説明

ディスクブレーキ

【課題】パッドピンが不要で、かつピストンがシリンダに対してこじれが難い構成になっているディスクブレーキを提供する。
【解決手段】パッド2とピストン5を備えるディスクブレーキ1であって、パッド2は、ディスクロータに摺接して制動力を生じる摩擦材3と、摩擦材3の裏側に設けられる裏板4を有し、裏板4の裏面には、ピストン5に向けて突出してピストン5に形成された凹部5aに突入する凸部4aが形成されている。そして凸部4aと凹部5aのディスクロータR周方向の隙間Laが、裏板4のディスクロータR周方向の端部4bとトルク受部材6に形成されたトルク受部6bの隙間Lbよりも大きく、制動時に裏板4の端部4bがトルク受部6bに当接する構成になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パッドと、そのパッドをディスクロータに押圧するピストンを備えるディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
ディスクブレーキは、パッドと、パッドをディスクロータに押圧するピストンと、ピストンを収容するシリンダを備えるキャリパを有している。従来、パッドは、パッドピンによってキャリパに吊下げ支持されたり、パッドピンと異なる構造によってキャリパ側に支持されたりする場合がある。例えば、パッドの裏板にピストンに向けて突出するインサートを取付け、そのインサートをピストンの凹部に挿入した構造が知られていた(特許文献1参照)。そのためこの構造によると、パッドピンが不要になる。しかし制動時におけるパッドの移動がピストンによって受け止められるために、ピストンがトルク受部材に形成されたシリンダに対してこじれてしまう。そのためピストンの摺動抵抗が高くなり、パッドがピストンによってディスクロータに対し軸方向に移動し難くなり、これによってパッドのディスクロータに対する引き摺りやブレーキ鳴き等が生じてしまうという問題があった。
【特許文献1】特開平3−272333号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで本発明は、パッドピンが不要で、かつピストンがシリンダに対してこじれが難い構成になっているディスクブレーキを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するために本発明は、各請求項に記載の通りの構成を備えるディスクブレーキであることを特徴とする。すなわち請求項1に記載の発明によると、パッドとピストンを備えるディスクブレーキであって、パッドは、ディスクロータに摺接して制動力を生じる摩擦材と、その摩擦材の裏側に設けられる裏板を有し、裏板の裏面には、ピストンに向けて突出してピストンに形成された凹部に突入する凸部が形成されている。そして凸部と凹部のディスクロータ周方向の隙間が、裏板のディスクロータ周方向の端部とトルク受部材に形成されたトルク受部の隙間よりも大きく、制動時に裏板の端部がトルク受部に当接する構成になっている。
【0005】
したがってパッドは、裏板の凸部がピストンの凹部に突入した状態でピストンとディスクロータの間に配設される。そのためパッドは、凸部と凹部によってピストン側から脱落することが防止される。そのためパッドピンが不要な構成になっている。そしてパッドがピストンによってディスクロータに押し当てられた場合には、パッドの端部がトルク受部材のトルク受部に当接する。裏板とピストンの隙間Laが裏板とトルク受部の隙間Lbよりも大きいことから制動中に裏板とピストンが当接することがないために、パッドのディスクロータに対する引き摺りや、ブレーキ鳴きなどを抑制することができる。
【0006】
請求項2に記載の発明によると、裏板の凸部の外周面とピストンの間には、裏板をピストンに対して位置決めする弾性体が設けられ、弾性体によって凸部がピストンにディスクロータ周方向および径方向に直接当接することを防止する構成になっている。したがってパッドは、弾性体によってピストンに対するがた付きも防止される。さらにパッドは、弾性体によってピストンに対する位置が安定する。すなわち周方向にクリアランスを設けていてもパッドが自重で重力方向にクリアランスがつまって弾性体を介してピストンに対する位置が決定される。そのためピストンに対する挙動が安定し、確実にパッドの端部がトルク受部に当接し、ピストンがシリンダに対してこじれることを防止する。
【0007】
請求項3に記載の発明によると、弾性体は、円柱状に刳り貫かれたピストンの凹部の構成壁面と、その凹部に突入する円柱状または円筒状の凸部の外周面との間に配設されるOリングである。したがって凸部は、弾性体によって凹部に対して軸中心に位置合わせされる。そして弾性体は、Oリングであるために、簡易な構成でかつ簡易に凸部の外周面に取付けられ得る。
【0008】
請求項4に記載の発明によると、弾性体は、ピストンの凹部の端部に形成された面取り部と、裏板の凸部の基端部との間に配設されるOリングである。したがって凸部は、弾性体によって凹部に対して位置合わせされる。そして弾性体は、Oリングであって、簡易な構成になっており、しかも凹部の端部の面取り部に設置されるために、凹部内に挿入する形態等よりも簡易に組付けられ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(実施の形態1)
実施の形態1を図1〜3にしたがって説明する。ディスクブレーキ1は、図1に示すように一対のパッド2と、パッド2をディスクロータRに向けて押圧する一対のピストン5と、制動時にトルクを受けるトルク受部材(キャリパ)6とを有している。
【0010】
トルク受部材6は、車両側の部材に固定され、片持ち梁状にディスクロータRを軸方向に跨いでいる(図1参照)。トルク受部材6の中央には、ロータ径方向に貫通する開口部6cが形成されている。開口部6cの四隅位置には、図1,2に示すように開口部6cからディスクロータR中心側に延出するトルク受部6bが形成されている。トルク受部6bは、パッド2の端部4bに沿って延出して、制動時にパッド2の端部4bが当接される。したがってトルク受部材6によって制動トルクを受け止める。
【0011】
トルク受部材6の車両内側部と車両外側部には、図1に示すようにシリンダ6aが形成されている。シリンダ6aは、トルク受部材6をロータ軸方向に円柱状に刳り貫いて形成されている。そしてシリンダ6a内にピストン5が移動可能に収納される。
【0012】
ピストン5は、図1,2に示すように円柱状であって、一端部に凹部5aを有している。凹部5aは、ピストン5の軸中心に円柱状に刳り貫かれて形成されており、パッド2側に開口している。そして凹部5a内にパッド2に形成された凸部4aが挿入される。
【0013】
パッド2は、図1,2に示すようにディスクロータRに摺接されて摩擦力を生ずる摩擦材3と、摩擦材3の裏側に貼り付けられる裏板4を有している。裏板4は、樹脂製または金属製であって、裏面に凸部4aが一体成形されている。
【0014】
凸部4aは、図2に示すように裏板4の裏面の略中央に円柱状に形成されている。この凸部4aは、ピストン5に向けて突出しており、ピストン5の凹部5aに挿入され、凹部5aの構成壁面との間に隙間を形成する。この隙間は、図3に示すようにロータ周方向(トルク受部6bに垂直する方向)に隙間La(La=La1+La2)、詳しくはロータ周方向両側の隙間合計である隙間Laを有している。これに対して、裏板4の端部4bとトルク受部6bとの隙間は、ロータ周方向(トルク受部6bに垂直する方向)に隙間Lb(Lb=Lb1+Lb2)、詳しくはロータ周方向両側の隙間合計である隙間Lbを有している。
【0015】
これら隙間La,Lbは、La>Lbになるように設定されている。そのためパッド2がピストン5によってディスクロータRに押圧された制動時には、パッド2がディスクロータR周方向に移動して、パッド2がトルク受部6bに当接する。したがって制動トルクがピストン5によって受け止められずに、トルク受部6bによって受け止められる。なお隙間Laは、隙間Lbの1.2倍以上であることが好ましく、より好ましくは3倍以上、5倍以下である。
【0016】
以上のようにしてディスクブレーキ1が形成されている。すなわち図3に示すように凸部4aと凹部5aのディスクロータR周方向の隙間La(La1+La2)が、裏板4の端部4bとトルク受部6bの隙間Lb(Lb1+Lb2)よりも大きく、制動時に裏板4の端部4bがトルク受部6bに当接する構成になっている。
【0017】
したがってパッド2は、図1に示すように裏板4の凸部4aがピストン5の凹部5aに突入した状態でピストン5とディスクロータRの間に配設される。そのためパッド2は、凸部4aと凹部5aによってピストン5側から脱落することが防止される。そのためパッドピンが不要な構成になっている。そしてパッド2がピストン5によってディスクロータRに押し当てられた場合には、パッド2の端部4bがトルク受部材6のトルク受部6bに当接する。そのため凸部4aがピストン5に当たってピストン5がシリンダ6aに対してこじれることを防止する。その結果、パッド2のディスクロータRに対する引き摺りや、ブレーキ鳴きなどを抑制することができる。
【0018】
また裏板4は、図3に示すように裏面に凸部4aを有しているために、凸部4aによって剛性が高くなっている。そのため制動時に発生する摩擦熱によってパッド2が反る量を小さくすることができ、これによってパッド2の偏磨耗を抑制することができる。あるいは凸部4aによって剛性が高くなっているために、パッド2等を小型化にすることもできる。
【0019】
(実施の形態2)
実施の形態2を図4に従って説明する。実施の形態2は、実施の形態1とほぼ同様に形成されているが、図4に示すように弾性体7を有している点において相違している。以下、相違点を中心に実施の形態2について説明する。
【0020】
図4に示すようにディスクブレーキ1は、パッド2とピストン5とトルク受部材6を有している。ピストン5は、凹部5aを有し、パッド2は、裏板4の裏面に凸部4aを有している。そして凸部4aとピストン5の間に弾性体7が設けられている。弾性体7は、ゴム製のOリングであって、ピストン5の凹部5aの構成壁面に形成された溝5bに外周側が嵌め込まれる。そして弾性体7の内周側に凸部4aが嵌め込まれる。したがって凸部4aが凹部5aに対して軸中心に位置決めされ、裏板4がピストン5に対して位置決めされる。そして弾性体7は、制動時に弾性変形して、パッド2の端部4bがトルク受部6bに当接することを許容する。
【0021】
以上のようにして実施の形態2が形成されている。したがってパッド2は、弾性体7によってピストン5に対するがた付きも防止される。さらにパッド2は、弾性体7によってピストン5に対する位置が安定し、ピストン5に対する挙動が安定する。そのため確実にパッド2の端部4bがトルク受部6bに当接し、ピストン5がシリンダに対してこじれることを防止する。
【0022】
また弾性体7は、円柱状に刳り貫かれたピストン5の凹部5aの構成壁面と、凹部5aに突入する円柱状の凸部4aの外周面との間に配設されるOリングである。したがって凸部4aは、弾性体7によって凹部5aに対して軸中心に位置合わせされる。そして弾性体7は、Oリングであるために、簡易な構成でかつ簡易に凸部4aの外周面に取付けられ得る。
【0023】
(実施の形態3)
実施の形態3を図5に従って説明する。実施の形態3は、実施の形態1とほぼ同様に形成されているが、図5に示すように弾性体8を有している点において相違している。以下、相違点を中心に実施の形態3について説明する。
【0024】
図5に示すようにディスクブレーキ1は、パッド2とピストン5とトルク受部材6を有している。ピストン5は、凹部5aを有し、パッド2は、裏板4の裏面に凸部4aを有している。そして凸部4aとピストン5の間に弾性体8が設けられている。弾性体8は、ゴム製のOリングであって、ピストン5の凹部5aの端部に形成された面取り部5cと、凹部5aの基端部の外周面との間に配設されている。したがって凸部4aが凹部5aに対して軸中心になるように位置決めされ、これによって裏板4がピストン5に対して位置決めされる。そして弾性体8は、制動時に弾性変形して、パッド2の端部4bがトルク受部6bに当接することを許容する。
【0025】
以上のようにして実施の形態3が形成されている。したがって弾性体8は、Oリングであって、簡易な構成になっており、しかも凹部5aの端部の面取り部5cに設置されるために、凹部5a内に挿入する形態等よりも簡易に組付けられ得る。
【0026】
(他の実施の形態)
本発明は、実施の形態1〜3に限定されず、以下の形態等であっても良い。
(1)例えば実施の形態1〜3に係るパッド2の凸部4aは、円柱状に形成されていた。しかし凸部が円筒状、角柱状、角筒状等に裏板の裏面から突出する形態であっても良い。
(2)実施の形態1〜3に係るピストン5の凹部5aは、円柱状に刳り貫かれた形態であった。しかし角柱状に刳り貫かれた形態等であっても良い。
(3)実施の形態1〜3に係るディスクブレーキは、一対のパッド2と一対のピストン5を有していた。しかし複数対のパッドと複数対のピストンを有している形態であっても良い。さらには、各パッドが一つのピストンに押圧される形態であっても良いし、各パッドが複数のピストンによって押圧される形態等であっても良い。
(4)実施の形態2,3に係る弾性体7,8は、凸部4aの外周に設けられるOリングであった。しかし弾性体が凸部の周方向の一部とピストンの間に一つまたは複数設けられる形態等であっても良い。
(5)実施の形態2,3に係る弾性体7,8は、ゴム製であったが、弾性に富む樹脂材から成形される形態、あるいはコイルばねから形成される形態等であっても良い。
(6)実施の形態1〜3に記載の凸部4aは、裏板4に一体に形成されていた。しかし凸部が裏板4の本体板部と別体に形成され、該本体板部に接着剤やねじ等によって固定される形態であっても良い。
(7)実施の形態1〜3に係るディスクブレーキは、対向型であって車両内側と外側にピストンを有していた。しかし浮動型のディスクブレーキであって、車両側の部材に取付けられるトルク受部材(マウンティング)と、トルク受部材に移動可能に取付けられるキャリパを有し、キャリパの車両内側部に形成されたシリンダにピストンが収容されている。そしてピストンによって車両内側のパッドをディスクロータに押圧し、その反力にて移動したキャリパの車両外側部に形成された爪によって車両外側に配設されたパッドをディスクロータに押圧し、ピストンの凹部に突入する凸部がパッドの裏板の裏面に形成される形態であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】ディスクブレーキの部分断面上面図である。
【図2】図1のII−II線断面矢視図である。
【図3】ピストンとパッドとトルク受部の断面図である。
【図4】図3に相当する実施の形態2に係るピストンとパッドとトルク受部の断面図である。
【図5】図3に相当する実施の形態3に係るピストンとパッドとトルク受部の断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1・・・ディスクブレーキ
2・・・パッド
3・・・摩擦材
4・・・裏板
4a・・・凸部
4b・・・端部
5・・・ピストン
5a・・・凹部
5c・・・面取り部
6・・・トルク受部材
6a・・・シリンダ
6b・・・トルク受部
7,8・・・弾性体
R・・・ディスクロータ
La,Lb・・・隙間



【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッド(2)と、そのパッド(2)をディスクロータ(R)に押圧するピストン(5)を備えるディスクブレーキ(1)であって、
前記パッド(2)は、前記ディスクロータ(R)に摺接して制動力を生じる摩擦材(3)と、その摩擦材(3)の裏側に設けられる裏板(4)を有し、前記裏板(4)の裏面には、前記ピストン(5)に向けて突出して前記ピストン(5)に形成された凹部(5a)に突入する凸部(4a)が形成され、
前記凸部(4a)と前記凹部(5a)のディスクロータ(R)周方向の隙間(La)が、前記裏板(4)のディスクロータ周方向の端部(4b)とトルク受部材(6)に形成されたトルク受部(6b)の隙間(Lb)よりも大きく、制動時に前記裏板(4)の端部(4b)が前記トルク受部(6b)に当接する構成になっていることを特徴とするディスクブレーキ(1)。
【請求項2】
請求項1に記載のディスクブレーキ(1)であって、
裏板(4)の凸部(4a)の外周面とピストン(5)の間には、前記裏板(4)を前記ピストン(5)に対して位置決めする弾性体(7;8)が設けられ、該弾性体(7;8)によって前記凸部(4a)が前記ピストン(5)にディスクロータ周方向および径方向に直接当接することを防止する構成になっていることを特徴とするディスクブレーキ(1)。
【請求項3】
請求項1または2に記載のディスクブレーキ(1)であって、
弾性体(7)は、円柱状に刳り貫かれたピストン(5)の凹部(5a)の構成壁面と、その凹部(5a)に突入する円柱状または円筒状の凸部(4a)の外周面との間に配設されるOリングであることを特徴とするディスクブレーキ(1)。
【請求項4】
請求項1または2に記載のディスクブレーキ(1)であって、
弾性体(8)は、ピストン(5)の凹部(5a)の端部(4b)に形成された面取り部(5c)と、裏板(4)の凸部(4a)の基端部との間に配設されるOリングであることを特徴とするディスクブレーキ(1)。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−275011(P2008−275011A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−116712(P2007−116712)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】