説明

ピント情報表示システム

【課題】ピント情報表示に従ってフォーカス調整を行ったときの合焦精度の低下を招くことなく合焦表示の状態を安定させることができるようにしたピント情報表示システムを提供する。
【解決手段】レンズ装置1のCPU10は、MF制御時等において、光学系により結像された被写体像のコントラストの高さを示す焦点評価値をAF回路30から取得してピント状態を検出し、その検出したピント状態に従ってビューファインダ54等にピント情報を表示する。その際、非合焦表示を行っている場合には厳しい条件によって合焦状態であると判断して合焦表示を行い、合焦表示を行っている場合には甘い条件によって合焦状態であると判断して合焦表示が解除されにくいようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はピント情報表示システムに係り、特に光学系により結像された被写体像のコントラストの高さを示す焦点評価値に基づいて合焦状態か否か等のピント状態を示すピント情報を表示するピント情報表示システムに関する。
【背景技術】
【0002】
放送用テレビカメラで採用されるオートフォーカス(AF)として、コントラスト方式のAFが一般的に知られている。コントラスト方式のAFでは、カメラで得られた映像信号から高域周波数成分の信号が抽出され、その抽出された信号に基づいてコントラストの高さを評価する焦点評価値が求められる。そして、その焦点評価値がピーク(極大)となるように例えば山登り方式と呼ばれる方法により撮影レンズのフォーカス(フォーカスレンズ群)が制御される。
【0003】
また、コントラスト方式のAFでは、一般に、フォーカスを微小に変動させるワブリングと呼ばれる動作が行われている。ワブリングを行っている間に焦点評価値を検出することによって、例えば、フォーカスの現在位置に対する前後位置での焦点評価値が検出され、その前後位置での焦点評価値の大小関係から、現在位置での焦点評価値がピークか否か、又は、焦点評価値がピークとなる方向が検出される。このようなワブリングによる焦点評価値のピークの検出を逐次行いながらフォーカスを制御することによって焦点評価値がピークとなる合焦位置にフォーカスを移動させることが行われている。
【0004】
更に、上記のようなワブリングを行う場合、それによる焦点変動が画面上で認識されてしまうという問題や、高速で移動する被写体に対して正確にピントを合わせることが難しいという問題があった。そのため、例えば特許文献1に示されているような光路長差方式のAFが提案されている。これによれば、被写体像を結像する撮影レンズ(光学系)の光路がハーフミラー等の光分割手段により2つの光路に分割される。一方の光路に導かれた被写体光は、記録又は再生用の画像(映像)を撮像するために配置されたカメラ本体の撮像素子(映像用撮像素子)の撮像面に被写体像を結像する。他方の光路に導かれた被写体光は、AF用の画像(映像)を撮像するために配置された撮像素子(AF用撮像素子)の撮像面に被写体像を結像する。
【0005】
AF用撮像素子の撮像面は、例えば2つの撮像素子により、光路長が異なる位置に配置された2つの撮像面からなり、AF用の光路に分岐された被写体光は、更に分割されてAF用撮像素子の各撮像面に入射するようになっている。AF用撮像素子の各撮像面によって撮像される画像(被写体像)は、フォーカスを現在位置から所定量変位させたときに映像用撮像素子の撮像面によって撮像される画像に相当しており、AF用撮像素子の各撮像面によって撮像された各画像から焦点評価値を求め、それらを比較することによって映像用撮像素子の撮像面に対するフォーカスの現在位置でのピント状態(合焦、前ピン、後ピン)を検出することができるようになっている。
【0006】
従って、ワブリングを行う必要がないため、ワブリングによる焦点変動を生じさせることなく、フォーカスを合焦位置に移動させることができる。また、迅速なピント合わせが可能であり、高速で移動する被写体に対しても正確にピントを合わせることが可能となる。
【0007】
また、特許文献2には、上記のようにAFで行われるピント状態の検出をマニュアルフォーカス(MF)の際にも行うようにし、カメラのビューファインダやフォーカス操作部の表示器等に現在のピント状態を示すピント情報を表示することが提案されている。これによれば、カメラマンはそのピント情報の表示を参考にしてフォーカス操作を行うことによって、被写体に合焦しているか否かや合焦していないときの合焦方向をビューファインダの映像だけからでなく、容易に判断することができる。
【特許文献1】特開2004−212458号公報
【特許文献2】特開2002−365710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来のピント情報表示では、その表示が合焦状態であることを示す合焦表示となるようにフォーカスを設定した場合であっても、合焦状態か否かを判断するための焦点評価値がノイズ等で変動するため、合焦表示の状態と前ピン又は後ピンのように非合焦状態であることを示す非合焦表示の状態とで頻繁に表示状態が切り替わるという問題があった。また、このように表示状態が安定しない状況では、ピント情報表示を参照しながら合焦状態にフォーカスを設定することが難しいという問題があった。そのため、合焦状態と判断して合焦表示を行う条件を甘くすれば、表示状態を安定させることができるが、その分、合焦表示となるフォーカス範囲が広くなり、合焦表示に従ってフォーカス調整を行ったときの合焦精度が低下するという不具合が生じる。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、ピント情報表示に従ってフォーカス調整を行ったときの合焦精度の低下を招くことなく合焦表示の状態を安定させることができるピント情報表示システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、請求項1に記載のピント情報表示システムは、被写体を結像する光学系のピント状態が合焦状態か非合焦状態かを表示するピント状態表示手段と、前記ピント状態表示手段により非合焦状態を示す非合焦表示が行われている場合において、前記光学系のピント状態が合焦状態か非合焦状態かを判断する第1合焦判断手段と、前記ピント状態表示手段により合焦状態を示す合焦表示が行われている場合において、前記光学系のピント状態が合焦状態か非合焦状態かを判断する第2合焦判断手段であって、前記第1合焦判断手段により合焦状態と判断されるフォーカス位置の範囲よりも大きな範囲において合焦状態と判断する第2合焦判断手段と、前記ピント状態表示手段により非合焦表示が行われている場合には、前記第1合焦判断手段により合焦状態と判断されたときに前記ピント状態表示手段を合焦表示に切り替え、前記ピント状態表示手段により合焦表示が行われている場合には、前記第2合焦判断手段により非合焦状態と判断されたときに前記ピント状態表示手段を非合焦表示に切り替える表示切替手段と、を備えたことを特徴としている。
【0011】
本発明によれば、非合焦表示を行っているときに合焦状態と判断するフォーカス位置の範囲よりも、合焦表示を行っているときに合焦状態と判断するフォーカス位置の範囲の方が大きいため、一旦、合焦表示が行われると、非合焦表示に切り替わり難くなる。従って、合焦表示が安定する。また、非合焦表示が行われているときに合焦表示に切り替わる条件は合焦表示の安定性とは関係なく高精度の合焦を要求するものに設定することができるため、合焦表示の状態の安定化を図る場合であっても、ピント情報表示に従ってフォーカス調整を行ったときの合焦精度の低下を回避することができる。
【0012】
請求項2に記載のピント情報表示システムは、請求項1に記載の発明において、前記光学系により結像される被写体像のコントラストの高さを示す焦点評価値を検出する焦点評価値検出手段を備え、前記第1合焦判断手段は、少なくとも前記光学系の2つのフォーカス位置における焦点評価値を前記焦点評価値検出手段により取得し、該取得した2つの焦点評価値の差の大きさが所定のしきい値より小さい場合に合焦状態と判断することを特徴としている。本発明は、非合焦表示を行っている場合の合焦状態の判断(第1合焦判断手段による判断)において、被写体像のコントラストの高さを示す焦点評価値を用いる場合の一態様を示している。
【0013】
請求項3に記載のピント情報表示システムは、請求項2に記載の発明において、前記焦点評価値検出手段は、光路長が異なる位置に配置された少なくとも2つの撮像面により撮像した被写体像についての焦点評価値を検出することによって少なくとも前記光学系の2つのフォーカス位置における焦点評価値を検出することを特徴としている。本発明は、いわよる光路長差方式のオートフォーカスにおいて用いられる焦点評価値の検出を本システムで用いたものである。
【0014】
請求項4に記載のピント情報表示システムは、請求項2又は3に記載の発明において、前記第2合焦判断手段は、少なくとも前記光学系の2つのフォーカス位置における焦点評価値を前記焦点評価値検出手段により取得し、該取得した2つの焦点評価値の差の大きさが、前記第1合焦判断手段における前記しきい値より大きな値のしきい値より小さい場合に合焦状態と判断することを特徴としている。本発明は、合焦表示を行っている場合の合焦状態の判断(第2合焦判断手段による判断)において、第1合焦判断手段と同様に焦点評価値を用いる場合の一態様を示している。この場合に、合焦状態と判断する場合の条件が第1合焦判断手段よりも第2合焦判断手段の方が緩和されている(甘い)ため、合焦表示が行われているときに非合焦表示に切り替わり難く、合焦表示の状態が安定する。
【0015】
請求項5に記載のピント情報表示システムは、請求項1、2、3、又は、4に記載の発明において、前記第2合焦判断手段は、前記第1合焦判断手段により合焦状態と判断されたときのフォーカス位置における被写界深度を算出する被写界深度算出手段を備え、前記光学系のフォーカス位置が前記被写界深度算出手段により算出された被写界深度の範囲内である場合に合焦状態と判断することを特徴としている。本発明は、合焦表示を行っている場合の合焦状態の判断(第2合焦判断手段による判断)において、被写界深度を用いる場合の一態様を示している。被写界深度の範囲内ではフォーカス位置が変化して第1合焦判断手段により非合焦状態と判断されるような場合で合焦状態と判断されるため合焦表示の状態が安定する。
【0016】
請求項6に記載のピント情報表示システムは、請求項5に記載の発明において、前記第2合焦判断手段は、少なくとも前記光学系の2つのフォーカス位置における焦点評価値を前記焦点評価値検出手段により取得し、該取得した2つの焦点評価値の差の大きさが、前記第1合焦判断手段における前記しきい値より大きな値のしきい値より小さい場合で、且つ、前記光学系のフォーカス位置が前記被写界深度算出手段により算出された被写界深度の範囲内である場合に合焦状態と判断することを特徴としている。本発明は、請求項5のように合焦表示を行っている場合にフォーカス位置が合焦状態と判断された当初の被写界深度の範囲内である場合であっても被写体の位置が変化して実際には合焦状態から大きくずれる場合があることを考慮したものである。
【0017】
請求項7に記載のピント情報表示システムは、請求項5又は6に記載の発明において、前記被写界深度算出手段は、前記光学系の焦点距離と絞り値のうち少なくとも一方が変化した場合に被写界深度を再度算出することを特徴としている。本発明は、光学系の設定状態によって被写界深度が変化することを考慮して合焦表示を行っている場合の第2合焦判断手段による合焦状態か否かを判断を行うようにしている。
【0018】
請求項8に記載のピント情報表示システムは、請求項1〜7のうちいずれか1に記載の発明において、所定のスイッチの操作に基づいて前記第2合焦判断手段における合焦状態か非合焦状態かの判断を前記第1合焦判断手段と同一の判断に切り替える判断切替手段を備えたことを特徴としている。本発明は、光学系のトラッキング調整などにおいて第1合焦判断手段と第2合焦判断手段の両方において合焦状態か否かを高い合焦精度で判断し表示したい場合があり、その場合に、第2合焦判断手段における合焦状態か否かの判断を第1合焦判断手段と同一の判断で行えるようにしたものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るピント情報表示システムによれば、ピント情報表示に従ってフォーカス調整を行ったときの合焦精度の低下を招くことなく合焦表示の状態を安定させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付図面に従って本発明に係るピント情報表示システムを実施するための最良の形態について詳説する。
【0021】
図1は、本発明が適用されるレンズシステムの構成を示したブロック図である。同図のレンズシステムは、例えば放送用テレビカメラのカメラ本体(カメラヘッド)50にマウントによって装着される撮影レンズ(光学系)と、撮影レンズを制御する制御系とから構成されている。また、同図に示すレンズシステムでは、撮影レンズと撮影レンズの制御系の多くの構成部品とが一体化されたレンズ装置1として構成されている。但し、レンズシステムを構成する装置の形態はどのようなものでもよい。
【0022】
撮影レンズは、被写体像を結像する光学系に関する構成部であり、鏡胴内に支持された各種光学部品により構成されている。鏡胴内には、固定された各種のレンズ群の他に、光軸方向に移動可能なレンズ群として、同図に示すフォーカスレンズ(群)FLやズームレンズ(群)ZLが配置されている。フォーカスレンズFLが移動すると、ピント位置(被写体距離)が変わり、ズームレンズZLが移動すると、像倍率(焦点距離)が変わる。また、撮影レンズには像の明るさを変更するために開閉駆動される同図に示す絞りIが配置されている。
【0023】
撮影レンズを制御する制御系は、CPU10、アンプFA、ZA、IA、モータFM、ZM、IM、ポテンショメータFP、ZP、IP、フォーカスデマンド18、ズームデマンド20、AF回路30等から構成されている。また、撮影レンズが装着されるカメラ本体50に搭載されたカメラ回路52も撮影レンズの絞りIの制御等に関する制御系として作用する。
【0024】
CPU10は、システム全体を統括制御しており、CPU10からD/A変換器12を介して各アンプFA、ZA、IAに駆動信号が出力されると、各モータFM、ZM、IMがその駆動信号の値(電圧)に応じた回転速度で駆動される。各モータFM、ZM、IMは、上記撮影レンズのフォーカスレンズFL、ズームレンズZL、絞りIに連結しており、各モータFM、ZM、IMが駆動されることによりフォーカスレンズFL、ズームレンズZL、絞りIが駆動される。
【0025】
各モータFM、ZM、IMの出力軸にはそれらの回転位置に応じた電圧信号を出力するポテンショメータFP、ZP、IPが連結されており、各ポテンショメータFP、ZP、IPからの電圧信号は、フォーカスレンズFLの位置、ズームレンズZLの位置、絞りIの位置(開口量)を示す信号としてA/D変換器14を介してCPU10に与えられる。従って、CPU10から各アンプFA、ZA、IAに与えられる駆動信号によってフォーカスレンズFL、ズームレンズZL、絞りIの位置又は動作速度が所望の状態に制御されるようになっている。
【0026】
同図において、フォーカスデマンド18やズームデマンド20は、撮影レンズのフォーカス(フォーカスレンズFL)やズーム(ズームレンズZL)の目標となる位置や移動速度をマニュアル操作で指定するマニュアル操作部材を備えたコントローラである。これらのフォーカスデマンド18やズームデマンド20は、シリアルコミュニケーションインターフェース(SCI)16を通じてCPU10とシリアル通信により接続されている。
【0027】
本実施の形態のレンズシステムでは、フォーカスレンズ群FLの制御(フォーカス制御)として、マニュアルフォーカス(MF)と、オートフォーカス(AF)の制御が操作者によって操作されるスイッチSW1のオン/オフによって切り替えられるようになっており、MFの制御時では、フォーカスデマンド18からのフォーカス指令信号に従ってフォーカス制御が行われる。MFの制御時にフォーカスデマンド18のマニュアル操作部材を操作すると、例えば、その操作部材の位置に対応したフォーカスの目標位置を指定するフォーカス指令信号がCPU10に与えられる。CPU10は、フォーカスの位置がそのフォーカス指令信号により指定された目標位置となるようにアンプFAに出力する駆動信号によりモータFMを制御してフォーカスレンズFLの位置を制御する。尚、AFの制御に関しては後述する。
【0028】
ズームレンズZLの制御(ズーム制御)は、ズームデマンド20から与えられるズーム指令信号に従って行われる。ズームデマンド20のマニュアル操作部材を操作すると、例えば、その操作部材の位置に対応したズームの目標の移動速度を指定するズーム指令信号がCPU10に与えられる。CPU10は、ズームの移動速度がそのズーム指令信号により指定された目標の移動速度となるようにアンプZAに出力する駆動信号によりモータZMを制御してズームレンズZLの移動速度を制御する。
【0029】
一方、絞りIの制御(絞り制御)は、カメラ本体50のカメラ回路52から与えられる絞り指令信号に従って行われる。本レンズシステムの撮影レンズがマウントにより装着されるカメラ本体50からは、絞りIの目標位置を指定する絞り指令信号が出力され、A/D変換器14を介してCPU10に与えられるようになっている。絞り指令信号は、例えば、目標とする絞り値(FNo.)に対応した電圧値を絞りIの目標位置(開口量)として示す電圧信号である。CPU10は、絞りIの位置がカメラ回路50から与えられた絞り指令信号により指定された目標のFNo.に対応した位置となるようにアンプIAに出力する駆動信号によりモータIMを駆動して絞りIの位置を制御する。
【0030】
同図においてAF回路30は、画像(被写体像)のコントストを示す焦点評価値を検出する回路であり、フォーカス制御においてAF制御を実行する場合やMF制御時においてカメラ本体50に設置されたビューファインダ54にピント情報表示を行う際に使用される。
【0031】
AF制御時において、CPU10は、AF回路30から得られる焦点評価値の情報に基づいて撮影レンズが合焦状態となるようにアンプFAに出力する駆動信号によりモータFMを制御してフォーカスレンズFLを制御する。
【0032】
AF回路30は、一対のAF用CCD32A、32B、A/D変換器34、ゲート回路36、ハイパスフィルタ(HPF)38、加算回路40A、40B等から構成される。
【0033】
一対のAF用CCD32A、32Bは、カメラ本体50に搭載された撮像素子(例えばCCD)とは別に設けられている。カメラ本体50のCCDは、記録又は再生用の本来の映像を撮影するためのCCD(以下、映像用CCDという)であるのに対し、AF用CCD32A、32BはAF用又はピント情報表示用に設けられたCCDであり、例えば、図2のように構成された撮影レンズに設置される。
【0034】
ここで図2を用いて撮影レンズの全体構成の概略と共にAF用CCD32A、32Bの配置について説明する。撮影レンズ60の光軸Oには、上記フォーカスレンズ(群)FL、上記ズームレンズ(群)ZL、上記絞りI、前側リレーレンズRA及び後側リレーレンズRBからなるリレーレンズ(リレー光学系)等が順に配置されている。撮影レンズ60に入射した被写体光はこれらのレンズ群を通過してカメラ本体50に入射する。カメラ本体50には、撮影レンズ60から入射した被写体光を赤(R)、緑(G)、青(B)の3色の波長に分解する色分解光学系68と、色分解された各色の被写体光の像を撮像するR、G、Bごとの映像用CCDが配置されている。尚、光学的に等価な光路長の位置に配置されたR、G、Bの映像用CCDを同図に示すように1つの映像用CCD70で表す。映像用CCD70の撮像面に入射した被写体光は、映像用CCD70によって光電変換されてカメラ本体50内の所定の信号処理回路によって記録又は再生用の映像信号が生成される。
【0035】
一方、撮影レンズ60のリレー光学系の前側リレーレンズRAと後側リレーレンズRBとの間には、ハーフミラー62が配置されている。このハーフミラー62によって、撮影レンズ60の光路が2つに分割される。撮影レンズ60に入射した被写体光のうち、ハーフミラー62を透過した被写体光は、上述のように光軸Oの光路に沿ってカメラ本体50へと導かれる。ハーフミラー62で反射した被写体光は、上記光軸Oに略垂直な光軸O′の光路(AF用光路)へと導かれる。尚、ハーフミラー62に入射した被写体光に対して、例えば約50%の光量の被写体光がハーフミラー62を透過する。但し、ハーフミラー62として、任意の透過率と反射率の特性を有するものを使用することができる。
【0036】
AF用光路には、上記後側リレーレンズRBと同等のリレーレンズRB′と、2つのプリズム64A、64Bから構成される光分割光学系64と、上記AF用CCD32A、32Bが配置されている。ハーフミラー62で反射してAF用光路へと導かれた被写体光は、リレーレンズRB′を通過した後、光分割光学系64に入射する。光分割光学系に入射した被写体光は、第1プリズム64Aと第2プリズム64Bとが接合する部分のハーフミラー面Mで光量が等価な2つの被写体光に分割される。ハーフミラー面Mで反射した被写体光は、一方のAF用CCD32Aの撮像面に入射し、ハーフミラー面Mを透過した被写体光は他方のAF用CCD32Bの撮像面に入射する。
【0037】
図3は、カメラ本体50の映像用CCD70とAF用CCD32A、32Bとを同一の光軸上に表した図である。同図に示すように、一方のAF用CCD32Aに入射する被写体光の光路長は、他方のAF用CCD32Bに入射する被写体光の光路長よりも短く設定され、映像用CCD70の撮像面に入射する被写体光の光路長は、その中間の長さとなるように設定されている。すなわち、一対のAF用CCD32A、32B(の撮像面)は、それぞれ映像用CCD70の撮像面に対して前後等距離dの位置となるように配置されている。
【0038】
このように撮影レンズ60に配置された一対のAF用CCD32A、32Bによって、撮影レンズ60に入射した被写体光を映像用CCD70の撮像面に対して前後の等距離の位置にそれぞれ撮像面を配置した場合と等価な映像信号が取得されるようになっている。尚、AF用CCD32A、32Bはカラー映像を撮像するものである必要はなく、本実施の形態ではAF用CCD32A、32Bから白黒の映像信号(輝度信号)が取得されるものとする。
【0039】
図1のAF回路30において、各AF用CCD32A、32Bによって得られた映像信号は、A/D変換器34によりデジタル信号に変換された後、ゲート回路36に入力される。ゲート回路36では、撮影範囲(画面)内に設定された所定のAFエリア(例えば画面中央の矩形エリア)に対応する範囲内の映像信号が抽出される。これによって抽出されたAFエリア内の映像信号は続いてハイパスフィルタ(HPF)38に入力され、HPF38により高域周波数成分の信号のみが抽出される。
【0040】
HPF38によって抽出された高域周波数成分の信号は、AF用CCD32Aから得られたものは加算回路40Aによって、AF用CCD32Bから得られたものは加算回路40Bによって1フィールド分ずつ積算され、その積算値が1フィールドごとにAF回路30から出力される。
【0041】
このようにして各加算回路40A、40Bから得られる積算値は、それぞれAF用CCD32A、32Bで撮像された被写体画像のコントラストの高さを評価する値を示す。本明細書ではこの積算値を焦点評価値というものとする。また、AF用CCD32Aの映像信号から得られた焦点評価値をchAの焦点評価値、AF用CCD32Bの映像信号から得られた焦点評価値をchBの焦点評価値というものとする。
【0042】
CPU10は、このようして得られたchAとchBの焦点評価値に基づいて映像用CCD70に対する撮影レンズ60のピント状態を検出する。ピント状態の検出は、次のような原理で行われる。図4は、横軸に撮影レンズ60のフォーカスレンズFLの位置(フォーカス位置)、縦軸に焦点評価値をとり、ある被写体を撮影した際のフォーカス位置と焦点評価値との関係を例示した図である。図中実線で示す曲線A、Bは、それぞれAF用CCD32A、32Bから得られるchAとchBの焦点評価値をフォーカス位置に対して示している。一方、図中点線で示す曲線Cは、映像用CCD70から得られた映像信号により焦点評価値を求めたと仮定した場合の焦点評価値をフォーカス位置に対して示している。
【0043】
同図において、ピント状態が合焦となるのは、曲線Cで示す映像用CCD70の焦点評価値が最大(極大)となるときのフォーカス位置F0にフォーカスが設定された場合である。もし、撮影レンズ60のフォーカスがその合焦位置F0よりも至近側のフォーカス位置F1に設定されている場合には、chAの焦点評価値は、フォーカス位置F1に対応する曲線Aの値VA1となり、chBの焦点評価値は、フォーカス位置F1に対応する曲線Bの値VB1となる。この場合、図から分かるようにchAの焦点評価値VA1の方が、chBの焦点評価値VB1よりも大きくなる。このことから、chAの焦点評価値VA1の方が、chBの焦点評価値VB1よりも大きい場合には、フォーカスが合焦位置F0よりも至近側に設定されている状態、すなわち、前ピンの状態であることが分かる。
【0044】
一方、撮影レンズ60のフォーカスが合焦位置F0よりも無限遠側のフォーカス位置F2に設定されている場合には、chAの焦点評価値は、フォーカス位置F2に対応する曲線Aの値VA2となり、chBの焦点評価値は、フォーカス位置F2に対応する曲線Bの値VB2となる。この場合、chAの焦点評価値VA2の方が、chBの焦点評価値VB2よりも小さくなる。このことから、chAの焦点評価値VA2の方が、chBの焦点評価値VB2よりも小さい場合には、フォーカスが合焦位置F0よりも無限遠側に設定されている状態、すなわち、後ピンの状態であることが分かる。
【0045】
これに対して、撮影レンズ60のフォーカスがフォーカス位置F0、即ち、合焦位置に設定されている場合には、chAの焦点評価値は、フォーカス位置F0に対応する曲線Aの値VA0となり、chBの焦点評価値は、フォーカス位置F0に対応する曲線Bの値VB0となる。この場合、chAの焦点評価値VA0とchBの焦点評価値VB0は等しくなる。このことから、chAの焦点評価値VA0とchBの焦点評価値VB0とが等しい場合にはフォーカスが合焦位置F0に設定されている状態、すなわち、合焦状態であることが分かる。
【0046】
このようにchAとchBの焦点評価値によって、撮影レンズの現在のピント状態が映像用CCD70に対して前ピン、後ピン、合焦のいずれの状態であるかを検出することができる。
【0047】
図1におけるCPU10は、AF制御時において、上記のようにしてchAとchBの焦点評価値に基づいて映像用CCD70に対する撮影レンズ60のピント状態を逐次検出しながら、合焦状態となるようにフォーカスレンズFLを制御する。例えば、ピント状態が前ピンの場合にはフォーカスレンズFLを無限遠方向に移動させ、ピント状態が後ピンの場合にはフォーカスレンズFLを至近方向に移動させる。そして、ピント状態が合焦の場合には、フォーカスレンズFLを停止させる。これによって、撮影レンズのピント状態が合焦となる位置にフォーカスレンズFLが移動して停止する。このように光路長差を有する複数のAF用CCDを用いて自動ピント調整を行うAFの方式を光路長差方式と称している。
【0048】
尚、CPU10において、単にピント状態を検出するだけでなく、chAとchBの焦点評価値の差や比等からピントずれの程度も検出し、CPU10においてフォーカスレンズFLを移動させる際の速度に反映させることも可能である。
【0049】
以上のようなレンズシステムにおいて、MF制御時には、操作者のMFによるフォーカス調整を補助する目的で、カメラ本体50に設置された図1のビューファインダ54に撮影レンズの現在のピント状態を示すピント情報表示が行われるようになっている。ピント情報表示は、例えば、図5に示すようにビューファインダ54の画面上の一部の領域(ピント情報表示部80)において撮影映像に重畳して表示されるようになっており、合焦であれば合焦表示として「0」、前ピンであれば前ピン表示として「−」、後ピンであれば後ピン表示として「+」が表示される。
【0050】
CPU10はカメラ本体50のカメラ回路52に対して、現在のピント状態を示すピント状態情報を送信しており、カメラ回路52は、そのピント状態情報に従って上述のようにピント情報表示部に「0」、「−」、「+」のいずれかを表示させることにより、現在のピント状態を示すピント情報を表示している。
【0051】
ピント情報表示に関するCPU10での具体的な処理内容について説明すると、CPU10は、MF制御時においてもAF制御時と同様にAF回路30からchAとchBの焦点評価値を取得し、それらのchAとchBの焦点評価値に基づいて現在のピント状態を検出(判断)する。そして、そのピント状態を上記のようにカメラ本体50のカメラ回路52にピント状態情報として送信することによって、ビューファインダ54のピント情報表示部においてピント情報を表示させる。
【0052】
ここで、AF制御時においてフォーカス調整用にピント状態を検出するピント状態検出処理と、MF制御時においてピント情報表示用にピント状態を検出するピント状態検出処理の内容は必ずしも一致している必要はなく、本実施の形態のMF制御時におけるピント状態検出処理はAF制御時におけるフォーカス調整用のピント状態検出処理と異なっている。但し、AF制御時においても以下で説明するMF制御時と一致したピント状態検出処理を行ってフォーカス調整を行うことは可能である。また、AF制御時においてもピント情報表示を行うことが可能であり、その場合のピント情報表示用として検出するピント状態は、フォーカス調整用に行うピント状態検出処理の結果を転用したものであってもよいし、MF制御時のピント情報表示用のピント状態検出処理によって検出したものであってもよい。
【0053】
まず、CPU10におけるピント情報表示用のピント状態検出処理(ピント情報表示処理)の第1の実施の形態について図6のフローチャートを用いて説明する。CPU10は、所要の初期設定を行った後(ステップS10)、AF回路30からchAの焦点評価値VとchBの焦点評価値Vを取得する(ステップS12、S14)。そして、それらの焦点評価値を比較し、chAの焦点評価値VとchBの焦点評価値Vとが一致したか否か、即ち、V=Vが成立するか否かを判定する(ステップS16)。
【0054】
ステップS16においてYESと判定した場合には、現在のピント状態が合焦状態であると判断し、ビューファインダ54のピント情報表示部80に「0」を表示させることによって、合焦状態であることを示す合焦表示を行う(ステップS18)。そして、ステップS12の処理に戻る。
【0055】
一方、ステップS16においてNOと判定した場合には、ピント情報表示部80の現在の表示が合焦表示であるか否かを判定する(ステップS18)。NOと判定した場合には、ステップS22に移行する。YESと判定した場合には、続いてchAの焦点評価値VとchBの焦点評価値Vとの差の大きさ(絶対値)が所定のしきい値より小さいか否か、即ち、|V−V|<V(Vは所定のしきい値)が成立するか否かを判定する(ステップS20)。ここで、chAの焦点評価値VとchBの焦点評価値Vが一致して合焦状態と判断された後、被写体の条件(被写体の位置等)や撮影レンズの条件(フォーカスレンズFLの位置、ズームレンズZLの位置、絞りIの位置等)に変化がないにもかかわらず、chAの焦点評価値VとchBの焦点評価値Vのうちの少なくとも一方がノイズ等によって変動すると、chAの焦点評価値VとchBの焦点評価値Vに差が生じる。しきい値Vはこのような場合において|V−V|<Vが成立するような値に設定される。
【0056】
ステップS20においてYESと判定した場合には、継続してピント情報表示部80に「0」を表示させることによって、合焦表示を行う(ステップS18)。そして、ステップS12に戻る。
【0057】
ステップS20又はステップS18においてNOと判定した場合には、chAの焦点評価値VがchBの焦点評価値Vより大きいか否か、即ち、V>Vが成立するか否かを判定する(ステップS22)。YESと判定した場合には現在のピント状態が前ピン状態と判断し、ピント情報表示部80に「−」を表示させることによって、前ピン状態であることを示す前ピン表示を行う(ステップS24)、NOと判定した場合にはピント状態が後ピン状態と判断し、ピント情報表示部80に「+」を表示させることによって、後ピン状態であることを示す後ピン表示を行う(ステップS26)。ステップS24又はステップS26の処理が終了すると、ステップS12に戻る。
【0058】
以上の処理によれば、合焦表示が行われていない場合、即ち、非合焦表示(前ピン表示又は後ピン表示)が行われている場合には、chAとchBの焦点評価値が一致したときに合焦状態と判断されて合焦表示が行われるが、一旦、合焦状態と判断されて合焦表示が行われた場合には、chAとchBの焦点評価値が不一致となったときではなく、chAとchBの焦点評価値にある程度の差が生じたときに非合焦状態と判断されて合焦表示が解除される。従って、MF制御時において操作者がピント情報表示部80のピント情報表示を参考にしてマニュアル操作でフォーカス調整を行い、撮影レンズのピント状態を非合焦状態から合焦状態に設定する際には、ピント情報表示部80において合焦表示が行われる位置にフォーカスを合わせることによって高い合焦精度が合焦状態に設定することができる。一方、一旦合焦表示が行われた場合には、焦点評価値がノイズ等で変動しても非合焦状態と判断され難く、合焦表示の状態が安定する。但し、被写体の条件(被写体の位置等)の変化やフォーカスレンズFLの位置が変化等によって合焦状態でなくなった可能性が高い場合には|V−V|<Vの条件が成立しなくなり合焦表示が解除される。
【0059】
尚、合焦状態か否かを判定するステップS16において、chAの焦点評価値VとchBの焦点評価値Vが完全に一致した場合に合焦状態と判定するのではなく、chAの焦点評価値VとchBの焦点評価値Vの差の絶対値が所定のしきい値より小さい場合に合焦状態と判断するようにしてもよい。但し、この場合のしきい値は、上記ステップS20におけるしきい値Vよりも小さい値とする。
【0060】
また、一旦合焦状態と判断して合焦表示を行っているときに継続して合焦表示を行うか否かの判断を行うステップS20において、chAの焦点評価値VとchBの焦点評価値Vのうち一方又は両方の変化量が所定のしきい値よりも小さい場合に継続して合焦表示を行うようにしてもよい。但し、この条件が成立しない場合であってもステップS16の条件が成立する場合には合焦表示を継続して行うようにする。
【0061】
次に、CPU10におけるピント情報表示用のピント状態検出処理(ピント情報表示処理)の第2の実施の形態について図7のフローチャートを用いて説明する。CPU10は、所要の初期設定を行った後(ステップS30)、所要の光学情報を読み込む(ステップS32)。光学情報は、合焦状態となったときのフォーカスレンズFLの位置における被写界深度を求めるために必要な情報であり、現在のフォーカスレンズFLの位置、ズームレンズZLの位置、及び、絞りIの位置をポテンショメータFP、ZP、IPから読み込む。
【0062】
続いてCPU10は、AF回路30からchAの焦点評価値VとchBの焦点評価値Vを取得する(ステップS34、S36)。そして、それらの焦点評価値を比較し、chAの焦点評価値VとchBの焦点評価値Vとが一致したか否か、即ち、V=Vが成立するか否かを判定する(ステップS38)。
【0063】
ステップS38においてYESと判定した場合には、現在のピント状態が合焦状態であると判断し、続いて、ビューファインダ54におけるピント情報表示部80の現在の表示が合焦表示であるか否かを判定する(ステップS40)。NOと判定した場合には、続いて、ステップS32で取得した光学情報に基づいて被写界深度を計算し(ステップS42)、ピント情報表示部80に「0」を表示させることによって、合焦状態であることを示す合焦表示を行う(ステップS44)。そして、ステップS34に戻る。
【0064】
ここで、被写界深度は、周知のように合焦しているとみなせる被写体距離の範囲であり、ステップS32において読み込んだ光学情報から得られる撮影レンズの焦点距離をf、絞り値をFNO、フォーカスレンズの位置に基づく被写体距離をLとし、また、予め決められている許容錯乱円径をδとすると、後方被写界深度Lγ及び前方被写界深度Lfはそれぞれ次式(1)、(2)により求められる。
Lγ=(δ・FNO・L)/(f−δ・FNO・L)…(1)
Lf=(δ・FNO・L)/(f+δ・FNO・L)…(2)
上記ステップS38においてNOと判定した場合、ピント情報表示部80の現在の表示が合焦表示であるか否かを判定する(ステップS46)。このステップS46においてNOと判定した場合にはステップS54に移行する。
【0065】
一方、ステップS46においてYES、又は、上記ステップS40においてYESと判定した場合、即ち、ピント情報表示部80の現在の表示が合焦表示である場合には、続いて、フォーカスレンズFLの現在位置に対応する被写体距離が、ステップS42において計算された最新の被写界深度の範囲内か否かを判定する(ステップS48)。
【0066】
ステップS48においてYESと判定した場合には、次に、ズームレンズZLの位置と絞りIの位置のいずれかが変化したか否かを判定する(ステップS50)。NOと判定した場合には、chAの焦点評価値VとchBの焦点評価値Vとの差の大きさ(絶対値)が所定のしきい値より小さいか否か、即ち、|V−V|<V(Vは所定のしきい値)が成立するか否かを判定する(ステップS52)。ここで、しきい値Vは第1の実施の形態におけるステップS20におけるしきい値Vと同様の意図を有する値に設定される。即ち、被写体の条件(被写体の位置等)の変化やフォーカスレンズFLの位置が変化等によって合焦状態でない可能性が高くなった場合には、フォーカスレンズFLの現在位置が被写界深度内で且つ撮影レンズの焦点距離や絞り値に変化がなくてもこのステップS52においてNOと判定される。
【0067】
ステップS52においてYESと判定した場合には、継続してピント情報表示部80に「0」を表示させることによって、合焦表示を行う(ステップS44)。そして、ステップS34に戻る。ステップS52においてNOと判定した場合には、ステップS54に移行する。
【0068】
ステップS50においてYESと判定した場合には、ステップS42に移行し、再度、被写界深度の計算する(ステップS42)。このときの被写界深度の計算において、被写体距離Lは、現在の合焦表示が最初に行われたときの値を使用し、焦点距離と絞り値は現在のズームレンズZLと絞りIの位置に対応した値を使用する。即ち、撮影レンズの焦点距離と絞り値のいずれかが変化した場合には被写界深度が変化するため現在の焦点距離及び絞り値の条件で再度被写界深度を計算しなおす。そして、継続してピント情報表示部80に「0」を表示させることによって、合焦表示を行い(ステップS44)、ステップS34に戻る。
【0069】
ステップS46においてNOと判定した場合、ステップS48においてNOと判定した場合、又は、ステップS52においてNOと判定した場合には、chAの焦点評価値VがchBの焦点評価値Vより大きいか否か、即ち、V>Vが成立するか否かを判定する(ステップS54)。YESと判定した場合には現在のピント状態が前ピン状態と判断し、ピント情報表示部80に「−」を表示させることによって、前ピン状態であることを示す前ピン表示を行う(ステップS56)、NOと判定した場合にはピント状態が後ピン状態と判断し、ピント情報表示部80に「+」を表示させることによって、後ピン状態であることを示す後ピン表示を行う(ステップS58)。ステップS56又はステップS58の処理が終了すると、ステップS34に戻る。
【0070】
以上の処理によれば、chAとchBの焦点評価値が一致したときに合焦状態と判断されて合焦表示が行われるが、一旦、合焦状態と判断されて合焦表示が行われた場合には、chAとchBの焦点評価値が不一致となったときではなく、フォーカスレンズFLの位置が合焦状態と判断されたときの被写界深度の範囲外となったときに非合焦状態と判断されて合焦表示が解除される。従って、MF制御時において操作者がピント情報表示部80のピント情報を参考にしてマニュアル操作で撮影レンズを非合焦状態から合焦状態に設定する際には、ピント情報表示部80において合焦表示が行われる位置にフォーカスを合わせることによって高い合焦精度で合焦させることができる。一方、一旦合焦表示が行われた場合には、フォーカスレンズFLの位置が被写界深度の範囲外となるまでは非合焦状態と判断されず、合焦表示の表示状態が安定する。但し、フォーカスレンズFLの位置が被写界深度の範囲内である場合であっても、被写体の条件(被写体の位置等)等によって合焦状態でない可能性が高くなった場合には|V−V|<Vの条件が成立しなくなり合焦表示が解除される。また、撮影レンズの焦点距離や絞り値が変化した場合には被写界深度が再計算されるため、合焦状態と判断される被写界深度の範囲も適切に設定される。
【0071】
尚、合焦状態か否かを判定するステップS38において、chAの焦点評価値VとchBの焦点評価値Vが完全に一致した場合に合焦状態と判定するのではなく、chAの焦点評価値VとchBの焦点評価値Vの差の絶対値が所定のしきい値より小さい場合に合焦状態と判断するようにしてもよい。但し、この場合のしきい値は、上記ステップS52におけるしきい値Vよりも小さい値とする。
【0072】
また、ステップS52において、chAの焦点評価値VとchBの焦点評価値Vのうち一方又は両方の変化量が所定のしきい値よりも小さい場合にYESと判定して継続して合焦表示を行うようにしてもよい。但し、この条件が成立しない場合であってもステップS38の条件が成立する場合には合焦表示を継続して行うようにする。
【0073】
次に、CPU10におけるピント情報表示用のピント状態検出処理(ピント情報表示処理)の第3の実施の形態について説明する。本実施の形態は、ピント情報表示に関して2つのモードを選択可能にしたもので、1つは、第2の実施の形態のようにピント情報表示部80が合焦表示状態の場合に被写界深度内かで合焦表示状態を解除するモード(深度モードという)である。他方のモードは、被写界深度とは無関係に、chAとchBの焦点評価値が一致したときにピント情報表示部80が合焦表示状態となり、chAとchBの焦点評価値が不一致となったときに合焦表示状態を解除するモード(非深度モード)である。これらのモードは、所定のモード切替スイッチ(図示せず)を操作することによって操作者によって切り替えられるようになっており、CP10はそのモード切替スイッチの状態を検出することによって選択されたモードに対応するピント情報表示を行うようにしている。これによれば、例えば撮影レンズのトラッキング調整(映像用CCD70やAF用CCD32A、32Bに対するトラッキング調整)等を行う際に、非合焦表示が行われている場合に限らず合焦表示が行われている場合において高い合焦精度で合焦表示を行わせたい場合があり、その場合に非深度モードに切り替えることによってそのような合焦表示が可能となる。
【0074】
また、本実施の形態では、ピント情報表示を複数のピント情報表示部において行うものとする。例えば、上記実施の形態と同様にビューファインダ54の画面上におけるピント情報表示部80以外に、フォーカスデマンド18にピント情報を表示するピント情報表示部が設けられているものとする。但し、これら以外の部分において複数のピント情報表示部が設けられている場合であってもよい。
【0075】
図8は、ピント情報表示部が設けられたフォーカスデマンド18の外観を示した正面図である。同図において、フォーカスデマンド18は、フォーカスデマンド18における各種回路部品等を収容したデマンド本体100とデマンド本体100に対して回動可能に支持されたマニュアル操作部材(フォーカスノブ101)を備えており、デマンド本体100にピント情報表示部102が設けられている。同図のピント情報表示部102は3つのランプ104、106、108によって構成されている。中央の光出射面が丸型のランプ104は、合焦状態の時に点灯し、非合焦の時に消灯するランプであり、下側の光出射面が三角型のランプ106は、前ピン状態の時に点灯し、前ピン状態以外の時に消灯するランプであり、上側の光出射面が三角形のランプ108は、後ピン状態の時に点灯し、後ピン状態の時に消灯するランプである。
【0076】
フォーカスデマンド18にはCPUが搭載されており、レンズ装置1のCPU10は、カメラ本体50に送信するピント状態情報を、そのフォーカスデマンド18のCPUにも送信する。フォーカスデマンド18のCPUは、CPU10から与えられたピント状態情報に従ってピント情報表示部102の各ランプ104〜108の点灯・消灯を制御することによってピント情報表示部102に現在のピント状態を表示させる。
【0077】
また、このフォーカスデマンド18に設けられたピント情報表示部102に関しても、上記深度モードでのピント情報表示と非深度モードでのピント情報表示とに切り替えるモード切替スイッチ(図示せず)が、ビューファインダ54のピント情報表示部80に関するモード切替スイッチとは別に設けられている。
【0078】
図9は、上記のように複数のピント情報表示部にピント情報を表示すると共に深度モードと非深度モードの切替えを可能にした第4の実施の形態でのピント情報表示処理の処理手順を示したフローチャートである。尚、図7に示した第2の実施の形態のフローチャートと同一又は類似の処理工程には同一ステップ番号を付し、本実施の形態では主に図7と異なる処理工程について説明する。図9のフローチャートにおいてステップS42の被写界深度の計算を行った後、CPU10は、chAの焦点評価値VとchBの焦点評価値Vを比較し、chAの焦点評価値VとchBの焦点評価値Vとが一致したか否か、即ち、V=Vが成立するか否かを判定する(ステップS60)。YESと判定した場合には深度モードか非深度モードかにかかわらず全てのピント情報表示部において合焦表示を行う(ステップS44)。一方、ステップS60においてNOと判定した場合には、chAの焦点評価値VがchBの焦点評価値Vより大きいか否か、即ち、V>Vが成立するか否かを判定する(ステップS62)。YESと判定した場合には非深度モードのピント情報表示部を前ピン表示にする(ステップS64)、NOと判定した場合には非深度モードのピント情報表示部を後ピン表示にする(ステップS66)。これによって非深度モードのピント情報表示部では、chAの焦点評価値VとchBの焦点評価値Vが一致しない限り、非合焦状態の表示が行われる。尚、深度モードのピント情報表示部では合焦表示が行われる。
【0079】
一方、ステップS54においてchAの焦点評価値VがchBの焦点評価値Vより大きいか否か、即ち、V>Vが成立するか否かを判定した際に、YESと判定した場合には、深度モードか非深度モードかにかかわらず全てのピント情報表示部を前ピン表示にする(ステップS56)、NOと判定した場合には全てのピント情報表示部を後ピン表示にする(ステップS58)。これにより、合焦状態と判断され合焦表示が行われるまでは全てのピント情報表示部において前ピン表示又は後ピン表示が同じように行われる。
【0080】
尚、第2の実施の形態と同様に合焦状態か否かを判定するステップS38、ステップS60において、chAの焦点評価値VとchBの焦点評価値Vが完全に一致した場合に合焦状態と判定するのではなく、chAの焦点評価値VとchBの焦点評価値Vの差の絶対値が所定のしきい値より小さい場合に合焦状態と判断するようにしてもよい。但し、この場合のしきい値は、上記ステップS52におけるしきい値Vよりも小さい値とする。
【0081】
また、ステップS52において、chAの焦点評価値VとchBの焦点評価値Vのうち一方又は両方の変化量が所定のしきい値よりも小さい場合にYESと判定して継続して合焦表示を行うようにしてもよい。但し、この条件が成立しない場合であってもステップS38の条件が成立する場合には合焦表示を継続して行うようにする。
【0082】
以上、上記実施の形態では、合焦状態でない場合において前ピン状態か後ピン状態かを表示するようにしたが、合焦状態でない場合には前ピン状態か後ピン状態かを示すことなく単に非合焦状態であることを表示するようにしてもよい。
【0083】
また、上記実施の形態におけるピント情報表示部(80、102)においてピント状態を示すピント情報の表示態様は一例であって、ピント情報表示部は、合焦状態と非合焦状態を識別可能に表示できるものであればどのような形態であってもよい。
【0084】
また、上記実施の形態では、合焦表示を行っている場合における合焦状態か否かの判断と、非合焦表示(前ピン表示又は後ピン表示)を行っている場合における合焦状態か否かの判断とを変更することにより、合焦表示を行っている場合に合焦状態と判断するフォーカス位置の範囲を、非合焦表示を行っている場合に合焦状態と判断するフォーカス位置の範囲よりも大きくしたもので、それらの合焦状態か否かの判断の方法は上記実施の形態で示した方法以外であってもよい。また、合焦状態か否かの判断の方法を表示状態に応じて変更することなく、非合焦表示の際に合焦状態か否かを判断し、合焦状態と判断して合焦表示を行った場合に、一定時間は合焦表示を継続して行い、一定時間が経過すると、合焦状態か否かの判断を行い、その結果に従って合焦表示を継続するか又は解除(非合焦表示)するようにしてもよい。
【0085】
また、上記実施の形態において、合焦表示又は非合焦表示を行っている場合における合焦状態か否かの判断に用いるパラメータ(例えば、chAとchBの焦点評価値の差の大きさと比較されるしきい値V、被写界深度を求める際の許容錯乱円径、上記のように合焦状態と判断して合焦表示を行った場合に合焦表示を一定時間継続する場合の時間等)を、パーソナルコンピュータなどの外部機器により変更可能又は選択可能にしてもよい。
【0086】
また、上記実施の形態では、ピント状態検出に使用する2つのフォーカス位置の焦点評価値を光路長が異なる位置に配置された撮像面(AF用CCD32A、32B)により取得する態様を示したが、これに限らない。例えば、上記実施の形態のようにピント状態を検出するための特別な撮像素子を有していない場合であって映像用CCD70からの映像信号によってピント状態を検出することができる。この場合にフォーカスを微小変動させるワブリング用のレンズを備えている場合にはそのワブリング用のレンズを前後動させて2つ、又は、それ以上のフォーカス位置における焦点評価値を取得し、それらの焦点評価値に基づいてピント状態を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】図1は、本発明が適用されるレンズシステムの構成を示したブロック図である。
【図2】図2は、撮影レンズの構成を示した図である。
【図3】図3は、カメラ本体の映像用CCDと一対のAF用CCDとを同一の光軸上に表した図である。
【図4】図4は、AF用CCDの光路長差の説明に用いた図である。
【図5】図5は、ビューファインダの画面上にピント情報を表示するピント情報表示部を示した図である。
【図6】図6は、ピント情報表示処理の第1の実施の形態を示したフローチャートである。
【図7】図7は、ピント情報表示処理の第2の実施の形態を示したフローチャートである。
【図8】図8は、ピント情報表示部が設けられたフォーカスデマンドの外観を示した正面図である。
【図9】図9は、ピント情報表示処理の第4の実施の形態を示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0088】
1…レンズ装置、10…CPU、18…フォーカスデマンド、20…ズームデマンド、30…AF回路、32A、32B…AF用CCD、50…カメラ本体、52…カメラ回路、70…映像用CCD、80、102…ピント情報表示部、FL…フォーカスレンズ(群)、ZL…ズームレンズ(群)、I…絞り、FM、ZM、IM…モータ、FP、ZP、IP…ポテンショメータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体を結像する光学系のピント状態が合焦状態か非合焦状態かを表示するピント状態表示手段と、
前記ピント状態表示手段により非合焦状態を示す非合焦表示が行われている場合において、前記光学系のピント状態が合焦状態か非合焦状態かを判断する第1合焦判断手段と、
前記ピント状態表示手段により合焦状態を示す合焦表示が行われている場合において、前記光学系のピント状態が合焦状態か非合焦状態かを判断する第2合焦判断手段であって、前記第1合焦判断手段により合焦状態と判断されるフォーカス位置の範囲よりも大きな範囲において合焦状態と判断する第2合焦判断手段と、
前記ピント状態表示手段により非合焦表示が行われている場合には、前記第1合焦判断手段により合焦状態と判断されたときに前記ピント状態表示手段を合焦表示に切り替え、前記ピント状態表示手段により合焦表示が行われている場合には、前記第2合焦判断手段により非合焦状態と判断されたときに前記ピント状態表示手段を非合焦表示に切り替える表示切替手段と、
を備えたことを特徴とするピント情報表示システム。
【請求項2】
前記光学系により結像される被写体像のコントラストの高さを示す焦点評価値を検出する焦点評価値検出手段を備え、
前記第1合焦判断手段は、少なくとも前記光学系の2つのフォーカス位置における焦点評価値を前記焦点評価値検出手段により取得し、該取得した2つの焦点評価値の差の大きさが所定のしきい値より小さい場合に合焦状態と判断することを特徴とする請求項1のピント情報表示システム。
【請求項3】
前記焦点評価値検出手段は、光路長が異なる位置に配置された少なくとも2つの撮像面により撮像した被写体像についての焦点評価値を検出することによって少なくとも前記光学系の2つのフォーカス位置における焦点評価値を検出することを特徴とする請求項2のピント情報表示システム。
【請求項4】
前記第2合焦判断手段は、少なくとも前記光学系の2つのフォーカス位置における焦点評価値を前記焦点評価値検出手段により取得し、該取得した2つの焦点評価値の差の大きさが、前記第1合焦判断手段における前記しきい値より大きな値のしきい値より小さい場合に合焦状態と判断することを特徴とする請求項2又は3のピント情報表示システム。
【請求項5】
前記第2合焦判断手段は、前記第1合焦判断手段により合焦状態と判断されたときのフォーカス位置における被写界深度を算出する被写界深度算出手段を備え、前記光学系のフォーカス位置が前記被写界深度算出手段により算出された被写界深度の範囲内である場合に合焦状態と判断することを特徴とする請求項1、2、3、又は、4のピント情報表示システム。
【請求項6】
前記第2合焦判断手段は、少なくとも前記光学系の2つのフォーカス位置における焦点評価値を前記焦点評価値検出手段により取得し、該取得した2つの焦点評価値の差の大きさが、前記第1合焦判断手段における前記しきい値より大きな値のしきい値より小さい場合で、且つ、前記光学系のフォーカス位置が前記被写界深度算出手段により算出された被写界深度の範囲内である場合に合焦状態と判断することを特徴とする請求項5のピント情報表示システム。
【請求項7】
前記被写界深度算出手段は、前記光学系の焦点距離と絞り値のうち少なくとも一方が変化した場合に被写界深度を再度算出することを特徴とする請求項5又は6のピント情報表示システム。
【請求項8】
所定のスイッチの操作に基づいて前記第2合焦判断手段における合焦状態か非合焦状態かの判断を前記第1合焦判断手段と同一の判断に切り替える判断切替手段を備えたことを特徴とする請求項1〜7のうちいずれか1に記載のピント情報表示システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−248507(P2007−248507A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−67789(P2006−67789)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【Fターム(参考)】