硫酸等の酸類、ヘキサミン等のアミン類等が挙げられる。
【0022】
ケイ素源と炭素源を含有する固形物は、必要に応じ炭化される。炭化は、窒素またはアルゴン等の非酸化性の雰囲気中800℃〜1000℃にて30〜120分間加熱することにより行われる。さらに、非酸化性雰囲気中1350℃〜2000℃で加熱すると炭化ケイ素が生成する。
【0023】
焼成温度と焼成時間は、得られる炭化ケイ素粉末の粒径等に影響するため、適宜決定すればよいが、1600〜1900℃で焼成すると効率的で好ましい。以上に説明した高純度の炭化ケイ素粉末を得る方法は、特開平9−48605号明細書により詳細に記載されている。
【0024】
(1−2)窒化アルミニウム
窒化アルミニウムは、特に限定されない。例えば、アルミナ還元法、アルミニウムの直接窒化法などにより作製された市販の窒化アルミニウム粉末を使用することができる。窒化アルミニウム粉末の平均粒径は、0.1μm〜10μmである。
【0025】
(2)セラミックス材料の製造方法
窒化アルミニウム粉末と炭化ケイ素粉末とを混合し、スラリー状の混合物を得る。スラリー状混合物は、水、エチルアルコール等の低級アルコール類やエチルエーテル、アセトン等を溶媒として作製することができる。溶媒としては不純物の含有量が低いものを使用することが好ましい。シリコーン等の消泡剤を添加することもできる。スラリー状混合物をスプレードライ等によって乾燥・造粒処理することにより、混合粉体が得られる。
【0026】
また、窒化アルミニウム粉末と炭化ケイ素粉末とからスラリー状の混合物を製造する際に有機バインダーを添加してもよい。有機バインダーとしては、ポリアクリル酸樹脂、解膠剤、粉体粘着剤等が挙げられる。
【0027】
解膠剤としては、導電性を付与する効果をさらに上げる点で窒素系の化合物が好ましく用いられる。例えば、アンモニア、ポリアクリル酸アンモニウム塩等が好適に用いられる。粉体粘着剤としては、ポリビニルアルコール樹脂等が好適に用いられる。
【0028】
更に、スラリー状混合物に、焼結助剤としてイットリア(Y)と非金属系焼結助剤のフェノール樹脂とを添加する。フェノール樹脂としては、レゾール型フェノール樹脂が好ましい。イットリアの添加量は、窒化アルミニウムに対して3〜6重量%、フェノール樹脂の添加量は、炭化ケイ素に対して5〜15重量%とすることができる。
【0029】
非金属系焼結助剤であるフェノール樹脂は、有機溶媒に溶解して用いることもできる。非金属系焼結助剤の溶液と、イットリア、炭化ケイ素粉末及び窒化アルミニウム粉末を混合してもよい。有機溶媒としては、エチルアルコール等の低級アルコール類、アセトンを選択することができる。
【0030】
イットリアとフェノール樹脂とを添加したスラリー状混合物をスプレードライヤーで乾燥・造粒処理して得られた粉体をモールドに充填し、ホットプレスにより焼結する。具体的には、スラリー状混合物をモールドに入れ、モールドを加熱炉内に配置し、炉内を1×10−4torrの真空状態にする。モールドを面圧150kg/cm〜350kg/cmで型押しするとともに加熱する。加熱温度は、1700℃〜2200℃とすることができる。以上のようにして、炭化ケイ素と窒化アルミニウムとが複合されたセラミックス材料が作製される。
【0031】
(3)セラミックス材料の評価
窒化アルミニウム粉末として市販品(株式会社トクヤマ製)を使用し、炭化ケイ素粉末として高純度の炭化ケイ素粉末(株式会社ブリヂストン社製、Pure Beta(登録商標))を使用し、これら窒化アルミニウム粉末と炭化ケイ素粉末との混合比率を変えてスラリー状混合物を作製した。スラリー状混合物のそれぞれに対して、イットリアを窒化アルミニウム粉末に対して4重量%添加し、フェノール樹脂を炭化ケイ素粉末に対して10.5重量%添加した。
【0032】
焼結助剤が添加されたスラリー状混合物をスプレードライヤーで乾燥・造粒処理して得られた粉体を2100℃、200kg/cmで3時間ホットプレスすることにより、各スラリー状混合物からセラミックス材料を作製した。得られたセラミックス材料に対して、気孔率、押し込み荷重、熱伝導率、体積抵抗、耐加水分解性、耐プラズマ性、透光性を測定した。結果を表1に示す。
【0033】
なお、耐プラズマ性は、各セラミックス材料の試料片をバレルタイプのプラズマ発生装置内に配置し、CF/O=100/100sccm、50Pa、500W 1時間の条件でプラズマを試料片に照射したときの単位面積あたりの損耗量(μg/cm)で表した。
【表1】

【0034】
表1に示す結果から、窒化アルミニウムの割合が重量比で75%を超えると、透光性が発現することが判った。また、窒化アルミニウムを90%にすると、透光性が良好になることが判った。また、窒化アルミニウムの割合が90%のとき、最も高い押し込み荷重がかけられることから、透光性が向上されるとともに強度も高められることが判った。
【0035】
(4)その他の実施形態
上記のように本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。
【0036】
実施形態のセラミックス材料の製造方法では、以下の変更が可能である。フェノール樹脂の他、具体的には、残炭化率の高いコールタールピッチ、ピッチタール、フラン樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂の他、各種糖類、例えば、グルコース等の単糖類、しょ糖等の小糖類、セルロース、でんぷん等の多糖類等を使用することもできる。
【0037】
また、炭化ケイ素粉末及び/又は窒化アルミニウム粉末には化学エッチング或いは物理エッチングを施してもよい。
【0038】
以上の開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化アルミニウムと炭化ケイ素とが複合されたセラミックス材料であって、
前記窒化アルミニウムと前記炭化ケイ素との比が少なくとも75:25であり、
焼結助剤としてイットリアとフェノール樹脂とを含むセラミックス材料。
【請求項2】
前記窒化アルミニウムと、前記炭化ケイ素との比が90:10である請求項1に記載のセラミックス材料。
【請求項3】
前記フェノール樹脂は、前記炭化ケイ素に対して5〜15重量%、前記イットリアは、前記窒化アルミニウムに対して3〜6重量%の割合で混合される請求項1又は2に記載のセラミックス材料。
【請求項4】
窒化アルミニウムと炭化ケイ素とが複合されたセラミックス材料の製造方法であって、
前記窒化アルミニウムを含有する原料物質と、前記炭化ケイ素を含む原料物質と、焼結助剤としてイットリアとフェノール樹脂とを混合する工程と、
前記窒化アルミニウムを含有する原料物質と、前記炭化ケイ素を含む原料物質と、前記イットリアと、前記フェノール樹脂とを混合した混合物を焼成する工程と
を有し、
前記窒化アルミニウムを含有する原料物質中における前記窒化アルミニウムと、前記炭化ケイ素を含む原料物質中における前記炭化ケイ素との比が少なくとも75:25であるセラミックス材料の製造方法。
【請求項5】
前記窒化アルミニウムを含有する原料物質中における前記窒化アルミニウムと、前記炭化ケイ素を含む原料物質中における前記炭化ケイ素との比が90:10である請求項4に記載のセラミックス材料の製造方法。

【公開番号】特開2011−219321(P2011−219321A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91491(P2010−91491)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】