説明

ドラムブレーキ

【課題】
オートアジャスタの誤作動を防止するための機構を簡易に構成可能としたドラムブレーキを提供する。
【解決手段】
ライニング43をブレーキドラム31に押し付ける押圧部材57、押圧部材57に押圧力を作用させる押圧力発生部材54、および押圧部材57と螺合して押圧力発生部材54からの押圧力を押圧部材57に伝達する伝達部材55を有するエキスパンダ5を有し、伝達部材55を回転させて押圧部材57を繰り出させてシュークリアランスを詰めるオートアジャスタ6を備えるドラムブレーキ1において、伝達部材55および押圧力発生部材54を嵌合により相対回転可能に連結し、互いの嵌合面の間に設けられるサークリップ56を介して接続しており、サークリップ56を、外周面の一部56a,56aを伝達部材55および押圧力発生部材54のうち外側に嵌合される部材に当接させ、内周面の一部56b,56c,56cを内側に嵌合される部材に当接させて配設し、押圧力発生部材54に対する伝達部材55の相対回転に対して摩擦抵抗を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムブレーキに関し、さらに詳しくはオートアジャスタを備えるドラムブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
ドラムブレーキは、車両に設けられ、車軸とともに回転可能に取り付けられた円筒状のブレーキドラムと、アンカーブラケットに揺動可能に保持されてブレーキドラムの内周面に沿って配設される一対のブレーキシューとを有し、ブレーキシューにブレーキドラムと対向して設けられるライニングをドラム内周面に押し付けることにより、両者間で生じる摩擦を利用してブレーキドラムの回転を制動するものである。車軸には車輪が取り付けられ、ブレーキドラムの制動とともに、車軸および車輪の制動がなされる。このようなドラムブレーキには、ブレーキシューの先端にブレーキ操作に応じて外方に張出作動するエキスパンダを取り付け、エキスパンダの張出作動によりブレーキシューを揺動させてライニングをドラム内周面に押し付けるように構成されるものがある(例えば特許文献1)。
【0003】
特許文献1に示されるエキスパンダは、円筒状のスリーブと、スリーブに螺合するとともに外端部がライニングに繋がるスクリュウとを有し、スリーブをハウジングに形成された円筒状の収容空間に嵌合させ、スリーブおよびスクリュウに軸方向の押圧力を作用させるタペットをスリーブと嵌合させて構成されている。スリーブは、サークリップを介してタペットと接続され、タペットに対しての軸方向の相対移動が規制される一方、相対回転可能に構成される。なお、サークリップは、略正円リング状に形成されており、内側に嵌合されるタペットの円筒外面にリング内周面を当接させて配設されている。このようなエキスパンダにおいて、タペットからの押圧力をスリーブに作用させることにより、スリーブおよびスクリュウが外方に張出され、スクリュウと繋がるブレーキシューを揺動させるようになっている。
【0004】
ライニングはブレーキドラムとの摩擦で磨耗するが、この磨耗によりライニングとブレーキドラムとの隙間(以下、シュークリアランスとも称する)が大きくなるとブレーキの効きを悪化させる。このため、ドラムブレーキには、ライニングの磨耗に応じてシュークリアランスを詰めて常に所定の間隔に保持するように自動的に調整するオートアジャスタが備えられる。オートアジャスタには、スリーブをスクリュウに対して単独で回転させてスリーブに螺合するスクリュウを外方に繰り出させることにより、ライニングを揺動させてシュークリアランスを詰めるように構成されるものがある(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開2001−200875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ドラムブレーキは、車輪と一体に回転するブレーキドラムを有することから、凹凸のある路面上を車両走行したとき等に車輪からの振動が構成部材に伝達される。この振動がスリーブに伝達されると、スリーブを回転させるように作用することがある。振動等による回転力はオートアジャスタを正常に作動させるときに作用する回転力に比べると小さいものであるが、ブレーキ作動に関わりなくスリーブが回転すると、オートアジャスタがライニングの磨耗に関わりなくシュークリアランスを詰めるように作動してブレーキ操作を解除してもブレーキが効く現象(引き摺り)を引き起こすなど、適切なブレーキ作動の妨げになる問題があった。この問題に対応するには、磨耗に応じてスリーブを回転させてオートアジャスタを正常に作動させることと、振動等のブレーキ作動に関わらない外力によるスリーブの回転(正常作動と同方向の回転)を規制してオートアジャスタの誤作動を防止させることとを両立させる機構を設ける必要がある。
【0006】
従来、オートアジャスタを正常に作動させるとともに誤作動を防止するための機構として、スリーブの回転に対して正常な作動を妨げない程度の所定の摩擦抵抗を与える構成が考案されている。例えば、スリーブの回転摺動部、すなわち、スリーブ外面とスリーブを収容する部材との間に摩擦抵抗を与えるため、スリーブに径方向に貫通する孔を設けてこの貫通孔にスプリングを収容して両端の開口をキャップで閉じ、スプリングの付勢力でスリーブを収容する部材にキャップを当接させて摩擦抵抗を与えるように構成したもの等が考案されている。しかしながら、このような従来の機構によれば、スプリング等の新たな部材を設けるとともに、この新たな部材を取り付けるための加工を施す必要があり、エキスパンダの部品点数、組立工数、および加工工数の増加を招き、生産性を低下させるといった問題や、整備作業を煩雑にさせるといった問題がある。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑み、簡易な機構により、オートアジャスタの誤作動を防止できるドラムブレーキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的達成のため、本発明に係るドラムブレーキは、回転部材(例えば実施形態における車軸1)にともに回転可能に取り付けられる円筒状のブレーキドラムと、固定部材(例えば実施形態におけるアンカーブラケット2)に揺動自在に取り付けられてブレーキドラムの内周面に沿って配設されるブレーキシューと、固定部材に取り付けられ、ブレーキ操作に応じて張出作動してブレーキシューを揺動させてブレーキドラムの内周面に押し付けるエキスパンダとからなるドラムブレーキにおいて、エキスパンダが、ブレーキシューの先端に取り付けられてブレーキ作動時にブレーキシューをブレーキドラムの内周面に押し付ける押圧部材(例えば実施形態におけるスクリュウ57)と、押圧部材に押圧力を作用させる押圧力発生部材(例えば実施形態におけるタペット54)と、押圧部材と螺合して螺合軸回りに回転可能に配設されて押圧力発生部材からの押圧力を螺合軸方向に押圧部材に伝達する伝達部材(例えば実施形態におけるスリーブ55)とを有し、伝達部材を螺合軸回りに回転させて押圧部材を繰り出させることによりブレーキシューとブレーキドラムの内周面との隙間を詰めて所定の間隔に保持するオートアジャスタを備えている。そして、伝達部材を押圧力発生部材と嵌合させて押圧力発生部材に対して相対回転可能に連結し、伝達部材および押圧力発生部材を互いの嵌合面の間に設けられるサークリップを介して軸方向への相対移動を規制して接続しており、サークリップを、その外周面の一部を伝達部材および押圧力発生部材のうち外側に嵌合される部材に当接させ、その内周面の一部を伝達部材および押圧力発生部材のうち内側に嵌合される部材に当接させて配設し、押圧力発生部材に対する伝達部材の相対回転に摩擦抵抗を与えるように構成している。
【0009】
また、サークリップを楕円リング状に形成し、長径方向におけるリング外周面の一部(例えば実施形態における頂部56a)を外側に嵌合される部材の内面に、短径方向におけるリング内周面の一部(例えば実施形態における頂部56b、C字端部56c)を内側に嵌合される部材の外面にそれぞれ当接させて配設することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るドラムブレーキは、エキスパンダの伝達部材を回転させてブレーキシューとブレーキドラムとの隙間を詰めるオートアジャスタを備えており、伝達部材および押圧力発生部材の互いの嵌合面の間に配設されるサークリップを伝達部材と押圧力発生部材とに当接させ、伝達部材の押圧力発生部材に対する相対回転に対して摩擦抵抗を与えるようにしている。このように、従来のドラムブレーキの構成部材であったサークリップによって摩擦抵抗を与える構成により、振動等により起こるスリーブの回転を規制してオートアジャスタの誤作動を防止できるドラムブレーキを新たな部材を必要とすることなく構成でき、生産性あるいは整備性のよいドラムブレーキを提供できる。
【0011】
なお、サークリップを楕円リング状に形成することにより、従来と同様の組付方法により、長径方向のリング外周面から外側に嵌合される部材に径方向外方に向けて張力を作用させ、短径方向のリング内周面により内側に嵌合される部材に径方向内方に向けて張力を作用させるようにサークリップが取り付けられ、押圧力発生部材に対する伝達部材の相対回転に対して摩擦抵抗を与えることができる。また同時に、サークリップはリング外周面および内周面のそれぞれ一部を押圧力発生部材および伝達部材に当接させるようにして取り付けられることから、この摩擦抵抗をオートアジャスタの正常な作動が妨げられない程度に与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。図1に本発明に係るドラムブレーキBを正断面図で示している。ドラムブレーキBは、車軸1に車軸1とともに回転可能にブレーキドラム31を設けてなるドラムユニット3と、車体に固定されるアンカーブラケット2に揺動可能に保持されてそれぞれブレーキドラム31の内周面に沿って配設される一対のブレーキシュー40,40を備えたブレーキシューユニット4と、ブレーキ操作に応じてブレーキシュー40,40を揺動してブレーキドラム31の内周面に押し付けるエキスパンダ5とを有して構成される。
【0013】
アンカーブラケット2は、中央部に開口2aを有し、この開口2aの周囲に設けたボルト挿入口2b,2b,…に挿入されたボルトを介して車体のアクスルハウジング(図示せず)に固定される。また、下部に厚さ方向(図1紙面直交方向)に二股に分かれた支持アーム部2cを有し、この支持アーム部2cの厚さ方向手前側および厚さ方向奥側のそれぞれにピン挿入口2d,2dが正面視左右に並んで形成される。
【0014】
ドラムユニット3は、アンカーブラケット2の開口2aから軸方向外方に突出する車軸1上にベアリングを介して回転可能に取り付けられたホイールハブ(図示せず)に、ホイールリム(図示せず)を取り付けるとともにブレーキドラム31を結合して構成されている。なお、ホイールリムにはタイヤが取り付けられ、ブレーキドラム31とタイヤとがホイールハブを介して一体回転するようになっている。
【0015】
ブレーキシューユニット4は、弧状に延びるウェブ部41と、ウェブ部41の外周端に取り付けられるリム部42と、リム部42にリベット等により固着されるライニング43とからなるブレーキシュー40を2つ有して構成される。ブレーキシュー40,40は、左右対称に配設されてそれぞれがブレーキドラム31の内周面に沿うようにして配設されており、ライニング43,43をブレーキドラム31の内周面に対向させている。
【0016】
ブレーキシュー40,40はそれぞれ、基端部が支持アーム部2cの手前側および奥側の間に挟み込まれてピン挿入口2bに挿入されるアンカーピン44を介してアンカーブラケット2に枢止されており、アンカーピン44,44を揺動中心として図1左右方向に揺動可能とされる。両ブレーキシュー40,40のウェブ部41,41の先端部間にはリターンスプリング45が跨設されており、ブレーキシュー40,40は、ブレーキ操作がなされていないとき(ブレーキ解除時)には、リターンスプリング45の付勢力により、それぞれ内方に揺動した位置で保持される。
【0017】
また、両ブレーキシュー40,40の先端部間にアンカーブラケット2に固定されたエキスパンダ5が配設される。エキスパンダ5は、ブレーキ操作がなされたとき(ブレーキ作動時)に、ウェッジ52のハウジング51内への挿入動に伴って外方に張出作動するように構成されたスクリュウ57,57を両側に設けており、このスクリュウ57,57の張出作動によりブレーキシュー40,40の先端部をリターンスプリング45の付勢力に抗して押圧する。ブレーキシュー40,40は、このスクリュウ57,57の張出作動により、それぞれ外方に揺動する。
【0018】
ブレーキシュー40,40が外方に揺動すると、ライニング43,43がブレーキドラム31の内周面に押し付けられ、ライニング43,43およびブレーキドラム31の間の摩擦によりブレーキドラム31の回転が制動され、ブレーキドラム31と一体回転するタイヤが制動される。このように、本実施例のドラムブレーキBは、リーディングトレーリング式のドラムブレーキである。
【0019】
エキスパンダ5は、図2に断面図(図1におけるII−II断面図)を示すように、中央部にウェッジ収容部51aを空間形成するとともに両側部からウェッジ収容部51aに連通する円筒状のシリンダ部51b,51bを形成するハウジング51と、ウェッジ収容部51aに挿抜可能に取り付けられるウェッジ52と、シリンダ部51b,51b内に嵌挿されて軸方向に摺動可能に配設されるスリーブアッシー53,53と、スリーブアッシー53と螺合してハウジング51の側部外方へ延びるように設けられるスクリュウ57とから構成され、シリンダ部51b,51bの外端にシリンダ部51b内への粉塵の混入を防止するブーツ59,59が取り付けられ、ハウジング51に形成されるボルト挿入口に挿入されたボルトを介してアクスルハウジングに固定される。また、エキスパンダ5は左右対称に構成され、図2は左半分にブレーキ解除時におけるエキスパンダ5の状態を、右半分にブレーキ作動時におけるエキスパンダ5の状態をそれぞれ示している。
【0020】
ウェッジ52は、シャフト状に形成され、図示しないチャンバのダイヤフラムの作動によりハウジング51に対して軸方向に挿抜可能に取り付けられており、ブレーキ解除時には図2左方に示すようにウェッジスプリング52aの付勢力により図2上方に位置してウェッジ収容部51aに対して抜出された状態とされ、ブレーキ作動時には図2右方に示すようにウェッジスプリング52aの付勢力に抗してウェッジ収容部51a内を図2下方に移動してウェッジ収容部51aに対して挿入された状態とされる。ウェッジ収容部51aに挿入される側の端部である挿入端部52bは、先端に向かって尖る楔状に形成されており、両側に傾斜面52c,52cを有している。また、挿入端部52bの先端部には両側に延びるローラ保持面52e,52eが形成されており、このローラ保持面52e,52eのそれぞれにローラ52f,52fが枢結されている。
【0021】
スリーブアッシー53は、図3に拡大して示すように、一端側(図3左側)に取付状態においてウェッジ52の傾斜面52aと平行となる傾斜面54aを有して他端側(図3右側)に外径がシリンダ部51bの径より小さい円筒部54bを有するタペット54と、外径がシリンダ部51bの径と等しい円筒状に形成されて一端側がタペット54の円筒部54bに対して外側に嵌合されるスリーブ55と、タペット54およびスリーブ55の嵌合面に設けられてこれらを接続し、互いの軸方向への相対移動を規制するC字状のサークリップ56と、一端側の外周面がタペット54の円筒部54bの内面に係合されて他端側の外周面がスリーブ55の一端側の円筒内面に係合されたラップスプリング61とから構成される。
【0022】
タペット54は、ウェッジ収容部51aに連通するシリンダ部51bの最内方に嵌挿されて傾斜面54aをローラ52fに当接させており、ウェッジ52の挿抜作動によりローラ52fを介してシリンダ部51内を左右方向に摺動する。スリーブ55は、サークリップ56を介してタペット54と接続され、タペット54の軸方向の摺動に一体となって摺動する。ラップスプリング61は、ワンウェイクラッチの機能を有し、コイル外径が縮小する方向(例えば右巻きスプリングの場合には右回転)にはスリーブ55のタペット54に対する相対回転を許容し、コイル外径が拡大する方向(同左回転)には、外周面がタペット54およびスリーブ55に食い付いてこれらを一体化し、この相対回転を阻止する。
【0023】
また、図4にスリーブアッシー53を軸方向から見た断面図(図3におけるIV−IV断面図)を示している。タペット54とスリーブ55とを嵌合させると、タペット54の円筒部54bの外面に沿って刻設されるリング取付溝54cと、スリーブ55の一端側の円筒内面に沿って刻設されるリング取付溝55cとが整合して一体の間隙が形成される。サークリップ56は、タペット54とスリーブ55との円筒嵌合面間において、整合して一体となったリング取付溝54c,55c内に配設される。なお、従来のサークリップは、略正円リング状に形成され、リング内周面の全体を内側に嵌合されるタペットの円筒部の外面に当接させるようにしてリング取付溝内に取り付けられていた。
【0024】
本実施例のサークリップ56は、図4に示すように、例えば焼入れ焼戻しあるいはオーステンパ等の熱処理を施した鋼線材で成形され、楕円リング状に形成されており、長径方向(図4上下方向)および短径方向(図4左右方向)に弾性変形可能である。サークリップ56は、短径方向における一方に切り口56dを有してC字状に形成される。また、サークリップ56は、長径方向におけるリング外径がスリーブ55の一端側の円筒内径よりも僅かに大きく、短径方向におけるリング内径がタペット54の円筒部54bの外径よりも僅かに小さく形成されている。
【0025】
このように成形されるサークリップ56は、従来の略正円リング状のものと同様の組付方法によりリング取付溝54c,55c内に取り付けられ、この取り付けられた状態においてサークリップ56は、長径方向における頂部56a,56aがそれぞれ径方向内方に変形して外側に嵌合するスリーブ55の一端側の円筒内面に当接し、頂部56a,56aのリング外周面からスリーブ55に対して径方向外方に向けて所定の張力Taが作用する。同様に、短径方向における頂部56bおよびC字端部56c,56cがそれぞれ径方向外方に変形して内側に嵌合するタペット54の円筒部54bの外面に当接し、頂部56bのリング内周面およびC字端部56c,56cのリング内周側からタペット54に対して径方向内方に向けて所定の張力Tbが作用する。このサークリップ56は、従来の略正円リング状のものと同様の組付方法により、リング取付溝54c,55c内に取り付けられる。
【0026】
このように、タペット54およびスリーブ55がそれぞれサークリップ56から張力を与えられるため、スリーブ55をタペット54に対して相対回転させるには、この張力Ta,Tbにより生じるサークリップ56とタペット54、スリーブ55との間の摩擦抵抗(例えば約0.2N)に抗する回転力が必要となる。なお、この摩擦抵抗は、張力Ta,Tbの設定により適宜その値を設定でき、この張力Ta,Tbは、サークリップ56のサイズの設定、あるいは材質等により適宜その値を設定できる。
【0027】
スクリュウ57は、ロッド状に形成されて外面に雄ねじ部57aを有し、雄ねじ部57aをスリーブ55の他端側の円筒内面に形成された雌ねじ部55aに螺合させてハウジング51の側部外方に延びるように設けられており、外端部に調整ダイヤル部57bを備えている。調整ダイヤル部57bにはスクリュウ57の螺合軸回りに回動可能にクリップ58が係止され、クリップ58はブレーキシュー40のウェブ部41と係合している。スクリュウ57は、調節ダイヤル部57bを挟持して立設されるクリップ58を介してブレーキシュー40に係止される。
【0028】
図5に示すように、スリーブ55の他端側の円筒外面には、螺旋状のヘリカルスプライン55bが形成されており、ヘリカルスプライン55bに軸方向に所定のガタ(例えば約3mm)を有してドライブリング62が噛合している。ドライブリング62は、シリンダ部51bの外端に形成された傾斜面51cと当接する円錐面62aを有し、ドライブリング62を内方に向けて付勢するドライブスプリング63により傾斜面51cおよび円錐面62aの間に所定の摩擦抵抗を与えるように構成されている。
【0029】
次いで、上記構成のエキスパンダ5のブレーキ作動時、解除時における作用、および上記構成のエキスパンダ5によりドラムブレーキBが有するアジャスト機能について説明する。ブレーキ操作がなされると、ダイヤフラムの作動によりウェッジ52がウェッジスプリング52aの付勢力に抗して図2下方に押圧される。この押圧力は、平行に延びるウェッジ52の傾斜面52c,52cおよびタペット54の傾斜面54a,54aの作用によりローラ52f,52fを介して左右方向への押圧力に変換され、スリーブ55,55に伝達される。押圧力を受けたスリーブ55は、タペット54とともにシリンダ部51b内を中心から外方に向かって直動し、軸方向に張出される。
【0030】
スリーブ55のヘリカルスプライン55bおよびドライブリング62は軸方向に所定のガタを有して噛合している。スリーブ55の張出量がガタの範囲内であれば、スリーブ55は、ドライブリング62を回転させることなくシリンダ部51b内を軸方向に直動する。回転しないドライブリング62は、円錐面62aをハウジング51の傾斜面51cに当接させた状態で保持される。
【0031】
スリーブ55と螺合するスクリュウ57は、クリップ58によりブレーキシュー40に係止されており、クリップ58の摩擦抵抗およびネジ面での摩擦抵抗により回転することなくスリーブ55とともに(螺合)軸方向に直動する。スクリュウ57,57の張出により、左右のブレーキシュー40,40はアンカーピン44,44を中心に外方に揺動し、ライニング43がブレーキドラム31の内周面に押圧され、これら両者間の摩擦によりブレーキドラム31の回転が制動される。
【0032】
ブレーキ操作が解除されると、ウェッジ52がウェッジスプリング52aの付勢力により図2上方に移動する。スクリュウ57およびスリーブアッシー53は、両ブレーキシュー40,40間に跨設されたリターンスプリング45の作用により、シリンダ部51b内に格納される。スリーブ55は、張出量がガタの範囲内であれば、張出時と同様にシリンダ部51b内を直動する。
【0033】
ライニング43が摩耗してくると、ブレーキ作動時に同一の制動効果を得るため、スクリュウ57およびスリーブアッシー53の張出量が大きくなってくる。スリーブ55の張出量がガタ分相当量まで達するとドライブリング62の噛合面がヘリカルスプライン55bの噛合面に当接し、ガタ分を超過してスリーブ55が張出されるとドライブリング62がハウジング51の外方に向かって押圧力を受ける。この押圧力により傾斜面51cおよび円錐面62aの間の摩擦力が低減し、ドライブリング62がヘリカルスプライン55bの噛合面に沿って回転する。なお、スリーブ55は、ラップスプリング61のワンウェイクラッチ機能によりタペット54に対する相対回転を阻止され、シリンダ部51b内を直動する。
【0034】
ブレーキ操作が解除されると、ヘリカルスプライン55bとの当接を解除されたドライブリング62がドライブスプリング63の付勢力によりハウジング51の内方に押圧され、円錐面62aをハウジング51の傾斜面51cに当接させる。これにより、ドライブリング62は当接面での摩擦抵抗によって回転が規制される。スリーブ55は、張出量に相当する移動量だけシリンダ部51b内を中心方向に移動して格納されるが、ヘリカルスプライン55bとドライブリング62とのガタ分相当量の張出量に対しては、上記同様、抵抗を受けずにシリンダ部51b内を直動する。ガタ分を超えてからの張出量、すなわちドライブリング62を押圧しての張出量に対しては、ドライブリング62の格納側噛合面と当接して抵抗を受けて直動を阻止される。ここで、ヘリカルスプライン55bは、ラップスプリング61のワンウェイクラッチ機能を、スリーブ55がドライブリング62の張出側噛合面に沿って回転される方向(例えば左回転)に対しては上記のように回転を阻止させ、スリーブ55がドライブリング62の格納側噛合面に沿って回転される方向(例えば右方向)に対しては回転を許容させるように形成されている。このため、ヘリカルスプライン55bをドライブリング62の格納側噛合面と当接させるスリーブ55が、この噛合面に沿って回転される。このとき、サークリップ56によりスリーブ55の回転に対して摩擦抵抗が与えられるが、リターンスプリング45はこの摩擦抵抗に抗してスリーブ55を回転させるだけの付勢力を発揮する。
【0035】
スクリュウ57は、ブレーキシュー40に係止されて軸方向回りの回転を規制されたクリップ58から摩擦抵抗を受けている。クリップ58からの摩擦抵抗はネジ面での摩擦抵抗より大きいため、スクリュウ57は回転しない。従って、スリーブ55は、タペット54およびスクリュウ57に対して単独で回転する。このスリーブ55の回転により、スリーブ55に螺合するスクリュウ57が、回転角およびネジピッチに応じた繰出量だけ外方に繰り出される。
【0036】
このように、エキスパンダ5は、スリーブ55が所定方向に回転すると、スリーブ55と螺合するとともにブレーキシュー40に係止されるスクリュウ57がスリーブ55の回転角に応じた繰出量だけ外方に繰り出されるように構成されている。さらに、ライニング43の磨耗量に対応して変化するスリーブ55の張出量が所定量(ガタ分相当量)を超過すると、この超過量に応じた回転角だけスリーブ55を単独で回転させてスクリュウ57を繰り出させ、ブレーキシュー40を外方に揺動させるように構成されている。このエキスパンダ5の構成により、ドラムブレーキBは、ライニング43とブレーキドラム31との隙間(シュークリアランス)をライニング43の磨耗が認められれば自動的に詰めて常に所定の間隔に保持するアジャスト機能を有する。なお、このアジャスト機能を作用させる機構となるオートアジャスタ6は、タペット54、スリーブ55、スクリュウ57、クリップ58、ラップスプリング61、ドライブリング62、およびドライブスプリング63から構成される。
【0037】
本実施例のエキスパンダ5(オートアジャスタ6)は、タペット54およびスリーブ55を接続するサークリップ56が内側のタペット54に対して径方向内方に向けて所定の張力Taを作用させ、外側のスリーブ55に対して径方向外方に向けて所定の張力Tbを作用させるように取り付けられており、スリーブ55のタペット54に対する相対回転に対して摩擦抵抗を与えるようになっている。しかしながら、サークリップ56からの張力Ta,Tbによる摩擦抵抗は、通常行われるブレーキ作動でアジャスト機能を働かせるにあたり、上記のようにスリーブ55を支障なく回転させることができる程度に設定されている。
【0038】
ドラムブレーキBには、凹凸のある路面上の走行中等に車輪から受ける振動が伝達されて、ブレーキ作動に関わりない外力が作用する。このような外力が加わると、スリーブ55に、タペット54に対する相対回転が許容される方向への回転力が本来のブレーキ作動に関わりなく作用することがある。しかしながら、この振動等による回転力はリターンスプリング45の付勢力による回転力と比較して小さいものであり、本実施例においては、サークリップ56によりスリーブ55のタペット54に対する相対回転に対して摩擦抵抗を与えるようになっているため、摩擦抵抗がこの振動等による不意な回転力に抗し、スリーブ55の回転が規制される。
【0039】
このように、本発明に係るドラムブレーキは、本来のアジャスト機能を有効に働かせることができる一方、スリーブ55に不意な回転力が作用してもスリーブ55の回転を規制できる。このスリーブ55の回転に適度に抵抗を与えて回転を規制することにより、ブレーキ作動に関わらずスリーブ55が回転してシュークリアランスが詰まるといったオートアジャスタ6の誤作動を防止することができる。オートアジャスタ6の誤作動の防止により、シュークリアランスを常に適切な間隔に保持でき、引き摺りを引き起こすおそれを低減できる。
【0040】
そして、このスリーブの回転を規制するため、軸方向の相対移動を規制するために用いられるサークリップをタペットおよびスリーブに当接させて摩擦抵抗を与えるようにしている。このように、従来のドラムブレーキの構成部品に対して新たな部材、機構を設ける必要がなく、部品点数を増加させずに上記効果が得られるドラムブレーキBを簡易に構成でき、生産性あるいは整備性のよいドラムブレーキを提供できる。また、従来は略正円リング状のサークリップを楕円リング状に形成していることから、従来と同様の組付方法により、長径方向の頂部56a,56aから外側に嵌合されるスリーブ54に対して径方向外方に向けての張力を作用させ、短径方向の頂部56bおよびC字端部56c,56cから内側に嵌合されるタペット54に対して径方向内方に向けての張力を作用させるようにサークリップ56が取り付けられる。このように、楕円リング状に形成することにより、従来の組付工程を複雑化させずに上記効果を有するドラムブレーキを構成できる。
【0041】
これまで本発明に係るドラムブレーキの実施例について説明したが、以下、他の構成形態によるオートアジャスタ6の誤作動を防止する機構について説明する。図6に示すように、タペット54とスリーブ55とが軸方向で当接する当接面に、ウェーブスプリング71を配設して構成してもよい。このウェーブスプリング71は、スリーブ55におけるタペット54との軸方向の当接面に刻設される円形のスプリング取付溝55dに収容され、自然長がスプリング取付溝71の深さよりも長く設定されている。このため、取付状態において、ウェーブスプリング71はスプリング取付溝55d内で圧縮されて軸方向に付勢力を発揮し、タペット54およびスリーブ55にウェーブスプリング71からの押圧力が作用する。この押圧力により、スリーブ55のタペット54に対する相対回転に対し、所定の摩擦抵抗を発生させることができる。
【0042】
これにより、上記実施例と同様にしてリターンスプリング45の付勢力による正常なアジャスト機能を有効に働かせるのに支障がない程度にウェーブスプリング71による摩擦抵抗を生じさせ、振動等のブレーキ作動に関係しない外力に基づくオートアジャスタ6の誤作動を防止することができる。
【0043】
また、図6に示すスプリング取付溝55d内に、例えばニトリルゴム、シリコンゴム等のゴム材料で成形されるOリング72を取り付けて構成することも可能である。このときOリング72の厚さ方向(図6左右方向)の長さはスプリング取付溝55dよりも僅かに大きく設定される。これにより、取付状態においてOリング72がタペット54とスリーブ55との間で密着し、スリーブ55のタペット54に対する相対回転に対して所定の摩擦抵抗を発生させることができる。この摩擦抵抗を上記実施例と同様に適切に設定することで、正常なアジャスト機能を有効に働かせるとともにオートアジャスタ6の誤作動を防止できる。
【0044】
また、スリーブ55に摩擦抵抗を与えるための部材をタペット54およびスリーブ55の嵌合面あるいは当接面に配設し、タペット54に対する相対回転を規制するように構成したが、スリーブ55の円筒外面とハウジング51のシリンダ部51bの内周面との間に配設してもよい。例えば、図6に点線で示すように、スリーブ55の円筒外面に沿って刻設した取付溝55e内にOリング73を配設する。これにより、取付状態においてOリング73がシリンダ部51bの内周面とスリーブ55の円筒外面との間で密着し、スリーブ55のシリンダ部51bに対する相対回転に対して所定の摩擦抵抗を発生させることができる。従って、上記各構成形態と同様にして正常なアジャスト機能を有効に働かせるとともにオートアジャスタ6の誤作動を防止できる。
【0045】
なお、ウェーブスプリング71、Oリング72,73が適用される上記各構成形態においてサークリップ56は、正常なアジャスト機能を働かせるのを妨げなければ上記実施例のように楕円リング状に形成したものを適用してもよく、ウェーブスプリング71、Oリング72,73によりオートアジャスタ6の誤作動を防止するための摩擦抵抗を充分得られるのであれば従来のように略正円リング状に形成したものを適用してもよい。
【0046】
なお、これまで本発明に係るドラムブレーキの実施形態について説明したが、必ずしも上記形態に限られない。例えば、タペット54およびスリーブ55は、スリーブ55をタペット54の外側に嵌合させ、サークリップ56の長径方向の頂部56a,56aのリング外周面を外側に嵌合されるスリーブ55の円筒内面に当接させるように構成したが、タペットおよびスリーブはタペットをスリーブの外側に嵌合させて連結してもよい。この場合、サークリップ56の長径方向の頂部56a,56aのリング外周面はタペットの円筒内面に径方向外方に向けての張力を作用させて当接され、短径方向の頂部56bのリング内周面およびC字端部56c,56cのリング内周側はスリーブの円筒外面に径方向内方に向けての張力を作用させて当接させることにより、上記実施例と同様にしてスリーブ55のタペット54に対する相対回転を効果的に規制し、オートアジャスタ6の誤作動を防止することができる。
【0047】
上記実施例においては、ドラムブレーキBをリーディングトレーリング式ドラムブレーキとして説明したが、ユニサーボ式、デュオサーボ式、あるいは2リーディング式のドラムブレーキであっても、本発明に係る伝達部材(上記実施例におけるスリーブ55)の回転により作動するオートアジャスタ(エキスパンダ)を有するドラムブレーキであれば、本実施例を同様に実施可能であり同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係るドラムブレーキの構成を示す正面図である。
【図2】図1におけるII−II断面図であり、エキスパンダの構成および作用を示す断面図である。
【図3】上記エキスパンダのスリーブアッシーの構成を示す断面図である。
【図4】図3におけるIV−IV断面図であり、スリーブアッシーの構成を示す断面図である。
【図5】スリーブの外面を示す平面図である。
【図6】他の構成形態によりオートアジャスタの誤作動を防止する機構を設けたスリーブアッシーの構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0049】
B ドラムブレーキ
1 車軸(回転部材)
2 アンカーブラケット(固定部材)
5 エキスパンダ
6 オートアジャスタ
31 ブレーキドラム
40 ブレーキシュー
51 ハウジング
52 ウェッジ
53 スリーブアッシー
54 タペット(押圧力発生部材)
55 スリーブ(伝達部材)
56 サークリップ
57 スクリュウ(押圧部材)
58 クリップ
61 ラップスプリング
62 ドライブリング
63 ドライブスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転部材に前記回転部材とともに回転可能に取り付けられる円筒状のブレーキドラムと、
固定部材に揺動自在に取り付けられ、前記ブレーキドラムの内周面に沿って配設されるブレーキシューと、
前記固定部材に取り付けられ、ブレーキ操作に応じて張出作動して前記ブレーキシューを揺動させて前記ブレーキドラムの内周面に押し付けるエキスパンダとからなるドラムブレーキにおいて、
前記エキスパンダは、前記ブレーキシューの先端に取り付けられてブレーキ作動時に前記ブレーキシューを前記ブレーキドラムの内周面に押し付ける押圧部材と、前記押圧部材に押圧力を作用させる押圧力発生部材と、前記押圧部材と螺合して螺合軸回りに回転可能に配設されて前記押圧力発生部材からの押圧力を螺合軸方向に前記押圧部材に伝達する伝達部材とを有し、前記伝達部材を前記螺合軸回りに回転させて前記押圧部材を繰り出させることにより前記ブレーキシューと前記ブレーキドラムの内周面との隙間を詰めて所定の間隔に保持するオートアジャスタを備えており、
前記伝達部材は、前記押圧力発生部材と嵌合して前記押圧力発生部材に対して相対回転可能に連結され、前記伝達部材および前記押圧力発生部材は、互いの嵌合面の間に設けられるサークリップを介して軸方向への相対移動を規制されて接続されており、
前記サークリップが、外周面の一部を前記伝達部材および前記押圧力発生部材のうち外側に嵌合される部材に当接させ、内周面の一部を前記伝達部材および前記押圧力発生部材のうち内側に嵌合される部材に当接させて配設されており、前記押圧力発生部材に対する前記伝達部材の相対回転に対して摩擦抵抗を与えるように構成されることを特徴とするドラムブレーキ。
【請求項2】
前記サークリップが、楕円リング状に形成されており、長径方向におけるリング外周面の一部を前記外側に嵌合される部材の内面に、短径方向におけるリング内周面の一部を前記内側に嵌合される部材の外面にそれぞれ当接させて配設されることを特徴とする請求項1に記載のドラムブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−242238(P2006−242238A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−56889(P2005−56889)
【出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【出願人】(000220712)株式会社TBK (13)
【Fターム(参考)】