説明

ディスクブレーキ

【課題】摩擦パッドを取付部材側に組付けるときの作業性を向上させる。
【解決手段】取付部材2には、摩擦パッド9を弾性的に支持するパッドスプリング18を設ける。摩擦パッド9には、該摩擦パッド9をディスク1の回転方向に付勢する回転方向付勢部材13を設ける。パッドスプリング18の突出部26は、摩擦パッド9を組付けるときに、摩擦パッド9の突起部10Bのディスク径方向面10B1が径方向付勢部23に当接した状態で、回転方向付勢部材13の第2の延出部17の先端17Aの全幅Wが当接する大きさに形成する。これにより、回転方向付勢部材13を弾性変形させやすくなり、摩擦パッド9を取付部材2に組付けるときの作業性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の車両に制動力を付与するディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車等の車両に設けられるディスクブレーキは、ディスクの外周側を軸方向に跨いで車両の非回転部分に取付けられた取付部材と、該取付部材に凹凸嵌合される突起部を有し、該突起部によりディスクの軸方向に移動可能となった一対の摩擦パッドと、取付部材に摺動可能に設けられたキャリパと、取付部材に取付けられ各摩擦パッドを弾性的に支持するパッドスプリング等とにより構成されている。
【0003】
この場合、摩擦パッドの突起部に回転方向付勢部材を設け、該回転方向付勢部材の先端側をパッドスプリングを介して取付部材側に弾性的に当接させることにより、摩擦パッドをディスクの回転方向出口側(周方向)に向けて付勢する構成としている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−12713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、摩擦パッドを取付部材に組付けるときは、回転方向付勢部材が取付けられた摩擦パッドを、パッドスプリングが取付けられた取付部材に組付ける。このとき、回転方向付勢部材は、摩擦パッドとパッドスプリングとの間で弾性変形させながら組付けるが、パッドスプリングの形状によっては、その作業が面倒になり、組付け時の作業性が低下するという問題がある。
【0006】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、摩擦パッドを取付部材側に組付けるときの作業性を向上することができるようにしたディスクブレーキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため、本発明によるディスクブレーキは、ディスクの外周側を軸方向に跨いで車両の非回転部分に取付けられた取付部材と、該取付部材に凹凸嵌合される突起部を有し、該突起部によりディスクの軸方向に移動可能となった一対の摩擦パッドと、前記取付部材に摺動可能に設けられたキャリパと、前記取付部材に取付けられ前記各摩擦パッドを弾性的に支持するパッドスプリングと、前記各摩擦パッドに設けられ前記パッドスプリングに当接して前記ディスクの回転方向に前記各摩擦パッドを付勢する回転方向付勢部材とを備え、前記回転方向付勢部材は、前記摩擦パッドに固定される取付部と、該取付部に基端側が結合され前記ディスクから離間する方向に延出された第1の延出部と、該第1の延出部の先端側に形成され前記ディスクに近付く方向に向けて折り返される折り返し部と、該折り返し部の先端側から前記ディスクに近付く方向に延びて前記取付部材側に弾性変形状態で弾接する第2の延出部と、を有し、前記パッドスプリングは、前記摩擦パッドの突起部の一方のディスク径方向面が当接し前記摩擦パッドをディスクの径方向に付勢する径方向付勢部と、該径方向付勢部に対向して配置され該径方向付勢部の付勢力によって前記摩擦パッドの突起部の他方のディスク径方向面が当接する支持板部と、該支持板部から前記ディスク径方向に延出し前記摩擦パッドの突起部のディスク回転方向面が対向する対向板部と、該対向板部から前記ディスク離間方向に該対向板部と同一平面で延出して設けられる突出部と、を有し、該突出部は、前記摩擦パッドをパッドスプリングに組付けるときに、前記突起部の一方のディスク径方向面が前記径方向付勢部に当接した状態で前記回転方向付勢部材の前記第2の延出部の先端の全幅が当接する大きさに形成されている構成としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、摩擦パッドを取付部材側に組付けるときの作業性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態によるディスクブレーキを上方からみた平面図である。
【図2】ディスクブレーキを図1中の矢示II−II方向からみた正面図である。
【図3】図1中のキャリパを取外した状態で取付部材、摩擦パッド、パッドスプリング、回転方向付勢部材等を示す一部破断の平面図である。
【図4】図3中のインナ側(上側)の摩擦パッドおよび回転方向付勢部材を取出して図3と同方向からみた平面図である。
【図5】インナ側の摩擦パッドおよび回転方向付勢部材を図4中の矢示V−V方向からみた正面図である。
【図6】回転方向付勢部材を単体で示す斜視図である。
【図7】図3中の左側のパッドスプリングを取出して図3の左方からみた側面図である。
【図8】摩擦パッドを取付部材に組付ける途中の状態のパッドスプリング、摩擦パッド、回転方向付勢部材等を示す図7と同方向からみた側面図である。
【図9】図7中のパッドスプリングを右側からみた正面図である。
【図10】図9中のパッドスプリングを上側からみた平面図である。
【図11】摩擦パッドを取付部材に組付ける途中の状態の摩擦パッド、回転方向付勢部材、パッドスプリング、取付部材等を示す図3と同方向からみた一部破断の平面図である。
【図12】摩擦パッドが取付部材に不完全に組付けられた状態を示す図3と同方向からみた一部破断の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本実施の形態によるディスクブレーキを、図1ないし図12に従って詳細に説明する。
【0011】
図1および図2に示すディスク1は、例えば車両が前進方向に走行するときに車輪(図示せず)と共に図1および図2中の矢示A方向に回転し、車両が後退するときには矢示A方向とは逆方向に回転するものである。
【0012】
キャリアと呼ばれる取付部材2は、車両の非回転部分に取付けられるものである。この取付部材2は、図1ないし図3に示す如く、ディスク1の回転方向(周方向)に離間してディスク1の外周を跨ぐようにディスク1の軸方向に延びた一対の腕部2A,2Aと、該各腕部2Aの基端側を一体化するように連結して設けられ、ディスク1のインナ側となる位置で前記車両の非回転部分に固定される厚肉の支承部2B等とを含んで構成されている。
【0013】
また、取付部材2には、ディスク1のアウタ側となる位置で腕部2A,2Aの先端側を互いに連結する補強ビーム2Cが形成されている。これにより、取付部材2の各腕部2A,2Aは、ディスク1のインナ側で支承部2Bにより一体的に連結されると共に、アウタ側で補強ビーム2Cにより一体的に連結されている。
【0014】
取付部材2の各腕部2Aには、ディスク1の軸方向中間部となる位置にディスク1の外周(回転軌跡)に沿って円弧状に延びるディスクパス部(図示せず)が形成されている。ディスクパス部のディスク1の軸方向両側には、インナ側,アウタ側のパッドガイド3がそれぞれ形成されている。また、各腕部2Aには、ピン穴(図示せず)がそれぞれ設けられている。これらのピン穴内には、後述の摺動ピン6が摺動可能に挿嵌される。
【0015】
各腕部2Aのパッドガイド3は、図2に示す如く断面コ字形状をなす凹溝として形成され、後述の摩擦パッド9が摺動変位する方向、即ちディスク1の軸方向に延びている。パッドガイド3は、後述する摩擦パッド9の突起部10B,10Cを上,下方向(ディスク径方向)から挟むように突起部10B,10Cに対して凹凸嵌合している。
【0016】
これにより、各パッドガイド3は、これらの突起部10B,10Cを介して摩擦パッド9をディスク軸方向にガイドするものである。凹溝からなるパッドガイド3の奥側壁面は、所謂トルク受部としてのトルク受面4を構成している。このトルク受面4は、ブレーキ操作時に発生する制動トルクを摩擦パッド9から突起部10B,10Cを介して受承するものである。
【0017】
即ち、図2中に示す左,右のパッドガイド3,3のうち、矢示A方向に回転するディスク1の回転方向出口側(以下、回出側という)に位置する右側のパッドガイド3、特に、底部側のトルク受面4は、ブレーキ操作時に後述の摩擦パッド9がディスク1から受ける制動トルクを裏板10の突起部10Cおよび、後述するパッドスプリング18の対向板部25を介して受承する。また、矢示A方向に回転するディスク1の回転方向入口側(以下、回入側という)に位置する左側のパッドガイド3の底部側、即ちトルク受面4は、後述の回転方向付勢部材13により摩擦パッド9の突起部10Bから僅かに離間した状態に配置される。
【0018】
キャリパ5は、取付部材2に摺動可能に設けられている。該キャリパ5は、図1に示す如くディスク1の一側であるインナ側に設けられたインナ脚部5Aと、取付部材2の各腕部2A間でディスク1の外周側を跨ぐようにインナ脚部5Aからディスク1の他側であるアウタ側へと延設されたブリッジ部5Bと、該ブリッジ部5Bの先端側であるアウタ側からディスク1の径方向内向きに延び、先端側が二又状をなした爪部としてのアウタ脚部5Cとにより構成されている。
【0019】
そして、キャリパ5のインナ脚部5Aには、ピストン5Dが摺動可能に挿嵌されるシリンダ(図示せず)が形成されている。また、インナ脚部5Aには、図1中の左,右方向に突出する一対の取付部5E,5Eが設けられている。該各取付部5Eは、キャリパ5全体を後述の摺動ピン6を介して取付部材2の各腕部2Aに摺動可能に支持する。
【0020】
摺動ピン6は、図1に示す如くキャリパ5の各取付部5Eにそれぞれボルト7を用いて締結されている。各摺動ピン6の先端側は、取付部材2の各腕部2Aのピン穴に向けて延びており、取付部材2の各ピン穴内に摺動可能に挿嵌されている。各腕部2Aと各摺動ピン6との間には、図1に示す如く保護ブーツ8がそれぞれ取付けられ、摺動ピン6と腕部2Aのピン穴との間に雨水等が浸入するのを防いでいる。
【0021】
インナ側の摩擦パッド9とアウタ側の摩擦パッド9は、ディスク1の両面に対向して配置されている。各摩擦パッド9は、図4および図5に示す如く、ディスク1の周方向(回転方向)に略扇形状をなして延びる平板状の裏板10と、該裏板10の表面10A側に固着して設けられディスク1の表面に摩擦接触する摩擦材としてのライニング11等とにより構成されている。
【0022】
摩擦パッド9の裏板10は、ディスク1の周方向両側に位置する側面部に凸形状をなした突起部10B,10Cを有している。該突起部10B,10Cは、取付部材2のパッドガイド3に凹凸嵌合されるものであり、これにより、摩擦パッド9は、ディスク1の軸方向に移動可能となっている。そして、突起部10B,10Cは、車両のブレーキ操作時にディスク1から摩擦パッド9が受ける制動トルクを取付部材2のトルク受面4に当接して伝達するトルク伝達部を構成するものである。また、裏板10の背面10Dで突起部10B,10Cに対応する部位には、後述の回転方向付勢部材13を固定するための凸部10Eがそれぞれ形成されている。
【0023】
摩擦パッド9(裏板10)の突起部10B,10Cは、例えば図4および図5に示すように左,右対称に形成され、互いに同一の形状をなしている。そして、一方の突起部10Bは、車両の前進時に矢示A方向に回転するディスク1の回転方向入口側(回入側)に配置され、他方の突起部10Cは、ディスク1の回転方向出口側(回出側)に配置される。摩擦パッド9のトルク伝達部となる左,右の突起部10B,10Cのうちディスク1の回入側に位置する突起部10Bには、後述の回転方向付勢部材13が凸部10Eを介して設けられている。
【0024】
裏板10の突起部10Bには、切欠溝12が設けられている。該切欠溝12は、図5に示すように突起部10Bの突出側(先端側)端面を部分的にL字状に切欠くことにより形成され、後述する回転方向付勢部材13の一部を収納するための収納溝を構成している。切欠溝12は、突起部10Bの幅方向(ディスク1の径方向)の中心位置よりも径方向外側寄りとなる位置に配置されている。
【0025】
また、ディスク1の回出側に位置する突起部10Cについても、回入側の突起部10Bと同様に切欠溝12が形成されている。これにより、摩擦パッド9は、ディスク1のインナ側とアウタ側とで部品の共通化を図ることが可能となり、ディスクブレーキの部品点数を削減して、その製造上の煩雑さを解消することが可能となる。
【0026】
各摩擦パッド9に設けられた回転方向付勢部材13は、パッドスプリング18に当接してディスク1の回転方向に各摩擦パッド9を付勢するものである。回転方向付勢部材13は、例えば、弾力性を有するステンレス鋼板等を図6に示すように曲げ加工(プレス成形)することにより形成され、取付部14と、第1の延出部15と、折り返し部16と、第2の延出部17とにより大略構成されている。
【0027】
回転方向付勢部材13の取付部14は、摩擦パッド9に固定される部位であり、裏板10の突起部10Bに差し込み可能な断面コ字状に形成されている。該取付部14は、突起部10Bの厚さ方向を両側から挟持する2つの対向片14A,14Bと、これら両対向片14A,14Bを突起部10Bの厚さ方向で連結する連結片14Cとを有している。
【0028】
そして、取付部14の両対向片14A,14Bのうち裏板10の背面10D側に配置される一方の対向片14Aは、略矩形状に形成され、その中央部には、裏板10(突起部10B)の凸部10Eに例えば締嵌めにより嵌合される嵌合孔14Dが貫通して設けられている。該嵌合孔14Dは、裏板10の凸部10Eの横断面形状と略同様な非円形(例えば、略小判形)な形状を成しており、これにより、裏板10に対する回転方向付勢部材13の位置決め精度の確保および回転方向付勢部材13のがたつき防止を図ることができる。
【0029】
また、対向片14Aのうち連結片14Cが接続された位置からディスク1の径方向内側に外れた部位には、延設片14Eが設けられている。該延設片14Eは、一方の対向片14Aから突起部10Bの先端側に向けて延びると共に、その先端側が突起部10Bの背面10Dに近付く方向に折り曲げられている。この延設片14Eは、例えば、回転方向付勢部材13がディスク1の径方向内側や回入側に向けて傾く傾向となった場合に、突起部10Bの背面10Dに当接して回転方向付勢部材13が裏板10に対してがたつくのを防止するものである。
【0030】
取付部14を構成する連結片14Cは、その一端側が一方の対向片14Aに接続され、裏板10の背面10D側から表面10A側に向けて突起部10Bの切欠溝12を介してディスク1に近付く方向に延出している。そして、裏板10の表面10A側に延出された連結片14Cの他端側は、他方の対向片14Bに接続されている。
【0031】
そして、取付部14を構成する他方の対向片14Bは、連結片14Cの他端側に接続され、該他端側から裏板10の表面10Aに沿って延びている。これら、対向片14A,14Bと連結片14Cとにより取付部14は、略コ字状に形成されて、裏板10の突起部10Bを狭持して回転方向付勢部材13を摩擦パッド9に取付けることができる。
【0032】
回転方向付勢部材13の第1の延出部15は、取付部14に基端側が結合(一体形成)されディスク1から離間する方向に延出するものである。具体的には、第1の延出部15は、一方の対向片14Aのうち嵌合孔14Dを挟んで連結片14Cとは反対側の部位に接続され、裏板10の背面10D側から離れる方向に延びている。
【0033】
回転方向付勢部材13の折り返し部16は、第1の延出部15の先端側に結合(一体形成)され裏板10の背面10D側でディスク1に近付く方向に向けてU字状に折り返されている。
【0034】
回転方向付勢部材13の第2の延出部17は、折り返し部16の先端側からディスク1に近付く方向に延びるものである。第2の延出部17は、摩擦パッド9を取付部材2に組付けたときに、取付部材2のトルク受面4にパッドスプリング18の対向板部25を介して弾性変形状態で弾接する。これにより、摩擦パッド9が車両走行時の振動等でディスク1の周方向にがたつくことを防止することができる。また、緩制動時のブレーキ鳴き(微圧鳴き)を抑制することができる。なお、図6に示す回転方向付勢部材13の仮想線(二点鎖線)は、自由状態(弾性変形していない状態)を示している。
【0035】
取付部材2の各腕部2Aには、一対のパッドスプリング18,18が取付けられている。該各パッドスプリング18は、それぞれインナ側,アウタ側の摩擦パッド9を弾性的に支持すると共に、これらの摩擦パッド9のディスク軸方向における摺動変位を滑らかにするものである。そして、各パッドスプリング18は、例えば、ばね性を有するステンレス鋼板等のばね鋼を図7ないし図10に示すように曲げ加工(プレス成形)することにより形成されている。
【0036】
パッドスプリング18は、後述の連結板部19、平板部20、係合板部21、案内部22を含んで構成されている。なお、パッドスプリング18の各部位に関して、以下の説明では、「上側」、「上面」または「上向き」という語句を、ディスク1の径方向外側、径方向外側の面または径方向外向きを意味するものとして用い、「下側」、「下面」または「下向き」という語句は、ディスク1の径方向内側、径方向内側の面または径方向内向きを意味するものとして用いることとする。
【0037】
パッドスプリング18の連結板部19は、パッドスプリング18の一対の平板部20間を各案内部22と一緒に連結するため、即ち、各案内部22をディスク1のインナ側とアウタ側とで一体的に連結するために、ディスク1の外周側を跨いだ状態で軸方向に延びて形成されている。連結板部19の長さ方向両端側には、一対の平板部20,20がディスク1の径方向内向きに延びて一体に形成されている。係合板部21は、一対の平板部20,20間に位置して連結板部19と一体に形成されている。係合板部21は、腕部2Aのディスクパス部に径方向内側から係合するように取付部材2に取付けられている。これにより、パッドスプリング18は、取付部材2の腕部2Aに対してディスク1の軸方向で位置決めされる。
【0038】
一対の案内部22,22は、連結板部19の両端側に各平板部20を介して設けられている。各案内部22は、平板部20の下側端(先端側)から略コ字状に折り曲げられることにより形成されている。一対の案内部22のうち一方の案内部22は、インナ側のパッドガイド3内に嵌合して取付けられ、他方の案内部22は、アウタ側のパッドガイド3に嵌合して取付けられている。そして、案内部22,22は、径方向付勢部23、支持板部24、対向板部25、突出部26を含んで構成されている。
【0039】
案内部22,22の下面を構成する一対の径方向付勢部23は、摩擦パッド9の突起部10B,10Cの下面側となるディスク径方向面10B1,10C1が当接し、摩擦パッド9をディスク1の径方向外方に付勢するものである。これにより、摩擦パッド9が取付部材2に対してがたつくのを抑えることができる。
【0040】
ここで、径方向付勢部23は、案内部22の下面を構成する下面板23Aと、該下面板23Aからディスク1の軸方向外側へと延びて上向き(即ち、ディスク1の径方向外向き)に略C字状または略U字状に湾曲して折り返すことにより形成されたカール部23Bと、該カール部23Bの先端からディスク1に近付く方向に延びて斜め上向き(即ち、ディスク1の径方向外向き)に傾斜し摩擦パッド9の突起部10B,10Cが当接する延設部23Cとにより構成されている。
【0041】
そして、摩擦パッド9の突起部10B,10Cを案内部22に挿入したときに、径方向付勢部23は、その延設部23Cが摩擦パッド9の突起部10B,10Cと下面板23Aとの間に挟まれるように弾性変形する。この状態で、径方向付勢部23の延設部23Cは、摩擦パッド9(裏板10)の突起部10B,10Cをディスク1の径方向外側に向けて弾性的に付勢し、摩擦パッド9が取付部材2に対してディスク径方向にがたつくのを抑えるものである。
【0042】
案内部22の支持板部24は、径方向付勢部23に対向して配置され、径方向付勢部23の付勢力によって摩擦パッド9の突起部10B,10Cの上面側となるディスク径方向面10B2,10C2が当接するものである。該支持板部24は、平板部20の下端側から90度折り曲がるようにディスク1の回転方向外側に延出するものである。
【0043】
また、支持板部24には、ディスク1の軸方向外側に向けて突出し先端(突出端)側がディスク1の径方向外側へと斜めに傾斜した挿入ガイド部24Aが一体に形成されている。該挿入ガイド部24Aは、摩擦パッド9の突起部10B,10Cを、案内部22の支持板部24と径方向付勢部23との間に挿入するときに、突起部10B,10Cを案内部22の内側に滑らかに案内するために設けられている。
【0044】
対向板部25には、摩擦パッド9の突起部10B,10Cのディスク回転方向面10B3,10C3が対向している。該対向板部25は、支持板部24からディスク径方向内方に延出するものである。そして、対向板部25は、パッドスプリング18を取付部材2に取付けたときに、パッドガイド3の奥側壁面(即ち、トルク受面4)に当接するものである。
【0045】
突出部26は、対向板部25からディスク1の離間方向に対向板部25と同一平面で延出して設けられたもので、その先端側がディスク1の回転方向外側へと斜めに傾斜している。該突出部26は、摩擦パッド9をパッドスプリング18に組付けるときに、突起部10Bの下面側となるディスク径方向面10B1(ないし端縁)が径方向付勢部23に当接した状態で、回転方向付勢部材13の第2の延出部17の先端17Aの全幅Wが当接する大きさに形成されている。
【0046】
具体的には、図7ないし図10に示すように、ディスク1の回転方向に関する突出部26の長さ寸法Bおよびディスク1の径方向に関する突出部26の長さ寸法Cは、摩擦パッド9をパッドスプリング18に組付けるときに、摩擦パッド9の突起部10Bのディスク径方向面10B1を径方向付勢部23に載置させた状態で、回転方向付勢部材13の第2の延出部17の先端17Aの全幅Wが突出部26に当接するように設定されている。これにより、摩擦パッド9を取付部材2に組付けるときに、回転方向付勢部材13の第2の延出部17の先端17Aを突出部26に当接させ易くすることができると共に、この当接させた状態から、摩擦パッド9をディスク1の回転方向外方に向けて押込みながら該摩擦パッド9をディスク1に向けてスライド移動させる作業を容易に行うことができる。
【0047】
即ち、図8および図11に示すように、摩擦パッド9の突起部10Bを径方向付勢部23に載置したときに、回転方向付勢部材13の第2の延出部17を、突出部26に確実に当接させることができる。また、このように当接させた状態から、摩擦パッド9をディスク1の回転方向外方(図11の矢示D方向)に向けて押込みながら、回転方向付勢部材13を弾性変形させつつ、摩擦パッド9を径方向付勢部23の延設部23C上でディスク1に近付く方向(図11の矢示E方向)に向けてスライド移動させることができる。これにより、摩擦パッド9を取付部材2に組付ける作業の作業性を向上させることができる。
【0048】
本実施の形態によるディスクブレーキは、上述の如き構成を有するもので、次にその作動について説明する。
【0049】
まず、車両のブレーキ操作時には、キャリパ5のインナ脚部5A(シリンダ)にブレーキ液圧を供給することによりピストン5Dをディスク1に向けて摺動変位させ、これによって、インナ側の摩擦パッド9をディスク1の一側面に押圧する。このときに、キャリパ5はディスク1からの押圧反力を受けるため、キャリパ5全体が取付部材2の腕部2Aに対してインナ側に摺動変位し、アウタ脚部5Cがアウタ側の摩擦パッド9をディスク1の他側面に押圧する。
【0050】
これにより、インナ側とアウタ側の摩擦パッド9は、図1および図2中の矢示A方向(車両の前進時)に回転しているディスク1を、両者の間で軸方向両側から強く挟持することができ、このディスク1に制動力を与えることができる。そして、ブレーキ操作を解除したときには、ピストン5Dへの液圧供給が停止されることにより、インナ側とアウタ側の摩擦パッド9がディスク1から離間し、再び非制動状態に復帰する。
【0051】
また、このようなブレーキ操作時、解除時(非制動時)には、摩擦パッド9の突起部10B,10Cのうちディスク1の回入側に位置する突起部10Bが、回転方向付勢部材13によって図2中の矢示F方向に付勢され、摩擦パッド9は、ディスク1の回出側(図1中の矢示A方向)に弱い力で常時付勢される。そして、ディスク1の回出側に位置する突起部10Cは、このときの付勢力によりパッドスプリング18の案内部22を介してパッドガイド3のトルク受面4に弾性的に押付けられる。
【0052】
このため、摩擦パッド9が車両走行時の振動等でディスク1の周方向にがたついたりするのを、ディスク回入側の突起部10Bとトルク受面4との間に設けた回転方向付勢部材13により規制することができる。そして、車両前進時のブレーキ操作時には、摩擦パッド9がディスク1から受ける制動トルク(矢示A方向の回転トルク)を、回出側の腕部2A(パッドガイド3のトルク受面4)により受承することができる。
【0053】
これにより、摩擦パッド9のディスク回出側に位置する突起部10Cは、パッドガイド3のトルク受面4に案内部22を介して当接し続ける。しかも、回出側の突起部10Cは、ブレーキ操作前に回転方向付勢部材13の作用により案内部22に当接してクリアランスがない状態となっているので、制動トルクによって摩擦パッド9が移動して異音(ラトル音)を発生してしまうようなことがない。
【0054】
また、摩擦パッド9の突起部10B,10Cは、ディスク1の回入側,回出側に位置するパッドガイド3,3内にパッドスプリング18の案内部22を介して摺動可能に挿嵌され、各径方向付勢部23によってディスク1の径方向外側へと付勢されている。これにより、摩擦パッド9の突起部10B,10Cを案内部22の支持板部24(ディスク1の径方向外側の面)側へと弾性的に押付けることができる。
【0055】
このため、走行時の振動等により摩擦パッド9がディスク1の径方向にがたついたりするのを、パッドスプリング18の径方向付勢部23により規制することができる。そして、ブレーキ操作時には、摩擦パッド9の突起部10B,10Cを案内部22の支持板部24側に摺接させた状態に保持しつつ、インナ側,アウタ側の摩擦パッド9を案内部22に沿ってディスク1の軸方向へと円滑に案内することができる。
【0056】
ところで、ディスクブレーキの組立て作業時には、回転方向付勢部材13を摩擦パッド9の突起部10Bに取付けた状態で、該突起部10Bを取付部材2のパッドガイド3にパッドスプリング18を介して組付ける。このとき、摩擦パッド9の回転方向付勢部材13は、摩擦パッド9の突起部10Bとパッドスプリング18の案内部22との間で弾性変形させた状態で、パッドガイド3に挿嵌する。この場合、回転方向付勢部材13の第2の延出部17の先端17Aが当接するパッドスプリング18の突出部26が小さいと、回転方向付勢部材13の第2の延出部17の先端17Aを突出部26に当接させ難く、組付け時の作業性が低下するという問題がある。
【0057】
そこで、本実施の形態では、パッドスプリング18の突出部26の長さ寸法Bおよび長さ寸法Cを、次のように設定している。即ち、長さ寸法Bおよび長さ寸法Cは、摩擦パッド9をパッドスプリング18に組付けるときに、摩擦パッド9の突起部10Bのディスク径方向面10B1を径方向付勢部23に載置した状態で、回転方向付勢部材13の第2の延出部17の先端17Aの全幅Wが突出部26に当接するように設定している。
【0058】
これにより、摩擦パッド9を取付部材2に組付けるときに、回転方向付勢部材13の第2の延出部17の先端17Aを突出部26に当接させ易くすることができる。また、これと共に、このように当接させた状態から、摩擦パッド9をディスク1の回転方向外方に向けて押込みながら該摩擦パッド9をディスク1に向けてスライド移動させる作業を容易に行うことができる。換言すれば、上述のように突出部26の大きさを設定することにより、該突出部26に第2の延出部17の先端17Aを当接し易くできる。これと共に、回転方向付勢部材13を弾性変形させつつ、第2の延出部17の先端17Aを、突出部26から対向板部25に向けてガイド(案内)し易くすることができる。この結果、摩擦パッド9を取付部材2に組付ける作業の作業性を向上させることができる。
【0059】
しかも、図12に示すように、回転方向付勢部材13が誤った位置関係で組付けられたとき、即ち、回転方向付勢部材13の第1の延出部15と第2の延出部17との間に突出部26が位置するように組付けられたときは、摩擦パッド9が正規の位置に配置される以前に、回転方向付勢部材13の第2の延出部17の内面が突出部26の先端に当接するようにできる。これにより、回転方向付勢部材13が誤った位置関係で組付けられたことを、摩擦パッド9が正規の位置に配置されているか否かにより判定することができる。この結果、例えばディスクブレーキの組立てを行う作業者に、誤組付けであるか否かを分かりやすくすることができ、誤組付けの低減を図ることができる。なお、図12に示す仮想線(二点鎖線)は、摩擦パッド9がパッドスプリング18の案内部22内で正規の位置に挿嵌されたときのライニング11の表面位置を示している。
【0060】
従って、本実施の形態によれば、摩擦パッド9を取付部材2の各パッドガイド4内に組付けるときの作業性を向上させることができ、回転方向付勢部材13の誤組付けに起因したディスクブレーキの不完全組付けの発生を防ぐことができる。
【0061】
なお、前記実施の形態では、コ字形状の凹溝からなるパッドガイド3の奥側壁面によりトルク受部となるトルク受面4を構成する場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限るものではなく、例えばパッドガイドから離間した位置(パッドガイドとは異なる位置)にトルク受けとしてのトルク受面を設ける構成とした型式のディスクブレーキにも適用できるものである。
【0062】
また、前記実施の形態では、回転方向付勢部材13の取付部14は、摩擦パッド9の突起部10Bに差し込み可能な断面コ字状に形成した場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限るものではなく、例えば、取付部を平板状に形成すると共に、該取付部に裏板の凸部とほぼ同形状の凹部を設け、該凹部を裏板の凸部にかしめ付けることにより、回転方向付勢部材を摩擦パッドに取付ける構成としてもよい。
【0063】
また、前記実施の形態では、パッドスプリング18は、ディスク1の径方向に関し、内側に径方向付勢部23を配置すると共に外側に支持板部24を配置する構成とし、摩擦パッド9の突起部10B,10Cをディスク1の径方向外側に向けて弾性的に付勢する場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、径方向付勢部と支持板部との位置関係を、ディスクの径方向に関して逆にしてもよい。即ち、ディスクの径方向に関し、外側に径方向付勢部を配置すると共に内側に支持板部を配置する構成とし、摩擦パッドの突起部をディスク1の径方向内側に向けて弾性的に付勢するものとしてもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 ディスク
2 取付部材
5 キャリパ
9 摩擦パッド
10 裏板
10B,10C 突起部
10B1,10B2,10C1,10C2 ディスク径方向面
10B3,10C3 ディスク回転方向面
13 回転方向付勢部材
14 取付部
15 第1の延出部
16 折り返し部
17 第2の延出部
17A 先端
18 パッドスプリング
22 案内部
23 径方向付勢部
24 支持板部
25 対向板部
26 突出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクの外周側を軸方向に跨いで車両の非回転部分に取付けられた取付部材と、
該取付部材に凹凸嵌合される突起部を有し、該突起部によりディスクの軸方向に移動可能となった一対の摩擦パッドと、
前記取付部材に摺動可能に設けられたキャリパと、
前記取付部材に取付けられ前記各摩擦パッドを弾性的に支持するパッドスプリングと、
前記各摩擦パッドに設けられ前記パッドスプリングに当接して前記ディスクの回転方向に前記各摩擦パッドを付勢する回転方向付勢部材とを備え、
前記回転方向付勢部材は、
前記摩擦パッドに固定される取付部と、
該取付部に基端側が結合され前記ディスクから離間する方向に延出された第1の延出部と、
該第1の延出部の先端側に形成され前記ディスクに近付く方向に向けて折り返される折り返し部と、
該折り返し部の先端側から前記ディスクに近付く方向に延びて前記取付部材側に弾性変形状態で弾接する第2の延出部と、を有し、
前記パッドスプリングは、
前記摩擦パッドの突起部の一方のディスク径方向面が当接し前記摩擦パッドをディスクの径方向に付勢する径方向付勢部と、
該径方向付勢部に対向して配置され該径方向付勢部の付勢力によって前記摩擦パッドの突起部の他方のディスク径方向面が当接する支持板部と、
該支持板部から前記ディスク径方向に延出し前記摩擦パッドの突起部のディスク回転方向面が対向する対向板部と、
該対向板部から前記ディスク離間方向に該対向板部と同一平面で延出して設けられる突出部と、を有し、
該突出部は、前記摩擦パッドをパッドスプリングに組付けるときに、前記突起部の一方のディスク径方向面が前記径方向付勢部に当接した状態で前記回転方向付勢部材の前記第2の延出部の先端の全幅が当接する大きさに形成されていることを特徴とするディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−96481(P2013−96481A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238926(P2011−238926)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】