ナノインプリントモールド用基材の処理方法およびそれを用いたナノインプリントモールドの製造方法
【課題】電子線でレジストにパターンを描画する際に、基材の表面位置の検出を精度良く行なうためのナノインプリントモールド用基材の処理方法と、高精度の凹凸パターンを備えたナノインプリントモールドを製造するための製造方法を提供する。
【解決手段】厚さが4mm以下の透明な基材の裏面側あるいは内部に、基材の表面側から入射した光が基材の裏面で反射して表面側に出射するのを防止する反射防止部を形成し、基材の表面上にレジスト膜を形成して電子線描画装置内のステージ上に基材裏面がステージと対向するように配置し、基材に対して高さ検出光を照射し基材表面で反射された反射光を検出して基材の高さを検出し、検出した基材の表面位置に適するように電子線のフォーカス位置を制御しながらレジスト膜に対して電子線を照射して所望のパターン潜像を形成し、このレジスト膜を現像して得たレジストパターンをマスクとして基材に凹凸パターンを形成する。
【解決手段】厚さが4mm以下の透明な基材の裏面側あるいは内部に、基材の表面側から入射した光が基材の裏面で反射して表面側に出射するのを防止する反射防止部を形成し、基材の表面上にレジスト膜を形成して電子線描画装置内のステージ上に基材裏面がステージと対向するように配置し、基材に対して高さ検出光を照射し基材表面で反射された反射光を検出して基材の高さを検出し、検出した基材の表面位置に適するように電子線のフォーカス位置を制御しながらレジスト膜に対して電子線を照射して所望のパターン潜像を形成し、このレジスト膜を現像して得たレジストパターンをマスクとして基材に凹凸パターンを形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細なパターン形成が可能なナノインプリントモールドの製造方法、ならびにナノインプリントモールド用基材の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代の微細加工技術として、近年ナノインプリント技術に注目が集まっている。ナノインプリント技術は、基材の表面に微細な凹凸構造を形成した型部材を用い、凹凸構造を被加工対象に転写することで微細構造を等倍転写するパターン形成技術である。このような微細凹凸構造が形成された型部材は、ナノインプリントモールドと呼ばれる(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
従来のナノインプリントモールドの製造方法の一例として、次のような工程を挙げることができる。(1)まず基材を準備し、(2)その基材上に例えばレジスト膜を形成し、(3)このレジスト膜に対してg線、h線、i線と呼ばれる波長の短い紫外線を用いたマスク露光によってパターン潜像を作成し、(4)そのパターン潜像を現像してできるレジストパターンをマスクとして基材をエッチングして微細な凹凸構造を得る。そして、パターン寸法が微細化するにつれて、紫外線を用いたマスク露光でパターン潜像を形成することが困難となってきた。このため、マスク露光に代わって電子線ビームによる直接描画でパターン潜像を形成することが求められている。
【0003】
電子線ビームによる直接描画では、例えば、高精度のパターン寸法を有するフォトマスクなどの製造に従来から用いられてきた電子線描画装置を用いることができる。このような電子線描画装置での微細パターン形成では、基材面への電子線のフォーカス位置を適切に設定することが重要である。このため、基材の表面位置を検出し、その表面位置に適するように電子線のフォーカス位置を制御することが必要であり、描画位置を走査させながら表面位置検出とフォーカス位置制御を繰り返すことにより、所定の領域に対して所望のパターン潜像が形成される。
【0004】
ここで、図面を参照しながら、電子線描画装置における描画手順の一例について説明する。図10は電子線描画装置内での基材面の位置を検出する原理を説明する図面である。図10(A)に示すように、移動可能なステージ107上に基材108が載置され、基材108の斜め上方には光源101、光束検出器102が配置されている。この光源101から出る光束(高さ検出光)を基材108に照射し(入射光A)、基材108の表面で反射した光束(反射光B)の位置(例えばピーク位置)を光束位置検出器102で検出し、これに基づいて制御部109が基材面の位置を算出し、その位置へ電子線をフォーカスさせて描画している。そして、図10(B)及び図10(C)に示すように、基材108の表面位置(基材高さ)が変動すると、基材108の表面で反射した光束は反射光B′として光束位置検出器102で検出され、反射光のピーク位置も変動することになる。基材108の高さ変動量Δと光束位置の変動量δには比例関係があるため、光束位置の変動量δを測定することによって基材の高さ変動量Δが検出できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,772,905号
【特許文献2】特表2002−539604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のような電子線描画装置において、例えば、従来のフォトマスクなどに用いられる基材(いわゆる6025基材:厚さ6.35mm)の高さ検出を行う場合、基材の厚さが大きいので、基材の表面からの反射光と裏面からの反射光のピーク位置が十分離れており、光束位置検出器でそれらを同時に検出することはなかった。このことを、図11を参照して説明する。基材108が十分な厚みを有する場合には、基材108に対して斜めに入射した入射光Aが基材108の表面で反射された光(表面反射光B1)のピーク位置と、基材108に入射して基材108の裏面で反射された光(反射戻り光B2)のピーク位置とが離れており、これらが光束位置検出器102で同時に検出されることはない。
【0007】
しかしながら、ナノインプリントモールドでは、6025基材よりも薄い透明基材(例えば、厚さ1mm以下)を用いることがある。このような薄い透明基材をナノインプリントモールド用の基材として使用し、電子線描画装置内で高さ検出を行う場合、上記の基材の表面からの反射光(表面反射光B1)と裏面からの反射光(反射戻り光B2)とが接近し、光束位置検出器102に同時に入射してしまうことが分かった。このことを、図12を参照して説明する。図12(A)に示すように、基材108が薄い場合、表面反射光B1と反射戻り光B2のピーク位置が近接し、光束位置検出器102でこれらを同時に検出することになる。このように、表面反射光B1の位置ピークと反射戻り光B2の位置ピークが光束位置検出器102の光束検出面内に同時に入射した場合、光束位置検出器102側では両方の信号を用いて基材の高さを算出するため、実際の高さとは異なる値が算出される。すなわち、図12(B)に示すように、見かけの反射光B″によるピーク位置によって基材の位置が算出されることになり、図示に2点鎖線で示すように、実際の位置よりも高い位置が算出されてしまう。したがって、電子線のフォーカスが基材108の表面に一致せず、所望の精度で描画を行うことができないという問題がある。
本発明は、上述のような実情に鑑みてなされたものであり、電子線でレジストにパターンを描画する際に、基材の表面位置の検出を精度良く行なうためのナノインプリントモールド用基材の処理方法と、高精度の凹凸パターンを備えたナノインプリントモールドを製造するための製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的を達成するために、本発明のナノインプリントモールド用基材の処理方法は、厚さが4mm以下の透明なナノインプリントモールド用基材の処理方法において、基材の裏面側の少なくとも一部の領域、あるいは内部の少なくとも一部の領域に、前記基材の表面側から基材に入射した検出光が前記基材の裏面で反射して表面側に出射するのを防止する反射防止部を設けるような構成とした。
【0009】
また、本発明の他の態様として、前記反射防止部は、検出光(ガウシアンビーム、あるいは検出光の強度分布をガウシアンで近似したガウシアンビーム)の広がりをa、基材の表面への入射角をθとする光学的な基材の表面位置検出機構にて、基材表面から反射防止部までの厚さがD、基材の屈折率がnsであり、基材表面からの反射光と反射防止部と基材との界面あるいは基材裏面からの反射戻り光との強度比がαであり、合成されるガウシアンビームの断面強度分布が
f=exp(-x2/a2) +αexp(-(x-d)2/a2)
ここで、dは反射光と反射戻り光との位置ずれ量であり、
d=2Dcosθtan(sin-1(sinθ/ns))である
で表される系において、
前記断面強度分布プロファイルの微分値が0となるXの値に1/(2tanθcosθ)を乗じた値が10μm以下となるような強度比αの範囲を求め、反射戻り光の強度が該強度比αの範囲を満たすような反射防止構造とするような構成とした。
【0010】
また、本発明の他の態様として、前記基材の裏面を粗面化して前記反射防止部とするような構成とした。
また、本発明の他の態様として、前記基材の裏面に反射防止層を設けて前記反射防止部とし、該反射防止層の屈折率nを1.35以下とし、また、検出光の波長をλとしたときに、前記反射防止層の厚みLは、位相条件より、
nL=(2m−1)λ/4 (mは整数)
を満足するような構成とした。
また、本発明の他の態様として、前記基材の裏面に反射防止層を積層して2層構造の反射防止部とし、2層構造における振幅条件、および、位相条件を満たすように各層の反射防止層の屈折率と厚みを設定するような構成とした。
また、本発明の他の態様として、前記基材の裏面に光吸収層を配設して前記反射防止部とするような構成とし、また、前記基材の屈折率との差が±25%以下である屈折率を有する材料を用い、検出光に対する吸光度が前記強度比αを満たすように前記光吸収層を形成するような構成とした。
また、本発明の他の態様として、前記基材の内部に低光透過率層を形成することにより前記反射防止部とするような構成とした。
【0011】
本発明のナノインプリントモールドの製造方法は、厚さが4mm以下の透明な基材に対して、上述のナノインプリントモールド用基材の処理方法によって反射防止部を形成する工程と、前記基材の表面上にレジスト膜を形成し、電子線描画装置内のステージ上に、前記基材の裏面がステージと対向するように前記基材を配置する工程と、前記基材に対して高さ検出光を照射し、該高さ検出光が前記基材の表面で反射された反射光を検出して前記基材の高さを検出し、検出した基材の表面位置に適するように電子線のフォーカス位置を制御しながら前記レジスト膜に対して電子線を照射して、所望のパターン潜像を形成する工程と、前記レジスト膜を現像して得たレジストパターンをマスクとして前記基材に凹凸パターンを形成する工程と、を有するような構成とした。
【発明の効果】
【0012】
本発明のナノインプリントモールド用基材の処理方法によれば、基材に反射防止部を設けることによって、基材の表面に照射された検出光が基材裏面で反射して表面に出射することを抑制するので、基材の表面に照射された検出光のうち、基材表面で反射された反射光(表面反射光のピーク位置)のみによる表面位置の検出と同等の検出が可能となり、これにより、検出光を用いたナノインプリントモールド用基材の表面位置の検出を精度良く行うことが可能となる。
本発明のナノインプリントモールドの製造方法によれば、電子線によるレジスト膜へのパターン描画の際に、基材の表面に照射された高さ検出光が基材裏面で反射して表面に出射するのを反射防止部が抑制し、表面反射光のピーク位置が確実に検出されるので、検出光による基材の表面位置を精度良く検出することができ、これにより電子線描画時に発生するフォーカスズレが防止され、高い精度でパターン描画を行うことができ、高精度の凹凸パターンを備えたナノインプリントモールドを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明で製造されるナノインプリントモールドの一例を示す断面図である。
【図2】本発明で製造されるナノインプリントモールドの他の例を示す断面図である。
【図3】本発明で製造されるナノインプリントモールドにおける反射防止部の配置を説明するための図である。
【図4】本発明で製造されるナノインプリントモールドを構成する反射防止部の一例を説明するための断面図である。
【図5】本発明で製造されるナノインプリントモールドを構成する反射防止部の他の例を説明するための断面図である。
【図6】本発明で製造されるナノインプリントモールドを構成する反射防止部の他の例を説明するための断面図である。
【図7】本発明で製造されるナノインプリントモールドを構成する反射防止部の他の例を説明するための断面図である。
【図8】本発明で製造されるナノインプリントモールドを構成する反射防止部の他の例を説明するための断面図である。
【図9】本発明のナノインプリントモールドの製造方法の一実施形態を説明するための工程図である。
【図10】電子線描画装置内での基材面の位置を検出する原理を説明する図面である。
【図11】電子線描画装置内での6025基材の高さ検出を説明する図面である。
【図12】電子線描画装置内でのナノインプリントモールド用基材の高さ検出を説明する図面である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
まず、本発明で製造されるナノインプリントモールドについて説明する。
図1は本発明で製造されるナノインプリントモールドの一例を示す断面図である。図1において、ナノインプリントモールド1は、透明な基材2と、この基材2の表面2a側に形成された凹凸パターン3と、基材の裏面2b側に形成された反射防止部4とを有している。また、本発明で製造されるナノインプリントモールドは、図2に示すように、反射防止部4を基材2の内部に備えるものであってもよい。
【0015】
反射防止部4は、基材2の表面2a側から基材2に入射した光が、基材2の裏面2bで反射して表面2a側に出射するのを防止するものである。このような反射防止部4は、基材2の裏面2b側の少なくとも一部の領域、あるいは基材2の内部の少なくとも一部の領域に配置される。図3は、反射防止部4の配置を説明するための図であり、反射防止部4の配置部位には斜線を付して示している。図3(A)に示されるように、反射防止部4は、凹凸パターン3が形成された領域(鎖線で囲まれた領域)を含むように配置されたものであってよい。また、図3(B)に示されるように、凹凸パターン3が形成された領域(鎖線で囲まれた領域)を除く部位で、この凹凸パターン3を囲むように回廊形状に配置されていてもよい。さらに、図3(C)に示すように、凹凸パターン3が形成された領域(鎖線で囲まれた領域)を除く部位で、この凹凸パターン3を囲むように部分的に配置されていてもよい。勿論、反射防止部4は、基材2の裏面2bの全域、あるいは基材2の内部の全域に配置されていてもよい。
【0016】
このような反射防止部4は、図4に示されるように、基材2の裏面2bに設けられた粗面部11とすることができる。
また、反射防止部4は、図5に示されるように、基材2の裏面2bに設けられた反射防止層12とすることができる。
さらに、反射防止部4は、図6に示されるように、基材2の裏面2bに積層された反射防止層13a、13bからなる2層構造とすることもできる。
また、反射防止部4は、図7に示されるように、基材2の裏面2bに設けられた光吸収層14とすることができる。
さらに、反射防止部4は、図8に示されるように、基材2の内部に位置する低光透過率層15とすることができる。
このようなナノインプリントモールドは、製造段階で、電子線描画時に発生するフォーカスズレの問題を解消し、微細パターンを高い精度で形成することができる。また、検査段階で、検査表面のフォーカスズレの問題を解消し、微細なパターンまで高い精度で検査を行うことができる。さらに、インプリント時において、モールドと基材との高さ位置を高い精度で把握でき、インプリントを効率よく行うことができる。
【0017】
[ナノインプリントモールド用基材の処理方法]
次に、本発明のナノインプリントモールド用基材の処理方法を説明する。
本発明は、厚さが4mm以下の透明なナノインプリントモールド用の基材の裏面側の少なくとも一部の領域、あるいは内部の少なくとも一部の領域に、この基材の表面側から基材に入射した光が基材の裏面で反射して表面側に出射するのを防止する反射防止部を設けるものである。
本発明の処理方法を適用する基材としては、例えば、石英ガラス、珪酸系ガラス、フッ化カルシウム、パイレックス(登録商標)ガラス、青板ガラス、ソーダガラス、BK−7等を挙げることができる。基材の厚みは4mm以下であり、ナノインプリントモールドの用途などによって適宜設定することができ、また、厚みの下限は特に制限はなく、ナノインプリントモールドに形成する凹凸パターンの形状、寸法や基材の強度、取り扱い適性等を考慮して設定することができる。尚、基材の厚みが4mmを超える場合であっても本発明の処理方法を適用することは可能である。しかし、基材の厚みが4mmを超えると基材の厚みが十分なものとなり、図11を用いて説明したように、表面反射光のピーク位置と反射戻り光のピーク位置とが離れたものとなって、これらが光束位置検出器で同時に検出されることはない。したがって、本発明の処理方法を適用する必要性はない。
【0018】
基材の裏面側に形成する反射防止部は、ナノインプリントモールドの製造工程において基材の表面位置を検出するために基材表面に照射された高さ検出光が、基材に入射し裏面で反射して表面側に出射するのを防止するものである。この反射防止部は、検出光(ガウシアンビーム、あるいは検出光の強度分布をガウシアンで近似したガウシアンビーム)の広がりをa、基材の表面への入射角をθとする光学的な基材の表面位置検出機構にて、基材表面から反射防止部までの厚さがD、基材の屈折率がnsであり、基材表面からの反射光と反射防止部と基材との界面あるいは基材裏面からの反射戻り光との強度比がαであり、合成されるガウシアンビームの断面強度分布が
f=exp(-x2/a2) +αexp(-(x-d)2/a2)
ここで、dは反射光と反射戻り光との位置ずれ量であり、
d=2Dcosθtan(sin-1(sinθ/ns))である
で表される系において、
前記断面強度分布プロファイルの微分値が0となるXの値に1/(2tanθcosθ)を乗じた値が10μm以下となるような強度比αの範囲を求め、反射戻り光の強度が該強度比αの範囲を満たすような反射防止構造とする。
【0019】
このような反射防止構造を有する反射防止部は、基材の裏面側の少なくとも一部の領域、あるいは基材の内部の少なくとも一部の領域に配置される。例えば、反射防止部を基材の裏面の全域、あるいは基材の内部の全域に配置することができる。また、上述のナノインプリントモールドの説明で図3に示したように、後工程で凹凸パターン3を形成するための領域を含むように反射防止部4を形成してもよく(図3(A)参照)、後工程で凹凸パターン3を形成するための領域を除く位置で、この領域を囲むように回廊形状に反射防止部4を形成してもよく(図3(B)参照)、さらに、後工程で凹凸パターン3を形成するための領域を除く位置で、この領域を囲むように部分的に反射防止部4を形成してもよい(図3(C)参照)。このように反射防止部の形成位置は特に制限されない。但し、使用する基材に反りや歪みといった形状起因のバラつきがある場合は、後工程で凹凸パターン3を形成するための領域そのもの、あるいは、この領域の近傍で基材の表面位置を検出できるように反射防止部4を形成することが好ましい。
【0020】
ここで、反射防止部の形成方法について、上述の図4〜図8を参照しながら説明する。尚、上述のナノインプリントモールドと同じ部材については同じ部材番号を使用して説明する。本発明の処理方法では、図4に示されるように、基材2の裏面2bを粗面化して粗面部11を形成することにより反射防止部4とすることができる。粗面部11を形成するための粗面化は、例えば、機械研磨、サンドブラスト研磨、化学エッチング等を用いて行うことができる。粗面化の程度は、例えば、平均粗さRaが0.1〜100μm、好ましくは0.5〜10μm、より好ましくは1〜2μm程度となるように設定することができる。粗面部11の平均粗さRaが0.1μm未満であると、上述のような反射防止構造とならず十分な反射防止効果が得られない。また、平均粗さRaが100μmを超えると、反射防止部4の機能は得られるものの、モールド自体の剛性が不充分となり、インプリント時に歪みが生じる等の不具合が発生することがあり好ましくない。尚、平均粗さRaは、アルバック社製 段差計測装置DEKTAK8000により測定したものとする。このような粗面部11は、基材2の表面2a側から基材2内に入射してきた光を散乱させることができ、低い反射率を有するものである。したがって、検出光の波長が異なる複数の製造装置、検査装置に対して有効である。
【0021】
また、本発明の処理方法では、図5に示されるように、基材2の屈折率よりも小さい屈折率を有する反射防止層12を基材2の裏面2bに形成して反射防止部4とすることができる。この反射防止層12は、以下のように屈折率と厚みを特定の範囲とすることにより、上述のような反射防止構造を具備したものとすることができる。すなわち、反射防止層12の屈折率は、屈折率が1.35以下、好ましくは基材2の屈折率をnsとしたときに、振幅条件よりns1/2程度、例えば、ns1/2の±10%程度である。尚、屈折率の測定は、市販のエリプソメトリー装置により測定することできる。このような反射防止層12は、例えば、フッ素系樹脂、テフロン(登録商標)AF、サイトップ(登録商標)等の材料を用いて、スピンコート等の塗布方法で塗布し乾燥(硬化)する方法、イオン化蒸着法等の真空成膜法で形成することができる。また、反射防止層12の厚みLは、検出光の波長をλとしたときに、位相条件より、
nL=(2m−1)λ/4 (mは整数)
を満足するように設定することができる。したがって、反射率が極小となる厚みは周期的に存在し、反射防止層12の厚みLは、極小となる厚みに対して、±0.03μm、好ましくは±0.02μmの範囲で適宜設定することができる。また、この位相条件では、ある厚みに対して、短波長側に反射率が極小となる波長が存在する。すなわち、反射防止層12は、屈折率と厚みを調整することによって多波長に対して薄膜干渉による低反射機能を発現することができる。したがって、検出光の波長が異なる複数の製造装置、検査装置に対して有効である。
【0022】
さらに本発明の処理方法では、図6に示されるように、基材2の裏面2bに反射防止層13a、13bを積層して2層構造の反射防止部4としてもよい。このような2層構造の反射防止部4は、2層構造における振幅条件、および、位相条件を満たすように屈折率と厚みを適宜設定することができる。例えば、周囲が空気(屈折率n1=1)である場合、2層構造の反射防止部4を構成する反射防止層13aの屈折率、厚さをn1、L1とし、反射防止層13bの屈折率、厚さをn2、L2とし、基材2の屈折率をnsとすると、n1L1=n2L2=λ/4となる厚みで基材2に形成したときの反射率Rは、
R=[1−ns(n2/n1)2]2/[1+ns(n2/n1)2]2
で与えられる。反射率Rを0とするためには、ns(n2/n1)2が1となるように材料を選択すればよい。ここでは、吸収が無視できる透明材料を用い、n1L1=n2L2=λ/4となる厚みで積層構造を形成した場合を記載したが、この条件に限定されず、薄膜の光学定数で定義される特性行列の計算によって、材料と厚みを適宜設定することができる。このような2層構造の反射防止部4は、それぞれ選択した材料を用いて、スピンコート等の塗布方法で塗布し乾燥(硬化)する方法、スパッタリング等の真空成膜法で形成することができる。
【0023】
また、本発明の処理方法では、図7に示されるように、基材2の裏面2bに光吸収層14を設けて反射防止部4とすることができる。この光吸収層14は、基材2の屈折率との差が±25%以下、好ましくは±20%以下の範囲である光吸収性材料を用いて、スピンコート等の塗布方法で塗布し乾燥(硬化)する方法、スパッタリング等の真空成膜法で形成することができる。光吸収層14が入射した光を減衰させる場合、膜厚に依存した薄膜干渉による反射率の増減が無くなるため、光吸収層14の屈折率と基材2の屈折率との差が大きくなるにつれて、基材2と光吸収層14の界面での反射が大きくなる。光吸収層14の屈折率と基材2の屈折率との差が±25%を超えると、光吸収層14がほぼ100%光を吸収する場合でも、上述のような反射防止構造とならず十分な反射防止作用が得られない。
【0024】
また、光吸収層14は、吸収係数と厚みを適宜設定することによって、その効果が決められる。すなわち、光吸収層14は、材料の吸収係数と厚さで光吸収の度合いが変わるので、光吸収層14は、厚さと吸収係数で決まる吸光度で規定することが好ましい。このため、上述の強度比αを満たす(反射防止構造を有する)ように光吸収層14を形成する。このような光吸収層14は、例えば、フタロシアニン化合物、アントラキノン化合物、ナフトキノン化合物等の赤色吸収有機顔料色素を含む顔料レジスト等の材質を用いて形成することができる。
このように、光吸収層14の屈折率が基材2の屈折率に近く(屈折率整合している)、かつ、光吸収層14の吸光度が所定の範囲にあり、上述のような反射防止構造を有するので、低反射作用が発現される。しがたって、検出光の波長が異なる複数の製造装置、検査装置に対して有効である。
【0025】
さらに、本発明の処理方法では、図8に示されるように、基材2の内部に低光透過率層15を形成して反射防止部4とすることができる。低光透過率層15の光透過率は、基材2の光透過率の5〜68%程度とすることができる。低光透過率層15の光透過率が基材2の光透過率の68%を超える場合、上述のような反射防止構造とならず十分な反射防止作用が得られない。また、5%未満の場合は、極めて高い精度での表面位置検出が可能であるが、インプリント工程での転写樹脂硬化の時間が長くなりスループットが低くなるため、インプリントモールドとして適さないものとなる。このような低光透過率層15としては、基材2の内部にレーザー光を収斂して、基材2の光学的性質を変化させた層とすることができる。具体的には、レーザー光によって基材2に絶縁破壊を生じさせて不透明化された層とすることができる。この場合、レーザー光としては、YAGレーザー、YLFレーザー等を用いることができ、収斂させた部位で基材の絶縁破壊が起るような条件でレーザー光を照射する。絶縁破壊を生じさせる厚みは、例えば、100μm以上で、基材2の厚み以下の範囲で設定することができる。
【0026】
また、低光透過率層15は、基材2に平均径が10〜100μm程度の気泡が密集あるいは散在して構成されている層とすることができる。この場合、基材2の作製時に気泡を形成する必要がある。気泡の形成方法としては、例えば、シリカ粉末に窒化ケイ素を添加して成形し窒素雰囲気中で加熱する方法がある。独立気泡数は、例えば、3×105〜5×106個/cm3の範囲で設定することができ、また、厚み方向の気泡密度が勾配を有するものであってもよい。尚、独立気泡数の計測は、目盛り付きレンズをもつ偏光顕微鏡を用いて行うことができる。このような低光透過率層15は、上述のような反射防止構造を有し、多波長に対して低い光透過性を示すので、検出光の波長が異なる複数の製造装置、検査装置に対して有効である。
【0027】
このような本発明の処理方法によれば、基材に反射防止部を設けることによって、基材の表面に照射された検出光が基材裏面で反射して表面に出射することを抑制することができる。基材に反射防止部を形成しない場合、図12(B)に示されるように、基材2に照射された検出光Aは、基材2の表面2aで反射された表面反射光B1と、基材2の裏面2bで反射された反射戻り光B2として検出される。すなわち、表面反射光B1と反射戻り光B2の合成光(見かけの反射光)B″によるピーク位置によって基材2の位置が算出される。したがって、合成光B″と表面反射光B1とのズレ量dが小さいほど、基材2の表面位置の検出精度が高くなる。そして、合成光B″は反射戻り光B2の強度が小さくなるにつれて表面反射光B1に接近し、ズレ量dが小さくなる。本発明では、基材に設けた反射防止部によって反射戻り光B2の強度を小さくすることができ、上記のズレ量dが極めて小さくなる。したがって、基材の表面に照射された検出光のうち、基材表面で反射された反射光(表面反射光のピーク位置)のみによる表面位置の検出と同等の検出が可能となる。これにより、検出光を用いたナノインプリントモールド用基材の表面位置の検出を精度良く行うことが可能となる。
【0028】
尚、基材2の厚みが6025基材(厚み6.35mm)のように十分大きい場合には、表面反射光B1と反射戻り光B2とが十分離れており、表面反射光B1のピーク位置のみが検出され、上記のズレ量dは無視することができる(図11参照)。
上述の実施形態は例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0029】
[ナノインプリントモールドの製造方法]
次に、本発明のナノインプリントモールドの製造方法を説明する。
図9は、本発明のナノインプリントモールドの製造方法の一実施形態を説明するための工程図である。
本発明では、まず、透明な基材2の裏面2b側に反射防止部4を形成する(図9(A))。使用する基材2は、例えば、石英ガラス、珪酸系ガラス、フッ化カルシウム、パイレックス(登録商標)ガラス、青板ガラス、ソーダガラス、BK−7等を挙げることができる。基材2の厚みは4mm以下であり、用途などによって適宜設定することができ、また、厚みの下限は特に制限はなく、凹凸パターン3の形状、寸法や基材の強度、取り扱い適性等を考慮して設定することができる。
反射防止部4の形成は、上述の本発明の処理方法により行うことができ、ここでの説明は省略する。
尚、基材2の厚みが4mmを超える場合であっても本発明の製造方法によりナノインプリントモールドの製造は可能である。しかし、基材2の厚みが4mmを超えると基材の厚みが十分なものとなり、図11を用いて説明したように、表面反射光のピーク位置と反射戻り光のピーク位置とが離れたものとなって、これらが光束位置検出器で同時に検出されることはない。したがって、本発明の製造方法を適用する必要性がなくなる。
【0030】
次の工程として、基材2の表面上にクロム薄膜6を介してレジスト膜7を形成し、電子線描画装置内のステージ(図示せず)上に、基材2の裏面2bがステージと対向するように基材2を配置する(図9(B))。尚、クロム薄膜6を介さずにレジスト膜7を形成してもよい。
次いで、基材2に対して高さ検出光を照射し、高さ検出光が基材2の表面2aで反射された反射光(表面反射光のピーク位置)を検出して基材2の高さを検出し、検出した基材2の表面位置に適するように電子線のフォーカス位置を制御しながらレジスト膜7に対して電子線を照射して、所望のパターン潜像を形成する。
次に、レジスト膜7を現像してレジストパターン8を形成し(図9(C))、このレジストパターン8をマスクとして基材2に凹凸パターン3を形成する。その後、不要となったレジストパターン8とクロム薄膜6を除去することにより、ナノインプリントモールド1が得られる(図9(D))。レジストパターン8をマスクとした凹凸パターン3の形成は、例えば、化学エッチング、反応性イオンエッチング等を用いて行うことができる。凹凸パターンの寸法等は用途等に応じて適宜設定することができる。
【0031】
このような本発明のナノインプリントモールドの製造方法によれば、電子線によるレジスト膜へのパターン描画の際に、基材の表面に照射された高さ検出光が基材裏面で反射して表面に出射するのを反射防止部が抑制する。このため、表面反射光のピーク位置が確実に検出されるので、検出光による基材の表面位置を精度良く検出することができる。これにより高い精度でのパターン描画が可能であり、高精度の凹凸パターンを備えたナノインプリントモールドを製造することができる。
上述の実施形態は例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
次に、より具体的な実施例を示して本発明を更に詳細に説明する。
[実施例1]
厚み675μmの石英ガラス((株)アトック製 合成石英ウェーハ、屈折率1.45)をナノインプリントモールド用基材として準備した。この基材の裏面に機械研磨により粗面化を施して粗面部(反射防止部)を形成した。ここでは、粗面化処理の程度を変化させ、下記の表1に示されるような種々の平均粗さRaを有する粗面部を形成して、5種の基材(試料1−2〜試料1−6)を作製した。尚、平均粗さRaの測定は、アルバック社製 段差計測装置DEKTAK8000を用いて行った。
また、比較のための基材として、6025基材(厚さ6.35mm)を準備した。
次に、各基材の表面にスパッタリング法によりクロム薄膜(厚み5nm)を成膜し、その後、このクロム薄膜上にレジスト(日本ゼオン(株)製 ZEP520A)をスピンコーティングした。
【0033】
次いで、電子線描画装置(日本電子(株)製 JBX9000)内のステージ上に、基材の裏面がステージと対向するように基材を配置し、基材に対して入射角70°で検出光(波長600〜800nm)を照射し、反射光をフォトディテクターで検出した。そして、ビーム形状と基材の反射率、透過率をパラメータにして、ガウシアンビーム( Gaussian beam )の合成( f= exp(-x2/a2) +αexp(-(x-d)2/a2)、ビーム形状a=0.5)により算出した合成光B″のピーク位置と表面反射光B1のピーク位置のズレ量d(図12(B)参照)、および、基材の高さズレ量ΔDを算出して、下記の表1に示した。尚、基材の表面位置の検出を高精度で行うためには、基材の高さズレ量ΔDが10μm以下であることを要件とする。以下の実施例においても同様である。
【0034】
【表1】
【0035】
表1に示されるように、平均粗さRaが0.1〜100μmの範囲内にある粗面部を有する試料1−3〜試料1−7では、基材の高さズレ量ΔDが10μm以下であり、極めて高い精度で基材の表面位置を検出できることが確認された。
これに対して、粗面化処理を施していない試料1−1、平均粗さRaが0.1μm未満である試料1−2では、基材の高さズレ量ΔDが10μmを超えるものであった。
【0036】
[実施例2]
実施例1と同様の石英ガラスをナノインプリントモールド用基材として準備した。この基材の裏面にスピンコート法によりテフロン(登録商標)AFを塗布し成膜して反射防止層(反射防止部)を形成した。この反射防止層の屈折率は1.3であった。ここでは、反射防止層の厚みを変化させ、下記の表2に示される5種の基材(試料2−2〜試料2−6)を作製した。すなわち、反射防止層の厚みLは、n=1.3で、検出光の波長をλ(680nm)としたときに、位相条件より、
nL=(2m−1)λ/4 (mは整数)
を満足するように設定することができるので、試料2−3〜試料2−5の反射防止層の厚みは、上記式を満足する反射防止層の厚みL(m=1のときL=0.13μm)に対して、±0.04μmの範囲で設定した。また、試料2−2と試料2−6は、上記式を満足する反射防止層の厚みLの±0.04μmの範囲から外れるように反射防止層の厚みを設定した。
【0037】
また、反射防止層の形成に用いる材料を下記の表2に示すものとして、反射防止層の屈折率を変化させ、下記の表2に示される2種の基材(試料2−7〜試料2−8)を作製した。尚、反射防止層の厚みは、n=1.35、n=1.4で、それぞれ検出光の波長をλ(680nm)としたときに、位相条件より、
nL=(2m−1)λ/4 (mは整数)
を満足する反射防止層の厚みLを設定した。
次に、各基材について、実施例1と同様にして、合成光B″のピーク位置と表面反射光B1のピーク位置のズレ量d、および、基材の高さズレ量ΔDを算出して、下記の表2に示した。
【0038】
【表2】
【0039】
表2に示されるように、反射防止層の厚みが上記式を満足する反射防止層の厚みLの±0.04μmの範囲である試料2−3〜試料2−5、および、試料2−7は、基材の高さズレ量ΔDが10μm以下であり、極めて高い精度で基材の表面位置を検出できることが確認された。
これに対して、反射防止層の厚みが上記式を満足する反射防止層の厚みLの±0.04μmの範囲から外れる試料2−2および試料2−6は、反射防止層を形成していない試料2−1に比べて基材の高さズレ量ΔDが小さいものの、その値は10μmを超えるものであった。
また、反射防止層の屈折率が1.35を超える試料2−8は、反射防止層の厚みが上記式を満足する反射防止層の厚みLであるものの、基材の高さズレ量ΔDが10μmを超えるものであり、高い精度での基材の表面位置検出は困難であった。
【0040】
ここで、使用した基材の屈折率ns=1.45から、振幅条件よりns1/2に相当する屈折率1.2の材料からなる反射防止層を想定すると、反射防止層の厚みLは、n=1.2、検出光の波長λ=680nm)としたときに、位相条件より、
nL=(2m−1)λ/4 (mは整数)
を満足するように設定することができ、m=1では、反射防止層の厚みLは0.142μmとなり、このとき基材の高さズレ量ΔDは0μmとなる。したがって、反射防止膜は、振幅条件を満たす屈折率により近い材料を選択することが重要であり、このことは、上記の試料2−3〜試料2〜5、試料2−7の基材の高さズレ量ΔDに対する試料2−8の基材の高さズレ量ΔDの対比から明らかである。
【0041】
[実施例3]
実施例1と同様の石英ガラスをナノインプリントモールド用基材として準備した。この基材の裏面にスパッタリング法により、酸化マグネシウム(屈折率1.70)、または、クロム(屈折率2.51)を成膜して、1層目の反射防止層を形成した。次いで、この反射防止層上にスピンコート法によりテフロン(登録商標)AFを塗布し成膜して2層目の反射防止層(屈折率1.3)を形成し、2層構造の反射防止部として、2種の基材(試料3−1〜試料3−2)を作製した。
2層構造の反射防止部の形成では、2層構造における振幅条件、および、位相条件を満たすよう薄膜の光学定数で定義される特性行列を用いて反射率を求めることにより、厚みを下記表3に示すように設定した。
次に、各基材について、実施例1と同様にして、合成光B″のピーク位置と表面反射光B1のピーク位置のズレ量d、および、基材の高さズレ量ΔDを算出して、下記の表3に示した。
【0042】
【表3】
【0043】
表3に示されるように、反射防止部を2層構造とすることにより、反射率をほぼ0にすることができ、基材の高さズレ量ΔDが0μmと、極めて高い精度で基材の表面位置を検出できることが確認された。
【0044】
[実施例4]
実施例1と同様の石英ガラスをナノインプリントモールド用基材として準備した。この基材の裏面にスピンコート法により赤色吸収有機顔料色素を含む顔料レジストを塗布し成膜して光吸収層(反射防止部)を形成し、下記の表4に示される6種の基材(試料4−2〜試料4−7)を作製した。ここでは、顔料レジストとして、吸収係数の異なる3種の顔料レジストを使用し、各顔料レジストに対して、光吸収層の厚みを変化させた。光吸収層の屈折率は何れの顔料レジストを用いたものであっても1.45であった。このように、光吸収層の屈折率を基材と同じ1.45としたので、光吸収層と基材との界面での反射率をほぼ0にすることができた。尚、各光吸収層の吸光度を下記の表4に示した。
また、基材の屈折率(1.45)と異なる屈折率を有する材料を用いて光吸収層を形成して2種の基材(試料4−8、試料4−9)を作製した。尚、光吸収層の厚みは、試料4−8、試料4−9共に、光吸収能がほぼ飽和する5μmとした。
次に、各基材について、実施例1と同様にして、合成光B″のピーク位置と表面反射光B1のピーク位置のズレ量d、および、基材の高さズレ量ΔDを算出して、下記の表4に示した。
【0045】
【表4】
【0046】
表4に示されるように、光吸収層の吸光度が0.39以上である試料4−3、試料4−5、試料4−7は、基材の高さズレ量ΔDが10μm以下であり、極めて高い精度で基材の表面位置を検出できることが確認された。
これに対して、光吸収層の吸光度が0.39未満である試料4−2、試料4−4、試料4−6は、光吸収層を形成していない試料4−1に比べて基材の高さズレ量ΔDが小さいものの、その値が10μmを超えるものであった。
また、光吸収層の屈折率が1.09〜1.82の範囲内(基材の屈折率1.45との差が±25%以下)である試料4−8は、基材の高さズレ量ΔDが10μm以下であり、極めて高い精度で基材の表面位置を検出できることが確認された。
これに対して、反射防止層の屈折率が上記の範囲(基材の屈折率との差が±25%以下)から外れる試料4−9は、基材の高さズレ量ΔDが10μmを超えるものであった。
【0047】
[実施例5]
実施例1と同様の石英ガラスをナノインプリントモールド用基材として準備した。この基材の表面から、レーザー光を400μJのエネルギーで基材内部に収斂し絶縁破壊を発生させて低光透過率層(反射防止部)を深さ100〜500μmの位置に形成した。ここでは、レーザー照射条件を変化させて低光透過率層の厚みを制御することにより、光透過率が異なる4種の基材(試料5−2〜試料5−5)を作製した。尚、基材の光透過率は、光透過率測定装置(大塚電子(株)製 MCPD)を用いて測定した。
次に、各基材について、実施例1と同様にして、合成光B″のピーク位置と表面反射光B1のピーク位置のズレ量d、および、基材の高さズレ量ΔDを算出して、下記の表5に示した。
【0048】
【表5】
【0049】
表5に示されるように、光透過率が5〜68%の範囲内にある試料5−3〜試料5−5は、基材の高さズレ量ΔDが10μm以下であり、極めて高い精度で基材の表面位置を検出できることが確認された。
これに対して、光透過率が上記の範囲から外れる試料5−2は、絶縁破壊層を形成していない試料5−1に比べて基材の高さズレ量ΔDが小さいものの、その値が10μmを超えるものであった。尚、光透過率5%未満の基材は、極めて高い精度での表面位置検出が可能であるが、インプリント工程での転写樹脂硬化の時間が長くなりスループットが低くなるため、インプリントモールドとして適さないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
ナノインプリント技術を用いた微細加工に利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1…ナノインプリントモールド
2…基材
3…凹凸パターン
4…反射防止部
7…レジスト膜
8…レジストパターン
11…粗面部
12…反射防止層
13a,13b…反射防止層
14…光吸収層
15…低光透過率層
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細なパターン形成が可能なナノインプリントモールドの製造方法、ならびにナノインプリントモールド用基材の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代の微細加工技術として、近年ナノインプリント技術に注目が集まっている。ナノインプリント技術は、基材の表面に微細な凹凸構造を形成した型部材を用い、凹凸構造を被加工対象に転写することで微細構造を等倍転写するパターン形成技術である。このような微細凹凸構造が形成された型部材は、ナノインプリントモールドと呼ばれる(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
従来のナノインプリントモールドの製造方法の一例として、次のような工程を挙げることができる。(1)まず基材を準備し、(2)その基材上に例えばレジスト膜を形成し、(3)このレジスト膜に対してg線、h線、i線と呼ばれる波長の短い紫外線を用いたマスク露光によってパターン潜像を作成し、(4)そのパターン潜像を現像してできるレジストパターンをマスクとして基材をエッチングして微細な凹凸構造を得る。そして、パターン寸法が微細化するにつれて、紫外線を用いたマスク露光でパターン潜像を形成することが困難となってきた。このため、マスク露光に代わって電子線ビームによる直接描画でパターン潜像を形成することが求められている。
【0003】
電子線ビームによる直接描画では、例えば、高精度のパターン寸法を有するフォトマスクなどの製造に従来から用いられてきた電子線描画装置を用いることができる。このような電子線描画装置での微細パターン形成では、基材面への電子線のフォーカス位置を適切に設定することが重要である。このため、基材の表面位置を検出し、その表面位置に適するように電子線のフォーカス位置を制御することが必要であり、描画位置を走査させながら表面位置検出とフォーカス位置制御を繰り返すことにより、所定の領域に対して所望のパターン潜像が形成される。
【0004】
ここで、図面を参照しながら、電子線描画装置における描画手順の一例について説明する。図10は電子線描画装置内での基材面の位置を検出する原理を説明する図面である。図10(A)に示すように、移動可能なステージ107上に基材108が載置され、基材108の斜め上方には光源101、光束検出器102が配置されている。この光源101から出る光束(高さ検出光)を基材108に照射し(入射光A)、基材108の表面で反射した光束(反射光B)の位置(例えばピーク位置)を光束位置検出器102で検出し、これに基づいて制御部109が基材面の位置を算出し、その位置へ電子線をフォーカスさせて描画している。そして、図10(B)及び図10(C)に示すように、基材108の表面位置(基材高さ)が変動すると、基材108の表面で反射した光束は反射光B′として光束位置検出器102で検出され、反射光のピーク位置も変動することになる。基材108の高さ変動量Δと光束位置の変動量δには比例関係があるため、光束位置の変動量δを測定することによって基材の高さ変動量Δが検出できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,772,905号
【特許文献2】特表2002−539604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のような電子線描画装置において、例えば、従来のフォトマスクなどに用いられる基材(いわゆる6025基材:厚さ6.35mm)の高さ検出を行う場合、基材の厚さが大きいので、基材の表面からの反射光と裏面からの反射光のピーク位置が十分離れており、光束位置検出器でそれらを同時に検出することはなかった。このことを、図11を参照して説明する。基材108が十分な厚みを有する場合には、基材108に対して斜めに入射した入射光Aが基材108の表面で反射された光(表面反射光B1)のピーク位置と、基材108に入射して基材108の裏面で反射された光(反射戻り光B2)のピーク位置とが離れており、これらが光束位置検出器102で同時に検出されることはない。
【0007】
しかしながら、ナノインプリントモールドでは、6025基材よりも薄い透明基材(例えば、厚さ1mm以下)を用いることがある。このような薄い透明基材をナノインプリントモールド用の基材として使用し、電子線描画装置内で高さ検出を行う場合、上記の基材の表面からの反射光(表面反射光B1)と裏面からの反射光(反射戻り光B2)とが接近し、光束位置検出器102に同時に入射してしまうことが分かった。このことを、図12を参照して説明する。図12(A)に示すように、基材108が薄い場合、表面反射光B1と反射戻り光B2のピーク位置が近接し、光束位置検出器102でこれらを同時に検出することになる。このように、表面反射光B1の位置ピークと反射戻り光B2の位置ピークが光束位置検出器102の光束検出面内に同時に入射した場合、光束位置検出器102側では両方の信号を用いて基材の高さを算出するため、実際の高さとは異なる値が算出される。すなわち、図12(B)に示すように、見かけの反射光B″によるピーク位置によって基材の位置が算出されることになり、図示に2点鎖線で示すように、実際の位置よりも高い位置が算出されてしまう。したがって、電子線のフォーカスが基材108の表面に一致せず、所望の精度で描画を行うことができないという問題がある。
本発明は、上述のような実情に鑑みてなされたものであり、電子線でレジストにパターンを描画する際に、基材の表面位置の検出を精度良く行なうためのナノインプリントモールド用基材の処理方法と、高精度の凹凸パターンを備えたナノインプリントモールドを製造するための製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的を達成するために、本発明のナノインプリントモールド用基材の処理方法は、厚さが4mm以下の透明なナノインプリントモールド用基材の処理方法において、基材の裏面側の少なくとも一部の領域、あるいは内部の少なくとも一部の領域に、前記基材の表面側から基材に入射した検出光が前記基材の裏面で反射して表面側に出射するのを防止する反射防止部を設けるような構成とした。
【0009】
また、本発明の他の態様として、前記反射防止部は、検出光(ガウシアンビーム、あるいは検出光の強度分布をガウシアンで近似したガウシアンビーム)の広がりをa、基材の表面への入射角をθとする光学的な基材の表面位置検出機構にて、基材表面から反射防止部までの厚さがD、基材の屈折率がnsであり、基材表面からの反射光と反射防止部と基材との界面あるいは基材裏面からの反射戻り光との強度比がαであり、合成されるガウシアンビームの断面強度分布が
f=exp(-x2/a2) +αexp(-(x-d)2/a2)
ここで、dは反射光と反射戻り光との位置ずれ量であり、
d=2Dcosθtan(sin-1(sinθ/ns))である
で表される系において、
前記断面強度分布プロファイルの微分値が0となるXの値に1/(2tanθcosθ)を乗じた値が10μm以下となるような強度比αの範囲を求め、反射戻り光の強度が該強度比αの範囲を満たすような反射防止構造とするような構成とした。
【0010】
また、本発明の他の態様として、前記基材の裏面を粗面化して前記反射防止部とするような構成とした。
また、本発明の他の態様として、前記基材の裏面に反射防止層を設けて前記反射防止部とし、該反射防止層の屈折率nを1.35以下とし、また、検出光の波長をλとしたときに、前記反射防止層の厚みLは、位相条件より、
nL=(2m−1)λ/4 (mは整数)
を満足するような構成とした。
また、本発明の他の態様として、前記基材の裏面に反射防止層を積層して2層構造の反射防止部とし、2層構造における振幅条件、および、位相条件を満たすように各層の反射防止層の屈折率と厚みを設定するような構成とした。
また、本発明の他の態様として、前記基材の裏面に光吸収層を配設して前記反射防止部とするような構成とし、また、前記基材の屈折率との差が±25%以下である屈折率を有する材料を用い、検出光に対する吸光度が前記強度比αを満たすように前記光吸収層を形成するような構成とした。
また、本発明の他の態様として、前記基材の内部に低光透過率層を形成することにより前記反射防止部とするような構成とした。
【0011】
本発明のナノインプリントモールドの製造方法は、厚さが4mm以下の透明な基材に対して、上述のナノインプリントモールド用基材の処理方法によって反射防止部を形成する工程と、前記基材の表面上にレジスト膜を形成し、電子線描画装置内のステージ上に、前記基材の裏面がステージと対向するように前記基材を配置する工程と、前記基材に対して高さ検出光を照射し、該高さ検出光が前記基材の表面で反射された反射光を検出して前記基材の高さを検出し、検出した基材の表面位置に適するように電子線のフォーカス位置を制御しながら前記レジスト膜に対して電子線を照射して、所望のパターン潜像を形成する工程と、前記レジスト膜を現像して得たレジストパターンをマスクとして前記基材に凹凸パターンを形成する工程と、を有するような構成とした。
【発明の効果】
【0012】
本発明のナノインプリントモールド用基材の処理方法によれば、基材に反射防止部を設けることによって、基材の表面に照射された検出光が基材裏面で反射して表面に出射することを抑制するので、基材の表面に照射された検出光のうち、基材表面で反射された反射光(表面反射光のピーク位置)のみによる表面位置の検出と同等の検出が可能となり、これにより、検出光を用いたナノインプリントモールド用基材の表面位置の検出を精度良く行うことが可能となる。
本発明のナノインプリントモールドの製造方法によれば、電子線によるレジスト膜へのパターン描画の際に、基材の表面に照射された高さ検出光が基材裏面で反射して表面に出射するのを反射防止部が抑制し、表面反射光のピーク位置が確実に検出されるので、検出光による基材の表面位置を精度良く検出することができ、これにより電子線描画時に発生するフォーカスズレが防止され、高い精度でパターン描画を行うことができ、高精度の凹凸パターンを備えたナノインプリントモールドを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明で製造されるナノインプリントモールドの一例を示す断面図である。
【図2】本発明で製造されるナノインプリントモールドの他の例を示す断面図である。
【図3】本発明で製造されるナノインプリントモールドにおける反射防止部の配置を説明するための図である。
【図4】本発明で製造されるナノインプリントモールドを構成する反射防止部の一例を説明するための断面図である。
【図5】本発明で製造されるナノインプリントモールドを構成する反射防止部の他の例を説明するための断面図である。
【図6】本発明で製造されるナノインプリントモールドを構成する反射防止部の他の例を説明するための断面図である。
【図7】本発明で製造されるナノインプリントモールドを構成する反射防止部の他の例を説明するための断面図である。
【図8】本発明で製造されるナノインプリントモールドを構成する反射防止部の他の例を説明するための断面図である。
【図9】本発明のナノインプリントモールドの製造方法の一実施形態を説明するための工程図である。
【図10】電子線描画装置内での基材面の位置を検出する原理を説明する図面である。
【図11】電子線描画装置内での6025基材の高さ検出を説明する図面である。
【図12】電子線描画装置内でのナノインプリントモールド用基材の高さ検出を説明する図面である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
まず、本発明で製造されるナノインプリントモールドについて説明する。
図1は本発明で製造されるナノインプリントモールドの一例を示す断面図である。図1において、ナノインプリントモールド1は、透明な基材2と、この基材2の表面2a側に形成された凹凸パターン3と、基材の裏面2b側に形成された反射防止部4とを有している。また、本発明で製造されるナノインプリントモールドは、図2に示すように、反射防止部4を基材2の内部に備えるものであってもよい。
【0015】
反射防止部4は、基材2の表面2a側から基材2に入射した光が、基材2の裏面2bで反射して表面2a側に出射するのを防止するものである。このような反射防止部4は、基材2の裏面2b側の少なくとも一部の領域、あるいは基材2の内部の少なくとも一部の領域に配置される。図3は、反射防止部4の配置を説明するための図であり、反射防止部4の配置部位には斜線を付して示している。図3(A)に示されるように、反射防止部4は、凹凸パターン3が形成された領域(鎖線で囲まれた領域)を含むように配置されたものであってよい。また、図3(B)に示されるように、凹凸パターン3が形成された領域(鎖線で囲まれた領域)を除く部位で、この凹凸パターン3を囲むように回廊形状に配置されていてもよい。さらに、図3(C)に示すように、凹凸パターン3が形成された領域(鎖線で囲まれた領域)を除く部位で、この凹凸パターン3を囲むように部分的に配置されていてもよい。勿論、反射防止部4は、基材2の裏面2bの全域、あるいは基材2の内部の全域に配置されていてもよい。
【0016】
このような反射防止部4は、図4に示されるように、基材2の裏面2bに設けられた粗面部11とすることができる。
また、反射防止部4は、図5に示されるように、基材2の裏面2bに設けられた反射防止層12とすることができる。
さらに、反射防止部4は、図6に示されるように、基材2の裏面2bに積層された反射防止層13a、13bからなる2層構造とすることもできる。
また、反射防止部4は、図7に示されるように、基材2の裏面2bに設けられた光吸収層14とすることができる。
さらに、反射防止部4は、図8に示されるように、基材2の内部に位置する低光透過率層15とすることができる。
このようなナノインプリントモールドは、製造段階で、電子線描画時に発生するフォーカスズレの問題を解消し、微細パターンを高い精度で形成することができる。また、検査段階で、検査表面のフォーカスズレの問題を解消し、微細なパターンまで高い精度で検査を行うことができる。さらに、インプリント時において、モールドと基材との高さ位置を高い精度で把握でき、インプリントを効率よく行うことができる。
【0017】
[ナノインプリントモールド用基材の処理方法]
次に、本発明のナノインプリントモールド用基材の処理方法を説明する。
本発明は、厚さが4mm以下の透明なナノインプリントモールド用の基材の裏面側の少なくとも一部の領域、あるいは内部の少なくとも一部の領域に、この基材の表面側から基材に入射した光が基材の裏面で反射して表面側に出射するのを防止する反射防止部を設けるものである。
本発明の処理方法を適用する基材としては、例えば、石英ガラス、珪酸系ガラス、フッ化カルシウム、パイレックス(登録商標)ガラス、青板ガラス、ソーダガラス、BK−7等を挙げることができる。基材の厚みは4mm以下であり、ナノインプリントモールドの用途などによって適宜設定することができ、また、厚みの下限は特に制限はなく、ナノインプリントモールドに形成する凹凸パターンの形状、寸法や基材の強度、取り扱い適性等を考慮して設定することができる。尚、基材の厚みが4mmを超える場合であっても本発明の処理方法を適用することは可能である。しかし、基材の厚みが4mmを超えると基材の厚みが十分なものとなり、図11を用いて説明したように、表面反射光のピーク位置と反射戻り光のピーク位置とが離れたものとなって、これらが光束位置検出器で同時に検出されることはない。したがって、本発明の処理方法を適用する必要性はない。
【0018】
基材の裏面側に形成する反射防止部は、ナノインプリントモールドの製造工程において基材の表面位置を検出するために基材表面に照射された高さ検出光が、基材に入射し裏面で反射して表面側に出射するのを防止するものである。この反射防止部は、検出光(ガウシアンビーム、あるいは検出光の強度分布をガウシアンで近似したガウシアンビーム)の広がりをa、基材の表面への入射角をθとする光学的な基材の表面位置検出機構にて、基材表面から反射防止部までの厚さがD、基材の屈折率がnsであり、基材表面からの反射光と反射防止部と基材との界面あるいは基材裏面からの反射戻り光との強度比がαであり、合成されるガウシアンビームの断面強度分布が
f=exp(-x2/a2) +αexp(-(x-d)2/a2)
ここで、dは反射光と反射戻り光との位置ずれ量であり、
d=2Dcosθtan(sin-1(sinθ/ns))である
で表される系において、
前記断面強度分布プロファイルの微分値が0となるXの値に1/(2tanθcosθ)を乗じた値が10μm以下となるような強度比αの範囲を求め、反射戻り光の強度が該強度比αの範囲を満たすような反射防止構造とする。
【0019】
このような反射防止構造を有する反射防止部は、基材の裏面側の少なくとも一部の領域、あるいは基材の内部の少なくとも一部の領域に配置される。例えば、反射防止部を基材の裏面の全域、あるいは基材の内部の全域に配置することができる。また、上述のナノインプリントモールドの説明で図3に示したように、後工程で凹凸パターン3を形成するための領域を含むように反射防止部4を形成してもよく(図3(A)参照)、後工程で凹凸パターン3を形成するための領域を除く位置で、この領域を囲むように回廊形状に反射防止部4を形成してもよく(図3(B)参照)、さらに、後工程で凹凸パターン3を形成するための領域を除く位置で、この領域を囲むように部分的に反射防止部4を形成してもよい(図3(C)参照)。このように反射防止部の形成位置は特に制限されない。但し、使用する基材に反りや歪みといった形状起因のバラつきがある場合は、後工程で凹凸パターン3を形成するための領域そのもの、あるいは、この領域の近傍で基材の表面位置を検出できるように反射防止部4を形成することが好ましい。
【0020】
ここで、反射防止部の形成方法について、上述の図4〜図8を参照しながら説明する。尚、上述のナノインプリントモールドと同じ部材については同じ部材番号を使用して説明する。本発明の処理方法では、図4に示されるように、基材2の裏面2bを粗面化して粗面部11を形成することにより反射防止部4とすることができる。粗面部11を形成するための粗面化は、例えば、機械研磨、サンドブラスト研磨、化学エッチング等を用いて行うことができる。粗面化の程度は、例えば、平均粗さRaが0.1〜100μm、好ましくは0.5〜10μm、より好ましくは1〜2μm程度となるように設定することができる。粗面部11の平均粗さRaが0.1μm未満であると、上述のような反射防止構造とならず十分な反射防止効果が得られない。また、平均粗さRaが100μmを超えると、反射防止部4の機能は得られるものの、モールド自体の剛性が不充分となり、インプリント時に歪みが生じる等の不具合が発生することがあり好ましくない。尚、平均粗さRaは、アルバック社製 段差計測装置DEKTAK8000により測定したものとする。このような粗面部11は、基材2の表面2a側から基材2内に入射してきた光を散乱させることができ、低い反射率を有するものである。したがって、検出光の波長が異なる複数の製造装置、検査装置に対して有効である。
【0021】
また、本発明の処理方法では、図5に示されるように、基材2の屈折率よりも小さい屈折率を有する反射防止層12を基材2の裏面2bに形成して反射防止部4とすることができる。この反射防止層12は、以下のように屈折率と厚みを特定の範囲とすることにより、上述のような反射防止構造を具備したものとすることができる。すなわち、反射防止層12の屈折率は、屈折率が1.35以下、好ましくは基材2の屈折率をnsとしたときに、振幅条件よりns1/2程度、例えば、ns1/2の±10%程度である。尚、屈折率の測定は、市販のエリプソメトリー装置により測定することできる。このような反射防止層12は、例えば、フッ素系樹脂、テフロン(登録商標)AF、サイトップ(登録商標)等の材料を用いて、スピンコート等の塗布方法で塗布し乾燥(硬化)する方法、イオン化蒸着法等の真空成膜法で形成することができる。また、反射防止層12の厚みLは、検出光の波長をλとしたときに、位相条件より、
nL=(2m−1)λ/4 (mは整数)
を満足するように設定することができる。したがって、反射率が極小となる厚みは周期的に存在し、反射防止層12の厚みLは、極小となる厚みに対して、±0.03μm、好ましくは±0.02μmの範囲で適宜設定することができる。また、この位相条件では、ある厚みに対して、短波長側に反射率が極小となる波長が存在する。すなわち、反射防止層12は、屈折率と厚みを調整することによって多波長に対して薄膜干渉による低反射機能を発現することができる。したがって、検出光の波長が異なる複数の製造装置、検査装置に対して有効である。
【0022】
さらに本発明の処理方法では、図6に示されるように、基材2の裏面2bに反射防止層13a、13bを積層して2層構造の反射防止部4としてもよい。このような2層構造の反射防止部4は、2層構造における振幅条件、および、位相条件を満たすように屈折率と厚みを適宜設定することができる。例えば、周囲が空気(屈折率n1=1)である場合、2層構造の反射防止部4を構成する反射防止層13aの屈折率、厚さをn1、L1とし、反射防止層13bの屈折率、厚さをn2、L2とし、基材2の屈折率をnsとすると、n1L1=n2L2=λ/4となる厚みで基材2に形成したときの反射率Rは、
R=[1−ns(n2/n1)2]2/[1+ns(n2/n1)2]2
で与えられる。反射率Rを0とするためには、ns(n2/n1)2が1となるように材料を選択すればよい。ここでは、吸収が無視できる透明材料を用い、n1L1=n2L2=λ/4となる厚みで積層構造を形成した場合を記載したが、この条件に限定されず、薄膜の光学定数で定義される特性行列の計算によって、材料と厚みを適宜設定することができる。このような2層構造の反射防止部4は、それぞれ選択した材料を用いて、スピンコート等の塗布方法で塗布し乾燥(硬化)する方法、スパッタリング等の真空成膜法で形成することができる。
【0023】
また、本発明の処理方法では、図7に示されるように、基材2の裏面2bに光吸収層14を設けて反射防止部4とすることができる。この光吸収層14は、基材2の屈折率との差が±25%以下、好ましくは±20%以下の範囲である光吸収性材料を用いて、スピンコート等の塗布方法で塗布し乾燥(硬化)する方法、スパッタリング等の真空成膜法で形成することができる。光吸収層14が入射した光を減衰させる場合、膜厚に依存した薄膜干渉による反射率の増減が無くなるため、光吸収層14の屈折率と基材2の屈折率との差が大きくなるにつれて、基材2と光吸収層14の界面での反射が大きくなる。光吸収層14の屈折率と基材2の屈折率との差が±25%を超えると、光吸収層14がほぼ100%光を吸収する場合でも、上述のような反射防止構造とならず十分な反射防止作用が得られない。
【0024】
また、光吸収層14は、吸収係数と厚みを適宜設定することによって、その効果が決められる。すなわち、光吸収層14は、材料の吸収係数と厚さで光吸収の度合いが変わるので、光吸収層14は、厚さと吸収係数で決まる吸光度で規定することが好ましい。このため、上述の強度比αを満たす(反射防止構造を有する)ように光吸収層14を形成する。このような光吸収層14は、例えば、フタロシアニン化合物、アントラキノン化合物、ナフトキノン化合物等の赤色吸収有機顔料色素を含む顔料レジスト等の材質を用いて形成することができる。
このように、光吸収層14の屈折率が基材2の屈折率に近く(屈折率整合している)、かつ、光吸収層14の吸光度が所定の範囲にあり、上述のような反射防止構造を有するので、低反射作用が発現される。しがたって、検出光の波長が異なる複数の製造装置、検査装置に対して有効である。
【0025】
さらに、本発明の処理方法では、図8に示されるように、基材2の内部に低光透過率層15を形成して反射防止部4とすることができる。低光透過率層15の光透過率は、基材2の光透過率の5〜68%程度とすることができる。低光透過率層15の光透過率が基材2の光透過率の68%を超える場合、上述のような反射防止構造とならず十分な反射防止作用が得られない。また、5%未満の場合は、極めて高い精度での表面位置検出が可能であるが、インプリント工程での転写樹脂硬化の時間が長くなりスループットが低くなるため、インプリントモールドとして適さないものとなる。このような低光透過率層15としては、基材2の内部にレーザー光を収斂して、基材2の光学的性質を変化させた層とすることができる。具体的には、レーザー光によって基材2に絶縁破壊を生じさせて不透明化された層とすることができる。この場合、レーザー光としては、YAGレーザー、YLFレーザー等を用いることができ、収斂させた部位で基材の絶縁破壊が起るような条件でレーザー光を照射する。絶縁破壊を生じさせる厚みは、例えば、100μm以上で、基材2の厚み以下の範囲で設定することができる。
【0026】
また、低光透過率層15は、基材2に平均径が10〜100μm程度の気泡が密集あるいは散在して構成されている層とすることができる。この場合、基材2の作製時に気泡を形成する必要がある。気泡の形成方法としては、例えば、シリカ粉末に窒化ケイ素を添加して成形し窒素雰囲気中で加熱する方法がある。独立気泡数は、例えば、3×105〜5×106個/cm3の範囲で設定することができ、また、厚み方向の気泡密度が勾配を有するものであってもよい。尚、独立気泡数の計測は、目盛り付きレンズをもつ偏光顕微鏡を用いて行うことができる。このような低光透過率層15は、上述のような反射防止構造を有し、多波長に対して低い光透過性を示すので、検出光の波長が異なる複数の製造装置、検査装置に対して有効である。
【0027】
このような本発明の処理方法によれば、基材に反射防止部を設けることによって、基材の表面に照射された検出光が基材裏面で反射して表面に出射することを抑制することができる。基材に反射防止部を形成しない場合、図12(B)に示されるように、基材2に照射された検出光Aは、基材2の表面2aで反射された表面反射光B1と、基材2の裏面2bで反射された反射戻り光B2として検出される。すなわち、表面反射光B1と反射戻り光B2の合成光(見かけの反射光)B″によるピーク位置によって基材2の位置が算出される。したがって、合成光B″と表面反射光B1とのズレ量dが小さいほど、基材2の表面位置の検出精度が高くなる。そして、合成光B″は反射戻り光B2の強度が小さくなるにつれて表面反射光B1に接近し、ズレ量dが小さくなる。本発明では、基材に設けた反射防止部によって反射戻り光B2の強度を小さくすることができ、上記のズレ量dが極めて小さくなる。したがって、基材の表面に照射された検出光のうち、基材表面で反射された反射光(表面反射光のピーク位置)のみによる表面位置の検出と同等の検出が可能となる。これにより、検出光を用いたナノインプリントモールド用基材の表面位置の検出を精度良く行うことが可能となる。
【0028】
尚、基材2の厚みが6025基材(厚み6.35mm)のように十分大きい場合には、表面反射光B1と反射戻り光B2とが十分離れており、表面反射光B1のピーク位置のみが検出され、上記のズレ量dは無視することができる(図11参照)。
上述の実施形態は例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0029】
[ナノインプリントモールドの製造方法]
次に、本発明のナノインプリントモールドの製造方法を説明する。
図9は、本発明のナノインプリントモールドの製造方法の一実施形態を説明するための工程図である。
本発明では、まず、透明な基材2の裏面2b側に反射防止部4を形成する(図9(A))。使用する基材2は、例えば、石英ガラス、珪酸系ガラス、フッ化カルシウム、パイレックス(登録商標)ガラス、青板ガラス、ソーダガラス、BK−7等を挙げることができる。基材2の厚みは4mm以下であり、用途などによって適宜設定することができ、また、厚みの下限は特に制限はなく、凹凸パターン3の形状、寸法や基材の強度、取り扱い適性等を考慮して設定することができる。
反射防止部4の形成は、上述の本発明の処理方法により行うことができ、ここでの説明は省略する。
尚、基材2の厚みが4mmを超える場合であっても本発明の製造方法によりナノインプリントモールドの製造は可能である。しかし、基材2の厚みが4mmを超えると基材の厚みが十分なものとなり、図11を用いて説明したように、表面反射光のピーク位置と反射戻り光のピーク位置とが離れたものとなって、これらが光束位置検出器で同時に検出されることはない。したがって、本発明の製造方法を適用する必要性がなくなる。
【0030】
次の工程として、基材2の表面上にクロム薄膜6を介してレジスト膜7を形成し、電子線描画装置内のステージ(図示せず)上に、基材2の裏面2bがステージと対向するように基材2を配置する(図9(B))。尚、クロム薄膜6を介さずにレジスト膜7を形成してもよい。
次いで、基材2に対して高さ検出光を照射し、高さ検出光が基材2の表面2aで反射された反射光(表面反射光のピーク位置)を検出して基材2の高さを検出し、検出した基材2の表面位置に適するように電子線のフォーカス位置を制御しながらレジスト膜7に対して電子線を照射して、所望のパターン潜像を形成する。
次に、レジスト膜7を現像してレジストパターン8を形成し(図9(C))、このレジストパターン8をマスクとして基材2に凹凸パターン3を形成する。その後、不要となったレジストパターン8とクロム薄膜6を除去することにより、ナノインプリントモールド1が得られる(図9(D))。レジストパターン8をマスクとした凹凸パターン3の形成は、例えば、化学エッチング、反応性イオンエッチング等を用いて行うことができる。凹凸パターンの寸法等は用途等に応じて適宜設定することができる。
【0031】
このような本発明のナノインプリントモールドの製造方法によれば、電子線によるレジスト膜へのパターン描画の際に、基材の表面に照射された高さ検出光が基材裏面で反射して表面に出射するのを反射防止部が抑制する。このため、表面反射光のピーク位置が確実に検出されるので、検出光による基材の表面位置を精度良く検出することができる。これにより高い精度でのパターン描画が可能であり、高精度の凹凸パターンを備えたナノインプリントモールドを製造することができる。
上述の実施形態は例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
次に、より具体的な実施例を示して本発明を更に詳細に説明する。
[実施例1]
厚み675μmの石英ガラス((株)アトック製 合成石英ウェーハ、屈折率1.45)をナノインプリントモールド用基材として準備した。この基材の裏面に機械研磨により粗面化を施して粗面部(反射防止部)を形成した。ここでは、粗面化処理の程度を変化させ、下記の表1に示されるような種々の平均粗さRaを有する粗面部を形成して、5種の基材(試料1−2〜試料1−6)を作製した。尚、平均粗さRaの測定は、アルバック社製 段差計測装置DEKTAK8000を用いて行った。
また、比較のための基材として、6025基材(厚さ6.35mm)を準備した。
次に、各基材の表面にスパッタリング法によりクロム薄膜(厚み5nm)を成膜し、その後、このクロム薄膜上にレジスト(日本ゼオン(株)製 ZEP520A)をスピンコーティングした。
【0033】
次いで、電子線描画装置(日本電子(株)製 JBX9000)内のステージ上に、基材の裏面がステージと対向するように基材を配置し、基材に対して入射角70°で検出光(波長600〜800nm)を照射し、反射光をフォトディテクターで検出した。そして、ビーム形状と基材の反射率、透過率をパラメータにして、ガウシアンビーム( Gaussian beam )の合成( f= exp(-x2/a2) +αexp(-(x-d)2/a2)、ビーム形状a=0.5)により算出した合成光B″のピーク位置と表面反射光B1のピーク位置のズレ量d(図12(B)参照)、および、基材の高さズレ量ΔDを算出して、下記の表1に示した。尚、基材の表面位置の検出を高精度で行うためには、基材の高さズレ量ΔDが10μm以下であることを要件とする。以下の実施例においても同様である。
【0034】
【表1】
【0035】
表1に示されるように、平均粗さRaが0.1〜100μmの範囲内にある粗面部を有する試料1−3〜試料1−7では、基材の高さズレ量ΔDが10μm以下であり、極めて高い精度で基材の表面位置を検出できることが確認された。
これに対して、粗面化処理を施していない試料1−1、平均粗さRaが0.1μm未満である試料1−2では、基材の高さズレ量ΔDが10μmを超えるものであった。
【0036】
[実施例2]
実施例1と同様の石英ガラスをナノインプリントモールド用基材として準備した。この基材の裏面にスピンコート法によりテフロン(登録商標)AFを塗布し成膜して反射防止層(反射防止部)を形成した。この反射防止層の屈折率は1.3であった。ここでは、反射防止層の厚みを変化させ、下記の表2に示される5種の基材(試料2−2〜試料2−6)を作製した。すなわち、反射防止層の厚みLは、n=1.3で、検出光の波長をλ(680nm)としたときに、位相条件より、
nL=(2m−1)λ/4 (mは整数)
を満足するように設定することができるので、試料2−3〜試料2−5の反射防止層の厚みは、上記式を満足する反射防止層の厚みL(m=1のときL=0.13μm)に対して、±0.04μmの範囲で設定した。また、試料2−2と試料2−6は、上記式を満足する反射防止層の厚みLの±0.04μmの範囲から外れるように反射防止層の厚みを設定した。
【0037】
また、反射防止層の形成に用いる材料を下記の表2に示すものとして、反射防止層の屈折率を変化させ、下記の表2に示される2種の基材(試料2−7〜試料2−8)を作製した。尚、反射防止層の厚みは、n=1.35、n=1.4で、それぞれ検出光の波長をλ(680nm)としたときに、位相条件より、
nL=(2m−1)λ/4 (mは整数)
を満足する反射防止層の厚みLを設定した。
次に、各基材について、実施例1と同様にして、合成光B″のピーク位置と表面反射光B1のピーク位置のズレ量d、および、基材の高さズレ量ΔDを算出して、下記の表2に示した。
【0038】
【表2】
【0039】
表2に示されるように、反射防止層の厚みが上記式を満足する反射防止層の厚みLの±0.04μmの範囲である試料2−3〜試料2−5、および、試料2−7は、基材の高さズレ量ΔDが10μm以下であり、極めて高い精度で基材の表面位置を検出できることが確認された。
これに対して、反射防止層の厚みが上記式を満足する反射防止層の厚みLの±0.04μmの範囲から外れる試料2−2および試料2−6は、反射防止層を形成していない試料2−1に比べて基材の高さズレ量ΔDが小さいものの、その値は10μmを超えるものであった。
また、反射防止層の屈折率が1.35を超える試料2−8は、反射防止層の厚みが上記式を満足する反射防止層の厚みLであるものの、基材の高さズレ量ΔDが10μmを超えるものであり、高い精度での基材の表面位置検出は困難であった。
【0040】
ここで、使用した基材の屈折率ns=1.45から、振幅条件よりns1/2に相当する屈折率1.2の材料からなる反射防止層を想定すると、反射防止層の厚みLは、n=1.2、検出光の波長λ=680nm)としたときに、位相条件より、
nL=(2m−1)λ/4 (mは整数)
を満足するように設定することができ、m=1では、反射防止層の厚みLは0.142μmとなり、このとき基材の高さズレ量ΔDは0μmとなる。したがって、反射防止膜は、振幅条件を満たす屈折率により近い材料を選択することが重要であり、このことは、上記の試料2−3〜試料2〜5、試料2−7の基材の高さズレ量ΔDに対する試料2−8の基材の高さズレ量ΔDの対比から明らかである。
【0041】
[実施例3]
実施例1と同様の石英ガラスをナノインプリントモールド用基材として準備した。この基材の裏面にスパッタリング法により、酸化マグネシウム(屈折率1.70)、または、クロム(屈折率2.51)を成膜して、1層目の反射防止層を形成した。次いで、この反射防止層上にスピンコート法によりテフロン(登録商標)AFを塗布し成膜して2層目の反射防止層(屈折率1.3)を形成し、2層構造の反射防止部として、2種の基材(試料3−1〜試料3−2)を作製した。
2層構造の反射防止部の形成では、2層構造における振幅条件、および、位相条件を満たすよう薄膜の光学定数で定義される特性行列を用いて反射率を求めることにより、厚みを下記表3に示すように設定した。
次に、各基材について、実施例1と同様にして、合成光B″のピーク位置と表面反射光B1のピーク位置のズレ量d、および、基材の高さズレ量ΔDを算出して、下記の表3に示した。
【0042】
【表3】
【0043】
表3に示されるように、反射防止部を2層構造とすることにより、反射率をほぼ0にすることができ、基材の高さズレ量ΔDが0μmと、極めて高い精度で基材の表面位置を検出できることが確認された。
【0044】
[実施例4]
実施例1と同様の石英ガラスをナノインプリントモールド用基材として準備した。この基材の裏面にスピンコート法により赤色吸収有機顔料色素を含む顔料レジストを塗布し成膜して光吸収層(反射防止部)を形成し、下記の表4に示される6種の基材(試料4−2〜試料4−7)を作製した。ここでは、顔料レジストとして、吸収係数の異なる3種の顔料レジストを使用し、各顔料レジストに対して、光吸収層の厚みを変化させた。光吸収層の屈折率は何れの顔料レジストを用いたものであっても1.45であった。このように、光吸収層の屈折率を基材と同じ1.45としたので、光吸収層と基材との界面での反射率をほぼ0にすることができた。尚、各光吸収層の吸光度を下記の表4に示した。
また、基材の屈折率(1.45)と異なる屈折率を有する材料を用いて光吸収層を形成して2種の基材(試料4−8、試料4−9)を作製した。尚、光吸収層の厚みは、試料4−8、試料4−9共に、光吸収能がほぼ飽和する5μmとした。
次に、各基材について、実施例1と同様にして、合成光B″のピーク位置と表面反射光B1のピーク位置のズレ量d、および、基材の高さズレ量ΔDを算出して、下記の表4に示した。
【0045】
【表4】
【0046】
表4に示されるように、光吸収層の吸光度が0.39以上である試料4−3、試料4−5、試料4−7は、基材の高さズレ量ΔDが10μm以下であり、極めて高い精度で基材の表面位置を検出できることが確認された。
これに対して、光吸収層の吸光度が0.39未満である試料4−2、試料4−4、試料4−6は、光吸収層を形成していない試料4−1に比べて基材の高さズレ量ΔDが小さいものの、その値が10μmを超えるものであった。
また、光吸収層の屈折率が1.09〜1.82の範囲内(基材の屈折率1.45との差が±25%以下)である試料4−8は、基材の高さズレ量ΔDが10μm以下であり、極めて高い精度で基材の表面位置を検出できることが確認された。
これに対して、反射防止層の屈折率が上記の範囲(基材の屈折率との差が±25%以下)から外れる試料4−9は、基材の高さズレ量ΔDが10μmを超えるものであった。
【0047】
[実施例5]
実施例1と同様の石英ガラスをナノインプリントモールド用基材として準備した。この基材の表面から、レーザー光を400μJのエネルギーで基材内部に収斂し絶縁破壊を発生させて低光透過率層(反射防止部)を深さ100〜500μmの位置に形成した。ここでは、レーザー照射条件を変化させて低光透過率層の厚みを制御することにより、光透過率が異なる4種の基材(試料5−2〜試料5−5)を作製した。尚、基材の光透過率は、光透過率測定装置(大塚電子(株)製 MCPD)を用いて測定した。
次に、各基材について、実施例1と同様にして、合成光B″のピーク位置と表面反射光B1のピーク位置のズレ量d、および、基材の高さズレ量ΔDを算出して、下記の表5に示した。
【0048】
【表5】
【0049】
表5に示されるように、光透過率が5〜68%の範囲内にある試料5−3〜試料5−5は、基材の高さズレ量ΔDが10μm以下であり、極めて高い精度で基材の表面位置を検出できることが確認された。
これに対して、光透過率が上記の範囲から外れる試料5−2は、絶縁破壊層を形成していない試料5−1に比べて基材の高さズレ量ΔDが小さいものの、その値が10μmを超えるものであった。尚、光透過率5%未満の基材は、極めて高い精度での表面位置検出が可能であるが、インプリント工程での転写樹脂硬化の時間が長くなりスループットが低くなるため、インプリントモールドとして適さないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
ナノインプリント技術を用いた微細加工に利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1…ナノインプリントモールド
2…基材
3…凹凸パターン
4…反射防止部
7…レジスト膜
8…レジストパターン
11…粗面部
12…反射防止層
13a,13b…反射防止層
14…光吸収層
15…低光透過率層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さが4mm以下の透明なナノインプリントモールド用基材の処理方法において、
基材の裏面側の少なくとも一部の領域、あるいは内部の少なくとも一部の領域に、前記基材の表面側から基材に入射した検出光が前記基材の裏面で反射して表面側に出射するのを防止する反射防止部を設けることを特徴としたナノインプリントモールド用基材の処理方法。
【請求項2】
前記反射防止部は、検出光(ガウシアンビーム、あるいは検出光の強度分布をガウシアンで近似したガウシアンビーム)の広がりをa、基材の表面への入射角をθとする光学的な基材の表面位置検出機構にて、基材表面から反射防止部までの厚さがD、基材の屈折率がnsであり、基材表面からの反射光と反射防止部と基材との界面あるいは基材裏面からの反射戻り光との強度比がαであり、合成されるガウシアンビームの断面強度分布が
f=exp(-x2/a2) +αexp(-(x-d)2/a2)
ここで、dは反射光と反射戻り光との位置ずれ量であり、
d=2Dcosθtan(sin-1(sinθ/ns))である
で表される系において、
前記断面強度分布プロファイルの微分値が0となるXの値に1/(2tanθcosθ)を乗じた値が10μm以下となるような強度比αの範囲を求め、反射戻り光の強度が該強度比αの範囲を満たすような反射防止構造とすることを特徴とした請求項1に記載のナノインプリントモールド。
【請求項3】
前記基材の裏面を粗面化して前記反射防止部とすることを特徴とした請求項1または請求項2に記載のナノインプリントモールド用基材の処理方法。
【請求項4】
前記基材の裏面に反射防止層を設けて前記反射防止部とし、該反射防止層の屈折率nを1.35以下とし、また、検出光の波長をλとしたときに、前記反射防止層の厚みLは、位相条件より、
nL=(2m−1)λ/4 (mは整数)
を満足することを特徴とした請求項1または請求項2に記載のナノインプリントモールド用基材の処理方法。
【請求項5】
前記基材の裏面に反射防止層を積層して2層構造の反射防止部とし、2層構造における振幅条件、および、位相条件を満たすように各層の反射防止層の屈折率と厚みを設定することを特徴とした請求項1または請求項2に記載のナノインプリントモールド用基材の処理方法。
【請求項6】
前記基材の裏面に光吸収層を配設して前記反射防止部とすることを特徴とした請求項1または請求項2に記載のナノインプリントモールド用基材の処理方法。
【請求項7】
前記基材の屈折率との差が±25%以下である屈折率を有する材料を用い、検出光に対する吸光度が前記強度比αを満たすように前記光吸収層を形成することを特徴とした請求項6に記載のナノインプリントモールド用基材の処理方法。
【請求項8】
前記基材の内部に低光透過率層を形成することにより前記反射防止部とすることを特徴とした請求項1または請求項2に記載のナノインプリントモールド用基材の処理方法。
【請求項9】
厚さが4mm以下の透明な基材に対して、請求項1乃至請求項8のいずれかに記載のナノインプリントモールド用基材の処理方法によって反射防止部を形成する工程と、
前記基材の表面上にレジスト膜を形成し、電子線描画装置内のステージ上に、前記基材の裏面がステージと対向するように前記基材を配置する工程と、
前記基材に対して高さ検出光を照射し、該高さ検出光が前記基材の表面で反射された反射光を検出して前記基材の高さを検出し、検出した基材の表面位置に適するように電子線のフォーカス位置を制御しながら前記レジスト膜に対して電子線を照射して、所望のパターン潜像を形成する工程と、
前記レジスト膜を現像して得たレジストパターンをマスクとして前記基材に凹凸パターンを形成する工程と、を有することを特徴としたナノインプリントモールドの製造方法。
【請求項1】
厚さが4mm以下の透明なナノインプリントモールド用基材の処理方法において、
基材の裏面側の少なくとも一部の領域、あるいは内部の少なくとも一部の領域に、前記基材の表面側から基材に入射した検出光が前記基材の裏面で反射して表面側に出射するのを防止する反射防止部を設けることを特徴としたナノインプリントモールド用基材の処理方法。
【請求項2】
前記反射防止部は、検出光(ガウシアンビーム、あるいは検出光の強度分布をガウシアンで近似したガウシアンビーム)の広がりをa、基材の表面への入射角をθとする光学的な基材の表面位置検出機構にて、基材表面から反射防止部までの厚さがD、基材の屈折率がnsであり、基材表面からの反射光と反射防止部と基材との界面あるいは基材裏面からの反射戻り光との強度比がαであり、合成されるガウシアンビームの断面強度分布が
f=exp(-x2/a2) +αexp(-(x-d)2/a2)
ここで、dは反射光と反射戻り光との位置ずれ量であり、
d=2Dcosθtan(sin-1(sinθ/ns))である
で表される系において、
前記断面強度分布プロファイルの微分値が0となるXの値に1/(2tanθcosθ)を乗じた値が10μm以下となるような強度比αの範囲を求め、反射戻り光の強度が該強度比αの範囲を満たすような反射防止構造とすることを特徴とした請求項1に記載のナノインプリントモールド。
【請求項3】
前記基材の裏面を粗面化して前記反射防止部とすることを特徴とした請求項1または請求項2に記載のナノインプリントモールド用基材の処理方法。
【請求項4】
前記基材の裏面に反射防止層を設けて前記反射防止部とし、該反射防止層の屈折率nを1.35以下とし、また、検出光の波長をλとしたときに、前記反射防止層の厚みLは、位相条件より、
nL=(2m−1)λ/4 (mは整数)
を満足することを特徴とした請求項1または請求項2に記載のナノインプリントモールド用基材の処理方法。
【請求項5】
前記基材の裏面に反射防止層を積層して2層構造の反射防止部とし、2層構造における振幅条件、および、位相条件を満たすように各層の反射防止層の屈折率と厚みを設定することを特徴とした請求項1または請求項2に記載のナノインプリントモールド用基材の処理方法。
【請求項6】
前記基材の裏面に光吸収層を配設して前記反射防止部とすることを特徴とした請求項1または請求項2に記載のナノインプリントモールド用基材の処理方法。
【請求項7】
前記基材の屈折率との差が±25%以下である屈折率を有する材料を用い、検出光に対する吸光度が前記強度比αを満たすように前記光吸収層を形成することを特徴とした請求項6に記載のナノインプリントモールド用基材の処理方法。
【請求項8】
前記基材の内部に低光透過率層を形成することにより前記反射防止部とすることを特徴とした請求項1または請求項2に記載のナノインプリントモールド用基材の処理方法。
【請求項9】
厚さが4mm以下の透明な基材に対して、請求項1乃至請求項8のいずれかに記載のナノインプリントモールド用基材の処理方法によって反射防止部を形成する工程と、
前記基材の表面上にレジスト膜を形成し、電子線描画装置内のステージ上に、前記基材の裏面がステージと対向するように前記基材を配置する工程と、
前記基材に対して高さ検出光を照射し、該高さ検出光が前記基材の表面で反射された反射光を検出して前記基材の高さを検出し、検出した基材の表面位置に適するように電子線のフォーカス位置を制御しながら前記レジスト膜に対して電子線を照射して、所望のパターン潜像を形成する工程と、
前記レジスト膜を現像して得たレジストパターンをマスクとして前記基材に凹凸パターンを形成する工程と、を有することを特徴としたナノインプリントモールドの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−267777(P2010−267777A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117525(P2009−117525)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
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