説明

フロントフォーク

【課題】フォーク本体内にあって、最伸長状態にあるダンパが収縮作動を開始するときから設定通りの圧側減衰力を発生し得るとし、その際に乗り心地の悪化を招かないようにする。
【解決手段】車体側チューブ1と車輪側チューブ2とからなるフォーク本体内にこのフォーク本体内をリザーバにするダンパを有すると共に、このダンパが油室R3を画成する受圧面への流体圧作用で後退するフリーピストン7と、このフリーピストン7の後退時に油室R3のリザーバへの連通を許容する連通孔3bと、フリーピストン7の背後に配設されてこのフリーピストン7を前進方向に附勢する昇圧バネ71とを有してなるフロントフォークにおいて、フォーク本体がこのフォーク本体の軸線方向に移動可能に配設されながらその移動時にフリーピストン7の最前進時位置をこのフリーピストン7の摺動方向に変更可能にするアジャスタ10を有してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フロントフォークに関し、特に、二輪車の前輪側に架装されて下端部で懸架する前輪に入力される路面振動を吸収する油圧緩衝器たるフロントフォークの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
二輪車の前輪側に架装されて下端部で懸架する前輪に入力される路面振動を吸収する油圧緩衝器たるフロントフォークとしては、これまでに種々の提案があるが、その中で、特許文献1に開示の提案にあっては、内蔵するダンパにおける内部の昇圧化を可能にする。
【0003】
すなわち、特許文献1に開示のフロントフォークは、車体側チューブと車輪側チューブとからなるフォーク本体の軸芯部に筒型のダンパを有し、このダンパは、シリンダ体のボトム端部内に作動流体の往復する通過を許容する減衰部と、この減衰部の下流側に配設されて受圧面を減衰部に対向させるフリーピストンと、このフリーピストンの背後に配設されてこのフリーピストンを減衰部に向かう前進方向に附勢する附勢バネとを有してなる。
【0004】
それゆえ、上記した特許文献1に開示のフロントフォークにあっては、フォーク本体内のダンパがフリーピストンを前進方向に附勢する附勢バネのバネ力に釣り合う反力を具有すると共に、ダンパにおけるシリンダ体内が昇圧化される。
【0005】
その結果、たとえば、フロントフォークにあって、二輪車の仕様や走行状況に応じた乗り心地を得られると共に、ダンパにおいて、最伸長状態から反転して収縮作動を開始する当初から安定した圧側減衰力の発生を可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005‐30534公報(明細書中の段落0036,同0037,図1参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した特許文献1に開示の提案にあっては、フロントフォークにおいて、二輪車の仕様や走行状況に応じた乗り心地を得られ、ダンパにおいて、最伸長状態から反転して収縮作動を開始する当初から安定した圧側減衰力の発生を可能にする点で、格別の問題がある訳ではないが、利用の実際を勘案するとき、些かの不具合があると指摘される可能性がある。
【0008】
すなわち、上記したフロントフォークにあっては、ダンパにおいて、フリーピストンを前進方向に附勢してダンパに反力を具有させる附勢バネのバネ力は、当初に設定の範囲内の強弱に止まり、二輪車の走行状況や利用状況の変化に応じられるようにダンパの反力を高低変更し得ない。
【0009】
つまり、たとえば、ライダーのみの搭乗で積載荷重がいたずらに増えることなくして平坦路面を走行する機会が多い二輪車にあって、同乗者があることによる積載荷重の増大下に走行する場合や、荒地走行をする場合には、ダンパにおける反力が不足する傾向になり、乗り心地が損なわれる。
【0010】
そして、積載荷重を大きくする機会の多い二輪車が積載荷重を少なくして走行したり、荒地走行の機会が多い二輪車が平坦な路面を走行したりする場合には、ダンパにおける反力が強くなり過ぎ、二輪車における乗り心地を悪くする。
【0011】
この発明は、このような現状を鑑みて創案されたものであって、その目的とするところは、ダンパにおける反力を二輪車の走行状況や利用状況に応じて可変して好ましい乗り心地が得られるようにし、その汎用性の向上を期待するのに最適となるフロントフォークを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成するために、この発明によるフロントフォークの構成を、基本的には、車体側チューブと車輪側チューブとからなるフォーク本体内にこのフォーク本体内をリザーバにするダンパを有すると共に、このダンパが作動流体の往復する通過を許容する減衰部と、この減衰部の下流側に配設されてこの減衰部に対向してこの減衰部との間に容室を画成する受圧面への流体圧作用で後退するフリーピストンと、このフリーピストンの後退時に上記の容室の上記のリザーバへの連通を許容する連通孔と、上記のフリーピストンの背後に配設されてこのフリーピストンを前進方向に附勢する昇圧バネとを有してなるフロントフォークにおいて、上記のフォーク本体がこのフォーク本体の軸線方向に移動可能に配設されながらその移動時に上記のフリーピストンの最前進時位置をこのフリーピストンの摺動方向に変更可能にするアジャスタを有してなる。
【発明の効果】
【0013】
それゆえ、この発明によるフロントフォークにあっては、フォーク本体内のダンパにおいて、フリーピストンを背後から附勢する昇圧バネのバネ力に釣り合う反力を具有するから、シリンダ体内を昇圧傾向に維持でき、したがって、最伸長状態にあるダンパが反転して収縮作動を開始するときに、その開始当初から圧側減衰バルブによる安定した減衰力発生が可能とされる。
【0014】
そして、この発明によるフロントフォークにあっては、アジャスタの回動操作でフリーピストンを背後から附勢する昇圧バネのバネ力を当初の設定値以上に強弱変更でき、その分、ダンパの反力を強弱でき、二輪車の走行状況や利用状況に応じた好ましい乗り心地を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明によるフロントフォークを原理的に示す図である。
【図2】図1に示すフロントフォークの上端側部を具体化した実施形態を示す部分縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図示した実施形態に基づいて、この発明を説明するが、この発明によるフロントフォークは、二輪車の前輪側に架装されて下端部で懸架する前輪に入力される路面振動を吸収する流体圧緩衝器たる油圧緩衝器として機能する。
【0017】
そして、このフロントフォークは、上端側がハンドル(図示せず)側に結合されながら下端部で前輪(図示せず)を懸架するフォーク本体と、このフォーク本体内に収装されてこのフォーク本体の伸縮作動時に同期して伸縮作動して所定の減衰力を発生するダンパとを有してなる。
【0018】
フォーク本体は、原理図たる図1に示すように、上端側が二輪車(図示せず)におけるハンドル側(図示せず)に結合される大径のアウターチューブからなる車体側チューブ1と、この車体側チューブ1の下端側に上端側が出没可能に挿通されながら下端部で二輪車における前輪(図示せず)を懸架する小径のインナーチューブからなる車輪側チューブ2とを有して、倒立型に設定される。
【0019】
ちなみに、図示するフォーク本体は、倒立型に設定されるが、この発明が意図とするところからすると、これに代えて、図示しないが、大径のアウターチューブを車輪側チューブ1にし、小径のインナーチューブを車体側チューブ2にする正立型に設定されても良い。
【0020】
そして、このフォーク本体は、内部に懸架バネSを収装し、この懸架バネSの附勢力で車体側チューブ1内から車輪側チューブ2が抜け出る方向たる伸長方向に附勢される。
【0021】
ちなみに、懸架バネSは、図中で上端となる基端が後述するダンパを構成するシリンダ体3における図中で下端となるヘッド端(符示せず)に担持されると共に、図示しないが、先端が車輪側チューブ2におけるボトム部(符示せず)に係止される。
【0022】
また、このフォーク本体は、図示するところでは、その内側であって後述するダンパの外となるリザーバRを有し、このリザーバRは、作動流体の液面Oを境にする気室Aを有し、この気室Aは、その膨縮でバネ力を発揮する。
【0023】
ダンパは、図示するところでは、作動流体たる作動油を収容するシリンダ体3を上端側部材にすると共にロッド体4を下端側部材にする倒立型に設定され、シリンダ体3が車体側チューブ1に結合されてこの車体側チューブ1の軸芯部に垂設され、ロッド体4が車輪側チューブ2に結合されてこの車輪側チューブ2の軸芯部に起立されながら図中で上端側となる先端側をシリンダ体3内に出没可能に挿通させる。
【0024】
ちなみに、図示するダンパは、倒立型に設定されるが、この発明が意図とするところからすると、これに代えて、図示しないが、シリンダ体3を下端側部材にすると共にロッド体4を上端側部材にする正立型に設定されても良いと言い得る。
【0025】
しかし、敢えて言うなら、この発明にあっては、後述するように、二輪車のライダーがするアジャスタ10の回動操作でフリーピストン7を附勢する昇圧バネ71のバネ力を高低調整可能にする設定からすると、アジャスタ10がフォーク本体の下端部ではなく上端部にある方が操作上有利なので、ダンパは、倒立型に設定されている方が良い。
【0026】
また、シリンダ体3は、図示するところでは、シリンダ体3におけるボトム端部3aの図中で上端となるボトム端(符示せず)が車体側チューブ1の上端開口を閉塞するキャップ部材11に連結されることで、車体側チューブ1の軸芯部に垂設される。
【0027】
一方、このダンパにあって、シリンダ体3内に摺動可能に収装されながらロッド体4の図中で上端となる先端に連設されてシリンダ体3内にロッド側室R1とピストン側室R2を画成するピストン体5を有する。
【0028】
そしてまた、このダンパにあって、シリンダ体3内のロッド側室R1とピストン側室R2は、ピストン体5に配設の減衰バルブ5aを介して相互に連通可能とされ、この減衰バルブ5aにはチェック弁5bが並列する。
【0029】
ちなみに、このチェック弁5bは、ロッド側室R1の作動油がピストン側室R2に向けて通過することを阻止するが、逆に、ピストン側室R2の作動油がロッド側室R1に向けて通過することを許容する。
【0030】
それゆえ、このダンパにあっては、シリンダ体3内にロッド体4が没入する収縮作動時にピストン側室R2において余剰となる侵入ロッド体積分に相当する量の作動油が後述の減衰部6を介してピストン側室R2の言わば外に流出する。
【0031】
そして、シリンダ体3内からロッド体4が突出する伸長作動時にピストン側室R2において不足することになる退出ロッド体積分に相当する量の作動油が同じく減衰部6を介してピストン側室R2に流入する。
【0032】
ところで、このダンパにあっては、シリンダ体3の図中で上端部となるボトム端部3a内に減衰部6と、この減衰部6の下流側に配設されるフリーピストン7とを有してなる。
【0033】
減衰部6は、図示しないが、複筒型で正立型に形成される油圧緩衝器におけるベースバルブ部に相当し、図示するところでは、シリンダ体3におけるボトム端部3a内に収装されて、シリンダ体3内のピストン側室R2とフリーピストン7の上流側となる容室たる油室R3とを画成する。
【0034】
そして、この減衰部6は、ピストン側室R2と油室R3の連通を許容する減衰バルブ6aと、この減衰バルブ6aに並列するチェック弁6bとを有し、このチェック弁6bは、ピストン側室R2からの作動油の油室R3への流出を阻止するが、油室R3からの作動油のピストン側室R2への流入を許容する。
【0035】
ちなみに、減衰部6は、シリンダ体3のボトム端部3a内に収装されて、フリーピストン7との間に油室R3を画成すれば足りるので、原理的には、これがボトム端部3a内に固定状態に配設されても良い。
【0036】
しかし、図示する実施形態の減衰部6にあっては、後述することから、ボトム端部3a内に摺動可能に収装され、しかも、図中で上端となる基端が車体側チューブ1に連結されるガイドロッド61の図中で下端となる先端に保持される。
【0037】
フリーピストン7は、ボトム端部3a内にあって、減衰部6の図中で上方側となる下流側に摺動可能に配設されて、上記の油室R3と、背後側気室A1とを画成すると共に、この背後側気室A1に収装の、すなわち、背後に配設の昇圧バネ71で、図中で下降方向となる前進方向に附勢される。
【0038】
ちなみに、背後側気室A1は、図示するところでは、ダンパの外たるリザーバRと分離され、したがって、この背後側気室A1は、リザーバRの圧力に影響されない独自の圧力たる封入圧を具有する。
【0039】
そして、このフリーピストン7は、図示するところでは、前記したガイドロッド61を軸芯部に貫通させる環状に形成されながらボトム端部3a内に摺動可能に収装され、したがって、その昇降時にボトム端部3aに対して傾斜して齧る不具合の発生があらかじめ回避される。
【0040】
それゆえ、図示するダンパにあって、フリーピストン7は、背後からの昇圧バネ71で前進方向に附勢されるから、最伸長状態にあるときにも、シリンダ体3内の圧力がこの昇圧バネ71のバネ力にバランスするように高くなる。
【0041】
その結果、フリーピストン7が背後に昇圧バネ71を有しない場合に比較して、シリンダ体3内が昇圧傾向になり、たとえば、最伸長状態にあるダンパが収縮作動を開始する当初から、作動油中に混入する気泡の膨縮によって減衰力の発生が遅れるいわゆる「減衰力のサボり」と言う現象を発現することなく、安定した圧側減衰力の発生が可能になる。
【0042】
ところで、フリーピストン7を附勢する昇圧バネ71の図中で下端となる先端は、フリーピストン7の背面に係止されるが、図中で上端となる基端は、図示するところでは、ガイドロッド61に連設されたフランジ状に形成のバネ受72に担持される。
【0043】
そして、このバネ受72は、車体側チューブ1の上端開口を閉塞するキャップ部材11の軸芯部に配設のアジャスタ10の回動操作で、図示する状態では、図中で下降方向たる前進方向に移動し、アジャスタ10に対する逆方向の回動操作によって図中で上昇方向たる後退方向に移動して旧状に復する。
【0044】
それゆえ、このバネ受72の進退で、昇圧バネ71の基端位置が図中で上下方向に移動し、このとき、昇圧バネ71の先端がその移動を強制的に阻止されていないから、フリーピストン7を移動させるように図中で上下動する。
【0045】
そして、昇圧バネ71の基端が前進するように移動することに伴って先端が前進してフリーピストン7が移動する場合には、このフリーピストン7が移動した分、シリンダ体3内がさらに高圧に昇圧されて、ダンパにおける反力が高くなる。
【0046】
また、フリーピストン7が移動した分、フリーピストン7の最前進時の先端位置が変化するから、このフリーピストン7が後述するリリーフ作動するときの後退ストローク量が変更される。
【0047】
それゆえ、この発明のダンパにあっては、このダンパに作用する荷重に応じるように反力を高低調整し得ることになり、このダンパを収装するフォーク本体、すなわち、フロントフォークは、これを架装する二輪車における仕様や走行状況に応じた減衰力を発生する最適な乗り心地を具現化する。
【0048】
そして、アジャスタ10も車体側チューブ1の上端開口を閉塞するキャップ部材11に設けられるから、ライダーが二輪車に搭乗した姿勢のまま、アジャスタ10を回動操作し得ることになり、必要に応じて適切に所望の制御を実践できる。
【0049】
ところで、この発明にあっては、アジャスタ10の回動操作で昇圧バネ71のバネ力を強弱させてフリーピストン7の先端位置を変更可能にするが、このフリーピストン7の先端位置を変更可能にするについては、たとえば、フリーピストン7によって画成される前記の背後側気室A1における圧力、すなわち、封入圧を変更することでも実現可能である。
【0050】
しかしながら、この発明にあって、フリーピストン7の先端位置を変更可能にするについて、背後側気室A1における封入圧を変更する構成を採用しなかったのは、この封入圧の変更、特に、封入圧を高くする際には、所定の機器類を利用しての封入作業が必須になる不具合がある。
【0051】
そして、この所定の機器類を利用する封入作業は、いわゆるワークステーションなどの特定の場所でしか実践できず、いわゆる現場で臨機応変にダンパの反力を変更する要請には応じきれず、いわゆる利便性を悪くすることを考慮すると、採用できない構成となる。
【0052】
以上のように形成されたこの発明によるフロントフォークは、図示するところでは、以下のような配慮もしているので、以下には、この配慮点について少し説明する。
【0053】
すなわち、まず、上記したフリーピストン7を収装するシリンダ体3におけるボトム端部3aであるが、図示するところでは、フリーピストン7によって閉塞される連通孔3bを有する。
【0054】
つまり、シリンダ体3におけるボトム端部3aは、その内外の連通を許容する連通孔3bを有し、この連通孔3bを介して、前記した油室R3にある作動油のリザーバRへの流出を可能にする。
【0055】
ちなみに、この連通孔3bがフリーピストン7で閉塞されるから、このフリーピストン7によってボトム端部3a内に画成される背後側気室A1がリザーバRと分離された独立の気室A1になって、独立のバネ力を発揮する。
【0056】
その一方で、フリーピストン7は、所定のストロークを後退して上記の連通孔3bを開放する場合を除き、すなわち、この連通孔3bを閉塞した状態下にボトム端部3a内で摺動する。
【0057】
そして、このフリーピストン7の摺動が繰り返されると、油温が上昇することに伴うシリンダ体3内の作動油における体積膨張によってさらに昇圧され、このとき、フリーピストン7が昇圧によって所定のストロークを後退し、上記の連通孔3bを開口させ、シリンダ体3内の高圧をリザーバRに解放する。
【0058】
したがって、このフリーピストン7は、上記したシリンダ体3内の昇圧化を可能にするのに加えて、シリンダ体3内の油圧をいわゆる初期状態に保つリリーフ機能を発揮する。
【0059】
それゆえ、図示するフロントフォークにあっては、フリーピストン7を附勢する昇圧バネ71のバネ力が高低されるとき、前記したように、ダンパにおける反力が高低されると共に、フリーピストン7の先端位置も変わるから、これに伴い、フリーピストン7のリリーフポイントも変更される。
【0060】
つぎに、上記したシリンダ体3におけるボトム端部3a内に配設の減衰部6であるが、図示するところでは、この減衰部6が車体側チューブ1の上端開口を閉塞するキャップ部材11に連結されるガイドロッド61に連設されて、ボトム端部3aに対しては、摺動可能とされる。
【0061】
ところで、前記したように、この発明にあっては、フリーピストン7を附勢する昇圧バネ71のバネ力をアジャスタ10の回動操作で高低調整し得るとし、このとき、フリーピストン7も昇圧バネ71のバネ力の変更に応じてその位置を変更するが、これに合わせて、減衰部6が移動することは必須ではない。
【0062】
つまり、昇圧バネ71のバネ力の変更でフリーピストン7の位置まで変わることは止むを得ないが、減衰部6の位置まで変わる必要はない。
【0063】
しかし、図示するところでは、減衰部6がガイドロッド61の図中で下端となる先端に保持されるから、アジャスタ10の回動操作でガイドロッド61が昇降するときには減衰部6も昇降する。
【0064】
それゆえ、図示する実施形態にあっては、昇圧バネ71のバネ力が高低されてフリーピストン7が移動するとき、このフリーピストン7が減衰部6に干渉することを危惧しなくて済む。
【0065】
その結果、この実施形態にあっては、昇圧バネ71のバネ力調整を設定通りに具現化できると共に、この昇圧バネ71の変更されるバネ力に応じてフリーピストン7を移動可能にし得る。
【0066】
図2は、前記した図1で原理的に示すフロントフォークを具体化した場合の一実施形態を示すもので、特に、フロントフォークの上端側部を示し、以下には、これについて少し説明する。
【0067】
ちなみに、図2に示すところでは、車輪側チューブ2(図1参照)の他、ダンパにおけるシリンダ体3内にピストン体5を有することおよびシリンダ体3に対して出没するロッド体4(図1参照)については、その表示を省略する。
【0068】
また、この図2に示すところにおいて、その構成が前記した図1に示すところと同様となるところについては、改めて説明することなく、同一の符号をそのまま利用して説明する。
【0069】
まず、この図2に示すところにおいて、シリンダ体3におけるボトム端部3a(図1参照)が筒体31で形成され、この筒体31の比較的肉厚に形成された上端部31aが車体側チューブ1の上端部1aの内側に螺着され、この上端部31aの内側にキャップ部材11が螺着されて、車体側チューブ1の上端開口が閉塞される。
【0070】
そして、この筒体31の縮径された下端部31bがシリンダ体3の図中で上端部となるボトム部(符示せず)に螺着されて、シリンダ体3との一体化が図られる。
【0071】
それゆえ、シリンダ体3のボトム端部3aを上記の筒体31で形成する場合には、フォーク本体の最収縮作動時に車体側チューブ1の内周に沿って上昇してくる車輪側チューブ2(図2中の仮想線図参照)の内周が干渉しない限りにおいて、この筒体31の径を選択することで、減衰部6およびフリーピストン7における受圧面の大きさを任意に変更できる。
【0072】
ちなみに、キャップ部材11は、封入栓11aを有し、この封入栓11aを利用してのリザーバRにおける気室Aへの気体の注入および注入された気体量の調整を可能にする。
【0073】
そして、このキャップ部材11の軸芯部にアジャスタ10が配設され、このアジャスタ10の軸芯部にさらに内側アジャスタ20が配設され、この内側アジャスタ20は、減衰部6に設けたサブバルブ62に連通する油通路、すなわち、バイパス路における作動油の通過流量を制御する。
【0074】
すなわち、減衰部6は、基本的には、バルブシート部材たる隔壁体63を有すると共に、この隔壁体63に開穿の圧側ポート63aの下流側端を開閉可能に閉塞する圧側減衰バルブ64と、同じく隔壁体63に開穿の伸側ポート63bの下流側端を開閉可能に閉塞する吸い込みバルブ65とを有してなる。
【0075】
なお、この図2に示す減衰部6における圧側減衰バルブ64が前記した図1に示す減衰部6における減衰バルブ6aを構成し、同じく減衰部6における吸い込みバルブ65が同じく減衰部6におけるチェック弁6bを構成する。
【0076】
それゆえ、この図2に示す減衰部6にあっては、ピストン側室R2からの作動油が圧側減衰バルブ64を介して油室R3に流出するとき、所定の圧側の減衰力を発生する。
【0077】
その一方で、この減衰部6にあっては、上記の圧側減衰バルブ64を迂回する油通路たるバイパス路(符示せず)を有し、このバイパス路中にニードル弁体からなるコントロールバルブ21を有し、このコントロールバルブ21が上記した内側アジャスタ20の回動操作で上記のバイパス路における作動油の通過流量の多少を制御する。
【0078】
ちなみに、ガイドロッド61の軸芯部には、透孔(符示せず)が開穿され、この透孔内にコントロールロッド22が昇降可能に収装され、このコントロールロッド22の図中で下端となる先端が上記のコントロールバルブ21の図中で上端となる後端に当接され、このコントロールロッド22の図中で上端となる基端が上記の内側アジャスタ20の図中で下端となる先端に係止される。
【0079】
なお、ガイドロッド61の図中で上端部となる基端部61aにはアジャスタ10の下端部10aが螺着されて相互の一体化が図られ、また、ガイドロッド61の図中で下端部となる先端部61bには先端部材66が螺着されて相互の一体化が図られる。
【0080】
ところで、上記のバイパス路は、上記の先端部材66に設けられ、一端がピストン側室R2に開口し、他端が前記したサブバルブ62のいわゆる背面側に開口する。
【0081】
ちなみに、このサブバルブ62は、油室R3側からバイパス路を開閉可能に閉塞して、この油室R3からの作動油のバイパス路への流入は阻止するが、バイパス路からの作動油の油室R3への流入を許容する。
【0082】
それゆえ、上記のバイパス路が全面的に開放されて作動油が自由に通過する状況になると、ピストン側室R2からの作動油が圧側減衰バルブ64を殆ど通過することなく油室R3に流入し、圧側減衰バルブ64は、極めて低い圧側減衰力を発生する。
【0083】
そして、上記のバイパス路における作動油の通過流量がコントロールバルブ21で抑制されるにしたがって、ピストン側室R2からの作動油の圧側減衰バルブ64を通過する流量が増え、圧側減衰バルブ64は、その流量に応じた言わば高い圧側減衰力を発生する。
【0084】
つぎに、フリーピストン7は、図示するところにあって、断面を角U字状にする有底筒状に形成され、底部7aが環状に形成されて軸芯部に前記したガイドロッド61を貫通させ、筒部7bを前記した筒体31の内周に沿わせるように配設する。
【0085】
このとき、筒体31は、フリーピストン7の底部7aの外周をシール73およびブッシュ74の配在下に摺接させる本体部31bを有すると共に、この本体部31bの上端から上方に延設されて外周側に傾斜して徐々に拡径する傾斜部31cを有し、この傾斜部31cの上端から上方に延設されてフリーピストン7における筒部7bの拡径された上端部(符示せず)をシール75およびブッシュ76の配在下に摺接させる拡径部31dを有し、上記した傾斜部31cに連通孔3bを有してなる。
【0086】
それゆえ、このフリーピストン7にあっては、前記した常態時には、底部7aと筒部7bの上端部との間に上記の連通孔3bを位置決め、したがって、油室R3のリザーバRへの連通を阻止する。
【0087】
そして、このフリーピストン7にあっては、図中で上昇するように後退して底部7aの外周が上記の傾斜部31cに到達して連通孔3bを開口させるとき、油室R3をリザーバRに連通させ、油室R3にある作動油のリザーバRへの流出、すなわち、前記したシリンダ体3内における高圧の解放を可能にする。
【0088】
また、このフリーピストン7にあっては、筒部7bを有して摺動方向の全長を大きくするから、コイルバネからなる昇圧バネ71に起因する筒体31に対する齧り現象の発現を危惧しなくて済む。
【0089】
前記したところでは、この発明によるフロントフォークが前輪側に架装される二輪車については、格別言及していないが、多くの場合に自動二輪車とされるであろう。
【0090】
ただ、この発明が意図するところからすれば、二輪車が自動二輪車に限定される必要はなく、二輪車が自転車とされるとしても良いことはもちろんであり、その場合における作用効果が異ならないことももちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0091】
二輪車の前輪側に架装されて下端部で懸架する前輪に入力される路面振動を吸収する油圧緩衝器への具現化に向く。
【符号の説明】
【0092】
1 車体側チューブ
2 車輪側チューブ
3 シリンダ体
3a ボトム端部
3b 連通孔
4 ロッド体
6 減衰部
7 フリーピストン
10 アジャスタ
31 筒体
71 昇圧バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側チューブと車輪側チューブとからなるフォーク本体内にこのフォーク本体内をリザーバにするダンパを有すると共に、このダンパが作動流体の往復する通過を許容する減衰部と、この減衰部の下流側に配設されてこの減衰部に対向してこの減衰部との間に油室を画成する受圧面への流体圧作用で後退するフリーピストンと、このフリーピストンの後退時に上記の油室の上記のリザーバへの連通を許容する連通孔と、上記のフリーピストンの背後に配設されてこのフリーピストンを前進方向に附勢する昇圧バネとを有してなるフロントフォークにおいて、上記のフォーク本体が、このフォーク本体の軸線方向に移動可能に配設されながらその移動時に上記のフリーピストンの最前進時位置をこのフリーピストンの摺動方向に変更可能にするアジャスタを有してなることを特徴とするフロントフォーク。
【請求項2】
上記の昇圧バネが先端を上記のフリーピストンにおける背面に当接させながら後端を上記のアジャスタに係止させてなる請求項1に記載のフロントフォーク。
【請求項3】
上記のアジャスタが上記の車体側チューブの上端開口を閉塞するキャップ部材の軸芯部に配設されると共に、このアジャスタにガイドロッドが連結され、このガイドロッドに上記の減衰部が保持されると共に上記のフリーピストンが介装されてなる請求項1または請求項2に記載のフロントフォーク。
【請求項4】
上記のダンパが上記のフォーク本体の軸芯部に配設され、このダンパを構成するシリンダ体が上記の車体側チューブの軸芯部に垂設され、このシリンダ体内に先端部を出没させるロッド体が上記の車輪側チューブの軸芯部に起立され、上記のシリンダ体を上記の車体側チューブに結合させるこのシリンダ体におけるボトム端部内に上記の減衰部,フリーピストンおよび昇圧バネを収装してなる請求項1,請求項2または請求項3に記載のフロントフォーク。
【請求項5】
上記のシリンダ体におけるボトム端部が上端部を上記の車体側チューブの上端部の内周に連結する筒体からなると共に、この筒体内に上記の減衰部およびフリーピストンが収装され、このフリーピストンが上記の筒体に形成されて上記の減衰部とこのフリーピストンとの間となる油室の上記の筒体の外となる上記のリザーバへの連通を阻止してなる請求項4に記載のフロントフォーク。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−270832(P2010−270832A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123312(P2009−123312)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】