チャープ切り替え回路及び光伝送システム
【課題】 本発明は、送信チャープの切り替えに伴う光出力の変動を防止でき、光サージによるエラーの発生を防止できるチャープ切り替え回路及び光伝送システムを提供することを目的とする。
【解決手段】 Y分岐で分岐された2系統の光信号それぞれを変調波で位相変調したのち、X分岐で合波するマッハツェンダ型変調器30と、マッハツェンダ型変調器のX分岐から出力される2系統の光信号をチャープ切り替え信号に応じて合波して切り替える方向性結合器型光スイッチ38を有する。
【解決手段】 Y分岐で分岐された2系統の光信号それぞれを変調波で位相変調したのち、X分岐で合波するマッハツェンダ型変調器30と、マッハツェンダ型変調器のX分岐から出力される2系統の光信号をチャープ切り替え信号に応じて合波して切り替える方向性結合器型光スイッチ38を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チャープ切り替え回路及び光伝送システムに関し、特に、送信チャープを切り替えるチャープ切り替え回路及び光伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
光伝送システムは伝送容量の増大の必要性から、高速化(ビットレートの増加)、そして、1本の光ファイバに複数信号を異なる波長に載せ波長多重化、長距離化という方向で技術開発がすすめられている。
【0003】
高速化がすすむと、信号の変調によるスペクトル広がりが伝送路のもつ分散とあいまって、伝送波形が歪むことにより、その伝送距離が制限される。この波形の歪は、送信部のもつチャープ(時間に依存した波長のシフト)と、伝送路分散及び伝送路のもつ非線形性により発生するチャープの相互関係に依存する。
【0004】
マッハツェンダ(MZ)型変調器は2方向の導波路における位相変調の比率を変えることにより送信器の出力のチャープ(時間に対する波長シフト)を調整することができる。送信器で発生するチャープは、伝送路のもつ分散、チャープとあいまることによりパルス圧縮または広がりを発生させるため、伝送路条件により、ほどよい送信器出力チャープを選ぶことで、分散による伝送距離制限を緩和させることが可能となる。
【0005】
したがって、例えば距離などの伝送路条件が異なる経路に、信号を切り替えるというような場合に、マッハツェンダ型変調器のチャープを切り替えたいという必要性が生じる場合がある。例えば、図1に示すようなリング構成の光伝送システムにおける現用側(ワーク)パスと予備側(プロテクション)パスの切り替えなどである。
【0006】
図1(A),(B)において、リング状に接続されたノード10a〜10fにより光伝送システムが構成されている。各ノード10a〜10fでは光増幅及び分散補償を行っている。送信部11から受信部12に光信号を送信する場合、通常、ノード10bは図1(A)に示すようにノード10aから時計回りにノード10bに至る現用側パスAを選択する。
【0007】
ノード10a,10b間の光伝送路に障害が発生すると、図1(B)に示すようにノード10aから反時計回りにノード10f,10e、10d,10cの経路でノード10bに至る予備側パスBに切り替える。
【0008】
ここで、図2に示すように、パスAにおける残留分散が負であるのに対し、パスBにおける残留分散が正であるものとする。残留分散とチャープの符号の関係は図3に示すように、残留分散が負の場合チャープは正が適しており、残留分散が正の場合チャープは負が適している。このため、パスAからパスBに切り替える場合には、送信チャープを正から負に切り替える必要がある。
【0009】
図4は、従来のマッハツェンダ型光変調器を用いたチャープ切り替え回路の一例の構成図を示す。マッハツェンダ型光変調器は光源15から入力した光をY分岐16で2つの異なる光導波路17,18に分離し、光導波路17,18それぞれで位相を変調し、再びY分岐19で合波させることにより、その位相差を光出力のオン/オフに変換する。図5にマッハツェンダ型光変調器を用いたチャープ切り替え回路の入出力特性と入出力信号波形を示す。マッハツェンダ型光変調器では、高速駆動回路21で入力信号(電気信号)の論理を反転させると同時に、動作点安定化回路22でマッハツェンダ変調器の動作点をシフトさせて送信チャープを反転させている。
【0010】
一方、各ノード10a〜10fの光増幅器はその応答が時間依存性をもつため、入力が変化すると出力が変化し、その変化量が累積していく場合がある。このような光の変動は受信側あるいは途中の経路にある光部品に過負荷を与え、ダメージを与える場合が考えられる。光増幅器をもち、かつ伝送路条件が異なる経路に対するチャープの切り替えを行う場合には、チャープの切り替えに伴う光出力の変動はできるだけ抑制したい。
【0011】
なお、特許文献1には、チャープ極性に合わせて、マッハツェンダ光変調器の動作点を変化させることで、極性が反転されたチャープ光信号を得ることが記載されている。
【特許文献1】特開平11−266200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
マッハツェンダ型光変調器の送信チャープを切り替えるために、入力信号の論理を反転させると同時にマッハツェンダ変調器の動作点をシフトさせる必要がある。マッハツェンダ型光変調器は、図6に示すように、周期的にくりかえす通過特性を有するため、送信チャープの切り替え時に、送信チャープが正(α>0)の状態aから、通過特性のトップ(またはボトム)状態bを通過して、送信チャープが負(α<0)の状態cに遷移することになる。
【0013】
この過程において、送信部の出力は高く(あるいは低く)なることになる。従って、送信チャープの切り替えに伴い必然的に光出力の時間的な変動が発生することになる。この光出力の時間的な変動が、各ノードに光増幅器をもつ光伝送システムに用いられると、図7に示すように、光増幅器の入力変動で光サージが発生し累積することにより、伝送後に受信側でエラーが発生する等の問題があった。
【0014】
あるいは、これを防ぐために 各ノード光増幅器を一旦動作停止させるなどの操作が必要になり、切り替え時間が長くなるという問題があった。
【0015】
本発明は、上記の点に鑑みなされたものであり、送信チャープの切り替えに伴う光出力の変動を防止でき、光サージによるエラーの発生を防止できるチャープ切り替え回路及び光伝送システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一実施態様のチャープ切り替え回路は、Y分岐で分岐された2系統の光信号それぞれを変調波で位相変調したのち、X分岐で合波するマッハツェンダ型変調器と、
前記マッハツェンダ型変調器のX分岐から出力される2系統の光信号を任意に切り替える方向性結合器型光スイッチを有することにより、送信チャープの切り替えに伴う光出力の変動を防止できる。
【0017】
また、前記チャープ切り替え回路において、
前記マッハツェンダ型変調器は、前記チャープ切り替え信号に応じて前記変調波の変調度を変えて前記2系統の光信号の位相変調を行うことによりチャープの絶対値を調整することができる。
【0018】
本発明の一実施態様の光伝送システムは、
現用側パスの経路に異常があった場合に予備側パスに切り替える光伝送システムにおいて、
前記現用側パス及び予備側パスに光信号を送信する送信部に請求項1または2記載のチャープ切り替え回路を設け、
前記現用側パスから予備側パスへの切り替えと同時に、必要に応じて前記チャープ切り替え回路で送信チャープを切り替えることにより、光サージによるエラーの発生を防止できる。
【0019】
また、前記光伝送システムにおいて、
全てのパスの送信チャープの符号が予め設定されている。
【0020】
また、前記チャープ切り替え回路において、
前記マッハツェンダ型変調器及び前記方向性結合器型光スイッチにLiNbO3を用いることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、送信チャープの切り替えに伴う光出力の変動を防止でき、光サージによるエラーの発生を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について説明する。
【0023】
<実施形態>
図8は本発明のチャープ切り替え回路の一実施形態の構成図を示し、図9はそのブロック図を示す。図8及び図9において、マッハツェンダ型光変調器30は光源31から入力した光をY分岐32で2つの異なる光導波路33,34に分離し、光導波路33,34それぞれの位相変調器33a,34aで位相を変調し、再びX分岐35で合波させ、光導波路36,37に導く。光導波路36,37それぞれに進んだ光は方向性結合器型光スイッチ38に入力され、方向性結合器型光スイッチ38から一方の光導波路39に出力される。なお、光導波路40はダミーである。
【0024】
光導波路33,34の位相変調器33a,34aそれぞれには高速駆動回路42から周波数GHzオーダーの変調信号が供給される。高速駆動回路42は、図10に示すように、変調信号とチャープ切り替え信号を供給され、チャープ切り替え信号が値0のとき変調信号を非反転で出力し、チャープ切り替え信号が値1のとき変調信号を反転して出力する論理反転部43と、論理反転部43の出力する変調信号を供給されて増幅し出力するドライバ44から構成されている。また、方向性結合器型光スイッチ38の位相変調器38aにはチャープ切り替え信号が供給される。位相変調器33a,34a及び38aとしては、LiNbO3またはGaInAsP/InPまたはGaN等を用いる。
【0025】
マッハツェンダ型光変調器30のX分岐35から後の2方路の光導波路36,37における光信号は互いに相補する光出力が得られる。つまり、一方がオンの場合にもう一方の出力はオフになる。それに対して、位相はX分岐の両方とも同じになる。従って、位相関係は同一で光の出力は逆転する異なる光出力が得られる。図11にマッハツェンダ型光変調器30の入出力特性と、変調信号及び光導波路33,34出力波形、位相及びチャープ波形を示す。
【0026】
ここで、チャープ量を表わすパラメータであるαパラメータは、光強度S、光の位相φとすると、(1)式で表わされる。
【0027】
α=2・S(δφ/δt)/(δS/δt) …(1)
(1)式において、分母のδS/δtが光導波路36,37出力で逆の関係にあることから、X分岐の2出力のチャープは反転していることがわかる。
【0028】
なお、光導波路33,34それぞれの電界強度をE1(t,z=0),E2(t,z=0)、入力光強度をS0、光導波路33,34それぞれの位相変調効率をηa,ηbとすると、チャープ量αは次のように定義される。なお、ω0は光の角周波数、V(t)は電圧、VπはMZ変調器のVパイ電圧、αMZはMZ型変調器のαパラメータである。
【0029】
【数1】
次に、方向性結合器型光スイッチ38の特性について検討する。方向性結合器型光スイッチ38は2つの光導波路36,37に位相差を生じさせ、その位相差により出力する光導波路の方路を選択するものである。このとき、2方路の出力(光導波路39,40)の光強度の合計は2方路の入力(光導波路36,37)の光強度の合計に等しいという特性をもつ。
【0030】
マッハツェンダ変調器30のX分岐35における2方路の出力(光導波路36,37)を光方向性結合型38の2つの導波路の入力(光導波路36,37)に直結しているため、光導波路39,40の光強度の合計は光導波路36,37の光強度の合計を保った状態(すなわち一定)で、その比率を切り替える動きをするものになる。
【0031】
ここで X分岐35の出力は チャープが反転しているが、平均光出力は同じになる。従って、方向性結合器型光スイッチ38の切り替えの間における一方の光導波路39出力は一定値を保つことができる。すなわち、スイッチを切り替える間の光出力の変動はない。図12に切替え時の光導波路40における光導波路36成分の光強度を破線で示し、光導波路37成分の光強度を実線で示す。
【0032】
光導波路36,37の光強度をIin1,Iin2、光導波路40,39の光強度をIout1,Iout2とし、光方向性結合型38の混合比率をaとすると、以下の式が成立する。
【0033】
Iin1+Iin2=Iout1+Iout2
Iout1=a・Iin1+(1−a)・Iin2
Iout2=(1−a)・Iin1+a・Iin2
ここで、Iin2=Iin1とすると
Iout2=Iin1
ただし、Iin1もIin2も変調信号なので厳密には時間に対して変化しているが、変調速度は十分に速いため平均パワーで議論してよい。
【0034】
図13はチャープ切り替えのシーケンスを示す。時点t1でチャープ切り替え信号の値が0から1(または1から0)に変化する。時点t2で方向性結合器型光スイッチ38は切り替えを開始し、時点t3で論理反転部43は論理反転を開始する。その後、時点t5で論理反転部43は論理反転を終了し、時点t6で方向性結合器型光スイッチ38は切り替えを終了する。なお、時点t2〜t6の時間は例えば10数msec〜数10msecであり、光伝送システムでパス切り替えに許容されている時間内である。
【0035】
このように、上記実施形態においては、光導波路39から出力する光信号の送信チャープを反転させる際に、光信号の強度が時間的な変動を防止することができる。
【0036】
図14を用いて、リング構成の光伝送システムにおける現用側パスと予備側パスの切り替えについて説明する。図14(A),(B)において、リング状に接続されたノード50a〜50fにより光伝送システムが構成されている。各ノード50a〜50fでは光増幅及び分散補償を行っている。送信部51から受信部52に光信号を送信する場合、通常はノード50bにおいて、図14(A)に示すようにノード50aから時計回りにノード50bに至る現用側パスAを選択する。この場合の送信部51における送信チャープαは負である。
【0037】
ノード50a,50b間の光伝送路に障害が発生すると、ノード50bは信号断を検出し、監視制御部(OSC)53を経由してノード50a及び送信部51に通知する。
【0038】
送信部51は送信チャープαを正に切り替え、ノード50aは図14(B)に示すようにノード50aから反時計回りにノード50f,50e、50d,50cの経路でノード50bに至るパスBに切り替える。また、ノード50bにおいて、ノード50aから時計回りにノード50bに至る予備側パスBを選択する。
【0039】
なお、監視制御部53には、全てのパスについて送信チャープの符号は正負のいずれが最適であるかを予め設定されている。
(付記1)
Y分岐で分岐された2系統の光信号それぞれを変調波で位相変調したのち、X分岐で合波するマッハツェンダ型変調器と、
前記マッハツェンダ型変調器のX分岐から出力される2系統の光信号をチャープ切り替え信号に応じて合波して切り替える方向性結合器型光スイッチを
有することを特徴とするチャープ切り替え回路。
(付記2)
付記1記載のチャープ切り替え回路において、
前記マッハツェンダ型変調器は、前記チャープ切り替え信号に応じて前記変調波の変調度を変えて前記2系統の光信号の位相変調を行うことによりチャープの絶対値を調整することを特徴とするチャープ切り替え回路。
(付記3)
現用側パスの経路に異常があった場合に予備側パスに切り替える光伝送システムにおいて、
前記現用側パス及び予備側パスに光信号を送信する送信部に付記1または2記載のチャープ切り替え回路を設け、
前記現用側パスから予備側パスへの切り替えと同時に、必要に応じて前記チャープ切り替え回路で送信チャープを切り替えることを特徴とする光伝送システム。
(付記4)
付記3記載の光伝送システムにおいて、
全てのパスの送信チャープの符号が予め設定されていることを特徴とする光伝送システム。
(付記5)
付記1または2記載のチャープ切り替え回路において、
前記マッハツェンダ型変調器及び前記方向性結合器型光スイッチにLiNbO3を用いたことを特徴とするチャープ切り替え回路。
(付記6)
付記1または2記載のチャープ切り替え回路において、
前記マッハツェンダ型変調器及び前記方向性結合器型光スイッチにGaInAsP/InPを用いたことを特徴とするチャープ切り替え回路。
(付記7)
付記1または2記載のチャープ切り替え回路において、
前記マッハツェンダ型変調器及び前記方向性結合器型光スイッチにGaNを用いたことを特徴とするチャープ切り替え回路。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】従来のリング構成の光伝送システムにおける現用側パスと予備側パスの切り替えを説明するための図である。
【図2】伝送距離と残留分散の関係を示す図である。
【図3】伝送距離とチャープの関係を示す図である。
【図4】従来のマッハツェンダ型光変調器を用いたチャープ切り替え回路の一例の構成図である。
【図5】マッハツェンダ型光変調器を用いたチャープ切り替え回路の入出力特性と入出力信号波形を示す図である。
【図6】従来のチャープ切り替えと出力変動を説明するための図である。
【図7】光増幅器の入力変動による光サージ発生を説明するための図である。
【図8】本発明のチャープ切り替え回路の一実施形態の構成図である。
【図9】本発明のチャープ切り替え回路の一実施形態のブロック図である。
【図10】高速駆動回路の一実施形態のブロック図である。
【図11】マッハツェンダ型光変調器の入出力特性と、変調信号及び光導波路出力波形、位相及びチャープ波形を示す図である。
【図12】方向性結合器型光スイッチの特性を示す図である。
【図13】チャープ切り替えのシーケンスを示す図である。
【図14】リング構成の光伝送システムにおける現用側パスと予備側パスの切り替えを説明するための図である。
【符号の説明】
【0041】
30 マッハツェンダ型光変調器
31 光源
32 Y分岐
33,34,36,37,39 光導波路
35 X分岐
38 方向性結合器型光スイッチ
42 高速駆動回路
43 論理反転部
44 ドライバ
50a〜50f ノード
51 送信部
52 受信部
【技術分野】
【0001】
本発明は、チャープ切り替え回路及び光伝送システムに関し、特に、送信チャープを切り替えるチャープ切り替え回路及び光伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
光伝送システムは伝送容量の増大の必要性から、高速化(ビットレートの増加)、そして、1本の光ファイバに複数信号を異なる波長に載せ波長多重化、長距離化という方向で技術開発がすすめられている。
【0003】
高速化がすすむと、信号の変調によるスペクトル広がりが伝送路のもつ分散とあいまって、伝送波形が歪むことにより、その伝送距離が制限される。この波形の歪は、送信部のもつチャープ(時間に依存した波長のシフト)と、伝送路分散及び伝送路のもつ非線形性により発生するチャープの相互関係に依存する。
【0004】
マッハツェンダ(MZ)型変調器は2方向の導波路における位相変調の比率を変えることにより送信器の出力のチャープ(時間に対する波長シフト)を調整することができる。送信器で発生するチャープは、伝送路のもつ分散、チャープとあいまることによりパルス圧縮または広がりを発生させるため、伝送路条件により、ほどよい送信器出力チャープを選ぶことで、分散による伝送距離制限を緩和させることが可能となる。
【0005】
したがって、例えば距離などの伝送路条件が異なる経路に、信号を切り替えるというような場合に、マッハツェンダ型変調器のチャープを切り替えたいという必要性が生じる場合がある。例えば、図1に示すようなリング構成の光伝送システムにおける現用側(ワーク)パスと予備側(プロテクション)パスの切り替えなどである。
【0006】
図1(A),(B)において、リング状に接続されたノード10a〜10fにより光伝送システムが構成されている。各ノード10a〜10fでは光増幅及び分散補償を行っている。送信部11から受信部12に光信号を送信する場合、通常、ノード10bは図1(A)に示すようにノード10aから時計回りにノード10bに至る現用側パスAを選択する。
【0007】
ノード10a,10b間の光伝送路に障害が発生すると、図1(B)に示すようにノード10aから反時計回りにノード10f,10e、10d,10cの経路でノード10bに至る予備側パスBに切り替える。
【0008】
ここで、図2に示すように、パスAにおける残留分散が負であるのに対し、パスBにおける残留分散が正であるものとする。残留分散とチャープの符号の関係は図3に示すように、残留分散が負の場合チャープは正が適しており、残留分散が正の場合チャープは負が適している。このため、パスAからパスBに切り替える場合には、送信チャープを正から負に切り替える必要がある。
【0009】
図4は、従来のマッハツェンダ型光変調器を用いたチャープ切り替え回路の一例の構成図を示す。マッハツェンダ型光変調器は光源15から入力した光をY分岐16で2つの異なる光導波路17,18に分離し、光導波路17,18それぞれで位相を変調し、再びY分岐19で合波させることにより、その位相差を光出力のオン/オフに変換する。図5にマッハツェンダ型光変調器を用いたチャープ切り替え回路の入出力特性と入出力信号波形を示す。マッハツェンダ型光変調器では、高速駆動回路21で入力信号(電気信号)の論理を反転させると同時に、動作点安定化回路22でマッハツェンダ変調器の動作点をシフトさせて送信チャープを反転させている。
【0010】
一方、各ノード10a〜10fの光増幅器はその応答が時間依存性をもつため、入力が変化すると出力が変化し、その変化量が累積していく場合がある。このような光の変動は受信側あるいは途中の経路にある光部品に過負荷を与え、ダメージを与える場合が考えられる。光増幅器をもち、かつ伝送路条件が異なる経路に対するチャープの切り替えを行う場合には、チャープの切り替えに伴う光出力の変動はできるだけ抑制したい。
【0011】
なお、特許文献1には、チャープ極性に合わせて、マッハツェンダ光変調器の動作点を変化させることで、極性が反転されたチャープ光信号を得ることが記載されている。
【特許文献1】特開平11−266200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
マッハツェンダ型光変調器の送信チャープを切り替えるために、入力信号の論理を反転させると同時にマッハツェンダ変調器の動作点をシフトさせる必要がある。マッハツェンダ型光変調器は、図6に示すように、周期的にくりかえす通過特性を有するため、送信チャープの切り替え時に、送信チャープが正(α>0)の状態aから、通過特性のトップ(またはボトム)状態bを通過して、送信チャープが負(α<0)の状態cに遷移することになる。
【0013】
この過程において、送信部の出力は高く(あるいは低く)なることになる。従って、送信チャープの切り替えに伴い必然的に光出力の時間的な変動が発生することになる。この光出力の時間的な変動が、各ノードに光増幅器をもつ光伝送システムに用いられると、図7に示すように、光増幅器の入力変動で光サージが発生し累積することにより、伝送後に受信側でエラーが発生する等の問題があった。
【0014】
あるいは、これを防ぐために 各ノード光増幅器を一旦動作停止させるなどの操作が必要になり、切り替え時間が長くなるという問題があった。
【0015】
本発明は、上記の点に鑑みなされたものであり、送信チャープの切り替えに伴う光出力の変動を防止でき、光サージによるエラーの発生を防止できるチャープ切り替え回路及び光伝送システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一実施態様のチャープ切り替え回路は、Y分岐で分岐された2系統の光信号それぞれを変調波で位相変調したのち、X分岐で合波するマッハツェンダ型変調器と、
前記マッハツェンダ型変調器のX分岐から出力される2系統の光信号を任意に切り替える方向性結合器型光スイッチを有することにより、送信チャープの切り替えに伴う光出力の変動を防止できる。
【0017】
また、前記チャープ切り替え回路において、
前記マッハツェンダ型変調器は、前記チャープ切り替え信号に応じて前記変調波の変調度を変えて前記2系統の光信号の位相変調を行うことによりチャープの絶対値を調整することができる。
【0018】
本発明の一実施態様の光伝送システムは、
現用側パスの経路に異常があった場合に予備側パスに切り替える光伝送システムにおいて、
前記現用側パス及び予備側パスに光信号を送信する送信部に請求項1または2記載のチャープ切り替え回路を設け、
前記現用側パスから予備側パスへの切り替えと同時に、必要に応じて前記チャープ切り替え回路で送信チャープを切り替えることにより、光サージによるエラーの発生を防止できる。
【0019】
また、前記光伝送システムにおいて、
全てのパスの送信チャープの符号が予め設定されている。
【0020】
また、前記チャープ切り替え回路において、
前記マッハツェンダ型変調器及び前記方向性結合器型光スイッチにLiNbO3を用いることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、送信チャープの切り替えに伴う光出力の変動を防止でき、光サージによるエラーの発生を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について説明する。
【0023】
<実施形態>
図8は本発明のチャープ切り替え回路の一実施形態の構成図を示し、図9はそのブロック図を示す。図8及び図9において、マッハツェンダ型光変調器30は光源31から入力した光をY分岐32で2つの異なる光導波路33,34に分離し、光導波路33,34それぞれの位相変調器33a,34aで位相を変調し、再びX分岐35で合波させ、光導波路36,37に導く。光導波路36,37それぞれに進んだ光は方向性結合器型光スイッチ38に入力され、方向性結合器型光スイッチ38から一方の光導波路39に出力される。なお、光導波路40はダミーである。
【0024】
光導波路33,34の位相変調器33a,34aそれぞれには高速駆動回路42から周波数GHzオーダーの変調信号が供給される。高速駆動回路42は、図10に示すように、変調信号とチャープ切り替え信号を供給され、チャープ切り替え信号が値0のとき変調信号を非反転で出力し、チャープ切り替え信号が値1のとき変調信号を反転して出力する論理反転部43と、論理反転部43の出力する変調信号を供給されて増幅し出力するドライバ44から構成されている。また、方向性結合器型光スイッチ38の位相変調器38aにはチャープ切り替え信号が供給される。位相変調器33a,34a及び38aとしては、LiNbO3またはGaInAsP/InPまたはGaN等を用いる。
【0025】
マッハツェンダ型光変調器30のX分岐35から後の2方路の光導波路36,37における光信号は互いに相補する光出力が得られる。つまり、一方がオンの場合にもう一方の出力はオフになる。それに対して、位相はX分岐の両方とも同じになる。従って、位相関係は同一で光の出力は逆転する異なる光出力が得られる。図11にマッハツェンダ型光変調器30の入出力特性と、変調信号及び光導波路33,34出力波形、位相及びチャープ波形を示す。
【0026】
ここで、チャープ量を表わすパラメータであるαパラメータは、光強度S、光の位相φとすると、(1)式で表わされる。
【0027】
α=2・S(δφ/δt)/(δS/δt) …(1)
(1)式において、分母のδS/δtが光導波路36,37出力で逆の関係にあることから、X分岐の2出力のチャープは反転していることがわかる。
【0028】
なお、光導波路33,34それぞれの電界強度をE1(t,z=0),E2(t,z=0)、入力光強度をS0、光導波路33,34それぞれの位相変調効率をηa,ηbとすると、チャープ量αは次のように定義される。なお、ω0は光の角周波数、V(t)は電圧、VπはMZ変調器のVパイ電圧、αMZはMZ型変調器のαパラメータである。
【0029】
【数1】
次に、方向性結合器型光スイッチ38の特性について検討する。方向性結合器型光スイッチ38は2つの光導波路36,37に位相差を生じさせ、その位相差により出力する光導波路の方路を選択するものである。このとき、2方路の出力(光導波路39,40)の光強度の合計は2方路の入力(光導波路36,37)の光強度の合計に等しいという特性をもつ。
【0030】
マッハツェンダ変調器30のX分岐35における2方路の出力(光導波路36,37)を光方向性結合型38の2つの導波路の入力(光導波路36,37)に直結しているため、光導波路39,40の光強度の合計は光導波路36,37の光強度の合計を保った状態(すなわち一定)で、その比率を切り替える動きをするものになる。
【0031】
ここで X分岐35の出力は チャープが反転しているが、平均光出力は同じになる。従って、方向性結合器型光スイッチ38の切り替えの間における一方の光導波路39出力は一定値を保つことができる。すなわち、スイッチを切り替える間の光出力の変動はない。図12に切替え時の光導波路40における光導波路36成分の光強度を破線で示し、光導波路37成分の光強度を実線で示す。
【0032】
光導波路36,37の光強度をIin1,Iin2、光導波路40,39の光強度をIout1,Iout2とし、光方向性結合型38の混合比率をaとすると、以下の式が成立する。
【0033】
Iin1+Iin2=Iout1+Iout2
Iout1=a・Iin1+(1−a)・Iin2
Iout2=(1−a)・Iin1+a・Iin2
ここで、Iin2=Iin1とすると
Iout2=Iin1
ただし、Iin1もIin2も変調信号なので厳密には時間に対して変化しているが、変調速度は十分に速いため平均パワーで議論してよい。
【0034】
図13はチャープ切り替えのシーケンスを示す。時点t1でチャープ切り替え信号の値が0から1(または1から0)に変化する。時点t2で方向性結合器型光スイッチ38は切り替えを開始し、時点t3で論理反転部43は論理反転を開始する。その後、時点t5で論理反転部43は論理反転を終了し、時点t6で方向性結合器型光スイッチ38は切り替えを終了する。なお、時点t2〜t6の時間は例えば10数msec〜数10msecであり、光伝送システムでパス切り替えに許容されている時間内である。
【0035】
このように、上記実施形態においては、光導波路39から出力する光信号の送信チャープを反転させる際に、光信号の強度が時間的な変動を防止することができる。
【0036】
図14を用いて、リング構成の光伝送システムにおける現用側パスと予備側パスの切り替えについて説明する。図14(A),(B)において、リング状に接続されたノード50a〜50fにより光伝送システムが構成されている。各ノード50a〜50fでは光増幅及び分散補償を行っている。送信部51から受信部52に光信号を送信する場合、通常はノード50bにおいて、図14(A)に示すようにノード50aから時計回りにノード50bに至る現用側パスAを選択する。この場合の送信部51における送信チャープαは負である。
【0037】
ノード50a,50b間の光伝送路に障害が発生すると、ノード50bは信号断を検出し、監視制御部(OSC)53を経由してノード50a及び送信部51に通知する。
【0038】
送信部51は送信チャープαを正に切り替え、ノード50aは図14(B)に示すようにノード50aから反時計回りにノード50f,50e、50d,50cの経路でノード50bに至るパスBに切り替える。また、ノード50bにおいて、ノード50aから時計回りにノード50bに至る予備側パスBを選択する。
【0039】
なお、監視制御部53には、全てのパスについて送信チャープの符号は正負のいずれが最適であるかを予め設定されている。
(付記1)
Y分岐で分岐された2系統の光信号それぞれを変調波で位相変調したのち、X分岐で合波するマッハツェンダ型変調器と、
前記マッハツェンダ型変調器のX分岐から出力される2系統の光信号をチャープ切り替え信号に応じて合波して切り替える方向性結合器型光スイッチを
有することを特徴とするチャープ切り替え回路。
(付記2)
付記1記載のチャープ切り替え回路において、
前記マッハツェンダ型変調器は、前記チャープ切り替え信号に応じて前記変調波の変調度を変えて前記2系統の光信号の位相変調を行うことによりチャープの絶対値を調整することを特徴とするチャープ切り替え回路。
(付記3)
現用側パスの経路に異常があった場合に予備側パスに切り替える光伝送システムにおいて、
前記現用側パス及び予備側パスに光信号を送信する送信部に付記1または2記載のチャープ切り替え回路を設け、
前記現用側パスから予備側パスへの切り替えと同時に、必要に応じて前記チャープ切り替え回路で送信チャープを切り替えることを特徴とする光伝送システム。
(付記4)
付記3記載の光伝送システムにおいて、
全てのパスの送信チャープの符号が予め設定されていることを特徴とする光伝送システム。
(付記5)
付記1または2記載のチャープ切り替え回路において、
前記マッハツェンダ型変調器及び前記方向性結合器型光スイッチにLiNbO3を用いたことを特徴とするチャープ切り替え回路。
(付記6)
付記1または2記載のチャープ切り替え回路において、
前記マッハツェンダ型変調器及び前記方向性結合器型光スイッチにGaInAsP/InPを用いたことを特徴とするチャープ切り替え回路。
(付記7)
付記1または2記載のチャープ切り替え回路において、
前記マッハツェンダ型変調器及び前記方向性結合器型光スイッチにGaNを用いたことを特徴とするチャープ切り替え回路。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】従来のリング構成の光伝送システムにおける現用側パスと予備側パスの切り替えを説明するための図である。
【図2】伝送距離と残留分散の関係を示す図である。
【図3】伝送距離とチャープの関係を示す図である。
【図4】従来のマッハツェンダ型光変調器を用いたチャープ切り替え回路の一例の構成図である。
【図5】マッハツェンダ型光変調器を用いたチャープ切り替え回路の入出力特性と入出力信号波形を示す図である。
【図6】従来のチャープ切り替えと出力変動を説明するための図である。
【図7】光増幅器の入力変動による光サージ発生を説明するための図である。
【図8】本発明のチャープ切り替え回路の一実施形態の構成図である。
【図9】本発明のチャープ切り替え回路の一実施形態のブロック図である。
【図10】高速駆動回路の一実施形態のブロック図である。
【図11】マッハツェンダ型光変調器の入出力特性と、変調信号及び光導波路出力波形、位相及びチャープ波形を示す図である。
【図12】方向性結合器型光スイッチの特性を示す図である。
【図13】チャープ切り替えのシーケンスを示す図である。
【図14】リング構成の光伝送システムにおける現用側パスと予備側パスの切り替えを説明するための図である。
【符号の説明】
【0041】
30 マッハツェンダ型光変調器
31 光源
32 Y分岐
33,34,36,37,39 光導波路
35 X分岐
38 方向性結合器型光スイッチ
42 高速駆動回路
43 論理反転部
44 ドライバ
50a〜50f ノード
51 送信部
52 受信部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Y分岐で分岐された2系統の光信号それぞれを変調波で位相変調したのち、X分岐で合波するマッハツェンダ型変調器と、
前記マッハツェンダ型変調器のX分岐から出力される2系統の光信号をチャープ切り替え信号に応じて合波して切り替える方向性結合器型光スイッチを
有することを特徴とするチャープ切り替え回路。
【請求項2】
請求項1記載のチャープ切り替え回路において、
前記マッハツェンダ型変調器は、前記チャープ切り替え信号に応じて前記変調波の変調度を変えて前記2系統の光信号の位相変調を行うことによりチャープの絶対値を調整することを特徴とするチャープ切り替え回路。
【請求項3】
現用側パスの経路に異常があった場合に予備側パスに切り替える光伝送システムにおいて、
前記現用側パス及び予備側パスに光信号を送信する送信部に請求項1または2記載のチャープ切り替え回路を設け、
前記現用側パスから予備側パスへの切り替えと同時に、必要に応じて前記チャープ切り替え回路で送信チャープを切り替えることを特徴とする光伝送システム。
【請求項4】
請求項3記載の光伝送システムにおいて、
全てのパスの送信チャープの符号が予め設定されていることを特徴とする光伝送システム。
【請求項5】
請求項1または2記載のチャープ切り替え回路において、
前記マッハツェンダ型変調器及び前記方向性結合器型光スイッチにLiNbO3を用いたことを特徴とするチャープ切り替え回路。
【請求項1】
Y分岐で分岐された2系統の光信号それぞれを変調波で位相変調したのち、X分岐で合波するマッハツェンダ型変調器と、
前記マッハツェンダ型変調器のX分岐から出力される2系統の光信号をチャープ切り替え信号に応じて合波して切り替える方向性結合器型光スイッチを
有することを特徴とするチャープ切り替え回路。
【請求項2】
請求項1記載のチャープ切り替え回路において、
前記マッハツェンダ型変調器は、前記チャープ切り替え信号に応じて前記変調波の変調度を変えて前記2系統の光信号の位相変調を行うことによりチャープの絶対値を調整することを特徴とするチャープ切り替え回路。
【請求項3】
現用側パスの経路に異常があった場合に予備側パスに切り替える光伝送システムにおいて、
前記現用側パス及び予備側パスに光信号を送信する送信部に請求項1または2記載のチャープ切り替え回路を設け、
前記現用側パスから予備側パスへの切り替えと同時に、必要に応じて前記チャープ切り替え回路で送信チャープを切り替えることを特徴とする光伝送システム。
【請求項4】
請求項3記載の光伝送システムにおいて、
全てのパスの送信チャープの符号が予め設定されていることを特徴とする光伝送システム。
【請求項5】
請求項1または2記載のチャープ切り替え回路において、
前記マッハツェンダ型変調器及び前記方向性結合器型光スイッチにLiNbO3を用いたことを特徴とするチャープ切り替え回路。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−114307(P2007−114307A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−303362(P2005−303362)
【出願日】平成17年10月18日(2005.10.18)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月18日(2005.10.18)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
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