説明

ディスクブレーキ装置

【課題】ブレーキ液への摩擦熱の伝達を抑制しつつブレーキ鳴きを低減するディスクブレーキ装置を提供すること。
【解決手段】
ディスクロータ2をブレーキパッド6で挟持することで車両に制動力を付与するディスクブレーキ装置において、ディスクロータ2のアウター側摺動面2a2にはディスクロータ摩擦材2cを配置させ、アウターパッド6bには金属パッド6b2を用いた。摩擦材よりも熱伝導性の高い金属パッドを車体外側に設けることによって、摩擦熱の伝熱をブレーキ液から遠ざけることで、ブレーキ液に熱が伝わりにくくした。また、金属パッド6b2が車体外側に設けられるアウターパッド6bに配置させることで、外気に近づくため冷却されやすいため、アウターパッド6bから支持部材4へ伝わる熱が摩擦熱よりも低くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両のブレーキ装置に用いられるディスクブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に用いられるディスクブレーキ装置は、回転するディスクロータのインナー側及びアウター側にブレーキパッドが押し付けられることで、車両に制動力を付与するブレーキ装置である。この種のディスクブレーキ装置は、振動の減衰性が低い金属製のディスクロータを使用し、ディスクロータ及びブレーキパッドの摩擦特性によっては、パッド曲げモード起因の自励振動が発生し、ブレーキ鳴きが発生することがある。

【0003】
これに対して、従来、特許文献1におけるディスクブレーキ装置は、ディスクロータのインナー側及びアウター側に摩擦材を固着し、インナー側及びアウター側の両方のブレーキパッドを金属パッドとする構成である。上記構成のディスクブレーキ装置は、金属製のディスクロータよりも減衰性の高い摩擦材をディスクロータに固着させているため、ディスクロータの振動に対する減衰性が向上し、振動の抑制やブレーキ鳴きが低減されると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−170669
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のディスクブレーキ装置では、インナー側のブレーキパッドに伝熱性が良い金属を使用しているため、制動時に発生した摩擦熱がインナー側のブレーキパッドを介してブレーキ液に伝わりやすい問題がある。
【0006】
上記問題を鑑みて、本発明は、ブレーキ液への摩擦熱の伝達を抑制しつつブレーキ鳴きを低減するディスクブレーキ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために請求項1に記載の発明は、車輪とともに回転する金属製のディスクロータと、ディスクロータのインナー側及びアウター側に押圧されるインナーパッド及びアウターパッドとを備え、ディスクロータのアウター側面に摩擦材が固着され、インナーパッドのライニングには摩擦材が固着され、アウターパッドのライニングには金属パッドが固着され、インナーパッドの摩擦材はディスクロータのインナー側に押圧され、アウターパッドの金属パッドはディスクロータのアウター側の摩擦材に押圧される。
【0008】
上記構成によると、金属より減衰性の高い摩擦材をディスクロータに設けているため、ディスクロータの振動が減衰されやすくなるため、ブレーキ鳴きを抑制することができる。また、アウターパッドに金属パッドが固着されているため、摩擦熱がインナーパッドよりもアウターパッドに伝わりやすい。この時、アウターパッドはインナーパッドよりも外気に近く、外気にさらされやすいため放熱性に優れている。以上により、ディスクロータとインナーパッド及びアウターパッドとの摩擦により発生した摩擦熱はアウターパッドに伝わりやすく、またアウターパッドに伝わった摩擦熱は外気に放出しやすい。さらに摩擦熱はディスクロータからも放熱するため、摩擦熱はブレーキ液に伝わりにくい。なお、インナー側とは車両における車体内側を表し、アウター側とは車両における車体外側を表す。
【0009】
請求項2に記載の発明は、金属パッドのディスクロータ周方向端部は面取りが施されている。
【0010】
上記構成によると、摩擦材に対して金属パッドは摩耗しにくいため、ディスクロータに固着された摩擦材と金属パッドとの摩擦時において、金属パッドの面取りが摩耗によって消失しにくい。摩擦材の面取りは制動時のブレーキ鳴き対策に施されるが、上記構成によると、面取りが消失しにくいためブレーキ鳴き対策の効果が持続する。
【0011】
請求項3に記載の発明は、金属パッドのアウター側に熱電素子を設けている。
【0012】
上記構成によると、アウター側の金属パッドからの放熱を熱電素子によって電気に変換し回収することができるため、摩擦熱を有効利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ディスクブレーキ装置1の概略図
【図2】ディスクロータ2の側面図
【図3】金属パッド6b2の面取りを施した図
【図4】金属板に穴加工を施した断熱材を示した図
【図5】熱電素子を金属パッド6b2で覆った図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明のディスクブレーキ装置1を図面に基づき説明する。図1には本発明を用いたディスクブレーキ装置1の概略図を示してある。ディスクブレーキ装置1はディスクロータ2及びブレーキキャリパ3を備えている。
【0015】
ディスクブレーキ装置1に設けられるディスクロータ2は円板状に形成され、ディスクロータ2の外周部分に設けられる摺動部2aと、この摺動部の内周部分に接合されるハット部2bを有している。ハット部2bが車体に設けられたホイールハブ(図示省略)に固定され、ディスクロータ2は車輪とともに回転する。
【0016】
ブレーキキャリパ3はマウンティング(図示省略)と支持部材4とで構成され、マウンティングは車体に固定され、支持部材4は、マウンティングにディスクロータ2の軸心方向に移動自在に支持されている。また、支持部材4はディスクロータ2を跨ぐように配置される。
【0017】
ブレーキキャリパ3はブレーキパッド6を備えており、ディスクロータ2のインナー側(ディスクロータ2の車体側)にインナーパッド6aが配置されて、アウター側(ディスクロータ2の反車体側)にアウターパッド6bが配置されている。インナーパッド6aがディスクロータ2のインナー側摺動面2a1に、アウターパッド6bがディスクロータ2のアウター側摺動面2a2に押圧されることで車両に制動力が付与される。
【0018】
ブレーキキャリパ3の支持部材4は、インナーパッド6aを作動させるピストン5を1つ備えた浮動型にて構成している。支持部材4は液圧回路(図示省略)と連結したシリンダ部4aを備えており、液圧回路を介してブレーキ液圧がシリンダ部4aに送られる。運転者の制動操作によって発生したブレーキ液圧によって、ピストン5がインナーパッド6aを摺動部2aに押し付ける方向に移動することによって、インナーパッド6aがディスクロータ2のインナー側摺動面2a1に押し付けられる。その押し付けの反力を利用して支持部材4の爪部4bがアウターパッド6bを摺動部2aに押し付ける方向に移動し、アウターパッド6bがディスクロータ2のアウター側摺動面2a2に押し付けられる。これにより、インナーパッド6a及びアウターパッド6bの夫々がディスクロータ2の摺動面2a1及び2a2に押し付けられる。
【0019】
次に、本発明のディスクブレーキ装置1のディスクロータ2及びインナーパッド6a、アウターパッド6bについて説明する。ディスクロータ2は金属製のディスクロータである。図2に示すように、このディスクロータ2に設けられた摺動部2aのアウター側摺動面2a2にはディスクロータ摩擦材2cが固着されている。
【0020】
インナーパッド6aはライニング6a1と摩擦材6a2とによって形成されたブレーキパッドであり、ピストン5によってライニング6a1が押され、摩擦材6a2がディスクロータ2のインナー側摺動面2a1に押し付けられる。アウターパッド6bはライニング6b1と金属パッド6b2とで形成されている。ライニング6b1が支持部材4の爪部4bに押されて、金属パッド6b2がディスクロータ2のインナー側摺動面2a2に設けられたディスクロータ摩擦材2cに押し付けられる。なお、ディスクロータ2及びブレーキパッド6に用いられる摩擦材は、ディスクロータ2及び金属パッド6b2よりも熱伝導率の低い材料を使用する。
【0021】
次に、上記構成のディスクブレーキ装置1の作動について説明する。運転者によってブレーキペダル(図示省略)が踏み込まれると、液圧回路を介してブレーキ液圧がシリンダ部4aに送られる。ピストン5及び支持部材4によってブレーキパッド6がディスクロータ2の摺動部2aに押圧される。この時、ブレーキパッド6がディスクロータ2を挟むように押圧されることになり、ディスクロータ2に摩擦力が働き制動が行われる。
【0022】
制動が繰り返し行われると、ブレーキパッド6とディスクロータ2との摩擦により摩擦熱が生じる。ディスクロータ2及びブレーキパッド6から発生した摩擦熱はブレーキキャリパ3等にも伝わり、ブレーキ液まで伝熱し、ブレーキ液が高温となるとベーパーロック現象が発生する虞がある。
【0023】
本発明はディスクロータ2のアウター側摺動面2a2に摩擦材を固着させ、アウターパッド6bのライニング6b1に金属パッド6b2を固着させている。金属パッド6b2はインナーパッド6a及びディスクロータ2に用いられる摩擦材よりも伝熱性が良く、制動時に発生する摩擦熱は金属パッド6b2に伝わりやすいため、制動時に発生する摩擦熱はインナーパッド6aよりも金属パッド6b2を用いたアウターパッド6bに伝わりやすい。またアウターパッド6bはインナーパッド6aよりも車体の外側に近いため外気にさらされやすく、摩擦熱によって高温となるアウターパッド6bはインナーパッド6aよりも冷めやすい。
【0024】
上記構成によって、制動時に発生する摩擦熱はピストン5から遠いアウターパッド6b側に伝わりやすく、摩擦熱をピストン5、ひいてはブレーキ液から遠ざけることができる。さらにアウターパッド6bに伝わった熱は外気にさらされるため外気に放出しやすい。そのためブレーキキャリパ3の支持部材4を介してピストン5側に伝わる摩擦熱は、制動時に発生する摩擦熱よりも低くなる。さらに摩擦熱はディスクロータ2からも放出するため摩擦熱はブレーキ液に伝わりにくい。
【0025】
また、本発明はディスクロータ2のアウター側摺動面2a2に摩擦材を固着させているため、ディスクロータ2自体の減衰性が向上し、ブレーキ鳴きが抑制される。
アウターパッド6bのライニング6b1に金属パッドを固着させ、アウターパッドに金属パッド6b2を用いているため、アウター側のパッド曲げモードの固有周波数はブレーキ鳴き周波数帯から外れる。これによりパッド曲げモード起因のブレーキ鳴き起振力を下げ、ブレーキ鳴きを抑制することができる。
【0026】
図3に示すように本発明のブレーキパッド6は、ディスクロータ2の周方向端部を面取りする形状(面取り形状6b3)として制動時のブレーキ鳴きを抑制させてもよい。このように金属パッド6b2に面取り形状6b3を施すことで、制動時における面取り部の消失が抑制されるため、制動時のブレーキ鳴きの抑制を維持することができる。
【0027】
さらに本発明におけるアウターパッド6bのライニング6b1を熱電素子7としてもよい。この時、熱電素子7は、金属パッド6b2と支持部材4の爪部4bとの間に設けられるため、制動時に摩擦熱がアウターパッド6bに伝えられたときは、高温の金属パッド6b2と金属パッド6b2より低温の支持部材4とに接触することとなる。上記構成によって金属パッド6b2と支持部材4との温度差を利用し発電させることで、摩擦熱を電気に変換し回収させることができる。
【0028】
ディスクロータ2に熱電素子を設けることで摩擦熱を電気に変換させることも可能だが、回転するディスクロータ2に熱電素子を取り付ける必要があるため、配線などが困難であった。本発明は、ブレーキキャリパ3に備えられたアウターパッド6b側に熱電素子7を設けたため、変換した電気を回収させるための配線等の設置が容易となる。
【0029】
また、熱電素子7自体は、金属パッド6b2よりも熱伝導性が低いため、制動時に発生した摩擦熱が金属パッド6b2から熱電素子7を介して支持部材4に伝わりにくい。そのため、熱電素子7を介したブレーキ液への伝熱が抑制される。
【0030】
また、金属パッド6b2と支持部材4との間に図4に示すような穴加工を施した金属板8を設けても良い。上記構成によると、金属板8の穴加工によって形成された空洞が、断熱効果を有しているため、制動時に発生した摩擦熱が金属パッド6b2から支持部材4へ伝わりにくい。また、図5に示すように、金属パッド6b2で熱電素子7を覆い、ディスクロータ2の金属パッド6b2内側に熱電素子を設け、支持部材4側の金属パッド6b2と熱電素子7との間に空気層を設けても良い。
【符号の説明】
【0031】
1・・・ディスクブレーキ装置
2・・・ディスクロータ
2a・・・摺動部
2a1・・・インナー側摺動面
2a2・・・アウター側摺動面
2b・・・ハット部
2c・・・ディスクロータ摩擦材
3・・・ブレーキキャリパ
4・・・支持部材
4a・・・シリンダ部
4b・・・爪部
5・・・ピストン
6・・・ブレーキパッド
6a・・・インナーパッド
6a1・・・ライニング
6a2・・・摩擦材
6b・・・アウターパッド
6b1・・・ライニング
6b2・・・金属パッド
6b3・・・面取り形状
7・・・熱電素子
8・・・金属板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪とともに回転する金属製のディスクロータと、
前記ディスクロータのインナー側及びアウター側に押圧されるインナーパッド及びアウターパッドとを備え、
前記ディスクロータのアウター側面に摩擦材が固着され、
前記インナーパッドのライニングには摩擦材が固着され、
前記アウターパッドのライニングには金属パッドが固着され、
前記インナーパッドの摩擦材は前記ディスクロータのインナー側に押圧され、
前記アウターパッドの前記金属パッドは前記ディスクロータのアウター側の摩擦材に押圧されることを特徴とするディスクブレーキ装置。
【請求項2】
前記金属パッドのディスクロータ周方向端部は面取りが施されていることを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ装置。
【請求項3】
前記金属パッドのアウター側に熱電素子を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載のディスクブレーキ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−246978(P2012−246978A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118122(P2011−118122)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】