説明

ディスクブレーキ

【課題】パッドのライニング摩耗に拘わらず、板バネがパッドの裏板を押える荷重を一定とすること。
【解決手段】ディスクブレーキ100は、パッド40,50の裏板41,51に当接し同パッドをロータ中心に向けて弾性的に押さえる少なくとも一対のパッド押さえ部72b、72dを有する板バネ70を備えている。各パッド押さえ部72b、72dは板バネ70のロータ軸方向中間部71からそれぞれ各パッドの裏板41、51外周に向けてロータ軸方向に所要量延出していて、各パッド押さえ部72b、72dが各パッドの裏板41、51と係合して弾性変形しているときのロータ軸方向中間部71に対する各パッド押さえ部72b、72dの傾斜角度が各パッドのライニング42、52摩耗量に拘わらず一定であるように、板バネ70が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキに関し、特に、ディスクロータの両側に配設される一対のパッドが挿入される開口部を有するキャリパと、前記開口部をロータ軸方向にて横切るようにして前記各パッドの裏板に形成された各ピン挿通孔と前記キャリパに形成されたピン取付孔に挿通されて前記キャリパに組付けられ前記各パッドをロータ軸方向に移動可能に支持するパッドピンと、このパッドピンまたは前記キャリパに組付けられて前記各パッドの裏板に当接し同パッドをロータ中心に向けて弾性的に押さえる少なくとも一対のパッド押さえ部を有する板バネを備えているディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のディスクブレーキは、例えば、下記特許文献1に示されていて、同ディスクブレーキにおいてパッド押さえ部は、板バネ(付勢部材)のロータ軸方向中間部(本体部分)に対して面一状態(同一平面)で形成されていて、板バネ1の自由状態では、ロータ軸方向中間部1aに対して各パッド押さえ部1bが傾斜角度ゼロで形成されている(図10の仮想線参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−64232号公報
【0004】
上記した特許文献1に記載されているディスクブレーキにおいては、パッド2が新品であってパッド2のライニング摩耗量がゼロである場合、図10の実線にて概略的に示したように、パッド押さえ部1bがパッド2の裏板2aと係合して弾性変形しているときのロータ軸方向中間部1aに対するパッド押さえ部1bの傾斜角度はθ1である。一方、パッド2が交換時期であってパッド2のライニング摩耗量が許容限界量である場合、図10の破線にて概略的に示したように、パッド押さえ部1bがパッド2の裏板2aと係合して弾性変形しているときのロータ軸方向中間部1aに対するパッド押さえ部1bの傾斜角度はθ2(θ2>θ1)である。
【発明の概要】
【0005】
上記した特許文献1に記載されているディスクブレーキでは、図10からも明らかなように、パッド2のライニング摩耗量に拘わらず、パッド2の裏板2aによるパッド押さえ部1bの撓み量δが一定であるため、新品であるパッド2の裏板2aにパッド押さえ部1bから加わる荷重F1に比して、交換時期にあるパッド2の裏板2aにパッド押さえ部1bから加わる荷重F2は大となる。なお、これは、板バネ1のパッド押さえ部1bが片持ち梁であると想定して、モールの定理により各荷重F1,F2を求めることにより検証することが可能である。すなわち、図10のF1は(δ×E×I)/(L1)から算出可能であり、図10のF2は(δ×E×I)/(L2)から算出可能であって、L1>L2であるため、F2>F1となる。上記したEはヤング率であり、Iは断面二次モーメントであり、L1、L2は板バネ1の撓み開始点(板バネ1におけるロータ軸方向中間部1aとパッド押さえ部1bの連結部位)から荷重作用点までの長さである。
【0006】
このため、上記した特許文献1に記載されているディスクブレーキでは、パッドのライニング摩耗が進むに連れて、板バネがパッドの裏板を押える荷重が増加し、板バネとパッドの裏板間の摺動抵抗が増加する。したがって、パッドの戻り作用が悪化して、パッドとディスクロータ間の引き摺りが悪化し、燃費悪化に繋がる。
【0007】
本発明は、上記した課題を解決すべくなされたものであり、ディスクロータの両側に配設される一対のパッドが挿入される開口部を有するキャリパと、前記開口部をロータ軸方向にて横切るようにして前記各パッドの裏板に形成された各ピン挿通孔と前記キャリパに形成されたピン取付孔に挿通されて前記キャリパに組付けられ前記各パッドをロータ軸方向に移動可能に支持するパッドピンと、このパッドピンまたは前記キャリパに組付けられて前記各パッドの裏板に当接し同パッドをロータ中心に向けて弾性的に押さえる少なくとも一対のパッド押さえ部を有する板バネを備えているディスクブレーキにおいて、前記各パッド押さえ部は前記板バネのロータ軸方向中間部からそれぞれ前記各パッドの裏板外周に向けてロータ軸方向に所要量延出していて、前記各パッド押さえ部が前記各パッドの裏板と係合して弾性変形しているときの前記ロータ軸方向中間部に対する前記各パッド押さえ部の傾斜角度は前記各パッドのライニング摩耗量に拘わらず一定であるように、前記板バネが配置されていることに特徴がある。
【0008】
この場合において、前記パッドピンは、ロータ周方向にて所定量離間して前記キャリパに組付けられた一対のパッドピンであり、前記板バネは、前記一対のパッドピンを相互に近接あるいは離間方向に付勢して前記各パッドピンを前記キャリパの各ピン取付孔の壁面に弾性的に押し当てる一対のアーム部を有していることも可能である。また、前記各パッド押さえ部は、前記板バネの自由状態で前記ロータ軸方向中間部との連結部位にてロータ中心方向に所定の屈曲角で屈曲形成されていることも可能である。
【0009】
本発明によるディスクブレーキでは、各パッド押さえ部が各パッドの裏板と係合して弾性変形しているときのロータ軸方向中間部に対する各パッド押さえ部の傾斜角度は各パッドのライニング摩耗量に拘わらず一定であるように、板バネが配置されているため、パッドが新品である場合のパッドの裏板によるパッド押さえ部の撓み量(図9のδ1参照)がパッドが交換時期である場合のパッドの裏板によるパッド押さえ部の撓み量(図9のδ2参照)に比して大きくなる。
【0010】
このため、板バネの自由状態におけるロータ軸方向中間部に対するパッド押さえ部の形状を適宜に設定することにより、新品であるパッドの裏板にパッド押さえ部から加わる荷重と、交換時期にあるパッドの裏板にパッド押さえ部から加わる荷重を等しく設定することが可能である。したがって、パッドのライニング摩耗に拘わらず、板バネがパッドの裏板を押える荷重を一定とすることが可能であり、板バネとパッドの裏板間の摺動抵抗を一定とすることが可能である。この結果、上記した摺動抵抗によるパッドの戻り作用の悪化を防いで、パッドとディスクロータ間の引き摺りの悪化を抑制することが可能であり、燃費向上を図ることが可能である。
【0011】
本発明の実施に際して、前記パッドピンが、ロータ周方向にて所定量離間して前記キャリパに組付けられた一対のパッドピンであり、前記板バネが、前記一対のパッドピンを相互に近接あるいは離間方向に付勢して前記各パッドピンを前記キャリパの各ピン取付孔の壁面に弾性的に押し当てる一対のアーム部を有している場合には、板バネによって、パッドのキャリパに対するガタつき(ラトル)を防止することが可能であるとともに、パッドピンのキャリパに対するガタつき(ラトル)も防止することが可能である。
【0012】
また、本発明の実施に際して、前記各パッド押さえ部が、前記板バネの自由状態で前記ロータ軸方向中間部との連結部位にてロータ中心方向に所定の屈曲角で屈曲形成されている場合には、本発明を板バネのシンプルな形状変更によって実施することができて、安価に実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明によるディスクブレーキの一実施形態を示した側面図である。
【図2】図1に示したディスクブレーキの正面図である。
【図3】図1に示したディスクブレーキの右側ピストンの軸心に沿ってロータ径方向に切断した断面図である。
【図4】図2に示した板バネ単体の拡大正面図である。
【図5】図4に示した板バネ単体の右側面図である。
【図6】図4に示した板バネ単体の底面図である。
【図7】図4の7−7線に沿った断面図である。
【図8】各パッドと板バネの関係を示した作動説明図であり、(a)は各パッドが新品であるときを示し、(b)は各パッドが交換時期であるときを示している。
【図9】図1〜図8に示した実施形態における板バネのロータ軸方向中間部に対するパッド押さえ部の弾性変形と、パッドの裏板にパッド押さえ部から加わる荷重の関係を概略的に示した図である。
【図10】特許文献1に記載されているディスクブレーキにおける板バネのロータ軸方向中間部に対するパッド押さえ部の弾性変形と、パッドの裏板にパッド押さえ部から加わる荷重の関係を概略的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1〜図3は本発明によるディスクブレーキを車両用のピストン対向型(固定型)ディスクブレーキに実施した実施形態を示していて、この実施形態のディスクブレーキ100は、車軸ハブ(図示省略の回転体)に組付けられて車輪(図示省略)と一体的に回転するディスクロータ10と、このディスクロータ10の外周部の一部分を跨ぐようにして配置されるキャリパ20と、このキャリパ20に組付けた4個のピストン31,32,33,34、インナー側ブレーキパッド40、アウター側ブレーキパッド50を備えている。また、ディスクブレーキ100は、キャリパ20に組付けた一対のパッドピン61,62を備えるとともに、これらのパッドピン61,62に組付けた板バネ70を備えている。
【0015】
ディスクロータ10は、図3に示したように、インナー側ブレーキパッド40のライニング42とアウター側ブレーキパッド50のライニング52によって挟持可能な環状の被制動面10a,10bを有している。また、ディスクロータ10は、被制動面10a,10bが制動時にインナー側ブレーキパッド40のライニング42およびアウター側ブレーキパッド50のライニング52によって挟持されることにより、回転を制動されるようになっている。このディスクロータ10は、車輪の前進回転時には、車輪と一体的に図1反時計方向に回転(正回転)し、図1の右方側が回入側(リーディング側)となり、図1の左方側が回出側(トレーリング側)となる。
【0016】
キャリパ20は、図1〜図3に示したように、ディスクロータ10の一部の外周を跨ぐようにして対向するインナーハウジング部21とアウターハウジング部22を備えるとともに、これらを連結する4本の連結ボルト23、24,25,26を備えていて、ディスクロータ10の両側に配設される一対のパッド40、50がロータ径外方から挿入される開口部20aを有している。インナーハウジング部21は、ディスクロータ10のインナー側に配置されていて、一対のシリンダ21a,21b(図2参照)を有している。
【0017】
また、インナーハウジング部21は、パッドピン61,62の先端部が挿通されるピン取付孔21c、21dをロータ径外方端に有している。また、インナーハウジング部21は、ロータ径内方端にてロータ径内方に向けて延びる一対の取付け部21e,21fを有していて、これらの取付け部21e,21fにてボルト(図示省略)を用いて車体側(支持体)に取付けられるように構成されている。一対のシリンダ21a,21bは、図1に示したように、ロータ周方向にて所定の間隔で配置され、図2に示したように、ロータ軸方向に形成されている。なお、インナーハウジング部21には、ブレーキマスタシリンダ(図示省略)に接続される給排ポート21gが設けられている。
【0018】
アウターハウジング部22は、ディスクロータ10のアウター側に配置されていて、インナーハウジング部21のシリンダ21a,21bと同様に、一対のシリンダ22a,22bを有するとともに、インナーハウジング部21のピン取付孔21c、21dと同様に、パッドピン61,62が挿通されるピン取付孔22c、22dをロータ径外方端に有している。(図2参照)。
【0019】
各ピストン31,32,33,34は、図1〜図3に示したように、各シリンダ21a,21b,22a,22bに周知のように液密的かつロータ軸方向に摺動可能に組付けられていて、ディスクロータ10を挟んで対向配置されている。また、各ピストン31,32,33,34は、ディスクロータ10の制動時に、各シリンダ21a,21b,22a,22bとの間に形成される油室Rcにブレーキマスタシリンダ(図示省略)から給排ポート21gに供給される作動油によって押動されて、インナー側ブレーキパッド40,アウター側ブレーキパッド50をディスクロータ10に向けてロータ軸方向に押圧可能である。なお、各油室Rcはキャリパ20に設けた各油路20bを通して互に連通している。
【0020】
インナー側ブレーキパッド40は、裏板41と、この裏板41に固着したライニング42によって構成されている。また、インナー側ブレーキパッド40は、図2および図3に示したように、キャリパ20のインナーハウジング部21側に配置されていて、裏板41に形成された各ピン挿通孔41a、41bにて各パッドピン61,62にロータ軸方向に移動可能に組付けられている。
【0021】
裏板41は、矩形の平板状に形成されていて、その背面にはシムプレート43が組付けられている。ライニング42は、略扇形にてロータ周方向に延びるように形成されていて、ピストン31,32がシムプレート43を介して裏板41を押圧することにより、ディスクロータ10の被制動面10aに摺動可能に圧接してディスクロータ10を制動可能である。
【0022】
アウター側ブレーキパッド50は、裏板51と、この裏板51に固着したライニング52によって構成されている。また、アウター側ブレーキパッド50は、図2および図3に示したように、キャリパ20のアウターハウジング部22側に配置されていて、裏板51に形成された各ピン挿通孔51a、51bにて各パッドピン61,62にロータ軸方向に移動可能に組付けられている。
【0023】
裏板51は、矩形の平板状に形成されていて、その背面にはシムプレート53が組付けられている。ライニング52は、略扇形にてロータ周方向に延びるように形成されていて、ピストン33,34がシムプレート53を介して裏板51を押圧することにより、ディスクロータ10の被制動面10bに摺動可能に圧接してディスクロータ10を制動可能である。
【0024】
各パッドピン61,62は、ロータ周方向にて所定量離間してキャリパ20に組付けられた一対のパッドピンであり、キャリパ20の開口部20aをロータ軸方向にて横切るようにして各パッド40,50の裏板41、51に形成された各ピン挿通孔41a、41b、51a、51bとキャリパ20に形成されたピン取付孔21c、21d、22c、22dに挿通されてキャリパ20に組付けられており、各パッド40、50をロータ軸方向に移動可能に支持している。また、各パッドピン61,62は、アウター側からインナー側に向けて挿通されていて、抜け止めロッド63(中間部がインナーハウジング部21に組付けられ、両端部が各パッドピン61,62の先端部に径方向にて挿通されている。)によって抜け止めされている。なお、回入側(リーディング側)のパッドピン62には、各パッド40,50をロータ軸方向にて所定の付勢力で離間させるための線バネ80が組付けられている。
【0025】
板バネ70は、図2および図3と図4〜図7にて詳細に示したように、略矩形の中央部71を有するとともに、この中央部71からそれぞれ各パッド40、50の裏板41、51外周に向けてロータ軸方向に所要量延出する二対のパッド押さえ部72a、72b、72c、72dと、中央部71からそれぞれ各パッドピン61、62に向けてロータ周方向に延びて各パッドピン61、62に組付けられる一対のアーム部73a、73bを有している。中央部71は、板バネ70のロータ軸方向中間部であり、図3に示したように、ディスクロータ10の軸方向中間部外周に配置されている。
【0026】
各パッド押さえ部72a、72b、72c、72dは、図4〜図7に示したように、板バネ70の自由状態で中央部71との連結部位Aを折り曲げ開始点としてロータ中心方向に所定の屈曲角θで屈曲形成されていて、図2および図3に示したように、各パッドピン61、62に組付けられて各パッド40、50の裏板41、51に当接し、同パッド40、50をロータ中心に向けて弾性的に押さえている。なお、各パッド押さえ部72a、72b、72c、72dの各裏板41、51と摺動可能に係合する部位には、ロータ軸方向に直線状で延びる断面円弧状の突起72a1、72b1、72c1、72d1が形成されている。また、各パッド押さえ部72a、72b、72c、72dには、各裏板41、51の背面に係合可能な突片72a2、72b2、72c2、72d2が形成されている。
【0027】
各アーム部73a、73bは、先端部が円弧状に湾曲した形状に形成されていて、各パッドピン61、62を抱えて弾性的に保持するように構成されている。このため、各パッドピン61、62は、相互に近接方向に付勢されていて、キャリパ20の各ピン取付孔21c、21d、22c、22dの壁面に弾性的に押し当てられている。
【0028】
ところで、この実施形態では、各パッド押さえ部72a、72b、72c、72dが各パッド40、50の裏板41、51と摺動可能に係合して弾性変形しているときの中央部71に対する各パッド押さえ部72a、72b、72c、72dの傾斜角度(板バネ70の自由状態での屈曲角θ)が、図3および図9にて例示したように、各パッド40、50のライニング42、52摩耗量に拘わらず一定(常に傾斜角度ゼロ)であるように、板バネ70が配置されている。すなわち、板バネ70が図1〜図3に示したように組付けられた状態では、各パッド押さえ部72a、72b、72c、72dが中央部71と面一となって、板バネ70の自由状態での屈曲角θがゼロとなる(板バネ70の組付状態では、各パッド押さえ部72a、72b、72c、72dの延出方向が図3に示したディスクロータ10の軸線Loに対して平行となる)ように構成されている。
【0029】
上記のように構成したこの実施形態では、各パッド押さえ部72a、72b、72c、72dが各パッド40、50の裏板41、51と係合して弾性変形しているときの中央部71に対する各パッド押さえ部72a、72b、72c、72dの傾斜角度は各パッド40、50のライニング42、52摩耗量に拘わらず一定であるように、板バネ70が配置されているため、パッド押さえ部72dを例として図10に概略的に示したように、パッド50が新品である場合(図10の実線参照)のパッド50の裏板51によるパッド押さえ部72dの撓み量(δ1)が、パッド50が交換時期である場合(図10の仮想線参照)のパッド50の裏板51によるパッド押さえ部72dの撓み量(δ2)に比して大きくなる。
【0030】
このため、板バネ70の自由状態における中央部71に対するパッド押さえ部72a、72b、72c、72dの形状を適宜に設定することにより、新品であるパッド50の裏板51にパッド押さえ部72dから加わる荷重F1と、交換時期にあるパッド50の裏板51にパッド押さえ部72dから加わる荷重F2を等しく設定することが可能である。なお、図10に示した各荷重F1,F2は、板バネ70のパッド押さえ部72dが片持ち梁であると想定して、モールの定理により求めることが可能である。すなわち、F1は[(δ1)×E×I]/(L1)から算出可能であり、F2は[(δ2)×E×I]/(L2)から算出可能であって、F1=F2となるδ1>δ2を求めて板バネ70の自由状態での屈曲角θを求めることで実施することが可能である。上記したEはヤング率であり、Iは断面二次モーメントであり、L1、L2は板バネ70の連結部位Aから荷重作用点までの長さである。
【0031】
したがって、この実施形態では、パッド40、50のライニング42、52摩耗に拘わらず、板バネ70がパッド40、50の裏板41、51を押える荷重F1、F2を一定とすることが可能であり、板バネ70とパッド40、50の裏板41、51間の摺動抵抗を一定とすることが可能である。この結果、上記した摺動抵抗によるパッド40、50の戻り作用の悪化を防いで、パッド40、50とディスクロータ10間の引き摺りの悪化を抑制することが可能であり、燃費向上を図ることが可能である。
【0032】
また、この実施形態では、パッドピン61,62が、ロータ周方向にて所定量離間してキャリパ20に組付けられた一対のパッドピンであり、板バネ70が、一対のパッドピン61,62を相互に近接方向に付勢して各パッドピン61,62をキャリパ20の各ピン取付孔21c、21d、22c、22dの壁面に弾性的に押し当てる一対のアーム部73a、73bを有している。このため、板バネ70によって、パッド40、50のキャリパ20に対するガタつき(ラトル)を防止することが可能であるとともに、パッドピン61、62のキャリパ20に対するガタつき(ラトル)も防止することが可能である。
【0033】
また、この実施形態では、各パッド押さえ部72a、72b、72c、72dが、板バネ70の自由状態で中央部71との連結部位Aにてロータ中心方向に所定の屈曲角θで屈曲形成されているため、板バネ70のシンプルな形状変更によって実施することができる。したがって、例えば、屈曲角を形成しない板バネをキャリパ20へ装着する場合に比較して、パッドピン61、62、キャリパ20の各部、裏板41、51等の形状や配置関係などを変更することなく、パッドとディスクロータとの間の引き摺りを低減することが可能となる。
【0034】
上記した実施形態においては、板バネ70が一対のパッドピン61、62に組付けられるように構成して本発明を実施したが、板バネがキャリパに組付けられるように構成して本発明を実施することも可能である。また、上記した実施形態においては、板バネ70が二対のパッド押さえ部72a、72b、72c、72dを有する構成として本発明を実施したが、板バネが少なくとも一対のパッド押さえ部を有する構成として本発明を実施することも可能である。
【0035】
また、上記した実施形態においては、板バネ70が一対のパッドピン61、62を相互に近接方向に付勢して各パッドピン61,62をキャリパ20の各ピン取付孔21c、21d、22c、22dの壁面に弾性的に押し当てる一対のアーム部73a、73bを有する構成として本発明を実施したが、板バネが一対のパッドピンを相互に離間方向に付勢して各パッドピンをキャリパの各ピン取付孔の壁面に弾性的に押し当てる一対のアーム部を有する構成として本発明を実施することも可能である。
【0036】
また、上記した実施形態においては、各パッドピン61,62がキャリパ20の各ピン取付孔21c、21d、22c、22dにガタつき可能に挿通される実施形態について説明したが、各パッドピンがキャリパの各ピン取付孔にガタなく挿通される実施形態にも本発明は実施可能である。
【0037】
また、上記した実施形態においては、各パッド押さえ部72a、72b、72c、72dが各パッド40、50の裏板41、51と摺動可能に係合して弾性変形しているとき(板バネ70が図1〜図3に示したように組付けられた状態)の中央部71に対する各パッド押さえ部72a、72b、72c、72dの傾斜角度(板バネ70の自由状態での屈曲角θ)が、図3および図9にて例示したように、各パッド40、50のライニング42、52摩耗量に拘わらず一定(常に傾斜角度ゼロ)であるように、板バネ70が配置されるように構成して本発明を実施したが、本発明の実施に際しては、板バネ(70)の組付状態にて、各パッド押さえ部(72a、72b、72c、72d)の延出方向がディスクロータの軸線(Lo)に対して平行となるように構成すればよく、自由状態での板バネにおける中央部の形状や、この中央部に対する各パッド押さえ部の傾斜角度は適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0038】
100…ディスクブレーキ、10…ディスクロータ、10a,10b…被制動面、20…キャリパ、20a…キャリパの開口部、21…インナーハウジング部、22…アウターハウジング部、21c、21d、22c、22d…ピン取付孔、23,24,25,26…連結ボルト、31,32,33,34…ピストン、40…インナー側ブレーキパッド、50…アウター側ブレーキパッド、41,51…裏板、41a、41b、51a、51b…ピン挿通孔、42,52…ライニング、61,62…パッドピン、70…板バネ、71…中央部(ロータ軸方向中間部)、72a、72b、72c、72d…パッド押さえ部、73a、73b…アーム部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクロータの両側に配設される一対のパッドが挿入される開口部を有するキャリパと、前記開口部をロータ軸方向にて横切るようにして前記各パッドの裏板に形成された各ピン挿通孔と前記キャリパに形成されたピン取付孔に挿通されて前記キャリパに組付けられ前記各パッドをロータ軸方向に移動可能に支持するパッドピンと、このパッドピンまたは前記キャリパに組付けられて前記各パッドの裏板に当接し同パッドをロータ中心に向けて弾性的に押さえる少なくとも一対のパッド押さえ部を有する板バネを備えているディスクブレーキにおいて、
前記各パッド押さえ部は前記板バネのロータ軸方向中間部からそれぞれ前記各パッドの裏板外周に向けてロータ軸方向に所要量延出していて、前記各パッド押さえ部が前記各パッドの裏板と係合して弾性変形しているときの前記ロータ軸方向中間部に対する前記各パッド押さえ部の傾斜角度は前記各パッドのライニング摩耗量に拘わらず一定であるように、前記板バネが配置されていることを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項2】
請求項1に記載のディスクブレーキにおいて、
前記パッドピンは、ロータ周方向にて所定量離間して前記キャリパに組付けられた一対のパッドピンであり、
前記板バネは、前記一対のパッドピンを相互に近接あるいは離間方向に付勢して前記各パッドピンを前記キャリパの各ピン取付孔の壁面に弾性的に押し当てる一対のアーム部を有していることを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のディスクブレーキにおいて、
前記各パッド押さえ部は、前記板バネの自由状態で前記ロータ軸方向中間部との連結部位にてロータ中心方向に所定の屈曲角で屈曲形成されていることを特徴とするディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−21635(P2012−21635A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−162033(P2010−162033)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】