説明

ドラムブレーキの2ピース形シュー間隙調整装置

【課題】簡易な構造で以ってアジャスト部材の盲動防止機能を向上すること。
【解決手段】ドラムブレーキの2ピース形シュー間隙調整装置において、第2アジャスト部材の一端部に設けた端部調整歯部の谷部が第2のブレーキシューの顎部に係合して回動不能状態を維持するようにコイル部を第2アジャスト部材の第2ねじ軸部に隣接させて両ブレーキシューの間にシューリタンスプリングを張設した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はドラムブレーキの2ピース形シュー間隙調整装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ブレーキシューのライニングの摩耗によってブレーキシューとブレーキドラムとのシュー間隙が増大したとき、シュー間隙を手動で調整するシュー間隙調整装置を備えたドラムブレーキが特許文献1〜6により知られている。
【0003】
一対のブレーキシューのシューウェブの一方の対向端部の間に介挿され、一対のブレーキシューの間に張設されたシューリタンスプリングのばね力を受けて保持されるシュー間隙調整装置は、チューブ状のナット部材と、該ナット部材に螺合したボルト部材との2つの(2ピースの)アジャスト部材で構成され、そのどちらか一方のアジャスト部材の外周に調整歯が一体に形成され、ナット部材及びボルト部材の端部がそれぞれ一対のブレーキシューのシューウェブの一方の対向端部に係合され、調整歯を有する方のアジャスト部材はシューウェブに対して回動可能であり、その調整歯を回動操作することでボルト部材がナット部材から螺出入してその全長を調整することができる。
【0004】
又、外周に調整歯を一体に形成したチューブ状のナット部材と、該ナット部材の一方に螺合したボルト部材と、ナット部材の他方に滑嵌合したシュー係合部材の3つのアジャスト部材で構成され、ボルト部材及びシュー係合部材の端部がそれぞれ一対のブレーキシューのシューウェブの一方の対向端部に回動不能に係合され、調整歯を回動操作することでボルト部材がナット部材から螺出入して全長を調整する3ピース形のシュー間隙調整装置も特許文献3,6の従来技術により知られている。
【0005】
特許文献2〜6に記載された従来の2ピース形、又は3ピース形のシュー間隙調整装置は、シューリタンスプリングのばね力によるボルト部材とナット部材のねじ部の摩擦力以外にナット部材の自由回動(盲動)を防止する手段を有しないため、仮組みしたドラムブレーキの運搬中、或いはドラムブレーキを組付けた車両の搬送中に調整歯を有する方のアジャスト部材が自由回動(盲動)してシュー間隙が大きくなるという問題がある。
【0006】
なお、一対のブレーキシューの間に張設したシューリタンスプリングのコイル部の一部を調整歯の外周に強く押し当たるようにして調整歯を有する方のアジャスト部材の自由回動(盲動)を防止する構造が特許文献1等により知られているが、この盲動防止構造はシュー間隙を調整するときには、シューリタンスプリングによる押圧力が調整歯の外周に作用した状態で調整歯を回動するので、調整作業に大きな力を必要とする問題がある。
【0007】
また、ブレーキの作動時にシューリタンスプリングが伸長する際やブレーキ不作動時の振動により、コイル部と調整歯の外周の小刻みな歯の当接部が摺動して摩耗するおそれがある。
【0008】
従来の2ピース形のシュー間隙調整装置は、ナット部材の中央付近に円盤状の調整歯を一体に形成した構造であるため、その加工は切削やパーツホーマーによる複雑な圧造で製作されてコストが高くつきコストの低減に限界があった。
3ピース形のシュー間隙調整装置は2ピース形と比べて構成部品点数が増えるのでコストが嵩むといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭39−25409号公報(第1図,第4図)
【特許文献2】特公昭43−1061号公報(FIG.1)
【特許文献3】特開2002−21896号公報
【特許文献4】特開2002−21897号公報
【特許文献5】特開2005−344847号公報
【特許文献6】特開平2−309024号公報(第3図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は以上の問題点を解決するためになされたもので、その目的は簡易な構造で以ってアジャスト部材の盲動防止機能を向上できるドラムブレーキの2ピース形シュー間隙調整装置を提供することにある。
さらに本発明の別の目的は、アジャスト部材の回動抵抗を小さくできてシュー間隙調整の作業性を改善できるドラムブレーキのシュー間隙調整装置を提供することにある。
さらに本発明の別の目的は、アジャスト部材の強度および耐久性を向上できるドラムブレーキの2ピース形シュー間隙調整装置を提供することにある。
さらに本発明の別の目的は、製作が容易で製作コストの低減が可能なドラムブレーキの2ピース形シュー間隙調整装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は第1のブレーキシューに対して回動不能に係合する第1アジャスト部材と、第2のブレーキシューに対して回動可能に係合する第2アジャスト部材とを具備し、前記第1アジャスト部材及び第2のブレーキシューを螺合して構成されるドラムブレーキの2ピース形シュー間隙調整装置であって、前記第1アジャスト部材は前記第1のブレーキシューのシューウェブと回動不能に係合するシュー係合溝を形成した第1端部と、該第1端部から続く第1ねじ軸部とを有し、前記第2アジャスト部材は外周に複数の山部と谷部を形成し、前記第2のブレーキシューのシューウェブに係合する端部調整歯部と、該端部調整歯部から続く第2ねじ軸部とを有し、前記第1アジャスト部材の第1ねじ軸部と前記第2アジャスト部材の第2ねじ軸部とが螺出入可能に螺合し、前記第1及び第2のブレーキシューのシューウェブは前記第1アジャスト部材及び前記第2アジャスト部材の各端部を収容する凹溝部を有し、前記第2アジャスト部材の端部調整歯部の最大外径は第2のブレーキシューの凹溝部の溝幅よりも小さく、前記端部調整歯部の谷部は第2のブレーキシューの凹溝部を構成する顎部を収容可能な寸法を有し、前記端部調整歯部の谷部が第2のブレーキシューの顎部に係合して回動不能状態を維持するようにコイル部を前記第2アジャスト部材の第2ねじ軸部に隣接させて前記両ブレーキシューの間にシューリタンスプリングを張設し、前記端部調整歯部の谷部が第2のブレーキシューの顎部の係合を解除するように、前記シューリタンスプリングを変形させたときのみに、前記第2アジャスト部材を第2のブレーキシューに対して回動可能に構成したことを特徴としている。
又、本発明は前記したドラムブレーキの2ピース形シュー間隙調整装置において、前記シューリタンスプリングは前記端部調整歯部の谷部が第2のブレーキシューの顎部を収容する方向に付勢するように前記両ブレーキシューの間に張設したことを特徴としている。
又、本発明は前記した何れかのドラムブレーキの2ピース形シュー間隙調整装置において、前記端部調整歯部の端面に複数の凸部と凹部を設け、前記凹部に第2のブレーキシューのシューウェブを収容して係合可能に構成したことを特徴としている。
又、本発明は前記したドラムブレーキの2ピース形シュー間隙調整装置において、前記端部調整歯部の端面の凸部と凹部の形成数はそれぞれ4以上の偶数であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
(1)本発明によれば、第2アジャスト部材の一端部に設けた端部調整歯部を第2のブレーキシューの顎部に係合して回動不能状態を維持するように両ブレーキシューの間にシューリタンスプリングを張設しただけの簡易な構造で以って、第2アジャスト部材の回動を確実に阻止できるので、シュー間隙調整装置の盲動防止効果が従来と比べて格段によくなる。
(2)シューリタンスプリングのコイル部と端部調整歯部を有する第2アジャスト部材の当接部が滑らかなので、第2アジャスト部材を回動するのに大きな力を必要とせずシュー間隙調整の作業性がよくなる。
(3)第2のブレーキシューの顎部との係合を解除した状態で端部調整歯部の回動操作ができるので、端部調整歯部の外周の山部に何ら干渉するものがない。
(4)端部調整歯部の端面に複数の凸部と凹部を設ければ、トータルのシュー間隙が凸部の高さを超えたときのみに第2アジャスト部材が回動するので、ブレーキドラムを装着したままシュー間隙調整を正確に行える。
(5)端部調整歯部付きの第2アジャスト部材がプレス加工で製作できるので、従来の切削加工やパーツホーマーによる圧造と比べて製造コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例1に係わるシュー間隙調整装置を備えたドラムブレーキの平面図
【図2】図1のドラムブレーキの拡大平面図
【図3】図2のIII−III断面図
【図4】シュー間隙調整装置の分解図
【図5】シュー間隙の調整時におけるドラムブレーキの拡大平面図
【図6】本発明の実施例2に係わるシュー間隙調整装置の全体斜視図
【図7】シュー間隙調整装置の調整ナットの端部調整歯部の端面と第2のブレーキシューのシューウェブの関係を示した端部調整歯部の正面図
【図8】図7のVIII−VIII断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施例1]
以下、図1〜図5を参照しながら本発明の実施例1について説明する。
【0015】
<1>ドラムブレーキの全体構造
図1に2ピース形のシュー間隙調整装置を備えるドラムブレーキの平面図を示し、図2にシュー間隙調整装置付近を拡大したドラムブレーキの平面図を示し、図3に図2に示したシュー間隙調整装置の断面図を示し、図4にシュー間隙調整装置の分解図を示し、図5にシュー間隙の調整時におけるシュー間隙調整装置付近を拡大したドラムブレーキの平面図を示す。
【0016】
図1のドラムブレーキにおいて、符号10は車両の不動部にボルト等で固定されるバックプレートで、一対のブレーキシュー11,12が公知のシューホールド装置13,13により摺動自在に支持されている。
【0017】
シューウェブ11a,12aにシューリム11b,12bを接合し、シューリム11b,12bの外周面にライニング11c,12cを固着して形成されている断面T字形を呈する一対のブレーキシュー11,12は、その一方の対向端部(図1の上方端)間が2ピース形のシュー間隙調整装置20に夫々係合して連結され、その他方の対向端部(図1の下方端)がバックプレート10に固着したアンカー14に支承されている。
【0018】
両ブレーキシュー11,12間を拡張作動するブレーキ作動機構15は板状の操作レバー16と、この操作レバー16を内部に収容して回動自在に枢支したストラット17と、図示しない操作ケーブルなどから構成され、アンカー14に隣接して両ブレーキシュー11,12の間に介挿されている。
操作レバー16に接続した操作ケーブルを牽引操作することで操作レバー16がストラット17との枢支部を支点に回動し、操作レバー16及びストラット17のブレーキシュー係合部が拡張してブレーキが作動する構造になっている。
【0019】
両ブレーキシュー11,12間に張設した上下のシューリタンスプリング18,19により、両ブレーキシュー11,12の一方の対向端部とシュー間隙調整装置20の当接状態及び両ブレーキシュー11,12の他方の対向端部とアンカー14の当接状態が保たれている。
【0020】
図2の一対のブレーキシュー11,12において、シューウェブ11a,12aの対向端部には、シュー間隙調整装置20の各端部を収容する凹溝部11d,12dが形成されている。
さらに各凹溝部11d,12dを構成する上下両側にはシュー間隙調整装置20のスライド移動を一定範囲に規制する一対の顎部11e,12eと11f,12fが形成されている。
【0021】
<2>シュー間隙調整装置
図2に示すようにシュー間隙調整装置20は、第1のブレーキシュー11に対して回動不能に係合する第1アジャスト部材であるボルト部材30と、第2のブレーキシュー12に対して係合し、シュー間隙調整時には回動可能な第2アジャスト部材であるナット部材40とを具備し、これら2つのアジャスト部材が相互に螺合して2ピース形のシュー間隙調整装置を構成している。
以下にシュー間隙調整装置20の構成部品について詳しく説明する。
【0022】
<2.1>ボルト部材
ボルト部材30はその一端に形成された頭部31とこの頭部31から一体に続く軸部におねじが形成された第1ねじ軸部32とを具備する。
ボルト部材30の頭部31にはシューウェブ11aに回動不能でシューウェブ11aの凹溝部11d内でスライド可能に係合するすり割り状のシュー係合溝31aが図2における上下方向に形成されている。
【0023】
<2.2>ナット部材
ナット部材40は円盤状の端部調整歯部41とその端部調整歯部41から一体に続く筒部にめねじが形成された第2ねじ軸部42とを具備する。
第2ねじ軸部42は筒体であり、その内面のめねじは第1ねじ軸部32のおねじと螺合可能である。
従来の2ピース形のシュー間隙調整装置はブレーキシューから離れた位置でナット部材に調整歯が設けられていたが、本発明に係わる2ピース形のシュー間隙調整装置20ではブレーキシューに隣接する位置でナット部材40に端部調整歯部41が設けられている。
ナット部材40の一端部は端部調整歯部41の平らな端面を介してシューウェブ12aの凹溝部12dの溝底に当接し、この凹溝部12d内でスライド可能に係合されている。
【0024】
図3を基に端部調整歯部41と第2のブレーキシュー12に形成された凹溝部21dの関係について説明すると、ナット部材40がシューウェブ12aに対して回動可能な程に凹溝部12d内でのスライドを許容するため、端部調整歯部41の最大径D1は第2のブレーキシュー12に形成された凹溝部12dの溝幅Bよりも小さい寸法関係にある。
【0025】
端部調整歯部41の外周には複数の山部41aと該山部41aと同数の谷部41bとが形成されている。
端部調整歯部41の谷部41bが第2のブレーキシュー12の顎部12eを収容して係合し得るように、谷部41bの溝幅C1はシューウェブ12の板厚tよりわずかに大きく形成されている。
【0026】
凹溝部12d内で端部調整歯部41をスライド自在に係合させたのは、端部調整歯部41の外周に形成された谷部41bと第2のブレーキシュー12の顎部12eとを係合したり係合を解除したりするためであり、そのスライド距離は少なくとも端部調整歯部41の山部41aが第2のブレーキシュー12の顎部12eから離隔できるだけの距離であればよい。
【0027】
図3では端部調整歯部41の外周にそれぞれ八つの山部41aと谷部41bを形成した場合を示すが、その形成数は図示した形態に限定されない。
【0028】
ナット部材40はパイプ状の第2ねじ軸部42の一端部に円盤状の端部調整歯部41を付設するだけであるから、例えば全体をプレス加工又はヘッダーによる簡単な圧造により低コストに製作することができる。
【0029】
<3>シューリタンスプリング
図2に示すようにシューリタンスプリング18はコイル部18aとコイル部18aの側方から延出したフック部18bとを有する公知の引張りコイルスプリングであり、そのコイル部18aのみがナット部材40の第2ねじ軸部42と弾接して端部調整歯部41の谷部41bが第2のブレーキシュー12の顎部12eを収容した状態を維持するように一対のブレーキシュー11,12間に張設されている。
【0030】
シューリタンスプリング18はそのコイル部18aがナット部材40の第2ねじ軸部42の滑らかな外周面と接触し、コイル部18aから延出したフック部18b,18bは第2ねじ軸部42及び端部調整歯部41から離隔して配設されている。
【0031】
シューリタンスプリング18とシュー間隙調整装置20の接触関係をまとめると、シューリタンスプリング18のコイル部18aはナット部材40の第2ねじ軸部42の外周面と常時接触し、端部調整歯部41に対しては接触しない。
又、シューリタンスプリング18のコイル部18aから図2における右方へ延出するフック部18bは端部調整歯部41と接触せずに離隔した関係にある。
シューリタンスプリング18のコイル部18a、フック部18b及び端部調整歯部41は前記した接触及び非接触関係を満たすように関係付けられている。
【0032】
上記したシューリタンスプリング18はその両端のフック部18b,18bの掛止位置をブレーキ外方へ変位させて全体形状を図2に示すように屈曲させて配設するだけでなく、一直線上に張設してもよい。屈曲させて配設した場合はナット部材40を図2の上方に押圧する力が働き、一直線上に張設した場合はナット部材40の端部調整歯部41がシューウェブ12aの顎部12eから外れないようにナット部材40を位置させる。
【0033】
<4>シュー間隙調整装置の盲動防止構造
図2,3に基づいてシュー間隙調整装置20の盲動防止構造について説明する。
上記したように、シュー間隙調整装置20の第1アジャスト部材を構成するボルト部材30の頭部31はシュー係合溝31aを介して第1のブレーキシュー11のシューウェブ11aの凹溝部11dに対して回動不能で、且つスライド可能に係合されている。
又、シュー間隙調整装置20の第2アジャスト部材を構成する端部調整歯部41を設けたナット部材40の一端部は端部調整歯部41の端面を介して第2のブレーキシュー12のシューウェブ12aの凹溝部12dにスライド可能に係合されている。
【0034】
シューリタンスプリング18のコイル部18aを通じてシュー間隙調整装置20がブレーキ外方へ向けて付勢されると、ボルト部材30の頭部31はシュー係合溝31aを介して第1のブレーキシュー11の凹溝部11dに回動不能な状態で係合したまま顎部11eに衝当してブレーキ外方へのスライド移動が阻止される。
又、ブレーキ外方へ付勢されたナット部材40は、その一端部に設けた端部調整歯部41の外周の谷部41bが第2のブレーキシュー12の凹溝部11dを構成する顎部12eを収容してブレーキ外方へのスライド移動と回動が阻止される。
【0035】
このようにドラムブレーキに組付けたシュー間隙調整装置20が通常の状態においては、ボルト部材30の頭部31及びナット部材40の一端部に設けた端部調整歯部41が一対のブレーキシュー11,12の凹溝部11d,12dに対してそれぞれ回動不能に係合されるので、仮組みしたドラムブレーキの運搬中、或いはドラムブレーキを組付けた車両の走行中にナット部材40が自由回動(盲動)してシュー間隙が大きくなるという問題を解消できる。
【0036】
本発明では端部調整歯部41の谷部41bに収容した第2のブレーキシュー12の顎部12eの係合が外れないとナット部材40が回動できない盲動防止構造となっていて、シューリタンスプリングのコイル部を調整歯部の外周に形成された小刻みな歯に押し当てただけの従来装置と比較して、シュー間隙調整装置20の盲動防止機能が格段によくなる。
【0037】
<5>シュー間隙調整操作(ナット部材の回動操作)
図5はシュー間隙を調整するときのドラムブレーキの平面図を示す。
シュー間隙を調整するには、シュー間隙調整装置20に対する押圧力に抗してシュー間隙調整装置20の全体を僅かに下方へスライドさせると、ボルト部材30は第1のブレーキシュー11に回動不能に係合したまま凹溝部11d内をスライドし、ナット部材40はその一端部に設けた端部調整歯部41の外周の谷部41bが第2のブレーキシュー12の顎部12eから外れて自由な回動が可能な状態となる。
【0038】
これによりシュー間隙調整装置20は、端部調整歯部41を介してナット部材40を回動作動することで、ボルト部材30に対するナット部材40の螺出入が可能となって、シュー間隙調整装置20の長さを調整することができる。
シューリタンスプリング18のコイル部18aとナット部材40の第2ねじ軸部42の当接部が滑らかなので、ナット部材40を回動するのに大きな力を必要としない。
さらにナット部材40の一端部の端部調整歯部41の端面と第2のブレーキシュー12の凹溝部12dの溝底との当接部回動抵抗はきわめて小さい。
【0039】
シュー間隙の調整を終えたらシュー間隙調整装置20全体の図5における下方へのスライドを開放する。
これによりシューリタンスプリング18の弾性復元力により、シュー間隙調整装置20が上方へスライドして端部調整歯部41が第2のブレーキシュー12の顎部12eへ再び係合して盲動防止状態に復帰する。
このようにシュー間隙調整装置20の盲動防止状態に自動復帰するので、シュー間隙調整操作が簡便である。
【0040】
[実施例2]
以降に他の実施例と変形例について説明するが、その説明に際し前記した実施例と同一の部位は同一の符号を付してその詳しい説明を省略する。
【0041】
図6〜図8はナット部材140の一端部に第2ねじ軸部142から続く端部調整歯部141の山部141aに隣接して端面側に凸部141cを突設し、この凸部41cで画設される凹部141d内にシューウェブ12aの凹溝部12dの底面を嵌入して係合するようにしたシュー間隙調整装置20に係る他の実施例を示したもので、図6に実施例2に係わるシュー間隙調整装置の全体斜視図を示し、図7に端部調整歯部141の端面と第2のブレーキシュー12のシューウェブ12aの関係を示した端部調整歯部141の正面図を示し、図8に端部調整歯部141の外周部とシューウェブ12aの係合部の拡大図を示す。
【0042】
端部調整歯部141の端面には山部141aに隣接した位置に突設した凸部141cと、隣り合う凸部141cの間に凹部141dとが形成されている。
凹部141dにシューウェブ12を収容して係合し得るように、凹部141dの溝幅C2はシューウェブ12の板厚tよりもわずかに大きく形成されている。
端部調整歯部41と一体の凸部141c及び凹部141dを形成する場合は、ナット部材140全体をヘッダーによる簡単な圧造で製作することができる。
【0043】
端部調整歯部141の端面の凹部141dにシューウェブ12を効率よく収容するには、端部調整歯部141の端面にそれぞれ四つ以上の偶数個の凸部141cと凹部141dが形成してあればよい。
本実施例ではブレーキドラムを装着した状態でシュー間隙が凸部141cの突出高さEを越えたときにはじめて端部調整歯部141が回動する構造になっている(図8)。
したがって、ブレーキドラムと両ブレーキシュー11,12の間のトータルクリアランスが凸部141cの突出高さEを超えたときのみにナット部材140が回動するので、ブレーキドラムを装着したままシュー間隙調整を正確に行える。
【0044】
さらに本実施例においては、シューウェブ12の凹溝部12dに係合させた端部調整歯部141の端面が凸部141cを介してシューウェブ12の両側面を収容して、端部調整歯部141の着座の安定性がよくなる。
【0045】
[変形例]
実施例1ではシュー間隙調整装置20を間に挟んでブレーキ内側にシューリタンスプリング18を配設した形態について示したが、シュー間隙調整装置20を間に挟んでブレーキ外側にシューリタンスプリング18が配設してあるドラムブレーキに適用することも可能である。
本例にあってはシュー間隙調整装置20のスライド方向が実施例1,2と逆になるだけで、他の構成および作用については既述した実施例1,2と同様であるので説明を省略する。
【0046】
又、先の実施例1及び実施例2ではナット部材40,140の一端部に設けた端部調整歯41,141の端面を第2のブレーキシュー12の凹溝部12dに接面させた形態について示したが、端部調整歯41,141の中央部を貫通構造に形成してもよい。
【符号の説明】
【0047】
10 バックプレート
11 (第1の)ブレーキシュー
12 (第2の)ブレーキシュー
11a,12a シューウェブ
11b,12b シューリム
11c,12c ライニング
11d,12d 凹溝部
11e,12e 顎部
11f,12f 顎部
13 シューホールド装置
14 アンカー
15 ブレーキ作動機構
16 (ブレーキ作動機構の)操作レバー
17 (ブレーキ作動機構の)ストラット
18,19 シューリタンスプリング
18a (シューリタンスプリングの)コイル部
18b (シューリタンスプリングの)フック部
20,120 シュー間隙調整装置
30 ボルト部材(第1アジャスト部材)
31 (ボルト部材の)頭部
32 (ボルト部材の)第1ねじ軸部
40,140 ナット部材(第2アジャスト部材)
41,141 (ナット部材の)端部調整歯部
41a,141a(端部調整歯の)山部
41b,141b(端部調整歯の)谷部
41c,141c(端部調整歯の)凸部
41d,141d(端部調整歯の)凹部
42,142 (ナット部材の)第2ねじ軸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のブレーキシューに対して回動不能に係合する第1アジャスト部材と、第2のブレーキシューに対して回動可能に係合する第2アジャスト部材とを具備し、前記第1アジャスト部材及び第2のブレーキシューを螺合して構成されるドラムブレーキの2ピース形シュー間隙調整装置であって、
前記第1アジャスト部材は前記第1のブレーキシューのシューウェブと回動不能に係合するシュー係合溝を形成した第1端部と、該第1端部から続く第1ねじ軸部とを有し、
前記第2アジャスト部材は外周に複数の山部と谷部を形成し、前記第2のブレーキシューのシューウェブに係合する端部調整歯部と、該端部調整歯部から続く第2ねじ軸部とを有し、
前記第1アジャスト部材の第1ねじ軸部と前記第2アジャスト部材の第2ねじ軸部とが螺出入可能に螺合し、
前記第1及び第2のブレーキシューのシューウェブは前記第1アジャスト部材及び前記第2アジャスト部材の各端部を収容する凹溝部を有し、
前記第2アジャスト部材の端部調整歯部の最大外径は第2のブレーキシューの凹溝部の溝幅よりも小さく、
前記端部調整歯部の谷部は第2のブレーキシューの凹溝部を構成する顎部を収容可能な寸法を有し、
前記端部調整歯部の谷部が第2のブレーキシューの顎部に係合して回動不能状態を維持するようにコイル部を前記第2アジャスト部材の第2ねじ軸部に隣接させて前記両ブレーキシューの間にシューリタンスプリングを張設し、
前記端部調整歯部の谷部が第2のブレーキシューの顎部の係合を解除するように、前記シューリタンスプリングを変形させたときのみに、前記第2アジャスト部材を第2のブレーキシューに対して回動可能に構成したことを特徴とする、
ドラムブレーキの2ピース形シュー間隙調整装置。
【請求項2】
請求項1において、前記シューリタンスプリングは前記端部調整歯部の谷部が第2のブレーキシューの顎部を収容する方向に付勢するように前記両ブレーキシューの間に張設したことを特徴とする、ドラムブレーキの2ピース形シュー間隙調整装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、前記端部調整歯部の端面に複数の凸部と凹部を設け、前記凹部に第2のブレーキシューのシューウェブを収容して係合可能に構成したことを特徴とする、ドラムブレーキの2ピース形シュー間隙調整装置。
【請求項4】
請求項3において、前記端部調整歯部の端面の凸部と凹部の形成数はそれぞれ4つ以上の偶数であることを特徴とする、ドラムブレーキの2ピース形シュー間隙調整装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−82864(P2012−82864A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227654(P2010−227654)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(309014573)日清紡ブレーキ株式会社 (13)
【Fターム(参考)】